説明

分散性及び粘度発現性を兼ね備えた増粘化剤

【課題】
水、お茶、ジュース、ソフトドリンク、アイソトニック飲料、スープ、味噌汁、牛乳や濃厚流動食といった水分を含む飲食品に添加した際に生じる、キサンタンガムのダマを顕著に抑制する一方で、少量の添加で、対象飲食品に所望の粘度を簡便に付与できる粘度発現性も兼ね備えた、増粘化剤を提供する。特に、キサンタンガム含量を高めた場合や、手撹拌といった弱い条件で撹拌した場合であっても顕著にダマの発生が抑制された増粘化剤を提供する。
【解決手段】
増粘化剤として、粉末状のキサンタンガムを少なくとも原料の一つとして造粒した、かさ比重が0.45g/ml以下である一次造粒物に、デキストリン、澱粉及び糖類から選ばれる1種以上の賦形剤を添加後、造粒して得られる二次造粒物を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分を含む飲食品への粘度付与を目的とする増粘化剤に関する。具体的には、水、お茶、ジュース、ソフトドリンク、アイソトニック飲料、スープ、味噌汁、牛乳や濃厚流動食といった水分を含む飲食品に添加した際に発生するダマが顕著に抑制され、手撹拌などの弱い撹拌条件であっても、少量の添加で対象飲食品に所望の粘度を簡便に付与することができる、キサンタンガムを含有する増粘化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
飲料や調味料等、水分を含む飲食品への粘度付与を目的とする増粘化剤に汎用される増粘多糖類として、キサンタンガムが挙げられる。キサンタンガムは、キサントモナス・キャンペストリス(Xanthomonas campestris)が菌体外に生産する多糖類であり、冷水にも溶解し、他の多糖類に比較して低濃度で高い粘度を示すことから、増粘化剤として優れた適性を有する。更に、耐塩性、冷凍−解凍耐性、耐pH性にも優れ、飲料やドレッシング、タレ等の各種飲食品への応用が可能である。
【0003】
キサンタンガムを水ないし水分を含む飲食品に粉末のまま溶解させると、いわゆる「ダマ」が顕著に発生することが知られている。「ダマ」は、粉末の増粘多糖類を水溶液中に添加した際、当該粉末の集合体の表面部分のみが水和、溶解し、集合体の内部まで水分が移行しない(内部が粉末状態で残存する)ことにより形成される。特にキサンタンガムは、他の増粘多糖類と比較して水を抱え込む性質が極めて強く、水和が速いため、ダマが顕著に発生しやすい。一度生じたダマは、完全に溶解させることが非常に難しく、撹拌強度を上げる、撹拌時間を長くするといった厳しい撹拌条件に付した場合でも完全に溶解させることが困難である。増粘化剤は、使用目的に応じて機械による撹拌条件に付される場合や、家庭や介護現場など、スパーテルを用いて手で撹拌される場合もあり、手撹拌のような弱い撹拌条件でもダマにならず、少量の添加で粘度を付与することが可能な増粘化剤が望まれていた。
【0004】
増粘化剤に求められる別の要件として、迅速な粘度付与(粘度発現の速さ)が挙げられる。増粘多糖類の水和速度が速いほど、対象飲食品に迅速に粘度を付与することが可能である。しかし、増粘多糖類の水和速度が速いほど、粉末の表面部分のみが水和し、結果としてダマの発生が顕著となる。以上のように、従来技術においては、ダマの抑制及び粘度発現の速さを両立させることは困難であった。
【0005】
キサンタンガムのダマの発生を抑制、もしくは増粘化剤としての粘度発現を改良する手法としては、キサンタンガムの粉末表面に金属塩を結着させる方法(特許文献1、2)、オクテニルコハク酸澱粉を造粒時のバインダー液として使用する方法(特許文献3)等が知られている。しかし、特許文献1〜3に開示された手法は、分散性改良を目的として、金属塩やオクテニルコハク酸澱粉といった成分を添加することを必須工程としているため、製造時に、当該成分をバインダー液に溶解させる手間がかかる。更に、近年の健康嗜好や、腎不全、高血圧や糖尿病性腎症等の症状を有する患者にとって、飲食品中におけるナトリウム、カリウムをはじめとした金属塩の含量は、製品設計上、重要な要素を占める。キサンタンガムへの金属塩の結着を必須工程とする特許文献1及び2に開示された手法は、製品設計において成分バランスが変化するなど、利便性に欠けるものであった。また、別途添加する成分の種類によっては、増粘対象となる飲食品の味質に影響を与えるといった課題を抱えていた。
【0006】
特許文献4には、流動層処理装置を用いて粉体を造粒する方法において、最初に予定仕込み全重量の30〜80%の粉体原料を流動室に仕込み、結合液を噴霧しながら一次造粒を行い、しかる後、残りの粉体原料を連続的に流動室に供給しながら、結合液を噴霧して二次造粒を行うことを特徴とする顆粒の製造方法が記載されている。しかし、特許文献4に開示された発明は、見掛密度の高い重質顆粒を得ることを目的とした技術であり、重質な顆粒の調製を目的としない本発明とは全く異なった技術である。特許文献4に記載のように顆粒の空隙を少なくすればするほど表面積が小さくなり、当該技術をキサンタンガムに応用した場合、結果としてダマが発生しやすい状態となる。
本発明者らが造粒の対象としているのは増粘多糖類であり、ダマの発生を抑えて、粘度発現を速くするという、全く相反する二つの特性を同時に満たすことを目的としている。単に顆粒を重質にしただけではこの課題は解決できない。増粘多糖類の中で最も技術的なハードルが高く、しかし実務的なニーズが最も高いキサンタンガムを対象にしている点で、特許文献4と技術分野が異なる。
【0007】
特許文献5には、顆粒品のキサンタンガムを造粒して得られた増粘化剤が実験例1の比較例3に開示されているが、特許文献5には特定のかさ比重を有するキサンタンガム顆粒を用いて造粒工程を行うことにより、ダマの抑制及び粘度発現の速さを兼ね備えた増粘化剤を提供できることについて何ら開示されていない。更に特許文献5に開示された比較例3の増粘化剤は、茶飲料(特許文献5の実験例2)や酸性液状組成物(実験例3、実験例4)等への粘度発現が極端に遅く、増粘化剤として商品価値が低いものであった。
【0008】
さらに最近は、包材の小型化や省資源化、さらには病院、介護施設における保管スペースの削減という観点から、少量の添加で高いとろみを付与できる高力価型の増粘化剤が求められている。
