説明

制御システム、この制御システムを構成する制御回路、この制御回路を備えた分散電源、およびこの制御システムを構成するサーバ

【課題】電力系統に複数の分散電源が連系されている場合でも電力系統の安定性を損なうことなく、各分散電源の発電機会の損失を均等化することができる制御システムを提供する。
【解決手段】電力系統Bに連系されている分散電源A1〜Anが出力する有効電力の電力値P1〜Pnを各制御回路がサーバDに送信する。サーバDは、受信した電力値P1〜Pnの合計値に対する各電力値P1〜Pnの割合に基づいて係数K1〜Knを算出し、対応する制御回路にそれぞれ送信する。各分散電源Ai(i=1〜n)の制御回路は、検出した位相変化量Δθiと受信した係数Kiとを乗算することで同期化電力PSiを算出し、これを修正値として目標有効電力を調整することで、各分散電源Aiから出力される有効電力に同期化電力を重畳させる。これにより、各分散電源A1〜Anの発電機会の損失を均等化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電力を交流電力に変換するインバータ回路をPWM制御するための制御回路と当該制御回路との間で情報の送受信を行うサーバとを備えた制御システム、この制御システムを構成する制御回路、この制御回路を備えた分散電源、およびこの制御システムを構成するサーバに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池や燃料電池などによって生成される直流電力をインバータで交流電力に変換して出力する分散型電源が開発されている。これらの分散電源は、既存の電力系統に連系されて、電力系統に電力を供給する。電力系統には火力や原子力を用いて発電を行う同期発電機が接続されており、分散型電源も同期発電機と並列接続される。
【0003】
電力系統上の同期発電機は同期運転を行うために、位相が進んでいる同期発電機から位相が遅れている同期発電機に有効電力を供給する。この有効電力は位相を同期させるように作用するので、同期化電力と呼ばれる。同期化電力を供給した同期発電機の位相が遅れ、同期化電力を供給された同期発電機の位相が進むことで、各同期発電機の位相が調整される。この位相を調整するための力は、位相の変化量に対する同期化電力の変化量で表され、同期発電機の同期化力と呼ばれる。この同期化力が同期発電機間で作用することにより、いずれかの同期発電機の回転子の回転速度が一時的に変化した場合でも、同期発電機間での同期化電力の授受によって位相の調整が行われる。これにより、電力系統が安定に保たれている。しかしながら、同期化力を有しない分散型電源が電力系統に大量に連系された場合、同期化電力の授受が適切に行われなくなって、電力系統の安定性が損なわれると予見されている。
【0004】
また、電力系統において安定かつ高品質の電力を供給するために、同期発電機は電力系統の周波数を基準となる周波数に保つための周波数制御を行っている。電力系統の周波数が上昇すると、電力系統から発電設備が脱落し、さらに他の発電設備に負担がかかることで連鎖的に発電設備の脱落が生じる場合がある。この現象は電力系統を不安定にするものなので、これを防ぐために周波数制御が行われる。同期発電機は、検出された系統周波数の変化に基づいて出力電力を調整することで、電力の需給バランスを保つようにしている。これにより、電力系統の系統周波数は安定に保たれている。しかしながら、周波数制御を行わない分散型電源が電力系統に大量に連系された場合、系統周波数の制御が適切に行われなくなって、電力系統の系統周波数の安定性が損なわれると予見されている。
【0005】
分散型電源が電力系統に大量に連系された場合でも電力系統の安定性を維持するために、同期化力を有し、周波数制御を行う分散電源が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010‐161901号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、電力系統に連系されている各分散電源がそれぞれ個別に制御を行うと、電力系統上で電力の供給が過剰となったり、抑制が過剰となったりする可能性がある。この場合、電力系統の安定性が損なわれることとなる。また、電力系統の安定のために電力供給が抑制されると、電力供給を行っている者は発電の機会を損失することになる。したがって、電力供給を抑制する場合は、各分散電源が平等になるようにする必要がある。
【0008】
本発明は上記した事情のもとで考え出されたものであって、電力系統に複数の分散電源が連系されている場合でも電力系統の安定性を損なうことなく、各分散電源の発電機会の損失を均等化することができる制御システムを提供することをその目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明では、次の技術的手段を講じている。
【0010】
本発明の第1の側面によって提供される制御システムは、直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を有し電力系統に前記交流電力を供給する複数の分散電源にそれぞれ備えられる、前記インバータ回路をPWM制御するための制御回路と、前記各制御回路との間で情報の送受信を行うサーバとを含む制御システムであって、前記各制御回路は、前記分散電源の出力に関する電気的情報を前記サーバに送信する電気的情報送信手段と、前記サーバより受信した算出情報に基づいて、前記インバータ回路が出力する電圧信号を指令するための指令値信号を生成する指令値信号生成手段と、前記指令値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段とを備え、前記電力系統に接続されている他の電力供給源との間で電圧位相の同期化を行なうように前記インバータ回路が出力する交流電力を制御し、前記サーバは、前記各制御回路より受信した前記電気的情報に基づいて、前記各分散電源の出力に対応する前記算出情報をそれぞれ算出する情報算出手段と、前記情報算出手段によって算出された前記各算出情報をそれぞれ対応する前記各制御回路に送信する情報送信手段とを備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記情報算出手段は、前記各制御回路より受信した前記電気的情報の合計値に対する前記電気的情報の割合に基づく係数をそれぞれ算出する係数算出手段を備えている。
【0012】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記各制御回路は、前記分散電源が出力する有効電力の電力値を算出する有効電力算出手段をさらに備え、前記電気的情報送信手段は前記有効電力算出手段によって算出された電力値を前記電気的情報として送信する。
