説明

切削工具、切削加工装置および切削加工方法

【課題】ワークを平削り加工して所定の溝条部を形成する際に、1つの切削工具で複数の平削り加工を実施でき、加工作業の簡略化を図れる切削工具を提供すること。
【解決手段】切削工具10は、工具本体11の中心軸Pまわりに放射状に配置された4本のバイト12A〜12Dを備え、各バイト12A〜12Dが互いに異なる形状のチップ122A〜122Dを有する。工具本体11を中心軸Pまわりに回転させて、各チップ122A〜122Dを所定の順番でワークに対向させる。チップ122A〜122Dをワークに切り込まれた状態で、中心軸Pに沿って移動させ、ワークを中心軸Pに平行に平削り加工する。従って、ワークを平削り加工して所定の溝条部を形成する際に、1つの切削工具10で複数の平削り加工を実施でき、加工作業の簡略化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被加工物を平削り加工して所定の溝条部または突条部を形成する切削工具、切削加工装置および切削加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、切削加工装置に取付けられて被加工物を切削する切削工具であって、複数のバイトを有し、これらの各バイトが被加工物の複数の箇所をそれぞれ切削加工することによって、被加工物を所定の形状に加工できる切削工具が知られている。
例えば、特許文献1には、切削加工装置の主軸等に取付けられて、回転しながら被加工物を切削する回転工具であって、円孔の開口部の周縁に傾斜した面取り部分を形成する面取りナイフと、段付孔の孔内部の平坦面を形成するための平削りナイフとを有する回転工具が開示されている。
切削加工の際、工具本体を回転させながら被加工物に押し当てる。まず、工具本体に固定された平削りナイフによって段付孔の平坦面の切削が行われる。そして、工具本体が平坦面を切削しながら所定の深さまで押しこまれると、平削りナイフよりも後方に固定された面取りナイフによって開口部の周縁が面取りされる。
このように、特許文献1の回転工具を使用すれば、一つの回転工具により段付部の平坦面の形成と、開口部の周縁のバリ取りとが行われるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2904677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記特許文献1に記載の切削工具は、回転工具であるため、工具を回転させないで被加工物を切削加工(平削り加工)するような場合には適用できない。例えば、貫通孔の内周面に孔の軸方向に沿った溝を形成する際、一般的に、粗削り用のバイト(四角バイトなど)と、仕上げ用のバイト(側面加工バイトなど)とを用いて、被加工物を平削りする加工方法が採られる。このような被加工物に溝条部などを平削り加工する場合においても、1つの工具で複数の平削り加工を実施して、加工作業の簡略化を図りたいという要求が高くなっている。
【0005】
本発明の目的は、被加工物を平削り加工して所定の溝条部または突条部を形成する際に、1つの切削工具で複数の平削り加工を実施できて、加工作業の簡略化を図ることができる切削工具、切削加工装置および切削加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の切削工具は、中心軸を有する工具本体、および、前記中心軸まわりに放射状に配置されて前記工具本体に固定される複数のバイト、を備え、被加工物を平削り加工して所定の溝条部または突条部を形成する切削工具であって、前記複数のバイトは、互いに異なる形状の刃先を有し、かつ前記中心軸に直交する複数の平面上にそれぞれ配置されており、前記工具本体は、前記各刃先を所定の順番で前記被加工物に対向させるために、前記中心軸まわりの回転方向において位置決めされ、前記被加工物に対向された前記刃先は、前記被加工物に切り込まれた状態で、前記中心軸に沿って移動され、前記被加工物を前記中心軸に平行に平削り加工することを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、切削工具が放射状に配置された複数のバイトを備え、各バイトの刃先形状が互いに異なっているので、複数のバイトによる平削り加工を組み合わせて、1つの切削工具によって所定の形状の溝条部や突条部を形成することができる。この際、工具本体を中心軸まわりに回転させるだけで、使用するバイトを複数のバイトから容易に選択して変更することができる。
