説明

半導体素子の製造方法、並びに、その製造方法によって作製された半導体素子を有する発光ダイオードおよびパワーデバイス

【課題】半導体素子の製造過程において、基板の研削および研磨工程における基板に欠けまたはクラックが発生することを抑制して、容易にダイシングする。
【解決手段】表面側に半導体層を有する基板10の表面10Aと研磨用支持部材50とを板状の接着部材20Aを介して接着剤40により接着する接着工程と、接着剤40を硬化させる硬化工程と、研磨用支持部材50に接着部材20Aを介して接着された基板10の裏面10Bを研磨して所定の厚さにする研磨工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体素子の製造方法、並びに、その製造方法によって作製された半導体素子を有する発光ダイオードおよびパワーデバイスに関し、特に、研磨工程を備える半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード(LED(Light Emitting Diode))およびパワーデバイスなどに用いられる半導体素子の製造方法においては、表面側に半導体層が形成された基板がダイシングされてチップ化される工程が含まれる。そのダイシング工程を容易にするために、基板の裏面を研削および研磨して基板を薄くする工程が行なわれる。基板が薄いほど、ダイシング工程は容易になるが、基板の強度が低下するため、研削および研磨工程の際に基板が破損しやすくなる。
【0003】
上記の課題を解決する技術を開示した先行文献として、特許文献1がある。特許文献1に記載されたウェハ研磨方法においては、表面側に半導体層が形成されたウェハの内部領域とその外側の外周部との境界をウェハの表面に対して垂直に切断または研磨することによりウェハの外周部を除去する工程と、ウェハの面寸法以上の面寸法をもつ支持部材にウェハの表面を貼り合わせる工程と、支持部材によってウェハの表面を支持した状態でウェハの裏面を研削および研磨して、ウェハを薄くする工程とを有している。この方法により、ウェハを100μm程度まで薄くした場合において、ウェハエッジに欠けまたはクラックが生じることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−19435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ダイシング工程をさらに容易にするために、研削および研磨によりウェハは80μm以下まで薄くされる。この程度の薄さまで研削および研磨を行なう場合、ウェハの表面と支持部材とを貼り合わせる工程において用いられた両面テープの弾性体としての挙動が無視できない。具体的には、切削水または砥石からの衝撃により両面テープの粘着剤が弾性変形するため、ウェハにばたつきが生じる。そのばたつきにより、ウェハエッジに欠けまたはクラックが生じ、半導体素子の歩留まりが低下する。
【0006】
LEDおよびパワーデバイスなどに用いられる半導体素子の基板としてサファイヤ基板が用いられることが多くなっている。サファイヤ基板はシリコン基板より硬いため、上記の研削および研磨の際に、基板に欠けまたはクラックがさらに生じやすい。
【0007】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであって、半導体素子の製造過程において、基板の研削および研磨工程における基板に欠けまたはクラックが発生することを抑制して、容易にダイシングすることができる、半導体素子の製造方法、並びに、その製造方法によって作製された半導体素子を有する発光ダイオードおよびパワーデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に基づく半導体素子の製造方法は、表面側に半導体層を有する基板の表面と研磨用支持部材とを板状の接着部材を介して接着剤により接着する接着工程と、接着剤を硬化させる硬化工程と、研磨用支持部材に接着部材を介して接着された基板の裏面を研磨して所定の厚さにする研磨工程とを備える。
【0009】
本発明の一形態においては、接着工程は、紫外線を受光して硬化する接着剤層を有する接着部材と基板の表面とを接触させて接着する第1接着工程と、基板に接着された接着部材と研磨用支持部材とを接着剤により接着する第2接着工程とを含む。硬化工程は、第1接着工程において基板に接着された、接着部材を透過させて接着剤層に紫外線を照射する第1硬化工程と、第2接着工程に用いられた接着剤を硬化させる第2硬化工程とを含む。
【0010】
