説明

単結晶ダイヤモンドエンドミル、およびその製造方法

【課題】安定した品質が得られる人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられたダイヤモンドチップを有する単結晶ダイヤモンドエンドミルの耐摩耗性を改善して耐久性を一層向上させる。
【解決手段】工具本体52に工具軸心Oと平行に設けられたV字溝62に正四角柱形状のダイヤモンド素材64の第1稜線66部分が嵌め入れられ、その第1稜線66に隣接する一対の側面68がV字溝62の一対の壁面にそれぞれ密着するように位置決めされて一体的に固設されているとともに、第1稜線66に対して対角位置の第2稜線70部分が除去されることによりすくい面72が形成され、そのすくい面72の一方の側端縁が外周刃74として用いられるため、人工ダイヤモンドの稜線をそのまま外周刃として用いる場合に比較して、外周刃74の耐摩耗性が改善されて耐久性が向上する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単結晶ダイヤモンドエンドミルに係り、特に、耐摩耗性を改善して耐久性を一層向上させる技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
軸状の工具本体の先端取付部にダイヤモンドチップが一体的に固設され、工具軸心Oまわりに回転駆動されることによりそのダイヤモンドチップに設けられた切れ刃で切削加工を行うダイヤモンドエンドミルが知られている(特許文献1参照)。そして、このようなダイヤモンドとして、単結晶の人工ダイヤモンドを素材として使用することが考えられている。単結晶の人工ダイヤモンドは、基本的に6つの{100}面を備える六面体形状、すなわち隣接する面が互いに直角な立方体や直方体で、一般に天然ダイヤモンドに比べて耐摩耗性は劣るものの、個々のばらつきが小さく、安定した品質が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−204922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図4は、未だ公知ではないが、上記人工ダイヤモンドを使用したエンドミルの一例を説明する図で、(a) の人工ダイヤモンド10は全ての平面12が{100}面にて構成されている板状の六面体形状を成しており、(b) に示すように先端取付部に工具軸心Oと平行な平坦なチップ取付座14が形成された工具本体16に対し、(c) に示すように銀ろう等を介して一体的に固設され、工具軸心Oと平行な稜線の一つが外周刃18として用いられる。また、その外周刃18に連続する先端の稜線が底刃20として用いられ、上面がすくい面22として機能する。すなわち、このような人工ダイヤモンド10は加工が困難なことから、{100}面の一つをそのまますくい面22として使用し、そのすくい面22の端縁に位置する稜線を外周刃18および底刃20として使用するのである。これ等の外周刃18および底刃20には、それぞれ必要に応じて逃げが設けられるとともに、外周刃18と反対側の先端部には干渉回避のために面取り状の逃げ24が設けられる。
【0005】
上記『{・・・}』はミラー指数で、原子が一定の配列で配置されている結晶面を表している。また、図3の(d) に示す人工ダイヤモンド30は、角部に面取り状平面32を有する形状を成しているが、この面取り状平面32は、人工ダイヤモンド30の製造条件等によって生じるものであり、本明細書では、このような面取り状平面32を有する人工ダイヤモンド30を含めて基本的に六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドと称して説明する。
【0006】
ところで、前記{100}面は原子が比較的密であるため、すくい面22については優れた耐摩耗性が得られるものの、{100}面と平行で且つ稜線と平行な方向、すなわち稜線と平行なxyzの3軸方向の研磨に対しては耐摩耗性が低く、そのような3軸の何れかの方向(図4の(c) ではz軸方向)に研磨作用が働く外周刃18や底刃20が摩耗し易く、必ずしも期待通りの耐久性が得られないという問題があった。
