説明

加速度センサ

【課題】双音叉圧電振動片と片持ち梁とを一体に接合した加速度センサ本体を備え、片持ち梁の薄肉部及び双音叉圧電振動片の厚さを適当に選択して、加速度センサの検出感度を向上させる。
【解決手段】加速度センサ10は、1対の振動ビーム14a,14bの両端に結合する基端部15a,15b及び励振電極からなる双音叉圧電振動片12と、固定端部23aと自由端部23b間に延在する梁部24a,24bに薄肉部25a,25bを設けた片持ち梁13とを、振動ビームと梁部との間に隙間を画定しつつ、一方の基端部を固定端部にかつ他方の基端部を自由端部に固定して一体化した加速度センサ本体11を備え、双音叉圧電振動片と片持ち梁の薄肉部との厚さ比b/tを0.1≦b/t≦0.7とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物の移動や振動、姿勢の変化などを測定しまたは検出するために、検出素子と片持ち梁とを一体化した加速度センサに関する。
【背景技術】
【0002】
加速度センサには、検出素子として様々な構造の圧電振動片が使用されている。特に、平行な2本の振動ビームとその両端を結合する基端部とからなる双音叉振動片は、高いQ値及び良好な直線性の周波数特性を有し、しかも印加される力に対する周波数の変化率が大きく、再現性及びヒステリシスに優れ、速い十分な応答速度をもつことから、従来から加速度センサの検出素子に採用されている(例えば、特許文献1を参照)。双音叉振動片は、その両端から圧縮方向又は引張方向の力を作用させると、その共振周波数が増加または減少するように変化する。
【0003】
双音叉振動片を用いた加速度センサは、様々な構造のものが提案されている。例えば、双音叉振動片の一方の基端部を固定しかつ自由端である他方の基端部に錘を設けた構成の加速度センサが知られている(例えば、特許文献2を参照)。この双音叉振動片は、印加される加速度により錘に発生する慣性力が、その両端に印加される引張応力または圧縮応力による周波数の変化として検出され、加速度を測定することができる。また、水晶基板の薄肉部に双音叉振動片を形成し、厚肉の自由端側を錘として他方の端部で片持ちに支持するように構成した加速度センサ素子が知られている(例えば、特許文献3を参照)。
【0004】
これらのように双音叉振動片に錘を直接備えると、その強度に問題を生じる虞があることから、固定端と自由端との間にそれらよりも薄い梁部を形成した片持ち梁と、該梁部の撓みに伴って付加される応力を電気信号に変換して出力する双音叉型圧電振動片からなる検出素子とを有する加速度センサが提案されている(例えば、特許文献4を参照)。この加速度センサは、双音叉圧電振動片の両端部を片持ち梁の固定端と自由端とにそれぞれ固定し、片持ち梁の撓みを双音叉圧電振動片で検出する構成により、加速度に対する感度を片持ち梁の自由端側質量で、検出素子と梁部間の隙間を調整することで、自由に調整できる。その結果、加速度が付与されてから検出されるまでの反応性が良好で、その感度も従来に比べて高くできる、というものである。
【0005】
また、それぞれに双音叉振動片とカンチレバーとを備え、双音叉振動片の各基部をカンチレバーの固定端部と自由端部とにそれぞれ固着した双音叉型振動子からなる2つの周波数信号発生源を備える速度センサが知られている(例えば、特許文献5を参照)。この速度センサは、一方の双音叉振動片の感度方向と他方の双音叉振動片の感度方向とを逆にして配設し、それら双音叉振動片から出力される周波数の変化に基づいて、より高い感度で加速度を得ることができる。
【0006】
