説明

医療用機器

【課題】複雑に分岐する体腔に対しても操作線による偏向操作によって随意的に進入させることができる医療用機器を提供する。
【解決手段】カテーテルは、体腔内に挿入して用いられる長尺本体20と、この長尺本体20に設けられた非対称屈曲部30と、長尺本体20の遠位端部22に先端部42が係止された少なくとも第一の操作線40aおよび第二の操作線40bと、を備えている。非対称屈曲部30は、長尺方向の圧縮と引張とで非対称の剛性をもっている。第一の操作線40aを牽引することで、遠位端部22は一方側に撓んで非対称屈曲部30に圧縮力を付与して第一屈曲形態となる。第二の操作線40bを牽引することで、遠位端部22は他方側に撓んで非対称屈曲部30に引張力を付与して第二屈曲形態となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カテーテルやガイドワイヤなど体腔内に挿入して用いられる長尺の医療用機器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術に関し、特許文献1に記載のカテーテルは、金属製の多数の環状部や螺旋を、対向配置された一対のロッド状の軸方向連結要素(ロッド)で一体に連結した管状部材を備えている。そして、これらの一対のロッドに対して±90度の回転位置に2本の操作線がそれぞれ接続されており、これらの操作線を個別に牽引することで遠位端部が屈曲してカテーテルが偏向する。
【0003】
特許文献1のカテーテルにおいて、遠位端部の屈曲方向は一対のロッドの並び方向に対して直交している。したがって、屈曲するカテーテルにおいてこれらのロッドは中立線となり、引張応力または圧縮応力は付与されず、もっぱら曲げ応力のみが付与される。このカテーテルによれば、屈曲するカテーテルの遠位端部に対して、ロッドの曲げ反力を与えることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−144554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、医療用機器の精細化が益々進められている。特許文献1のような偏向操作可能な能動カテーテルに関しても、複雑に分岐する体腔に対して随意的かつ精細な操作によって進入可能とすることが求められている。しかしながら、特許文献1のカテーテルは2本の操作線のいずれを牽引しても遠位端部の屈曲形態は同じ(上下対称)であるため、精細な操作が可能であるとは言い難く改良の余地があった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、複雑に分岐する体腔に対しても操作線による偏向操作によって随意的に進入させることができる医療用機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の医療用機器は、体腔内に挿入して用いられる長尺本体と、前記長尺本体に設けられ、長尺方向の圧縮と引張とで非対称の剛性をもつ非対称屈曲部と、前記長尺本体の遠位端部に先端部が係止され、基端部をそれぞれ牽引することで前記遠位端部を屈曲させる少なくとも第一および第二の操作線と、を備え、第一の操作線を牽引することで前記遠位端部が一方側に撓んで前記非対称屈曲部に圧縮力を付与するとともに第一屈曲形態となり、第二の操作線を牽引することで前記遠位端部が他方側に撓んで前記非対称屈曲部に引張力を付与するとともに前記第一屈曲形態と異なる第二屈曲形態となることを特徴とする。
【0008】
上記発明の医療用機器は、長尺方向の圧縮と引張とで剛性が異なる非対称屈曲部を有している。これにより、第一の操作線を牽引して非対称屈曲部に圧縮力を付与した場合の遠位端部の歪みと第二の操作線を牽引して非対称屈曲部に引張力を付与した場合の遠位端部の歪みとは相違する。このため、第一の操作線と第二の操作線の選択によって遠位端部に実現される屈曲形態を異形とすることが可能であり、言い換えると体腔の分岐形状に対応して遠位端部の屈曲形態を選択することができる。
【0009】
なお、本発明の各種の構成要素は、個々に独立した存在である必要はなく、複数の構成要素が一個の部材として形成されていること、一つの構成要素が複数の部材で形成されていること、ある構成要素が他の構成要素の一部であること、ある構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複していること、等を許容する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複雑に分岐する体腔に応じて操作線を適宜選択して偏向操作をすることで、多様な体腔に対しても随意的に進入させることができる医療用機器が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第一実施形態のカテーテルの平面図である。
【図2】(a)は第一実施形態のカテーテルの第一屈曲形態を示す平面図である。(b)はその第二屈曲形態を示す平面図である。
【図3】第一実施形態のカテーテルの遠位端部を示す拡大断面図である。
【図4】第一実施形態の管状部材を模式的に示す平面図である。
【図5】(a)は第一実施形態の管状部材の第一屈曲形態を示す平面模式図であり、(b)はその第二屈曲形態を示す平面模式図である。
【図6】第二実施形態の管状部材を模式的に示す平面図である。
【図7】(a)は第二実施形態のカテーテルの遠位端部の第一屈曲形態を示す平面図であり、(b)はその第二屈曲形態を示す平面図であり、(c)は複合屈曲形態を示す平面図である。
【図8】(a)は操作部の内部構造を示す平面図であり、(b)はその側面図である。
【図9】(a)は第一屈曲形態で前進するカテーテルを説明する模式図であり、(b)は複合屈曲形態で前進するカテーテルを説明する模式図である。
【図10】第三実施形態のカテーテルの遠位端部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0013】
<第一実施形態>
図1から図5を用いて本発明の第一実施形態にかかる医療用機器を説明する。本実施形態の医療用機器としてはカテーテルを例示するが、カニューレやガイドワイヤでもよい。
【0014】
はじめに、本実施形態のカテーテル10の概要について説明する。
カテーテル10は、体腔内に挿入して用いられる長尺本体20と、この長尺本体20に設けられた非対称屈曲部30(図3)と、長尺本体20の遠位端部22に先端部42が係止された少なくとも第一の操作線40aおよび第二の操作線40bと、を備えている。
図3に示す非対称屈曲部30は、長尺本体20の延在方向にあたる長尺方向(図1〜図4の左右方向)の圧縮と引張とで非対称の剛性をもっている。また、第一の操作線40aおよび第二の操作線40bは、基端部44(図3および図8を参照)をそれぞれ牽引することでカテーテル10の遠位端部22を屈曲させる。