【0007】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、安定した品質が得られる人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられたダイヤモンドチップを有する単結晶ダイヤモンドエンドミルの耐摩耗性を改善して耐久性を一層向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明は、基本的に6つの{100}面を備える六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられたダイヤモンドチップが、軸状の工具本体の先端取付部に一体的に固設されており、工具軸心Oまわりに回転駆動されることによりその切れ刃で切削加工を行う単結晶ダイヤモンドエンドミルにおいて、(a) 前記先端取付部には、工具軸心Oと直角な断面が直角V字形状を成すV字溝がその工具軸心Oと平行に設けられ、前記六面体形状の人工ダイヤモンドの第1稜線部分がそのV字溝内に嵌め入れられるとともに、その第1稜線に隣接する一対の側面がV字溝の一対の壁面にそれぞれ密着するように位置決めされて一体的に固設されている一方、(b) 前記V字溝に嵌め入れられる前記第1稜線に対して対角位置の第2稜線部分が除去されることにより前記すくい面が形成され、そのすくい面の端縁が前記切れ刃として用いられることを特徴とする。
【0009】
第2発明は、第1発明の単結晶ダイヤモンドエンドミルにおいて、前記すくい面は、前記第2稜線を挟んで対称的に除去されることにより形成された平坦な{110}面、或いはその{110}面から±10°の範囲内で傾斜するように前記第2稜線を挟んで非対称に除去されることにより形成された平坦面であることを特徴とする。
【0010】
第3発明は、第1発明または第2発明の単結晶ダイヤモンドエンドミルにおいて、前記V字溝は、工具軸心Oと直角な断面においてその工具軸心OとV字溝の溝底頂点とを通る直線とV字溝の中心線Sとが一致、或いは±10°の範囲内で傾斜する姿勢で設けられていることを特徴とする。
【0011】
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの単結晶ダイヤモンドエンドミルにおいて、前記人工ダイヤモンドの素材は四角柱形状を成していて、その四角柱形状の中心線が工具軸心Oと平行となる姿勢で前記V字溝に一体的に固設されていることを特徴とする。
【0012】
第5発明は、第1発明〜第4発明の何れかの単結晶ダイヤモンドエンドミルを製造する方法であって、(a) 前記人工ダイヤモンドの素材をロウ接により前記工具本体のV字溝に一体的に固設する固設工程と、(b) その工具本体に前記人工ダイヤモンドの素材が一体的に固設された状態で、前記第2稜線部分を工具軸方向すなわち第2稜線と平行な方向へ研磨除去して前記すくい面を形成する研磨工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このような単結晶ダイヤモンドエンドミルにおいては、工具本体に工具軸心Oと平行に設けられたV字溝に六面体形状の人工ダイヤモンドの第1稜線部分が嵌め入れられ、その第1稜線に隣接する一対の側面がV字溝の一対の壁面にそれぞれ密着するように位置決めされて一体的に固設されているとともに、第1稜線に対して対角位置の第2稜線部分が除去されることによりすくい面が形成され、そのすくい面の端縁が切れ刃として用いられるため、六面体形状の人工ダイヤモンドの稜線をそのまま切れ刃として用いる場合に比較して、その切れ刃の耐摩耗性が改善されて耐久性が向上する。
【0014】
また、人工ダイヤモンドの素材、或いはすくい面および切れ刃が形成されたダイヤモンドチップは、第1稜線部分がV字溝内に嵌め入れられるとともに、その第1稜線に隣接する一対の側面がV字溝の一対の壁面にそれぞれ密着するように位置決めされて一体的に固設されているため、工具本体に対するダイヤモンドチップの取付位置や取付姿勢に関する精度が容易に安定して得られる。また、単一の平坦面に比較して接触面積が大きくなるため、ロウ接等による固設強度が高くなり、先端取付部を十分に確保できない小径のエンドミルに対しても好適に適用できる。
【0015】
第2発明では、すくい面が、第2稜線を挟んで対称的に除去されることにより形成された平坦な{110}面、或いはその{110}面から±10°の範囲内で傾斜するように第2稜線を挟んで非対称に除去されることにより形成された平坦面であるため、その側端縁に形成される切れ刃の耐摩耗性を適切に向上させることができる。
【0016】
