説明

半導体発光素子

【課題】InGaAlAs系からなる引張り歪井戸層を有する半導体発光素子、もしくは、InGaAsP系からなる引張り歪井戸層及びInGaAlAs系からなる障壁層を有する半導体発光素子であって、幅広い温度範囲においても高性能かつ高信頼な半導体発光素子の提供。
【解決手段】半導体発光素子の多重量子井戸層における井戸層と障壁層の界面歪の大きさが、該井戸層と該障壁層の層厚のうち大きい層厚値より定まる臨界界面歪の大きさより小さいことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子に関し、特に、半導体発光素子の広い温度範囲における特性向上に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば、情報通信分野などにおいて、幅広い温度範囲(例えば、−20℃以上95℃以下)で、閾値電流の低減化と高速動作を同時に実現する半導体発光素子の開発が行われている。
【0003】
一般的な半導体発光素子の構造は、例えば、InP基板上に、下側光閉じ込め層、活性層、上側光閉じ込め層、InP層が、順に、形成されている構造となっている。通常、この活性層には、互いに大小の関係をもつバンドギャップの異なる半導体薄膜が交互に積層化されている。すなわち、いわゆる単一量子井戸(Single-Quantum Well:以下、SQWと記す)構造、もしくは、多重量子井戸(Multiple-Quantum Well:以下、MQWと記す)構造となっている。なお、本明細書において、MQWとは、通常のMQWに加えて、SQWをも含むものとする。
【0004】
このMQW構造において、バンドギャップの大きい半導体薄膜が障壁層となり、バンドギャップの小さい半導体膜が井戸層となる。障壁層によって、井戸層にキャリアが閉じ込められ、そのキャリアである電子とホールが結合することで、発光がなされる。
【0005】
半導体発光素子において、MQW層に用いられる代表的な半導体材料に、InGaAsP系、InGaAlAs系がある。両者の主な違いは、これら材料によってMQW構造が形成されたときのバンドオフセットにある。バンドオフセットとは、伝導帯、価電子帯それぞれにおいて、井戸層バンド端に対する障壁層バンド端のエネルギー差で定義され、それぞれΔE、ΔEと定義される。
【0006】
InGaAsP系では、ΔE=0.4・ΔE、ΔE=0.6・ΔEであるのに対し、InGaAlAs系では、ΔE=0.7・ΔE、ΔEv=0.3・ΔEとなっている。量子効果が得られるように、通常、両材料ともMQWの井戸層の層厚は、フェルミ波長程度の厚さとなっている。
【0007】
半導体発光素子において、井戸層に歪がかかるように、井戸層の組成は、格子定数が基板の格子定数と異なるようにするのが一般的である。これは、歪のない井戸層の価電子帯のバンド端のバンド構造が、ライトホール(以下、LHと記す)とヘビーホール(以下、HHと記す)によってバンド混成しているためである。そして、井戸層に歪が導入されることにより、これらバンド混成を解くことが出来るからである。
【0008】
InP基板より大きい格子定数を井戸層が有する場合、すなわち、圧縮歪においては、HHが発振に寄与するようになり、閾値電流の低減化や高速動作化など発光素子特性が大幅に改善される。同様に、InP基板より小さい格子定数を有する場合、すなわち、引張り歪においては、LHが発振に寄与することになる(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平5−145178号公報
【特許文献2】特開平9−18089号公報
【特許文献3】特開平10−200205号公報
【特許文献4】特開平10−233555号公報
【特許文献5】特開平11−112079号公報
【特許文献6】特開平3−3384号公報
【特許文献7】特開平5−41564号公報
【特許文献8】特開平7−193327号公報
【特許文献9】特開平8−78786号公報
【特許文献10】特開平9−246671号公報
【特許文献11】特開平10−223987号公報
【特許文献12】特開平7−249828号公報
【特許文献13】特開2005−175295号公報
【特許文献14】特開平5−206575号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】「半導体レーザ」(オーム社),第5章
【非特許文献2】IEEE J. Quantum. Electro., vol.30, No.2, p500-p509, Seki et. al.
【非特許文献3】IEEE J. Quantum. Electro., vol.30, No.2, p477-p499, Thijs et. al.
【非特許文献4】IEEE J. Lightwave Tech. vol.12,No.1, p28-p37, Thijs et. al.
【非特許文献5】J. Cryst. Growth 27, (1974)p118, Matthews et. al..
【非特許文献6】第55回応用物理学関係連合講演会 講演予稿集 2008年春 29p−ZQ−5
【非特許文献7】IEEE J. Quantum. Electro., vol.30, No.2, p511-p523, Zah et. al.
【非特許文献8】Electron. Lett., vol.30, No.17,p1413-p1414, Wang et. al..
【非特許文献9】IEEE Photonics TechnologyLetters, vol.9,No.1,p25-p27,Matsui et. al.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この半導体発光素子におけるMQW構造の井戸層の歪は、InGaAsP系材料について、理論的には引張り歪の方がよいことが予測されていた(非特許文献2)。それは、上述した通り、引張り歪井戸層の場合、LHが発振に寄与することとなり、圧縮歪井戸層と比較して、状態密度と光学遷移行列が大きくなる。その結果、利得や微分利得が大きくなり、緩和振動周波数fを大きくできることが期待できるからである。
【0012】
しかし、実際には、非特許文献3に示されるように、特許文献1に係る半導体発光素子は、実験的には、良好な特性が得られなかった。それは、InGaAsP系材料では、井戸層に引張り歪を用いることによってΔEが小さくなってしまい、このために、逆に、バンド混成がさらに起きてしまうためと解釈されている(非特許文献3)。また、InGaAsP系材料で、1.3μm帯でも、井戸層が圧縮歪であるときと比較し、良好な特性を得ることは出来なかった(非特許文献4)。一方、InGaAlAs系材料においても、井戸層を引張り歪とすると、1.55μm帯では、利得領域を設計することができなかった。
【0013】
それゆえ、従来技術においては、理論的に良いとされた引張り歪ではなく、井戸層が圧縮歪を有する半導体発光素子が、発展することとなった。特に、InGaAlAs系では、井戸層が引張り歪を有すると、安定して良質な結晶が得られず、従って、安定して良好な特性をもつ半導体発光素子を作製することができなかったことも理由に挙げられる。
【0014】
この原因は、引張り歪と圧縮歪では、歪が単純に真逆であるという認識が招いた誤りである。上述のように、圧縮歪井戸層ではHHバンドが発振に寄与するのに対し、引張り歪井戸層ではLHバンドが発振に寄与する。
【0015】
しかしながら、HHバンドとLHバンドでは、キャリアの有効質量が異なるため、バンド混成を回避させるためには、圧縮歪井戸層では、井戸層をなるべく薄く、引張り歪井戸層では、井戸層をなるべく厚くすることが望ましい。従って、安定的に結晶を得る条件は大きく異なるところ、従来技術において、この点を考慮して半導体発光素子が設計されることはほとんどなかった。
【0016】
一般に、ある格子定数を有する層の上に、異なる格子定数を有する層、すなわち、歪(格子のミスフィットとも呼ばれている)がある層が積層される場合、その歪量に対して、積層される層の層厚値には限界値(以下、臨界層厚と記す)が生じてしまう。言いかえると、積層される層の層厚値に対して、その歪量には限界値(以下、臨界歪量と記す)が生じてしまう。すなわち、積層される層の歪量を大きくすると、臨界層厚は小さくなり、逆に、積層される層の層厚値を大きくすると、臨界歪量は小さくなる。これら限界値を超えて、層の積層がなされると、その層の結晶に欠陥が発生することとなる。
【0017】
層厚値に対する臨界歪量の関係に関する理論は、非特許文献5によって記されており、次式にて、数式(1)として表される。
【0018】
【数1】

