説明

切削加工方法および切削加工装置

【課題】被加工物の形状接線角度が大きくなっても、目標形状に凹部または凸部を切削加工することができる切削加工方法および切削加工装置を提供する。
【解決手段】前逃げ角γが大きく、かつ、すくい角αが負の切削工具8を用い、切削工具8の切り込み量を高速で変化させるとともに、切削工具8をワークの表面往路に沿って移動させながら、ワークに凹部を切削加工する。次に、切削工具8の切り込み量を高速で変化させるとともに、切削工具8をワークの表面復路に沿って移動させながら、ワークに加工した前記凹部を再度切削加工する。これにより、往路加工で発生したバリ31を復路加工で除去できるので、凹部を正確に加工できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削工具を用いて、被加工物の表面に凹部または凸部を切削加工する切削加工方法および切削加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
切削工具を用いて、被加工物の表面に微細な凹凸を加工する装置や方法として、特許文献1に開示された「微細表面形状切削加工装置および微細切削加工方法」が知られている。
これは、被加工物を搭載し、往復運動をする第1のスライド機構と、この第1のスライド機構の運動方向と直角方向に間欠位置決め運動をする第2のスライド機構と、これら第1および第2のスライド機構の運動軸とそれぞれ直角な方向に切削工具の切込み量を高速かつ微細に制御する工具切込み機構と、第1のスライド機構の運動に従ってパルス信号を発生する位置検出器とを備えて構成されている。
【0003】
被加工物の表面に微細表面形状を加工するには、第1のスライド機構の正方向の運動時に、位置検出器から発生するパルス信号に同期して工具切込み機構により切削工具の切込み量を高速に変化させ、第1のスライド機構の逆方向の運動時には、切削工具を被加工物から退避させ、かつ、第1のスライド機構が一往復する毎に第2のスライド機構を一定量送る。これによって、被加工物の表面に微細表面形状を加工することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−123085号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1に開示された加工装置や加工方法では、被加工物の加工形状によっては、加工できない場合がある。
いま、図7に示す通常の切削工具(バイト)8を使用し、図8に示すように、ワークWの表面に断面略半円形状の凹部Gを切削加工する場合を考える。使用する切削工具8は、前逃げ角(水平面に対する前逃げ面8Aの角度)がγ、すくい角(垂直面に対するすくい面8Bの角度)がα(=0度)、刃物角(前逃げ面8Aとすくい面8Bとの角度)がβである。
【0006】
凹部Gの入口側(加工方向前半側)形状接線角度δ(形状接線とワークW表面との角度)が、切削工具8の前逃げ角γよりも大きいと、切削工具8がワークWに切り込まれた際、切削工具8の前逃げ面8AがワークWの凹部G以外の部分に干渉してしまう。つまり、ワークWの形状接線角度δが切削工具8の前逃げ角γより大きくなると、切削工具8の前逃げ面8AがワークWの加工部位(凹部G)以外の部分9に転写されるため、凹部Gを目標形状に正確に加工できないという課題がある。
また、このような課題は、断面略半円形状の凹部を切削加工する場合だけでなく、断面略半円形状の凸部を切削加工する場合にも生じる課題でもある。
【0007】
本発明の目的は、このような課題を解消し、被加工物の形状接線角度が大きくなっても、目標形状に凹部または凸部を切削加工することができる切削加工方法および切削加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決すべく検討した結果、まず、切削工具の前逃げ面が被加工物に干渉して被加工物の加工部位以外の部分に転写されるのを防止するには、切削工具の前逃げ角を、被加工物の形状接線角度よりも大きくすれば解決できる。しかし、これでは、刃物角が小さくなってしまい、切削工具としての強度が低下し、耐久性のある切削工具が得られない。
【0009】
そこで、図3に示すように、刃物角βを維持するために、すくい角αを負(すくい面8Bが垂直面に対して切削方向へ傾いている)にした切削工具8を用いれば、形状接線角度が正の場合、前逃げ面8Aが被加工物に干渉しなくなるため、被加工物を正確に加工できる。