第3発明では、工具軸心Oと直角な断面において、その工具軸心Oと前記V字溝の溝底頂点とを通る直線とV字溝の中心線Sとが一致、或いは±10°の範囲内で傾斜する姿勢でV字溝が設けられているため、このV字溝によりダイヤモンドチップがバランス良く固設され、単結晶ダイヤモンドエンドミルを適切に構成することができる。
【0017】
第4発明では、人工ダイヤモンドの素材が四角柱形状を成していて、その四角柱形状の中心線が工具軸心Oと平行となる姿勢でV字溝に一体的に固設されているため、人工ダイヤモンドの素材とV字溝との接触面積が大きくなって高い取付強度を容易に確保することができる。
【0018】
第5発明では、人工ダイヤモンドの素材をロウ接により工具本体のV字溝に一体的に固設した後、第2稜線部分を工具軸方向すなわち第2稜線と平行な方向へ研磨除去してすくい面を形成するが、稜線と平行な方向の研磨は比較的容易であり、しかも人工ダイヤモンドの素材を工具本体に固設した状態で研磨するため、すくい面や切れ刃を高い精度で容易に加工することができる。また、ダイヤモンドチップがロウ接により工具本体のV字溝に一体的に固設されているが、単一の平坦面に比較して大きな接着面積が得られ、比較的小さな先端取付部に対しても十分な接着強度で取り付けることが可能で、先端取付部を十分に確保できない小径のエンドミルに対しても好適に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施例である単結晶ダイヤモンドエンドミルを示す図で、(a) は正面図、(b) は(a) におけるIB矢視部分の拡大図、(c) は(b) の右方向から見た先端面図、(d) はダイヤモンドチップが取り付けられた工具先端部分の斜視図である。
【図2】図1の単結晶ダイヤモンドエンドミルの製造工程を説明する図である。
【図3】本発明の他の実施例を説明する図で、(a) 〜(c) は図1(c) に対応する先端面図、(d) は図2(a) に対応する人工ダイヤモンドの斜視図である。
【図4】単結晶人工ダイヤモンドの稜線をそのまま切れ刃として用いるエンドミルの一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の単結晶ダイヤモンドエンドミルは、例えば切れ刃として外周刃および底刃を有するスクエアエンドミルやラジアスエンドミルなどに好適に適用されるが、切れ刃としてボール刃を有するボールエンドミルにも適用され得るなど、少なくともすくい面の端縁に切れ刃が設けられておれば良い。切れ刃には、必要に応じて研磨加工等により逃げが設けられるとともに、工具中心線を挟んで反対側には干渉を避けるために必要に応じて面取り等の逃げが設けられる。
【0021】
本発明では、V字溝により高い固設強度や位置決め精度が得られることから、切れ刃の外径(外周刃の刃先径など)が例えば3mm程度以下の小径エンドミルに好適に適用されるが、3mmを超えるエンドミルにも適用され得る。
【0022】
人工ダイヤモンドは、前記図4の(a) に示すように立方体或いは直方体のものだけでなく、図3の(d) に示すようにそれ等の立方体や直方体の角部に面取り状の平面を有するものでも良い。
【0023】
工具本体の材質としては超硬合金が好適に用いられるが、モリブデン等の他の金属材料を採用することもできる。超硬合金製の工具本体の場合、V字溝を有する状態で成形、焼結することもできるが、研削加工等により後からV字溝を設けることも可能である。V字溝の底と人工ダイヤモンドの稜線との干渉を回避するために、V字溝の底に矩形断面或いは円弧断面等の逃げ溝を設けたり、人工ダイヤモンドの稜線部分を砥石等により研磨除去することが望ましい。この場合の研磨は、稜線部分を除去するだけで良く、精度は要求されないため、ダイヤモンド砥石等によって簡単に除去できる。
【0024】
第2稜線部分は、人工ダイヤモンドを工具本体に取り付けた後に研磨加工等により除去することができるが、工具本体に取り付ける前の人工ダイヤモンド単体の状態で研磨加工等により除去することも可能である。研磨加工は、スカイフ盤等のダイヤモンド研磨盤を用いて行うことが望ましいが、レーザ加工やダイヤモンド砥石等の他の加工技術で除去することもできる。但し、最後はスカイフ盤等で仕上げ研磨することが望ましい。このような第2稜線部分の除去により、例えば工具軸心Oと平行な平坦なすくい面が形成されるが、所定のすくい角が得られるように湾曲形状等のすくい面を形成するようにしても良い。
【0025】
