説明

原子炉冷却水系統配管検査方法及び装置

【課題】原子炉の停止を不要とし、経済性も高く、検査回数を増やすことやリアルタイム連続監視が可能で、より安全な原子炉運転を実現する。
【解決手段】基本的な構成は、フォトンカウンティング・イメージャーを用いて、配管外部からX線による放射線画像を計測、濃淡によって示される放射線強度情報から金属配管の厚みを検出、異常箇所の発見をするものである。
また、フォトンカウンティング動作のエネルギー弁別機能により、低エネルギーであることを利用して、背景雑音となる散乱線を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、事故を未然に防ぐために、原子炉の冷却水系統、特に放射能汚染された一次冷却水配管の疲労や摩耗を検査し、かつ、原子炉を停止せずにリアルタイムで検査できる方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、配管の疲労や摩耗を非破壊検査するためには、放射線源としてラジオアイソトープを用いて、その透過線量を計測することにより配管の厚みを測定していた。
その代表例として特許文献1や特許文献2において開示される配管・構造材の計測検査装置があるが、共にポイント・センサーを用いたものである。
【特許文献1】特許第3129420号
【特許文献2】特開平8−220029号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の検査装置は、ラジオアイソトープを用いるものであり、線源としての取扱いが難しかった。
本発明は、ラジオアイソトープ線源ではなく、一般的なX線源を用いることで放射線汚染のない二次冷却水系統の配管についても検査が可能な装置である。
基本的に原子炉の停止は不要であり、経済性も高く、容易な手法であるため検査回数を増やすことやリアルタイム連続監視が可能で、より安全な原子炉運転を実現する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、入カフォトン数に対する出力直線性が高くエネルギー弁別ができることにより定量的な測定ができる、半導体検出器によるフォトンカウンティング型イメージャーを用いることで画像として直接的に配管の摩耗や疲労を発見、検査できる方法である。
放射線画像の検出に、フォトンカウンティング動作に基づくCdTeを含む半導体イメージャーを用いることとする。
フォトンカウンティング型イメージャは、テルル化カドミウム(CdTe)に代表される放射線検出素子に、X線やγ線フォトンが1個入射する際に発生する電荷を検出するものである。発生する電荷の数は、入射したフォトンの持つエネルギーに比例している。したがって、出力として得られる信号の波高値を弁別することにより、入射したフォトンのエネルギーが判定できる。弁別動作は次のフォトンが入射される前に完了する必要があり、連続的にフォトンが入射するような環境に対しては時間窓を狭くし、フォトン1個が入射する時間間隔でエネルギー弁別する。また、鉄や鉛などの薄板によって減衰させることにより、単位時間あたりの入射フォトン数を減少させ、フォトンカウント可能な数にする。その後、弁別されたエネルギー区分別にカウントを行う。
図3に、フォトンカウンティング・イメージャーの概念図を示す。11はCdTeであり、12は増幅器、13はエネルギー弁別を行う比較器であり、14はカウンタである。比較器(13)の他方の入力にはそれぞれ異なる電圧V1,V2,V3...が与えられ、エネルギー弁別可能となっている。また、コリメータ(15)を必要に応じて設ける。これをひとつのユニットとし、複数ユニットを面に配置してイメージャー(撮像素子)を構成する。
または、複数ユニットを直線に配置して、ラインスキャナを構成する。このときラインスキャナあるいは対象物を移動させることにより、走査を行い面画像を得る。
【0005】
図4は、エネルギー弁別を比較器(13)で行ったあと、排他的論理和回路(16)により各エネルギー帯別にカウントを行う例である。弁別用の電圧V1,V2,V3...は、V1>V2>V3....のように設定されており、入力信号が弁別用電圧を超えた際にカウント用のパルスが出力される。排他的論理和回路(16)を設けることにより、V1を超えるエネルギーレベルに対応するパルス、V2を超えV1を超えないエネルギーレベルに対応するパルス、V3を超えV2を超えないエネルギーレベルに対応するパルス…が、個別にカウンタ(14)に入力される。
図5は、エネルギー弁別を比較器(13)で行い、その出力パルスをカウンタ(14)で計数したあと、減算器(17)により低エネルギー側の計数値から高エネルギー側の計数値を減算し、各エネルギー帯別の計数値を得る例である。この場合も弁別用の電圧V1,V2,V3...は、V1>V2>V3....のように設定されており、入力信号が弁別用電圧を超えた際にカウント用のパルスが出力される。低エネルギー側の計数値には高エネルギー分に相当する計数値が含まれており、これを除くために減算器(17)が設けられている。減算処理自体は、後段の信号処理回路(4)において行ってもよい。
【発明の効果】
【0006】
1.フォトンカウンティング動作によりフォトン数を正確にカウントすることができるため、減衰量より金属の厚みを知ることができる。
2.フオトンカウンティング動作によるエネルギー弁別で散乱線を除去し、放射線特有の散乱線によるフォトン数の誤カウントを無くした正確な定量測定ができる。
