説明

受動型赤外線センサの警戒範囲調整方法

【課題】受動型赤外線センサにおいて、警戒範囲の調整を、容易に、且つ複雑な構成を用いることなく行うことができるようにする。
【解決手段】第1光学系31と、第2光学系41の2つの集光光学系を備えており、これら2つの集光光学系は何れも複数のフレネルレンズで構成されている。第1、第2光学系31、41に対応して、それぞれ第1、第2素子32、42が配置されている。これらの素子と集光光学系により、検知光路、検知ゾーンが所定の通り配置される。警戒範囲を調整する際には、第1光学系31の所望のフレネルレンズ、及び/または第2光学系41の所望のフレネルレンズをマスク部材Mによりマスキングする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体から放射される熱線を検知して、警戒範囲内に物体が存在するか否かを検知する受動型赤外線センサに係り、特に、物体の存否を検知しようとする警戒範囲を調整する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
受動型赤外線センサ(以下、単にセンサと記す。)は、焦電素子等の熱線の波長領域に感度を有する赤外線検知素子を用い、集光光学系によって物体から放射される熱線を赤外線検知素子に集光し、その赤外線検知素子の出力に基づく熱線のエネルギーの変動量が所定のレベルを越えたときに、人体等の移動物体の存在を検知するように構成されており、自動ドアの開閉や、防犯警備システムにおいて侵入者の検知のために広く用いられている。
【0003】
センサの設計に際しては、警戒範囲は予め定められるのは当然である。なお、本明細書において警戒範囲とは、センサから当該センサが検知できる物体までの最長検知位置は勿論として、赤外線検知素子と集光光学系とによって形成される検知ゾーンの配置形態をも含むものとする。
【0004】
しかし、実際にセンサを設置する箇所の状況に応じて求められる警戒範囲は、センサ設計時に定められた警戒範囲とは異なるのが現実である。そこで、センサにおいては、その設置個所の状況に応じて、警戒範囲が調整できるようになされている。そのための手段としては、集光光学系として反射鏡を用いたセンサにおいては反射鏡の角度を調整可能としているのが通常であるが、赤外線検知素子と集光光学系との相対的位置を調整可能(例えば、特許文献1参照)としたり、あるいは、切替スイッチにより、必要に応じて、集光光学系、赤外線検知素子、及び赤外線検知素子の後段の回路系を使用したり、使用しなかったりできるようにしているのもある(例えば、特許文献2の[0020]段参照)。
【特許文献1】特許第3086406号明細書
【特許文献2】特開2000−283839号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、反射鏡の角度を調整可能としたり、特許文献1のように赤外線検知素子と集光光学系との相対的位置を調整可能とした場合には、そのための角度調整機構を設ける必要があり、構成が複雑になるばかりでなく、これらの調整機構を搭載するためにセンサの筐体が大きくなってしまうという問題があり、更に、コスト上昇の要因ともなっていた。特許文献2のようにした場合にも同様であり、集光光学系、赤外線検知素子、及び赤外線検知素子の後段の回路系を切り替えるための特別な構成が必要であり、コスト上昇につながるものである。
【0006】
そこで、本発明は、警戒範囲の調整を、容易に、且つ複雑な構成を用いることなく行うことができる受動型赤外線センサの警戒範囲調整方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために本発明の受動型赤外線センサの警戒範囲調整方法は、第1の赤外線検知素子と、当該第1の赤外線検知素子に対応して配置された複数のフレネルレンズからなる第1の集光光学系とで構成される第1センサヘッドと、第2の赤外線検知素子と、当該第2の赤外線検知素子に対応して配置された複数のフレネルレンズからなる第2の集光光学系とで構成される第2センサヘッドとを備え、第1センサヘッドは、検知対象である人体の上半身に向けて、且つ、小動物の背高よりも高い位置で、受光方向が略水平になされ、警戒範囲内の上方の空間に、警戒面に