本発明の単結晶ダイヤモンドエンドミルは、{110}面或いはその近傍(傾斜角度が±10°以下)の面をすくい面として用いることが適当で、傾斜角度が±5°以下の略{110}面をすくい面とすることが望ましいが、第2稜線部分を除去してすくい面が形成されていれば、傾斜角度が±10°を超えていても差し支えなく、工具軸心Oまわりのバランスや切れ刃のすくい角などを考慮して適宜設定される。
【0026】
V字溝は、工具軸心Oと直角な断面においてその工具軸心OとV字溝の溝底頂点とを通る直線とV字溝の中心線Sとが一致する対称姿勢、或いは±10°の範囲内で傾斜する姿勢で設けることが適当で、傾斜が±5°以下の略対称姿勢で設けることが望ましいが、±10°を超えた傾斜姿勢で設けることも可能で、工具軸心Oまわりのバランスや切れ刃のすくい角などを考慮して適宜設定される。
【0027】
人工ダイヤモンド素材としては、断面が正方形或いは長方形の四角柱形状すなわち長尺のものが好適に用いられるが、立方体等の比較的短い人工ダイヤモンド素材を採用することもできる。
【0028】
工具本体に人工ダイヤモンドの素材、或いはすくい面および切れ刃が形成された後のダイヤモンドチップを固設する手段としては、ロウ接が望ましいが、クランプやねじ等による機械的な固設手段を採用することも可能である。ロウ接には活性金属ロウが好適に用いられる。活性金属ロウによる接着は、脱酸素雰囲気中で人工ダイヤモンドを加熱することによりチタン(Ti)やクロム(Cr)等の活性金属の膜を表面に生じさせ(メタライズ)、銀および銅を含む銀ロウでその人工ダイヤモンドを超硬合金等の工具本体に対して直接接着するものである。活性金属ロウにより十分な接着強度を得るためには十分な接着面積が必要であるが、本発明ではV字溝により単一平面に比較して大きな接着面積を確保できる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施例である単結晶ダイヤモンドエンドミル50を説明する図で、(a) は工具軸心Oと直角方向から見た正面図、(b) は工具軸心Oまわりにおいて(a) とは90°位相が異なる方向から見た部分拡大図で、(a) におけるIB矢視部分の拡大図、(c) は(b) の右方向から見た先端面図、(d) はダイヤモンドチップが取り付けられた工具先端部分の斜視図である。この単結晶ダイヤモンドエンドミル50は、軸状の工具本体52と、その工具本体52の先端に一体に設けられた円柱形状の先端取付部54に一体的に固設されたダイヤモンドチップ56とを備えている。工具本体52は、円柱形状のシャンク58の先端側にテーパ部60を介して先端取付部54が同心に一体に設けられたもので、その先端取付部54には工具軸心Oと直角な断面が直角V字形状を成すV字溝62が工具軸心Oと平行に設けられ、工具先端に開口している。V字溝62は、工具軸心Oと直角な断面において、工具軸心OとV字溝62の溝底頂点とを通る直線とV字溝62の中心線Sとが略一致する対称姿勢で設けられている。図1の(c) の先端面図における先端取付部54およびダイヤモンドチップ56の形状は、工具軸心Oと直角な断面と実質的に同じである。この工具本体52は超硬合金にて構成されている。
【0030】
ダイヤモンドチップ56は、図2に示すように前記人工ダイヤモンド10から切り出した正四角柱形状のダイヤモンド素材64を用いて製作されたものである。このダイヤモンド素材64は、人工ダイヤモンド10と同様に全ての外面が{100}面にて構成されている。そして、このダイヤモンド素材64は、その中心線が工具軸心Oと平行となる姿勢で長手方向の第1稜線66が前記V字溝62内に嵌め入れられるとともに、その第1稜線66に隣接する一対の側面68がV字溝62の一対の壁面にそれぞれ密着するように位置決めされ、活性金属ロウによるロウ接によりV字溝62の一対の壁面に一体的に接着(固設)されている。V字溝62の底部には、第1稜線66との干渉を避けるために矩形断面の逃げ溝が設けられている。また、このようにV字溝62内に嵌め入れられる第1稜線66に対して対角位置の第2稜線70側の上半分は工具軸心Oと平行に除去され、平坦なすくい面72が形成されているとともに、そのすくい面72の一方の側端縁が外周刃74として機能し、すくい面72の前端縁が底刃76として機能するようになっており、スクエアエンドミルとして用いられる。すくい面72は、第2稜線70を挟んで対称的に除去されたもので、略{110}面にて構成されている。
【0031】
