説明

医薬液剤組成物

【課題】肉体疲労時に嗜好性の高まる液剤組成物を実現すること
【解決手段】L−グルタミン酸またはその塩とイノシン酸またはその塩とを含有する、肉体疲労時における嗜好性を向上させた内服用医薬液剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉体疲労時における嗜好性を向上させた内服用医薬液剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、運動などによる肉体疲労時には甘味の強い物が好まれることが経験的に知られ、特定濃度のアスコルビン酸で酸味を持たせた場合にも肉体疲労時の嗜好性が向上することが開示されている(特許文献1参照)。また、特定濃度のショ糖に、特定の有機酸を特定濃度に添加した場合にも肉体疲労時の嗜好性が向上した内服液剤が得られ(特許文献2参照)、ショ糖の0.15〜0.6モル濃度相当の甘味度を有する糖アルコール等を配合した液剤も嗜好性が良好であることが開示されている(特許文献3参照)。
【0003】
一方、グルタミン酸摂取がラットの水泳時間を延長すること(例えば、特許文献4参照)、分岐鎖アミノ酸(バリン、ロイシン、イソロイシン)が運動負荷後の血中乳酸濃度を軽減すること(例えば、特許文献5参照)が開示され、アミノ酸に抗疲労作用のあることが知られている。なお、アミノ酸の一種であるグルタミン酸、核酸の一種であるイノシン酸やグアニル酸は代表的な旨味物質としてよく知られており、これらは単独で使うよりも組み合わせた方が、旨味が一層増すことも知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
しかし、アミノ酸の抗疲労作用が、肉体疲労時におけるアミノ酸の嗜好性にも関与するかどうかは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-93134号公報
【特許文献2】特開2000-333651号公報
【特許文献3】特開平11-171777号公報
【特許文献4】特開平4-164028号公報
【特許文献5】特開2006-16358号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】渡辺誠、「調味料[1]うま味調味料(2)」、食品と容器、2004、Vol.45 No.8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
肉体疲労時の栄養補給効能を有する内服用医薬液剤および/または肉体疲労回復効果を有する内服用医薬液剤組成物において、それらの嗜好性を向上させることは、当該効能および/または当該効果を高めることに繋がることから、合目的的な手段となり得る。
【0008】
しかし、上述のアスコルビン酸を添加した液剤の安定性は不充分であるという課題があり、また、ショ糖を配合する場合には嗜好性は増すかもしれないが、カロリー過剰摂取という課題があった。そのため、アスコルビン酸やショ糖を含有せず、かつ、肉体疲労時に嗜好性の高まる液剤組成物を実現することが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、まず、上述のごとく抗疲労作用のあるグルタミン酸について、肉体疲労時の嗜好性の有無を調べた。その結果、疲労負荷前後でグルタミン酸の嗜好性は全く変化しないどころか、疲労負荷前後のいずれもグルタミン酸を添加していない液剤の方が、嗜好性が高くなるという予想外の結果となった。
【0010】
さらに、鋭意研究を重ねた結果、グルタミン酸含有液剤にイノシン酸をさらに添加した場合、疲労負荷前(平常時)の嗜好性が若干増加するという結果が得られ、さらに驚くべきことに、肉体疲労時では嗜好性がさらに増加するという、グルタミン酸単独の結果からでは予想もつかない事実を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下に記すとおりである。
(1)L−グルタミン酸またはその塩とイノシン酸またはその塩とを含有する、肉体疲労時における嗜好性を向上させた内服用医薬液剤組成物、
(2)L−グルタミン酸ナトリウムとイノシン酸ナトリウムとを含有する、肉体疲労時における嗜好性を向上させた内服用医薬液剤組成物、ならびに、
(3)ビタミン類をさらに含有する、前記(1)または(2)に記載の組成物。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、肉体疲労時の嗜好性を向上させた内服用医薬液剤が得られた。肉体疲労時の栄養補給および/または疲労回復効果を有する医薬液液剤の嗜好性が向上すると、当該効能および/または当該効果をより一層高めることにも繋がるため有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】肉体疲労前後のL-グルタミン酸ナトリウムを添加した液剤の嗜好性を示す図である。
【図2】肉体疲労前後のイノシン酸ナトリウムを添加した液剤の嗜好性を示す図である。
【図3】肉体疲労前後のL-グルタミン酸ナトリウムおよびイノシン酸ナトリウムを添加した液剤の嗜好性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に使用されるグルタミン酸またはその塩としては、L-グルタミン酸、L-グルタミン酸塩酸塩、L-グルタミン酸カリウム、L-グルタミン酸ナトリウム等が挙げられ、それらは医薬品添加物事典2005に収載されている。
【0015】
本発明に使用されるイノシン酸またはその塩としては、5'-イノシン酸ジナトリウム(イノシン酸ナトリウム)、5'-イノシン酸ジカリウム(イノシン酸カリウム)等が挙げられ、前者は医薬品添加物事典2005に収載されている。
【0016】
本発明の医薬液剤組成物中に添加されるL-グルタミン酸またはその塩、および、イノシン酸またはその塩の添加濃度は、特に限定されないが、いずれも好ましくは、0.1〜10mMである。
【0017】
本発明に使用されるビタミン類としては、ビタミンB1、例えば、チアミン、硝酸チアミン、塩酸チアミン、ベンフォチアミン、その他のビタミンB1誘導体等;ビタミンB2、例えば、リボフラビン、リン酸リボフラビンナトリウム、酪酸リボフラビン等;ビタミンB6、例えば、ピリドキシン、ピリドキサル、ピリドキサミン及びこれらのリン酸又は塩酸塩等;ビタミンB12、例えば、コバラミン、シアノコバラミン、メチルコバラミン等;ビタミンBT、例えば、カルニチン塩化物;ニコチン酸アミド等が挙げられる。これらのうち、より好ましくは、ビタミンB1の塩または誘導体、ビタミンB2、ビタミンB6、あるいはニコチン酸アミドである。これらビタミン類の配合量にも特に制限はなく、従来公知の量で含めることができる。
【0018】
本発明の組成物には、上記成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、慣用の添加剤、例えば、糖、糖アルコール、甘味料、生薬・漢方薬類、ミネラル類、カフェイン類、アミノ酸類、有機酸類、精油成分、溶解補助剤、pH調整剤、界面活性剤、保存剤、香料、着色剤、矯味剤等を含めることができる。
【0019】
本発明の組成物は、公知の方法で製造することができる。例えば、各成分を適量の精製水で溶解した後、pH調整し、次いで、残りの精製水を加えて容量調整をすることにより製造することができる。また、必要に応じて、濾過及び減菌処理をすることもできる。
【実施例】
【0020】
表1に記載の成分および分量をとり、日局製剤総則「液剤」の項に準じて液剤を製造する。
【0021】
【表1】

