説明

双方向空転可能なワンウェイクラッチ

【課題】部品点数が少なく、組み立て易く、安価に製造可能な構造の双方向空転可能なワンウェイクラッチを提案すること。
【解決手段】中間部材を保持する保持器は、内側部材又は外側部材が、双方向に自在に回転できる第1のポジション、一方向にはロックされて回転できないが他方向には回転できる第2のポジション、前記他方向にはロックされて回転できないが前記一方向には回転できる第3のポジションに切替え可能である。前記外側部材又は前記内側部材と前記保持器とは、互いに協働して前記第1のポジション、前記第2のポジション、前記第3のポジションを決め、かつそれら前記第1のポジションから前記第3のポジションのいずれかに前記保持器を一時的に係止できる係止部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内側部材と外側部材とが互いに自由に回転可能な第1のポジションと、内側部材と外側部材とが一方向では互いにロックすると共に他方向には回転する第2、第3のポジションとを有する双方向空転可能なワンウェイクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
内輪のような内側部材と外輪のような外側部材とが互いに自由に双方向に回転が可能である状態と、内側部材と外側部材とが互いにロックし合って回転できない状態とを選択できる構造の2方向に空転・双方向でロックする切替えクラッチは既に色々と提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
前掲の特許文献1の発明に係る2方向空転・ロック切替えクラッチは、外側部材の内周面に凹状面であるカム面を備え、保持器が円筒状の外周面をもつ内側部材と連れ回りする構造であって、ローラ(コロ)のような中間部材が常に内側部材に接触する構造になっている。この構造のクラッチは、保持器を外部から操作して中間部材がカム面の中央に位置するときに内側部材が正逆双方向に空転できる2方向空転状態にあるか、あるいは中間部材がカム面のいずれかの側に偏った位置にあるときには中間部材が外側部材と内側部材との間に食い込んで外側部材と内側部材とが互いに回転不可能とするロック状態にある。つまり、ロック状態では、内側部材が正逆いずれの回転方向に回転しても保持器が連れ回りするので、中間部材は内側部材と外側部材のカム面との間に食い込み、内側部材と外側部材とが正逆双方向でロックされる構造である。
【0004】
また、この構造のクラッチは、保持器が常に内側部材の外周面に接触する構造であり、空転状態においては、操作機構によって一定位置に固定された保持器に保持された中間部材がその一定位置で転動しなければならない。したがって、保持器と中間部材との間の接触抵抗が大きく、このことは中間部材と内側部材との接触抵抗を大きくし、実際には2方向に自由に空転することができず、かなり大きな力がかかった状態で内側部材が回転することになる。このことは中間部材と内側部材との摩擦による騒音が生じるだけでなく、用途によっては大きな問題となる。
【0005】
また、前掲の特許文献2に係る2方向空転・ロック切替えクラッチの実施例は、外輪のような外側部材の内周面にV字状などの凹状面のカム面が形成されている。外側部材の内周面にカム面を設けるか、内側部材の外周面にカム面を設けるかの相違はあるが、特許文献2のものも、前述した特許文献1の発明に係る2方向空転・ロック切替えクラッチと同様に双方向空転と双方向ロックとの切替え動作を行うものである。つまり、このクラッチもロック状態では外側部材が正逆いずれの回転方向に回転しても保持器が連れ回りするので、中間部材は内側部材と外側部材のカム面との間に食い込み、正逆双方向でロックされる構造である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平04−277329号公報
【特許文献2】特開平11−182590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2は、内側部材又は外側部材が正逆いずれかの方向に回転するときに、保持器が連れ回りする構造であるので、一方向又は他方向にロック切替えを行ったときに、正逆双方ともロック状態になる。したがって、一方向又は他方向にロック切替えを行ったときに、それらとは逆方向の回転力が内側部材又は外側部材にかかったとしても、回転できなかったため、ワンウェイクラッチとして機能しなかった。
【0008】
本発明は、上述のような従来の課題を解決することを目的とする。本発明に係る双方向空転可能なワンウェイクラッチは、内側部材又は外側部材のいずれかが正逆双方向に空転可能な機能と、一方向又は他方向にロック切替えを行った状態においては一方向のみにロックし、他方向には回転可能なワンウェイクラッチ機能とを有する構造のものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、円筒状の内周面に一定の間隔で形成された複数のカム面を有する円環状部を備える外側部材と、その外側部材の前記カム面に対応する位置にそれぞれ配置される複数の中間部材と、前記複数の中間部材をそれぞれ保持し、かつ外力によって前記外側部材に対して回転方向に変位して第1のポジション、第2のポジション、第3のポジションに前記中間部材の位置を規制することができる保持器と、前記中間部材に対して両側から回転方向の弾性力を与えるばね部材とを備える双方向空転可能なワンウェイクラッチであって、前記外側部材と前記保持器とは、互いに協働して前記第1のポジション、前記第2のポジション、前記第3のポジションを決め、かつそれら前記第1のポジションから前記第3のポジションのいずれかに前記保持器を一時的に係止できる係止部を備え、前記保持器が前記第1のポジションに留まるときには、前記中間部材を前記カム面の中央に位置させることにより、前記外側部材の前記円環状部の前記内周面から離れて向き合うように同心状に配置される内側部材がどちらの方向にも空転可能であり、前記保持器が前記第1のポジションの一方の側に所定角度だけ変位した前記第2のポジションに留まるときには、前記中間部材が前記カム面の中央から変位した位置にあって、前記カム面と前記内側部材の外周面との双方に押し当てられることにより、前記内側部材が一方の回転方向に回転しようとすると、前記中間部材が前記内側部材と前記外側部材とに噛み付いて前記内側部材と前記外側部材とが互いにロックされ、前記内側部材が他方の回転方向に回転するときには前記ばね部材の弾性力によって、前記中間部材は前記内側部材と前記外側部材とに噛み付かずに前記内側部材は他方の回転方向に回転可能であり、前記保持器が前記第1のポジションの他方の側に所定角度だけ変位した前記第3のポジションに留まるときには、前記中間部材が前記カム面の中央から変位した位置にあって、前記カム面と前記内側部材の前記外周面との双方に押し当てられることにより、前記内側部材が他方の回転方向に回転しようとすると、前記中間部材が前記内側部材と前記外側部材とに噛み付いて前記内側部材と前記外側部材とが互いにロックされ、前記内側部材が一方の回転方向に回転するときには前記ばね部材の弾性力によって、前記中間部材は前記内側部材と前記外側部材とに噛み付かずに前記内側部材は一方の回転方向に回転可能であることを特徴とする双方向空転可能なワンウェイクラッチを提案する。
