説明

切削工具および切削加工方法

【課題】耐久性を向上させることができる切削工具および切削加工方法の提供。
【解決手段】フライスカッター1のフライスボデー2の下端部には、フライスチップ3が自転可能に取り付けられている。フライスチップ3の回転軸には、タービン4が同軸上に接続されている。クーラントポンプ52から吐出されたクーラントは、調圧弁装置51により減圧された後、タービン4に対して上方から供給され、クーラント流によりフライスチップ3がタービン4とともに回転されるようになっている。コントローラー53は、調圧弁装置51の作動を制御し、フライスチップ3の回転速度が、削り取られた切り屑がワークから排出される速度と同等になるように、タービン4に供給されるクーラント圧を調整している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具基体の端部にチップが取り付けられたフライス盤等に使用される切削工具および、その切削工具を用いた切削加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
軸中心に回転する工具本体の端部にチップを設け、チップ自体を工具本体に対して回転(自転)可能に構成した切削工具に関する従来技術があった(例えば、特許文献1参照)。これは、チップが工具本体に対して自由回転するように取り付けられており、加工時のワークから受ける切削抵抗によりチップを回転させている。
【0003】
通常、切削工具の先端にあるチップは、加工による偏磨耗を避けるためにワークに当接する部位を移動させることが望ましい。また、チップは加工時のワークとの摺動による発熱に起因して酸化が進行し、その寿命が低下することも知られている。これらのことから、上述した従来技術のように、チップを工具本体に対して回転可能にした切削工具は、チップの切削部位を移動させて偏磨耗を低減するとともに、加工にともなって発生した熱を放散して、その耐久性を向上させることができる。
【特許文献1】特開平6−210512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来技術においては、チップは工具本体に対して自由回転可能に取り付けられており、チップがワークから受ける切削抵抗に応じて回転するため、その回転速度が安定せず、偏磨耗の低減および熱の放散の点において、その効果が不十分であった。特に、工具本体の回転開始時には、チップの十分な自転速度を得ることはできなかった。
【0005】
また、上述した従来技術による切削工具は、チップの回転速度を最適な値にすることもできなかった。切削加工の場合、ワークの材質によって、その切削抵抗を低減させてチップの耐久性を向上できるチップの回転速度が決定されるが、上記従来技術では、チップの工具本体に対する回転速度を制御できないため、ワーク材質に応じた回転速度にすることは不可能であった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐久性を向上させることができる切削工具および切削加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、請求項1に係る切削工具の発明の構成上の特徴は、
工具基体と、
前記工具基体の軸方向端部に取り付けられたチップと、
を備え、
前記工具基体が前記軸中心に回転することによって、前記チップが前記軸回りに公転してワークを切削加工する切削工具において、
前記チップは、前記工具基体に対して自転可能に取り付けられ、
駆動源により発生された駆動力が加えられることにより、前記チップは前記工具基体に対して回転されることである。
【0007】
請求項2に係る発明の構成上の特徴は、請求項1の切削工具において、
前記チップの前記工具基体に対する回転速度を制御するために、速度制御手段が前記駆動源により発生された駆動力を調整することである。
【0008】
請求項3に係る発明の構成上の特徴は、請求項2の切削工具において、
前記速度制御手段は、
前記チップの自転速度を、前記チップにより削り取られた前記ワークの切り屑が、前記ワークから排出される速度と同等の速度となるように、前記駆動源による駆動力を制御することである。
【0009】
請求項4に係る発明の構成上の特徴は、請求項2の切削工具において、
前記速度制御手段は、
前記チップの自転速度を、前記チップにより削り取られた前記ワークの切り屑が、前記ワークから排出される速度より高い速度となるように、前記駆動源による駆動力を制御することである。
【0010】
請求項5に係る発明の構成上の特徴は、請求項2乃至4のいずれかの切削工具において、
前記駆動源は流体供給源であり、前記速度制御手段は、前記流体供給源による流体の圧力または流量を調整する調整装置であって、
