説明

印刷装置

【課題】センターホールの無い印刷媒体であっても、円滑に印刷処理ができ得る印刷装置を提供する。
【解決手段】印刷装置は、中間転写シート42に形成された印刷像を印刷媒体100の印刷面に圧着させて転写する転写アッセンブリ56と、印刷媒体100が載置される印刷トレイ12と、転写アッセンブリ56より僅かに下流側に設けられた保持ローラ70と、を備える。保持ローラ70は、下方向に付勢されており、印刷媒体100を上側から押圧することで、印刷媒体100の浮き上がりを阻害する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平板状の印刷媒体の印刷面に熱転写方式で画像印刷を施す印刷装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光ディスクや磁気カードのように硬質で板状の印刷媒体に印刷を施す熱転写式の印刷装置が知られている(例えば下記特許文献1など)。かかる印刷装置において、印刷媒体は、通常、印刷トレイに載置され、搬送される。この印刷トレイには、印刷媒体の外形に対応した形状の凹部が形成されている。そして、この凹部に印刷媒体を載置収容することで、印刷トレイに対する記録媒体の位置決めが図られる。また、光ディスクを印刷媒体とする印刷装置の印刷トレイには、当該光ディスクの中央に形成された孔(センターホール)の周縁に密着して、光ディスクをクランプする複数のクランプ爪も設けられている。そして、このクランプ爪により光ディスクは、保持され、意図しない光ディスクの脱落や浮き上がりが防止される。ただし、このクランプ爪は、あくまでセンターホールを有する印刷媒体にのみ有効であり、磁気カードやICカードのように、センターホールの無い平板状の印刷媒体は、通常、印刷トレイの上に載置されているだけの場合が多かった。
【0003】
かかる印刷装置において、印刷処理は、印刷像が形成されるシート材を、ヒートローラおよび剥離ローラで印刷媒体の印刷面に面状に圧着することで実現される。印刷像が圧着されることで、当該印刷像が印刷面に転写される。ここで、ヒートローラは、内部に熱源を有したローラで、当該熱源で加熱することにより印刷像を構成するインクが溶融される。また、剥離ローラは、印刷面に圧着されたシート材を当該印刷面から剥離する剥離位置に設けられたローラである。この剥離ローラを境として、それまで、印刷面とほぼ平行であったシート材の進行方向が斜め上方向に転換される。そして、進行方向が斜め上方向に転換されることにより、シート材が印刷面から剥離される。
【0004】
【特許文献1】特開2007−301879号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、センターホールが設けられていない印刷媒体の場合、この転写処理後におけるシート材の剥離が円滑に行えない場合があった。すなわち、既述したとおり、センターホールが無い印刷媒体は、印刷トレイの上に載置されているに過ぎず、印刷媒体の持ち上がりを阻害する機構は一切なかった。そのため、剥離のためにシート材が斜め上方向に進行する際、印刷媒体も当該シート材にくっついたまま斜め上方向に持ち上げられることがあった。そして、結果として、印刷像の転写が不十分になったり、印刷媒体が付着したままシート材が巻き取られることに起因して故障を招いたりする問題があった。
【0006】
そこで、本発明では、センターホールの無い印刷媒体であっても、円滑に印刷処理ができ得る印刷装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の印刷装置は、平板状の印刷媒体の印刷面に熱転写方式で画像印刷を施す印刷装置であって、シート材に形成された印刷像を前記印刷面に転写して、前記印刷面に画像印刷を施す印刷ユニットと、前記印刷面を露出した状態で前記印刷媒体が載置されるトレイであって、前記印刷像の転写時には前記印刷ユニットに対して所定の印刷進行方向に相対移動する印刷トレイと、を備え、前記印刷ユニットは、印刷像が形成されるシート材であって、前記印刷トレイの印刷進行方向への相対移動に連動して巻き取られるシート材と、前記シート材を前記印刷面に圧着させて、前記印刷像を印刷面に転写する転写アッセンブリと、前記印刷面に圧着させたシート材を前記印刷面から剥離するべく前記シート材の進行方向を転換させる剥離位置より印刷方向下流側に設けられ、前記印刷媒体を上側から押圧する保持部材と、を備えることを特徴とする。
