説明

双方向回転機能付きワンウェイクラッチ

【課題】部品点数が少なく、組み立て易く、安価に製造可能な構造の双方向回転機能付きワンウェイクラッチを提案する。
【解決手段】外側部材1又は内側部材2は回転方向の一方側が狭まって他方側が広くなる楔形状空部と楔形状空部の狭くなる側につながって形成されるレバー片収納空部とを備える。レバー部材は複数のレバー片14を有し、レバー片14はレバー片収納空部に挿入される。外側部材1又は内側部材2とレバー部材との間には係止部が形成されており、レバー部材をどちらかの方向に変位させることにより、レバー片14が楔形状空部に突出して楔形状の空間を制限したり、楔形状空部の空間を元に戻したりする。このときレバー部材は外側部材1又は内側部材2に係止され、双方向回転機能と一方向回転機能とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、シャフト又は内輪などの内側部材と外輪などの外側部材とが一方向には回転可能であって、他方向にはロックされて回転できないワンウェイクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
内輪又はシャフトのような内側部材と外輪のような外側部材とが一方の回転方向には互いに回転することができるが、他方の回転方向には内側部材と外側部材とが互いにロックし合って回転できないワンウェイクラッチは旧くから広く知られている(例えば、特許文献1参照)。従来のワンウェイクラッチは、内側部材と外側部材とが楔形のポケットを形成する構造であり、そのポケットにローラ又はボールが配置され、内側部材又は外側部材が一方向に回転するときには、ローラ又はボールはポケット内で回動するので、内側部材と外側部材は互いに回転することができる。しかし、内側部材又は外側部材が他方向に回転、つまり逆回転するときには、ローラ又はボールはポケット内を楔形方向に移動して内側部材と外側部材との間に食い込むので、内側部材と外側部材は互いに回転することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−356230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の発明のクラッチは、内側部材又は外側部材が一方向に回転できるが、他方向には回転できない通常のワンウェイクラッチ構造であり、双方向に回転させたくとも回転することができない。
【0005】
本発明は、上述のような従来の課題を解決することを目的とする。本発明に係る双方向回転機能付きワンウェイクラッチは、内側部材又は外側部材のいずれかが正逆双方向に回転可能な機能と、一方向の回転方向のみロックして回転できないが、他方向には回転可能なワンウェイクラッチ機能とを有する構造のものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、内周面に一定の間隔で形成された複数の楔形状空部と該楔形状空部の楔形状の狭くなる側につながっているレバー片収納空部とを備える外側部材と、その外側部材の前記楔形状空部にそれぞれ配置される転動部材と、前記外側部材の前記楔形状空部の楔形状の広くなる側に位置するばね部材と、前記レバー片収納空部と前記楔形状空部との間を動けるレバー片を備え、該レバー片を第1のポジションと第2のポジションとの間で回転方向に変位させることができるレバー部材と、前記外側部材と前記レバー部材とは、互いに協働して前記第1のポジションと前記第2のポジションとを決め、かつそれら前記第1のポジション又は前記第2のポジションに前記レバー部材を一時的に係止できる係止部とを備え、前記レバー部材が前記第1のポジションに位置するときには、前記レバー片は前記レバー片収納空部に位置して前記転動部材に接触せず、内側部材又は前記外側部材がある方向に回転しようとするときには前記転動部材が前記楔形状空部を前記楔形状の狭くなる側に動いて前記外側部材と前記内側部材との間に食い込んで回転不可能とし、前記内側部材又は前記外側部材が前記ある方向とは逆方向に回転しようとするときには前記転動部材が前記楔形状空部を前記楔形状の広くなる側に動いて転動することによって、前記外側部材と前記内側部材とが回転可能なワンウェイクラッチ機能を呈し、前記レバー部材が前記第2のポジションに位置するときには、前記レバー片が前記レバー片収納空部から前記楔形状空部内に変位して、前記転動体を前記楔形状空部の前記楔形状の広くなる側に押しやった状態になり、前記内側部材又は前記外側部材がいずれの方向に回転しようとしても前記転動部材は前記内側部材と前記外側部材との間に食い込まずに転動し、前記内側部材と前記外側部材とは双方向に回転可能であることを特徴とする双方向回転機能付きワンウェイクラッチを提案する。
【0007】
第2の発明は、前記第1の発明において、前記レバー部材は、前記内側部材を挿通させる円形状の中央穴を有する円環状板部と、その円環状板部の一方の面から一定間隔で同一方向に延びる複数の前記レバー片とからなることを特徴とする双方向回転機能付きワンウェイクラッチを提案する。
【0008】
第3の発明は、前記第1又は第2の発明において、前記レバー部材は、前記内側部材を挿通させる円形状の中央穴を有する円環状板部と、その円環状板部の一方の面から一定間隔で同一方向に延びる複数の前記レバー片とからなり、前記レバー片は弾性を有するものであって、該レバー片の外側面には凸部又は凹部が形成され、前記レバー片の前記外側面の前記凸部又は前記凹部に対面する前記レバー片収納空部の壁面に凹部又は凸部が形成され、前記レバー片の弾性によって、前記レバー片収納空部の前記凹部又は前記凸部と前記レバー片の前記凸部又は前記凹部とが互いに係止し合う前記係止部として機能することを特徴とする双方向回転機能付きワンウェイクラッチを提案する。
【0009】
第4の発明は、前記第1又は第2の発明において、前記レバー部材は、前記内側部材を挿通させる円形状の中央穴を有する円環状板部と、その円環状板部の一方の面から一定間隔で同一方向に延びる複数の前記レバー片とからなり、前記外側部材の一端側には、前記内側部材を挿通させることができる中央穴と、該中央穴の周囲に一定間隔で、前記レバー部材の前記レバー片がそれぞれ挿入される係止孔とを有する側壁部が備えられ、前記レバー片は弾性を有するものであって、前記レバー片の外側面には凸部又は凹部が形成され、前記側壁部の前記係止孔は、前記レバー片が回転方向に前記第1のポジションと前記第2のポジションとを移動できる大きさを有すると共に、前記レバー片の前記凸部又は前記凹部に対面する辺に凹部又は凸部を備え、前記レバー片の前記凸部又は前記凹部と前記係止孔の前記凹部又は前記凸部とが互いに係止し合う前記係止部として機能することを特徴とする双方向回転機能付きワンウェイクラッチを提案する。
【0010】
第5の発明は、前記第1又は第2の発明において、複数の前記レバー片の少なくとも一部分は、その先端部分に半径方向に突出する係着部を有し、前記レバー片が前記係止孔に挿入されたとき、前記係着部が前記外側部材の前記側壁部に係着されて、前記レバー部材が前記外側部材から前記回転方向とは垂直な軸線方向に脱抜されないようにすることを特徴とする双方向回転機能付きワンウェイクラッチを提案する。