前記チップの回転軸には、羽根車が同軸上に接続され、
前記流体供給源から前記羽根車に対して供給される流体流により、前記チップが前記羽根車とともに自転することである。
【0011】
請求項6に係る発明の構成上の特徴は、請求項5の切削工具において、
前記流体供給源は、前記工具基体を回転させる主軸を冷却するためのクーラント供給源であることである。
【0012】
請求項7に係る発明の構成上の特徴は、請求項1乃至6のいずれかの切削工具において、
前記チップの前記ワークに対する切り込み側の面には流路が形成され、前記チップの外周縁に冷却流体を供給することにより、前記冷却流体は前記流路を通って前記ワークの切削部位に供給されることである。
【0013】
請求項8に係る発明の構成上の特徴は、請求項3の切削工具において、
前記速度制御手段は、
仕上げ加工時には、前記チップの自転速度を前記ワークの切り屑の排出速度よりも高速となるように、前記駆動源による駆動力を制御することである。
【0014】
請求項9に係る切削加工方法の発明の構成上の特徴は、
工具基体と、該工具基体の軸方向端部に取り付けられたチップと、を備えた切削工具を用い、
前記工具基体が前記軸中心に回転することによって、前記チップが前記軸回りに公転するとともに、
前記チップは、前記工具基体に対して自転可能に取り付けられ、
前記チップに駆動力が加えられることにより、前記チップが前記工具基体に対して回転してワークを切削加工することである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る切削工具によれば、駆動源により発生された駆動力が加えられ、チップが工具基体に対して回転されることにより、チップを安定した速度で回転させることができ、偏磨耗および熱によるチップの劣化を低減することができる。
請求項2に係る切削工具によれば、速度制御手段が駆動源により発生された駆動力を調整することにより、チップをワーク材質に応じた回転速度で回転させることができ、切削抵抗を低減させチップの耐久性を向上させることができる。
【0016】
請求項3に係る切削工具によれば、速度制御手段は、チップの自転速度を、チップにより削り取られたワークの切り屑がワークから排出される速度と同等の速度に制御することにより、チップと切り屑との間の相対速度を低減し、摩擦熱の発生を抑制してチップの耐久性を向上させることができる。さらに、チップとワークの切り屑との間の摩擦力も低下するため、チップの切削抵抗も低減することができる。
【0017】
請求項4に係る切削工具によれば、速度制御手段は、チップの自転速度を、チップにより削り取られたワークの切り屑がワークから排出される速度より高い速度に制御することにより、チップが切り屑に引っ張り力を与えるため、切り屑とチップとの間の摩擦抵抗を低減することができる。また、チップが切り屑を積極的に排出するため、切り屑の排出が滞ることがなくスムーズに行われる。
【0018】
請求項5に係る切削工具によれば、流体供給源から羽根車に対して供給される流体流によって、チップが羽根車とともに自転することにより、工具基体を大幅に変更せずに、チップを回転させることができる。
請求項6に係る切削工具によれば、主軸冷却用のクーラント供給源によって、チップを自転させることにより、特に新たな駆動源を設けずに、チップを回転させることができる。
【0019】
請求項7に係る切削工具によれば、チップの外周縁に冷却流体を供給することにより、冷却流体は流路を通ってワークの切削部位に供給されるため、切削部位における発熱を抑制し、当接するチップの耐久性をいっそう向上させることができる。また、チップの回転により、流路から冷却流体が広範囲に吐出されるため、冷却流体がワークおよびチップの隅々まで行き届き、ワーク等の冷却を進行させてチップの劣化を防ぐことができる。
【0020】
請求項8に係る切削工具によれば、仕上げ加工時には、チップの自転速度をワークの切り屑の排出速度よりも高速に制御することにより、チップの回転速度がワークの切り屑の排出速度と同等に制御される前加工において、チップの振れに起因してワーク表面にびびり模様が発生しても、チップの高速回転による仕上げ加工により、ワーク表面を平坦に仕上げることができる。
請求項9に係る切削加工方法によれば、駆動力によりチップが工具基体に対して回転されるため、チップを安定した速度で回転させることができ、偏磨耗および熱によるチップの劣化を低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
<実施形態1>
図1乃至図4に基づき、本発明の実施形態1によるフライスカッター1、およびフライスカッター1を用いた切削加工方法について説明する。尚、説明中においてフライスチップ3の回転と言う場合、特に断らなければ、フライスチップ3のフライスボデー2に対する自転を意味している。
