説明

口腔周辺筋強化用マウスピース

【課題】咀嚼筋、表情筋および下顎骨周辺筋を含む口腔周辺筋を必要に応じて部分的に選択して強化し、筋力バランスを調整することができる口腔周辺筋強化用マウスピースを提供する。
【解決手段】本発明に係るマウスピースは、咀嚼筋、表情筋および下顎骨周辺筋を含む口腔周辺筋を強化するためのマウスピースであって、略馬蹄形状の口腔前庭フェンスとバイトパッドとを有し、口腔前庭フェンスの内側にはパッド取付部が備えられ、バイトパッドは、前歯によって咬持される前歯パッドと、右臼歯によって咬持される右臼歯パッドと、左臼歯によって咬持される左臼歯パッドとを有するとともに、各々のパッドが独立してパッド取付部に着脱自在に取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウスピースに関するものであって、特に咀嚼筋、表情筋および下顎骨周辺筋を含む口腔周辺筋を選択的に強化して筋力バランスを整えるためのマウスピースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
頭部の筋は咀嚼筋と表情筋とに大別され、このうち咀嚼筋とは、咀嚼運動に直接関与し歯科領域においては特に重要な筋群であって、咬筋や側頭筋等をいう。また、表情筋とは頭部や顔面部浅層の皮下組織中に存在する口輪筋や頬筋等の薄い筋群をいう。人は加齢が進むことによりこれらの咀嚼筋や表情筋が衰え、また食事の際に左右の歯列の噛む回数に偏りがあることなどから左右の咀嚼筋および表情筋の筋力バランスに偏りが生じることがある。このような筋力バランスの偏りは、顔の表情にも影響し、左右の目の高さに高低差が生じたり、片方の頬や口角が垂れる等の問題が生じてしまう。
【0003】
また、下顎骨は左右一対の顎関節をもち、上下、左右、前後の3軸方向に一定の自由な可動性を有している。そして、下顎骨は頭蓋骨から筋肉等によりぶら下がっている構造であり、頭部の重心を調節する重錘、バランサーの役割を果たしている。そのため、下顎骨の偏り(下顎偏位)が起こると、頭位が変化し、頸椎をはじめ脊椎全体に影響が及ぶ。その結果、頸椎の歪み等が生じ、肩凝りや頭痛等の不快症状および身体的苦痛等の不定愁訴を生じる場合がある。
【0004】
従来より、口に咥えて上下の歯で繰り返し噛むことにより、咀嚼筋や表情筋を強化する器具が存在する。たとえば、特開2008−67732号公報にはU字型の咬合部を上下歯列間で噛むことにより咀嚼筋が強化され、咬合部を噛んだまま突出部を中心に口をすぼめて閉じることにより表情筋のひとつである口輪筋が強化される口腔筋トレーニング器具が開示されている(特許文献1)。
【0005】
また、特開平11−56876号公報には、人間の骨格や筋肉の不均等を矯正するために、左右の臼歯部側咬合部の肉厚が異なった上顎歯に着用する形態のマウスピースが開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−67732号公報
【特許文献2】特開平11−56876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載された発明においては、咬合部が人間の歯列に沿ったU字型に一体的に形成されているため、上下歯列間で咬合部を全体的に噛みこむことで咀嚼筋を全体的に強化することはできるが、たとえば咀嚼筋および表情筋の左右の筋力バランスが偏っているような場合に、左右いずれかの咀嚼筋および表情筋を選択的に強化して調整したり、噛み合わせを矯正することはできなかった。
【0008】
また、ユーザの噛み合わせの悪さにより咬合面が平らでないような場合には、歯列全体で咬合部を噛みこんでも、咬合平面に対して高い部位は咬合圧が高くなるのに対し、低い部位は咬合圧が弱くなり、却って咬合面の高低差に依存して咀嚼筋および表情筋が偏って強化されてしまうという問題があった。
【0009】
一方、特許文献2に記載の発明によれば、身体的な左右の不均等を矯正できると記載されているが、下顎骨の3軸方向の動きに鑑みた多方向かつ選択的な筋力の調整はできないといった問題がある。さらに、上顎に装着するマウスピースであるため、運動しながら使用する場合などには口腔内から脱落しやすいという問題があった。