【0008】
好適な態様では、さらに、前記印刷トレイを押圧する方向に前記保持部材を付勢する付勢手段を備える。また、前記印刷トレイのうち、印刷方向下流側の端部には、テーパが施されていることも望ましい。
【0009】
また、他の好適な態様では、前記保持部材は、前記印刷トレイの進退状況に応じて、印刷トレイの上面を押圧するべく下降した下降状態と、印刷トレイの上面から離間するべく上昇した上昇状態と、に切り替わる。この場合、前記保持部材または印刷トレイのいずれか一方に連結されたカムピンと、前記保持部材または印刷トレイの他方に形成されるとともに前記カムピンが挿入される溝であって、前記印刷トレイの進退に応じる前記カムピンの当該溝に対する相対移動の経路を規定するカム溝と、を備え、前記カム溝は、印刷トレイが後退動作する際と、進出動作する際と、で前記相対移動の経路が異なるような形状である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、剥離位置より印刷方向下流側に設けられた保持部材で印刷媒体が押圧されるため、印刷媒体の浮き上がりが防止される。そして、これにより、シート材が確実に剥離され、円滑に印刷処理ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態である印刷装置10の斜視図である。また、図2は、印刷装置10の概略構成図である。この印刷装置10は、比較的、硬質かつ肉厚な印刷媒体、例えば、磁気カードやICカードなどに対して印刷処理を施す装置である。
【0012】
印刷媒体100は、印刷トレイ12に支持され、搬送される。この印刷トレイ12は、後述するヒートローラ58の回転軸に対して略直交する方向(図1,2におけるX方向)に進退自在となっている。そして、印刷トレイ12が進退することで、当該印刷トレイ12に支持された印刷媒体100が筐体16の内外に搬送されることになる。この印刷トレイ12の上面には、この印刷媒体100が載置され、収容される収容凹部30が形成されている。この収容凹部30は、印刷媒体100の外形に対応した形状を有しており、当該収容凹部30に載置されることで印刷媒体100が印刷トレイ12に対して位置決めされることになる。
【0013】
なお、様々な形状の印刷媒体100を取り扱い可能とするために、印刷トレイ12を、印刷装置10に取り付けられたトレイ本体と、当該トレイ本体に着脱自在のアダプタと、で構成してもよい。この場合、アダプタは、印刷媒体100の形状種類ごとに複数用意しておく。また、各アダプタには、対応する印刷媒体100の外形に対応する形状の収容凹部30を形成しておく。そして、ユーザは、この複数のアダプタの中から印刷したい印刷媒体100に対応するアダプタを択一的に選択し、トレイ本体に装着し、使用するようにすればよい。
【0014】
次に、この印刷装置10の内部に設けられている印刷ユニット18について図2を参照して説明する。本実施形態の印刷ユニット18は、インクリボン40のインクを中間転写シート42に転写した後、当該中間転写シート42に転写されたインク(印刷像)を印刷媒体100の印刷面に転写する熱転写方式で印刷する。インクリボン40には、複数色、例えば、四色のインクがリボン長手方向に繰り返し配設されている。なお、インクリボン40に配設されるインクには、溶融型インクと昇華型インクがあるが、どちらを用いた場合でも、印刷装置10の構成および転写プロセスに大差はない。ここでは、溶融型インクを用いた場合を例に説明する。このインクリボン40は、リボン送出ボビン46から送出され、複数のガイドローラ62に案内されて、リボン巻取ボビン44に順次巻き取られる。このリボン巻き取りの経路過程には、当該インクリボン40を中間転写シート42に密着させるとともに、インクリボン40の表面のインクを溶融するサーマルヘッド48が設けられている。サーマルヘッド48の内部には複数の発熱素子(図示せず)が設けられている。