【0022】
また、本実施形態においては、フライスカッター1を、フライスボデー2の回転軸を上下方向に設けた、いわゆる縦型フライス盤または縦型マシニングセンターに適用した場合について説明する。しかしながら、本実施形態によるフライスカッター1は、フライスボデー2の回転軸を水平方向に設けた、横型フライス盤または横型マシニングセンターにも適用できることはいうまでもない。
【0023】
図1に示すように、フライスカッター1(本発明の切削工具に該当する)は図示しないフライス盤において平面引きに使用される工具で、フライスボデー2(本発明の工具基体に該当する)を備えている。フライスボデー2は、フライス盤のホルダーに装着される円柱形の取付部21と、取付部21の下方に設けられた大径の加工部22とにより形成されている。
【0024】
図2に示すように、加工部22の外形はほぼ円柱状を呈しており、軸方向の下端部には後述するフライスチップ3(本発明のチップに該当する)およびタービン4(本発明の羽根車に該当する)を取り付けるための前方凹部221および後方凹部222が、それぞれ一対ずつ形成されている。加工部22の下端部において、前方凹部221および後方凹部222の間には取付壁223が形成され、それぞれの取付壁223には貫通孔224が形成されている。
【0025】
貫通孔224の軸方向のほぼ中央部には、一条の突部225が形成されている(図3示)。貫通孔224には一対の軸受226が、それぞれ突部225の軸方向端部に当接するように圧入されている。双方の軸受226は、突部225に当接することにより、軸方向に位置決めされている。
【0026】
フライスチップ3は円錐台状の刃具31と、刃具31の小径側に連結されたシャフト部32(本発明のチップの回転軸に該当する)とを備えており、刃具31とシャフト部32との間には、シャフト部32よりも大径の段付部33が形成されている(図3示)。フライスチップ3のシャフト部32は、段付部33が一側の軸受226の端部に当接するまで、双方の軸受226の内周面に水平方向に圧入される。段付部33が軸受226に当接することにより、フライスチップ3は軸方向に位置決めされ、フライスボデー2に対してシャフト部32を中心に回転(自転)可能となっている。
【0027】
一方、タービン4は概ね円板状を呈するとともに、外周面に複数の羽根41を有しており、側端面には段付部42が形成されている。タービン4の内部には図示しない連結孔が形成されており、フライスチップ3のシャフト部32の端部が連結孔に圧入されることにより、フライスチップ3にタービン4が同軸上に接続される。段付部42が他側の軸受226の端部に当接することにより、タービン4は軸方向に位置決めされている。
尚、タービン4側にシャフト部を形成し、タービン4側のシャフト部をフライスチップ3に圧入してもよいし、あるいは、シャフトをフライスチップ3およびタービン4とは別体に形成し、双方をシャフトの両端に接続するようにしてもよい。
【0028】
図1に示すように、フライスボデー2の内部には、フライスボデー2の上端部に開口したクーラント供給孔2aが下方に延びている。クーラント供給孔2aは、途中から一対の分岐孔2bとなって水平方向へと延びており、各々の分岐孔2bからは吐出孔2cが下降している。それぞれの吐出孔2cは、後方凹部222の上面において、タービン4の上方に位置するように開口している(図2示)。
【0029】
クーラント供給孔2aには、冷却流体圧を発生するクーラントポンプ52(本発明の駆動源、流体供給源、クーラント供給源に該当する)が、調圧弁装置51を介して接続されている。また、調圧弁装置51には、コントローラー53(調圧弁装置51およびコントローラー53を包括したものが、本発明の速度制御手段、調整装置に該当する)が電気的に接続されている。尚、調圧弁装置51、クーラントポンプ52およびコントローラー53は、本発明の切削工具を構成するものではない。
【0030】
クーラントポンプ52は、フライスカッター1を駆動する主軸(図示せず)に対して冷却用クーラントを供給するための圧力源(MC主軸センタースルークーラント流)であり、本実施形態においては、フライスチップ3の駆動用に兼用している。調圧弁装置51は複数の電磁弁により形成されており、コントローラー53が電磁弁の作動を制御することにより、クーラントポンプ52によるクーラント吐出圧を所定圧に減圧(昇圧でもよい)している。
【0031】
クーラントポンプ52により発生されたクーラント圧は、調圧弁装置51により所定圧に減圧された後、クーラント供給孔2a内に供給される。クーラント供給孔2a内のクーラントは分岐孔2b内に分流して、それぞれ吐出孔2cからタービン4に向けて上方から吐出される。供給されたクーラント流によりタービン4が回動し、フライスチップ3がタービン4とともにフライスボデー2に対して回転(自転)する。
