説明

分離装置及び分離方法

【課題】液体中に存在する細胞を、効率的に捕捉、分離・回収することができ、かつ目詰まり及び細胞を回収する際の細胞へのダメージを生じにくい分離装置を提供する。
【解決手段】分離装置は、細胞60を含む第1液体F1が第1方向Xに流通する第1流路10と、第1流路10に設けられ、第1方向Xと交差する第2方向Yを長手方向とし、細胞60を捕捉する複数の柱状体32と、第1方向Xの柱状体32よりも上流において第1流路10と接続し、細胞60を含まない第2液体F2が流通する第2流路20と、柱状体32が設けられた位置において第1流路10と接続し、第2方向Yに生体用緩衝液F3が流通する第3流路40と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分離装置及び分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がんの新しい治療方法として、「樹状細胞療法(がん免疫療法)」が注目されている。樹状細胞療法は、患者末梢血を成分採血し、その中から単球のみを取り出し体外で樹状細胞に分化誘導したのちに患者がん抗原を認識させ、患者体内に投与するというプロトコルを経る治療法である。また、がんの新しい治療としては、がんの再発を防止するために、血液中の循環がん細胞(CTC)(Circulating Tumour Cell)を除去する技術も注目されている。
【0003】
これらの治療法ではいずれも、血液中で多数の血球とともに存在している単球やCTCなどの少数の細胞を、血液中から採取あるいは除去する技術が必要となっており、これに適した分離技術の開発が望まれている。
【0004】
細胞等を捕捉したり分離したりする技術としては、比重遠心法、接着法、磁気ビーズ法、フィルター法などが提案されてきている。これらのうち、フィルター法としては、例えば、マイクロポストと称する構造のフィルターを用いた技術がある。例えば、非特許文献1には、CTCの接着因子が固定化されたマイクロポストをフィルター(濾過機構)として利用したマイクロチップが開示されている。同文献に記載されたフィルターは、複数のマイクロポスト(円柱状)が等間隔に配置され、そのマイクロポストの側壁に、接着因子が固定化されている。そして、同文献に開示された方法では、マイクロポスト間に一定の流量で血液を送液する。そうすると、血液がマイクロポスト間を蛇行して流れ、これによって血液中の血球等が遠心力を受け、マイクロポストの側壁への血球等の接触機会が増大するとしている。同文献には、接着因子に特異的に接着するCTCのみを接着捕獲することができ、CTCを他の血球等と分離することができる旨の記載がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Sunitha Nagrath et al., “Isolation of rare circulating tumour cells in cancer patients by microchip technology”, vol450|20/27 December 2007| doi:10.1038/nature06385 LETTERS
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献1に記載のマイクロチップでは、接着因子にCTCを付着させる能力は、血液の流速、並びに円柱状のマイクロポストの大きさ及び間隔に依存する。例えば、血液の流速が小さいと、がん細胞と接着因子との接触機会が少なくなり、マイクロポストに付着するCTCの数が少なくなってしまう場合がある。一方、血液の流速が大きいと、マイクロポストに付着したCTCが流されてしまう場合がある。また、複数のマイクロポストの間の間隔が大きくなると、CTCと接着因子との接触機会が少なくなり、マイクロポストに付着するCTCの数が少なくなってしまう。一方、複数のマイクロポストの間の間隔が小さくなると、血液を流すための抵抗が大きくなるうえ、付着したCTCによって詰まりが生じる場合がある。さらに、例えば樹状細胞療法に使用する単球等、対象細胞を回収する必要がある用途に非特許文献1に記載のマイクロチップを用いる場合、マイクロポスト間に捕獲された対象細胞を回収する必要がある。しかし、非特許文献1のマイクロチップは、前述の捕獲時と同一方向又は逆方向の流れ、すなわちマイクロポストの間を通る流れを生じさせる構造となっている。そのため対象細胞を回収するには、マイクロポストの間隔と近い大きさを有する対象細胞を、強制的にマイクロポスト間を通過させて回収する必要があり、対象細胞ヘのダメージが大きくなる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その幾つかの態様にかかる目的の一つは、液体中に存在する細胞を、効率的に捕捉又は分離して回収することができ、かつ、目詰まり及び細胞を回収する際の細胞へのダメージを生じにくい分離装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0009】