【0009】
とろみ付与目的で使用される増粘化剤は、増粘成分としての食品多糖類(食品添加物上の増粘多糖類)と、分散媒(賦形剤)としてのでん粉、デキストリン、糖類を含む。少量の添加でより高いとろみ付与効果を得るためには、増粘多糖類の配合比率を上げる必要がある。つまり、分散媒(賦形剤)の配合比率が下がり、結果としてダマができやすいものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−43249号公報
【特許文献2】国際公開第06/095756号パンフレット
【特許文献3】特開2004−24182号公報
【特許文献4】特許第3003047号公報
【特許文献5】特開2007−124954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、水、お茶、ジュース、ソフトドリンク、アイソトニック飲料、スープ、味噌汁、牛乳や濃厚流動食といった水分を含む飲食品に添加した際に生じる、キサンタンガムのダマを顕著に抑制する一方で、少量の添加で対象飲食品に所望の粘度を簡便に付与できる粘度発現性も兼ね備えた、増粘化剤を提供することを目的とする。
特に、近年は高齢者の増加に伴い、食物を噛み砕き飲み込むという一連の動作に障害をもつ、いわゆる咀嚼・嚥下困難者が増加しており、咀嚼・嚥下困難者が飲み込みやすいよう、水やお茶などの水分を含有した飲食品にとろみを付けるための、各種増粘化剤が開発されている。本発明では、咀嚼・嚥下困難者である患者やその介護者が、その場で、水分を含む飲食品に増粘化剤を添加し、スパーテル等を用いて手で撹拌するのみで、ダマを生じることなく簡便に飲食品に粘度(とろみ)を付けることが可能な増粘化剤を提供することを目的とする。更に、本発明では上記特性を満たす高力価型のキサンタンガム含有増粘化剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記のごとき課題を解決すべく鋭意研究した結果、粉末状のキサンタンガムを少なくとも原料の一つとして造粒した、かさ比重が0.45g/ml以下である一次造粒物に、デキストリン、澱粉及び糖類から選ばれる1種以上の賦形剤を添加後、更に造粒(二次造粒)工程を経ることにより、ダマの抑制と迅速な粘度発現という観点から、極めて優れた特性を満たす増粘化剤が得られることを見出した。具体的には、手撹拌といった弱い撹拌条件でもダマの発生が顕著に抑制できる上、少量の添加で対象飲食品に速やかに粘度を付与できる増粘化剤を得られることを見出した。
【0013】
本発明は、以下の態様を有する増粘化剤に関する。
項1.粉末状のキサンタンガムを少なくとも原料の一つとして造粒した、かさ比重が0.45g/ml以下である一次造粒物に、デキストリン、澱粉及び糖類から選ばれる1種以上の賦形剤を添加後、造粒して得られる二次造粒物を含有することを特徴とする増粘化剤。
項2.一次造粒物及び二次造粒物の造粒方法がいずれも流動層造粒である、項1に記載の増粘化剤。
項3.キサンタンガムの含有量が35質量%以上である、項1又は2に記載の増粘化剤。
項4.一次造粒物の製造時に、賦形剤を不使用とする、項1〜3のいずれかに記載の増粘化剤。
項5.粉末状のキサンタンガムを少なくとも原料の一つとして造粒した、かさ比重が0.45g/ml以下である一次造粒物に、デキストリン、澱粉及び糖類から選ばれる1種以上の賦形剤を添加後、造粒することを特徴とする、キサンタンガムのダマの発生を抑制する方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、水分を含む飲食品に増粘化剤を添加した際に生じる、キサンタンガムのダマの発生を顕著に抑制することができる。特に本発明は、増粘化剤が、とろみ付与目的で通常使用される、手撹拌のような弱い撹拌条件時に大きな効果を奏する。
本発明の増粘化剤は、ダマの発生が顕著に抑制されているにも関わらず、粘度発現が速いという特性も有し、粘度発現までの撹拌時間の短縮化を図ることができる。本発明の増粘化剤は、ダマの抑制と迅速な粘度発現といった、相反する性質を両立させた優れた特性を有する。加えて、本発明によれば、少量(例えば1〜2%)の添加で対象飲食品に簡便に粘度を付与することができる、いわゆる高力価型の増粘化剤を提供できる。
更に、本発明に係る工程によれば、飲食品の味質自体に影響を与えることなく、ダマが抑制され、粘度発現性が良好であり、少量の添加で高いとろみ付与効果を有する増粘化剤を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実験例1において実施例1−1の増粘化剤を添加、撹拌した後のダマの様子を示す。
【図2】実験例1において実施例1−2の増粘化剤を添加、撹拌した後のダマの様子を示す。
【図3】実験例1において実施例1−3の増粘化剤を添加、撹拌した後のダマの様子を示す。
【図4】実験例1において比較例1−1の増粘化剤を添加、撹拌した後のダマの様子を示す。
【図5】実験例1において比較例1−2の増粘化剤を添加、撹拌した後のダマの様子を示す。
【図6】実験例1において比較例1−3の増粘化剤を添加、撹拌した後のダマの様子を示す。
【図7】実験例1における実施例1−2、1−4及び比較例1−4の粘度発現性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明では、粉末状のキサンタンガムを少なくとも原料の一つとして造粒した、かさ比重が0.45g/ml以下である一次造粒物に、デキストリン、澱粉及び糖類から選ばれる1種以上の賦形剤を添加後、造粒して得られる二次造粒物を増粘化剤中に含有することを特徴とする。
【0017】
本発明の第一の特徴は、二度の造粒工程を経て得られたキサンタンガムを増粘化剤として用いる点にある。造粒方法としては、食品の分野で一般に行われている撹拌造粒、押出造粒、転動造粒、流動層造粒などの方法を用いて行うことができる。本発明は中でも、一次造粒時及び二次造粒時の造粒方法として流動層造粒による造粒を行うことが好ましい。流動層造粒による造粒方法として、以下の方法を例示できる。