【0011】
第6の発明は、前記第1又は第2の発明において、前記レバー部材は、前記内側部材を挿通させる円形状の中央穴を有する円環状板部と、その円環状板部の一方の面から一定間隔で同一方向に延びる複数の前記レバー片とからなり、前記外側部材の円環状側面には凹部又は凸部が形成され、前記レバー部材の前記円環状板部には前記外側部材の前記凹部又は前記凸部に対応する箇所に凸部又は凹部が形成され、前記外側部材及び前記レバー部材はハウジング内に収納されて、前記外側部材が前記ハウジング部材に固定され、前記ハウジング部材の側壁部と前記レバー部材の前記円環状板部との間には弾性部材が備えられ、前記弾性部材が前記レバー部材の前記円環状板部を前記外側部材の前記円環状側面に押し付けることにより、前記外側部材及び前記レバー部材の前記凸部と前記凹部とが前記係止部として機能することを特徴とする双方向回転機能付きワンウェイクラッチを提案する。
【0012】
第7の発明は、外周面に一定の間隔で形成された複数の楔形状空部と該楔形状空部の楔形状の狭くなる側につながっているレバー片収納空部とを備える内側部材と、その内側部材の前記楔形状空部にそれぞれ配置される転動部材と、前記内側部材の前記楔形状空部の楔形状の広くなる側に位置するばね部材と、前記レバー片収納空部と前記楔形状空部との間を動けるレバー片を備え、該レバー片を第1のポジションと第2のポジションとの間で回転方向に変位させことができるレバー部材と、前記内側部材と前記レバー部材とは、互いに協働して前記第1のポジションと前記第2のポジションとを決め、かつそれら前記第1のポジション又は前記第2のポジションに前記レバー部材を一時的に係止できる係止部とを備え、前記レバー部材が前記第1のポジションに位置するときには、前記レバー片は前記レバー片収納空部に位置して前記転動部材に接触せず、外側部材又は前記内側部材がある方向に回転しようとするときには前記転動部材が前記楔形状空部を前記楔形状の狭くなる側に動いて前記内側部材と前記外側部材との間に食い込んで回転不可能とし、前記外側部材又は前記内側部材が前記ある方向とは逆方向に回転しようとするときには前記転動部材が前記楔形状空部を前記楔形状の広くなる側に動いて転動することによって、前記内側部材と前記外側部材とが回転可能なワンウェイクラッチ機能を呈し、前記レバー部材が前記第2のポジションに位置するときには、前記レバー片が前記レバー片収納空部から前記楔形状空部内に変位して、前記転動体を前記楔形状空部の楔形状の広くなる側に押しやった状態になり、前記外側部材又は前記内側部材がいずれの方向に回転しようとしても前記転動部材は前記外側部材と前記内側部材との間に食い込まずに転動し、前記外側部材と前記内側部材とは双方向に回転可能であることを特徴とする双方向回転機能付きワンウェイクラッチを提案する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、内側部材又は外側部材のいずれかが正逆双方向に回転可能な機能を有するばかりで無く、一方向には回転できないワンウェイクラッチ機能を有する構造の双方向回転機能付きワンウェイクラッチを実現できる。この双方向回転可能なワンウェイクラッチは、部品点数が少なく、組み立て易く、安価に製造可能で安定に動作し得る構造を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る実施形態1の双方向回転機能付きワンウェイクラッチの外側部材を説明するための図である。
【図2】本発明に係る実施形態1の双方向回転機能付きワンウェイクラッチを説明するための図である。
【図3】本発明に係る実施形態1の双方向回転機能付きワンウェイクラッチのレバー部材を説明するための図である。
【図4】本発明に係る実施形態1の双方向回転機能付きワンウェイクラッチのポケット部の基本的な構造を拡大した図である。
【図5】本発明に係る実施形態1の双方向回転機能付きワンウェイクラッチのポケット部の一例を拡大した図である。
【図6】本発明に係る実施形態2の双方向回転機能付きワンウェイクラッチの側壁部を示す図である。
【図7】本発明に係る実施形態2の双方向回転機能付きワンウェイクラッチのレバー部材を説明するための図である。
【図8】本発明に係る実施形態2の双方向回転機能付きワンウェイクラッチの係止孔とレバー片との係止を説明するための図である。
【図9】本発明に係る実施形態2の双方向回転機能付きワンウェイクラッチの係止孔とレバー片との係止を説明するための図である。
【図10】本発明に係る実施形態3の双方向回転機能付きワンウェイクラッチの係止部の構造を説明するための図である。
【図11】本発明に係る実施形態4の双方向回転機能付きワンウェイクラッチの外側部材を説明するための図である。
【図12】本発明に係る実施形態4の双方向回転機能付きワンウェイクラッチのレバー部材を説明するための図である。
【図13】本発明に係る実施形態4の双方向空転可能なワンウェイクラッチの断面を示す図である。
【図14】本発明に係る双方向空転可能なワンウェイクラッチのレバー片及びレバー収納空部の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る双方向回転機能付きワンウェイクラッチは、レバー片を前記ポケット部の楔形状の狭い側に設け、そのレバー片を回転方向に変位させて転動部材が実質的に転動できる前記ポケット部の楔形状を変えることによって、従来のワンウェイクラッチ機能に、外側部材と内側部材とが互いにどちらの方向にも安定に回転できる機能を付加したものである。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想から逸脱しない限り、本発明に含まれるものとする。本明細書及び図面において、符号が同じ構成要素は同一の名称の部材を示すものとする。
【0016】
[実施形態1]
図1〜図4によって本発明に係る実施形態1の双方向回転機能付きワンウェイクラッチについて説明する。このクラッチは、図1〜図3に示すように、大きく分けて、環状の外輪又はハウジングのような外側部材1と、円環状の内輪又は円柱状のシャフトのような内側部材2と、外側部材1と内側部材2との間に配置されるローラ(コロ)又はボールのような転動部材3と、転動部材3の動く範囲を規制することができるレバー部材4と、転動部材3に弾性力を付与するばね部材5とから構成される。なお、図1では内側部材2が装着されていない状態を示している。
【0017】
ここで、図2に示すように内側部材2がシャフトである場合には、当初からシャフトがこの双方向回転機能付きワンウェイクラッチに組み込まれていてもよいが、当初はシャフトが組み込まれておらず、例えばユーザが不図示の機器などにこの双方向回転機能付きワンウェイクラッチを組み込む際などに、前記機器などのシャフトにこのワンウェイクラッチを組み付ける場合などがある。このように内側部材2が後で組み込まれる双方向回転機能付きワンウェイクラッチも本発明の権利範囲に含まれることは言うまでも無い。