[適用例1]本適用例に係る分離装置は、細胞を含む第1液体が第1方向に流通する第1流路と、前記第1流路に設けられ、前記第1方向と交差する第2方向を長手方向とし、前記細胞を捕捉する複数の柱状体と、前記第1方向の前記柱状体よりも上流において前記第1流路と接続し、前記細胞を含まない第2液体が流通する第2流路と、前記柱状体が設けられた位置において前記第1流路と接続し、前記第2方向に生体用緩衝液が流通する第3流路と、を含む。
【0010】
本適用例の分離装置によれば、第1流路に細胞を捕捉する複数の柱状体が設けられているので、第1流路に細胞を含む第1液体を流通させた場合に、柱状体によって細胞が捕捉される。第1流路には第2流路が接続されているので、流路が接続された第2流路に細胞を含まない第2液体を流通させた場合に、第1流路における第1液体が流通する位置が変化する。第2流路が接続されている位置は、第1液体が流通する第1方向における上流であり、柱状体は、第1方向と交差する第2方向を長手方向としているので、柱状体に対して第1液体が流通する位置が変化する。これにより、柱状体によって細胞が捕捉される位置を変化させることができる。したがって、柱状体全体で細胞を捕捉する場合に比べて、第1液体及び第2液体が通過しやすい領域を確保しやすくなる。したがって、目詰まりが抑制されるので、第1液体が流通しやすくなり、細胞を効率的に捕捉又は分離することができる。
【0011】
さらに、本適用例の分離装置によれば、第1流路の柱状体が設けられた位置に、第2方向に生体用緩衝液が流通する第3流路が接続されている。柱状体は第2方向を長手方向としているので、第3流路に生体用緩衝液を流通させた場合に、柱状体の長手方向に沿った流れが生じる。これにより、柱状体に捕捉された細胞が柱状体の長手方向に沿って剥離されるので、柱状体に捕捉された細胞を剥離して回収する場合に、細胞へのダメージを生じにくくすることができる。
【0012】
[適用例2]上記適用例に記載の分離装置は、前記第2方向と垂直な方向における前記柱状体の断面積は、前記第2方向における前記第3流路が接続された前記第1流路の位置からの距離が大きいほど小さい。
【0013】
本適用例の分離装置は、第2方向と垂直な方向における柱状体の断面積が、第2方向における第3流路が接続された第1流路の位置からの距離が大きいほど小さいので、第3流路に生体用緩衝液を流通させた場合に、生体用緩衝液は柱状体の断面積が大きい方向から小さい方向へ流通する。柱状体の断面積が一定の場合に比べて、より容積(空間)の増える方向へ細胞を移動させることになるため、回収時の柱状体との接触機会が減り、細胞へのダメージが減少する。さらに接触機会の減少によって柱状体と細胞の接触抵抗が下がるため、少ない力で細胞を柱状体から剥離することができ、ダメージ低減に加えて、より効率的な回収又は分離が実現できる。
【0014】
[適用例3]上記適用例に記載の分離装置は、前記第3流路が接続された位置と対向する位置において前記第1流路と接続する回収室をさらに含む。
【0015】
本適用例の分離装置は、第3流路が接続された位置と対向する位置において回収室が第1流路と接続されているので、第3流路に生体用緩衝液を流通させた場合に、細胞が回収室に回収される。これにより、柱状体等への細胞の接触を抑制できるので、接触等による細胞へのダメージをさらに抑えることができる。
【0016】
[適用例4]本適用例に係る分離方法は、細胞を捕捉する柱状体が複数設けられた第1流路に、前記柱状体の長手方向と交差する第1方向に前記細胞を含む第1液体を流通させることと、前記第1方向の前記柱状体よりも上流において前記第1流路に接続された第2流路に前記細胞を含まない第2液体を流通させることと、前記第1流路における前記第1液体の流通を停止した状態において、前記柱状体が設けられた位置において前記第1流路と接続する第3流路に、前記長手方向に沿って生体用緩衝液を流通させることと、を含む。
【0017】
