説明

反芻動物用飼料の製造方法

【課題】 脱脂大豆中に含まれる蛋白質を水に不溶化させ、反芻動物の第1胃(ルーメン)での蛋白質のルーメンバイパス率が高く、しかも第4胃及び小腸等の下部消化器官では消化吸収性の良好な反芻動物用飼料の製造法を提供する。
【解決手段】 脱脂大豆に下記一般式(1)よって求められる400乃至510Joule/gの熱量Qを与え、かつこの熱量で2〜14秒間加熱処理することを特徴として構成されている。
Q(Joule/g)={Tr−t}
× Hs × 4.18 (1)
(但し、Trは加熱中の脱脂大豆の最高品温(℃)、tは加熱前の脱脂大豆の品温(室温)(℃)、Hsは脱脂大豆の比熱(cal/g・℃)である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱脂大豆を加熱処理して得ることができる反芻動物用飼料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脱脂大豆を処理し水分を約12%に調整した大豆粕を飼料原料として利用することは知られている。対象が豚や鶏のような単胃動物用の飼料又は子牛のように機能が未成熟な実質的に単胃動物と看做される反芻動物用の飼料の場合は、大豆粕は高蛋白質飼料原料として広く使用されているが、これを反芻動物に直接経口投与すると、第1胃(ルーメン)中の微生物によって70−80%が分解され、大部分が有効に利用されない。そこで、大豆粕を加熱することでルーメン中の微生物による分解を減らし、小腸への到達率(ルーメンバイパス率)を増やす加熱処理した大豆粕が開発され、その幾つかは既に市販されている。しかし、これら従来の加熱大豆粕のルーメンバイパス率は50−70%であり、十分とはいえなかった。蛋白質等の生理活性物質を保護物質で被覆することによって第1胃中では安定に存在し、第4胃および小腸の下部消化器官で消化吸収させることを可能とした技術が提案されている。栄養素を含む顆粒をルーメン中に生息する微生物から保護するために顆粒に特別な被覆剤を被覆するための処理工程を必要とするので、生産工程とコストの増加を来たし好ましくない(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
一方、脱脂大豆の加熱処理例として移送用加熱ガス媒体中に粉砕した物質を浮遊させる方法があるが、移送用ガス媒体に空気を用いると移送効率が悪い。これを改良した過熱水蒸気の加熱媒体粉粒物質の加熱殺菌或は加熱蛋白変性を行うことが開示されている。大豆又は脱脂大豆をゲージ圧力4〜8kg/cm2、温度150〜280℃の過熱水蒸気の気流が流れている加熱管に投入し、分散浮遊させた状態で15秒以内加熱加圧し、次いでより低圧の気体中に急激に放出して膨化変性処理して子豚、子牛等の単胃又は実質単胃若令動物用飼料を製造する方法が提案された(特許文献2)。又加熱変性に関し、過熱水蒸気処理の場合でゲージ圧力1〜20kg/cm2、温度350℃以下で1〜8秒間処理する記載がある(特許文献3)。
【0004】
特許文献2又は3記載の過熱水蒸気により得られた方法で加熱処理された飼料を泌乳牛の第一胃(ルーメン)の胃液に相当する試験用ルーメンジュースで試験すると、脱脂大豆中の栄養源であるアミノ酸の溶出が見られ、第一胃を通過する目安となるルーメンバイパス率が高くなく、決して満足すべき加熱処理とは言い難い情況であった。
【0005】
一方、特許文献2には比較例でエクストクルーダを用いて脱脂大豆を加熱処理する例が示されており、脱脂大豆およびその20重量%の水をスクリュー押出機に投入して、ゲージ圧力50kg/cm、品温140℃において1分の滞留時間で加熱加圧した後、押出機から大気中に放出して膨化脱脂大豆を製造した例が開示されている。この加熱温度をより高い温度で水分を加えず脱脂大豆の加熱運転を試みようとすれば、エクストルーダの特有の機構に伴う特徴から脱脂大豆は連続的に運転されず、間歇的に出口から噴射されるようになるのでより高温での加熱処理は好ましくない。
【0006】
更には皮付き全粒または圧片もしくは割砕した穀粒およびビートパルプを主成分とし、大豆粕や脱脂大豆等の蛋白質飼料を副成分としたものを蒸気で加湿して水分含量を14〜25%となし、かつその際の調湿時間を1分以上とった後、押出造粒機ダイ直前の品温を80〜110℃として造粒してなる肉牛、めん羊等の草食動物用固形飼料の製造法が提案されている(特許文献4参照)。
【0007】
特許文献2又は3に示された過熱水蒸気を用いる加熱処理の場合の温度は過熱水蒸気の温度であって、被加熱物の品温ではない。脱脂大豆に関しては特許文献3の第1表に脱脂大豆の処理例が記載されているが、過熱水蒸気の入口温度が最高で220℃である。水蒸気加熱法は加熱媒体として過熱水蒸気を用い、これを被加熱物質の加熱と移動に用いている。過熱水蒸気法は被加熱物質に圧力をかけ、加熱終了時点で大気圧に減じ、被加熱物質を膨化させて製品を得ている。過熱水蒸気の媒体が必要であり、又これに圧力も加える必要があることから特殊な大掛かりな装置が必要となる欠点があった。
【0008】
