説明

医療用多層カテーテル

【課題】シリコーンゴム同等以上の優れた抗血栓性、組織適合性を有しつつ、高強度のカテーテルを提供すること。
【解決手段】医療用多層カテーテルであって、最外層および最内層が、シリコーンゴムで形成され、中間層が、伸度が500%以上、かつ、100%モジュラスが10MPa以下の熱可塑性エラストマーで構成され、また、前記熱可塑性エラストマーが、ウレタン系熱可塑性エラストマーであり、また、前記シリコーンゴムは、骨格中に付加重合型シリコーンを含むことを特徴とする医療用多層カテーテルである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療用多層カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
カテーテルは、最も一般的なチューブ状医療用具であり経皮的、或いは内視鏡的に血管、消化管、尿道あるいは気管などへ挿入し、生理機能の補助に用いられたり診断や検査及び生理機能のモニタリングや栄養補給、輸血・体液管理等の生命維持や治療用に広く用いられたりする。
【0003】
ここで、カテーテル材質には優れた抗血栓性、組織適合性を有することからシリコーンゴムが好適に用いられている。
【0004】
しかし、シリコーンゴムは強度がそれほど高くなく、特に引裂強度が低いので、例えば、カテーテルに微小な傷があるとその部位をきっかけとして、破断する可能性があるため、手技上の使用については注意を払いながら行なう必要がある。
【0005】
そこで、シリコーンゴム自体の引裂強度を向上させるため、特定構造を有するオルガノポリシルアルキレンシロキサンを主成分とするシリコーンゴム等が提案されている(例えば特許文献1)。しかし、一般工業用途であるために、医療用途には直ちに適用することはできないという問題があった。
【特許文献1】特開平5−24739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、シリコーンゴム同等以上の優れた抗血栓性、組織適合性を有しつつ、高強度のカテーテルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記(1)ないし(3)に記載の本発明により達成される。
(1)医療用多層カテーテルであって、最外層および最内層が、シリコーンゴムで形成され、中間層が、伸度が500%以上、かつ、100%モジュラスが10MPa以下の熱可塑性エラストマーで構成されていることを特徴とする医療用多層カテーテル。
(2)前記熱可塑性エラストマーが、ウレタン系熱可塑性エラストマーである上記(1)に記載の医療用多層カテーテル。
(3)前記シリコーンゴムは、骨格中に付加重合型シリコーンを含む上記(1)または(2)に記載の医療用多層カテーテル。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた抗血栓性、組織適合性を有しつつ、高強度のカテーテルを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下本発明のカテーテルについて、詳細に説明する。
【0010】
本発明のカテーテルは、医療用多層カテーテルであって、最外層および最内層が、シリコーンゴムで形成され、中間層が、伸度が500%以上、かつ、100%モジュラスが10MPa以下の熱可塑性エラストマーで構成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明で用いられるシリコーンゴムは特に限定されず、例えば、有機過酸化物硬化型、Si−H結合と脂肪族不飽和結合との、白金族金属系触媒によるハイドロシリレーション反応を利用する付加反応型等、種々の縮合硬化型のものが挙げられるが、本発明においては、連続成形及び密閉系内成形に優れる観点から、有機過酸化物硬化型、または、付加反応型が好ましく、特に、押し出し接着性に優れた付加反応架型が好ましい。
【0012】
上記付加反応架橋硬化型のものは、(イ)アルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン、(ロ)オルガノハイドロジェンポリシロキサン、(ハ)白金系の硬化触媒、および(ニ)接着性付与剤を必須成分とするものであり、必要に応じて、前記した充填剤及び添加剤などを適宜配合することができる。
【0013】
上記の(イ)アルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサンとしては、ケイ素原子に結合するアルケニル基を、1分子中に少なくとも2個含有するものが好ましい。かかるアルケニル基としては、例えばビニル基、アリル基等があり、好ましくはビニル基である。また、ケイ素原子に結合するその他の有機基は、炭素原子数が10以下の一価の炭化水素基が好ましく、例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基等のアリール基、クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等の水素原子の一部または全部がハロゲン原子等で置換された炭化水素基などが挙げられ、中でもメチル基及びフェニル基が好ましい。
【0014】
これらのアルケニル基、及び炭素原子数が10以下の一価の炭化水素基を含むジオルガノポリシロキサンは、直鎖状のものが好ましい。また、アルケニル基は、ジオルガノポリシロキサンの分子鎖中に存在しても分子鎖両末端に存在してもよく、その含有量は、全有機基中の0.05〜10モル%であることが好ましい。
【0015】