本適用例の分離方法によれば、細胞を捕捉する複数の柱状体が設けられた第1流路に細胞を含む第1液体を流通させるので、柱状体によって細胞が捕捉される。第1流路に接続された第2流路に細胞を含まない第2液体を流通させることで、第1流路における第1液体が流通する位置が変化する。第2流路が接続されている位置は、第1液体が流通する第1方向における上流であり、柱状体の長手方向は、第1方向と交差しているので、柱状体に対して第1液体が流通する位置が変化する。これにより、柱状体によって細胞が捕捉される位置を変化させることができる。したがって、柱状体全体で細胞を捕捉する場合に比べて、第1液体及び第2液体が通過しやすい領域を確保しやすくなる。したがって、目詰まりが抑制されるので、第1液体が流通しやすくなり、細胞を効率的に捕捉又は分離することができる。
【0018】
さらに、本適用例の分離方法によれば、第1流路の柱状体が設けられた位置に接続された第3流路に、柱状体の長手方向に生体用緩衝液を流通させる。つまり、柱状体の長手方向に沿った流れが生じる。これにより、柱状体に捕捉された細胞が柱状体の長手方向に沿って剥離されるので、柱状体に捕捉された細胞を剥離して回収する場合に、細胞へのダメージを生じにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係る分離装置を模式的に示す透視側面図。
【図2】本実施形態に係る分離装置を模式的に示す透視側面図。
【図3】本実施形態に係る分離システムを模式的に示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明の実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の例を説明するものである。本発明は、以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形例も含む。なお以下の実施形態で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0021】
図1及び図2は、本実施形態に係る分離装置を模式的に示す透視側面図である。図1には、第1液体F1及び第2液体F2の流入方向が、白矢印で模式的に描かれている。
【0022】
分離装置100は、第1流路10と、第2流路20と、濾過機構30と、第3流路40と、回収室50とを有する。
【0023】
第1流路10は、第1方向X(図の黒矢印X)に沿って液体を流すことができる形状を有する。第1方向Xは、重力の方向に無関係に、任意の方向を選ぶことができる。第1流路10は、第1方向Xに沿って液体を流すことができるかぎり、直線状である必要はなく、屈曲したり湾曲したりしていてもよい。また第1流路10の第1方向Xに直交する断面の形状も任意である。
【0024】
第1流路10は、第1構造体(図示せず)によって形成される。第1流路10を形成する第1構造体の形状は、内部に液体を流通させる第1流路10を形成できるかぎり、限定されず、例えば、円管状、角柱管状などとすることができる。また、第1構造体の第1流路10を形成する面は、滑らかであっても凹凸を有していてもよい。図1及び図2では、第1構造体の内部が透視されて描かれており、第1構造体の内壁面の形状が、第1流路10の形状(角柱状)として描かれている。また、図1及び図2では、第1流路10は、直線状の流路である。
【0025】
第1構造体の材質としては、特に制限されないが、例えば、無機材料(ガラス、シリコンなど)、樹脂材料(PMMA:ポリメタクリル酸メチル、PC:ポリカーボネート、PDMS:ポリジメチルシロキサンなど)、及びこれらの複合材料などとすることができる。第1構造体の材質に、例示した材質を選択すると、成型が容易で高精度な加工を行うことができる。
【0026】
第1流路10は、分離装置100において、第1液体F1を濾過機構30に導く機能を有する。また、第1流路10には、第1液体F1の他に第2液体F2が導入されてもよい。
【0027】
第1流路10の第1方向Xに垂直な方向の断面積は、特に制限されないが、第1液体F1が血液等の細胞の分散体であって、その中の標的となる細胞60を分離装置100によって採取・捕捉する場合には、1×10-92以上1×10-72以下であることが好ましい。第1流路10の第1方向Xに垂直な方向の断面積が、1×10-92以上1×10-72以下であると、第1流路10を流れる液体のレイノルズ数が2000未満となりやすく層流を形成しやすい。そのため、第1液体F1の流動の状態を層流としやすく、流動ベクトルが交差しにくいため、第1液体F1の濾過機構30における通過位置をさらに正確に調節することができる。
