説明

刈刃カバーの開閉構造

【課題】乗用草刈機の刈刃カバーを水平方向に移動可能としてメンテナンス時に容易に開放できる構成とし、加えて、刈刃カバーの位置を調整して刈り取った草の排出路を形成可能とする。
【解決手段】車輪を備えた走行機体と、走行機体の下方に配置されて回転する刈刃9と、刈刃9の外周に配置されて小石等の飛び出しを防止する側部カバー11とを備えた草刈機に適用する刈刃カバーの開閉構造であって、側部カバー11は機体に接近または離反する方向に回動する水平回動機構を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈刃カバーの開閉構造に関し、特に、刈刃カバーを水平方向に移動可能としてメンテナンス時に容易に開放できる構成とし、加えて、刈刃カバーの位置を調整して刈り取った草の排出路を形成可能とした技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、乗用草刈機は原動機によって駆動される走行部と回転刃を備えており、作業者が搭乗操作を行いながら草を刈る構成となっている。
乗用草刈機は車体の底に備えられた回転刃を高速回転させて草を刈るために、作業時に小石等を跳ね飛ばすおそれがあり、また、車底から刃の先端が露出するために危険である。
そこで、乗用草刈機の作業時における小石等の飛び出し、刈刃の露出を防止した技術として特許文献1,2の技術が提案されている。
【特許文献1】特開2005−176677号公報
【特許文献1】特開2003−164211号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記特許文献1、2の技術は刈取り装置の周辺に刈刃カバーを配置して、刈刃の露出と小石等の飛び出しを防止するが、刈刃の周辺を閉塞するために、刈刃のメンテナンスが困難という問題があった。
本発明は係る従来の問題点を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、刈刃カバーを水平方向に移動可能としてメンテナンス時に容易に開放できる構成とし、加えて、刈刃カバーの位置を調整して刈り取った草の排出路を形成可能とした刈刃カバーの開閉構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1記載の刈刃カバーの開閉構造では、車輪を備えた走行機体と、走行機体の下方に配置されて回転する刈刃と、刈刃の外周に配置されて小石等の飛び出しを防止するカバーとを備えた草刈機に適用する刈刃カバーの開閉構造であって、前記カバーを水平方向に移動させて刈刃外周の開放と閉鎖を行う構成とした。
【0005】
請求項2記載の刈刃カバーの開閉構造では、請求項1記載の刈刃カバーの開閉構造において、前記カバーは機体に接近または離反する方向に回動する水平回動機構を備えていることを特徴とする。
【0006】
請求項3記載の刈刃カバーの開閉構造は、請求項1または2記載の刈刃カバーの開閉構造において、前記カバーは機体の左右両側に配置され、それぞれの側部カバー前方には水平回動機構が設定され、その水平回動機構を支点としてカバーの後方が機体に接近または離反する方向に回動する構成とされ、それぞれのカバー後方には機体に係止する係止手段が配置され、その係止手段は必要に応じカバー後方を機体から離れた位置に係止する機能を備えていることを特徴とする。
【0007】
請求項4記載の刈刃カバーの開閉構造では、請求項3記載の刈刃カバーの開閉構造において、前記カバーは上方へ開いて刈刃外周を開放する上下回動機構を有していることを特徴とする。
【0008】
請求項5記載の刈刃カバーの開閉構造では、請求項4記載の刈刃カバーの開閉構造において、係止手段は水平回動機構の回動位置を規制する機能と、上下回動機構の回動支軸としての機能を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
前記構成を採用したことにより本発明では次の効果を有する。
請求項1記載の刈刃カバーの開閉構造においては、小石等の飛び出しを防止するカバーを水平方向に移動させる構成としたので、刈刃の側部外周を大きく開放することができる。そのため刈刃のメンテナンスの容易性が実現される。
【0010】
請求項2記載の刈刃カバーの開閉構造においては、水平回動機構を備えているのでカバー回動させることによって、刈刃外周の開放と閉鎖を容易に行うことができる。
【0011】
請求項3記載の刈刃カバーの開閉構造においては、カバーは機体の左右両側に配置され、それぞれのカバー前方には水平回動機構が設定されているので、水平回動機構を支点としてカバーの後方が機体に接近または離反する方向に回動する。