達しないようになされた複数の検知光路を互いに異なる方向に放射状に形成し、第2センサヘッドは、警戒面に受光方向を向けるようになされ、警戒面に複数の検知ゾーン列を形成する複数の検知光路を互いに異なる方向に放射状に、且つ、第1センサヘッドで形成される検知光路とは検知方向に対して前後するように、交互に配置されるように形成する受動型赤外線センサにおける警戒範囲調整方法であって、第1の集光光学系の所望のフレネルレンズ及び/または第2の集光光学系の所望のフレネルレンズを熱線を透過しないマスク部材によりマスキングすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来におけるように複雑な機構を用いることなく、マスク部材によって第1の集光光学系の所望のフレネルレンズ及び/または第2の集光光学系の所望のフレネルレンズをマスキングするという簡単な構成によって警戒範囲の調整を行うことができ、警戒範囲の調整を行うための操作も容易である。
【0009】
また、マスク部材としてシールを用いるにしても、樹脂の成型品を用いるにしても、これらの厚みは1mm以下でもマスキングの効果は十分得られるので、この警戒範囲調整方法は筐体の大きさに殆ど影響しないものである。
【0010】
更に、この受動型赤外線センサでは、第1センサヘッドは、検知対象である人体の上半身に向けて、且つ、小動物の背高よりも高い位置で、受光方向が略水平になされ、警戒範囲内の上方の空間に、警戒面に達しないようになされた複数の検知光路を互いに異なる方向に放射状に形成し、第2センサヘッドは、警戒面に受光方向を向けるようになされ、警戒面に複数の検知ゾーン列を形成する複数の検知光路を互いに異なる方向に放射状に、且つ、第1センサヘッドで形成される検知光路とは検知方向に対して前後するように、交互に配置されるように形成するようになされているので、小動物及び外乱光を人体と誤検知してしまうことを非常に少なくできるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ発明の実施の形態について説明するが、まず、本発明による警戒範囲調整方法を適用して好適なセンサの実施の形態について図1を参照して説明する。図1はそのセンサの外観の例の概略を模式的に示す図であり、図1(a)は斜視図、図1(b)は正面図を示し、図中、Sはセンサ、31は第1集光光学系(以下、単に第1光学系という)、32は第1赤外線検知素子(以下、単に第1素子という)、41は第2集光光学系(以下、単に第2光学系という)、42は第2赤外線検知素子(以下、単に第2素子という)、Fij(ただし、i,jは何れも整数でi=1〜8,j=0〜3)はそれぞれフレネルレンズを示す。なお、第1素子32、第2素子42はセンサSの内部に収納されているが、第1光学系31、第2光学系41との関係を示すために図1ではそれぞれ破線で示している。
【0012】
図1において、第1素子32、第2素子42はセンサSの内部の所定の位置にそれぞれ配置されており、第1素子32、第2素子42のそれぞれに対応して第1光学系31、第2光学系41がセンサSの表面に配置されている。第1光学系31には、1(図1(b)の縦方向)×4(図1(b)の横方向)の4つのフレネルレンズが形成されており、第2光学系41には、3(図1(b)の縦方向)×4(図1(b)の横方向)の計12のフレネルレンズが形成されている。即ち、第1光学系31、及び第2光学系41は何れもフレネルレンズ群からなる集光光学系であり、第1光学系31は、F20、F40、F60、F80のフレネルレンズで構成され、第2光学系41は、F11、F12、F13、F31、F32、F33、F51、F52、F53、F71、F72、F73の12のフレネルレンズで構成されている。
【0013】
次に、当該センサSのブロック構成を図2を参照して説明する。このセンサSは、図2に示すように、フレネルレンズ群からなる第1光学系31と、それに対応して配置された第1素子32とからなる第1センサヘッド30、フレネルレンズ群からなる第2光学系41と、それに対応して配置された第2素子42とからなる第2センサヘッド40、信号処理回路33、43、判定手段50を備えている。そして、図示しないが、信号処理回路33、43、及び判定手段50は回路基板に搭載され、第1センサヘッド30、第2センサヘッド40と共にケースに収納されて受動型赤外線センサSが構成される。
