可撓性内視鏡の挿入部
【課題】マルチルーメンチューブの成型後に特段の後加工等をすることなく、トルク伝達性の優れた可撓管部と屈曲自在性の優れた湾曲部とを一本のマルチルーメンチューブで形成することができる可撓性内視鏡の挿入部を提供すること。
【解決手段】一本のマルチルーメンチューブ10の先端近傍部分が基端側からの遠隔操作により屈曲する湾曲部1Bとして形成された可撓性内視鏡の挿入部において、内蔵物22,23,24が挿通配置されている貫通孔15の内部空間が、湾曲部1B内に位置する部分においては湾曲部1B外に位置する部分より大きな径に形成されている。
【解決手段】一本のマルチルーメンチューブ10の先端近傍部分が基端側からの遠隔操作により屈曲する湾曲部1Bとして形成された可撓性内視鏡の挿入部において、内蔵物22,23,24が挿通配置されている貫通孔15の内部空間が、湾曲部1B内に位置する部分においては湾曲部1B外に位置する部分より大きな径に形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、いわゆるマルチルーメンチューブを用いた可撓性内視鏡の挿入部に関する。
【背景技術】
【0002】
可撓性内視鏡の挿入部は一般に、外力によって自由に屈曲する可撓管部の先端に、手元側から操作ワイヤを進退操作することよって任意の角度屈曲させることができる湾曲部が連結された構成になっている。
【0003】
そのような可撓性内視鏡の挿入部内には、ライトガイド繊維束その他各種の内蔵物が挿通配置されるが、内蔵物が互いに干渉する状態に挿通配置されているので、屈曲操作等が繰り返されると内蔵物が早期に破損する場合がある。
【0004】
そこで、軸線と平行方向に複数の貫通孔が形成された柔軟な材料からなる一本のマルチルーメンチューブを内視鏡の挿入部として用い、そのマルチルーメンチューブの先端近傍部分を、基端側から操作ワイヤを牽引操作することにより屈曲する湾曲部にしたものがある(例えば、特許文献1)。
【0005】
そして、そのようなマルチルーメンチューブにより可撓管部と一体に形成された湾曲部が屈曲し易いようにするために、湾曲部領域においてはマルチルーメンチューブに側方のあい異なる方向から複数の切り込みを代わるがわる形成している(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特許第2602212号
【特許文献2】特許第3554371号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
可撓性内視鏡の挿入部にとって必要な特性として、可撓管部においては、手元側で軸線周りに捩じる操作をした時にその運動が先端側まで吸収されずに伝達されるトルク伝達性が非常に重要な特性であり、湾曲部においては、操作ワイヤを手元側から進退操作することによって抵抗なく円滑に屈曲する屈曲自在性が重要な特性である。
【0007】
しかし、特許文献1に記載された発明のように、可撓管部と湾曲部とが単純に一本のマルチルーメンチューブで形成されている場合には、トルク伝達性を重視すると屈曲自在性が乏しくなり、逆に屈曲自在性を重視するとトルク伝達性が乏しくなってしまう。
【0008】
そこで、特許文献2に記載された発明のように湾曲部に切り込みを形成すれば屈曲自在性を向上させることができるものの、押し出し成型等でマルチルーメンチューブを形成する際に切り込みを形成することはできないので、機械加工等による後加工で切り込みを形成する必要があり大幅なコストアップになってしまう。
【0009】
そこで本発明は、マルチルーメンチューブの成型後に特段の後加工等をすることなく、トルク伝達性の優れた可撓管部と屈曲自在性の優れた湾曲部とを一本のマルチルーメンチューブで形成することができる可撓性内視鏡の挿入部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の可撓性内視鏡の挿入部は、軸線と平行方向に複数の貫通孔が形成された柔軟な材料からなる一本のマルチルーメンチューブの少なくとも一つの貫通孔内の全長にわたって、可撓性を有する内蔵物が挿通配置され、一本のマルチルーメンチューブの先端近傍部分が基端側からの遠隔操作により屈曲する湾曲部として形成された可撓性内視鏡の挿入部において、内蔵物が挿通配置されている貫通孔の内部空間が、湾曲部内に位置する部分においては湾曲部外に位置する部分より大きな径に形成されているものである。
【0011】
なお、マルチルーメンチューブが、湾曲部の領域においては湾曲部以外の領域より柔軟な材料で形成されているとよく、貫通孔内に挿通配置されている内蔵物が、湾曲部を遠隔操作により屈曲させるために基端側から進退操作される湾曲操作ワイヤであってもよい。
【0012】
その場合、湾曲部外の領域においては貫通孔内にガイドコイルが内蔵物の一つとして固定的に挿通配置されていて、そのガイドコイル内に湾曲操作ワイヤが軸線方向に進退自在に挿通されていてもよい。
【0013】
そして、湾曲部の領域においては貫通孔内にガイドコイルの内径より大きな内径を有する可撓性パイプが内蔵物の一つとして固定的に挿通配置されていて、その可撓性パイプ内に湾曲操作ワイヤが軸線方向に進退自在に挿通されていてもよく、可撓性パイプの内径がガイドコイルの外径より大きければ動作がさらによい。可撓性パイプが軟性のプラスチックチューブ又は超弾性合金パイプにより形成されていてもよい。
【0014】
また、湾曲部の領域においては貫通孔内に湾曲操作ワイヤが軸線方向に進退自在に直接挿通配置されていてもよく、その場合、貫通孔の内径が湾曲部の領域ではガイドコイルの内径より大きく形成されているとよく、貫通孔の内径が湾曲部の領域ではガイドコイルの外径より大きく形成されていれば動作がさらによい。
【0015】
そして、湾曲部の領域では、貫通孔が、マルチルーメンチューブを成形する際に貫通孔の位置に配置された筒状体をマルチルーメンチューブ形成後に抜去して形成されたものであってもよい。
【0016】
なお、対物光学系等を内蔵する先端部本体がマルチルーメンチューブの先端に連結されていてもよく、その場合、湾曲操作ワイヤの先端が、先端部本体又は先端部本体とマルチルーメンチューブとを連結する部材に係止されていてもよく、先端部本体又は先端部本体とマルチルーメンチューブとを連結する部材に形成された通孔内に湾曲操作ワイヤの先端部分が挿通されて、通孔を通過できない大きさのストッパ部材が湾曲操作ワイヤの最先端部分に固着されていてもよい。
【0017】
また、内蔵物が、マルチルーメンチューブを成形する際に貫通孔の位置に配置されて、マルチルーメンチューブの形成と同時に貫通孔内に配置されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、マルチルーメンチューブの成型後に特段の後加工等をすることなく、トルク伝達性の優れた可撓管部と屈曲自在性の優れた湾曲部とを一本のマルチルーメンチューブで形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