【0010】
第2の発明は、前記第1の発明において、前記保持器は前記内側部材を挿通させる円形状の中央穴を有する保持環状部と、該保持環状部の一方の面から一定間隔で同一方向に延びる複数の保持片とからなり、前記外側部材の一端側には、前記内側部材を挿通させることができる中央穴と、該中央穴の周囲に一定間隔で、前記保持器の前記保持片がそれぞれ挿入される保持孔を備える側壁部が備えられており、前記保持孔は、前記保持片が回転方向に前記第2のポジションから前記第3のポジションまで移動できる大きさを有することを特徴とする双方向空転可能なワンウェイクラッチを提案する。
【0011】
第3の発明は、前記第2の発明において、複数の前記保持片は、弾性を有する材料からなり、前記保持孔に挿入され、前記保持孔の前記外側辺又は前記内側辺に凸部と凹部の少なくとも一方が形成され、前記保持孔の前記外側辺あるいは前記内側辺に対応する前記保持片の面には凹部と凸部の少なくとも一方が形成され、前記保持孔の前記外側辺あるいは前記内側辺の前記凸部又は前記凹部と前記保持片の前記凹部又は前記凸部とが互いに係止し合う前記係止部を形成することを特徴とする双方向空転可能なワンウェイクラッチを提案する。
【0012】
第4の発明は、前記第2の発明又は前記第3の発明において、複数の前記保持片の少なくとも一部分は、その先端部分に半径方向に突出する係着部を有し、前記保持片が前記保持孔に挿入されたとき、前記係着部が前記外側部材の前記側壁部に係着されて、前記保持器が前記外側部材から前記回転方向とは垂直な軸線方向に脱抜されないようにすることを特徴とする双方向空転可能なワンウェイクラッチを提案する。
【0013】
第5の発明は、前記第1の発明において、前記保持器は前記内側部材を挿通させる円形状の中央穴を有する保持環状部を備え、前記保持環状部は弾性材料からなって、その外周面には凸部と凹部の少なくとも一方が形成され、前記保持環状部の外周面に接する前記外側部材の円環状側面には、前記保持環状部に形成される前記凸部が係止される凹部、又は前記保持環状部に形成される前記凹部に係止される凸部が形成され、前記外側部材及び前記保持器の前記凸部と前記凹部とが前記係止部を形成することを特徴とする双方向空転可能なワンウェイクラッチを提案する。
【0014】
第6の発明は、前記第1の発明において、前記保持器は弾性材料からなって、前記内側部材を挿通させる円形状の中央穴を有する保持環状部と該保持環状部の外周部から半径外方向に延びる操作部とから構成され、その操作部近傍の前記保持環状部の内側となる面には凸部と凹部の少なくとも一方が形成され、前記操作部近傍の前記保持環状部の前記内側となる面に接する前記外側部材の円環状側面、あるいは該円環状側面近傍の外周面には、前記保持器に形成された前記凸部又は前記凹部に係止される凹部又は凸部が形成され、前記外側部材と前記保持器の前記凸部と前記凹部とが前記係止部を形成することを特徴とする双方向空転可能なワンウェイクラッチを提案する。
【0015】
第7の発明は、円筒状の外周面に一定の間隔で形成された複数のカム面を備える内側部材と、その内側部材の前記カム面に対応する位置にそれぞれ配置される複数の中間部材と、前記複数の中間部材をそれぞれ保持し、かつ外力によって前記内側部材に対して回転方向に変位して第1のポジション、第2のポジション、第3のポジションに前記中間部材の位置を規制することができる保持器と、前記中間部材に対して両側から回転方向の弾性力を与えるばね部材とを備える双方向空転可能なワンウェイクラッチであって、前記内側部材と前記保持器とは、互いに協働して前記第1のポジション、前記第2のポジション、前記第3のポジションを決め、かつそれら前記第1のポジションから前記第3のポジションのいずれかに前記保持器を一時的に係止できる係止部を備え、前記保持器が前記第1のポジションに留まるときには、前記中間部材を前記カム面の中央に位置させることにより、前記内側部材の前記外周面から離れて向き合うように同心状に配置される外側部材がどちらの方向にも空転可能であり、前記保持器が前記第1のポジションの一方の側に所定角度だけ変位した前記第2のポジションに留まるときには、前記中間部材が前記カム面の中央から変位した位置にあって、前記カム面と前記外側部材の前記内周面との双方に押し当てられることにより、前記外側部材が一方の回転方向に回転しようとすると、前記中間部材が前記内側部材と前記外側部材とに噛み付いて前記内側部材と前記外側部材とが互いにロックされ、前記外側部材が他方の回転方向に回転するときには前記ばね部材の弾性力によって、前記中間部材は前記内側部材と前記外側部材とに噛み付かずに前記外側部材は他方の回転方向に回転可能であり、前記保持器が前記第1のポジションの他方の側に所定角度だけ変位した前記第3のポジションに留まるときには、前記中間部材が前記カム面の中央から変位した位置にあって、前記カム面と前記外側部材の前記内周面との双方に押し当てられることにより、前記外側部材が他方の回転方向に回転しようとすると、前記中間部材が前記内側部材と前記外側部材とに噛み付いて前記内側部材と前記外側部材とが互いにロックされ、前記外側部材が一方の回転方向に回転するときには前記ばね部材の弾性力によって、前記中間部材は前記内側部材と前記外側部材とに噛み付かずに前記外側部材は一方の回転方向に回転可能であることを特徴とする双方向空転可能なワンウェイクラッチを提案する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、内側部材又は外側部材のいずれかが正逆双方向に空転可能な機能を有するばかりで無く、一方向又は他方向にロック切替えを行った状態においてはワンウェイクラッチ機能を有する構造の双方向空転可能なワンウェイクラッチを実現できる。この双方向空転可能なワンウェイクラッチは、部品点数が少なく、組み立て易く、安価に製造可能な構造を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る実施形態1の双方向空転可能なワンウェイクラッチを示す図である。
【図2】本発明に係る実施形態1の双方向空転・ロック切替えクラッチの正面図(A)、断面図(B)、裏面図(C)を説明するための図である。
【図3】本発明に係る実施形態1の双方向空転可能なワンウェイクラッチの動作説明を行うための図である。
【図4】本発明に係る実施形態1の双方向空転可能なワンウェイクラッチに用いられる保持器の断面を示す図である。
【図5】本発明に係る実施形態1の双方向空転可能なワンウェイクラッチの側壁部の保持孔と保持片との係着構造の二つの例(A)、(B)を示す図である。
【図6】本発明に係る実施形態1の双方向空転可能なワンウェイクラッチの側壁部の保持孔と保持片との係止部の三つの例(A)、(B)、(C)を説明するための図である。