【0014】
信号処理回路33は、第1センサヘッド30の第1素子32の出力に対して所定の処理を施して、第1素子32の出力が所定レベル以上である場合にパルス信号を出力するものであり、ここでは、第1素子32の出力を増幅する増幅回路34、増幅回路34の出力から不要な周波数成分を除いて所定の周波数成分の信号のみを出力する帯域フィルタ35と、帯域フィルタ35の出力を所定の閾値と比較して、当該閾値以上の信号があった場合にパルス信号を出力する比較回路36とを備えるものとしている。
【0015】
信号処理回路43は、第2センサヘッド40の第2素子42の出力に対して所定の処理を施して、第2素子42の出力が所定レベル以上である場合にパルス信号を出力するものであり、ここでは、第2素子42の出力を増幅する増幅回路44、増幅回路44の出力から不要な周波数成分を除いて所定の周波数成分の信号のみを出力する帯域フィルタ45と、帯域フィルタ45の出力を所定の閾値と比較して、当該閾値以上の信号があった場合にパルス信号を出力する比較回路46とを備えるものとしている。
【0016】
判定手段50は、信号処理回路33と信号処理回路43からの2つのパルス信号が所定時間差の範囲内に出力された場合に検知論理が成立したと判定し、その検知論理の成立が予め定めた所定回数発生した場合に人体を検知したと判断して検知信号を出力するものである。
【0017】
なお、第1素子32、第2素子42としては、シングル素子を用いても良く、ツイン素子を用いても良い。
【0018】
次に、このセンサSによって形成される警戒範囲について説明する。まず、何の調整も行わない場合の警戒範囲について説明するが、説明の都合上、ここでいくつかの用語について定義しておく。
【0019】
いま、一つの赤外線検知素子があり、その赤外線検知素子に対応して一つのフレネルレンズが配置されているとすると、このフレネルレンズの焦点距離等の光学特性、及び赤外線検知素子とフレネルレンズとの位置関係によって、当該フレネルレンズによって当該赤外線検知素子に入射する熱線の光路が一つ定まる。このような光路を本明細書では検知光路と称する。
【0020】
また、検知光路が、警戒範囲の床面や地面(本明細書ではこれらを総称して警戒面と称す)に達した位置を検知ゾーンと称して、検知光路とは区別して使用する。従って、このセンサSの第1光学系31には4つのフレネルレンズがあるので、第1光学系31と第1素子32とによって4つ検知光路が形成され、同様に、第2光学系41と第2素子42とによって12の検知光路が形成される。
【0021】
また、上方から警戒面を見たとき、複数の検知ゾーンがセンサSの位置から延びる直線上に形成、配置されているとき、これら複数の検知ゾーンは一つの検知ゾーン列を構成している、あるいは、この検知ゾーン列はこれらの検知ゾーンを含む等と称する。なお、その他の用語については、必要に応じてその都度説明する。
【0022】
このセンサSは、後に説明する図4に示すように、壁面あるいは支柱等のセンサ取り付け部51に、検知しようと想定している最も低い身長の人体の腰から頭部の高さの範囲の位置に取り付けられる。このセンサ取り付け部51は屋外であってもよく、屋内であってもよい。
【0023】
なお、以下においては、フレネルレンズFijとそれに対応した赤外線検知素子によって形成される検知光路をAijと表し、フレネルレンズFijとそれに対応した赤外線検知素子によって形成される検知光路の検知ゾーンをZijと表すものとする。
【0024】
第1センサヘッド30の第1素子32と第1光学系31の各フレネルレンズF20、F40、F60、F80が形成する検知光路A20、A40、A60、A80は、それぞれ、検知対象である人体の上半身に向けて、且つ、小動物の背高よりも高い位置で、受光方向が略水平になされ、当該警戒範囲内の上方の空間に、警戒面に達しないようになされる。従って、これらの検知光路A20、A40、A60、A80は警戒範囲内では検知ゾーンを形成しない。そして、これらの検知光路A20、A40、A60、A80は、警戒面を上から見たとき、センサSから互いに異なる方向に放射状に形成される。なお、小動物の背高としては、小動物として検知しないようにする最も高い背高の小動物の背高を想定すればよい。