しかし、このようにすると、次のような新たな課題が生じる。
【0010】
例えば、凹部を加工する場合、凹部の加工方向後半側において、形状接線角度が負の場合、切削工具8のすくい角αが負になることにより、せん断角が減るため、バリが発生するという新たな課題が生じる。
つまり、図4に示すように、切削工具8をワークWに切り込んで、断面略半円形状の凹部Gを加工する際、切削工具8の前逃げ角γを凹部Gの入口側つまり加工方向前半側形状接線角度δ1より大きくしておけば、凹部Gの加工方向前半側については、前逃げ面8AがワークWの加工部位以外の部分に干渉しないため、凹部Gを正確に加工できる。
しかし、図5に示すように、凹部Gの出口側つまり加工方向後半側については、加工方向後半側形状接線角度δ2が負で、しかも、切削工具8のすくい角も負であるから、せん断角が減り、バリ31が発生するという課題が生じる。
【0011】
また、断面略半円形状の凸部を加工する場合、切削工具8の前逃げ角γを凸部の加工方向後半側形状接線角度より大きくしておけば、凸部の加工方向後半側につては、前逃げ面がワークの加工部位以外の部分に干渉しないため、凸部を正確に加工できる。
しかし、凸部の入口側つまり加工方向前半側については、形状接線角度が負で、しかも、切削工具8のすくい角も負であるから、せん断角が減り、確実な切削加工が行えないという課題が生じる。
【0012】
本発明では、この問題を解決するために、切削工具の両面、つまり、前逃げ面とすくい面との両面を用いて、往復経路で凹部または凸部の切削加工を行う。例えば、凹部の加工の場合、往路加工で発生したバリを復路加工で除去するようにしたものである。具体的には、本発明の切削加工方法および切削加工装置は、次の構成を採用している。
【0013】
本発明の切削加工方法は、被加工物に凹部または凸部を切削加工する切削加工方法において、すくい角が負の切削工具を用い、前記切削工具の切り込み量を高速で変化させるとともに、前記切削工具を被加工物の表面往路に沿って移動させながら、被加工物に凹部または凸部を切削加工したのち、前記切削工具の切り込み量を高速で変化させるとともに、前記切削工具を被加工物の表面復路に沿って移動させながら、前記被加工物に加工した前記凹部または凸部を再度切削加工する、ことを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、すくい角が負の切削工具を用いているから、前逃げ角を大きくしても、つまり、被加工物の形状接線角度よりも大きくしても、刃物角を維持できる。従って、切削工具の強度低下が少ないので、耐久性を維持できる。
このような切削工具を用いて、まず、切削工具の切り込み量を高速で変化させるとともに、切削工具を被加工物の表面往路に沿って移動させながら、被加工物に凹部または凸部を切削加工する。
【0015】
例えば、被加工物に凹部を加工する際、切削工具の前逃げ角が、凹部の加工方向前半側形状接線角度よりも大きくできるから、前逃げ面が被加工物に干渉して転写されることがなく、凹部の加工方向前半側を正確に切削加工できる。
次に、切削工具の切り込み量を高速で変化させるとともに、切削工具を被加工物の表面復路に沿って移動させながら、被加工物に加工した前記凹部を再度切削加工する。これにより、復路加工において、往路加工で発生したバリを除去できるから、被加工物の形状接線角度が大きくなっても、目標形状に凹部を切削加工することができる。
【0016】
また、被加工物に凸部を加工する際、切削工具の前逃げ角が、凸部の加工方向後半側形状接線角度よりも大きくできるから、前逃げ面が被加工物に干渉して転写されることがなく、凸部の加工方向後半側を正確に切削加工できる。
次に、切削工具の切り込み量を高速で変化させるとともに、切削工具を被加工物の表面復路に沿って移動させながら、被加工物に加工した前記凸部を再度切削加工する。これにより、復路加工において、往路加工で発生したバリ、あるいは、加工できなかった部分を除去できるから、被加工物の形状接線角度が大きくなっても、目標形状に凸部を切削加工することができる。
【0017】
しかも、従来の加工では、往路のみで加工して、復路は戻りの目的のみで無駄時間となっていたが、本発明の切削加工方法では、その戻りの時間を利用して加工を行うので、加工時間が増えるのを防止できる。
【0018】