【0013】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記各制御回路は、前記電力系統の位相を検出し、検出した位相の変化量を算出する位相変化量算出手段と、前記位相変化量および前記係数から算出された修正値に基づいて、出力有効電力の目標値を修正する目標修正手段とをさらに備え、前記指令値信号生成手段は、前記有効電力算出手段によって算出された電力値を、前記目標修正手段によって修正された修正目標値に一致させるための指令値信号を生成する。
【0014】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記情報送信手段は、前記係数算出手段によって算出された前記各係数を前記各算出情報として、それぞれ対応する前記各制御回路に送信し、前記各制御回路は、前記位相変化量算出手段によって算出された前記位相変化量と前記サーバより受信した係数とを乗算して、前記修正値を算出する修正値算出手段をさらに備えている。
【0015】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記各制御回路は、前記位相変化量算出手段によって算出された前記位相変化量を前記サーバに送信する位相変化量送信手段をさらに備え、前記情報算出手段は、前記係数算出手段によって算出された前記各係数とそれぞれ対応する前記各制御回路より受信した前記位相変化量とを乗算して、前記修正値をそれぞれ算出する修正値算出手段をさらに備えており、前記情報送信手段は、前記修正値算出手段によって算出された前記修正値を前記各算出情報として、それぞれ対応する前記各制御回路に送信する。
【0016】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記各制御回路は、前記位相変化量算出手段によって算出された前記位相変化量を前記サーバに送信する位相変化量送信手段と、前記サーバより受信した前記各算出情報から前記修正値を算出する修正値算出手段とをさらに備え、前記情報算出手段は、前記各制御回路より受信した前記位相変化量の平均値または中央値である位相変化量基準値を算出する位相変化量基準値算出手段をさらに備え、前記情報送信手段は、前記係数算出手段によって算出された前記各係数と、前記位相変化量基準値算出手段によって算出された前記位相変化量基準値とを、前記各算出情報として、それぞれ対応する前記各制御回路に送信し、前記修正値算出手段は、前記サーバより受信した前記係数と前記位相変化量基準値とを乗算して、前記修正値を算出する。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記各制御回路は、前記位相変化量算出手段によって算出された前記位相変化量を前記サーバに送信する位相変化量送信手段をさらに備え、前記情報算出手段は、前記各制御回路より受信した前記位相変化量の平均値または中央値である位相変化量基準値を算出する位相変化量基準値算出手段と、前記係数算出手段によって算出された前記各係数と前記位相変化量基準値算出手段によって算出された前記位相変化量基準値とを乗算して、前記修正値をそれぞれ算出する修正値算出手段とをさらに備え、前記情報送信手段は、前記修正値算出手段によって算出された前記修正値を前記算出情報として、それぞれ対応する前記各制御回路に送信する。
【0018】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記各制御回路は、前記位相変化量算出手段によって算出された前記位相変化量を前記サーバに送信する位相変化量送信手段を備え、前記情報算出手段は、前記各制御回路より受信した前記位相変化量が正の値であるか負の値であるかをそれぞれ判別する正負判別手段をさらに備え、前記係数算出手段は、前記位相変化量が正の値であると判別された前記各制御回路より受信した前記電気的情報の合計値に対する当該各制御回路より受信した前記電気的情報の割合に基づく係数をそれぞれ算出する第1の係数算出手段と、前記位相変化量が負の値であると判別された前記各制御回路より受信した前記電気的情報の合計値に対する当該各制御回路より受信した前記電気的情報の割合に基づく係数をそれぞれ算出する第2の係数算出手段とを備えている。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記情報算出手段は、前記各制御回路より受信した前記位相変化量が正の値であるか負の値であるかをそれぞれ判別する正負判別手段をさらに備え、前記係数算出手段は、前記位相変化量が正の値であると判別された前記各制御回路より受信した前記電気的情報の合計値に対する当該各制御回路より受信した前記電気的情報の割合に基づく係数をそれぞれ算出する第1の係数算出手段と、前記位相変化量が負の値であると判別された前記各制御回路より受信した前記電気的情報の合計値に対する当該各制御回路より受信した前記電気的情報の割合に基づく係数をそれぞれ算出する第2の係数算出手段とを備え、前記位相変化量基準値算出手段は、正の値であると判別された前記位相変化量の前記位相変化量基準値を算出する第1の位相変化量基準値算出手段と、負の値であると判別された前記位相変化量の前記位相変化量基準値を算出する第2の位相変化量基準値算出手段とを備えている。
【0020】
本発明の好ましい実施の形態においては、前記電力系統には交流電力を供給する同期発電機が接続されており、前記係数算出手段は、前記各制御回路より受信した前記有効電力の電力値Pi(i=1,2,〜,n)に基づいて、前記係数Kiを下記式により算出する。
【0021】
【数1】

ただし、Kiは複数の分散電源がn台ある場合のi番目の分散電源の制御回路に対応する係数であり、ZSおよびEGは前記同期発電機の同期インピーダンスおよび端子電圧である。
【0022】
本発明の第2の側面によって提供される制御回路は、直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を有し電力系統に前記交流電力を供給する分散電源に備えられる、前記インバータ回路をPWM制御するための制御回路であって、前記分散電源の出力に関する電気的情報をサーバに送信する電気的情報送信手段と、前記サーバが複数の前記制御回路から受信した前記電気的情報に基づいて算出して送信した前記各分散電源の出力に対応する算出情報に基づいて、前記インバータ回路が出力する電圧信号を指令するための指令値信号を生成する指令値信号生成手段と、前記指令値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段とを備えていることを特徴とする。
【0023】
本発明の第3の側面によって提供される分散電源は、インバータ回路と、本発明の第2の側面によって提供される制御回路とを備えている。
【0024】