第一の操作線40aを牽引することで遠位端部22は一方側(同図上方)に撓んで非対称屈曲部30に圧縮力を付与する。このとき、遠位端部22は図2(a)に示す第一屈曲形態となる。
そして、第二の操作線40bを牽引することで遠位端部22は他方側(同図下方)に撓んで非対称屈曲部30に引張力を付与する。このとき、遠位端部22は第一屈曲形態と異なる第二屈曲形態(図2(b)を参照)となる。
【0015】
カテーテル10の遠位端部22とは、カテーテル10の遠位端DEを含む所定の長さ領域をいう。
【0016】
次に、本実施形態のカテーテル10について詳細に説明する。以下、第一の操作線40aおよび第二の操作線40bをカテーテル10の遠位側に移動させることを前進させると表現し、逆に近位側に移動させることを後退させるまたは牽引すると表現する。
【0017】
カテーテル10は、第一の操作線40aまたは第二の操作線40bを個別に選択して牽引する操作と、第一の操作線40aおよび第二の操作線40bをともに牽引する操作と、を行う操作部60を備えている。
【0018】
操作部60は、長尺本体20の近位端部26に接続されている操作部本体62と、この操作部本体62に対して正逆方向に回転可能かつ移動可能に設けられた回転子64と、を含む。
第一の操作線40aおよび第二の操作線40bの基端部44は回転子64に接続されている。回転子64が操作部本体62に対して正方向(図2(a)に示す時計回り)または逆方向(図2(b)に示す反時計回り)に回転することで、第一の操作線40aまたは第二の操作線40bが選択的に牽引される。そして、回転子64を操作部本体62に対して移動させることで第一の操作線40aおよび第二の操作線40bがともに牽引される。
【0019】
図1に示すように、操作部本体62には長尺方向に沿って延在する摺動溝63が形成されており、回転子64にはこの摺動溝63と係合する突起部65が形成されている。回転子64を摺動溝63に沿って後退させることで、第一の操作線40aおよび第二の操作線40bはともに牽引される。複数本の操作線を同時に牽引する使用方法については第二実施形態にて後述する。
【0020】
図3に示すように、長尺本体20は、最内層にあたる内層14、中間層にあたる樹脂製のシース12、および最外層にあたる親水層18を積層した積層管状体である。これらの三層のうちシース12がもっとも肉厚であり、シース12の内部には管状部材50が埋設されている。
【0021】
内層14の内腔はカテーテル10のメインルーメン15である。内層14には、一例として、フッ素系の熱可塑性ポリマー材料を用いることができる。より具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)やポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)などを用いることができる。内層14にフッ素系樹脂を用いることにより、メインルーメン15を通じて造影剤や薬液などを患部に供給する際のデリバリー性が良好となる。
【0022】
シース12には熱可塑性ポリマーが広く用いられる。一例として、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエチレンテレフタレート(PET)のほか、ポリエチレン(PE)、ポリアミド(PA)、ナイロンエラストマー、ポリウレタン(PU)、エチレン−酢酸ビニル樹脂(EVA)、ポリ塩化ビニル(PVC)またはポリプロピレン(PP)などを用いることができる。
【0023】
親水層18には、ポリビニルアルコール(PVA)やポリビニルピロリドンなどの親水性材料を用いることができる。親水層18は、長尺本体20の遠位側の一部のみに形成されている。
【0024】
長尺本体20の先端には白金などのX線不透過材料からなる環状のマーカー70が配置されている。マーカー70の形状は特に限定されないが、環径(図3の上下寸法)に比べて肉厚(同図の左右寸法)は小さい。これにより、体腔内のカテーテル10にX線を照射した場合にマーカー70の位置および向きが確認される。これにより、カテーテル10の先端位置および偏向方向を検知することができる。
【0025】
シース12にはサブルーメン13が長尺方向に沿って通孔形成されている。本実施形態のカテーテル10では、複数のサブルーメン13がメインルーメン15の周囲に配置されている。サブルーメン13には操作線40(第一の操作線40aおよび第二の操作線40b)が摺動可能に挿通されている。より具体的には、本実施形態のシース12には、少なくとも二つのサブルーメン13a、13bが、メインルーメン15の周囲に180度対向して通孔形成されている。サブルーメン13a、13bは長尺本体20の長尺方向に沿って延在している。
【0026】
サブルーメン13a、13bの内部にはサブコイル131a、131bがそれぞれ収容されている。サブコイル131a、131bは、サブルーメン13a、13bのうち遠位端DE近傍の一部長さ領域(サブコイル領域35)に収容されている。本実施形態のサブコイル131a、131bは、隣接する巻線ループどうしが互いに離間しているピッチ巻コイルであり、圧縮方向および伸長方向の剛性が等しく任意の方向に柔軟に湾曲することが可能である。また、サブコイル131a、131bは、好ましくはサブルーメン13a、13bの周壁に対して非固着であって巻線ループが当該周壁に対して長尺方向に摺動可能である。
【0027】
シース12には、サブコイル131a、131bの基端側に連設して中空管132が埋設されている。中空管132には、サブルーメン13a、13bを構成する内腔が貫通形成されている。内腔の径はサブコイル131a、131bの内径と同等であり、操作線40の外径よりも大きい。中空管132は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、PIもしくはPTFEなどの樹脂材料からなる。操作線40との摺動性から、特にPEEKが好適に用いられる。
【0028】
操作線40は樹脂材料または金属材料からなる細線である。具体的には、PEEK、PPS、PBT、PIもしくはPTFEなどの樹脂材料、またはステンレス鋼、耐腐食性被覆した鋼鉄線、チタンもしくはチタン合金などの金属線からなる。本実施形態の操作線40は、極細の金属細線を互いに撚り合わせた撚り線である。
【0029】
操作線40の先端部42は長尺本体20の遠位端部22のいずれかの部位に対して係合している。操作線40の基端部44を牽引した際に遠位端部22に屈曲力を付与するかぎりにおいて、先端部42の係合態様は特に限定されず、遠位端部22に対して固着してもよく、または非固着でもよい。また、シース12に対して先端部42を埋め込んで固定してもよく、マーカー70に対して先端部42を溶接または接着接合してもよい。
