説明

加飾糸

【課題】一見すると単純な撚られた加飾糸であるが、実際には形状を保持することが可能であり、かつ従来のものに比して軽量化を実現し、さらには後染め耐性も備えてなり、かつ破断強度も向上させた加飾糸を提供する。
【解決手段】汎用ポリエチレンの溶融固化物を一軸延伸して塑性変形性が付与された延伸物を芯材とし、前記芯材にスリット糸をカバーリングしてなるものであって、汎用ポリエチレンの極限粘度[η]が3.5dl/g未満であり、かつ延伸物の密度が950kg/m以上であり、スリット糸が、基材フィルム表面に、少なくとも、金属、合金、金属酸化物、又は樹脂のいずれか若しくは複数を積層物として積層してなる積層体をマイクロスリットすることにより得られる加飾糸とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金銀糸等のような加飾糸に関するものであり、より具体的には任意の形状を保持することができる、装飾性に富んだものであることを特徴とした加飾糸に関する。
【背景技術】
【0002】
古くより織物などにおいて高級感を呈するための加飾糸として金銀糸が用いられてきた。例えば、古くは西陣織等において、本金箔や本銀箔を織込んだり、刺繍したりして用いていた。しかし時代が進み、やがてスズやアルミニウム等の地金箔による安価な金銀糸が製造されるようになり、また帯地等への使用が大幅に進められた。これに伴い、金銀糸の生産工程に工夫が凝らされるようになってきたが、それでも生産工程の主な部分は多くの労働力と時間を要する工程であった。
【0003】
やがてさらなる生産性の向上が求められるようになり、多数の人手を要していた撚り工程が機械化されるようになったが、合成繊維工業が発展するにつれ、その技術を応用した製法が確立されるようになった。即ち、ポリエステルフィルムの上に真空技術を応用して金属膜を作る画期的な手法の確立を見たのである。そしてこの真空蒸着法を用いることで長尺フィルムにより金銀糸を工業的に大量生産出来るようになってきた。
【0004】
そしてこの真空蒸着法による大量生産が広まるにつれ、現在に至るまで、色々な金銀糸及びその製造方法等につき種々の提案がなされるようになってきた。
【0005】
例えば特許文献1に記載の発明であれば、現在主として用いられるアルミニウムの耐蝕性が問題であったところ、これを解決するための手法が提案されている。
【0006】
【特許文献1】特開平9−310239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この特許文献1にて開示された発明は、要すれば、プラスチックフィルムの表面にアルミニウム薄膜を形成し、その表面に直接クロム薄膜を積層した積層体を2枚用意し、クロム薄膜を内側にしてそれらを貼り合わせた構成を有することを特徴としている。
【0008】
このようにすることで、確かに耐蝕性に関して対処可能となってはきたが、一方である程度金銀糸等のような加飾糸に関する技術が一通り提案された現在においては加飾糸の新しい利用方法、又は何らの付加的機能が付与された加飾糸に関する市場要望が高まってきている。その中で、特に問題とされている点としては、織物にあってそれなりの量の加飾糸を用いることで織物全体の重量がかさんでしまう点、また基材として主にポリエステルフィルムを用いるため容易に破断してしまう点、さらには複雑になる織物の意匠に応じて加飾糸を織込んだ織物を染色しようとすると、即ち後染めしようとした場合、基材としてポリエステルフィルムを用いるとこれが容易に染まってしまうため結果的に加飾糸の呈する装飾性を損ねてしまう点、等々の問題点であり、これらを解決することが望まれている。
【0009】
また種々服飾に関する意匠が発展するに伴い、ドレスなどに金銀糸を用いた場合でドレスのシルエットを保持させることが望まれる場合が増えてきたが、そのためには従来であれば布地以外に針金又はそれに準じた形状保持部材を用いる必要があったところ、全体の重量がかさんでしまう点と針金が飛び出す危険性があり安全面でも問題であまり実用的ではなかった。一方で、織込む加飾糸に形状保持機能があれば、それを織込んだ布地を用いれば形状保持機能が発揮されて不要な針金等を用いることもないので、軽量でかつ安全な金銀糸単独で、かような特殊な機能を付与させられないか、という研究が進められるようになった。
【0010】
しかし、特許文献1に記載されたような従前の普通の金銀糸では、単に意匠という観点においてきらびやかな、又は高級感を呈するためだけにしか役に立たず、上記のような種々複雑な要望に一度に答えることはできないものであった。
