説明

分析試料の作製方法

【課題】濃度分析をより高精度に行うSIMS分析法を提供する。
【解決手段】基板上に分析対象となる薄膜又は薄膜積層体を形成し、薄膜の最表面又は薄膜積層体の最上層の最表面に支持体を貼りあわせ、薄膜又は薄膜積層体を基板から剥離することで分析試料を作製する。基板と、薄膜又は薄膜積層体と、の間に剥離層を形成し、該剥離層をきっかけとすることが好ましい。更に好ましくは、剥離層と、薄膜又は薄膜積層体と、の間に緩和層を形成する。該分析試料はSIMS分析に用いることができ、剥離した分析試料を裏面側からSIMS分析することで、従来のSIMS分析法では必要であった研磨工程を経ることなく、従来のSIMS分析法と同様に高精度な濃度分析を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分析試料の作製方法に関する。特に、SIMS分析試料の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置等の工業製品の作製に際して、深さ方向の元素の濃度分布を把握することは重要である。例えば、半導体装置に搭載されている電界効果型トランジスタ(Field Effect Transistor。以下、FETという。)やFETの一種である薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor。以下、TFTという。)等の半導体素子では、半導体層の不純物領域内における不純物濃度の分布から、不純物導入時の条件が適切であるか否かを検討することができる。
【0003】
深さ方向の濃度分布を明らかにする代表的な分析手法として、二次イオン質量分析(Secondary Ion Mass Spectroscopy。以下、SIMSという。)法、オージェ電子分光(Auger Electron Spectroscopy。以下、AESという。)法、X線光電子分光(X−ray Photoelectron Spectroscopy。以下、XPSという。)法が挙げられる。これらの分析方法は、検出感度や元素識別能等が異なるため、目的に応じていずれかの分析手法を選択する。SIMS法は検出感度や元素識別能について、特に優れた分析手法である。
【0004】
SIMS法は、分析対象となる固体試料に一次イオンを照射することで該固体試料の表面をスパッタリングし、これにより該固体試料の表面から放出される、分子や原子がイオン化された二次イオンを質量分析計にて検出する分析手法である。SIMS法を用いることで、例えば、絶縁性基板上に形成されたTFTのように、基板の一主表面に薄膜が形成され、該薄膜にイオン注入法等により不純物元素が導入された固体試料の不純物元素の濃度を分析することができる。しかし、このような固体試料を分析する場合、薄膜の表面側から一次イオンを照射すると、薄膜は一次イオンによりスパッタリングされ、クレーターが形成され、表面形状が経時変化する。表面形状の経時変化によって生じる形状効果(クレーターエッジ効果)によって、クレーター側壁からの二次イオンが検出され、深さ方向のデータの正確性が低下する。したがって、固体試料の薄膜中における一導電型を付与する不純物元素のドーズ量を正確に分析するためには、固体試料の表面(薄膜が設けられている面)側からではなく、固体試料の裏面(薄膜が設けられていない面)側から一次イオンを照射して分析することが好ましい。このように分析するためには、分析試料の最上層の表面を研磨用の土台に固定し、基板を裏面側から化学機械研磨(Chemical Mechancal Polishing。以下、CMPという。)法等により研磨して約1μmまで薄く加工した後、基板の裏面側から一次イオンを照射してSIMS分析するとよい。
【0005】
SIMS分析を行うに際しては、通常、チャージアップの影響がない構造にする必要がある。そのため、分析対象となる膜の下には、分析対象となる膜を浮動電位としないようチャージアップしない材料(例えばシリコンウエハ)を配置する必要がある。ただし、ガラス基板のような絶縁性基板であっても、過度のチャージアップが発生しなければ、電気的に中和する為に備えられた中和銃(例えば、電子銃。)を用いることで分析が可能になる。
【0006】
