説明

刈取装置

【課題】幅広い刈取条件の何れの場合においても高い引き起し性能を有することで、刈取りの際の高い条件適応性を有した刈取装置を提供する。
【解決手段】引起ケース(12)の下部において引起ラグ(17)の先端部の軌跡を円弧状とする第1軌道と、引起ラグ(17)の先端部の軌跡を第1軌道より引起ケース(12)の下部において幅広とする第2軌道とに切換える操作手段(34)を設けた構成により解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刈取りの際の高い条件適応性を有した刈取装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンバインは、走行装置を備えた機台の左右一側に脱穀装置を設け、脱穀装置の横側に穀粒貯留装置を設け、穀粒貯留装置の前側に操縦部を設け、前端部に植立穀稈を分草する分草体を設け、操縦部および脱穀装置の前側で分草体の後側に穀稈を引起す刈取装置を設け、刈取装置の後側に穀稈を刈り取る刈刃と刈取後の穀稈を後方の合流部まで搬送する搬送装置を設けたものがあるが、特に刈取装置は、作物を引き起こす引起装置の外枠となる引起ケースの上部に出力軸と同軸に駆動スプロケットを軸支して設け、引起ケースの下部に下部輪体を軸支し、前記駆動スプロケットと下部輪体との間に多数の引起ラグを備えたチェンを巻き掛けて構成されている。
【0003】
穀稈の刈取作業に際しての圃場や株等の条件としては、種々のものが考えられる。例えば、株抜けしやすい圃場での作業や稈切れしやすい作物を収穫する場合だけでなく、株が完全に倒伏している状態などの場合が考えられる。この為、既刈地側に対応する引起装置を2つの下部輪体を設けた構造として引起装置の引起ラグの軌跡の幅を広げ、引き起し性能を向上したコンバインの刈取装置が特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−47318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたように引起ラグの軌跡の幅を広げて引き起し性能を向上した引起装置では、株抜けしやすい圃場での作業や稈切れしやすい作物を収穫する場合に十分に適応できないという欠点を有していた。この為、特許文献1に記載されたものも含めて従来技術に係るコンバインの刈取装置では、幅広い刈取条件の何れにおいても高い引き起し性能を有したものはなかった。
【0006】
そこで、本発明の目的は、幅広い刈取条件の何れの場合においても高い引き起し性能を有することで、刈取りの際の高い条件適応性を有した刈取装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決した本発明は次記のとおりである。
請求項1に係る発明は、引起ケース(12)の下部からの引起ラグ(17)の上昇行程において当該引起ラグ(17)を起立させる引起装置(70)を備え、
前記引起ケース(12)の下部において引起ラグ(17)の先端部の軌跡を円弧状とする第1軌道と、該引起ラグ(17)の先端部の軌跡を前記第1軌道よりも引起ケース(12)の下部において幅広とする第2軌道とに切換える操作手段(34)を設けたことを特徴とする刈取装置である。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記引起ケース(12)の下部において引起ラグ(17)の先端部軌跡の一部を横方向の直線状とすることで、前記第2軌道を形成する構成としたことを特徴とする請求項1記載の刈取装置である。
【0009】
請求項3に係る発明は、前記引起ケース(12)に駆動スプロケット(14)と固定側輪体(18)と可動側輪体(20)を設け、
該駆動スプロケット(14)と固定側輪体(18)と可動側輪体(20)に前記引起ラグ(17)を備えたチェン(16)を巻き掛け、
前記操作手段(34)を可動側輪体(20)に接続し、該操作手段(34)によって可動側輪体(20)を上下動させることで前記第1軌道と第2軌道との切替えを行なう構成としたことを特徴とする請求項1又は2記載の刈取装置である。
【0010】
請求項4に係る発明は、前記可動側輪体(20)を先端側に有する下部アーム(22)の基端部が、固定側輪体(18)の支持軸に対して回動自在に取付けられ、
