説明

切断装置

【課題】被切断物を保持部材に確実に保持して正確に切断することができる切断装置を提供する。
【解決手段】切断装置は、切断データに基づいてカッタで切断される被切断物の切断ラインにおいて、粘着層の粘着保持力が不足する領域を特定する領域特定手段を備える。切断装置の制御手段は、領域特定手段で特定された領域を切断する時と当該領域以外を切断する時とで、接触部が被切断物を押圧する押圧量及び押圧力の少なくとも何れか一方を異ならせるように押圧手段を制御する(ステップS16〜S20)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断刃と被切断物とを相対的に移動させることで、切断刃で被切断物を切断する切断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば紙等のシートを自動的に切断するカッティングプロッタが知られている。前記カッティングプロッタは、紙等のシートを、駆動機構のローラで上下方向から挟んで第1方向へ移動させると共に、切断刃を有するキャリッジを前記第1方向と直交する第2方向へ移動させて前記シートを切断する。
ここで、図15は、従来のカッティングプロッタに用いられている一般的なカッタ(切断刃)100とカッタホルダ101とを模式的に示している。図15に示すように、カッタ100は、棒状のカッタ取付部102の下端部に螺子103で固定されている。カッタ取付部102は、カッタホルダ101下端の凹部101aに装着されたベアリング104により軸線Oの回りに回動自在に保持されている。また、カッタ100の刃先100aは、軸線Oより距離dだけオフセットさせて設けられている。このため、カッタ100とシート105とが相対移動してカッタ100がシート105を切断する時、カッタ100の刃先100aがシート105から抵抗力(反力)を受けることで、カッタ取付部102が軸線Oを中心に回動する。即ち、カッタ100の刃先100aの向きは、カッタ100とシート105とが相対移動する移動方向に応じて自動的に変更される。
【0003】
また、この種のカッティングプロッタでは、紙等のシートを、付勢板によって上方から押えることで、シートの浮き防止するようにしたものが供されている(例えば特許文献1参照)。このものでは、前記付勢板によって、カッタの周りのシートが浮かないように押えることができる。しかしながら、シートから所望の形状を切り抜くと、その切り抜いた部分に駆動機構のローラの駆動力が伝達されなくなる。このため、シートを正しく移動させることができない等の不具合が生じる。
そこで、表面に粘着層を有するシート状部材(保持部材に相当)に紙等のシートを貼り付け、そのシート状部材を移動させるようにしたものが提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−251599号公報
【特許文献2】特開2005−205541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図15に示すようなカッタ100では、軸線Oの回りに回動可能であることから、被切断物の切断ラインの角部(コーナー部)を正確に切断できない場合がある。例えば、第1線分と第2線分とからなる切断ラインであって、第1線分と第2線分とがV字状をなしている場合、第1線分の切断終了点ではカッタの刃先は第1線分の方向を向いており、その後、第2線分の切断開始時にカッタの刃先が第2線分の方向に向きを変える。その結果として、特許文献2のシート状部材を用いても、カッタの刃先の方向が変化する角部では、切断の際にシートの捲れが発生することがある。この問題は、第1の線分と第2の線分とのなす角が鋭角である場合や、被切断物が比較的厚い場合に顕著に生じるもので、シート状部材の粘着力でも角部が捲れないように十分に保持することが困難であった。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、被切断物を保持部材に確実に保持して正確に切断することができる切断装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明の請求項1の切断装置は、切断データに基づいて切断刃と被切断物とを相対的に移動させることにより、前記被切断物を所望の形状に切断する切断装置であって、前記切断刃と対向する位置に配置され、前記被切断物を剥離可能に保持する粘着層を有する保持部材と、前記保持部材に保持された前記被切断物を押圧する接触部を有する押圧手段と、前記切断データに基づいて前記切断刃で切断される前記被切断物の切断ラインにおいて、前記粘着層の粘着保持力が不足する領域を特定する領域特定手段と、前記切断刃と前記被切断物を保持した前記保持部材とを相対的に移動させて前記被切断物を切断する場合、前記領域特定手段で特定された領域を切断する時と当該領域以外を切断する時とで、前記接触部が前記被切断物を押圧する押圧量及び押圧力の少なくとも何れか一方を異ならせるように前記押圧手段を制御する制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記構成によれば、被切断物を、保持部材における粘着層の粘着力と押圧手段の押圧力との双方の力で保持することができる。この場合、例えば、切断ラインの角部のように粘着保持力が不足する領域を領域特定手段によって特定し、当該領域を切断する時は、接触部が被切断物を押圧する押圧力を大きくして、他の領域の切断時と異ならせる。これにより、粘着保持力が不足する領域を押圧手段の接触部で押圧して捲れないように保持することができ、正確な切断ラインに沿って切断することができる。
また、領域特定手段によって特定された領域を切断する時と他の領域を切断する時とで、接触部が被切断物を押圧する押圧量を増加させて、他の領域の切断時と異ならせた場合でも、当該領域を保持部材から捲れないように保持することができる。