【0015】
サーマルヘッド48は、この複数の発熱素子を制御部(図示せず)からの指示に応じて選択的に発熱させ、インクリボン40のインクを部分的に溶融させる。そして、この部分的にインクが溶融されたインクリボン40を中間転写シート42に押圧することで、中間転写シート42に溶融したインクが転写される。
【0016】
中間転写シート42は、シート送出ボビン50から送出され、複数のガイドローラ62に案内されて、シート巻取ボビン52に巻き取られる。中間転写シート42の巻き取りの経路過程には、サーマルヘッド48からの押圧を受けるプラテンローラ54が設けられている。サーマルヘッド48が当該プラテンローラ54に向かってインクリボン40を押し付けることにより、当該プラテンローラ54に沿って送出されている中間転写シート42に、サーマルヘッド48の熱によって溶融されたインクが転写される。
【0017】
ここで、既述したとおり、インクリボン40の表面には複数の色のインクがリボン長手方向に繰り返し配設されている。フルカラー画像を印刷する場合は、この複数の色インクを全て中間転写シート42に転写させておく必要がある。そこで、フルカラー印刷の場合、中間転写シート42は、インクリボン40の表面に貼着されている一つの色のインクの転写が終了するたびにシート送出ボビン50に巻き戻される。そして、再度、シート送出ボビン50からシート巻取ボビン52へと巻き取られ次の色のインクの転写がなされる。このインク転写とシート巻き戻しを、インクリボン40のインク色数分繰り返すことにより、中間転写シート42の表面にはフルカラーの印刷像が形成されることになる。
【0018】
中間転写シート42に形成されたフルカラーの印刷像は、転写アッセンブリ56により印刷媒体100の印刷面に最終転写される。転写アッセンブリ56は、内部に発熱素子を有したヒートローラ58と、当該ヒートローラ58より下流側に位置する剥離ローラ60と、が連結された部材である。インクリボン40から中間転写シート42へのインク転写の実行中、この転写アッセンブリ56は、印刷媒体100から離間した高さに上昇している。一方、インクリボン40から中間転写シート42へのインク転写が終了して、中間転写シート42にフルカラーの印刷像が形成されれば、転写アッセンブリ56は、下降していき、中間転写シート42を印刷媒体100の印刷面に圧着させる。ここで、ヒートローラ58と剥離ローラ60は、その下端高さが、ほぼ同じになるように並んでいる。そのため、転写アッセンブリ56が下降した場合、ヒートローラ58および剥離ローラ60の間に位置する中間転写シート42が、印刷面に面接触することになる。このように面接触として、中間転写シート42が印刷面に一定期間、接触するようにしたことにより、中間転写シート42の印刷面からの剥離が早すぎることに起因する転写不良などが防止される。
【0019】
この圧着の際、ヒートローラ58は、内蔵された発熱素子で中間転写シート42に転写されたインクを溶融する。また、この圧着の際、中間転写シート42は、一定の速度で、シート巻取ボビン52に巻き取られる。印刷トレイ12は、この巻き取られる中間転写シート42と同じ方向かつ同じ速度で移動する。別の言い方をすれば、圧着の際、印刷トレイ12は、転写アッセンブリ56に対して相対移動することになる。そして、これらヒートローラ58や印刷トレイ12の動作により、中間転写シート42に形成されたフルカラーの印刷像が、印刷面に最終転写され、画像印刷が実現されることになる。
【0020】
ここで、図2からも明らかなとおり、中間転写シート42は、ヒートローラ58と剥離ローラ60との間では、印刷面と平行な方向に進行し、剥離ローラ60より下流側では印刷面に対して傾斜した方向に進行する。別の言い方をすれば、中間転写シート42の進行方向は、剥離ローラ60が設置された剥離位置を境として転換される。このように進行方向が転換されることにより、印刷面からの中間転写シート42の剥離が図られる。
