説明

印刷湿し水の再生装置

【課題】フィルターの目詰まり、フィルターの交換周期を延長できる印刷湿し水の再生装置を提供する。
【解決手段】ケーシング10内の中心部に中空の円筒状をした光触媒フィルター11が収納されて光触媒装置が構成されている。光触媒フィルター11の表面には光触媒がコーティングされている。ケーシング10と光触媒フィルター11の間には光触媒フィルター11を周りで囲むように2つの紫外線ランプ12が配置されるとともに、中心部の孔には紫外線ランプ13が配置されている。湿し水冷却管理槽内の湿し水が光触媒湿し水再生装置へ送られ、前置ろ過装置によって、混入している紙分や固形物が除去されたのち光触媒装置に流入し、紫外線ランプ12、13によって紫外線が照射されて活性化酸素を発生している光触媒フィルター11と接触し、付着したインキ滓及び湿し水中に浮遊している微粒子状態の有機物がCOとHOに分解される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷湿し水を再生する装置に関し、更に詳しくは、光触媒をコーティングしたフィルターに紫外線照射ランプから紫外線を照射しつつ印刷湿し水を流して再生する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷湿し水には、使用につれてインキ滓や油分が混入するので、これらを除去して再生することが行われる。このような印刷湿し水のための従来のろ過再生装置の例を図5に示してある。図5において、1はオフセット印刷機を示す。2は湿し水冷却管理槽であり、この湿し水冷却管理槽2はオフセット印刷機1に対して印刷湿し水を供給するとともに、オフセット印刷機1で使用された湿し水を回収する水槽である。20は湿し水ろ過装置を示し、湿し水冷却管理槽2から湿し水を導いてろ過する第1、第2の2つのフィルター21、22を有している。23はポンプで、湿し水冷却管理槽2から湿し水を湿し水ろ過装置20に供給してろ過させたあと湿し水冷却管理槽2へ還流させるためのものである。
【0003】
湿し水は図5に示す湿し水冷却管理槽2からオフセット印刷機1の水舟に供給され、水舟からオーバフローした湿し水は湿し水冷却管理槽2に戻る。湿し水冷却管理槽2に戻る湿し水にはインキ滓や油分が混入している。このように汚染物質が含まれている湿し水を処理する湿し水ろ過装置20は、糸巻き型フィルターやスポンジフィルターを使って湿し水中のインキ滓、紙分及び油分を物理的にろ過して除去している。
印刷湿し水には前記したように使用によってインキ滓や油分が混入しているので、湿し水ろ過装置20のフィルター21、22にはこれらのインキ滓や油分が付着する。従って、そのインキ滓や油分が付着して目詰まりしたフィルターは定期的に交換することが行われる。フィルターの交換は普通、1〜3ヶ月毎に行う必要がある。また、湿し水冷却管理槽2にはインキなどの汚れが付着して堆積するため定期的に清掃及び湿し水の入れ替えを行う必要がある。印刷湿し水の入れ替えによって生じた廃液には湿し水用に添加された種々の薬品を含んでおり、産業廃棄物業者に有償処理依頼することが必要である。
【0004】
湿し水の処理については、酵素によるものや(特許文献1)、ろ過フィルターについて改良を加えたものなどが提案されている(特許文献2から特許文献4)が、浄化性能がより高くフィルターの交換周期が更に延長された再生処理装置が望まれている。
【特許文献1】特開平7−88468号公報
【特許文献2】特開平8−112979号公報
【特許文献3】特開平8−132754号公報
【特許文献4】特開2003−211625号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の印刷湿し水ろ過装置が上記したように維持管理に手間とコストがかかるものであったことに鑑み、本発明は従来の印刷湿し水ろ過装置に見られる上記問題点を解消した印刷湿し水の再生装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は前記した課題を解決するため、光触媒をコーティングした光触媒フィルターと同光触媒フィルターに紫外線を照射する光源とを備えた光触媒装置を有し、同光触媒装置は前記光触媒フィルターに紫外線を照射しつつ同光触媒フィルターに印刷湿し水を通し同湿し水中の有機物をCOとHOに分解するように構成した印刷湿し水の再生装置を提供する。
【0007】