【0019】
ここで、εは臨界歪量、tは層厚値、bはバーガースベクトル、ψは転移線とバーガースベクトルのなす角、φはすべり方向と膜面とのなす角、νはポアソン比である。以下、数式(1)で表される関係式を、Matthewsの関係式として記す。
【0020】
半導体発光素子のMQW層において、このような臨界層厚を超える層厚値によって、もしくは、このような臨界歪量を超える歪量によって、歪のある層を積層してしまうと、結晶の格子緩和や格子欠陥が発生してしまう。その結果、安定してMQW層を形成させることが出来ず、半導体発光素子として安定した特性が得られなくなる。
【0021】
それゆえ、高速応答化や閾値電流の低減化などの観点から、MQW構造の井戸層の層数を増大させたり、井戸層の歪量を増大させようとしても、臨界層厚もしくは臨界歪量のために、限界が生じてしまう。
【0022】
このことについて、従来技術において、非特許文献5の理論を発展させた特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5のような発明がある。例えば、特許文献2や特許文献3、特許文献5では、GaAs基板上に成長させる半導体薄膜の層に関して、臨界層厚の満たすべき条件について記述してある。また、例えば、特許文献4では、InP基板上に成長させる半導体薄膜の層に関して臨界層厚の満たすべき条件について記述してある。
【0023】
しかし、いずれもInGaAlAs系MQW層が満たすべき条件については記述されておらず、これらの条件をInGaAlAs系のMQW層に適用するのには十分ではなかった。
【0024】
その他のものとして、例えば、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10がある。しかし、特許文献6は、井戸層が圧縮歪に限定されており、引張り歪井戸層へ適用することは出来ない。特許文献7は、材料が異なる上、井戸数に関する非特許文献5のような制限がないので、不十分である。特許文献8は、GaAs基板に関するもので、適用できない。特許文献9は、InGaAsP系材料の圧縮歪井戸層に関するもので、適用できない。特許文献10は、通常の基板とは異なる基板を用いており、適用できない。
【0025】
さらに、特許文献11のように、目的の特性を得るために、必ずしも井戸層の層厚や井戸層の歪量が各層で一致させる必要がない場合もある。それゆえ、このような観点においても、上述の非特許文献5、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10をそのままInGaAlAs系MQW層へ適用するのには限界があり、不十分である。特に引張り歪井戸層では、上述のような理由などにより、従来技術において、系統的な作製方法が見出されていない。
【0026】
その証拠に、圧縮歪井戸層をもつInGaAlAs系半導体発光素子では、非特許文献6にあるようにN=15など、非特許文献での報告が多数なされているが、引張り歪井戸層については、非特許文献7と非特許文献8など少数に限られており、従来技術において、InGaAlAs系材料を用いた引張り歪量子井戸層を含むMQW層の作製方法は見出されておらず、これらMQW層の結晶作製の困難さを示している。
【0027】
以上のように、従来技術において、理論的には幅広い温度範囲で良好な特性が得られることが期待されるInGaAlAs系引張り歪井戸層による半導体発光素子の実現は困難であった。
【0028】
同様に、従来技術において、1.3μm帯では、InGaAsP系からなる井戸層とInGaAlAs系からなる障壁層とを備えるMQW層の形成も困難であった。1.55μm帯では、例えば、非特許文献9に先駆的な研究が報告されているが、1.3μm帯での半導体発光素子は実現していない。これは、InGaAsP系からなる井戸層と、InGaAlAs系からなる障壁層とにおいて、各層の結晶の成長温度が異なるためである。それに加え、井戸層に含まれるPの含有量と、障壁層に含まれるAlの含有量に起因するためである。
【0029】
1.3μm帯で発光に必要な利得を得るには、1.55μm帯と比較すると、一般に、井戸層に含まれるPの含有量と、障壁層に含まれるAlの含有量とをそれぞれ増加させる必要がある。一方、成長温度はInGaAsP系では600℃程度であるのに対し、InGaAlAs系では700℃程度と,100℃程度の差がある。
【0030】
そのため、エピタキシャル成長のとき、600℃でInGaAsP系からなる井戸層を成長させ、次にInGaAlAs系からなる障壁層を成長させるために700℃にすると、井戸層に含まれるPが蒸発してしまい、組成が変化してしまうためである。一方、成長温度が600℃ではInGaAlAs系の良好な結晶形成はできない。
【0031】
特許文献12に記述されているように、1.55μm帯では、成長温度を中間の温度である650℃にすることにより、上記の問題を回避できた。しかし、1.3μm帯では井戸層に含まれるPの含有量、または障壁層に含まれるAlの含有量が1.55μm帯と比較し多いため、同様な手法では組成の変化を防止することが出来ず、そのため、従来技術において、1.3μm帯では良好な特性をもつウェハを得ることが出来なかった。
【0032】
以上に述べた通り、InGaAlAs系からなる引張り歪井戸層を有する1.3μm帯半導体発光素子、および、InGaAsP系からなる引張り歪井戸層及びInGaAlAs系からなる障壁層を有する1.3μm帯半導体発光素子で、幅広い温度範囲においても、高性能かつ高信頼な半導体発光素子を作製することは困難であった。なお、従来技術に係る半導体発光素子の作製において、MQW層における井戸層と障壁層との各界面に生じる界面歪の限界値(以下、臨界界面歪と記す)は考慮されていない。
【0033】
本発明においては、このような課題を鑑みて、高性能かつ高信頼な半導体発光素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0034】
(1)本発明に係る半導体発光素子は、交互に配置された、いずれもIn1−x−yGaAlAs系からなる井戸層及び障壁層を含む多重量子井戸層を基板の上方に備えた半導体発光素子であって、前記各井戸層は、引張り歪を有し、前記各障壁層は、圧縮歪を有し、前記井戸層と前記障壁層との各界面における界面歪の大きさが、該界面を境に隣接する前記井戸層及び前記障壁層の層厚のうち大きい層厚値より定まる臨界界面歪の大きさより小さい、ことを特徴とする。
【0035】
(2)上記(1)に記載の半導体発光素子であって、前記臨界界面歪の大きさとは、Matthewsの関係式により求まる最大歪量に基づいて定まっていてもよい。
【0036】
(3)上記(2)に記載の半導体発光素子であって、前記臨界界面歪の大きさとは、Matthewsの関係式により求まる最大歪量の0.7倍であってもよい。
【0037】
(4)上記(3)に記載の半導体発光素子であって、さらに、各界面歪の大きさが、0.7%以上2.2%以下であってもよい。
【0038】
(5)上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の半導体発光素子であって、前記多重量子井戸層の平均歪の大きさが、前記多重量子井戸層全体の層厚の値より定まる臨界平均歪の大きさより小さくてもよい。
【0039】
(6)上記(5)に記載の半導体発光素子であって、前記臨界平均歪の大きさとは、Matthewsの関係式により求まる最大歪量に基づいて定まっていてもよい。
【0040】
(7)上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の半導体発光素子であって、前記井戸層において、Inの組成量1−x−yが、0.21以上0.44以下であってもよい。
【0041】
(8)上記(7)に記載の半導体発光素子であって、前記障壁層において、Gaの組成量xが0以上であり、Alの組成量yが0.43−0.36x以上、0.476−1.017x以下であってもよい。
【0042】
(9)上記(8)に記載の半導体発光素子であって、前記井戸層の層数が5以上であってもよい。
【0043】
(10)本発明に係る半導体発光素子は、交互に配置された、In1−xGaAs1−y系からなる井戸層及びIn1−x−yGaAlAs系からなる障壁層を含む多重量子井戸層を基板の上方に備えた半導体発光素子であって、前記各井戸層は、引張り歪を有し、前記各障壁層は、圧縮歪を有し、1.3μm帯の波長の光を出力する、ことを特徴とする。
【0044】
(11)本発明に係る半導体発光素子は、交互に配置された、In1−xGaAs1−y系からなる井戸層及びIn1−x−yGaAlAs系からなる障壁層を含む多重量子井戸層を基板の上方に備えた半導体発光素子であって、前記各井戸層は、引張り歪を有し、前記各障壁層は、圧縮歪を有し、前記井戸層と前記障壁層との各界面における界面歪の大きさが、該界面を境に隣接する前記井戸層及び前記障壁層の層厚のうち大きい層厚値より定まる臨界界面歪の大きさより小さい、ことを特徴とする。
【0045】
(12)上記(11)に記載の半導体発光素子であって、前記臨界界面歪の大きさとは、Matthewsの関係式により求まる最大歪量に基づいて定まっていてもよい。
【0046】
(13)上記(12)に記載の半導体発光素子であって、前記臨界界面歪の大きさとは、Matthewsの関係式により求まる最大歪量の0.7倍であってもよい。
【0047】
(14)上記(13)に記載の半導体発光素子であって、さらに、各界面歪の大きさが、0.7%以上2%以下であってもよい。
【0048】
(15)上記(11)乃至(14)のいずれかに記載の半導体発光素子であって、前記多重量子井戸層の平均歪の大きさが、前記多重量子井戸層全体の層厚値より定まる臨界平均歪の大きさより小さくてもよい。
【0049】
(16)上記(15)に記載の半導体発光素子であって、前記臨界平均歪の大きさとは、Matthewsの関係式により求まる最大歪量に基づいて定まっていてもよい。
【0050】
(17)上記(11)乃至(16)のいずれかに記載の半導体発光素子であって、前記井戸層において、Inの組成量1−xが、0.4以上0.6以下であり、Pの組成量1−yが、0.09以上0.35以下であってもよい。
【0051】
(18)上記(17)に記載の半導体発光素子であって、前記障壁層において、Gaの組成量xが0以上であり、Asの組成量yが0.384−0.33x以上、0.476−1.017x以下であってもよい。
【0052】
(19)上記(18)に記載の半導体発光素子であって、前記井戸層の層数が5以上であってもよい。
【0053】
(20)上記(1)乃至(19)のいずれかに記載の半導体発光素子であって、リッジストライプ型構造を有していてもよい。
【0054】
(21)上記(20)に記載の半導体発光素子であって、リッジストライプ幅が3μm以下であってもよい。
【0055】
(22)上記(20)に記載の半導体発光素子であって、ファブリー・ペロー構造を有していてもよい。
【0056】
(23)上記(20)に記載の半導体発光素子であって、分布帰還型回折格子を有していてもよい。
【発明の効果】
【0057】
従来技術に係る半導体発光素子の作製において、MQW層における井戸層と障壁層との各界面に生じる臨界界面歪が考慮されていないところ、本発明において、臨界界面歪を考慮することにより、InGaAlAs系からなる引張り歪井戸層を有する半導体発光素子、もしくは、InGaAsP系からなる引張り歪井戸層及びInGaAlAs系からなる障壁層を有する半導体発光素子であって、幅広い温度範囲においても高性能かつ高信頼な半導体発光素子が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態に係る半導体発光素子の界面歪の大きさと界面最大層厚との関係を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係る半導体発光素子の多重量子井戸層における井戸層の層厚及び井戸層の歪量に対する分裂エネルギーの依存性を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係るリッジストライプ型ファブリペローレーザ素子の構造を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係る半導体発光素子の多重量子井戸層における平均歪の大きさと多重量子井戸層全体の層厚との関係を示す図である。
【図5】本発明の実施形態に係る半導体発光素子の井戸層のバンド構造を示す概略図である。
【図6】本発明の実施形態に係る半導体発光素子の障壁層の歪量に対するエネルギー差Δξの依存性を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係る半導体発光素子の障壁層の組成量の範囲を示す相図である。
【図8】本発明の実施形態に係る半導体発光素子の井戸層の層厚に対する飽和電流の依存性を示す図である。
【図9】本発明の実施形態に係る半導体発光素子の井戸層の層数に対する飽和電流の依存性を示す図である。
【図10】本発明の実施形態に係る分布帰還型レーザ素子の構造を示す図である。
【図11】本発明の他の実施形態に係る半導体発光素子の多量子井戸層における井戸層の層厚及び井戸層の歪量に対する分裂エネルギーの依存性を示す図である。
【図12】本発明の他の実施形態に係る半導体発光素子の障壁層の歪量に対するエネルギー差Δξの依存性を示す図である。
【図13】本発明の他の実施形態に係る半導体発光素子の障壁層の組成量の範囲を示す相図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
本発明に係る実施形態について、以下に、詳細な説明をする。ただし、以下に示す図は、あくまで、各実施形態の実施例を説明するものであって、図の大きさと本実施例記載の縮尺は必ずしも一致するものではない。
【0060】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る半導体発光素子は、いずれもIn1−x−yGaAlAs系からなる井戸層及び障壁層からなるMQW層がInP基板の上方に形成された1.3μm帯半導体発光素子であり、MQW層の各井戸層は引張り歪を有し、各障壁層は圧縮歪を有している。ここで、半導体発光素子とは、例えば、リッジストライプ型ファブリペローレーザ素子である。
【0061】
InP基板の格子定数をa、井戸層の格子定数をa、障壁層の格子定数をbとすると、井戸層及び障壁層の歪量は、それぞれ、ε=(a−a)/a,εb=(b−a)/aで定義される。ここで、引張り歪とは、この歪量が負、すなわち、格子定数が基板の格子定数より小さいことを示している。また、圧縮歪とは、この歪量が正、すなわち、格子定数が基板の格子定数より大きいことを示している。
【0062】
図3は、リッジストライプ型ファブリペローレーザ素子の構造を示す図であり、図3(a)は、当該レーザ素子の全体斜視図、図3(b)は、破線bによって図3(a)に示される部分の拡大断面図、図3(c)は、破線cによって図3(b)に示される部分の拡大断面図である。
【0063】
まず、当該レーザ素子の作製方法について簡単に説明する。n型InP基板1上に、厚さ500nmのn型InPバッファ層2、厚さ50nmのInAlAsからなるn側SCH層3、後述の仕様を有するMQW層4、厚さ50nmのInAlAsからなるp側SCH層5、厚さ50nmのInGaAsP層6が、順に、エピタキシャル成長によって、形成される。ここで、MQW層4は、井戸層と障壁層が交互に積層されて構成されており、両端の井戸層のさらに外側にはそれぞれ障壁層が位置している。また、MQW層4の井戸層及び障壁層は、それぞれ、引張り歪及び圧縮歪を有しているが、MQW層4以外の層はすべて、無歪となるよう形成されている。また、InGaAsP層6は、組成波長λ=1200nmとなるような組成で構成されている。
【0064】
次に、InGaAsP層6上に、厚さ2μmのp型InP層7が形成され、さらに、p型InP層7の幅が1.5μmとなるようエッチングされる。これにより、p型InP層7は、リッジストライプ構造となる。また、p型InP層7の両脇近傍には、寄生容量の低減のため、アイソレーション溝10が形成される。さらに、劈開や実装時などにp型InP層7へ余分な力が集中し破壊しないように、補強用として、肩部11が、図3(b)に示すように形成される。
【0065】
p型InP層7の頭頂部以外の素子上部表面に、パッシベーション膜8が形成される。さらに、p型電極9が、図3(a)に示すように、形成され、p型InP層7の頭頂部と良好なコンタクトが得られ、かつ電流を注入しやすい構造となっている。また、素子上部表面には、前方と後方を識別しやすいように、前方側に前方マーク12が形成され(図3(a))、前端面及び後端面に、反射率がそれぞれ40%及び90%となるようにコーティング膜(図示せず)が形成される。なお、素子の共振器長は200μmである。
【0066】
【表1】

