説明

半導体装置

【課題】発熱量が異なる複数の半導体素子を冷却器とともに備える半導体装置において,半導体素子ごとの発熱量に応じた適切な冷却性能と,工程数やコストの削減とを両立すること。
【解決手段】本発明の半導体装置701は,内部に冷媒を通す冷却器71と,半導体素子とを積層してなるものであって,半導体素子として,動作時の発熱量が大きい回路5を構成するとともに,両面が放熱面とされ両方の放熱面がいずれも冷却器71と接触するように配置されている両面放熱半導体素子72と,動作時の発熱量が小さい回路4を構成するとともに,一方の面が放熱面とされその放熱面が冷却器71と接触するように配置されている片面放熱半導体素子82とを有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,冷却器と半導体素子とを積層してなる半導体装置に関する。さらに詳細には,例えばモーター等の電気機器との間で電流をやりとりする半導体素子と,その半導体素子の電流による発熱を防止する冷却器とを有する半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から,モータ等の電力消費機器へ供給する電流の制御に,インバータ等の半導体素子が用いられている。また,発電機のように電力を発生する機器からの電流の制御にも半導体素子が用いられる。これら電流を取り扱う半導体素子は,一般に使用時の発熱量が大きい。そのため,半導体素子と冷却器とを接触させて使用することがある。例えばハイブリッド自動車では,動力の発生と発電とを行うモータの電流制御に,多数のインバータと多数の冷却器とを積層した状態の装置が用いられている。
【0003】
さらに,1つの装置にて,2以上の電力消費機器または電力発生機器を併用する場合がある。例えばハイブリッド自動車の中でも2モータ式といわれるものでは,エンジン回転による回生発電を行う第1モータと,車輪を駆動する動力源である第2モータとを有している。このような場合,2つのモータ(電力消費機器または電力発生機器)の電流レベルは同じとは限らない。2モータ式ハイブリッド自動車の場合では,第2モータの電流レベルを10とすれば,第1モータの電流レベルは概ね1〜3.5程度である。電流レベルが異なれば当然,対応するインバータ(半導体素子)の発熱量も異なる。
【0004】
このような場合にそれぞれのインバータ(半導体素子)を均等に冷却したのでは,インバータ間に温度差が生じてしまう。この温度差のため,両インバータ間で寿命の進行の程度に差が生じたり,冷却器に熱応力が発生する等の弊害が生じうる。これを解消しようとする従来技術として,特許文献1に記載の技術が挙げられる。同文献の技術では,チューブ(冷却器)の部位により冷却能力に差を設けている。そして,チューブにおける冷却能力の高い部位で発熱量が高い電子部品(半導体素子)を保持し,冷却能力の低い部位で発熱量が低い電子部品を保持するようにしている。これにより,電子部品間での温度差の解消を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4265510号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら前記した従来の技術には,次のような問題点があった。上記のように半導体素子間で発熱量に差異がある場合,発熱量の大きい方の半導体素子については,相当に高い冷却性を確保する必要がある。このため通常,冷却器の冷却性能だけでなく,半導体素子自体の放熱性も上げておくことになる。そして,冷却器のうち,発熱量の小さい方の半導体素子を保持する部分の冷却能力を小さくするのである。
【0007】
半導体素子自体の放熱性を上げる具体的な手法としては,放熱面積を十分に大きく確保することや,個々の半導体素子のサイズを小さくして替わりに個数を増やすことが挙げられる。しかしサイズに関しては,実際にはあまり小型化できない。ブロック電極や制御配線の配置のため,また耐圧性や耐降伏性といった電気的特性の確保のためにはある程度のサイズが必要だからである。そこで放熱面の大面積化のために両面冷却型とされることになる。
【0008】
しかし両面冷却型の半導体素子は,必要な部品点数や工程数が多いという問題がある。樹脂封止後に両面の樹脂を除去する必要があることや,冷却器に挿入する際に絶縁板を両面に必要とすることのためである。そのため,製造が煩雑でコストも高いのである。これに対し,冷却器の冷却能力を部分的に下げることは,工程数やコストを削減する要因にはならない。
【0009】
本発明は,前記した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,発熱量が異なる複数の半導体素子を冷却器とともに備える半導体装置において,半導体素子ごとの発熱量に応じた適切な冷却性能と,工程数やコストの削減とを両立することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の半導体装置は,内部に冷媒を通す冷却器と,半導体素子とを積層してなるものであって,半導体素子として,動作時の発熱量が大きい回路を構成するとともに,両面が放熱面とされ両方の放熱面がいずれも冷却器と接触するように配置されている両面放熱半導体素子と,動作時の発熱量が小さい回路を構成するとともに,一方の面が放熱面とされその放熱面が冷却器と接触するように配置されている片面放熱半導体素子とを有している。
【0011】
この半導体装置は,大電流の負荷および小電流の負荷に接続されて使用されるものである。大電流の負荷に接続される部分の回路は動作時の発熱量が大きく,小電流の負荷に接続される部分の回路は動作時の発熱量が小さい。そこで本発明の半導体装置では,大電流の負荷に接続される部分には両面放熱半導体素子を配置して回路を構成し,小電流の負荷に接続される部分には片面放熱半導体素子を配置して回路を構成している。これにより,装置全体を両面放熱半導体素子で構成する場合と比較して,必要な冷却性能を確保しつつ構造の簡素化を実現している。本発明において,半導体素子の放熱面が冷却器と接触するとは,放熱面と冷却器とが直に接触する場合に限らず,絶縁部材等の中間部材を間に挟んで接触する場合を含むものとする。
【0012】
本発明の半導体装置はさらに,複数の片面放熱半導体素子を有し,片面放熱半導体素子のうち一部のものは,片面放熱半導体素子および両面放熱半導体素子の中で最も端に位置し,放熱面が,他の片面放熱半導体素子および両面放熱半導体素子の方を向くとともに冷却器と接触し,他方の面が他の冷却器と接触しないように配置されていることが望ましい。これにより,必要な冷却器の個数を削減できる。さらに,片面放熱半導体素子のうち残りのものは,両方の面がいずれも冷却器と接触するとともに,放熱面の向きが,最も端に位置する片面放熱半導体素子の放熱面と同じ向きになるように配置されていることが望ましい。これにより,片面放熱半導体素子により構成される回路部分の冷却器の負担が均一化される。
【0013】
そして,片面放熱半導体素子ばかりでなく両面放熱半導体素子も複数有し,片面放熱半導体素子と両面放熱半導体素子とが交互に配置されていることが望ましい。これにより,半導体装置全体として,冷却器の負担の均一化が図られる。
【0014】
[0010]に記載の本発明の半導体装置はまた,複数の片面放熱半導体素子を有し,複数の片面放熱半導体素子は,各放熱面がそれぞれ冷却器と接触し,他方の面同士が互いに接触するように配置されたものであってもよい。これにより,片面放熱半導体素子で構成される回路の部分で,インダクタンスの低減が図られる。片面放熱半導体素子における「他方の面」同士の間に冷却器がない分,片面放熱半導体素子2枚分の厚みが削減されているからである。
【0015】
本発明の別の態様の半導体装置は,内部に冷媒を通す冷却器と,半導体素子とを積層してなるものであって,半導体素子として,動作時の発熱量が大きい回路を構成するとともに,両面がいずれも冷却器と接触するように配置されている両面放熱半導体素子と,動作時の発熱量が小さい回路を構成するとともに,一方の面のみが冷却器と接触するように配置されている片面放熱半導体素子とを有している。
【0016】
この半導体装置における「片面放熱半導体素子」は,一方の面が冷却器と接触し,他方の面は冷却器と接触しないように配置されている半導体素子である。半導体素子自体の構造としては両面が放熱面様に構成されていてもよい。この半導体装置でも,[0010]の半導体装置と同様に,装置全体を両面放熱半導体素子で構成する場合と比較して,必要な冷却性能を確保しつつ構造の簡素化を実現しており,共通する特別の技術的特徴を有している。
【0017】
この半導体装置ではさらに,複数の片面放熱半導体素子を有し,複数の片面放熱半導体素子は,各々の一方の面がそれぞれ冷却器と接触し,他方の面同士が互いに接触するように配置されていることが望ましい。これにより,たとえ構造的には両面が放熱面様に構成されている半導体素子であっても実質的に片面放熱半導体素子として使用していることになる。また,冷却器の個数削減やインダクタンス低減が図られる。
【0018】
[0017]の半導体装置をさらに限定した発明概念として,次のものが挙げられる。
[発明概念1]
[0017]に記載の半導体装置において,
前記複数の片面放熱半導体素子の一部は,電源のハイサイド線と負荷側端子との間の導通の断続を行うものであり,
前記複数の片面放熱半導体素子の残りのものは,負荷側端子と電源のローサイド線との間の導通の断続を行うものであり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記一方の面は,電源のハイサイド線との接続面および電源のローサイド線との接続面であり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記他方の面はいずれも,負荷側端子との接続面であり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記他方の面同士が直に接触していることを特徴とする半導体装置。
【0019】
あるいは次のものも考えられる。
[発明概念2]
[0017]に記載の半導体装置において,
前記複数の片面放熱半導体素子の一部は,電源のハイサイド線と負荷側端子との間の導通の断続を行うものであり,
前記複数の片面放熱半導体素子の残りのものは,負荷側端子と電源のローサイド線との間の導通の断続を行うものであり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記一方の面はいずれも,負荷側端子との接続面であり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記他方の面は,電源のハイサイド線との接続面および電源のローサイド線との接続面であり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記他方の面同士が,間に絶縁部材を挟んで接触していることを特徴とする半導体装置。
【0020】
また,[0010]〜[0019]に記載の本発明の半導体装置では,両面放熱半導体素子が,車両における電源から動力発生担当モータへの供給電流を制御する動力モータ駆動回路を構成しており,片面放熱半導体素子が,車両における回生発電担当モータから電源への回生電流を制御する発電モータ駆動回路を構成していることが望ましい。一般に2モータ式のハイブリッド車や電気自動車等の電動車両では,回生発電担当モータの電流は動力発生担当モータへの供給電流の3分の1程度で,駆動回路の発熱量にもそれに見合った程度の差がある。よって,本発明を適用することで,必要な冷却性能を確保しつつ構造を簡素化できる。
【0021】
また,[0015]または[0017]に記載の半導体装置では,両面放熱半導体素子が,電源と負荷との間の電流を制御する負荷駆動回路を構成しており,片面放熱半導体素子が,電源と負荷との間で電圧の昇降を行う昇降圧回路を構成していることもまた望ましい。一般的に昇降圧回路では,上下アームのうち一方のみが動作するので,負荷駆動回路より発熱量が少ないからである。
【0022】
[0021]に記載のものをさらに限定した発明概念として,以下のものが挙げられる。
[発明概念3]
[0021]に記載の半導体装置において,
前記複数の片面放熱半導体素子の一部は,前記昇降圧回路の高位線と中位線との間の導通の断続を行うものであり,