【0032】
図1に示すように、フライスカッター1に供給されたクーラントは、タービン4の外周面上において、フライスボデー2の半径方向内方に位置する部位に吐出される。このため、フライスチップ3の回転方向は切削部位である下端からフライスボデー2の半径方向外方に向かっており、これにより、フライスチップ3により切削されたワークの切り屑が、フライスカッター1の外方へ排出されやすくなり、フライスチップ3の切削抵抗が低減される。
【0033】
フライス盤に取り付けられたフライスカッター1は、主軸により、上下方向に延びた回転軸φ(図1示)を中心に所定の速度で回転されると同時に、所定の送り速度で直進移動している。フライスカッター1の回転により、フライスチップ3は回転軸φ回りに水平面内において、図2における反時計回りに公転し、これにより、刃具31の大径側がワークWへの切り込み側になる。それとともにフライスチップ3は、クーラント流によりフライスボデー2に対して鉛直面内で自転しながらワークを切削加工する。
コントローラー53はフライス盤の設定仕様あるいはオペレーターの操作に基づいて、フライスチップ3の回転速度を所定の目標値にするために、調圧弁装置51の作動を制御してフライスカッター1へ供給するクーラント圧を調整している。
【0034】
図4に示すように、フライスチップ3によりワークWを切削加工する場合、フライスチップ3のフライスボデー2に対する自転速度をV3とすると、自転速度V3は切削によって削り取られた切り屑Ruが、ワークWから排出される速度V2と同等の速度に制御されている。フライスチップ3の自転速度V3を、切り屑RuがワークWから排出される速度V2と同等の速度にすることにより、フライスチップ3と切り屑Ruとの間の相対速度を低減し摩擦熱の発生を抑制することができるからである。この場合、フライスチップ3の自転速度V3は、切り屑Ruの排出速度V2の近傍にあれば、双方の速度の間に少々の差があっても上述した効果を有する。
【0035】
ここで、フライスカッター1の回転軸φ回りの回転速度をV1(図4においてV1は、ワークWのフライスチップ3に対する相対速度として示している)、フライスチップ3によるワークWの切り込み深さの設定値をt、切り屑Ruの厚みをhとした場合、フライスチップ3の自転速度V3を、切り屑Ruの排出速度V2と同等の速度にするためには、V3≒V2=V1×t/hとなるように、フライスカッター1に供給されるクーラント圧を制御すればよい。
【0036】
但し、フライスカッター1の直進方向の送り速度は回転速度V1に比べて低速であるため、上式においては無視している。尚、本実施形態において、フライスカッター1の回転速度V1は、フライスカッター1の最外径部の回転速度としているが、フライスカッター1の他の部位の回転速度であってもよい。また、上述した切り屑Ruの厚みhは、ワークWの材質あるいはフライスカッター1の回転速度V1に応じて決定される値であるが、これは経験的に求められる。
【0037】
あるいは、フライスチップ3の自転速度V3が、切り屑Ruの排出速度V2よりも高くなるようにする、すなわち、V3>V2=V1×t/hとなるように、コントローラー53によりフライスカッター1に供給されるクーラント圧を制御してもよい。フライスチップ3の自転速度V3を、切り屑Ruの排出速度V2よりも高くなるようにすることにより、フライスチップ3が切り屑Ruに引っ張り力を与えるため、切り屑Ruとフライスチップ3との間の摩擦抵抗を低減することができる。また、フライスチップ3が切り屑Ruを積極的に排出するため、切り屑Ruの排出が滞ることがなくスムーズに行われる。
【0038】
さらに、フライスカッター1によるワークWに対する荒加工時には、フライスチップ3の自転速度V3を、切り屑Ruの排出速度V2と同等の速度に設定し、その後、ワークWに対する仕上げ加工時には、フライスチップ3の自転速度V3を、切り屑Ruの排出速度V2よりも高くなるように設定してもよい。
【0039】
通常、荒加工時にはフライスチップ3のフライスボデー2に対する取付誤差等に起因して、フライスチップ3の回転に振れが起こり、このためにワークWの加工面に波状のびびり模様が発生することがある。しかしながら、仕上げ加工時にフライスチップ3を高速で自転させることにより、びびり模様を取り去ってワークWの加工面を滑らかにすることができる。仕上げ加工時には切り込み深さが少ないため、発熱も無視できるほど少なく、フライスチップ3を高速で回転させることに支障はない。
【0040】
本実施形態によれば、クーラントポンプ52が発生したクーラント圧により、フライスチップ3がフライスボデー2に対して回転されるため、フライスチップ3を安定した速度で回転させることができ、偏磨耗および熱によるフライスチップ3の劣化を低減することができる。