更に、加速度の印加によって変位しない固定部材と、該固定部材に錘としての第1及び第2の可動部材を支持しかつ可撓性を有する平板状の第1及び第2の梁とを備え、双音叉型圧電振動素子である第1及び第2の応力感応素子の一方の端部を固定部材に支持し、かつ他方の端部を第1及び第2の可動部材に支持した加速度検知ユニットからなる加速度センサが知られている(例えば、特許文献6を参照)。この加速度センサは、可動部材を2つに分離したことにより、双音叉型圧電振動素子の振動による機械的結合が生じて測定精度が低下するという問題が解消され、熱膨張の影響を低減でき、2つの双音叉型圧電振動素子の共振周波数の変化の差分を利用できるので、測定精度が高いという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−74673号公報
【特許文献2】特開2000−206141号公報
【特許文献3】特開2007−163244号公報
【特許文献4】特開2008−39662号公報
【特許文献5】特開2008−76166号公報
【特許文献6】特開2008−197031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
図6(A)〜(C)は、上記特許文献4に記載される従来の加速度センサの典型例を概略的に示している。この加速度センサは、その基本構成として加速度センサ本体1を備える。加速度センサ本体1は、検出素子としての双音叉圧電振動片2と、弾性変形可能な部材からなる片持ち梁3とから構成される。双音叉圧電振動片2は、平行に延長する1対の振動ビーム4と、該振動ビームの両端にそれぞれ結合する基端部5a,5bと、前記振動ビームの表面に形成した励振電極(図示せず)とを有する。片持ち梁3は、固定端部6aと自由端部6bと前記両端部間に延在する平板状の梁部7とを有する。前記双音叉圧電振動片は、各基端部5a,5bを固定端部6a及び自由端部6bにそれぞれ接合することによって、前記片持ち梁と一体に結合される。梁部7には、その幅方向に沿って両面に形成した溝8により薄肉部が設けられている。加速度センサ本体1は、片持ち梁3の固定端部6aにおいてパッケージのマウント9に接着剤等により片持ちに固定支持される。
【0009】
双音叉圧電振動片2は、前記励振電極に所定の交流電圧を印加すると、両振動ビーム4が互いに接近又は離反する向きに屈曲振動する。図中上向きに加速度が作用すると、片持ち梁3の自由端部5bが前記薄肉部を中心に下向きに撓み、双音叉圧電振動片2は、振動ビーム4が引っ張られるので共振周波数が高くなる。逆に、加速度が図中下向きに作用すると、片持ち梁3の自由端部5bが前記薄肉部を中心に上向きに撓み、双音叉圧電振動片2は、振動ビーム4が圧縮されることにより共振周波数が低くなる。
【0010】
この加速度センサは、片持ち梁3が梁部7に設けた前記薄肉部によって撓み易いので、加速度の検出感度が向上する。片持ち梁3の可撓性は、図6(C)に示す前記薄肉部の厚さbを薄くするほど増加するから、それに対応して加速度の検出感度も向上すると予想される。また、双音叉圧電振動片の共振周波数は、その厚さにより決定されるから、梁部7の厚さを適当に選択することによって加速度の検出感度が向上すれば好都合である。
【0011】
そこで、本願発明者は、前記括れ部の厚さbを薄くした場合に加速度の検出感度をどの程度向上させることができるかをシミュレーションにより検証した。このシミュレーション結果によれば、予想に反して、前記薄肉部の厚さbが或る程度以上に薄くなると、却って加速度の検出感度が低下することが判明した。これは、加速度により自由端部を錘として撓曲振動する片持ち梁の曲げ剛性と、検出素子としての双音叉圧電振動片の曲げ剛性とが良好にマッチしていないためと推測される。
【0012】
更に、本願発明者は、前記括れ部の厚さbと双音叉圧電振動片の厚さとの関係が加速度の検出感度に及ぼす影響をシミュレーションにより検証した。その結果、加速度の検出感度が、前記薄肉部の厚さbと双音叉圧電振動片の厚さとの関係に或る依存性を示すことを見出した。
【0013】