【0021】
本実施形態の印刷装置10は、この中間転写シート42の剥離をより確実に行うために、上述の構成に加え、さらに、保持ローラ70を設けている。この保持ローラ70について詳説する前に、従来の問題点について図8を参照して簡単に説明する。図8は、従来の印刷装置における転写アッセンブリ56周辺の拡大図である。この従来の印刷装置において、印刷媒体100は、収容凹部30に載置されているに過ぎず、当該印刷媒体100の持ち上がりを阻害する機構は設けられていなかった。かかる構成において、印刷媒体100に中間転写シート42を圧着させつつ、印刷媒体100を下流側に送ったとする。このとき、本来であれば、剥離ローラ60が設けられた剥離位置を境として、中間転写シート42は斜め上方向に、印刷媒体100は水平方向に、それぞれ移動し、両者の剥離が図られるはずである。しかし、印刷媒体100の持ち上がり防止機構が設けられていない従来の装置においては、溶融されたインクが中間転写シート42に印刷媒体100を付着させる接着剤のように機能してしまうことがあった。そして、その結果、剥離位置を越えてもなお、中間転写シート42に印刷媒体100が付着したままとなり、中間転写シート42とともに印刷媒体100が斜め上方向に持ち上げられることがあった。この場合、印刷像の印刷面への転写が不十分になるという問題があった。また、中間転写シート42とともに印刷媒体100が巻き取られると、印刷装置10の故障を招く恐れもあった。
【0022】
ここで、印刷媒体がCDやDVDのように略中心に孔(センターホール)が設けられたものである場合、センターホールの周縁に係合するクランプ爪を印刷トレイに設けることで上述した印刷媒体100の持ち上がりの問題を避けることができる。すなわち、CD等のセンターホールを有する印刷媒体100の場合、径方向に移動可能なクランプ爪をセンターホールの周縁に密着係合させれば、当該印刷媒体100を保持することができ、印刷媒体100の浮き上がりを防止することができる。
【0023】
しかしながら、磁気カードやICカードの場合、センターホールが設けられていないため、上述したクランプ爪で浮き上がりを防止することはできない。また、カード(印刷媒体100)の周縁を爪などで上から押える方式も考えられなくはないが、その場合、当該周縁への印刷が出来ないことになり、印刷画像のデザイン上の制約が大きくなるという問題を招いていた。
【0024】
本実施形態は、こうした事情を踏まえ、センターホールが無い平板状の印刷媒体であっても良好に印刷できるようにするために、保持ローラ70を設けている。保持ローラ70は、中間転写シート42の印刷面からの剥離をより円滑に行うために設けられたローラである。図2に図示する通り、この保持ローラ70は、剥離ローラ60よりも僅かに下流側に設けられており、斜め上方向に進行する中間転写シート42の下側、かつ、印刷トレイ12の上側に位置している。
【0025】
保持ローラ70は、スプリング等の付勢手段(図示せず)により下方向、すなわち、印刷トレイ12の上面を押圧する方向に付勢されており、この付勢力により、印刷媒体100の浮上を防止している。図3を参照して、この保持ローラ70の作用について具体的に説明する。図3は、本実施形態の印刷装置における転写アッセンブリ56周辺の拡大図である。
【0026】
既述したとおり、転写アッセンブリ56により中間転写シート42が圧着された印刷媒体100は、溶融したインクの粘性(接着性)により、中間転写シート42に付着する。そして、この印刷媒体100は、中間転写シート42が方向転換する剥離位置(剥離ローラ60設置位置)を越えても、中間転写シート42に付着したまま浮き上がろうとする。剥離ローラ60より僅かに下流側に設けられた保持ローラ70は、この浮き上がろうとする印刷媒体100を下方向に押圧し、印刷媒体100の浮き上がりを防止する。その結果、印刷媒体100が中間転写シート42とともに巻き取られることが防止され、中間転写シート42は、剥離ローラ60近傍において、印刷媒体100から確実に剥離されることになる。そして、これにより、印刷像が印刷面に適切に転写され、良好な印刷品質が得られる。