基板の裏面側の研磨にはCMP装置等の研磨装置を用いる。CMP装置は、研磨パッドと保持ヘッド(サンプルを固定するヘッド)とスラリー剤(機械的に研磨する際の研磨粉を含む)とを有する。研磨時の処理条件としては、荷重(研磨面(研磨パッドと保持ヘッドの接触面)に垂直な方向の力)、回転速度及びスラリー剤の種類等があるが、これらの条件の設定は容易ではない。例えば、厚さが約1μmになるまで平坦性を保って研磨することは困難であり、豊富な経験に裏付けられた技能が必要であるといえる。また、単位時間あたりの研磨量を少なくして、研磨を慎重に行うほど多くの時間を要する。
【0007】
以上説明したように、基板の裏面側を研磨し、該研磨面に一次イオンを照射してSIMS分析する方法は、研磨加工する為の手間が掛かり、大量のサンプルを評価する上では、前処理に多大な時間を要する。また、研磨加工には、高度な技能が必要である。更には、上記で述べたCMP技術の研磨工程の影響で基板の平坦性が損なわれ、SIMS分析時の精度に問題を生じうる(例えば、特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開平9−210885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のように、基板の裏面側を研磨し、該研磨面に一次イオンを照射してSIMS分析する方法では、CMP技術等により基板を研磨するため、分析試料の加工に多くの時間を費やすことになる。また、分析試料の均一性及び平坦性を保持しつつ研磨するためには、研磨時の条件の設定等に熟練した技能を要する。このように、基板の裏面側を研磨し、該研磨面に一次イオンを照射してSIMS分析する方法は、表面側に一次イオンを照射して行う通常のSIMS分析法よりも正確な分析を可能にするが、分析試料の作製が容易ではないという問題があった。
【0009】
そこで、本発明は、従来より簡単且つ正確に行うことができる分析試料の作製方法及びSIMS分析法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一形態は、基板上に分析対象となる薄膜又は薄膜積層体を形成し、薄膜の最表面又は薄膜積層体の最上層の最表面に支持体を貼りあわせ、薄膜又は薄膜積層体を基板から剥離することを特徴とする分析試料の作製方法である。
【0011】
本発明の別形態は、基板上に剥離層を形成し、剥離層上に分析対象となる薄膜又は薄膜積層体を形成し、薄膜の最表面又は薄膜積層体の最上層の最表面に支持体を貼りあわせ、薄膜又は薄膜積層体を剥離層から剥離することを特徴とする分析試料の作製方法である。
【0012】
本発明の別形態は、二次イオン質量分析法により分析する試料の作製方法であって、基板上に剥離層を形成し、剥離層上に分析対象となる薄膜又は薄膜積層体を形成し、薄膜の最表面又は薄膜積層体の最上層の最表面に支持体を貼りあわせ、薄膜又は薄膜積層体を剥離層から剥離することを特徴とする分析試料の作製方法である。
【0013】
上記構成の本発明において、剥離層と、分析対象となる薄膜又は薄膜積層体と、の間には緩和層が形成されることを特徴とする分析試料の作製方法である。
【0014】
上記構成の本発明において、剥離層には、緩和層よりもフッ素濃度が高い膜を形成することが好ましい。
【0015】
上記構成の本発明において、剥離層及び緩和層として、フッ素濃度が1×1017atoms/cm以上2×1019atoms/cm以下であり、水素濃度が1×1021atoms/cm以上1×1022atoms/cm以下であり、炭素濃度が1×1015atoms/cm以上2×1018atoms/cm以下であり、窒素濃度が1×1018atoms/cm以上1×1020atoms/cm以下であり、且つ酸素濃度が1×1015atoms/cm以上1×1019atoms/cm以下である膜を形成することが好ましい。
【0016】
上記構成の本発明において、支持体は、基材及び基材の一主表面に設けられた粘着材を有し、粘着材はシリコーン系接着剤からなることが好ましい。
【0017】
上記構成の本発明において、剥離層として、フッ素を有する非晶質珪素膜を形成することが好ましい。
【0018】
なお、シリコーン系接着剤とは、オルガノポリシロキサンを主成分とする接着剤である。シリコーンはSi−O結合により構成されているため、無機高分子に近いが、Siに結合している有機基(メチル基又はフェニル基等)の存在により、有機高分子の挙動を示す。
【発明の効果】
【0019】