前記操作手段(34)の切換え動作により前記下部アーム(22)の先端側が上下方向に揺動する構成としたことを特徴とする請求項3記載の刈取装置である。
【0011】
請求項5に係る発明は、前記引起ラグ(17)を上昇行程において起立させる起立ガイド(22A)が、前記下部アーム(22)に設けられたことを特徴とする請求項4記載の刈取装置である。
【0012】
請求項6に係る発明は、走行変速レバー(8)の変速操作位置に応じて前記操作手段(34)が作動する構成としたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の刈取装置である。
【0013】
請求項7に係る発明は、前記操作手段(34)の一端側と前記下部アーム(22)の先端部との間が連結アーム(24)で接続され、
前記操作手段(34)の他端側には、該操作手段(34)を一方向に付勢する引張スプリング(38)及び、該引張スプリング(38)の付勢力に抗しつつ該操作手段(34)の切換え動作をさせる切換用ワイヤ(36)が取り付けられたことを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の刈取装置である。
【0014】
請求項8に係る発明は、テンションスプロケット(26)を先端側に有するテンションアーム(28)の基端部が、前記駆動スプロケット(14)の支持軸に対して回動自在に取付けられ、
該テンションスプロケット(26)が前記連結アーム(24)に対して圧縮スプリング(29)を介して伸縮自在に支持されたことを特徴とする請求項7記載の刈取装置である。
【発明の効果】
【0015】
請求項1記載の発明によれば、操作手段(34)によって、引起ケース(12)の下部において、引起ラグ(17)の先端部の軌跡を円弧状とする第1軌道と、引起ラグ(17)の先端部の軌跡を第1軌道よりも引起ケース(12)の下部において幅広とする第2軌道とに切換えることで、起立状態の引起ラグ(17)の先端部の横方向の軌跡が、第1軌道よりも長くなる。
【0016】
この為、倒伏状態の穀稈を刈り取る際には、引起ラグ(17)の先端部の軌跡を第2軌道とすることで、引起ラグ(17)の軌跡の幅が広がり、引き起し性能が向上する。
【0017】
他方、株抜けしやすい圃場での作業や稈切れしやすい作物を収穫する場合、引起ラグ(17)の先端部の軌跡を第1軌道とし、下部における引起ラグ(17)の軌跡を通常の円軌跡とすることで、株抜けや稈切れを来たしにくくなり、刈取作業を円滑に行なえる。以上の結果として、この発明によれば、刈取装置の条件適応性が向上する。
【0018】
請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加えて、引起ケース(12)の下部における引起ラグ(17)の先端部軌跡の幅が第2軌道において直線的に広げられることになり、第2軌道の引起ラグ(17)の軌跡が上下方向一定のまま横方向に広げられて、引き起し性能が一層向上する。
【0019】
請求項3記載の発明によると、請求項1及び2に記載の発明の効果に加えて、可動側輪体(20)が確実に上下動することになり、刈取装置の条件適応性が一層向上する。
【0020】
請求項4記載の発明によると、請求項3記載の発明の効果に加えて、下部アーム(22)の先端側を操作手段(34)の切換え動作により上下方向に揺動することで、下部アーム(22)の先端側に有る可動側輪体(20)が上下動して、引起ケース(12)の下部において可動側輪体(20)が第1軌道と第2軌道とに円滑に切換えられる。
【0021】
請求項5記載の発明によると、請求項4記載の発明の効果に加えて、引起ラグ(17)を起立させる起立ガイド(22A)が下部アーム(22)に設けられたことで、引起ケース(12)内において倒伏されていた引起ラグ(17)が引起ケース(12)の下部において確実に起立する。これに伴い、完全倒伏時における引き起し性能が向上すると共に、株抜けしやすい圃場での作業や稈切れしやすい作物の刈取作業が確実に行なえる。
【0022】
請求項6記載の発明によると、請求項1から5記載の発明の効果に加えて、走行変速レバー(8)の変速操作位置に応じて操作手段(34)が作動することで、穀稈の倒伏状態などの圃場条件に応じた走行変速操作に連動して引起ラグ(17)の先端部の軌跡を切換えることができ、操作性が向上する。