【0027】
なお、印刷トレイ12の前端には、この保持ローラ70の印刷トレイ12への乗り上げを容易にするためのテーパ12aが施されている。すなわち、通常、印刷トレイ12は、最も奥側に後退した後に、転写処理のための前進動作を開始する。この前進動作の際、図4に図示するように、印刷トレイ12の前端面に保持ローラ70が当接して干渉する場合がある。このとき、印刷トレイ12の前端にテーパ12aが形成されていれば、保持ローラ70は、当該テーパ12a面に沿って相対移動することになり、印刷トレイ12の上側に容易に乗り上がることができる。
【0028】
ところで、この保持ローラ70は、中間転写シート42などを介さず、印刷媒体100の印刷面に直接接触する部材である。通常、傷や汚れを防止するためには、印刷面に他部材が直接接触することは、必要最低限に抑えることが望ましい。そこで、本実施形態でも、保持ローラ70の印刷面への接触を低減するべく、保持ローラ70を特殊な構成としている。
【0029】
具体的には、本実施形態では、印刷トレイ12の進退動作に応じて、印刷トレイの上面を押圧するべく保持ローラ70が下降した下降状態と、印刷トレイの上面から離間するべく保持ローラ70が上昇した上昇状態と、に切り替わるようにしている。具体的には、本実施形態では、印刷像を印刷面に転写するために、所定の印刷開始位置から印刷終了位置まで印刷トレイ12を前進させる間は、印刷面または印刷トレイの上面を押圧できるように保持ローラ70を下降させる。一方、収容凹部30が外部に露出した(印刷トレイ12が筐体16の外側に突出した)媒体取出位置から印刷開始位置まで印刷トレイ12を後退させる引き戻し動作の間、および、印刷トレイ12を印刷終了位置から媒体取出位置まで前進させる排出動作の間は、保持ローラ70を、印刷トレイ12の上面に接触しないように上昇させている。
【0030】
ここで、この保持ローラ70の昇降動作は、モータなどの電気的に制御可能な駆動原を用いて実現してもよいが、本実施形態では、保持ローラ70と印刷トレイ12との機械的相互作用により実現している。これについて図5〜図7を参照して説明する。
【0031】
図5は、本実施形態で用いられる保持ローラ70をユニット化したローラユニット69の概略斜視図である。ローラユニット69は、印刷面を押圧する保持ローラ70と、当該保持ローラ70を両側から支持する一対の支持アーム72と、を備えている。保持ローラ70は、一対の支持アーム72により回転自在に保持された円筒状部材である。この保持ローラ70が、印刷媒体100の印刷面を押圧することで印刷媒体100の浮き上がりが防止される。なお、印刷媒体100を傷つけないために、保持ローラ70の外表面は、ゴムなどの弾性材料からなることが望ましい。
【0032】
この保持ローラ70を支持する支持アーム72は、例えば、略L字形状の部材である。この支持アーム72の前端には、保持ローラ70を回転自在に軸支する支持軸(図示せず)が形成されている。また、支持アーム72の後端は、コイルスプリング74により吊り下げ保持されている。このコイルスプリング74は、印刷トレイ12を押圧する方向に保持ローラ70を付勢する付勢手段として機能するものである。コイルスプリング74の一端は、支持アーム72の後端に、他端は印刷装置10のシャーシ(図示せず)などの固定部材に取り付けられている。支持アーム72の後端は、このコイルスプリング74により上方向に付勢される。
【0033】