本発明の第4の側面によって提供されるサーバは、直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を有し電力系統に前記交流電力を供給する複数の分散電源にそれぞれ備えられる、前記インバータ回路をPWM制御するための制御回路との間で情報の送受信を行うサーバであって、前記各制御回路より受信した前記各分散電源の出力に関する電気的情報に基づいて、前記各分散電源の出力に対応する算出情報をそれぞれ算出する情報算出手段と、前記情報算出手段によって算出された前記各算出情報をそれぞれ対応する前記各制御回路に送信する情報送信手段とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、各分散電源の出力に関する電気的情報がサーバに送信され、サーバがこれらの電気的情報に基づいて各制御回路に送信するための算出情報を算出する。各制御回路は、サーバから受信した算出情報に基づいて、各分散電源が電力系統に供給する交流電力を制御する。したがって、各分散電源は、その出力に応じて、電力系統に供給する交流電力を制御される。これにより、各分散電源の負担が出力に対応した平等なものとなる。したがって、電力系統に連系されている複数の分散電源の発電機会の損失を均等化することができる。また、サーバが各分散電源の出力電力を制御するための算出情報を算出して各制御回路に送信することで、各制御回路を制御しているので、電力系統上で電力の供給が過剰となったり、抑制が過剰となったりすることを抑制することができる。これにより、電力系統の安定性が損なわれることを抑制することができる。
【0026】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る制御システムの第1実施形態を説明するためのブロック図である。
【図2】第1実施形態に係る制御システムを構成する制御回路を備えた分散電源を説明するためのブロック図である。
【図3】第1実施形態に係る制御システムを構成する制御回路を説明するためのブロック図である。
【図4】第1実施形態に係る制御システムを構成するサーバを説明するためのブロック図である。
【図5】第1実施形態に係る制御システムを構成する制御回路の他の実施例を説明するためのブロック図である。
【図6】本発明に係る制御システムの第2実施形態を説明するためのブロック図である。
【図7】本発明に係る制御システムの第3実施形態を説明するためのブロック図である。
【図8】本発明に係る制御システムの第4実施形態を説明するためのブロック図である。
【図9】本発明に係る制御システムの第5実施形態を説明するためのブロック図である。
【図10】第5実施形態に係る制御システムを構成するサーバを説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
【0029】
図1は、本発明に係る制御システムの第1実施形態を説明するためのブロック図である。本実施形態では、1台の同期発電機Cが接続された電力系統Bに、n台の分散電源A1〜Anが連系された場合について説明する。
【0030】
当該制御システムは、電力系統Bに電力を供給する分散電源A1〜Anの各インバータ回路(図示せず)をそれぞれ制御する制御回路、および、これらの制御回路との間で情報の送受信を行うサーバDとを備えている。各制御回路は、それぞれ分散電源Ai(i=1,2,〜,n)が出力する有効電力の電力値Piおよび電圧位相の変化量ΔθiをサーバDに送信し、サーバDから送信される係数Kiを受信する。また、各制御回路は、受信した係数Kiに基づいてインバータ回路を制御することで、分散電源Aiが出力する有効電力を制御する。サーバDは、各制御回路から入力される有効電力の電力値P1〜Pnおよび電圧位相の変化量Δθ1〜Δθnに基づいて係数K1〜Knを算出し、各分散電源Aiの制御回路に係数Kiをそれぞれ送信する。
【0031】
図2は、第1実施形態に係る制御システムを構成する制御回路を備えた分散電源Aを説明するためのブロック図である。各分散電源A1〜Anの構成は、分散電源Aと同様である。
【0032】
分散電源Aは、直流電源1、インバータ回路2、制御回路3、フィルタ回路4、変圧回路5、電流センサ6、および、電圧センサ7を備えている。分散電源Aは、直流電源1によって生成された直流電力を、インバータ回路2で交流電力に変換し、電力系統Bに供給するものである。
【0033】
直流電源1は、直流電力を生成するものであり、太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池を備えている。なお、直流電源1は、太陽電池により直流電力を生成するものに限定されない。例えば、直流電源1は、燃料電池、蓄電池、電気二重層コンデンサやリチウムイオン電池であってもよい。また、ディーゼルエンジン発電機、マイクロガスタービン発電機や風力タービン発電機などにより生成された交流電力を直流電力に変換して出力する装置であってもよい。
【0034】
インバータ回路2は、三相インバータであり、図示しない3組6個のスイッチング素子を備えたPWM制御型インバータ回路である。インバータ回路2は、制御回路3から入力されるPWM信号に基づいて各スイッチング素子をオンオフ動作させることで、直流電源1から入力される直流電力を交流電力に変換する。なお、インバータ回路2は三相インバータに限定されず、単相インバータであってもよい。
【0035】
制御回路3は、インバータ回路2のスイッチング素子のオンオフ動作を制御するPWM信号を生成するものである。制御回路3は、電流センサ6から出力電流信号Iを入力され、電圧センサ7から出力電圧信号Vを入力され、サーバDから係数Kを入力され、これらを用いてPWM信号を生成して、インバータ回路2に出力する。また、制御回路3は、分散電源Aが出力する有効電力の電力値Pおよび電圧位相の変化量Δθを算出して、サーバDに送信する。制御回路3の詳細については後述する。
【0036】
フィルタ回路4は、リアクトルとキャパシタとを備えたローパスフィルタである。フィルタ回路4は、インバータ回路2から出力される交流電圧に含まれるスイッチングノイズを除去する。変圧回路5は、フィルタ回路4から出力される交流電圧を系統電圧とほぼ同一のレベルに昇圧または降圧する。
【0037】
電流センサ6は、分散電源Aから出力される交流電流を検出するものである。検出された出力電流信号Iは、制御回路3に入力される。電圧センサ7は、分散電源Aの出力端の電圧(すなわち連系点での系統電圧)を検出するものである。検出された出力電圧信号Vは、制御回路3に入力される。
【0038】
次に、制御回路3の詳細について説明する。
【0039】
図3は、制御回路3を説明するためのブロック図である。制御回路3は、有効電力算出部31、位相検出部32、位相変化量算出部33、乗算部34、目標修正部35、偏差算出部36、有効電力制御部37、指令値信号生成部38、および、PWM信号生成部39を備えている。
【0040】
有効電力算出部31は、分散電源Aから出力される有効電力の電力値(以下では、「出力有効電力値」とする。)Pを算出するものである。有効電力算出部31は、電流センサ6より入力される出力電流信号Iと電圧センサ7より入力される出力電圧信号Vとから出力有効電力値Pを算出し、偏差算出部36およびサーバDに出力する。
【0041】
位相検出部32は、いわゆるPLL回路であり、電圧センサ7より入力される出力電圧信号Vの位相θを所定のタイミングで検出するものである。なお、各制御回路3における位相θの検出タイミングは同期されている。位相検出部32は、検出した位相θを位相変化量算出部33に出力する。
