説明

動物飼育用給餌装置および動物飼育装置

【課題】使用する飼料に対する制約が少なく、しかも簡易な構成でありながらヒトの摂食リズムと同様の摂食リズムを動物に対して正確に適用でき、摂取時間、摂取回数、摂取量などを測定・記録できる動物飼育用給餌装置を提供することを目的とする。
【解決手段】動物飼育用給餌装置1は、外筒2と、外筒2の内部に同軸に設けられた内筒3と、外筒2と内筒3を相対的に回転させる駆動源4とを有し、外筒2および内筒3の側面には開口部9,11が設けられており、外筒2と内筒3との相対的な回転によって開口部9,11同士が重なる状態と重ならない状態を切り替えることによって動物が摂食できる状態と摂食できない状態を実現し、制御装置が受光素子および餌重量測定装置と接続されていて、制御装置は受光装置および餌重量測定装置の信号を読み込み動物の摂食時間、摂食量および摂食回数を算定して記憶装置に記憶する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ラットやマウスなど主に実験用の小動物の飼育において、動物の食事時間を自動的に制御することができる給餌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医学・薬学・栄養学などの分野において、ラットやマウスなどの実験用動物が使用されるが、これらの実験用動物を多く飼育するときに餌やりを手作業で行うのは大きな負担になる。
【0003】
また、さまざまな物質のヒトへの効果を検証するのに先立って、動物実験が行われる。ヒトは1日3回一定時刻にほぼ一定時間で食事する3食制の食事様式で生活しており、同様の制限摂取を実験用動物に行うことがのぞまれる。一方、餌を自由に摂取させる通常の飼育方法では、動物は実験者の望む摂取様式をとらない。しかし、餌の出し入れを手作業で行うことは大きな負担であり、十分な数の動物に実験を行うことは困難である。
【0004】
そこで、特許文献1には、マイクロプロセッサを備えたコントローラによりペレットフィーダを制御してペレット状の餌を供給し、摂食リズムを調節することが記載されている。
【特許文献1】特開2000−41518号公開特許公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
動物実験を行う場合、厳密なデータを取得するためには、ある程度の個体数の動物に対して同じ摂食条件を実現しなければならないが、手作業で餌の摂食リズムに基づいた餌やりを行うのは大きな負担である。また、個体数が多くなると餌の供給・回収に一定の時間が必要となり、すべての個体に対して厳密に同じ摂食時間を実現することができない。
【0006】
特許文献1に記載の給餌装置によれば所望の時間に餌を与えることはできる。しかし、与えられた餌をすべての個体が同時に食べるとの保証はない。特許文献1に記載の給餌装置は餌の供与を行うが、その回収を行わないので食べ終わりの時間は制御できない。動物が餌の全部または一部を残して、後で食べることを防止することができない。
【0007】
使用できる餌はペレットフィーダの規格に適応したペレットに限定される。このペレットフィーダもペレット飼料も高価である。また、ペレット以外の飼料が使用できないので、実験対象にできる物質や形態が限定される。
【0008】
この発明は、使用する飼料に対する制約が少なく、しかも簡易な構成でありながら動物の摂食リズムを正確に制御できる動物飼育用給餌装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の課題を解決するため、この発明の動物飼育用給餌装置は、外筒と、外筒の内部に同軸に設けられた内筒と、外筒と内筒を相対的に回転させる駆動源とを有し、外筒および内筒の側面には開口部が設けられており、外筒と内筒との相対的な回転によって開口部同士が重なる状態と重ならない状態を切り替えることを特徴とする。外筒および内筒の軸線を実質的に水平に設置してもよい。また、餌重量測定装置を備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
この発明の動物飼育用給餌装置は外筒と内筒との相対的な回転により開口部の開閉を行うので、簡易かつ小型の装置で動物の摂食の開始および終了の時間を正確に制御できるという効果を有する。使用する餌に制限が少なく、さまざまな物質について定められた摂食リズムに基づいて動物実験を実施できるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明を実施するための最良の形態について、図面に基づいて説明する。図1は動物飼育用給餌装置の例を模式的に示す斜視図、図2は動物飼育用給餌装置の例を示す縦断面図、図3は同横断面図、図4は動物飼育用給餌装置の制御系を示す構成図、図5は動物飼育装置を示す正面図である。
【0012】
動物飼育用給餌装置1は、外筒2と内筒3とを備える。外筒2と内筒3とは同軸であり、外筒2の内部に内筒3が収まっている。また、外筒2と内筒3はたとえば合成樹脂など透明な素材で作られている。そして、この外筒2と内筒3とを相対的に回転されるための駆動源4が設けられている。外筒2と内筒3との相対的な回転は、外筒2または内筒3の一方を回転させて実現してもよく、あるいは外筒2と内筒3の双方を回転させても良い。ここでは、外筒2は固定し、内筒3を回転させている。
【0013】