【0023】
請求項7記載の発明によると、請求項4から6記載の発明の効果に加えて、操作手段(34)により連結アーム(24)を介して可動側輪体(20)の位置が確実に切換えられるだけでなく、切換用ワイヤ(36)による操作手段(34)の操作が終了するのに伴い、引張スプリング(38)によって操作手段(34)が確実に元の位置に戻されることで、操作性が向上する。
【0024】
請求項8記載の発明によると、請求項7記載の発明の効果に加えて、チェン(16)の外周側に向かってテンションスプロケット(26)が付勢されることになり、チェン(16)が緩まないようになって、動力が駆動スプロケット(14)からチェン(16)に良好に伝達される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第1実施形態に係るコンバインの前側寄りの側面図である。
【図2】第1実施形態に係るコンバインの前側寄りの平面図である。
【図3】第1実施形態に係るコンバインの正面図である。
【図4】引起装置内の構造を表わす正面図であって、第2軌道を示す図である。
【図5】引起装置内の構造を表わす正面図であって、第1軌道を示す図である。
【図6】引起装置の要部横断面図である。
【図7】連結アームの周辺を表わす分解斜視図である。
【図8】第1実施形態に係るコンバインの要部正面断面図である。
【図9】第2実施形態に係るコンバインの前側寄りの平面図である。
【図10】第2実施形態に係るコンバインの正面図である。
【図11】第2実施形態に係るコンバインの前側寄りの側面図である。
【図12】第2実施形態に係るコンバインの前側寄りの側面図である。
【図13】第2実施形態に係る刈取装置の上部側面図であり、(A)はバイザーの非使用時であり、(B)はバイザーの使用時である。
【図14】第3実施形態に係る刈取装置の上部側面図であり、(A)は横方向カバーの倒れている状態であり、(B)は横方向カバーの起こされた状態である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
4条刈のコンバインを例示し本発明の実施形態について説明する。以下、操縦部に着座する操縦者から見て右手側を「右側」、左手側を「左側」、上方側を「上方」、下方側を「下方」、コンバインの進行方向を「前側」と、後退方向を「後側」という。
【0027】
<第1実施形態>
図1〜図8は、本発明の第1実施形態を示している。図1に示すとおりコンバイン1の機台の前側に、下方に延出する後フレーム2の後端部が取付けられている。この後フレーム2の中程の部分が機台から伸縮可能に突出する油圧シリンダ3により支持される。後フレーム2の前端部は、伝動軸ケース4を介して前側上方にそれぞれ延出している4本の引起伝動筒5(図1において1本のみ示す)の下端側に連結される。
【0028】
これら引起伝動筒5は途中で屈曲して刈取装置に備えられた各引起装置70、80の上部に上端側が連結される。但し、本実施形態のコンバイン1では、図2に示すとおり左端側と右端側とに第1引起装置70が配置され、中央部に2つの第2引起装置80が配置される。さらに、後フレーム2、伝動軸ケース4及び引起伝動筒5の内部には、引起伝動軸6が配置されており、また、各引起装置70、80の上端側には駆動スプロケット14がそれぞれ軸支されていて、図示しないベベルギヤを介してこの駆動スプロケット14に引起伝動軸6が連結される。
【0029】
従って、駆動源である図示しないエンジンからの動力が後フレーム2側から伝動軸ケース4内に伝わった後に各引起伝動筒5に枝分かれして、各引起装置70、80の駆動スプロケット14にベベルギヤを介し伝達されて、エンジンからの動力により各駆動スプロケット14が回転される。
【0030】
図1に示す引起装置70、80の下部には、伝動軸ケース4から延びる分草パイプ91を介して、分草体92が取り付けられるが、図2、図3に示すとおり分草体92は、左端側の第1引起装置70の左側下方部と、中央部の2台の第2引起装置80の間の下方部と、右端側の第1引起装置70の右側下方部とにそれぞれ配置される。また、引起装置70、80の後側に穀稈を刈り取る刈刃と刈取後の穀稈を後方の合流部まで搬送する搬送装置10が設けられる。