また、コントローラー53がフライスカッター1に供給されるクーラント圧を調整するため、フライスチップ3をワークWの材質に応じた回転速度で回転させることができ、切削抵抗を低減させフライスチップ3の耐久性を向上させることができる。
【0041】
また、主軸冷却用のクーラント供給源であるクーラントポンプ52からタービン4に対して供給されるクーラント流により、フライスチップ3がタービン4とともに自転するため、フライスボデー2を大幅に変更することなしに、フライスチップ3を回転させることができる。また、特に新たな駆動源を設けずに、フライスボデー2に対してフライスチップ3を回転させることができる。
【0042】
また、コントローラー53は、フライスチップ3の自転速度を、フライスチップ3により削り取られたワークWの切り屑RuがワークWから排出される速度と同等の速度に制御することにより、フライスチップ3と切り屑Ruとの間の相対速度を低減し、摩擦熱の発生を抑制してフライスチップ3の耐久性を向上させることができる。さらに、フライスチップ3と切り屑Ruとの間の摩擦力も低下するため、フライスチップ3の切削抵抗も低減することができる。
【0043】
また、仕上げ加工時には、フライスチップ3の自転速度をワークWの切り屑Ruの排出速度よりも高速に制御することにより、フライスチップ3の回転速度がワークWの切り屑Ruの排出速度と同等に制御される前加工において、フライスチップ3の振れ等に起因してワークWの表面にびびり模様が発生しても、フライスチップ3の高速回転による仕上げ加工により、ワークWの表面を平坦に仕上げることができる。
【0044】
<実施形態2>
図5および図6に基づき、本発明の実施形態2によるフライスチップ6について説明する。尚、説明中、フライスチップ6の大径側(図6において左側)を前方とする。本実施形態によるフライスチップ6の、ワークWに対する切り込み側の面であるチップ前面61には、連結凹部62が形成されている。連結凹部62は、チップ前面61の中央部が、供給されたクーラントが貯留可能なように真円状に一段低く形成されている。
連結凹部62からは、フライスチップ6の外周側に向かって複数のスリット状のクーラント流路63(本発明の流路に該当する)が放射状に延びている。クーラント流路63は、フライスチップ6の回転に合わせて蛇行した形状をしており、連結凹部62により互いに連通している。
【0045】
フライスカッター1によるワークWの切削加工時に、フライスチップ6の外周縁の上部に、クーラントポンプ52あるいはその他の独立した供給源からクーラント(エア等の他の冷却流体でもよい)を供給する。供給されたクーラントは、クーラント流路63を通って、フライスチップ6のチップ前面61により塞がれたワークWの切削部位に供給される。この時、フライスチップ6はフライスボデー2に対して回転しているため、上方に端部が位置するクーラント流路63に供給されたクーラントは、連結凹部62を介して他の複数のクーラント流路63に進入した後、遠心力によりワークWの広範囲の部位に供給される。
【0046】
本実施形態によれば、フライスチップ6の外周縁の上部にクーラントを供給することにより、クーラントはクーラント流路63を通って、フライスチップ6により塞がれクーラントが行き渡りにくいワークWの切削部位に供給されるため、切削部位における発熱を抑制し、当接するフライスチップ6の耐久性をいっそう向上させることができる。
また、フライスチップ6の回転にともない、クーラントが放射状の複数のクーラント流路63から広範囲に吐出されるため、クーラントがワークWおよびフライスチップ6の隅々まで行き届き、ワークW等の冷却を進行させてフライスチップ6の劣化を防ぐことができる。
【0047】
<他の実施形態>
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。
本発明はフライス盤における切削工具のみでなく、複合旋盤等においてフライス機能を発揮する工具にも適用可能である。
【0048】
調圧弁装置51の代わりに流量調整装置を用いて、クーラントポンプ52によって吐出されたクーラントの流量を調整して、フライスチップ3の回転速度を制御してもよい。
フライスチップ3を回転させる流体として、クーラントに代えてエアを用いてエアタービン駆動としてもよい。ただし、冷却性能に優れるためクーラントを使用するのが望ましい。
【0049】
また、フライスチップ3を回転させるために、専用の小型モーターをフライスボデー2に設けてもよいし、主軸によるフライスカッター1自体の回転駆動力を、ギヤ機構を介してフライスチップ3に伝達して、フライスチップ3を回転させてもよい。