さらに、この支持アーム72には、カムピン76と揺動軸78とが突出形成されている。揺動軸78は、印刷装置10のシャーシなどの固定部材に設けられた軸穴(図示せず)に挿入される軸である。支持アーム72は、この揺動軸78を中心として揺動する。そして、支持アーム72が揺動することで、保持ローラ70が昇降することになる。カムピン76は、揺動軸78より後端側に設けられたピンである。このカムピン76は、印刷トレイ12の側面に形成されたカム溝80に挿入される。そして、このカムピン76とカム溝80との係合関係によって、支持アーム72の揺動、ひいては、保持ローラ70の昇降動作が実現されることになる。
【0034】
次に、印刷トレイ12の側面に形成されたカム溝80について図6を参照して説明する。図6は、印刷トレイ12の概略側面図である。なお、理解を容易にするために、図6においては、カム溝80以外の部分にハッチングを施している。印刷トレイ12の側面には、カムピン76が挿入、係合されるカム溝80が形成されている。このカム溝80は、図6に図示するとおり、数字の「6」を横に倒したような形状となっている。より具体的には、このカム溝80は、大きく四つの溝から構成される。第一溝80aは、印刷トレイ12の進退方向に一直線に延びた溝である。第二溝80bは、この第一溝80aの上側に形成された溝で、第一溝80aと平行に延びている。ただし、第二溝80bは、第一溝80aに比して短く、第二溝80bの後端は第一溝80aの後端より前寄りとなっている。第三溝80cは、第一溝80aと第二溝80bとの前端同士を接続する溝で、ほぼ垂直方向に延びている。なお、この第一溝80a、第二溝80b、第三溝80cの溝幅は、いずれも、カムピン76の直径よりも大きくなっており、カムピン76は、これらの溝内を通過できるようになっている。第四溝80dは、第二溝80bの後端と第一溝80aの略中間位置とを接続する溝で、緩やかに傾斜している。この第四溝80dの溝幅は、初期状態では、カムピン76の直径よりも小さいが、回動弁82の回動に応じて拡大可能となっている。回動弁82は、第四溝80dの溝幅を調整する弁体で、回動軸84を中心として回動自在となっている。この回動弁82には、バネなどの付勢部材(図示せず)が取り付けられており、溝幅がカムピン76直径より狭くなる初期状態に復帰できるように付勢されている。
【0035】
次に、ローラユニット69と印刷トレイ12との機械的相互作用について図7を参照して説明する。図7は、ローラユニット69および印刷トレイの概略側面図である。この図7(a)〜(d)から明らかなとおり、カムピン76の位置(高さ)は、印刷トレイ12の進退動作に応じて変動している。一方、揺動軸78は、固定部材に形成された軸穴に挿入されており、その位置は不変である。そして、カムピン76と揺動軸78との相対位置関係が変化することで、支持アーム72の傾斜角度が変化し、保持ローラ70が昇降する。以下、これについて詳説する。
【0036】
印刷媒体100に印刷処理を施す場合は、まず、収容凹部30が筐体16の外部に露出する媒体取出位置まで印刷トレイ12を進出させる。図7(a)は、印刷トレイ12が媒体取出位置に到達した状態を示している。この図7(a)から明らかなとおり、印刷トレイが媒体取出位置に位置しているとき、カムピン76は、第一溝80aの後端に位置している。このカムピン76と、位置不変の揺動軸78と、の相対位置(高さ)関係により支持アーム72の角度、ひいては、保持ローラ70の高さが規定される。本実施形態では、カムピン76が第一溝80aに係合している場合、保持ローラ70が印刷トレイ12から離間するような高さになるように、カム溝80等の形状を設定している。
【0037】
ユーザは、媒体取出位置まで進出した印刷トレイ12の収容凹部30に、印刷媒体100を載置する。印刷媒体100が載置されれば、印刷トレイ12は、奥側に後退する引き戻し動作を実行する。図7(b)は、この引き戻し動作の様子を示している。この図7(b)に図示する通り、引き戻し動作の際、カムピン76は、第一溝80aに沿って相対移動する(実際には、カムピン76は移動せず、印刷トレイ12が移動する)。このとき、保持ローラ70は印刷トレイ12の上面から離間する高さに上昇したままである。なお、この引き戻し動作の際、第四溝80dは、回動弁82により閉鎖されているため、カムピン76が第四溝80dに進入することはない。