キサンタンガム粉末等の粉体原料を造粒機に入れ、下方から熱風を送り込むことで、粉体を流動させる。この流動層にバインダー液をノズル噴射し、粉体表面に均一にバインダー液を付着させ、凝集粒をつくり、これを乾燥させることにより顆粒を製造する。
【0018】
バインダー液は、例えば水を使用することができる。従来技術(二次造粒を行わない通常の造粒方法)では、水をバインダー液として顆粒を調製した場合、キサンタンガムのダマの発生を抑制することは到底できず、化工澱粉、有機酸、金属塩やデキストリン等の各種素材を添加したバインダー液を用いる手法が主流である。化工澱粉、有機酸、金属塩等を含むバインダー液を使用する方法は、特に顆粒中のキサンタンガム含量が高いときに必須である。キサンタンガム含量が高まる程、ダマが顕著に発生し、水をバインダー液としてキサンタンガム粉末を造粒して増粘化剤を提供する従来技術(二次造粒を行わない通常の造粒方法)では、ダマの発生を抑制することは到底できない。
【0019】
本発明では、水をバインダー液として用いた場合であっても、二次造粒物としてのキサンタンガムのダマの発生を顕著に抑制できるという利点を有する。従って、飲食品に添加した場合でも、飲食品が有する本来の食味に影響を与えることがない、最終飲食品中におけるナトリウム含量といった金属塩の成分バランスに変化を与えることがない等のメリットを有し、ひいては増粘化剤の製品設計上の大きなメリットとなる。特に、高力価型の増粘化剤を提供するにあたり、水をバインダー液として製品設計できる技術は、極めて汎用性が高い。
【0020】
一次造粒の原料となるキサンタンガムは、粉末状の各種キサンタンガムを使用できる。例えば、商業上入手可能な粉末状のキサンタンガム製品として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンエース[登録商標]C」、「ビストップ[登録商標]D−3000−DF−C」などが挙げられる。本発明では、粉末状のキサンタンガムを造粒して得られたキサンタンガムを含む一次造粒物を、二次造粒の原料として用いる。
【0021】
本発明の第二の特徴は、かくして得られた一次造粒物の中でも、かさ比重が0.45g/ml以下、好ましくは0.4g/ml以下、更に好ましくは0.38g/ml以下であるキサンタンガムの一次造粒物を用いる点にある。かさ比重は、容量100mlの容器にすりきり一杯の一次造粒物を充填し、充填された顆粒の重量を測定することにより求められる。本発明では、本測定方法に従って、得られたキサンタンガムを含む一次造粒物(以下、「キサンタンガムの一次造粒物」ともいう)のうち、かさ比重が0.45g/ml以下である造粒物を二次造粒の原料として用いる。
かさ比重の下限は特に制限がないが、好ましくは0.10g/ml以上であることが望ましい。
【0022】
粉末状のキサンタンガムを少なくとも原料の一つとして造粒した、一次造粒物のかさ比重が0.45g/mlを超えた場合は、例えば、一次造粒の原料の仕込み量を減らす、送り込む熱風の量を増加させる等の造粒時の条件を適宜変更することにより、かさ比重が0.45g/ml以下である顆粒品を得ることができる。
【0023】
本発明では、キサンタンガムの一次造粒物を得る際に、デキストリン、澱粉及び糖類から選ばれる1種以上の賦形剤を併用することも可能である。この場合も本発明の効果を奏するが、粉末状キサンタンガムのみを原料として得られた一次造粒物(100%キサンタンガム顆粒品)を二次造粒の原料として用いた場合が、最もダマの発生を抑制できるため好ましい。
【0024】
なお、本発明では、上記キサンタンガムの一次造粒物の中でも、16メッシュパス100メッシュオン(150μm以上1000μm未満)の粒子径を有する一次造粒物を原料として、二次造粒を行うことが、ダマの抑制及び粘度発現性の観点より望ましい。
【0025】
かくして得られた、かさ比重が0.45g/ml以下であるキサンタンガムの一次造粒物を原料として、二次造粒を行うことにより、ダマの抑制と迅速な粘度発現という観点から、極めて優れた増粘化剤を得ることができる。得られた増粘化剤(二次造粒物そのもの若しくは二次造粒物を含む増粘化剤)は、手攪拌のような弱い攪拌条件でも使用することができるため、特に咀嚼・嚥下困難者向けの増粘化剤(とろみ調整食品)として有効である。一方、キサンタンガムの一次造粒物のかさ比重が0.45g/mlを超えた場合は、粘度発現が極端に遅延する上、最終の粘度発現も低く、少量の添加で飲食品に目的とする粘度を付与することができない。
【0026】
本発明は、粉末状のキサンタンガムを少なくとも原料の一つとして造粒した、かさ比重が0.45g/ml以下であるキサンタンガムの一次造粒物と、デキストリン、澱粉及び糖類から選ばれる1種以上の賦形剤を原料として二次造粒を行うことを特徴とする。
二段階の造粒工程を経ることにより、キサンタンガム粉末とこれらの賦形剤を造粒して得られた増粘化剤(一段階造粒)と比較して、極めて顕著にダマの発生が抑制された増粘化剤を提供することができる。得られた増粘化剤は顕著にダマの発生が抑制されているのに加えて、粘度発現も速い。前述のとおり、キサンタンガムの水和速度が速いほど、対象飲食品に迅速に粘度を付与できる一方で、増粘化剤の内部が水和する前に、表面部分のみが水和する確率も高まり、結果としてダマの発生が顕著となる。従って、従来の増粘化剤ではダマの抑制及び粘度発現の速さを両立させることは極めて困難とされていたが、二段階の造粒工程を経ることにより、これら相反する二つの特性を併せもつ増粘化剤を提供することが可能となった。また、得られた増粘化剤は、例えば、手撹拌など、10回転/秒以下といった弱い攪拌条件でも使用することができ、特に咀嚼・嚥下困難者向けの増粘化剤(とろみ調整食品)として有効である。
【0027】
二段階の造粒工程を経る代わりに、一次造粒時の時間を長くした場合は、目的とする増粘化剤を得ることはできない。造粒時間が長くなることにより、逆に顆粒の崩壊が進む場合がある。これは流動層造粒中で成長した顆粒どうしの接触回数が増加するためである。顆粒の成長に対して過度にバインダー液の添加量を増やすとべた付きが発生し、顆粒同士が結着するフロッキング現象(顆粒の粗大化)が生じる。仮に調製できたとしても、多孔質性のない、重質な顆粒になり、表面積が小さくなることでダマができやすくなるだけでなく、水なじみ(粘度発現)が遅くなってしまう。これは手攪拌のような弱い攪拌条件で特に顕著である。
