説明

合成皮革及びその製造方法

【課題】天然皮革に近い微細なシボ形状を有し、且つ、耐摩耗性に優れた天然皮革、及びその簡易な製造方法を提供する。
【解決手段】基材上に、接着層、及び、表皮層を、この順に設けた合成皮革であって、該表皮層が断面形状において下記条件(1)〜(3)を満たすシボを表面に有する合成皮革。
(1)シボの断面形状において、凸部及び凹部における曲率半径Rが0.01mm〜0.30mmである。
(2)シボの断面形状において、凸部の内角が100°〜130°である。
(3)シボの断面形状において、凹部の開口直径が40μm〜100μmであり、且つ、凹部の深さが50μm〜150μmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は合成皮革及びその製造方法に関し、詳細には、天然皮革と比べても遜色のない微細なシボ表現を持つ、高質感で、耐摩耗性に優れた、自動車内装材用、靴を主体とした履物用、椅子張り用などの広範な用途に好適な合成皮革及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、耐久性の点から合成皮革が注目され、例えば、車両の内装表皮材や履き物、椅子やソファーなどについても天然皮革に遜色のない高級感を付与させることが重要になってきている。従来の合成皮革では、表面に形成されるシボの細さや形状に技術的な問題があり、天然皮革に匹敵する微細で精緻なシボ形状を有する合成皮革が切望されている。
一般的に合成皮革は、本革等の原稿からシリコーン樹脂等でシボ型を転写型取りし、金属型(ミル)を作製し、さらにミルから離型材製造用に転写したロールにより、離型材を製造し、開放式方式のナイフコーターによりウレタン等の塗料を塗工して離型材表面の凹凸を転写してシボ型を有する表面層を形成することで製造されていた。
【0003】
従来の離型材は、原稿のシボパターンが天然皮革から転写形成されるために、精緻・微細なパターンが形成され難かった。そこで、コンピュータグラフィックスを応用して微細なシボ表現を持つ離型材を製造する技術が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、離型材におけるシボ型が微細であっても、樹脂コーティング等により、シボ型を表面層に転写する際に、シボ型の微細な凹部に十分に樹脂が入り込まず、合成皮革表面に柄抜けによるツヤチカ等の外観不具合が発生するという問題があった。
また、合成皮革を自動車内装材用途等の耐久性を必要とする用途に用いる場合は、合成皮革表面に耐摩耗性を付与する表面処理層を形成することが行われるが、表面層において微細なシボ型が形成されていても、表面処理層を設けることで表面が白ボケしてしまい意匠性が低下してしまうという問題もあった。
【0004】
これに対し、艶消し効果の向上の観点から、表皮材の最表面部に微細粒子を一定量散布し、表皮材の最表面部をメルトし、上記微細粒子を加圧して表皮材の最表面部に埋没させることで、微細粒子を表皮材の最表面部に保持させる技術が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。この方法では、充填材として不定形の微粉末状シリカが用いられ、この表面処理によれば、確かに不自然な光沢は抑えられるものの、表面の感触は充填されたシリカの硬さや形状の影響を受けてしまい、指で触れた場合には、乾いた、硬い触感を感じるなど、表面の感触を満足させるには至っていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−148329公報
【特許文献2】特開平8−72179号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を考慮してなされたものであり、本発明の目的は、天然皮革に近い微細なシボ形状や、精緻な幾何学シボ形状を有し、且つ、耐摩耗性に優れた合成皮革を提供することにある。また、本発明の他の目的は、微細なシボ形状を有し、耐摩耗性に優れた合成皮革の簡易な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、検討の結果、特定のシボ形状作成方法と、最適な離型材と、を使用することで、微細なシボ形状を有し、且つ、耐久性にも優れた合成皮革を提供しうることを見いだし、本発明を完成した。