本発明の切削加工方法において、前記往路加工では、前記凹部または凸部の加工方向前半または加工方向後半を切削加工し、前記復路加工では、前記凹部または凸部の残りの半分を切削加工することが好ましい。
例えば、凹部を加工する際、切削工具のすくい角を負にすると、往路加工において、凹部の加工方向後半側の切削加工ではせん断角が減るため正確な形状に切削加工することが困難になるが、上記構成によれば、往路加工では、凹部の加工方向前半側の約半分を切削加工し、復路加工では、凹部の残りの約半分を切削加工するので、凹部を正確に切削加工できる。
【0019】
本発明の切削加工方法において、前記切削工具は、すくい角が−5°〜−70°、前逃げ角が20°〜60°であることが好ましい。
この構成によれば、凹部または凸部の形状接線角度が20°以上の形状でも、正確に加工することができる。
【0020】
本発明の切削加工方法において、前記凹部または凸部は、加工方向前半側形状接線と被加工物表面との角度と、加工方向後半側形状接線と被加工物との角度とが略等しく、かつ、これらの形状接線角度が20°以上の断面半円形状を有する凹部または凸部であることが好ましい。
この構成によれば、とくに、凹部または凸部の形状が、加工方向前半側形状接線と被加工物表面との角度と、加工方向後半側形状接線と被加工物との角度とが略等しく、かつ、これらの形状接線角度が20°以上である断面半円形状を有する凹部または凸部の切削加工に適する。例えば、半球形状の凹部や凸部、断面が半円形状の溝部や凸条部、あるいは、断面がV字状、台形状などの凹部または凸部の加工に適する。
【0021】
本発明の加工装置は、被加工物を載置したテーブルおよび切削工具と、前記テーブルおよび前記切削工具を互いに直交するX軸およびY軸方向へ相対移動させるX軸移動機構およびY軸移動機構と、前記切削工具を前記X軸およびY軸方向に対して直交するZ軸方向へ進退させる切込軸を有するZ軸移動機構と、前記切込軸に設けられ前記Z軸方向への前記切削工具の切込量を高速で変化させる往復動ステージと、前記X軸移動機構、前記Y軸移動機構および前記Z軸移動機構を制御する制御手段とを備えた加工装置において、前記切削工具は、すくい角が負の切削工具が用いられ、前記制御手段によって、前記切削工具の切り込み量を高速で変化させるとともに、前記切削工具を被加工物の表面往路に沿って移動させながら、被加工物に凹部または凸部を切削加工したのち、前記切削工具の切り込み量を高速で変化させるとともに、前記切削工具を被加工物の表面復路に沿って移動させながら、前記被加工物に加工した前記凹部または凸部を再度切削加工することを特徴とする。
【0022】
この構成によれば、制御手段によって、X軸移動機構、Y軸移動機構およびZ軸移動機構の駆動が制御される。つまり、各軸移動機構によって被加工物と切削工具とが三次元方向へ相対移動されるとともに、切削工具が予め設定した切込量で進退するように、往復動ステージを駆動されるから、この装置を利用して、前記加工方法で述べた凹部または凸部の加工を実現することができる。
【0023】
本発明の切削加工装置において、前記往復動ステージは、複数の圧電素子を積層した圧電素子積層体によって構成されていることを特徴とする。
この構成によれば、往復動ステージに、複数の圧電素子を積層した圧電素子積層体を用いたので、切削工具の切込量を高速で制御することができる。従って、被加工物の表面に微細な形状を高精度にかつ高い仕上げ精度に加工できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
<図1の説明>
図1は、本発明の切削加工装置の実施形態を示す正面図である。同切削加工装置は、ベース1と、このベース1の上面にY軸方向(図1の紙面に対して直交する方向)へ移動可能に設けられ上面に被加工物としてのワークWを載置したテーブル2と、ベース1の両側に立設されたコラム3と、このコラム3の上端間に掛け渡されたクロスレール4と、このクロスレール4に沿ってX軸方向へ移動可能に設けられたスライダ5と、このスライダ5にZ軸方向へ移動可能に設けられた切込軸6と、この切込軸6に往復動ステージ7を介して取り付けられた切削工具8とを備える。
【0025】