本発明による印刷湿し水の再生装置では、光触媒フィルターを中空の円筒状に構成し、その中空の円筒状をした光触媒フィルターの内面側又は内外面側に紫外線光源を配置し、同光触媒フィルターの内外面から紫外線を照射する構成として光触媒による有機物の分解作用を増大させるのが好ましい。
また、本発明による印刷湿し水の再生装置では、前記光触媒フィルターとして、フィルターメッシュ5μm以下のフィルターを使用して光触媒による有機物の分解作用を増大させるのが好ましい。
更に、本発明による印刷湿し水の再生装置では、前記光触媒装置の上流に通常のフィルターによる前置ろ過装置を配置し、同前置ろ過装置を通した印刷湿し水を前記光触媒装置に流入させる構成として光触媒フィルターに対する汚物付着を防いで光触媒フィルターによる分解作用の維持を図るのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明による印刷湿し水の再生装置においては、光触媒をコーティングした光触媒フィルターを使用し、これに紫外線を照射させつつ印刷湿し水を通すので、印刷湿し水に含まれていて光触媒フィルターに付着したインキ滓や油分などの有機物は、光触媒フィルターにコーティングされている光触媒によって速やかにCOとHOに分解される。従って、本発明による印刷湿し水の再生装置における光触媒フィルターは目詰まりが防止され、フィルターの交換による消耗品代が低減できる。また、本発明による印刷湿し水の再生装置を流れる湿し水には紫外線照射が行われるので、紫外線照射による殺菌作用で湿し水の腐敗が防止され、腐敗による印刷湿し水の交換周期を延長させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明による刷湿し水の再生装置を添付した図1に示した実施例により具体的に説明する。図1において、図5に示したものと同一部分には、図5と同じ符号を付してありそれらについての重複する説明は省略する。図1において、3は光触媒湿し水再生装置で、前置ろ過装置4、光触媒装置5、ポンプ6を有している。これらの前置ろ過装置4、光触媒装置5、ポンプ6は、湿し水冷却管理槽2内の湿し水が循環して流されるよう配管7,8によって連通されている。
【0010】
前置ろ過装置4は通常のフィルターを使用したろ過装置である。光触媒装置5及びこれに収納されている光触媒フィルター11は、それぞれ図2及び図3に示す構成を有しており、これについて説明すると、10は光触媒装置5のケーシングで円筒形状のものとなっている。このケーシング10内の中心部には中空の円筒状をした光触媒フィルター11が収納されている。光触媒フィルター11を構成するフィルターはカートリッジフィルターなどで、その表面に光触媒がコーティングされている。光触媒としては酸化チタンが代表的なものであるが、これに限らず適宜の光触媒を採用してよい。ケーシング10と光触媒フィルター11の間には光触媒フィルター11を周りで囲むように2つの紫外線ランプ12が対向して配置されている。また、光触媒フィルター11の中心部の孔には紫外線ランプ13が配置されており、光触媒フィルター11は内外の両側から紫外線ランプ12、13から紫外線照射を受ける構造となっている。
【0011】
図1から図3に示した印刷湿し水再生装置は以上説明した構成を有しており、湿し水冷却管理槽2内の湿し水はポンプ6によって光触媒湿し水再生装置3へ送られ、先ず前置ろ過装置4によって、混入している紙分や固形物が除去されたのち、光触媒装置5に流入する。湿し水は、光触媒装置5の円筒状をした光触媒フィルター11の内面側に中心部の孔から流入して外面側へ流出する。
光触媒フィルター11では紫外線ランプ12、13によって紫外線が照射されて活性化酸素を発生している光触媒フィルター11と印刷湿し水が接触し、その活性化酸素によって光触媒フィルター11に付着したインキ滓及び湿し水中に浮遊している微粒子状態の有機物がCOとHOに分解される。こうして処理された湿し水は湿し水冷却管理槽2に戻され再使用可能な湿し水となる。
【0012】
光触媒装置5における光触媒フィルター11は、付着したインキ滓や油分などの有機物を分解するため目詰まりが防止される。従って、フィルター交換までの使用期間が延長されフィルター交換による消耗品代が低減可能となる。また、光触媒装置5を流通した湿し水は紫外線の照射を受け、その殺菌作用により腐敗が防止されるので、湿し水腐敗による湿し水の交換周期を延長可能となる。
【0013】
次に、本発明による印刷湿し水の再生装置についての試験結果について説明する。試験に用いた光触媒フィルターは次のとおりである。市販されている糸巻き型のカートリッジフィルター(メッシュ0.5、1.0、及び1.5μmで長さが250mm)に、次の表1に示す酸化チタン光触媒をコーティングしそのコーティングを70°Cで12時間以上硬化させた。