上記ダイヤモンドチップ56の先端部は、工具本体52の先端取付部54よりも前方へ所定寸法だけ突き出しており、主としてその突出部分で切削加工が行われるとともに、工具軸心Oを挟んで反対側には干渉を回避するために面取り状の逃げ78が設けられている。外周刃74および底刃76にも必要に応じて逃げが設けられる。外周刃74の刃先径dは3mm以下の小径で、本実施例では約1mmである。
【0032】
このような単結晶ダイヤモンドエンドミル50は、シャンク58側から見て工具軸心Oの右まわり(図1(c) では左まわり)に回転駆動されるとともに、図示しない被削材に対して工具軸心Oと交差する方向へ相対移動させられることにより、前記外周刃74および底刃76によって切削加工が行われる。具体的には、例えば角部に対する肩削り加工や面に対する溝削り加工、溝が連続して繋がった平面削り加工等を行うことができる。
【0033】
一方、このような単結晶ダイヤモンドエンドミル50は、例えば図2に示す手順に従って製造される。図2の(a) は、全ての平面12が{100}面にて構成されている薄板状で六面体形状の前記人工ダイヤモンド10であり、これを稜線に沿ってレーザ加工やダイヤモンドブレードによる研削加工などで切断することにより、(b) に示すように断面が略正方形の正四角柱形状のダイヤモンド素材64を切り出す。また、(c) は、ダイヤモンド素材64とは別個に用意された超硬合金製の工具本体52で、V字溝62は、シャンク58やテーパ部60等を成形する段階で設けることもできるが、焼結後に研削加工等により形成することも可能である。ダイヤモンド素材64の接着強度を高めるため、V字溝62の一対の壁面が所定の面精度を有するように仕上げ研削等を行うようにしても良い。
【0034】
そして、(d) に示すように、正四角柱形状のダイヤモンド素材64に前記すくい面72を形成する前に、中心線が工具軸心Oと平行となる姿勢で長手方向の第1稜線66が前記V字溝62内に嵌め入れられ、その第1稜線66に隣接する一対の側面68がV字溝62の一対の壁面にそれぞれ密着するように、活性金属ロウによるロウ接により一体的に接着(固設)する。活性金属ロウは、例えばチタン(Ti)やクロム(Cr)等の活性金属を2〜4%程度の割合で含んでいる銀ロウで、脱酸素雰囲気中でダイヤモンド素材64を800℃〜1000℃程度まで加熱することにより、チタン或いはクロム等の活性金属の膜を側面68の表面に生じさせ(メタライズ)、銀および銅を含む銀ロウによりその側面68をV字溝62の壁面に直接接着する。その場合に、図1(c) に示すようにV字溝62の底に逃げ溝が設けられることにより、側面68とV字溝62の壁面とがそれぞれ確実に密着させられるようになり、接着面積が十分に確保されて高い接着強度が得られる。このように活性金属ロウによりダイヤモンド素材64をV字溝62に一体的に接着する工程が固設工程である。図2では、V字溝62の底部の逃げ溝が省略されている。
【0035】
その後、このように正四角柱形状のダイヤモンド素材64が工具本体52に一体的に固設された状態で、スカイフ盤等のダイヤモンド研磨技術によりそのダイヤモンド素材64に対して工具軸心Oと平行な方向すなわち第2稜線70と平行な方向へ研磨処理が施されることにより、工具軸心Oと平行で平坦なすくい面72を形成する。第2稜線70を挟んで対称的に研磨されるように、第1稜線66と第2稜線70とを結ぶ直線方向に押圧することにより、略{110}面にて構成されるすくい面72が形成される。これにより、すくい面72および外周刃74、底刃76を備えているダイヤモンドチップ56が製作され、且つ、このようなダイヤモンドチップ56が一体的に固設された本実施例の単結晶ダイヤモンドエンドミル50が製造される。この工程では、必要に応じて外周刃74や底刃76に逃げが形成されるとともに、先端部にはスライフ盤等のダイヤモンド研磨技術或いはダイヤモンド砥石等により前記逃げ78が設けられる。上記のように第2稜線70を研磨加工により除去してすくい面72を形成する工程が研磨工程である。
【0036】
このような本実施例の単結晶ダイヤモンドエンドミル50においては、工具本体52に工具軸心Oと平行に設けられたV字溝62に正四角柱形状のダイヤモンド素材64の第1稜線66部分が嵌め入れられ、その第1稜線66に隣接する一対の側面68がV字溝62の一対の壁面にそれぞれ密着するように位置決めされて一体的に固設されているとともに、第1稜線66に対して対角位置の第2稜線70部分が除去されることによりすくい面72が形成され、そのすくい面72の一方の側端縁が外周刃74として用いられるため、例えば図4のように人工ダイヤモンド10の稜線をそのまま外周刃18として用いる場合に比較して、外周刃74の耐摩耗性が改善されて耐久性が向上する。
