説明

動圧溝、および動圧溝の形成方法

【課題】 一定の品質を維持するとともに簡易に形成できる動圧溝、および動圧溝の形成方法を提供する。
【解決手段】 動圧軸受け(1)の動圧溝(100)を形成する動圧溝の形成方法であって、動圧軸受けの表面に曲面印刷により動圧溝のパターン(100A)を印刷することを特徴とする動圧溝の形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動圧軸受けに形成された動圧溝、およびこの動圧溝の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、動圧軸受けは、相対運動を行う二つの面の一方の面に対して、螺旋状あるいはヘリングボーン状であって、数μm〜十数μm程度の深さの動圧溝を形成し、2つの面の相対運動によってこの動圧溝に流体を引き込み、負荷に応じた動圧を発生させて負荷を支えるものである。
【0003】
この動圧溝を形成する加工方法の1つには研磨加工としてのブラスト工法がある。このブラスト工法とは、モーターの力で羽根車(ブレード)を高速で回転させ、その遠心力で投射材(所定の粒径の砥粒)を、被投射体の動圧溝を形成する部位に投射するエアーブラスト方式、またはコンプレッサー等で作られた圧縮空気の力を利用して、投射材をノズルから噴射し、投射材によって被投射体の動圧溝を形成する部位を研磨し動圧溝を形成するショットブラスト方式等からなる。
その一方で、このブラスト工法を行うには、被投射体に動圧溝を形成しない部位、即ち、研磨の必要がない部分(以下において非動圧溝部という)は、上述した投射材による研磨から保護するために、被投射体(:軸受けなど)を被覆材で覆う、いわゆるマスキング方法(処理)が施されている。
【0004】
例えば、動圧軸受けに動圧溝を形成する方法において、被覆材をフォトレジスト(感光性樹脂)により形成し、マスキング方法(処理)を行う方法が開示されている(特許文献1参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2004−125913号公報
【0006】
具体的には、図7に示すように、セラミック製などの円筒状のワーク(被加工材)に予めフォトレジストによりフォトレジスト膜180を形成し、フォトマスク200の当接部位にスリット状ビームBを照射させた状態でワーク160を回転させながらワーク160の周速と同一速度でフォトマスク200を相対移動させるようにしている。ここで、フォトマスク200は、その設定幅Wがワーク160の長さと略同一であり、設定長さLがワーク160の外周長に対応したパターン面Pを備えるとともに、パターン面Pの両側に遮光ラインM1、両端にチャック部を兼ねた遮光面M2,M3を備えている。なお、パターン面Pは動圧溝(図示せず)に対応したヘリンボーン状の遮光パターンM0を備えている。このようにしてワーク160の周面に形成されたフォトレジスト膜180が順次露光されていき、動圧溝(図示せず)に対応した遮光部以外の部位が露光されて硬化する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示す動圧溝を形成する方法において、当該マスキング方法(処理)では、ワーク160にフォトレジスト膜を形成する際、膜の厚みを精度良く制御することは難しいので、ワークごとの外径またはひとつのワークの外径も周方向において、その膜厚さにバラつきが生じてしまう場合がある。すなわち、ワークの外周に形成されたフォトレジスト膜の厚さによって、ワークの外径が所定の値に対して大きくなったり小さくなったりする。
その一方で、フォトマスク200は、その設定長さLがワーク160素材の円周長さを目安として設定しており、この設定長さLがワーク160の外周長に対応した長さであるため、ワーク160の径が大きい場合にはワークに露光されない箇所ができたり、逆にワークの径が小さい場合には露光面積がオーバーラップする場合があり、生産工程における品質維持が難しいという問題がある。
【0008】
また、特許文献1に示すマスキング方法(処理)では、無垢の状態にあるワークにフォトレジスト膜を形成する工程を経なければならず、処理工程数が増加するため、手間がかかるという問題がある。