【0028】
キサンタンガムと、デキストリン、澱粉及び糖類から選ばれる1種以上の賦形剤の併用割合は特に限定されないが、好ましくはキサンタンガム100質量部に対し、賦形剤が40〜400質量部、更に好ましくは90〜300質量部となるように併用することが望ましい。ここで、賦形剤の配合量は、二次造粒物(最終結果物)中のキサンタンガム100質量部に対する添加量であり、一次造粒物の製造時にデキストリン、澱粉及び糖類から選ばれる1種以上の賦形剤が用いられた場合は、一次造粒時に用いた賦形剤及び二次造粒時に用いた賦形剤の合計量を示す。
【0029】
このような賦形剤としては、デキストリン、アミロデキストリン、エリトロデキストリン、アクロデキストリン、マルトデキストリン、シクロデキストリン等のデキストリン、トウモロコシ、モチトウモロコシ、馬鈴薯、甘藷、小麦、米、餅米、タピオカ、サゴヤシ等由来の生澱粉や、当該澱粉に物理的又は化学的処理を施した加工澱粉(酸分解澱粉、酸化澱粉、α化澱粉、グラフト化澱粉、カルボキシメチル基、ヒドロキシアルキル基等を導入したエーテル化澱粉、アセチル基等を導入したエステル化澱粉、澱粉の2箇所以上の水酸基間に多官能基を結合させた架橋澱粉、乳化性澱粉、湿熱・乾燥処理澱粉等)の澱粉、ショ糖、果糖、ぶどう糖、麦芽糖、澱粉糖化物、還元澱粉水飴、トレハロース等の糖類などが挙げられる。中でも、デキストリンを好適に使用することができる。
賦形剤は粉末状でも、顆粒状でも良い。
【0030】
キサンタンガムの増粘性を最大限に利用するためには、理論上は、キサンタンガム含有量が100質量%の増粘化剤を調製することが望ましい。しかし、キサンタンガムの含有量を高める程、発生するダマの量が増大し、例えば、手撹拌といった弱い撹拌条件では大量のダマが発生し、到底増粘剤としての機能を発揮することができなかった。
現在、家庭や介護現場向けに市販されている増粘化剤のキサンタンガム含量は約20〜30質量%程度であり、一般的に35質量%以上のキサンタンガムを含有した増粘化剤の製剤設計は困難であった。
かかる技術背景の中、本発明は、増粘化剤中にキサンタンガムを35質量%以上、更には40質量%以上含有させた場合であっても、ダマの発生が顕著に抑制され、かつ粘度発現が良好な増粘化剤を提供できる。従って、手撹拌のような弱い撹拌条件で使用される増粘化剤であっても、キサンタンガム含量が高く、少量の添加で高いとろみ付与効果を有する、従来にはない高力価タイプの増粘化剤を提供することが可能となった。
【0031】
本発明では、更に増粘化剤の分散性を向上させるために、次に掲げる各種素材を併用することもできる。例えば、ナトリウム、カリウム、カルシウムやマグネシウム等の塩化物をはじめとした無機塩、クエン酸、クエン酸三ナトリウム等の有機酸及びその塩、ショ糖脂肪酸エステル等の界面活性剤、アラビアガム、ガティガム、シュガービートペクチン、グァーガムやプルラン等の多糖類が好適に挙げられる。上記素材の添加時期は特に限定されず、粉末状のキサンタンガムの一次造粒時にキサンタンガムと粉体混合して添加する方法や、キサンタンガムの一次造粒物を二次造粒する際に、一次造粒物に添加する方法などが挙げられる。あるいはバインダー液中に溶解させて使用することもできる。
【0032】
本発明ではまた、キサンタンガム以外の増粘剤やゲル化剤を併用することも可能である。例えば、一次造粒時の原料に用いるキサンタンガム粉末に加えて、カラギナンや、寒天、ジェランガム(脱アシル型ジェランガム、ネイティブ型ジェランガム)、ガラクトマンナン(グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム)、セルロース類(微結晶セルロース、微小繊維状セルロース等)、タマリンドシードガム、アラビアガム、ガティガム、ペクチン、プルラン、グルコマンナン等の粉末を混合して一次造粒を行い、キサンタンガムを含む一次造粒物(キサンタンガムの一次造粒物)を得ることも可能である。
同様にして、キサンタンガムを含み、かさ比重が0.45g/ml以下である一次造粒物を用いて二次造粒を行う際に、上記増粘剤及び/又はゲル化剤を併用することもできる。具体的には、少なくともキサンタンガムを含む、かさ比重が0.45g/ml以下である一次造粒物に、粉末状若しくは顆粒状の増粘化剤及び/又はゲル化剤を賦形剤と共に添加し、二次造粒を行う方法が挙げられる。
【0033】
かくして得られた本発明の増粘化剤は、水分を含む各種飲食品に添加することにより、所望の粘度を付与することができる。この場合、増粘化剤の攪拌条件は手攪拌のような比較的弱い攪拌である。水分を含む飲食品として、例えば、水、お茶、紅茶等の茶飲料;果汁入り清涼飲料、果汁飲料、菜汁飲料等のジュース;牛乳、乳飲料、乳酸菌飲料、炭酸飲料、アイソトニック飲料、機能性飲料、ビタミン補給飲料、栄養補給バランス飲料、粉末飲料等をはじめとした飲料や、ワイン、日本酒、焼酎、ウィスキー、カクテル等の酒類、スープ、味噌汁、シチュー、カレー、粥などの米飯食品等が挙げられる。
【0034】
本発明の増粘化剤は、水分を含む各種飲食品の製造時に使用することもできる。この場合、増粘化剤の攪拌条件は機械攪拌のような比較的強い攪拌である。例えば、アイスクリーム等の冷菓、プリン、ゼリー、ババロア、ヨーグルト等のデザート、ガム、チョコレート、ソフトキャンディ等の砂糖菓子、ドレッシング、たれ、ソースなどの調味料、ジャム、畜肉加工品、魚肉加工品、麺類、その他、各種惣菜なども挙げられる。
【0035】
また、このような一般食品に加えて、蛋白質・リン・カリウム調整食品、塩分調整食品、油脂調整食品、整腸作用食品、カルシウム・鉄・ビタミン強化食品、低アレルギー食品、濃厚流動食、経腸栄養剤、ミキサー食、キザミ食、ムース食やペースト食等の特殊食品や治療食を挙げることができる。
【0036】