過熱水蒸気の気流中に晒された脱脂大豆の品温が何度に達しているかは特許文献2又は3には直接記載はないが、被加熱物質の品温を求めることができる。過熱水蒸気による粉粒体加熱処理に関し、この装置を製造販売する(株)大川原製作所の技術資料(非特許文献1)に過熱水蒸気圧と被加熱物質の温度との関係に関し以下の記載がある。(添付参考図の図1及び図2参照)図1は圧力―温度による水の状態図を示し、図2は(0.2MPa・G(註:Gはゲージ圧であることを示す。これは絶対圧とゲージ圧を区別するために慣用的に使用される表記である。本発明者は単位MPa・Gの表記はMPaと同等であると理解して、以下図1及び図2の読み取りを行った。)、153℃(過熱度30℃)の過熱水蒸気の気流中に、20℃の被殺菌物を投入した場合のプロフィールの一例を示している。この技術資料には「ここで大切なことは、被殺菌物が過熱水蒸気の顕熱を受け続けているにも関わらず、品温がこの過熱水蒸気の圧力に対応する飽和温度(この場合133℃)以上には上昇しないと言うことです。これはそれらのエネルギーが、被殺菌物が元来保有していた水分と顕熱により与えられた水分との蒸発に使われるからです。すなわち、水分蒸発が続く限り、品温は飽和温度のままであるということです。そして大気中への排出とともに一気に水分蒸発を伴いながら、大気圧の沸点である100℃近辺に下がります。以上のことから殺菌温度、被殺菌物の到達温度は過熱水蒸気の温度ではなく、それに対応する圧力の飽和温度に他なりません。殺菌温度を上げるためには圧力をかけることが必要不可欠で、もし大気圧のままでは水分がある限り100℃以上には加熱できないということです。」と記載されている。この記載から特許文献2に示されたゲージ圧力8kg/cm2から品温を求めてみると、図1から180℃と読み取れる。又特許文献3に示されたゲージ圧力20kg/cm2は化学工学協会編:「化学工学便覧」改定5版(1988)、日本機械学会編「1980SI日本機械学会蒸気表」(1981)から211℃であることが読み取れる。
【0009】
【特許文献1】特開平7−289172号公報
【特許文献2】特開昭58−31942号公報
【特許文献3】特開昭61−199819号公報
【特許文献4】特開昭52−122574号公報
【非特許文献1】大川原製作所技術資料「粉粒体殺菌装置」(株式会社大川原 製作所 okawara200105・20MID)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は脱脂大豆を反芻動物用飼料として有効利用するに当たって、脱脂大豆に含まれる大豆蛋白質を反芻動物の第一胃(ルーメンと言うこともある。)中にあって、ルーメン中に生息する微生物により分解され難く、その結果ルーメンを通過し(ルーメンバイパスと言うこともある。)、かつこれが第四胃および小腸等の下部消化器官では良好に消化吸収されるようにするための製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは前述の課題に鑑み鋭意検討した結果、脱脂大豆を特定の条件で加熱処理して反芻動物用飼料を製造することにより、該飼料が高いルーメンバイパス率と下部消化器官での良好な消化率を示し、よって反芻動物に栄養源が効率的に吸収されることを見出し、本発明を完成させた。すなわち本発明は以下の内容を包含するものである。
本発明の第1は脱脂大豆に下記一般式(1)よって求められる400乃至510Joule/gの熱量Qを与え、かつこの熱量で2〜14秒間加熱処理することを特徴とする反芻動物用飼料の製造方法、
Q(Joule/g)={Tr−t}
× Hs × 4.18 (1)
(但し、Trは加熱中の脱脂大豆の最高品温(℃)、tは加熱前の脱脂大豆の品温(℃)、Hsは脱脂大豆の比熱(cal/g・℃)である。)
第2は製造方法が20乃至400Wh/kgのせん断力を加える押出し製造方法である第1の反芻動物用飼料の製造方法、
第3は脱脂大豆が水分含量5乃至0.5%に予め乾燥処理されたことを特徴とする第1または第2の反芻動物用飼料の製造方法、
第4は脱脂大豆の水分含量が5〜0.5%である乾燥脱脂大豆を加熱中の脱脂大豆の最高品温で250乃至350℃、かつ2乃至14秒間加熱処理し、この間20乃至400Wh/kgのせん断力を加えることを特徴とする反芻動物用飼料の押出し製造方法、
第5は脱脂大豆に20乃至400Wh/kgのせん断力と下記一般式(1)によって求められる400乃至510Joule/gの熱量Qを加え、かつ、この熱量で2〜14秒間加熱処理することにより製造される、全蛋白質に対する水溶性蛋白質含有率が1.5乃至5.4%であることを特徴とする反芻動物用飼料。
Q(Joule/g)={Tr−t}
× Hs × 4.18 (1)
(但し、Trは加熱中の脱脂大豆の最高品温(℃)、tは加熱前の脱脂大豆の品温(℃)、Hsは脱脂大豆の比熱(cal/g・℃)である。)及び