【0067】
表1は、本実施形態に係る実施例及び比較例を示す複数のレーザ素子についての、MQW層4の仕様を示している。上記作製方法により、表1に示す仕様となるよう複数のウェハが作製され、これらウェハを用いて複数のレーザ素子が作製される。後に、これら複数のレーザ素子の特性について示す。
【0068】
ここで、Nは井戸層の層数、Lは井戸層の層厚、Lは障壁層の層厚、εは井戸層の歪量、εは障壁層の歪量を示している。MQW層4を構成する各井戸層及び各障壁層は、表1に示す層厚及び歪量をそれぞれ有し、MQW層4以外の層は同一構造となるよう形成される。なお、全ての試料において、MQW層4の障壁層は、無歪のときに組成波長がλ=900nmとなるようなIn1−x−yGaAlAsによって形成される。
【0069】
表1に示す仕様となるよう作製された複数のウェハについて、フォトルミネッセンスにより発光波長が調べられ、全てのウェハについて、1.3μm付近に1つ発振ピークが見られた。また、これらウェハの上部表面が目視によって調べられ、試料1−5,1−6,1−7,1−8,1−9,1−10,1−11,1−14の上部表面には、わずかであるが格子緩和を示すクロスハッチが見られた。その他のウェハの上部表面は、鏡面であった。
【0070】
これらウェハを用いて作製された各レーザ素子について、図3(a)に示す出力光13が検出され、電流―光出力特性が測定された。25℃では作製した全ての試料で発振することが確認された。また、全てのレーザ素子で、TMモードを発振していることも確認された。尚、当該レーザ素子は、前述の通り、リッジストライプ幅は1.5μmとなるように作製されている。異なるリッジストライプ幅を有し本構造を有するレーザ素子について研究を重ねた結果、リッジストライプ幅が3μm以下であれば、発光光の偏光方向が安定した状態で、レーザ素子は発光光を発振していることが、確認された。
【0071】
次に、環境温度を上昇させて、電流―光出力特性が測定された。その結果、他の仕様と比較し、試料1−5,1−6,1−7,1−8,1−9,1−10,1−11,1−12,1−13,1−14のレーザ素子について、温度上昇に対して、閾値電流の大幅な増大が見られた。さらに、環境温度50℃あたりで、印加電流を増大させていくと、突然発光しなくなり、再度の通電を行っても、これ以上、発光は確認されなくなる現象が観測された。それぞれ同じ仕様の素子が複数作製され、これらの測定が行われたが、試料1−5,1−6,1−7,1−8,1−9,1−10,1−11,1−14となるそれぞれ複数のレーザ素子のうち、8割から9割のレーザ素子で、また、試料1−12,1−13となるそれぞれ複数のレーザ素子のうち4割から6割のレーザ素子で、このような現象が観測された。
【0072】
表1に示すそれぞれの仕様で作製された複数のレーザ素子のみならず、さらに、表1に示す仕様の以外の仕様のレーザ素子についても複数作製され、それらのレーザ素子について、特性を評価した結果、以下のような法則があることを発見した。
【0073】
図1は、界面歪の大きさと界面最大層厚との関係を示す図である。ここで、界面歪をεkai=ε−εと定義し、その大きさを横軸とし、界面最大層厚tkaiを、界面を境に隣接する井戸層及び障壁層のうちより厚い層の層厚と定義し、それを縦軸としている。表1に示すMQW層4の仕様では、MQW層4に含まれる複数の井戸層の層厚L及び複数の障壁層の層厚Lはそれぞれ等しく、井戸層の層厚Lが障壁層の層厚Lより大きいので、ここで、界面最大層厚tkaiとは、井戸層の層厚Lとなる。
【0074】
また、図1に示す曲線は、数1に示したMatthewsの関係式に界面最大層厚tkaiを適用し、Matthewsの関係式に基づいて定まる界面歪εkaiの大きさであり、次式にて数式(2)として表される。
【0075】
【数2】

【0076】
ここで、b=0.4nm,cosψ=0.5,cosφ=0.5,ν=1/3としている。また、図1には、Aの値がそれぞれA=0.7,A=0.8,A=0.9,A=1.0をとなる4本の曲線が示されている。
【0077】
上記複数のレーザ素子について、その特性を評価した結果、臨界界面歪とは、数式(2)においてAの値が0.7であり、界面歪εkaiは、この臨界界面歪以下に作製されるのが望ましいことがわかった。
【0078】
図4は、平均歪の大きさとMQW層4全体の総層厚との関係を示す図である。ここで、MQW層4全体の総層厚ttot及び平均歪εavは、次式にて、それぞれ数式(3),(4)として定義される。図4では、平均歪εavを横軸と、総層厚ttotを縦軸と、している。
【0079】
【数3】

【0080】
また、図4に示す曲線は、数1に示したMatthewsの関係式に、総層厚ttotを適用し、それに基づいて定まる平均歪εavの大きさであり、次式にて数式(5)として表される。
【0081】
【数4】

【0082】
ここで、図1と同様に、b=0.4nm,cosψ=0.5,cosφ=0.5,ν=1/3としている。また、図4には、Bの値がそれぞれB=0.7,B=0.8,B=0.9,B=1.0をとなる4本の曲線が示されている。
【0083】
上記複数のレーザ素子について、その特性を評価した結果、臨界平均歪とは、数式(5)においてBの値が0.9であり、平均歪εavは、この臨界平均歪以下に作製されるのがさらに望ましいことがわかった。図4において、これら条件を満たす試料をシンボル○にて、満たしていない試料をシンボル×にて、示している。例えば、試料1−5,1−6,1−7,1−8が、B=0.9の曲線を超えてしまっており、シンボル×にて、示されている。
【0084】
上述した通り、試料1−5,1−6,1−7,1−8,1−9,1−10,1−11は、エピタキシャル成長後、その上部表面にクロスハッチが確認されており、これら仕様により実際に作製したレーザ素子は、特性測定の時に破壊されてしまっており、MQW層4の仕様は、上記の条件を超えないように設計するのが望ましい。
【0085】
さらに、上記の条件を満たすが、同様にクロスハッチが見られ、特性測定時に破壊されてしまった試料1−14に関して調べたところ、上記の条件を満たすMQW層仕様であっても、界面歪εkaiの大きさが2.2%を超える多層では特性測定時に破壊されてしまうことを発見した。よって、界面歪εkaiの大きさを2.2%以下になるよう設計するのがさらに望ましい。この条件から、井戸層におけるInの組成量1−x−yの満たすべき条件が実験的に得られ、1−x−yが0.21以上である。
【0086】
なお、図1において、これら条件を満たす試料をシンボル○にて、十分には満たしていない試料をシンボル△にて、満たしていない試料についてシンボル×にて、示されている。例えば、図1に示す通り、試料1−9,1−10,1−11が、A=0.7の曲線を超えてしまっており、シンボル×にて、示されている。
【0087】
なお、表1に示すMQW層4の仕様については、以下の知見に基づいている。量子井戸層内の電子状態が2次元電子系とみなされるには、単純な自由電子モデル理論より量子井戸層の層厚が、L≦1/kを満たす必要がある。ここでkとは、量子井戸層内キャリアのフェルミ波数である。ここから井戸層の層厚は、大きくとも16nmより薄くする必要があることがわかる。この条件の範囲内で、井戸層に引張り歪を導入した時のLHバンドとHHバンドの分裂エネルギーをElh−Ehhとする。
【0088】
図2は、井戸層の層厚L及び井戸層の歪量εに対する分裂エネルギーElh−Ehhの依存性を計算した結果を示した図である。なお、図2に示す複数の曲線は、井戸層の歪量εがそれぞれの値を有する場合に対応している。図2に示す通り、井戸層の層厚Lが厚いほど、また、井戸層の歪量εの大きさが大きいほど、分裂エネルギーがElh−Ehhが大きくなることがわかる。特に、環境温度が100℃程度の高温でもレーザ発振させるには、LHバンドとHHバンドが十分に分裂している必要があり、それには通電による活性層温度の上昇も考慮し、分裂エネルギーElh−Ehhが、35meV(温度に換算し130℃)以上であることが望ましい。
【0089】
以上により、井戸層の層厚Lが16nm以下であり、井戸層の歪量εの大きさが0.7%以上であることが望ましい。その範囲について、図2に破線で示している。図2により井戸層において、Inの組成量1−x−yの満たすべき条件が実験的に得られ、1−x−yが0.44以下である。そして、障壁層における圧縮歪が最小である場合を考慮すると、少なくとも界面歪εkaiの大きさも0.7%以上が望ましい。
【0090】
表1に示す仕様となるレーザ素子に加えて、井戸層の層厚Lが層によって異なる場合がある様々な仕様についても、レーザ素子を作製し、同様の実験を行った。
【0091】
一般に、i番目の井戸層には、i番目の障壁層とi+1番目の障壁層が接しており、それぞれ界面を形成している。i番目の井戸層の層厚をLwi、i番目の障壁層の層厚をLbiとすると、i番目の井戸層とi番目の障壁層との界面の界面歪εkaiは、εkai=εwi−εbiとして記され、その界面における界面最大層厚tkaiとは、LwiとLbiのうち、いずれか大きい値をもつものである。同様に、i番目の井戸層とi+1番目の障壁層における界面歪はεkaiはεkai=εwi−εbi+1として記され、それの界面における界面最大層厚tkaiとは、LwiとLbi+1のうち、いずれか大きい値をもつものである。
【0092】
また、一般に、総層厚ttot及び平均歪εavは、次式にて、それぞれ数式(6),(7)として定義される。
【0093】
【数5】

【0094】
上記様々な仕様のレーザ素子のうち、十分な特性を示すレーザ素子は、MQW層4の各界面において界面歪εkaiは、A=0.7とした数式(2)により定まる臨界界面歪以下を満たしており、平均歪εavは、B=0.9とした数式(5)により定まる臨界平均歪以下を満たしている。さらに、各界面における界面歪εkaiの大きさは、0.7%以上2.2%以下であればさらに望ましく、さらに、井戸層のInの組成量1−x−yが、0.21以上0.44以下であるとき、さらに望ましい。
【0095】
なお、特許文献13の実施例に、MQW層における井戸層の層数N=9、井戸層の層厚L=8nm、障壁層の層厚L=10nm、井戸層の歪量ε=−1.0%、障壁層の歪量ε=0.0%、障壁層の組成波長λ=1000nmとなる条件で、良好な特性がを示す素子が得られたという記述がある。これは、本実施形態にて示した条件を満たしていない。しかし、井戸層のIn組成量1−x−y=0.52であることから、LHバンドとHHバンドの分裂幅は28meV(50℃)程度となる。通電による活性層内部の温度上昇を考慮すると、この素子が、良好な特性が得られるのは環境温度が室温以下に限定され、本発明に係る半導体発光素子のように、幅広い温度範囲で特性を確保するための条件とは異なっている。また、本実施形態にて示した条件を満たさなくとも、エピタキシャル成長させたウェハの場所によっては、信頼性が確保できる半導体発光素子が、いくつか得られることがあるが、特性の歩留やバラツキ、再現性、量産性を得るには、やはり、本実施形態で示した条件が必要となる。さらに、本発明は、100℃までの幅広い温度範囲においても高性能かつ高信頼な素子が作製可能なInPを基板とする多重量子井戸をエピタキシャル成長させたウェハを安定して得る条件を示すのに対し、特許文献13に係る素子では、埋め込み構造を有していることで、上記の条件とは状況が異なってくるものと考えられる。
【0096】
また、他に、特許文献14に、In1−x−yGaAlAs系を用いた引張り歪井戸層に関する記述があるが、この井戸層のInの組成量1−x−yが0.45以上0.53以下の領域にある上、MQW層の井戸層の層数や障壁層に関する開示がなく、本発明に対する示唆はない。
【0097】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る半導体発光素子は、第1の実施形態に係るリッジストライプ型ファブリペローレーザ素子に、さらに、障壁層の組成について考慮したものである。
【0098】
ここで、井戸層が圧縮歪を有する場合、上述のようにHHバンドが発振に寄与する。HHバンドの有効質量は伝導帯の有効質量と比較し、十分大きい。そのため、キャリアオーバーフローを抑制するために、例えば非特許文献7では、伝導帯のバンドオフセットの条件をΔE≧150meVとするなど、これまでは伝導帯のバンドオフセットΔEを大きくすることが注目されていた。しかし、井戸層が引張り歪を有する場合には、LHバンドが発振に寄与する。このバンドにおける層の結晶成長の方向における有効質量は、伝導帯キャリアの有効質量程度に小さくなる。このため、引張り歪井戸層では、価電帯のバンドオフセットΔEを十分大きくすることが望ましく、さらに、Δξを十分に大きくするとよい。ここで、Δξは、井戸層の価電子帯の第1状態のエネルギーと障壁層の価電子帯のバンド端のエネルギーとの差と定義される。Δξは、これまで注目されてこなかった点である。
【0099】
【表2】