【0008】
ところで、円柱の外周面や円筒の内周面などに軸方向に沿った溝条部や突条部を形成する場合には、切削工具を被加工物に対して軸方向に往復運動させて、切削工具に送り運動を与えて加工する平削り加工が行われる。このような平削り加工では、複数のバイトが使用されることが多く、例えば、粗削り用のバイトにて粗削り加工を行った後、仕上げ用のバイトにて仕上げ加工を行うケースが多い。従って、工具本体を中心軸まわりに回転させるだけで、粗削り用のバイトから仕上げ用のバイトに変更することができる。
なお、切削工具をその中心軸まわりに回転させずに、被加工物を回転させることで、バイトの刃先を被加工物に対向させても、同様の効果が得られる。
【0009】
以上のように、被加工物に溝条部または突条部を平削り加工する際に、1つの切削工具で複数の平削り加工を実施することができるとともに、使用するバイトを容易に変更できるので、加工作業の簡略化を図ることができる。例えば、工具交換の手間が省けるので、加工時間が短縮され、作業効率を改善することが可能となる。
【0010】
さらに、本発明の切削工具では、複数のバイトが中心軸に直交する複数の平面上に分かれて配置されているので、各バイトの取付部も中心軸方向に互いにずれた位置に配置することができ、工具本体の中心軸に直交する方向の外径寸法を小さくすることができる。例えば、切削工具を貫通孔に挿入させて切削加工する際に、比較的小さな貫通孔にも挿入させることができるので、切削可能な被加工物の対象範囲を広げることができる。
【0011】
本発明の切削加工装置は、前記切削工具を有し、被加工物を平削り加工して所定の溝条部、または、突条部を形成する切削加工装置であって、前記被加工物を載置するテーブルと、前記中心軸と前記被加工物の被加工面とが平行となるように前記切削工具を支持し、前記切削工具を前記中心軸まわりの回転方向において位置決めする回転移動機構と、X軸方向へ前記テーブルおよび前記回転移動機構を相対移動させるX軸移動機構と、前記X軸に直交するY軸方向へ前記テーブルおよび前記回転移動機構を相対移動させるY軸移動機構と、前記X軸および前記Y軸に直交するZ軸方向へ前記テーブルおよび前記回転移動機構を相対移動させるZ軸移動機構と、を含んで構成され、前記各刃先は、所定の順番で、前記被加工面に対向され、前記被加工面に切り込まれた状態で、前記被加工面に対して前記中心軸方向に相対移動され、前記被加工面を平削り加工することを特徴とする。
【0012】
ここで、回転移動機構は、切削工具をその中心軸まわりに回転自在に支持して、さらに、切削工具を回転させることで、使用するバイトの刃先が被加工面に対向するように、切削工具を位置決めする機能を有している。この回転移動機構として、サーボ機構を備えたものを採用でき、サーボ機構により切削工具の回転方向の位置決めを実施してもよい。
また、X軸移動機構、Y軸移動機構およびZ軸移動機構により、テーブルに載置された被加工物と回転移動機構に支持された切削工具とを三次元方向へ相対移動させる三次元相対移動機構が構成される。
【0013】
この構成によれば、回転移動機構および三次元相対移動機構を備えているので、回転移動機構により切削工具を回転させて使用するバイトに容易に変更することができ、さらに、三次元相対移動機構によりバイトの刃先を被加工面に対して適宜移動させて、使用するバイトの切込量が所定量となるように調整することができる。そして、刃先を被加工面に沿って(工具本体の中心軸に平行に)相対移動させて、被加工物を平削り加工することができる。
このように、本発明の切削加工装置によれば、被加工物に溝条部または突条部を平削り加工する際に、1つの切削工具で複数の平削り加工を実施することができるとともに、使用するバイトを容易に変更できるので、加工作業の簡略化を図ることができる。
【0014】