【図7】本発明に係る実施形態2の双方向空転可能なワンウェイクラッチの側面(A)と断面(B)を示す図である。
【図8】本発明に係る実施形態2の双方向空転可能なワンウェイクラッチの保持器のポジションを決める係止部を説明するための図である。
【図9】本発明に係る実施形態3の双方向空転可能なワンウェイクラッチの正面図(A)、断面図(B)、斜視図(C)である。
【図10】本発明に係る実施形態3の双方向空転可能なワンウェイクラッチの保持器のポジションを決める係止部を説明するための図である。
【図11】本発明に係る実施形態4の双方向空転可能なワンウェイクラッチの概略を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る双方向空転可能なワンウェイクラッチは、外側部材の内周面又は内側部材の外周面に凹状のカム面を有し、保持器が中間部材を前記カム面の中央に位置させるときには、前記外側部材と前記内側部材は互いに正逆双方向に空転可能である。前記保持器が前記中間部材を前記カム面の中央からどちらかの側に変位させて前記カム面に押し付ける位置にあるとき、このクラッチはワンウェイクラッチ機能を呈する。例えばワンウェイクラッチ機能の時には、回転力がロック方向にかかればロック状態となり、回転力がフリー方向にかかれば、保持器の位置を切り替えることなく空転する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想から逸脱しない限り、本発明に含まれるものとする。本明細書及び図面において、符号が同じ構成要素は同一の名称の部材を示すものとする。
【0019】
[実施形態1]
本発明に係る実施形態1の双方向空転可能なワンウェイクラッチは、図1及び図2(A)、(B)、(C)に示すように、大きく分けて、円環状の外輪又はハウジングのような固定側の外側部材1と、円環状の内輪又は円柱状のシャフトのような回転側の内側部材2と、内側部材2と連れ回ることがないように外側部材1に係止される保持器3と、外側部材1と内側部材2との間に配置され、保持器3に保持されるローラ(コロ)又はボールのような中間部材4と、その中間部材に半径外方向又は半径外方向の押圧力を含む弾性力を付与するばね部材5とから構成される。なお、図1では内側部材が装着されていない状態を示している。
【0020】
ここで、内側部材2がシャフトである場合には、当初からシャフトが双方向空転可能なワンウェイクラッチに組み込まれていてもよいが、当初はシャフトが組み込まれておらず、例えばユーザが不図示の機器にこの双方向空転可能なワンウェイクラッチを組み込む際などに、前記機器の適したシャフトにこの双方向空転可能なワンウェイクラッチを組み付ける場合などがある。このように内側部材2が後で組み込まれる双方向空転可能なワンウェイクラッチも本発明の権利範囲に含まれることは言うまでも無い。
【0021】
外側部材1は短円筒状の円環状部11と、円環状部11と一体的に形成された側壁部12、又は円環状部11とは別に造られた側壁部12とからなる。図3(A)、(B)、(C)で示すように、円環状部11は内周面11Aと外周面11Bとを有し、内周面11Aには一定の間隔で同一構造の5個のカム面Cが形成されている。外周面11Bには、図示しない機器などに取付けるための3個の固定用凹所Fが等間隔で形成されている。それぞれのカム面Cは円環状の内周面11Aから中央が深く、その両側で浅くなるV字状又は円弧状に凹んだ形状の凹所である。カム面Cの形状については既にいろいろと開示されており、カム面Cの形状について特に制限する必要は無く、中間部材4がカム面Cの中央に位置するときは、内側部材2が正逆双方向に自由自在に回転することが可能であり、中央からずれた、つまり変位した両側ではカム面Cが内側部材2の外周面と楔形空間を形成する形状であればよい。なお、カム面は3個以上であるならば任意の個数でよく、また、固定用凹所Fは突起部であっても良い。
【0022】
外側部材1の側壁部12は中央に内側部材2を挿通させる中央穴12Aと、中央穴12Aの周りに一定間隔で形成された保持孔12Bとを備える。保持孔12Bは、それぞれ半径方向よりも回転方向に長い円弧状又は矩形状の孔であり、後述する保持器3の保持片を受け入れるものであって、前記保持片が回転方向にある範囲で保持孔12B内を動ける程度の大きさを有する。保持孔12Bはカム面Cと同等の個数である。側壁部12が円環状部11と別に造られている場合には、図示しないが、側壁部12が円環状部11の一端に圧入などによって固定されるか、あるいは保持器3の前記保持片を保持孔12Bに受け入れることによって、側壁部12は円環状部11の一端に係止される。そして、側壁部12が円環状部11と別に造られている場合には、例えば円環状部11を樹脂材料に比べて耐磨耗性の大きな金属材料で構成し、側壁部12を安価な樹脂材料で構成することも可能である。なお、側壁部12と円環状部11とが別体で構成されている場合、側壁部12と円環状部11との外周面にそれぞれ形成されている固定用凹所Fをこのクラッチを取り付ける機器の凸所に嵌め合わせることで、側壁部12と円環状部11が一体的に固定される。したがって、円環状部11及び側壁部12がそれぞれ別々に回動してしまうことを防止することができ、保持器3及び中間部材4に対するカム面Cの位置を適切に設定することができる。
【0023】
実施形態1では、図2(B)に示すように、内側部材2は円柱状のシャフトであり、好ましくは外側部材1の側壁部12の中央穴12Aの壁とほとんど接触しないように、5個の中間部材4に支承される。なお、図示しないが、必要があれば、側壁部12の中央穴12Aにラジアルベアリングの外輪を固定し、内輪に内側部材2を固定しても良い。この場合には、後述するように内側部材2が双方向に空転可能な状態にあるときでも、内側部材2がガタつくことなく回転することができる。
【0024】
保持器3は、例えばポリアセタールなどのような弾性を有する合成樹脂などからなり、図2(B)及び図4などに示すように、保持環状部31と保持環状部31の内側になる面31Aから延びる5本の保持片32などからなる。保持環状部31は内側部材2を挿通させることができる大きさの円形状の中央穴31Bを備え、保持環状部31の外周面には半径外方向に突出する操作部33が形成される。なお、弾性とは、素材自体の伸びる性能は大きくなくとも、形状的に柔軟性があり、外からの押圧力によっても破壊されずに変形し、押圧力が除去されると元に戻ることができるという可撓性の意味を含むものとする。操作部33の近傍に形成されている貫通孔34は、ニュートラル位置、つまり後述する空転位置である第1のポジションを示す目印、例えば貫通孔34から文字Nを覗き見て、このクラッチが空転できる状態にあるか否かを確認するためのものである。これは必ずしも必要ではない。
【0025】