即ち、本発明の構成は、以下に示すとおりである。
<1> 基材上に、接着層、及び、表皮層を、この順に設けた合成皮革であって、該表皮層が断面形状において下記条件(1)〜(3)を満たすシボを表面に有する合成皮革。
(1)シボの断面形状において、凸部及び凹部における曲率半径Rが0.01mm〜0.30mmである。
(2)シボの断面形状において、凸部の内角が100°〜130°である。
(3)シボの断面形状において、凹部の開口直径が40μm〜100μmであり、且つ、凹部の深さが50μm〜150μmである。
シボの形状を上記範囲とすることで、高品位な外観が達成され、且つ、表面処理層を設けることで、合成皮革の耐摩耗性が向上する。
<2> 前記接着層と前記表皮層との間に、中間層を有する<1>に記載の合成皮革。
表皮層と接着層との間に中間層を設けることで、外観や感触を制御することができ、より高品位な外観や感触を得られる。
<3> 前記中間層が、断面形状において前記条件(1)〜(3)を満たすシボを表面に有する<2>に記載の合成皮革。
表皮層に隣接する中間層にも、表皮層と同様のシボ形状を有することで、より高品位な外観となる。
<4> 前記表皮層上に、さらに表面処理層を有する<1>〜<3>のいずれか1項に記載の合成皮革。
表皮層上に表面処理層を設けることで、合成皮革の耐摩耗性が向上する。
<5> 前記表面処理層が、着色剤を含有する<4>に記載の合成皮革。
表面処理層に着色剤を含有させることで、耐久性向上のため表面処理層の膜厚を厚くした場合でも白ボケがなく、また、黒色などの暗色着色剤を用いることで、表面防眩性が付与される。
【0008】
<6> 前記表面処理層上に、さらに第2の表面処理層を有する<4>又は<5>に記載の合成皮革。
<7> 前記第2の表面処理層が、有機フィラーを含有する<6>に記載の合成皮革。
第2の表面処理層にウレタンビーズなどの有機フィラーを含有させることで、表面にソフトでしっとりした感触が付与される。
【0009】
<8> コンピュータグラフィックスによってシボ用パターンを作成するシボ用パターン作成工程と、
作成されたシボ用パターンから得られるデジタルデータに基づいて、シリコーンゴムからなる平滑な表面層を有するロールの表面層をレーザー照射して、ロールの表面層を彫刻してシボ型を有するエンボスロールを形成する彫刻工程と、
得られたエンボスロールと、バックアップロールとの間に、不織布上に4−メチル−1−ペンテン系樹脂を含む樹脂組成物からなる樹脂層を有する離型材を挿通して該樹脂層表面にシボ型を転写して、シボ型を有する離型材を形成するシボ型転写用離型税形成工程と、
得られたシボ型転写用離型材表面に、表皮層形成用組成物、中間層形成用組成物、及び、接着層形成用組成物を、この順に加圧型密閉式のコーティングヘッドにて塗工し、基材に熱圧着させ、表皮層と中間層と接着層と基材とを含む積層体を得る積層体形成工程と、
該積層体より離型材を剥離して、シボ型が転写された表皮層を形成する工程と、得られたシボ型が転写された表面に表面処理層を塗工して合成皮革を形成する工程と、をこの順に有する<1>〜<7>のいずれか1項に記載の合成皮革の製造方法。
<9> 前記積層体形成工程が、得られたシボ型転写用離型材表面に、表皮層形成用組成物、中間層形成用組成物、及び、接着層形成用組成物を、この順に加圧型密閉式のコーティングヘッドにて塗工する工程を含む<8>に記載の合成皮革の製造方法。
コンピュータグラフィックスにより微細なシボ形状を有するエンボスロールが形成されるとともに、これを、不織布上に4−メチル−1−ペンテン系樹脂を含む樹脂組成物からなる樹脂層を有する離型材に移して、表面層に転写することで、微細なシボ形状が形成される。好ましくは、表面層は樹脂組成物を離型材の樹脂表面に塗工し、これを熱硬化させることで効率よく作成される。
【0010】
本発明の作用は明確ではないが、以下のように考えている。