【0009】
さらに、フォトレジストによりフォトレジスト膜180を形成した場合には、動圧溝(図示せず)に対応した遮光部以外の部位が露光されて硬化する。そのため遮光部と露光部との境界で動圧溝が区画されることとなり、動圧溝はほぼ略矩形形状に窪んでいる。そのため動圧溝を構成する各面(動圧溝を区画する各面)はフラット形状となりやすいため、流体の流れに淀みが生じやすいという問題がある。
【0010】
そこで本発明は、一定の品質を維持するとともに簡易に形成できる動圧溝、および動圧溝の形成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上のような課題を解決するために、以下のものを提供する。
【0012】
(1)動圧軸受けの動圧溝を形成する動圧溝の形成方法であって、前記動圧軸受けの表面に曲面印刷により前記動圧溝のパターンを印刷することを特徴とする動圧溝の形成方法。
【0013】
本発明によれば、動圧軸受けの表面に曲面印刷により動圧溝のパターンを印刷することができるため、一定の品質を維持するとともに簡易に動圧溝を形成することができる。さらに、従来に比べてかかる工程を少なくすることができる。
【0014】
(2)前記曲面印刷後、前記動圧軸受けの表面にサンドブラスト工法により前記動圧溝を形成するとともに、前記曲面印刷に使用するインクは前記サンドブラスト工法に耐性であることを特徴とする(1)記載の動圧溝の形成方法。
【0015】
本発明によれば、動圧軸受けの動圧溝が形成されない部位にダメージを与えず、動圧溝を微細な(または高精細)加工で動圧溝を容易に形成することができる。
【0016】
(3)前記インクは50〜80μmの厚さで塗布されていることを特徴とする(1)または(2)記載の動圧溝の形成方法。
【0017】
本発明によれば、インクが動圧軸受けの動圧溝が形成されない部位に所定の厚みで塗布されるので、インクが塗布された部位は、サンドブラスト工法によって吹き付けられる砥粒からのダメージを確実に防止することができる。
【0018】
(4)前記サンドブラスト工法は、複数回行われることを特徴とする(1)から(3)のいずれかに記載の動圧溝の形成方法。
【0019】
本発明によれば、サンドブラスト工法を複数回行うことにより、動圧溝の深さ、面粗度等を調整することができる。
【0020】
(5)前記サンドブラスト工法は、粒径の異なる砥粒を使用することを特徴とする(4)記載の動圧溝の形成方法。
【0021】
本発明によれば、粒径の異なる砥粒を使用し、例えば、溝加工開始時は粒径の大きい砥粒を用いて粗加工し、その後、粒径の小さい砥粒を用いて仕上げ加工を行うようにすることで、加工時間を短縮するとともに、必要とする面粗度を得られることができ、生産性を向上することができる。
さらに、粒径の小さい砥粒を用いて動圧溝を加工するので、加工面を面粗度の小さい面に加工することができる。
【0022】
(6)動圧軸受けに形成された動圧溝であって、その断面底面近傍は弧状であることを特徴とする動圧溝。
【0023】
本発明によれば、底面近傍、すなわち動圧溝の断面において、底面から側面にかけて傾斜面を有することから流体の流れを阻害する障害部を極力少なくすることが出来る。その結果所定の動圧力を安定して維持することが可能となるためホワール現象等の軸のフラツキを押えることが出来る。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、一定の品質を維持するとともに簡易に動圧溝を形成することができる。
さらに、動圧軸受けの表面に曲面印刷により動圧溝のパターンを印刷することができるため、従来に比べてかかる工程を少なくすることができる。
【0025】
加えて、本発明によれば、底面から動圧発生面に向かって流線形形状加工を施すことが出来る為、流体の流れに無用な淀みを作らず安定的な動圧力の維持ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0027】
[動圧軸受けの概要]
図1は本発明の実施の形態に係る動圧溝が形成された動圧軸受け1を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は動圧溝のパターンの展開図である。