第6は加熱処理後、脱脂大豆中に含まれる水分含量が0.1乃至2.4%であることを特徴とする第5の反芻動物用飼料である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によって製造された高温、短時間で加熱処理された脱脂大豆は反芻動物の第1胃での蛋白質のルーメンバイパス率が高く、しかも第4胃及び小腸等の下部消化器官において良好な消化吸収率を示すことから、反芻動物用飼料として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の製造方法に用いられる装置は特に限定されない。所定の熱量、所定の被加熱時間が与えられる装置を用いることができる。好ましくは現実的な装置の一例として押出し装置を挙げることができる。この装置は耐熱性の円筒に原料を入れ、プランジャーで押し出す往復式と円筒中でスクリュウを回転させ押出す連続式があるが、後者は連続して生産できることで有利である。但し、一般的に普及している押出し成形機(以後「エクストルーダ」と言うこともある)とは円筒の出口にダイを設け、ダイの形によって決まる断面形の棒状又は糸状製品を押出しているので原料が円筒内で加熱可塑化してダイを出るまでに充分な圧力がかかる。本発明により得られる反芻動物用飼料はフレーク状又は顆粒状であり成形する必要がない。そのため、従来一般に普及している押出し成形機を用いるのであれば、そのダイを取り外して用いることが好ましい。ダイを取り付けたままで脱脂大豆を円筒内に供給し加熱すると、脱脂大豆は可塑化し、ダイより間歇的に飛び出し連続生産には不向きである。ダイを取り外した成形機は造粒する機能はない。ダイを外した以外、押出し成形機はスクリュウも含めそのまま用いて脱脂大豆を押出し、反芻動物用飼料を製造することができる。出口は大気圧に等しく円筒内で特に圧力をかける必要はない。スクリュウの形状は特に限定されないが、脱脂大豆を所定の品温に速やかに到達できるように混合し、移送できる構造であれば良い。従って、市販品の押出し成形機のスクリュウをそのまま用いても、ピッチを均等に刻んだスクリュウでも、ピッチが不均一であっても良い。スクリュウは一軸、二軸、更により多い複数軸であっても良い。
【0014】
加熱は円筒を外部より電気加熱することが実用的である。又、スクリュウ部分を直接加熱することでもこれらを組み合わせても良い。この場合、円筒部分の加熱は円筒の全長を所期の温度に一様に加熱する必要はない。脱脂大豆の加熱帯の加熱温度とその通過時間に合わせ円筒の入口から出口に向けて段階的に分けてそれぞれ部分的に温度設定できるようにすると加熱により発生する水蒸気の逆流がなく、安定した加熱処理ができるので都合が良い。例えば入口付近は脱脂大豆中の水分をある程度減じる温度(例えば80〜150℃)、次により高温帯(例えば180〜230℃)を設けより水分を減じ、例えば水分量を5%以下にする。さらに出口付近では脱脂大豆中の蛋白質が目的の変性をするように所定の熱量を加え、脱脂大豆が所定の最高品温に到達するよう温度帯を設け、これを所定の時間内で通過するように、脱脂大豆の供給量、所定の温度帯長さを設定することが好ましい。脱脂大豆中の水分を予備加熱又は別途予備乾燥を施せば水分含有量に対し所定の熱量を与えた場合の最高品温は以下のようになる。加える熱量と脱脂大豆の最高品温は脱脂大豆に含まれる水分量に影響される。加熱前の脱脂大豆の品温を室温20℃に等しいとすると、一般式(1)から水分が5%のとき400Joule/gの熱量を与えると加熱時の最高品温は258℃、510Joule/gの熱量を与えると最高品温は324℃である。水分が0.5%の場合に400Joule/gの熱量を与えると最高品温は276℃、510Joule/gの熱量を与えると最高品温は347℃と計算で求めることができる。本発明において、温度測定は温度センサーを用いているが、温度センサーの端子は円筒内壁面から顔を出し、移動する脱脂大豆に触れている状態である。従って、この指示温度をシリンダー内にある脱脂大豆の品温とした。温度センサーの設置位置はこの例に限らない。要は品温が正しく測定できれば良い。品温と温度センサーで読み取られた温度が一致していれば問題ないが、予め温度センサーの読みと品温との関係を知り、これを補正する手段を講じて品温を知ることができれば差し支えない。なお一般式(1)に示された加熱前の脱脂大豆の品温tは常温で保管した状態での品温を示し、流動床やヒータによる予備乾燥による熱履歴は含まない。
【0015】
押出し機による製造方法では脱脂大豆は円筒内で入口から出口に向かってスクリュウにより運ばれるので脱脂大豆にせん断力はかかっている。せん断力Sは下記一般式(2)
S(Wh/kg)=V・I/M (2)