ベース1とテーブル2との間には、テーブル2をY軸方向へ移動させるY軸駆動機構11が設けられている。クロスレール4とスライダ5との間には、スライダ5をX軸方向へ移動させるX軸駆動機構12が設けられている。スライダ5と切込軸6との間には、切込軸6を含みこの切込軸6をZ軸方向へ移動させるZ軸駆動機構13が設けられている。つまり、ワークWを載置したテーブル2および切削工具8を互いに直交するX軸およびY軸方向へ相対移動させるX軸移動機構12およびY軸移動機構11と、切削工具8をX軸およびY軸方向に対して直交するZ軸方向へ進退させるZ軸移動機構13とを備えている。なお、これらの駆動機構11,12,13は、ボールねじ送り機構などによって構成されているが、これに限られない。
【0026】
往復動ステージ7は、切込軸6と切削工具8との間に設けられ、切削工具8の切込量、つまり、Z軸方向へ進退量を高速で変化させることができるものあればいずれでもよい。例えば、複数の圧電素子を積層した圧電素子積層体によって構成することができる。このほか、リニアモータやボイスコイルなどを用いて構成することもできる。
【0027】
<図2の説明>
図2は、切削加工装置の制御システムを示している。同システムには、X軸駆動機構12、Y軸駆動機構11、Z軸駆動機構13などを制御する制御手段としてのNC装置21と、このNC装置21からのトリガー信号を受けて往復動ステージ7を駆動する往復動ステージ駆動手段22と、入力装置23と、出力装置24とを備える。
【0028】
NC装置21は、X軸駆動機構12、Y軸駆動機構11、Z軸駆動機構13の駆動を制御する駆動プログラムなどを記憶し、これらの駆動プログラムに従ってX軸駆動機構12、Y軸駆動機構11、Z軸駆動機構13の駆動を制御するともに、予め設定されたタイミングでトリガー信号を往復動ステージ駆動手段22に与える。
【0029】
往復動ステージ駆動手段22は、ワークWの表面加工形状を加工するための往復動ステージ7の駆動データを記憶し、NC装置21からトリガー信号を受けたとき、この記憶した駆動データをアナログ電圧に変換して往復動ステージ7に与える。これにより、予め設定された切込量で切削工具8が進退される。
【0030】
入力装置23は、キーボードなどによって構成されているが、これに限られない。
出力装置24は、表示装置やプリンタなどによって構成されているが、これに限られない。
【0031】
<図3の説明>
図3は、凹部加工に用いる切削工具8を示している。
切削工具8は、前逃げ面8AがワークWに干渉してワークWの加工部位(凹部G)以外の部分に転写されるのを防止するために、切削工具8の前逃げ角γを、ワークWの形状接線角度よりも大きくし、かつ、これに伴って刃物角βが小さくなってしまう点を、すくい角αを負(すくい面8Bが垂直面に対して切削方向へ傾いている)にすることによって刃物角βを維持している。
【0032】
具体的には、切削工具8は、工具本体と、工具本体の先端に接着固定された刃先チップとから構成され、刃先チップにおいて、前逃げ角(水平面に対する前逃げ面8Aの角度)γが20°〜60°、すくい角(垂直面に対するすくい面8Bの角度)αが−5°〜−70°、刃物角βが75°〜80°に形成されている。従って、すくい角αが負の切削工具8を用いているから、前逃げ角γを大きくしても、つまり、ワークWの形状接線角度よりも大きくしても、刃物角βを強度低下に影響ない角度に維持できる。
本実施形態では、前逃げ角γが50°、すくい角αが40°、刃物角βが80°の切削工具8が用いられている。
【0033】
<図4、図5および図6の説明>
ワークWの表面に断面半円形状の凹部G(凹部Gの加工方向前半側および加工方向後半側形状接線角度が45°の断面半円形状の凹部G)を一定ピッチで切削加工する場合について説明する。
NC装置21によって駆動プログラムが開始されると、この駆動プログラムに従って、X軸移動機構12、Y軸移動機構11およびZ軸移動機構13の駆動が制御される。
【0034】
まず、X軸移動機構12の駆動制御により、切削工具8がX軸方向の第1の位置(図1中右位置)から第2の位置(図1中左位置)へ相対移動される(往路動作)。また、駆動プログラム開始時から所定時間経過後(つまり、切削工具8がワークWの加工位置真上に到達したとき)、NC装置21からトリガー信号が往復動ステージ駆動手段22に与えられる。
すると、往復動ステージ駆動手段22は、NC装置21からのトリガー信号を受けて、予め設定した切込量で切削工具8が進退するように、往復動ステージ7を駆動させる。つまり、一定周期毎に、切削工具8の切込量が次第に大きくなったのち小さくなり、こののち一定に維持されるように制御される。これにより、ワークWの表面に断面半円形状を有する凹部Gが一定ピッチ間隔で加工される。