【0030】
なお、第一の操作線40aと第二の操作線40bとは、二本の個別の細線であることに限られず、一本の細線を遠位端部22または近位端部26の一方で折り返してU字状にして用いてもよく、または一連のループ状にして用いてもよい。したがって、一本の細線における二つの部分領域を、第一の操作線40aおよび第二の操作線40bと呼称してもよい。この場合、第一の操作線40aと第二の操作線40bの先端部42は合わせて一つであってもよい。
【0031】
また、操作線40の本数は二本に限られず、三本以上でもよい。以下、第一の操作線40aおよび第二の操作線40bとは、それぞれ一本の操作線または二本以上の操作線の集合を意味する。
【0032】
長尺本体20の基端は操作部60に固定され、操作線40の先端部42は長尺本体20の遠位端部22に係合している。このため、第一の操作線40aまたは第二の操作線40bの基端部44をそれぞれ牽引すると、長尺本体20の遠位端部22は当該操作線40の側に撓んで屈曲する。具体的には、第一の操作線40aを牽引すると、当該操作線の先端部42が固定された図3の上方(一方側)に向かって遠位端部22は屈曲する。そして、第二の操作線40bを牽引すると、当該操作線の先端部42が固定された図3の下方(他方側)に向かって遠位端部22は湾曲する。なお、遠位端部22は、長尺本体20の中心軸および操作線40が属する平面内で屈曲することが好ましい。ただし、長尺本体20の曲げ剛性に関する製造公差内のばらつきなどにより、遠位端部22の屈曲方向が当該平面から外れる成分をもってもよい。したがって、長尺本体20の遠位端部22が一方側または他方側に撓むとは、第一の操作線40aまたは第二の操作線40bの先端部42および長尺本体20の中心軸が属する平面内のみで遠位端部22が屈曲することを必ずしも意味しない。遠位端部22が第一の操作線40aに追随して変位することを一方側に撓むといい、遠位端部22が第二の操作線40bに追随して変位することを他方側に撓むという。
【0033】
図2(a)、(b)に対比して示すように、本実施形態のカテーテル10においては、第一の操作線40aを牽引した場合の遠位端部22の第一屈曲形態と、第二の操作線40bを牽引した場合の遠位端部22の第二屈曲形態とが互いに異なる。屈曲形態とは、具体的には曲率(曲率半径)、屈曲長さ、屈曲角度など、屈曲した遠位端部22の状態を特定するためのパラメータである。屈曲長さとは、長尺本体20において屈曲している領域に関する長尺方向の長さをいう。長尺本体20の曲げ剛性が全長に亘って連続的である場合など、屈曲の始点が明確でない場合にも、遠位端DE近傍の曲率が第一屈曲形態と第二屈曲形態とで相違することとなる。
【0034】
なお、本発明において、屈曲と湾曲とは区別しない。本実施形態のカテーテル10では、第一屈曲形態と第二屈曲形態とは、曲率半径が同等であり、かつ屈曲長さが異なる。
【0035】
長尺本体20の一方側への曲げ剛性は、他方側への曲げ剛性よりも大きい。そして、第一の操作線40aの先端部42は長尺本体20の遠位端部22における一方側(図3の上方)に係止され、第二の操作線40bの先端部42は遠位端部22における他方側(図3の下方)に係止されている。これにより、第一の操作線40aを牽引して遠位端部22を一方側に撓ませる第一屈曲形態の歪みは、第二の操作線40bを牽引して遠位端部22を他方側に撓ませる第二屈曲形態の歪みよりも小さくなる。
【0036】
長尺本体20には、一部の長さ領域として非対称屈曲部30が形成されている。非対称屈曲部における長尺本体20の圧縮方向の剛性は引張方向の剛性よりも高く、遠位端部22の第一屈曲形態は第二屈曲形態よりも屈曲長さが短くなる。図2(a)に示す第一屈曲形態と図2(b)に示す第二屈曲形態とで遠位端部22の曲率半径は同等であるが、第一屈曲形態における屈曲長さは、第二屈曲形態における屈曲長さよりも短い。
【0037】
ただし、本実施形態に代えて、第一屈曲形態と第二屈曲形態における屈曲長さを同等とし、第一屈曲形態における曲率半径が第二屈曲形態における曲率半径よりも大きくなるように構成してもよい。その具体的な構成は後述する。
【0038】
(管状部材について)
図3に示すように、本実施形態のカテーテル10は、特徴的な形状をもつ管状部材50をシース12に埋設することにより長尺本体20の一部の長さ領域に非対称屈曲部30が形成されている。管状部材50は、長尺本体20の屈曲形態の決定に支配的な影響を与える部材である。シース12、内層14および親水層18が樹脂材料であるのに対して、管状部材50はこれらよりも高弾性の金属材料からなる。具体的には、ステンレス鋼やニチノール(ニッケル・チタン合金)を用いることができる。本実施形態の管状部材50は、金属製のチューブをレーザー加工により所定の形状に切削して作製された、いわゆるハイポチューブである。ただし、管状部材50の加工形状は本実施形態に限定されるものではない。
【0039】
本実施形態の管状部材50は、多数の弾性要素51が長尺方向に連結されてなる。
図4に示すように、本実施形態の弾性要素51は、長尺方向に開口している環状部52と、隣接するこれらの環状部52どうしを弾性的に連結している梁状部53と、を備えている。かかる環状部52と梁状部53とが長尺方向に繰り返されて、管状部材50は構成されている。
【0040】
本実施形態の管状部材50は、遠位側から順に弾性要素51a〜51l(以下は図示省略)が連結されてなる。弾性要素51iよりも近位側には、長尺本体20の近位端部26(図1を参照)に至るまで、弾性要素51iと同形状の弾性要素が連続して形成されている。
【0041】
ここで、一部の弾性要素51(たとえば弾性要素51k)は、環状部52の両側の開口端面55が長尺方向(図4の左右方向)に対して垂直(以下、略垂直を含む)に起立している。
また、他の一部の弾性要素51(たとえば弾性要素51b)における環状部52の両側の開口端面55は、長尺方向に対して斜めに傾斜している。この開口端面55は、梁状部53から遠ざかるほど、相対面する他の環状部の開口端面から離れるように、当該環状部52の内側に向かって傾斜している。
さらに他の一部の弾性要素51(たとえば弾性要素51i)は、環状部52の片側(同図下側)の開口端面55が長尺方向に対して傾斜しており、他方(同図上側)が長尺方向に対して垂直である。
管状部材50の一方側(同図上側)および他方側(同図下側)についてそれぞれ見た場合、対面する環状部52の二つの開口端面55は、ともに長尺方向に対して垂直であるか、またはともに傾斜している。傾斜している開口端面55に関して、これらの傾斜角度はすべての弾性要素51に関して共通である。