本発明の切削加工装置は、前記切削工具を有し、被加工物を平削り加工して所定の溝条部、または、突条部を形成する切削加工装置であって、前記被加工物を載置するテーブルと、前記中心軸と前記被加工物の被加工面とが平行となるように前記切削工具を支持する工具支持部と、X軸方向へ前記テーブルおよび前記工具支持部を相対移動させるX軸移動機構と、前記X軸に直交するY軸方向へ前記テーブルおよび前記工具支持部を相対移動させるY軸移動機構と、前記X軸および前記Y軸に直交するZ軸方向へ前記テーブルおよび前記工具支持部を相対移動させるZ軸移動機構と、前記テーブルを前記中心軸に平行な回転軸まわりに回転自在に支持し、前記回転軸まわりの回転方向において位置決めする回転移動機構と、を含んで構成され、前記各刃先は、所定の順番で、前記被加工面に対向され、前記被加工面に切り込まれた状態で、前記被加工面に対して前記中心軸方向に相対移動され、前記被加工面を平削り加工することを特徴とする。
【0015】
ここで、回転移動機構は、テーブルを回転軸まわりに回転自在に支持して、さらに、テーブルを回転させることで、使用するバイトの刃先が被加工面に対向するように、テーブルを位置決めする機能を有している。
この構成によれば、テーブルを回転させる回転移動機構を備えているので、テーブルを回転させることで、使用するバイトに容易に変更することができ、前述の切削加工装置と同様の効果を得ることができる。
【0016】
本発明の切削加工方法は、被加工物を平削り加工して所定の溝条部、または、突条部を形成する切削加工方法であって、平行な中心軸を有する工具本体、および、前記中心軸まわりに放射状に配置されて前記工具本体に固定されるとともに互いに異なる形状の刃先を有しかつ前記中心軸に直交する複数の平面上にそれぞれ配置された複数のバイト、を備えた切削工具を用いて、前記中心軸と前記被加工物の被加工面とが平行となるように前記切削工具を支持して、前記各刃先を所定の順番で前記被加工面に対向させるために、前記切削工具を前記中心軸まわりの回転方向において位置決めし、または、前記被加工物を前記中心軸に平行な回転軸まわりの回転方向において位置決めして、前記被加工面に対向された前記刃先を前記被加工面に切り込ませた状態で、前記被加工面に対して前記中心軸方向に相対移動させて、前記被加工面を平削り加工することを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、前記切削工具を使用するので、前述と同様の効果が得られる。すなわち、被加工物に溝条部または突条部を平削り加工する際に、1つの切削工具で複数の平削り加工を実施することができるとともに、使用するバイトを容易に変更できるので、加工作業の簡略化を図ることができる。
そして、複数のバイトが中心軸に直交する複数の平面上に分かれて配置されているので、各バイトの取付部も中心軸方向に互いにずれた位置に配置することができ、工具本体の中心軸に直交する方向の外径寸法を小さくすることができる。例えば、切削工具を貫通孔に挿入させて切削加工する際に、比較的小さな貫通孔にも挿入させることができるので、切削可能な被加工物の対象範囲を広げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の前提となる第1実施形態に係る切削加工装置を示す正面図。
【図2】前記切削加工装置の切削工具を示す正面図。
【図3】前記切削工具を示す上方から見た横断面図。
【図4】前記切削工具を使用した切削加工方法を示す縦断面図。
【図5】(A)〜(D)は、前記切削工具の第1バイト〜第4バイトを使用した切削加工方法を示すそれぞれ上方から見た横断面図。
【図6】本発明の実施形態である第2実施形態に係る切削工具を示す正面図。
【図7】(A),(B)は、前記切削加工装置によって形成される溝条部および突条部の一例を示す横断面図。
【図8】(A),(B)は、前記切削加工装置によって形成される溝条部および突条部の他の例を示す横断面図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1から図5に示す第1実施形態は、本発明には含まれないが、本発明の前提となる技術であり、本発明である第2実施形態の説明では、第1実施形態との相違に基づいて説明を行う。