図4に示すように、保持片32は保持器3が外側部材1に組み込まれたときに、外側部材1の円環状側面13が接する保持環状部31の面31Aの外側の領域31Aaよりも内側で、中央穴31Bの周りに等間隔に形成されている。それぞれの保持片32は、幅が広く厚い幅広部32Aと、それよりも幅が狭く薄い幅狭部32Bとからなる。図4には示していないが、中間部材4は隣接する保持片32の幅広部32Aと幅広部32Aとの間に、ばね部材5によって回転方向の両側から押圧されるようにして保持される。内側部材2が設けられない場合には、図3に示すように、中間部材4が中央穴12A方向に脱落することが無いように、保持器3の隣接する幅広部32Aと幅広部32Aにおける中央穴12A近傍の爪部32Aa同士の間隔は中間部材4の直径よりも小さな寸法になっている。
【0026】
図2(B)、(C)及び図5に示すように、それぞれの保持片32の幅狭部32Bは保持孔12Bに挿入され、図6に示すように保持孔12B内を回転方向に変位できる大きさのものである。幅狭部32Bの先端部分は半径外方向に突出する係着部32Cとなっており、係着部32Cは図2に示す軸線X−X方向に保持器3が脱抜されるのを防ぐ。実施形態1では、保持器3を外側部材1に組み込むとき、それぞれの保持片32を内側に、つまり軸線X−X方向につぼめて側壁部12の5個の保持孔12Bに挿入するか、あるいは保持片32を保持孔32に挿入する際に、保持片32の半径外方向に突出する係着部32Cの傾斜面が保持孔32の外側辺12Bcに沿って滑り、内側部材2の方向につぼまる構造となっている。
【0027】
一例を挙げれば、図5及び図6において、保持片32に外力を与えない状態では、各保持片32の係着部32Cの係止面32Caは各保持孔12Bの外側辺12Baとほぼ同一面又はそれよりも外側にある。つまり、各係止面32Caをつないで形成される仮想円の直径は、各外側辺12Baをつないで形成される仮想円の直径と同程度か、それよりも大きいことが好ましい。この場合には後述するように、保持片32の弾性力によって保持片32の係着部32Cの係止面32Caは各保持孔12Bの外側辺12Baを所望の加圧力で押圧するので、必要な大きさの係止力を得やすい。
【0028】
各保持片32及び各保持孔12Bはそれぞれ同一の構造であるので、その内の一組の保持片32と保持孔12Bの一例について、図5及び図6によって説明する。図5(A)、(B)は側壁部12の保持孔12Bと保持器3の保持片32の先端部分との断面を示す図であって、別々の例を示す。図6は側壁部12の保持孔12Bと保持器3の保持片32の幅狭部32Bとの一部分を拡大した図であり、その(A)〜(C)は別々の例を示す。一例としては、前述したように各保持片32を内側につぼめて保持片32の幅狭部32Bを側壁部12の保持孔12Bに挿入しているので、図5(A)に示すように、その先端部の係着部32Cの係止面32Caが保持孔12Bの外側辺12Baを押圧している。
【0029】
図6は係着部32Cの係止面32Caと保持孔12Bの外側辺12Baとの係止状態を示している。保持孔12Bの外側辺12Baは円弧状であって、図6(A)又は図6(B)に示すように、外側辺12Baの一つの係止部には3個の凸部G1、G2、G3、あるいは3個の凹部g1、g2、g3が一定間隔で形成されている。なお、図5(A)、(B)に示すように、係着部32Cは保持孔12Bの段差面12Bbと係止する脱抜防止面32Cbを備え、保持器3を外側部材1に組み込んだ状態では、段差面12Bbと脱抜防止面32Cbは、保持器3が図5の左方向、つまり、軸線X−X方向と同方向に脱抜するのを防止するように働く。また、側壁部12が円環状部11と別に造られている場合には、側壁部12が脱落するのを防止する働きも行う。
【0030】
係止面32Caは保持孔12Bの外側辺12Baと同様な曲率の円弧状であって、係止面32Caには、図6(A)又は図6(B)に示すように、3個の凹部g1、g2、g3、あるいは3個の凸部G1、G2、G3が一定間隔で形成されている。凸部G1とG2、凸部G2とG3との間隔は凹部g1とg2、凹部g2とg3との間隔とほぼ同じであり、凹部g1、g2、g3は凸部G1、G2、G3を受け入れることができる。これら凸部G1、G2、G3と凹部g1、g2、g3とは協働して前記係止部を形成し、後で詳述する内側部材2の空転を可能にする第1のポジション、内側部材2をそれぞれ別々の方向にロックする第2、第3のポジションに保持器3を一旦安定に留まらせる、つまり係止する働きを行う。なお、これら凸部G1、G2、G3と凹部g1、g2、g3の形状は特に限定されず、各保持片32が弾性を有するので、それら凸部の高さや凹部の深さ、あるいは形状によってはそれらが常に互いに押圧していなくともよく、凸部G1、G2、G3が凹部g1、g2、g3に納まっていればよい。
【0031】
ある大きさ以下の回転力では、凸部G1、G2、G3は凹部g1、g2、g3から脱出できず、保持器3は外側部材1に対して回転方向に変位しないが、ある大きさ以上の回転力がかかると、凸部G1、G2、G3は凹部g1、g2、g3から脱出し、保持器3は外側部材1に対して回転方向に変位する。このような動作を可能にする構造であれば、凸部G1、G2、G3及び凹部g1、g2、g3の形状を特に制限する必要は無いが、凸部G1、G2、G3は弧状の突起、又は台形状の突起が好ましい。また、凹部g1、g2、g3は弧状の凸部G1、G2、G3を受け入れる弧状の窪み、又は台形状の凸部G1、G2、G3を受け入れる台形状又はV字状の窪みであることが望ましい。
【0032】
また、凹部g1、g2、g3又は凸部G1、G2、G3を係着部32Cの係止面32Caに形成せずに、保持片32の幅狭部32Bの外側面32Baに形成してもよい。保持孔12Bにあっては、外側面32Baに対応する外側辺12Bcに、前述したような凹部g1、g2、g3又は凸部G1、G2、G3が形成される。図5(B)では、保持片32の長手方向に延びる凸部Gが側壁部12の溝状の凹部に入っている状態を示し、保持孔12Bの外側辺12Baは凹部の底部を示し、保持片32の幅狭部32Bの外側面32Baは凸部Gの頂部を示す。この場合には、保持孔12Bの外側辺12Baと係着部32Cの係止面32Caとは接触せず、保持片32の幅狭部32Bの外側面32Baが保持孔12Bの外側辺12Bcを押圧するようになっている。なお、一部分の保持片32が係着部32Cや凹部g1、g2、g3又は凸部G1、G2、G3を有するだけでもよい。
【0033】
凸部G1、G2、G3は必ずしも3個である必要は無く、図6(C)に示すように1個、例えば凸部G2だけでも良い。あるいは、図示しないが、凸部G1とG2又は凸部G2とG3の2個だけでも勿論よい。これらの場合でも凹部g1、g2、g3は3個必要である。これらの場合には、凸部G2が凹部g1の反時計方向、あるいは、凹部g3の時計方向に外れないように、図示しないが、凹部g1、g2、g3の深さを大きくすると共に、凸部G2の高さを大きし、かつ凹部g1と凹部g2との間の係止面32Ca及び凹部g2と凹部g3との間の係止面32Caを低くする。このようにすることによって、保持器3にある大きさの回転力がかかると、保持器3は凸部G2に対して凹部g1〜g3の間では変位できるが、凹部g1を外れてその反時計方向に、あるいは凹部g3を外れてその時計方向に動くことはない。
【0034】