それぞれのカバー後方には機体に係止する係止手段が配置され、その係止手段は必要に応じカバー後方を機体から離れた位置に係止する機能を備えているので、草刈り作業時にはカバーの後方を開いて草の排出空間を広く確保することができる。
【0012】
請求項4記載の刈刃カバーの開閉構造においては、カバーを上方へ開いて刈刃外周を開放する上下回動機構を有しているので、水平方向に加えて上下方向へもカバーを開いて刈刃外周を開放することができる。このため、メンテナンスの部位・方法、草の状況・種類等に応じてカバーの開放形態を多様に設定できる。
【0013】
請求項5記載の刈刃カバーの開閉構造においては、カバー後方を機体に係止する係止手段は水平回動機構の回動位置を規制する機能と、上下回動機構の回動支軸としての機能を有するので、一点を係止すれば、上下方向に回動自在に支持した上で、カバーの水平方向の移動を固定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に基づいて刈刃カバーの開閉構造を実現する最良の形態を説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の刈刃カバーの開閉構造を適用した乗用草刈機は図1〜5に示すように前後輪1、2を備えた走行機体と、走行機体中央に設置された運転席3と、走行機体の後方に搭載されたエンジン4と、車両の下側に配置された刈取り装置5を備えている。
【0016】
サイドパネルには、トランスミッションの変速操作(走行機体の走行速度変速)用の副変速レバー、刈取り装置の上下スライド(昇降)を操作する上下昇降レバー6、走行速度を調整するHSTレバー等が設けられているとともに、走行機体のフロアからは走行ペダル7及びブレーキペダルが踏み操作自在に設けられている。
【0017】
作業者(オペレータ)が運転席3に座り、上下昇降レバー6を操作して刈取り装置5を刈り取り可能な高さに下げ、刈刃クラッチレバーを操作して刈刃を回転させ、副変速レバーで走行速度を選択設定し、走行ペダル7を踏み込むことで走行機体を走行させるとともに、ハンドル8で操向させることで、走行機体を走行させながら、刈取り装置5により草刈り作業を行うことができる。
刈取り装置5はエンジンから駆動力を伝動して刈刃9を回転駆動させるロータリカッタとなっている。
【0018】
刈取り装置5は、機体の底部に配設される上部カバー10と、その上部カバー10の両側に取付けられた側部カバー11とを備え、それらのカバーに囲まれた部位に回転自在に軸支された刈刃9が配置されている。
上部カバー中央には駆動軸12の挿通孔13が形成され、挿通孔13に垂直に挿通された駆動軸12にステイ14が接続され、ステイ先端に刈刃9が装着されている。
ステイ14は長板状の水平板材であり、中央を駆動軸12に軸支し、先端に刈刃9を備え、駆動軸12の回転に伴って水平回転して、先端の刈刃で草を刈り取る。
【0019】
上部カバー10は刈刃の上側を保護する板状部材であり、走行機体の下方に水平に配置されている。
昇降レバー6を操作すると、本体フレームから吊下げられた上部カバー10が乗降し、それに連動して駆動軸12、ステイ14、刈刃9、側部カバー11も昇降する。
【0020】
側部カバー11は走行機体の左右の側面に配置され、車両の前後輪1、2の間に挟まれて地面との隙間を閉塞している。すなわち、側部カバー11は刈刃9の回転外周を閉塞して刈刃9の露出、及び小石等の飛び出しを防止している。
左右の側部カバー11は上部カバー10に連続して水平方向に伸びる上面11aと、上面の先方から折れ曲がって垂下する側面11bを有し、連結部15を介して上部カバー10(機体)に連結されている。
上部カバー10と側部カバーの上面11aはほぼ同一の水平ライン上に配置され、上部カバー10と側部カバー11が接続して刈刃外周の上部と左右側面を閉塞している。側部カバー11は前輪1と後輪2の間の地上との空間を閉塞し、側部カバー11を水平方向に移動させることにより刈刃外周の開放と閉鎖を行うことができる。
側部カバー上面11aの外縁は刈刃の回転軌跡に沿って円弧状に湾曲し、その湾曲ラインから側面11bが下方に折れ曲がっている。側面11bは垂下しているために刈刃の外周の延長ラインを垂直に閉塞し、刈刃に跳ねと飛ばされた小石等はこの側面11bに衝突して飛び出しが防止される。
上部カバー10と側部カバー11との接続部位にはゴム布16が配置されて密閉され、側部カバー11の後方には上部カバー10からゴム布17が延設されている。これらのゴム布16、17により接続部位が閉塞されて砂塵等の舞い上がりが阻止される。
【0021】