3.二次元型カメラでは時間軸を含むリアルタイム画像を得ることができるため、これを適用することが望ましい。しかしラインスキャナ型のイメージャーを用いても、走査により画像として取得できる。いずれにしても原子炉のような大規模な設備に対して容易に検査をすることができる。
4.放射能汚染された一次冷却水配管においてはその放射線を利用し特別な線源無しに計測ができる。
5.放射能汚染のない二次冷却水配管においても、エネルギー弁別によりある一定のエネルギー幅のX線フォトンを計測に選別することにより、一般的なX線源を用いても定量的在画像計測が可能である。
6.コンピュータによる設置図面との自動比較を可能とするため、放射線イメージャーには可視光のイメージャー(CCD等〕も併設し、図面データ抽出のためのマーカー検出器として用いる。他の三次元位置センサーでも利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の基本的な構成は、配管外部から放射線画像を計測、濃淡によって示される放射線強度情報から金属配管の厚みを検出、異常箇所の発見をするものである。
また、フォトンカウンティング動作のエネルギー弁別機能により、低エネルギーであることを利用して、背景雑音となる散乱線を除去する。
放射能汚染されていない系統においては、放射線源として配管後方にX線源を設置し、校正、画像検出することで容易に摩耗等を検知することができる。
放射能汚染されている系統においては、放射線源として配管内の流体を利用する。
【実施例1】
【0008】
はじめに、放射能汚染されていない配管系統における、配管厚さの測定について述べる。この場合には、放射線源としてX線源を用いる。
この実施例においては、従来のように取扱に厳重な注意が必要なラジオアイソトープを用いずとも、一般的なX線源を用いて計測ができる。これは放射線イメージャーのエネルギー弁別機能を用いて特定のエネルギー帯のX線フォトンを計測に用いることができるためで、散乱線や白色X線の使用に伴う出力のバラツキの影響を受けることがないためである。散乱線は低エネルギーであるため、フォトンカウントのある一定値以下のフォトンを除外することにより、その影響を除去できる。
図1に示すように、X線源(1)、配管(2)、フォトンカウンティング・イメージャー(3)を配置する。X線源(1)からのX線は、配管(2)を2回通過するが、放射状に広がっており、最終的に画像として得られるデータは、フォトンカウンティング・イメージャー側の配管像である。
フォトンカウンティング・イメージャー(3)で得られた2次元画像はエネルギー別に弁別されており、信号処理回路(4)により、エネルギー帯別に着色され表示手段(5)に表示される。多色表示できる表示手段でない場合には、階調表示や等高線表示などの表示を行う。または、画面を分割し、それぞれのエネルギー帯ごとの画像表示を行ってもよい。
配管厚みに異常があれば、色の変化や不規則な等高線などとして画面上に表示される。
【実施例2】
【0009】
次に、放射能汚染された流体の流れる配管についての実施例を述べる。
ここで単位体積あたりの流体から発生する放射線量は一定であると仮定する。この時、様々なエネルギーを含む放射線であっても、検出器のエネルギー弁別機能で弁別することは容易であるので、あるエネルギー帯に限って発生する放射線量が一定であるという仮定は十分成立する。
図2に示すように、配管(2)、フォトンカウンティング・イメージャー(3)を配置する。配管内の流体(6)は、均一な放射線源と見なせるものとする。そうすると放射能強度は配管の直径にほぼ比例するから、予め図面から補正用の比例定数を算出しておく。
さらに、校正用の金属試験片(7)を配管とフォトンカウンティング・イメージャー(3)の間に設ける。
また、検出される放射能のエネルギーは多種多様であるから、ハイパスフィルター(8)として、鉄や鉛の薄板を用いることも有用である。基本的には、フォトンカウントにおいて低レベルのフォトンを除外して、直線性を高めておく。
【実施例3】
【0010】
ここでは、校正について述べる。
配管とフォトンカウンティング・イメージャー(3)の間に、校正用の金属試験片(7)を設ける。校正用の金属試験片は、配管と同材質であり、かつ連続的あるいは段階的な厚みの変化を有しており、この厚みの変化量は既知である。したがって、配管の厚みが増大しX線減衰量が増加した場合、基準配管測定時の金属試験片のある個所においての減衰量と等価であることがフォトンカウントにより検出でき、増大した厚みは金属試験片の該当位置の厚みとして知ることができる(内挿補間)。配管の厚みが減少しX線減衰率が減少した場合には、基準配管測定時の金属試験片の2箇所におけるフォトンカウント値及び既知の厚みから外挿補間により、減少した厚みを知ることができる。このために校正手段を設けておくことが重要である。
配管自体の厚みは、腐食や摩耗がないことが予測される厚み既知の個所において、校正を予め行っておくことにより知ることができる。または、X線源自体のエネルギーレベルを計測しておくことにより、高エネルギーX線を用いることによる直線性のよさから、実測可能となる。
さらには撮像位置を光学的手段あるいは位置センサーにより把握するようにすれば、測定結果の処理において撮像位置の記録から設置図面との対応がなされ、自動的に厚み比較するように構成することも可能である。
【0011】
図6は、撮像画像の信号処理の一例を示している。