【0010】
その他、特許文献1および2に記載の発明では、肩凝りや頭痛等の原因ともなる下顎偏位を矯正することはできないという問題があった。
【0011】
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであって、咬合面の高低差に影響を受けず、咀嚼筋、表情筋および下顎骨周辺筋を含む口腔周辺筋を必要に応じて部分的に選択して強化し、筋力バランスを調整することのできる口腔周辺筋強化用マウスピースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るマウスピースは、口腔周辺筋を強化するためのマウスピースであって、略馬蹄形状の口腔前庭フェンスとバイトパッドとを有し、口腔前庭フェンスの内側にはパッド取付部が備えられ、バイトパッドは、前歯によって咬持される前歯パッドと、右臼歯によって咬持される右臼歯パッドと、左臼歯によって咬持される左臼歯パッドとを有するとともに、各々のパッドが独立してパッド取付部に着脱自在に取り付けられている。
【0013】
また、本発明の一態様として、右臼歯パッドは右小臼歯パッドおよび右大臼歯パッドからなり、前記左臼歯パッドは左小臼歯パッドおよび左大臼歯パッドからなってもよい。
【0014】
また、本発明の一態様として、口腔前庭フェンスの外表面には、少なくとも口角結節を刺激する凸状に形成された刺激付与部を有することが好ましい。
【0015】
また、本発明の一態様として、バイトパッドがパッド取付部に取り付けられた状態において、前歯パッド、右臼歯パッド、および左臼歯パッドはそれぞれ空隙を介して離間していることが好ましい。
【0016】
さらに、本発明の一態様として、口腔前庭フェンスの正面には呼吸孔が形成されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、咀嚼筋、表情筋および下顎骨周辺筋を含む口腔周辺筋を必要に応じて部分的に選択して強化し、筋力バランスを調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は本発明に係る口腔周辺筋強化用マウスピースの第一実施形態において、バイトパッドを取り付けた状態を示す斜視図であり、(b)はバイトパッドを取り外した状態を示す斜視図である。
【図2】本第一実施形態を示す平面図である。
【図3】本第一実施形態を示す左側面図である。
【図4】本第一実施形態を示す正面図である。
【図5】本第一実施形態において、下顎骨の3軸方向への動きと下顎偏位を説明する斜視図である。
【図6】本第一実施形態の作用効果を説明する模式図である。
【図7】(a)は本発明に係る口腔周辺筋強化用マウスピースの第二実施形態において、バイトパッドを取り付けた状態を示す斜視図であり、(b)はバイトパッドを取り外した状態を示す斜視図である。
【図8】本第三実施形態においてバイトパッドの着脱構造を示す説明図である。
【図9】本第三実施形態におけるバイトパッドの変形例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る口腔周辺筋強化用マウスピースの第一実施形態について図面を用いて説明する。図1(a)および図1(b)は本第一実施形態の口腔周辺筋強化用マウスピースの構成を示す斜視図である。
【0020】
図1(a)および図1(b)に示すように、口腔周辺筋強化用マウスピース1Aは、主として、口腔前庭フェンス2と、バイトパッド3,4,5と、パッド取付部であるプレート状のパッド取付プレート6,7,8とにより構成される。
【0021】
以下、本第一実施形態の口腔周辺筋強化用マウスピース1Aの各構成について詳細に説明する。
【0022】
口腔前庭フェンス2は、口腔前庭に収まる略馬蹄形状に形成されたマウスピース本体に相当するものである。ここで口腔前庭とは、歯列より前方であって、歯列と歯槽粘膜、口唇粘膜および頬粘膜に挟まれた部分をいう。本第一実施形態における口腔周辺筋強化用マウスピース1Aは、当該口腔前庭フェンス2を有することにより、口腔内で咬合部の位置をズレにくくしてマウスピース1Aを安定的に収容し、また口を開けた際に口腔内から脱落するのを防ぐ。さらに、口呼吸は喉の粘膜の炎症を引き起こしたり、雑菌の取り込みによる免疫力の低下等のデメリットがあるため、当該口腔前庭フェンス2が口腔前庭に収まることにより、口呼吸から鼻呼吸へと誘導する効果も有する。