本発明は、かかる知見に基づいてなされたものであり、その目的は、検出素子としての双音叉圧電振動片と、固定端部と自由端部間に延在する梁部にその全幅に亘る薄肉部を設けた片持ち梁とを一体に接合した加速度センサ本体を備える加速度センサにおいて、薄肉部の厚さと双音叉圧電振動片の厚さとの関係を適当に選択することによって、加速度の検出感度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の加速度センサは、上記目的を達成するために、平行に延長する1対の振動ビーム、該振動ビームの両端にそれぞれ結合する基端部、及び振動ビームの表面に形成した励振電極からなる双音叉圧電振動片と、固定端部、自由端部、及びこれら両端部間に延在する梁部からなりかつ該梁部にその全幅に亘る薄肉部を設けた片持ち梁とを有し、双音叉圧電振動片と片持ち梁とを、振動ビームと梁部との間に隙間を画定しつつ、一方の基端部を固定端部にかつ他方の基端部を自由端部に固定することによって一体化した加速度センサ本体を備え、双音叉圧電振動片の厚さtと片持ち梁の薄肉部の厚さbとが、0.1≦b/t≦0.7を満足するように決定されることを特徴とする。
【0015】
後述するように、片持ち梁の薄肉部と双音叉圧電振動片との厚さ比b/tに対する加速度検出感度の依存性に基づいて、このようにb/tの範囲を設定することによって、片持ち梁の曲げ剛性と双音叉圧電振動片の曲げ剛性と良好にマッチさせ、加速度の検出感度を良好に向上させることができる。特に、双音叉圧電振動片はその厚さを変えても共振周波数が変化しないから、厚さtを片持ち梁の薄肉部の厚さbとの関係で最適に設定する本発明の加速度センサは、双音叉圧電振動片の共振周波数を様々に設計しても、常に加速度の検出感度を高くすることができるので、有利である。
【0016】
或る実施例では、双音叉圧電振動片の厚さtと片持ち梁の薄肉部の厚さbとが、0.1≦b/t≦0.4を満足するように決定されることにより、加速度の検出感度をより一層向上させかつ安定させることができる。
【0017】
別の実施例では、片持ち梁が双音叉圧電振動片とヤング率の同じ材料で形成されることにより、それらの曲げ剛性をより良好にマッチさせることができ、加速度の検出感度をより安定させることができる。ここで、ヤング率の同じ材料とは、ヤング率が全く同一な場合だけでなく、ヤング率が実質的に同じ、即ち両者の曲げ剛性が良好にマッチする程度に同レベルの場合を含む。
【0018】
更に別の実施例によれば、双音叉圧電振動片と片持ち梁とが水晶材料からなることにより、ヤング率だけでなく、熱膨張率等の諸特性が同じになるので有利である。特に、水晶材料は、印加される応力によって変化する共振周波数のヒステリシスを小さくでき、印加される応力と共振周波数の変化との間に良好な線形性を有し、温度特性が良好であることから、加速度の印加に対する優れた応答特性、加速度の高い検出精度、温度環境に対する安定性が得られ、特に好都合である。
【0019】
また、或る実施例では、2つの加速度センサ本体を、それぞれ中間支持板の各面に片持ち梁の固定端部において片持ちに一体に固定支持することができる。
【0020】
この場合に、2つの加速度センサ本体が、互いに中間支持板を挟んで対向する位置にかつそれぞれ各片持ち梁の固定端部同士及び自由端部同士を同じ側に配置され、かつ各加速度センサ本体の双音叉圧電振動片がそれぞれ発振する周波数を差動的に検出する差動検出回路を更に備えると、各双音叉圧電振動片が受ける温度変化等による出力の好ましくない変動を相殺することができるので、より高精度な検出感度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(A)図は本発明による加速度センサの第1実施例を示す平面図、(B)図はその縦断面図、(C)図はその要部を示す部分拡大側面図。
【図2】(A)図は図1の双音叉圧電振動片の平面図、(B)図はその側面図。
【図3】(A)図は図1の片持ち梁の平面図、(B)図はその側面図。
【図4】第1実施例の双音叉圧電振動片と片持ち梁の薄肉部との厚さ比に関する加速度センサの感度を示す線図。
【図5】(A)図は本発明による加速度センサの第2実施例を示す平面図、(B)図はその縦断面図。