本発明を用いることで、複雑な手法を用いることなく、分析対象物の深さ方向の濃度分布の分析を高精度に行うことができる。
【0020】
また、本発明を用いることで、基板の裏面側を研磨し、該研磨面に一次イオンを照射して行うSIMS分析法のように、CMP等の研磨工程を行う必要がない。そのため、基板の裏面側を研磨し、該研磨面に一次イオンを照射してSIMS分析する方法において、研磨に費やしていた時間及び費用等を削減することができる。研磨に時間を費やさないため、従来よりも深さ方向の濃度分布を短時間で分析することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。但し、本発明は多くの異なる態様で実施することが可能であり、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0022】
図1は、本発明を適用して作製した分析試料の一形態を模式的に表した断面図を示す。図1の分析試料は、支持体101、薄膜積層体102、緩和層103及び剥離層104を有する。
【0023】
次に、図1に示す分析試料の作製方法の一例について、図2を参照して説明する。
【0024】
まず、基板105上に、剥離層104、緩和層103及び薄膜積層体102を順次積層して形成する(図2(A)参照)。
【0025】
基板105は、鏡面研磨仕上げしたシリコンウエハ又はガラス基板等を用いる。ガラス基板としては石英ガラス又は低融点ガラス等を用いればよい。なお、低融点ガラスの耐熱温度は約700℃である。基板105としてガラス基板を用いると、液晶表示装置やEL表示装置等に代表されるフラットパネルディスプレイに用いるような、大型ガラス基板上に堆積させた膜を評価することができる。
【0026】
剥離層104は、分析装置内の汚染源となるものでなければ、特定の材料に限定されない。例えば、珪素(Si)等の半導体材料、又はタングステン(W)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)等の導電性材料等を用いて形成すればよい。好ましくは剥離層104として珪素膜を用いる。更に好ましくはフッ素(F)を含む珪素膜を用いる。フッ素を含む珪素膜を用いて剥離層を形成することにより、剥離が容易になる。このようなフッ素を含む珪素膜として、具体的には、フッ素(F)を1.0×1017atoms/cm以上2.0×1019atoms/cm以下含む珪素膜を用いるのが好ましい。より好ましくは、フッ素(F)を1.0×1017atoms/cm以上2.0×1019atoms/cm以下、水素(H)を1.0×1021atoms/cm以上1.0×1022atoms/cm以下、炭素(C)を1.0×1015atoms/cm以上2.0×1018atoms/cm以下、窒素(N)を1.0×1018atoms/cm以上1.0×1020atoms/cm以下、酸素を1.0×1015atoms/cm以上1.0×1019atoms/cm以下含む珪素膜を用いる。このような濃度範囲とすることで、剥離が容易になる。なお、剥離層104として、金属元素や有機物を含む膜を形成する場合には、分析装置やCVD装置内の汚染の恐れがないもの、又は汚染の恐れが小さいものを用いる。
【0027】
緩和層103は、剥離層104の上方に形成される薄膜積層体102を剥離する際にかかる物理的な力を緩和させるために形成される。緩和層103は、剥離層104と同じ成膜条件で形成することができるが、異なる成膜条件で形成してもよい。また、緩和層103は、薄膜積層体102を剥離する際の物理的な力を緩和させる為の膜質や膜厚を有していれば良い。例えば、緩和層103として、剥離層104よりもフッ素濃度の低い珪素膜を形成すると、剥離層で剥離されるため、好ましい。更に、緩和層において物理的な力をより効果的に緩和できるため好ましい。
【0028】