本発明の一形態においては、接着工程において、熱軟化性の接着剤を含有し、この接着剤が部分的に外表面に露出している接着部材を介して、基板の表面と研磨用支持部材とを接着する。硬化工程において、加熱しつつ加圧して熱圧着することにより、接着部材の一方の主表面と基板の表面とを圧接させ、かつ、接着部材の他方の主表面と研磨用支持部材とを圧接させる。
【0011】
好ましくは、基板としてサファイア基板が用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、半導体素子の製造過程において、基板の研削および研磨工程における基板に欠けまたはクラックが発生することを抑制して、容易にダイシングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態1に係る半導体素子の製造方法において、基板と接着部材とを接着した状態を示す断面図である。
【図2】接着剤層に紫外線を照射している状態を示す断面図である。
【図3】研磨用支持部材と接着部材とが接着された状態を示す断面図である。
【図4】基板の裏面を研磨した状態を示す断面図である。
【図5】研磨後の基板の裏面にダイシングテープが接着された状態を示す断面図である。
【図6】基板から接着部材および研磨用支持部材を剥離した状態を示す断面図である。
【図7】基板がダイシングされた状態を示す断面図である。
【図8】本発明の実施形態2に係る半導体素子の製造方法において、接着部材を介して基板と研磨用支持部材とを接着した状態を示す断面図である。
【図9】同実施形態に係る接着部材の構造を示す断面図である。
【図10】基板の裏面を研磨した状態を示す断面図である。
【図11】研磨後の基板の裏面にダイシングテープが接着された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態1に係る半導体素子の製造方法、並びに、その製造方法によって作製された半導体素子を有する発光ダイオードおよびパワーデバイスについて図面を参照して説明する。以下の実施形態の説明においては、図中の同一または相当部分には同一符号を付して、その説明は繰返さない。
【0015】
実施形態1
図1は、本発明の実施形態1に係る半導体素子の製造方法において、基板と接着部材とを接着した状態を示す断面図である。図1に示すように、本実施形態に係る半導体素子の製造方法においては、第1接着工程として、サファイア基板10の表面10Aに接着部材20が接着される。基板は、サファイア基板に限られず、シリコン基板またはガラス基板など半導体層を形成するのに適した基板であればよい。
【0016】
サファイア基板10の表面10A側には、図示しない半導体層が形成されている。半導体層としては、たとえば、AlN層およびGaN層が形成されている。LEDに用いられる半導体素子の場合には、半導体層に発光層が含まれる。パワーデバイスに用いられる半導体素子の場合には、通常の半導体素子に比べて半導体層が、高耐圧化、大電流化および高速かつ高周波化されている。
【0017】
接着部材20は、たとえば、ポリエチレンテレフタレート(PET(Polyethylene terephthalate))からなる板状の基材21と、基材21の一方の主表面に形成された接着剤層22とからなる。基材21の厚さは、たとえば、25μm以上200μm以下である。基材21の材料は、PETに限られず、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレン樹脂、および、ファンクショナルノルボルネン系樹脂など圧力が負荷された場合の弾性変形が少ない樹脂材料であればよい。
【0018】
接着剤層22は、紫外線を受光して硬化する材料からなり、たとえば、アクリル系モノマーまたは光重合開始剤などを含む樹脂材料からなる。好ましくは、接着剤層22は、紫外線を受光した後、弾性変形をほとんどしない程度に硬化する紫外線硬化樹脂である。また、接着剤層22を構成する材料は熱軟化性を有する。接着剤層22の厚さは、たとえば、5μm以上100μm以下である。
【0019】
接着剤層22は、紫外線を受光する前の状態において粘性を有しているため、図1に示すように、サファイア基板10と接着部材20の基材21とは、接着部材20の接着剤層22により接着されている。
【0020】
図2は、接着剤層に紫外線を照射している状態を示す断面図である。図2に示すように、第1硬化工程として、接着部材20の上方から紫外線照射装置30により紫外線31が照射される。紫外線照射装置30から照射された紫外線31は、接着部材20の基材21を透過して、接着剤層22に到達する。紫外線が照射された接着剤層22は硬化して、接着剤層22Aとなる。硬化した接着剤層22Aと基材21とからなる接着部材20Aは、サファイア基板10の表面10Aに、弾性をほとんど有さない状態で接着されている。紫外線照射装置30としては、紫外線高圧水銀ランプまたは紫外線LEDなどが使用可能である。