動圧軸受け1は、図1(a)に示すように、中空の円筒形状しており、その外周面には、ラジアル方向動圧を発生させるための動圧溝100が形成されている。
さらに、本実施の形態では、動圧軸受け1はセラミック焼結体であり、動圧溝100は2列の斜線状の溝100Aで形成されている。
なお、動圧軸受け1の材質はセラミック焼結体に限定されるものではなく、また、動圧溝100はヘリングボーン状でもよい。
さらに、ラジアル方向動圧に限定されず、螺旋状した動圧溝を有するスラスト方向動圧でもよい。
【0028】
[動圧溝の形成工程]
図2は本発明の実施の形態に係る動圧溝を形成する工程図である。
【0029】
本実施の形態において、図2に示すように、動圧溝の形成工程は、大きく分けて曲面印刷工程、サンドブラスト工程、後処理工程の3つの工程から構成されている。
【0030】
まず、曲面印刷工程では、セラミック焼結体からなる動圧軸受け1の素材である円筒形状のワーク1A(被加工材)を洗浄し(ステップ1)、続いて曲面印刷機によってサンドブラスト耐性インクを用いてインク被膜を施す(ステップ2)。そして、このサンドブラスト耐性インクを硬化させ(ステップ3)冷却を行うようにしている(ステップ4)。なお、サンドブラスト耐性インクは、ステップ2のインク被膜を施す直前に攪拌し、均一に分散させることが好ましい。
【0031】
この曲面印刷工程後、動圧溝を形成するためのサンドブラスト工程となる。続いてワーク1Aは第一のサンドブラスト装置によって第一のブラスト処理(ステップ5)、および第二のサンドブラスト装置によって第二のブラスト処理(ステップ6)が行われ、所定の形状を有する動圧溝が形成される。続いてエアーガンでエアーブローを行う(ステップ7)。
【0032】
続いて、後処理工程が行われる。この後処理工程は、インク被膜を除去する工程である。本実施の形態では、サンドブラスト加工後、ワーク1Aは、インク被膜剥離剤であるガンマーブチロラクトンに2分間浸漬処理した後(ステップ8)、エアーブローを行ってワーク1Aを液切りする(ステップ9)。その後、水洗浄が行われる。具体的には、市水を流水している浸漬槽にワーク1Aを浸漬し、この状態で浸漬槽を揺動しつつ20秒間流水洗浄を行う(ステップ10)。
続いて、作業者が手で、または剥離治具を用いてインク被膜を剥離させ(ステップ11)、再びエアーブローによってワーク1Aを水切りする(ステップ12)。その後、ガンマーブチロラクトンが溶解された溶解槽に3分間浸漬処理し(ステップ13)、再びエアーブローによってワーク1Aを液切りする(ステップ14)。
本実施の形態では、セラミック焼結体を用いているが、例え、鏡面加工が施されている場合でも、微細なポーラスにある面状態となっており、インクが残存し、溶解槽に浸漬処理することにより、残存しているインクを取り除くことができるようにしている。
なお、浸漬処理を行う前に、可能であれば、インク被膜をあらかた剥がしておいてもよい。
【0033】
インク被膜の除去後、動圧溝が形成された動圧軸受け1を洗浄する。具体的には、市水を流水している浸漬槽にワーク1Aを浸漬し、この状態で浸漬槽を揺動しつつ20秒間流水浸漬処理を行って(ステップ15)、再びエアーブローによってワーク1Aを水切りする(ステップ16)。
最後に、ワーク1Aはオーブンによって80℃、10分で乾燥させて完成となる(ステップ17)。なお、乾燥は自然乾燥でもよい。
【0034】
[曲面印刷工程]
以下に、図2の工程図において説明した、本発明の実施の形態に係る曲面印刷工程(ステップ1〜ステップ4)についてさらに詳しく説明する。図3は、本発明の実施の形態に係る曲面印刷に関する説明図であり、(a)は曲面印刷機の概要を示す図、(b)は曲面印刷機に使用する差込み板の部分拡大断面図である。
【0035】
曲面印刷機20は、平板形状をなす差込み板22に保持されたスクリーンマスク27と、先端側がスクリーンマスク27に接触するように、スクリーンマスク27上に配設されたポリウレタン等の合成樹脂製のスキージ24と、ワーク1Aを支持し一体となって回転する軸21と、軸21を回転させる駆動手段(図示せず)と、差込み板22を水平移動させる移動手段25とから構成されている。