【0018】
図1(A)は外側部材1を裏面から見た図(図1(B)において紙面左側から見た図)であり、図1(B)は図1(A)の破断線a−aでの断面を示す図である。外側部材1は短円筒状の円環状部11と、円環状部11と一体的に形成された側壁部12とからなり、中央に内側部材2を挿通させる中央穴13を備える。図1(A)、(B)で示すように、円環状部11は側面11Aに窪み11Bを有すると共に、窪み11Bに通じる切込み箇所11Cを有する。一般的なワンウェイクラッチと同様に、円環状部11は中央穴13に沿って一定の間隔で同一構造の6個のポケット部14を備える。なお、11Aaは窪み11Bを囲む内側環状壁である。
【0019】
各ポケット部14は、ほぼ同一の構造のものであり、回転方向の一方側が狭まり、他方側が広くなる従来とほぼ同様な楔形状空部14Aと、後述するレバー片42を収納するレバー片収納空部14Bとを有する。レバー片収納空間14Bが楔形状空間14Aの狭くなる側につながって形成されているところに、本発明におけるポケット部14の特徴がある。レバー部材4が外側部材1に組み込まれたときには、円環状部11の側面11Aの窪み11Bに後述する円環状板部41が納められ、それぞれのレバー片42がレバー片収納空部14Bに挿入され、操作部43が切込み箇所11Cを通して外側部材1の半径外方向に延出される。ここで、切込み箇所11Cは操作部43が回転方向にある範囲で動けるように、特に操作部43が位置する箇所は操作部43の幅よりも大きな幅となっている。ポケット部14は2個以上であるならば任意の個数でよい。
【0020】
図2は、ポケット部14の楔形状空部14Aに転動部材3及びばね部材5を装着、レバー片収納空部14Bにレバー片42を挿入、及び中央穴13に内側部材2であるシャフトを装着した状態を示す図である。内側部材2は、好ましくは外側部材1の中央穴13を形成する壁とほとんど接触しないように、6個の転動部材3に支承される。転動部材3はローラ又はボールであり、ポケット部14の楔形状空部14Aの広い側では転動することができるが、狭い側では外側部材1と内側部材2との間に食い込んで転動不可能である直径を有するものである。なお、ばね部材5は個々のばねを各ポケット部14の楔形状空部14Aに組み込んでもよいが、プレスなどにより金属板を打ち抜いた一体的構成のばね部材の各バネ片を楔形状空部14Aに装着したものでもよい。
【0021】
図3(A)はレバー部材4を正面から見た図(図3(B)において紙面左側から見た図)であり、図3(B)は図3(A)の破断線b−bでの断面を示す図である。レバー部材4は、例えばポリアセタールなどのような弾性を有する合成樹脂などからなり、図3に示すように、円環状板部41と円環状板部41の内側となる面から延びる6本のレバー片42などからなる。円環状板部41は内側部材2を挿通させることができる大きさの円形状の中央穴41Aを備え、円環状板部41の外周面には半径外方向に突出する操作部43が形成されている。なお、弾性とは、素材自体の伸びる性能は大きくなくとも、形状的に柔軟性があり、外からの押圧力によっても破壊されずに変形し、押圧力が除去されると元に戻ることができるという可撓性の意味を含むものとする。
【0022】
レバー部材4の円環状板部41は、図1に示す円環状部11の側面11Aの窪み11Bに納められて押し当てられ、それぞれのレバー片42は各ポケット部14のレバー片収納空部14Bに装着される。実施形態1では、レバー片42の長さは、ポケット部14の深さ、つまり中心軸線X−X方向の奥行きとほぼ同程度である。ここで、中心軸線X−Xは内側部材2の回転中心を示す。なお、41Bはレバー部材4の円環状板部41の円環状外周面であり、円環状部11の内側環状壁11Aaとレバー部材4の円環状外周面41Bとの間には若干の隙間が存在する。
【0023】
図4はポケット部14とレバー片42とを拡大して示す図である。図4(A)はレバー片42が第1のポジションにある状態を示し、図4(B)はレバー片42が第2のポジションにある状態を示す。図4(A)に示すように、レバー片42はポケット部14のレバー片収納空部14Bに納まっており、ことのとき、レバー部材4(レバー片42)が第1のポジションにあるものとする。楔形状空部14Aは本来の楔形状の空間になっている。レバー部材4(レバー片42)が第1のポジションに留まっている状態では、この双方向回転機能付きワンウェイクラッチは一般的なワンウェイクラッチと同様な動作を行う。簡単に説明すると、内側部材2が時計方向に回転するとき、内側部材2と転動部材3との間に生じる摩擦力で転動部材3はばね部材5を圧縮して時計方向に動き、つまり楔形状空部14Aの広い空間側に動くので転動部材3は転動可能である。したがって、内側部材2は時計方向に回転することができる。逆に、内側部材2が反時計方向に回転しようとすると、転動部材3は楔形状空部14Aの狭い空間側に動き、外側部材1と内側部材2との間に食い込むので、内側部材2は回転不可能である。この場合、実施形態1のクラッチはワンウェイクラッチとして機能し、内側部材2は一方の方向には回転できるが、他方向には回転できない。
【0024】
レバー部材4の操作部43に時計方向のある大きさ以上の回転力を与えると、レバー片42は時計方向に移動して図4(B)に示すように、レバー片42の転動部材3側の一部分が楔形状空部14Aに入り込み、転動部材3を楔形状空部14Aの広い空間側に押しやる。ことのとき、レバー部材4(レバー片42)が第2のポジションにあるものとする。したがって、内側部材2が反時計方向に回転するとき、転動部材3は楔形状空部14Aの狭い空間側に移動しようとするが、レバー片42に押し止められ、楔形状空部14Aの狭い空間側に移動できないので、転動部材3は外側部材1と内側部材2との間に食い込むこと無く転動する。よって、内側部材2は反時計方向に回転できる。内側部材2が時計方向に回転するときには前述したように、転動部材3が外側部材1と内側部材2との間に食い込むことが無いから、内側部材2は時計方向にも回転可能である。この場合、内側部材2はどちらの方向にも回転することができる。なお、レバー片収納空部14Bは図示の形状に限定されるものでない。なお、レバー部材4は、後述する係止部によって、外側部材1のレバー片収納空部14Bの各ポジションに確実に係止することができる。
【0025】