【0009】
請求項2の切断装置は、請求項1の発明において、前記切断刃と前記被切断物との相対的な移動速度を制御する速度制御手段を備え、前記速度制御手段は、前記領域特定手段で特定された領域を切断する時と当該領域以外を切断する時とで、前記切断刃と前記被切断物との相対的な移動速度を異ならせることを特徴とする。
請求項3の切断装置は、請求項1又は2の発明において、前記切断ラインは、連続した複数の線分を含み、前記領域特定手段は、隣り合う前記線分のなす角度が所定の閾値以下となる部分の領域を特定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の切断装置によれば、被切断物を、保持部材における粘着層の粘着力と押圧手段の押圧力との双方の力で保持することができる。この場合、例えば、切断ラインの角部のように粘着保持力が不足する領域を領域特定手段によって特定し、当該領域を切断する時は、接触部が被切断物を押圧する押圧力を大きくして、他の領域の切断時と異ならせる。これにより、粘着保持力が不足する領域を押圧手段の接触部で押圧して捲れないように保持することができ、正確な切断ラインに沿って切断することができる。
また、領域特定手段によって特定された領域を切断する時と他の領域を切断する時とで、接触部が被切断物を押圧する押圧量を増加させて、他の領域の切断時と異ならせた場合でも、当該領域を保持部材から捲れないように保持することができる。
【0011】
請求項2の切断装置によれば、請求項1に記載の発明の効果に加え、切断刃と被切断物との相対的な移動速度を、被切断物を押圧する押圧量及び押圧力の少なくとも何れか一方と対応して異ならせることができる。従って、押圧手段の押圧力や押圧量の増加に伴い、切断刃と被切断物の相対移動に係る負荷が大きくなる場合、移動速度を遅くして、その負荷に応じた適切な速度で駆動させることができる。また、逆に、押圧手段の押圧力や押圧量の減少に伴い、切断刃と被切断物の相対移動に係る負荷が小さくなる場合には、移動速度を速くして切断に要する時間を短縮することができる。
【0012】
請求項3の切断装置によれば、請求項1又は2に記載の発明の効果に加え、領域特定手段によって、切断時に特に捲れ易い切断ラインにおける角部の領域を確実に特定できる。従って、特定された領域の切断時の捲れを防止することができ、被切断物をより正確に切断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1実施形態における切断装置の内部構造を示す斜視図
【図2】切断装置の平面図
【図3】カッタホルダの斜視図
【図4】カッタを下降させた状態で示すカッタホルダの正面図
【図5】カッタを上昇させた状態で示すカッタホルダの断面図
【図6】図4のVI−VI線に沿う断面図
【図7】ギヤ部を拡大して示す正面図
【図8】切断時におけるカッタ先端の近傍部の拡大図
【図9】切断時におけるカッタホルダ近傍部の側面図
【図10】電気的構成を示すブロック図
【図11】(a)は被切断物における切断ラインの一例を示す図、(b)は、その切断ラインの一部の角を拡大して示す図
【図12】押圧手段による被切断物の押圧に係る全体の処理の流れを示すフローチャート
【図13】第2速度設定処理の流れを示すフローチャート
【図14】第1速度設定処理の流れを示すフローチャート
【図15】カッティングプロッタで一般的に用いられるカッタホルダ先端部の拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について、図1〜図14を参照しながら説明する。
図1に示すように、切断装置1は、筐体としての本体カバー2と、本体カバー2内に配設されたプラテン3と、カッタホルダ5とを備えると共に、カッタホルダ5のカッタ4(図5参照)と被切断物6とを相対的に移動させるための第1及び第2移動手段7,8を備えている。本体カバー2は横長な矩形箱状をなしており、前面部には、プラテン3上面部に被切断物6を保持した保持シート10をセットするための横長な開口部2aが形成されている。尚、以下の説明では、切断装置1に対しユーザが位置する側を前方とし、その反対側を後方とする。そして、前後方向をY方向とし、Y方向と直交する左右方向をX方向とする。
【0015】
本体カバー2の右側には、ユーザに対して必要なメッセージ等の表示を行う表示手段としての液晶ディスプレイ(LCD)9が設けられると共に、ユーザが各種の指示や選択、入力の操作を行うための複数の操作スイッチ65(図10参照)が設けられている。
前記プラテン3は、前後一対の板材3a,3bからなり、上面部が水平面たるXY平面をなすように構成されている。プラテン3には、被切断物6を保持する保持シート10が載置されるようにセットされ、被切断物6の切断の際、保持シート10をプラテン3で受ける。詳しくは後述するが、保持シート10の上面には、左右両方の縁部10bを除いた部分に粘着剤が塗布された粘着層10aが形成されており、粘着層10aに被切断物6が貼り付けられて保持される。
【0016】