【0042】
ここで、弾性要素51e〜51iに注目されたい。これらの弾性要素51e〜51iが本実施形態の非対称屈曲部30を構成している。弾性要素51e〜51iは一方側と他方側とで非対称の形状を有している。これらの弾性要素51における環状部52の開口端面55の一方側は長尺方向に対して垂直であり、他方側は長尺方向に対して傾斜している。これにより、弾性要素51e〜51iが一方側に撓むことは実質的にゼロに規制されているのに対して、これらの弾性要素が他方側に撓むことは許容されている。
【0043】
すなわち、非対称屈曲部30は、長尺方向に沿って連続して形成されて互いの間隔を伸長可能な複数の弾性要素51を含み、これらの隣接する弾性要素51が長尺本体20の一方側(同図上方)において互いに近接して配置されている。これにより、非対称屈曲部30は当該一方側において、弾性要素51どうしが近づく方向に変形することが規制されている。
【0044】
ここで、弾性要素51どうしの間隔とは、隣接する環状部52の近接縁間の距離である。隣接する弾性要素51が互いに近接しているとは、隣接する環状部52どうしが自然状態から更に近づくことが実質的にできない状態をいい、環状部52どうしが互いに直接に接触(密着)している場合と、シース12の樹脂材料を介して環状部52どうしが近接している場合とを含む。また、複数の弾性要素51が互いの間隔を伸長可能であるとは、隣接する弾性要素51どうしが相対的に並進または回転(揺動を含む)することにより、長尺方向の間隔が初期状態(長尺本体20の非屈曲状態)から拡大可能であることをいう。本実施形態のカテーテル10の場合、非対称屈曲部30を構成する弾性要素51e〜51iは、その近位側(同図右側)に隣接する他の弾性要素に対して、図4における反時計回りに回転して他方側に屈曲することが可能である。これにより、管状部材50の一方側における弾性要素51e〜51iどうしの間隔が伸長可能である。そして、管状部材50の当該一方側において弾性要素51e〜51iどうしが近づく方向に変形することは規制されている。このため、管状部材50は、非対称屈曲部30において他方側に屈曲することが許容され、一方側に屈曲することが規制されている。
【0045】
また、弾性要素51a〜51eは対称屈曲部32を構成している。弾性要素51eは、非対称屈曲部30と対称屈曲部32との境界に含まれており、厳密には弾性要素51eの遠位側の開口端面55は対称屈曲部32を構成し、弾性要素51eの近位側の開口端面55は非対称屈曲部30を構成している。対称屈曲部32に含まれる弾性要素51は、一方側・他方側とも、相対面する開口端面55どうしが側方に向かってV字状に開いている。言い換えると、隣接する環状部52どうしの間には、V字状の切溝が形成されている。これらの弾性要素51は、一方側・他方側ともに撓むことが可能である。
【0046】
図5(a)は、長尺本体20のシース12(図3を参照)に埋設された管状部材50が第一の操作線40a(図3を参照)の牽引操作により一方側に撓んだ第一屈曲形態を示す平面模式図(管状部材50のみを図示)である。同図(b)は、第二の操作線40bの牽引操作により管状部材50が他方側に撓んだ第二屈曲形態を示す平面模式図である。なお、説明のため環状部52の縦横比は図4と図5とで相違させて図示している。
【0047】
第一の操作線40aまたは第二の操作線40bを牽引することで、隣接する環状部52どうしが傾斜して長尺本体20は屈曲する。そして、非対称屈曲部30の一方側における環状部52どうしの間隙は、他方側における間隙よりも小さく、環状部52どうしの許容傾斜角度の一方側の上限(実質的にゼロ)は、他方側の上限よりも小さい。
【0048】
そして、環状部52どうしの傾斜角度が許容傾斜角度となることで、管状部材50の屈曲は規制される。したがって、図5(a)の第一屈曲形態において弾性要素51e〜51iは略一直線上に並んでいるのに対して、図5(b)の第二屈曲形態においてこれらの弾性要素は屈曲している。
【0049】
長尺本体20(管状部材50)は、非対称屈曲部30よりも遠位側に、長尺方向の圧縮と引張とで対称の剛性をもつ対称屈曲部32をさらに備えている。対称屈曲部32にあたる弾性要素51a〜51eは、図5(a)の第一屈曲形態および図5(b)の第二屈曲形態において、ともに屈曲する。
【0050】
本実施形態では弾性要素51eを境界として対称屈曲部32と非対称屈曲部30とが連続している。このため、第二屈曲形態で対称屈曲部32と非対称屈曲部30とは滑らかに連続的に屈曲する。
【0051】
隣接する環状部52どうしは、開口周囲に180度対向して配置された二本の梁状部53によって互いに接続されている。図4では、二本の梁状部53(一方は図示省略)は紙面前後方向に並んで配置されている。これにより、一対の梁状部53の並び方向(図4の紙面前後方向)への屈曲は規制され、梁状部53が曲げ変形となる図示の一方側または他方側への屈曲がもっぱら生じる。
【0052】
図3に示すように、長尺本体20の遠位端部22のうち、特にサブルーメン13a、13bの内部にサブコイル131a、131bが配置されているサブコイル領域35に、対称屈曲部32および非対称屈曲部30は形成されている。そして、非対称屈曲部30の近位側位置(弾性要素51i)は、中空管132の先端近傍にある。これにより、サブコイル領域35と中空管132との境界135を屈曲の開始端として、それよりも遠位側の長さ領域(サブコイル領域35)を、操作線40の牽引操作によって図2(a)、(b)のように柔軟に屈曲させることができる。中空管132はサブコイル131a、131bよりも曲げ剛性が大きいため、サブコイル領域35に比べてその基端側はリジッドである。このため、長尺本体20は境界135を開始端(遠位端DEからみた場合は屈曲の終端)として屈曲する。
【0053】
以上、本実施形態では、非対称屈曲部30における一方側への屈曲を実質的にゼロとし、その遠位側に対称屈曲部32を設けることで、第一屈曲形態と第二屈曲形態の曲率半径を同等とし、かつ屈曲長さを相違させることを例示した。ただし、本発明はこれに限られず、第一屈曲形態と第二屈曲形態とで屈曲長さを同等として曲率半径を相違させてもよい。具体的には、一例として、対称屈曲部32を設けず、かつ非対称屈曲部30において隣接する環状部52どうしの間のV字状の切溝の角度を、一方側と他方側とで相違させればよい。より具体的には、非対称屈曲部30における一方側に形成されたV字状の切溝の角度を、他方側の切溝の角度よりも小さくする。これにより、第一の操作線40aを牽引した場合の第一屈曲形態は、第二の操作線40bを牽引した場合の第二屈曲形態に比べて、屈曲長さは同等であって、かつ曲率半径が大きくなる。