【0021】
図3は、研磨用支持部材と接着部材とが接着された状態を示す断面図である。図3に示すように、第2接着工程として、サファイア基板10に接着された接着部材20Aと研磨用支持部材50とが接着剤40により接着される。接着剤40としては、たとえば、熱軟化性のワックスまたはボンドなどが使用可能である。接着剤40は、室温で硬化する。第2硬化工程において接着剤40が硬化することにより、サファイア基板10は、ともに弾性をほとんど有さない、接着部材20Aおよび接着剤40を間に挟んで、研磨用支持部材50に接着される。研磨用支持部材50として、セラミック、アルミおよびステレンスなどの材質の板状部材が使用可能である。好ましくは、研磨用支持部材50は、研削または研磨加工が施されて、両面の平面出しが行なわれている。
【0022】
図4は、基板の裏面を研磨した状態を示す断面図である。図4に示すように、サファイア基板10は、研磨用支持部材50に間接的に接着されて支持された状態で、裏面10Bが研磨される。LEDに用いられる半導体素子の場合には、サファイア基板10は、80μm以下の所定の仕上げ厚さになるまで研磨される。パワーデバイスに用いられる半導体素子の場合には、60μm以下の所定の仕上げ厚さになるまで研磨される。
【0023】
図5は、研磨後の基板の裏面にダイシングテープが接着された状態を示す断面図である。図5に示すように、所定の厚さまで研磨されたサファイア基板10の裏面10Bにダイシングテープ60が接着される。ダイシングテープ60は、金属製キャリアフレームに貼り付けられている。
【0024】
ダイシングテープ60は、たとえば、80μm以上200μm以下の厚さの塩化ビニル、ポリオレフィンおよびPETなどのいずれかからなる基材に、5μm以上50μm以下の厚さのアクリル系粘着材、または、エポキシ系およびポリイミド系などの熱圧着可能な粘着材などのいずれかが塗布されたものである。
【0025】
図6は、基板から接着部材および研磨用支持部材を剥離した状態を示す断面図である。図6に示すように、サファイア基板10の研磨後、サファイア基板10の表面10Aから、接着部材20Aの接着剤層22Aが剥離されることにより、接着部材20Aと研磨用支持部材50とが除去される。
【0026】
サファイア基板10の表面10Aから接着剤層22Aを剥離する方法としては、接着剤層22Aを加熱することにより軟化させた状態で、サファイア基板10から接着部材20Aと研磨用支持部材50とを一体で剥離する方法がある。他の方法としては、接着剤層22Aと接着剤40とを加熱することにより、接着剤層22Aと接着剤40とを軟化させた状態で、まず、接着部材20Aから研磨用支持部材50を剥離して、その後、サファイア基板10から接着部材20Aを剥離する方法がある。
【0027】
図7は、基板がダイシングされた状態を示す断面図である。図7に示すように、サファイア基板10は、ダイシングテープ60に接着された状態で、切削されてチップ化される。その結果、半導体素子を含む複数の半導体チップ100が作製される。最後に、ダイシングテープ60から半導体チップ100が剥離される。
【0028】
上記の半導体素子の製造方法を用いることにより、研磨工程の際には、サファイア基板10は、弾性をほとんど有さない接着部材20Aと接着剤40により研磨用支持部材50に接着されているため、切削水または砥石からの衝撃によるばたつきの発生が低減されている。そのため、サファイア基板10のようなシリコン基板より硬い基板を80μm以下の厚さまで研磨した場合において、基板に欠けまたはクラックが生じることが抑制される。80μm以下の厚さのサファイア基板10は、ダイシング工程において容易にダイシングされる。その結果、製造過程に発生する不良率が低減されるため、半導体素子の歩留まりが向上される。
【0029】
また、サファイア基板10から接着部材20Aを剥離する際に接着剤層22Aを軟化させているため、両面テープのような粘着性を有する部材を基板から剥離した場合に発生しやすい残留接着剤が、サファイア基板10の表面10Aに発生しにくい。そのため、残留接着剤による半導体素子の不良発生率を低減することができる。
【0030】
本実施形態においてはダイシングテープ60を用いてダイシング工程が行なわれているが、サファイア基板10の研磨後に接着部材20Aから研磨用支持部材50を剥離した状態で、接着部材20Aをダイシングテープ60の代わりに用いてダイシング工程が行なわれてもよい。この場合、サファイア基板10は、裏面10B側からダイシングされることになる。
【0031】