(但し、Wはワット、Vは押出し装置にかかる運転時の電圧(V)、Iは脱脂大豆加熱処理中の押出し装置にかかる電流値(Ac)より押出し装置にかかる空運転時の電流値(A0)を減じた値、Mは原料脱脂大豆の単位時間当たりの供給量(kg/h)を示す。)で求められる。せん断力は機種によって、スクリュウの軸数によって異なるが、少なくても20Wh/kgはかかっており、上限は400Wh/kgである。スクリュウの回転数を上げるとせん断力は下がる。ダイを除いた円筒形状(口径57mm、長さ1710mm)((株)コスモテック製)の押出し機を使用して、スクリュウの回転数とせん断力との関係は50、100、200、300rpmで順に372、236、172、110Wh/kgとなった。回転数が小さいほど押出し機にかかる電流値が大きく、電流値に比例するせん断力も大きくなる。逆に回転数を上げると電流値は小さくなり、せん断力は小さくなる。せん断力は脱脂大豆が円筒内に入りスクリュウによって排出されるまでの積算値である。このことはスクリュウ部分とシリンダー内壁に脱脂大豆が押し付けられていること、シリンダー壁から熱伝導による熱量をほぼ温度差なく脱脂大豆に伝わっていることが示唆される。せん断力を与えることはスクリュウで混合される脱脂大豆にかかる加熱温度を脱脂大豆の品温に短時間に到達させるには非常に有効である。回転数が遅いと大きなせん断力が必要となるし,又原料の供給量に対し動力が不足していると機械にそれなりに負荷がかかる。このような場合、原料中に潤滑剤を加えておくと負荷量をある程度軽減することができる。潤滑剤としては大豆油他の植物油、パーム油他の高級脂肪酸、大豆レシチン等が用いられる。添加量としては脱脂大豆原料に対し0.5〜5重量%、通常1〜3重量%を用いることができる。
【0016】
ルーメンバイパスすることを目的とした反芻動物用飼料であれば第一胃(ルーメン)を100%通過し、かつ小腸における吸収が100%であることが理想的といえる。そこで最終的に反芻動物用飼料が小腸に達したときその栄養成分(ここでは蛋白質)がどれほど有効に小腸から吸収されるかを見極めるためにその評価方法を提案した。先ず、第一胃を通過する前後で加熱処理した脱脂大豆中の蛋白質のうち水溶性蛋白質(「WSP」と言うこともある。)量の変化を測定する。水溶性蛋白質は第一胃中でルーメンジュースに溶出し、それらは殆どが第一胃中に生息する微生物によって分解されてしまうので反芻動物にとっては直接の栄養源とはならない。測定された脱脂大豆中の水溶性蛋白質を基に水に不溶性の不溶性蛋白質(「ISP」と言うこともある。)量を算出し、ISPとWSPとの比ISP/WSPを指標項目[A]とした。
【0017】
他方の小腸における吸収のし易さに関する第4胃におけるISPの消化性(酵素によるISPの可溶化蛋白質への変性)に関する指標項目を[B]とし、以下のように規定した。脱脂大豆中には水に不溶性の不溶性蛋白質も存在する。これは第1胃を通過し、第2胃、第3胃を経て第4胃で消化された後、そのまま小腸に達する。小腸で更に消化酵素による分解を受け、あるものは小腸から吸収される有効蛋白質となる。脱脂大豆を加熱処理して生成した不溶性蛋白質も同様に第4胃で酵素により可溶化され、更に小腸での酵素分解を受け、アミノ酸またはペプチドとなり、小腸から吸収され栄養源になる。そこで指標項目[B]はISPの酵素(ペプシン)による可溶化蛋白質(PSP)量を測定し、これとISPとの比PSP/ISPをもって指標項目[B]とした。そして最終的に飼料としての有効性を評価指標を[A]と[B]の積で求め、その値から得られた反芻動物用飼料の良否を判断した。
【0018】
脱脂大豆に与える熱量は脱脂大豆中の蛋白質が熱変性する上限と下限を規定したものである。泌乳牛にとってアミノ酸を補給することが乳量を増やし、食肉牛にとっては肉量を増やすことになる。泌乳牛にとって必要なこれらのアミノ酸は主に脱脂大豆の蛋白質から供給される。口から摂取した脱脂大豆が泌乳牛の栄養源となるためには泌乳牛の小腸に栄養源が到達される必要がある。このために重要なことは脱脂大豆が泌乳牛のルーメンを最小限の損失で通過し、これに含まれる蛋白質の大部分が小腸に達すること及び小腸に達した時には酵素でこれがアミノ酸に分解されることである。ルーメンを通過するためには脱脂大豆中の蛋白質がルーメンジュースに溶出せず、かつルーメン中に生息する微生物に分解されないことが必要である。そのために脱脂大豆を加熱し蛋白質を変性させ、ルーメンジュースに対し不溶性蛋白質にする必要がある。この蛋白質の変性(蛋白変性)のために脱脂大豆の加熱処理を行う。
【0019】
蛋白変性の指標として脱脂大豆中に含まれる蛋白質中の水溶性蛋白質(WSP)の含有率(WSP含有率(%))を用いることができる。未加熱の脱脂大豆原料のWSP含有率は20%程度である。この値は加熱と共に小さくなり、1%程度にまで小さくなる。WSP含有率と脱脂大豆中の蛋白質がルーメンを通過する割合(ルーメンバイパス率)は逆比例する。WSP含有率が大きいとルーメンバイパス率は低く、逆に小さいと高い。WSP含有率が6%を超えるとルーメンジュースに多く溶出し、これがルーメン中に生息する微生物によって分解されるので飼料として有効に働かない。逆にWSP含有率が1%台であると蛋白変性が過度に進んだことを意味することとなり、ルーメンジュースに溶解せず無事ルーメンを通過したものの第4胃及び小腸で蛋白質は酵素分解も受け付けず、従って消化吸収もされないことになる。そこでWSP含有率が1.5〜5.4%を維持することが好ましい。6%以上ではルーメンバイパス率が低いので、小腸に到達する蛋白質が高くならない。WSP含有率を1.5〜5.4%台に維持するため、脱脂大豆に負荷する熱量は400Joule/g以上である。この加熱処理された脱脂大豆の状態は肉眼で見た観察で表面は狐色である。400Joule/gの熱量を与える加熱温度は上記一般式(1)により求めることができ、室温が25℃、脱脂大豆の水分量が6.9%のとき257℃である。この時の品温は232℃である。脱脂大豆の比熱Hs(cal/g/℃)は(保坂秀明著「食品工学入門」 p12、化学工学社)により一般食品において定義される下記一般式(3)で求めた。