【0054】
本実施形態のカテーテル10の寸法は特に限定されるものではないが、メインルーメン15の半径は200〜300μm程度、内層14の厚さは10〜30μm程度、シース12の厚さは100〜150μm程度、管状部材50の厚さは40〜80μm程度とすることが好ましい。そして、カテーテル10の軸心からサブルーメン13の中心までの半径は300〜350μm程度、サブルーメン13の内直径は40〜100μmとし、操作線40の太さを30〜60μmとするとよい。これにより、カテーテル10の最外半径を350〜450μm程度となる。すなわち、本実施形態のカテーテル10の外直径は1mm未満であり、腹腔動脈などの血管に挿通可能である。また、本実施形態のカテーテル10は、操作線40の牽引により進行方向が自在に偏向操作されるため、分岐する血管内においても所望の方向にカテーテル10を進入させることが可能である。血管選択操作に関しては以下の第二実施形態で詳述する。
【0055】
<第二実施形態>
図6は本実施形態の管状部材50を模式的に示す平面図である。管状部材50は多数の弾性要素51(弾性要素51a〜51n)を長軸方向(同図の左右方向)に連続して配置してなる。図7(a)は第一の操作線40aを牽引した場合の遠位端部22の第一屈曲形態を示し、同図(b)は第二の操作線40bを牽引した場合の遠位端部22の第二屈曲形態を示す。
【0056】
本実施形態のカテーテル10は、第一の操作線40aおよび第二の操作線40bをともに牽引することにより第一屈曲形態と第二屈曲形態とが長尺方向に合成されて遠位端部22がS字状に屈曲することを特徴とするものである(図7(c)を参照)。以下、S字状や波状のように、屈曲方向が途中で反転する変曲点を含む屈曲形態を複合屈曲形態と呼称する。
【0057】
本実施形態の管状部材50は、第一実施形態と同様、長尺本体20の一方側において互いに近接して配置されている複数の弾性要素51g〜51k(第一の弾性要素群56という場合がある)を非対称屈曲部30として備えている。これらの弾性要素51g〜51kは、一方側に関しては開口端面55が梁状部53に直交しているため、環状部52どうしが互いに近づく方向に変形することが規制されている。逆に、他方側に関しては対面する開口端面55どうしが離れる方向に傾斜していて、環状部52どうしが互いに近づく方向に変形することが許容されている。
【0058】
さらに本実施形態の非対称屈曲部30は、長尺方向に沿って連続して形成されて互いの間隔を伸長可能な複数の他の弾性要素51b〜51fを含む。そして、隣接する他の弾性要素51b〜51fは、長尺本体20の他方側において互いに近接して配置されている。これにより、非対称屈曲部30は当該他方側において、これらの弾性要素51b〜51fどうしが近づく方向に変形することが規制されている。そして、第一の弾性要素群56(弾性要素51g〜51k)と、弾性要素51b〜51f(これらを第二の弾性要素群57という場合がある)とは、長尺方向の異なる位置に設けられている。
【0059】
本実施形態の第一の弾性要素群56(弾性要素51g〜51k)と第二の弾性要素群57(弾性要素51b〜51f)とは、管状部材50の中心軸に関して対称形状である。
【0060】
ここで、第一の弾性要素群56と第二の弾性要素群57とが長尺方向の異なる位置に設けられているとは、第一の弾性要素群56の少なくとも一部の弾性要素51が第二の弾性要素群57に属さず、また第二の弾性要素群57の少なくとも一部の弾性要素51が第一の弾性要素群56に属さない状態をいい、一部の弾性要素51が第一の弾性要素群56と第二の弾性要素群57に共通して属することを許容する。
【0061】
本実施形態の管状部材50において、第二の弾性要素群57は第一の弾性要素群56よりも遠位側にあるが、本発明はこれに限られない。第二の弾性要素群57の更に遠位側には、直管部34に属する弾性要素51aが配置されている。弾性要素51aは一方側・他方側ともに、これに隣接する弾性要素51bに対して傾斜することが規制されている。このため、図7(a)〜(c)に示すように、いずれの屈曲形態においても、第二の弾性要素群57の遠位側の最先端位置に直管部34が延在する。
【0062】
図8(a)は操作部60の内部構造を示す平面図であり、同図(b)はその側面図である。本実施形態の操作部60は、操作部本体62に対して正逆方向に回転可能かつ移動可能に設けられた回転子64を回転させて第一の操作線40aまたは第二の操作線40bの一方を牽引した状態で当該回転子64を摺動させることで、当該一方の操作線とともに、他方の操作線が牽引される。なお、本発明において回転と回動とを区別しない。
【0063】
筒状の操作部本体62には長尺本体20の基端が固定されている。長尺本体20に挿通された第一の操作線40aおよび第二の操作線40bは、操作部本体62の内部でローラー66により引き回されて回転子64に接続される。第一の操作線40aの基端部44は回転子64に対して正方向(図8(a)に示す時計回り)に巻き付けられたうえで固定されている。第二の操作線40bの基端部44は回転子64に対して逆方向(図8(a)に示す反時計回り)に巻き付けられたうえで固定されている。このため、回転子64を正方向に回転させると、第一の操作線40aは牽引されて長尺本体20の遠位端部22に一方側への屈曲力が付与される。なお、第二の操作線40bは弛むため遠位端部22に荷重を付与しない。回転子64を逆方向に回転させた場合には、上記と逆に第二の操作線40bが牽引されて長尺本体20の遠位端部22に他方側への屈曲力が与えられる。
【0064】
回転子64の回転軸には円柱状の突起部65が形成されている。操作部本体62には、長尺方向に延在するとともに突起部65を嵌め合いに嵌合させる摺動溝63が形成されている。回転子64は操作部本体62に対して、正逆方向に回転自在であるとともに長尺方向に摺動自在である。回転子64を操作部本体62に対して近位側に摺動させると、第一の操作線40aおよび第二の操作線40bの双方に牽引力が付与される。
【0065】
操作部本体62の基端側には張力調整部67とコネクター68が取り付けられている。張力調整部67は操作部本体62に対して長尺方向に螺進する。張力調整部67とコネクター68とは互いに固定される。コネクター68の先端には長尺本体20の近位端が固定されている。コネクター68の基端側には薬液を充填したシリンジ(図示せず)が挿入される。ここで、張力調整部67とともにコネクター68を遠位側に前進させると、長尺本体20が遠位側に押し出されるため、第一の操作線40aおよび第二の操作線40bの張力が増す。逆に、張力調整部67とともにコネクター68を近位側に後退させると、長尺本体20は近位側に引かれるため、第一の操作線40aおよび第二の操作線40bの張力は減少する。このように、第一の操作線40a、第二の操作線40bの初張力および弛みがゼロとなるように張力調整部67を螺進させたうえで、回転子64を回転または摺動操作して長尺本体20の遠位端部22を屈曲させるとよい。