【0023】
また、当該口腔前庭フェンス2の辺縁は厚み方向に緩やかに膨拡されたコルベン状に形成されていることが好ましい。これにより、マウスピース1Aの口腔内でのフィット感が増し、ズレや不快さを軽減する効果を有する。
【0024】
次に、本第一実施形態における口腔周辺筋強化用マウスピース1Aは、バイトパッド3,4,5がそれぞれ前歯パッド3と、右臼歯パッド4と、左臼歯パッド5とから構成される。
【0025】
そして、パッド取付プレート6,7,8は本第一実施形態においてはプレート状に形成されており、バイトパッド3,4,5の取付部であると共に、バイトパッド3,4,5を外した状態でのマウスピースの使用時に上下の歯が直接当たることを防ぐ役割も担う。当該パッド取付プレート6,7,8は、前歯パッド3が取り付けられる前歯パッド取付プレート6と、右臼歯パッド4が取り付けられる右臼歯パッド取付プレート7と、左臼歯パッド5が取り付けられる左臼歯パッド取付プレート8から構成され、各バイトパッド3,4,5はそれぞれパッド取付プレート6,7,8に対して着脱自在に取り付けられるようになっている。
【0026】
そして、上下歯列間で左臼歯パッド5を咬持した際に左臼歯パッド5が左臼歯パッド取付プレート8から外れにくくするため、左臼歯パッド取付プレート8には、左臼歯パッド5の内部に形成された凸部12a,12bと嵌合するように、両端に凹部13a,13bが形成されている。同様にして、前歯パッド取付プレート6および右臼歯パッド取付プレート7の両端には、前歯パッド3および右臼歯パッド4内部の凸部12a,12bと嵌合するように、それぞれ凹部13a,13bが形成されている。
【0027】
また、前歯パッド取付プレート6と右臼歯パッド取付プレート7との間、前歯パッド取付プレート6と左臼歯パッド取付プレート8との間には隙間が形成されており、バイトパッド3,4,5をパッド取付プレート6,7,8に取り付けた際に、前歯パッド3と右臼歯パッド4との間、前歯パッド3と左臼歯パッド5との間は、4〜10mm程度の隙間があることが好ましい。これは、隣り合うパッド間に隙間を形成することにより、口腔前庭フェンス2を撓ませ易く、口腔周辺筋強化用マウスピース1Aを口腔内に装着する際に、フィット性が向上し、さらに使用する人の口のサイズに合わせて柔軟に撓ませられるため自由度が高い。なお、前記隙間の大きさは4〜10mmに限定されるものではない。
【0028】
また、本第一実施形態における口腔周辺筋強化用マウスピース1Aは、口腔前庭フェンス2に口呼吸をするための孔として少なくとも中央呼吸孔9が形成されていることが好ましく、さらに上下呼吸孔10a,10b、左右呼吸孔11a、11bが形成されていることがより好ましい。中央呼吸孔9は人の前歯部の上下歯列間であって前歯列の長手方向中央部に対応する、口腔前庭フェンス2の中心部分に設けられている。さらに中央呼吸孔9は前歯パッド3および前歯パッド取付プレート6を貫通するように形成されている。
【0029】
さらに、上呼吸孔10aおよび下呼吸孔10bが中央呼吸孔9の上下の位置にそれぞれ設けられており、右呼吸孔11aは前歯パッド取付プレート6と右臼歯パッド取付プレート7との間、また左呼吸孔11bは前歯パッド取付プレート6と左臼歯パッド取付プレート8との間の位置に設けられている。
【0030】
以上のように、口腔周辺筋強化用マウスピース1Aに複数の呼吸孔を設けることにより、鼻呼吸のみでは呼吸が苦しくなった場合にマウスピースを口腔内から取り出すことなく口呼吸をすることができる。さらに、たとえばエアロビクスなどの有酸素運動をしながら口腔周辺筋強化用マウスピース1Aを使用することができるため、身体のシェイプアップと口腔周辺筋の筋力トレーニング並びに筋力バランスの調整を効果的に行うことが可能となる。
【0031】
次に、図2は、本第一実施形態における口腔周辺筋強化用マウスピース1Aの平面図である。