【0022】
表2に記載の成分および分量をとり、日局製剤総則「液剤」の項に準じて液剤を製造する。
【0023】
【表2】

【0024】
(試験例)
(1)被検物質
L-グルタミン酸ナトリウムは協和発酵バイオ(株)製のものを、イノシン酸ナトリウムは味の素(株)のものを使用した。
【0025】
(2)使用動物
ddY系雄性マウス6週齢を日本エスエルシー(株)から購入し、温度20〜26℃、湿度30〜70%、照明時間7時〜19時に制御された飼育室内でマウス用ポリカーボネート製ケージに入れ、市販のFR-2飼料(フナバシファーム製)を自由摂取させ1週間馴化させた。
【0026】
(3)試験方法
2週目に、実験は1ケージあたり3匹とし各群6ケージで行った。飲料用水として注射用水の入った給水瓶と、注射用水に被検物質としてL-グルタミン酸ナトリウム単独、イノシン酸ナトリウム単独またはグルタミン酸ナトリウムとイノシン酸ナトリウムを添加した給水瓶を、すなわち、2つの給水瓶をケージ中に設置した。1週間の各瓶の飲水量を測定し、次式によって嗜好率(%)を算出した。
【0027】
【数1】

【0028】
式中、「総飲水量」とは、試験中にマウスが飲んだ、注射用水の量と各被検物質を添加した注射用水の量を合計した値である。例えば、試験中、マウスが注射用水を50g、被検物質を添加した注射用水を30g飲んだ場合、嗜好率は、次のとおり算出される。
【0029】
【数2】

【0030】
3週目に該マウスを自動回転かご((有)永澤理化学機器店製)に入れ、2.4回転/分のスピードで毎日3時間1週間にわたり強制歩行させ、1週間の飲水量をもとに運動負荷後の嗜好率とした。
【0031】
(4)試験結果1
被検物質としてL-グルタミン酸ナトリウムを用いた場合の試験結果を図1に示す。いずれも、各群18匹の平均値である。図1の結果より、L-グルタミン酸ナトリウムを添加した注射用水の方が、無添加の注射用水よりも嗜好率が低いことがわかった。また、この結果は運動負荷前後でも変化は認められなかった。
【0032】
(5)試験結果2
被検物質としてイノシン酸ナトリウムを用いた場合の試験結果を図2に示す。いずれも、18匹の平均値である。図2の結果より、イノシン酸ナトリウムを添加した注射用水の方が、無添加の注射用水よりも嗜好率が若干低いことがわかった。また、この結果は運動負荷前後でも変化は認められなかった。
【0033】
(6)試験結果3
被検物質としてグルタミン酸ナトリウムとイノシン酸ナトリウムを用いた場合の試験結果を図3に示す。いずれも、各群18匹の平均値である。図3の結果より、グルタミン酸ナトリウムとイノシン酸ナトリウムを添加した注射用水の方が、無添加の注射用水よりも嗜好率が高いことがわかる。さらに、運動負荷前よりも運動負荷後の方が嗜好率はさらに高くなるということもわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
L−グルタミン酸またはその塩とイノシン酸またはその塩とを含有する、肉体疲労時における嗜好性を向上させた内服用医薬液剤組成物。
【請求項2】
L−グルタミン酸ナトリウムとイノシン酸ナトリウムとを含有する、肉体疲労時における嗜好性を向上させた内服用医薬液剤組成物。
【請求項3】
ビタミン類をさらに含有する、請求項1または2に記載の組成物。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−148786(P2011−148786A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286882(P2010−286882)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】