なお、前記説明では、各保持片32を内側につぼめた状態で各保持孔12Bに挿入する形状又は構造になっているものとして説明したが、逆に各保持片32を外側に拡げて各保持孔12Bに挿入する形状又は構造になっていてもよい。また、具体的には図示しないが、図5及び図6を用いて一例を説明すると、係着部32Cを各保持片32の幅狭部32Bの内側面32Bbに形成すると共に、側壁部12の各保持孔12Bの内側に段差面12Bbを形成し、幅狭部32Bの内側面32Bbに形成された係着部32Cが各保持孔12Bの内側辺12Bdを押圧する。そして、各保持孔12Bの内側辺12Bdと各保持片32の幅狭部32Bの内側面32Bbに形成された係着部32Cとに、図6に示したような凹部g1、g2、g3又は凸部G1、G2、G3が形成される。このように、各保持孔12Bの内側辺12Bdと各保持片32の幅狭部32Bの内側面32Bbとに係止部を形成しても、前述の場合と同様な効果が得られる。
【0035】
次に、この双方向空転可能なワンウェイクラッチの動作について説明する。保持器3がニュートラルである空転位置にあるとき、図6(A)において、凸部G1が凹部g1に、凸部G2が凹部g2に、凸部G3が凹部g3にそれぞれ受け入れられているものとする。この空転位置を第1のポジションとし、保持器3が第1のポジションにあるときには、保持器3とばね部材5とによって保持されている各中間部材4が外側部材1の円環状部11の内周面11Aに形成された各カム面Cの中央に位置する。このとき、図3(A)に示すように、各中間部材4は好ましくはばね部材5によってカム面Cの中央、つまり凹みの深い部分に接触し、内側部材2には実質的に接触していない。
【0036】
したがって、内側部材2は自由自在に双方向に空転することができ、中間部材4が誤って内側部材2及び外側部材1のカム面Cに係合することがなく、騒音もほとんど生じない。保持器3の操作部33に時計方向又は反時計方向の所定値以上の外力が加わらない限り、凸部G1〜G3と凹部g1〜g3との係止によって、保持器3は第1のポジションに留まる。例えば、この双方向空転可能なワンウェイクラッチが魚釣り用リールに組み込まれる場合、空転状態では小さい接触抵抗で内側部材が回転可能であるので、内側部材2に結合された不図示のリールに巻かれている釣り糸を繰り出すのが容易になる。
【0037】
次に、保持器3の操作部33に時計方向の力を与えて、図3(B)に示すように、保持器3を時計方向に変位させ、第1のポジションから第2のポジションに変位させるものとする。このとき、図6(A)において、凹部g1、g2、g3が1ポジションだけ時計方向にずれ、凹部g1が凸部G2を受け入れ、凹部g2が凸部G3を受け入れ、凸部G1は係止面32Caに位置する。図6(A)には示されていないが、凹部g1の反時計方向の係止面32Ca、及び凹部g3の時計方向の係止面32Caは凹部g1又は凹部g3の深さと同程度となっているのが好ましい。
【0038】
保持器3が前述した第2のポジションにあるとき、中間部材4は図3(B)に示す位置にあり、図面右側の浅いカム面Cと内側部材2とからなる狭い楔形空間に位置して、カム面Cと内側部材2とに接している。この状態で、内側部材2が時計方向に回転しようとすると、中間部材4はカム面Cと内側部材2との間の楔形空間に食い込む。したがって、内側部材2は時計方向にはロックされて回転できない。
【0039】
次に、内側部材2が反時計方向に回転しようとすると、内側部材2と中間部材4との間に働いている接触摩擦で、中間部材4は図3(B)に示す反時計方向に位置するばね部材5の弾性力に逆らって、反時計方向の広い空間に動き、回転できるようになる。したがって、内側部材2は反時計方向に回転できる。前述のしたように、このクラッチが魚釣り用リールに組み込まれた場合、釣り針にかかった魚が急激に釣り糸を引くと、リールに固定されている内側部材2は魚の釣り糸の引き具合によって瞬時に反時計方向に回転し、釣り糸に余裕をもたせることができる。
【0040】
操作部33に反時計方向の力を与えて、保持器3を第1のポジションから第3のポジションに変位させると、中間部材4は図3(C)に示す位置にある。中間部材4は図面左側の浅いカム面Cと内側部材2とに接している。この状態で、内側部材2が反時計方向に回転しようとすると、中間部材4はカム面Cと内側部材2との間に食い込む。したがって、内側部材2は反時計方向にはロックされて回転できない。この状態で、内側部材2が時計方向に回転しようとすると、内側部材2と中間部材4との間に働いている接触摩擦で、中間部材4は時計方向に位置するばね部材5の弾性力に逆らって、時計方向の広い空間に動き、回転できるようになる。これに伴い、内側部材2は時計方向には回転できる。前述のしたように、このクラッチが魚釣り用リールに組み込まれた場合、釣り針にかかった魚が急激に糸を引いても引き出されず、リールに固定されている内側部材2を時計方向に回すことによって、釣り糸をリールに巻くことができる。
【0041】
以上述べたように、実施形態1の双方向空転可能なワンウェイクラッチによれば、保持器3が第1のポジションにあるとき、内側部材2は正逆双方向に自由に空転することが可能であり、保持器3が第2のポジションにあるとき、内側部材2は時計方向に回転できないが、反時計方向には回転できる。また、保持器3が第3のポジションにあるとき、内側部材2は反時計方向に回転できないが、時計方向には回転できる。したがって、保持器3のポジションを切り替えることによって、内側部材2の回転動作や回転方向を必要に応じて任意に切り替えることができるだけでなく、内側部材2にかかる回転力が瞬時に切り替わっても、内側部材2を一方向には回転させるが、他方向には回転させずにロックすることができる。
【0042】
この実施形態1の双方向空転可能なワンウェイクラッチは、以上述べた双方向の空転機能と双方向のワンウェイクラッチ機能とを、弾力性を有する保持片32を備えた保持器3と、外側部材1の側壁部12とに形成した凹凸部からなる係止構造とを利用することによって実現することができる。したがって、この実施形態1によれば、部品点数が少ないだけでなく、組み立て易く、安価に製造可能な構造を有する双方向空転可能なワンウェイクラッチを提供できる。
【0043】
また、保持器3に保持片32を設け、この保持片32が外側部材1から脱抜しないで、かつ保持器3が外側部材1に対して所定距離だけ回動可能にして組み合わせているため、内側部材又は外側部材が正逆いずれかの方向に回転するときに、保持器3が一緒に連れ回りすることがない。したがって、一方向又は他方向にロック切替えを行ったときに、それらとは逆方向の回転力が内側部材又は外側部材にかかったとしても、内側部材又は外側部材が回転することができるワンウェイクラッチとして機能することができる。さらに、保持器3の保持片32及び外側部材1の保持孔12Bのそれぞれの所定箇所に係止部である凹凸を設けることで、保持器3を一時的に外側部材1の所定のポジションに確実に係止することができる。
【0044】
[実施形態2]