【0036】
スクリーンマスク27は、図3(b)に示すように、メッシュ27A(破線で示す)とメッシュ27Aの隙間に埋め込まれた乳剤27Bとからなり、メッシュ27A上には乳剤27Bによって動圧溝パターン100A(図1参照)に対応する印刷パターンが形成されている。そして、印刷時には、スクリーンマスク27を、差込み板22とともに、図3(a)に示すA方向に移動させ、スクリーンマスク27上に供給された耐ブラスト性インク(以下、インクという。)29をスキージ24で掻き込むようにして、ワーク1Aの外周面に動圧溝パターン100Aを曲面印刷によって形成している。
【0037】
このとき、ワーク1Aはスクリーンマスク27が矢印A方向に移動するのに応じて矢印B方向に駆動手段25によって回転する。これにより、スキージ24で掻き込まれたインク29の一部がスクリーンマスク27を介してワーク1Aの外周面に亘って転写される。そして、動圧溝パターン100Aは、図3Aに示す基端側からワーク1Aの先端側に亘ってワーク1Aの外周面に均一な膜厚で形成されるようになっている。
【0038】
本実施例で使用する動圧溝のパターンを形成するスクリーンマスク27は、SUS製板厚(200μm)のものを使用する。その理由は、スキージ24で掻いてインク29をスクリーンマスク27から透過させる際にスクリーン27の「よじれ」が生じないようにするためである。
【0039】
印刷時には、インク29はスキージ23によってメッシュ27Aの隙間82から滴下されワーク1Aに50μm〜80μmの厚さに印刷される。この際、動圧溝のパターン100Aは、この形状に乳化剤27Bによってメッシュ27Aの隙間がほとんど塞がれているので、動圧溝のパターン100Aにはほとんどインク29は印刷されないようになっている。
【0040】
曲面印刷後、動圧溝のパターン100Aが印刷されたワーク1Aは、軸21から取り外され、硬化用治具に取り付けられて硬化炉にて150℃、10〜15分熱せられて、インク29が硬化される。
【0041】
[サンドブラスト工程]
以下に図2の工程図において説明したブラスト工程(ステップ5〜ステップ7)までについてさらに詳しく説明する。
図4は本発明の実施の形態に係るサンドブラスト工程で用いるサンドブラスト装置の概略図である。なお、ここでは第一のサンドブラスト装置を例として説明する。また、図5は、本発明の実施の形態に係るサンドブラスト工程における動圧溝の断面の変化を示した説明図であり、(a)は、曲面印刷直後のワーク1Aの外周面の断面図、(b)は、第一ブラスト工程後の動圧溝の断面図、(c)は、第二ブラスト工程後の動圧溝の断面図である。さらに、図6は、本発明の実施の形態に係るブラスト工程が行われた後の動圧溝の断面図である。
【0042】
第一のサンドブラスト装置80は、被研磨物としてのワーク1Aを載置する回転台30と、ワーク1Aに砥粒と空気を吹き付ける噴射ノズル40とを有している。
【0043】
本実施の形態では、まず、第一のブラスト工程が行われる。すなわち、ワーク1Aが、回転台30に設けられた軸31に取り付けられ、図示しない駆動源を作動させて、回転台30を所定の速度で回転させる。この状態で噴射ノズル40から砥粒41を噴射する(ステップ5)。このとき、噴射ノズル40は、回転軸31に対して直交する方向に位置しており、0.2MPaの空気圧にて20秒〜80秒間の範囲にて行う。また、砥粒には、アルミナからなる粒径の大きい♯320〜♯220のものを使用する。
【0044】
具体的には、第一のブラスト工程が行われる前は、図5(a)に示すように、ワーク1Aの外周面には、動圧溝100のパターン100A以外の部分にインク29が塗布されている。
さらに、インク29は、粘度20万mpa/sec(±5万mpa/sec)のインク29を使用し、メッシュ27Aの隙間82から滴下されるため、メッシュ27Aの隙間82の中心点の真下を頂点として周囲にインク29が拡散される山形状に塗布されている。
また、サンドブラスト工法に対し、動圧溝100が形成されない部位、即ち、インク29が塗布された部位のワーク1Aがほとんど加工されない程度の膜厚となるように形成されている。本実施の形態では、図5(a)に示すとおり、塗布されたインク29の高さh1は、最大で約50μm〜80μmとなっている。