【0011】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、一見すると単純な撚られた加飾糸であるが、実際には形状を保持することが可能であり、かつ従来のものに比して軽量化を実現し、さらには必要であれば後染め耐性も備えてなり、かつ破断強度も向上させた加飾糸を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
以上の課題を解決するために、本願発明の請求項1に記載の加飾糸に関する発明は、汎用ポリエチレンの溶融固化物を一軸延伸して塑性変形性が付与された延伸物を芯材とし、前記芯材にスリット糸をカバーリングしてなる、加飾糸であって、前記汎用ポリエチレンの極限粘度[η]が3.5dl/g未満であり、かつ前記延伸物の密度が950kg/m以上であり、前記スリット糸が、基材フィルム表面に、少なくとも、金属、合金、金属酸化物、又は樹脂のいずれか若しくは複数を積層物として積層してなる積層体をマイクロスリットすることにより得られるものであること、を特徴とする。
【0013】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の加飾糸であって、前記延伸物が、前記一軸延伸された汎用ポリエチレンの融点未満の温度において、これを180度折り曲げて戻り角度が35度以下であり、かつ90度折り曲げてからの戻り角度が20度以下になる、という形状保持機能を呈するものであること、を特徴とする。
【0014】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の加飾糸であって、前記延伸物と前記スリット糸との静摩擦係数[μs](ASTM D1894規格による)が0.3以下である場合は、前記スリット糸が前記延伸物をカバーリングする際に前記スリット糸と前記延伸物とが接する側の表面が反滑化処理されてなるものであること、を特徴とする。
【0015】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の加飾糸であって、前記反滑化処理の手法が、樹脂コーティング、コロナ処理、プラズマ処理、又は金属蒸着によるものであること、又は、前記積層体の最表面にさらにポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、金属箔、又は紙のいずれか若しくは複数を貼着又は積層してなること、を特徴とする。
【0016】
本願発明の請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の加飾糸であって、前記スリット糸が、着色糸、金銀糸、蓄光糸、蛍光糸、再帰反射糸、のいずれか若しくは複数の性質を有してなるものであること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の加飾糸であって、前記積層物が、金、銀、銅、アルミニウム、スズ、インジウム、チタン、又はクロムの金属若しくはそれらの合金、又はアルミナ、酸化チタン、硫化亜鉛、酸化ケイ素の金属化合物、又はポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、又はアクリルの樹脂、のいずれか若しくは複数であり、前記積層体が、前記基材フィルムの片面又は両面に積層されてなること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の加飾糸であって、前記カバーリングの方法が、丸撚り、蛇腹、羽衣、又はタスキのいずれかであること、を特徴とする。
【0019】
本願発明の請求項8に記載の発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の加飾糸であって、前記延伸物が糸状、紐状、又は帯状、のいずれかの形態であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本願発明に係る加飾糸であれば、芯糸を形作る汎用ポリエチレンの極限粘度の上限値及び密度の下限値を定めることによりそれ自体に好適な形状保持性能を発揮出来るようにしたので、加飾糸があたかも針金のように自在に意匠的な形状を作り出すことができ、且つ織機や編機に掛けたとき現行の加飾糸では強度が不足し糸切れを起こすことがあったが芯糸に破断強度に優れた一軸延伸ポリエチレンを用いることで糸切れも解消することができ、これらの織編布帛は針金ではない糸を用いることができるため、かかる加飾糸を織物や生地に用いることで、最終的には従来よりも作業性に優れ、また意匠性や表情に富んだ服飾を容易に作り出すことができる。