上記の方法を用いて半導体素子を製造することにより、その製造方法により作製された半導体素子を用いるLEDまたはパワーデバイスなどの品質安定性および生産効率が向上される。
【0032】
以下の実験例1では、本実施形態の製造方法において基板を研磨する場合と、比較例として、本実施形態の製造方法において紫外線照射を行なわずに基板を研磨する場合とで、研磨工程における基板の欠けまたはクラックの発生の有無を確認した。
【0033】
実験例1
基板として、2インチ角で厚みが393μmのサファイア基板と、2インチ角で厚みが391μmのサファイア基板とが用意された。この2枚のサファイア基板には各々、表面側にAlN層およびGaN層を含む半導体層が形成されている。厚さが393μmのサファイア基板を基板Xと称し、厚さが391μmのサファイア基板を基板Yと称する。
【0034】
接着部材として、PETからなる厚さ16μmの基材と、UV硬化型樹脂からなる接着剤層とを有するものが2つ用意された。接着部材は、それぞれ基板Xの表面または基板Yの表面に接着された。
【0035】
基板Xの表面に接着された接着部材の基材側から基材の全面に向けて、UVがUV高圧水銀ランプによりUV照度300mW/cm2で30秒間照射された。基板Yの方には、UV照射は行なわれない。
【0036】
次に、研磨用支持部材として直径300mmのセラミックプレートが1枚用意された。研磨用支持部材は、接着剤として日化精工製スカイリキッド(登録商標)751Mが用いられて、基板Xに接着された接着部材の基材、および、基板Yに接着された接着部材の基材と熱圧着された。
【0037】
研磨工程として、まず、研削装置内において、基板Xおよび基板Yがそれぞれ接着部材を介して接着された研磨用支持部材が研磨用テーブル上に載置された。その後、ダイヤモンド砥石が用いられて、0.02mm/分の切り込み速度で基板Xおよび基板Yの裏面が研削された。研削時間が1分経過毎に、基板Xおよび基板Yの厚みが測定され、また、基板に欠けまたはクラックが発生していないか確認された。
【0038】
基板Xにおいては、58μmの厚さまで研磨された時点では欠けおよびクラックが観察されなかったが、34μmの厚さまで研磨された時点で欠けまたはクラックが観察された。基板Yにおいては、102μmの厚さまで研磨された時点では欠けおよびクラックが観察されなかったが、88μmの厚さまで研磨された時点で欠けまたはクラックが観察された。この結果から、紫外線照射が行なわれて接着剤層が硬化されていることにより、研磨による衝撃によって基板に欠けまたはクラックが発生することが低減されることが確認された。
【0039】
以下、本発明の実施形態2に係る半導体素子の製造方法、並びに、その製造方法によって作製された半導体素子を有する発光ダイオードおよびパワーデバイスについて図面を参照して説明する。
【0040】
実施形態2
図8は、本発明の実施形態2に係る半導体素子の製造方法において、接着部材を介して基板と研磨用支持部材とを接着した状態を示す断面図である。図9は、本実施形態に係る接着部材の構造を示す断面図である。
【0041】
図8に示すように、本実施形態に係る半導体素子の製造方法においては、接着工程として、サファイア基板10の表面10Aに接着部材70の一方の主表面が接着され、研磨用支持部材50に接着部材70の他方の主表面が接着される。接着部材70以外の構成については、実施形態1と同様であるため説明を繰返さない。
【0042】
図9に示すように、本実施形態に係る接着部材70は、複数の穴部を有する板状のPETからなる基材71と、基材71の穴部に位置している熱軟化性の接着剤72とから構成されている。基材71の厚さは、たとえば、5μm以上200μm以下である。基材71の材料は、PETに限られず、アクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィンポリマー、ポリスチレン樹脂、および、ファンクショナルノルボルネン系樹脂など圧力が負荷された場合に弾性変形の少ない樹脂材料であればよい。
【0043】
接着剤72としては、たとえば、熱軟化性のワックスまたはボンドなどが使用可能である。接着剤72は、室温で硬化する。接着剤72は、接着部材70の外表面に部分的に露出している。好ましくは、基材71の穴部が基材71の主表面全体に均等に形成されていることにより、接着剤72が接着部材70の外表面において均等に配置されている。基材71は、接着剤72を外表面に部分的に露出させて含有できる構造であればよく、多孔質構造で形成されていてもよい。
【0044】
接着部材70の一方の主表面に露出している部分の接着剤72は、サファイア基板10の表面10Aと接触して、接着部材70とサファイア基板10とを接着している。接着部材70の他方の主表面に露出している部分の接着剤72は、研磨用支持部材50と接触して、接着部材70と研磨用支持部材50とを接着している。