上記のインク29の粘度はインク29の所定高さ(本実施例では最大で約50μm〜80μm)を維持するために必要な粘度に設定されている。なお、インク29の粘度は、メッシュ27Aを通過する濃度であって、インクの所定高さを維持できる粘度であればいかなる粘度でもよい。
【0045】
次に、第一のブラスト工程では、図5(b)に示すように、ワーク1Aへ噴射ノズル40から砥粒と空気が吹き付けられ、動圧溝のパターン100Aが研磨されることで動圧溝100が形成される。動圧溝100の深さh2は、5〜10μm(深さ精度±2μm)程度となっている。
第一のブラスト工程において、砥粒41は、粒径の大きい♯320〜♯220のものを使用しているので、研磨面100Bの面粗度は粗いが、加工時間を短くすることができる。
なお、図5(b)に示すように、インク29は、動圧溝のパターン100Aの境界部分90にも塗布されるようになるが、境界部分90は、その塗布高さ(量)が小さい(少ない)ので、第一のブラスト工程によってインク25の表面が研磨され、凹凸面からなる研磨面60Aが生じる。これによって、動圧溝100の所定の幅に加工されるようになっている。
【0046】
続いて、第二のブラスト工程を行う。第二のブラスト工程では、図5(c)に示すように、第一のブラスト装置80と同様の機能を備えた第二のブラスト装置80´(図示せず)を使用する。そして、第一ブラスト工程と同じ条件にて噴射ノズル40からワーク1Aへ砥粒42を吹き付ける(噴射する)(ステップ6)。なお、この第二ブラスト工程で使用する砥粒42には、アルミナからなる粒径の小さい♯400〜♯1000のものを使用している。この第二のブラスト工程では、動圧溝の面粗度を調整するように(仕上げ)加工しており、本実施の形態では、面粗度Ra1μm以下となるようにしており、動圧の発生を促進するように、ほぼ滑面となるように仕上げている。
上述した研磨面60Aは、図5(c)に示すように、第二のブラスト工程によって研磨面60Aの凹凸面が更に研磨されて凹凸の少ない研磨面60となる。
また、形成された動圧溝100は、その研磨面60の断面において、動圧溝の表面から(断面)底面に向かって傾斜した面となっており、本実施の形態では、研磨面60は、90°以下の傾斜角度となるように形成されている。
【0047】
研磨後の動圧溝100の形状は、図6に示すように、その断面底面110は弧状であり、その表面は面粗度Ra1.0μm以下とし、ほぼ滑面となるように形成されている。
具体的には、その深さh2は、インク面29の、山形状の、いわゆる境界部分90を研磨しつつ形成された動圧溝の端部(図示左右端部)の深さh2´とほぼ同じ高さとなる。そのため、動圧溝100の断面底面110は、ほぼR形状(弧状)となっている。このように、断面底面110が傾斜面50を有し、弧状となっているので、空気がよく流れることにより、底面近傍、すなわち動圧溝の断面において、底面から側面にかけて傾斜面を有することから流体の流れを阻害する障害部を極力少なくすることが出来る。
さらに、動圧溝100は、ほぼR形状した谷形状になるため、空気の降下(矢印D)、およびせり上がり(矢印U)がしやすくなる。そのため、空気の流れがよりよくなり、底面から動圧発生面300に向かって流線形形状加工を施すことが出来る為、流体の流れに無用な淀みを作ることがない。
【0048】
なお、上記のようにインク29をワーク1Aに山形形状に印刷するには、メッシュ27Aにおいて塞ぐ隙間の数を所望の数に増減させることによりインク29の滴下量に強弱をつけて行えばよい。すなわち、山形状の、いわゆる境界部分90にあたる印刷部を形成するには、山形形状に沿って規則的に段階変化をつけるように、メッシュ27Aを所定の数で通孔するようにして乳化剤を埋め込めばよい。
【0049】
[本実施の形態における効果]
本実施の形態に示す動圧軸受けの動圧溝100を形成する動圧溝の形成方法であって、前記動圧軸受けの表面に曲面印刷により前記動圧溝のパターンを印刷している。上記構成によれば、一定の品質を維持するとともに簡易に動圧溝を形成することができる。
さらに、動圧軸受けの表面に曲面印刷により動圧溝のパターン100Aを直接印刷することができるため、従来に比べてかかる工程を少なくすることができる。