また本願発明に係る加飾糸であれば、芯糸をカバーリングする糸をスリット糸としており、このスリット糸に対して例えば金属光沢を与えれば金属光沢を有した加飾糸に、また蓄光性を与えれば蓄光性を有した加飾糸に、というように簡単に所望の機能や特色を付与することのできる加飾糸とすることが出来るので、はやり意匠性に富んだ表現を自在に実現することがたやすくなるだけでなく、加飾糸そのものも従来の針金を用いる場合に比してはるかに軽いものと出来るので、例えば本願発明に係る加飾糸を用いた生地によるドレスであっても大きく重量が増加する、ということもなく、かかる加飾糸を生地に用いれば非情に意匠性に富んだ立体表現を実現することが可能となる。その他、同様にしてかかる加飾糸を用いたアクセサリーを得ることも簡単にできるし、その他従来であれば針金を用いていたような箇所にも糸として利用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0022】
(実施の形態1)
本願発明に係る加飾糸につき、第1の実施の形態として説明する。
この実施の形態に係る加飾糸は、汎用ポリエチレンの溶融固化物を一軸延伸して塑性変形性が付与された延伸物を芯材とし、この芯材にスリット糸をカバーリングしてなるものである。
【0023】
以下、順に説明をしていく。
まず本実施の形態にかかる加飾糸の芯材である延伸物及びその原材料となる汎用ポリエチレンにつき説明をする。
【0024】
本実施の形態において用いられる汎用ポリエチレンの極限粘度[η]は3.5dl/g未満であり、かつ延伸物の密度は950kg/m以上であることが望ましい。さらに加えるならば、かかる汎用ポリエチレンの分子量分布は5以上15以下であることが好ましい。このような数値条件を満たすものであれば、本願発明にかかる加飾糸に求められる形状保持性に優れた芯材となすことが出来るからである。
【0025】
さらに、一軸延伸された汎用ポリエチレンの融点未満の温度において、これを180度折り曲げて戻り角度が35度以下であり、かつ90度折り曲げてからの戻り角度が20度以下になる、という形状保持機能を呈するものとするとより好適な芯材となす事が出来る。
【0026】
そして本実施の形態においては一軸延伸を行う方法は特段何らかの制限を加えるものではなく、従来公知の手法により実行されればよいが、重要なのはこれに用いる汎用ポリエチレンの性質が上記のものであること、さらに一軸延伸された汎用ポリエチレンの特性が上記の通りであること、が重要なのである。
【0027】
またかかる延伸物は糸状、紐状、又は帯状、のいずれかの形態であればよく、以下の説明では糸状であるものとするが、必ずしもこの形態にこだわるものではなく、また断面形状という視点から見ると、円状、楕円状のみならず、星形、四角形とすることも考えられ、また板状とすればそれは即ち帯状の延伸物であることを意味するが、いずれにせよ一軸延伸された汎用ポリエチレンを芯材として用いるものであることを述べておく。
【0028】
次にこの芯材をカバーリングする鞘材として用いるスリット糸につき説明する。
このスリット糸の基本構成は従来公知のものであって良く、例えば基材フィルムとしてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用い、その表面に従来公知の手法によってアルミニウムを蒸着した蒸着フィルムや、その更に表面にハードコート性や防汚性など単数又は複数の性質を有する樹脂層を積層した蒸着フィルム、また基材フィルムとしてPETフィルム以外にも種々の高分子樹脂フィルムを用いた蒸着フィルム、等の積層体をいわゆるマイクロスリットして得られるものであっても良い。
【0029】
ここで、スリット糸を構成するために用いる積層体である蒸着フィルムはあらゆる可能性が検討されて良く、基材フィルムとしてはPETフィルムの他にも、ナイロンフィルム、金属箔、又は紙等を用い、またその表面に積層されるものは、金属、合金、金属酸化物、金属化合物又は樹脂のいずれか若しくは複数を積層物として積層してなるものであってよい。
【0030】
さらにスリット糸につき説明する。
例えばこのスリット糸を金銀糸にしようとするならば、これは基本的にはポリエチレンフィルムの表面に金属光沢を呈する物質を積層した積層フィルムをマイクロスリットすることにより得られるものである。尚、金属光沢を呈する物質としては、当然金又は銀であっても構わないが、昨今の金銀糸ではコスト抑制を目的として、いわゆる「金色又は銀色を呈する」糸とするために金色又は銀色に見えるように工夫が施されているのであって、例えば本物の金を用いると高価な金糸となるところ、それに変えて基材フィルムを黄色又は赤色に着色した上で、それにアルミニウムを蒸着させ、結果金色を呈する蒸着フィルムとし、これをマイクロスリットすることにより金糸となしている場合もある。その他基材フィルムの表面に積層する金属光沢を呈するための、即ち金属光沢層を形成する物質として、金、銀、銅を用いても良く、またアルミニウムやスズ、チタン、インジウム、クロム等の金属を用いることが考えられるが、具体的に何を利用するかは、コストやニーズなどに応じて随時決定すれば良い。