なお、後述する第2実施形態以降において、以下に説明する第1実施形態での構成部材と同じ構成部材および同様な機能を有する構成部材には同一符号を付し、説明を簡単にあるいは省略する。
【0020】
[第1実施形態]
<切削加工装置の構成>
図1は、本発明には含まれないが本発明の前提となる切削加工装置の実施形態を示す正面図である。
切削加工装置は、図1に示すように、NC装置などの制御装置20により制御される加工装置であって、ベース1と、このベース1上に前後方向(Y軸方向)へ移動可能に設けられ上面にワーク(被加工物)Wを載置するテーブル2と、ベース1の両側に立設された一対のコラム3,4と、この両コラム3,4の上部間に掛け渡されたクロスレール5と、このクロスレール5に沿って左右方向(X軸方向)へ移動可能に設けられたサドル6と、このサドル6に上下方向(Z軸方向)へ昇降可能に設けられたラム7と、このラム7の下端に設けられ主軸8を回転自在に支持する主軸頭(回転移動機構)9と、を備える。
切削加工装置は、主軸8に着脱自在に取り付けられた切削工具10によって、ワークWの被加工面Waを平削り加工して所定の溝条部を形成するためのものである。なお、X軸、Y軸、Z軸は互いに直交している。
【0021】
ベース1には、テーブル2をY軸方向に移動させるY軸移動機構21が設けられ、クロスレール5には、サドル6をX軸方向に移動させるX軸移動機構51が設けられ、サドル6には、ラム7をZ軸方向に移動させるZ軸移動機構61が設けられている。これらのX軸移動機構51、Y軸移動機構21およびZ軸移動機構61から、テーブル2(ワークW)と主軸頭9(切削工具10)とを三次元方向へ相対移動させる三次元相対移動機構が構成されている。
また、ベース1には、切削工具10を予備の切削工具30あるいは異なる形状のバイトを有した切削工具に交換するための工具スタンド40が設けられており、X軸移動機構51およびZ軸移動機構61により主軸8を、工具スタンド40に接近させて、例えば、使用中の切削工具10と工具スタンド40の切削工具30とを容易に交換できるようになっている。
【0022】
主軸頭9は、主軸8をZ軸方向に平行な回転軸C1まわりに位置決めするものであり、後述する第2実施形態において本発明の回転移動機構を構成する。主軸8が回転することで、切削工具10に設けられた後述する各バイトが被加工面Waに対向する位置に移動するようになっている。主軸頭9には、主軸8を回転駆動させるサーボモータ(不図示)が内蔵されており、このサーボモータのサーボ機構により、主軸頭9が切削工具10を回転軸C1まわりの任意の回転位置に位置決めできるようになっている。
制御装置20は、主軸頭9およびX軸移動機構51、Y軸移動機構21、Z軸移動機構61を制御する制御手段を構成している。
【0023】
<切削工具の構成>
図2、図3は、切削工具10を示す正面図、および、上方から見た横断面図である。
切削工具10は、図2に示すように、主軸8(図1参照)に固定された状態で回転軸C1と一致する中心軸Pを有する工具本体11と、中心軸Pまわりに90度の中心角で放射状に配置された4本のバイト12と、工具本体11の基端に形成されたテーパシャンク13と、を含んで構成されている。4本のバイト12は、第1バイト12A、第2バイト12B、第3バイト12Cおよび第4バイト12Dからなり、中心軸Pに直交する1つの平面上に配置され、工具本体11の先端(図中下端)の外周に固定されている。
【0024】
工具本体11は、円柱状に形成され、図3に示すように、円柱先端に形成された4箇所のバイト取付穴111を有する。これらのバイト取付穴111に4本のバイト12A〜12Dが嵌め込まれ、工具本体11の下方から各バイト12A〜12Dがボルト止めされている。また、工具本体11の円柱基端には、第1フランジ112(図2)が形成されており、第1フランジ112は工具スタンド40(図1)に切削工具10が載置される際に利用される。
【0025】
テーパシャンク13は、主軸8に係止される係止部131と、テーパ部132と、第2フランジ133とを有する。主軸8の内部に係止部131およびテーパ部132を挿入した状態(図4参照)で、第2フランジ133は切削工具10の中心軸P方向の位置決めに使用される。
【0026】