(ロ)のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、前記(イ)のジオルガノポリシロキサン中のアルケニル基と付加反応して組成物を硬化せしめる架橋剤であるので、1分子中に少なくとも2個のSiH基を有することが必要であるが、その分子構造は直鎖状、環状、分岐状のいずれであってもよい。このオルガノハイドロジェンポリシロキサンの使用量は、それに含まれるSi−H基と(イ)のジオルガノポリシロキサン中のアルケニル基とのモル比〔Si−H基〕/〔アルケニル基〕が、0.5〜5の範囲となる量であることが好ましい。
【0016】
シリコーンゴムの付加反応に用いられる触媒は、公知のものの中から適宜選択することができるが、本発明においては特に白金系触媒((ハ)成分)が好ましく、その具体例としては塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸とオレフィン又はビニルシロキサンとの錯体などが挙げられる。また、その使用量は、通常、前記アルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサンの主成分であるジオルガノポリシロキサン100重量部に対して1〜100ppm程度でよい。
【0017】
なお、本発明のシリコーンゴムには、補強剤、造影剤を初め、必要に応じて各種の添加剤を配合することが可能である。ここに使用される補強剤、造影剤は公知のものの中から適宜選択することができる。補強剤の例は、フェームドシリカ、沈殿性シリカ、疎水性シリカ、二酸化チタン、酸化第二鉄、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、石英粉末、珪藻土、ケイ酸カルシウム、タルク、ベントナイト、ガラス繊維、有機繊維などが挙げられる。また、造影剤の例は硫酸バリウム、酸化ビスマスのようなビスマス系造影剤が挙げられる。
【0018】
これらの補強剤、造影剤は1種または2種以上を併用しても良く、また、補強剤、造影剤以外の添加剤も、1種または2種以上を併用することができる。補強剤、造影剤等の配合量は、前記主成分であるアルケニル基を含有するジオルガノポリシロキサン100重量部当たり5〜100重量部であることが好ましい。
【0019】
本発明の熱可塑性エラストマーは、特に限定はされないが、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、塩ビ系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性などから選ばれる熱可塑性エラストマーから選択すればよく、これらの中で、ウレタン系熱可塑性エラストマーであることが引裂強度が向上するという観点でより好ましい。
【0020】
熱可塑性ウレタン系エラストマーは、ウレタン結合を有する高分子化合物であり、ポリウレタンのみならず、ポリウレタンウレア、ポリウレタン・シリコーンブロック共重合体、フッ素化ポリウレタン、フッ素化ポリウレタンウレアなどのポリウレタン系ポリマーが含まれる。また、ポリウレタンとポリジメチルシロキサンとのブレンドなど、ポリウレタン系樹脂と異種ポリマーとのブレンド物も使用できる。
【0021】
ただし、本発明のウレタン系熱可塑性エラストマーは、商業的な入手のしやすさの観点で、ポリウレタンを用いることが好ましい。ポリウレタンとしては、例えば、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)や水添MDI、ヘキサメチレンジイソ
シアネートなどのジイソシアネートと1,4−ブタンジオールやエチレングリコールなど
の短鎖ジオールからなるウレタン結合をハードセグメントとし、ポリオキシテトラメチレ
ングリコールやポリオキシプロピレングリコールなどのポリエーテル、エチレンアジペー
トやブチレンアジペートなどのアジピン酸エステル、ポリカプロラクトンやポリカーボネ
ートなどの脂肪族ポリエステル等をソフトセグメントとするポリウレタンが挙げられ、な
かでも、比較的分解しにくいポリエーテルをソフトセグメントとするポリウレタンを用い
ることが好ましい。また、鎖延長剤としては1,4−ブタンジオールやエチレングリコー
ルなどの短鎖ジオールあるいはエチレンジアミンなどのジアミンが使用される。これらの
ポリウレタンは、プレポリマー法、ワンショット法、その他の方法により合成することが
できる。
【0022】
本発明の医療用多層カテーテルは、中間層が熱可塑性エラストマーにより形成されているので、シリコーンゴム単層から形成されるカテーテルに比べて、引張強度、引裂強度を
向上させることができる。
【0023】
次に最外層及び最内層となるシリコーンゴム層の厚さと中間層である熱可塑性エラストマーの厚さに関し、言及する。
【0024】
最内層/中間層/最外層の厚みの比率は、制限はないが、0.5/99/0.5〜10/80/10の範囲にあることが好ましい。特に好ましくは0.5/99/0.5〜10/80/10である。シリコーンゴムから構成される最内層、最外層の厚みの比率が0.5%未満になると、シリコーンゴム同等以上の優れた抗血栓性、組織適合性を発現できない可能性があり、一方比率が10%を超えると十分な強度が得られない可能性がある。また、
中間層は単一の材料から形成されることはなく、所定の特性を損なわない限り、2種以上の熱可塑性エラストマーあるいは熱可塑性エラストマーと軟質塩化ビニルとの層から構成されてもかまわない。
【0025】
本発明の医療用多層カテーテルの製造方法は特に限定されるわけではないが、一般的には次の通り製造する。所定の形状に押出成形した熱可塑性エラストマーからなる中間層に対して、コーティング法、ディッピング法、スプレー法等一般の方法が適用できる。