前記第1移動手段7は、プラテン3の上面側で保持シート10をY方向(第1方向)へ移動させるものである。即ち、切断装置1における左右の側壁部11a,11bには、プラテン3の板材3a,3bの間に位置させて、駆動ローラ12とピンチローラ13が設けられている。駆動ローラ12とピンチローラ13は、X方向に延びて、側壁部11a,11bに対して回動可能に支持されている。また、駆動ローラ12とピンチローラ13は、前記XY平面に対して平行で、且つ上下方向に並ぶように配置されている。下側が駆動ローラ12で、上側がピンチローラ13である。図2に示すように、右側壁部11bには、駆動ローラ12の右側に位置させて、クランク状の第1取付フレーム14が設けられている。取付フレーム14の外側には、Y軸モータ15が固定されている。Y軸モータ15は例えばステッピングモータから構成され、回転軸15aは第1取付フレーム14を貫通しており、先端部にギヤ部16aを有する。駆動ローラ12の右端部には、ギヤ部16aと噛合するギヤ部16bが固着されており、これらギヤ部16a、16bにより第1減速ギヤ機構16が構成されている。前記ピンチローラ13は、左右の側壁部11a,11bに形成されたガイド溝17b(図1に右側の溝17bのみ図示)により上下方向へ移動可能にガイドされている。左右の側壁部11a,11bには、ガイド溝17bを外側から囲うバネ収容部18a,18bが夫々設けられている。ピンチローラ13は、バネ収容部18a,18bに収容された図示しない圧縮コイルバネにより下方へ付勢されている。ピンチローラ13には、保持シート10の左右両方の縁部10bに接触して押圧する押圧部13aが設けられている。押圧部13aは、ピンチローラ13の他の部分よりも外径が少し大きく形成されている。
【0017】
ここで、駆動ローラ12とピンチローラ13は、前記圧縮コイルバネの付勢力により、保持シート10を上下方向から押圧挟持する(図9参照)。そして、Y軸モータ15を正転駆動、或は逆転駆動させると、その回転運動が第1減速ギヤ機構16を介して駆動ローラ12に伝わることで、保持シート10を被切断物6と共に後方或いは前方へ搬送させる。これら駆動ローラ12、ピンチローラ13、Y軸モータ15、第1減速ギヤ機構16、前記圧縮コイルバネ等は、第1移動手段7を構成する。
【0018】
前記第2移動手段8は、カッタホルダ5を支持するキャリッジ19を、X方向(第2方向)へ移動させるものである。詳細には、図1、図2に示すように、左右の側壁部11a,11b間には、後端部に位置させて、左右方向に延びるガイド軸20とガイドフレーム21が配設されている。ガイド軸20は、駆動ローラ12及びピンチローラ13と平行に配設されている。ガイド軸20は、プラテン3の直ぐ上側で、キャリッジ19下部(後述の貫通孔部22)を貫通している。ガイドフレーム21は、前縁部21aと後縁部21bが下方へ折り返された断面コ字状をなしている。前縁部21aはガイド軸20と平行に配設されている。ガイドフレーム21は、前縁部21aでキャリッジ19上部(後述の被ガイド体23,23)をガイドするようになっており、側壁部11a,11bの上端部で螺子21cにより固定されている。
【0019】
図2に示すように、切断装置1の後部には、右側壁部11bに第2取付フレーム24が設けられると共に、左側壁部11aに補助フレーム25が設けられている。第2取付フレーム24には、X軸モータ26及び第2減速ギヤ機構27が配設されている。X軸モータ26は、例えばステッピングモータからなり、第2取付フレーム24における前側の取付片24aの前面部に固定されている。X軸モータ26の回転軸26aは取付片24aを貫通しており、先端部に、第2減速ギヤ機構27と噛合するギヤ部26bを有する。第2減速ギヤ機構27にはプーリ28が設けられており、図2において左側の補助フレーム25にプーリ29が回転自在に取付けられている。これらプーリ28とプーリ29との間には、キャリッジ19の後端部(後述の取付部30)に連結された無端状のタイミングベルト31が掛装されている。
【0020】
ここで、X軸モータ26を正転駆動、或は逆転駆動させると、その回転運動が第2減速ギヤ機構27及びプーリ28を介してタイミングベルト31に伝わることで、キャリッジ19をカッタホルダ5ごと左方或いは右方へ移動させる。こうして、キャリッジ19とカッタホルダ5は、被切断物6を搬送するY方向と直交するX方向に移動する。上記のガイド軸20、ガイドフレーム21、X軸モータ26、第2減速ギヤ機構27、プーリ28,29、タイミングベルト31、キャリッジ19等は、第2移動手段8を構成する。
【0021】
前記カッタホルダ5は、キャリッジ19に対して前面側に配置され、Z方向たる上下方向(第3方向)への移動が可能に支持されている。これらキャリッジ19及びカッタホルダ5の構成について、図3〜図7も参照しながら説明する。
【0022】
図2、図3に示すように、キャリッジ19は、後面側が開放された略矩形箱状をなす。キャリッジ19の上壁部19aには、平面視にて円弧状をなすリブであって、上方へ突出する前後一対の被ガイド体23,23が一体に設けられている。被ガイド体23,23は、ガイドフレーム21の前縁部21aを挟むよう対称的に配置されている。図4にも示すように、キャリッジ19における底壁部19bの下側には、ガイド軸20に挿通される左右一対の貫通孔部22,22が下方へ張出すように形成されている。また、キャリッジ19の底壁部19bには、前記タイミングベルト31に連結される取付部30(図5、図6参照)が後方へ突出するように設けられている。こうして、キャリッジ19は、貫通孔部22,22に挿通されるガイド軸20によって左右方向へ摺動可能に支持されると共に、被ガイド体23,23で挟まれるガイドフレーム21によってガイド軸20の回りに回転しないように支持される。
【0023】
図3、図4、図5、図9等に示すように、キャリッジ19の前壁部19cには、前方へ延出する上下一対の支持部32a,32bが一体に設けられている。キャリッジ19には、支持部32a,32bを夫々貫通する左右一対の支持軸33a,33bが上下動自在に支持されている。キャリッジ19内には、例えばステッピングモータからなるZ軸モータ34が、後方から収容されるように配置されている。Z軸モータ34の回転軸34aは(図3、図9参照)、キャリッジ19の前壁部19cを貫通しており、先端部にギヤ部35を有する。また、図5、図6、図9に示すように、キャリッジ19には、その前壁部19c中央からやや下寄りの部位を前後に貫通するギヤ軸37が設けられている。ギヤ軸37には、前壁部19cの前側で前記ギヤ部35に噛合するギヤ部38が回転可能に装着されると共に、ギヤ軸37前端部の止め輪(図示略)により抜け止めされている。ギヤ部38とギヤ部35で第3減速機構41を構成する(図3、図9参照)。