Hs(cal/g/℃)=0.37+0.63×水分量(%)/100 (3)
【0020】
一方、脱脂大豆の蛋白変性が過度に進んだ場合、肉眼で見ても脱脂大豆の表面が褐色に変色している。この場合の変色程度を日本電色工業(株)製 Spectrophotometer SE2000を用いて色彩分析すると明るさ(L)、補色軸aおよびbで数値化できる。明るさ(L)は100(白色)〜0(暗)、aは100(緑)〜−100(緑)、bは100(黄)〜−100(青)の3要素で評価することができる。色彩規格値としてはL値は30〜75、a値は4〜13、b値は25〜41であり、この3要素の一つでも超えるものは規格外とした。褐色に変色した規格外品は蛋白変性が過度に進んでいると言える。色彩規格外品はWSP値との相関関係よりも、小腸での吸収率と相関がある。色彩規格外品は小腸での吸収率が高くなく、好ましく加熱処理されていないことを判断し評価することができる。このことは過度の加熱で蛋白質が必要以上に蛋白変性を来たしたものと理解できる。小腸での吸収率の良好な範囲は負荷熱量で400〜510Joule/gである。510Joule/gの熱量を与える加熱温度は上記一般式(1)により求めることができ、室温が25℃、脱脂大豆の水分量が6.9%のとき314℃である。この時の品温は289℃である。
【0021】
負荷熱量400〜510Joule/gを必要以上に時間をかけ過ぎると、被加熱物の脱脂大豆は過加熱状態となり、必要以上に蛋白質の変性をきたすので好ましくない。加熱時間の範囲は2〜14秒である。これより短時間では蛋白変性が不十分であり、WSP含有率が大きく脱脂大豆の多くがルーメン中で失われる。一方、これより長時間加熱しすぎると、脱脂大豆の蛋白質は過変性となり極端には焦げた状態となる。表面の色も着色から褐色になり、更に過加熱状態進めば炭に近くなる。このような過変性した蛋白質ではルーメンは通過できても、小腸で酵素分解されることもないので反芻動物用飼料としての価値はない。
【0022】
本発明に原料として用いられる脱脂大豆は丸大豆から大豆油を抽出して除いたもの、その後の熱処理されたものいずれでも良く、水分含量を減じた大豆粕、大豆粉等を用いることができ、特に限定されない。その形状は粒状、フレーク状、圧扁状、細粉砕状、粉末等いずれでも良い。しかし、加熱処理が短時間であること、円筒内をスムースに通過させること及び製品の用途が飼料であることから、混合しやすさ、動物の食べやすさを考慮するとその大きさは1〜10mm、好ましくは2〜5mmであり、粒状又はフレーク状が好ましい。
【0023】
脱脂大豆中の水分は加熱処理工程の効率に影響する。本願発明の製造法に用いるダイを排除した押出機を用いると、脱脂大豆中に15〜5%含まれ、通常はほぼ10%である水分は初期の段階で円筒に添って出口から排除される。従って、水分による被加熱物質への圧力はかからない。かつ過熱水蒸気による加熱のように常時過熱水蒸気が被加熱物質の周囲に存在することもない。脱脂大豆を予め乾燥させ、水分含量を5〜0.5%に減じておくと加熱処理速度を上げることができるため、工程がスムースに進み効率が良い。更に2.5〜0.5%に予備乾燥するとさらに加熱処理により品質が安定した製品が得られる。乾燥方法としては脱脂大豆の品質低下が起こらず、本発明の反芻動物用飼料製造方法に適応する方法であれば、どのような方法でも良いが、通常は脱脂大豆の加熱処理温度により低温(通常60〜120℃)で、しかも短時間(3〜15分)に乾燥できる。例えば連続流動層乾燥装置を用いると効率的である。このようにして得られた加熱処理後の脱脂大豆中の水分量は0.1乃至2.4%である。
【0024】
以下、実施例1〜4によって本発明を具体的に説明する。尚、実施例におけるin
vitro及びin situ評価項目は、次の方法に準じて行った。
【0025】
<in vitroでの測定法>
<脱脂大豆中の全窒素量の測定>
脱脂大豆試料の約5gを乳鉢にて粉砕した後、その約20mgを正確に秤量する。これを(株)住化分析センター社製の高感度N,C−ANALYZER
SUMIGRAPH NC−800 自動分析計(測定原理;試料を純酸素ガス中で完全燃焼(840℃)させ、生成した窒素ガスと二酸化炭素ガスをガスクロマトグラフィーにより全窒素分析を行い、全窒素量を求めた。分析された全窒素量N(%)から、これに蛋白換算係数の6.25(g/g)を乗じて、脱脂大豆中の全蛋白質含有率P0(%)を一般式(4)で求めた。
P0(%)=N(%)×6.25 (4)
<水溶性蛋白質(WSP)の測定>