【0035】
この際、切削工具8がワークWの表面に沿って往路移動しながら、ワークWに凹部Gを切削加工する工程(往路加工工程)において、図4に示すように、切削工具8がワークWの表面に切り込まれると、切削工具8の前逃げ角γが、凹部Gの加工方向前半側形状接線角度δ1よりも大きいから、前逃げ面8AがワークWの加工部位(凹部G)以外の部分に干渉して転写されることがなく、凹部Gの入口側を正確に切削加工できる。従って、凹部Gの加工方向前半側、つまり、入口側の約半分については、この往路加工において、正確に切削加工できる。
【0036】
やがて、図5に示すように、切削工具8が凹部Gの加工方向後半側、つまり、出口側に到達する。この段階では、凹部Gの加工方向後半側形状接線角度δ2が負で、しかも、切削工具8のすくい角αが負であるから、せん断角が減り、バリ31が発生する。
この問題を解決するために、切削工具8の両面、つまり、前逃げ面8Aとすくい面8Bとの両面を用いて、往復経路で凹部Gの切削加工を行う。つまり、往路加工で発生したバリ31を復路加工で除去する。
【0037】
具体的には、X軸移動機構12の駆動制御により、切削工具8が第1の位置から第2の位置へ移動(往路移動)されたのち、今度は、切削工具8が第2の位置から第1の位置へ移動(復路移動)される。この復路移動開始から所定時間経過後(つまり、切削工具8がワークWの加工位置真上に到達したとき)、NC装置21からトリガー信号が往復動ステージ駆動手段22に与えられる。
すると、往復動ステージ駆動手段22は、NC装置21からのトリガー信号を受けて、予め設定した切込量で切削工具8が進退するように、往復動ステージ7を駆動させる。これにより、ワークWの表面に切削加工された断面半円形状を有する凹部Gが再度切削加工される。
【0038】
この際、切削工具8がワークWの表面復路に沿って移動しながら、ワークWに凹部Gを切削加工する工程(復路加工工程)において、図6(A)に示すように、切削工具8がワークWの表面に切り込まれると、切削工具8の前逃げ面8Aによって、往路加工で発生したバリ31が切削除去されるとともに、凹部Gの残りの半分(凹部Gの加工方向後半側)が正確に切削加工される。つまり、往路と復路との交点が、凹部Gの形状接線角度が小さい凹部Gの略中間位置に設定されている。
なお、すくい面8Bと水平面とのなす角度が、凹部Gの加工方向後半側形状接線角度δ2よりも大きくしておけば、すくい面8Bが凹部G以外の部分に転写されることがないから、切削工具8の復路切り込み時にも凹部Gを正確に加工することができる。
【0039】
やがて、図6(B)に示すように、切削工具8が凹部Gの加工方向前半側に到達する。この段階では、切削工具8の移動軌跡が、凹部Gの加工方向後半側の形状より内側に沿っているため、凹部Gの形状に影響を与えることもなく、凹部Gを正確に維持できる。
【0040】
このようにして、ワークWの表面に、X軸方向に沿って凹部Gを一定ピッチで加工したのち、Y軸駆動機構11を一定ピッチ移動させて位置決めし、この位置において、上記の動作を繰り返せば、ワークWの表面全面にわたって凹部Gを一定ピッチで加工することができる。つまり、ワークWの表面全面にわたって凹凸形状を加工することができる。
【0041】
<実施形態の効果>
本実施形態では、次に述べる効果が期待できる。
(1)すくい角αが負の切削工具8を用いているから、前逃げ角γを大きくしても、つまり、ワークWの加工方向前半側形状接線角度δ1よりも大きくしても、刃物角βを維持できる。従って、切削工具8の強度低下が少ないので、耐久性を維持できる。
【0042】
(2)また、すくい角αが負で、前逃げ角γが大きい切削工具8を用いて、まず、切削工具8の切り込み量を高速で変化させるとともに、切削工具8をワークWの表面往路に沿って移動させながら、ワークWに凹部Gを切削加工する。この際、切削工具8の前逃げ角γが、凹部Gの加工方向前半側形状接線角度δ1よりも大きくできるから、前逃げ面8AがワークWに干渉して転写されることがなく、凹部Gの加工方向前半側を正確に切削加工できる。
【0043】
(3)次に、切削工具8の切り込み量を高速で変化させるとともに、切削工具8をワークWの表面復路に沿って移動させながら、ワークWに加工した前記凹部Gを再度切削加工する。これにより、復路加工において、往路加工で発生したバリ31を除去できるから、ワークWの加工方向前半側形状接線角度δ1が大きくなっても、目標形状に凹部Gを切削加工することができる。