【0042】
位相変化量算出部33は、位相検出部32より入力される位相θの変化量Δθを算出するものである。位相変化量算出部33は、今回入力された位相θと前回入力された位相θとの差から位相の変化量Δθを算出する。したがって、位相θが進んだ場合は変化量Δθが正の値となり、位相θが遅れた場合は変化量Δθが負の値となる。位相変化量算出部33は、算出した位相変化量Δθを乗算部34およびサーバDに出力する。
【0043】
乗算部34は、位相変化量算出部33から入力される位相変化量ΔθにサーバDから入力される係数Kを乗算することで、修正値(同期化電力の目標値)PSを算出して出力するものである。サーバDから入力される係数Kは正の値なので、位相が進んで位相変化量Δθが正の値となっている場合、修正値PSは正の値となり、位相が遅れて位相変化量Δθが負の値となっている場合、修正値PSは負の値となる。
【0044】
目標修正部35は、乗算部34より入力される修正値PSを、目標有効電力P*から減算して偏差算出部36に出力するものである。なお、本実施形態では同期発電機Cから分散電源Aに同期化電力が供給される場合を正の方向としている(図1参照)ので、目標修正部35は、目標有効電力P*から修正値PSを減算している。すなわち、修正値PSが正の値の場合、目標有効電力P*が減少するように修正され、修正値PSが負の値の場合、目標有効電力P*が増加するように修正される。
【0045】
偏差算出部36は、有効電力算出部31より入力される出力有効電力値Pと、目標修正部35より入力される修正後の目標有効電力(P*−PS)との偏差ΔPを算出するものである。算出された偏差ΔPは、有効電力制御部37に入力される。
【0046】
有効電力制御部37は、偏差算出部36より入力される偏差ΔPに基づいて、出力する有効電力を制御するための補正値を算出し、指令値信号生成部38に出力するものである。
【0047】
指令値信号生成部38は、有効電力制御部37より入力される補正値に基づいて、インバータ回路2が出力する電圧信号を指令するための指令値信号を生成するものである。
【0048】
PWM信号生成部39は、指令値信号生成部38より入力される指令値信号と予め設定されているキャリア信号との差分に基づいて、デッドタイムを付加したパルス信号を生成する。PWM信号生成生成部39は、生成されたパルス信号をPWM信号としてインバータ回路2に出力する。なお、PWM信号の生成方法は、指令値信号とキャリア信号との差分に基づいて生成する場合(例えば、三角波比較法)に限定されない。例えば、いわゆるヒステリシス制御によってPWM信号を生成するようにしてもよい。
【0049】
なお、制御回路3の構成は、図3に示すものに限定されない。制御回路3は、電力系統Bに接続されている同期発電機Cなどの他の電力供給源との間で電圧位相の同期化を行なうようにインバータ回路2が出力する有効電力を制御するものであればよい。
【0050】
次に、分散電源Aの動作について説明する。
【0051】
インバータ回路2(図2参照)は、直流電源1が出力する直流電力を交流電力に変換する。フィルタ回路4は、インバータ回路2が出力する交流電圧のスイッチングノイズを除去する。変圧回路5は、フィルタ回路4が出力する交流電圧を変圧して、電力系統Bに供給する。制御回路3は、出力有効電力を制御するためのPWM信号を生成し、インバータ回路2に出力する。
【0052】
分散電源Aの連系点での電圧位相θが進んでいる場合、位相変化量算出部33が算出する位相変化量Δθは正の値となり、目標有効電力P*が修正値PSだけ減少するように修正される。したがって、分散電源Aの出力有効電力が減少するように制御される。これにより、同期発電機Cから分散電源Aに同期化電力が供給され、同期発電機Cの位相が遅れることで位相が調整される。逆に、電圧位相θが遅れている場合、位相変化量算出部33が算出する位相変化量Δθは負の値となり、目標有効電力P*が修正値PS(<0)の大きさだけ増加するように修正される。したがって、分散電源Aの出力有効電力が増加するように制御される。これにより、分散電源Aから同期発電機Cに同期化電力が供給され、同期発電機Cの位相が進むことで位相が調整される。すなわち、分散電源Aは、同期発電機Cと同様に同期化力を有する。
【0053】
また、位相変化量を時間で微分すると周波数変化量となり、周波数変化量を時間で積分すると位相変化量となる。したがって、位相変化量と周波数変化量とは対応関係にあるので、位相変化量に応じて出力有効電力を制御することにより、周波数制御を行うことができる。
【0054】
例えば、接続する負荷の変動により電力系統Bで有効電力の需要が増加した場合、分散電源Aの連系点での電圧位相θは遅れる。したがって、位相変化量算出部33が算出する位相変化量Δθは負の値となり、目標有効電力P*が位相変化量Δθの大きさに比例した値だけ増加するように修正される。したがって、分散電源Aの出力有効電力が増加するように制御される。逆に、電力系統Bで有効電力の需要が減少した場合、分散電源Aの連系点での電圧位相θは進む。したがって、位相変化量算出部33が算出する位相変化量Δθは正の値となり、目標有効電力P*が位相変化量Δθに比例した値だけ減少するように修正される。したがって、分散電源Aの出力有効電力が減少するように制御される。これにより、電力の需給バランスが保たれるので、電力系統Bの系統周波数は安定に保たれる。すなわち、分散電源Aは、同期発電機Cと同様に周波数制御を行うことができる。
【0055】
次に、サーバDの詳細について説明する。
【0056】
サーバDは、各分散電源A1〜Anの制御回路から入力される出力有効電力値P1〜Pnおよび位相変化量Δθ1〜Δθnに基づいて、各制御回路に送信する係数K1〜Knを算出する。本実施形態においては、同期発電機Cとの間で授受するための同期化電力の負担が連系されている分散電源A1〜Anで均等となるように、係数K1〜Knを算出している。
【0057】
図4は、サーバDを説明するためのブロック図である。サーバDは、受信部D1、算出部D2、および、送信部D3を備えている。
【0058】
受信部D1は、各分散電源A1〜Anの制御回路から送信される出力有効電力値P1〜Pnおよび位相変化量Δθ1〜Δθnを受信して、算出部D2に出力するものである。算出部D2は、受信部D1から入力される出力有効電力値P1〜Pnおよび位相変化量Δθ1〜Δθnに基づいて、所定の算出式により係数K1〜Knを算出して、送信部D3に出力するものである。所定の算出式については後述する。送信部D3は、算出部D2から入力される係数K1〜Knを、それぞれ対応する分散電源A1〜Anの制御回路に送信するものである。
【0059】
同期発電機C(図1参照)の電圧位相が進んだときに同期発電機Cから出力される同期化電力PSGを各分散電源A1〜Anに均等に入力し、同期発電機Cの電圧位相が遅れたときに同期発電機Cに入力される同期化電力PSGを各分散電源A1〜Anが均等に出力するように、係数K1〜Knを算出する。