前記連結部15は水平回動機構を構成する部位であり、走行機体の上部カバー10に対して側部カバー11を水平方向に回動自在に支持する機構である。水平回動機構を支点として側部カバー11の後方が機体に接近または離反する方向に回動する。
上部カバー10の前側左右端(前輪の内側の直後に位置する部位)には垂直にボルト18が挿通され、このボルト18に連結部15が水平方向に回動自在に取付けられ、回動自在に取付けられた連結部15に側部カバー11が接続されている。連結部15の上面はプレート状に形成され、そのプレート面にリブ19が配設されて補強処理がなされている。
連結部15と側部カバー11は一体的に水平方向に回動し、ボルト18を支点として連結部15と側部カバー11が回動すると、側部カバー11の後方が機体から離れる方向に開くことになる。
【0022】
前記連結部15には上下回動機構20が接続されている。
上下回動機構20は側部カバー11を上方へ傾動自在に支持する機構である。この上下回動機構20は連結部15に対して側部カバー11を上下回動自在に支持する軸支部21と、側部カバー11に固定された係止ピン22を備え、係止ピン22が連結部側の溝23(図4参照)に係止する構成となっている。
連結部15上面のプレート後部は垂直方向に立ち上がって立設部24とされ、この立設部24の立面の孔に側部カバー側に固定された軸が挿通され、この軸支部21を支点として側部カバー11が上下回動自在とされている。
【0023】
係止ピン22は溝23に係止する部位から外側に延設されており、その一端にバネ25が接続されている。係止ピン22の延設部位の一端を手で操作して、バネ25に抗して係止ピン22を溝23から外すと、軸支部21を支点として側部カバー11が上下動可能となり、バネ25の弾力に沿ってピンを離すと、係止ピン22が溝23へ係止して側部カバー11が特定の高さ位置に保持される。
連結部15と側部カバー11は軸支部21によって接続されているが、側部カバー11の先方には図示しない連結部15との接続部が設定されており、この軸支部21と接続部が合わさって側部カバー11を水平に保持している。
【0024】
前記立面部24の垂直辺には係止ピン22の溝23が形成され、この溝23に側部カバー11に固定された係止ピン22が係止される。
溝23は垂直方向に連続して凹凸を形成したものであり、軸支部21を支点として側部カバー11を上方に回動させ、特定の凹部に係止ピン22を係止することにより、ピンの係止した位置で側部カバー11が上方に開いた状態とされる。
【0025】
係止手段は上部カバーから車両の左右側方に突設されたブラケット26と、側部カバー11に取付けられた挿入ピン27から構成されている。
ブラケット26は上部カバー10(機体)の後部に固定され、その先方が上部カバーから車幅方向の外側へ突設されている。
ブラケット26には車幅の遠近方向に所定の間隔をおいて(本実施例では3カ所)挿入ピン27が遊嵌する孔28が形成されている。この孔28に挿入ピン27の頭部を挿入係止して側部カバー11の後方を固定する。
【0026】
前記係止手段は必要に応じ側部カバー11後方を機体から離れた位置に係止する機能を備えている。つまり、挿入ピン27を最も機体寄りの孔28に挿入係止すると側部カバー11が機体に密着し、挿入ピン27を機体寄りの位置から順次離れた孔に係止すると、係止位置に応じて側部カバー11が機体から離れ、刈刃9との間に空間が形成されることになる。
この刈刃9と側部カバー11の間に空間が形成されることにより、刈刃9の外周に草の排出空間または排出路が大きく確保される。
ブラケット26に対する係止ピン27の係止位置は現場の状況等に応じて適宜選択する。
【0027】
挿入ピン27は側部カバー11後方に取付けられ、側部カバー11を機体に接近させた位置において挿入ピン27の頭部がブラケットの孔28へ挿入できる設定とされている。
挿入ピン27は車両の前後方向に水平に配設された円柱状部材であり、基部にはバネ29が配設されて頭部が突設方向(車両後方)へ付勢されている。頭部はレバー30操作によりが進退可能とされ、頭部を後退させると孔28から頭部が抜けて係止が解除される。係止を解除した状態では側部カバー11はボルト18を支点として水平方向へ回動可能となる。
【0028】
挿入ピン27と軸支部21を連結したラインに沿って上下回動機構が回動する構成となっている。
挿入ピン27の円柱状の頭部が円形の孔28に遊嵌すると、側部カバー11の水平方向の回動は規制(固定)されるが、挿入ピン27が孔28の内周に沿って滑動するので、挿入ピン27はブラケット26に対して上下方向に回動自在に支持される。そのため、挿入ピン27を係止することにより、係止手段が側部カバー11の水平回動機構の回動位置を規制する機能と、上下回動機構の回動支軸としての機能を有することになる。
