説明

制振性材料

【課題】 良好な硬度を有し、かつ、共振周波数の低い制振性材料の提供。
【解決手段】 制振性材料は、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン系エラストマと、軟化剤と、水添石油樹脂とを含む基材に、熱膨張性マイクロカプセルを分散させて構成されている。このような構成を採用した場合、振動の周波数特性としては軟らかい(共振周波数が低い)特性を呈する一方で、材料としては比較例(熱膨張性マイクロカプセルを含まないもの)と同等の硬度が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音響機器、情報関連機器、情報伝達機器等に使用される制振性材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CD−ROM、ミニディスク、DVD等の光ディスクや光磁気ディスクが汎用されており、また、情報機器の普及に伴ってハードディスクの需要も増大している。これらの機器は機構上、振動に弱い部分を有するので、振動を減衰させるために制振性材料が装着されている。スチレン系エラストマは、このような制振性材料として知られており、本願出願人も、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン系エラストマ等に軟化剤及び水添石油樹脂を添加することで、その制振性を向上させることを提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、スチレン系エラストマでは、軽量化を目的としてマイクロカプセルを充填することも考えられている(例えば、特許文献2参照)。但し、特許文献2に記載のエラストマは、特許文献1に記載のエラストマとは全く異なっている。
【特許文献1】特許第3368232号公報
【特許文献2】特開2003−183441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、特にFA機器、工作機械、自販機、精密機器、通信機器、コンピュータ、OA機器、自動車、車両、航空機、医療機器、計測機器、AV機器、家電、アミューズメントなどの機器に利用される制振性材料は、防振可能領域を広く持たせる必要があるため、共振周波数が低いことが要求される。共振周波数を低くするためには、オイルなどの添加量を増やして制振性材料を軟らかくすることが考えられるが、制振性材料がゲルのように軟らかくなると、耐荷重性、耐熱性が低下する。また、その制振性材料を機器に装着する際の作業性が低下し、オイルブリードが発生し易くなる。
【0005】
このように、制振性材料には、振動の周波数特性としては軟らかい(共振周波数が低い)特性が求められる一方で、材料としてはある程度の硬度が必要とされる場合があったが、従来の制振性材料はこのような要望に充分に応えることができなかった。そこで、本発明は、良好な硬度を有し、かつ、共振周波数の低い制振性材料を提供することを目的としてなされた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達するためになされた本発明は、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン系エラストマと、軟化剤と、水添石油樹脂とを含む基材に、熱膨張性マイクロカプセルを分散させてなることを特徴とする制振性材料を要旨としている。
【0007】
本願出願人は、特許文献1と同様に製造した制振性材料に熱膨張性マイクロカプセルを混練して分散させる実験を行った。その結果、アスカーCなどによって測定される硬度は殆ど変化させることなく、共振周波数を良好に低くすることができることを発見した。そこで、本発明では、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン系エラストマと、軟化剤と、水添石油樹脂とを含む基材に、熱膨張性マイクロカプセルを分散させている。このため、共振周波数を低くしてゲイン(倍率)が0dB以下となる周波数帯を広げ、その周波数帯における振動を良好に吸収することができる。また、硬度は殆ど変化せず、熱膨張性マイクロカプセルを分散させたことにより低密度化して軽量化することができるので、機器に装着する際の作業性も向上させることができる。
【0008】
なお、特許文献1にも示されたように、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン系エラストマの代わりにスチレン−エチレン−ブチレン−スチレン系エラストマを用いても、同様の作用・効果が生じる。
【0009】
また、本発明は熱膨張マイクロカプセルの添加量を特に限定しないが、上記基材99〜95重量部に対して、1〜5重量部の上記熱膨張性マイクロカプセルを分散させた場合、硬度は殆ど変化させることなく共振周波数を低くすることができるといった前述の効果が一層顕著に表れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態を説明する。本実施の形態の制振材料を構成する基材は、例えば、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン系エラストマと、軟化剤と、水添石油樹脂とを含み、共振周波数f0 と共振曲線の最大値から3dB下がった所の周波数Δfとから
tanδ=Δf/f0
にて求められる損失係数tanδが1以上であるものとなっている。
【0011】
水添石油樹脂は、SP値(溶解性パラメータ)が熱可塑性高分子有機材料に近い(例:スチレン系エラストマのSP値は8.2〜8.5、水添石油樹脂のSP値は8.3)ため、相溶性が良い。また、水添石油樹脂は、水添された脂環族系石油であるので、耐熱性、耐候性に優れている。更に、このような基材を利用した場合、ベースとなるポリマーが熱可塑性であるため、圧縮成形、押出成形、射出成形等、種々の成形方法が適用でき、量産化が容易である。
【0012】
なお、前述のスチレン−エチレン−プロピレン−スチレン系エラストマの代わりに、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン系エラストマを用いてもよい。また軟化剤としては、鉱物油系、植物油系、合成系などの各種ゴム用または樹脂用軟化剤が挙げられる。鉱物油系としては、パラフィン系、ナフテン系、アロマ系などのプロセスオイルが挙げられ、植物油系としては、ひまし油、綿実油、亜麻仁油、菜種油、大豆油、パーム油、椰子油、落花生油、木蝋、パインオイル、オリーブ油などが挙げられる。これらの軟化剤は単独で用いてもよいが、互いの相溶性が良好な2種以上を混合して用いてもよい。
【0013】
特に、軟化剤としてパラフィン系、ナフテン系、アロマ系から選択される1種または2種以上を混合したものとすれば、基材自体の硬度を充分に低下させることができ、延いては、後述の共振倍率を一層良好に低下させることができる。
【0014】
本実施の形態では、このような基材に熱膨張性マイクロカプセルを混練し、成形した後、加熱して発泡させた。熱膨張性マイクロカプセルは、上記基材99〜95重量部に対して、1〜5重量部使用するのが望ましい。
【実施例】
【0015】
以下に、具体的な実施例について説明する。先ず、制振性材料の基材の成分として以下の物質を用意した。
スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン系エラストマ…36.7重量部
軟化剤(パラフィン系プロセスオイル)…18.3重量部
水添石油樹脂…45.0重量部
次に、上記エラストマ及び軟化剤を混合し、更に上記水添石油樹脂を加えて基材を作製した。この基材100重量部に対して、熱膨張性マイクロカプセル5重量部を加え、ニーダにて混練した。混練条件は、基材に熱膨張性マイクロカプセルが均一に分散させることができ、なおかつ、熱膨張性マイクロカプセルが膨張しない温度で混練を行った。
【0016】
続いて、基材が目的の形状になる温度で加熱した金型に入れ圧縮して加熱プレスを行い、更に、圧力をできるだけ抜かないように冷却プレスを行った。なお、加熱プレスのプレス圧力は形状を確実に維持できる圧力とし、冷却時の圧力は加熱プレス時に成形した形状が変形しない圧力として冷却させて行った。
【0017】
続いて、成形後の制振性材料を、チャンバに入れて加熱し、熱膨張性マイクロカプセルを発泡させた。なお、チャンバにおける加熱温度はマイクロカプセルが確実に膨張する温度とし、加熱時間はマイクロカプセルが膨張しきるまでとした。この結果、図1の顕微鏡写真に示すように、マイクロカプセルの気泡が均一に分散した良好な発泡材が得られた。
【0018】
次に、上記のようにして得られた実施例の制振性材料の物性を、熱膨張性マイクロカプセルを混練せずに作製した比較例と比較した。図2は、実施例及び比較例の共振曲線を表している。この共振曲線は、厚さ3mmの5mm角に切断した実施例または比較例の制振性材料により、400gの荷重を4点支持にて支持し、振動の周波数を5〜500Hzの間で変化させて測定したものである。また、この共振曲線は、24.7℃の雰囲気温度で、加速度0.4G、掃引速度を2.5min/sweepとして測定した。
【0019】
図2に基づいて算出された共振周波数,共振倍率,及び損失係数を、別途測定した硬度(アスカーC)及び密度と共に表1に示す。なお、密度は、5つのサンプルの平均値として算出した。
【0020】
【表1】