図5はレバー片42及びレバー片収納空部14Bのそれぞれに係止部を設けた実施形態を示す図である。図5(A)はレバー部材4(レバー片42)が第1のポジションにある状態を示し、図5(B)はレバー部材4(レバー片42)が第2のポジションにある状態を示す。この実施形態では、図5(A)に示すように、ポケット部14のレバー片収納空部14Bを形成する壁面11aに2個の凹部g1、g2が形成されている。凹部g1、g2は紙面の表裏方向に延びる溝などであり、断面が弧状(V字状)又は台形状であることが望ましい。また、レバー片42の外側面42aに凸部Gを備える。凸部Gは凹部g1、g2に受け入れられる断面が弧状又は台形状の突起であることが好ましい。凸部Gと凹部g1、g2はレバー部材4を外側部材1に一時的に係止することができる係止部を形成する。凸部Gはある大きさ以下の回転力では凹部g1又は凹部g2から脱出できず、レバー部材4は外側部材1に対して回転方向に変位しないが、ある大きさ以上の回転力がかかると、凸部Gは凹部g1又は凹部g2から脱出し、レバー部材4は外側部材1に対してどちらの回転方向にも変位できる構造になっている。レバー片42及びレバー片収納空部14Bが、このような係止部を備えることで、レバー片42を確実に第1のポジション又は第2のポジションに係止することが可能となる。
【0026】
レバー片42は、凸部Gの近傍にそれに沿って形成された空洞部42bを備える。空洞部42bは凸部Gに弾性力をもたせるものである。レバー片42の内側面42cは内側部材2に接触しない程度にポケット部14内に引っ込んでいるのが好ましい。この場合には、レバー片42の先端部分が弾性力をもつので、後述するように、レバー片42の回転方向の変位を確実で容易なものとする。また、図3(B)に示すように、レバー片42の中間部分よりも先端側Wにだけに凸部Gを設けることによって、レバー片42の弾性が有効に働くので、空洞部42bを形成することなく、レバー片42の回転方向の変位を確実で容易なものとすることができる。なお、レバー片42の転動部材3側の先端及び楔形状空部14Aを形成する外側部材1の壁には、それぞれ爪部42x及び11xが形成されており、爪部42xと爪部11xとの間隔は転動部材3の直径よりも常に小さくなっているのが好ましい。このことは、内側部材2が設けられていない場合に、転動部材3が脱落するのを防ぐことができる。
【0027】
ハウジングについては図示しないが、外側部材1に転動体3とレバー部材4とばね部材5を組み込んだ後に、レバー部材4側からハウジング内に挿入し、外側部材1を嵌め合いなど種々の方法で前記ハウジングに固定すればよい。このとき、レバー部材4の円環状板部41がハウジングの側面に軽く接触するか、少しの隙間がある状態で対面している。なお、前記ハウジングはレバー部材4の操作部43用の切り込みを有し、前記ハウジングから突出する操作部43を変位させることができるようになっている。
【0028】
なお、図示しないが、レバー片収納空部14Bの壁面11aに凹部g1、g2を設ける代わりに、凹部g2の位置に1個の凸部を設け、また、レバー片42の外側面42aに凸部Gを設ける代わりに、2個の凹部を設けてもよい。それら2個の凹部は、図4に示す壁面11aの凹部g1、g2に対応する位置のレバー片42の外側面42aの位置に形成される。なお、レバー片42及びレバー片収納空部14Bの壁面11aのすべてに凸部G、凹部g1、g2を設ける必要は無く、一部分に設けるだけで足る場合もある。
【0029】
次に、図5に示すような係止部が形成された双方向回転機能付きワンウェイクラッチの動作について説明する。先ず、図5(A)に示すように、凸部Gが凹部g1に留まっているとき、レバー部材4(レバー片42)が第1のポジションにあるものとする。前述のように、レバー部材4(レバー片42)が第1のポジションに留まっている状態では、この双方向回転機能付きワンウェイクラッチは一般的なワンウェイクラッチと同様な動作を行う。
【0030】
レバー部材4の操作部43に時計方向のある大きさ以上の回転力を与えると、レバー片42の前述した弾性力による摩擦に打ち勝って、凹部g1に係止されている凸部Gが凹部g1から脱出し、レバー片42は時計方向に移動して図5(B)に示すように凹部g2に係止される。この状態では、レバー片42の転動部材3側の一部分が楔形状空部14Aに入り込み、転動部材3を楔形状空部14Aの広い空間側に押しやる。したがって、内側部材2が反時計方向に回転するとき、転動部材3は楔形状空部14Aの狭い空間側に移動しようとするが、レバー片42に押し止められ、楔形状空部14Aの狭い空間側に移動できないので、転動部材3は外側部材1と内側部材2との間に食い込むこと無く転動する。よって、内側部材2は反時計方向に回転できる。内側部材2が時計方向に回転するときには前述したように、転動部材3が外側部材1と内側部材2との間に食い込むことが無いから、内側部材2は時計方向にも回転可能である。この場合、内側部材2はどちらの方向にも回転することができる。
【0031】
例えば、このクラッチを魚釣り用リールに組み込んだ場合、レバー部材4を前記ポジション2に切替えれば、釣り上げた魚の位置を任意の高さなどに用意に調整できるなど、種々の働きをさせることができる。この実施形態1の双方向回転機能付きワンウェイクラッチは、以上述べた双方向の回転機能と一般的なワンウェイクラッチ機能とを、弾力性を有するレバー片42を備えたレバー部材4と外側部材1のポケット部14のレバー片収納空部14Bとに形成した凹凸部からなる係止構造とを利用することによって実現することができる。したがって、この実施形態1によれば、部品点数が少ないだけでなく、組み立て易く、安価に製造可能な構造を有し、かつレバー片42がポケット部14に位置するので転動部材3などの動作によって誤動作しない安定な双方向回転機能付きワンウェイクラッチを提供できる。
【0032】
[実施形態2]
図6〜図9によって、実施形態2の双方向回転機能付きワンウェイクラッチについて説明する。このクラッチも、ポケット部14が楔形状空間14Aとその狭くなる側につながって形成されているレバー片収納空間14Bとからなり、そのレバー片収納空間14Bにレバー片42が挿入され、レバー部材4の変位によって転動部材3が移動できる楔形状空間14Aの大きさを変える基本的な部分は実施形態1と同じである。外側部材1の側壁部12がレバー片42の先端部を受け入れる係止孔を有し、この実施形態では、レバー片42の先端部と係止孔とに形成される凹凸部が、前記第1又は第2のポジションでレバー部材4を外側部材1に係止させる前記係止部を形成する。
【0033】
図6は実施形態2の双方向回転機能付きワンウェイクラッチを側壁部12側から見た図(図1(B)において紙面右側から見た図)である。外側部材1の側壁部12は中央穴13の周りに一定間隔で形成された5個の係止孔12Aを備える。係止孔12Aは図1に示した形状のポケット部14につながっている。したがって、図6では示していないが、このクラッチは一定間隔で形成された5個のポケット部14を備える。係止孔12Aは、半径方向よりも回転方向に長い円弧状又は矩形状の孔であり、図7に示すレバー部材4のレバー片42の先端部を受け入れるものであって、レバー片42の先端部が回転方向にある範囲で係止孔12A内を動ける程度の大きさを有する。
【0034】
図7に示すように、それぞれのレバー片42は円環状板部41から延びる幅が広く厚い幅広部42Aと、それよりも幅が狭く薄い幅狭部42Bとからなる。幅広部42Aは、図4に示したように、ポケット部14のレバー片収納空部14Bに装着され、凸部Gや空洞部42bを有しない。幅狭部42Bは図8に示すように係止孔12Aに挿入され、図9に示すように係止孔12A内を回転方向に変位できる大きさのものである。図7に示すように、幅狭部42Bの先端部分は半径外方向に突出する係着部42Cとなっており、係着部42Cは図1(B)に示す中心軸線X−X方向にレバー部材4が脱抜するのを防ぐだけでなく、外側部材1とレバー部材4との係止部を形成する。