【0100】
表2は、本実施形態に係る実施例及び比較例をそれぞれ示すレーザ素子についての、MQW層4の仕様を示している。第1の実施形態において説明した作製方法により、表2に示す各仕様それぞれについて、複数のウェハが作製され、これらウェハを用いて複数のレーザ素子が作製される。後に、これら複数のレーザ素子の特性について示す。
【0101】
表2に示す仕様となるよう作製された複数のウェハについて、フォトルミネッセンスにより発光波長が調べられ、全てのウェハについて、1.3μm付近に1つ発振ピークが見られた。
【0102】
これらウェハを用いて作製された各レーザ素子について、第1の実施形態に係るレーザ素子と同様に、電流―光出力特性が測定された。25℃では、試料2−1,2−2のレーザ素子は、ともに、閾値電流が5mA程度と良好な特性を示し、ほとんど差異はみられなかった。しかし、温度を上昇させ95℃あたりで測定したところ、試料2−1のレーザ素子は閾値電流9mAで発振したのに対して、試料2−2のレーザ素子は、素子によっては、閾値電流が40mAを超えて発振する素子もあれば、発振しない素子もあり、特性にばらつきがあった。さらに、試料2−1の素子について、環境温度100℃まで上昇させて測定したところ、発振することが確認された。
【0103】
表2に示す2つの試料のレーザ素子について比較すると、主な違いは、障壁層の組成にある。そこで、これらの量子井戸層のバンド構造を実験的に調べた。
【0104】
図5は、表2に示す試料における量子井戸層のバンド構造を示す概略図である。ここで、図5(a)は試料2−1を、図5(b)は試料2−2の量子井戸層の電子構造に対応している。なお、説明を簡単にするため、1つの量子井戸の伝導帯、価電子帯には、ともに、それぞれ第1状態のみを示してある。
【0105】
図5に示されるように、試料2−1において、井戸層の伝導帯の第1状態のエネルギーξと、障壁層の伝導帯のエネルギーξbcとの差Δξ(=ξbc−ξ)は、190meVであるのに対して、試料2−2におけるΔξは120meVと小さい。また、試料2−1において、井戸層の価電子帯の第1状態のエネルギーξと、障壁層の価電子帯のエネルギーξbvとの差Δξ(=ξ−ξbv)は50meVであるのに対して、試料2−2におけるΔξは30meVと小さい。
【0106】
上述の通り、引張り歪井戸層ではLHバンドが寄与し、そのキャリアの有効質量は伝導帯キャリア程度に小さくなることから、試料2−2のレーザ素子が高温で発振しなかったのは、Δξが小さいことに起因するというよりも、Δξが小さいため、キャリアのオーバーフローが発生したことに起因すると考えられる。
【0107】
これにより、井戸層に引張り歪を有する半導体発光素子では、温度特性を向上させるには、Δξだけでなく、Δξをも考慮にいれて設計を行うことが望ましいことがわかる。従来技術に係る井戸層に圧縮歪を有する素子では、HHバンドが発振に寄与し、HHバンドのキャリアの有効質量は伝導帯キャリアの有効質量よりも十分大きいので、素子の温度特性を向上させるにはΔξのみに注目し、それを大きくするように設計すればよかったのに対して対照的である。
【0108】
図6は、様々な障壁層の組成波長λについて、障壁層の歪量εに対するΔξの依存性を示す図である。なお、図6に示す複数の曲線は、障壁層の組成波長λがそれぞれの値を有する場合に対応している。歪量εの大きさが小さいほど、また、障壁層の組成波長λが短波長であるほど、Δξは大きくなることが示されている。
【0109】
100℃といった高温でも良好な特性を得るには、第1の実施形態において示した分裂エネルギーElh-Ehh同様、Δξも35mev(130℃)以上が望ましい。
【0110】
Δξが35meV以上となる障壁層の組成の範囲を実験的に求めると、障壁層のAlの組成量yが、0.430−0.360x以上であり、0.476−1.017x以下のときである。障壁層のAlの組成量yがこの範囲に属している試料2−1のΔξはこの条件を満たしている。図7は、障壁層のGaの組成量xとAlの組成量yが上記条件を満たす範囲を示す相図である。
【0111】
以上のように、従来技術において、井戸層に引張り歪を有するInGaAlAs系1.3μm帯半導体発光素子では、Δξの条件があいまいであったため、幅広い温度範囲の温度において安定して、良好な特性が得られなかったものと考えられる。
【0112】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係る半導体発光素子は、第1の実施形態に係るリッジストライプ型ファブリペローレーザ素子に、さらに、MQW層4の井戸層の層数Nについて考慮したものである。
【0113】
第1の実施形態に係る実施例及び比較例として示した複数の半導体発光素子の間には、飽和電流Isatに大きな差がみられる。現在、主流となっている井戸層に圧縮歪を有するをIn1−x−yGaAlAs系1.3μm帯リッジストライプ型ファブリペローレーザ素子では、メサ幅が1.5μm、共振器長が200μm、前端面と後端面のコーティングの反射率がそれぞれ40%と90%であるとき、85℃では、飽和電流Isatが125mAを超える。そのため、井戸層に引張歪を有するInGaAlAs系1.3μm帯半導体発光素子においても、少なくとも同一条件において、飽和電流Isatが125mAを超えることが望ましい。そこで、85℃において飽和電流Isatが125mAとなる条件について、表3に示される仕様となるよう作製された試料のレーザ素子の実験結果より示す。
【0114】
【表3】

【0115】
表3は、本実施形態に係る実施例及び比較例を示す複数のレーザ素子についての、MQW層4の仕様を示している。これらのMQW層4の仕様は、いずれも第1及び第2の実施形態で説明した条件を満たしており、これら仕様で、第1の実施形態において説明した作製方法により、表3に示す仕様になるよう作製されたウェハの上部表面を目視によって調べたところ、すべてのウェハで上部表面は鏡面であった。
【0116】
表3に示す仕様となるよう作製された複数のウェハについて、フォトルミネッセンスにより発光波長が調べられ、試料3−1,3−2,3−3、3−7のウェハでは、1.3μm付近に1つの発振ピークと、それよりも強度が小さく短波長側にあるもう1つの発振ピークが見られた。これらの分裂エネルギー差Elh−Ehhは、いずれも40meV以上であった。これら2つの発振ピークのうち、1.3μm付近のピークはLHバンドに起因し、また、それよりも短波長側のピークはHHバンドに起因すると考えられる。また、試料3−4,3−5、3−6のウェハでは、1.3μm付近に1つ発振ピークが見られた。
【0117】
さらに、これらのウェハを用いて、上記方法により、リッジストライプ型ファブリペローレーザ素子を作製し、以下の測定を行った。
【0118】
図8は、85℃における井戸層の層厚Lに対する飽和電流Isatの依存性を示す図である。図8に示す通り、井戸層の層厚Lが8nmから11nmの範囲において、飽和電流Isatは、井戸層の層厚Lによらず、ほとんど一定である。
【0119】
図9は、85℃における井戸層の層数Nに対する飽和電流Isatの依存性を示す図である。図9に示す通り、飽和電流Isatは井戸層の層数Nにほぼ比例し、85℃において飽和電流Isatが125mA以上を達成するには井戸層の層数Nは5以上必要となる。
【0120】
これにより、広い温度範囲において、300μm以下の短長の共振器でも、高出力・高速動作化が可能となる。従来技術において、井戸層の層数N=5となる報告例が、非特許文献8にあるが、障壁層に関する開示がなく、本発明を示唆するものではない。
【0121】
[第4の実施形態]
以上、MQW層4の各井戸層は、同じ組成によって設計されたものについて、説明した。しかし、これに限られる必要はなく、本発明の第4の実施形態に係る半導体発光素子は、MQW層4の各井戸層は、3層となる多重層によって構成されている。
【0122】
【表4】

【0123】
表4は、本実施形態に係る実施例及び比較例を示す複数のレーザ素子についての、MQW層4の仕様を示している。これらのMQW層4の各井戸層は、3層となる多重層によって構成されている。
【0124】
ここで、各井戸層を構成する複数の層それぞれの層厚をLとし、それら複数の層によって構成される各井戸層の総層厚をLtotと定義している。また、各井戸層を構成する複数の層それぞれの歪量をεとし、それら複数の層によって構成される各井戸層の平均歪量をεavと定義している。
【0125】
第1の実施形態において説明した作製方法により、MQW層4が表4に示す仕様にそれぞれなるよう複数のウェハが作製された。なお、全ての試料において、MQW層4の障壁層は、無歪のときに組成波長がλ=900nmとなるようなIn1−x−yGaAlAsによって形成される。
【0126】
以上の通り作製された複数のウェハについて、フォトルミネッセンスにより発光波長が調べられ、全てのウェハについて、1.3μm周辺にいくつか肩をもつ広い発振ピークが見られた。また、これらウェハの上部表面が目視によって調べられ、試料4−1,4−2,4−5の上部表面は鏡面であったのに対し、試料4−3,4−4の上部表面にはわずかであるがクロスハッチが見られた。
【0127】
これらウェハを用いて作製された各レーザ素子について、電流―光出力特性が測定された。25℃では作製された全ての試料で発振することが確認された。また全てのレーザ素子で、TMモードを発振していることも確認された。
【0128】
次に、環境温度を上昇させて、電流―光出力特性が測定された。その結果、他の仕様と比較し、試料4−2,4−3,4−4,4−5のレーザ素子について、温度上昇に対して、閾値電流の大幅な増大が見られた。さらに、環境温度50℃あたりで、印加電流を増大させていくと、突然発光しなくなり、再度の通電を行っても、これ以上、発光は確認されなくなる現象が観測された。それぞれ同じ仕様の素子が複数作製され、これらの測定が行われたが、試料4−3,4−4,4−5となるそれぞれ複数のレーザ素子のうち、9割のレーザ素子で、また、試料4−2となる複数のレーザ素子のうち7割のレーザ素子で、このような現象が観測された。
【0129】
表4に示すそれぞれの仕様で作製された複数のレーザ素子のみならず、さらに、表4に示す仕様の以外の仕様のレーザ素子についても複数作製され、それらのレーザ素子について、特性を評価した結果、以下のような法則があることを発見した。
【0130】
複数層によって構成される各井戸層と、当該井戸層に隣り合う障壁層との各界面において、通常の界面歪に加えて、さらに、界面歪εkai=εav−εと定義する。さらに、界面最大層厚tkaiを、当該井戸層の総層厚Ltot及び障壁層の層厚Lのうち、大きい方の値であると定義する。臨界界面歪とは、第1の実施形態に係る半導体発光素子と同様に、数式(2)においてAの値が0.7であり、界面歪εkaiは、この臨界界面歪以下に作製されるのが望ましいことがわかった。
【0131】
さらに、MQW層4全体の総層厚ttot及び平均歪εavを、それぞれ数式(3)及び数式(4)に記されるL及びεを、それぞれ、Ltot及びεavに置き換えたものとする。臨界平均歪とは、同様に、数式(5)においてBの値が0.9であり、平均歪εavは、この臨界平均歪以下に作製されるのが、さらに望ましいことがわかった。
【0132】
上述した通り、試料4−3,4−4は、エピタキシャル成長後、その上部表面にクロスハッチが確認されており、これら仕様により実際に作製したレーザ素子は特性測定の時に破壊されてしまっており、MQW層4の仕様は、上記の条件を超えないように設計するのが望ましい。
【0133】
さらに、上記の条件を満たすが、特性測定時に破壊されてしまった試料4−2,4−5に関して調べたところ、上記の条件を満たすMQW層仕様であっても、試料4−2では、界面歪εkaiの大きさが、もしくは、試料4−5では、隣接する層同士の界面の歪ε(=ε−ε)の大きさが2.2%を超える多層では特性測定時に破壊されてしまうことを発見した。よって、界面歪εkaiの大きさ及び隣接する層同士の界面の歪εの大きさがともに2.2%以下となるように、設計するのが望ましい。
【0134】
表4に示す仕様となるレーザ素子に加えて、井戸層及び障壁層の構成がそれぞれ層によって異なる場合を含む様々な仕様についても、レーザ素子を作製し、同様の実験を行った。この場合も、i番目の井戸層の総層厚を(Ltotと、i番目の井戸層の平均歪(εavとして、MQW層4全体の総層厚ttot及び平均歪εavについて、それぞれ、数式(6)及び数式(7)などに適用すれば、上述した法則を満たすことがわかった。
【0135】
すなわち、MQW層4において、障壁層と障壁層に挟まれた井戸層の組成が、結晶成長の方向に沿って、一定ではない場合であっても、その井戸層全体として、引張り歪を有しており、その層全体の平均歪と障壁層の歪との間に生じる界面歪が、上記の条件をさらに満たしていることが望ましい。
【0136】
[第5の実施形態]
同様に、MQW層4の各障壁層についても、同じ組成に限られる必要はなく、本発明の第5の実施形態に係る半導体発光素子は、MQW層4の各障壁層は、3層となる多重層によって構成されている。
【0137】
【表5】