第1バイト12A〜第4バイト12Dは、図3にも示すように、工具本体11の中心軸Pから放射状に広がる方向に伸びる角柱状のバイト本体121A〜121Dをそれぞれ備え、バイト本体121A〜121Dの各基端が工具本体11のバイト取付穴111に嵌め込まれボルト止めされている。また、バイト本体121A〜121Dの各先端には、ダイアモンド製のチップ(刃先)122A〜122Dが一体的に取り付けられている。すなわち、第1バイト12A〜第4バイト12Dは、互いに異なる形状の第1チップ122A、第2チップ122B、第3チップ122Cおよび第4チップ122Dをそれぞれ有している。
【0027】
第1バイト12Aは、四角柱状のチップ122Aを有した四角バイトであり、ワークWを突切りして四角溝を形成する際に用いられる。四角柱状のチップ122Aは、バイト本体121Aの長手方向に直交する幅方向に沿って配置されている。
第2バイト12Bは、端縁が円弧状に形成されたチップ122Bを有した円弧バイトであり、ワークWに円弧溝を形成する際に用いられる円弧バイトである。円弧状の端縁を有するチップ122Bは、バイト本体121Bの長手方向に直交する幅方向に沿って、円弧状の端縁が外向きとなるように配置されている。
【0028】
第3バイト12Cは、四角柱状のチップ122Cを有し、溝条部の右側の内側面を切削加工する際に用いられる右側面バイトである。四角柱状のチップ122Cは、バイト本体121Cの長手方向に沿って配置されている。
第4バイト12Dは、四角柱状のチップ122Dを有し、溝条部の左側の内側面を切削加工する際に用いられる左側面バイトである。四角柱状のチップ122Dは、バイト本体121Dの長手方向に沿って、第3バイト12Cのチップ122Cとは反対側に配置されている。
【0029】
ワークWに溝条部を切削加工する際には、ワークWを粗加工する粗加工バイトとして第1バイト12Aが使用される。また、ワークWを仕上げ加工する仕上げ加工バイトとして、第2バイト12B、第3バイト12Cおよび第4バイト12Dが使用される。
【0030】
[切削加工方法]
切削加工装置を用いてワークWを平削り加工する切削加工方法について、図4および図5を用いて説明する。本実施形態では、図4に示すように貫通する円形孔Wbを有したワークWを用いて、この円形孔Wbの内側面を被加工面Waとして、被加工面Waにスプライン溝(溝条部)Wcを形成する場合について例示する。
図4、図5は、切削工具10を使用した切削加工方法を説明する縦断面図、および、上方から見た横断面図である。
【0031】
切削加工は、主軸8に切削工具10を支持させる支持手順S1と、第1バイト12Aを使用して平削り加工を行う第1加工手順S2と、第2バイト12Bを使用して平削り加工を行う第2加工手順S3と、第3バイト12Cを使用して平削り加工を行う第3加工手順S4と、第4バイト12Dを使用して平削り加工を行う第4加工手順S5と、により実施される。
【0032】
本実施形態では、ワークWの円形孔Wbの中心軸が主軸8の回転軸C1と平行となるように、ワークWがテーブル2に載置されるので、支持手順S1において、切削工具10を主軸8に取付ければ、被加工面Waと切削工具10の中心軸Pとが平行となる。
【0033】
以下、第1加工手順S2について、詳しく説明する。
第1加工手順S2では、まず、工具移動手順S21にて、三次元相対移動機構(X軸移動機構51、Y軸移動機構21、Z軸移動機構61)により、切削工具10を初期位置から被加工面Waの加工開始位置まで移動させる。
次に、バイト位置決め手順S22にて、第1バイト12Aのチップ122Aが被加工面Waに対向するように、主軸頭9により切削工具10を中心軸Pまわりに回転させて、第1バイト12Aを位置決めする。
そして、切込量調整手順S23にて、三次元相対移動機構により切削工具10を移動させて、第1バイト12Aのチップ122Aの被加工面Waに対する切込量を調整する。
次に、平削り加工手順S24にて、Z軸移動機構61により切削工具10を回転軸C1方向に移動させて、被加工面Waを平削り加工する(図4参照)。ここでは、第1バイトを被加工面Waに沿って上部から下部に向かって移動させる際に、被加工面Waが平削り加工される。なお、図5(A)に示すように、切削加工するスプライン溝Wcの幅寸法がチップ122Aの幅寸法より大きい場合には、所定の溝幅が得られるまで平削り加工手順S24を繰り返し実施すればよい。