【0035】
実施形態2では、レバー部材4を外側部材1に組み込むとき、それぞれのレバー片42の幅狭部42Bを内側に、つまり中心軸線X−X方向につぼめて側壁部12の5個の係止孔12Aに挿入するか、あるいはレバー片42を係止孔12Aに挿入する際に、レバー片42の半径外方向に突出する係着部42Cの傾斜面が係止孔12Aの周囲壁に沿って滑り、内側部材2の方向につぼまる構造となっている。要するに、レバー片42の弾性力によってレバー片42の係着部42Cの係止面42Caは係止孔12Aの外側辺12Aaを所望の加圧力で押圧する構造になっている。
【0036】
各レバー片42及び各係止孔12Aはそれぞれ同一の構造であるので、その内の一組のレバー片42と係止孔12Aとからなる係止部の一例について、図7及び図8によって説明する。図8(A)、(B)は側壁部12の係止孔12Aとレバー部材4のレバー片42の先端部分との断面を示す図であって、別々の例を示す。図9は側壁部12の係止孔12Aとレバー部材4のレバー片42の幅狭部42Bとの一部分を拡大した図であり、その(A)、(B)は別々の例を示す。一例としては、前述したように各レバー片42を内側につぼめてレバー片42の幅狭部42Bを側壁部12の係止孔12Aに挿入しているので、図7(A)に示すように、その先端部の係着部42Cの係止面42Caが係止孔12Aの外側辺12Aaを押圧している。
【0037】
図9において、係止孔12Aの外側辺12Aaは円弧状であって、図9(A)に示すように、係止孔12Aの外側辺12Aaの係止部には1個の凸部Gが形成されると共に、係着部42Cの係止面42Caに2個の凹部g1、g2が形成される。又は図9(B)に示すように、係止孔12Aの外側辺12Aaの係止部には2個の凹部g1、g2が形成されると共に、係着部42Cの係止面42Caに1個の凸部Gが形成される。なお、図8に示すように、係着部42Cは係止孔12Aの段差面12Abと係止する脱抜防止面42Cbを備え、レバー部材4を外側部材1に組み込んだ状態では、段差面12Abと脱抜防止面42Cbは、レバー部材4が図1の左方向、つまり、中心軸線X−X方向と同方向に脱抜するのを防止するように働く。また、側壁部12が円環状部11と別に造られている場合には、側壁部12が脱落するのを防止する働きも行う。これら凸部Gと凹部g1、g2とは協働して、実施形態1と同様に、レバー部材4を第1のポジション、第2のポジションに一旦安定に留まらせる、つまり係止する働きを行う係止部を形成する。なお、凸部は2個であってもよく、この場合、2個の凸部の間隔は凹部g1とg2との間隔とほぼ等しい。
【0038】
ある大きさ以下の回転力では、凸部Gは凹部g1、g2から脱出できず、レバー部材4は外側部材1に対して回転方向に変位しないが、ある大きさ以上の回転力がかかると、凸部Gは凹部g1又はg2から脱出し、レバー部材4は外側部材1に対して回転方向に変位する。このような動作を可能にする構造であれば、凸部G及び凹部g1、g2の形状を特に制限する必要は無く、実施形態1で述べた形状と同様でよい。
【0039】
また、凹部g1、g2又は凸部Gを係着部42Cの係止面42Caに形成せずに、レバー片42の幅狭部42Bの外側面42Baに形成してもよい。係止孔12Aにあっては、外側面42Baに対応する外側辺12Acに、前述したような凹部g1、g2又は凸部Gが形成される。図8(B)では、レバー片42の長手方向に延びる凸部Gが側壁部12の溝状の凹部に入っている状態を示し、係止孔12Aの外側辺12Acは凹部の底部を示し、レバー片42の幅狭部42Bの外側面42Baは凸部Gの頂部を示す。この場合には、係止孔12Aの外側辺12Aaと係着部42Cの係止面42Caとは接触せず、レバー片42の幅狭部42Bの外側面42Baが係止孔12Aの外側辺12Acを押圧するようになっている。
【0040】
なお、凸部Gが凹部g1の反時計方向、あるいは、凹部g2の時計方向に外れないように、図示しないが、例えば図8で凹部g1、g2の深さを大きくすると共に、凸部Gの高さを大きし、かつ凹部g1と凹部g2との間の係止面42Caを低くする。このようにすることによって、レバー部材4にある大きさの回転力がかかると、凸部Gが凹部g1とg2の間では変位できるが、凹部g1を外れてその反時計方向に、あるいは凹部g2を外れてその時計方向に動くことはない。
【0041】
前述では、各レバー片42の幅狭部42Bを内側につぼめた状態で各係止孔12Aに挿入する形状又は構造になっているものとして説明したが、逆に各レバー片42幅狭部42Bを外側に拡げて各係止孔12Aに挿入する形状又は構造になっていてもよい。この場合には、具体的には図示しないが、図8(B)を用いて一例を説明すると、係着部42Cを各レバー片42の幅狭部42Bの内側面42Bbに形成すると共に、側壁部12の各係止孔12Aの内側に段差面12Abを形成し、幅狭部42Bの内側面42Bbに形成された係着部42Cが各係止孔12Aの内側辺12Adを押圧するようにしても、前述の場合と同様な効果が得られる。
【0042】
この双方向回転機能付きワンウェイクラッチの動作は、基本的には実施形態1と同様である。レバー部材4が第1のポジションにあるとき、レバー片42は図4(A)に示すようにレバー片収納空部14Bに位置し、側壁部12の凸部Gは図9(A)に示すようにレバー片42の係着部42Caの凹部g1に受け入れられた状態にある。したがって、レバー部材4が第1のポジションにあるときは、レバー片42が転動部材3の転動動作に影響を与えることがないが無いから、この双方向回転機能付きワンウェイクラッチは前述したように一般的なワンウェイクラッチと同様な機能を行う。
【0043】
次に、レバー部材4の操作部43に時計方向の力を与えて第1のポジションから第2のポジションに変位させる。このとき、レバー片42は図4(A)の位置から図4(B)の位置に変位し、図9(A)に示すように、凹部g1、g2が時計方向にずれ、凹部g1が凸部Gを受け入れ、レバー部材4は外側部材1に係止される。レバー部材4が前述した第2のポジションにあるとき、実施形態1で説明したように、転動部材3はレバー片42によって楔形状空部14Aの広い空間側に押しやられるので、内側部材2がどちらの方向に回転しようとしても、転動部材3は転動できるから内側部材2がどちらの方向にも回転可能である。
【0044】
この実施形態2のクラッチは、実施形態1と同様に、内側部材2が双方向に回転できる機能と、一方の方向だけに回転できるワンウェイクラッチ機能とを、弾力性を有するレバー片42を備えたレバー部材4と、外側部材1の側壁部12とに形成した凹凸部からなる係止構造とを利用することによって実現することができる。したがって、この実施形態2によれば、部品点数が少ないだけでなく、組み立て易く、安価に製造可能な構造を有する双方向空転可能なワンウェイクラッチを提供できる。なお、凸部は1個として説明したが、2個であっても良い。なお、この実施形態においてもレバー片42及び係止孔の辺の一部分に凸部G、凹部g1、g2を設けるだけでもよい。