前記複数の片面放熱半導体素子の残りのものは,前記昇降圧回路の中位線と低位線との間の導通の断続を行うものであり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記一方の面は,前記高位線との接続面および前記低位線との接続面であり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記他方の面はいずれも,前記中位線との接続面であり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記他方の面同士が直に接触していることを特徴とする半導体装置。
【0023】
[発明概念4]
[0021]に記載の半導体装置において,
前記複数の片面放熱半導体素子の一部は,前記昇降圧回路の高位線と中位線との間の導通の断続を行うものであり,
前記複数の片面放熱半導体素子の残りのものは,前記昇降圧回路の中位線と低位線との間の導通の断続を行うものであり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記一方の面はいずれも,前記中位線との接続面であり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記他方の面は,前記高位線との接続面および前記低位線との接続面であり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記他方の面同士が,間に絶縁部材を挟んで接触していることを特徴とする半導体装置。
【0024】
[発明概念5]
[0021]に記載の半導体装置において,
前記複数の片面放熱半導体素子はいずれも,前記昇降圧回路の高位線と中位線との間の導通の断続と,中位線と低位線との間の導通の断続とを行うものであり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記一方の面はいずれも,前記高位線との接続領域および前記低位線との接続領域を含む面であり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記他方の面はいずれも,前記中位線との接続面であり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記他方の面同士が直に接触していることを特徴とする半導体装置。
【0025】
[発明概念6]
[0021]に記載の半導体装置において,
前記複数の片面放熱半導体素子はいずれも,前記昇降圧回路の高位線と中位線との間の導通の断続と,中位線と低位線との間の導通の断続とを行うものであり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記一方の面はいずれも,前記中位線との接続面であり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記他方の面はいずれも,前記高位線との接続領域および前記低位線との接続領域を含む面であり,
前記複数の片面放熱半導体素子の前記他方の面同士が,間に絶縁部材を挟んで,前記高位線との接続領域と前記低位線との接続領域とが対面するように接触していることを特徴とする半導体装置。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば,発熱量が異なる複数の半導体素子を冷却器とともに備える半導体装置において,半導体素子ごとの発熱量に応じた適切な冷却性能と,工程数やコストの削減との両立が達成されている。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施の形態に係るハイブリッドシステムの回路図である。
【図2】図1中のモータ駆動回路の部分と,冷却チューブとからなる積層冷却器を示す斜視図である。
【図3】図2の積層冷却器を構成要素に分解して示す分解斜視図である。
【図4】冷却チューブの構造を示す横断面図である。
【図5】冷却チューブの構造を示す縦断面図である。
【図6】1in1両面冷却型パワーカードの縦断面図である。
【図7】1in1両面冷却型パワーカードの横断面図である。
【図8】1in1両面冷却型パワーカードの外観斜視図である。
【図9】絶縁シートを有する両面冷却型パワーカードの断面図である。
【図10】1in1片面冷却型パワーカードの断面図である。
【図11】第1の形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図12】第1の形態に対応する参考形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図13】第2の形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図14】第3の形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図15】図11〜図14の積層冷却器における冷却チューブの負荷の分布を示すグラフである。
【図16】U字2in1両面冷却型パワーカードの横断面図である。
【図17】N字2in1両面冷却型パワーカードの横断面図である。
【図18】2in1片面冷却型パワーカードの横断面図である。
【図19】第4の形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図20】第5の形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図21】第6の形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図22】上アーム用3in1両面冷却型パワーカードの横断面図である。
【図23】下アーム用3in1両面冷却型パワーカードの横断面図である。
【図24】上アーム用3in1片面冷却型パワーカードの横断面図である。
【図25】下アーム用3in1片面冷却型パワーカードの横断面図である。
【図26】第7の形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図27】第7の形態に対応する参考形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図28】第8の形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図29】第9の形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図30】図26〜図29の積層冷却器における冷却チューブの負荷の分布を示すグラフである。
【図31】第10の形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図32】図31の積層冷却器における冷却チューブの負荷の分布を示すグラフである。
【図33】第11の形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図34】第12の形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図35】図1のハイブリッドシステムに用いられる昇降圧回路を記す回路図である。
【図36】図35の昇降圧回路に用いられる並列2in1両面冷却型パワーカードの横断面図である。
【図37】第13の形態の積層冷却器の構成を示す断面図である。
【図38】図36の並列2in1両面冷却型パワーカードの変形例の横断面図である。
【図39】図37の積層冷却器の昇降圧回路の部分についての変形例(その1)の構成を示す断面図である。
【図40】図35の昇降圧回路におけるパワーカードの別の構成例を示す回路図である。
【図41】第14の形態の積層冷却器における昇降圧回路の部分の構成(その1)を示す断面図である。
【図42】第14の形態の積層冷却器における昇降圧回路の部分の構成(その2)を示す断面図である。
【図43】第14の形態の積層冷却器における昇降圧回路の部分の構成(その3)を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,2モータ式ハイブリッド自動車のモータをコントロールする半導体装置として,本発明を具体化したものである。本形態の半導体装置は,図1にその回路図を示すハイブリッドシステムに本発明を適用したものである。図1のハイブリッドシステムは,2モータ式ハイブリッド自動車において,バッテリー1と第1モータ2および第2モータ3との間の電流のやりとりを司るものである。
【0029】
図1のハイブリッドシステムは,第1モータ2を駆動する第1モータ駆動回路4と,第2モータ3を駆動する第2モータ駆動回路5とを有している。図1中,第1モータ駆動回路4および第2モータ駆動回路5の部分6が,本形態の半導体装置に係るインバータ回路である。第1モータ駆動回路4は,6つのトランジスタ41〜46を有している。各トランジスタは,IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)等のパワー半導体素子である。トランジスタ41〜46のうち,トランジスタ41,42,トランジスタ43,44,トランジスタ45,46の3対のペアがそれぞれ,バッテリー1のハイサイド線11とローサイド線12との間に直列に配置されている。そして各ペアの中間端子4U,4V,4Wがそれぞれ,第1モータ2の端子2U,2V,2Wに接続されている。
【0030】
第2モータ駆動回路5も,第1モータ駆動回路4と同様に,6つのトランジスタ51〜56により構成されている。よって第2モータ駆動回路5にも3つの中間端子5U,5V,5Wがそれぞれ,第2モータ3の端子3U,3V,3Wに接続されている。また,第1モータ駆動回路4および第2モータ駆動回路5のトランジスタ41〜46,51〜56はそれぞれ,制御電極Pを有している。トランジスタ41〜46,51から56のうち,ハイサイド線11側の6つ(奇数番のもの)を上アーム,ローサイド線12側の6つ(偶数番のもの)を下アームということがある。さらに,各トランジスタには保護ダイオードDが設けられている。2モータ式ハイブリッド自動車において,第1モータ2はエネルギー回生による発電を主として担当し,第2モータ3は車両の走行のための駆動力の発生を主として担当する。
【0031】
[前提となる構成]
まず,本発明の適用対象である半導体装置の前提構成を説明する。図1中のインバータ回路6は実際には,図2および図3に示すように積層冷却器7の形態とされている。図2の積層冷却器7は,図3に示す冷却チューブ71とパワーカード72と絶縁板73とを積層したものである。このうちのパワーカード72が,図1中の計12組のトランジスタのうち1組をその保護ダイオードDとともに封止樹脂を使ってカード状に実装したものである。よって,図2の積層冷却器7の全体には,12枚のパワーカード72が含まれている。本発明の請求項で「半導体素子」と称しているものは,実施の形態では「パワーカード」である。パワーカードの詳細な構成については後述する。
【0032】
冷却チューブ71は,内部に冷媒(例えば水であるがこれに限らない)を通すための中空の部材である。冷却チューブ71は,略直方体状のケース部711と,2箇所の円筒状の連結部712とを有している。図4の横断面図に示すように,連結部712により,複数の冷却チューブ71を,積層型に連結して全体に冷媒が循環できるように構成することができる。図4中における各部の矢印Fは,冷媒の流れの向きを示す。ただし,積層冷却器7を構成する冷却チューブ71のうち図2中最も右側のものだけは,その図中右側の面には連結部712がなく閉鎖されているものである。また,図2中最も左側の冷却チューブ71の図中左側の連結部712は,ハウジング8を貫通して突出する程度に長くされている。これが,入り口INおよび出口OUTとなっている。
【0033】
また,ケース部711の内部には,図5の縦断面図(図4中のC位置)に示すように,波状フィン713が挿入されている。ケース部711の材質から冷媒への放熱面積を稼ぐためである。ケース部711,連結部712,波状フィン713はいずれもアルミ等の軽金属の薄板のプレス成形品である。これらが鑞付け等の手法により接合され冷却チューブ71とされている。図2の積層冷却器7では,入り口INと出口OUTとにより,積層冷却器7を構成する各冷却チューブ71に冷媒を循環させることができるようになっている。
【0034】
絶縁板73は,冷却チューブ71とパワーカード72との間に絶縁のために挟み込まれる板である。絶縁板73は,絶縁性かつ高熱伝導性の材質(窒化アルミ等)で形成されている。