本発明に係る実施形態2の双方向空転可能なワンウェイクラッチは、基本的には図1及び図2で説明した部材と同様な部材からなるが、保持器3の前記第1〜第3のポジションを決め、かつそれらポジションに保持器3を外側部材1に一時的に係止させる前記係止部の構造が異なるので、主にその構造の例について、図7及び図8によって説明する。図7(A)は側面から見た図であり、図7(B)は内側部材2を組み込んでいない双方向空転可能なワンウェイクラッチの断面を示す。図8は、図7(A)の1箇所の係止部分Zを説明するための拡大図面である。
【0045】
外側部材1の円環状部11の円環状側面13には等間隔で突出する3個の凸部Gが形成され、保持器3の保持環状部31の円環状外周面31Cには3個の凹部g1、g2、g3が3箇所に等間隔で形成されている。保持器3は弾力性を有する材料からなるのが望ましい。それぞれの凹部g1と凹部g2との間隔、凹部g2と凹部g3との間隔は互いにほぼ等しい。この実施形態1では、図7(A)に示すように、凹部g1、g2、g3が保持器3の保持環状部31の内側となる面31Aから外面に向けて円環状外周面31Cの厚み方向全体に延びている溝として形成されているが、凸部Gを受け入れる程度の大きさの凹所であればよい。凸部G及び凹部g1、g2、g3については、実施形態1で述べたように、凸部Gが各凹部g1〜g3から自由には脱出できず、ある大きさ以上の回転力がかかると、凸部Gが各凹部g1〜g3から脱出できれば、特に形状、構造を制限する必要は無い。操作部33の幅は任意であり、円環状部11の全周に相当するものであっても良い。
【0046】
また図示しないが、凸部Gが凹部g1の反時計方向、あるいは凹部g3の時計方向に外れないように、凹部g1、g2、g3の深さを大きくすると共に、凸部Gの高さを大きくし、凹部g1と凹部g2との間の円環状外周面31C及び凹部g2と凹部g3との間の円環状外周面31Cを低くする。このようにすることによって、保持器3にある大きさの回転力がかかると、保持器3は凸部Gに対して凹部g1〜g3の間では変位できるが、凹部g1を外れてその反時計方向、あるいは凹部g3を外れてその時計方向の円環状外周面31Cに動くことはできない。
【0047】
凹部g2が凸部Gに合致するように保持器3を外側部材1に合わせて、図1に示したように中間部材4とばね部材5とを組み込んだ保持器3を、図7(B)の左側から外側部材2の中に押し込むと、保持器3の5本の保持片32の先端部が側壁部12のそれぞれの保持孔12Bに挿入される。この位置がニュートラル位置(第1のポジション)となり、前述したように係着部32Cは外側部材1から保持器3が軸線X−X方向に脱抜するのを防止する。
【0048】
実施形態2の双方向空転可能なワンウェイクラッチにあっては、凹部g2が凸部Gに合致する位置にあるとき、図3(A)に示したように、保持器3は前記第1のポジション、つまり内側部材2が双方向に自在に空転可能な位置にある。そして、保持器を時計方向に変位させて、凹部g1を凸部Gに合致させると、図3(B)に示したように、このクラッチは内側部材2を時計方向に回転させようとするとロックされ、時計方向には回転できないワンウェイクラッチとして機能する。次に、保持器3を反時計方向に変位させ、凹部g3を凸部Gに合致させると、図3(C)に示したように、このクラッチは内側部材2を反時計方向に回転させようとするとロックされ、反時計方向には回転できないワンウェイクラッチとして機能する。
【0049】
図示しないが、外側部材1の円環状部11の円環状側面13に3個の凹部g1、g2、g3を1箇所又は2箇所以上等間隔で形成し、保持器3の保持環状部31の円環状外周面31Cに1個〜3個の凸部Gを1箇所又は2箇所以上等間隔で形成してもよい。また、3個の凹部g1、g2、g3が外側部材1又は保持器3のどちらに形成されていようが、凸部Gが凹部g1の反時計方向、あるいは、凹部g3の時計方向に外れないように、ストッパとして作用する凹凸の高さが凹部g1〜g3や凸部Gよりも大きい凹凸部を、外側部材1と保持器3に備えても良い。
【0050】
なお、凸部G及び凹部g1、g2、g3については、実施形態1で述べたように、凸部Gは各凹部g1〜g3から脱出できず、ある大きさ以上の回転力がかかると、凸部Gは各凹部g1〜g3から脱出できれば、特に形状、構造を制限する必要は無い。操作部33の幅は任意であり、円環状部11の全周に相当するものであっても良い。外側部材1が弾力性を有する材料からなってもよい。以上述べたように、この実施形態2の双方向空転可能なワンウェイクラッチも、少なくとも保持器3又は外側部材1の弾力性を利用すると共に、外側部材1の側壁部12とに形成した凹凸部からなる係止構造を利用することによって、部品点数が少ないだけでなく、組み立て易く、安価に製造可能な構造を有する双方向空転可能なワンウェイクラッチを提供できる。
【0051】
[実施形態3]
本発明に係る実施形態3の双方向空転可能なワンウェイクラッチは、基本的には図1及び図2で説明した部材と同様な部材からなるが、保持器3の前記第1〜第3のポジションを決め、かつそれらポジションに保持器3を外側部材1に一時的に係止させる前記係止部の構造が実施形態1、2とは異なるので、主にその構造の例について、図9及び図10によって説明する。図9(A)は側面から見た図であり、図9(B)は内側部材2を組み込んでいない双方向空転可能なワンウェイクラッチの断面を示し、図9(C)は斜視図を示す。図10は、図9(A)の操作部33における係止部分を説明するための拡大図面である。
【0052】
外側部材1の円環状部11の円環状側面13には外周面11Bに接して、等間隔で3個の凹部g1、g2、g3が等間隔で1箇所に形成されている。弾性材料からなる保持器3の保持環状部31の内側となる面31Aには、操作部33の根元部分となる箇所近傍に短円柱状の凸部Gが形成されている。凹部g1、g2、g3及び凸部Gは図2、図7に示した軸線X−Xから半径外方向に向かってほぼ同一の距離に形成される。この実施形態3では、凹部g1、g2、g3及び凸部Gからなる係止構造が保持器3に回転力を加えるだけでは、前記第1のポジションから前記第3のポジション間を変位させ難い構造になっている。したがって、前記ポジションを切り替えるときには、保持器3の弾性を利用して操作部33を図9(B)の矢印方向Aに、つまり手前に引き寄せて凸部Gが凹部g1、g2、g3を脱出し易いようにしながら回転方向に変位させ、保持器3を変位させる。
【0053】
実施形態3の双方向空転可能なワンウェイクラッチも実施形態1、2のものと同様に、凹部g2が凸部Gに合致する位置にあるとき、図3(A)に示したように、保持器3は前記第1のポジション、つまり内側部材2が双方向に自在に空転可能な位置にある。そして、保持器3を手前に引き寄せながら時計方向に変位させて、凹部g1を凸部Gに合致させると、図3(B)に示したように、このクラッチは内側部材2を時計方向に回転させようとするとロックされ、時計方向には回転できないワンウェイクラッチとして機能する。次に、保持器3を反時計方向に変位させ、凹部g3を凸部Gに合致させると、図3(C)に示したように、このクラッチは内側部材2を反時計方向に回転させようとするとロックされ、反時計方向には回転できないワンウェイクラッチとして機能する。実施形態3の双方向空転可能なワンウェイクラッチも実施形態1、2と同様な効果を奏する。