【0028】
第1流路10の第1方向Xにおける長さは、特に限定されないが、第1液体F1が血液等の細胞の分散体であって、その中の標的となる細胞60を分離装置100によって採取・捕捉する場合には、50μm以上50mm以下であることが好ましい。
【0029】
第2流路20は、第1流路10に接続している。第2流路20は、第2液体F2を流通させ、第1液体F1に合流させる。これにより第2液体F2は、第1液体F1とともに、第1流路10内を流れることができる。なお、第1流路10及び第2流路20の合流位置とは、第1流路10及び第2流路20の接続している位置のことを指し、第1流路10における合流位置という場合には、第1流路10の第1方向Xにおける第2流路20の接続している区間のことを指す。
【0030】
第2流路20は、第1流路10の第1液体F1の流れる方向に対して交差する方向から接続される。例えば、第2流路20は、図1及び図2に示すように、第1流路10の第1液体F1が流れる方向に対して垂直に接続されることができる。また、第2流路20は、第1流路10の第1液体F1が流れる方向に対して傾斜して(垂直でない角度に)接続されてもよい。
【0031】
第2流路20が、第1流路10の第1液体F1の流れる方向に対して交差する方向から接続されるので、第2流路20から第1流路10へ合流される第2液体F2は、第1方向Xに垂直な速度成分を有して第1液体F1に合流される。第1液体F1に、第1方向Xに垂直な速度成分を有するように合流されるかぎり、第2液体F2は、第1液体F1の流れに対して垂直に合流しても傾斜して合流してもよい。第2流路20の第1流路10への接続の態様は、このような合流を行わせることができるように、接続の形状、大きさ、方向などを適宜設計される。
【0032】
第2流路20は、第2構造体(図示せず)によって形成される。第2流路20を形成する第2構造体の形状は、内部に第2液体F2を流通させる第2流路20を形成できるかぎり、限定されず、例えば、円管状、角柱管状などとすることができる。また、第2構造体の第2流路20を形成する面は、滑らかであっても凹凸を有していてもよい。図1及び図2では、第2構造体は、透視されて描かれており、第2構造体の内壁面の形状が、第2流路20の形状(角柱状)として描かれている。また、図1及び図2では、第2流路20は、直線状の形状を有し、第1流路10に対して垂直に接続されている。
【0033】
第2構造体の材質としては、特に制限されず、第1構造体と同様とすることができる。第1構造体の材質と、第2構造体の材質は同じでも異なってもよい。また、第1構造体と第2構造体は、一体的に構成されてもよいし、別体で構成され、継ぎ手等を用いて適宜に接続されてもよい。
【0034】
第2流路20は、第2液体F2を第1液体F1に合流させることにより、第1流路10における第1液体F1の流れる位置を偏らせる機能を有する。第2液体F2は、第1液体F1とともに濾過機構30に導かれる。第1流路10における第1液体F1の流量に対する第1流路10における第2液体F2の流量の比は、1:9から9:1とすることができる。第1液体F1の流量に対する第1流路10における第2液体F2の流量の比が、このような範囲であれば、第1流路10における第1液体F1の流れる位置を良好な状態で偏らせることができる。
【0035】
第2流路20の第2液体F2が流れる方向に対して垂直な方向の断面積は、特に制限されないが、第1液体F1が血液等の細胞の分散体であって、含有された標的となる細胞60を分離装置100によって採取・捕捉する場合には、1×10-92以上1×10-72以下であることが好ましい。第2流路20の長さは、特に限定されない。
【0036】
第1液体F1は、標的となる細胞60を含有する液体である。「標的となる」とは、「分離装置100によって、捕捉、採取又は回収しようとする」と読み替えることができる。したがって、標的となる細胞60とは、例えば、所定の大きさを有する細胞、所定の表面性状を有する細胞、所定の生体物質を表面に有する細胞などのことを指す。標的となる細胞60の少なくとも一部は、第1液体F1が分離装置100を通過することによって、捕捉、採取又は回収される。
【0037】
第1液体F1には、標的となる細胞60の他にも、他の細胞が含有されてもよい。第1液体F1に含有される細胞60の量は、第1液体F1が液体としての性質を維持できるかぎり、特に限定されないが、例えば、第1液体F1の全量に対して、1質量%以上50質量%以下とすることができる。