【0031】
またかような金属光沢層として金属を積層する手法としては、従来公知の手法であれば良く、例えば真空蒸着法やスパッタリング法等が考えられ、本実施の形態ではアルミニウムを従来公知の真空蒸着法により積層してなるものとする。またその厚みについても特段制限をするものではないが、例えば10nm以上80nm以下の範囲となるようにこれを積層すると本実施の形態において好適なスリット糸となせる。これは10nm以下であると厚みが不十分であるが故に、充分な金属光沢を呈することができず、また80nm以上とすると金属光沢層にクラックが生じやすくなり、係るクラックの存在により金属光沢が損なわれるおそれがあるから、である。
【0032】
さらにアルミニウム等の積層物を保護するために、その表面に従来公知の物質を用いて保護層を積層することも考えられる。これは、例えばアルミニウムを積層してなる金銀糸であって、係るアルミニウム層が剥き出しの状態となり大気と接したままであると、大気と反応して腐食してしまうことにより当初要求されていた金色又は銀色が劣化してしまうことが考えられるからであり、かような変色から金銀糸を保護するために、金属光沢層の表面に保護層を積層するのである。
【0033】
またこの保護層は、アルミニウム層などの金属光沢層を保護するのは当然であるが、係る金属光沢層が呈する金属光沢を遮るものであってはならないことも大切である。この観点より、保護層は透明であることが望ましいと言えるが、必ずしも透明である必要もなく、例えば半透明、有色透明、としておけば、金属光沢層の呈する光沢色と相まって擬似的な金色とすることも考えられるのである。例えばアルミニウムの表面に有色透明として赤色であるが透明である、という保護層を積層することにより、アルミニウムの金属光沢と赤色の半透明層との相乗により金色を呈することが可能となり、また考えられるのである。尚、この保護層の積層方法は従来公知のものであって良く、例えばウェットコーティング法と呼ばれる、グラビアコーティング法、バーコート法、等の手法により積層されれば良いものであることを断っておく。
【0034】
また保護層ではなく、金属光沢層に塗料を塗布して着色層を積層することで、金属光沢の呈する色が求める色となるようにすることも考えられる。そしてこの場合、係る着色層が前記保護層の代わりとなって金属光沢層を保護することが可能となる。
【0035】
さらに基材フィルムと金属光沢層との密着性をより高いものとするために、基材フィルム表面に金属光沢層を積層するに先だって、その表面に対し予めコロナ処理を施すことも考えられ、又は予めアンカーコート層を基材フィルムの表面に積層しておくことも考えられる。尚、本実施の形態におけるコロナ処理としては特段制限するものではなく、従来公知の手法により実施されるものであって良く、同様にアンカーコート層も特段制限するものではなく、従来公知の物質を従来公知の手法により基材フィルム表面に積層するものであって良いことを予め断っておくと共にここではこれ以上の詳述は省略する。
【0036】
以上、一例をもってスリット糸の説明をしたが、さらに具体的にどのようなスリット糸とすればよいか、という点に関するさらなる説明は後述する。
【0037】
このように、本実施の形態にかかる加飾糸は上述した芯材と鞘材とを組み合わせて、即ち芯材の周囲に鞘材をカバーリングして得られるものであるが、本実施の形態にかかる芯材はその表面が従来の芯材として用いられるものに比して滑らかであり、即ち滑りやすいという特徴を有しているので、ただ単純に芯材の周囲に鞘材をカバーリングしても鞘材が容易に滑り落ちてしまい、いわゆる剥けた状態となってしまうので、ただ単純にカバーリングしただけでは充分とは言えない。
【0038】
そこで本実施の形態においては鞘材として用いるスリット糸の、芯材に面する表面側に何らかの滑り止め処理を施して、芯材にスリット糸をカバーリングしてもスリット糸が剥けてしまわないようにしている。
【0039】
さらに説明を加えるならば、芯材である延伸物とスリット糸との静摩擦係数[μs](ASTM D1894規格による)が0.3以下である場合、そのまま特段何の処理も施さないならば延伸物の周囲に配されるスリット糸が滑ってしまい延伸物が露出する、いわゆる剥けた状態となってしまい実用に供することができないので、芯材である延伸物とスリット糸との静摩擦係数[μs]が0.3以下とならないように、スリット糸が延伸物をカバーリングする際にスリット糸と延伸物とが接する側の表面に対し反滑化処理を施すことによって、実際にこれら芯材とスリット糸とを用いて本実施の形態にかかる加飾糸としても、スリット糸が芯材から剥けた状態とならない、ということを本願発明にかかる発明者は見いだしたのである。
