説明

制震構造

【課題】一構面内に複数のダンパーを2段にわたって設置する場合において、各ダンパーを効率的に作動させ得る有効適切な制震構造を提供する。
【解決手段】構面内にV形ないしΛ形のブレース3を設け、第1のダンパーをその軸線がブレースの頂点Oを通る状態で接合部材4に対して接続する。第2のダンパーを接合部材に対してブレースの頂点の位置で鉛直面内において相対回転可能にピン接合するとともに、構面に対して面内水平方向にスライド可能かつ鉛直方向に変位不能に支持して設置する。第1のダンパーをオイルダンパー7aとし、第2のダンパーを慣性質量ダンパー7bとしてそれに付加ばね8を直列にかつ鉛直面内において相対回転可能にピン接続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は建物を対象とする制震構造、特に柱と梁とにより構成される構面内にダンパーを設置して構面に生じる層間変形をブレースおよび接合部材を介してダンパーに伝達して制震効果を得る構成の制震構造に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制震構造はたとえば特許文献1に示されるように周知であり、近年、広く採用されるようになってきている。
この種の制震構造の最も一般的な形態とその作動原理を図6に模式的に示す。これは、地震時に構面に生じる層間変形をブレースを介してダンパーに伝達して作動させるようにしたものである。
【0003】
すなわち、柱1と梁2とにより構成される構面内に一対2本のブレース部材3aをV形に組み合わせたV形のブレース3を設けて、そのブレース3の下端部に一体に接合した接合部材4を下側の梁2に対して面外移動拘束ガイド5により面外移動不能かつ面内水平方向(梁軸方向)の変位を許容可能に支持するとともに、構面下部両側の柱梁接合部にそれぞれダンパー取付治具6を設けて、接合部材4の両側にそれぞれダンパー7(たとえばオイルダンパー)を設置してそれら2台のダンパー7を接合部材4の両端と各ダンパー取付治具6との間に介装したものである。
これによれば、地震時に構面に層間変形が生じた際には接合部材4と下側の梁2との間で面内での相対変位が生じ、それにより各ダンパー7が伸縮するように作動して制震効果が得られるのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−172959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のように構面内にダンパー7を設置する場合、ダンパー7を設置可能な構面数は建築計画的に限定されることが一般的であり、したがってダンパー7の所要台数が多数であるような場合には一構面内に複数のダンパー7を設置しなければならない場合が生じる。
【0006】
その場合、一構面内に2台のダンパー7を設置することは図6に示したパターンにより支障なく設置可能であるが、3台以上となる場合にはその設置は困難である。
すなわち、一構面内に3台以上のダンパー7を設置する場合には、たとえば図7(a)に示すように各ダンパー7を上下方向に2段にわたって設置する必要が生じ、そのためには接合部材4の高さ寸法を大きくしてその側部に2台のダンパー7(7a、7b)を上下方向に間隔をおいて接続することにならざるを得ないが、その場合には各ダンパー7の作用位置が上下方向にずれることから(b)に示すように接合部材4に偏心曲げ荷重が作用してしまうことになる。つまり、下段に設置したダンパー7bの反力P、偏心距離eとすると、 M=P・e なる偏心曲げモーメントMが生じることになる。
【0007】
そして、接合部材4にそのような偏心曲げ荷重が作用すると、接合部材4に回転が生じて層間変位がそのままダンパー7に対して伝達されるわけではなく、したがってダンパー7に変位ロスが生じて各ダンパー7の作動量が低減し制震効果が損なわれてしまうことになる。
【0008】
なお、そのようにダンパー7を多段に設置する場合においても、全てのダンパー7としてオイルダンパーを使用する場合には反力重心がブレース3の頂点O(2本のブレース部材3aの軸線の交差点の位置である仮想の頂点)を通るような設計とすることでそのような偏心曲げ荷重が生じることを回避することも可能ではある。