【0031】
他方、刈取装置に備えられた各引起装置70、80の外枠を引起ケース12がそれぞれ形成し、左端側の第1引起装置70と右端側の第1引起装置70とが左右対称の構造とされるものの、この内の左端側の第1引起装置70を例として以下に説明する。
【0032】
まず、この第1引起装置70の引起ケース12は、図6に示すとおり前側に位置する前側ハーフ12Aと後側に位置する後側ハーフ12Bとで構成される。この引起ケース12内の上部寄りの箇所に、エンジンに繋がる駆動スプロケット14が具体的には軸支され、この駆動スプロケット14の直下とされる引起ケース12の下部寄りの箇所に、固定側輪体18が軸支される。さらに、この固定側輪体18の支持軸18A廻りに回動可能に下部アーム22が支持され、この下部アーム22の先端側となる図4におけるこの固定側輪体18の右側の位置に、可動側輪体20の支持軸20Aが軸支される。
【0033】
また、図4〜図6に示すように引起ケース12の後側ハーフ12Bの背面に、板材により細長く形成された連結アーム24がスライド可能に配置される。この連結アーム24の下側寄りの位置にも可動側輪体20の支持軸20Aが軸支されると共に、この連結アーム24の上側寄りの位置にテンションスプロケット26の支持軸26Aに軸支される。但し、駆動スプロケット14の支持軸14A廻りに回動可能にテンションアーム28が支持され、このテンションアーム28の先端側となる位置にも、このテンションスプロケット26の支持軸26Aは軸支される。
【0034】
具体的には、図7に示すとおり、連結アーム24の上端から支持棒24Aが上方に延びていて、コイルスプリングである圧縮スプリング29、テンションスプロケット26のブラケット部26B及びリング材30に、この支持棒24Aが挿通される。そして、支持棒24Aの上部に穿設された孔部25にピン31が係止されることで、これら部材が支持棒24Aに支持される。
【0035】
このことから、圧縮スプリング29が、テンションスプロケット26のブラケット部26Bと支持棒24Aの下端部との間に配置されていて、テンションスプロケット26がこの圧縮スプリング29により常時上方に付勢されつつ、連結アーム24に支持される。従って、本実施形態では、テンションスプロケット26がチェン16の外周側に向かって付勢される。
【0036】
以上より、本実施形態では、下部アーム22、連結アーム24、テンションアーム28等の各アーム及び、駆動スプロケット14、テンションスプロケット26、可動側輪体20、固定側輪体18等の各回転部材により、リンク機構が構成される。
【0037】
さらに、図4〜図6に示すように、これら駆動スプロケット14、固定側輪体18、可動側輪体20、テンションスプロケット26には、チェン16が連続的に巻き掛けられて、このチェン16が、引起ケース12を構成する前側ハーフ12Aと後側ハーフ12Bとの間に位置している。この為、図示しないエンジンからの動力伝達により駆動スプロケット14が駆動回転されるのに伴い、これら固定側輪体18、可動側輪体20、テンションスプロケット26により案内されつつ、チェン16が回転する。この際、圧縮スプリング29によりチェン16の外周側に向かってテンションスプロケット26が付勢されることから、チェン16が緩まない結果、確実に動力が駆動スプロケット14からチェン16に伝達される。
【0038】
また、このチェン16の外周側に、図2示す作物Kを引き起すための複数の引起ラグ17が等間隔に取り付けられる。この為、駆動スプロケット14が回転するのに伴い、これら固定側輪体18及び可動側輪体20に案内されつつ、チェン16が回転することで、複数の引起ラグ17が引起ケース12周りに回転する。
【0039】
この引起ラグ17の基端側には、図4及び図5の紙面に垂直な方向に突出する突出部17Bが設けられているが、この突出部17Bはこの引起ラグ17の延びる方向に対してほぼ垂直方向に長く形成される。この引起ラグ17の突出部17B内には、チェン16に回動可能に連結される支点17Aが設けられていて、この支点17A廻りに各引起ラグ17が回動して折りたたみ可能となる。
【0040】