【0035】
図2の積層冷却器7は,12枚のパワーカード72を2枚ずつ,7個の冷却チューブ71の間に配置して構成したものである。パワーカード72と冷却チューブ71との間には必ず絶縁板73が挟み込まれている。積層冷却器7は,このような積層体が,ハウジング8と板バネ9とにより,積層方向に加圧された状態で一体的に保持されているものである。板バネ9は,パワーカード72と冷却チューブ71とを強く圧接させることで,パワーカード72から冷却チューブ71への放熱の効率をよくするためのものである。図2の積層冷却器7では,12枚のパワーカード72が2枚ずつ6列に配置されている。そのうち図2中左の3列の6枚が第1モータ駆動回路4に属し,右の3列の6枚が第2モータ駆動回路5に属する。
【0036】
パワーカード72について説明する。パワーカード72は,図6の縦断面図および図7の横断面図に示される構造を有している。図7は図6中のA位置の断面図であり,図6は図7中のB位置の断面図である。パワーカード72は,図6および図7に示される通り,コレクタ電極板13とエミッタ電極板14とで,半導体部分15とブロック電極16とを挟んだ構造をなしている。半導体部分15は,実際にはトランジスタとその保護ダイオードとの一対のものであるが,図中では簡略に示している(以下の他の断面図においても同じ)。ブロック電極16は,半導体部分15とエミッタ電極板14との間に位置する。ブロック電極16は,信号線17がエミッタ電極板14と接触しないように,信号線17の配置スペースを半導体部分15とエミッタ電極板14との間に確保するための部材である。
【0037】
図6に示すパワーカード72はさらに,半導体部分15の制御のための制御端子18を備えている。制御端子18は,パワーカード72において図6中下向きに突出している。半導体部分15と制御端子18とは,信号線17により接続されている。信号線17は,半導体部分15中のトランジスタの制御電極Pに接続されている。このような構成のパワーカード72は,封止樹脂19により一体化されている。パワーカード72にはさらに,図6中上向きに突出する入力バスバー20および出力バスバー21が設けられている。入力バスバー20はコレクタ電極板13と接続されており,出力バスバー21はエミッタ電極板14と接続されている。
【0038】
パワーカード72の外観を,図8に示す。図8に見るように,パワーカード72の一方の面の大部分はコレクタ電極板13に占められている。図8では見えないが,その裏側の面の大部分はエミッタ電極板14に占められている。これによりパワーカード72では,コレクタ電極板13とエミッタ電極板14とがいずれも,後述するように放熱板としての役割を果たすようになっている。図8で制御端子18が複数個あるのは,図1の回路図中の各トランジスタに,実際には電流モニタ用信号線や,発熱状態を計測する温度センサーの信号線などの入出力端子群が設けられているからである。なお,図1中の1組のトランジスタ自体も,実際には複数個のトランジスタの並列結合として構成されていてもよい。
【0039】
図6〜図8に示したパワーカード72は,パワーカードの中でも,両面冷却型といわれる種類のものである。両面に放熱板(コレクタ電極板13およびエミッタ電極板14)を有するからである。この他に片面冷却型といわれる種類のものもあり,後述する。パワーカード72はまた,パワーカードの中でも,1in1型といわれる種類のものである。1枚のパワーカード72の中に,図1の回路図中における1組のトランジスタとその保護ダイオードDとが実装されているからである。この他に2in1型,あるいは3in1型といわれる種類のものもあり,後述する。
【0040】
なお,パワーカードにはさらに,冷却面に絶縁シートを備えたものもある。図9にその例を示す。図9のパワーカード72Xは,図6に示したパワーカード72の両面を,絶縁シート22および金属箔23で覆ったものである。絶縁シート22のみで覆ったタイプのものもある。片面のみを絶縁シート22でもしくは絶縁シート22および金属箔23で覆ったタイプのものもある。このように絶縁シート22を有するパワーカード72Xを,図6等に示したパワーカード72に替えて使用することができる。その場合には,絶縁シート22のある面に関しては,図2および図3中の絶縁板73は不要である。むろん絶縁シート22は,絶縁板73と同様に,絶縁性かつ高熱伝導性の材質で形成されている。
【0041】
図2中の第1モータ駆動回路4および第2モータ駆動回路5の部分では,図3に示したように,2つの冷却チューブ71の間に,2つのパワーカード72(H,L)が挟み込まれる。この2つのパワーカード72(H,L)は,図1の回路図中で直列結合をなす2つのトランジスタ(例えば41と42)および保護ダイオードDを内蔵している。つまり,パワーカード72Hが図1中の12個のトランジスタのうち奇数番のものおよびそれと対になる保護ダイオード(上アーム)に相当し,パワーカード72Lが偶数番のものおよびそれと対になる保護ダイオード(下アーム)に相当する。
【0042】
図3中の2つのパワーカード72(H,L)の入力バスバー20(H,L)および出力バスバー21(H,L)は,配線との結線まで完成された状態では次のように接続される。
・入力バスバー20H→ハイサイド線11
・出力バスバー21Hおよび入力バスバー20L→対応する中間端子
・出力バスバー21L→ローサイド線12
ここで中間端子とは,図1中の中間端子4U,4V,4W,5U,5V,5W,のいずれかのことである。このようにして,図2の積層冷却器7が全体として,図1中の第1モータ駆動回路4および第2モータ駆動回路5のインバータ回路6として機能するようになっている。以上が前提となる構成の説明である。
【0043】
[第1の形態]
ここから第1の形態に入る。第1の形態の全体構成は,前述の前提となる構成とほぼ同様である。ただし第1の形態では,第1モータ駆動回路4の部分のトランジスタ41〜46として,前述の両面冷却型パワーカード72に替えて,片面冷却型のパワーカードを用いる。第2モータ駆動回路5の部分のトランジスタ41〜46としては,前提となる構成で説明したとおり両面冷却型のパワーカード72を用いる。
【0044】
そこで片面冷却型のパワーカードについて説明する。片面冷却型パワーカード82は,図10の断面図に示すように構成されている。図10は,両面冷却型パワーカード72について説明した図6に対応する縦断面図である。図10の片面冷却型パワーカード82は,一方の面がほぼコレクタ電極板13で占められている点では両面冷却型パワーカード72と共通するが,その反対側の面はすべて封止樹脂19で占められている。
【0045】
片面冷却型パワーカード82には,エミッタ電極板14がない。片面冷却型パワーカード82では,出力バスバー21の内側端部が直に半導体部分15に接続されており,エミッタ電極として機能するようになっている。このために板状のエミッタ電極は不要なのである。ただしこれは,両面冷却型パワーカード72のエミッタ電極板14と異なり,放熱板としては機能しない。封止樹脂19に埋め込まれているからである。片面冷却型パワーカード82において放熱板として機能するのは,コレクタ電極板13だけである。
【0046】
また,片面冷却型パワーカード82にはブロック電極16もない。板状のエミッタ電極板14がないことから,信号線17とエミッタ電極板14との接触のおそれもない。このため,ブロック電極16の必要性もないのである。これら以外の点では,片面冷却型パワーカード82の構成は両面冷却型パワーカード72とほぼ共通である。すなわち図10の片面冷却型パワーカード82は,1in1型に分類されるものである。
【0047】
外観的にも,図8のような角度で見れば片面冷却型パワーカード82も両面冷却型パワーカード72も大差ない。特に,一方の面がほぼコレクタ電極板13で占められていることに加えて,入力バスバー20および出力バスバー21が上向きに突出していること,および,制御端子18が下向きに突出していることも共通する。ただしその裏面を見ると,片面冷却型パワーカード82は両面冷却型パワーカード72と異なり,そのほとんどが封止樹脂19でできているように見える。よって,片面冷却型パワーカード82を図3のようにして積層冷却器7に組み込むに際し,封止樹脂19の面の側には絶縁板73は不要である。また,片面冷却型パワーカードについても,コレクタ電極板13の面に関しては,[0040]で説明した絶縁シート付きのバリエーションは可能である。
【0048】
第1の形態に係る積層冷却器701の全体の横断面図を図11に示す。図11に見るように,積層冷却器701は,7個の冷却チューブ71の間に,片面冷却型パワーカード82および両面冷却型パワーカード72を6個ずつ挟み込んで積層体としたものである。図11の積層冷却器701では,6個の片面冷却型パワーカード82が図中左側の3列に2個ずつ配置されている。これらが第1モータ駆動回路4を構成している。また,6個の両面冷却型パワーカード72が図中右側の3列に2個ずつ配置されている。これらが第2モータ駆動回路5を構成している。
【0049】
また図11に示されるように積層冷却器701では,両面冷却型パワーカード72に対しては両面に絶縁板73が配置されているのに対し,片面冷却型パワーカード82に対してはそのコレクタ電極板13側の面にしか絶縁板73が配置されていない。これにより,図11の積層冷却器701に含まれる絶縁板73の枚数は,全部で18枚である。
【0050】
つまり積層冷却器701においては,第2モータ駆動回路5では,6枚の両面冷却型パワーカード72が使用されており,各両面冷却型パワーカード72の両面の放熱面がいずれも,絶縁板73を介して冷却チューブ71に密着している。一方,第1モータ駆動回路4では,6枚の片面冷却型パワーカード82が使用されており,それらの片面の放熱面が絶縁板73を介して冷却チューブ71に密着している。なお,片面冷却型パワーカード82のもう一方の面も冷却チューブ71に密着しているにはいるが,このことは放熱性にはあまり寄与しない。よって,第1モータ駆動回路4と第2モータ駆動回路5との放熱性を比較すると,第2モータ駆動回路5の方が優れている。
【0051】
上記のように構成された積層冷却器701では先に述べたように,第2モータ駆動回路5が駆動する第2モータ3が主に車両の動力の発生を担当するのに対し,第1モータ駆動回路4が駆動する第1モータ2は主に発電を担当する。このため,第1モータ駆動回路4を流れる電流は第2モータ駆動回路を流れる電流の高々3分の1程度である。したがって発熱量にもそれに応じた差があり,第2モータ駆動回路の方が第1モータ駆動回路4より発熱が激しい。つまり,第1モータ駆動回路4と第2モータ駆動回路5との放熱性の差異は,発熱量の差異に合わせたものなのである。このため,実際の車両の運転状況において,第1モータ駆動回路4の冷却能力が低いからといって第1モータ駆動回路4が過熱することはない。
【0052】
もし,第1モータ駆動回路4をも両面冷却型パワーカード72で構成するとなると,図12に示すように,絶縁板73の枚数は全部で24枚となる。これは図11の場合より6枚多い。また,両面冷却型パワーカード72自体も片面冷却型パワーカード82より当然,構造が複雑である。このように図12の構成例では部品点数が多く構造も複雑なのであるが,冷却性能に関してはむしろ過剰なだけでありメリットはない。これに対し図11に示した第1の形態の積層冷却器701では,発熱の少ない第1モータ駆動回路4の部分では,構造の簡単な片面冷却型パワーカード82を採用している。これにより,必要最小限の冷却性能を確保しつつ,部品点数を少なめとするとともに構造を簡素化している。以上が第1の形態の説明である。
【0053】
[第2の形態]
続いて第2の形態について説明する。第2の形態に係る積層冷却器702の全体の横断面図を図13に示す。図13の積層冷却器702は,前述の第1の形態の積層冷却器701(図11)に対し,次の2点で異なっており,その余の点は共通である。
(a)第1モータ駆動回路4の部分で,片面冷却型パワーカード82が図11とは逆向きになっていること。
(b)冷却チューブ71の個数が1つ少ないこと。
【0054】