【0032】
図2に示すように、本第一実施形態における口腔周辺筋強化用マウスピース1Aは、右臼歯パッド4の幅および左臼歯パッド5の幅が奥歯方向の端部に向かうほど細くなっており、舌運動の妨げにならないよう右臼歯パッド4および左臼歯パッド5が舌根に触れない、あるいは触れにくい構造となっている。
【0033】
また、前歯パッド3および右臼歯パッド4および左臼歯パッド5は、全体的に角がない丸みを帯びた形状に形成されており、口腔周辺筋強化用マウスピース1Aを口腔内に装着した際、口腔内に違和感を生じないで使用することができる。また、丸みを帯びた形状により口腔前庭フェンス2の撓みに追従しやすい。さらに、各バイトパッド3,4,5はクッション性を有する弾性材料で構成されており、その素材としてはたとえば水添型スチレンイソプレン樹脂およびシリコン樹脂を含むエラストマー樹脂等の弾性樹脂が挙げられるが、本発明の作用効果が得られるのであればこれに限定されるものではない。
【0034】
その他、口腔前庭フェンス2およびパッド取付プレート6,7,8の素材としては、たとえばポリオレフィン樹脂やポリエステル樹脂等の適度な柔軟性を有する樹脂等が挙げられるが、本発明の作用効果が得られるのであればこれに限定されるものではない。
【0035】
さらに、口腔前庭フェンス2の外側には、口角結節付近を刺激するために凸状に形成された刺激付与部20a,20bが左右2箇所に形成されている。当該刺激付与部20a,20bの詳細については後述する。
【0036】
次に、図3は、本第一実施形態における口腔周辺筋強化用マウスピース1Aの左側面図である。
【0037】
通常、咬合直前の前歯部の上下歯列間の空間は臼歯部の上下歯列間の空間よりも大きいため、前歯中央部から奥歯にかけてパッド取付プレート6,7,8の厚みが一定である場合、咬合時に臼歯部の咬合圧が前歯部に比べて大きくなり、口腔周辺筋強化用マウスピース1Aを使用したときに顎骨や顎関節に歪みの生じる可能性がある。このような顎骨や顎関節の歪みを防ぐため、本第一実施形態では、図3に示すように、前歯パッド取付プレート6の中央部から右臼歯パッド取付プレート7の奥歯方向の端部にかけて、パッド取付プレート6,7の厚みが薄くなるよう形成されている。左臼歯パッド取付プレート8においても同様に、奥歯方向の端部にかけて薄くなるよう形成されている。
【0038】
次に、図4は、本第一実施形態における口腔周辺筋強化用マウスピース1Aの正面図である。
【0039】
図4に示すように、口腔前庭フェンス2は長手方向中央部の上下に、上部凹部30aと下部凹部30bが形成されている。これらにより、上唇小帯および下唇小帯を避けて口腔内に口腔周辺筋強化用マウスピース1Aを装着することができる。
【0040】
また、刺激付与部20a,20bは、左右の口角結節を中心として略同心円状かつ凸状に形成されている。口角結節とは、口角より外方4.5mm〜4.7mm付近にある、頬筋、笑筋、口角下制筋などが口角部に集まった部位をいい、口角結節を中心に放射状に表情筋が発達している。このように、口角結節は表情筋の正常な活動の交点となっているため、口角結節を中心として略同心円状の凸状刺激付与部20a,20bを設けることで、口腔周辺筋強化用マウスピース1Aを使用した口腔周辺筋の強化トレーニングの際に、付随して表情筋の効果的なマッサージが可能となる。
【0041】
また、中央呼吸孔9および上下呼吸孔10a,10bは、呼吸孔としてだけでなく、鏡を見ながらそれらの孔から上顎前歯の正中と下顎前歯の正中とが一致するように咬合を調整し得る機能を兼ね備えており、このように調整して口腔周辺筋強化用マウスピース1Aを使用することで、噛み合わせの歪みやバランスのチェック、および矯正を行うことができる。また、同様にして下顎偏位の矯正も行うことができる。
【0042】
また、左右呼吸孔11a,11bは、刺激付与部20a,20bの中心に位置しており、口腔前庭フェンス2の内側からみると、右呼吸孔11aが前歯パッド3と右臼歯パッド4との間、左呼吸孔11bが前歯パッド3と左臼歯パッド5との間の位置に対応して形成されている。このため空気の通りがよく、呼吸がし易い。