最後に、退避手順S25にて、第1バイト12Aを被加工面Waから退避させて、第1加工手順S2が終了し、被加工面Waが粗加工され、四角溝が形成される。
【0034】
第2加工手順S3〜第4加工手順S5については、使用するバイト12B〜12Dが異なるだけであり、第1加工手順S2と同様の手順で実施される。
なお、第2加工手順S3では、円弧バイトである第2バイト12Bにより、四角溝の溝底が円弧状に切削加工され(図5(B)参照)て、被加工面Waに円弧溝が形成される。このように、第2加工手順S3ではスプライン溝Wcの溝底の仕上げ加工が実施される。
また、第3加工手順S4および第4加工手順S5では、右側面バイトである第3バイト12Cおよび左側面バイトである第4バイト12Dにより、円弧溝の左右の内側面が仕上げ加工される(図5(C)、図5(D)参照)。
【0035】
以上の手順S1〜S5により、第1バイト12Aから第4バイト12Dまでの4本のバイトを所定の順番で使用して被加工面Waを平削り加工して、スプライン溝Wcが形成される。すなわち、粗加工バイトである第1バイト12Aを使用してスプライン溝が粗加工された後、仕上げ加工バイトである第2バイト12B〜第4バイト12Dを順番に使用してスプライン溝Wcが仕上げ加工される。このようにして切削加工されたスプライン溝Wcの一例を図7(A)に示す。
【0036】
[本実施形態による効果]
本実施形態によれば、次のような効果を奏することができる。
(1)切削工具10が4本のバイト12A〜12Dを備え、各バイトのチップ122A〜122Dの形状が互いに異なっているので、4本のバイト12A〜12Dによる第1加工手順S2から第5加工手順S5を組み合わせれば、1つの切削工具10で所定の形状のスプライン溝Wcを形成することができる。
【0037】
(2)主軸頭9によって切削工具10を中心軸P(回転軸C1)まわりに回転させるだけで、使用するバイトを4本のバイト12A〜12Dから容易に選択して変更することができる。従って、加工作業の簡略化を図ることができ、例えば、切削工具10の交換の手間が省けるので、加工時間が短縮され、作業効率を改善することが可能となる。
【0038】
(3)4本のバイト12A〜12Dが同一平面上に配置されているので、使用するバイトを変更する際に、各バイト12A〜12Dの位置を工具本体11の中心軸P方向に位置決めする時間を短縮することができ、加工作業の簡略化をさらに図ることができる。
【0039】
(4)三次元相対移動機構(X軸移動機構51、Y軸移動機構21、Z軸移動機構61)によりバイト12A〜12Dのチップ122A〜122Dを被加工面Waに対して適宜移動させて、使用するバイトの切込量が所定量となるように調整することができる。また、チップ122A〜122Dを被加工面Waに沿って相対移動させて、ワークWを平削り加工することができる。
【0040】
[第2実施形態]
次に、本発明の実施形態である第2実施形態に係る切削工具について図6に基づいて説明する。本実施形態は、前述した第1実施形態の構成を基に、切削工具におけるバイトの配置を変化させたものである。
図6は、本実施形態の切削工具10Aを示す正面図である。切削工具10Aは、前述の第1実施形態の切削工具10に対して4本のバイト12A〜12Dの配置構成が相違するもので、その他の構成は略同様である。すなわち、切削工具10Aは、工具本体11Aと、4本のバイト12A〜12Dと、テーパシャンク13と、を備えている。
【0041】
4本のバイト12A〜12Dは、前記実施形態では中心軸Pに直交する1つの平面上に配置されていたが、本実施形態では、4本のバイト12A〜12Dは、中心軸Pに直交する複数の平面上に、それぞれ配置されている。すなわち、工具本体11Aには、中心軸Pに沿って異なる高さ位置に、バイト固定用のフランジ113A〜113Dが形成され、4本のバイト12A〜12Dは、各フランジ113A〜113Dに1本ずつ中心軸Pまわりに90度の中心角で放射状に配置されている。
【0042】