本発明の合成皮革は、上記に規定したシボ形状を有する表皮層を備えることで、高品位な外観と感触とを達成している。このような表皮層は、まず、コンピュータグラフィックスを適用して設計値どおりのシボ形状を有するエンボスロールを形成し、そのエンボスロールに、4−メチル−1−ペンテン系樹脂を接触させて得られる離型材により形成される。本発明においては、離型材として、表面の塗れ指数に優れた4−メチル−1−ペンテン系樹脂を用い、さらに、本発明の好ましい態様においては、この離型材に、表皮層形成用組成物等を、加圧型密閉式コーティングヘッドを用いて適用し、層形成することにより、微細なシボ形状の凹部の奥まで表皮層材料が浸透するために、その後、加熱圧着して表皮層を形成する際には、エンボスロールに形成された高品位のシボ形状が表皮層に再現性良く形成されるものと考えている。ちなみに、通常用いられる離型材用樹脂の平均的な表面ぬれ指数は22.6〜30.0mN/m(23℃)程度であるのに対して、本発明に用いられる4−メチル−1−ペンテン系樹脂の表面ぬれ性は30.0〜34.0mN/m(23℃)であることも上記作用を裏づけていると言える。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、天然皮革に近い微細なシボ形状や、精緻な幾何学シボ形状を有し、且つ、耐摩耗性に優れた合成皮革を提供することができる。また、本発明の製造方法によれば、微細なシボ形状を有し、耐摩耗性に優れた合成皮革を簡易に製造しうる。
本発明の合成皮革は、微細なシボ形状を有し外観に優れ、且つ、耐摩耗性も良好であるために、自動車用内装材のみならず、耐久性を求められる靴などの履き物や椅子などの家具にも使用され、その応用範囲は広い。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】(A)はデジタル革シボと称される表皮層の表面を撮影した光学写真であり、(B)は該シボの断面形状を示す概略図である。
【図2】(A)は幾何学革シボと称される表皮層の表面を撮影した光学写真であり、(B)は該シボの断面形状を示す概略図である。
【図3】(A)はナチュラル革シボと称される表皮層の表面を撮影した光学写真であり、(B)は該シボの断面形状を示す概略図である。
【図4】本発明の第1の実施形態を示す合成皮革の層構成を表す概略断面図である。
【図5】本発明の実施例2に係る合成皮革の層構成を表す概略断面図である。
【図6】別の材料を用いて形成された本発明の別の実施形態を示す合成皮革の層構成を表す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
図4は、本発明の合成皮革10の第1の態様を示す概略断面図であり、基材12上に、接着層16,中間層18、表皮層20、第1の表面処理層22及び第2の表面処理層24を、この順に設けた合成皮革である。
本発明の合成皮革は、該表皮層20が断面形状において下記条件(1)〜(3)を満たすシボを表面に有することを特徴とする。
(1)シボの断面形状において、凸部及び凹部における曲率半径Rが0.01mm〜0.30mmである。
(2)シボの断面形状において、凸部の内角が100°〜130°である。
(3)シボの断面形状において、凹部の開口直径が40μm〜100μmであり、且つ、凹部の深さが50μm〜150μmである。
本発明においては、さらに、中間層も、断面形状において前記条件(1)〜(3)を満たすシボを表面に有することが好ましい。
【0014】
図1(A)は、本発明の第1の態様の表面層におけるシボの状態を撮影した光学写真であり、本実施形態では、デジタル革シボと称するコンピュータグラフィックスにより形成されたシボ形状を有する。図1(B)は、その断面形状を示す概略図である。シボの凸部及び凹部における曲率半径Rは、図1(B)に示す位置を表し、凸部の曲率半径をR、凹部の曲率半径をRで示している。Rは凸部の曲率半径Rと凹部の曲率半径Rとの平均値として表され、これらの曲率半径はいずれも、0.01mm〜0.30mmであることを要し、0.03mm〜0.20mmであることが好ましい。曲率半径R(R及びR)は、シボ形状を形成する微細な凹凸の部分で測定される。
【0015】
また、シボの断面形状における凸部の内角は、図1においてαで示される角度であり、この内角の角度は100°〜130°であることを要し、好ましくは110°〜130°の範囲である。内角αは、図A(B)、図2(B)及び図3(B)に示すように、シボ形状を形成する比較的大面積の凸部において測定され、凸部の頂部にひかれた接線と該凸部の側面に引かれた接線との交差した箇所の内角を示す。