【0043】
ここで、下顎骨が正しい位置から偏ってしまう、いわゆる下顎偏位には、図5に示すように、前後方向に延在する軸40a周りに回転するローリング40dのズレと、左右方向に延在する軸40b周りに回転するピッチング40eのズレと、上下方向に延在する軸40c周りに回転するヨーイング40fのズレがある。
【0044】
本第一実施形態における口腔周辺筋強化用マウスピース1Aは以上のような構成からなるが、当該マウスピース1Aの使用方法には次の3種類の使用方法がある。第一の使用方法は、図6に示すように、1個ないし2個のバイトパッドのみをパッド取付プレートに取り付け、バイトパッドのないスペース(空隙)を噛みこむことで口腔周辺筋の筋力バランスを調整する使用方法である。第二の使用方法は、バイトパッド3,4,5を全てパッド取付プレート6,7,8に取り付けた状態でバイトパッド3,4,5全体を噛むことで口腔周辺筋全体を強化する使用方法である。第三の使用方法は、バイトパッド3,4,5のうちの1個ないし2個のバイトパッドのみをパッド取付プレートに取り付けてバイトパッド自体を噛むことで口腔周辺筋の筋力バランスを調整する方法である。本第一実施形態における口腔周辺筋強化用マウスピース1Aの使用方法には以上のような3種類の使用方法があるが、その中でも第一の使用方法によれば、ローリング、ピッチング、ヨーイングの動きも与えることができるため、第二および第三の使用方法に比べて口腔周辺筋の筋力バランスを調整する効果が高く、また、運動活性量が増大するため効果的に口腔周辺筋の強化が可能となり、さらに下顎偏位をも矯正することが可能である。
【0045】
そこで、本第一実施形態における口腔周辺筋強化用マウスピース1Aを上記第一の使用方法で使用した場合の作用効果について図6を参照しつつ説明する。
【0046】
図6は、左臼歯パッド5のみを左臼歯パッド取付プレート8に取り付け、前歯パッド3および右臼歯パッド4は取り外した状態で口腔周辺筋強化用マウスピース1Aを使用した場合の作用効果について説明した模式図である。ここで、図6では、口腔周辺筋強化用マウスピース1Aの作用効果を説明する都合上、左臼歯パッド5および左臼歯パッド取付プレート8以外の部分は省略して図示している。
【0047】
図6に示すように、左臼歯パッド5のみを取り付けた口腔周辺筋強化用マウスピース1Aを口腔内に装着し、閉口すると、前歯部の上下歯列間および右臼歯部の上下歯列間にスペース(空隙)が生まれる。左臼歯部の上下歯列で左臼歯パッド5を咬持し、前歯部および右臼歯部のスペースに向かって、前歯および右臼歯を噛みこむことで、左臼歯パッド5を支点として、下顎前歯部および下顎右臼歯部を上部に引き上げる力が生じる。そして、これらの動作により、下顎前歯部および下顎右臼歯部を引き上げる機能に関連した口腔周辺筋を選択的に強化することができる。そのため、偏った咀嚼運動などにより口腔周辺筋の左右の筋力に偏りが生じている場合には、このように左右いずれかの臼歯パッドのみを取り付けて使用する方法が適している。
【0048】
また、たとえば前歯パッド3のみを前歯パッド取付プレート6に取り付け、左右の臼歯パッド4,5を取り外した状態で口腔周辺筋強化用マウスピース1Aを使用した場合には、前歯パッド3を咬持して左右臼歯部の上下歯列間に空いたスペースを噛みこむことで、前歯パッド3を支点として、左右の下顎臼歯部を上部に引き上げる力が生じ、当該左右の下顎臼歯部を引き上げる機能に関連した咀嚼筋および表情筋を強化することができる。これにより、パソコンの長時間使用などによって頭位が前のめりになり、下顎が前方に偏位して身体バランスを崩した場合などに、下顎の位置を後方の正しい位置に矯正する効果が期待され、さらに左右の咀嚼筋および表情筋を引き締めるため、いわゆる小顔効果が期待できる。
【0049】
また、たとえば左右の臼歯パッド4,5のみをそれぞれパッド取付プレート7,8に取り付け、前歯パッド3を取り外した状態で口腔周辺筋強化用マウスピース1Aを使用した場合には、左右の臼歯パッド4,5を咬持して前歯部の上下歯列間に空いたスペースを噛みこむことで、左右の臼歯パッド4,5を支点として、下顎前歯部を引き上げる力が生じ、当該下顎前歯部を引き上げる機能に関連した口腔周辺筋を強化することができる。これにより、下顎が後方に偏位しているような場合に、下顎を前方の正しい位置に矯正する効果が期待される。