【0060】
任意のタイミングにおける同期発電機Cから出力される同期化電力PSGは、電圧位相の変化量をΔθ、同期発電機Cの同期インピーダンスをZS、端子間電圧をEGとすると、下記(1)式で表すことができる。
【0061】
【数2】

【0062】
同期発電機Cから出力される同期化電力PSGを各分散電源A1〜Anに分散して入力するように制御すれば、位相を同期させることができる。したがって、上記タイミングにおける各分散電源A1〜Anに入力される同期化電力をそれぞれPS1〜PSnとすると、下記(2)式を満たすように、同期化電力PS1〜PSnを制御すればよい。
【0063】
【数3】

【0064】
また、各分散電源A1〜Anの負担を均等化するために、本実施形態では、各分散電源A1〜Anが出力する有効電力に応じて同期化電力を負担するようにする。すなわち、各分散電源A1〜Anに入力される同期化電力PS1〜PSnを下記(3)式とするように制御を行う。
【0065】
【数4】

【0066】
上記(1)式および(3)式より、下記(4)式が導かれる。また、同期化電力を入出力する際における電圧位相の変化量Δθはきわめて小さいので、SINΔθ≒Δθとみなすことができる。したがって、分散電源Ai(i=1,2,〜,n)に入力されるべき同期化電力PSi(i=1,2,〜,n)を下記(5)式で表すことができる。
【0067】
【数5】

【0068】
サーバDにおいて、同期発電機Cの同期インピーダンスZSおよび端子間電圧EGを予め記録しておき、各分散電源A1〜Anの制御回路から出力有効電力値P1〜Pnを受信することで、係数K1〜Knを算出することができる。サーバDは算出した係数K1〜Knをそれぞれ各分散電源A1〜Anの制御回路に送信し、各分散電源Ai(i=1,2,〜,n)の制御回路は係数Kiと位相変化量Δθiとから入力されるべき同期化電力PSiを算出する。算出された同期化電力PSiを修正値PSとして目標有効電力P*を調整することで、各分散電源A1〜Anから出力される有効電力に同期化電力を重畳させることができる。
【0069】
本実施形態においては、分散電源A1〜Anの出力有効電力値P1〜Pnが各制御回路からサーバDに送信され、サーバDで係数K1〜Knが算出される。算出された各係数K1〜Knは、それぞれ対応する制御回路に送信される。各分散電源Aiの制御回路は、受信した係数Kiに基づいて目標有効電力P*を修正する。各係数K1〜Knは、各分散電源A1〜Anの出力有効電力値P1〜Pnに応じて算出される。したがって、各分散電源A1〜Anが負担する同期化電力PS1〜PSnの出力有効電力値P1〜Pnに対する割合は、等しいものとなる。したがって、各分散電源A1〜Anの発電機会の損失を均等化することができる。また、各分散電源A1〜Anが負担する同期化電力PS1〜PSnの合計は、同期発電機Cの同期化電力PSGと一致するので、電力系統B上で電力の供給が過剰となったり、抑制が過剰となったりすることを抑制することができる。これにより、電力系統Bの安定性が損なわれることを抑制することができる。
【0070】
なお、上記第1実施形態においては、係数Kiの算出式を上記(5)式のただし書きに示す式としたが、これに限られない。例えば、出力有効電力値Piの2乗値に応じて同期化電力を負担するようにしてもよい。また、xを実数として、下記(6)式で係数Kiを算出するようにしてもよい。また、出力有効電流、出力無効電力、出力皮相電力などの他の電気的情報に応じて、係数Kiを算出するようにしてもよい。この場合には、各制御回路で対応する電気的情報を検出してサーバDに送信するようにすればよい。
【0071】
【数6】

【0072】
上記第1実施形態においては、各制御回路からサーバDに位相変化量Δθiも送信する場合について記載しているが、係数Kiの算出に位相変化量Δθiを使用していないので(上記(5)式ただし書き参照)、位相変化量Δθiを送信しないようにしてもよい。
【0073】
上記第1実施形態においては、制御回路3が出力有効電力を制御する場合について説明したが、これに限られない。例えば、出力有効電流を制御するようにしてもよい。この場合、制御回路を図5に示す制御回路3’の構成とすればよい。すなわち、位相変化量算出部33から出力される位相変化量ΔθにサーバDから入力される係数K’を乗算することで修正値(同期化電流の目標値)ISを算出し、目標有効電流IP*を修正する。有効電流算出部31’で算出された有効電流IPと修正後の目標有効電流(IP*−IS)との偏差ΔIPに基づいて有効電流制御部37’が補正値を出力する。なお、サーバDは、制御回路3’より入力される有効電流IPに基づいて係数K’を算出するようにすればよい。
【0074】
上記第1実施形態においては、サーバDが係数Ki(i=1,2,〜,n)を各分散電源Aiの制御回路に出力する場合について説明したが、これに限定されない。例えば、サーバDで係数Kiおよび位相変化量Δθiから同期化電力PSiをそれぞれ算出して、各制御回路にそれぞれ出力するようにしてもよい。
【0075】
図6は、本発明に係る制御システムの第2実施形態を説明するためのブロック図である。なお、同図において、上記第1実施形態(図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。第2実施形態に係る制御システムは、サーバDが係数Kiに代えて同期化電力PSiを送信する点で、第1実施形態とは異なる。サーバDは、算出した各係数Kiと各分散電源Aiの制御回路より受信した位相変化量Δθiとを乗算することで同期化電力PSiを算出して、各制御回路にそれぞれ送信する。各制御回路は、受信した同期化電力PSiを修正値PSとして、目標修正部35(図3参照)に入力する。この場合でも、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0076】
また、サーバDが各分散電源Aiの制御回路より受信した位相変化量Δθiの平均値(または、中央値)を算出して、各制御回路にそれぞれ出力するようにしてもよい。
【0077】
図7は、本発明に係る制御システムの第3実施形態を説明するためのブロック図である。なお、同図において、上記第1実施形態(図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。第3実施形態に係る制御システムは、サーバDが係数Kiに加えて位相変化量Δθiの平均値(または、中央値)Δθ’を送信する点で、第1実施形態とは異なる。サーバDは、各分散電源Aiの制御回路より受信した位相変化量Δθiの平均値(または、中央値)Δθ’を算出して、当該平均値(または、中央値)Δθ’と係数Kiとを各制御回路にそれぞれ送信する。各制御回路は、受信した平均値(または、中央値)Δθ’と係数Kiとを乗算することで同期化電力PSi’を算出し、修正値PSとして目標修正部35(図3参照)に入力する。この場合でも、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、位相変化量Δθiの平均値(または、中央値)Δθ’を用いるので、各制御回路で検出される位相変化量Δθiが誤差を含んでいた場合でも、各分散電源Aiの出力有効電力を適切に制御することができる。