【0045】
[実施形態3]
図10によって、実施形態3の双方向回転機能付きワンウェイクラッチについて説明する。このクラッチも、ポケット部14が楔形状空間14Aとその狭くなる側につながって形成されているレバー片収納空間14Bとからなり、そのレバー片収納空間14Bにレバー片42が挿入され、レバー部材4の変位によって転動部材3が移動できる楔形状空間14Aの大きさを変える基本的な部分は実施形態1と同じである。外側部材1との間で前記第1、第2のポジションを決め、かつそれらポジションにレバー部材4を一時的に係止させる前記係止部の構造が異なるので、主にその構造の例について、図10によって説明する。図10は、図1に示したような外側部材1の円環状部11の側面11Aの一部分と図3に示したようなレバー部材4の円環状板部41の一部分とを拡大して示す図である。
【0046】
この実施形態3では、外側部材1の円環状部11の内側環状面11Aaに凹部g1、g2が形成され、レバー部材4の円環状板部41の円環状外周面41Bに凸部Gが形成されている。凸部G及び凹部g1、g2は実施形態1で述べたものと同様な形状であり、レバー部材4が外側部材1に組み込まれたとき、凸部Gが凹部g1又は凹部g2に受け入れられ、凸部Gと凹部g1又は凹部g2とがレバー部材4を外側部材1に一時的に係止する1個の係止部を形成する。凹部g1、g2の好ましい例としては、外側部材1の内側環状面11Aaに形成されている溝である。凸部Gは溝状の凹部g1、g2に適応する長さをもつ突起が好ましい。凸部Gの近傍の弾性力を増すために凸部Gの近傍に空洞部41bが形成されている。なお、図示しないが、凸部G及び凹部g1、凹部g2からなる係止部は一定間隔で複数形成されていても良い。なお、以上の実施形態においては、レバー部材4の操作部43の幅は任意であり、円環状板部41の全周に相当するものであっても良い。
【0047】
組み立て時には、図1に示す外側部材1のポケット部14のレバー片収納空部14Bにレバー片42を挿入しながら、円環状板部41を外側部材1の窪み11Bに納め、凹部g1が凸部Gを受け入れるよう位置決めする。このクラッチにおいても、レバー部材4を時計方向に変位させることにより、弾性力に打ち勝って凸部Gが凹部g1を脱出し、凹部g2に納まる。また、レバー部材4を反時計方向に変位させることにより、弾性力に打ち勝って凸部Gが凹部g2を脱出し、凹部g1に納まる。他の動作や効果などについては実施形態1、2の場合とほぼ同様であるので、説明を省略する。
【0048】
この実施形態3においても、図7に示した係着部42Cをもつレバー片を備えるレバー部材4を用いると共に、外側部材1の側壁部12として係止孔12Aを有する構造のものを用いることにより、組み立て後には中心軸線X−X方向にレバー片42が脱落することが無く、つまりこのクラッチがバラけることは無い。なお、特にレバー片42の先端部に係止部を備えなくとも、不図示のハウジングに外側部材1を組み込むことによって、バラけることがない構造としても良い。
【0049】
[実施形態4]
本発明に係る実施形態4の双方向回転機能付きワンウェイクラッチは、基本的には図1及び図2で説明した部材と同様な部材からなるが、レバー部材4の前記第1、第2のポジションを決め、かつそれらポジションにレバー部材4を外側部材1に一時的に係止させる前記係止部の構造などが異なるので、主にその異なる部分の構例について、図11〜図13によって説明する。図11は外側部材1の円環状部11を正面から見た図であり、図11(B)は図11(A)の破断線c−cにおける断面を示す図である。
【0050】
図11で示すように、外側部材1の円環状部11は側壁部12と反対側の側面11Aに窪み11Bを有すると共に、窪み11Bに通じる切込み箇所11Cを有する。前述したように、ポケット部14は回転方向の一方側が狭まり、他方側が広くなる従来とほぼ同様な楔形状空部14Aと、レバー片42を収納するレバー片収納空部14Bとからなる。レバー部材4が外側部材1に組み込まれるときには、円環状部11の側面11Aの窪み11Bに円環状板部41が納められ、それぞれのレバー片42がレバー片収納空部14Bに装着され、操作部43が切込み箇所11Cを通して外側部材1の半径外方向まで延びる。ここで、切込み箇所11Cは操作部43が回転方向にある範囲で動けるように、操作部43の幅よりも大きな幅を有する。
【0051】
図11に示すように、外側部材1の切込み箇所11Cの底部には凹部g1、g2が形成されている。また、図12に示すように、レバー部材4の操作部43の付け根部分には凸部Gが形成されている。凹部g1、g2及び凸部Gは実施形態1などで述べたものと同様な形状であり、レバー部材4が外側部材1に組み込まれたとき、凸部Gが凹部g1又は凹部g2に受け入れられ、凸部Gと凹部g1又は凹部g2とがレバー部材4を外側部材1に一時的に係止する係止部を形成する。なお、外側部材1は図11に示すハウジング部材6に取付けるための取り付け部11Eを備える。図11では、取り付け部11Eが突起であるが、凹部であっても良い。
【0052】
図13は、転動体3とレバー部材4とばね部材5とが組み込まれた外側部材1をハウジング部材6に組み込んだ状態を説明するための断面を示す。ハウジング部材6は、外側部材1から突出するレバー部材4の操作部43をハウジング部材6の外方向に突出させる切込み部61を備える。組み立て時、操作部43はその切込み部61を通ってハウジング部材6の底方向に納まる。図示していないが、少なくとも切込み部61の操作部43が位置する箇所は、操作部43が所定の範囲、つまり凸部Gが凹部g1と凹部g2との間を動ける程度の幅を有する。レバー部材4の円環状部11とハウジング部材6の底部62との間にはウエーブワッシャなどの弾性部材7が備えられる。この弾性部材7は円環状部11及び操作部43を外側部材1に押し付け、前述した凸部Gと凹部g1と凹部g2との間に押圧力を与えるためのものである。
【0053】
このようにハウジング部材6内に外側部材1などを組み付けた状態では、レバー部材4の円環状部11とハウジング部材6の底部62との間で、弾性部材7の弾性力が有効に働き、弾性部材7が円環状部11を外側部材1の窪み11Bの面を押圧するので、凸部Gと凹部g1と凹部g2との間に押圧力を与える。したがって、操作部43に所定値以上の回転力が加わるときだけ、凸部Gが凹部g1と凹部g2との間を移動することができ、これにともなって、各レバー片42が図4(A)から(B)の状態、あるいは図4(B)から(A)の状態に移動することができ、実施形態3の双方向回転機能付きワンウェイクラッチも前記実施形態1〜3と同様に、ワンウェイクラッチ機能と双方向の回転機能とを果たす。
【0054】