【図6】(A)図は従来の加速度センサを示す平面図、(B)図はその縦断面図、(C)図はその片持ち梁の部分拡大側面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に、添付図面を参照しつつ、本発明の好適な実施例を詳細に説明する。
図1(A)〜(C)は、本発明による加速度センサの第1実施例の構成を概略的に示している。本実施例の加速度センサ10は、その基本構成として加速度センサ本体11を備える。加速度センサ本体11は、検出素子としての双音叉圧電振動片12と、該双音叉圧電振動片に一体に結合された弾性変形可能な片持ち梁13とを有する。本実施例の双音叉圧電振動片12及び片持ち梁13は、従来の屈曲振動モードの圧電振動片と同様に、水晶板で形成されている。
【0023】
図2(A)(B)に示すように、双音叉圧電振動片12は、平行に延長する1対の振動ビーム14a,14bと、両振動ビームの両端にそれぞれ結合する基端部15a,15bとを有する。振動ビーム14a,14bの上下主面及び両側面には、従来と同様に、励振電極が、一方の基端部15a側部分と他方の基端部15b側部分とそれらの間の中央部分とに分けてパターニングされている。前記両振動ビームの一方の基端部15a側には、その上下主面に第1主面電極16a,16bが、両側面に第1側面電極17a,17bがそれぞれ形成されている。前記両振動ビームの他方の基端部15b側には、その上下主面に第2主面電極18a,18bが、両側面に第2側面電極19a,19bがそれぞれ形成されている。前記両振動ビームの中央部分には、その上下主面に第3主面電極20a,20bが、両側面に第3側面電極21a,21bがそれぞれ形成されている。
【0024】
各振動ビーム14a,14bにおいて、上下各主面の第1主面電極16a,16bは、それぞれ異なる一方の第3側面電極21a,21bに接続され、更にそれぞれ異なる一方の第2主面電極18a,18bに接続されている。各側面の第1側面電極17a,17bは、それぞれ異なる一方の第3主面電極20a,20bに接続され、更にそれぞれ異なる一方の第2側面電極19a,19bに接続されている。振動ビーム14aの一方の第2側面電極19aと振動ビーム14bの上側の第2主面電極18bとが、基端部15bの上面で互いに接続され、振動ビーム14aの他方の第2側面電極19aと振動ビーム14bの下側の第2主面電極18bとが、基端部15bの下面で互いに接続されている。
【0025】
基端部15aの上面には、左右1対の引出電極22a,22bが形成されている。一方の引出電極22aは、振動ビーム42bの上側の第1主面電極16bと振動ビーム14aの一方の第1側面電極17aとに接続されている。他方の引出電極22bは、振動ビーム14aの下側の第1主面電極16aと振動ビーム14bの一方の第1側面電極17bとに接続されている。両引出電極22a,22b間に所定の交流電圧を印加すると、隣接する振動ビーム14a前記各電極と振動ビーム14bの前記各電極間で電界が交互に発生することにより、前記両振動ビームは互いに接近または離反する向きに所定の周波数で屈曲振動する。
【0026】
図3(A)(B)に示すように、片持ち梁13は、固定端部23aと、自由端部23bと、前記両端部間に延在する梁部とを有する。本実施例の前記梁部は、平行な2本の弾性ビーム24a,24bから構成される。前記各弾性ビームは、長手方向の同じ位置に配置された厚さ一定の薄肉部25a,25bをそれぞれ有する。前記各薄肉部は、弾性ビーム24a,24bの上下両面にその全幅に亘ってそれぞれ溝26a,26b,27a,27bを形成することによって設けられる。片持ち梁13は、矩形の水晶板をウエットエッチングすることによって、上述した所望の形状に加工することができる。その場合、前記各溝の底面には、水晶のエッチング異方性によって、図示するように傾斜した結晶面が現れることがある。
【0027】