軸線と平行方向に複数の貫通孔が形成された柔軟な材料からなる一本のマルチルーメンチューブの少なくとも一つの貫通孔内の全長にわたって、可撓性を有する内蔵物が挿通配置され、一本のマルチルーメンチューブの先端近傍部分が基端側からの遠隔操作により屈曲する湾曲部として形成された可撓性内視鏡の挿入部において、内蔵物が挿通配置されている貫通孔の内部空間が、湾曲部内に位置する部分においては湾曲部外に位置する部分より大きな径に形成されている。
【実施例】
【0020】
図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図2は内視鏡の全体構成を示しており、体腔内等に挿入される内視鏡挿入部1の先端には対物光学系等を内蔵する先端部本体2が接続金具2Aを介して連結され、内視鏡挿入部1の基端には操作部3が連結されている。
【0021】
内視鏡挿入部1の先端近傍部分1Bは他の部分(可撓管部1A)より柔軟な材料で形成されて、操作部3に配置された湾曲操作ノブ4を回転操作することにより遠隔的に任意の方向に任意の角度だけ屈曲させることができる湾曲部になっている(以下、「湾曲部1B」という)。5は、処置具類を差し込むための処置具挿入口である。
【0022】
内視鏡挿入部1は、例えば直径が5〜15mm程度で長さが0.5〜2m程度の細長くて柔軟なものであり、図3に可撓管部1Aの縦断面図が拡大図示され、図4には図2におけるIV−IV断面が拡大図示されている。
【0023】
内視鏡挿入部1は全長にわたって、例えば柔軟で弾力性のあるシリコン樹脂等を材料として押し出し成型で形成されたマルチルーメンチューブ10により構成されており、そのマルチルーメンチューブ10には、軸線と平行方向に複数の貫通孔(ルーメン)11〜15が全長にわたって形成されている。
【0024】
そのような複数の貫通孔11〜15のうち、11は処置具類を挿脱するための処置具挿通チャンネル、12は送気送水チャンネル、13は被写体を洗浄する洗浄水を通すための洗浄チャンネルであり、これらは、マルチルーメンチューブ10を製造する際に各々の位置に配置された芯金を抜去することにより形成される。ただし、後述するようにその部分にパイプ部材25を配置してもよい。
【0025】
14は、可撓性のある信号ケーブル18が全長にわたって挿通配置された信号ケーブル配置孔である。信号ケーブル18は、複数の信号線を束ねた信号線束20が可撓性チューブ19内に軸線方向に進退自在に挿通配置された構成になっていて、可撓性チューブ19は信号ケーブル配置孔14に固定された状態になっていて、その可撓性チューブ19の内側で信号線束20が軸線方向に進退自在になっている。
【0026】
15は、湾曲部1Bを屈曲操作するための可撓性のある湾曲操作ワイヤ23が全長にわたって挿通配置された湾曲操作ワイヤ配置孔であり、例えばマルチルーメンチューブ10の周辺位置に等間隔(マルチルーメンチューブ10の中心軸線周りに90°間隔)で4ヵ所に、内視鏡観察視野の上下左右方向と合致する位置に配置されている。
【0027】
湾曲操作ワイヤ23は例えばステンレス鋼撚り線により形成されていて、可撓管部1A内においては、例えばステンレス鋼線材により形成された可撓性のある密着巻きコイル22内に軸線方向に進退自在に挿通配置されている。密着巻きコイル22は湾曲操作ワイヤ配置孔15に固定された状態になっていて、その密着巻きコイル22の内側で湾曲操作ワイヤ23が軸線方向に進退自在になっている。
【0028】
また、湾曲部1B内においては、図5の縦断面図に図示されるように、可撓管部1Aの密着巻きコイル22に代えて可撓性パイプ24が湾曲操作ワイヤ配置孔15に固定された状態になっていて、その可撓性パイプ24の内側で湾曲操作ワイヤ23が軸線方向に進退自在になっている。
【0029】
可撓性パイプ24は、例えば軟性のプラスチックチューブ又は超弾性合金パイプ等により形成されており、その内径寸法が密着巻きコイル22の外径寸法より大きく形成されている。ただし、可撓性パイプ24の内径寸法が密着巻きコイル22の内径寸法より大きければよい。
【0030】
上述のような構成の内視鏡挿入部1において、湾曲操作ワイヤ23が挿通されている密着巻きコイル22及び可撓性パイプ24と、信号線束20が挿通されている可撓性チューブ19とは、いずれもマルチルーメンチューブ10が押し出し成型される際に湾曲操作ワイヤ配置孔15と信号ケーブル配置孔14の位置に配置されて、マルチルーメンチューブ10の両端から突出する部分を除いて各孔15,14の全長に埋め込まれて固定された状態になっている。
【0031】
そして、湾曲操作ワイヤ23と信号線束20は、マルチルーメンチューブ10の押し出し成型時に予め密着巻きコイル22及び可撓性パイプ24内と可撓性チューブ19内とに全長にわたって挿通配置されていて、マルチルーメンチューブ10の押し出し成型後も密着巻きコイル22内及び可撓性パイプ24内と可撓性チューブ19内において各々軸線方向に進退自在である。
【0032】
なお、図6に示されるように、処置具挿通チャンネル11、送気送水チャンネル12、洗浄チャンネル13等においても、マルチルーメンチューブ10の押し出し成型時に可撓性のあるプラスチックチューブ材又は超弾性合金コイル材等のような可撓性のパイプ部材25を配置して、押し出し成型後にそのパイプ部材25をそのまま残しても差し支えない。
【0033】
図7は、上述のようなマルチルーメンチューブ10を製造するための押し出し成型装置50を示しており、柔軟性が相違する硬材料と軟材料の二種類の原材料を供給するための硬材料ホッパ51と軟材料ホッパ52とが、材料供給管53で一つにまとめられて押し出し成型装置50に通じており、押し出し成型装置50にどちらの材料を供給するか、或いはどのような比率で混合するかを切り換えバルブ54で任意に制御して、マルチルーメンチューブ10の硬さを部分によって調整することができる。
【0034】
押し出し成型装置50内で加熱溶融された樹脂は、ノズルの押出口55から矢印Aで示されるように押し出された後、冷却器60で冷却されることでマルチルーメンチューブ10として細長く形成されるが、押出口55の径が相違するものを選択して用いることができ、それによってマルチルーメンチューブ10の外径を制御することができる。
【0035】
56は、マルチルーメンチューブ10に貫通孔11〜15を形成するために押出口55に対して位置関係を定めて押出口55の背面側の位置に着脱自在に取り付けられた位置決め板であり、位置決め板56を取り替えることにより、マルチルーメンチューブ10に形成される貫通孔11〜15の配置を任意に設定することができる。
【0036】
この位置決め板56には、湾曲操作ワイヤ23が軸線方向に移動自在に挿通配置された状態の密着巻きコイル22及び可撓性パイプ24、信号線束20が軸線方向に移動自在に挿通配置された状態の可撓性チューブ19(即ち信号ケーブル18)及び芯金59(又はパイプ部材25)などの所定の内蔵物を案内するための複数の位置決め孔が押出口55に向かう位置に形成されている。そのような各位置決め孔は、各内蔵物を抵抗なく但しガタつきなく通過させる径に形成されている。