中でも、水やお茶などの水分含量が高く、タンパク含量や脂質含量が低い飲食品は、キサンタンガムの水和速度が他の飲食品に比べて速く、結果としてダマの発生が顕著となるが、本発明の増粘化剤は水やお茶等に用いた場合であっても、キサンタンガムがダマにならずに、目的とする粘度を付与することが可能である。一方、牛乳、濃厚流動食等の比較的水分含量が低い飲食品には、キサンタンガムが溶解するための水分が十分ではないため、キサンタンガムの表面のみが溶解し、内部まで水が移行せず、結果、ダマが発生する。加えて、これら飲食品は、水やお茶等に比較して粘度発現も遅くなる傾向がある。本発明の増粘化剤は牛乳、濃厚流動食等の飲食品であっても、ダマが発生することなく、かつ少量で迅速に粘度を付与することができ、汎用性が高いという利点を有する。
【0037】
果汁飲料やアイソトニック飲料などの果汁やミネラルを含有する飲料は、水やお茶に比べてキサンタンガムのダマの発生が低減する傾向を示すものの、一方で、キサンタンガムの粘度発現が大きく低下しやすい。本発明の増粘化剤は、果汁飲料やアイソトニック飲料にも好適に使用できる。
【0038】
本発明の増粘化剤は、特に咀嚼・嚥下困難者の喫食用にとろみを付与させる、咀嚼・嚥下困難者向けの増粘化剤(とろみ調整食品)として有用である。
咀嚼・嚥下困難者の喫食用にとろみが付与された食品は、介護現場で、水やお茶等の飲食品をスプーンを用いて撹拌しながら、増粘化剤(とろみ調整食品)を添加して調製される場合が大半である。従って、手撹拌といった弱い撹拌条件でもダマが発生しない増粘化剤が切望される。生じたダマは手撹拌で完全に溶解することが極めて困難である上、ダマが残存していると、誤嚥の原因となる可能性がある。また、粘度発現の遅延は、撹拌時間の長期化(介護者の負担)に繋がるのみならず、食品にとろみを付与する介護者等が、求められる粘度に達していないと誤認して、必要量以上の増粘化剤を添加する事態をも招きかねない。この場合、咀嚼・嚥下困難者が喫食している段階で急に粘度が上昇し、かえって飲み込みにくい物性を付与する可能性もある。一方、本発明の増粘化剤は、手撹拌のような弱い撹拌条件時に顕著に発生するダマの抑制効果に極めて優れる上、粘度発現も速く、さらに少量の添加で高いとろみを付与することができるため、咀嚼・嚥下困難者の喫食用にとろみが付与された食品を簡便に調製することができる。
【0039】
本発明はまた、増粘化剤の主剤となるキサンタンガムのダマの発生を抑制する方法を提供する。当該方法は、前述の方法に従って達成し得る。具体的には、粉末状のキサンタンガムを少なくとも原料の一つとして造粒した、かさ比重が0.45g/ml以下である一次造粒物に、デキストリン、澱粉及び糖類から選ばれる1種以上の賦形剤を添加後、更に造粒(二次造粒)することにより目的を達せられる。
【実施例】
【0040】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」、文中「*」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製、文中「※」印は三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
【0041】
実験例1 キサンタンガムを含有した増粘化剤の調製
表1の処方に従い、キサンタンガムを含有した増粘化剤を調製した。
比較例1−1〜比較例1−3は表1に示す割合に従って、キサンタンガム粉末及びデキストリン粉末の粉体混合物400gを調製し、粉体混合物に対して水140gをバインダー液として用い、流動層造粒を行うことにより調製した(一次造粒のみ)。
実施例1−1〜実施例1−4は、予めキサンタンガムの一次造粒物を調製し、二段階の造粒工程を経て調製した。
【0042】
(実施例1−1〜実施例1−4で使用したキサンタンガムの一次造粒物)
キサンタンガム粉末400gに対して水140gをバインダー液として用い、流動層造粒を行った。具体的には、温風温度75℃で、キサンタンガム粉末400gに対して140mLの水(イオン交換水)を速度毎分10mL、スプレーエアー流量35NL/mLで噴霧し、噴霧終了後5分間乾燥を行った。
得られたキサンタンガム顆粒を篩い分けし、16メッシュパスで100メッシュオン(150μm以上1000μm未満)のキサンタンガム顆粒を、実施例1−1〜実施例1−3で用いるキサンタンガム一次造粒物(かさ比重0.25g/ml)とした。実施例1−4は、二次造粒時に用いるキサンタンガム原料として、かさ比重が0.43g/mlであるキサンタンガム顆粒を用いた。
【0043】
次いで、得られたキサンタンガム一次造粒物を用いて、実施例1−1〜実施例1−4の増粘化剤を調製した。具体的には、表1に示す処方に従って、キサンタンガム顆粒(一次造粒品)及びデキストリン粉末を粉体混合し、混合物400gに対して、水140gをバインダー液として用い、流動層造粒を行った(実施例1−1〜実施例1−4)。
比較例1−4はキサンタンガム粉末を造粒した顆粒であるが、かさ比重が0.46g/mlであるキサンタンガム顆粒を原料として、実施例1−1〜実施例1−4と同条件で流動層造粒(二次造粒)を行うことにより調製した。
【0044】
【表1】

【0045】
得られた実施例1−1〜実施例1−4及び比較例1−1〜比較例1−4の増粘化剤の分散性及び粘度発現性を試験した。
(分散性:ダマ抑制効果の確認)
イオン交換水100gを200mLビーカーに用意し、実施例1−1〜実施例1−4及び比較例1−1〜比較例1−4の増粘化剤を各々2g一括添加した。増粘化剤を添加し、3秒間静置した後に、スパーテルを用いて30秒間手で撹拌し(4回転/秒)、撹拌後の溶液の状態を観察した。表3、図1〜6に撹拌後のダマの状態を示す。ダマの評価は表2の基準に従い評価した。
【0046】
【表2】

【0047】
【表3】

【0048】
表3、図1、4より、実施例1−1及び比較例1−1の増粘化剤は、増粘化剤中の組成(キサンタンガム、デキストリン含量)が同一にも関わらず、ダマの発生状態が大きく異なっていた。具体的には、比較例1−1の増粘化剤は小〜中程度の大きさを有するダマが多数発生していたのに対し、実施例1−1の増粘化剤はダマが発生しなかった。なお、実験例1における分散性の評価方法は、増粘化剤を添加した後に、3秒間静置時間をおく、厳しい条件で行っている。キサンタンガムは増粘多糖類の中でも極めてダマを発生しやすい性質を有することが知られており、通常の使用形態では、静置することなく、溶液を撹拌しながら添加するのが一般的である。本発明の増粘化剤は、手撹拌といった弱い撹拌条件に加え、一括添加後、静置時間を設けるといった厳しい条件下であっても、顕著にキサンタンガムのダマの発生を抑制できていることが見て取れる。