【0138】
表5は、本実施形態に係る実施例及び比較例を示す複数のレーザ素子についての、MQW層4の仕様を示している。これらのMQW層4の各障壁層は、3層となる多重層によって構成されている。
【0139】
ここで、各障壁層を構成する複数の層それぞれの層厚をLとし、それら複数の層によって構成される各障壁層の総層厚をLtotと定義している。また、各障壁層を構成する複数の層それぞれの歪量をεとし、それら複数の層によって構成される各井戸層の平均歪量をεavと定義している。
【0140】
第1の実施形態において説明した作製方法により、MQW層4が表5に示す仕様にそれぞれなるよう複数のウェハが作製された。なお、全ての試料において、MQW層4の障壁層は、無歪のときに組成波長がλ=1050nmとなるようなIn1−x−yGaAlAsによって形成される。
【0141】
以上の通り作製された複数のウェハについて、フォトルミネッセンスにより発光波長が調べられ、全てのウェハについて、1.3μm周辺に、1つもしくは2つの発振ピークが見られた。2つの発振ピークの起因は上記のものと同じである。また、ウェハの上面表面が目視によって調べられ、試料5−1,5−2,5−5の上部表面は鏡面であったのに対し、試料5−3,5−4の上部表面にはわずかであるがクロスハッチが見られた。
【0142】
これらウェハを用いて作製された各レーザ素子について、電流―光出力特性が測定された。25℃では作製された全ての試料で発振することが確認された。また全てのレーザ素子で、TMモードを発振していることも確認された。
【0143】
次に、環境温度を上昇させて、電流―光出力特性がカーブを測定された。その結果、他の仕様と比較し、試料5−2,5−3,5−4,5−5のレーザ素子について、温度上昇に対して、閾値電流の大幅な増大がみられた。さらに、環境温度50℃あたりで、印加電流を増大させていくと、突然発光しなくなり、再度の通電を行っても、これ以上、発光は確認されなくなる現象が観測された。それぞれ同じ仕様の素子が複数作製され、これらの測定が行われたが、試料5−3,5−4,5−5となるそれぞれ複数のレーザ素子のうち、9割のレーザ素子で、また、試料5−2となる複数の素子のうち、7割のレーザ素子いで、このような現象が観測された。
【0144】
表5に示すそれぞれの仕様で作製された複数のレーザ素子のみならず、さらに、表5に示す仕様の以外の仕様のレーザ素子についても複数作製され、それらのレーザ素子について、特性を評価した結果、以下のような法則があることを発見した。
【0145】
複数層によって構成される各障壁層と、当該障壁層に隣り合う井戸層との各界面において、通常の界面歪に加えて、さらに、界面歪εkai=ε−εavと定義する。さらに、界面最大層厚tkaiを、当該障壁層の総層厚Ltot及び井戸層の層厚Lのうち、大きい方の値であると定義する。臨界界面歪とは、第1の実施形態に係る半導体発光素子と同様に、数式(2)においてAの値が0.7であり、界面歪εkaiは、この臨界界面歪以下に作製されるのが望ましいことがわかった。
【0146】
さらに、MQW層4全体の総層厚ttot及び平均歪εavを、それぞれ数式(3)及び数式(4)に記されるL及びεを、それぞれ、Ltot及びεavに置き換えたものとする。臨界平均歪とは、同様に、数式(5)においてBの値が0.9であり、平均歪εavは、この臨界平均歪以下に作製されるのが、さらに望ましいことがわかった。
【0147】
上述した通り、試料5−3,5−4は、エピタキシャル成長後、その上部表面にクロスハッチが確認されており、これら仕様により実際に作製したレーザ素子は特性測定の時に破壊されてしまっており、MQW層4の仕様は、上記の条件を超えないように設計するのが望ましい。
【0148】
さらに、上記の条件を満たすが、特性測定時に破壊されてしまった試料5−2,5−5に関して調べたところ、上記の条件を満たすMQW層仕様であっても、試料5−2では、界面歪εkaiの大きさが、もしくは、試料5−5では、隣接する層同士の界面の歪ε(=ε−ε)の大きさが2.2%を超える多層では特性測定時に破壊されてしまうことを発見した。よって、界面歪εkaiの大きさ及び隣接する層同士の界面の歪εの大きさがともに2.2%以下となるように、設計するのが望ましい。
【0149】
表5に示す仕様となるレーザ素子に加えて、井戸層及び障壁層の構成がそれぞれ層によって異なる場合を含む様々な仕様についても、レーザ素子を作製し、同様の実験を行った。この場合も、i番目の障壁層の総層厚を(Ltotと、i番目の障壁層の平均歪(εavとして、MQW層4全体の総層厚ttot及び平均歪εavについて、それぞれ、数式(6)及び数式(7)などに適用すれば、上述した法則を満たすことがわかった。
【0150】
すなわち、MQW層4において、井戸層と井戸層に挟まれた障壁層の組成が、結晶成長の方向に沿って、一定ではない場合であっても、その障壁層全体として、引張り歪を有しており、その層全体の平均歪と障壁層の歪との間に生じる界面歪が、上記の条件をさらに満たしていることが望ましい。
【0151】
【表6】