【0037】
また、ダイヤモンド素材64は、第1稜線66部分がV字溝62内に嵌め入れられるとともに、その第1稜線66に隣接する一対の側面68がV字溝62の一対の壁面にそれぞれ密着するように位置決めされて一体的に固設されているため、工具本体52に対するダイヤモンド素材64、更にはダイヤモンドチップ56の取付位置や取付姿勢に関する精度が容易に安定して得られる。
【0038】
また、本実施例では、第2稜線70を挟んで対称的に除去されることによりすくい面72が形成されるため、そのすくい面72は略{110}面にて構成され、そのすくい面72の側端縁に形成される外周刃74や前端縁に形成される底刃76の耐摩耗性が適切に向上させられる。
【0039】
また、本実施例では、工具軸心Oと直角な断面においてその工具軸心OとV字溝62の溝底頂点とを通る直線とV字溝62の中心線Sとが略一致する対称姿勢となるようにV字溝62が設けられているため、このV字溝62によりダイヤモンドチップ56がバランス良く固設され、単結晶ダイヤモンドエンドミル50を適切に構成することができる。
【0040】
また、本実施例では、ダイヤモンド素材64が四角柱形状を成していて、その四角柱形状の中心線が工具軸心Oと平行となる姿勢でV字溝62に一体的に固設されているため、ダイヤモンド素材64とV字溝62との接触面積が大きくなって高い取付強度を容易に確保することができる。
【0041】
また、本実施例では、ダイヤモンド素材64をロウ接により工具本体52のV字溝62に一体的に固設した後、第2稜線70部分をその第2稜線70と平行な方向へ研磨除去してすくい面72を形成するが、稜線と平行な方向の研磨は比較的容易であり、しかもダイヤモンド素材64を工具本体52に固設した状態で研磨するため、すくい面72や外周刃74、底刃76、更には逃げ78を高い精度で容易に加工することができる。
【0042】
また、ダイヤモンドチップ56がロウ接により工具本体52のV字溝62に一体的に固設されているが、単一の平坦面に比較して大きな接着面積が得られ、比較的小さな先端取付部54に対しても十分な接着強度で取り付けることが可能で、先端取付部54を十分に確保できない小径の単結晶ダイヤモンドエンドミル50を適切に構成することができる。
【0043】
因に、本発明品(本実施例の単結晶ダイヤモンドエンドミル50)および図4に示す比較品を用意し、以下の加工条件で溝削り加工を行って工具寿命までの加工長さを調べたところ、比較品では300〜500mであったのに対し、本発明品では30000〜50000m加工することが可能で、工具寿命が大幅に向上した。
《加工条件》
被削材:アルミニウム合金(JIS−A7075)
刃先径d:φ1.0
回転速度:20000min-1
送り速度:100mm/min
切込み量(溝深さ):5μm
【0044】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0045】
図3の(a) 〜(c) は、何れも図1の(c) に対応する先端面図で、(a) の実施例は、ダイヤモンド素材64に形成されるすくい面80が前記実施例と相違する。すなわち、前記実施例のすくい面72は、第2稜線70を挟んで対称的に除去されたもので、略{110}面にて構成されていたが、本実施例のすくい面80は、{110}面から±10°の範囲内で傾斜するように第2稜線70を挟んで非対称に除去されることにより形成された平坦面で、本実施例では外周刃74の刃先角が45°よりも小さくなる方向に傾斜している。この場合でも、すくい面80は{110}面から±10°の範囲内で傾斜しているだけであるため、前記実施例と同様に外周刃74および底刃76の耐摩耗性が適切に向上させられる。また、このすくい面80の傾斜を適当に設定することにより、外周刃74のすくい角を調整することができるなど設計の自由度が高くなる。
【0046】
図3の(b) は、断面が長方形の四角柱形状のダイヤモンド素材82が用いられた場合で、前記実施例と同等の刃先径dを確保しつつダイヤモンド素材82の幅寸法を小さくして減量することができるとともに、逃げ78の研磨加工代が少なくなり、全体として製造コストが低減される。
【0047】