信号処理回路(4)は、フォトンカウンティング・イメージャー(3)からの画像信号を受け取り、エネルギー帯別に画像処理回路(21,21’,21”)に入力される。画像処理回路ではコントラスト調整、輝度調整、γ補正などの処理を行い、色駆動回路(22,22’,22”)に信号を供給する。色駆動回路においては、画像処理回路からの信号に対し、RGB(赤,緑,青)座標系信号あるいはXYZ座標系信号などの色信号に変換する。
また、必要に応じて画像処理回路において、各エネルギー帯信号の間で差分演算、積演算などの画像間演算を行う。状況によっては、各エネルギー帯の信号強度をパワーに換算して加算し、その合計値に基づいて擬似カラー表示(信号レベルに応じて色を変化させる表示方法)してもよい。これらの処理を所望により切替え可能にすると有用である。
【0012】
以上をまとめると、
1.摩耗等を有効に検出するために、校正および図面との比較検査を行う。
2.校正は、配管と同じ金属でできており、連続的あるいは段階的な厚みの変化を持つ金属試験片を、流体の流れる配管とイメージャーの間におき、金属試験片の厚みと減衰量を検出するきわめて簡単かつ原理的な方怯をとる。
3.従来は散乱線が発生し、正確な画像計測の妨げとなっていた。本発明によれば、放射線イメージャーのエネルギー弁別機能で散乱線の影響は容易に除去でき、全く間題とならない。
4.流体の体積(配管の断面積)が場所により異なり、それにより発生放射線量が異なるため、予め図面により体積を算出し比例定数を算出しておく。
5.体積を正確に求めるため、イメージャーの前方は、前方一定の範囲からの放射線のみを検出するコリメーターを設け、イメージャーと測定配管の距離を一定に保つ。
6.配管全体にわたって検査し、設置図面との比較で異常箇所を発見する。
7.図面との比較はコンピュータにより自動比較をすれば良く、そのためには可視画像をもとに位置を検出し、図面との比較を行う。これは図面上での位置が正確に対応すれば良く、可視光画像に限らず位置情報を正確に知ることのできる他のどんなセンサーでも構わない。
本発明は、画像検出できる検出器(イメージャー)としてフォトンカウンティング型イメージャーを用いることにより、配管厚み測定の容易性、高速性は従来例に比べかなり高い。
【産業上の利用可能性】
【0013】
この発明によれば、いずれの実施例も原子炉の運転を止めることなく、配管の厚みを測定することができ、また、測定する人間の被爆を防ぐためには遠隔操作をすれば良く、経済性も高い。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】放射能汚染されていない配管系統を検査する例を示す図
【図2】放射能汚染されている配管系統を検査する例を示す図
【図3】フォトンカウンティング・イメージャの概念を示す図
【図4】排他的論理和回路(16)を設け、エネルギー帯別に計数する例を示す図
【図5】減算回路(17)を設け、エネルギー帯別に計数値を出力する例を示す図
【図6】撮像画像の信号処理の一例を示す図
【符号の説明】
【0015】
1 X線源
2 配管
3 フォトンカウンティング・イメージャー
4 信号処理回路
5 表示手段
6 流体
7 金属試験片
8 ハイパスフィルター
11 CdTe
12 増幅器
13 比較器
14 カウンタ
15 コリメータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のX線検出器と、複数の増幅器と、エネルギー弁別を行う複数の比較器と、複数のカウンタとを備えるフォトンカウンティング・イメージャーを検査対象となる配管の一側面に配置し、該配管の他の側面にX線源を配置し、前記配管を透過してくるX線を前記フォトンカウンティング・イメージャーにより面画像として取得することを特徴とする原子炉冷却水系統配管検査方法。
【請求項2】
前記配管と前記フォトンカウンティング・イメージャーとの間に金属試験片を間挿し、その画像と周辺画像とから校正を行うことを特徴とする請求項1記載の原子炉冷却水系統配管検査方法。
【請求項3】
複数のX線検出器と、複数の増幅器と、エネルギー弁別を行う複数の比較器と、複数のカウンタとを備えるフォトンカウンティング・イメージャーを検査対象となる配管の一側面に配置し、該配管の中にX線源となる流体を配置し、前記配管を透過してくるX線を前記フォトンカウンティング・イメージャーにより面画像として取得することを特徴とする原子炉冷却水系統配管検査方法。
【請求項4】
前記配管と前記フォトンカウンティング・イメージャーとの間に金属試験片を間挿し、その画像と周辺画像とから校正を行うことを特徴とする請求項3記載の原子炉冷却水系統配管検査方法。
【請求項5】
複数のX線検出器と、複数の増幅器と、エネルギー弁別を行う複数の比較器と、複数のカウンタとを備えるフォトンカウンティング・イメージャーと、X線源とからなる原子炉冷却水系統配管検査装置。
【請求項6】
前記フォトンカウンティング・イメージャーとX線源との間に設けられた金属試験片と、該金属試験片の画像とその周辺画像とから校正を行う手段とを備えてなる請求項5記載の原子炉冷却水系統配管検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−271467(P2007−271467A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−97725(P2006−97725)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】