【0037】
そのような構成により、内蔵物である可撓性チューブ19、信号線束20、密着巻きコイル22、湾曲操作ワイヤ23、可撓性パイプ24、芯金59(又はパイプ部材25)等が位置決め板56の各位置決め孔を通って押し出し成型装置50内に導かれ、そこで周囲を溶融樹脂で埋められることにより内蔵物が溶融樹脂と共に押し出し成型装置50から押し出されて、各内蔵物により貫通孔11〜15がマルチルーメンチューブ10に全長にわたって形成される。
【0038】
そして、押し出し成型後に、芯金59は抜去されてチャンネル用の貫通孔11〜13が各々通孔として形成される。ただし、信号ケーブル18の可撓性チューブ19は両端部付近を除いて貫通孔14内に埋設固定された状態に残されてその内部で信号線束20が軸線方向に自由に進退し、密着巻きコイル22と可撓性パイプ24もマルチルーメンチューブ10から突出する側の端部を除いて貫通孔15内に固定された状態に残されて、その内部で湾曲操作ワイヤ23が軸線方向に自由に進退する。
【0039】
図1は、そのようにして製造されたマルチルーメンチューブ10を示している。ただし、チャンネル用の貫通孔11〜13には芯金に代えて可撓性のパイプ部材25が配置されたものであり、パイプ部材25は押し出し成型後も貫通孔11〜13内に固定された状態に残されて処置具通路及び流体通路等になる。
【0040】
マルチルーメンチューブ10の先端寄りの湾曲部1Bになる部分は軟材料で形成されていて、その他の可撓管部1Aになる部分は硬材料で形成され、その結果、湾曲部1Bは屈曲し易くて、可撓管部1A部分は手元側からの進退及び回転操作の際のトルク伝達がスムーズに行われるようになっている。
【0041】
ただし、可撓管部1Aと湾曲部1Bとは押し出し成型時に材料を連続的に切り換えることで形成されているので、可撓管部1Aと湾曲部1Bとの境界部に継ぎ目等は一切発生しない。
【0042】
このように構成されたマルチルーメンチューブ10においては、前述のように、信号ケーブル18の可撓性チューブ19と密着巻きコイル22及び可撓性パイプ24とが、各々の端部付近を除いてマルチルーメンチューブ10内の全長にわたって埋め込まれて固定された状態になっており、それらに挿通されている信号線束20と湾曲操作ワイヤ23とが軸線方向に進退自在になっている。パイプ部材25も、両端付近を除いてマルチルーメンチューブ10内に全長にわたって埋め込まれて固定された状態になっている。
【0043】
湾曲操作ワイヤ23が挿通されるよう同軸線位置に直列に配置された密着巻きコイル22と可撓性パイプ24は、可撓管部1Aと湾曲部1Bとの境界部分において、可撓管部1Aの領域に配置された密着巻きコイル22の端部が湾曲部1Bの領域に配置された可撓性パイプ24の端部内に嵌挿された状態になっていて、密着巻きコイル22内より可撓性パイプ24内に広い空間が確保されている(そのような空間確保のためには、少なくとも可撓性パイプ24の内径が密着巻きコイル22の内径より大きければよい)。
【0044】
図8ないし図11は、押し出し成型されたマルチルーメンチューブ10の先端部分に先端部本体2を取り付けて内視鏡挿入部1を完成する工程を順に示しており、まず図8に示されるように、マルチルーメンチューブ10の貫通孔11〜15の位置に合わせて軸線と平行方向に通孔29,30…が形成された接続金具2Aを、マルチルーメンチューブ10の先端部分に接着等で直列に連結固着する。
【0045】
次に、図9に示されるように、各湾曲操作ワイヤ23の先端と信号線束20の先端を各々接続金具2Aの先端側に引き出して、各湾曲操作ワイヤ23の先端には、湾曲操作ワイヤ23より径が大きくて、湾曲操作ワイヤ23が通過するように接続金具2Aに形成された通孔29内を通過できない大きさのストッパ部材28を固着し、信号線束20の先端には固体撮像装置27を接続して、図10に示されるように、それらを接続金具2A内に引き込む。
【0046】
そして、図11に示されるように、対物光学系31が内蔵されると共にその対物光学系31の表面である観察窓32に向かって開口する送気送水ノズル33が突設された先端部本体2を、接着等で接続金具2Aの先端に接続固着する。
【0047】
その際に、対物光学系31が嵌め込まれている対物鏡筒31A内に固体撮像装置27が嵌合することで、光軸合わせが行われる。その結果、対物光学系31により被写体の観察像が固体撮像装置27の撮像面に投影されて内視鏡観察像が得られる。
【0048】
このようにして製造された本実施例の可撓性内視鏡の挿入部においては、マルチルーメンチューブ10を押し出し成型するのと同時に、内蔵物が軸線方向に進退自在に貫通孔11〜15内に挿通配置されるので、マルチルーメンチューブ10の長さが長くても内蔵物の組み付けを極めて容易に行うことができ、必要に応じてマルチルーメンチューブ10を使い捨てにするディスポーザブル化等もコスト的に可能となる。
【0049】
そして、内視鏡挿入部1を構成するマルチルーメンチューブ10の可撓管部1Aの領域は硬材料により形成されていることによりトルク伝達性に優れているので、可撓管部1Aを手元側から軸線周りに捩じる操作を行えば、その動作が可撓管部1Aの途中の部分で吸収されることなく先端側へ伝達されて先端部本体2の向きを思い通りに変化させることができる。
【0050】
一方、マルチルーメンチューブ10の湾曲部1Bの領域は軟材料により形成されていることにより屈曲自在性に優れているので、四本の湾曲操作ワイヤ23を操作部3側から選択的に牽引操作すれば、図12に示されるように、湾曲部1Bを任意の方向に任意の角度だけ屈曲させて内視鏡挿入部1の先端を体腔内等で思い通りの方向に誘導することができる。
【0051】
そしてその際に、可撓性パイプ24内には密着巻きコイル22内より広い内部空間が確保されていることにより、図12におけるXIII−XIII断面を図示する図13に示されるように、マルチルーメンチューブ10の湾曲部1Bの領域が屈曲して可撓性パイプ24内の空間が偏平に潰れた状態になっても湾曲操作ワイヤ23は圧迫されないので、湾曲操作ワイヤ23が抵抗なく軸線方向に進退して、湾曲部1Bをスムーズに屈曲させることができる。
【0052】
図14、図15は本発明の第2の実施例を示しており、マルチルーメンチューブ10の湾曲部1Bの領域において湾曲操作ワイヤ配置孔15内に筒状の内蔵物を残さず、湾曲操作ワイヤ23を湾曲操作ワイヤ配置孔15内に軸線方向に進退自在に直接挿通配置したものである。
【0053】
そのような構成は、マルチルーメンチューブ10を押し出し成型する際に、まず図14に示されるように、第1の実施例で用いられた可撓性パイプ24に代えて外周面に離型剤を塗布した金属パイプ24′(筒状体)を配置して、押し出し成型後に図15に示されるようにその金属パイプ24′を抜き出すことにより構成することができる。
【0054】