【0050】
以上のように、本第一実施形態における口腔周辺筋強化用マウスピース1Aによれば、必要に応じてバイトパッド3,4,5を選択的に取り付け、前記バイトパッド3,4,5を支点として空いたスペースを噛みこむ方法で筋力強化を行うため、咬合面の高低差に依存せずに、口腔周辺筋を選択的に強化することができる。
【0051】
次に、本発明に係る口腔周辺筋強化用マウスピースの第二の実施形態について説明する。なお、本第二実施形態に係る口腔周辺筋強化用マウスピース1Bの構成のうち、前述した第一実施形態と同一もしくは相当する構成は同一の符号を付し、再度の説明を省略する。
【0052】
図7(a)および図7(b)は、第二の実施形態における口腔周辺筋強化用マウスピース1Bの斜視図を示す。
【0053】
図7(a)に示すように、本第二実施形態では、本第一実施形態における右臼歯パッド4が右小臼歯パッド4aと右大臼歯パッド4bからなり、本第一実施形態における左臼歯パッド5は左小臼歯パッド5aと左大臼歯パッド5bからなる。
【0054】
また、図7(b)に示すように、本第二実施形態では、本第一実施形態における右臼歯パッド取付プレート7が右小臼歯パッド取付プレート7aと右大臼歯パッド取付プレート7bからなり、左臼歯パッド取付プレート8は左小臼歯パッド取付プレート8aと左大臼歯パッド取付プレート8bからなる。
【0055】
以上のように、本第二実施形態における口腔周辺筋強化用マウスピース1Bによれば、本第一実施形態に比べ、バイトパッド3,4,5およびパッド取付プレート6,7,8をさらに細かく分割することにより、取り付けるバイトパッド3,4a,4b,5a,5bをより細かく選択することができるようになる。これにより、口腔周辺筋の強化したい箇所をより細かく選択して、バイトパッド3,4a,4b,5a,5bを取り付け、それによって生じたスペースを噛みこむようにして部分的に筋力を強化したり、下顎偏位をより細かく矯正することが可能となる。
【0056】
次に、本発明に係る口腔周辺筋強化用マウスピースの第三の実施形態について説明する。なお、本第三実施形態に係る口腔周辺筋強化用マウスピース1Cの構成のうち、前述した第一実施形態および第二実施形態と同一もしくは相当する構成は同一の符号を付し、再度の説明を省略する。
【0057】
図8は第三の実施形態における口腔周辺筋強化用マウスピース1Cのバイトパッド50Aを着脱する構成を示す説明図である。
【0058】
本第三実施形態では、本第一実施形態および本第二実施形態におけるバイトパッドとは、次のように構造が異なる。本第三実施形態における左小臼歯用バイトパッド50Aは、上下一対のパッド部51a,51bと、一対の支持プレート52a,52bと、支柱53a,53bとから構成される。本第三実施形態では、略直方体形状の平らなパッド部51a,51bは同形状の一回り小さい支持プレート52a,52bにそれぞれ接合されている。そして、支持プレート52a,52bが向かい合った状態で、支持プレート52a,52b間に略円柱状の2本の支柱53a,53bが左小臼歯用バイトパッド50Aの支柱として備えられている。
【0059】
また、本第三実施形態における左小臼歯パッド取付プレート60には、口腔前庭フェンス2に対して反対向きに略Jの字状に湾曲させた案内溝61a,61bが形成されている。
【0060】
そして、左小臼歯用バイトパッド50Aの支柱53a,53bを案内溝61a,61bにパッド部51a,51bの弾力を利用して押しこみ、口腔前庭フェンス2に対して反対方向に湾曲させた案内溝61a,61bの返し部分に誘導して嵌めこむことで、左小臼歯用バイトパッド50Aが小臼歯パッド取付プレート60に固定される。
【0061】