すなわち図11の積層冷却器701では,両面から放熱を受ける冷却チューブ71は,第2モータ駆動回路5のV相の両側の2つだけであった。図13の積層冷却器702ではこれに加えて,第2モータ駆動回路5のU相と第1モータ駆動回路4のW相の間の冷却チューブ71も,両面から放熱を受けるようになっている。このことは,片面冷却型パワーカード82の向きを左右逆にすることにより達成されている。すなわち,図11の積層冷却器701では片面冷却型パワーカード82が,非放熱面(封止樹脂面)を第2モータ駆動回路5の領域の方へ向けるように配置されている。これに対し図13の積層冷却器702では,片面冷却型パワーカード82が,放熱面(コレクタ電極板13側の面)を第2モータ駆動回路5の領域の方へ向けるように配置されているのである。
【0055】
そしてその分,第1モータ駆動回路4のU相とハウジング8との間の冷却チューブ71が不要となっているのである。第1モータ駆動回路4のU相の2つの片面冷却型パワーカード82がハウジング8に対して非放熱面(封止樹脂面)を向けているからである。よって図13の積層冷却器702では,片面冷却型パワーカード82および両面冷却型パワーカード72の中で最も端に位置する片面冷却型パワーカード82は,その非放熱面(封止樹脂面)を,冷却チューブ71ではなくハウジング8に密着させている。第1モータ駆動回路4のU相の2つの片面冷却型パワーカード82がこれである。このように第2の形態では,第1の形態と比較して,冷却チューブ71の個数が1つ少なくて済むという利点を有する。なお,U相以外の片面冷却型パワーカード82は,その非放熱面を冷却チューブ71に密着させている。
【0056】
この利点を得るためには,必ずしも,第1モータ駆動回路4のすべての片面冷却型パワーカード82を上記の向きに配置しなければならない訳ではない。最低限,最もハウジング8寄りの列のもの,言い替えれば第2モータ駆動回路5の領域から最も離れた列のもの(図13ではU相のもの)のみを上記の向きとしたものであってもよい。つまり,それ以外の列の片面冷却型パワーカード82(図13ではV相およびW相のもの)については,その向きはどちら向きでもよいのである。ただし,U相以外の片面冷却型パワーカード82もU相のものと同じ向きを向いていた方がよりよい。第1モータ駆動回路4の領域内での冷却チューブ71の負担の均一化のためである。以上が第2の形態の説明である。
【0057】
[第3の形態]
次に第3の形態について説明する。第3の形態に係る積層冷却器703の全体の横断面図を図14に示す。図14の積層冷却器703は,上述の第2の形態の積層冷却器702(図13)に対し,次の点で異なっており,その余の点は共通である。
(c)第1モータ駆動回路4に属する片面冷却型パワーカード82の列と,第2モータ駆動回路5に属する両面冷却型パワーカード72の列とが交互に配置されていること。
【0058】
すなわち,図11の積層冷却器701あるいは図13の積層冷却器702では,片面冷却型パワーカード82の列と両面冷却型パワーカード72の列とが,それぞれ集中して配置されていた。これにより,冷却チューブ71の配置に関しても,両面から放熱を受けるもの(図11では2つ,図13では3つ)同士が集中して配置される状況となっていた。
【0059】
そこで,2種類のパワーカードの列の配置を交互とすることで,冷却チューブ71の配置に関しても,両面から放熱を受けるものと片面のみから放熱を受けるものとを交互に配置したのが第3の形態の積層冷却器703である。これにより,積層冷却器703全体としての発熱分布が平準化されている。このため冷却チューブ71同士での負荷の配分も図13と比べて平準化されており,冷却性能上も余裕がある。
【0060】
第3の形態の利点を得るためには,2種類のパワーカードの列の配置が交互であることのほか,次の条件を満たす必要がある。
・冷却チューブ71とハウジング8との間に挟まれる列,言い替えると片面しか冷却チューブ71と対面しない列(図14中では「4」のU相)のパワーカードは,片面冷却型パワーカード82でなければならない。
・その列の片面冷却型パワーカード82は,その放熱面(コレクタ電極板13の面)を,ハウジング8の方ではなく冷却チューブ71の方に向けていなければならない。
【0061】
このうちの2つめの条件については,言い替えると,片面冷却型パワーカード82であっても,冷却チューブ71間に挟まれた列のもの(図14中では「4」のV相およびW相)については,向きはどちら向きでもよいということである。しかしながら好ましくは,これらの片面冷却型パワーカード82も,片面しか冷却チューブ71と対面しない片面冷却型パワーカード82と同じ向きとした方がよい。その方が積層冷却器703の全体としての冷却性能がより平準化されるからである。以上が第3の形態の説明である。
【0062】
ここで,ここまでに説明した第1〜第3の形態およびそれらの前提となる構成のものについて,冷却チューブ71の負荷の分布状況を測定したので,その結果を図15のグラフにより説明する。図15のグラフは,上から図12(前提となる参考形態),図11(第1の形態),図13(第2の形態),図14(第3の形態)の各積層冷却器について,それらの中の各冷却チューブ71における冷媒の温度上昇幅を比較して示す棒グラフである。
【0063】
この測定は,各冷却チューブ71の入り口と出口(図11等における「IN」や「OUT」のことではなく,各冷却チューブ71における図中下端および上端の連結部712(図3等参照)の取り付け箇所)に温度センサを設けた状態で行った。その状態で回路を動作させ,各冷却チューブ71における温度上昇幅を測定した。冷媒としては水を使用した。その際,各冷却チューブ71における最大の温度上昇幅が上限値(70℃)を超えないように冷却水の流量を調節した。
【0064】
図15のグラフにおける横軸の1〜7の番号は,各積層冷却器における個々の冷却チューブ71を識別するための番号である。図12の積層冷却器における最も左の冷却チューブ71(ハウジング8に接しているもの)を1番とし,右へ向かって順に付番し,最も右の冷却チューブ71(板バネ9に接しているもの)を7番としている。図11の積層冷却器についても同様に付番した。図13,図14の積層冷却器についても,1番が欠番であること以外は同様の付番とした。
【0065】
図15のグラフ中の最上段(図12の参考形態)の部分を見ると,概ね,次の順で温度上昇が大きくなっている。
・5番および6番:第2モータ駆動回路5(駆動担当)に属する両面冷却型パワーカード72により両面から挟まれる配置となっている冷却チューブ71である。そのため両側から相当量の排熱を受けるので,温度上昇幅が大きいのである。
・4番:一方の面にて第2モータ駆動回路5に属する両面冷却型パワーカード72から放熱を受け,もう一方の面にて第1モータ駆動回路4(発電担当)に属する両面冷却型パワーカード72から放熱を受ける冷却チューブ71である。
・7番:一方の面にて第2モータ駆動回路5に属する両面冷却型パワーカード72から放熱を受けるが,もう一方の面には放熱を受けない冷却チューブ71である。
・1番ないし3番:第1モータ駆動回路4に属する両面冷却型パワーカード72のみから放熱をうける冷却チューブ71である。
【0066】
図12の参考形態では,前述の通り冷却能力自体は積層冷却器の全体として均等に確保されている。図15の結果はこのことに対し,第1モータ駆動回路4(発電担当)に属する両面冷却型パワーカード72を冷却する部分(1〜3番の冷却チューブ71)で冷却能力が過剰となっていることを示している。
【0067】
図15のグラフ中の上から2段目(図11の第1の形態の積層冷却器701)でも,各冷却チューブ71の温度上昇は概ね,図12の参考形態の場合と同様である。図11では前述の通り,第1モータ駆動回路4に属する部分を片面冷却型パワーカード82で構成することにより,冷却能力の過剰を排除している。
【0068】
図15のグラフ中の上から3段目(図13の第2の形態の積層冷却器702)でも,1番が存在しないことを除いて概ね,最上段および2段目と同等の傾向を示している。
【0069】
図15のグラフ中の最下段(図14の第3の形態の積層冷却器703)では,2番から7番に至るまで,ほぼ均等の温度上昇を示している。両面から放熱を受ける冷却チューブ71(図15中偶数番のもの)と片面のみから放熱を受ける冷却チューブ71(図15中奇数番のもの)とを交互に配置したことの効果で,冷却チューブ71の負担が積層冷却器703の全体で平準化されているからである。以上が図15の説明である。
【0070】
[第4〜第6の形態]
第1〜第3の形態として説明した積層冷却器と同等の機能を有するものを,1in1型のパワーカードの替わりに2in1型のパワーカードを用いて構成することができる。これが第4〜第6の形態である。2in1型のパワーカードとは,図1の回路図中,1列の上下アームの合わせて2組分のトランジスタ(例えば41と42)およびそれらと対になる保護ダイオードDを1枚のパワーカードとして実装したものである。そこでまず,2in1型のパワーカードについて説明する。2in1型のパワーカードにも,両面冷却型と片面冷却型とがある。両面冷却型はさらに,U字型と称されるものとN字型と称されるものとに分けられる。以下順に説明する。
【0071】
図16に,U字2in1両面冷却型パワーカード74の横断面図(図7に相当する断面図)を示す。図16のU字2in1両面冷却型パワーカード74は,ハイサイド電極板24,ミドルサイド電極板25,ローサイド電極板26を有している。U字2in1両面冷却型パワーカード74では,一方の面の大部分がハイサイド電極板24とローサイド電極板26とにより占められており,もう一方の面の大部分がミドルサイド電極板25により占められている。これら3つの電極板のいずれもが放熱板としての機能を有している。つまり,両面がともに放熱面となっている。ハイサイド電極板24は,奇数番のトランジスタのコレクタ電極である。ミドルサイド電極板25は,奇数番のトランジスタのエミッタ電極と偶数番のトランジスタのコレクタ電極とを一体化したものである。ローサイド電極板26は,偶数番のトランジスタのエミッタ電極である。
【0072】
ハイサイド電極板24とミドルサイド電極板25との間と,ミドルサイド電極板25とローサイド電極板26との間とにそれぞれ,半導体部分15およびブロック電極16が挟み込まれている。ハイサイド電極板24側の半導体部分15が図1中の奇数番のトランジスタ等であり,ローサイド電極板26側の半導体部分15が奇数番のトランジスタ等である。ブロック電極16の存在理由は,1in1型の両面冷却型パワーカード72の場合と同じである。U字2in1両面冷却型パワーカード74では,図16を右に横倒ししてみると,ハイサイド電極板24からミドルサイド電極板25を通ってローサイド電極板26に至る電流経路が,概ね,アルファベットの「U」字状を示している。このことが,U字型と称される理由である。
【0073】
U字2in1両面冷却型パワーカード74では,ハイサイド電極板24,ミドルサイド電極板25,ローサイド電極板26の3つの電極板にそれぞれ,図6や図8中の「20」,「21」のようなバスバーが設けられる。ハイサイド電極板24はハイサイド線11に,ミドルサイド電極板25は対応する中間端子([0042]参照)に,ローサイド電極板26はローサイド線12に,それぞれ接続される。また,ハイサイド電極板24側の半導体部分15とローサイド電極板26側の半導体部分15とにそれぞれ,図6や図8中に「18」として示したような制御端子が設けられる。
【0074】
図17に,N字2in1両面冷却型パワーカード75の横断面図を示す。図17のN字2in1両面冷却型パワーカード75は,ハイサイド電極板24,ミドルサイド電極板27,ローサイド電極板26を有している。ミドルサイド電極板27は,図16中の平板状のミドルサイド電極板25と異なり,エミッタ部28とコレクタ部29とのステップ形状のものである。N字2in1両面冷却型パワーカード75では一方の面の大部分が,ハイサイド電極板24と,ミドルサイド電極板27のコレクタ部29とにより占められている。そしてもう一方の面の大部分が,ミドルサイド電極板27のエミッタ部28と,ローサイド電極板26とにより占められている。
【0075】
つまりN字2in1両面冷却型パワーカード75では,ハイサイド電極板24とローサイド電極板26とが別々の面に配置されており,ミドルサイド電極板27は図17中にて対角線状に配置されている。もちろんN字2in1両面冷却型パワーカード75でも,3つの電極板のいずれもが放熱板としての機能を有し,両面がともに放熱面となっている。
【0076】