その場合にも、金属パイプ24′が抜き出された後の湾曲部1Bの領域における湾曲操作ワイヤ配置孔15の内径が密着巻きコイル22の外径より大きければ、湾曲部1Bが屈曲した状態でも湾曲操作ワイヤ23が圧迫されないので、湾曲操作ワイヤ23の進退動作がスムーズに行われ、少なくとも湾曲操作ワイヤ配置孔15の内径が密着巻きコイル22の内径より大きければそれに見合った効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1の実施例の可撓性内視鏡の挿入部の側面断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例の内視鏡の全体構成を示す側面図である。
【図3】本発明の第1の実施例の可撓性内視鏡の可撓管部の縦断面図である。
【図4】本発明の第1の実施例の可撓性内視鏡の可撓管部の図2におけるIV−IV断面図である。
【図5】本発明の第1の実施例の可撓性内視鏡の湾曲部の縦断面図である。
【図6】本発明の第1の実施例の可撓性内視鏡の可撓管部の変形例の縦断面図である。
【図7】本発明の第1の実施例の押し出し成型装置の略示図である。
【図8】本発明の第1の実施例のマルチルーメンチューブの先端部分に先端部本体が取り付けられる工程を順に示す側面断面図である。
【図9】本発明の第1の実施例のマルチルーメンチューブの先端部分に先端部本体が取り付けられる工程を順に示す側面断面図である。
【図10】本発明の第1の実施例のマルチルーメンチューブの先端部分に先端部本体が取り付けられる工程を順に示す側面断面図である。
【図11】本発明の第1の実施例のマルチルーメンチューブの先端部分に先端部本体が取り付けられる工程を順に示す側面断面図である。
【図12】本発明の第1の実施例の可撓性内視鏡の挿入部が湾曲部において屈曲した状態の側面断面図である。
【図13】本発明の第1の実施例の可撓性内視鏡の湾曲部の図12におけるXIII−XIII断面図である。
【図14】本発明の第2の実施例の可撓性内視鏡の挿入部の製造工程の側面断面図である。
【図15】本発明の第2の実施例の可撓性内視鏡の挿入部の製造工程の側面断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 内視鏡挿入部
1A 可撓管部
1B 湾曲部
2 先端部本体
2A 接続金具
10 マルチルーメンチューブ
15 湾曲操作ワイヤ配置孔(貫通孔)
22 密着巻きコイル(内蔵物)
23 湾曲操作ワイヤ(内蔵物)
24 可撓性パイプ(内蔵物)
28 ストッパ部材
50 押し出し成型装置
51 硬材料ホッパ
52 軟材料ホッパ
【技術分野】
【0001】
この発明は、いわゆるマルチルーメンチューブを用いた可撓性内視鏡の挿入部に関する。
【背景技術】
【0002】
可撓性内視鏡の挿入部は一般に、外力によって自由に屈曲する可撓管部の先端に、手元側から操作ワイヤを進退操作することよって任意の角度屈曲させることができる湾曲部が連結された構成になっている。
【0003】
そのような可撓性内視鏡の挿入部内には、ライトガイド繊維束その他各種の内蔵物が挿通配置されるが、内蔵物が互いに干渉する状態に挿通配置されているので、屈曲操作等が繰り返されると内蔵物が早期に破損する場合がある。
【0004】
そこで、軸線と平行方向に複数の貫通孔が形成された柔軟な材料からなる一本のマルチルーメンチューブを内視鏡の挿入部として用い、そのマルチルーメンチューブの先端近傍部分を、基端側から操作ワイヤを牽引操作することにより屈曲する湾曲部にしたものがある(例えば、特許文献1)。
【0005】
そして、そのようなマルチルーメンチューブにより可撓管部と一体に形成された湾曲部が屈曲し易いようにするために、湾曲部領域においてはマルチルーメンチューブに側方のあい異なる方向から複数の切り込みを代わるがわる形成している(例えば、特許文献2)。
【特許文献1】特許第2602212号
【特許文献2】特許第3554371号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
可撓性内視鏡の挿入部にとって必要な特性として、可撓管部においては、手元側で軸線周りに捩じる操作をした時にその運動が先端側まで吸収されずに伝達されるトルク伝達性が非常に重要な特性であり、湾曲部においては、操作ワイヤを手元側から進退操作することによって抵抗なく円滑に屈曲する屈曲自在性が重要な特性である。
【0007】
しかし、特許文献1に記載された発明のように、可撓管部と湾曲部とが単純に一本のマルチルーメンチューブで形成されている場合には、トルク伝達性を重視すると屈曲自在性が乏しくなり、逆に屈曲自在性を重視するとトルク伝達性が乏しくなってしまう。
【0008】
そこで、特許文献2に記載された発明のように湾曲部に切り込みを形成すれば屈曲自在性を向上させることができるものの、押し出し成型等でマルチルーメンチューブを形成する際に切り込みを形成することはできないので、機械加工等による後加工で切り込みを形成する必要があり大幅なコストアップになってしまう。
【0009】
そこで本発明は、マルチルーメンチューブの成型後に特段の後加工等をすることなく、トルク伝達性の優れた可撓管部と屈曲自在性の優れた湾曲部とを一本のマルチルーメンチューブで形成することができる可撓性内視鏡の挿入部を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するため、本発明の可撓性内視鏡の挿入部は、軸線と平行方向に複数の貫通孔が形成された柔軟な材料からなる一本のマルチルーメンチューブの少なくとも一つの貫通孔内の全長にわたって、可撓性を有する内蔵物が挿通配置され、一本のマルチルーメンチューブの先端近傍部分が基端側からの遠隔操作により屈曲する湾曲部として形成された可撓性内視鏡の挿入部において、内蔵物が挿通配置されている貫通孔の内部空間が、湾曲部内に位置する部分においては湾曲部外に位置する部分より大きな径に形成されているものである。
【0011】
なお、マルチルーメンチューブが、湾曲部の領域においては湾曲部以外の領域より柔軟な材料で形成されているとよく、貫通孔内に挿通配置されている内蔵物が、湾曲部を遠隔操作により屈曲させるために基端側から進退操作される湾曲操作ワイヤであってもよい。
【0012】
その場合、湾曲部外の領域においては貫通孔内にガイドコイルが内蔵物の一つとして固定的に挿通配置されていて、そのガイドコイル内に湾曲操作ワイヤが軸線方向に進退自在に挿通されていてもよい。
【0013】
そして、湾曲部の領域においては貫通孔内にガイドコイルの内径より大きな内径を有する可撓性パイプが内蔵物の一つとして固定的に挿通配置されていて、その可撓性パイプ内に湾曲操作ワイヤが軸線方向に進退自在に挿通されていてもよく、可撓性パイプの内径がガイドコイルの外径より大きければ動作がさらによい。可撓性パイプが軟性のプラスチックチューブ又は超弾性合金パイプにより形成されていてもよい。
【0014】
また、湾曲部の領域においては貫通孔内に湾曲操作ワイヤが軸線方向に進退自在に直接挿通配置されていてもよく、その場合、貫通孔の内径が湾曲部の領域ではガイドコイルの内径より大きく形成されているとよく、貫通孔の内径が湾曲部の領域ではガイドコイルの外径より大きく形成されていれば動作がさらによい。