ここで、案内溝61a,61bの幅は左小臼歯用バイトパッド50Aの支柱53a、53bの幅に比べて小さく形成されており、これにより口腔周辺筋強化用マウスピース1Cの使用時に左小臼歯用バイトパッド50Aを咬持した際、左小臼歯用パッド取付プレート60からバイトパッド50Aを外れにくくすることができる。また、左小臼歯パッド取付プレート60は本第一実施形態および本第二実施形態におけるパッド取付プレートと同様、奥歯方向に向かって厚みが薄くなる形状であるため、案内溝61a,61bは、図8のようにパッド取付プレート60の厚みのある方向に向けて返し部分を形成することにより、より外れにくくすることができる。
【0062】
以上のように、図8では左小臼歯パッドおよび左小臼歯パッド取付プレートを例にとって説明したが、これらの構成は全てのバイトパッドおよびパッド取付プレートに共通する。
【0063】
なお、バイトパッド50Aのパッド部51a,51bは本第一実施形態および本第二実施形態におけるバイトパッドと同じ素材であり、支持プレート52a,52bおよび支柱53a,53bの素材は口腔前庭フェンスおよびパッド取付プレートと同じ素材であることが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0064】
また、図8で示すバイトパッド50Aは平らな形状に形成されているが、これに限るものではなく、他の変形例を図9に示す。図9は、本第三実施形態におけるバイトパッド50Bの斜視図、正面図、並びに右側面図である。
【0065】
図9に示すように、左小臼歯用バイトパッド50Bは、パッド部70a,70bの形状が平らではなく、傾斜を有する形状に形成されている。このように、左小臼歯用バイトパッド50Bが上下のパッド部70a,70bのいずれかまたは両方に傾斜を設けることで、スペースの噛みこみ方向やバイトパッド50Bの咬持方向を誘導することができ、主としてヨーイング方向およびローリング方向の矯正を助けることができる。
【0066】
図9では、左小臼歯用バイトパッド50Bが図5の軸40bに示す左右方向に傾斜を設けたが、たとえば図5の軸40aに示す前後方向に傾斜を設けた場合には、主としてピッチング方向の矯正を助けることができる。
【0067】
なお、図9では左小臼歯用バイトパッド50Bを例にとって説明したが、その他のバイトパッドにおいても傾斜を有する形状とすることができる。
【0068】
このように、本第三実施形態によれば、本第一実施形態および本第二実施形態と比較して、バイトパッドがパッド取付プレートから外れにくい構造とすることができる。また、バイトパッド自体に左右方向または前後方向の傾斜を設けることで、本第一実施形態および本第二実施形態に比較して、より細かく下顎偏位の矯正を行うことが可能となる。
【0069】
以上のように、各実施形態によれば、本発明は、咬合面の高低差に影響を受けず、咀嚼筋、表情筋および下顎骨周辺筋等の口腔周辺筋を必要に応じて部分的に選択して強化し、筋力バランスを調整することが可能となる。その結果、咀嚼筋や表情筋の筋力を単純に強化するだけなく、下顎骨周辺筋を含む口腔周辺筋を選択的に強化することができるため、下顎偏位に対しても、マウスピースに取り付けるバイトパッドを適切に選択することにより、ヨーイング方向、ローリング方向並びにピッチング方向といった下顎の矯正方向を細かく選択できる。その結果、肩凝りや頭痛等の不快症状および身体的苦痛の軽減といった全身の健康向上が期待できる。また、下顎骨が正常な位置に矯正されることで、血液やリンパの流れも改善し、老廃物のデトックス効果といった美容面での効果も期待できる。さらには、噛む動作により、だ液の量が増えて口腔内の自浄作用を促進する効果があり、満腹中枢が刺激されてダイエット効果も期待できる。そして、脳の知育にも良い効果があり、また脳の活性化によるアンチエイジング効果も期待できる。また、重心や筋肉、骨格バランスなどの改善により、姿勢や身体、運動能力向上の効果も期待できる。
【0070】
なお、本発明に係る口腔周辺筋強化用マウスピースは、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜変更することができる。
【0071】
たとえば、バイトパッドの硬さは、全てのパッドが同じ硬さである必要はなく、右臼歯パッドと左臼歯パッドの硬さを変えるなど、硬さを適宜変更して使用することができる。
【0072】