【0152】
表6は、本実施形態に係る別の実施例及び比較例を示す複数のレーザ素子についての、MQW層4の仕様を示している。さらに、第1の実施形態において説明した作製方法により、表6に示すそれぞれ仕様となるよう複数のウェハが作製される。ここで、それぞれの仕様において、MQW層4の障壁層は、無歪のときに組成波長がλ=1050nmとなるようなIn1−x−yGaAlAsによって形成される。
【0153】
ここで、試料5−6の障壁層には、一様にε=+0.5%の歪が加えられているのに対し、試料5−7の障壁層は両側を厚さ3nmかつ歪量0.0%、中心を厚さ6nmかつ歪量+1.0%とした平均歪が+0.5%となる3層からなる。これらのMQW層4の仕様は、上述の条件を満たしている。
【0154】
このようにして作製された複数のウェハの上部表面が目視によって調べられ、試料5−6,5−7の上部表面はともに鏡面であった。また、MQW層以外の層は無歪としてあり、いずれのウェハもMQW層4以外は上記と同様に同一な構造となっている。
【0155】
表6に示す仕様となるよう作製された作製された複数のウェハについて、フォトルミネッセンスにより発光波長が調べられ、全てのウェハについて、1.3μm付近に2つの発振ピークが見られた。2つの発振ピークの起因は上記のものと同じである。
【0156】
さらに、これらのウェハを用いて、上記方法により、リッジストライプ型ファブリペローレーザ素子を作製し、電流−光出力特性が測定された。25℃において、試料5−6,5−7のレーザ素子の閾値電流は、ともに4mA程度と良好な特性を示し、ほとんど差異はなかった。しかし、温度を上昇させ95℃あたりで測定が行われ、試料5−7のレーザ素子は閾値電流8mAで発振したものの、試料5−6のレーザ素子の場合、素子によって閾値電流が40mAを超えて発振するものもあれば、発振しない素子もあり、特性にばらつきがあった。さらに、試料5−7の素子について、環境温度を100℃まで上昇させて測定してみたところ、発振することが確認された。
【0157】
表6に示す2つの試料のレーザ素子について比較すると、主な違いは、井戸層の価電子帯のΔξ(=ξ−ξbv)に起因する。即ち、試料5−6では、図6よりΔξが25meV程度であるのに対し、試料5−7では、障壁層のうちその両端部には、厚さ3nmかつ歪量0.0%となっているので、Δξが58meV程度となっているからである。このため、試料5−6では、高温でキャリアのオーバーフローが発生するのに対し、試料5−7では、それが抑制したものと解釈される。以上により、障壁層をより長波長化することにより、MQW層全体の平均屈折率を大きくし、光閉じ込めを大きくし、しきい利得を低減すると共に、長波長化に伴うキャリアオーバーフローを抑制し、臨界層厚および界面歪の条件を越えることなく、温度特性の改善が可能となる。
【0158】
なお、第4及び第5の実施形態において、井戸層及び障壁層がそれぞれ多重構造を有する場合について説明したが、井戸層及び障壁層の少なくともそれぞれ一部がともに多重構造を有していても、本発明の効果が得られることは言うまでもない。
【0159】
[第6の実施形態]
以上、半導体発光素子として、ファブリペローレーザ素子の場合について説明したが、これに限られないことは言うまでもない。分布帰還型(Distributed Feedback)レーザ素子であってもよいし、その他、DBR(Distributed Bragg Reflector)レーザ素子やDR(Distributed Reflector)レーザ素子などであってもよい。
【0160】
ここに、リッジストライプ型構造を有し、かつ、井戸層に引張り歪を有する分布帰還型レーザ素子について説明する。図10は、分布帰還型回折格子を有する分布帰還型レーザ素子の構造を示す図であり、図10(a)は、当該レーザ素子の全体斜視図、図10(b)は、破線bによって図10(a)に示される部分の拡大断面図、図10(c)は、破線cによって図10(b)に示される部分の拡大断面図である。
【0161】
まず、当該レーザ素子の作製方法について簡単に説明する。n型InP基板1上に、厚さ500nmのn型InPバッファ層2、厚さ50nmのInAlAsからなるn側SCH層3、後述の仕様を有するMQW層4、厚さ50nmのInAlAsからなるp側SCH層5、厚さ50nmのInGaAsP層6、厚さ0.2μmのInPスペーサ層14、InGaAsP回折格子層15、厚さ1.5μmのp型InP層7が、順に、形成される。ここで、MQW層4において、井戸層及び障壁層は、それぞれ、引張り歪及び圧縮歪を有しているが、MQW層4以外の層はすべて、無歪となるよう形成されている。また、InGaAsP層6は、組成波長λ=1200nmとなるような組成で構成されている。
【0162】
p型InP層7の幅、すなわち、リッジストライプ幅は1.5μmであり、p型InP層7の両脇近傍には、寄生容量の低減のため、アイソレーション溝10が形成される。さらに、劈開や実装時などにp型InP層7へ余分な力が集中し破壊しないように、補強用として肩部11が、図10(b)に示すように形成される。
【0163】
p型InP層7の頭頂部以外の素子上部表面に、パッシベーション膜8が形成される。さらに、p型電極9が、図10(a)に示すように、形成され、p型InP層7の頭頂部と良好なコンタクトが得られ、かつ電流を注入しやすい構造となっている。また、素子上部表面には、前方と後方を識別しやすいように、前方側に前方マーク12が形成され(図10(a))、前端面及び後端面に、反射率がそれぞれ1%及び90%となるようにコーティング膜(図示せず)が形成される。なお、素子の共振器長は200μmである。
【0164】
次に、いくつかのレーザ素子について、説明する。まず、第1のレーザ素子において、In1−x−yGaAlAs系で形成されたMQW層4は、井戸層の層数N=6、井戸層の層厚L=8nm、井戸層のInの組成量1−x−yが0.32(x=0.66,y=0.02)、障壁層の層厚L=10nm、障壁層のGaの組成量x=0、000、障壁層のAlの組成量y=0.400となるよう、形成されている。
【0165】
ここで、InGaAsP回折格子層15には、周期が201.5nmのInGaAsPとInPからなるλ/4シフト回折格子(分布帰還型回折格子)が形成されている。その発光する光と回折格子との結合の強さκが75cm−1程度となるように、InGaAsPの厚さが調節される。
【0166】
このMQW層4の仕様は、いずれも第1及び第2の実施形態において示した条件を満たしており、これらウェハの上部表面が目視によって調べられ、いずれのウェハの上部表面も鏡面であった。こうして作製された複数のウェハについてフォトルミネッセンスにより発光波長が調べられ、1.3μm付近で1つの発振ピークが見られた。
【0167】
第1のレーザ素子について評価され、85℃において、閾値電流は17mA、飽和電流Isatは115mAと良好な特性が得られた。また、f電流効率f/√I(緩和振動周波数fに対する駆動電流と閾値電流との差Iの平方根との比)が測定され、85℃において、2.6GHz/√mAが得られた。さらに、環境温度95℃のもとで、出力が8mW一定となるように電流を印加する寿命試験を行ったところ、5000時間以上印加電流はほとんど変化せず、本発明が有効であることが確認された。
【0168】
次に、第2のレーザ素子において、In1−x−yGaAlAs系で形成されたMQW層4は、井戸層の層数N=5、井戸層の層厚L=9nm、井戸層のInの組成量1−x−yが0.33(x=0.64,y=0.03)、障壁層の層厚Lb=10nm、障壁層のGaの組成量x=0、076、障壁層のAlの組成量y=0.326となるよう、形成されている。
【0169】
ここで、InGaAsP回折格子層15には、周期が201.3nmのInGaAsPとInPからなるλ/4シフト回折格子が形成されている。その発光する光と回折格子との結合の強さκが75cm−1程度となるように、InGaAsPの厚さが調節される。また、p型電極9上には厚さ3μmの金メッキが施されている。
【0170】
このMQW層4の仕様は、第1のレーザ素子と同様に、いずれも第1及び第2の実施形態において示した条件を満たしており、いずれのウェハの上部表面は鏡面であった。こうして作製された複数のウェハについてフォトルミネッセンスにより発光波長が調べられ、1.3μm付近で1つの発振ピークが見られた。
【0171】
第2のレーザ素子について評価され、85℃において、閾値電流は15.6mA、飽和電流Isatは127mAと良好な特性が得られた。また、f電流効率が測定され、85℃において、2.5GHz/√mAが得られた。このように、第1のレーザ素子よりも良好な飽和電流Isatが得られたのは、p型電極9に金メッキが施されたことにより、放熱性が向上したからである。さらに、環境温度95℃のもとで、出力が8mW一定となるように電流を印加する寿命試験を行ったところ、これも5000時間以上印加電流はほとんど変化せず、本発明が有効であることが確認された。
【0172】
最後に、第3のレーザ素子において、In1−x−yGaAlAs系で形成されたMQW層4は、戸層の層数N=8、井戸層の層厚L=11nm、井戸層のInの組成量1−x−yが0.39(x=0.56,y=0.05)、障壁層の層厚Lb=10nm、障壁層のGaの組成量x=0、073、障壁層のAlの組成量y=0.315となるよう、形成されている。
【0173】
ここで、InGaAsP回折格子層15には、周期が201.8nmのInGaAsPとInPからなるλ/4シフト回折格子が形成されている。その発光する光と回折格子との結合の強さκが100cm−1程度となるように、InGaAsPの厚さが調節される。
【0174】
このMQW層4の仕様は、第1及び第2のレーザ素子と同様に、いずれも第1及び第2の実施形態において示した条件を満たしており、いずれのウェハの上部表面は鏡面であった。こうして作製された複数のウェハについてフォトルミネッセンスにより発光波長が調べられ、1.3μm付近と1.25μm付近と、2つの発振ピークが見られた。この2つの発振ピークの起因は上記のものと同じである。
【0175】
第3のレーザ素子は、リッジストライプ幅が1.3μmであり、素子の前端面と後端面に形成されるコーティング膜が、それぞれ1%及び95%であり、レーザ素子の共振器長は150μmである点などが、第1及び第2のレーザ素子と異なっている。
【0176】
第3のレーザ素子について評価され、85℃において、閾値電流は19.6mA、飽和電流Isatは90mAと良好な特性が得られた。また、f電流効率が測定され、85℃において、2.7GHz/√mAが得られた。さらに、環境温度95℃のもとで出力が8mW一定となるように電流を印加する寿命試験を行ったところ、5000時間以上印加電流はほとんど変化せず、本発明が有効であることが確認された。
【0177】
以上、本発明のいくつかの実施形態に係る半導体発光素子について、具体的な実施例及び比較例を用いて説明したが、これはあくまで発見した法則を説明するためにピックアップした例であって、これだけが満たすものでなく、その他のMQW層仕様でも満たすことも確認した。またMQW層各層で厚さや歪などを変更し、同様に調べたところ、上述した法則を満たすことがわかった。以上のようにして、InGaAlAs系半導体発光素子のウェハを安定して得ることができるようになった。
【0178】
[第7の実施形態]
本発明の第7の実施形態に係る半導体発光素子は、井戸層がIn1−xGaAs1−y系からなり、障壁層がIn1−x−yGaAlAs系からなる、MQW層がInP基板の上方に形成された1.3μm帯半導体発光素子であり、MQW層の各井戸層は引張り歪を有し、各障壁層は圧縮歪を有している。ここで、半導体発光素子とは、例えば、リッジストライプ型ファブリペローレーザ素子である。当該レーザ素子は、第1の実施形態において説明した作製方法によって、作製される。なお、以下に説明する実施形態に係る半導体発光素子のMQW層4において、特別な言及がない限り、引張り歪井戸層がIn1−xGaAs1−y系からなり、圧縮歪障壁層がIn1−x−yGaAlAs系からなる。
【0179】
【表7】

【0180】
表7は、本実施形態に係る実施例及び比較例を示す複数のレーザ素子についての、MQW層4の仕様を示している。また、MQW層4の障壁層は、無歪のときに組成波長がλ=830nmとなるようなIn1−x−yGaAlAsもしくはIn1−yAlAsによって形成される。
【0181】
表7に示す仕様となるよう作製された複数のウェハについて、フォトルミネッセンスにより発光波長が調べられ、全てのウェハについて、1.3μm付近に1つもしくは2つの発振ピークが見られた。2つの発振ピークの起因は上記のものと同じである。
【0182】
また、これらウェハの上部表面が目視によって調べられ、試料7−2,7−3,7−4の上部表面には、格子緩和を示すクロスハッチが見られた。その他のウェハの上部表面は、鏡面であった。
【0183】
これらウェハを用いて作製された各レーザ素子について、電流―光出力特性が測定された。25℃では作製した全ての試料で発振することが確認された。また、全てのレーザ素子で、TMモードを発振していることも確認された。尚、当該レーザ素子は、前述の通り、リッジストライプ幅は1.5μmとなるように作製されている。異なるリッジストライプ幅を有し本構造を有するレーザ素子について研究を重ねた結果、リッジストライプ幅が3μm以下であれば、発光光の偏光方向が安定した状態で、レーザ素子は発光光を発振していることが、確認された。
【0184】
次に、環境温度を上昇させて、電流―光出力特性が測定された。その結果、他の仕様と比較し、試料7−2,7−3,7−4のレーザ素子について、温度上昇に対して、閾値電流の大幅な増大が見られた。さらに、環境温度50℃あたりで、印加電流を増大させていくと、突然発光しなくなり、再度の通電を行っても、これ以上、発光は確認されなくなる現象が観測された。それぞれ同じ仕様の素子が複数作製され、これらの測定が行われたが、試料7−2,7−4となるそれぞれ複数のレーザ素子のうち、8割から9割のレーザ素子で、また、試料7−3となる複数のレーザ素子のうち5割のレーザ素子で、このような現象が観測された。
【0185】
表7に示すそれぞれの仕様で作製された複数のレーザ素子のみならず、さらに、表7に示す仕様の以外の仕様のレーザ素子についても複数作製され、それらのレーザ素子について、特性を評価した結果、第1の実施形態に係る法則と同様の法則があることを発見した。
【0186】
すなわち、臨界界面歪とは、数式(2)においてAの値が0.7であり、界面歪εkaiは、この臨界界面歪以下に作製されるのが望ましいことがわかった。この条件を満たしていないのは、試料7−2である。
【0187】
また、臨界平均歪とは、数式(5)においてBの値が0.9であり、平均歪εavは、この臨界平均歪以下に作製されるのがさらに望ましいことがわかった。この条件を満たしていないのは、試料7−4である。
【0188】
上述した通り、試料7−2,7−4は、エピタキシャル成長後、その上部表面にクロスハッチが確認されており、これら仕様により実際に作製したレーザ素子は、特性測定の時に破壊されてしまっており、MQW層4の仕様は、上記の条件を満たすように設計するのが望ましい。
【0189】
さらに、上記の条件を満たすが、同様にクロスハッチが見られ、特性測定時に破壊されてしまった試料7−3に関して調べたところ、上記の条件を満たすMQW層仕様であっても、界面歪εkaiの大きさが2.0%を超える多層では特性測定時に破壊されてしまうことを発見した。よって、界面歪εkaiの大きさを2.0%以下になるよう設計するのがさらに望ましい。この条件から、井戸層におけるInの組成量1−x及びPの組成量1−yの満たすべき条件が実験的に得られ、1−xが0.4以上で、かつ、1−yが0.09以上である。
【0190】
図11は、図2と同様に、当該レーザ素子において、井戸層の層厚L及び井戸層の歪量εに対する分裂エネルギーElh−Ehhの依存性を計算した結果を示した図である。なお、図11に示す複数の曲線は、図2の同様に、井戸層の歪量εがそれぞれの値を有する場合に対応している。上述の通り、分裂エネルギーElh−Ehhが、35meV(130℃)以上であり、井戸層の層厚Lが16nm以下であり、井戸層の歪量εの大きさが0.7%以上であることが望ましい。その範囲について、図11に破線で示している。図11により井戸層において、Inの組成量1−x及びPの組成量1−yの満たすべき条件が実験的に得られ、1−xが0.6以下であり、1−yが0.35以下である。そして、障壁層における圧縮歪が最小である場合を考慮すると、少なくとも界面歪εkaiの大きさも0.7%以上が望ましい。
【0191】
よって、各界面における界面歪εkaiの大きさは、0.7%以上2.0%以下であればさらに望ましく、さらに、井戸層のInの組成量1−xが、0.4以上0.6以下であり、Pの組成量1−yが、0.07以上0.35以下であるとき、さらに望ましい。
【0192】
なお、特許文献12には歪補償に関する記述がみられるが、井戸数の開示がなく、本発明に対する示唆はない。
【0193】
[第8の実施形態]
本発明の第8の実施形態に係る半導体発光素子は、第7の実施形態に係るリッジストライプ型ファブリペローレーザ素子に、さらに、障壁層の組成について考慮したものである。
【0194】
【表8】