【0015】
そして、湾曲部の領域では、貫通孔が、マルチルーメンチューブを成形する際に貫通孔の位置に配置された筒状体をマルチルーメンチューブ形成後に抜去して形成されたものであってもよい。
【0016】
なお、対物光学系等を内蔵する先端部本体がマルチルーメンチューブの先端に連結されていてもよく、その場合、湾曲操作ワイヤの先端が、先端部本体又は先端部本体とマルチルーメンチューブとを連結する部材に係止されていてもよく、先端部本体又は先端部本体とマルチルーメンチューブとを連結する部材に形成された通孔内に湾曲操作ワイヤの先端部分が挿通されて、通孔を通過できない大きさのストッパ部材が湾曲操作ワイヤの最先端部分に固着されていてもよい。
【0017】
また、内蔵物が、マルチルーメンチューブを成形する際に貫通孔の位置に配置されて、マルチルーメンチューブの形成と同時に貫通孔内に配置されたものであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、マルチルーメンチューブの成型後に特段の後加工等をすることなく、トルク伝達性の優れた可撓管部と屈曲自在性の優れた湾曲部とを一本のマルチルーメンチューブで形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
軸線と平行方向に複数の貫通孔が形成された柔軟な材料からなる一本のマルチルーメンチューブの少なくとも一つの貫通孔内の全長にわたって、可撓性を有する内蔵物が挿通配置され、一本のマルチルーメンチューブの先端近傍部分が基端側からの遠隔操作により屈曲する湾曲部として形成された可撓性内視鏡の挿入部において、内蔵物が挿通配置されている貫通孔の内部空間が、湾曲部内に位置する部分においては湾曲部外に位置する部分より大きな径に形成されている。
【実施例】
【0020】
図面を参照して本発明の実施例を説明する。
図2は内視鏡の全体構成を示しており、体腔内等に挿入される内視鏡挿入部1の先端には対物光学系等を内蔵する先端部本体2が接続金具2Aを介して連結され、内視鏡挿入部1の基端には操作部3が連結されている。
【0021】
内視鏡挿入部1の先端近傍部分1Bは他の部分(可撓管部1A)より柔軟な材料で形成されて、操作部3に配置された湾曲操作ノブ4を回転操作することにより遠隔的に任意の方向に任意の角度だけ屈曲させることができる湾曲部になっている(以下、「湾曲部1B」という)。5は、処置具類を差し込むための処置具挿入口である。
【0022】
内視鏡挿入部1は、例えば直径が5〜15mm程度で長さが0.5〜2m程度の細長くて柔軟なものであり、図3に可撓管部1Aの縦断面図が拡大図示され、図4には図2におけるIV−IV断面が拡大図示されている。
【0023】
内視鏡挿入部1は全長にわたって、例えば柔軟で弾力性のあるシリコン樹脂等を材料として押し出し成型で形成されたマルチルーメンチューブ10により構成されており、そのマルチルーメンチューブ10には、軸線と平行方向に複数の貫通孔(ルーメン)11〜15が全長にわたって形成されている。
【0024】
そのような複数の貫通孔11〜15のうち、11は処置具類を挿脱するための処置具挿通チャンネル、12は送気送水チャンネル、13は被写体を洗浄する洗浄水を通すための洗浄チャンネルであり、これらは、マルチルーメンチューブ10を製造する際に各々の位置に配置された芯金を抜去することにより形成される。ただし、後述するようにその部分にパイプ部材25を配置してもよい。
【0025】
14は、可撓性のある信号ケーブル18が全長にわたって挿通配置された信号ケーブル配置孔である。信号ケーブル18は、複数の信号線を束ねた信号線束20が可撓性チューブ19内に軸線方向に進退自在に挿通配置された構成になっていて、可撓性チューブ19は信号ケーブル配置孔14に固定された状態になっていて、その可撓性チューブ19の内側で信号線束20が軸線方向に進退自在になっている。
【0026】
15は、湾曲部1Bを屈曲操作するための可撓性のある湾曲操作ワイヤ23が全長にわたって挿通配置された湾曲操作ワイヤ配置孔であり、例えばマルチルーメンチューブ10の周辺位置に等間隔(マルチルーメンチューブ10の中心軸線周りに90°間隔)で4ヵ所に、内視鏡観察視野の上下左右方向と合致する位置に配置されている。
【0027】
湾曲操作ワイヤ23は例えばステンレス鋼撚り線により形成されていて、可撓管部1A内においては、例えばステンレス鋼線材により形成された可撓性のある密着巻きコイル22内に軸線方向に進退自在に挿通配置されている。密着巻きコイル22は湾曲操作ワイヤ配置孔15に固定された状態になっていて、その密着巻きコイル22の内側で湾曲操作ワイヤ23が軸線方向に進退自在になっている。
【0028】
また、湾曲部1B内においては、図5の縦断面図に図示されるように、可撓管部1Aの密着巻きコイル22に代えて可撓性パイプ24が湾曲操作ワイヤ配置孔15に固定された状態になっていて、その可撓性パイプ24の内側で湾曲操作ワイヤ23が軸線方向に進退自在になっている。
【0029】
可撓性パイプ24は、例えば軟性のプラスチックチューブ又は超弾性合金パイプ等により形成されており、その内径寸法が密着巻きコイル22の外径寸法より大きく形成されている。ただし、可撓性パイプ24の内径寸法が密着巻きコイル22の内径寸法より大きければよい。
【0030】
上述のような構成の内視鏡挿入部1において、湾曲操作ワイヤ23が挿通されている密着巻きコイル22及び可撓性パイプ24と、信号線束20が挿通されている可撓性チューブ19とは、いずれもマルチルーメンチューブ10が押し出し成型される際に湾曲操作ワイヤ配置孔15と信号ケーブル配置孔14の位置に配置されて、マルチルーメンチューブ10の両端から突出する部分を除いて各孔15,14の全長に埋め込まれて固定された状態になっている。
【0031】
そして、湾曲操作ワイヤ23と信号線束20は、マルチルーメンチューブ10の押し出し成型時に予め密着巻きコイル22及び可撓性パイプ24内と可撓性チューブ19内とに全長にわたって挿通配置されていて、マルチルーメンチューブ10の押し出し成型後も密着巻きコイル22内及び可撓性パイプ24内と可撓性チューブ19内において各々軸線方向に進退自在である。
【0032】
なお、図6に示されるように、処置具挿通チャンネル11、送気送水チャンネル12、洗浄チャンネル13等においても、マルチルーメンチューブ10の押し出し成型時に可撓性のあるプラスチックチューブ材又は超弾性合金コイル材等のような可撓性のパイプ部材25を配置して、押し出し成型後にそのパイプ部材25をそのまま残しても差し支えない。
【0033】
図7は、上述のようなマルチルーメンチューブ10を製造するための押し出し成型装置50を示しており、柔軟性が相違する硬材料と軟材料の二種類の原材料を供給するための硬材料ホッパ51と軟材料ホッパ52とが、材料供給管53で一つにまとめられて押し出し成型装置50に通じており、押し出し成型装置50にどちらの材料を供給するか、或いはどのような比率で混合するかを切り換えバルブ54で任意に制御して、マルチルーメンチューブ10の硬さを部分によって調整することができる。