N字2in1両面冷却型パワーカード75では,ハイサイド電極板24が奇数番のトランジスタのコレクタ電極である点と,ローサイド電極板26が偶数番のトランジスタのエミッタ電極である点は,図16のU字形の場合と共通である。そして,N字2in1両面冷却型パワーカード75では,ミドルサイド電極板27のエミッタ部28が奇数番のトランジスタのエミッタ電極であり,コレクタ部29は偶数番のトランジスタのコレクタ電極である。ハイサイド電極板24とミドルサイド電極板27のエミッタ部28との間と,ミドルサイド電極板27のコレクタ部29とローサイド電極板26との間とにそれぞれ,半導体部分15およびブロック電極16が挟み込まれている。
【0077】
N字2in1両面冷却型パワーカード75では,図17を横倒ししてみると,ハイサイド電極板24からミドルサイド電極板27を通ってローサイド電極板26に至る電流経路が,概ね,アルファベットの「N」字状を示している。このことが,N字型と称される理由である。N字2in1両面冷却型パワーカード75でも,ハイサイド電極板24,ミドルサイド電極板27,ローサイド電極板26の3つの電極板にそれぞれバスバーが設けられる。むろん,ハイサイド電極板24はハイサイド線11に,ミドルサイド電極板27は対応する中間端子に,ローサイド電極板26はローサイド線12に,それぞれ接続される。また,2つの半導体部分15にそれぞれ制御端子が設けられている。
【0078】
図18に,2in1片面冷却型パワーカード76の横断面図を示す。図18の2in1片面冷却型パワーカード76は,ハイサイド電極板24,ミドルサイド電極部材30,ミドルサイド電極板31,ローサイド電極部材32を有している。ミドルサイド電極板31は,図16中のミドルサイド電極板25や図17中のミドルサイド電極板27と異なり,ハイサイド電極板24とほぼ同様のサイズおよび形状のものである。これに対しミドルサイド電極部材30やローサイド電極部材32は,基本的に封止樹脂19に埋め込まれているものである。
【0079】
2in1片面冷却型パワーカード76では一方の面の大部分が,ハイサイド電極板24と,ミドルサイド電極板31とにより占められている。そしてもう一方の面はすべて封止樹脂19で占められている。2in1片面冷却型パワーカード76では,放熱板としての機能を持つのは,ハイサイド電極板24およびミドルサイド電極板31だけであり,この面だけが放熱面である。2in1片面冷却型パワーカード76は基本的に,図17のN字2in1両面冷却型パワーカード75を片面型に変形したものである。
【0080】
2in1片面冷却型パワーカード76では,ハイサイド電極板24が奇数番のトランジスタのコレクタ電極である点は,図16や図17の両面冷却型の場合と共通である。そして2in1片面冷却型パワーカード76では,ミドルサイド電極部材30が奇数番のトランジスタのエミッタ電極であり,ミドルサイド電極板31が偶数番のトランジスタのコレクタ電極であり,ローサイド電極部材32が偶数番のトランジスタのエミッタ電極である。ミドルサイド電極部材30とミドルサイド電極板31とは接続されている。
【0081】
ハイサイド電極板24とミドルサイド電極部材30との間と,ミドルサイド電極板31とローサイド電極部材32との間とにそれぞれ,半導体部分15が挟み込まれている。1in1片面冷却型パワーカード82(図10)の場合と同様,ブロック電極16はない。2in1片面冷却型パワーカード76では,ハイサイド電極板24,ミドルサイド電極板31,ローサイド電極部材32の3つの電極部材にそれぞれバスバーが設けられている。むろん,ハイサイド電極板24はハイサイド線11に,ミドルサイド電極板31は対応する中間端子に,ローサイド電極部材32はローサイド線12に,それぞれ接続される。また,2つの半導体部分15にそれぞれ制御端子が設けられている。
【0082】
もちろん,2in1型パワーカード74〜76でも,[0040]で説明したバリエーションが可能である。
【0083】
第4の形態は,上記の2in1型パワーカードを前述の第1の形態に適用したものである。図19にその一例を示す。図19の積層冷却器704は,図11の積層冷却器701を基として,次の変更を行ったものである。
(1)第1モータ駆動回路4内に3列ある,2枚の1in1片面冷却型パワーカード82による上下アームをそれぞれ,1枚の2in1片面冷却型パワーカード76(図18参照)で置き替える。
(2)第2モータ駆動回路5内に3列ある,2枚の1in1両面冷却型パワーカード72による上下アームをそれぞれ,1枚のU字2in1両面冷却型パワーカード74(図16参照)で置き替える。
【0084】
第5の形態は,前述の第2の形態に2in1型パワーカードを適用したものである。その一例を図20に示す。図20の積層冷却器705は,図13の積層冷却器702を基として,上記(1)と同じ変更と,次の変更とを行ったものである。
(3)第2モータ駆動回路5内に3列ある,2枚の1in1両面冷却型パワーカード72による上下アームをそれぞれ,1枚のN字2in1両面冷却型パワーカード75(図17参照)で置き替える。
【0085】
第6の形態は,前述の第3の形態に2in1型パワーカードを適用したものである。その一例を図21に示す。図21の積層冷却器706は,図14の積層冷却器703を基として,上記(1)および(2)と同じ変更を行ったものである。
【0086】
図19の積層冷却器704,図20の積層冷却器705,図21の積層冷却器706はそれぞれ,図11の積層冷却器701,図13の積層冷却器702,図14の積層冷却器703と同じ機能と利点を有している。積層冷却器704〜706については,さらに次のような変更が可能である。
【0087】
・第1モータ駆動回路4と第2モータ駆動回路5とのうち,いずれか一方のみについて上記の置き替えを行ってもよい(積層冷却器704〜706)。
・第2モータ駆動回路5にて,U字2in1両面冷却型パワーカード74の替わりにN字2in1両面冷却型パワーカード75を用いてもよい(積層冷却器704,706)。
・第2モータ駆動回路5にて,N字2in1両面冷却型パワーカード75の替わりにU字2in1両面冷却型パワーカード74を用いてもよい(積層冷却器705)。
・第1モータ駆動回路4の3列の上下アームのうち一部のみについて上記の置き換えを行ってもよい(積層冷却器704〜706)。
・第2モータ駆動回路5の3列の上下アームのうち一部のみについて上記の置き換えを行ってもよい(積層冷却器704〜706)。
・第2モータ駆動回路5にて,U字2in1両面冷却型パワーカード74とN字2in1両面冷却型パワーカード75とが混在してもよい(積層冷却器704〜706)。
以上が第4〜第6の形態の説明である。
【0088】
[第7〜第9の形態]
第1〜第6の形態として説明した積層冷却器と同等の機能を有するものを,1in1型や2in1型のパワーカードの替わりに3in1型のパワーカードを用いて構成することができる。これが第7〜第9の形態である。3in1型のパワーカードとは,図1の回路図中3組分のトランジスタおよびそのそれぞれに対応する保護ダイオードを1枚のパワーカードとして実装したものである。3組のトランジスタとは,第1モータ駆動回路4または第2モータ駆動回路5における,上アームの3組または下アームの3組のことである。具体的には,図1中の番号にて,41と43と45,42と44と46,51と53と55,52と54と56,のいずれかのことである。3in1型のパワーカードにも,両面冷却型と片面冷却型とがある。以下順に説明する。
【0089】
まず両面冷却型について説明する。3in1両面冷却型パワーカードには,2in1型の場合のようなU字型,N字型といった種別はないが,上アーム用と下アーム用の2種類がある。図22に,上アーム用3in1両面冷却型パワーカード77の横断面図(図7に相当する断面図)を示す。図22の上アーム用3in1両面冷却型パワーカード77は,共通ハイサイド電極板33と,3枚のミドルサイド電極板34とを有している。
【0090】
上アーム用3in1両面冷却型パワーカード77では,一方の面の大部分が共通ハイサイド電極板33により占められており,もう一方の面の大部分が3枚のミドルサイド電極板34により占められている。これら4つの電極板のいずれもが放熱板としての機能を有している。つまり,両面がともに放熱面となっている。共通ハイサイド電極板33は,図1中の奇数番の3つのトランジスタのコレクタ電極である。各ミドルサイド電極板34は,奇数番の3つのトランジスタの各エミッタ電極である。
【0091】
共通ハイサイド電極板33と3枚のミドルサイド電極板34との間にそれぞれ,半導体部分15およびブロック電極16が挟み込まれている。これら3つの半導体部分15が奇数番のトランジスタ等である。ブロック電極16の存在理由は,1in1型や2in1型の両面冷却型パワーカードの場合と同じである。上アーム用3in1両面冷却型パワーカード77では,共通ハイサイド電極板33と3枚のミドルサイド電極板34とにそれぞれ,つまり計4つのバスバーが設けられる。共通ハイサイド電極板33はハイサイド線11に,3枚のミドルサイド電極板34はそれぞれ中間端子([0042]参照)に接続される。また,3つの半導体部分15にそれぞれ,制御端子18が設けられる。
【0092】
図23に,下アーム用3in1両面冷却型パワーカード78の横断面図を示す。図23の下アーム用3in1両面冷却型パワーカード78は,3枚のミドルサイド電極板35と,共通ローサイド電極板36とを有している。下アーム用3in1両面冷却型パワーカード78では,一方の面の大部分が3枚のミドルサイド電極板35により占められており,もう一方の面の大部分が共通ローサイド電極板36により占められている。これら4つの電極板のいずれもが放熱板としての機能を有している。つまり,両面がともに放熱面となっている。各ミドルサイド電極板35は,偶数番の3つのトランジスタの各コレクタ電極である。共通ローサイド電極板36は,偶数番の3つのトランジスタのエミッタ電極である。
【0093】
3枚のミドルサイド電極板35と共通ローサイド電極板36との間にそれぞれ,半導体部分15およびブロック電極16が挟み込まれている。これら3つの半導体部分15が偶数番のトランジスタ等である。ブロック電極16の存在理由は,これまでに登場した両面冷却型パワーカードの場合と同じである。下アーム用3in1両面冷却型パワーカード78では,3枚のミドルサイド電極板35と共通ローサイド電極板36とにそれぞれ,つまり4つのバスバーが設けられる。3枚のミドルサイド電極板35はそれぞれ,対応する中間端子および上アーム用3in1両面冷却型パワーカード77のミドルサイド電極板34のうち対応するものに接続される。共通ローサイド電極板36はローサイド線12に接続される。また,3つの半導体部分15にそれぞれ,制御端子18が設けられる。
【0094】
続いて片面冷却型について説明する。3in1片面冷却型パワーカードにも,上アーム用と下アーム用の2種類がある。図24に上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79の横断面図を示す。図24の上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79は,共通ハイサイド電極板33と,3個のミドルサイド電極部材37とを有している。ミドルサイド電極部材37は,図22中のミドルサイド電極板34と異なり,基本的に封止樹脂19に埋め込まれているものである。
【0095】
上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79では一方の面の大部分が,共通ハイサイド電極板33により占められている。そしてもう一方の面はすべて封止樹脂19で占められている。上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79では,放熱板としての機能を持つのは,共通ハイサイド電極板33だけであり,この面だけが放熱面である。上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79は基本的に,図22の上アーム用3in1両面冷却型パワーカード77を片面型に変形したものである。
【0096】