図1(B)に示すように、双音叉圧電振動片12は、引出電極23a,23bを形成した基端部15aを固定端部16aに、もう一方の基端部15bを自由端部16bにそれぞれ接着剤28a,28bで接合することにより、片持ち梁13と一体に結合されて加速度センサ本体11を形成する。前記双音叉圧電振動片と片持ち梁との間には、それらが互いに接しないように僅かな隙間が画定される。本実施例では、図1(C)に示すように、双音叉圧電振動片12の厚さをt、片持ち梁13の薄肉部25a,25bの厚さをbとしたとき、その厚さ比b/tが0.1≦b/t≦0.7を満足するように設定する。
【0028】
加速度センサ本体11は、図1(A)(B)に示すように、表面実装型のパッケージ29の内部に実装される。パッケージ29は、複数の絶縁材料薄板を積層した概ね矩形の箱型ベース30と、平担な薄板状のリッド31とを有する。加速度センサ本体11は、片持ち梁13を下側にしてベース30の空所内部に、その底部のマウント32に固定端部23aを接着剤33で固定することにより、片持ちに支持される。リッド31をベース30の上端に接合してその上部開口を閉塞することにより、加速度センサ本体11はパッケージ29内部に気密に収容される。
【0029】
加速度センサ10に図中上向きの加速度が印加されると、加速度センサ本体11は、錘である自由端部16bに慣性力が作用して、薄肉部25a,25bを中心に片持ち梁13を図中下向きに撓ませる。これにより、双音叉圧電振動片12は、両基端部15a,15bが引っ張られて振動ビーム14a,14bに引張応力が作用するので、その共振周波数が高くなる。
【0030】
逆に、加速度センサ10に図中下向きの加速度が印加されると、加速度センサ本体11は、同様に自由端部16bに慣性力が作用して、薄肉部25a,25bを中心に片持ち梁13を図中上向きに撓ませる。これにより、双音叉圧電振動片12は、両基端部15a,15bが圧縮されて振動ビーム14a,14bに圧縮応力が作用するので、その共振周波数が低くなる。
【0031】
また本実施例では、図1(C)に示すように、片持ち梁13の厚さ方向の中心線34よりも上方に即ち双音叉圧電振動片12寄りに、薄肉部25a,25bが設けられている。これにより、片持ち梁13の重心位置を中心線34よりも双音叉圧電振動片12寄りに配置されるので、加速度センサ本体11全体の重心位置を、その幾何学的中心位置に近付けることができる。これにより、図中上向き又は下向きいずれの加速度に対しても、加速度センサ本体11全体の撓みをより等しくさせることができる。その結果、加速度の向きによらず、常に良好な加速度感度が得られる。
【0032】
この共振周波数の変化は、加速度センサ10から電気信号として出力される。これを図示しない検出回路で検出することにより、印加された加速度の方向、大きさ、その変化等を良好な感度で測定することができる。
【0033】
第1実施例の加速度センサ10において、双音叉圧電振動片12と片持ち梁13の薄肉部25a,25bとの厚さ比b/tに関する加速度の検出感度をシミュレーションして検証した。双音叉圧電振動片12の厚さtを100μm、80μm、50μm、30μmに設定し、かつそれに対する薄肉部25a,25bとの厚さ比b/tを0.1から1.0まで変化させた。図4は、そのシミュレーション結果として、厚さ比b/tに関する加速度感度の変化量(ppm)を示している。ここで、加速度感度とは、加速度が無い状態における双音叉圧電振動片12の共振周波数に対する、重力加速度1gの印加によって生じる周波数変化の割合をいう。
【0034】
同図から、加速度感度は、片持ち梁の薄肉部と双音叉圧電振動片との厚さ比b/tに対して依存性を有することが確認された。厚さtがいずれの値の場合でも、本実施例のように厚さ比b/tが0.1≦b/t≦0.7の範囲において、良好な加速度感度を得ることができる。特に、0.1≦b/t≦0.4の範囲は、加速度感度がより高くかつ略一定で安定しており、より好都合である。
【0035】