さらに、バイトパッドの厚みについても、たとえば右臼歯パッドと左臼歯パッドの厚みを変えるなど、厚みを適宜変更して使用することができる。
【0073】
そして、バイトパッドの傾斜についても、バイトパッドごとに傾斜の角度、方向等適宜変更して使用することができ、ユーザに合わせてオーダーメイドすることもできる。
【0074】
その他、上下呼吸孔10a,10bに輪状に紐を通して取っ手とすれば、紐を口腔外に出した状態で口腔周辺筋強化用マウスピース1A,1B,1Cを口腔内に装着して、閉口した後、紐を前方や左右に引っ張ることができる。これにより、バイトパッド3,4,5のない部分のスペースを噛みこんで筋力を強化するだけでなく、噛みこむだけでは強化しにくい口輪筋も併せて効率的に強化することができる。
【符号の説明】
【0075】
1A,1B,1C 口腔周辺筋強化用マウスピース
2 口腔前庭フェンス
3 前歯パッド
4 右臼歯パッド
4a 右小臼歯パッド
4b 右大臼歯パッド
5 左臼歯パッド
5a 左小臼歯パッド
5b 左大臼歯パッド
6 前歯パッド取付プレート
7 右臼歯パッド取付プレート
7a 右小臼歯パッド取付プレート
7b 右大臼歯パッド取付プレート
8 左臼歯パッド取付プレート
8a 左小臼歯パッド取付プレート
8b 左大臼歯パッド取付プレート
9 中央呼吸孔
10a 上部呼吸孔
10b 下部呼吸孔
11a 右呼吸孔
11b 左呼吸孔
12a,12b バイトパッド内部の固定用凸部
13a,13b バイトパッド取付プレートの固定用凹部
20a 右刺激付与部
20b 左刺激付与部
30a 上部凹部
30b 下部凹部
40a 前後方向軸
40b 左右方向軸
40c 上下方向軸
40d ローリング
40e ピッチング
40f ヨーイング
50A,50B 左小臼歯用バイトパッド
51a,51b パッド部
52a,52b 支持プレート
53a,53b 支柱
60 左小臼歯パッド取付プレート
61a,61b 案内溝
70a,70b 左小臼歯用バイトパッドのパッド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
咀嚼筋、表情筋および下顎骨周辺筋を含む口腔周辺筋を強化するためのマウスピースであって、
前記マウスピースは、略馬蹄形状の口腔前庭フェンスとバイトパッドとを有し、
前記口腔前庭フェンスの内側にはパッド取付部が備えられ、
前記バイトパッドは、前歯によって咬持される前歯パッドと、右臼歯によって咬持される右臼歯パッドと、左臼歯によって咬持される左臼歯パッドとを有するとともに、各々のパッドが独立して前記パッド取付部に着脱自在に取り付けられている口腔周辺筋強化用マウスピース。
【請求項2】
前記右臼歯パッドは右小臼歯パッドおよび右大臼歯パッドからなり、前記左臼歯パッドは左小臼歯パッドおよび左大臼歯パッドからなる請求項1に記載の口腔周辺筋強化用マウスピース。
【請求項3】
前記口腔前庭フェンスの外表面には、少なくとも口角結節を刺激する凸状に形成された刺激付与部を有する請求項1または請求項2に記載の口腔周辺筋強化用マウスピース。
【請求項4】
前記バイトパッドが前記パッド取付部に取り付けられた状態において、前記前歯パッド、前記右臼歯パッド、および前記左臼歯パッドはそれぞれ空隙を介して離間している請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の口腔周辺筋強化用マウスピース。
【請求項5】
前記口腔前庭フェンスの正面には呼吸孔が形成されている請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の口腔周辺筋強化用マウスピース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−45143(P2012−45143A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−189258(P2010−189258)
【出願日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【出願人】(509166009)
【Fターム(参考)】