【0078】
また、サーバDで係数Kiおよび平均値(または、中央値)Δθ’から同期化電力PSi’を算出して、各制御回路にそれぞれ出力するようにしてもよい。
【0079】
図8は、本発明に係る制御システムの第4実施形態を説明するためのブロック図である。なお、同図において、上記第1実施形態(図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。第4実施形態に係る制御システムは、サーバDが係数Kiに代えて同期化電力PSi’を送信する点で、第1実施形態とは異なる。サーバDは、各分散電源Aiの制御回路より受信した位相変化量Δθiの平均値(または、中央値)Δθ’を算出して、算出した各係数Kiと平均値(または、中央値)Δθ’とを乗算することで同期化電力PSi’を算出して、各制御回路にそれぞれ送信する。各制御回路は、受信した同期化電力PSi’を修正値PSとして、目標修正部35(図3参照)に入力する。この場合でも、第3実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0080】
なお、第3および第4実施形態において平均値(または、中央値)Δθ’を算出する際に、各分散電源A1〜Anの連系点以外の電圧位相の変化量も検出してサーバDに送信し、これらも用いて算出するようにしてもよい。この場合、母集団の数が多くなるので、平均値(または、中央値)Δθ’をより精度よく算出することができる。
【0081】
上記第1ないし第4実施形態においては、電力系統Bに1台の同期発電機Cのみが接続されている場合について説明した。電力系統Bに複数の同期発電機が接続されている場合、各同期発電機によって位相変化量が異なる場合がある。分散電源Aiで検出される位相変化量Δθiは、最も近い同期発電機の位相変化量となる。したがって、各分散電源Aiで検出される位相変化量Δθiが大きく異なる場合がある。全ての同期発電機の位相変化量が正の値の場合、各同期発電機から各分散電源Aiに同期化電力を供給するようにし、全ての同期発電機の位相変化量が負の値の場合、各分散電源Aiから各同期発電機に同期化電力を供給するようにすればよいので、それぞれの分散電源Aiが出力有効電力値Piに応じた同期化電力を負担すればよく、上述した方法を適用することができる。しかし、同期発電機間で同期化力が作用するので、一方の同期発電機の位相変化量は正の値であり、他方の同期発電機の位相変化量は負の値であるという状態が発生する。この場合、分散電源Aiによっては同期化電力を出力すべきものと、入力されるべきものとがある。すなわち、位相変化量が正の値である同期発電機に近い分散電源Aiは同期化電力を入力されるべきであり、位相変化量が負の値である同期発電機に近い分散電源Aiは同期化電力を出力すべきである。この場合、すべての分散電源Aiの出力有効電力値Piの合計値を用いる上記(5)式を用いても、適切な同期化電力を算出することができない。この場合は、検出した位相変化量Δθiが正である分散電源Aiと負である分散電源Aiとに分けて、別々に同期化電力を算出する必要がある。以下に第5実施形態として、電力系統Bに複数の同期発電機が接続されている場合について説明する。
【0082】
図9は、本発明に係る制御システムの第5実施形態を説明するためのブロック図である。なお、同図において、上記第1実施形態(図1参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。第5実施形態においては、2台の同期発電機C1およびC2が接続された電力系統Bに、n台の分散電源A1〜Anが連系されている場合について説明する。
【0083】
第5実施形態に係る制御システムは、サーバD’が、分散電源A1〜Anを2つのグループ(すなわち、検出された位相変化量Δθiが正であるグループと負であるグループ)に分けて、各グループに属する分散電源Aiの制御回路から入力される出力有効電力値Piに基づいて係数を算出する点で、第1実施形態とは異なる。
【0084】
図10は、サーバD’を説明するためのブロック図である。なお、同図において、上記第1実施形態(図4参照)と同一または類似の要素には、同一の符号を付している。サーバD’は、受信部D1に比較部D11と選択部D12とが設けられている点、および、算出部D2に位相進群算出部D21と位相遅群算出部D22とが設けられている点で、第1実施形態のサーバDと異なる。
【0085】
比較部D11は、各分散電源Aiの制御回路より受信した位相変化量Δθiが正の値であるか負の値であるかを判別するものであり、その判別結果を選択部D12に出力する。当該判別は、位相変化量Δθiがゼロ以上であるか否かで判別される。なお、位相変化量Δθiがゼロ以下であるか否かで判別するようにしてもよい。
【0086】
選択部D12は、比較部D11から入力される判別結果に基づいて、各分散電源Aiの制御回路より受信した出力有効電力値Piを、位相進群算出部D21または位相遅群算出部D22に出力するものである。選択部D12は、位相変化量Δθiが正の値である場合(すなわち位相が進んでいる場合)、出色有効電力値Piを位相進群算出部D21に出力し、位相変化量Δθiが負の値である場合(すなわち位相が遅れている場合)、出力有効電力値Piを位相遅群算出部D22に出力する。
【0087】
位相進群算出部D21は、選択部D12から入力される出力有効電力値Piに基づいて、所定の算出式により係数Kiを算出するものであり、算出された係数Kiを送信部D3に出力する。位相進群算出部D21は、位相変化量Δθiが正の値である分散電源Aiの出力有効電力値Piのみで、係数Kiを算出する。位相遅群算出部D22は、選択部D12から入力される出力有効電力値Piに基づいて、所定の算出式により係数Kiを算出するものであり、算出された係数Kiを送信部D3に出力する。位相遅群算出部D22は、位相変化量Δθiが負の値である分散電源Aiの出力有効電力値Piのみで、係数Kiを算出する。これにより、分散電源A1〜Anが位相変化量Δθiが正であるグループと負であるグループとに分けられて、別々に係数Kiの算出が行われる。
【0088】
以下に、位相進群算出部D21および位相遅群算出部D22で使用される算出式について説明する。なお、図9に示すように、同期発電機C1の位相が進み、同期発電機C2の位相が遅れている場合を例にして説明する。分散電源A1〜Aj(1≦j<n)が同期発電機C1の近くに接続されているので、位相変化量Δθ1〜Δθjが正の値となっており、分散電源Aj+1〜Anが同期発電機C2の近くに接続されているので、位相変化量Δθj+1〜Δθnが負の値になっている。
【0089】