【0024】
ギヤ部38には、図7に示すように、渦巻き溝42が形成されている。渦巻き溝42は、第1端部42aから第2端部42bへ向って右方向に旋回するにつれ中心に近づく渦巻き状をなすカム溝である。渦巻き溝42には、詳しくは後述するが、カッタホルダ5と一体的に上下移動する係合ピン43が係合する(図5、図6参照)。ここで、Z軸モータ34を正転駆動、或は逆転駆動させると、ギヤ部35を介してギヤ部38が回転する。ギヤ部38が回転することにより、渦巻き溝42に係合する係合ピン43が上下方向に摺動する。これに伴い、カッタホルダ5を支持軸33a,33bごと上方或いは下方へ昇降させる。この場合、カッタホルダ5は、係合ピン43が渦巻き溝42の第1端部42aに位置した上昇位置(図5、図7参照)と、係合ピン43が第2端部42bに位置した下降位置(図6、図7参照)との間で移動する。上記の渦巻き溝42を有する第3減速機構41、Z軸モータ34、係合ピン43、支持部32a,32b、支持軸33a,33b等は、カッタホルダ5を上下方向へ移動させる第3移動手段44を構成する。
【0025】
カッタホルダ5は、前記支持軸33a,33bに設けられるホルダ本体45と、カッタ4(切断刃)を有してホルダ本体45に上下動可能に保持される可動筒部46とを備えると共に、被切断物6を押圧するための押圧装置47を備えている。
即ち、図3、図4、図5、図9等に示すように、ホルダ本体45は、上端部45aと下端部45bが後方へ折り返され全体としてコ字状をなしている。ホルダ本体45の上端部45aと下端部45bは、支持軸33a,33bの上下両端部に夫々固定された止め輪48により、支持軸33a,33bに対し移動不能に固定されている。図5、図6に示すように、支持軸33bの中間部には、前記係合ピン43が後向きに設けられた連結部材49が固着されている。こうして、ホルダ本体45、支持軸33a,33b、係合ピン43、及び連結部材49は一体的に構成され、カッタホルダ5は、前記第3移動手段44により係合ピン43に連動して上下方向へ移動する。また、支持軸33a,33bには、支持部32a上面とホルダ本体45の上端部45aとの間に、付勢部材たる圧縮コイルバネ50が夫々外装されている。圧縮コイルバネ50の付勢力により、カッタホルダ5全体がキャリッジ19側に対して上方へ弾性付勢されている。
【0026】
図3、図4に示すように、ホルダ本体45における中間部には、可動筒部46や押圧装置47等を取付けるための取付部材51,52が螺子54a,54bにより夫々固定されている。下側の取付部材52には、可動筒部46を上下動可能に支持する筒状部52a(図5参照)が設けられている。可動筒部46は、筒状部52aの内周面に摺接する径寸法に設定され、その上端部には、筒状部52aの上端で支持されるフランジ部46aが径方向外側へ張出すように形成されている。フランジ部46aの上端面にはバネ受け部46bが設けられている。図5、図6に示すように、上側の取付部材51と可動筒部46のバネ受け部46bとの間には、圧縮コイルバネ53が配設されている。圧縮コイルバネ53は、可動筒部46(カッタ4)を下方の被切断物6側に付勢する一方、カッタ4に被切断物6側から上方への力が作用すると、当該付勢力に抗して可動筒部46の上方への移動を許容する。
【0027】
可動筒部46には、その軸線方向に延びるカッタ4が貫通するように配設されている。詳細には、カッタ4は、可動筒部46よりも長尺な丸棒状のカッタ軸4bと、そのカッタ軸4bの下端部に形成された刃部4aとを一体に有する。図8に示すように、刃部4aは略三角形状をなし、最下端の刃先4cが、カッタ軸4bの中心軸線Oから距離dだけオフセット(偏心)した位置に形成されている。カッタ4は、可動筒部46内部の上下両端部に配設された軸受55(図5参照)により、上下方向の中心軸線O(Z軸)を中心に回動自在に保持されている。こうして、カッタ4は、被切断物6の表面たるXY平面に対して直交するZ方向から刃先4cが圧接する。また、カッタ4は、カッタホルダ5が下降位置へ移動された時に、図8に示すように刃先4cが保持シート10上の被切断物6を貫通し、且つプラテン3の板材3b上面に到達しない高さに設定してある。一方、カッタ4は、カッタホルダ5が上昇位置へ移動されることに伴い、刃先4cも上方へ移動して被切断物6から離間する(図5参照)。
【0028】
前記取付部材52には、筒状部52aの下端部周縁に、3つのガイド孔部52b〜52d(図3、図4、図5、図9参照)が等間隔で形成されている。そして、筒状部52aの下側には、ガイド孔部52b〜52dに挿通される3つのガイド棒56b〜56dを有する押圧部材56が配置されている。押圧部材56の下面側は、浅底な鉢(ボウル)状(或は緩やかな円形椀状)をなす押圧部本体56aとされており、周縁上部には、等間隔をなす前記ガイド棒56b〜56dが一体に設けられている。押圧部材56は、ガイド孔部52b〜52dにてガイド棒56b〜56dがガイドされることにより、上下方向への移動が可能である。押圧部本体56aの中央部には、上下方向に延びて前記刃部4aを下方へ突出させるための貫通孔56eが形成されている。そして、押圧部本体56aの下端面は、刃部4aの周囲で被切断物6に接触する接触部56fとされている。接触部56fは、円環上をなす水平な平坦面であって、被切断物6に対して面接触する。接触部56fは、例えばテフロン(登録商標)等のフッ素樹脂で構成されることで、比較的摩擦係数が低く、被切断物6に対して滑り易くなっている。
【0029】