【0038】
引き戻し動作は、印刷トレイ12が、印刷開始位置に到達するまで行われる。図7(c)は、印刷トレイ12が印刷開始位置に到達した際の図である。印刷トレイ12が、印刷開始位置まで到達すると、カムピン76は、第一溝80aの前端(第三溝80cの下端でもある)に到達する。このとき、支持アーム72の後端は、バネにより上方向に付勢されている。この付勢力により、第一溝80aの前端まで到達したカムピン76は、略垂直方向に延びる第三溝80cを通って、第一溝80aより上側に位置する第二溝80bへと移動する。カムピン76が第二溝80bに移動、換言すれば、カムピン76が上昇すると、揺動軸78を挟んで反対側に位置する保持ローラ70は、カムピン76とは逆に下降することになる。そして、その結果、保持ローラ70は、印刷トレイ12の上面、ひいては、印刷媒体100を押圧することが可能となる。
【0039】
印刷トレイ12が、印刷開始位置まで到達すれば、実際に、印刷像の印刷面への転写処理が開始される。この転写処理の際、印刷トレイ12は、中間転写シート42の巻き取りに連動して、徐々に前進する。この前進動作の際、カムピン76は、第二溝80bに沿って相対移動しており、保持ローラ70は、下降した状態のまま維持される。その結果、上述したように、保持ローラ70により印刷媒体100の浮き上がりが防止され、良好な印刷品質が得られる。
【0040】
転写処理が完了すると、印刷トレイ12は、印刷終了位置に到達する。印刷トレイ12が、印刷終了位置に到達すると、カムピン76は、第二溝80bの後端(第四溝80dの前端でもある)に到達する。印刷トレイ12は、転写処理終了後も、印刷済みの印刷媒体100を取り出し可能とするべく媒体取出位置まで進出する排出動作を実行する。この排出動作(進出動作)により、カムピン76は、第四溝80dに沿って相対移動する。図7(d)は、このときの様子を示す図である。このとき、回動弁82は、カムピン76により下方向に押圧され、第四溝80dの溝幅を広げる方向に回動する。そして、その結果、カムピン76は、第四溝80dを通過することができる。換言すれば、カムピン76は、当該第四溝80dに沿って徐々に下方向に移動することになる。カムピン76が下降すると、揺動軸78を挟んで反対側に位置する保持ローラ70は、カムピン76とは逆に上昇することになる。そして、これにより、保持ローラ70は、印刷トレイの上面から離間することになる。カムピン76は、第一溝80aまで到達した後は、当該第一溝80aに沿って相対移動する。そして、印刷トレイ12が、媒体取出位置まで到達し、ユーザが、印刷済みの印刷媒体100を取り出せば、一連の印刷処理が終了となる。
【0041】
以上の説明から明らかなとおり、本実施形態では、カムピン76の相対移動の経路を、印刷トレイが後退動作する際と、進出動作する際と、で異なるようにしている。そして、これにより、保持ローラ70を、転写処理時には下降させ、それ以外のときには上昇させることができ、保持ローラ70と印刷面との必要以上の接触を防止できる。なお、上述した構成は、一例であり、保持ローラ70が上昇した上昇状態と、保持ローラ70が下降した下降状態と、に切替可能であれば、当然、他の構成であってもよい。例えば、印刷トレイ12にカムピンを、ローラユニット69にカム溝を形成するようにしてもよいし、モータなどの電気的に制御可能な駆動原を用いてもよい。また、少なくとも、転写処理時に印刷面を保持ローラ70で押圧できるのであれば、保持ローラ70を上昇させる機構は無くてもよい。また、本実施形態では、印刷面を押圧する保持手段として、ローラを用いているが、印刷面を押圧できるのであれば、ローラに限らず、板材などを保持手段として用いてもよい。また、この保持手段は、印刷媒体を押圧できるのであれば、付勢手段で付勢されていなくてもよい。さらに、本実施形態では、保持ローラ70を支持する支持アーム72を略L字形状としたが、当然、他の形状であってもよい。いずれにしても、本実施形態によれば、剥離ローラ60より僅かに下流側において、印刷面を押圧することができる。そのため、印刷面からの中間転写シート42を確実に剥離することができ、結果として、良好な印刷品質を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施形態である印刷装置の斜視図である。