図3の(c) は、図3の(a) の実施例において、更にV字溝84が傾斜している場合である。すなわち、このV字溝84は、工具軸心Oと直角な断面において工具軸心OとV字溝84の溝底頂点とを通る直線とV字溝84の中心線Sとが±10°の範囲内で傾斜している場合で、本実施例では切削加工を行う際の工具回転方向側、すなわち図3の(c) では工具軸心Oの左回り方向へ10°以下の角度で傾斜させられている。この場合でも、すくい面80は図3の(a) と同様に{110}面から±10°の範囲内で傾斜しているだけであるため、外周刃74および底刃76の耐摩耗性が適切に向上させられる。また、V字溝84の傾斜を適当に設定することにより、外周刃74のすくい角を調整することができるなど設計の自由度が高くなる。
【0048】
図3の(d) は、角部に面取り状平面32を有する人工ダイヤモンド30を示す斜視図で、このような人工ダイヤモンド30を四角柱形状に切断して素材として用いて、前記単結晶ダイヤモンドエンドミル50を製造することもできる。ダイヤモンド素材64や82のような四角柱形状の人工ダイヤモンドを製作し、そのまま素材として用いて単結晶ダイヤモンドエンドミル50を製造することもできる。
【0049】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0050】
10、30:人工ダイヤモンド 50:単結晶ダイヤモンドエンドミル 52:工具本体 54:先端取付部 56:ダイヤモンドチップ 62、84:V字溝 64、82:ダイヤモンド素材(素材) 66:第1稜線 70:第2稜線 72、80:すくい面 74:外周刃(切れ刃) 76:底刃(切れ刃) O:工具軸心 S:V字溝の中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本的に6つの{100}面を備える六面体形状の単結晶の人工ダイヤモンドを素材として切れ刃およびすくい面が設けられたダイヤモンドチップが、軸状の工具本体の先端取付部に一体的に固設されており、工具軸心Oまわりに回転駆動されることにより該切れ刃で切削加工を行う単結晶ダイヤモンドエンドミルにおいて、
前記先端取付部には、工具軸心Oと直角な断面が直角V字形状を成すV字溝が該工具軸心Oと平行に設けられ、前記六面体形状の人工ダイヤモンドの第1稜線部分が該V字溝内に嵌め入れられるとともに、該第1稜線に隣接する一対の側面が該V字溝の一対の壁面にそれぞれ密着するように位置決めされて一体的に固設されている一方、
前記V字溝に嵌め入れられる前記第1稜線に対して対角位置の第2稜線部分が除去されることにより前記すくい面が形成され、該すくい面の端縁が前記切れ刃として用いられる
ことを特徴とする単結晶ダイヤモンドエンドミル。
【請求項2】
前記すくい面は、前記第2稜線を挟んで対称的に除去されることにより形成された平坦な{110}面、或いは該{110}面から±10°の範囲内で傾斜するように前記第2稜線を挟んで非対称に除去されることにより形成された平坦面である
ことを特徴とする請求項1に記載の単結晶ダイヤモンドエンドミル。
【請求項3】
前記V字溝は、工具軸心Oと直角な断面において該工具軸心Oと該V字溝の溝底頂点とを通る直線と該V字溝の中心線Sとが一致、或いは±10°の範囲内で傾斜する姿勢で設けられている
ことを特徴とする請求項1または2に記載の単結晶ダイヤモンドエンドミル。
【請求項4】
前記人工ダイヤモンドの素材は四角柱形状を成していて、該四角柱形状の中心線が工具軸心Oと平行となる姿勢で前記V字溝に一体的に固設されている
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の単結晶ダイヤモンドエンドミル。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の単結晶ダイヤモンドエンドミルを製造する方法であって、
前記人工ダイヤモンドの素材をロウ接により前記工具本体のV字溝に一体的に固設する固設工程と、
該工具本体に前記人工ダイヤモンドの素材が一体的に固設された状態で、前記第2稜線部分を工具軸方向へ研磨除去して前記すくい面を形成する研磨工程と、
を有することを特徴とする単結晶ダイヤモンドエンドミルの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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