【0045】
その後、硬化工程として、互いに接着された研磨用支持部材50およびサファイア基板10が加熱されつつ加圧されて熱圧着されることにより、接着剤72が軟化した状態で、接着部材70の一方の主表面とサファイア基板10の表面10Aとが圧接され、かつ、接着部材70の他方の主表面と研磨用支持部材50とが圧接される。
【0046】
このとき、接着剤72は、接着部材70とサファイア基板10との境界部、および、接着部材70と研磨用支持部材50との境界部においては、極めて薄い層として存在している。よって、実質的に、サファイア基板10と接着部材70の基材71とが面接触し、研磨用支持部材50と接着部材70の基材71とが面接触している。その状態において、接着剤72は冷却されて硬化する。
【0047】
図10は、基板の裏面を研磨した状態を示す断面図である。図10に示すように、サファイア基板10は、研磨用支持部材50に間接的に接着されて支持された状態で、裏面10Bが研磨される。LEDに用いられる半導体素子の場合には、サファイア基板10は、80μm以下の所定の仕上げ厚さになるまで研磨される。パワーデバイスに用いられる半導体素子の場合には、60μm以下の所定の仕上げ厚さになるまで研磨される。
【0048】
図11は、研磨後の基板の裏面にダイシングテープが接着された状態を示す断面図である。図11に示すように、所定の厚さまで研磨されたサファイア基板10の裏面10Bにダイシングテープ60が接着される。
【0049】
その後、図6に示すように、サファイア基板10の表面10Aから、接着部材70が剥離される。サファイア基板10の表面10Aから接着部材70を剥離する方法として、接着部材70を加熱することにより接着剤72を軟化させた状態で、サファイア基板10から接着部材70を剥離する。
【0050】
次に、図7に示すように、サファイア基板10は、ダイシングテープ60に接着された状態で、切削されてチップ化される。その結果、半導体素子を含む複数の半導体チップ100が作製される。最後に、ダイシングテープ60から半導体チップ100が剥離される。
【0051】
上記の半導体素子の製造方法を用いることにより、研磨工程の際には、サファイア基板10は、弾性をほとんど有さない接着部材70を介して研磨用支持部材50に接着されているため、切削水または砥石からの衝撃によるばたつきの発生が低減されている。そのため、サファイア基板10のようなシリコン基板より硬い基板を80μm以下の厚さまで研磨した場合において、基板に欠けまたはクラックが生じることが抑制される。80μm以下の厚さのサファイア基板10は、ダイシング工程において容易にダイシングされる。その結果、製造過程に発生する不良率が低減されるため、半導体素子の歩留まりが向上される。
【0052】
また、圧接によりサファイア基板10と接着部材70と研磨用支持部材50とが接着されていることにより、接着剤72の層厚が極めて薄く、研磨用支持部材50の主表面の平面部と、サファイア基板10の裏面10Bの平面部との平行度を高めることができる。その結果、研磨用支持部材50を支持してサファイア基板10を研磨する際に、サファイア基板10の平面出しが容易になる。
【0053】
上記の方法を用いて半導体素子を製造することにより、その製造方法により作製された半導体素子を用いるLEDまたはパワーデバイスなどの品質安定性および生産効率が向上される。
【0054】
本実施形態においては、複数の穴部を有する板状の基材71を含む接着部材70を用いたが、穴部を有さない板状の基材の外表面に所定の間隔を置いて点状に接着剤72が塗布された接着部材を用いていもよい。この場合、熱圧着する際に、接着剤72の層が薄く、実質的に、サファイア基板10と接着部材の基材とが面接触し、研磨用支持部材50と接着部材の基材とが面接触していることが好ましい。このようにした場合にも、研磨工程における基板のばたつきが低減されて、基板に欠けまたはクラックが生じることが抑制される。
【0055】
以下の実験例2では、本実施形態の製造方法において基板を研磨する場合と、比較例として、本実施形態の製造方法において穴部を有さない板状の基材の両面に5μmの厚さの接着剤層を有する接着部材を用いて基板を研磨する場合とで、研磨工程における基板の欠けまたはクラックの発生の有無を確認した。
【0056】
実験例2
基板として、2インチ角で厚みが423μmのサファイア基板と、2インチ角で厚みが422μmのサファイア基板とが用意された。この2枚のサファイア基板には各々、表面側にAlN層およびGaN層を含む半導体層が形成されている。厚さが423μmのサファイア基板を基板Vと称し、厚さが422μmのサファイア基板を基板Wと称する。