【0038】
第1液体F1の具体例としては、血液、体液、細胞分散液などが挙げられる。第1液体F1がサイズ分布を有する細胞60の分散液である場合には、本実施形態の分離装置100によって、例えば、所定の粒径以上の大きさの細胞60が捕捉、採取又は除去されることができる。また、濾過機構30に抗原等の接着因子を配置する場合には、本実施形態の分離装置100によって、例えば、所定の抗原を有する細胞60を捕捉、採取又は除去することができる。特に、第1液体F1が血液である場合には、本実施形態の分離装置100によって、例えば、樹状細胞や単球を捕捉、採取又は除去することができる。
【0039】
第1液体F1は、公知のポンプ等によって、第1流路10に導入され、濾過機構30へ導かれる。
【0040】
第2液体F2は、液体の性状を有すれば特に限定されない。濾過機構30の目詰まりを生じにくくする観点では、第2液体F2には、細胞60が含有されないことが好ましい。
【0041】
第2液体F2は、第1液体F1から細胞60を除いたもの(分散媒)であることが好ましい。また、第2液体F2は、浸透圧によって第1液体F1に含まれる細胞60を変形させないように塩濃度が調整された液体であることが好ましい。第2液体F2は、生理食塩水であってもよい。
【0042】
第2液体F2は、公知のポンプ等によって、第2流路20に導入され、第1流路10を介して濾過機構30へ導かれる。
【0043】
濾過機構30は、複数の柱状体32から構成される、細胞60を捕捉する機構である。柱状体32は、第1流路10と第2流路20との合流位置よりも下流側に設けられる。濾過機構30の外形形状は、限定されず、例えば、円管状、角柱管状などとすることができる。
【0044】
濾過機構30は、第1液体F1に含まれる標的となる細胞60を捕捉して濾別することができる。濾過機構30による細胞60の捕捉は、濾過機構30における液体の通過する間隙の幅よりも大きい細胞60が通過しないようにする態様であってもよい。
【0045】
また、濾過機構30による細胞60の捕捉は、濾過機構30の構成の表面に、標的となる細胞60と特異的に結合する接着因子を配置して、当該細胞60を濾過機構30の構成の表面に留まらせる態様であってもよい。当該結合は、化学結合であってもよいし、水素結合であってもよい。この場合では、標的となる細胞60としては、白血球(単球、樹状細胞など)、がん細胞などが挙げられ、これらと特異的に結合する接着因子としては抗体を例示することができる。
【0046】
さらに、標的となる細胞60ががん細胞である場合には、抗体を分離対象のがん細胞の種類に応じて選択することができる。例えば、上皮がんに共通の表面抗原に対する抗体としては、Ep−CAM抗体、N−カドヘリン抗体、ビメンチン抗体等が挙げられ、乳がん特有の表面抗原に対する抗体としては、HER2抗体等が挙げられ、大腸がん特有の表面抗原に対する抗体としては、NS19−9抗体等が挙げられ、前立腺がん特有の表面抗原に対する抗体としては、CD49、CD54、CD59抗体等が挙げられる。
【0047】
濾過機構30は、液体を通過させることができ、第1液体F1に含有される細胞60が接触することができる配置であるかぎり特に限定されない。濾過機構30の材質としては、特に制限されず、例えば、無機材料、有機材料、及びこれらの複合材料などとすることができる。第1構造体の材質と、濾過機構30の材質は同じでも異なってもよい。
【0048】
図1及び図2に示すように、濾過機構30は、第1方向Xに交差する方向(第2方向Y)を長手方向とする柱状体32で構成されている。濾過機構30にこのような構成を採用すると、例えば、柱状体32の表面を抗体等で修飾する場合などにおいて製造が容易で、また、濾過機構30の加工性を向上させることができる。このような構成の濾過機構30においては、柱状体32は、柱状であれば、その断面の形状は限定されず、例えば、円柱状、角柱状であってもよい。さらに、このような構成の濾過機構30においては、柱状体32の断面は、柱状体32の全体で一様である必要はなく、柱状体32の長手方向で異なる断面を有する形状であってもよい。なお、柱状体32の長手方向の断面積は同等若しくは減少する方向とすることにより、捕獲された細胞60はより離脱性が向上し、迅速な回収に寄与することになる。
【0049】