上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79では,共通ハイサイド電極板33が奇数番の3つのトランジスタのコレクタ電極である点は,図22の両面冷却型の場合と共通である。また,3個のミドルサイド電極部材37は,奇数番の3つのトランジスタの各エミッタ電極である。共通ハイサイド電極板33と3個のミドルサイド電極部材37との間にそれぞれ,半導体部分15が挟み込まれている。1in1型や2in1型の片面冷却型パワーカードの場合と同様,ブロック電極16はない。上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79では,共通ハイサイド電極板33および3個のミドルサイド電極部材37にそれぞれ,つまり計4つのバスバーが設けられる。共通ハイサイド電極板33はハイサイド線11に,3個のミドルサイド電極部材37はそれぞれ中間端子に接続される。また,3つの半導体部分15にそれぞれ,制御端子18が設けられる。
【0097】
図25に下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80の横断面図を示す。図25の下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80は,3枚のミドルサイド電極板35と,共通ローサイド電極部材38とを有している。共通ローサイド電極部材38は,図23中の共通ローサイド電極板36と異なり,基本的に封止樹脂19に埋め込まれているものである。
【0098】
下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80では一方の面の大部分が,3枚のミドルサイド電極板35により占められている。そしてもう一方の面はすべて封止樹脂19で占められている。下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80では,放熱板としての機能を持つのは,3枚のミドルサイド電極板35だけであり,この面だけが放熱面である。下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80は基本的に,図23の下アーム用3in1両面冷却型パワーカード78を片面型に変形したものである。
【0099】
下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80では,3枚のミドルサイド電極板35が偶数番の3つのトランジスタの各コレクタ電極である点は,図23の両面冷却型の場合と共通である。また,共通ローサイド電極部材38は,偶数番の3つのトランジスタの各エミッタ電極である。3枚のミドルサイド電極板35と共通ローサイド電極部材38との間にそれぞれ,半導体部分15が挟み込まれている。上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79の場合と同様,ブロック電極16はない。
【0100】
下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80では,3枚のミドルサイド電極板35および共通ローサイド電極部材38にそれぞれ,つまり計4つのバスバーが設けられる。3枚のミドルサイド電極板35はそれぞれ対応する中間端子に接続される。つまり上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79の3個のミドルサイド電極部材37のうち対応するものにもそれぞれ接続される。共通ローサイド電極部材38はローサイド線12に接続される。また,3つの半導体部分15にそれぞれ,制御端子18が設けられる。
【0101】
むろん,3in1型パワーカード77〜80でも,[0040]で説明したバリエーションが可能である。
【0102】
第7の形態は,上記の4種類の3in1型パワーカードを前述の第1の形態に適用したものである。図26にその一例を示す。図26の積層冷却器707は,3in1型パワーカード77〜80を,5個の冷却チューブ81の間に配置して構成したものである。ここで,上アーム用3in1両面冷却型パワーカード77と,上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79とはいずれも,ハイサイド線11と負荷側端子との間の導通状況の操作を担当している。下アーム用3in1両面冷却型パワーカード78と,下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80とはいずれも,負荷側端子とローサイド線12との間の導通状況の操作を担当している。
【0103】
3in1型のパワーカードを使用していることにより,第1の形態の積層冷却器701(図11)と比較して冷却チューブ81の個数が2個少なくなっている。ただし図26中の冷却チューブ81は,図11等で使用していた冷却チューブ71より,図26中上下方向に少し長い。その余の点では基本的に,積層冷却器707は積層冷却器701と同様に構成されている。
【0104】
すなわち積層冷却器707では,図中左のハウジング8寄りの3個の冷却チューブ81の間に,上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79と下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80とが配置されている。これらが第1モータ駆動回路4を構成している。また,図中右の板バネ9寄りの3個の冷却チューブ81の間に,上アーム用3in1両面冷却型パワーカード77と下アーム用3in1両面冷却型パワーカード78とが配置されている。これらが第2モータ駆動回路5を構成している。このような構成でも,冷却負荷の低い第1モータ駆動回路4の部分が片面冷却型のパワーカードで構成されていることには変わりない。よって,余分なコストの発生が防止されている。
【0105】
図27は,図26の積層冷却器707に対応する参考形態の積層冷却器の断面図である。図27の積層冷却器では,第1モータ駆動回路4の部分も,片面冷却型ではなく両面冷却型の3in1型パワーカードで構成されている。すなわちこれは,図12に示した参考形態を,3in1型パワーカードで構成で構成したものであるといえる。むろん図27の構成では,2つの上アーム用3in1両面冷却型パワーカード77はいずれも,ハイサイド線11と負荷側端子との間の導通状況の操作を担当している。2つの下アーム用3in1両面冷却型パワーカード78はいずれも,負荷側端子とローサイド線12との間の導通状況の操作を担当している。
【0106】
第8の形態は,3in1型パワーカードを第2の形態(図13)に適用したものである。ということは言い替えると,前記第7の形態において片面冷却型のパワーカードの向きを逆向きにすることにより,冷却チューブ81の個数を1つ減らしたものであるといえる。図28にその一例である積層冷却器708の断面図を示す。
【0107】
第9の形態は,3in1型パワーカードを第3の形態(図14)に適用したものである。ということは言い替えると,前記第8の形態において両面冷却型のパワーカードと片面冷却型のパワーカードとの配置を交互とすることにより,冷却チューブ81の冷却負荷の平準化を図ったものであるといえる。図29にその一例である積層冷却器709の断面図を示す。
【0108】
ここで,ここまでに説明した第7〜第9の形態(図26,図28,図29)およびそれらの参考形態(図27)について,冷却チューブ81の負荷の分布状況を測定したので,その結果を図30のグラフにより説明する。この測定は,図15のグラフの説明([0062]〜[0064])にて述べたのと同様の方法により行った。ただし,冷媒としては,純水にエチレングリコールを添加することにより沸点が100℃以上となるように調整したものを使用した。また,冷却チューブ81の番号は5番までである。さらに,各冷却チューブ81における温度上昇幅の上限値を105℃とした。図30のグラフからも,図15のグラフについて[0065]〜[0069]で述べたのとほぼ同様の結果を読み取ることができる。以上が第7〜第9の形態の説明である。
【0109】
[第10の形態]
続いて第10の形態について説明する。第10の形態に係る積層冷却器710の断面図を図31に示す。図31の積層冷却器710は,第7の形態の積層冷却器707(図26)に基づいて,次の2点の改変を施したものである。
・下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80の向きを,図中左右方向に反転させること。
・上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79と下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80との間の冷却チューブ81,つまり図26中で左から2番目の冷却チューブ81を除去すること。
【0110】
図31の積層冷却器710では,上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79と下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80とが,それらの非放熱面同士を対面させて密着している。その間に冷却チューブ81はない。非放熱面同士なので,ここでの冷却は不要だからである。よって積層冷却器710では,図26の積層冷却器707に比して,冷却チューブ81が1つ少なくて済んでいる。図31の積層冷却器710における各冷却チューブ81の負荷の分布状況についての図30と同様の測定結果を,図32に示す。図32では,冷却チューブ81の番号の2番が欠番となっている。図32のグラフでは,図30のグラフ中の上から3段目(図28の形態の結果)とほぼ同様の結果が得られている。
【0111】
積層冷却器710を図28の積層冷却器708と比較すると,冷却チューブ81の個数では同じである。しかしながら積層冷却器710は積層冷却器708に対し,第1モータ駆動回路4の部分の配線のインダクタンスが小さいという利点を有する。このため,サージが発生しにくいのである。
【0112】
積層冷却器710(図31)がこのような利点を有する理由は,共通ハイサイド電極板33と共通ローサイド電極部材38との間の距離が,図28の場合と比較して小さいことにある。そしてこのことは,第1モータ駆動回路4の部分の積層順序によるものである。図28の積層冷却器708では上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79と下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80との間に冷却チューブ81が配置されているのに対し,図31の積層冷却器710ではその位置に冷却チューブ81がないからである。
【0113】
図31に示した積層冷却器710では,第1モータ駆動回路4中の上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79および下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80の全体を,図中で左右反転してもよい。以上が第10の形態の説明である。
【0114】
[第11,第12の形態]
第10の形態のような第1モータ駆動回路4の部分におけるインダクタンス低減は,第1モータ駆動回路4を両面冷却型のパワーカードで構成しても達成することができる。これを具体化したものが第11の形態である。その積層冷却器714の断面を図33に示す。図33の積層冷却器714は,図27の積層冷却器に基づいて,その図中左から2番目の冷却チューブ81とその両面の絶縁板73を除去したものである。図33中の第1モータ駆動回路4では,共通ハイサイド電極板33と共通ローサイド電極板36との間の距離が,冷却チューブ81および絶縁板73が除去されている分,図27中の当該箇所より小さい。このため第10の形態の場合と同様にインダクタンス低減効果を有する。
【0115】
図33の積層冷却器714における第1モータ駆動回路4では,上アーム用3in1両面冷却型パワーカード77の3枚のミドルサイド電極板34と,下アーム用3in1両面冷却型パワーカード78の3枚のミドルサイド電極板35とが,間に何も挟まず直に接している。これにより,上アーム用3in1両面冷却型パワーカード77と下アーム用3in1両面冷却型パワーカード78との間の導通が取られている。このことから,ミドルサイド電極板34とミドルサイド電極板35とのうちいずれか一方については,バスバーを有する必要がない。[0091],[0093]ではいずれにもバスバーが設けられると説明したが,本形態では,対応する中間端子との接続のためにいずれか一方にバスバーが設けられていれば十分である。
【0116】