【0050】
また、前記曲面印刷後、前記動圧軸受けの表面をサンドブラスト工法により前記動圧溝100を形成するとともに、前記曲面印刷に使用するインク29を前記サンドブラスト工法に耐性であるものとしたため、動圧軸受けの動圧溝が形成されない部位にダメージを与えず、動圧溝を微細(または高精細)な加工で動圧溝を容易に形成することができる。
【0051】
また、前記インク29は50〜80μmの厚さで塗布されている。そのため、インク29が動圧軸受けの動圧溝100が形成されない部位に所定の厚みで塗布されるので、インク29が塗布された部位は、サンドブラスト工法によって吹き付けられる砥粒からのダメージを確実に防止することができる。
【0052】
また、前記サンドブラスト工法は複数回行われるため、動圧溝の深さ、面粗度(滑面の形成)等を調整することができる。
【0053】
また、前記サンドブラスト工法では粒径の異なる砥粒41、42を使用する。よって溝加工開始時は粒径の大きい砥粒41を用いて粗加工し、その後、粒径の小さい砥粒42を用いて仕上げ加工を行うようにすることで、加工時間を短縮することができる。さらに、必要とする面粗度を得られることができ、生産性を向上することができる。
加えて、粒径の小さい砥粒42を用いて動圧溝を加工するので、加工面を面粗度の小さい面、すなわちより滑面に近い状態に加工することができる。
【0054】
また、動圧溝100は、Ra1.0μm以下のほぼ滑面の弧状からなる谷形状になるため、空気の降下(矢印D)、およびせり上がり(矢印U)がしやすくなる。そのため、空気の流れがよりよくなり、底面から動圧発生面に向かって流線形形状加工を施すことが出来る。よって、流体の流れに無用な淀みを作らず安定的な動圧力の維持ができるため製品の品質が向上する。
【0055】
さらに詳しく説明すると、その動圧溝100の深さh2は、インク29の山形状のいわゆる境界部分90を研磨しつつ形成された動圧溝100の端部(図示左右端部)の深さh2´とほぼ同じ高さとなる。そのため、動圧溝100の底面近傍110は、ほぼ弧状となっている。このように、断面が傾斜面60を有する弧状となっているので、底面近傍、すなわち動圧溝の断面において、底面から側面にかけて傾斜面を有することから流体の流れを阻害する障害部を極力少なくすることが出来る。その結果、空気の流れがよりよくなるとともに、所定の動圧力を安定して維持することが可能となるためホワーリング現象等の軸のフラツキを抑えることが出来る。
【0056】
(その他の実施の形態)
【0057】
例えば、より高精度の位置決めが必要とされる印刷時には、ワーク1Aの回転と版の水平移動が完全に同期したサーボモータ搭載の曲面印刷を使用してもよい。
【0058】
また、上記実施例において、乳化剤27Bの塗布量を変えてメッシュ27Aの隙間82の形状を変えることにより、インク29の傾斜塗布が可能となっている。傾斜を変えることにより、動圧溝100の傾斜の角度、および形状を変えることができ、研磨面の傾斜に緩急をつけることもできる。よって空気の流れを所望の量となるように調節することができる。また、乳化剤27B以外であっても、動圧溝形成工程においてなせるものであればその種類は問わない。
【0059】
また、本実施例において、シャフトはアルミナからなる真円度1μm、円筒度2μmに鏡面仕上げしたセラミックシャフトを使用したが、シャフトは耐磨耗性を備えた材質であればよく、たとえば窒化珪素、炭化珪素、サイアロン、またはジルコニア焼結体等でもよい。また、シャフトの直径、長さについてはどのように設計してもよい。さらに、真円度、および円筒度についてもとくに設計の制限はない。
【0060】
また、動圧溝の形成工程については本実施例に限られず、曲面印刷後はいかなる方法でインク被膜を剥離してもよい。また、ブラスト工程は必要に応じて一回でもよいし、三回以上おこなってもよい。また、エアーブロー以外の方法で水切り、液切りしてもよいし、これらの順番、回数は問わない。
【0061】
さらに、インク被膜を剥がす工程では、セラミックカッター等でワークに傷がつかないように切れ込みをいれてもよい。また、温浴槽等を使用し、中温〜高温の溶液中で浸漬処理をおこなってもよい。