外筒2と内筒3は、軸線が実質的に垂直になるように置かれている。これによって、駆動源4を安定した状態に設置しやすくなっている。駆動源4として電動モータが使用されている。この駆動源4の出力軸に第1のギア5が設けられており、内筒3の上部中心には第2のギア6が設けられている。この第1のギア5と第2のギア6が連結していることによって、駆動源4の動力が内筒3に伝達される。なお、駆動源4は内筒3の上部に設けてもよく、駆動源4の出力軸を内筒3の軸に直結してもよい。
【0014】
外筒2と内筒3とによって、動物居住空間7と餌収納空間8に分割される。本例では、外筒2と内筒3によって囲まれる空間が餌収納空間8であり、外部が動物居住空間となっている。この外筒2と内筒3によって囲まれる空間は、飼育対象の動物xの体の前半分ほどが入る程度になっている。
【0015】
外筒2の側面には円形の開口部9が設けられている。この開口部につながって、導入管10が設けられている。内筒3の側面にも開口部11が設けられている。内筒3の開口部11が外筒2の開口部9と重なったとき開放状態となり、動物xが前半身を外筒2と内筒3によって囲まれる空間に入れることができるようになる。また、内筒3を回転させて、内筒3の開口部11が外筒2の開口部9と重ならない位置に来たときには遮断状態となる。
【0016】
外筒2と内筒3によって囲まれる空間には、餌容器12を置くことができる。そして、この餌容器を置く位置には、餌重量測定装置としてロードセル13が設けられている。
【0017】
外筒2の外周側面には発光素子14と受光素子15(フォトセンサ)が対向して設けられている。その光路は発光素子14から始まり、外筒2と内筒3の軸線を通って受光素子15へ至るものである。また、内筒3の開口部11の端部には接触センサ16が設けられている。
【0018】
この外筒2と内筒3よりなる部分は小型な装置として形成することができる。動物を飼育するためのケージをこの動物飼育用給餌装置に合わせた専用の飼育装置を作成してもよいが、既に普及している飼育装置のケージにこの動物飼育用給餌装置を設置することもできる。本例では、複数のケージに1基ずつ外筒2と内筒3よりなる部分を設置するとともに、すべてのケージに共通の制御装置17を設けている。
【0019】
ロードセル13の出力は、ロードセルアンプ18およびA/Dコンバータ19を介してコンピュータ20に接続されており、餌重量がコンピュータ20によって測定される。フォトセンサ15の出力もコンピュータ20に接続されており、コンピュータ20によって測定される。接続されている。また、駆動源4のモータもモータコントローラ21を介してコンピュータ20に接続されており、コンピュータ20によってその回転が制御される。
【0020】
ついで、動物飼育用給餌装置の作用とともに、動物飼育用給餌装置を使用した動物飼育方法について説明する。図6は動物飼育用給餌装置の動作を示すフローチャートである。
【0021】
動物飼育用のケージで飼育できる動物であれば、ほとんどのものに対して適用できる。特に、マウスやラットなどの小型の実験用動物の飼育に適している。餌容器に餌を入れ、ロードセル13の上に設置する。餌はペレット状のものなどに限定されず、固形・粒状・粉状・液体などさまざまなものを自由に選択できる。餌容器12は着脱自由であるので、あらかじめ餌を餌容器12に入れ、この餌容器を既に設置しているものと置き換えて、餌を供給することもできる。この工程を自動化することも不可能ではないが、装置が大型化・複雑化する。入れ替え作業を手作業で行っても、さほど大きな負担ではなく、装置の簡易化においても有利である。
【0022】
コンピュータ20に試験を行いたい摂食パターンに基づいて、外筒2と内筒3の開口部同士が重なる状態と重ならない状態を切り替えるスケジュールをプログラムしておく。図6のフローチャートの例においては、1日数回分の給餌開始時刻tsと給餌終了時刻teを設定する。すべてのケージに対して同じスケジュールをプログラムしてもよい。ケージをいくつかのグループに分けて、グループ毎に異なった摂食パターンを実現するようにスケジュールをプログラムしてもよい。
【0023】
切り替えスケジュールが開始したら、そのスケジュールに基づいて駆動源4が作動して内筒3が回転し、定められた時間に開放状態になったり遮断状態になったりする。
【0024】
給餌開始時刻tsが到来して外筒2と内筒3の開口部同士が重なって開放状態になると、動物xは導入管を通って進入し、開口部9,11より頭部を内筒3の内部に入れることができる。こうして、餌容器12の中の餌を摂取することができる。
【0025】
開放状態になっている時間のすべてにおいて動物xが餌を食べているとは限らない。餌を食べるために頭部を内筒3の内部に入れているときは、発光素子12からの光が動物の体に遮られ、受光素子13に到達しない。制御装置は定められた時間間隔(B秒)で受光素子の信号を読み込む。したがって、受光素子13に光が入らないことを検知することによって、実際に餌を食べている時間および摂食回数をコンピュータ20が把握することができ、それを内部の記憶装置に記憶することができる。
【0026】
また、定められた時間間隔(A秒)でロードセル13の出力を読み込むことによって、コンピュータ20は餌の重量を計測する。その重量の減少量を算定することによって摂取された餌の量を計測および記録できる。餌容器が所定の値を下回る場合には、餌がなくなったと判断して、ディスプレイ上に赤色などで目立つように表示する。