なお,本形態におけるミドルサイド電極板34とミドルサイド電極板35との密着面については,[0040]で説明した絶縁シートを備えることができない。ただし,ミドルサイド電極板34とミドルサイド電極板35との両方にバスバーを備えるのであれば,絶縁シートを備えていてもよい。
【0117】
図33に示す本形態の積層冷却器714では,第1モータ駆動回路4と第2モータ駆動回路5とがともに,両面冷却型のパワーカードで構成されている。しかしながら,第2モータ駆動回路5の部分が3個の冷却チューブ81で冷却されるのに対し,第1モータ駆動回路4は2個の冷却チューブ81で冷却されるに留まる。つまり本形態では,第1モータ駆動回路4を構成しているパワーカードは,それ自体の構造としては両面冷却型であるものの,積層冷却器714内での配置上は実質的に片面冷却型として取り扱われていると言える。
【0118】
したがって,第1モータ駆動回路4の冷却能力は第2モータ駆動回路5の冷却能力より低い。よって積層冷却器714は,第1モータ駆動回路4に過剰な冷却能力を有しているわけではない。第1モータ駆動回路4の発熱量は第2モータ駆動回路5の発熱量より低いので,これで十分である。これでも,冷却チューブ81および絶縁板73を除去した分,図27のものと比較して部品点数が少なくなっている。
【0119】
第11の形態のインダクタンス低減をさらに推し進めたのが第12の形態である。第12の形態に係る積層冷却器715を図34に示す。図34の積層冷却器715の,図33に対する相違点は,第1モータ駆動回路4中の上アーム用3in1両面冷却型パワーカード77と下アーム用3in1両面冷却型パワーカード78とが入れ替えられていることである。そしてそれらの間に絶縁板73が挟み込まれていることである。これにより,共通ハイサイド電極板33と共通ローサイド電極板36との間の距離が,絶縁板73の厚みの分だけとなっており,非常に小さい。このため,第1モータ駆動回路4のインダクタンスが,第11の形態と比較してもさらに小さくなっている。
【0120】
ただし図34の積層冷却器715では,ミドルサイド電極板34とミドルサイド電極板35との両方にバスバーが必要である。また,絶縁板73が1枚増えた分,図33と比較して部品点数が増えている。なお,ミドルサイド電極板34の面とミドルサイド電極板35の面とのいずれか少なくとも一方に,[0040]で説明した絶縁シート22を設けることにより,これらの面の間の絶縁板73を省略できる。
【0121】
図33の積層冷却器714および図34の積層冷却器715でも,[0113]で説明したのと同様の変形が可能である。すなわち,第1モータ駆動回路4において,上アーム用3in1両面冷却型パワーカード77および下アーム用3in1両面冷却型パワーカード78の全体を,図中で左右反転してもよい。以上が第11および第12の形態の説明である。
【0122】
以上説明した,3in1型パワーカードを用いる形態(第7〜第12の形態)においては,3in1型パワーカードを,3枚の1in1型パワーカードで置き替えることができる。すなわち,上アーム用3in1両面冷却型パワーカード77(図22)や下アーム用3in1両面冷却型パワーカード78(図23)は,3枚の1in1両面冷却型パワーカード72(図7等)で置き替えられる。上アーム用3in1片面冷却型パワーカード79や下アーム用3in1片面冷却型パワーカード80は,3枚の1in1片面冷却型パワーカード82(図10,横断面図は図11等の中に現れている)で置き替えられる。その場合に3枚の1in1片面冷却型パワーカード82は,表裏同じ向きにして横並びに配置される。
【0123】
[第13の形態]
ハイブリッド自動車のハイブリッドシステムでは,バッテリーとインバータ回路との間に昇降圧回路を挿入した構成とされる場合がある。その目的は2つある。1つは,車両駆動時にバッテリー電圧を昇圧して供給することによりモータ電流を小さくすることである。もう1つは,制動回生時にモータの発電電圧を降圧してバッテリーの充電に用いることである。その場合には,図1中のバッテリー1の部分が,図35に示すようにバッテリー10に昇降圧回路39を付加したもので置き替えられる。この,昇降圧回路39を有するハイブリッドシステムに本発明を適用したのが第13の形態である。
【0124】
まず昇降圧回路39について説明する。図35の昇降圧回路39は基本的に,ミドルサイド線59とローサイド線12との間の低圧側部分(図35中ではバッテリー10)と,ハイサイド線11とローサイド線12との間の高圧側部分(つまり図1の第1モータ駆動回路4や第2モータ駆動回路5)との間で電圧変換を行う回路である。昇降圧回路39は,リアクトル60と,トランジスタ61,62,63,64とにより構成されている。
【0125】
具体的には,ハイサイド線11とミドルサイド線59との間に,トランジスタ61とトランジスタ63とが並列に配置されている。昇降圧回路39では,これら2つのトランジスタを上アームのトランジスタという。また,ミドルサイド線59とローサイド線12との間に,トランジスタ62とトランジスタ64とが並列に配置されている。これら2つのトランジスタを下アームのトランジスタという。そしてリアクトル60は,トランジスタ群61〜64とバッテリー10との間の位置に配置されている。リアクトル60の位置は,図35ではミドルサイド線59上であるが,ローサイド線12におけるトランジスタ群62,64とバッテリー10との間の位置であってもよい。なお,図1の回路の説明中で言及した制御電極Pや保護ダイオードDは当然,図35中の各トランジスタ61,62,63,64にも設けられている。
【0126】
図35では,上アームと下アームはいずれも,2つのトランジスタの並列として記載されてる。しかしながらこのことは必須事項ではない。回路の電流負荷が小さい場合には上下アームをそれぞれ1つのトランジスタで構成してもよい。逆に負荷が大きい場合には,3つ以上のトランジスタの並列として構成してもよい。以下の説明では,特記しない限り,図35の通り上下アームとも2つのトランジスタの並列であることとする。
【0127】
昇降圧回路39の動作は,車両駆動時と制動回生時とで異なる。車両駆動時には,下アームのトランジスタ62,64がオンオフを反復するのに対し,上アームのトランジスタ61,63はオフに固定される。制動回生時には逆に,上アームのトランジスタ61,63がオンオフを反復するのに対し,下アームのトランジスタ62,64はオフに固定される。つまり,上アームと下アームとが同時にオンとされることはない。
【0128】
上記の昇降圧回路39も,図1の第1モータ駆動回路4や第2モータ駆動回路5とともに積層冷却器に組み込まれる。そのため,図35中のトランジスタ61〜64も,図1中のトランジスタのようにパワーカード化されている。第13の形態で用いるパワーカードは,図36の横断面図に示すような並列2in1両面冷却型パワーカード83である。図36の並列2in1両面冷却型パワーカード83は,コレクタ電極板84,エミッタ電極板85を有している。並列2in1両面冷却型パワーカード83では,一方の面の大部分がコレクタ電極板84により占められており,もう一方の面の大部分がエミッタ電極板85により占められている。これら2つの電極板のいずれもが放熱板としての機能を有している。つまり,両面がともに放熱面となっている。コレクタ電極板84は,図35中の横並びの2つのトランジスタ(61と63,または,62と64)の共通のコレクタ電極である。エミッタ電極板85は,同じく横並びの2つのトランジスタの共通のエミッタ電極である。
【0129】
コレクタ電極板84とエミッタ電極板85との間の2箇所に,半導体部分15およびブロック電極16が挟み込まれている。これら2つの半導体部分15が,前述の2つのトランジスタ等である。ブロック電極16の存在理由は,これまでに説明した各種の両面冷却型パワーカードの場合と同じである。並列2in1両面冷却型パワーカード83では,コレクタ電極板84とエミッタ電極板85とにそれぞれ,バスバーが設けられる。また,2つの半導体部分15にそれぞれ,制御端子が設けられる。
【0130】
図35の昇降圧回路39を構成するには,2枚の並列2in1両面冷却型パワーカード83が必要である。2枚の並列2in1両面冷却型パワーカード83で構成した昇降圧回路39を組み込んだ積層冷却器716の横断面図を図37に示す。これが第13の形態である。図37の積層冷却器716は,8個の冷却チューブ71と,6枚のN字2in1両面冷却型パワーカード75(図17参照)と,2枚の並列2in1両面冷却型パワーカード83(図36参照)とにより構成されている。
【0131】
図37の積層冷却器716中の昇降圧回路39は,8個の冷却チューブ71のうち図中右端の2つの間に位置している。そこでは,2個の冷却チューブ71の間に,2枚の並列2in1両面冷却型パワーカード83が重ねて挟み込まれている。図中左側のパワーカード83が上アーム(トランジスタ61,63)であり,右側のパワーカード83が下アーム(トランジスタ62,64)である。むろん,上アーム用の左側のパワーカード83がハイサイド線11とミドルサイド線59との間の導通状況の操作を担当している。下アーム用の右側のパワーカード83がミドルサイド線59とローサイド線12との間の導通状況の操作を担当している。この昇降圧回路39では,上アームのエミッタ電極板85と下アームのコレクタ電極板84とが,間に何も挟まず直に接している。これにより,上下アームのパワーカード83間の導通が取られている。
【0132】
このため,上アームのエミッタ電極板85と下アームのコレクタ電極板84とのうちいずれか一方については,バスバーを有する必要がない。[0129]ではいずれにもバスバーが設けられると説明したが,図37の構成では,図35中のミドルサイド線59との接続のためにいずれか一方にバスバーが設けられていれば十分である。むろんここでも,上アームのエミッタ電極板85と下アームのコレクタ電極板84との密着面については,[0040]で説明した絶縁シートを備えることができない。ただし,上アームのエミッタ電極板85と下アームのコレクタ電極板84との両方にバスバーを備えるのであれば,絶縁シートを備えていてもよい。
【0133】
図37の積層冷却器716中の昇降圧回路39では,上アームのパワーカード83と下アームのパワーカード83との間には冷却チューブ71が設けられていない。その分,昇降圧回路39における冷却能力は,第1モータ駆動回路4や第2モータ駆動回路5と比較して弱い。第1モータ駆動回路4や第2モータ駆動回路5では2個の冷却チューブ71かんには1枚のパワーカードしか挟持されていないからである。しかしそれでも,[0127]で説明した理由により,昇降圧回路39の冷却能力は十分である。上アームまたは下アームの一方のトランジスタがオンオフ反復により発熱するときには,他方が,オフ固定により発熱しないだけでなく,オンオフしている側の発生した熱を吸収して放熱させる役割を果たすからである。つまり,図37中のパワーカード83は,擬似的に両面放熱型として機能しているのである。このためむしろ,過剰な冷却能力を持つことなく,部品点数を少なくしている点でメリットが大きい。
【0134】
また,図37中の第1モータ駆動回路4の部分を,図20に示した積層冷却器705のように,2in1片面冷却型パワーカード76(図18参照)を用いて構成してもよい。前述のように第1モータ駆動回路4に必要な冷却能力は,第2モータ駆動回路5に必要な冷却能力より低いからである。そのようにすればさらに構造を簡素化できる。なお,[0126]で述べたように昇降圧回路39を上下アーム各1つのトランジスタで構成する場合には,1in1型パワーカード(図7の「72」)を用いる。昇降圧回路39を上下アーム各3つのトランジスタで構成する場合には,3in1型パワーカード(図36の「83」を3素子並列型としたもの)を用いることができる。
【0135】
図37の積層冷却器716ではさらに,次のような変形が可能である。
・第2モータ駆動回路5の部分を,図19に示した積層冷却器704のように,U字2in1両面冷却型パワーカード74(図16参照)を用いて構成してもよい。この場合の第1モータ駆動回路4は,U字2in1両面冷却型パワーカード74と2in1片面冷却型パワーカード76とのいずれで構成してもよい。ただし前述と同様の理由により,2in1片面冷却型パワーカード76を用いた方がメリットが大きい。
・第1モータ駆動回路4と第2モータ駆動回路5とを配置上,入れ替えてもよい。