(1)<前処理操作>
50mlFALCON製コニカルチューブに全窒素分析に用いた脱脂大豆を入れ、所定の加熱処理をし、得られた加熱処理試料4.00gを秤量し、これに約40mlの水を加え攪拌してpHが6.2〜6.8であることを予め確認(範囲外のときは希塩酸または希水酸化ナトリウム水溶液で調整)した後、更に水を加えて容量を50mlに調整して、コニカルチューブに蓋をした。このコニカルチューブを往復振とう機にて40℃、100rpm、90分間 振とうを行い、その後直ちに遠心分離機にて3,000rpm,10分間遠心して上澄液と残渣とを分離した。回収した上澄液は更に0.45μmのミリポアフィルター(Cellulose Acetate Filter;
Toyo Roshi Kaisha,Ltd.製)でろ過を行い、得られたろ液を水溶性蛋白質(「WSP」と略すこともある)測定用試料とした。他方、該残渣の全量は消化酵素(ペプシン)による可溶化蛋白質の測定用試料とした。一方、脱脂大豆中の全窒素量の測定により加熱処理試料中の全窒素量N1(%)から蛋白質含有率P1(%)を一般式(4)から求めた。
(2)<測定>
可溶性大豆蛋白質(蛋白質含量61.8%)の水溶液をスタンダードとして、比色分析法のBradford法(キットはBio−Rad社製を使用)にて行い、前処理操作で得た該ろ液中の水溶性蛋白質の濃度Cp(g/L)を求めた。これより一般式(5)でろ液中の水溶性蛋白質量WSP(g)を求めた。
WSP(g)=Cp(g/L)×50/1000(L) (5)
<不溶性蛋白質(ISP)量の計算方法>
不溶性蛋白質量(ISP)(g)を加熱処理試料4.00g中の蛋白質量P1(g)と水溶液中に溶解した水溶性蛋白質量WSP(g)との差から計算で求めた。
ISP(g)=P1(g)−WSP(g)
=4.00g×N1(%)/100×6.25(g/g)−WSP(g) (6)
<指標項目[A]の計算方法>
指標項目[A]はISPとWSPの比で表した。
指標項目[A](g/g) =ISP(g)/WSP(g) (7)
【0026】
<不溶性蛋白質(ISP)の消化酵素による可溶化蛋白質(PSP)量の測定>
(1)水溶性蛋白質(WSP)の測定の前処理操作で得た残渣(不溶性蛋白質(ISP))に水を約20ml加え、混合してスラリー液とし、6N−塩酸を加
えてpHを2.0に調整した後、更に水を加えて液量を40mlに調製した。
コニカルチューブは蓋をし、往復振とう機にて37℃、100rpmの振とう
をスラリー液の液温が37℃になるまで約10分間行った。
(2)温度、pHが一定となったところで、予め秤量しておいた0.50gの
消化酵素粉末(ペプシン:和光純薬工業(株)製ブタ胃粘膜由来
Pepsin 1:10,000, from Porcine Stomach Mucosa)を一度に添加し、手で手短に(約15秒間)激しく混合して消化酵素を溶解させた。(酵素分解用スラリー液)という。)直後にこの液の約0.3mlをサンプリングして、0.45μmのミリポアフィルターにてろ過を実質的に酵素分解が始まらない1分以内に行い、ISP残渣を除いたろ液−1を得た。
(3)残りの酵素分解用スラリー液はそのまま、37℃、100rpmの振とうし、ペプシンによる不溶性蛋白質(ISP)の可溶化反応を60分間行った。反応後は直ちに反応液の一部約0.3mlをサンプリングし、(2)と同様に、0.45μmのミリポアフィルターにてろ過を行い、ろ液−2(ISPの可溶化蛋白質測定液)を得た。
(4)(2)および(3)で得られたろ液−1及びろ液−2について、各々を約20mg正確に秤量し、(株)住化分析センター社製の高感度NC−ANALYZER
SUMIGRAPH NC−800自動分析計にて全窒素の分析を行い、それぞれの分析値Nb(%)及びN60(%)を得た。
(5)このようにして得られた反応前後での全窒素の分析値Nb(%)及びN
60(%)より、不溶性蛋白質(ISP)が60分後に可溶化した蛋白質の量
(ISPの可溶化蛋白質(PSP)量(g)を一般式(8)により求めた。
PSP(g)=[N60(%)/100−Nb(%)/100]×
6.25(g/g)×40ml×
密度1.00(g/ml) (8)
(6)PSP(g)と(ISP)(g)との比を次式により求め、指標項目[B]とした。
指標項目[B](g/g)=PSP(g)/ISP(g) (9)
【0027】
<in situでの測定方法>
(養牛飼料・原料の蛋白質ルーメンバイパス率およびバイパス蛋白質消化率の測定法)
<ルーメンバイパス率の測定法>
(1)供試牛:腹部にルーメンフィステルを装着したホルスタイン去勢牛2頭
を用いる。供試牛には日本飼養標準の維持要求量に基づき、配合飼料3kg と牧乾草7kgを1日2回に分けて給与する。
(2)サンプリング方法:
1)試料を10.0g秤量し、ナイロンバックに投入する。ルーメン内での
‘おもり’として、ガラス玉1個を同封する。これを1種の試料につき10組
用意する。バックの口をテグスで巾着状に縛り、ルーメン浸漬用のチェーン
2本に5組ずつ一定の間隔で取り付ける。