図1及び図2の例では、濾過機構30は、第1方向Xに直交する方向を長手方向とする柱状体32で構成されている。図1及び図2に例示する濾過機構30は、複数の柱状体32を有する。複数の柱状体32の配置は、標的とする細胞60を捕捉できるかぎり適宜である。この例では、濾過機構30は、透視されて描かれており、濾過機構30の内部の複数の円柱状の柱状体32が、平行にかつ平面的に見て格子状に配置されている。
【0050】
本実施形態の分離装置100は、第1流路10に細胞60を捕捉する複数の柱状体32が設けられているので、第1流路10に細胞60を含む第1液体F1を流通させた場合に、柱状体32によって細胞60が捕捉される。第1流路10には、第1液体F1が流通する第1方向Xにおける上流に第2流路20が接続されているので、第2流路20に細胞60を含まない第2液体F2を流通させた場合に、第1流路10における第1液体F1が流通する位置が変化する。これにより、柱状体32に対して第1液体F1が流通する位置が変化するので、柱状体32によって細胞60が捕捉される位置を変化させることができる。したがって、柱状体32全体で細胞60を捕捉する場合に比べて、第1液体F1及び第2液体F2が通過しやすい領域を確保しやすくなる。したがって、目詰まりが抑制されるので、第1液体F1が流通しやすくなり、細胞60を効率的に捕捉又は分離することができる。
【0051】
第3流路40は、柱状体32が設けられた位置において第1流路10に接続され、第2方向Yに生体用緩衝液F3を流通させる。第3流路40は、第2流路20よりも、第1液体F1の流れにおける下流側に設けられる。第3流路40は、第2方向Yに生体用緩衝液F3を流通させることができるかぎり、第1流路10の第1液体F1が流れる方向に対して傾斜して接続されてもよい。
【0052】
これにより、第1流路10の柱状体32が設けられた位置に、第1方向Xとは異なる第2方向Yに生体用緩衝液F3が流通する第3流路40が接続されている。柱状体32は第2方向Yを長手方向としているので、第3流路40に生体用緩衝液F3を流通させた場合に、柱状体32の長手方向に沿った流れが生じる。これにより、柱状体32に捕捉された細胞60が柱状体32の長手方向に沿って剥離されるので、柱状体32に捕捉された細胞60を剥離して回収する場合に、細胞60へのダメージを生じにくくすることができる。
【0053】
第3流路40を含む第3構造体(図示せず)の材質は、第2構造体と同様とすることができる。第1構造体と第3構造体は、一体的に構成されてもよいし、別体で構成され、継ぎ手等を用いて適宜に接続されてもよい。
【0054】
回収室50は、第3流路40が第1流路10と接続された位置と対向する位置で第1流路10に接続されており、濾過機構30において柱状体32の壁面にて接着等により捕獲された細胞60を回収するための構造体である。このような位置に回収室50を設けることにより、生体用緩衝液F3によって柱状体32から剥離された細胞60の第1流路10内における移動距離を短くできるので、柱状体32等への接触を抑制できる。したがって、接触等による細胞60へのダメージを最小に抑えることができる。回収後に利用可能な細胞数の増加に加えて、回収された細胞60の品質も向上することができる。
【0055】
回収室50を含む構造体(図示せず)の材質は、第1、第2、第3構造体と同様とすることができる。第1構造体と回収室50を含む構造体は、一体的に構成されているのがより望ましいが、継ぎ手等を用いて適宜に接続されてもよい。
【0056】
第1流路10、第2流路20への第1液体F1、第2液体F2の流通を停止した状態で、第3流路40より第1流路10に垂直な方向あるいは、柱状体32の長手方向と同様方向(第2方向Y)に生体用緩衝液F3を流通させ、柱状体32の壁面に接着等により捕獲された細胞60を回収室50に送り込むことで、細胞60の回収を行う。
【0057】
上記実施形態で述べた分離装置100を用いて、分離システムを構築することができる。分離システムは、分離装置100、各種の容器、及びポンプなどを含んで構成される。このような分離システムの一例として、分離システム1000を図3に模式的に示した。
図3は、実施形態に係る分離システム1000を模式的に示す図である。
【0058】
分離システム1000は、上述の分離装置100と、第1容器200と、第2容器300と、第3容器400と、第4容器500と、第5容器600と、第1ポンプ210と、第2ポンプ310と、第3ポンプ410と、これらをつなぐチューブTと、を有する。
【0059】