【0025】
次に、第2センサヘッド40により形成される検知光路についてであるが、第2素子42と第2光学系41の各フレネルレンズが形成する検知光路は、それぞれ、センサ取り付け部51から所定の検知距離だけ離れた警戒面に受光方向を向けるようになされる。従って、第2センサヘッド40により形成される検知光路は、全て検知ゾーンを形成する。
【0026】
そして、図1に示す第2光学系41の、図の縦一列のフレネルレンズと第2素子とによって形成される検知光路は、一つの検知ゾーン列を構成するようになされている。従って、図1に示すセンサSでは、それぞれが3つの検知ゾーンを有する4つの検知ゾーン列が構成されることになる。
【0027】
また、第2センサヘッド40により構成される4つの検知ゾーン列は、警戒面を上から見たとき、センサSから互いに異なる方向に放射状に配置されるように、且つ、第1センサヘッド30で形成される検知光路とは、後述する検知方向に対して前後するように、交互に配置されるようになされている。
【0028】
以上のような第1センサヘッド30によって形成される検知光路、及び第2センサヘッド40によって形成される検知光路と検知ゾーンの配置を図3、図4を参照して説明する。図3は、第1センサヘッド30によって形成される検知光路、及び第2センサヘッド40によって形成される検知光路と検知ゾーンの配置を警戒面の上方から見た平面図である。
【0029】
図3において斜線を付した領域はそれぞれ検知ゾーンを示している。そして、上述した通り、第2光学系41の縦一列のフレネルレンズF11、F12、F13と第2素子とによって形成される検知光路は警戒面に到達して、3つの検知ゾーンZ11、Z12、Z13を形成し、これらの検知ゾーンZ11、Z12、Z13はセンサSの位置から延びる直線上に形成、配置されているので、一つの検知ゾーン列を構成している。この検知ゾーン列をZ1とする。同様に、3つの検知ゾーンZ31、Z32、Z33は一つの検知ゾーン列を構成しており、この検知ゾーン列をZ3とする。また、3つの検知ゾーンZ51、Z52、Z53は一つの検知ゾーン列を構成しており、この検知ゾーン列をZ5とする。更に、3つの検知ゾーンZ71、Z72、Z73は一つの検知ゾーン列を構成しており、この検知ゾーン列をZ7とする。
【0030】
第1光学系31のフレネルレンズF20と第1素子32とによって形成される検知光路A20には斜線を付した領域が無いが、これは上述した通り、これらの検知光路A20は、検知対象である人体の上半身に向けて、受光方向が略水平になされ、当該警戒範囲内の上方の空間に、警戒面に達しないように設定され、検知ゾーンは形成しないからである。この点については、第1光学系31のフレネルレンズF40と第1素子32とによって形成される検知光路A40、第1光学系31のフレネルレンズF60と第1素子32とによって形成される検知光路A60、第1光学系31のフレネルレンズF80と第1素子32とによって形成される検知光路A80についても同じである。
【0031】
図3に示す場合には、後述するところから明らかになるように、図3の略上下方向に移動する人体を検知することができる。従って、図3においては、図の略上下方向が検知方向となる。このように、上述した通り、そして、図3から明らかなように、第1センサヘッド30により形成される複数の検知光路と、第2センサヘッド40により形成される複数の検知ゾーン列とは、警戒面を上から見たとき、それぞれセンサSから所定の方向に放射状に配置されるように形成され、且つ、第1センサヘッド30で形成される検知光路と、第2センサヘッド40で形成される検知ゾーン列は検知方向に対して前後するように、交互に配置されるようになされているのである。
【0032】
図4は、図3において、aで示す矢印の方向から見た側面図であり、検知ゾーン列Z1を形成する3つの検知光路A11、A12、A13と、検知光路A20のみを示している。なお、図4において、Hは人体を示し、Mは小動物を示している。
【0033】