【図2】印刷装置の概略構成図である。
【図3】転写アッセンブリ周辺の拡大図である。
【図4】転写アッセンブリ周辺の拡大図である。
【図5】ローラユニットの概略斜視図である。
【図6】印刷トレイの概略側面図である。
【図7】ローラユニットおよび印刷トレイの概略側面図である。
【図8】従来の印刷装置における転写アッセンブリ周辺の拡大図である。
【符号の説明】
【0043】
10 印刷装置、12 印刷トレイ、16 筐体、18 印刷ユニット、30 収容凹部、40 インクリボン、42 中間転写シート、46 リボン送出ボビン、48 サーマルヘッド、54 プラテンローラ、56 転写アッセンブリ、58 ヒートローラ、60 剥離ローラ、69 ローラユニット、70 保持ローラ、72 支持アーム、74 コイルスプリング、76 カムピン、78 揺動軸、80 カム溝、82 回動弁、100 印刷媒体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の印刷媒体の印刷面に熱転写方式で画像印刷を施す印刷装置であって、
シート材に形成された印刷像を前記印刷面に転写して、前記印刷面に画像印刷を施す印刷ユニットと、
前記印刷面を露出した状態で前記印刷媒体が載置されるトレイであって、前記印刷像の転写時には前記印刷ユニットに対して所定の印刷進行方向に相対移動する印刷トレイと、
を備え、
前記印刷ユニットは、
印刷像が形成されるシート材であって、前記印刷トレイの印刷進行方向への相対移動に連動して巻き取られるシート材と、
前記シート材を前記印刷面に圧着させて、前記印刷像を印刷面に転写する転写アッセンブリと、
前記印刷面に圧着させたシート材を前記印刷面から剥離するべく前記シート材の進行方向を転換させる剥離位置より印刷方向下流側に設けられ、前記印刷媒体を上側から押圧する保持部材と、
を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載の印刷装置であって、さらに、
前記印刷トレイを押圧する方向に前記保持部材を付勢する付勢手段を備えることを特徴とする印刷装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の印刷装置であって、
前記印刷トレイのうち、印刷方向下流側の端部には、テーパが施されていることを特徴とする印刷装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の印刷装置であって、
前記保持部材は、前記印刷トレイの進退状況に応じて、印刷トレイの上面を押圧するべく下降した下降状態と、印刷トレイの上面から離間するべく上昇した上昇状態と、に切り替わることを特徴とする印刷装置。
【請求項5】
請求項4に記載の印刷装置であって、
前記保持部材または印刷トレイのいずれか一方に連結されたカムピンと、
前記保持部材または印刷トレイの他方に形成されるとともに前記カムピンが挿入される溝であって、前記印刷トレイの進退に応じる前記カムピンの当該溝に対する相対移動の経路を規定するカム溝と、
を備え、
前記カム溝は、印刷トレイが後退動作する際と、進出動作する際と、で前記相対移動の経路が異なるような形状である、
ことを特徴とする印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−36465(P2010−36465A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202248(P2008−202248)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000003676)ティアック株式会社 (339)
【Fターム(参考)】