しかし、オイルダンパーと他の形式のダンパー(たとえば慣性質量ダンパーや鋼材ダンパー等の履歴ダンパー)とを併用する場合、特に図7(a)に示しているように上段側のダンパー7をオイルダンパー7aとし下段側のダンパー7を慣性質量ダンパー7bとし、さらにその慣性質量ダンパー7bに対して付加ばね8を直列に接続するような場合には、上下のダンパー7の反力に位相差が生じることから偏心曲げ荷重を完全に回避するような設計は困難であり、したがって一構面内に敢えて多数のダンパー7を多段に設置しても個々のダンパー7の作動効率が低下してしまって所期の制震効果が得られない場合があり、不合理である。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は一構面内に複数のダンパーを多段に設置する場合においても各ダンパーを効率的に作動させ得て制震効果の低減を防止し得る有効適切な制震構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の発明は、建物における柱と梁とにより構成される構面内にダンパーを設置して、前記構面に生じる層間変形をブレースおよび接合部材を介して前記ダンパーに伝達して制震効果を得る制震構造であって、前記ダンパーとして第1のダンパーと第2のダンパーとを上下2段に配置して、前記第1のダンパーおよび前記第2のダンパーをそれぞれ前記接合部材と前記構面との間に介装してなり、前記ブレースを一対2本のブレース部材をV形ないしΛ形に組み合わせてそれらブレース部材の軸線の交差点を仮想の頂点とするV型ないしΛ形のブレースとして構成して、前記接合部材を前記ブレース部材の交差部に対して一体に接合し、前記第1のダンパーをその軸線が前記ブレースの頂点を通る状態で前記接合部材に対して接続し、前記第2のダンパーを前記接合部材に対して前記頂点の位置で鉛直面内において相対回転可能にピン接合するとともに、該第2のダンパーを前記構面に対して面内水平方向にスライド可能かつ鉛直方向に変位不能に支持した状態で、該第2のダンパーを前記接合部材と前記構面との間に介装してなることを特徴とする。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の制震構造であって、前記第1のダンパーをオイルダンパーとし、前記第2のダンパーを慣性質量ダンパーとして、該第2のダンパーに対して付加ばねを直列にかつ鉛直面内において相対回転可能にピン接続してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば一構面内に複数のダンパーを2段にわたって配置することが可能であるし、それら各ダンパーを設置するための接合部材に偏心曲げ荷重が作用することがなく、したがって各ダンパーを効率的に作動させ得てその性能を十分に発揮させることができ、以て優れた制震効果を得ることができる。
また、本発明によれば各ダンパーを設置するうえで特別な施工技能を必要としないし、さしてコストアップになることもなく、新築の制震建物に適用するのみならず既存建物に対する制震改修工事にも有効に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の制震構造の実施形態を示す概略構成図である。
【図2】同、下段側に設置する第2のダンパーおよびその取付部材を示す図である。
【図3】同、第2のダンパーの設置状態を示す図である。
【図4】同、第2のダンパーとしての慣性質量ダンパーに直列に接続する付加ばねの一例を示す図である。
【図5】同、接合部材に作用する偏心曲げ荷重についての説明図である。
【図6】従来一般の制震構造の一例を示す図である。
【図7】従来一般の制震構造においてダンパーを多段に設置する場合の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は本発明の制震構造の一実施形態を示すものであるが、図6〜図7に示した従来の制震構造と共通する要素については同一符号を付してある。
本実施形態の制震構造は、図6や図7に示した従来の制震構造と同様に、柱1と梁2とによる一構面内に一対2本のブレース部材3aをV形に組み合わせてV型のブレース3を設置して、そのブレース3の下端部(ブレース部材3aどうしの交差部)に接合部材4を一体に接合し、その接合部材4と構面との間に複数のダンパー7を介装することを基本とするが、本実施形態では接合部材4の両側に2台のオイルダンパー7a(第1のダンパー)を設置したうえで、接合部材4の下方にさらに1台の慣性質量ダンパー7b(第2のダンパー)を設置し、特にその慣性質量ダンパー7bを接合部材4に対して相対回転可能にピン接合するとともに、下側の梁2に対してリニアガイド12により面内水平方向(梁の軸方向)にスライド可能かつ鉛直方向に変位不能な状態で支持したことを主眼としている。
【0015】
具体的には、上段側の第1のダンパーとしてのオイルダンパー7は、図1に示すようにその軸線がブレース3の頂点O(2本のブレース部材3aの軸線の交差点の位置である仮想の頂点)を通る状態で接合部材4とダンパー取付部材6との間に水平に設置している。
一方、下段側の第2のダンパーとしての慣性質量ダンパー7bには、図2に示すようにその胴部に取付部材9を装着して溶接により一体化せしめ、その取付部材9の上部の板部によって接合部材4を両面から挟み込んだ状態でブレース3の頂点Oの位置においてピン10により回転可能な状態で連結することにより、慣性質量ダンパー7bを接合部材4に対してピン10を中心として鉛直面内において回転可能にピン接合している。