【0066】
本実施形態の管状部材50は、第一の弾性要素群56は、長尺本体20の一方側の圧縮(屈曲)が規制され、他方側への圧縮(屈曲)が許容されている長さ領域にあたる。第二の弾性要素群57は、長尺本体20の他方側への圧縮(屈曲)が規制され、一方側への圧縮(屈曲)が許容されている長さ領域にあたる。
このため、回転子64を正方向に回転させて第一の操作線40aのみを牽引した場合には、図7(a)のように遠位端部22は第二の弾性要素群57が一方側(同図上方)に屈曲する(第一屈曲形態)。また、回転子64を逆方向に回転させて第二の操作線40bのみを牽引した場合には、図7(b)のように遠位端部22は第一の弾性要素群56が他方側(同図下方)に屈曲する(第二屈曲形態)。そして、回転子64を近位側に移動させることで、長尺本体20の遠位端部22は首をすくめるようにして基端側に引き寄せられる。ここで、第一の弾性要素群56と第二の弾性要素群57とが長尺方向の異なる位置に連続して配置され、かつ屈曲可能な方向が反対であることから、回転子64を操作部本体62に対して近位側に摺動させて第一の操作線40aと第二の操作線40bの双方を牽引すると、図7(c)のように遠位端部22はS字状の複合屈曲形態となる。
【0067】
ここで、回転子64を正逆方向に所定角度だけ回転させた状態で近位側に摺動させると、第一の操作線40aと第二の操作線40bに付与される牽引力を互いに異ならせることができる。具体的には、たとえば回転子64を正方向に僅かに回転させた状態で近位側に摺動させると、第一の操作線40aの牽引力を第二の操作線40bの牽引力よりも大きなものとすることができる。この場合、図7(c)の形態に代えて、他方側に屈曲する第一の弾性要素群56の屈曲角度を浅くすることができる。これにより、長尺本体20の先端の直管部34の開口方向を僅かに一方側に偏向させることができる。また、回転子64を操作部本体62に対して近位側に摺動させた後に、これを正逆方向に回転させることもできる。これにより、遠位端部22を複合屈曲形態とした状態から、第一の弾性要素群56または第二の弾性要素群57の屈曲角度を微調整することができる。
【0068】
図9各図は、本実施形態のカテーテル10の使用状態を説明する模式図である。同図(a)は第一屈曲形態で前進するカテーテル10を表し、同図(b)は複合屈曲形態で前進するカテーテル10を表している。図9各図では、第一の操作線40aが下方、第二の操作線40bが上方に配置されるよう、図7とは上下を反転させた状態を図示している。
【0069】
図9(a)で、カテーテル10は腹腔動脈101に挿入され、遠位端DEが血管分岐部110に到達した状態にある。血管分岐部110には、腹腔動脈101から第一分岐血管102および第二分岐血管103が分岐している。第二分岐血管103は腹腔動脈101に対して略直角に分岐しているのに対して、第一分岐血管102はその中間角度方向に分岐している。
【0070】
このような場合、血管分岐部110で腹腔動脈101から第二分岐血管103に進入する場合には、図9(a)のように第二の操作線40bを牽引して遠位端部22の第一の弾性要素群56を屈曲させて、遠位端DEを第二分岐血管103に向ければよい。この状態でカテーテル10を押し込むと、カテーテル10は第二分岐血管103に進入していく。しかしながら、腹腔動脈101から第一分岐血管102に進入させるように、複数の分岐方向のうちの浅い角度を選択してカテーテル10を偏向させることは、第一の操作線40aの牽引操作のみでは困難な場合がある。血管分岐部110において遠位端部22を略直角に屈曲させて腹腔動脈101から分岐方向(同図上方)にカテーテル10を進入させた場合、さらにカテーテル10を第一分岐血管102に進入させるべく第一の操作線40aの張力を弛めて遠位端部22の屈曲角度を浅くしてしまうと、カテーテル10がそもそも血管分岐部110から脱離して、元の腹腔動脈101に戻ってしまうためである。すなわち、血管分岐部110においてカテーテル10を確実に分岐方向に進入させるためにはカテーテル10を十分に深く屈曲させておくことが望まれるところ、血管分岐部110の限られた狭い空間の内部では遠位端部22の屈曲角度を自在に調整することは困難であり、第一の操作線40aの牽引操作のみでは多様に分岐する血管に対する選択性が十分ではない。
【0071】
これに対し、図9(b)に示すようにカテーテル10を複合屈曲形態とすることで、カテーテル10を分岐方向に確実に進入させた状態で、かつ浅い角度の第一分岐血管102も容易に選択することができる。これは、第一の弾性要素群56を十分に深く屈曲させてカテーテル10が血管分岐部110から脱離することを防止した状態で、さらにその遠位側の第二の弾性要素群57を屈曲させることで、遠位端DEの進入方向を第一分岐血管102に向けて微調整することができるからである。
【0072】
また、本実施形態の長尺本体20の最先端位置に直管部34が形成されていることにより、分岐した血管に対して長尺本体20の先端を良好に引っ掛けることができる。このため、カテーテル10による血管の選択操作が好適に行われる。
【0073】
なお、本実施形態では一つの回転子64によって第一の操作線40aと第二の操作線40bを選択的に牽引可能な操作部60を提案したが、本発明はこれに限られない。たとえば、第一の操作線40aと第二の操作線40bを個別に牽引する二つのスライダを操作部本体62に設置してもよい。
【0074】
<第三実施形態>
図10は、本実施形態のカテーテル10の遠位端部22を示す拡大断面図である。第一および第二実施形態では、環状部52と梁状部53からなる弾性要素51が繰り返された管状部材50において、環状部52の形状を非対称とすることを例示した。
【0075】
本実施形態では、隣接する巻線ループどうしが互いに密接している密巻コイル36を弾性要素51としている。すなわち、本実施形態における弾性要素51は、密巻コイル36を構成する各巻線ループである。
【0076】
ここで、コイルの巻線ループどうしが互いに密接しているとは、巻線ループどうしが密着または近接していることで当該コイルが圧縮されることが規制された状態にあることをいう。当該コイルの伸長方向の剛性に比べて圧縮方向の剛性は顕著に大きい。
【0077】
図10に示すように、本実施形態の非対称屈曲部30は、長尺本体における一方側に長尺方向に沿って連続して形成された、互いの間隔(ピッチ)を伸長可能な複数の弾性要素51(密巻コイル36)を含んでいる。そして、隣接する弾性要素51が互いに近接して配置されていることにより、非対称屈曲部30は弾性要素51(巻線ループ)どうしが近づく方向に変形することが規制されている。