つまり、挿入ピン27をブラケットの孔28に係止するのみで、側部カバー11を上下方向に回動自在に支持し、同時に側部カバー11の水平方向の移動を固定できる。よって、挿入ピン27をブラケット26に係止した状態で側部カバー11を上方に開くことができる。
【0029】
次に、本発明の作用を説明する。
草刈り作業においては、作業者が運転席3に座り、上下昇降レバー6を操作して刈取り装置5を刈り取り可能な高さに下げ、走行機体を走行させながら草刈り作業を行う。
ロータリカッタは高速回転しているので小石等が車両の外側へ跳ね飛ばされることがあるが、側部カバー11が小石の飛び出しを防止する。また、刈刃9の先端部分の露出は側部カバー11が被覆して危険を防止する。
草が多く生い茂った現場では、側部カバーの後方11を開いて刈刃外周との空間を広く確保する。挿入ピン27は側部カバー11の水平回動機構の回動位置を規制する機能と、上下回動機構の回動支軸としての機能を有しているので、挿入ピン27をブラケット26に係止した状態で側部カバー11を上方にも開くことができる。側部カバー11を開くことにより、多量の草を刈り取っても装置内に草詰まりを起こさずにスムーズに排出される。
刈刃9の取り替え等が必要となった場合には、側部カバー11を水平方向へ大きく開いてメンテナンスを行う。
【0030】
以上、実施例を説明したが、本発明の具体的な構成は前記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても本発明に含まれる。
例えば、前記実施例では側部カバーが回動して開く構成としたが、スライドして平行移動させる構成であっても本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】右の側部カバーを開いた状態を示す斜視図である。
【図2】左の側部カバーを開いた状態を示す平面図である。
【図3】側部カバーの係止状態を示す説明図である。
【図4】連結部の斜視図である。
【図5】連結部に対する係止ピンの係止状態を示す拡大図である。
【符号の説明】
【0032】
1 前輪
2 後輪
3 運転席
4 エンジン
5 刈取り装置
6 上下昇降レバー
7 走行ペダル
8 ハンドル
9 刈刃
10 上部カバー
11 側部カバー
11a 上面
11b 側面
12 駆動軸
13 挿通孔
14 ステイ
15 連結部
16 ゴム布
17 ゴム布
18 ボルト
19 リブ
20 上下回動機構
21 軸支部
22 係止ピン
23 溝
24 立設部
25 バネ
26 ブラケット
27 挿入ピン
28 孔
29 バネ
30 レバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪を備えた走行機体と、走行機体の下方に配置されて回転する刈刃と、刈刃の外周に配置されて小石等の飛び出しを防止するカバーとを備えた草刈機に適用する刈刃カバーの開閉構造であって、
前記カバーを水平方向に移動させて刈刃外周の開放と閉鎖を行う構成とした刈刃カバーの開閉構造。
【請求項2】
前記カバーは機体に接近または離反する方向に回動する水平回動機構を備えていることを特徴とする請求項1記載の刈刃カバーの開閉構造。
【請求項3】
前記カバーは機体の左右両側に配置され、それぞれの側部カバー前方には水平回動機構が設定され、その水平回動機構を支点としてカバーの後方が機体に接近または離反する方向に回動する構成とされ、
それぞれのカバー後方には機体に係止する係止手段が配置され、その係止手段は必要に応じカバー後方を機体から離れた位置に係止する機能を備えていることを特徴とする請求項1または2記載の刈刃カバーの開閉構造。
【請求項4】
前記カバーは上方へ開いて刈刃外周を開放する上下回動機構を有していることを特徴とする請求項3記載の刈刃カバーの開閉構造。
【請求項5】
係止手段は水平回動機構の回動位置を規制する機能と、上下回動機構の回動支軸としての機能を有することを特徴とする請求項4記載の刈刃カバーの開閉構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−115186(P2012−115186A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266634(P2010−266634)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(390005234)株式会社筑水キャニコム (21)
【Fターム(参考)】