他方、厚さ比b/tが0.7を超えた範囲では、加速度感度は大きく低下している。また、厚さ比b/tが0.1より小さい範囲では、片持ち梁13の前記薄肉部における断面係数が双音叉圧電振動片12に対して小さくなり過ぎ、曲げ強度が低下するので好ましくない。
【0036】
図5(A)(B)は、本発明による加速度センサの第2実施例の構成を概略的に示している。本実施例の加速度センサ40は、第1実施例の加速度センサ本体11と同じ構成の2つの加速度センサ本体11a,11bからなるセンサ本体アセンブリ41を備える。各加速度センサ本体11a,11bは、それぞれ双音叉圧電振動片12a,12bがそれらの基端部15a,15bにおいて固定端部23a及び自由端部23bに接合され、片持ち梁13a,13bと一体に結合されている。
【0037】
センサ本体アセンブリ41は、比較的高い剛性の中間支持板42を更に有する。中間支持板42の上下各面には、加速度センサ本体11a,11bがそれぞれ片持ち梁13a,13bを該中間支持板に対面させて、各固定端部23aにおいて片持ちに接着剤43a,43bで一体に固定支持されている。加速度センサ本体11a,11bは、互いに中間支持板42を挟んで対向する位置に、かつ片持ち梁13a,13bの固定端部同士及び自由端部同士をそれぞれ同じ側に配置して、前記中間支持板に固定される。
【0038】
加速度センサ40は、表面実装型のパッケージ44の内部に実装される。パッケージ44は、複数の絶縁材料薄板を積層した概ね矩形の箱型ベース45と、平担な薄板状のリッド46とを有する。センサ本体アセンブリ41は、ベース45の空所内部に、その底部の段差47上に中間支持板42の端部を接着剤等で接着することにより固定される。更に、リッド46をベース45の上端に接合してその上部開口を閉塞することにより、センサ本体アセンブリ41はパッケージ44内部に気密に収容される。
【0039】
各加速度センサ本体11a,11bには、それぞれ独立の発振回路48a,48bが接続されている。両発振回路48a,48bは、周波数カウンタ等からなる差動検出回路49に接続されている。各加速度センサ本体11a,11bの双音叉圧電振動片がそれぞれ発振する周波数f1,f2は、各発振回路48a,48bから電気信号として差動検出回路49に出力される。
【0040】
加速度センサ40に図中上向きの加速度が印加されると、上側の加速度センサ本体11aは、第1実施例の場合と同様に、片持ち梁13aが図中下向きに撓む。これにより、双音叉圧電振動片12aは、その両基端部15a,15bが引っ張られて振動ビームに引張応力が作用するので、共振周波数が高くなる。これに対し、下側の加速度センサ本体11bは、片持ち梁13bが図中下向きに撓むことにより、双音叉圧電振動片12bは、その両基端部15a,15bが圧縮されて振動ビームに圧縮応力が作用するので、共振周波数は低くなる。
【0041】
逆に、加速度センサ40に図中下向きの加速度が印加されると、上側の加速度センサ本体11aは、第1実施例の場合と同様に、片持ち梁13aが図中上向きに撓む。これにより、双音叉圧電振動片12aは、その両基端部15a,15bが圧縮されて振動ビームに圧縮応力が作用するので、共振周波数が低くなる。これに対し、下側の加速度センサ本体11bは、片持ち梁13bが図中上向きに撓むことにより、双音叉圧電振動片12bは、その両基端部15a,15bが引っ張られて振動ビームに引張応力が作用するので、共振周波数は高くなる。
【0042】
このように変化する各加速度センサ本体11a,11bの共振周波数f1,f2は、発振回路48a,48bから差動検出回路49に入力され、その周波数差が電気信号として出力端子50から表示装置等に出力される。このように2つの加速度センサ本体11a,11bからの出力を差動的に取り出すことによって、それらが受ける温度変化等による出力の好ましくない変動を相殺することができる。従って、印加される加速度に対してより高精度な検出感度を得ることができる。
【0043】