図3、図4、図5、図9等に示すように、押圧部本体56aの周縁上部には、前方へ延出する案内部56gが一体に設けられている。案内部56gは、接触部56fに対して前側で且つ上方に位置し、当該接触部56f側へ後方に向けて下方に傾斜した傾斜面56gaを含んで構成されている。これにより、被切断物6を保持した保持シート10が、カッタホルダ5に対して後方へ移動する際、案内部56gは、被切断物6を接触部56fに対して引っ掛からないように下側へ案内する。
【0030】
前記取付部材52には、筒状部52aの前側であって案内部56gの上方に位置してソレノイド57用の前側取付部52eが一体に設けられている。ソレノイド57は、押圧部材56を上下動させて被切断物6を押圧するためのアクチュエータであり、押圧部材56並びに後述の制御回路61と共に押圧装置47(押圧手段)を構成する。ソレノイド57は、前側取付部52eに下向きに取付けられており、プランジャ57aの先端部は案内部56g上面に固定されている。詳しくは後述するように、カッタホルダ5の下降位置でソレノイド57が駆動されると、プランジャ57aと共に押圧部材56が下方へ移動して被切断物6を所定の押圧力で押圧する(図9参照)。これに対して、ソレノイド57の非駆動時には、プランジャ57aが上方に位置して押圧部材56が被切断物6に対する押圧力を解除する。ソレノイド57の非駆動状態でカッタホルダ5が上昇位置へ移動されると(図5の2点鎖線参照)、押圧部材56が被切断物6から完全に離間する。
【0031】
前記保持シート10は、例えば、合成樹脂材料からなり、平板矩形状(図1参照)に形成されている。保持シート10は、カッタ4と対向する位置に配置される。図8に示すように、保持シート10の上側の面に、粘着剤が塗布された粘着層10aが形成されている。粘着層10aは、例えば紙、布、樹脂フィルム等のシート状の被切断物6を剥離可能に保持する。粘着層10aの粘着力は、被切断物6を粘着層10aから剥がす際、当該被切断物6が破れることがなく且つ簡単に剥がせるよう比較的小さい値に設定されている。
【0032】
次に、切断装置1の制御系の構成について図10のブロック図を参照しながら説明する。
切断装置1全体の制御を司る制御回路(制御手段)61は、コンピュータ(CPU)を主体に構成されており、ROM62、RAM63、外部メモリ64が接続されている。ROM62には、切断動作を制御するための切断制御プログラムや、後述する切断角度の閾値、各種制御用データ等が記憶されている。RAM63には、各種処理に必要なデータやプログラムが一時的に記憶される。外部メモリ64には、複数種類の切断データが記憶されている。
【0033】
制御回路61には、各種の操作スイッチ65の操作信号が入力されると共に、液晶ディスプレイ9の表示を制御する。このとき、ユーザは、液晶ディスプレイ9の表示を見ながら、各種操作スイッチ65を操作することによって、所望する形状の切断データを選択指定する。制御回路61には、切断装置1の開口部2aからセットされた保持シート10を検出するための検出センサ等、各種検出センサ66の検出信号が入力される。また、制御回路61には、Y軸モータ15、X軸モータ26、Z軸モータ34、ソレノイド57を夫々駆動する駆動回路67,68,69,70が接続されている。制御回路61は、切断制御プログラムの実行により前記切断データに基づいて、Y軸モータ15、X軸モータ26、Z軸モータ34、ソレノイド57等の各種アクチュエータを制御し、保持シート10上の被切断物6に対する切断動作を自動で実行させる。
【0034】
前記切断データは、切断ラインLを構成するn個の線分L〜Lに夫々対応する線分データを含む。例えば、図11(a)に示すように、保持シート10に保持された紙等のシートである被切断物6に「星」の形状を切断する場合、切断データは、当該切断ラインLを構成する10個の線分L〜L10からなる10個の線分データを有する。具体的には、線分L〜L10は、夫々対応する始点L1S〜L10S及び終点L1E〜L10Eを有する。また、線分L〜L10は連続的に連なり、閉じた1つの切断ラインLを構成することから、夫々の線分の始点は隣り合う線分の終点と一致し、夫々の線分の終点は隣り合う線分の始点と一致する。線分データは、対応する線分L〜L10の始点及び終点が夫々XY座標によって示される。尚、XY座標の原点は、シート搬送方向たるY軸方向の後方(被切断物6の上方)側であって、カッタ4の移動方向たるX軸方向の始点側にある頂点が原点とされる。
【0035】
前記RAM63には、外部メモリ64から読込まれた上記のn個の線分データを含む切断データが記憶される。これにより、切断装置1における被切断物6の切断時には、RAM63に記憶された前記切断データに基づいて、線分L〜Lが切断される。
【0036】
これにより、切断装置1では、第1移動手段7による保持シート10(被切断物6)のY方向への搬送と、第2移動手段8によるカッタホルダ5のX方向への移動とにより、線分Lの始点L1SのXY座標へカッタ4を相対的に移動させる。次いで、第3移動手段44によりカッタ4の刃先4cを被切断物6の始点L1Sに貫通させて、第1移動手段7及び第2移動手段8により線分Lの終点L1Eの座標へ向けて相対的に移動させ、線分Lに沿って被切断物6を切断する。続く線分Lは、先の線分Lの終点L1Eを始点L2Sとして、線分Lと同様の切断が連続的に実行される。こうして、線分L〜L10についても、各線分データの切断順に連続して切断が行われることで、「星」の切断ラインLを切断する。
【0037】
前記切断角度の閾値は、図11(b)に示すように隣り合う線分L,Lのなす角度θに対して設定される閾値である。本実施形態の切断角度の閾値Tは、所定の値(例えば130度)に設定され、(i−1)番目に切断する線分Li−1とその次(i番目)に切断する線分Lとの間の角度θと比較される。そして、制御回路61は、前記角度θが閾値T以下であるときに、切断ラインLにおいて粘着層10aの粘着保持力が不足する領域A1として特定する。即ち、制御回路61が領域特定手段を構成する。ここで、領域A1は閾値Tを基に特定される領域であって、例えば図11(b)において線分Lと線分Lとで鋭角をなす角部等、切断時に比較的捲れ易い部分、或は角のダレが生じやすい部分を含む。ここで、「角のダレ」とは、角の先端が僅かに丸くなることをいう。この場合、例えば角部の頂点Pから所定距離αの範囲内にある領域をA1とし、領域A1を除いた領域をA2とする。従って、領域A2は、切断ラインLにおいて領域A1以外の部分や、例えば切断角度が所定の値を超える鈍角の部分等を含む。