【0021】
図2及び表1に示すように、本実施例では、共振周波数を、比較例が100Hz程度であるのに対して50Hz程度まで低くすることができ、共振倍率も6dB程度の良好な制振性が得られた。このため、図2に示すように、ゲイン(倍率)が0dB以下となる周波数帯を、比較例の110Hz以上の範囲から80Hz以上の範囲まで広げ、その周波数帯における振動を極めて良好に吸収することができる。
【0022】
また、本実施例では、表1に示すように硬度は殆ど変化せず、振動の周波数特性としては軟らかい(共振周波数が低い)特性を呈する一方で、材料としては比較例と同等の硬度が得られた。このため、機器に装着する際の作業性も損なわれていない。従って、本実施例は、FA機器、工作機械、自販機、精密機器、通信機器、コンピュータ、OA機器、自動車、車両、航空機、医療機器、計測機器、AV機器、家電、アミューズメントなどの利用分野には、極めて適切な制振性材料といえる。
【0023】
更に、本実施例の制振材料は、熱膨張性マイクロカプセルを分散させたことにより低密度化して軽量化することができたので、機器に装着する際の作業性を一層向上させることができる。また、本実施例の制振材料は、基材が熱可塑性であるため、圧縮成形、射出成形、押出成形等、種々の成形方法が適用でき、量産化が容易である。しかも、塩素等を含まないものも製造可能なので、リサイクル性にも優れていて環境に優しい。
【0024】
なお、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施することができる。例えば、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン系エラストマの代わりに、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン系のエラストマを用いてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例である制振性材料の断面を表す顕微鏡写真である。
【図2】その制振性材料の制振特性を、マイクロカプセルを含まない比較例と対比して表す共振曲線である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン系エラストマと、軟化剤と、水添石油樹脂とを含む基材に、熱膨張性マイクロカプセルを分散させてなることを特徴とする制振性材料。
【請求項2】
スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン系エラストマと、軟化剤と、水添石油樹脂とを含む基材に、熱膨張性マイクロカプセルを分散させてなることを特徴とする制振性材料。
【請求項3】
上記基材99〜95重量部に対して、1〜5重量部の上記熱膨張性マイクロカプセルを分散させてなることを特徴とする請求項1または2記載の制振性材料。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2006−117793(P2006−117793A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−307054(P2004−307054)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000242231)北川工業株式会社 (268)
【Fターム(参考)】