図4では、上述した通り、第1センサヘッド30により形成される検知光路A20は、検知対象である人体Hの上半身に向けて、受光方向が略水平になされ、当該警戒範囲内の上方の、小動物Mの背高よりも高い位置の空間に、警戒面に達しないように設定されている。他方、第2センサヘッド40により形成される検知光路A11、A12、A13は、それぞれ、センサ取り付け部51から所定の距離だけ離れた警戒面に検知ゾーンを形成するように受光方向を向けるようになされている。そして、これらの3つの検知ゾーンZ11、Z12、Z13は一つの検知ゾーン列を構成している。
【0034】
以上のような検知光路及び検知ゾーンの配置は、センサSの取り付け高さ、どのような距離まで人体を検知するかという最長検知位置に基づいて、第1光学系31及び第2光学系41の各フレネルレンズFijの焦点距離、第1光学系31の各フレネルレンズと第1素子32との位置関係、第2光学系41の各フレネルレンズと第2素子42との位置関係を定めることによって形成することができる。
【0035】
なお、図3、図4において、第1光学系31によって形成される各検知光路の右端部に波線を付したのは、これらの検知光路が警戒面に達することなく図の右方に延びていることを示しているものである。
【0036】
次に、このセンサSの動作について説明する。まず、いま、人体が当該警戒範囲内に入り込み、図4に示すように検知ゾーンZ12の位置からセンサSを中心として廻るように、図3の上方に移動したとする。この動きは検知方向に沿った動きである。この場合、人体は、まずA11とA12の2つの検知光路を横切る。従って、このとき、人体からの熱線が第2素子42に入射されるので、第2素子42の出力信号は信号処理回路43に入力され、増幅回路44で増幅され、帯域フィルタ45で所定の周波数帯域の信号のみが抽出され、比較回路46で所定の閾値と比較される。そして、このときには、帯域フィルタ45の出力信号は比較回路46の閾値レベル以上となるので、結局、信号処理回路43からはパルス信号が出力されることになる。
【0037】
その後、人体は検知光路A20を横切ることになるが、このときには人体からの熱線が第1センサヘッド30の第1素子32に入射され、その出力信号は信号処理回路33に入力され、増幅回路34で増幅され、帯域フィルタ35で所定の周波数帯域の信号のみが抽出され、比較回路36で所定の閾値と比較される。そして、このときには、帯域フィルタ35の出力信号は比較回路36の閾値レベル以上となるので、結局、信号処理回路33からはパルス信号が出力されることになる。そして、信号処理回路43からのパルス信号と、信号処理回路33からのパルス信号とが所定の時間差内であれば、判定手段50は検知論理が成立したと判定する。
【0038】
従って、人体が、判定手段50が検知論理が成立すると判定する時間差に対応する速度以上の速度で移動すれば、第1センサヘッド30により形成される検知光路と第2センサヘッド40により形成される検知光路とを交互に横切る度毎に、上記所定の時間差内に、信号処理回路33と信号処理回路43とから交互にパルス信号が出力され、判定手段50は検知論理が成立したと判定する。そして、検知論理が所定回数発生した時に判定手段50は人体を検知したと判定して検知信号を出力する。
【0039】
以上のことから、人体はどの位置であれ、警戒範囲内を検知方向に沿って移動した場合には確実に検知される。
【0040】
これに対して、小動物が上述した人体と同じ動きをした場合の動作は次の通りである。上述した通り、小動物が第2センサヘッド40によって形成された検知光路を横切った場合には、当該小動物からの熱線は第2センサヘッド40の第2素子42に入射する。
【0041】
しかし、第1センサヘッド30によって形成される検知光路は小動物の背高より高い位置に設定されているので、小動物はこれらの検知光路を横切ることはない。従って、当該小動物からの熱線は第1センサヘッド30の第1素子32に入射することはないので、小動物が移動した場合には、信号処理回路43からパルス信号が出力されるだけであり、判定手段50は検知論理が成立したと判定することはなく、従って、判定手段50から検知信号が出力されることはない。
【0042】
以上のようであるので、このセンサSでは、小動物による誤報を確実に防止することができる。
【0043】
また、上述した検知光路、検知ゾーンの配置は、小動物による誤報を回避できるばかりでなく、外乱光による誤報も回避することができる。以下、このことについて説明する。