ここで、プラズマCVD法を用いた剥離層104及び緩和層103の作製方法について説明する。図3は、容量結合型プラズマCVD装置の構成の一例を示す。図3に示す容量結合型プラズマCVD装置200は、基板電極板202と、高周波電極板204と、ガス導入部206と、排気口208と、を有する処理室212を具備している。なお、図3に示す容量結合型プラズマCVD装置200は、4つの排気口を有する形態を示しているが、本発明はこれに限定されない。なお、排気口208A、排気口208B、排気口208C及び排気口208Dをまとめて排気口208と呼ぶこととする。排気口208は、真空ポンプに接続されている。ここでは、排気口208にメカニカルブースターポンプ(図3に示すMBP)が接続され、メカニカルブースターポンプはドライポンプ(図3に示すDP)に接続され、ドライポンプから排気が行われる。基板電極板202及び高周波電極板204は、平行に配置されている。基板電極板202と、高周波電極板204とは、交流電源210に接続されており、且つ基板電極板202は接地されている。なお、容量結合型プラズマCVD装置200のインピーダンスは、マッチングボックスにより調整されている。被処理体(図3では、基板105に相当)は、基板電極板202によって保持される。容量結合型プラズマCVD装置200は交流電源210により放電が行われ、基板電極板202及び高周波電極板204の間でプラズマを発生させる。
【0029】
図3に示すようなプラズマCVD装置の処理室内をフッ素系のガスによってクリーニングする。例えば、ガス導入部206から三フッ化窒素(NF)ガスを流量100SCCM、アルゴン(Ar)ガスを流量50SCCMとして処理室212内に導入し、13Paの圧力下で、基板の温度を300℃とし、27MHzのRF発振器の出力を300Wとしてエッチングを行えばよい。処理室212内をクリーニングした後、処理室212内に残留するフッ素214を利用したオートドープ方法によりフッ素濃度の高い珪素膜からなる剥離層を形成し、そのまま連続して珪素膜を堆積させる。これにより、フッ素濃度の低い珪素膜からなる緩和層103を剥離層104上に形成することができる。例えば、ガス導入部206からモノシラン(SiH)ガスを流量100SCCMとして処理室212内に導入し、33Paの圧力下で、基板の温度を300℃とし、27MHzのRF発振器の出力を170Wとして、膜厚が約500nmの珪素膜を形成する。このとき形成された珪素膜は、基板側である下層におけるフッ素濃度が、上層におけるフッ素濃度よりも高くなるため、フッ素濃度が高い下層の珪素膜が剥離層となり、フッ素濃度が低い上層の珪素膜が緩和層となる。形成された珪素膜は膜厚約50nmの剥離層と膜厚約500nmの緩和層を有する。
【0030】
薄膜積層体102は、分析対象となる任意の薄膜を単層又は積層して形成すればよい。例えば、珪素を含む半導体膜、酸化珪素、窒化珪素、酸化窒化珪素、窒化酸化珪素等を含む、酸化膜又は窒化膜等の無機絶縁膜等を形成する。なお、本明細書では分析対象となる薄膜が単層構造の場合も、便宜的に薄膜積層体と呼ぶこととする。
【0031】
なお、本明細書中において酸化窒化珪素とは、酸素の組成比が窒素の組成比よりも大きい物質であり、窒素を含んだ酸化珪素ともいうことができる。同様に、窒化酸化珪素とは、窒素の組成比が酸素の組成比よりも大きい物質であり、酸素を含む窒化珪素ともいうことができる。
【0032】
また、図4に示すように、分析対象となる膜の下層が緩和層を兼ねるように形成しても良い。図4(A)に示す分析試料は基板308上に剥離層306が形成され、剥離層306上に分析対象となる膜304が形成されている。分析対象となる膜304の下層は緩和層として機能する。例えば、分析対象となる膜304として珪素膜を形成し、イオン注入法で分析対象となる膜304に不純物元素をドーピングしてドープされた領域310を形成し(図4(B)を参照)、粘着性を有する支持体302を貼り付けて剥離する(図4(C)を参照)ことで、不純物元素ドーピング時に、珪素膜へドープされる不純物元素の深さを検出することができる。更には、本発明を用いることで、基板の裏面側を研磨して該研磨面に一次イオンを照射してSIMS分析する方法で検出される基板の情報が検出されないため、クレーターエッジ効果の影響も少なくでき、不純物元素のドーズ量等を精度良く評価することができる。
【0033】
次に、基板105上に積層形成された剥離層104、緩和層103及び薄膜積層体102に開口部106を形成する(図2(B)参照)。
【0034】
なお、開口部106は、例えば、物理的手段(カッター等の刃物又はレーザー照射)を用いて切り込みを入れて形成すればよい。剥離層104、緩和層103及び薄膜積層体102に開口部106を形成することで、分析試料となる薄膜積層体102を基板から剥離する際に剥がれやすくなる。
【0035】