【0034】
押し出し成型装置50内で加熱溶融された樹脂は、ノズルの押出口55から矢印Aで示されるように押し出された後、冷却器60で冷却されることでマルチルーメンチューブ10として細長く形成されるが、押出口55の径が相違するものを選択して用いることができ、それによってマルチルーメンチューブ10の外径を制御することができる。
【0035】
56は、マルチルーメンチューブ10に貫通孔11〜15を形成するために押出口55に対して位置関係を定めて押出口55の背面側の位置に着脱自在に取り付けられた位置決め板であり、位置決め板56を取り替えることにより、マルチルーメンチューブ10に形成される貫通孔11〜15の配置を任意に設定することができる。
【0036】
この位置決め板56には、湾曲操作ワイヤ23が軸線方向に移動自在に挿通配置された状態の密着巻きコイル22及び可撓性パイプ24、信号線束20が軸線方向に移動自在に挿通配置された状態の可撓性チューブ19(即ち信号ケーブル18)及び芯金59(又はパイプ部材25)などの所定の内蔵物を案内するための複数の位置決め孔が押出口55に向かう位置に形成されている。そのような各位置決め孔は、各内蔵物を抵抗なく但しガタつきなく通過させる径に形成されている。
【0037】
そのような構成により、内蔵物である可撓性チューブ19、信号線束20、密着巻きコイル22、湾曲操作ワイヤ23、可撓性パイプ24、芯金59(又はパイプ部材25)等が位置決め板56の各位置決め孔を通って押し出し成型装置50内に導かれ、そこで周囲を溶融樹脂で埋められることにより内蔵物が溶融樹脂と共に押し出し成型装置50から押し出されて、各内蔵物により貫通孔11〜15がマルチルーメンチューブ10に全長にわたって形成される。
【0038】
そして、押し出し成型後に、芯金59は抜去されてチャンネル用の貫通孔11〜13が各々通孔として形成される。ただし、信号ケーブル18の可撓性チューブ19は両端部付近を除いて貫通孔14内に埋設固定された状態に残されてその内部で信号線束20が軸線方向に自由に進退し、密着巻きコイル22と可撓性パイプ24もマルチルーメンチューブ10から突出する側の端部を除いて貫通孔15内に固定された状態に残されて、その内部で湾曲操作ワイヤ23が軸線方向に自由に進退する。
【0039】
図1は、そのようにして製造されたマルチルーメンチューブ10を示している。ただし、チャンネル用の貫通孔11〜13には芯金に代えて可撓性のパイプ部材25が配置されたものであり、パイプ部材25は押し出し成型後も貫通孔11〜13内に固定された状態に残されて処置具通路及び流体通路等になる。
【0040】
マルチルーメンチューブ10の先端寄りの湾曲部1Bになる部分は軟材料で形成されていて、その他の可撓管部1Aになる部分は硬材料で形成され、その結果、湾曲部1Bは屈曲し易くて、可撓管部1A部分は手元側からの進退及び回転操作の際のトルク伝達がスムーズに行われるようになっている。
【0041】
ただし、可撓管部1Aと湾曲部1Bとは押し出し成型時に材料を連続的に切り換えることで形成されているので、可撓管部1Aと湾曲部1Bとの境界部に継ぎ目等は一切発生しない。
【0042】
このように構成されたマルチルーメンチューブ10においては、前述のように、信号ケーブル18の可撓性チューブ19と密着巻きコイル22及び可撓性パイプ24とが、各々の端部付近を除いてマルチルーメンチューブ10内の全長にわたって埋め込まれて固定された状態になっており、それらに挿通されている信号線束20と湾曲操作ワイヤ23とが軸線方向に進退自在になっている。パイプ部材25も、両端付近を除いてマルチルーメンチューブ10内に全長にわたって埋め込まれて固定された状態になっている。
【0043】
湾曲操作ワイヤ23が挿通されるよう同軸線位置に直列に配置された密着巻きコイル22と可撓性パイプ24は、可撓管部1Aと湾曲部1Bとの境界部分において、可撓管部1Aの領域に配置された密着巻きコイル22の端部が湾曲部1Bの領域に配置された可撓性パイプ24の端部内に嵌挿された状態になっていて、密着巻きコイル22内より可撓性パイプ24内に広い空間が確保されている(そのような空間確保のためには、少なくとも可撓性パイプ24の内径が密着巻きコイル22の内径より大きければよい)。
【0044】
図8ないし図11は、押し出し成型されたマルチルーメンチューブ10の先端部分に先端部本体2を取り付けて内視鏡挿入部1を完成する工程を順に示しており、まず図8に示されるように、マルチルーメンチューブ10の貫通孔11〜15の位置に合わせて軸線と平行方向に通孔29,30…が形成された接続金具2Aを、マルチルーメンチューブ10の先端部分に接着等で直列に連結固着する。
【0045】
次に、図9に示されるように、各湾曲操作ワイヤ23の先端と信号線束20の先端を各々接続金具2Aの先端側に引き出して、各湾曲操作ワイヤ23の先端には、湾曲操作ワイヤ23より径が大きくて、湾曲操作ワイヤ23が通過するように接続金具2Aに形成された通孔29内を通過できない大きさのストッパ部材28を固着し、信号線束20の先端には固体撮像装置27を接続して、図10に示されるように、それらを接続金具2A内に引き込む。
【0046】
そして、図11に示されるように、対物光学系31が内蔵されると共にその対物光学系31の表面である観察窓32に向かって開口する送気送水ノズル33が突設された先端部本体2を、接着等で接続金具2Aの先端に接続固着する。
【0047】
その際に、対物光学系31が嵌め込まれている対物鏡筒31A内に固体撮像装置27が嵌合することで、光軸合わせが行われる。その結果、対物光学系31により被写体の観察像が固体撮像装置27の撮像面に投影されて内視鏡観察像が得られる。
【0048】
このようにして製造された本実施例の可撓性内視鏡の挿入部においては、マルチルーメンチューブ10を押し出し成型するのと同時に、内蔵物が軸線方向に進退自在に貫通孔11〜15内に挿通配置されるので、マルチルーメンチューブ10の長さが長くても内蔵物の組み付けを極めて容易に行うことができ、必要に応じてマルチルーメンチューブ10を使い捨てにするディスポーザブル化等もコスト的に可能となる。
【0049】
そして、内視鏡挿入部1を構成するマルチルーメンチューブ10の可撓管部1Aの領域は硬材料により形成されていることによりトルク伝達性に優れているので、可撓管部1Aを手元側から軸線周りに捩じる操作を行えば、その動作が可撓管部1Aの途中の部分で吸収されることなく先端側へ伝達されて先端部本体2の向きを思い通りに変化させることができる。
【0050】
一方、マルチルーメンチューブ10の湾曲部1Bの領域は軟材料により形成されていることにより屈曲自在性に優れているので、四本の湾曲操作ワイヤ23を操作部3側から選択的に牽引操作すれば、図12に示されるように、湾曲部1Bを任意の方向に任意の角度だけ屈曲させて内視鏡挿入部1の先端を体腔内等で思い通りの方向に誘導することができる。
【0051】