【0038】
さて、前述したように、カッタ4の刃先4cは、カッタ軸4bの中心軸線Oから距離dだけオフセットしており(図8参照)、カッタ4と被切断物6との相対移動に伴い、被切断物6から抵抗力(以下、切断抵抗力と称す)を受ける。このため、カッタ4は中心軸線Oを中心に回動する。つまり、カッタ4と被切断物6との相対移動に伴い、刃先4cがその相対移動の方向に沿って自動的に向きを変更する。
具体的には、図11(b)に示すように、「星」の切断ラインLにおける領域A1の角部を切断する際、先ず、線分Lに沿って矢印方向に切断する。この場合、カッタ4の刃先4cが頂点P(終点L1E)に到達した時には、中心軸線Oは、線分Lの延長線上の頂点Pから距離dだけ離れた位置にある。その後、刃先4cの向きを線分Lに沿う方向に変える為、カッタ4を、中心軸線Oが同図の破線(円弧)に沿うように移動させる。その後、線分Lの切断を行う。このとき、図8に示したように、刃先4cは、被切断物6を貫通して保持部材10に僅かに食い込んでいる。この為、刃先4cの方向が変わる角部では、刃先4cが頂点Pの部分を僅かにこじる(捻る)ことになる。また、頂点Pの部分は、先端になる程、粘着層10aと接触する面積が徐々に小さくなって粘着力が弱くなる。その結果として、領域A1の角部が捲れたり、或いはダレてしまったりすることが発生する。この問題は、切断角度θが鋭角である場合やシートが厚い場合に顕著に生じる。
【0039】
そこで、本実施形態の制御回路61は、ソレノイド57に対する電流値を制御することにより、前記の領域A1を切断する時と、領域A1以外の領域A2を切断する時とで、被切断物6を押圧する押圧装置47の押圧力を異ならせるようにする。即ち、領域A1を切断する場合、保持シート10の粘着層10aの粘着力Fsと、押圧装置47による押圧力Fp1とを合成した合力が、領域A1の角部が捲れないように(或はダレが発生しないように)保持するための必要保持力F1を満たすように設定される。この場合の必要保持力F1は、以下の(1)式で表される。
F1≦Fs+Fp1 ・・・(1)
【0040】
また、領域A2を切断する場合、保持シート10の粘着層10aの粘着力Fsと、押圧装置47による押圧力Fp2とを合成した合力が、領域A2における前記切断抵抗力に抗して被切断物6を保持シート10に移動不能に保持するための必要保持力F2を満たすように設定される。この場合の必要保持力F2は、以下の(2)式で表される。
F2≦Fs+Fp2 ・・・(2)
この場合、押圧装置47は、領域A1での押圧力Fp1が、領域A2での押圧力Fp2に比べて強く設定されることで(Fp1>Fp2)、上述した問題を発生させることなく、領域A1において角部を正確に切断することができる。一方、領域A2では、押圧力Fp2は押圧力Fp1よりも弱いので、カッタ4と被切断物6との相対移動に係る負荷を低減させることができる。
【0041】
そして、制御回路61は、ソレノイド57に対する電流値を制御することで、押圧装置47の押圧力を前述したFp1とFp2とに設定する制御手段として構成される。つまり、制御回路61は、ソレノイド57の駆動を制御し、プランジャ57aを下方へ突出させて、押圧部材56の接触部56fにて被切断物6を押圧力Fp1或は押圧力Fp2で押圧させる。こうして、押圧装置47は、接触部56fが接触する被切断物6の接触面に対して、直交するZ方向に被切断物6を押圧する。
また、以下の作用説明で述べるように、制御回路61は、押圧装置47の押圧力Fp1或いは押圧力Fp2に関連付けて、Y軸モータ15,X軸モータ26の夫々の回転速度を制御する速度制御手段として構成される。即ち、制御回路61は、領域A1を切断する時には、カッタ4と被切断物6の相対的な移動速度が低速である第1速度となるよう各モータ15,26を駆動し、領域A2を切断する時には、第1速度よりも高速の第2速度となるよう各モータ15,26を駆動する。
【0042】
次に、切断装置1の切断動作における具体的な処理手順について、図12〜図14も参照しながら説明する。図12〜図14のフローチャートは、制御回路61が実行する前記切断制御プログラムの処理の流れを示しており、図中の符号Si(i=11、12、13・・・)は各ステップを示している。尚、切断する形状は、前記の「星」を例とし、被切断物6としては一般的な紙を使用する。
【0043】
切断装置1において被切断物6の切断開始前の状態では、カッタホルダ5が上昇位置に移動されている(図5参照)。この状態で、ユーザは、被切断物6を粘着層10aに貼り付けるようにして保持シート10に保持させる。そして、保持シート10を、切断装置1の開口部2aからセットする。そして、ユーザは、例えば外部メモリ64に記憶されている切断データの中から所望の切断データを選択すると、切断データが外部メモリ64から読み出されてRAM63のメモリに記憶される。そして、操作スイッチ65が操作されると、制御回路61は、その操作信号に基づいて切断動作を開始する(ステップS11)。
【0044】