次に、薄膜積層体102の最上層の表面に支持体101の粘着性を有する面を貼りあわせる。支持体101は、開口部106上の一部又は全部を覆って貼る(図2(C)参照)。
【0036】
支持体101には、耐熱性が高く、高真空又は超高真空に維持されているSIMS分析装置内において、分析結果に影響を及ぼす程度の汚染がない材質のものを用いる。SIMS法による分析では、測定時の分析試料への一次イオンの照射による帯電(チャージアップ)を防止するために、帯電している電荷と逆の極性の電荷を照射する中和銃(例えば、電子を照射する電子銃。)により、電荷を照射する場合がある。このとき、中和銃の照射による影響で分析試料が加熱されて温度が上昇することがあるため、支持体101が有する耐熱性とは、この温度上昇に耐えることのできる程度をいう。また、分析試料は、上記のように中和銃等の影響により分析中に加熱されることがあるため、この加熱による温度の上昇を考慮して、分析結果に影響を及ぼす程度の汚染がない粘着材を一方の面に有する支持体101を選定する必要がある。支持体101として、基材にポリイミド又はカプトン(登録商標)フィルム等を用い、粘着材にシリコーン系接着剤を用いることができる。好ましくはカプトン(登録商標)テープを用いる。
【0037】
図5は、図2(C)の上面図を示す。図2(C)は、図5における線分OPの断面図に相当する。図5において、薄膜積層体102の下方には、図2(C)に示すように緩和層103、剥離層104及び基板105が設けられている。薄膜積層体102には開口部106が設けられており、開口部106上を覆うように支持体101が貼り合わされている。なお、図5(A)に示すように、支持体101は薄膜積層体102上、及び開口部106上の全面に設ける必要はないが、図5(B)に示すように、開口部106の全体を覆うように支持体を貼り合わせても良い。好ましくは、図5(A)に示すように、支持体101が開口部106の全体を覆わず、開口部106の両端が露出されるように支持体101を貼り合わせる。図5(A)に示すように支持体を貼り合わせることで、スムーズに剥離することができる。
【0038】
次に、剥離層104、緩和層103、薄膜積層体102及び支持体101を基板105から剥離する(図2(D)参照)。以上によって、剥離された剥離層104、緩和層103、薄膜積層体102及び支持体101を有する積層体からなる分析試料が得られる。
【0039】
なお、分析試料を基板105から剥離する際には、あらかじめ形成された開口部106をきっかけとして支持体101を剥がすと、剥離層104と基板105の界面を境界として複雑な工程を経ることなく剥離することができる。剥離工程後の支持体101には、基板105上に形成されていた剥離層104、緩和層103及び薄膜積層体102が転写された状態となる。なお、分析試料は剥離層104を境界として剥離させるため、剥離工程後に支持体101に転写された剥離層104は、膜厚が部分的に薄くなる場合がある。
【0040】
以上により、支持体101、薄膜積層体102、緩和層103、剥離層104の積層体で構成される分析試料を作製することができる。
【0041】
次に、本発明を適用して作製した分析試料を分析する手法について説明する。図6に、SIMS分析の模式図を示す。図6に示すSIMS分析の様子の模式図では、SIMS分析装置は、イオン源401と、検出器402と、中和銃403と、を具備している。イオン源401から照射された一次イオン405により分析試料404の表面がスパッタリングされ、分析試料の表面から二次イオン406が発生する。二次イオン406を検出器402により検出することで、本発明を適用して作製した分析試料404を分析することができる。
【0042】
イオン源401は、固体セシウムを有するタンクをヒーターで加熱することでセシウムイオン(Cs)が発生する構成となっている。一次イオン405であるセシウムイオン(Cs)は、電気的に加速され、分析試料404に衝突し、二次イオン406が発生する。二次イオン406は、多くの中性粒子と、少量の陽イオンと、少量の陰イオンと、からなる。水素、炭素、窒素、酸素及びフッ素等の一般的に大気成分と呼ばれる元素が含まれる場合には、陰イオンを検出器402まで導入し、検出器402の四重極型質量分析器によって分析試料404に含まれる微量の不純物を検出する。
【0043】