【0049】
実施例1−2、1−4及び比較例1−2は、増粘化剤中のキサンタンガムの含量を各々40質量%まで増加させたケースである。比較例1−1及び比較例1−2を対比すると、キサンタンガム含量を30質量%から40質量%に増加させることにより、ダマの大きさは増大し、8mm程度の大きいダマまでも発生している(図5)。かかる状態では、もはや増粘化剤としての機能を果たさない。一方、実施例1−2、1−4の増粘化剤は、比較例1−2と同様にしてキサンタンガム含量を40質量%まで高めたものであるが、ダマが発生しなかった(図2(実施例1−2))。
【0050】
実施例1−3及び比較例1−3は、増粘化剤中のキサンタンガム含量を更に50質量%にまで高めた結果である。キサンタンガム含量を50質量%まで増加させることにより、比較例1−3の増粘化剤を用いた場合、ダマの発生が顕著な上、比較例1−2よりも更にダマが肥大化していた(図6)。一方、本発明の増粘化剤(実施例1−3)は、キサンタンガム含量を50質量%にまで高めているにも関わらず、ダマの発生はなく(図3)、極めて優れた増粘化剤であった。以上の結果より、本発明の増粘化剤は分散性(ダマの発生抑制)に極めて優れた増粘化剤であり、また従来市販されている増粘化剤に比して、キサンタンガム含量を増加でき、高力価型の増粘化剤を提供できることが分かる。
【0051】
本発明品(実施例1−1〜1−4)はいずれも二次造粒のキサンタンガム原料として、かさ比重が0.45g/ml以下のキサンタンガム一次造粒物を用いている。一方、比較例1−4の増粘化剤は、二次造粒の原料として、かさ比重が0.46g/mlであるキサンタンガム顆粒(一次造粒物)を用いている。比較例1−4の増粘化剤は、ダマの発生はなく分散性に優れた性質を有していた。しかし、後述の粘度発現性が極めて低く、増粘化剤としての価値が低いものであった。
【0052】
(粘度発現性)
イオン交換水100gを200mLビーカーに用意し、実施例1−1〜1−4及び比較例1−1〜1−4の増粘化剤を各々2gずつ撹拌しながら添加し、スパーテルを用いて30秒間撹拌し続けた(4回転/秒)。増粘化剤を添加した後の粘度の経時変化を測定した。粘度は、B型回転粘度計を用いて、回転数12rpmの条件で測定した。結果を表4に示す。また、キサンタンガム含量が同量(40%)である実施例1−2、1−4及び比較例1−4の粘度発現性を図7に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
増粘化剤の組成(キサンタンガム及びデキストリンの配合比)が同一である、実施例1−1及び比較例1−1(キサンタンガム含量30%)、並びに実施例1−2、1−4及び比較例1−2(キサンタンガム含量40%)を各々対比すると、本発明の増粘化剤(実施例1−1、1−2及び1−4)は、ダマの発生が顕著に抑制されていた(ダマなし)にも関わらず、粘度発現が遅延することもなく、むしろ比較例1−1及び1−2と比較して良好な粘度発現性を示した。実施例1−3の増粘化剤もダマの発生が顕著に抑制されていた(ダマなし)にも関わらず、粘度発現が遅延することなく、迅速な粘度発現を兼ね備えていた。
以上のように、本発明の増粘化剤(実施例1−1〜1−4)は、キサンタンガムのダマ抑制効果並びに良好な粘度発現性の両面を兼ね備えた、実用性に優れた増粘化剤であった。
【0055】
二次造粒工程を経ているものの、二次造粒の原料となる一次造粒のキサンタンガムのかさ比重が0.46g/mlである比較例1−4の増粘化剤は、粘度発現が極端に遅く、商品価値の低いものであった。具体的には、比較例1−4の増粘化剤とキサンタンガム含量を同じくする実施例1−2(かさ比重0.25g/ml)は0分時の粘度が2,380mPa・sであったのに対し、比較例1−4の増粘化剤が示した0分時の粘度は280mPa・sであり、2,000mPa・s程度の粘度を発現するまでに30分間もの時間を費やした。同様にして、一次造粒のキサンタンガムのかさ比重が0.43g/mlである実施例1−4の増粘化剤が示した0分時の粘度(2,540mPa・s)と比較しても、一次造粒のキサンタンガムのかさ比重が0.45g/mlを超えると、極端に粘度発現が低下することが分かった。
【0056】
一方、キサンタンガム粉末40部とデキストリン粉末60部の割合で含む粉体混合物400gに対して、水280gをバインダーとして造粒を試みたが(実施例1−2において一次造粒時に用いたバインダー液140gと二次造粒時に用いたバインダー液140gの合計量)、フロッキング現象が生じて造粒自体が出来なかった。かかるように、本願発明はあくまで二段階の造粒工程を経ることによって奏する効果である。
【0057】
実験例2 オレンジジュース及びアイソトニック飲料における粘度発現性
実験例1で調製した、実施例1−2及び比較例1−4の増粘化剤を用いて、オレンジジュース及びアイソトニック飲料における粘度発現性を試験した。
具体的には、各溶媒(オレンジジュース(森永乳業(株)「サンキスト(R)100%オレンジ」)、アイソトニック飲料(大塚製薬(株)「ポカリスエット」))100gを200mLビーカーに用意し、実施例1−2及び比較例1−4の増粘化剤を各々2gずつ撹拌しながら添加し、スパーテルを用いて30秒間撹拌し続けた(4回転/秒)。増粘化剤を添加した後の粘度の経時変化を測定した。粘度は、B型回転粘度計を用いて、回転数12rpmの条件で測定した。結果を表5に示す。
【0058】
【表5】

【0059】
二次造粒に用いるキサンタンガム原料として、かさ比重が0.46g/mlであるキサンタンガム顆粒(一次造粒物)を用いた比較例1−4の増粘化剤は、オレンジジュース及びアイソトニック飲料に対して極端に粘度発現が低下していた一方、かさ比重が0.25g/mlであるキサンタンガム顆粒(一次造粒物)を二次造粒して調製された実施例1−2の増粘化剤は、オレンジジュース及びアイソトニック飲料に対しても高い粘度発現を示した。
【0060】
実験例3 キサンタンガム含量が高い増粘化剤
表6に示す処方に従って実施例3−1及び比較例3−1の増粘化剤を調製した。具体的には、比較例3−1はキサンタンガム粉末80質量部及びデキストリン粉末20質量部の割合で、キサンタンガム粉末及びデキストリン粉末の粉体混合物400gを調製し、粉体混合物に対して水140gをバインダー液として用い、流動層造粒を行うことにより調製した。