【0044】
警戒面に水溜まりができていたり、雨で濡れている等して、警戒面が平滑面になっている場合に、外乱光が警戒範囲に入射した場合について、図5を参照して説明する。図5において、太い実線x、yは外乱光の入射光の部分を示し、太い破線は外乱光の部分yの警戒面での反射光を示している。
【0045】
図5に示す検知光路、検知ゾーンの設定は図3に示すものと同じであり、いま、外乱光が図の太実線で示す方向から、ある角度、ある幅で入射したとする。そして、図のxを付した外乱光の部分は、検知光路A20内を第1センサヘッド30の受光方向から略水平方向から入射して、第1センサヘッド30の第1素子32に入射したとすると、第1素子32の出力信号は信号処理回路33で処理されて、信号処理回路33からはパルス信号が出力されることになる。
【0046】
また、同時に、図5において、外乱光の他の部分が図中yで示すように、検知光路A20に隣接する検知ゾーン列Z1が構成されている警戒面に入射したとし、検知ゾーンZ12内で反射したとする。しかし、この外乱光の部分yの反射光が、当該検知ゾーンZ12を構成する検知光路A12を設定している第2センサヘッド40の第2素子42に入射する可能性は殆ど無い。なぜなら、平滑面での反射光は鋭い指向性を有し、入射光と同方向に集中するため、検知ゾーンZ12での外乱光の部分yの反射光は、太い破線で示すように、センサSから外れてしまうからである。従って、当該反射光は第2センサヘッド40の第2素子42に入射することは殆ど無く、信号処理回路43からパルス信号が出力されることはなく、従って判定手段50で検知論理が成立したと判断される可能性は殆ど無いものである。
【0047】
以上のように、このセンサSによれば、外乱光による誤報を従来よりも大幅に低減することが可能である。
【0048】
次に、例えば、第1センサヘッド30により形成、設定された検知光路A20の遠方にボイラのような高温発生源が存在して、この高温発生源の前を物体が通過したり、この検知光路A20の遠方の道路を自動車やトラックが通過した場合、これらから放射される赤外線エネルギーは、この検知光路A20を形成、設定している第1センサヘッド30の第1光学系31のフレネルレンズF20を介して第1素子32に入射し、信号処理回路33からはパルス信号が出力される。
【0049】
しかし、第2センサヘッド40により形成、設定された検知光路は、これらの検知光路の受光方向が下方を向いていることから、第2センサヘッド40の第2素子42には上記の大きく変動する熱線のエネルギーは殆ど入射しない。従って、信号処理回路43からパルス信号が出力されることは殆ど無く、判定手段50から検知信号が出力される可能性は殆ど無いものである。
【0050】
以上のように、このセンサSによれば、人体は精度よく検知でき、外乱光や小動物、及びその他の熱源による誤報を従来より確実に防止することができるのである。
【0051】
以上、本発明による警戒範囲調整方法を適用して好適なセンサの実施の形態について説明したが、次に、本発明による警戒範囲調整方法の第1の実施の形態について説明する。まず、以下の説明の都合上、最長検知位置について説明する。最長検知位置は、増幅回路34、44の利得や比較回路36、46に設定される閾値レベルに応じて変わるのであるが、ここでは便宜的に、熱源が第2センサヘッド40により形成される検知ゾーンを横切ったときに比較回路46からパルス信号が出力される最も遠い位置は、熱源の最下部(人体の場合は足)が検知ゾーンの最もセンサS側の位置を横切った位置と定義する。従って、図3に示す場合には、最長検知位置は、図3においてL1で示す位置、即ち、検知ゾーンZi1(i=1,3,5,7)の最もセンサS寄りの位置となる。
【0052】
さて、上述したセンサSにおいて、警戒範囲の調整は、第1光学系31の所望のフレネルレンズまたは第2光学系41の所望のフレネルレンズをマスク部材によってマスキングすることによって行う。その例を図6に示す。
【0053】
図6(a)は、第2光学系41のフレネルレンズのうち、最上段に配置されているF11、F31、F51、F71の4つのフレネルレンズをマスク部材Mによりマスキングした例を示している。ここで、マスク部材Mの材料としては熱線を透過しないものであればどのようなものでもよく、シールでもよく、第2光学系41の所望のフレネルレンズに着脱可能になされた樹脂の成型品であってもよい。なお、図6では、マスク部材Mはシールであるとし、マスキングを施したフレネルレンズには斜線を付している。