また、インク被膜剥離剤は、ガンマーブチロラクトンだけに限られず、同様の効果が得られる物質であればその種類は問わない。
すなわち、サンドブラスト工程後、インク被膜の剥離、ワークに形成されたポーラスの内部に浸透しているインク剤の溶解、また、ワークから、これらインク剤の除去ができれば、いかなる方法、手段を用いてもよい。
【0062】
また、砥粒としては、本実施例では第一のブラスト工程においても、第二のブラスト工程においてもアルミナを使用したが、これに限られず、ガラス、SUS、あるいは炭化珪素等を使用することができる。なお、第一のブラスト工程と第二のブラスト工程の2回のブラスト工程でそれぞれ別の素材からなる砥粒を組み合わせて使用することもできる。
【0063】
また、第一のブラスト装置、および第二のブラスト装置において、噴射ノズルを複数設けて噴射時間を短縮することもできる。また、第一のブラスト装置、および第二のブラスト装置は仕切り板によって仕切って隣接させて設置してもよいし、個別に設置してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施の形態に係る動圧溝が形成された動圧軸受け1を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は動圧溝のパターンの展開図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る動圧溝を形成する工程図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る曲面印刷に関する説明図であり、(a)は曲面印刷機の概要を示す図、(b)は曲面印刷機に使用する差込み板の部分拡大断面図である。
【図4】本発明の実施の形態に係るサンドブラスト工程で用いるサンドブラスト装置の概略図である。
【図5】本発明の実施の形態に係るサンドブラスト工程における動圧溝の断面の変化を示した説明図であり、(a)は、曲面印刷直後のワーク1Aの外周面の断面図、(b)は、第一ブラスト工程後の動圧溝の断面図、(c)は、第二ブラスト工程後の動圧溝の断面図である。
【図6】本発明の実施の形態に係るブラスト工程が行われた後の動圧溝の断面図である。
【図7】従来図である。
【符号の説明】
【0065】
1 軸受け(シャフト1、ワーク1A)
29 インク
41、42 砥粒
60、60A 傾斜面
100 動圧溝
100A 動圧溝のパターン
110 断面底面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動圧軸受けの動圧溝を形成する動圧溝の形成方法であって、
前記動圧軸受けの表面に曲面印刷により前記動圧溝のパターンを印刷することを特徴とする動圧溝の形成方法。
【請求項2】
前記曲面印刷後、前記動圧軸受けの表面をサンドブラスト工法により前記動圧溝を形成するとともに、前記曲面印刷に使用するインクは前記サンドブラスト工法に耐性であることを特徴とする請求項1記載の動圧溝の形成方法。
【請求項3】
前記インクは50〜80μmの厚さで塗布されていることを特徴とする請求項1または2記載の動圧溝の形成方法。
【請求項4】
前記サンドブラスト工法は、複数回行われることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の動圧溝の形成方法。
【請求項5】
前記サンドブラスト工法は、粒径の異なる砥粒を使用することを特徴とする請求項4記載の動圧溝の形成方法。
【請求項6】
動圧軸受けに形成された動圧溝であって、その断面底面近傍は弧状であることを特徴とする動圧溝。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−271013(P2007−271013A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−98961(P2006−98961)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000002233)日本電産サンキョー株式会社 (1,337)
【Fターム(参考)】