【0040】
この反滑化処理につき説明を加えると、要するに芯材の材質がポリエチレンであるため非常に表面が滑りやすいものであるため、これをカバーリングするスリット糸において芯材と面する側の表面を滑り難い、引っかかりがあるように、換言すれば滑り難い表面処理、即ち反滑化処理をスリット糸に対して施すことで、本実施の形態におけるスリット糸を鞘材としてカバーリングに用いても芯材から滑ってしまい、芯材が剥けた状態とならないようにすれば良いのである。
【0041】
このスリット糸に施す反滑化処理、即ち滑り難い表面処理の方法については、樹脂コーティング、コロナ処理、プラズマ処理、又は金属蒸着を従来公知の手法により実行することで表面改質を行ったり、スリット糸の最表面にさらにポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、金属箔、又は紙のいずれかを貼着し表面を改質した状態とすればよい。
【0042】
例えばPETフィルム/アルミニウム/保護樹脂層という構成の積層体をマイクロスリットして得られるスリット糸を用いるものとして、アルミニウムによる金属光沢を加飾糸の特徴としたい場合、PETフィルムのアルミニウムが蒸着されている保護樹脂層面が芯材に接することになる。そこでこの面に対し、検査時にコロナ処理を施し、表面改質を行うことにより芯材と滑りが悪くなり丸撚した場合、スリット糸を鞘材としてカバーリングに用いても芯材から滑って、芯材が剥けた状態にならない。
【0043】
また保護樹脂層表面に対し何らかの物理的処理等を施すことにより反滑化処理を施す以外にも、別途、もともとその芯材と滑りが悪い別素材をラミネート等する、という方法も考えられる。例えば上記の例で説明すると、PETフィルム/アルミニウム/保護樹脂層という積層体において保護樹脂層側に和紙を貼着することにより表面改質することも考えられる。
【0044】
尚ここで説明したマイクロスリットと呼ばれる手法とは、単純に説明すれば、例えば金属光沢を備えた帯状の積層体を細かく裁断して糸状とすることであって、例えば「80切」と呼ばれるマイクロスリットでは、裁断後の1本あたりの幅は約0.37mmとなるものであることを述べておく。
【0045】
本実施の形態において芯材と鞘材とは上述したような関係にあるので、芯材の形状保持性により本実施の形態にかかる加飾糸は所望の形状に変形したらその状態を保持することが出来るのであり、鞘材として種々のスリット糸を用いることで本実施の形態にかかる加飾糸の加飾性を呈することになるのである。そして鞘材はやはり上述したような反滑化処理を施してあるので実際の使用時においてもこれが芯材から滑って剥けてしまう状態にならないのである。
【0046】
そして本実施の形態における加飾糸ではスリット糸が加飾性を呈する、ということより、例えばスリット糸が金属光沢を呈するものとすれば、本実施の形態にかかる加飾糸は金属光沢を呈するものとなり、蓄光性による加飾性を呈することを所望するのであればスリット糸における積層物を蓄光性のある蓄光糸とすることでこれを実現でき、同様に蛍光性を呈するためには蛍光性を有する物質を積層した蛍光糸を、再帰反射性を呈するためには再帰反射性を有する物質を積層した再帰反射糸を、それぞれ用いれば良い。
【0047】
このように、種々所望する性質を呈するために必要な周知物質を基材フィルムに積層して積層体とし、これをマイクロスリットして得られるスリット糸を本実施の形態における鞘材として用いれば、それだけで所望する性質を呈する加飾糸とすることが出来るのである。
【0048】
尚、単純に着色された糸というだけであって良いのであれば、基材フィルムに何らかの積層を施さずとも基材フィルムを着色し、これをマイクロスリットした単純な着色糸を用いる事とすればよい。
【0049】
また以上説明した芯材に鞘材をカバーリングするに際して、そのカバーリングの方法も従来周知のものであって良く、例えば丸撚り、蛇腹、羽衣、又はタスキといった種々のカバーリングの方法を用いることが考えられる。
【0050】