他方、前側ハーフ12A及び後側ハーフ12Bの上昇行程に対応する部分に、図示しない溝部が形成され、この溝部に引起ラグ17の突出した突出部17Bが嵌り込んで、引起ラグ17が起立された状態が維持される。また、突出部17Bが当接して引起ラグ17を起立させる起立ガイド22Aが、下部アーム22の図4における下側に設けられると共に、図4〜図6に示すように固定側輪体18及び可動側輪体20の外周面に突出部17Bが当接して引起ラグ17を起立させた状態を維持できる。
【0041】
従って、引起ケース12の下部から上昇行程中において引起ラグ17が起立され、引起ケース12の上部から引起ラグ17を倒伏させることで、これら複数の引起ラグ17の内の必要なものが引起ケース12内から外側に突出している。
【0042】
この一方、連結アーム24は、この下部アーム22を回動するための切換機構と連結される。具体的には、図4〜図6に示すように切換アーム34の一端が連結アーム24の長手方向中程に回動可能に取り付けられ、この切換アーム34の中程が後側ハーフ12Bに回転動可能に支点34Aとして支持される。この切換アーム34の他端に、チューブ35内から突出している切換用ワイヤ36の一端が連結され、この切換用ワイヤ36の他端が図示しないモータの駆動により引っ張られる構成とされる。また、切換アーム34の他端にコイルスプリングである引張スプリング38の下端が取り付けられ、この切換アーム34が図4及び図5における時計回転方向に常時付勢される。
【0043】
これに伴い、操縦部7上の操縦者による操作によって図示しないモータが駆動することで、このモータにより切換用ワイヤ36が引っ張られて上記の切換機構が作動する。このため、引張スプリング38の付勢力に抗して、切換アーム34が切換え動作して支点34A廻りに回動することで、連結アーム24が上下動して、下部アーム22の先端側及び可動側輪体20が上下方向に揺動する。この結果、図4に示す可動側輪体20の下降位置と図5に示す可動側輪体20の上昇位置とをそれぞれ採る。
【0044】
そして、可動側輪体20が下降位置と上昇位置との間で上下動するのと同時に、引起ケース12に対してスライド可能とされる連結アーム24が移動するのに合わせて、テンションアーム28が回動しつつ連結アーム24に軸支されるテンションスプロケット26が移動する。これに伴い、下部から上向きに付勢する圧縮スプリング29によりテンションスプロケット26が最適な位置に移動することで、チェン16の張力が適切に維持される。
【0045】
以上より、操作手段である切換アーム34の切換え動作により、下部アーム22の先端側が上下方向に揺動するが、固定側輪体18に隣り合って配置される可動側輪体20は、図5に示す上昇位置にある時には、引起ケース12の下部において引起ラグ17の先端部の軌跡を円弧状とする第1軌道をとる。これに対して、可動側輪体20が必要時とされる図4に示す下降位置に位置した時には、引起ケース12の下部において引起ラグ17の先端部軌跡の一部を横方向(水平方向)の直線状とする第2軌道をとる。これに合わせて該第2軌道では、固定側輪体18と可動側輪体20との間の軸間距離Sだけ第1軌道より幅広として引起ラグ17を回転させる。
【0046】
従って、湿田などの株抜けしやすい圃場での収穫作業や、稈切れしやすい作物の収穫作業の場合には、第1軌道として、従来技術と同様の通常の円軌跡のラグ作用とする。他方、完全倒伏の場合には、可動側輪体20を下降して第2軌道として、引起ラグ17の最下部における軌跡の幅寸法を広げることで、作用域を増やし、引き起し性能を向上させるようにした。
【0047】
この結果として、本実施の形態のコンバイン1の刈取装置では、作物状態や圃場状態によって引起ケース12における最下部のラグ作用域を変更可能として、第1引起装置70を使い分けるようにすることで、条件適応性が向上する。
【0048】
他方、本実施の形態のコンバイン1では、4つの引起装置70、80の内の左右の第1引起装置70に関して、引起ラグ17の先端部の軌跡を第1軌道と第2軌道とで切換え可能としたが、図8に示す中央の2つの第2引起装置80に関しては、可動側輪体20及び切換機構等が無く、駆動スプロケット14、固定側輪体18及びテンションスプロケット26にチェン16が連続的に巻き掛けられた通常の構造になっている。