任意のタイミングにおける同期発電機C1から出力される同期化電力をPSG1、電圧位相の変化量をΔθG1、同期発電機C1の同期インピーダンスをZS1、端子間電圧をEG1とし、分散電源A1〜Ajの制御回路より受信した有効電力の電力値をそれぞれP1〜Pjとすると、上記(5)式と同様に、分散電源Ai(i=1,2,〜,j)に入力されるべき同期化電力PSiを下記(7)式で表すことができる。なお、同期発電機C1から分散電源A1〜Ajに同期化電力が供給される場合を正の方向としている。
【0090】
【数7】

【0091】
同様に、任意のタイミングにおける同期発電機C2に入力される同期化電力をPSG2、電圧位相の変化量をΔθG2、同期発電機C2の同期インピーダンスをZS2、端子間電圧をEG2とし、分散電源Aj+1〜Anの制御回路より受信した有効電力の電力値をそれぞれPj+1〜Pnとすると、分散電源Ai(i=j+1,j+2,〜,n)から出力される同期化電力PSiを下記(8)式で表すことができる。なお、分散電源Aj+1〜Anから同期発電機C2に同期化電力が供給される場合を正の方向としている。
【0092】
【数8】

【0093】
サーバD’において、同期発電機C1およびC2の同期インピーダンスZS1およびZS2、端子間電圧EG1およびEG2を予め記録しておき、各分散電源A1〜Anの制御回路から出力有効電力値P1〜Pnおよび位相変化量Δθ1〜Δθnを受信することで、係数K1〜Knを算出することができる。サーバD’は算出した係数K1〜Knをそれぞれ各分散電源A1〜Anの制御回路に送信し、各分散電源Ai(i=1,2,〜,n)の制御回路は係数Kiと位相変化量Δθiとから同期化電力PSiを算出する。算出された同期化電力PSiを修正値PSとして目標有効電力P*を調整することで、各分散電源A1〜Anから出力される有効電力に同期化電力を重畳させることができる。この場合でも、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0094】
電力系統Bに3台以上の同期発電機が接続されている場合についても、分散電源A1〜Anを位相変化量Δθiが正であるグループと負であるグループに分けて、各グループに属する分散電源Aiの制御回路から入力される出力有効電力値Piに基づいて係数Kiを算出することができる。この場合、上記(7)式および(8)式における同期インピーダンスZS1およびZS2、端子間電圧EG1およびEG2は、無次元化する方法(単位法)などを用いて、系統全体で共通する値として算出しておいたものを用いる。なお、上述した電力系統Bに2台の同期発電機C1およびC2が接続されている場合においても、同様に、系統全体で共通する値として算出しておいたものを用いるようにしてもよい。
【0095】
なお、第5実施形態を第2〜第4実施形態と組み合わせた実施形態としてもよい。すなわち、第2実施形態のように、サーバD’が係数Kiと位相変化量Δθiとを乗算することで同期化電力PSiを算出して各制御回路に送信し、各制御回路が受信した同期化電力PSiを修正値PSとして目標修正部35(図3参照)に入力するようにしてもよい。また、第3実施形態のように、サーバD’が位相変化量Δθiの平均値(または、中央値)Δθ’を算出して係数Kiとともに各制御回路に送信し、各制御回路が受信した平均値(または、中央値)Δθ’と係数Kiとを乗算することで同期化電力PSi’を算出して修正値PSとして目標修正部35に入力するようにしてもよい。なお、平均値(または、中央値)Δθ’も、正の値である位相変化量Δθiの平均値(または、中央値)と、負の値である位相変化量Δθiの平均値(または、中央値)とを別々に算出する必要がある。また、第4実施形態のように、サーバD’が位相変化量Δθiの平均値(または、中央値)Δθ’を算出して係数Kiと乗算することで同期化電力PSi’を算出して各制御回路に送信し、各制御回路が受信した同期化電力PSi’を修正値PSとして目標修正部35に入力するようにしてもよい。この場合も、平均値(または、中央値)Δθ’として、正の値である位相変化量Δθiの平均値(または、中央値)と、負の値である位相変化量Δθiの平均値(または、中央値)とを別々に算出する必要がある。
【0096】
本発明に係る制御システムは、上述した実施形態に限定されるものではない。本発明に係る制御システムの各部の具体的な構成は、種々に設計変更自在である。
【符号の説明】
【0097】
A,A1〜An 分散電源
1 直流電源
2 インバータ回路
3,3’ 制御回路
31 有効電力算出部(電気的情報送信手段)
31’ 有効電流算出部(電気的情報送信手段)
32 位相検出部
33 位相変化量算出部
34 乗算部(修正値算出手段)
35 目標修正部
36 偏差算出部
37 有効電力制御部
37’ 有効電流制御部
38 指令値信号生成部
39 PWM信号生成部
4 フィルタ回路
5 変圧回路
6 電流センサ
7 電圧センサ
B 電力系統
C,C1,C2 同期発電機
D,D’ サーバ
D1 受信部
D11 比較部(正負判別手段)
D12 選択部
D2 算出部(情報算出手段、係数算出手段)
D21 位相進群算出部(第1の係数算出手段)
D22 位相遅群算出部(第2の係数算出手段)
D3 送信部(情報送信手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を有し電力系統に前記交流電力を供給する複数の分散電源にそれぞれ備えられる、前記インバータ回路をPWM制御するための制御回路と、前記各制御回路との間で情報の送受信を行うサーバとを含む制御システムであって、
前記各制御回路は、
前記分散電源の出力に関する電気的情報を前記サーバに送信する電気的情報送信手段と、
前記サーバより受信した算出情報に基づいて、前記インバータ回路が出力する電圧信号を指令するための指令値信号を生成する指令値信号生成手段と、
前記指令値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段と、
を備え、
前記電力系統に接続されている他の電力供給源との間で電圧位相の同期化を行なうように前記インバータ回路が出力する交流電力を制御し、
前記サーバは、
前記各制御回路より受信した前記電気的情報に基づいて、前記各分散電源の出力に対応する前記算出情報をそれぞれ算出する情報算出手段と、
前記情報算出手段によって算出された前記各算出情報をそれぞれ対応する前記各制御回路に送信する情報送信手段と、
を備えている、
ことを特徴とする制御システム。
【請求項2】
前記情報算出手段は、
前記各制御回路より受信した前記電気的情報の合計値に対する前記電気的情報の割合に基づく係数をそれぞれ算出する係数算出手段を備えている、
請求項1に記載の制御システム。
【請求項3】
前記各制御回路は、前記分散電源が出力する有効電力の電力値を算出する有効電力算出手段をさらに備え、
前記電気的情報送信手段は前記有効電力算出手段によって算出された電力値を前記電気的情報として送信する、
請求項2に記載の制御システム。
【請求項4】
前記各制御回路は、
前記電力系統の位相を検出し、検出した位相の変化量を算出する位相変化量算出手段と、
前記位相変化量および前記係数から算出された修正値に基づいて、出力有効電力の目標値を修正する目標修正手段と、