このような本実施形態によれば、前述の効果と略同様の効果に加えて以下の効果を奏することができる。
(5)4本のバイト12A〜12Dが中心軸Pに直交する複数の平面上に分かれて配置されているので、各バイト12A〜12Dの取付部も中心軸方向に互いにずれた位置に配置することができ、工具本体11Aの中心軸Pに直交する方向の外径寸法を小さくすることができる。例えば、切削工具10Aを貫通孔に挿入させて切削加工する際に、比較的小さな貫通孔にも挿入させることができるので、切削可能なワークWの対象範囲を広げることができる。
【0043】
[本発明の変形例]
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本発明の切削工具を使用して被加工面に形成される溝条部としては、図8(A)に示すセレーション溝Weでもよい。また、これらの溝条部に限らず、図7(B)、図8(B)に示す突条部を形成する際にも本発明の切削工具を利用できる。突条部としては、図7(B)のスプライン軸のスプラインWdや、図8(B)のセレーション軸のセレーションWfなどが例示される。スプライン軸やセレーション軸は、比較的大きなトルクを伝達する際に用いられ、ボスを軸に固定する場合などに用いられる。なお、溝条部としては、キー溝、ダブルキー溝、外径溝などであってもよい。
【0044】
また、回転移動機構として、切削工具を回転軸C1まわりの回転方向において位置決めする主軸頭を説明したが、これに限られず、テーブルをZ軸に平行な回転軸C2(図1参照)まわりの回転方向において位置決めするテーブル回転移動機構(不図示)でもよい。テーブルを回転軸C2まわりに回転させることにより、使用するバイトの刃先を所定の順番でワークに対向させることができる。すなわち、変形例としての切削加工装置は、中心軸とワークの被加工面とが平行となるように切削工具を支持する工具支持部と、この工具支持部とテーブルとを3次元方向に相対移動可能な三次元相対移動機構と、テーブルの回転移動機構と、を含んで構成される。
【0045】
また、切削工具には、4本のバイトが中心軸Pまわりに90度の中心角で均等に放射状に配置されているが、90度の中心角となる配置に限らず、例えば、60度および120度の中心角で各バイトが配置されていてもよい。
【0046】
また、Y軸移動機構はテーブルをY軸方向に移動させ、X軸移動機構はサドルをX軸方向に移動させ、Z軸移動機構は主軸頭をZ軸方向に移動させるものと説明したが、Y軸移動機構が切削工具をY軸方向に移動させ、または、X軸移動機構がテーブルをX軸方向に移動させ、あるいは、Z軸移動機構がテーブルをZ軸方向に移動させるものとしてもよい。すなわち、X軸移動機構、Y軸移動機構およびZ軸移動機構は、テーブルおよび切削工具を三次元方向に相対移動させる機構であればよい。
【0047】
また、複数のバイトとして4本のバイトの場合を説明したが、バイトの本数としては複数であれば何本であっても構わない。
【0048】
また、前記実施形態では、サドルはX軸移動機構によりX軸方向に移動可能に設けられているが、さらに、サドルをY軸まわりに揺動可能に設けてもよい。すなわち、主軸がY軸まわりに揺動する傾斜主軸を備えた構成であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、被加工物を平削り加工して所定の溝条部または突条部を形成する切削工具、切削加工装置および切削加工方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0050】
2…テーブル
9…主軸頭(回転移動機構)
10A…切削工具
11A…工具本体
12…複数のバイト
12A…第1バイト
12B…第2バイト
12C…第3バイト
12D…第4バイト
21…Y軸移動機構
51…X軸移動機構
61…Z軸移動機構
122A,122B,122C,122D…チップ(刃先)
C1…主軸の回転軸
C2…テーブルの回転軸
P…切削工具の中心軸
W…ワーク(被加工物)
Wa…被加工面
Wc…スプライン溝(溝条部)
Wd…スプライン(突条部)
We…セレーション溝(溝条部)