【0049】
尚、本実施形態のような多条刈である4条刈のコンバイン1では、外側に位置する2つの第1引起装置70に、下降位置と上昇位置との間での可動側輪体20の位置を連結アーム24の上下動を介して切換える切換アーム34及び図示しないモータをそれぞれ設けることで、これら複数のモータを同時に回転するのに伴い、各モータの駆動力によって切換アーム34を同時切換え可能としても良い。
【0050】
そして、コンバイン1の走行速度を切換える為に、操縦部7に設置される走行変速レバーである副変速レバー8を倒伏穀稈の刈取作業に適した低速側に変速操作し、当該副変速レバー8の基部に設けた図示しない切換スイッチがONとなることで、このモータを駆動回転させるような構造にすれば、走行速度を切換え動作に連動してモータや切換用ワイヤ36等により切換アーム34を切換え動作して、副変速、倒伏/低速等に同時に切換えることができる。
【0051】
以上より、遠隔操作により作動切換えをコンバイン1の走行速度の切換えに連動させることができ、操作性を一層向上させることが可能となる。また、2条刈のコンバインでは、右側の第1引起装置にのみ、可動側輪体20、連結アーム24及び切換アーム34等を設置することで、操作部からの手動による取り扱いを可能としても良い。
【0052】
<第2実施形態>
図9〜図13は、本発明の第2実施形態を示している。図9に示すとおり本実施形態の各引起装置70、80の上部には、これら引起装置70、80の上側部分間を繋ぐ連結フレーム42が存在しており、透明のバイザー44の基端側が回転動可能にこの連結フレーム42の先端側に取り付けられる。この為、このバイザー44は、図13(A)に示す非使用時とされる非作動状態においてこの連結フレーム42の下側に収納可能であると共に、図13(B)に示す使用時とされる作動状態においてこの連結フレーム42より前方に向けて水平方向に突出可能ともされる。
【0053】
図9〜図11に示すとおり、稲等の粒を感知する為の接触センサや赤外線センサ等から成る粒飛散感知センサ46が、バイザー44を連結フレーム42より前方に向けて広げた際におけるこのバイザー44の上側に2つ配置される。この為、刈取作業中に引き起された穂先より飛散する水滴、粒の量、稲等の粒Gがバイザー44に接触するのに伴い、これらの粒Gの状態をこの粒飛散感知センサ46が感知して検出する。
【0054】
他方、エンジンの動作を制御する図示しないコントローラが、このエンジンに接続されるだけでなく、この粒飛散感知センサ46にも接続される。この為、粒飛散感知センサ46からの検出信号に基づきコントローラがこのエンジンの回転数を多段階に制御する構造に、本実施形態のコンバイン1はされる。そして、このコントローラはコンバイン1の運転席に配置される図9に示すモニタ50にも接続されていて、粒飛散感知センサ46による検出の状態をこのモニタ50により表示可能ともされる。
【0055】
さらに、図10に示すように上昇行程中の起立ラグ17の上部寄りのものを引起ケース12内に収納可能とする切換装置52が引起ケース12に取り付けられ、上昇行程中における起立ラグ17の作用高さ(起立範囲)をこの切換装置52が変更できるようにもなるが、この切換装置52もコントローラに接続される。
【0056】
以上より、本実施形態においては、刈取作業中において飛散粒の量が多くなって粒飛散感知センサ46がこれを検知した場合に、飛散し粒飛散感知センサ46に接触してくる粒Gのレベルに応じて、コントローラがエンジンの回転数を変更する。これに伴い、コンバイン1の走行速度及び引起ラグ17の回転速度を調節して、作物の引起速度を自動的に変更する。
【0057】
そして、上昇行程中の各起立ラグ17の上部寄りに位置するものを切換装置52がコントローラからの指示により自動的に引起ケース12内に収納させて、起立ラグ17の作用高さを変更することもできる。但し、これら起立ラグ17の作用高さの変更とエンジンの回転数の変更とを併せて実行する事にしても良い。さらには上記と異なりモニタ50に粒のレベルを表示することで、搭乗者が起立ラグ17の回転速度を変更して、作物の引起速度を適正な速度に修正することもできる。
【0058】