中和銃403は、一次イオン405の照射により発生する、分析試料404のチャージアップ(帯電)を防止し、電気的に中和する為の電子銃である。分析試料404の表面における一次イオン405の被照射領域を覆うように、帯電する電荷と逆の極性の電荷を照射する。中和銃403を用いることにより、分析試料404のチャージアップを防止することができる。また、分析試料404の直下がガラス基板や有機物(テープ等)のような絶縁性物質である場合にも、チャージアップの発生を防止し、二次イオン406を安定して発生させることができる。
【0044】
分析試料404は、支持体101上に剥離層104、緩和層103及び薄膜積層体102が積層された積層構造を有する。図6に示すように、一次イオン405が剥離層104に照射されてスパッタリングされ、二次イオン406が検出される。つまり、分析試料404では、剥離層104から順に膜中の組成が分析される。剥離層は基板と比較すると、はるかに薄いため、クレーターエッジ効果等の影響をほぼ無視できるほどに小さい。
【0045】
以上のように、本発明を用いることで、基板の研磨を行うことなく、試料裏面側から一次イオンを照射することができる。そのため、不純物の濃度分析を複雑な工程を経ることなく高精度に行うことができる。つまり、基板の研磨工程を行うことなく、不純物の深さ方向の分析を高精度で行うことができる。
【0046】
また、本発明を用いることで、例えば、イオン注入装置によるイオンドーピングによって薄膜に不純物がドーピングされた時など薄膜の最上層の表面に高濃度の不純物が分布している場合でも、薄膜の下層の低濃度に不純物が分布している領域から不純物分析を精度良く行うことができる。
【実施例1】
【0047】
本発明を適用してSIMS法により深さ方向の濃度分布を分析した結果について説明する。
【0048】
図7は、本発明を適用して作製した試料AをSIMS法で分析した結果(プロファイル)を示す。試料Aは、実施の形態にて説明した分析試料404と同様の構成であり、粘着性を有する支持体として用いたカプトン(登録商標)テープ上に分析対象となる薄膜積層体、緩和層、剥離層が順次積層された構造とした。試料Aに対しては、剥離層104側から一次イオンを照射してSIMS分析を行った。なお、中和銃(電子銃)により発生する熱の影響で試料Aが変形しないように、試料Aをステージに密着させ、確実に固定した。
【0049】
なお、本実施例中においてカプトン(登録商標)テープとは、基材にカプトン(登録商標)フィルムを用い、粘着材としてシリコーン系接着剤を用いたテープであり、例えば、プリント基板のはんだ付けに際して、マスキングとして用いられるものである。
【0050】
図8は、比較例となる試料BをSIMS分析した結果(プロファイル)を示す。試料Bは、実施の形態1にて説明した図2(A)に示す積層構造と同様の構成であり、ガラス基板上に剥離層、緩和層及び薄膜積層体が順次積層されている。試料Bに対しては、薄膜積層体側(最上層の表面側)から一次イオンを照射してSIMS分析を行った。なお、試料Aは、試料Bと同一の工程にて作製した薄膜積層体上に粘着性を有する支持体を貼り合わせて転置した構造とした。従って、試料A及び試料Bでは、剥離層、緩和層及び薄膜積層体は同一の層により形成されている。
【0051】
試料A及び試料BのSIMS分析において、測定元素は、珪素、水素、炭素、窒素、酸素及びフッ素とした。なお、図8及び図7において、珪素はSiと記載し、水素はHと記載し、炭素はCと記載し、窒素はNと記載し、酸素はOと記載し、フッ素はFと記載した。図8及び図7では横軸に一次イオンの被照射面からの深さを、縦軸にイオン強度を示している。
【0052】
図8において、珪素のイオン強度は、約5×10counts/secondで安定している。
【0053】
図7において、珪素のイオン強度は、約8×10counts/secondで安定しており、図8と同程度のイオン強度で安定している。
【0054】
図7と図8とを比較することで、本発明を適用した場合(剥離した場合を示す図7)であっても、本発明を適用していない場合(剥離していない場合を示す図8)と同様に分析を行うことができることがわかる。
【実施例2】
【0055】
SIMS法により深さ方向の濃度分布を分析するに際して、本発明を用いて剥離を行った試料と行っていない試料とを比較した結果について説明する。
【0056】