【0054】
[実施形態4]
以上述べた実施の形態では、保持器3の保持片32が外側部材1の側壁部12の保持孔12Bに係止される構造のものであったが、本発明に係る実施形態4の双方向空転可能なワンウェイクラッチは、図11に示すように、保持器3が外側部材1の円環状部11に直接係着される。保持器3は実施形態1〜3のいずれかの保持環状部31と一般的な形状の保持片32と、新たに付加された第2の保持環状部35とからなる構造のものであり、保持片32の一端は保持環状部31に固定され、他端は第2の保持環状部35に固定されている。保持環状部31と保持片32と第2の保持環状部35は弾性材料によって一体的に構成されていても構わない。この実施形態4では側壁部12を備えず、その代わりに第2の保持環状部35を側壁とすることも可能である。
【0055】
第2の保持環状部35の外径は、外側部材1の円環状部11の内周面11Aの直径よりも幾分小さい。第2の保持環状部35の外周面35Aには円環状に連続又は断続する係着溝35Bが形成されている。外側部材1の円環状部11の内周面11Aの一端側には円環状に連続又は断続する突起部11Cが形成されている。保持器3を外側部材1に押し込むと、外側部材1の突起部11Cが保持器3の係着溝35Aに小さな隙間があるように嵌め込まれ(遊嵌され)、保持器3は前記軸線X−X方向に脱抜し難くいが、保持器3に回転方向の力を加えると、保持器3は回転できる。
【0056】
この実施形態4では、保持器3の円環状部11と外側部材1との係止構造は前述した実施形態2、3で述べたような凹部と凸部からなる構造と同様でよいので、係止構造については説明を省略するが、保持器3と外側部材1の少なくとも一方が弾力性を有する材料からなる。前記第1のポジション〜前記第3のポジション間の切替え動作や双方向空転機能、ワンウェイクラッチ機能については実施形態2、3と同様である。なお、第2の保持環状部35は内側部材2を挿通させることができる中央穴35Cを有する。実施形態4の双方向空転可能なワンウェイクラッチも実施形態1〜3と同様な効果を奏する。
【0057】
以上述べた実施形態の変形例について説明する。実施形態1では、内側部材2が回転する回転側、外側部材1は回転しない固定側であることを前提にしたので、外側部材1に保持器3を係着する構造にしたが、内側部材2が固定側となって、外側部材1が回転側になってもよい。この場合、図示しないが、実施形態1の変形例として、内周面に等間隔で複数のカム面を備えると共に、一端側に側壁部を備える内輪を内側部材2として用いる。そして、その側壁部に前述したような保持孔を備え、保持器の保持片をその側壁部の保持孔にそれぞれ係着させてもよい。側壁部は内輪と一体的に形成されるか、あるいは内輪に固定された構造であっても良い。保持器を前記第1のポジション〜第3のポジションに係止させる構造については、実施形態1で説明した係止構造と同様なものでよい。この場合も実施形態1〜4と同様な効果を奏する。
【0058】
内側部材の内周面にカム面を設けたクラッチにあっても、外側部材が双方向に自由に空転できる空転位置、つまり保持器が前記第1のポジションに位置するときには、ローラなどの中間部材は内側部材の内周面にカム面に接触し、回転側の外側部材の内周面に実質的に接触しないのが好ましい。この双方向空転可能なワンウェイクラッチはプリンタなどの紙送り機構にも用いることができ、外側部材と内側部材とがロックされるとき、主導側の回転力を従動側に伝達し、外側部材と内側部材とが相互に回転できるときには主導側の回転力は遮断され、従動側に伝達されない。紙が詰まったときなどには、空転する第1のポジションに切り替えることによって、容易に詰まった紙を取り除くことができる。
【0059】
また、具体的には図示しないが、図3、図4を用いて説明すると、保持器3の幅広部32Aは外側部材1の円環状部11の内周面11A又は内側部材2の外周面に対面するので、その対面する幅広部32Aと円環状部11の内周面11A又は内側部材2の外周面とに前述した凸部G又は凸部G1、G2、G3と凹部g1、g2、g3とからなる係止部を形成して、前記第1のポジション〜前記第3のポジションを決めても良い。なお、本発明は中間部材4の個数、保持器3の保持片32の個数に制限されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、魚釣り用リールあるいはプリンタなど、双方向空転機能と、両方向のワンウェイクラッチ機能を必要とする各種の機器用のクラッチに広く適用できる。
【符号の説明】
【0061】
1・・・外側部材(外輪又はハウジング)
11・・・円環状部
11A・・・円環状部11の内周面
11B・・・円環状部11の外周面
11C・・・内周面11Aに形成された突起部
12・・・側壁部
12A・・・中央穴
12B・・・保持孔
12Ba・・・外側辺
12Bb・・・段差面
12Bc・・・外側辺
12Bd・・・内側辺
13・・・円環状側面
2・・・内側部材(シャフト又は内輪)
3・・・保持器
31・・・保持環状部
31A・・・保持環状部31の内側となる面
31Aa・・・面31Aの外側領域
31B・・・中央穴
31C・・・円環状外周面
32・・・保持片
32A・・・幅広部
32Aa・・・幅広部の爪部
32B・・・幅狭部
32Ba・・・幅狭部の外側面
32Bb・・・幅狭部の内側面
32C・・・係着部
32Ca・・・係止面
32Cb・・・脱抜防止面
33・・・操作部
34・・・貫通孔
35・・・第2の保持環状部
35A・・・第2の保持環状部35の外周面
35B・・・第2の保持環状部35の係着溝35B
35C・・・第2の保持環状部35の中央穴
4・・・中間部材(ローラ又はボール)
4A・・・一方の端部
4B・・・他方の端部
4C・・・中央穴
4D・・・係着溝
4E・・・取り付け穴
4F・・・内面
5・・・ばね部材
C・・・カム面
F・・・固定用凹所
X−X・・・軸線
G、G1、G2、G3・・・凸部
g1、g2、g3・・・凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の内周面に一定の間隔で形成された複数のカム面を有する円環状部を備える外側部材と、
該外側部材の前記カム面に対応する位置にそれぞれ配置される複数の中間部材と、
前記複数の中間部材をそれぞれ保持し、かつ外力によって前記外側部材に対して回転方向に変位して第1のポジション、第2のポジション、第3のポジションに前記中間部材の位置を規制することができる保持器と、
前記中間部材に対して両側から回転方向の弾性力を与えるばね部材と、
を備える双方向空転可能なワンウェイクラッチであって、
前記外側部材と前記保持器とは、互いに協働して前記第1のポジション、前記第2のポジション、前記第3のポジションを決め、かつそれら前記第1のポジションから前記第3のポジションのいずれかに前記保持器を一時的に係止できる係止部を備え、
前記保持器が前記第1のポジションに留まるときには、前記中間部材を前記カム面の中央に位置させることにより、前記外側部材の前記円環状部の前記内周面から離れて向き合うように同心状に配置される内側部材がどちらの方向にも空転可能であり、