この一方、刈取作業中の穂先から飛散する水滴、粒の量、稲の状態を粒飛散感知センサ46にて感知し、稲の飛散量等の飛散情報を操縦部7に存在するIQアクセル54(図12に示す)に対応させるように、このIQアクセル54にコントローラを接続しても良い。このような構造にした結果、最適な作業適応状態にするようにフィードバックして適正なエンジン回転数に修正することで、ヘッドロスや脱穀ロスを防止して作業快適性の向上が図れる。以上より、IQアクセル54にコントローラを接続した本実施形態のコンバイン1によっても、収量の増加及びヘッドロスの低下が図れる。
【0059】
次に、粒飛散感知センサ46のバイザー44への設置について具体的に説明する。
図13に示すとおり各引起装置70、80からブラケット60が上方に延びる形で設置されていて、このブラケット60の上端部に連結フレーム42が取り付けられる。この連結フレーム42の先端側に前述のようにバイザー44の基端部が回動可能に支持され、このバイザー44に粒飛散感知センサ46が設置され、この粒飛散感知センサ46が図13(B)に示す作動状態とバイザー44が回動して収納された図13(A)に示す非作動状態との各位置を採れる。
【0060】
但し、粒飛散感知センサ46の背面側にスイッチ46Aが配置され、これに対応して接触具61が、バイザー44のヒンジである回動支持部62の近傍に取り付けられる。従って、図13(A)に示すバイザー44が連結フレーム42内に収納された状態では、スイッチ46Aがオフとなって、粒飛散感知センサ46が使用不可能な非作動状態となるが、図13(B)に示す連結フレーム42が起こされた状態では、スイッチ46Aがオンとなって、粒飛散感知センサ46が使用可能な作動状態となる。
【0061】
これに伴い、バイザー44が収納される場合には、コントローラが粒飛散感知センサ46を不通とし、バイザー44の使用時のみ、粒飛散感知センサ46が作動する作動状態としてコントローラがこの作動状態においてコンバイン1の動作の調整をし、或いはモニタ50へ検出結果が表示される。以上より、バイザー44の使用時のみ、粒飛散感知センサ46を作動させることで、消費電力量を省けるだけでなく、粒飛散感知センサ46の誤作動を防止できる。
【0062】
<第3実施形態>
図14は、本発明の第3実施形態を示している。本実施形態も第2実施形態とほぼ同様の構造とされるものの、粒飛散感知センサ46はバイザー44に設置されていない。但し、本実施形態では、図14に示すとおり連結フレーム42の両端部にそれぞれ位置している横方向カバー43の基端部及び連結フレーム42の基端部が、ヒンジである回動支持部63を介して回動可能にブラケット60に支持され、この横方向カバー43の上側に、前述の粒飛散感知センサ46が設置される。
【0063】
この結果、横方向カバー43が倒れている図14(A)に示す不使用状態と回動支持部63廻りに回動して横方向カバー43が起こされている図14(B)に示す使用状態とを採れるようになる。そして、粒飛散感知センサ46の背面側に配置されるスイッチ46Aに対応して、接触具64が、横方向カバー43の回動支持部63の近傍に取り付けられる。
【0064】
従って、図14(A)に示す横方向カバー43が倒れている不使用状態では、スイッチ46Aがオフとなって、粒飛散感知センサ46が使用不可能な状態となるが、図14(B)に示す横方向カバー43が起こされた状態では、スイッチ46Aがオンとなって、粒飛散感知センサ46が使用可能な状態となる。
【0065】
これに伴い、横方向カバー43が倒れている時には、コントローラが粒飛散感知センサ46を不通とする非作動状態とし、横方向カバー43が起こされた時のみ、粒飛散感知センサ46が作動する作動状態として、コントローラがこの作動状態においてコンバイン1の動作の調整をし、或いはモニタ50へ検出結果が表示される。
【0066】
以上より、本実施形態のように粒飛散感知センサ46を横方向カバー43に設けることで、横方向カバー43近傍における粒の検知が可能となり、センサによる粒の感知範囲の拡大が図れるようになる。また、横方向カバー43の使用時のみ、粒飛散感知センサ46を作動させることで、消費電力量が省けるだけでなく、粒飛散感知センサ46の誤作動を防止できる。
【0067】