不純物元素としてボロン(B)がドープされた珪素膜を分析した結果を示す。図9には、本発明を適用して作製した試料CをSIMS法で分析した結果(プロファイル)を示している。試料Cは、実施の形態にて説明した分析試料404と同様の構成であり、粘着性を有する支持体として用いたカプトン(登録商標)テープ上に分析対象となる薄膜積層体及び緩和層として珪素膜、剥離層としてフッ素を含む珪素膜が順次積層され、薄膜積層体及び緩和層として形成されている珪素膜にはボロン(B)がドープされている。試料Cでは、剥離層側から一次イオンとしてセシウム(Cs)を照射してSIMS分析を行った。なお、試料Cにおいて、中和銃(電子銃)により発生する熱の影響で試料Cが変形しないように、試料Cをステージに密着させ、確実に固定した。
【0057】
なお、本実施例中においてカプトン(登録商標)テープとは、基材にカプトン(登録商標)フィルムを用い、粘着材にシリコーン系接着剤を用いたテープであり、例えば、プリント基板のはんだ付けに際して、マスキングとして用いられるものである。
【0058】
図10には、比較例となる試料DをSIMS分析した結果(プロファイル)を示す。試料Dは、実施の形態にて説明した図2(A)の積層構造と同様の構成であり、ガラス基板上に剥離層、緩和層、及び薄膜積層体が順次積層された構造とした。試料Dでは、薄膜積層体側(最上層の表面側)から一次イオンとしてセシウム(Cs)を照射してSIMS分析を行った。なお、試料Cは、試料Dと同一の工程にて作製した薄膜積層体上に粘着性を有する支持体を貼り合わせて、転置した構造とした。従って、試料Cと試料Dについて、剥離層、緩和層及び薄膜積層体は同一の層で形成されている。試料C及び試料Dに対しては、どちらも一次イオンの加速電圧を3kV、電流密度を100nAとして分析を行った。
【0059】
試料Cと試料DのSIMS分析において、測定元素は、ボロン、珪素及びフッ素とした。なお、図9及び図10において、ボロンはBと記載し、珪素はSiと記載し、フッ素はFと記載した。ボロンについては11Bと、その同位体である10Bの双方を検出した。なお、図9及び図10では横軸に一次イオンの被照射面からの深さを、縦軸にイオン強度を示している。
【0060】
図9と図10を比較すると、図10では、珪素膜とボロンドープされた珪素膜の境界においてイオン強度は緩やかに変化している。対して、図9では、該境界においてイオン強度は急激に変化しており、該境界の位置が明確である。
【0061】
更に、試料C及び試料Dに照射する一次イオンにOを用いた場合のボロン(B)のSIMS分析結果(プロファイル)を図11及び図12に示す。図12では、図10と同様に、珪素膜とボロンドープされた珪素膜の境界においてボロンの濃度は緩やかに変化している。図11では、図9と同様に該境界においてボロンの濃度は急激に変化しており、該境界の位置が明確である。
【0062】
図9と図10との比較、及び図11と図12との比較から、試料Dでは薄膜積層体側から分析しているために、クレーターエッジ効果によって周辺のボロン元素を検出し、珪素膜とボロンドープされた珪素膜の境界の位置が不明瞭になっていると考えられる。一方で、本発明を適用した試料Cでは剥離層側から分析しているために、基板の裏面側を研磨して該研磨面に一次イオンを照射してSIMS分析する方法と同様に精度良く分析でき、分析結果のデータにおいて、珪素膜とボロンドープされた珪素膜の境界の位置が明確になっているのだと考えられる。
【0063】
以上のように本発明を適用することで、SIMS分析試料を容易に作製することができ、基板の裏面側を研磨して該研磨面に一次イオンを照射してSIMS分析する方法と同様に精度良くSIMS分析を行うことが可能である。つまり、深さ方向の濃度分布をより正確に分析することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明を適用して作製した分析試料の概念図。
【図2】本発明を適用して分析試料を作製する工程を説明する図。
【図3】本発明を適用して珪素膜を形成する際の容量結合型プラズマCVD装置の概念図。
【図4】本発明を適用して作製した分析試料の概念図。
【図5】本発明を適用して分析試料を作製する工程を説明する図。
【図6】本発明を適用して作製した分析試料について、SIMS分析の概念図。
【図7】本発明を適用したSIMS分析の結果。
【図8】従来の分析試料をSIMS分析した結果。