図示しないが、以上述べた実施形態1〜4の変形例について説明する。実施形態1では、外側部材1にポケット部14を備えたが、内側部材2に前述したようなポケット部を備えても良い。この場合には、実施形態1の変形例として、外周面に等間隔で複数のポケット部を備える内輪を内側部材2として用いる。以下では内側部材2を内輪として説明する。ポケット部は、当然に前述したような楔形状空部とレバー片収納空部とからなる。レバー片収納空部にレバー部材のレバー片が装着され、ポケット部に形成された凹部又は凸部とレバー片に形成された凸部又は凹部とが前述の係止部を形成する。外側部材は円環状の内周面を有する外輪でよい。このような構造であっても、実施形態1の双方向回転機能付きワンウェイクラッチと同様に機能し、同様な効果を奏する。
【0055】
また、実施形態2〜実施形態4の変形例も同様にして可能である。実施形態2、3の変形例の場合には、側壁部を内輪と一体的に形成するか、あるいは内輪に固定した構造とし、側壁部に前述したような係止孔を備え、レバー部材のレバー片をその側壁部の係止孔に係着させる。レバー部材を前記第1又は第2のポジションに係止させる構造については、実施形態2、3で説明した係止構造と同様なものでよい。この場合も実施形態2、3と同様な効果を奏する。実施形態4の変形例の場合には、図11に示したようなレバー部材4の円環状板部41の平面が内輪の側面に押圧され、円環状板部41の前記平面に凹部又は凸部が形成され、内輪の前記側面に凸部又は凹部が形成される。これら凹部又は凸部と凸部又は凹部とがレバー部材を前記第1又は第2のポジションに係止させる前記係止部を形成する。
【0056】
図14は、図4に示すレバー片42及びレバー片収納空部14Bの変形例を示す図である。図14(A)及び(B)に示す変形例では、図4に示す実施形態に係るレバー片収納空部14Bが楔形状空部14A側と中央穴13側に開口するように形成されているのに対して、レバー片収納空部141B及び142Bは中央穴13側には開口しておらず、楔形状空部14A側のみに開口している。図14(A)に示すレバー片収納空部141Bは、内側部材2又は外側部材1の中央穴13と同心状の外側の壁面111a及び内側の壁面111bによって形成された所定の間隔を有する円弧状の空部である。レバー片収納空部141Bは、レバー片421が転動部材3の中心軸Oに向けた押圧力を与えるように、楔形状空部14Aの狭い空間側の端面の中央付近に開口するように形成されている。ただし、転動部材3に対して押圧力を与える方向によって、レバー片収納空部141Bの形成位置を適宜設定することができる。レバー片421は、レバー片収納空部141Bの外側の壁面111aに対応して、内側部材2又は外側部材1の中央穴13と同心状の外側面421a及び内側面421cを有する。レバー片421は、図3に示すように、内側部材2と同心の円環状板部41に内側部材2と同心状に所定の間隔で複数個形成されており、操作部43によって、円環状板部41と一体的に円弧状に可動する。
【0057】
図14(B)に示すレバー片422は、円筒状のレバー片であり、上記同様に内側部材2と同心の円環状板部41に内側部材2と同心状に所定の間隔で複数個形成されており、操作部43によって、円環状板部41と一体的に円弧状に可動する。レバー片収納空部142Bは、U字形状を有しており、円筒状のレバー片422の全体を受け入れる大きさを有している。図14(A)及び(B)に示す変形例では、レバー片421、422が内側部材2とは外側部材1の円環状部11の一部によって隔たれているため、レバー片421、422が内側部材2と接触することがなく、レバー片421、422を確実に係止又は係止を解除することが可能である。
【0058】
この双方向回転機能付きワンウェイクラッチはプリンタなどの紙送り機構にも用いることができ、外側部材と内側部材とがロックされるとき主導側の回転力を従動側に伝達し、外側部材と内側部材とが相互に回転できるときには主導側の回転力は遮断され、従動側に伝達されない。紙が詰まったときなどには、双方向回転可能なポジションに切り替えることによって、容易に詰まった紙を取り除くことができる。なお、本発明はポケット部14の個数、つまり転動部材3の個数やレバー部材4のレバー片42の個数に制限されるものではない。また、2個の凹部g1、g2が外側部材1又はレバー部材4のどちらに形成されていようが構わない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、魚釣り用リールあるいはプリンタなど、双方向回転機能と、ワンウェイクラッチ機能を必要とする各種の機器用のクラッチに広く適用できる。
【符号の説明】
【0060】
1・・・外側部材(外輪)
11・・・円環状部
11A・・・円環状部11の側面
11Aa・・・窪み11Bを囲む内側環状壁
11B・・・円環状部11の側面の窪み
11C・・・円環状部11の切込み箇所
11D・・・円環状部11の空洞部
11E・・・円環状部11の取り付け部
11a・・・ポケット部14のレバー片収納空部14Bを形成する壁面
11x・・・ポケット部14を形成する外側部材1の壁の爪部
12・・・側壁部
12A・・・側壁部12の係止孔
12Aa・・・側壁部12の係止孔12Aの外側辺
12Ab・・・側壁部12の係止孔12Aの段差面
12Ac・・・側壁部12の係止孔12Aの外側辺
12Ad・・・側壁部12の係止孔12Aの内側辺
13・・・中央穴
14・・・ポケット部
14A・・・楔形状空部
14B・・・レバー片収納空部
2・・・内側部材(シャフト又は内輪)
3・・・転動部材(ローラ又はボール)
4・・・レバー部材
41・・・円環状板部
41A・・・円環状板部41の中央穴
41B・・・円環状板部41の円環状外周面
42・・・レバー片
42A・・・幅広部
42B・・・幅狭部
42Ba・・・幅狭部42Bの外側面
42Bb・・・幅狭部42Bの内側面
42C・・・係着部
42Ca・・・係着部42Cの係止面
42Cb・・・係着部42Cの脱抜防止面
42a・・・レバー片42の外側面
42b・・・レバー片42の空洞部
42c・・・レバー片42の内側面
42x・・・レバー片42の爪部
42Cb・・・脱抜防止面
43・・・操作部
5・・・ばね部材
6・・・ハウジング部材
61・・・ハウジング部材6の切込み部
62・・・ハウジング部材6の底部
7・・・弾性部材
X−X・・・中心軸線
G・・・凸部
g1、g2・・・凹部
W・・・レバー片42の中間部分よりも先端側

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に一定の間隔で形成された複数の楔形状空部と該楔形状空部の楔形状の狭くなる側につながっているレバー片収納空部とを備える外側部材と、
該外側部材の前記楔形状空部にそれぞれ配置される転動部材と、
前記外側部材の前記楔形状空部の楔形状の広くなる側に位置するばね部材と、
前記レバー片収納空部と前記楔形状空部との間を動けるレバー片を備え、該レバー片を第1のポジションと第2のポジションとの間で回転方向に変位させることができるレバー部材と、