2)朝の給餌前に供試牛のフィステルを通して試料を取り付けた浸漬用チェーン
をルーメン内に投入する。ルーメン内微生物の影響を充分に受けるよう、チ
ェーン全体をルーメン内容物の中に浸漬する。その後直ちに給餌し、午後の給餌は通常通り行う。
3)浸漬0,2,4,6,10,24時間後に1袋ずつバックを取り出し、流水中で
液が透明になるまで洗浄する。洗浄後バック内の残滓を乾燥用のシャーレに
移する。
4)55℃、48時間通風乾燥した後、乾物重量を測定して粗蛋白質(CP)分
析に供する。
(3)ルーメンバイパス率算出法:
バイパス率算出のために、試料の分解速度Kd(%/h)と通過速度Kp(%/h)を求める。
・分解速度Kd:各サンプルの分析結果より粗蛋白質(CP)の残存率を経時的にプロットし、指数曲線をあてはめる。得られた回帰式の対数がKdとなる。
・通過速度Kp:供試牛の体重、乾物摂取量、粗飼料割合等よりコンピューターモデルにより推定され、粗飼料通過速度4.19、穀類通過速度5.65となる。脱脂大豆の通過速度は穀類の場合の5.65を用いてルーメンバイパス率の計算をした。
KdおよびKpより次の式で算出する。
ルーメンバイパス率(%)=Kp/(Kp+Kd)×100 (10)
<バイパス蛋白質消化率>
Calsamiglia
and Stern(1995)の方法に従い、以下の手順で求める。
1)飼料をナイロンバックに入れ、上記供試牛のルーメン内に16時間浸漬する。
2)流水中でバックをよく洗い、バック内の残滓を55℃、48時間通風乾燥する。
3)残滓のN含量を測定する。
4)N含量として15mgとなる残滓を50ml遠沈管に入れ、1リットル中に1gのペプシンを含むpH1.9、0.1NのHClを10ml添加する。撹拌後38℃のウォーターバスで1時間振とう培養する。
5)培養後1NのNaOHを0.5ml加えて中和し、パンクレアチン溶液*13.5ml添加した後、38℃で24時間震とう培養する。培養中は8時間毎に撹拌する。
*パンクレアチン溶液:50ppmのチモール1リットル中に3gのパンクレ
アチンを含む、pH7.5、0.5MのKH2SO4緩衝液
6)培養後直ちに3mlの100%トリクロロ酢酸(TCA)を加えて反応を止める。撹拌して15分間静置する。
7)10,000G、15分間遠心分離して得られた上清のN含量を測定する。
バイパス蛋白質消化率(%)=TCA溶解N量/投入N量×100 (11)
(投入N量は15mgである。)

参考文献:
・日本飼養標準・乳牛(1999年版)
・Calsamiglia
S. and M. D. Stern ; A three−step in vitro procedure for estimating
intestinal digestion of protein
ruminants. J. Daily Sci.73: 1459−1465(1995)
【実施例1】
【0028】
ラボ用エクストルーダーによる試験例 室温25℃
ラボ用二軸エクストルーダー「マークII」(商品名、(株)日本製鋼所ラボルーダ製、スクリューサイズ長さ(L)450mm、口径(D)30mm;L/D=15/1)のダイ装着部を取り外し、加熱スクリュー全長(450mm)の2/3は80〜180℃に保持して予備加熱とし、1/3の150mmは本加熱として運転した。原料として味の素製油(株)製脱脂大豆(水分含量7%)、水分含有率6.9%のフレーク状に成形したものを用い、これをホッパに供給し、原料供給速度、加熱条件を種々変えながら加熱処理した。
【0029】
得られた加熱処理品について着色度、水分含有率、全蛋白質含有率、水溶性蛋白質含有率を求め、in
vitro試験により 指標項目[A]、指標項目[B]、総合評価として評価指標[A]・[B]を得た。結果は表1に示すとおりである。又、対照サンプルとして非加熱処理品、水蒸気処理品「パフミンSM」、「パフェース109」(商品名、キッコーマン(株)製)および加熱処理品「アミノプラス」(商品名、アグ・プロセシング(Ag
Processing Inc.)製)についてのin vitro評価結果も併せて同表に示した。本発明の製造方法で得た反芻動物用飼料は評価指標[A]・[B]が10.0以上であり、対照品よりも優れていた。
【0030】
【表1】

注:
着色度:下記5段階の基準に従って目視評価した。
3.0:淡い黄色
3.5:狐色
4.0:濃い狐色
4.5:褐色
5.0:こげ茶色
{ }内の数値は製品中の総蛋白質含有率(%)
対照サンプル
「パフミンSM」:脱脂大豆の水蒸気加熱造粒品(加熱菅の最大圧力は0.55MPa・G=5.43kg/cm2で、品温の最高温度は162℃)
「パフェース109」:脱脂大豆の水蒸気加熱造粒品(最大圧力、最高品温は上記「パフミンSM」と同じ)
「アミノプラス」:加熱脱脂大豆(93℃、45〜120分加熱)
【0031】
表1に示した結果から、熱エネルギーの取得量400〜510Joule/g、せん断力10〜400Wh/kg、脱脂大豆の通過時間2〜14秒以内とすばやく加熱処理されたサンプルNo.8,9,13、14,18、19,23〜25及び28(本発明品)は、対照サンプルのいずれよりも良好な結果である評価指標[A]・[B] ≧10.0を得た。