【0016】
また、図3に示すように下側の梁2の上部にはT形鋼からなる2台の架台11を間隔をおいて溶接し、それら架台11上にリニアガイド12のレール12aを設置し、レール12aに沿って滑らかに走行するスライダ12bにアングル材13を固定して、そのアングル材13を慣性質量ダンパー7bの両側部に対してそれぞれ溶接することにより、慣性質量ダンパー7bの全体を2台のリニアガイド12を介して梁2に対して軸方向にスライド可能かつ鉛直方向に変位不能な状態で支持している。
【0017】
なお、慣性質量ダンパー7bとしては、たとえば特開2008−101769号公報に示されるように、小質量の回転体を回転させることで大きな回転慣性質量を発生するもの、特にブレース3および接合部材4を介して伝達される層間変位をボールネジ機構によって回転錘の回転運動に変換して大きな慣性質量を生じる形式のものが好適に採用可能である。
また、本実施形態ではその慣性質量ダンパー7bに対して付加ばね8を直列に接続している。付加ばね8としてはたとえば図4に示すような積層ゴムの形態のものが好適に採用可能であり、その付加ばね8の一端側を慣性質量ダンパー7bに対してピン14によるピン接合によって鉛直面内において相対回転可能な状態で接続し、他端側をダンパー取付部材6を介して構面に対して接続すれば良い。
【0018】
上記の構造で各ダンパー7を設置するための施工手順は以下によると良い。
(1)下側の梁2上にT形鋼からなる架台11を現場溶接し、その天端が床コンクリート天端より上になるようにする。
(2)慣性質量ダンパー7bの胴部に取付部材9を装着して一体に溶接するとともに、慣性質量ダンパー7bの底部にリニアガイド12を装着し、リニアガイド12のレール12aを架台11上面にボルト締結する。
(3)リニアガイド12を水平方向に仮固定した状態で、接合部材4を慣性質量ダンパー7bに対してピン10によりピン接合して仮固定する。
(4)付加ばね8およびオイルダンパー7a(第1のダンパー)を設置する。
(5)ブレース3をHTB接合により組み立てて構面内に設置した後、慣性質量ダンパー7bに対する接合部材4およびリニアガイド12の仮固定を解除し、以上により施工完了となる。
【0019】
本実施形態の制震構造では、一構面内に2台のオイルダンパー7aと1台の慣性質量ダンパー7bとを2段にわたって設置することにより、それらの全体で優れた制震効果が得られる。
特に、慣性質量ダンパー7bを従来のように単に接合部材4に対して固定的に連結するのではなく、接合部材4に対して回転可能にピン接合するとともにリニアガイド12によりスライド可能かつ鉛直方向に拘束した状態で支持して設置しているので、従来のように接合部材4に対して偏心曲げ荷重が作用することはなく、したがって従来のように接合部材4の回転による変位ロスが生じることがなく、オイルダンパー7aおよび慣性質量ダンパー7bの双方をいずれも効率的に作動させることが可能である。
【0020】
すなわち、本実施形態では、図5(a)に示すように接合部材4に作用する力は一点に会合せず、慣性質量ダンパー7bの負担力P、偏心距離e、リニアガイド12による支持間隔Lとすると、接合部材4にはダンパー水平力Pによる偏心曲げモーメントM=P・eが作用する一方、慣性質量ダンパー7bはリニアガイド12を介して鉛直方向に支持されており、反力Rによる偶力モーメントM=R・L が偏心曲げと逆向きに作用するから、ダンパー7bと取付部材9を介してピン接合された接合部材4には曲げが作用せず、したがって接合部材4には回転が生じる余地はなく、それ故に接合部材4の回転に起因する変位ロスが生じることもない。
この場合、たとえば図5(b)に示すように、慣性質量ダンパー7bの反力P=2000kN、偏心距離e=500mm、リニアガイド12の支持間隔L=2000mmとすると、リニアガイド12の鉛直反力Rは R=P・e/L=500kN となるから、リニアガイド12としてはそのような鉛直荷重を支持し得るものを用いれば十分である。
【0021】
本発明によれば以下の効果を奏する。
従来においては図6に示したように一構面に支障なく設置し得るダンパーの台数は2台が限界であったが、本発明によればダンパー7を2段にわたって支障なく配置することが可能であるから、一構面内に多数のダンパーを設置することが可能となる。
特に、従来において図7に示したようにダンパーを2段配置する場合には接合部材4に偏心曲げ荷重が作用してそれに起因するダンパー効率低下が不可避であったが、本発明によればそのような偏心曲げ荷重が生じることを有効に回避でき、その結果、接合部材4に回転が生じることがないから各ダンパー7の変位ロスが生じることがなく、それ故に各ダンパー7を効率的に作動させ得てその性能を十分に発揮させることができ、優れた制震効果を得ることができる。