さらに、本発明の第3実施形態では、粒飛散感知センサ46を横方向カバー43にのみ設けたが、同時にバイザー44にも粒飛散感知センサ46を設ける構造としても良い。このような構造とすれば、より一層広範囲に粒の検出が可能となりより適切に、収量の増加及びヘッドロスの低下が図れる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、2条〜7条刈りコンバインの刈取装置に利用できるものである。
【符号の説明】
【0069】
1 コンバイン
8 副変速レバー(走行変速レバー)
12 引起ケース
14 駆動スプロケット
16 チェン
17 引起ラグ
18 固定側輪体
20 可動側輪体
22 下部アーム
22A 起立ガイド
24 連結アーム
26 テンションスプロケット
28 テンションアーム
29 圧縮スプリング
34 切換アーム(操作手段)
36 切換用ワイヤ
38 引張スプリング
70 第1引起装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
引起ケース(12)の下部からの引起ラグ(17)の上昇行程において当該引起ラグ(17)を起立させる引起装置(70)を備え、
前記引起ケース(12)の下部において引起ラグ(17)の先端部の軌跡を円弧状とする第1軌道と、該引起ラグ(17)の先端部の軌跡を前記第1軌道よりも引起ケース(12)の下部において幅広とする第2軌道とに切換える操作手段(34)を設けたことを特徴とする刈取装置。
【請求項2】
前記引起ケース(12)の下部において引起ラグ(17)の先端部軌跡の一部を横方向の直線状とすることで、前記第2軌道を形成する構成としたことを特徴とする請求項1記載の刈取装置。
【請求項3】
前記引起ケース(12)に駆動スプロケット(14)と固定側輪体(18)と可動側輪体(20)を設け、
該駆動スプロケット(14)と固定側輪体(18)と可動側輪体(20)に前記引起ラグ(17)を備えたチェン(16)を巻き掛け、
前記操作手段(34)を可動側輪体(20)に接続し、該操作手段(34)によって可動側輪体(20)を上下動させることで前記第1軌道と第2軌道との切替えを行なう構成としたことを特徴とする請求項1又は2記載の刈取装置。
【請求項4】
前記可動側輪体(20)を先端側に有する下部アーム(22)の基端部が、固定側輪体(18)の支持軸に対して回動自在に取付けられ、
前記操作手段(34)の切換え動作により前記下部アーム(22)の先端側が上下方向に揺動する構成としたことを特徴とする請求項3記載の刈取装置。
【請求項5】
前記引起ラグ(17)を上昇行程において起立させる起立ガイド(22A)が、前記下部アーム(22)に設けられたことを特徴とする請求項4記載の刈取装置。
【請求項6】
走行変速レバー(8)の変速操作位置に応じて前記操作手段(34)が作動する構成としたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の刈取装置。
【請求項7】
前記操作手段(34)の一端側と前記下部アーム(22)の先端部との間が連結アーム(24)で接続され、
前記操作手段(34)の他端側には、該操作手段(34)を一方向に付勢する引張スプリング(38)及び、該引張スプリング(38)の付勢力に抗しつつ該操作手段(34)の切換え動作をさせる切換用ワイヤ(36)が取り付けられたことを特徴とする請求項4乃至6のいずれかに記載の刈取装置。
【請求項8】
テンションスプロケット(26)を先端側に有するテンションアーム(28)の基端部が、前記駆動スプロケット(14)の支持軸に対して回動自在に取付けられ、
該テンションスプロケット(26)が前記連結アーム(24)に対して圧縮スプリング(29)を介して伸縮自在に支持されたことを特徴とする請求項7記載の刈取装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【公開番号】特開2012−152194(P2012−152194A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−16622(P2011−16622)
【出願日】平成23年1月28日(2011.1.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】