しかも、従来の加工では、往路のみで加工して、復路は戻りの目的のみで無駄時間となっていたが、その戻りの時間を利用して加工を行うので、加工時間が増えるのを防止できる。
【0044】
(4)往路加工では、凹部Gの加工方向前半側の約半分を切削加工し、復路加工では、凹部Gの残りの約半分を切削加工するので、凹部Gを正確に切削加工できる。つまり、切削工具8のすくい角αを負にすると、往路加工において、凹部Gの加工方向後半側の切削加工ではせん断角が減るため正確な形状に切削加工することが困難になるが、上記構成によれば、往路加工と復路加工とで凹部Gを半分ずつ切削加工するようにしたので、凹部Gを正確に切削加工できる。
【0045】
(5)切削工具8は、すくい角αが−5°〜−70°、前逃げ角γが20°〜60°の範囲で、このような切削工具8を用いれば、凹部Gの加工方向前半側形状接線角度δ1が20度以上の形状、例えば、加工方向前半側形状接線角度δ1と、加工方向後半側形状接線δ2とが略等しく、かつ、これらの形状接線角度が20°以上である断面半円形状を有する凹部Gの切削加工に適する。例えば、半球形状の凹部や断面が半円形状の溝部などの加工に適する。
【0046】
(6)また、往復動ステージ7に、複数の圧電素子を積層した圧電素子積層体を用いたので、切削工具8の切込量を高速で制御することができる。従って、ワークWの表面に微細な形状を高精度にかつ高い仕上げ精度に加工できる。
【0047】
<変形例>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
上記実施形態では、断面半円形状の凹部Gを切削加工する例を示したが、必ずしも、この例に限られるものではない。例えば、断面がV字形状や台形形状の凹部の加工にも適する。
【0048】
また、凹部に限らず、凸部の切削加工にも適用できる。
例えば、断面略半円形状の凸部を加工する場合、切削工具8の前逃げ角γを凸部の加工方向後半側形状接線角度より大きくしておけば、凸部の加工方向後半側につては、前逃げ面8AがワークWの加工部位以外の部分に干渉しないため、凸部を正確に加工できる。しかし、凸部の入口側つまり加工方向前半側については、形状接線角度が負で、しかも、切削工具8のすくい角αも負であるから、せん断角が減り、確実な切削加工が行えないという課題が生じる。
【0049】
このような場合でも、切削工具8の前逃げ角γが、凸部の加工方向後半側形状接線角度よりも大きくできるから、往路において、前逃げ面8AがワークWに干渉して転写されることがなく、凸部の加工方向後半側を正確に切削加工できる。
次に、切削工具8の切り込み量を高速で変化させるとともに、切削工具8をワークWの表面復路に沿って移動させながら、ワークWに加工した前記凸部を再度切削加工する。これにより、復路加工において、往路加工で発生したバリ、あるいは、加工できなかった部分を除去できるから、ワークWの形状接線角度が大きくなっても、目標形状に凸部を切削加工することができる。
【0050】
上記実施形態では、テーブル2をY軸方向へ移動可能に構成するとともに、切削工具8をX軸方向へ移動可能に構成したが、これとは逆な構成でもよい。つまり、テーブル2をX軸方向へ移動可能に構成するとともに、切削工具8をY軸方向へ移動可能に構成してもよい。あるいは、テーブル2および切削工具8のいずれか一方を、X軸方向およびY軸方向へ移動可能に構成してもよい。
【0051】
上記実施形態では、X軸駆動機構12によって切削工具8をX軸方向へ移動させながら、往復動ステージ7を駆動して切削工具8の切込量を制御するようにしたが、Y軸駆動機構11によって切削工具8をY軸方向へ移動させながら、往復動ステージ7を駆動して切削工具8の切込量を制御するようにしてもよい。
あるいは、X軸駆動機構12およびY軸駆動機構11によって、切削工具8をXおよびY軸方向へ同時に移動させながら、往復動ステージ7を駆動して切削工具8の切込量を制御するようにしてもよい。
【0052】
上記実施形態では、ワークWの表面に凹部Gを一定ピッチ間隔で加工する加工方法について説明したが、これに限られない。例えば、ワークWの表面に凹部または凸部を不規則に加工する場合にも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、例えば、ワークの表面に微細な凹部または凸部を一定ピッチ間隔で配列したマイクロレンズ成形用金型などの加工に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の切削加工装置の一実施形態を示す正面図。