【0054】
図6(a)に示すように第2光学系41のF11、F31、F51、F71の4つのフレネルレンズにマスク部材Mを貼付してマスキングした場合には、A11、A31、A51、A71の4つの検知光路は形成されないので、図3のZ11、Z31、Z51、Z71の4つの検知ゾーンが形成されないことになり、最長検知位置は図3、図4においてL2で示す距離になる。
【0055】
図6(b)は、第2光学系41のフレネルレンズのうち、最上段とその下の段に配置されているF11、F12、F31、F32、F51、F52、F71、F72の8つのフレネルレンズをマスク部材Mによりマスキングした例を示している。この場合には、Z11、Z12、Z31、Z32、Z51、Z52、Z71、Z72の8つの検知ゾーンは形成されないので、最長検知位置は図3、図4においてL3で示す距離になる。
【0056】
図6(c)は、第2光学系41のフレネルレンズのうち、向かって左端側に配置されているF11、F12、F13の3つのフレネルレンズをマスク部材Mによりマスキングした例を示している。この場合には最長検知位置はL1のままであるが、Z11、Z12、Z13の3つの検知ゾーンが形成されない、即ち図3の検知ゾーン列Z1が形成されないので、センサSの警戒範囲の拡がり角度を狭くすることができる。これも警戒範囲の調整の一つの態様である。
【0057】
以上、警戒範囲の調整の態様について3つの場合を説明したが、警戒範囲の調整の態様はこれ以外にも種々にあるものである。例えば、図6に示す例では第2光学系41の所望のフレネルレンズをマスキングしたが、第1光学系31の所望のフレネルレンズをマスキングしてもよく、あるいは、第1光学系31の所望のフレネルレンズと、第2光学系41の所望のフレネルレンズをマスキングすることもできる。
【0058】
例えば、第1光学系31については、図3の最も左側に配置されているフレネルレンズF20をマスキングし、且つ第2光学系41については図3の最上段に配置されているF11、F31、F51、F71の4つのフレネルレンズをマスキングすると、最長検知位置を図3のL2とすることができると共に、検知光路A20が形成されないのでセンサSの警戒範囲の広がり角度を狭くできる。
【0059】
以上のようであるので、第1光学系31、第2光学系41のどちらの光学系のどのフレネルレンズをマスキングするかは、センサSを設置する箇所求められる警戒範囲を考慮して決定すればよいのである。
【0060】
以上、マスク部材Mとしてシールを用いた場合について説明したが、マスク部材として樹脂の成型品を用いた場合について、図7を参照して説明する。図7において、マスク部材MはセンサSの第2光学系41の外側を、図の矢印で示すセンサSの縦方向、即ち、第2光学系41の最上段から最下段の方向に、あるいはその逆方向にスライド可能となされている。このマスク部材Mが熱線を透過しない材料で成型されていることは当然である。
【0061】
そして、マスク部材Mの縦方向長さは、第2光学系41の2段のフレネルレンズをマスキングできる長さを有しており、縦方向と直交する横方向の幅は、第2光学系41の横方向に並んで配置されている4つのフレネルレンズをマスキングできる幅を有している。そして、このマスク部材Mは、第2光学系41の前面において、次の3つの位置をとることが可能となされている。
【0062】
第1の位置は、図7に示すように第2光学系41のフレネルレンズをマスキングしない位置である。即ち、第1の位置は最も上の位置である。その下の第2の位置は、図6(a)に示すと同様に、第2光学系41の最上段の4つのフレネルレンズF11、F31、F51、F71をマスキングする位置である。第2の位置の下の第3の位置は、図6(b)に示すと同様に、第2光学系41のフレネルレンズのうち、最上段とその下の段に配置されているF11、F12、F31、F32、F51、F52、F71、F72の8つのフレネルレンズをマスキングする位置である。
【0063】