勿論、本発明は各ダンパー7を設置するうえで特別な施工技能を必要としないし、従来に比べてさしてコストアップになるものでもなく、また新築の制震建物に適用するのみならず既存建物に対する制震改修工事にも有効に適用可能である。
【0022】
以上で本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものでは勿論なく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内であれば、すなわち接合部材に対して偏心位置に接続されるダンパーを接合部材に対して相対回転可能に接続するとともに構面に対して水平方向にスライド可能かつ鉛直方向に変位不能に支持することによって接合部材に曲げ荷重が作用しないように構成する限りにおいて、細部の具体的な構成については適宜の変更や応用が可能であることは当然である。
【0023】
たとえば、上記実施形態ではブレース3をV型として各ダンパー7を構面内の下部に配置するものとしたが、全体の天地を逆にしても(つまり、ブレース3をΛ型として各ダンパー7を構面内の上部に配置しても)同様に機能する。但し、その場合は全体の天地が逆になるので、上記実施形態における第1のダンパー7aが下段側になり、第2のダンパー7bを上段側として上側の梁に対してスライド可能かつ鉛直変位不能に支持することになる。
【0024】
また、本発明において2段に設置するダンパー7としては、上記実施形態のように第1のダンパーとしてのオイルダンパー7aと、第2のダンパーとしての慣性質量ダンパー7bとを併用し、かつ慣性質量ダンパー7bには付加ばね8を直列に接続することが有利であるが、それに限るものでもなく、本発明における第1のダンパーおよび第2のダンパーとしては所望の制震効果が得られるものであれば各種の形式のものを任意に採用可能であるし、第1のダンパーと第2のダンパーとして同形式のダンパーを使用することを妨げるものでもない。
さらに、第2のダンパーを構面に対して水平方向にスライド可能かつ鉛直方向に変位不能に支持するための機構としては、上記実施形態のようにリニアガイド12が好適に採用可能であるが、それに限るものでもなく、第2のダンパーの鉛直方向の移動を拘束しつつ水平方向にスライドさせるように構成し得るものであれば適宜の機構を採用可能である。
【符号の説明】
【0025】
1 柱
2 梁
3 ブレース
3a ブレース部材
4 接合部材
5 面外移動拘束ガイド
6 ダンパー取付治具
7 ダンパー
7a オイルダンパー(第1のダンパー)
7b 慣性質量ダンパー(第2のダンパー)
8 付加ばね
9 取付部材
10 ピン
11 架台
12 リニアガイド
12a レール
12b スライダ
13 アングル材
14 ピン
O ブレースの頂点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物における柱と梁とにより構成される構面内にダンパーを設置して、前記構面に生じる層間変形をブレースおよび接合部材を介して前記ダンパーに伝達して制震効果を得る制震構造であって、
前記ダンパーとして第1のダンパーと第2のダンパーとを上下2段に配置して、前記第1のダンパーおよび前記第2のダンパーをそれぞれ前記接合部材と前記構面との間に介装してなり、
前記ブレースを一対2本のブレース部材をV形ないしΛ形に組み合わせてそれらブレース部材の軸線の交差点を仮想の頂点とするV型ないしΛ形のブレースとして構成して、前記接合部材を前記ブレース部材の交差部に対して一体に接合し、
前記第1のダンパーをその軸線が前記ブレースの頂点を通る状態で前記接合部材に対して接続し、
前記第2のダンパーを前記接合部材に対して前記頂点の位置で鉛直面内において相対回転可能にピン接合するとともに、該第2のダンパーを前記構面に対して面内水平方向にスライド可能かつ鉛直方向に変位不能に支持した状態で、該第2のダンパーを前記接合部材と前記構面との間に介装してなることを特徴とする制震構造。
【請求項2】
請求項1記載の制震構造であって、
前記第1のダンパーをオイルダンパーとし、前記第2のダンパーを慣性質量ダンパーとして、該第2のダンパーに対して付加ばねを直列にかつ鉛直面内において相対回転可能にピン接続してなることを特徴とする制震構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−44155(P2013−44155A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182526(P2011−182526)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】