【図2】同上実施形態の制御システムを示すブロック図。
【図3】同上実施形態において、切削工具を示す図。
【図4】同上実施形態において、往路加工の加工初期を示す図。
【図5】同上実施形態において、往路加工の加工終期を示す図。
【図6】同上実施形態において、復路加工を示す図。
【図7】従来の一般的切削工具を示す図。
【図8】一般的切削工具を用いて凹部を加工する状態を示す図。
【符号の説明】
【0055】
2…テーブル、
6…切込軸、
7…往復動ステージ、
8…切削工具、
11…Y軸駆動機構、
12…X軸駆動機構、
13…Z軸駆動機構、
21…NC装置(制御手段)、
W…ワーク(被加工物)
G…凹部
α…すくい角、
β…刃物角、
γ…前逃げ角、
δ1…加工方向前半側形状接線角度、
δ2…加工方向後半側形状接線角度。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物に凹部または凸部を切削加工する切削加工方法において、
すくい角が負の切削工具を用い、
前記切削工具の切り込み量を高速で変化させるとともに、前記切削工具を被加工物の表面往路に沿って移動させながら、被加工物に凹部または凸部を切削加工したのち、
前記切削工具の切り込み量を高速で変化させるとともに、前記切削工具を被加工物の表面復路に沿って移動させながら、前記被加工物に加工した前記凹部または凸部を再度切削加工する、
ことを特徴とする切削加工方法。
【請求項2】
請求項1に記載の切削加工方法において、
前記往路加工では、前記凹部または凸部の加工方向前半または加工方向後半を切削加工し、
前記復路加工では、前記凹部または凸部の残りの半分を切削加工することを特徴とする切削加工方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の切削加工方法において、
前記切削工具は、すくい角が−5°〜−70°、前逃げ角が20°〜60°であることを特徴とする切削加工方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれかに記載の切削加工方法において、
前記凹部または凸部は、加工方向前半側形状接線と被加工物表面との角度と、加工方向後半側形状接線と被加工物との角度とが略等しく、かつ、これらの形状接線角度が20°以上の断面半円形状を有する凹部または凸部であることを特徴とする切削加工方法。
【請求項5】
被加工物を載置したテーブルおよび切削工具と、
前記テーブルおよび前記切削工具を互いに直交するX軸およびY軸方向へ相対移動させるX軸移動機構およびY軸移動機構と、
前記切削工具を前記X軸およびY軸方向に対して直交するZ軸方向へ進退させる切込軸を有するZ軸移動機構と、
前記切込軸に設けられ前記Z軸方向への前記切削工具の切込量を高速で変化させる往復動ステージと、
前記X軸移動機構、前記Y軸移動機構および前記Z軸移動機構を制御する制御手段とを備えた切削加工装置において、
前記切削工具は、すくい角が負の切削工具が用いられ、
前記制御手段によって、前記切削工具の切り込み量を高速で変化させるとともに、前記切削工具を被加工物の表面往路に沿って移動させながら、被加工物に凹部または凸部を切削加工したのち、前記切削工具の切り込み量を高速で変化させるとともに、前記切削工具を被加工物の表面復路に沿って移動させながら、前記被加工物に加工した前記凹部または凸部を再度切削加工するよう構成されていることを特徴とする切削加工装置。
【請求項6】
請求項5に記載の切削加工装置において、
前記往復動ステージは、複数の圧電素子を積層した圧電素子積層体によって構成されていることを特徴とする切削加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−78318(P2009−78318A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248403(P2007−248403)
【出願日】平成19年9月26日(2007.9.26)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】