をさらに備え、
前記指令値信号生成手段は、前記有効電力算出手段によって算出された電力値を、前記目標修正手段によって修正された修正目標値に一致させるための指令値信号を生成する、
請求項3に記載の制御システム。
【請求項5】
前記情報送信手段は、前記係数算出手段によって算出された前記各係数を前記各算出情報として、それぞれ対応する前記各制御回路に送信し、
前記各制御回路は、前記位相変化量算出手段によって算出された前記位相変化量と前記サーバより受信した係数とを乗算して、前記修正値を算出する修正値算出手段をさらに備えている、
請求項4に記載の制御システム。
【請求項6】
前記各制御回路は、前記位相変化量算出手段によって算出された前記位相変化量を前記サーバに送信する位相変化量送信手段をさらに備え、
前記情報算出手段は、前記係数算出手段によって算出された前記各係数とそれぞれ対応する前記各制御回路より受信した前記位相変化量とを乗算して、前記修正値をそれぞれ算出する修正値算出手段をさらに備えており、
前記情報送信手段は、前記修正値算出手段によって算出された前記修正値を前記各算出情報として、それぞれ対応する前記各制御回路に送信する、
請求項4に記載の制御システム。
【請求項7】
前記各制御回路は、
前記位相変化量算出手段によって算出された前記位相変化量を前記サーバに送信する位相変化量送信手段と、
前記サーバより受信した前記各算出情報から前記修正値を算出する修正値算出手段と、
をさらに備え、
前記情報算出手段は、前記各制御回路より受信した前記位相変化量の平均値または中央値である位相変化量基準値を算出する位相変化量基準値算出手段をさらに備え、
前記情報送信手段は、前記係数算出手段によって算出された前記各係数と、前記位相変化量基準値算出手段によって算出された前記位相変化量基準値とを、前記各算出情報として、それぞれ対応する前記各制御回路に送信し、
前記修正値算出手段は、前記サーバより受信した前記係数と前記位相変化量基準値とを乗算して、前記修正値を算出する、
請求項4に記載の制御システム。
【請求項8】
前記各制御回路は、前記位相変化量算出手段によって算出された前記位相変化量を前記サーバに送信する位相変化量送信手段をさらに備え、
前記情報算出手段は、
前記各制御回路より受信した前記位相変化量の平均値または中央値である位相変化量基準値を算出する位相変化量基準値算出手段と、
前記係数算出手段によって算出された前記各係数と前記位相変化量基準値算出手段によって算出された前記位相変化量基準値とを乗算して、前記修正値をそれぞれ算出する修正値算出手段と、
をさらに備え、
前記情報送信手段は、前記修正値算出手段によって算出された前記修正値を前記算出情報として、それぞれ対応する前記各制御回路に送信する、
請求項4に記載の制御システム。
【請求項9】
前記各制御回路は、前記位相変化量算出手段によって算出された前記位相変化量を前記サーバに送信する位相変化量送信手段を備え、
前記情報算出手段は、前記各制御回路より受信した前記位相変化量が正の値であるか負の値であるかをそれぞれ判別する正負判別手段をさらに備え、
前記係数算出手段は、
前記位相変化量が正の値であると判別された前記各制御回路より受信した前記電気的情報の合計値に対する当該各制御回路より受信した前記電気的情報の割合に基づく係数をそれぞれ算出する第1の係数算出手段と、
前記位相変化量が負の値であると判別された前記各制御回路より受信した前記電気的情報の合計値に対する当該各制御回路より受信した前記電気的情報の割合に基づく係数をそれぞれ算出する第2の係数算出手段と、
を備えている、
請求項5または6に記載の制御システム。
【請求項10】
前記情報算出手段は、前記各制御回路より受信した前記位相変化量が正の値であるか負の値であるかをそれぞれ判別する正負判別手段をさらに備え、
前記係数算出手段は、
前記位相変化量が正の値であると判別された前記各制御回路より受信した前記電気的情報の合計値に対する当該各制御回路より受信した前記電気的情報の割合に基づく係数をそれぞれ算出する第1の係数算出手段と、
前記位相変化量が負の値であると判別された前記各制御回路より受信した前記電気的情報の合計値に対する当該各制御回路より受信した前記電気的情報の割合に基づく係数をそれぞれ算出する第2の係数算出手段と、
を備え、
前記位相変化量基準値算出手段は、
正の値であると判別された前記位相変化量の前記位相変化量基準値を算出する第1の位相変化量基準値算出手段と、
負の値であると判別された前記位相変化量の前記位相変化量基準値を算出する第2の位相変化量基準値算出手段と、
を備えている、
請求項7または8に記載の制御システム。
【請求項11】
前記電力系統には交流電力を供給する同期発電機が接続されており、
前記係数算出手段は、前記各制御回路より受信した前記有効電力の電力値Pi(i=1,2,〜,n)に基づいて、前記係数Kiを下記式により算出する、
請求項3ないし10のいずれかに記載の制御システム。
【数9】

ただし、Kiは複数の分散電源がn台ある場合のi番目の分散電源の制御回路に対応する係数であり、ZSおよびEGは前記同期発電機の同期インピーダンスおよび端子電圧である。
【請求項12】
直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を有し電力系統に前記交流電力を供給する分散電源に備えられる、前記インバータ回路をPWM制御するための制御回路であって、
前記分散電源の出力に関する電気的情報をサーバに送信する電気的情報送信手段と、
前記サーバが複数の前記制御回路から受信した前記電気的情報に基づいて算出して送信した前記各分散電源の出力に対応する算出情報に基づいて、前記インバータ回路が出力する電圧信号を指令するための指令値信号を生成する指令値信号生成手段と、
前記指令値信号に基づいてPWM信号を生成するPWM信号生成手段と、
を備えていることを特徴とする制御回路。
【請求項13】
インバータ回路と、請求項12に記載の制御回路とを備えている分散電源。
【請求項14】
直流電力を交流電力に変換するインバータ回路を有し電力系統に前記交流電力を供給する複数の分散電源にそれぞれ備えられる、前記インバータ回路をPWM制御するための制御回路との間で情報の送受信を行うサーバであって、
前記各制御回路より受信した前記各分散電源の出力に関する電気的情報に基づいて、前記各分散電源の出力に対応する算出情報をそれぞれ算出する情報算出手段と、
前記情報算出手段によって算出された前記各算出情報をそれぞれ対応する前記各制御回路に送信する情報送信手段と、
を備えていることを特徴とするサーバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−125052(P2012−125052A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−273458(P2010−273458)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】