前記保持器が前記第1のポジションの一方の側に所定角度だけ変位した前記第2のポジションに留まるときには、前記中間部材が前記カム面の中央から変位した位置にあって、前記カム面と前記内側部材の外周面との双方に押し当てられることにより、前記内側部材が一方の回転方向に回転しようとすると、前記中間部材が前記内側部材と前記外側部材とに噛み付いて前記内側部材と前記外側部材とが互いにロックされ、前記内側部材が他方の回転方向に回転するときには前記ばね部材の弾性力によって、前記中間部材は前記内側部材と前記外側部材とに噛み付かずに前記内側部材は他方の回転方向に回転可能であり、
前記保持器が前記第1のポジションの他方の側に所定角度だけ変位した前記第3のポジションに留まるときには、前記中間部材が前記カム面の中央から変位した位置にあって、前記カム面と前記内側部材の前記外周面との双方に押し当てられることにより、前記内側部材が他方の回転方向に回転しようとすると、前記中間部材が前記内側部材と前記外側部材とに噛み付いて前記内側部材と前記外側部材とが互いにロックされ、前記内側部材が一方の回転方向に回転するときには前記ばね部材の弾性力によって、前記中間部材は前記内側部材と前記外側部材とに噛み付かずに前記内側部材は一方の回転方向に回転可能であることを特徴とする双方向空転可能なワンウェイクラッチ。
【請求項2】
請求項1において、
前記保持器は前記内側部材を挿通させる円形状の中央穴を有する保持環状部と、該保持環状部の一方の面から一定間隔で同一方向に延びる複数の保持片とからなり、
前記外側部材の一端側には、前記内側部材を挿通させることができる中央穴と、該中央穴の周囲に一定間隔で、前記保持器の前記保持片がそれぞれ挿入される保持孔を備える側壁部が備えられ、
前記保持孔は、前記保持片が回転方向に前記第2のポジションから前記第3のポジションまで移動できる大きさを有することを特徴とする双方向空転可能なワンウェイクラッチ。
【請求項3】
請求項2において、
複数の前記保持片は、弾性を有する材料からなり、前記保持孔に挿入され、
前記保持孔の前記外側辺又は前記内側辺に凸部と凹部の少なくとも一方が形成され、
前記保持孔の前記外側辺あるいは前記内側辺に対応する前記保持片の面には凹部と凸部の少なくとも一方が形成され、
前記保持孔の前記外側辺あるいは前記内側辺の前記凸部又は前記凹部と前記保持片の前記凹部又は前記凸部とが互いに係止し合う前記係止部を形成することを特徴とする双方向空転可能なワンウェイクラッチ。
【請求項4】
請求項2又は請求項3において、
複数の前記保持片の少なくとも一部分は、その先端部分に半径方向に突出する係着部を有し、
前記保持片が前記保持孔に挿入されたとき、前記係着部が前記外側部材の前記側壁部に係着されて、前記保持器が前記外側部材から前記回転方向とは垂直な軸線方向に脱抜されないようにすることを特徴とする双方向空転可能なワンウェイクラッチ。
【請求項5】
請求項1において、
前記保持器は前記内側部材を挿通させる円形状の中央穴を有する保持環状部を備え、
前記保持環状部は弾性材料からなって、その外周面には凸部と凹部の少なくとも一方が形成され、
前記保持環状部の外周面に接する前記外側部材の円環状側面には、前記保持環状部に形成される前記凸部が係止される凹部、又は前記保持環状部に形成される前記凹部に係止される凸部が形成され、
前記外側部材及び前記保持器の前記凸部と前記凹部とが前記係止部を形成することを特徴とする双方向空転可能なワンウェイクラッチ。
【請求項6】
請求項1において、
前記保持器は弾性材料からなって、前記内側部材を挿通させる円形状の中央穴を有する保持環状部と該保持環状部の外周部から半径外方向に延びる操作部とから構成され、
該操作部近傍の前記保持環状部の内側となる面には凸部と凹部の少なくとも一方が形成され、
前記操作部近傍の前記保持環状部の前記内側となる面に接する前記外側部材の円環状側面、あるいは該円環状側面近傍の外周面には、前記保持器に形成された前記凸部又は前記凹部に係止される凹部又は凸部が形成され、
前記外側部材と前記保持器の前記凸部と前記凹部とが前記係止部を形成することを特徴とする双方向空転可能なワンウェイクラッチ。
【請求項7】
円筒状の外周面に一定の間隔で形成された複数のカム面を備える内側部材と、
該内側部材の前記カム面に対応する位置にそれぞれ配置される複数の中間部材と、
前記複数の中間部材をそれぞれ保持し、かつ外力によって前記内側部材に対して回転方向に変位して第1のポジション、第2のポジション、第3のポジションに前記中間部材の位置を規制することができる保持器と、
前記中間部材に対して両側から回転方向の弾性力を与えるばね部材と、
を備える双方向空転可能なワンウェイクラッチであって、
前記内側部材と前記保持器とは、互いに協働して前記第1のポジション、前記第2のポジション、前記第3のポジションを決め、かつそれら前記第1のポジションから前記第3のポジションのいずれかに前記保持器を一時的に係止できる係止部を備え、
前記保持器が前記第1のポジションに留まるときには、前記中間部材を前記カム面の中央に位置させることにより、前記内側部材の前記外周面から離れて向き合うように同心状に配置される外側部材がどちらの方向にも空転可能であり、
前記保持器が前記第1のポジションの一方の側に所定角度だけ変位した前記第2のポジションに留まるときには、前記中間部材が前記カム面の中央から変位した位置にあって、前記カム面と前記外側部材の前記内周面との双方に押し当てられることにより、前記外側部材が一方の回転方向に回転しようとすると、前記中間部材が前記内側部材と前記外側部材とに噛み付いて前記内側部材と前記外側部材とが互いにロックされ、前記外側部材が他方の回転方向に回転するときには前記ばね部材の弾性力によって、前記中間部材は前記内側部材と前記外側部材とに噛み付かずに前記外側部材は他方の回転方向に回転可能であり、
前記保持器が前記第1のポジションの他方の側に所定角度だけ変位した前記第3のポジションに留まるときには、前記中間部材が前記カム面の中央から変位した位置にあって、前記カム面と前記外側部材の前記内周面との双方に押し当てられることにより、前記外側部材が他方の回転方向に回転しようとすると、前記中間部材が前記内側部材と前記外側部材とに噛み付いて前記内側部材と前記外側部材とが互いにロックされ、前記外側部材が一方の回転方向に回転するときには前記ばね部材の弾性力によって、前記中間部材は前記内側部材と前記外側部材とに噛み付かずに前記外側部材は一方の回転方向に回転可能であることを特徴とする双方向空転可能なワンウェイクラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−184790(P2012−184790A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47265(P2011−47265)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)