【0027】
スケジュールとしてプログラムされた給餌終了時刻teがきたら、コンピュータ20の指示によって駆動源4が作動し、内筒3が回転して遮断状態に移行する。外筒2と内筒3の開口部同士が重なって遮断状態になると、動物xは内筒3の中に進入できなくなり、餌を食べることができなくなる。遮断状態を維持している間は、摂取しない状態を確実に実現することができる。
【0028】
なお、内筒3の開口部11の端部には接触センサ16が設けられているが、遮断状態に移行するときの内筒3の回転において、この接触センサ16が設けられている端部が開口部でない部分の先端として移動し、外筒2の開口部9を塞いでいく。もし、まだ動物が開口部を通して内筒3の中に頭部を入れた状態であれば、接触センサ16が動物の体に接触して反応する。このときの接触センサ16の信号により、コンピュータ20は駆動源4を停止させるか、あるいはさらに駆動源4を逆回転させて一時的に開放状態(C秒間)にする。動物が内筒3より退避して、接触センサ16が非接触の信号を発したら、コンピュータ20は駆動源4を再度作動させて、遮断状態に移行する。これによって、開口部の遮断時に動物が挟まれることを防止できる。
【0029】
内筒内部の空間は動物xが前半身を入れることができる程度に制限されており、体全体を内筒に入れることはできない。したがって、遮断状態のとき、動物は確実に内筒3の外に出ている。
【0030】
動物飼育用給餌装置は外筒と内筒との相対的な回転により開口部の開閉を行うので、摂食可能な時間の開始および終了を正確かつ確実に制御できる。また、実際に摂食している時間・摂食回数や摂食量も計測・記録されるので、動物の摂食行動を分析するためのデータをして活用することができる。
【0031】
つぎに、この発明の別の実施の形態について説明する。図7は動物飼育用給餌装置の別の例を模式的に示す斜視図である。この例においては、外筒および内筒の軸線が実質的に水平に設置されている。外筒2は固定されており、開口部9は下側の側面に設けられている。この開口部9の直下に餌容器12が設けられている。
【0032】
すなわち、この実施の形態においては外筒2と内筒3で形成される空間も動物の居住空間の一部となる。そして、餌収納空間は内筒3の外部になる。内筒3の側面にも開口部11が設けられている。内筒3を回転させて、開口部の開閉を行う。
【0033】
開放状態のとき、動物は口を開口部9に入れて、餌を摂取する。内筒3を回転させて、開口部9を塞ぐと餌を摂取できない状態になる。遮断状態に移行するときに、動物がまだ摂食中であった場合、開口部9を塞ごうとする内筒3の側壁の先端部が動物のひげに接触する。ラットやマウスなどはひげへの異物の接触に対して極めて敏感に反応し、即座に退避行動をとる。したがって、動物の体が遮断状態に移行するときに挟まれることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】動物飼育用給餌装置の例を模式的に示す斜視図である。
【図2】動物飼育用給餌装置の例を示す縦断面図である。
【図3】同横断面図である。
【図4】動物飼育用給餌装置の制御系を示す構成図である。
【図5】動物飼育装置を示す正面図である。
【図6】動物飼育用給餌装置の動作を示すフローチャートである。
【図7】動物飼育用給餌装置の別の例を模式的に示す斜視図である。
【符号の説明】
【0035】
1.動物飼育用給餌装置
2.外筒
3.内筒
4.駆動源
9.開口部
10.導入管
11.開口部
12.餌容器
13.餌重量測定装置(ロードセル)
17.制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒と、外筒の内部に同軸に設けられた内筒と、外筒と内筒を相対的に回転させる駆動源とを有し、外筒および内筒の側面には開口部が設けられており、外筒と内筒との相対的な回転によって開口部同士が重なる状態と重ならない状態を切り替えることを特徴とする動物飼育用給餌装置。
【請求項2】
外筒および内筒の軸線が実質的に水平に設置されている請求項1に記載の動物飼育用給餌装置。
【請求項3】
餌重量測定装置を有する請求項1または請求項2に記載の動物飼育用給餌装置。
【請求項4】
外筒または内筒のうち回転する方の開口部の端部に接触センサが設けられており、遮断状態へ移行するときに接触センサが接触したことを示す信号を検知したときには駆動源を逆回転させることによって動物が挟み込まれることを防止するようになした請求項1に記載の動物飼育用給餌装置。
【請求項5】
請求項1に記載の動物飼育用給餌装置と、外筒の外周に設けられた発光素子および受光装置と、餌重量測定装置と、制御装置を備え、制御装置は受光素子および餌重量測定装置と接続されており、制御装置は受光装置および餌重量測定装置の信号を読み込み動物の摂食時間、摂食量および摂食回数を算定して記憶装置に記憶するようになした動物飼育装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−289450(P2008−289450A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−140643(P2007−140643)
【出願日】平成19年5月28日(2007.5.28)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【Fターム(参考)】