従って、センサSの設置個所の状況に応じてマスク部材Mの位置を調整することによって、警戒範囲を所望の状態に調整することができることは上述したところから明らかであろう。なお、図3に示す検知ゾーン列及び検知ゾーンの配置はあくまでも一例に過ぎないものであり、これに限定されるものではない。
【0064】
以上の通りであるので、この警戒範囲調整方法によれば、従来におけるように複雑な機構を用いることなく、シールを貼付する、あるいは樹脂の成型品をスライドさせるという簡単な構成によって警戒範囲の調整を行うことができ、警戒範囲の調整を行うための操作も容易である。また、マスク部材としてシールを用いるにしても、樹脂の成型品を用いるにしても、これらの厚みは1mm以下でもマスキングの効果は十分得られるので、この警戒範囲調整方法は筐体の大きさに殆ど影響しないものである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明による警戒範囲調整方法を適用して好適な受動型赤外線センサの実施の形態の外観を示す図であり、図1(a)は斜視図、図1(b)は正面図である。
【図2】図1に示す受動型赤外線センサのブロック構成を示す図である。
【図3】第1センサヘッド30によって形成される検知光路、及び第2センサヘッド40によって形成される検知光路と検知ゾーンの配置を警戒面の上方から見た平面図である。
【図4】図3において、aで示す矢印の方向から見た側面図であり、検知ゾーン列Z1を形成する3つの検知光路A11、A12、A13と、検知光路A20のみを示す側面図である。
【図5】図3に示す検知光路、検知ゾーンの配置が外乱光による誤報も回避することができることを説明するための図である。
【図6】本発明に係る受動型赤外線センサの警戒範囲調整方法の実施の形態を示す図である。
【図7】マスク部材として樹脂の成型品を用いた場合の本発明の実施の形態を示す図である。
【符号の説明】
【0066】
30…第1センサヘッド、31…集光光学系(第1光学系)、32…赤外線検知素子(第1素子)、33…信号処理回路、34…増幅回路、35…帯域フィルタ、36…比較回路、40…第2センサヘッド、41…集光光学系(第2光学系)、42…赤外線検知素子(第2素子)、43…信号処理回路、44…増幅回路、45…帯域フィルタ、46…比較回路、50…判定手段、Fij(i,jは何れも自然数でi=1〜8,j=0〜3)…フレネルレンズ、Aij(i,jは何れも自然数でi=1〜8,j=0〜3)…検知光路、M…マスク部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の赤外線検知素子と、当該第1の赤外線検知素子に対応して配置された複数のフレネルレンズからなる第1の集光光学系とで構成される第1センサヘッドと、
第2の赤外線検知素子と、当該第2の赤外線検知素子に対応して配置された複数のフレネルレンズからなる第2の集光光学系とで構成される第2センサヘッドと
を備え、
第1センサヘッドは、検知対象である人体の上半身に向けて、且つ、小動物の背高よりも高い位置で、受光方向が略水平になされ、警戒範囲内の上方の空間に、警戒面に達しないようになされた複数の検知光路を互いに異なる方向に放射状に形成し、
第2センサヘッドは、警戒面に受光方向を向けるようになされ、警戒面に複数の検知ゾーン列を形成する複数の検知光路を互いに異なる方向に放射状に、且つ、第1センサヘッドで形成される検知光路とは検知方向に対して前後するように、交互に配置されるように形成する
受動型赤外線センサにおける警戒範囲調整方法であって、
第1の集光光学系の所望のフレネルレンズ及び/または第2の集光光学系の所望のフレネルレンズを熱線を透過しないマスク部材によりマスキングする
ことを特徴とする受動型赤外線センサの警戒範囲調整方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−17667(P2006−17667A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−198170(P2004−198170)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000101400)アツミ電氣株式会社 (69)
【Fターム(参考)】