【表1】

使用した紫外線ランプは市販の低圧水銀ランプ(30W , 100V ,ピーク波長254nm)である。
【0014】
以上の諸元の光触媒フィルターに紫外線ランプを組み込んで構成した光触媒湿し水再生装置に対し、印刷湿し水の連続通水試験を行った。本試験により得られた処理水と通常のフィルターを使った従来のろ過装置によって得られた処理水について処理効果を比較した結果を図4に示してある。図4に見られるように、イ−イ線における浄化度を得るのに、従来のフィルターによる処理に比して光触媒フィルターを使った光触媒湿し水再生装置による処理では約1/5の時間で湿し水の浄化が可能であることが判った。また、光触媒フィルターを使った光触媒湿し水再生装置によって処理した湿し水は、電気伝導度、pH、湿し水における湿し成分のイオン濃度に変化は見られず、本光触媒湿し水再生装置により再生した湿し水は湿し水として再使用可能であることが判った。
なお、試験で得られた処理水を可視スペクトル(527nm)で透明度を測定した結果、フィルターメッシュ5μm以下で、処理後の湿し水の透明度が良好になることが判った。
【0015】
以上、本発明を一実施の態様について具体的に説明したが、本発明はこれに制限されるものではなく、種々の変更を加えてよいことはいうまでもない。
例えば前記した酸化チタン光触媒に限らず、光を照射して有機物を分解可能な光触媒であれば、種々のものを適宜採用してよい。同様に、光触媒をコーティングするフィルターとしては、前記した糸巻き型のカートリッジフィルターに限らず種々のフィルターを採用可能である。また、図示した装置では、光触媒フィルター11の内面側と外面側の両方に紫外線を照射する紫外線ランプ12、13を配置した構成としているが、そのいずれか一方のみに紫外線ランプを配置した構成としてよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例による印刷湿し水の再生装置の全体構成を示す説明図。
【図2】図1の印刷湿し水の再生装置における光触媒装置の構造を示す斜視図。
【図3】図2に示す光触媒装置における光触媒フィルターを拡大して示す斜視図。
【図4】本発明による光触媒湿し水再生装置と従来のフィルターを使った処理水における処理効果を比較したグラフ。
【図5】従来の印刷湿し水のろ過装置の全体構成を示す説明図。
【符号の説明】
【0017】
1 オフセット印刷機
2 湿し水冷却管理槽
3 光触媒湿し水再生装置
4 前置ろ過装置
5 光触媒装置
6 ポンプ
7 配管
8 配管
10 ケーシング
11 光触媒フィルター
12 紫外線ランプ
13 紫外線ランプ
21 第1のフィルター
22 第2のフィルター
23 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷湿し水を再生する印刷湿し水の再生装置であって、光触媒をコーティングした光触媒フィルターと同光触媒フィルターに紫外線を照射する光源とを備えた光触媒装置を有し、同光触媒装置は前記光触媒フィルターに紫外線を照射しつつ同光触媒フィルターに印刷湿し水を通し同湿し水中の有機物をCOとHOに分解するように構成されていることを特徴とする印刷湿し水の再生装置。
【請求項2】
前記光触媒フィルターが中空の円筒形状に構成され、前記光源が同光触媒フィルターの内面側又は内外面側に配置され、同光触媒フィルターに対し内外面から紫外線を照射するよう構成されていることを特徴とする請求項1に記載の印刷湿し水の再生装置。
【請求項3】
前記光触媒装置の上流に通常のフィルターによる前置ろ過装置を配置し、同前置ろ過装置を通した印刷湿し水を前記光触媒装置に流入させる構成としたことを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷湿し水の再生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−265021(P2008−265021A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107208(P2007−107208)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(591003460)三原菱重エンジニアリング株式会社 (12)
【Fターム(参考)】