このようにして得られる本実施の形態にかかる加飾糸を用いた織編物とすれば、その織編物には加飾糸の形状保持機能を活かした形状保持性能を有することとなるので、例えばこの織編物を用いたドレスとするならば、デザイナーの意図する意匠性を保持したドレスとすることが容易に可能となるし、従来針金を用いて同様の効果を得ようとしていた服飾に比して、用いる加飾糸は針金よりもはるかに軽量であり、また折れたときの安全性などの観点からも大変好適であると言える。さらには芯材に用いる汎用ポリエチレンの比重が0.92g/cmであるのに対しレーヨンは1.51g/cm、ポリエステルは1.40g/cm、ナイロンは1.15g/cmであることよりも分かるように本実施の形態において用いられる汎用ポリエチレンは軽量であるので生地自体の重量を軽いものとすることが出来る。さらにスリット糸に後染め耐性を付与したならば耐汚染性に優れた後染め対応可能な加飾糸とできるので、これをドレス等に用いても効果的な意匠を得られることとなる。また、そもそも芯材が100デニールで800gであるように破断強度が強い加飾糸とも言えるものであり、これは現在用いられる一般的な芯材に比べても破断強度があることより、切れにくい、破断しにくい糸である、とも言えるのである。
【0051】
また形状保持機能を生かす、という観点から、全面的にドレスなどの服飾に使わずとも部分的な利用とすることも考えられるし、さらに詳述はしないが、アクセサリー類にも利用することが考えられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
汎用ポリエチレンの溶融固化物を一軸延伸して塑性変形性が付与された延伸物を芯材とし、
前記芯材にスリット糸をカバーリングしてなる、加飾糸であって、
前記汎用ポリエチレンの極限粘度[η]が3.5dl/g未満であり、かつ前記延伸物の密度が950kg/m以上であり、
前記スリット糸が、基材フィルム表面に、少なくとも、金属、合金、金属酸化物、又は樹脂のいずれか若しくは複数を積層物として積層してなる積層体をマイクロスリットすることにより得られるものであること、
を特徴とする、加飾糸。
【請求項2】
請求項1に記載の加飾糸であって、
前記延伸物が、前記一軸延伸された汎用ポリエチレンの融点未満の温度において、これを180度折り曲げて戻り角度が35度以下であり、かつ90度折り曲げてからの戻り角度が20度以下になる、という形状保持機能を呈するものであること、
を特徴とする、加飾糸。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の加飾糸であって、
前記延伸物と前記スリット糸との静摩擦係数[μs](ASTM D1894規格による)が0.3以下である場合は、前記スリット糸が前記延伸物をカバーリングする際に前記スリット糸と前記延伸物とが接する側の表面が反滑化処理されてなるものであること、
を特徴とする、加飾糸。
【請求項4】
請求項3に記載の加飾糸であって、
前記反滑化処理の手法が、
樹脂コーティング、コロナ処理、プラズマ処理、又は金属蒸着によるものであること、
又は、前記積層体の最表面にさらにポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、金属箔、又は紙のいずれか若しくは複数を貼着又は積層してなること、
を特徴とする、加飾糸。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の加飾糸であって、
前記スリット糸が、着色糸、金銀糸、蓄光糸、蛍光糸、再帰反射糸、のいずれか若しくは複数の性質を有してなるものであること、
を特徴とする、加飾糸。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の加飾糸であって、
前記積層物が、金、銀、銅、アルミニウム、スズ、インジウム、チタン、又はクロムの金属若しくはそれらの合金、又はアルミナ、酸化チタン、硫化亜鉛、酸化ケイ素の金属化合物、又はポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、又はアクリルの樹脂、のいずれか若しくは複数であり、
前記積層体が、前記基材フィルムの片面又は両面に積層されてなること、
を特徴とする、加飾糸。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の加飾糸であって、
前記カバーリングの方法が、丸撚り、蛇腹、羽衣、又はタスキのいずれかであること、
を特徴とする、加飾糸。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の加飾糸であって、
前記延伸物が糸状、紐状、又は帯状、のいずれかの形態であること、
を特徴とする、加飾糸。

【公開番号】特開2009−197352(P2009−197352A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−38193(P2008−38193)
【出願日】平成20年2月20日(2008.2.20)
【出願人】(301054830)尾池テック株式会社 (6)
【Fターム(参考)】