・図21に示した積層冷却器706のように,第1モータ駆動回路4を構成するパワーカードと第2モータ駆動回路5を構成するパワーカードとを交互に配置してもよい。むろんその場合のパワーカードの種類は,既述のいかなるバリエーションでもよい。
【0136】
また,上記のようなことを,図26〜図29,図31,図33,図34に示したように,3in1型パワーカードを用いて構成してもよい。その場合の昇降圧回路39については,図37中の構成と同じでもよいし,図38に示す並列2in1両面冷却型パワーカード86を用いて構成してもよい。図38の並列2in1両面冷却型パワーカード86は,構成としては図36の並列2in1両面冷却型パワーカード83と同等であるが,サイズのみを3in1型パワーカードに合わせたものである。
【0137】
本形態の積層冷却器716では,昇降圧回路39の部分についても,変形が可能である。図39の横断面図に示すのが,その変形例である。この変形例は,図37中の2枚の並列2in1両面冷却型パワーカード83をそれぞれ図中で左右反転するとともに,それらの間に絶縁板73を挟み込んだものである。図39の例では,図37の構成と比較して,絶縁板73が1枚多く必要であるものの,昇降圧回路39のインダクタンスが小さいという利点を有する。上アームのコレクタ電極板84と下アームのエミッタ電極板85とが,間に1枚の絶縁板73のみを挟んで配置されているからである。なお図39の例では,上アームのエミッタ電極板85と下アームのコレクタ電極板84との双方を,図35中のミドルサイド線59に接続する必要がある。以上が第13の形態の説明である。
【0138】
[第14の形態]
第14の形態は,前記の第13の形態の積層冷却器716を変形したものである。具体的には,昇降圧回路39におけるトランジスタ61,62,63,64の部分についてのパワーカードの構成を変更したものである。本形態では,図40に示すように,トランジスタ61,62で1つのパワーカードを構成し,トランジスタ63,64で1つのパワーカードを構成する。すなわち,第13の形態では上下アームそれぞれを1つのパワーカードとしていたのに対し,本形態では上下アームにわたる1列の2個のトランジスタを1つのパワーカードとするのである。
【0139】
このためのパワーカードとしては,いずれも既出の,U字2in1両面冷却型パワーカード74(図16),または,N字2in1両面冷却型パワーカード75(図17)を使用することができる。本形態ではこれらのパワーカードはいずれも,各々が,ハイサイド線11とミドルサイド線59との間の導通状況の操作,および,ミドルサイド線59とローサイド線12との間の導通状況の操作を担当する。
【0140】
U字2in1両面冷却型パワーカード74を用いて昇降圧回路39を構成した例を,図41に示す。図41の例では,2個の冷却チューブ71の間に,2枚のU字2in1両面冷却型パワーカード74が重ねて挟み込まれている。この昇降圧回路39では,左右2枚のパワーカード74のミドルサイド電極板25同士が,間に何も挟まず直に接している。このため,左右2枚のパワーカード74のうちいずれか一方については,ミドルサイド電極板25にバスバーを有する必要がない。[0073]ではミドルサイド電極板25にバスバーが設けられると説明したが,図41の構成では,図35中のミドルサイド線59との接続のためにいずれか一方にバスバーが設けられていれば十分である。
【0141】
むろんここでも,ミドルサイド電極板25同士の密着面については,[0040]で説明した絶縁シートを備えることができない。ただし,両方のパワーカード74のミドルサイド電極板25にバスバーを備えるのであれば,絶縁シートを備えていてもよい。図41の構成例の昇降圧回路39でも,冷却性や部品点数に関して,[0133]で説明したのと同じ効果が得られる。
【0142】
図42は,図41の構成例中における左右2枚のU字2in1両面冷却型パワーカード74を入れ替えるとともに,それらの間に絶縁板73を挟み込んだ構成例である。図42の構成例では,部品点数やインダクタンスに関して,[0137]で述べたのと同様のことが言える。ハイサイド電極板24とローサイド電極板26とが,間に1枚の絶縁板73のみを挟んで配置されているからである。しかもそのような箇所が2箇所ある。なお図42の構成例では,左右2枚のパワーカード74のミドルサイド電極板25をいずれも,図35中のミドルサイド線59に接続する必要がある。
【0143】
図43は,N字2in1両面冷却型パワーカード75を用いて昇降圧回路39を構成した例である。この構成例は,図42の構成例における2枚のU字2in1両面冷却型パワーカード74をいずれも,2in1両面冷却型パワーカード75で置き替えたものである。図43の構成例でも,ハイサイド電極板24とローサイド電極板26とが間に1枚の絶縁板73のみを挟んで対面して配置されている箇所が1箇所ある。したがって,図42の構成例の場合よりは限定的ではあるが,ある程度のインダクタンス低減効果はある。
【0144】
なお,図43中の2枚のパワーカード75の一方のみを図中で左右反転させて配置することもできるが,その場合にはインダクタンス低減効果はあまり得られない。なお,N字2in1両面冷却型パワーカード75とU字2in1両面冷却型パワーカード74とを1枚ずつ用いて図42または図43に示したように構成することも可能である。
【0145】
図41〜図43では,図37中の第1モータ駆動回路4や第2モータ駆動回路5の部分については図示を省略している。むろん,本形態におけるこの部分については,図37に示した構成でもよいし,[0135]あるいは[0136]で説明した変形による構成であってもよい。
【0146】
なお,図41〜図43の構成例の昇降圧回路39ではいずれも,上アームのトランジスタと下アームのトランジスタとが図中で左右に並んで配置されるようになっている。言い替えると,上アームのトランジスタ同士,または下アームのトランジスタ同士が図中で左右に並ぶことはないということである。これは,[0127]で説明したことから,昇降圧回路39の動作上,同時にオンとされるトランジスタ同士が近接して配置されることがないようにしたものである。このことは必須ではないが,発熱箇所を分散させることができる点で有利である。
【0147】
さらに,図41〜図43の構成例の昇降圧回路39ではいずれも,昇降圧回路39の動作時に,図中右側の冷却チューブ71に放熱するトランジスタ群と,図中左側の冷却チューブ71に放熱するトランジスタ群とのうち1個ずつが発熱する。このことは,車両駆動時と制動回生時とのいずれの動作モードでも言える。そしてこのことは,放熱先の冷却チューブ71の分散という点で,図37の第13の形態の構成例より有利である。以上が第14の形態の説明である。
【0148】
以上詳細に説明したように本実施の形態に係る各積層冷却器(半導体装置)では,その部位により,回路の発熱量が異なり,そのために冷却チューブの冷却負荷も異なっている。そこで,冷却負荷の低い部位においては,必要な冷却能力を保持できる範囲内で敢えて,冷却能力を落とした構成を採用している。すなわち,両面冷却型パワーカードの替わりに片面冷却型パワーカードを採用したり,冷却チューブを間引いたりしている。これにより,必要な冷却能力を確保しつつ,構造を簡素化して部品点数やコストの削減を実現している。
【0149】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,図11等の積層冷却器の構成において,第1モータ駆動回路4と第2モータ駆動回路5との配置を逆にしてもよい。また,昇降圧回路39は,電池側が高圧でモータ側が低圧である構成であってもよい。また,図37の構成例において,第1モータ駆動回路4と第2モータ駆動回路5と昇降圧回路39との配置を適宜変更してもよい。また,パワーカードの種類のうち1in1型,2in1型,3in1型の区別について,上記形態では基本的に,同じ型のもので構成しているが,混合して構成することも可能である。
【符号の説明】
【0150】
1,10 電池
2,3 モータ
2U,2V,2W,3U,3V,3W モータ側端子
4 第1モータ駆動回路
5 第2モータ駆動回路
11 ハイサイド線
12 ローサイド線
22 絶縁シート
24 ハイサイド電極板
25 ミドルサイド電極板
26 ローサイド電極板
33 共通ハイサイド電極板
34,35 ミドルサイド電極板
36 共通ローサイド電極板
39 昇降圧回路
59 ミドルサイド線
71,81 冷却器
72,74〜80,82,83,86 パワーカード(半導体素子)
73 絶縁板
84 コレクタ電極板
85 エミッタ電極板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に冷媒を通す冷却器と,半導体素子とを積層してなる半導体装置において,
前記半導体素子として,
動作時の発熱量が大きい回路を構成するとともに,両面が放熱面とされ両方の放熱面がいずれも冷却器と接触するように配置されている両面放熱半導体素子と,
動作時の発熱量が小さい回路を構成するとともに,一方の面が放熱面とされその放熱面が冷却器と接触するように配置されている片面放熱半導体素子とを有することを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置において,複数の前記片面放熱半導体素子を有し,
前記片面放熱半導体素子のうち一部のものは,
前記片面放熱半導体素子および前記両面放熱半導体素子の中で最も端に位置し,
前記放熱面が,他の前記片面放熱半導体素子および前記両面放熱半導体素子の方を向くとともに冷却器と接触し,
他方の面が他の冷却器と接触しないように配置されており,
前記片面放熱半導体素子のうち残りのものは,
両方の面がいずれも冷却器と接触するとともに,
前記放熱面の向きが,前記最も端に位置する片面放熱半導体素子の放熱面と同じ向きになるように配置されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体装置において,複数の前記両面放熱半導体素子を有し,
前記片面放熱半導体素子と前記両面放熱半導体素子とが交互に配置されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体装置において,複数の前記片面放熱半導体素子を有し,前記複数の片面放熱半導体素子は,
各前記放熱面がそれぞれ冷却器と接触し,
他方の面同士が互いに接触するように配置されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項5】
内部に冷媒を通す冷却器と,半導体素子とを積層してなる半導体装置において,
前記半導体素子として,
動作時の発熱量が大きい回路を構成するとともに,両面がいずれも冷却器と接触するように配置されている両面放熱半導体素子と,
動作時の発熱量が小さい回路を構成するとともに,一方の面のみが冷却器と接触するように配置されている片面放熱半導体素子とを有することを特徴とする半導体装置。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体装置において,複数の前記片面放熱半導体素子を有し,前記複数の片面放熱半導体素子は,
各前記一方の面がそれぞれ冷却器と接触し,
他方の面同士が互いに接触するように配置されていることを特徴とする半導体装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1つに記載の半導体装置において,
前記両面放熱半導体素子が,車両における電源から動力発生担当モータへの供給電流を制御する動力モータ駆動回路を構成しており,
前記片面放熱半導体素子が,車両における回生発電担当モータから電源への回生電流を制御する発電モータ駆動回路を構成していることを特徴とする半導体装置。
【請求項8】
請求項5または請求項6に記載の半導体装置において,
前記両面放熱半導体素子が,電源と負荷との間の電流を制御する負荷駆動回路を構成しており,
前記片面放熱半導体素子が,電源と負荷との間で電圧の昇降を行う昇降圧回路を構成していることを特徴とする半導体装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図35】
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【図36】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図37】
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