実施例3−1は、予めキサンタンガムの一次造粒物を調製し、二段階の造粒工程を経て調整した。
【0061】
(実施例3−1で使用したキサンタンガムの一次造粒物)
キサンタンガム粉末400gに対して水140gをバインダー液として用い、流動層造粒を行った。得られたキサンタンガム顆粒を篩い分けし、16メッシュパスで100メッシュオン(150μm以上1000μm未満)のキサンタンガム顆粒を、実施例3−1で用いるキサンタンガム一次造粒物とした。
【0062】
次いで、得られたキサンタンガム顆粒(一次造粒物)80質量部及びデキストリン20質量部の割合で、キサンタンガム顆粒(一次造粒物)及びデキストリン粉末を粉体混合し、混合物400gに対して、水140gをバインダー液として用い、流動層造粒を行い、実施例3−1の増粘化剤を調製した。
【0063】
【表6】

【0064】
得られた実施例3−1の増粘化剤は、キサンタンガム含量を80質量%とかなりの高含量まで高めた増粘化剤であったが、比較例3−1に比べてダマの発生が抑制されていた。更には、粘度発現も比較例3−1に比べて向上し、迅速な粘度発現性を備えた優れた増粘化剤であった。
【0065】
実験例4 賦形剤の形態
表7の処方に従い、キサンタンガムを含有した増粘化剤を調製した。実験例4は二次造粒時に用いる賦形剤の形状(粉末、顆粒)に着目して試験を行った。具体的には、実施例4−1及び比較例4−1は賦形剤として粉末状のデキストリンを用いて、実施例4−2及び比較例4−2は顆粒状のデキストリンを用いて、キサンタンガムを含有した増粘化剤を調製した。実施例4−1及び実施例4−2はかさ比重が0.25g/mlである一次造粒物(キサンタンガム顆粒)40質量部及びデキストリン(賦形剤)60質量部を混合して、比較例4−1及び比較例4−2はキサンタンガム粉末40質量部及びデキストリン(賦形剤)60質量部を混合して、粉体混合物を得た。得られた各々の粉体混合物400gに対して、水140gをバインダー液として用い、流動層造粒を行うことにより、実施例4−1〜4−2、比較例4−1〜4−2の増粘化剤を調製した。
【0066】
【表7】

【0067】
得られた増粘化剤(実施例4−1〜4−2、比較例4−1〜4−2)について、実験例1と同様の手法を用いて分散性及び粘度発現性を試験した。具体的には、イオン交換水100gを200mLビーカーに用意し、実施例4−1〜4−2、比較例4−1〜4−2の増粘化剤を各々2g一括添加した。増粘化剤を添加し、3秒間静置した後に、スパーテルを用いて30秒間手で撹拌し(4回転/秒)、撹拌後の溶液の状態を観察した(分散性試験)。粘度発現性試験は、イオン交換水100gを200mLビーカーに用意し、実施例4−1〜4−2、比較例4−1〜4−2の増粘化剤を各々2gずつ撹拌しながら添加し、スパーテルを用いて30秒間撹拌し続け(4回転/秒)、増粘化剤を添加した後の粘度の経時変化を測定した。結果を表8に示す。
【0068】
【表8】

【0069】
二次造粒時に用いるデキストリンの形状が粉末状、顆粒状を問わず本発明の効果が得られた。具体的には、実施例4−1及び比較例4−1はデキストリンとして共に粉末状のデキストリンを用い、キサンタンガムとしてかさ比重が0.25g/mlであるキサンタンガム一次造粒物(実施例4−1)若しくは粉末状のキサンタンガム(比較例4−1)を用いた増粘化剤である。両者を比較すると、二次造粒時の原料として、かさ比重が0.25g/mlであるキサンタンガム一次造粒物を用いることにより、粉末状のキサンタンガムを用いた場合より分散性が一段と向上した上、粘度発現性も向上していた。同様に、実施例4−2及び比較例4−2はいずれも顆粒状のデキストリンを賦形剤として調製した増粘化剤であるが、キサンタンガムとしてかさ比重が0.25g/mlであるキサンタンガム一次造粒物を用いることにより(実施例4−2)、粉末状のキサンタンガムを用いて調製された比較例4−2の増粘化剤よりダマの発生が抑制された上、粘度発現性も格段と向上した。以上より、賦形剤として用いるデキストリンは、粉末状、顆粒状のいずれの形態でも同様の効果が得られることが判明した。
【0070】
実験例5 各造粒段階における原料配合
表9の処方に従って、キサンタンガムを含有した増粘化剤を調製した(実施例5−1)。実施例5−1は一次造粒時にデキストリンを併用して調製した。具体的には、粉末状キサンタンガム50質量部及びデキストリン50質量部を粉体混合し、粉体混合物400gに対して水140gをバインダー液として流動層造粒を行った。次いで得られた一次造粒物(キサンタンガム:デキストリン=1:1)80質量部及びデキストリン20質量部を粉体混合し、粉体混合物400gに対して水140gをバインダー液として流動層造粒(二次造粒)を行った(実施例5−1)。
【0071】
【表9】

【0072】
得られた増粘化剤(実施例5−1)について、実験例1と同様の手法を用いて分散性及び粘度発現性を試験した。実施例5−1の増粘化剤は、ダマの発生を抑制しつつ、簡便にイオン交換水に粘度を付与することができた。具体的には、粉末状のキサンタンガムと粉末状のデキストリンを造粒して得られた、比較例4−2の増粘化剤(最終増粘化剤中のキサンタンガムとデキストリンの配合量は同一)と比較して、有意にダマが抑制されていた上、粘度発現性も良好であった。
なお、キサンタンガム含量100%である一次造粒物を二次造粒時の原料として調製した実施例4−1の増粘化剤(最終増粘化剤中のキサンタンガム及びデキストリンの配合量は同一)と比較すると、実施例4−1の増粘化剤の方が実施例5−1の増粘化剤と比較して、より顕著にダマの発生が抑制されていた。以上より、二次造粒物の原料としてキサンタンガム含量が高い一次造粒物を用いることが望ましいと推測される。
【0073】
実験例6 お茶に対する粘度発現性
実験例1で調製した実施例1−2の増粘化剤(キサンタンガム40質量%、デキストリン60質量%)のお茶に対する粘度発現性を試験した。粘度発現性試験は、実験例1に開示された方法に準じて行った。結果を表10に示す。
【0074】
【表10】

【0075】