【0195】
表8は、本実施形態に係る実施例及び比較例をそれぞれ示すレーザ素子についての、MQW層4の仕様を示している。第7の実施形態において説明した作製方法により、表8に示す各仕様それぞれについて、複数のウェハが作製され、これらウェハを用いて複数のレーザ素子が作製される。なお、これらウェハの上部表面が目視によって調べられ、試料8−1,8−2とも、上部表面は鏡面であった。
【0196】
当該レーザ素子について、第7の実施形態に係るレーザ素子と同様に、電流―光出力特性が測定された。25℃では、試料8−1,8−2のレーザ素子は、ともに、閾値電流が4mA程度と良好な特性を示し、ほとんど差異はみられなかった。しかし、温度を上昇させ95℃あたりで測定したところ、試料8−1のレーザ素子は閾値電流8mAで発振したのに対して、試料8−2のレーザ素子は、素子によっては、閾値電流が50mAを超えて発振する素子もあれば、発振しない素子もあり、特性にばらつきがあた。さらに、試料8−1の素子について、環境温度100℃まで上昇させて測定したところ、発振することが確認された。
【0197】
表8に示す2つの試料のレーザ素子について比較すると、主な違いは、障壁層の組成にあり、高温において、試料8−1のレーザ素子が発振するのに対して、試料8−2のレーザ素子が十分に発振しないのは、第2の実施形態において説明したのと同様の理由によるものと考えられる。
【0198】
図12は、様々な障壁層の組成波長λについて、障壁層の歪量εに対するΔξの依存性を示す図である。なお、図6に示す複数の曲線は、障壁層の組成波長λがそれぞれの値を有する場合に対応している。歪量εの大きさが小さいほど、また、障壁層の組成波長λが短波長であるほど、Δξは大きくなることが示されている。
【0199】
図6と同様に、100℃といった高温でも良好な特性を得るには、分裂エネルギーElh-Ehh同様、Δξも35mev(130℃)以上が望ましい。
【0200】
Δξが35meV以上となる障壁層の組成の範囲を実験的に求めると、障壁層のGaの組成量xが0.0以上であり、かつ、Alの組成量yが、0.384−0.330x以上0.476−1.017x以下のときである。障壁層のAlの組成量yがこの範囲に属している試料8−1のΔξはこの条件を満たしている。図13は、障壁層のGaの組成量xとAlの組成量yが上記条件を満たす範囲を示す相図である。
【0201】
[第9の実施形態]
本発明の第9の実施形態に係る半導体発光素子は、第7の実施形態に係るリッジストライプ型ファブリペローレーザ素子に、さらに、MQW層4の井戸層の層数Nについて考慮したものである。
【0202】
第3の実施形態で説明した通り、85℃において飽和電流Isatが125mAとなる条件について、表9に示される仕様となるよう作製された試料のレーザ素子の実験結果より示す。
【0203】
【表9】

【0204】
表9は、本実施形態に係る実施例及び比較例を示す複数のレーザ素子についての、MQW層4の仕様を示している。これらのMQW層4の仕様は、いずれも第7及び第8の実施形態で説明した条件を満たしており、これら仕様で、第1の実施形態において説明した作製方法により、表9に示す仕様になるよう作製されたウェハの上部表面を目視によって調べたところ、すべてのウェハで上部表面は鏡面であった。
【0205】
さらに、これらのウェハを用いて、上記方法により、リッジストライプ型ファブリペローレーザ素子を作製し、以下の測定が行われ、第3の実施形態に係るレーザ素子と同様の結果が得られた。すなわち、85℃において飽和電流Isatが125mA以上を達成するには井戸層の層数Nは5以上必要となる。
【0206】
[第10の実施形態]
第4の実施形態と同様に、本発明の第10の実施形態に係る半導体発光素子は、MQW層4の各井戸層は、3層となる多重層によって構成されている。
【0207】
【表10】

【0208】
表10は、本実施形態に係る実施例及び比較例を示す複数のレーザ素子についての、MQW層4の仕様を示している。これらのMQW層4の各井戸層は、3層となる多重層によって構成されている。
【0209】
表10に示されている総層厚Ltotや平均歪量εavとは、第4の実施形態において記している通りである。
【0210】
第1の実施形態において説明した作製方法により、MQW層4が表10に示す仕様にそれぞれなるよう複数のウェハが作製された。なお、全ての試料において、MQW層4の障壁層は、無歪のときに組成波長がλ=900nmとなるようなIn1−x−yGaAlAsによって形成される。
【0211】
以上の通り作製された複数のウェハについて、フォトルミネッセンスにより発光波長が調べられ、全てのウェハについて、1.3μm周辺にいくつか肩をもつ広い発振ピークが見られた。また、これらウェハの上部表面が目視によって調べられ、試料10−1,10−2,10−5の上部表面は鏡面であったのに対し、試料10−3,10−4の上部表面にはわずかであるがクロスハッチが見られた。
【0212】
これらウェハを用いて作製された各レーザ素子について、電流―光出力特性が測定された。25℃では作製された全ての試料で発振することが確認された。また全てのレーザ素子で、TMモードを発振していることも確認された。
【0213】
次に、環境温度を上昇させて、電流―光出力特性が測定された。その結果、他の仕様と比較し、試料10−2,10−3,10−4,10−5のレーザ素子について、温度上昇に対して、閾値電流の大幅な増大が見られた。さらに、環境温度50℃あたりで、印加電流を増大させていくと、突然発光しなくなり、再度の通電を行っても、これ以上、発光は確認されなくなる現象が観測された。それぞれ同じ仕様の素子が複数作製され、これらの測定が行われたが、試料10−3,10−4,10−5となるそれぞれ複数のレーザ素子のうち、9割のレーザ素子で、また、試料10−2となる複数のレーザ素子のうち8割のレーザ素子で、このような現象が観測された。
【0214】
表10に示すそれぞれの仕様で作製された複数のレーザ素子のみならず、さらに、表10に示す仕様の以外の仕様のレーザ素子についても複数作製され、それらのレーザ素子について、特性を評価した結果、以下のような法則があることを発見した。
【0215】
複数層によって構成される各井戸層と、当該井戸層に隣り合う障壁層との各界面において、通常の界面歪に加えて、さらに、界面歪εkai=εav−εと定義する。さらに、界面最大層厚tkaiを、当該井戸層の総層厚Ltot及び障壁層の層厚Lのうち、大きい方の値であると定義する。臨界界面歪とは、第1の実施形態に係る半導体発光素子と同様に、数式(2)においてAの値が0.7であり、界面歪εkaiは、この臨界界面歪以下に作製されるのが望ましいことがわかった。
【0216】
さらに、MQW層4全体の総層厚ttot及び平均歪εavを、それぞれ数式(3)及び数式(4)に記されるL及びεを、それぞれ、Ltot及びεavに置き換えたものとする。臨界平均歪とは、同様に、数式(5)においてBの値が0.9であり、平均歪εavは、この臨界平均歪以下に作製されるのが、さらに望ましいことがわかった。
【0217】
上述した通り、試料10−3,10−4は、エピタキシャル成長後、その上部表面にクロスハッチが確認されており、これら仕様により実際に作製したレーザ素子は特性測定の時に破壊されてしまっており、MQW層4の仕様は、上記の条件を超えないように設計するのが望ましい。
【0218】
さらに、上記の条件を満たすが、特性測定時に破壊されてしまった試料10−2,10−5に関して調べたところ、上記の条件を満たすMQW層仕様であっても、試料10−2では、界面歪εkaiの大きさが、もしくは、試料10−5では、隣接する層同士の界面の歪ε(=ε−ε)の大きさが2.0%を超える多層では特性測定時に破壊されてしまうことを発見した。よって、界面歪εkaiの大きさ及び隣接する層同士の界面の歪εの大きさがともに2.0%以下となるように、設計するのが望ましい。
【0219】
表10に示す仕様となるレーザ素子に加えて、井戸層及び障壁層の構成がそれぞれ層によって異なる場合を含む様々な仕様についても、第4の実施形態に係る半導体発光素子と同様の結果が得られた。
【0220】
[第11の実施形態]
第5の実施形態と同様に、本発明の第11の実施形態に係る半導体発光素子は、MQW層4の各障壁層は、3層となる多重層によって構成されている。
【0221】
【表11】

【0222】
表11は、本実施形態に係る実施例及び比較例を示す複数のレーザ素子についての、MQW層4の仕様を示している。これらのMQW層4の各障壁層は、3層となる多重層によって構成されている。
【0223】
表11に示されている総層厚Ltotや平均歪量εavとは、第5の実施形態において記している通りである。
【0224】
第1の実施形態において説明した作製方法により、MQW層4が表11に示す仕様にそれぞれなるよう複数のウェハが作製された。なお、全ての試料において、MQW層4の障壁層は、無歪のときに組成波長がλ=1050nmとなるようなIn1−x−yGaAlAsによって形成される。
【0225】
以上の通り作製された複数のウェハについて、フォトルミネッセンスにより発光波長が調べられ、全てのウェハについて、1.3μm周辺に、1つもしくは2つの発振ピークが見られた。2つの発振ピークの起因は上記のものと同じである。また、ウェハの上面表面が目視によって調べられ、試料11−1,11−2の上部表面は鏡面であったのに対し、試料11−3,11−4,11−5の上部表面にはわずかであるがクロスハッチが見られた。
【0226】
これらウェハを用いて作製された各レーザ素子について、電流―光出力特性が測定された。25℃では作製された全ての試料で発振することが確認された。また全てのレーザ素子で、TMモードを発振していることも確認された。
【0227】
次に、環境温度を上昇させて、電流―光出力特性がカーブを測定された。その結果、他の仕様と比較し、試料11−2,11−3,11−4,11−5のレーザ素子について、温度上昇に対して、閾値電流の大幅な増大がみられた。さらに、環境温度50℃あたりで、印加電流を増大させていくと、突然発光しなくなり、再度の通電を行っても、これ以上、発光は確認されなくなる現象が観測された。それぞれ同じ仕様の素子が複数作製され、これらの測定が行われたが、試料11−3,11−4,11−5となるそれぞれ複数のレーザ素子のうち、9割のレーザ素子で、また、試料11−2となる複数の素子のうち、8割のレーザ素子いで、このような現象が観測された。
【0228】
表11に示すそれぞれの仕様で作製された複数のレーザ素子のみならず、さらに、表11に示す仕様の以外の仕様のレーザ素子についても複数作製され、それらのレーザ素子について、特性を評価した結果、以下のような法則があることを発見した。
【0229】
複数層によって構成される各障壁層と、当該障壁層に隣り合う井戸層との各界面において、通常の界面歪に加えて、さらに、界面歪εkai=ε−εavと定義する。さらに、界面最大層厚tkaiを、当該障壁層の総層厚Ltot及び井戸層の層厚Lのうち、大きい方の値であると定義する。臨界界面歪とは、第1の実施形態に係る半導体発光素子と同様に、数式(2)においてAの値が0.7であり、界面歪εkaiは、この臨界界面歪以下に作製されるのが望ましいことがわかった。
【0230】
さらに、MQW層4全体の総層厚ttot及び平均歪εavを、それぞれ数式(3)及び数式(4)に記されるL及びεを、それぞれ、Ltot及びεavに置き換えたものとする。臨界平均歪とは、同様に、数式(5)においてBの値が0.9であり、平均歪εavは、この臨界平均歪以下に作製されるのが、さらに望ましいことがわかった。
【0231】
上述した通り、試料11−3,11−4は、エピタキシャル成長後、その上部表面にクロスハッチが確認されており、これら仕様により実際に作製したレーザ素子は特性測定の時に破壊されてしまっており、MQW層4の仕様は、上記の条件を超えないように設計するのが望ましい。
【0232】
さらに、上記の条件を満たすが、特性測定時に破壊されてしまった試料11−2,11−5に関して調べたところ、上記の条件を満たすMQW層仕様であっても、試料10−2では、界面歪εkaiの大きさが、もしくは、試料10−5では、隣接する層同士の界面の歪ε(=ε−ε)の大きさが2.0%を超える多層では特性測定時に破壊されてしまうことを発見した。よって、界面歪εkaiの大きさ及び隣接する層同士の界面の歪εの大きさがともに2.0%以下となるように、設計するのが望ましい。
【0233】
表11に示す仕様となるレーザ素子に加えて、井戸層及び障壁層の構成がそれぞれ層によって異なる場合を含む様々な仕様についても、第5の実施形態に係る半導体発光素子と同様の結果が得られた。
【0234】
【表12】