【図9】本発明を適用して作製した分析試料をSIMS分析した結果。
【図10】従来の分析試料をSIMS分析した結果。
【図11】本発明を適用して作製した分析試料をSIMS分析した結果。
【図12】従来の分析試料をSIMS分析した結果。
【符号の説明】
【0065】
101 支持体
102 薄膜積層体
103 緩和層
104 剥離層
105 基板
106 開口部
200 容量結合型プラズマCVD装置
202 基板電極板
204 高周波電極板
206 ガス導入部
208 排気口
208A 排気口
208B 排気口
208C 排気口
208D 排気口
210 交流電源
212 処理室
214 残留するフッ素
302 支持体
304 分析対象となる膜
306 剥離層
308 基板
310 ドープされた領域
401 イオン源
402 検出器
403 中和銃
404 分析試料
405 一次イオン
406 二次イオン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に分析対象となる薄膜又は薄膜積層体を形成し、
前記薄膜の最表面又は前記薄膜積層体の最上層の最表面に支持体を貼りあわせ、
前記薄膜又は薄膜積層体を前記基板から剥離することを特徴とする分析試料の作製方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記支持体は、基材、及び該基材の一主表面に設けられた粘着材を有し、
前記粘着材はオルガノポリシロキサンを主成分とすることを特徴とする分析試料の作製方法。
【請求項3】
基板上に剥離層を形成し、
前記剥離層上に分析対象となる薄膜又は薄膜積層体を形成し、
前記薄膜の最表面又は薄膜積層体の最上層の最表面に支持体を貼りあわせ、
前記薄膜又は薄膜積層体を前記剥離層から剥離することを特徴とする分析試料の作製方法。
【請求項4】
二次イオン質量分析法により分析する試料の作製方法であって、
基板上に剥離層を形成し、
前記剥離層上に分析対象となる薄膜又は薄膜積層体を形成し、
前記薄膜の最表面又は薄膜積層体の最上層の最表面に支持体を貼りあわせ、
前記薄膜又は薄膜積層体を前記剥離層から剥離することを特徴とする分析試料の作製方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4において、
前記剥離層と、前記分析対象となる薄膜又は薄膜積層体と、の間には緩和層が形成されることを特徴とする分析試料の作製方法。
【請求項6】
請求項5において、
前記剥離層には、前記緩和層よりもフッ素濃度が高い膜を形成することを特徴とする分析試料の作製方法。
【請求項7】
請求項5又は請求項6において、
前記剥離層及び前記緩和層として、フッ素濃度が1×1017atoms/cm以上2×1019atoms/cm以下であり、水素濃度が1×1021atoms/cm以上1×1022atoms/cm以下であり、炭素濃度が1×1015atoms/cm以上2×1018atoms/cm以下であり、窒素濃度が1×1018atoms/cm以上1×1020atoms/cm以下であり、且つ酸素濃度が1×1015atoms/cm以上1×1019atoms/cm以下である膜を形成することを特徴とする分析試料の作製方法。
【請求項8】
請求項3乃至請求項7のいずれか一において、
前記支持体は、基材、及び該基材の一主表面に設けられた粘着材を有し、
前記粘着材はオルガノポリシロキサンを主成分とすることを特徴とする分析試料の作製方法。
【請求項9】
請求項3乃至請求項8のいずれか一において、
前記剥離層として、フッ素を有する非晶質珪素膜を形成することを特徴とする分析試料の作製方法。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか一に記載の作製方法により作製された分析試料に対して一次イオンを照射することを特徴とする二次イオン質量分析法による分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−134242(P2008−134242A)
【公開日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281686(P2007−281686)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】