【0078】
これにより、長尺本体20の遠位端部22が密巻コイル36の側(一方側)に屈曲することが抑制される一方、遠位端部22は密巻コイル36と反対側(他方側)に自在に屈曲することが許容されている。このため、非対称屈曲部30における長尺本体20の圧縮方向の剛性は引張方向の剛性よりも高くなっている。
【0079】
密巻コイル36は、サブルーメン13aの内部に収容することができる。すなわち、密巻コイル36はサブルーメン13aの内部に、サブコイル131aと連続して配置することができる。なお、サブコイル131aと密巻コイル36とは、共通の巻線のピッチを変化させて連続的に形成してもよい。すなわち、一条または多条の巻線を、サブコイル131aの領域に関してはピッチ巻で巻回し、密巻コイル36の領域に関しては密着巻で巻回してもよい。
【0080】
図10では、密巻コイル36よりもサブコイル131aの方が長い状態を例示しているが、本発明はこれに限られない。たとえば、サブコイル131aを10mm、密巻コイル36を20mmとするなど、サブコイル131aよりも密巻コイル36を長くしてもよい。
【0081】
図10に示すように、長尺本体20の他方側には、隣接する巻線ループどうしが互いに離間しているピッチ巻コイル(サブコイル131b)が配置されている。密巻コイル36とサブコイル131bとは長尺方向の同じ位置に設けられている。なお、二つのコイルが長尺方向の同じ位置に設けられているとは、一方のコイルの半分を超える長さ領域が他方のコイルと重複する位置にあることをいう。本実施形態の場合、密巻コイル36の全長がサブコイル131bと重複している。
【0082】
また、長尺本体20における非対称屈曲部30よりも遠位側には、長尺方向の圧縮と引張とで対称の剛性をもつ対称屈曲部32を備えている。このため、第一の操作線40aまたは第二の操作線40bの選択により、対称屈曲部32は一方側と他方側とに自在に屈曲する。そして、非対称屈曲部30において一方側への屈曲が規制されることで、第一屈曲形態(図2(a)を参照)は第二屈曲形態(同図(b)を参照)よりも曲率半径が大きくなるか、または屈曲長さが短くなる。
【0083】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成される限りにおける種々の変形、改良等の態様も含む。たとえば、長尺本体20に非対称屈曲部30を形成する部材として第一および第二実施形態では、弾性要素51を単位としてこれが長尺方向に繰り返し配置された金属製の管状部材50を例示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、樹脂管に対して長尺方向に間欠的に切り込みを形成した蛇腹状のチューブを用いてもよい。
【0084】
上記実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)体腔内に挿入して用いられる長尺本体と、
前記長尺本体に設けられ、長尺方向の圧縮と引張とで非対称の剛性をもつ非対称屈曲部と、
前記長尺本体の遠位端部に先端部が係止され、基端部をそれぞれ牽引することで前記遠位端部を屈曲させる少なくとも第一および第二の操作線と、を備え、
第一の操作線を牽引することで前記遠位端部が一方側に撓んで前記非対称屈曲部に圧縮力を付与するとともに第一屈曲形態となり、第二の操作線を牽引することで前記遠位端部が他方側に撓んで前記非対称屈曲部に引張力を付与するとともに前記第一屈曲形態と異なる第二屈曲形態となることを特徴とする医療用機器;
(2)前記長尺本体の前記一方側への曲げ剛性が前記他方側への曲げ剛性よりも大きく、
第一の操作線の先端部は前記遠位端部における前記一方側に係止され、第二の操作線の先端部は前記遠位端部における前記他方側に係止されている上記(1)に記載の医療用機器;
(3)前記第一屈曲形態と前記第二屈曲形態とは、曲率半径が同等かつ屈曲長さが異なることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の医療用機器;
(4)前記非対称屈曲部における前記長尺本体の圧縮方向の剛性は引張方向の剛性よりも高く、前記第一屈曲形態は前記第二屈曲形態よりも曲率半径が大きいかまたは屈曲長さが短いことを特徴とする上記(1)または(2)に記載の医療用機器;
(5)前記非対称屈曲部は、長尺方向に沿って連続して形成されて互いの間隔を伸長可能な複数の弾性要素を含み、
隣接する前記弾性要素が前記長尺本体の前記一方側において互いに近接して配置されていることにより、前記非対称屈曲部は前記弾性要素どうしが近づく方向に変形することが規制されている上記(4)に記載の医療用機器;
(6)前記弾性要素は、長尺方向に開口している環状部と、隣接する前記環状部どうしを弾性的に連結している梁状部と、を備え、
第一または第二の操作線を牽引することで、前記遠位端部に位置する前記環状部どうしが傾斜して前記長尺本体が屈曲するとともに、
前記非対称屈曲部の前記一方側における前記環状部どうしの間隙は前記他方側における前記間隙よりも小さく、前記環状部どうしの許容傾斜角度の前記一方側の上限が前記他方側の上限よりも小さいことを特徴とする上記(5)に記載の医療用機器;
(7)前記環状部と前記梁状部とが長尺方向に繰り返されて管状部材を構成しており、
前記環状部どうしの傾斜角度が前記許容傾斜角度となることで、前記管状部材の屈曲が規制される上記(6)に記載の医療用機器;
(8)前記非対称屈曲部は、長尺方向に沿って連続して形成されて互いの間隔を伸長可能な複数の他の弾性要素を含み、
隣接する前記他の弾性要素が前記長尺本体の前記他方側において互いに近接して配置されていることにより、前記非対称屈曲部は前記他の弾性要素どうしが近づく方向に変形することが規制されているとともに、
前記弾性要素と前記他の弾性要素とは、長尺方向の異なる位置に設けられていることを特徴とする上記(5)から(7)のいずれかに記載の医療用機器;
(9)前記第一および第二の操作線をともに牽引することにより前記第一屈曲形態と前記第二屈曲形態とが長尺方向に合成されて前記遠位端部がS字状に屈曲することを特徴とする上記(8)に記載の医療用機器;
(10)前記弾性要素が、隣接する巻線ループどうしが互いに密接している密巻コイルである上記(5)に記載の医療用機器;
(11)前記長尺本体の前記他方側に、隣接する巻線ループどうしが互いに離間しているピッチ巻コイルが配置されているとともに、
前記密巻コイルと前記ピッチ巻コイルとが長尺方向の同じ位置に設けられていることを特徴とする上記(10)に記載の医療用機器;