表10から、本発明品である増粘化剤(実施例1−2)は、お茶に対しても高い粘度発現性を示すことが分かった。
【0076】
実験例7 グァーガムを併用した増粘化剤
表11の処方に従って、キサンタンガムとグァーガムを併用した増粘化剤を調製した。
(実施例7−1)
キサンタンガムの一次造粒物に対して、グァーガム(粉末)及び賦形剤を添加して二次造粒を行い、増粘化剤を調製した。具体的には、実験例1の実施例1−1〜1−3で用いたキサンタンガムの一次造粒物(かさ比重0.25g/ml)36質量部と、グァーガム(粉末)4質量部、及びデキストリン(粉末)60質量部を粉体混合した粉体混合物400gに対して水140gをバインダー液として流動層造粒(二次造粒)を行い、実施例7−1の増粘化剤を調製した。
(実施例7−2)
キサンタンガム及びグァーガムを含む粉体混合物を一次造粒した後に、賦形剤を添加して二次造粒を行い、増粘化剤を調製した。具体的には、粉末状キサンタンガム90質量部及び粉末状グァーガム10質量部を粉体混合した粉体混合物400gに対して水140gをバインダー液として流動層造粒を行った。次いで得られた一次造粒物(キサンタンガム:グァーガム=9:1)40質量部及びデキストリン(粉末)60質量部を粉体混合した粉体混合物400gに対して水140gをバインダー液として流動層造粒(二次造粒)を行い、実施例7−2の増粘化剤を調製した。
(実施例7−3)
キサンタンガム顆粒(一次造粒物)及びグァーガム顆粒(一次造粒物)の混合物に対して、賦形剤を添加して二次造粒を行い、増粘化剤を調製した。具体的には、実験例1の実施例1−1〜1−3で用いたキサンタンガム一次造粒物(かさ比重0.25g/ml)36質量部と、グァーガム一次造粒物(かさ比重0.25g/ml)4質量部、及びデキストリン(粉末)60質量部を粉体混合した粉体混合物400gに対して水140gをバインダー液として流動層造粒を行い、実施例7−3の増粘化剤を調製した。
グァーガム一次造粒物は、以下の方法に従って調製した。
(実施例7−3で使用したグァーガム一次造粒物の調製)
グァーガム粉末400gに対して水140gをバインダー液として用い、流動層造粒を行った。具体的には、温風温度75℃で、グァーガム粉末400gに対して140mLの水(イオン交換水)を速度毎分10mL、スプレーエアー流量35NL/mLで噴霧し、噴霧終了後5分間乾燥を行った。
得られたグァーガム顆粒を篩い分けし、16メッシュパスで100メッシュオン(150μm以上1000μm未満)のグァーガム顆粒を、実施例7−3で用いるグァーガム一次造粒物(かさ比重0.25g/ml)とした。
(比較例7−1)
粉末状キサンタンガム、粉末状グァーガム及び賦形剤の粉体混合物を一次造粒して、増粘化剤を得た。具体的には、粉末状キサンタンガム、粉末状グァーガム及び粉末状デキストリンの粉体混合物400gに対して水140gをバインダー液として流動層造粒を行い、比較例7−1の増粘化剤を調製した(一次造粒のみ)。
【0077】
【表11】

【0078】
得られた増粘化剤(実施例7−1〜7−3、比較例7−1)について、実験例1と同様の手法を用いて分散性及び粘度発現性を試験した。具体的には、イオン交換水100gを200mLビーカーに用意し、実施例7−1〜7−3、及び比較例7−1の増粘化剤を各々2g一括添加した。増粘化剤を添加し、3秒間静置した後に、スパーテルを用いて30秒間手で撹拌し(4回転/秒)、撹拌後の溶液の状態を観察した(分散性試験)。
粘度発現性試験は、イオン交換水100gを200mLビーカーに用意し、実施例7−1〜7−3、及び比較例7−1の増粘化剤を各々2gずつ撹拌しながら添加し、スパーテルを用いて30秒間撹拌し続け(4回転/秒)、増粘化剤を添加した後の粘度の経時変化を測定した。結果を表12に示す。
【0079】
【表12】

【0080】
キサンタンガム及びグァーガムを併用した実施例7−1〜7−3の増粘化剤は、グァーガムの添加時期に関わらず、本発明の効果が得られた。具体的には、実施例7−1及び実施例7−3は、キサンタンガムの一次造粒物を二次造粒する際にグァーガムを併用しており、実施例7−2は、キサンタンガムの一次造粒物を二次造粒する際にグァーガムを併用しているが、いずれの場合も、二次造粒工程を経ることなく調製された比較例7−1の増粘化剤に比べて、格段に分散性が向上した上、粘度発現性にも優れていた。
以上より、本発明の効果は、キサンタンガムを含み、かさ比重が0.45g/ml以下である一次造粒物に賦形剤を添加後、二次造粒することによって得られる効果であり、併用する増粘剤の添加時期や形態を問わないことが判明した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末状のキサンタンガムを少なくとも原料の一つとして造粒した、かさ比重が0.45g/ml以下である一次造粒物に、デキストリン、澱粉及び糖類から選ばれる1種以上の賦形剤を添加後、造粒して得られる二次造粒物を含有することを特徴とする増粘化剤。
【請求項2】
一次造粒物及び二次造粒物の造粒方法がいずれも流動層造粒である、請求項1に記載の増粘化剤。
【請求項3】
キサンタンガムの含有量が35質量%以上である、請求項1又は2に記載の増粘化剤。
【請求項4】
一次造粒物の製造時に、賦形剤を不使用とする、請求項1〜3のいずれかに記載の増粘化剤。
【請求項5】
粉末状のキサンタンガムを少なくとも原料の一つとして造粒した、かさ比重が0.45g/ml以下である一次造粒物に、デキストリン、澱粉及び糖類から選ばれる1種以上の賦形剤を添加後、造粒することを特徴とする、キサンタンガムのダマの発生を抑制する方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−244809(P2011−244809A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293915(P2010−293915)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【特許番号】特許第4723047号(P4723047)
【特許公報発行日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】