フライスカッター1に形成されるフライスチップ3は、いくつあってもよい。
【0050】
ワークがセラミックス等のような脆性材料の場合、荒加工時にはフライスチップ3を上述した実施形態の場合とは逆に回転させて、切り屑がフライスカッター1の内方に排出されるようにすれば、切削抵抗が増大してフライスチップ3からワークに対して過大な切削力が加わらず、ワークの破損を防ぐことができる。この場合、仕上げ加工時には切り込み深さが少なくワークの破損が起こりにくいため、上述した実施形態の場合と同様に、フライスチップ3を正回転方向に回転させるのがよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態1によるフライスカッターにクーラントポンプが接続されたところを表した図
【図2】図1に示したフライスカッターの下面図
【図3】図2の要部拡大図
【図4】フライスチップの回転速度の設定方法を説明するための簡略図
【図5】実施形態2によるフライスチップをチップ前面から見た図
【図6】図5に示したフライスチップの側面図
【符号の説明】
【0052】
図面中、1はフライスカッター(切削工具)、2はフライスボデー(工具基体)、3,6はフライスチップ(チップ)、4はタービン(羽根車)、51は調圧弁装置(速度制御手段、調整装置)、52はクーラントポンプ(駆動源、流体供給源、クーラント供給源)、53はコントローラー(速度制御手段、調整装置)、61はチップ前面(チップのワークに対する切り込み側の面)、63はクーラント流路(流路)、Ruは切り屑、Wはワークを示している。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具基体と、
前記工具基体の軸方向端部に取り付けられたチップと、
を備え、
前記工具基体が前記軸中心に回転することによって、前記チップが前記軸回りに公転してワークを切削加工する切削工具において、
前記チップは、前記工具基体に対して自転可能に取り付けられ、
駆動源により発生された駆動力が加えられることにより、前記チップは前記工具基体に対して回転されることを特徴とする切削工具。
【請求項2】
前記チップの前記工具基体に対する回転速度を制御するために、速度制御手段が前記駆動源により発生された駆動力を調整することを特徴とする請求項1記載の切削工具。
【請求項3】
前記速度制御手段は、
前記チップの自転速度を、前記チップにより削り取られた前記ワークの切り屑が、前記ワークから排出される速度と同等の速度となるように、前記駆動源による駆動力を制御することを特徴とする請求項2記載の切削工具。
【請求項4】
前記速度制御手段は、
前記チップの自転速度を、前記チップにより削り取られた前記ワークの切り屑が、前記ワークから排出される速度より高い速度となるように、前記駆動源による駆動力を制御することを特徴とする請求項2記載の切削工具。
【請求項5】
前記駆動源は流体供給源であり、前記速度制御手段は、前記流体供給源による流体の圧力または流量を調整する調整装置であって、
前記チップの回転軸には、羽根車が同軸上に接続され、
前記流体供給源から前記羽根車に対して供給される流体流により、前記チップが前記羽根車とともに自転することを特徴とする請求項2乃至4のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項6】
前記流体供給源は、前記工具基体を回転させる主軸を冷却するためのクーラント供給源であることを特徴とする請求項5記載の切削工具。
【請求項7】
前記チップの前記ワークに対する切り込み側の面には流路が形成され、前記チップの外周縁に冷却流体を供給することにより、前記冷却流体は前記流路を通って前記ワークの切削部位に供給されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の切削工具。
【請求項8】
前記速度制御手段は、
仕上げ加工時には、前記チップの自転速度を前記ワークの切り屑の排出速度よりも高速となるように、前記駆動源による駆動力を制御することを特徴とする請求項3記載の切削工具。
【請求項9】
工具基体と、該工具基体の軸方向端部に取り付けられたチップと、を備えた切削工具を用い、
前記工具基体が前記軸中心に回転することによって、前記チップが前記軸回りに公転するとともに、
前記チップは、前記工具基体に対して自転可能に取り付けられ、
前記チップに駆動力が加えられることにより、前記チップが前記工具基体に対して回転してワークを切削加工することを特徴とする切削加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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