Wf…セレーション(突条部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸を有する工具本体、および、前記中心軸まわりに放射状に配置されて前記工具本体に固定される複数のバイト、を備え、被加工物を平削り加工して所定の溝条部または突条部を形成する切削工具であって、
前記複数のバイトは、互いに異なる形状の刃先を有し、かつ前記中心軸に直交する複数の平面上にそれぞれ配置されており、
前記工具本体は、前記各刃先を所定の順番で前記被加工物に対向させるために、前記中心軸まわりの回転方向において位置決めされ、
前記被加工物に対向された前記刃先は、前記被加工物に切り込まれた状態で、前記中心軸に沿って移動され、前記被加工物を前記中心軸に平行に平削り加工することを特徴とする切削工具。
【請求項2】
請求項1に記載の切削工具を有し、被加工物を平削り加工して所定の溝条部、または、突条部を形成する切削加工装置であって、
前記被加工物を載置するテーブルと、
前記中心軸と前記被加工物の被加工面とが平行となるように前記切削工具を支持し、前記切削工具を前記中心軸まわりの回転方向において位置決めする回転移動機構と、
X軸方向へ前記テーブルおよび前記回転移動機構を相対移動させるX軸移動機構と、
前記X軸に直交するY軸方向へ前記テーブルおよび前記回転移動機構を相対移動させるY軸移動機構と、
前記X軸および前記Y軸に直交するZ軸方向へ前記テーブルおよび前記回転移動機構を相対移動させるZ軸移動機構と、を含んで構成され、
前記各刃先は、所定の順番で、前記被加工面に対向され、前記被加工面に切り込まれた状態で、前記被加工面に対して前記中心軸方向に相対移動され、前記被加工面を平削り加工することを特徴とする切削加工装置。
【請求項3】
請求項1に記載の切削工具を有し、被加工物を平削り加工して所定の溝条部、または、突条部を形成する切削加工装置であって、
前記被加工物を載置するテーブルと、
前記中心軸と前記被加工物の被加工面とが平行となるように前記切削工具を支持する工具支持部と、
X軸方向へ前記テーブルおよび前記工具支持部を相対移動させるX軸移動機構と、
前記X軸に直交するY軸方向へ前記テーブルおよび前記工具支持部を相対移動させるY軸移動機構と、
前記X軸および前記Y軸に直交するZ軸方向へ前記テーブルおよび前記工具支持部を相対移動させるZ軸移動機構と、
前記テーブルを前記中心軸に平行な回転軸まわりに回転自在に支持し、前記回転軸まわりの回転方向において位置決めする回転移動機構と、を含んで構成され、
前記各刃先は、所定の順番で、前記被加工面に対向され、前記被加工面に切り込まれた状態で、前記被加工面に対して前記中心軸方向に相対移動され、前記被加工面を平削り加工することを特徴とする切削加工装置。
【請求項4】
被加工物を平削り加工して所定の溝条部、または、突条部を形成する切削加工方法であって、
平行な中心軸を有する工具本体、および、前記中心軸まわりに放射状に配置されて前記工具本体に固定されるとともに互いに異なる形状の刃先を有しかつ前記中心軸に直交する複数の平面上にそれぞれ配置された複数のバイト、を備えた切削工具を用いて、
前記中心軸と前記被加工物の被加工面とが平行となるように前記切削工具を支持して、
前記各刃先を所定の順番で前記被加工面に対向させるために、前記切削工具を前記中心軸まわりの回転方向において位置決めし、または、前記被加工物を前記中心軸に平行な回転軸まわりの回転方向において位置決めして、
前記被加工面に対向された前記刃先を前記被加工面に切り込ませた状態で、前記被加工面に対して前記中心軸方向に相対移動させて、前記被加工面を平削り加工することを特徴とする切削加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−16816(P2012−16816A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208127(P2011−208127)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【分割の表示】特願2008−194787(P2008−194787)の分割
【原出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】