【実施例2】
【0032】
実施例1と同様にラボ用エクストルーダーで加熱処理したものを、in
vitroおよびin situにて評価し、その結果を表2に示した。
原料:味の素製油(株)製、脱脂大豆
【0033】
【表2】

【0034】
表2に示した結果から明らかなように、本発明品はいずれも対照品に比べて優れており有意であった。対照例よりも良好な [A]・[B]≧10.0を示した。
【実施例3】
【0035】
商業用大型エクストルーダーによる試験例 室温25℃
飼料用脱脂大豆(昭和産業(株)製)を原料とし、(株)コスモテック製の大型2軸エクストルーダー(スクリューサイズ長さ(L)1710mm、口径(D)57mm;L/D=30/1)のダイ装着部を取り外して、原料の供給速度とスクリューの回転速度を調節することにより、スクリューの回転での電流値を設定(75〜180アンペア)してスクリューにかかるせん断力を変化させて加熱処理を行った。尚、このときのスクリューの回転での空動力は200V×20アンペア=4kwであった。
得られた加熱処理品のin
vitroおよびin situ評価結果は表3に示したとおり、せん断力をかけながら加熱処理を行った本発明品では、せん断力を全くかけないで加熱処理を行った対照品に比べて高い評価指標[A]・[B]≧10.0が得られた。
【0036】
【表3】

【実施例4】
【0037】
原料として流動乾燥機にて予備乾燥した飼料用脱脂大豆(水分4.9%)および乾燥前の脱脂大豆(昭和産業(株)製、水分8.9%)をそれぞれ実施例3で用いた大型2軸エクストルーダーのスクリューが300rpmで回転しているスクリュー内に投入し、最終加熱での品温の最高温度285℃で加熱処理を行った。このようにして得られた加熱処理脱脂大豆はそれぞれ粉砕し粒径約2mmにした後、品質の評価を所定の方法で行った。その結果を表4に示した。
【0038】
【表4】

【0039】
表4に示したように、エクストルーダーにて加熱処理を行う前に、脱脂大豆を予備乾燥し、水分含量を低減させることにより、エクストルーダーによる加熱処理での投入速度は予備乾燥なしの60kg/hから、380kg/hと6倍に生産性が向上した。
尚、得られた加熱処理品の品質はin
vitroおよびin situ評価結果が示すように、両者共に同等であった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】粉粒体を過熱水蒸気で加熱処理したときの、圧力―温度による水の状態を示す参考図。
【図2】粉粒体を過熱水蒸気で加熱処理したときの、温度―水分の関係を示す参考図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂大豆に下記一般式(1)よって求められる400乃至510Joule/gの熱量Qを与え、かつこの熱量で2〜14秒間加熱処理することを特徴とする反芻動物用飼料の製造方法。
Q(Joule/g)={Tr−t}
× Hs × 4.18 (1)
(但し、Trは加熱中の脱脂大豆の最高品温(℃)、tは加熱前の脱脂大豆の品温(℃)、Hsは脱脂大豆の比熱(cal/g・℃)である。)
【請求項2】
製造方法が20乃至400Wh/kgのせん断力を加える押出し製造方法である請求項1記載の反芻動物用飼料の製造方法。
【請求項3】
脱脂大豆が水分含量5乃至0.5%に予め乾燥処理されたことを特徴とする請求項1または2記載の反芻動物用飼料の製造方法。
【請求項4】
脱脂大豆の水分含量が5〜0.5%である乾燥脱脂大豆を加熱中の脱脂大豆の最高品温で250乃至350℃、かつ2乃至14秒間加熱処理し、この間20乃至400Wh/kgのせん断力を加えることを特徴とする反芻動物用飼料の押出し製造方法。
【請求項5】
脱脂大豆に20乃至400Wh/kgのせん断力と下記一般式(1)によって求められる400乃至510Joule/gの熱量Qを加え、かつ、この熱量で2〜14秒間加熱処理することにより製造される、全蛋白質に対する水溶性蛋白質含有率が1.5乃至5.4%であることを特徴とする反芻動物用飼料。
Q(Joule/g)={Tr−t}
× Hs × 4.18 (1)
(但し、Trは加熱中の脱脂大豆の最高品温(℃)、tは加熱前の脱脂大豆の品温(℃)、Hsは脱脂大豆の比熱(cal/g・℃)である。)
【請求項6】
加熱処理後、脱脂大豆中に含まれる水分含量が0.1乃至2.4%であることを特徴とする請求項5記載の反芻動物用飼料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−14687(P2006−14687A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197163(P2004−197163)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(390014742)伊藤忠飼料株式会社 (4)
【Fターム(参考)】