そしてその際に、可撓性パイプ24内には密着巻きコイル22内より広い内部空間が確保されていることにより、図12におけるXIII−XIII断面を図示する図13に示されるように、マルチルーメンチューブ10の湾曲部1Bの領域が屈曲して可撓性パイプ24内の空間が偏平に潰れた状態になっても湾曲操作ワイヤ23は圧迫されないので、湾曲操作ワイヤ23が抵抗なく軸線方向に進退して、湾曲部1Bをスムーズに屈曲させることができる。
【0052】
図14、図15は本発明の第2の実施例を示しており、マルチルーメンチューブ10の湾曲部1Bの領域において湾曲操作ワイヤ配置孔15内に筒状の内蔵物を残さず、湾曲操作ワイヤ23を湾曲操作ワイヤ配置孔15内に軸線方向に進退自在に直接挿通配置したものである。
【0053】
そのような構成は、マルチルーメンチューブ10を押し出し成型する際に、まず図14に示されるように、第1の実施例で用いられた可撓性パイプ24に代えて外周面に離型剤を塗布した金属パイプ24′(筒状体)を配置して、押し出し成型後に図15に示されるようにその金属パイプ24′を抜き出すことにより構成することができる。
【0054】
その場合にも、金属パイプ24′が抜き出された後の湾曲部1Bの領域における湾曲操作ワイヤ配置孔15の内径が密着巻きコイル22の外径より大きければ、湾曲部1Bが屈曲した状態でも湾曲操作ワイヤ23が圧迫されないので、湾曲操作ワイヤ23の進退動作がスムーズに行われ、少なくとも湾曲操作ワイヤ配置孔15の内径が密着巻きコイル22の内径より大きければそれに見合った効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の第1の実施例の可撓性内視鏡の挿入部の側面断面図である。
【図2】本発明の第1の実施例の内視鏡の全体構成を示す側面図である。
【図3】本発明の第1の実施例の可撓性内視鏡の可撓管部の縦断面図である。
【図4】本発明の第1の実施例の可撓性内視鏡の可撓管部の図2におけるIV−IV断面図である。
【図5】本発明の第1の実施例の可撓性内視鏡の湾曲部の縦断面図である。
【図6】本発明の第1の実施例の可撓性内視鏡の可撓管部の変形例の縦断面図である。
【図7】本発明の第1の実施例の押し出し成型装置の略示図である。
【図8】本発明の第1の実施例のマルチルーメンチューブの先端部分に先端部本体が取り付けられる工程を順に示す側面断面図である。
【図9】本発明の第1の実施例のマルチルーメンチューブの先端部分に先端部本体が取り付けられる工程を順に示す側面断面図である。
【図10】本発明の第1の実施例のマルチルーメンチューブの先端部分に先端部本体が取り付けられる工程を順に示す側面断面図である。
【図11】本発明の第1の実施例のマルチルーメンチューブの先端部分に先端部本体が取り付けられる工程を順に示す側面断面図である。
【図12】本発明の第1の実施例の可撓性内視鏡の挿入部が湾曲部において屈曲した状態の側面断面図である。
【図13】本発明の第1の実施例の可撓性内視鏡の湾曲部の図12におけるXIII−XIII断面図である。
【図14】本発明の第2の実施例の可撓性内視鏡の挿入部の製造工程の側面断面図である。
【図15】本発明の第2の実施例の可撓性内視鏡の挿入部の製造工程の側面断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 内視鏡挿入部
1A 可撓管部
1B 湾曲部
2 先端部本体
2A 接続金具
10 マルチルーメンチューブ
15 湾曲操作ワイヤ配置孔(貫通孔)
22 密着巻きコイル(内蔵物)
23 湾曲操作ワイヤ(内蔵物)
24 可撓性パイプ(内蔵物)
28 ストッパ部材
50 押し出し成型装置
51 硬材料ホッパ
52 軟材料ホッパ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線と平行方向に複数の貫通孔が形成された柔軟な材料からなる一本のマルチルーメンチューブの少なくとも一つの貫通孔内の全長にわたって、可撓性を有する内蔵物が挿通配置され、上記一本のマルチルーメンチューブの先端近傍部分が基端側からの遠隔操作により屈曲する湾曲部として形成された可撓性内視鏡の挿入部において、
上記内蔵物が挿通配置されている上記貫通孔の内部空間が、上記湾曲部内に位置する部分においては上記湾曲部外に位置する部分より大きな径に形成されていることを特徴とする可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項2】
上記マルチルーメンチューブが、上記湾曲部の領域においては上記湾曲部以外の領域より柔軟な材料で形成されている請求項1記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項3】
上記貫通孔内に挿通配置されている上記内蔵物が、上記湾曲部を遠隔操作により屈曲させるために基端側から進退操作される湾曲操作ワイヤである請求項1又は2記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項4】
上記湾曲部外の領域においては上記貫通孔内にガイドコイルが上記内蔵物の一つとして固定的に挿通配置されていて、そのガイドコイル内に上記湾曲操作ワイヤが軸線方向に進退自在に挿通されている請求項3記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項5】
上記湾曲部の領域においては上記貫通孔内に上記ガイドコイルの内径より大きな内径を有する可撓性パイプが上記内蔵物の一つとして固定的に挿通配置されていて、その可撓性パイプ内に上記湾曲操作ワイヤが軸線方向に進退自在に挿通されている請求項4記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項6】
上記可撓性パイプの内径が上記ガイドコイルの外径より大きい請求項5記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項7】
上記可撓性パイプが軟性のプラスチックチューブ又は超弾性合金パイプにより形成されている請求項5又は6記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項8】
上記湾曲部の領域においては上記貫通孔内に上記湾曲操作ワイヤが軸線方向に進退自在に直接挿通配置されている請求項4記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項9】
上記貫通孔の内径が上記湾曲部の領域では上記ガイドコイルの内径より大きく形成されている請求項8記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項10】
上記貫通孔の内径が上記湾曲部の領域では上記ガイドコイルの外径より大きく形成されている請求項9記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項11】