切断動作にあっては、先ず、カッタ4と被切断物6の相対的な移動速度が、初期設定速度(例えば前記第2速度(高速))で駆動するように設定される(ステップS12)。次に、カッタ4の刃先4cを、被切断物6の切断開始点L1S(図11参照)に移動させるべく、Y軸モータ15とX軸モータ26を駆動させる(ステップS13)。この場合、カッタ4と被切断物6は互いに上下方向へは離間した状態で、XY方向に比較的高速で相対移動する。そして、切断開始点L1S上にカッタ4を移動させた状態で、制御回路61はソレノイド57を駆動させ、押圧部材56が比較的弱めの押圧力Fp2で被切断物6を押圧するように制御する(ステップS14)。また、制御回路61は、Z軸モータ34を駆動させて、カッタホルダ5を下降位置に移動させ、カッタ4の刃先4cを被切断物6の切断開始点L1Sに貫通させる(ステップS15)。
そして、各モータ15,26を駆動させることにより、カッタ4を、線分Lの終点L1Eの座標(図11(b)参照)へ向けて相対的に移動させて線分Lの切断を開始する(ステップS16)。このとき、ステップS17にてY軸モータ15及びX軸モータ26に係る第2速度設定処理が行われる(図13参照)。第2速度設定処理については、前述したカッタ4の相対速度が第1速度(低速)に設定されている場合に(ステップS31にてYes)、第2速度(高速)への変更を行うものであるが、既に初期設定により第2速度(高速)に変更されていることから(ステップS31にてNo)、後述することとする(図12のステップS18にリターンする)。
【0045】
ここで、制御回路61は、切断開始点L1Sを含む線分Lとその次に切断する線分Lのなす角度θを、両線分L,Lの線分データに基づき演算する。そして、演算により得られた角度θが閾値T以下か否かが判断される。ここで、角度θが閾値Tを超える場合(ステップS18にてNo)、カッタ4を第2速度のまま線分Lの終点L1Eへ相対移動させる(ステップS19)。一方、角度θが閾値T以下、つまり図11(b)の頂点Pのように、尖った角部を切断する場合(ステップS18にてYes)、ステップS20の第1速度設定処理が実行される(図14参照)。
第1速度設定処理では、先ずステップS41にて現在、切断している線分Lにおける残りの切断長さが前記の距離αより短いか否かが判断される。この場合、制御回路61は、残りの切断長さが距離αより短くなるのを待って(つまりカッタ4が領域A1に至った時点で)、カッタ4の相対的な移動速度を、第2速度(高速)から第1速度(低速)に変更することで低速に設定する(ステップS42)。同時に、制御回路61は、ソレノイド57の駆動電流を制御して、押圧装置47の押圧力をFp2からFp1に変更する(ステップS43)。これにより、図11(b)の領域A1において、被切断物6が捲れないよう、押圧部材56の接触部56fにより押圧力Fp1で押圧される。この状態で、カッタ4は、刃先4cが頂点P(Lの終点L1E)に至るまで移動され(ステップS44)、図12のステップS21へリターンする。
【0046】
ステップS21では、現在のカッタ4の刃先4cが、切断ラインLの終点L10Eにあるか否か、つまり全ての線分L〜L10の切断が終了したか否かが判断される。この場合、線分L以降が切断されていないことから(ステップS21にてNo)、引き続き線分Lの終点L2Eへ向けて切断を開始する(ステップS16)。このとき、ステップS17にて第2速度設定処理が行われる(図13参照)。
第2速度設定処理では、先ずステップS31にて、カッタ4の相対速度が第1速度(低速)に設定されているか否かが判断される。ここで、カッタ4の相対速度が第1速度(低速)に設定されていると判断し(ステップS31にてYes)、且つ線分Lの長さが距離αを超えると判断した場合(ステップS32にてYes)、線分Lの切断においてカッタ4の相対的な移動速度が第1速度(低速)であることと押圧力Fp1が維持される。即ち、カッタ4は、刃先4cが頂点Pに至ると、前述のように線分Lに沿う方向へ向きを変えるが、領域A1では押圧装置47の押圧力Fp1により被切断物6の捲れが防止され、綺麗な鋭角の切断を実行することができる。しかも、この領域A1では、カッタ4と被切断物6の相対的な移動速度が、第1速度(低速)で駆動されるため、押圧力Fp1が強くてもモータ15,26が脱調することなく、連続して安定した切断を行うことができる。こうして、図11(b)に示す線分Lにおける距離αの分(領域A1)の切断を終えると(ステップS33にてYes)、押圧装置47の押圧力をFp1からFp2に変更する(ステップS34)。また、カッタ4の相対的な移動速度を、を第1速度(低速)から第2速度(高速)に変更する、即ち第2速度(高速)に設定して(ステップS35)、図12のステップS18へリターンする。尚、前記ステップS32にて、線分Lの長さが距離αを超えないと判断された場合、線分Lの切断における押圧力Fp1及び第1速度(低速)が維持される。
【0047】
ここで、制御回路61は、線分Lとその次に切断する線分Lのなす角度θを、両線分L,Lの線分データに基づき演算する。そして、演算により得られた角度θを閾値Tと比較することで、線分Lについて線分Lと同様の切断処理或は第1速度設定処理が実行される(ステップS19、S20)。こうして、ステップS16〜S21が線分L〜L10の順に繰り返されることで、各線分L〜L10における領域A1,A2毎に適した移動速度及び押圧力Fp1、Fp2で切断処理が実行される。また、この切断処理では、図11(a)のPで示す6箇所の角部で押圧力が高められ、綺麗な鋭角のラインで切断することができる。そして、「星」の切断ラインLの終点L10Eまで切断したと判断されると(ステップS21にてYes)、カッタホルダ5を上昇位置に移動させると共に、ソレノイド57を非駆動状態にして押圧部材56を上昇させ、この処理を終了する。
【0048】
被切断物6の切断を終えると、ユーザは、保持シート10から被切断物6を剥がす。この場合、保持シート10における粘着層10aの粘着力は、前述した値Fsに設定されているため、容易に剥がすことができる。
【0049】
以上のように本実施形態の切断装置1は、前記領域特定手段で特定された領域A1を切断する時と、該領域A1以外の領域A2を切断する時とで、接触部56fが被切断物6を押圧する押圧力を異ならせるように押圧装置47を制御する制御回路61を備える。