【0026】
シリコーンゴムをそのまま、またはヘキサン等で希釈した溶液を所望の厚みに積層し、40℃〜130℃、好ましくは80℃〜120℃で5分間から10時間、好ましくは10
分間〜3時間かけて硬化させる。なお、このときに最外層と中間層と最内層の密着強度を
向上させる目的で洗浄工程及びシランカップリング処理、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理をすることはなんら問題はない。
【0027】
以下に本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されるものでない。
【実施例】
【0028】
(実施例1)
日本ポリウレタン(株)製ミラクトランE375MSJP(ポリエーテル型のウレタン系熱可塑性エラストマ
ー 伸度:750% 100%モジュラス:3.4MPa)を用いて、φ30mm押出機で外径:3.5mm、内径:1.5mmのチューブを試作した。このときの成形温度は190℃だった。得られたチューブを1mに切断し、30wt%エタノール水溶液に浸漬し内部の空気を除去し、約10分間超音波洗浄し、十分乾燥させた。
【0029】
一方、付加重合型シリコーンゴムとして、25℃における粘度が12000CSであり、
分子鎖末端がジメチルビニルシリル基であるジメチルポリシロキサン100重量部に対し、
トリメチルシロキシ単位12mol%、ジメチルシロキサン単位48mol%、メチルハイドロジェンシロキシ単位40mol%からなるポリシロキサンを12重量部、シリカ30重量部、塩化白金酸のイソプロパノール(白金分5%)を0.1重量部加え、調製した。
【0030】
上記チューブを上記シロキサン溶液に浸漬させて、約2m/分の速度で引き上げ、チューブ外面及び内面のコーティングを行った。次いで30分間風乾後に、熱風乾燥機中にて105℃で95分間加熱し、最外層及び最内層がシリコーンゴムで構成され、かつ中間層がウレタン系熱可塑性エラストマーのチューブを得た。
【0031】
SEMにて最外層/中間層/最内層の厚みを確認したところ、それぞれ10μm、983μm及び7μmであった。
(実施例2)
三菱化学(株)製ラバロンME6301(スチレン系熱可塑性エラストマー 伸度:830% 100%モジ
ュラス:2.6MPa)を実施例1と同様に押出成形を実施した。得られたチューブ成形品を真空チャンバーに入れ、0.7Paに減圧後に、アルゴンガスを300ml/分の速度でチャンバーに導き、チャンバー内の内圧を約0.20Paに保ち、続いて13.56MHzの高周波内部電極を用いて印加電力700Wで5分間放電させ、プラズマ処理を行った。
【0032】
一方、付加重合型シリコーンゴムとして、25℃における粘度が15000CSであり、
分子鎖末端がジメチルビニルシリル基であるジメチルポリシロキサン100重量部に対し、
トリメチルシロキシ単位10mol%、ジメチルシロキサン単位35mol%、メチルハイドロジェンシロキシ単位55mol%からなるポリシロキサンを5重量部、シリカ20重量部、塩化白金酸のイソプロパノール(白金分5%)を0.1重量部加え、調製した。
【0033】
上記チューブを上記シロキサン溶液に浸漬させて、約3m/分の速度で引き上げ、チューブ外面及び内面のコーティングを行った。次いで30分間風乾後に、熱風乾燥機中にて70℃で6時間加熱し、最外層及び最内層がシリコーンゴムで構成され、かつ中間層がスチレン系熱可塑性エラストマーのチューブを得た。
【0034】
SEMにて最外層/中間層/最内層の厚みを確認したところ、それぞれ8μm、987μm及び5μmであった。
(比較例1)
硬度70のシリコーンゴム材料を用いて外径:3.5mm、内径:1.5mmのチューブを試作し、一次加硫後に2次加硫を行った。一次加硫温度は240℃、ライン速度は3.5m/minで試作を行った。2次加硫はチューブを1mに切断し、オーブンで200℃にて4時間加熱をした。
【0035】
実施例及び比較例で得られたチューブを16cmに切断し、チューブ中央部をメス刃(フタバ替刃メスNO.11)で傷深さが2mmになるようにTD方向の傷を付けた。このチューブを用いて速度200mm/分で引張試験を実施した。
【0036】
このときの破断時の荷重を表1に記載する。
【0037】
【表1】

【0038】
表1が示すように、本発明の医療用多層カテーテルはシリコーン系カテーテルに比べて、高強度である。一方、体液接触部分はシリコーンゴムなので、優れた抗血栓性、組織適合性を有している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
医療用多層カテーテルであって、
最外層および最内層が、シリコーンゴムで形成され、
中間層が、伸度が500%以上、かつ、100%モジュラスが10MPa以下の熱可塑性エラストマーで構成されていることを特徴とする医療用多層カテーテル。
【請求項2】
前記熱可塑性エラストマーが、ウレタン系熱可塑性エラストマーである請求項1に記載の医療用多層カテーテル。
【請求項3】
前記シリコーンゴムは、骨格中に付加重合型シリコーンを含む請求項1または2に記載の医療用多層カテーテル。




【公開番号】特開2007−167158(P2007−167158A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−365765(P2005−365765)
【出願日】平成17年12月20日(2005.12.20)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】