前記外側部材と前記レバー部材とは、互いに協働して前記第1のポジションと前記第2のポジションとを決め、かつそれら前記第1のポジション又は前記第2のポジションに前記レバー部材を一時的に係止できる係止部とを備え、
前記レバー部材が前記第1のポジションに位置するときには、前記レバー片は前記レバー片収納空部に位置して前記転動部材に接触せず、内側部材又は前記外側部材がある方向に回転しようとするときには前記転動部材が前記楔形状空部を前記楔形状の狭くなる側に動いて前記外側部材と前記内側部材との間に食い込んで回転不可能とし、前記内側部材又は前記外側部材が前記ある方向とは逆方向に回転しようとするときには前記転動部材が前記楔形状空部を前記楔形状の広くなる側に動いて転動することによって、前記外側部材と前記内側部材とが回転可能なワンウェイクラッチ機能を呈し、
前記レバー部材が前記第2のポジションに位置するときには、前記レバー片が前記レバー片収納空部から前記楔形状空部内に変位して、前記転動体を前記楔形状空部の前記楔形状の広くなる側に押しやった状態になり、前記内側部材又は前記外側部材がいずれの方向に回転しようとしても前記転動部材は前記内側部材と前記外側部材との間に食い込まずに転動し、前記内側部材と前記外側部材とは双方向に回転可能であることを特徴とする双方向回転機能付きワンウェイクラッチ。
【請求項2】
請求項1において、
前記レバー部材は、前記内側部材を挿通させる円形状の中央穴を有する円環状板部と該円環状板部の一方の面から一定間隔で同一方向に延びる複数の前記レバー片とからなり、
複数の前記レバー片は、前記内側部材と同心状に変位可能に前記円環状板部に配置され、
前記レバー片収納空部は、前記内側部材と同心状の壁面を有する円弧状の空部であることを特徴とする双方向回転機能付きワンウェイクラッチ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記レバー部材は、前記内側部材を挿通させる円形状の中央穴を有する円環状板部と、該円環状板部の一方の面から一定間隔で同一方向に延びる複数の前記レバー片とからなり、
前記レバー片は弾性を有するものであって、該レバー片の外側面には凸部又は凹部が形成され、
前記レバー片の前記外側面の前記凸部又は前記凹部に対面する前記レバー片収納空部の壁面に凹部又は凸部が形成され、
前記レバー片の弾性によって、前記レバー片収納空部の前記凹部又は前記凸部と前記レバー片の前記凸部又は前記凹部とが互いに係止し合う前記係止部として機能することを特徴とする双方向回転機能付きワンウェイクラッチ。
【請求項4】
請求項1又は請求項2において、
前記レバー部材は、前記内側部材を挿通させる円形状の中央穴を有する円環状板部と、該円環状板部の一方の面から一定間隔で同一方向に延びる複数の前記レバー片とからなり、
前記外側部材の一端側には、前記内側部材を挿通させることができる中央穴と、該中央穴の周囲に一定間隔で、前記レバー部材の前記レバー片がそれぞれ挿入される係止孔とを有する側壁部が備えられ、
前記レバー片は弾性を有するものであって、前記レバー片の外側面には凸部又は凹部が形成され、
前記側壁部の前記係止孔は、前記レバー片が回転方向に前記第1のポジションと前記第2のポジションとを移動できる大きさを有すると共に、前記レバー片の前記凸部又は前記凹部に対面する辺に凹部又は凸部を備え、
前記レバー片の前記凸部又は前記凹部と前記係止孔の前記凹部又は前記凸部とが互いに係止し合う前記係止部として機能することを特徴とする双方向回転機能付きワンウェイクラッチ。
【請求項5】
請求項4において、
複数の前記レバー片の少なくとも一部分は、その先端部分に半径方向に突出する係着部を有し、
前記レバー片が前記係止孔に挿入されたとき、前記係着部が前記外側部材の前記側壁部に係着されて、前記レバー部材が前記外側部材から前記回転方向とは垂直な軸線方向に脱抜されないようにすることを特徴とする双方向回転機能付きワンウェイクラッチ。
【請求項6】
請求項1又は請求項2において、
前記レバー部材は、前記内側部材を挿通させる円形状の中央穴を有する円環状板部と、該円環状板部の一方の面から一定間隔で同一方向に延びる複数の前記レバー片とからなり、
前記外側部材の円環状側面には凹部又は凸部が形成され、
前記レバー部材の前記円環状板部には前記外側部材の前記凹部又は前記凸部に対応する箇所に凸部又は凹部が形成され、
前記外側部材及び前記レバー部材はハウジング内に収納されて、前記外側部材が前記ハウジング部材に固定され、前記ハウジング部材の側壁部と前記レバー部材の前記円環状板部との間には弾性部材が備えられ、
前記弾性部材が前記レバー部材の前記円環状板部を前記外側部材の前記円環状側面に押し付けることにより、前記外側部材及び前記レバー部材の前記凸部と前記凹部とが前記係止部として機能することを特徴とする双方向回転機能付きワンウェイクラッチ。
【請求項7】
外周面に一定の間隔で形成された複数の楔形状空部と該楔形状空部の楔形状の狭くなる側につながっているレバー片収納空部とを備える内側部材と、
該内側部材の前記楔形状空部にそれぞれ配置される転動部材と、
前記内側部材の前記楔形状空部の楔形状の狭くなる側に位置するばね部材と、
前記レバー片収納空部と前記楔形状空部との間を動けるレバー片を備え、該レバー片を第1のポジションと第2のポジションとの間で回転方向に変位させことができるレバー部材と、
前記内側部材と前記レバー部材とは、互いに協働して前記第1のポジションと前記第2のポジションとを決め、かつそれら前記第1のポジション又は前記第2のポジションに前記レバー部材を一時的に係止できる係止部とを備え、
前記レバー部材が前記第1のポジションに位置するときには、前記レバー片は前記レバー片収納空部に位置して前記転動部材に接触せず、外側部材又は前記内側部材がある方向に回転しようとするときには前記転動部材が前記楔形状空部を前記楔形状の狭くなる側に動いて前記内側部材と前記外側部材との間に食い込んで回転不可能とし、前記外側部材又は前記内側部材が前記ある方向とは逆方向に回転しようとするときには前記転動部材が前記楔形状空部を前記楔形状の広くなる側に動いて転動することによって、前記内側部材と前記外側部材とが回転可能なワンウェイクラッチ機能を呈し、
前記レバー部材が前記第2のポジションに位置するときには、前記レバー片が前記レバー片収納空部から前記楔形状空部内に変位して、前記転動体を前記楔形状空部の楔形状の広くなる側に押しやった状態になり、前記外側部材又は前記内側部材がいずれの方向に回転しようとしても前記転動部材は前記外側部材と前記内側部材との間に食い込まずに転動し、前記外側部材と前記内側部材とは双方向に回転可能であることを特徴とする双方向回転機能付きワンウェイクラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−229778(P2012−229778A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99687(P2011−99687)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)