これによれば、被切断物6を、保持シート10における粘着層10aの粘着力と押圧装置47の押圧力との双方で保持することができる。そして、切断ラインLの角部のように粘着保持力が不足する領域A1を領域特定手段によって特定し、当該領域A1を切断する時は、被切断物6を押圧する押圧力を大きくして、他の領域A2の切断時と異ならせるようにした。これにより、粘着保持力が不足する領域A1を、押圧装置47の接触部56で押圧して捲れないように保持することができ、切断ラインに沿って正確に切断することができる。
【0050】
切断装置1は、カッタ4と被切断物6との相対的な移動速度を制御する速度制御手段を備え、領域A1を切断する時と、当該領域A1以外の領域A2を切断する時とで、カッタ4の相対的な移動速度を異ならせるようにした。これによれば、カッタ4の相対的な移動速度を、被切断物6を押圧する押圧力Fp1、Fp2と対応して変えることができる。従って、押圧装置47の押圧に伴いカッタ4と被切断物6との相対移動に係る負荷が大きくなる場合、その負荷に応じた適切な移動速度に制御することができる。また、カッタ4と被切断物6との相対移動に係る負荷が小さくなる場合には、移動速度を高めて切断に要する時間を短縮することが可能となる。
【0051】
制御回路61は前記領域特定手段として、隣り合う線分Li−1と線分Lとのなす角度θが所定の閾値T以下となる部分の領域A1を特定する。これによれば、切断時に特に捲れ易い切断ラインLにおける角部の領域A1を確実に特定できる。従って、特定された領域A1を押圧装置47の接触部56fで押圧して被切断物6の捲れを防止することができ、被切断物6をより綺麗に切断することができる。
【0052】
尚、本発明は上記しかつ図面に示す実施形態にのみ限定されるものではなく、次のように変形または拡張することができる。本発明は、上記したカッティングプロッタとしての切断装置1に限られず、切断機能を備えた各種の装置に適用できるものである。押圧手段は、ソレノイド57に代えてモータ等の他のアクチュエータを用いて押圧部材を昇降させるように構成してもよい。
【0053】
また、被切断物6を切断する場合、前記領域A1を切断する時と、当該領域A1以外の領域A2を切断する時とで、接触部56fが被切断物6を押圧する押圧量を異ならせるように押圧装置47を制御してもよい。即ち、被切断物6としてフェルト等の比較的厚いシートを切断する場合、角部がダレて丸くなり易い。そこで、領域A1を切断する時、前記ステップS43に代えて、押圧部材56で押圧する押圧量を増加する処理を実行する。この場合、ソレノイド57による押圧力をより高めることから、ステップS43と実質上、同様の処理が行われるが、シートの厚みを抑えるように接触部56fの高さを調整することができる。従って、角部を綺麗な鋭角に切断することができる。尚、接触部56fが被切断物6を押圧する押圧量を制御する場合において、領域A2を切断する時、前記ステップS34に代えて、接触部56fの高さを若干上げるようにして押圧量を減少させる処理を実行すればよい。
前記制御手段は、ソレノイド57の駆動による押圧力Fp1、Fp2を、上記した(1)式や(2)式を満たすように制御すればよい。即ち、粘着力Fsと押圧力Fp1との合力を前記必要保持力F1と同じ値に設定し、粘着力Fsと押圧力Fp2との合力も前記必要保持力F2と同じ値に設定してもよい。また、粘着力Fsと押圧力Fp1との合力を前記必要保持力F1を超える値に設定し、粘着力Fsと押圧力Fp2との合力も前記必要保持力F2を超える値に設定してもよい。
【符号の説明】
【0054】
L 切断ライン
1 切断装置
4 切断刃
6 被切断物
10 保持部材
10a 粘着層
47 押圧手段
56f 接触部
61 制御手段、領域特定手段、速度制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断データに基づいて切断刃と被切断物とを相対的に移動させることにより、前記被切断物を所望の形状に切断する切断装置であって、
前記切断刃と対向する位置に配置され、前記被切断物を剥離可能に保持する粘着層を有する保持部材と、
前記保持部材に保持された前記被切断物を押圧する接触部を有する押圧手段と、
前記切断データに基づいて前記切断刃で切断される前記被切断物の切断ラインにおいて、前記粘着層の粘着保持力が不足する領域を特定する領域特定手段と、
前記切断刃と前記被切断物を保持した前記保持部材とを相対的に移動させて前記被切断物を切断する場合、前記領域特定手段で特定された領域を切断する時と当該領域以外を切断する時とで、前記接触部が前記被切断物を押圧する押圧量及び押圧力の少なくとも何れか一方を異ならせるように前記押圧手段を制御する制御手段と、
を備えることを特徴とする切断装置。
【請求項2】
前記切断刃と前記被切断物との相対的な移動速度を制御する速度制御手段を備え、
前記速度制御手段は、前記領域特定手段で特定された領域を切断する時と当該領域以外を切断する時とで、前記切断刃と前記被切断物との相対的な移動速度を異ならせることを特徴とする請求項1記載の切断装置。
【請求項3】
前記切断ラインは、連続した複数の線分を含み、
前記領域特定手段は、隣り合う前記線分のなす角度が所定の閾値以下となる部分の領域を特定することを特徴とする請求項1又は2記載の切断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−206235(P2012−206235A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75579(P2011−75579)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】