第1容器200、第2容器300、第3容器400、第4容器500、及び第5容器600は、それぞれ液体を保持することができれば任意である。第1ポンプ210、第2ポンプ310、及び第3ポンプ410は、それぞれ液体を流動させることができれば任意である。また、チューブTは、特に限定されないが、液体の流量や液体の性質に応じて適宜、径や内壁面の処理が選択される。
【0060】
分離システム1000では、分離装置100の第1流路10の上流側に、第1容器200が、第1ポンプ210及びチューブTを介して接続されている。また、分離装置100の第2流路20の上流側に、第2容器300が、第2ポンプ310及びチューブTを介して接続されている。同様に、分離装置100の第3流路40の上流側に、第3容器400が、第3ポンプ410及びチューブTを介して接続されている。さらに、第4容器500は、濾過機構30の下流側にチューブTを介して接続されている。さらに、第5容器600は、回収室50の下流側にチューブTを介して接続されている。
【0061】
分離システム1000は、例えば、以下のように使用される。第1容器200には、第1液体F1が蓄えられており、第1ポンプ210によって、分離装置100の第1流路10に第1液体F1が送液される。第2容器300には、第2液体F2が蓄えられており、第2ポンプ310によって、分離装置100の第2流路20に送液される。そして、第1液体F1に第2液体F2が合流されてこれらの液体が濾過機構30に到達する。濾過機構30を透過した液体は、第4容器500に回収される。
【0062】
このような動作により、第1液体F1中の標的となる細胞60が、濾過機構30によって捕捉される。濾過機構30に捕捉された細胞60は、例えば、第3ポンプ410によって、第3容器400内の生体用緩衝液F3を送液することで、細胞60は濾過機構30より開放され、回収室50を介し、第5容器600に回収されることができる。これにより、第1液体F1に含有される標的となる細胞60を、分離することができる。
【0063】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0064】
10…第1流路、20…第2流路、30…濾過機構、32…柱状体、40…第3流路、50…回収室、60…細胞、100…分離装置、200…第1容器、210…第1ポンプ、300…第2容器、310…第2ポンプ、400…第3容器、410…第3ポンプ、500…第4容器、600…第5容器、1000…分離システム、F1…第1液体、F2…第2液体、F3…生体用緩衝液、T…チューブ、X…第1方向、Y…第2方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を含む第1液体が第1方向に流通する第1流路と、
前記第1流路に設けられ、前記第1方向と交差する第2方向を長手方向とし、前記細胞を捕捉する複数の柱状体と、
前記第1方向の前記柱状体よりも上流において前記第1流路と接続し、前記細胞を含まない第2液体が流通する第2流路と、
前記柱状体が設けられた位置において前記第1流路と接続し、前記第2方向に生体用緩衝液が流通する第3流路と、
を含むことを特徴とする分離装置。
【請求項2】
請求項1に記載の分離装置において、
前記第2方向と垂直な方向における前記柱状体の断面積は、前記第2方向における前記第3流路が接続された前記第1流路の位置からの距離が大きいほど小さいことを特徴とする分離装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の分離装置において、
前記第3流路が接続された位置と対向する位置において前記第1流路と接続する回収室をさらに含むことを特徴とする分離装置。
【請求項4】
細胞を捕捉する柱状体が複数設けられた第1流路に、前記柱状体の長手方向と交差する第1方向に前記細胞を含む第1液体を流通させることと、
前記第1方向の前記柱状体よりも上流において前記第1流路に接続された第2流路に前記細胞を含まない第2液体を流通させることと、
前記第1流路における前記第1液体の流通を停止した状態において、前記柱状体が設けられた位置において前記第1流路と接続する第3流路に、前記長手方向に沿って生体用緩衝液を流通させることと、
を含むことを特徴とする分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−9639(P2013−9639A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−145369(P2011−145369)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】