(12)前記長尺本体は、前記非対称屈曲部よりも遠位側に、長尺方向の圧縮と引張とで対称の剛性をもつ対称屈曲部をさらに備えている上記(1)から(11)のいずれかに記載の医療用機器;
(13)第一の操作線または第二の操作線を個別に選択して牽引する操作と、前記第一および第二の操作線をともに牽引する操作と、を行う操作部をさらに備える上記(1)から(12)のいずれかに記載の医療用機器;
(14)前記長尺本体の近位端部に接続されている操作部本体と、この操作部本体に対して正逆方向に回転可能かつ移動可能に設けられた回転子と、を含み、
第一の操作線および第二の操作線の前記基端部は前記回転子に接続されており、前記回転子が前記操作部本体に対して正方向または逆方向に回転することで第一または第二の操作線が選択的に牽引され、かつ前記回転子を前記操作部本体に対して移動させることで第一および第二の操作線がともに牽引される上記(13)に記載の医療用機器。
【符号の説明】
【0085】
10 カテーテル
12 シース
13、13a、13b サブルーメン
131a、131b サブコイル
132 中空管
135 境界
14 内層
15 メインルーメン
18 親水層
20 長尺本体
22 遠位端部
26 近位端部
30 非対称屈曲部
32 対称屈曲部
34 直管部
35 サブコイル領域
36 密巻コイル
40 操作線
40a 第一の操作線
40b 第二の操作線
42 先端部
44 基端部
50 管状部材
51、51a〜51n 弾性要素
52 環状部
53 梁状部
55 開口端面
56 第一の弾性要素群
57 第二の弾性要素群
60 操作部
62 操作部本体
63 摺動溝
64 回転子
65 突起部
66 ローラー
67 張力調整部
68 コネクター
70 マーカー
101 腹腔動脈
102 第一分岐血管
103 第二分岐血管
110 血管分岐部
DE 遠位端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔内に挿入して用いられる長尺本体と、
前記長尺本体に設けられ、長尺方向の圧縮と引張とで非対称の剛性をもつ非対称屈曲部と、
前記長尺本体の遠位端部に先端部が係止され、基端部をそれぞれ牽引することで前記遠位端部を屈曲させる少なくとも第一および第二の操作線と、を備え、
第一の操作線を牽引することで前記遠位端部が一方側に撓んで前記非対称屈曲部に圧縮力を付与するとともに第一屈曲形態となり、第二の操作線を牽引することで前記遠位端部が他方側に撓んで前記非対称屈曲部に引張力を付与するとともに前記第一屈曲形態と異なる第二屈曲形態となることを特徴とする医療用機器。
【請求項2】
前記長尺本体の前記一方側への曲げ剛性が前記他方側への曲げ剛性よりも大きく、
第一の操作線の先端部は前記遠位端部における前記一方側に係止され、第二の操作線の先端部は前記遠位端部における前記他方側に係止されている請求項1に記載の医療用機器。
【請求項3】
前記第一屈曲形態と前記第二屈曲形態とは、曲率半径が同等かつ屈曲長さが異なることを特徴とする請求項1または2に記載の医療用機器。
【請求項4】
前記非対称屈曲部における前記長尺本体の圧縮方向の剛性は引張方向の剛性よりも高く、前記第一屈曲形態は前記第二屈曲形態よりも曲率半径が大きいかまたは屈曲長さが短いことを特徴とする請求項1または2に記載の医療用機器。
【請求項5】
前記非対称屈曲部は、長尺方向に沿って連続して形成されて互いの間隔を伸長可能な複数の弾性要素を含み、
隣接する前記弾性要素が前記長尺本体の前記一方側において互いに近接して配置されていることにより、前記非対称屈曲部は前記弾性要素どうしが近づく方向に変形することが規制されている請求項4に記載の医療用機器。
【請求項6】
前記弾性要素は、長尺方向に開口している環状部と、隣接する前記環状部どうしを弾性的に連結している梁状部と、を備え、
第一または第二の操作線を牽引することで、前記遠位端部に位置する前記環状部どうしが傾斜して前記長尺本体が屈曲するとともに、
前記非対称屈曲部の前記一方側における前記環状部どうしの間隙は前記他方側における前記間隙よりも小さく、前記環状部どうしの許容傾斜角度の前記一方側の上限が前記他方側の上限よりも小さいことを特徴とする請求項5に記載の医療用機器。
【請求項7】
前記環状部と前記梁状部とが長尺方向に繰り返されて管状部材を構成しており、
前記環状部どうしの傾斜角度が前記許容傾斜角度となることで、前記管状部材の屈曲が規制される請求項6に記載の医療用機器。
【請求項8】
前記非対称屈曲部は、長尺方向に沿って連続して形成されて互いの間隔を伸長可能な複数の他の弾性要素を含み、
隣接する前記他の弾性要素が前記長尺本体の前記他方側において互いに近接して配置されていることにより、前記非対称屈曲部は前記他の弾性要素どうしが近づく方向に変形することが規制されているとともに、
前記弾性要素と前記他の弾性要素とは、長尺方向の異なる位置に設けられていることを特徴とする請求項5から7のいずれか一項に記載の医療用機器。
【請求項9】
前記第一および第二の操作線をともに牽引することにより前記第一屈曲形態と前記第二屈曲形態とが長尺方向に合成されて前記遠位端部がS字状に屈曲することを特徴とする請求項8に記載の医療用機器。
【請求項10】
前記弾性要素が、隣接する巻線ループどうしが互いに密接している密巻コイルである請求項5に記載の医療用機器。
【請求項11】
前記長尺本体の前記他方側に、隣接する巻線ループどうしが互いに離間しているピッチ巻コイルが配置されているとともに、
前記密巻コイルと前記ピッチ巻コイルとが長尺方向の同じ位置に設けられていることを特徴とする請求項10に記載の医療用機器。
【請求項12】
前記長尺本体は、前記非対称屈曲部よりも遠位側に、長尺方向の圧縮と引張とで対称の剛性をもつ対称屈曲部をさらに備えている請求項1から11のいずれか一項に記載の医療用機器。
【請求項13】
第一の操作線または第二の操作線を個別に選択して牽引する操作と、前記第一および第二の操作線をともに牽引する操作と、を行う操作部をさらに備える請求項1から12のいずれか一項に記載の医療用機器。
【請求項14】
前記長尺本体の近位端部に接続されている操作部本体と、この操作部本体に対して正逆方向に回転可能かつ移動可能に設けられた回転子と、を含み、
第一の操作線および第二の操作線の前記基端部は前記回転子に接続されており、前記回転子が前記操作部本体に対して正方向または逆方向に回転することで第一または第二の操作線が選択的に牽引され、かつ前記回転子を前記操作部本体に対して移動させることで第一および第二の操作線がともに牽引される請求項13に記載の医療用機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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