【0057】
本実施形態の接着部材として、PETからなり厚さ10μmで複数の穴部を有する基材と、その穴部に供給された熱軟化性の接着剤とからなる、接着部材Sが用意された。比較例の接着部材として、PETからなり厚さ10μmで穴部を有さない基材と、その基材の両面にそれぞれ5μmの厚さで形成された接着剤層とからなる、接着部材Tが用意された。
【0058】
次に、研磨用支持部材として直径300mmのセラミックプレートが1枚用意された。接着部材Sは、基板Xの表面および研磨用支持部材に熱圧着され、同時に、接着部材Tは、基板Yの表面および研磨用支持部材に熱圧着された。
【0059】
研磨工程として、まず、研削装置内において、基板Vおよび基板Wがそれぞれ接着部材Sまたは接着部材Tを介して接着された研磨用支持部材が研磨用テーブル上に載置された。その後、ダイヤモンド砥石が用いられて、0.02mm/分の切り込み速度で基板Vおよび基板Wの裏面が研削された。研削時間が1分経過毎に、基板Vおよび基板Wの厚みが測定され、また、基板に欠けまたはクラックが発生していないか確認された。
【0060】
基板Vにおいては、48μmの厚さまで研磨された時点では欠けおよびクラックが観察されなかったが、24μmの厚さまで研磨された時点で欠けまたはクラックが観察された。基板Wにおいては、101μmの厚さまで研磨された時点では欠けおよびクラックが観察されなかったが、89μmの厚さまで研磨された時点で欠けまたはクラックが観察された。この結果から、接着部材70が用いられて熱圧着されることにより、研磨による衝撃によって基板に欠けまたはクラックが発生することが低減されることが確認された。
【0061】
なお、今回開示した上記実施形態および上記実験例はすべての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態および実験例のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0062】
10 サファイア基板、10A 表面、10B 裏面、20,20A,70 接着部材、21,71 基材、22,22A 接着剤層、30 紫外線照射装置、31 紫外線、40,72 接着剤、50 研磨用支持部材、60 ダイシングテープ、100 半導体チップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面側に半導体層を有する基板の表面と研磨用支持部材とを板状の接着部材を介して接着剤により接着する接着工程と、
前記接着剤を硬化させる硬化工程と、
前記研磨用支持部材に前記接着部材を介して接着された前記基板の裏面を研磨して所定の厚さにする研磨工程と
を備える、半導体素子の製造方法。
【請求項2】
前記接着工程は、紫外線を受光して硬化する接着剤層を有する前記接着部材と前記基板の表面とを接触させて接着する第1接着工程と、前記基板に接着された前記接着部材と前記研磨用支持部材とを接着剤により接着する第2接着工程とを含み、
前記硬化工程は、前記第1接着工程において前記基板に接着された、前記接着部材を透過させて前記接着剤層に紫外線を照射する第1硬化工程と、前記第2接着工程に用いられた前記接着剤を硬化させる第2硬化工程とを含む、請求項1に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項3】
前記接着工程において、熱軟化性の接着剤を含有し、該接着剤が部分的に外表面に露出している前記接着部材を介して、前記基板の表面と前記研磨用支持部材とを接着し、
前記硬化工程において、加熱しつつ加圧して熱圧着することにより、前記接着部材の一方の主表面と前記基板の表面とを圧接させ、かつ、前記接着部材の他方の主表面と前記研磨用支持部材とを圧接させる、請求項1に記載の半導体素子の製造方法。
【請求項4】
前記基板としてサファイア基板が用いられる、請求項1から3のいずれかに記載の半導体素子の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の半導体素子の製造方法によって作製された半導体素子を有する、発光ダイオード。
【請求項6】
請求項1から4のいずれかに記載の半導体素子の製造方法によって作製された半導体素子を有する、パワーデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−23244(P2012−23244A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160788(P2010−160788)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】