本発明は、上記実施例に限定されるものでなく、その技術的範囲内で様々な変形又は変更を加えて実施することができる。例えば、前記双音叉圧電振動片は、例えばタンタル酸リチウムやニオブ酸リチウム、圧電セラミックス等の水晶以外の圧電材料で形成することができる。双音叉圧電振動片と片持ち梁とは、それらの曲げ剛性が良好にマッチするように、ヤング率が実質的に同じ又は同レベルであれば、互いに異なる材質のものとすることができる。例えば、双音叉圧電振動片が水晶の場合、それと同程度のヤング率を有する黄銅、青銅等の銅合金や、銀、金等の金属材料で片持ち梁を形成すると、その形状及び寸法を高精度にかつより容易に加工することができる。
【符号の説明】
【0044】
1,11,11a,11b…加速度センサ本体、2,12,12a,12b…双音叉圧電振動片、3,13,13a,13b…片持ち梁、4,14a,14b…振動ビーム、5a,5b,15a,15b…基端部、6a,23a…固定端部、6b,23b…自由端部、7…梁部、8,26a,26b,27a,27b…溝、9…マウント、10,40…加速度センサ、16a,16b,18a,18b,20a,20b…第1〜第3主面電極、17a,17b,19a,19b,21a,21b…第1〜第3側面電極、22a,22b…引出電極、24a,24b…弾性ビーム、25a,25b…薄肉部、28a,28b,33,43a,43b…接着剤、29,44…パッケージ、30,45…ベース、31,46…リッド、41…センサ本体アセンブリ、42…中間支持板、47…段差、48a,48b…発振回路、49…差動検出回路、50…出力端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平行に延長する1対の振動ビーム、前記振動ビームの両端にそれぞれ結合する基端部、及び前記振動ビームの表面に形成した励振電極からなる双音叉圧電振動片と、固定端部、自由端部、前記固定両端部と前記自由端部間に延在する梁部、及び前記梁部にその全幅に亘って設けた薄肉部からなる片持ち梁とを有し、前記双音叉圧電振動片と前記片持ち梁とを、前記振動ビームと前記梁部との間に隙間を画定しつつ、一方の前記基端部を前記固定端部にかつ他方の前記基端部を前記自由端部に固定することによって一体化した加速度センサ本体を備え、
前記双音叉圧電振動片の厚さtと前記片持ち梁の前記薄肉部の厚さbとが、0.1≦b/t≦0.7を満足するように決定されることを特徴とする加速度センサ。
【請求項2】
前記双音叉圧電振動片の厚さtと前記薄肉部の厚さbとが、0.1≦b/t≦0.4を満足するように決定されることを特徴とする請求項1記載の加速度センサ。
【請求項3】
前記片持ち梁が前記双音叉圧電振動片とヤング率の同じ材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載の加速度センサ。
【請求項4】
前記双音叉圧電振動片と前記片持ち梁とが水晶材料からなることを特徴とする請求項3記載の加速度センサ。
【請求項5】
2つの前記加速度センサ本体と、中間支持板とを備え、前記各加速度センサ本体が、それぞれ前記片持ち梁の前記固定端部において前記中間支持板の各面に一体に固定されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか記載の加速度センサ。
【請求項6】
前記2つの加速度センサ本体が、互いに前記中間支持板を挟んで対向する位置にかつ前記各片持ち梁の前記固定端部及び自由端部をそれぞれ同じ側に配置して、前記中間支持板の各面に固定され、前記各加速度センサ本体の前記双音叉圧電振動片がそれぞれ発振する周波数を差動的に検出する差動検出回路を更に備えることを特徴とする請求項5に記載の加速度センサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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