【0235】
表12は、本実施形態に係る別の実施例及び比較例を示す複数のレーザ素子についての、MQW層4の仕様を示している。さらに、第1の実施形態において説明した作製方法により、表12に示すそれぞれ仕様となるよう複数のウェハが作製される。ここで、それぞれの仕様において、MQW層4の障壁層は、無歪のときに組成波長がλ=900nmとなるようなIn1−x−yGaAlAsによって形成される。
【0236】
ここで、試料11−6の障壁層には、一様にε=+0.5%の歪が加えられているのに対し、試料11−7の障壁層は両側を厚さ3nmかつ歪量0.0%、中心を厚さ6nmかつ歪量+1.0%とした平均歪が+0.5%となる3層からなる。これらのMQW層4の仕様は、上述の条件を満たしている。
【0237】
このようにして作製された複数のウェハの上部表面が目視によって調べられ、試料11−6,11−7の上部表面はともに鏡面であった。また、MQW層以外の層は無歪かつ同一多層としてあり、いずれのウェハもMQW層4以外は上記と同様な多層仕様となっている。
【0238】
表12に示す仕様となるよう作製された作製された複数のウェハについて、フォトルミネッセンスにより発光波長が調べられ、全てのウェハについて、1.3μm付近に2つの発振ピークが見られた。2つの発振ピークの起因は上記のものと同じである。
【0239】
さらに、これらのウェハを用いて、上記方法により、リッジストライプ型ファブリペローレーザ素子を作製し、電流−光出力特性が測定された。25℃において、試料11−6,11−7のレーザ素子の閾値電流は、ともに5mA程度と良好な特性を示し、ほとんど差異はなかった。しかし、温度を上昇させ95℃あたりで測定が行われ、試料11−7のレーザ素子は閾値電流10mAで発振したものの、試料11−6のレーザ素子の場合、素子によって閾値電流が50mAを超えて発振するものもあれば、発振しない素子もあり、特性にばらつきがあった。さらに、試料11−7の素子について、環境温度を100℃まで上昇させて測定してみたところ、発振することが確認された。
【0240】
表12に示す2つの試料のレーザ素子について比較すると、主な違いは、井戸層の価電子帯のΔξ(=ξ−ξbv)に起因する。即ち、試料11−6では、図12よりΔξが20meV程度であるのに対し、試料11−7では、障壁層のうちその両端部には、厚さ3nmかつ歪量0.0%となっているので、Δξが63meV程度となっているからである。このため、試料11−6では、高温でキャリアのオーバーフローが発生するのに対し、試料11−7では、それが抑制したものと解釈される。以上により、障壁層をより長波長化することにより、MQW層全体の平均屈折率を大きくし、光閉じ込めを大きくし、しきい利得を低減すると共に、長波長化に伴うキャリアオーバーフローを抑制し、臨界層厚および界面歪の条件を越えることなく、温度特性の改善が可能となる。
【0241】
なお、第10及び第11の実施形態において、井戸層及び障壁層がそれぞれ多重構造を有する場合について説明したが、井戸層及び障壁層の少なくともそれぞれ一部がともに多重構造を有していても、本発明の効果が得られることは言うまでもない。
【0242】
[第12の実施形態]
第6の実施形態と同様、半導体発光素子として、ファブリペローレーザ素子に限られないことは言うまでもない。分布帰還型レーザ素子であってもよいし、その他、DBRレーザ素子やDRレーザ素子などであってもよい。
【0243】
第6の実施形態において示した作製方法により、作製された分布帰還型レーザ素子について、説明する。MQW層4において、井戸層がIn1−xGaAs1−y系からなり、障壁層がIn1−x−yGaAlAs系からなる点が、第6の実施形態に係る半導体発光素子と異なる。そして、MQW層4は、井戸層の層数N=5、井戸層の層厚L=11nm、井戸層のGaの組成量xが0.45、井戸層のAsの組成量yが0.75、障壁層の層厚Lb=10nm、障壁層のGaの組成量x=0、064、障壁層のAlの組成量y=0.368となるよう、形成されている。
【0244】
ここで、InGaAsP回折格子層15には、周期が200.7nmのInGaAsPとInPからなるλ/4シフト回折格子が形成されている。その発光する光と回折格子との結合の強さκが75cm−1程度となるように、InGaAsPの厚さが調節される。
【0245】
このMQW層4の仕様は、いずれも第7及び第8の実施形態において示した条件を満たしており、これらウェハの上部表面が目視によって調べられ、いずれのウェハの上部表面も鏡面であった。こうして作製された複数のウェハについてフォトルミネッセンスにより発光波長が調べられ、1.3μm付近で2つの発振ピークが見られた。
【0246】
このレーザ素子について評価され、85℃において、閾値電流は19mA、飽和電流Isatは115mAと良好な特性が得られた。また、f電流効率が測定され、85℃において、2.3GHz/√mAが得られた。さらに、環境温度95℃のもとで、出力が8mW一定となるように電流を印加する寿命試験を行ったところ、5000時間以上印加電流はほとんど変化せず、本発明が有効であることが確認された。
【0247】
以上、本発明のいくつかの実施形態に係る半導体発光素子について、具体的な実施例及び比較例を用いて説明したが、これはあくまで発見した法則を説明するためにピックアップした例であって、これだけが満たすものでなく、その他のMQW層仕様でも満たすことも確認した。またMQW層各層で厚さや歪などを変更し、同様に調べたところ、上述した法則を満たすことがわかった。以上のようにして、InGaAsP系半導体発光素子のウェハを安定して得ることができるようになった。
【0248】
なお、本発明は、半導体発光素子のMQW層に含まれる井戸層と障壁層の界面歪に注目したものである。MQW構造とは、一般には、井戸層と障壁層が交互に積層されている。それら複数の井戸層において、各井戸層の層厚や組成が同じ場合もあるし、違う場合もある。また、1つの井戸層の組成も、結晶成長方向に対して均一なものもあるし、変化するものもある。しかし、本明細書において、いくつか示した通り、たとえ、ある井戸層において、結晶成長方向に対して変化する場合であっても、その層全体の平均歪が引張り歪であるならば、本発明は適用される。また、MQW層全体をみると、不規則な積層の仕方をしていたとしても、井戸層と障壁層とが交互に配置された箇所を含んでいれば、本発明は適用される。これは、障壁層についても、同様であり、ある障壁層において、組成が変化する場合であっても、その層全体の平均歪が圧縮歪であれば、本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0249】
1 n型InP基板、2 n型InPバッファ層、3 n側SCH層、4 MQW層、5 p側SCH層、6 InGaAsP層、7 p型InP層、8 パッシベーション膜、9 p型電極、10 アイソレーション溝、11 肩部、12 前方マーク、13 出力光、14 InPスペーサ層、15 InGaAsP回折格子層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交互に配置された、いずれもIn1−x−yGaAlAs系からなる井戸層及び障壁層を含む多重量子井戸層を基板の上方に備えた半導体発光素子であって、
前記各井戸層は、引張り歪を有し、
前記各障壁層は、圧縮歪を有し、
前記井戸層と前記障壁層との各界面における界面歪の大きさが、該界面を境に隣接する前記井戸層及び前記障壁層の層厚のうち大きい層厚値より定まる臨界界面歪の大きさより小さい、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体発光素子であって、
前記臨界界面歪の大きさとは、Matthewsの関係式により求まる最大歪量に基づいて定まる、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体発光素子であって、
前記臨界界面歪の大きさとは、Matthewsの関係式により求まる最大歪量の0.7倍である、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体発光素子であって、
さらに、各界面歪の大きさが、0.7%以上2.2%以下である、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の半導体発光素子であって、
前記多重量子井戸層の平均歪の大きさが、前記多重量子井戸層全体の層厚の値より定まる臨界平均歪の大きさより小さい、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体発光素子であって、
前記臨界平均歪の大きさとは、Matthewsの関係式により求まる最大歪量に基づいて定まる、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の半導体発光素子であって、
前記井戸層において、Inの組成量1−x−yが、0.21以上0.44以下である、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体発光素子であって、
前記障壁層において、Gaの組成量xが0以上であり、Alの組成量yが0.43−0.36x以上、0.476−1.017x以下である、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体発光素子であって、
前記井戸層の層数が5以上である、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項10】
交互に配置された、In1−xGaAs1−y系からなる井戸層及びIn1−x−yGaAlAs系からなる障壁層を含む多重量子井戸層を基板の上方に備えた半導体発光素子であって、
前記各井戸層は、引張り歪を有し、
前記各障壁層は、圧縮歪を有し、
1.3μm帯の波長の光を出力する、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項11】
交互に配置された、In1−xGaAs1−y系からなる井戸層及びIn1−x−yGaAlAs系からなる障壁層を含む多重量子井戸層を基板の上方に備えた半導体発光素子であって、
前記各井戸層は、引張り歪を有し、
前記各障壁層は、圧縮歪を有し、
前記井戸層と前記障壁層との各界面における界面歪の大きさが、該界面を境に隣接する前記井戸層及び前記障壁層の層厚のうち大きい層厚値より定まる臨界界面歪の大きさより小さい、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項12】
請求項11に記載の半導体発光素子であって、
前記臨界界面歪の大きさとは、Matthewsの関係式により求まる最大歪量に基づいて定まる、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体発光素子であって、
前記臨界界面歪の大きさとは、Matthewsの関係式により求まる最大歪量の0.7倍である、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項14】
請求項13に記載の半導体発光素子であって、
さらに、各界面歪の大きさが、0.7%以上2%以下である、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項15】
請求項11乃至請求項14のいずれかに記載の半導体発光素子であって、
前記多重量子井戸層の平均歪の大きさが、前記多重量子井戸層全体の層厚値より定まる臨界平均歪の大きさより小さい、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項16】
請求項15に記載の半導体発光素子であって、
前記臨界平均歪の大きさとは、Matthewsの関係式により求まる最大歪量に基づいて定まる、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項17】
請求項11乃至請求項16のいずれかに記載の半導体発光素子であって、
前記井戸層において、Inの組成量1−xが、0.4以上0.6以下であり、Pの組成量1−yが、0.09以上0.35以下である、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項18】
請求項17に記載の半導体発光素子であって、
前記障壁層において、Gaの組成量xが0以上であり、Asの組成量yが0.384−0.33x以上、0.476−1.017x以下である、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項19】
請求項18に記載の半導体発光素子であって、
前記井戸層の層数が5以上である、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項20】
請求項1乃至請求項19のいずれかに記載の半導体発光素子であって、リッジストライプ型構造を有している、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項21】
請求項20に記載の半導体発光素子であって、リッジストライプ幅が3μm以下である、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項22】
請求項20に記載の半導体発光素子であって、ファブリー・ペロー構造を有している、
ことを特徴とする半導体発光素子。
【請求項23】
請求項20に記載の半導体発光素子であって、分布帰還型回折格子を有している、
ことを特徴とする半導体発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−287873(P2010−287873A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−250808(P2009−250808)
【出願日】平成21年10月30日(2009.10.30)
【出願人】(301005371)日本オプネクスト株式会社 (311)
【Fターム(参考)】