上記湾曲部の領域では、上記貫通孔が、上記マルチルーメンチューブを成形する際に上記貫通孔の位置に配置された筒状体を上記マルチルーメンチューブ形成後に抜去して形成されたものである請求項8、9又は10記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項12】
対物光学系等を内蔵する先端部本体が上記マルチルーメンチューブの先端に連結されている請求項3ないし11のいずれかの項に記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項13】
上記湾曲操作ワイヤの先端が、上記先端部本体又は上記先端部本体と上記マルチルーメンチューブとを連結する部材に係止されている請求項12記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項14】
上記先端部本体又は上記先端部本体と上記マルチルーメンチューブとを連結する部材に形成された通孔内に上記湾曲操作ワイヤの先端部分が挿通されて、上記通孔を通過できない大きさのストッパ部材が上記湾曲操作ワイヤの最先端部分に固着されている請求項13記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項15】
上記内蔵物が、上記マルチルーメンチューブを成形する際に上記貫通孔の位置に配置されて、上記マルチルーメンチューブの形成と同時に上記貫通孔内に配置されたものである請求項3ないし14のいずれかの項に記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項1】
軸線と平行方向に複数の貫通孔が形成された柔軟な材料からなる一本のマルチルーメンチューブの少なくとも一つの貫通孔内の全長にわたって、可撓性を有する内蔵物が挿通配置され、上記一本のマルチルーメンチューブの先端近傍部分が基端側からの遠隔操作により屈曲する湾曲部として形成された可撓性内視鏡の挿入部において、
上記内蔵物が挿通配置されている上記貫通孔の内部空間が、上記湾曲部内に位置する部分においては上記湾曲部外に位置する部分より大きな径に形成されていることを特徴とする可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項2】
上記マルチルーメンチューブが、上記湾曲部の領域においては上記湾曲部以外の領域より柔軟な材料で形成されている請求項1記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項3】
上記貫通孔内に挿通配置されている上記内蔵物が、上記湾曲部を遠隔操作により屈曲させるために基端側から進退操作される湾曲操作ワイヤである請求項1又は2記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項4】
上記湾曲部外の領域においては上記貫通孔内にガイドコイルが上記内蔵物の一つとして固定的に挿通配置されていて、そのガイドコイル内に上記湾曲操作ワイヤが軸線方向に進退自在に挿通されている請求項3記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項5】
上記湾曲部の領域においては上記貫通孔内に上記ガイドコイルの内径より大きな内径を有する可撓性パイプが上記内蔵物の一つとして固定的に挿通配置されていて、その可撓性パイプ内に上記湾曲操作ワイヤが軸線方向に進退自在に挿通されている請求項4記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項6】
上記可撓性パイプの内径が上記ガイドコイルの外径より大きい請求項5記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項7】
上記可撓性パイプが軟性のプラスチックチューブ又は超弾性合金パイプにより形成されている請求項5又は6記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項8】
上記湾曲部の領域においては上記貫通孔内に上記湾曲操作ワイヤが軸線方向に進退自在に直接挿通配置されている請求項4記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項9】
上記貫通孔の内径が上記湾曲部の領域では上記ガイドコイルの内径より大きく形成されている請求項8記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項10】
上記貫通孔の内径が上記湾曲部の領域では上記ガイドコイルの外径より大きく形成されている請求項9記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項11】
上記湾曲部の領域では、上記貫通孔が、上記マルチルーメンチューブを成形する際に上記貫通孔の位置に配置された筒状体を上記マルチルーメンチューブ形成後に抜去して形成されたものである請求項8、9又は10記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項12】
対物光学系等を内蔵する先端部本体が上記マルチルーメンチューブの先端に連結されている請求項3ないし11のいずれかの項に記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項13】
上記湾曲操作ワイヤの先端が、上記先端部本体又は上記先端部本体と上記マルチルーメンチューブとを連結する部材に係止されている請求項12記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項14】
上記先端部本体又は上記先端部本体と上記マルチルーメンチューブとを連結する部材に形成された通孔内に上記湾曲操作ワイヤの先端部分が挿通されて、上記通孔を通過できない大きさのストッパ部材が上記湾曲操作ワイヤの最先端部分に固着されている請求項13記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【請求項15】
上記内蔵物が、上記マルチルーメンチューブを成形する際に上記貫通孔の位置に配置されて、上記マルチルーメンチューブの形成と同時に上記貫通孔内に配置されたものである請求項3ないし14のいずれかの項に記載の可撓性内視鏡の挿入部。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2006−340878(P2006−340878A)
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−169032(P2005−169032)
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年6月9日(2005.6.9)
【出願人】(000000527)ペンタックス株式会社 (1,878)
【Fターム(参考)】
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