さらに、図1においてシボの断面形状における凹部の開口径は、Xで示され、これが40μm〜100μmであることを要し、50μm〜80μmであることが好ましく、凹部の深さは図1中Yで示され、この値は50μm〜150μmであることを要し、50μm〜100μmの範囲であることが好ましい。開口部Xと深さYとは、シボ形状を形成する微細な凹凸の部分で測定される。
このような微細なシボ形状は従来の離型材を用いた転写技術によっては形成し得ない。
【0016】
また、図2(A)は、本発明の第2の態様の表面層におけるシボの状態を撮影した光学写真であり、本実施形態では、幾何学シボと称するコンピュータグラフィックスにより形成されたシボ形状を有する。図2(B)は、その断面形状を示す概略図である。
さらに、図3(A)は、本発明の第3の態様の表面層におけるシボの状態を撮影した光学写真であり、本実施形態では、ナチュラル革シボと称する天然皮革における革シボを転写し、これをコンピュータグラフィックにより加工したシボ形状を有する。図3(B)は、その断面形状を示す概略図である。
図1(B)、図2(B)、及び図3(B)の断面形状において、前記条件(1)〜(3)に規定する条件を満たすか否かを判定するための、凸部及び凹部における曲率半径Rを測定するためのR、R、凸部の内角(図中αと記載)、及び、シボの凹部の開口直径X、シボ深さYを示す。なお、開口直径Xは、シボの形状が円形ではない場合、円形に近似して算出する。また。楕円形状及びそれに類似する形状の場合には、直径Xは長径を指す。それぞれの値は、視野角における異なる場所を3箇所測定した算術平均により算出する。
【0017】
まず、本発明の第1の実施形態について説明する。
〔基材〕
本実施形態における基材12としては、基布を用いる。基布は、ポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール等の合成繊維、綿、麻等の天然繊維、レーヨン、スフ、アセテート等の再生繊維等の単独又はこれらの混紡繊維、あるいは、少なくとも一成分を溶解したり、二成分繊維を分割したりすることにより極細繊維に変性された多成分繊維からなる、編布、織布、不織布などである。この基布は、片面又は両面が起毛されていても良い。
起毛は、片面起毛であっても両面起毛であってもよいが、隣接する接着層16との接着性という観点からは、少なくとも接着層16の形成側の面が起毛を有する基布であることが好ましい。
【0018】
基布は単層のみならず、複数の繊維からなる多層構造であってもよく、例えば、太さが56〜167dtex、17〜54フィラメントのポリエステル糸を用いなる編み布に、厚みが1.0mmの片面起毛を有するトリコット基布を、無起毛面で貼り合せたものを用いてもよい。
また、基布として、表面に起毛を有するメリヤスを用いてもよい。横編み汎用のメリヤスを用いると、ランが発生するおそれがあるために、本願出願人が提案した特開平9−111671号公報に記載の、メリヤスのコース方向に、ヨコ糸としてスパン糸を通す特殊な編み方をしたメリヤスを用いることも好ましい。この特殊編メリヤスは、例えば、両面編みメリヤスを基本として、適切な間隔でコース方向にスパン糸をクロスミスインターロックにて編み込む等の方法で得ることができる。該特殊編メリヤスの基布表面にサーキュラー、エメリー、起毛機等で起毛処理を行ない、僅かに毛羽立たせて表面に起毛繊維を有するようにしてもよい。
【0019】
〔湿式ミクロポーラス層〕
上記基材は湿式ミクロポーラス層を有していてもよい。
湿式ミクロポーラス層を構成する材料としては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタンが挙げられ、特にポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、更にはポリカーボネート系ポリウレタンが耐加水分解性、耐熱劣化性等に優れており、好適である。湿式ミクロポーラス層は、一般的な基布含浸法により作製される。例えば、ポリカーボネート系ポリウレタン含有ジメチルホルムアミド溶液に基布を浸漬するか、或いは、基布に該溶液を塗布し、水中で凝固、脱溶媒させ、脱水後、120℃の熱風下で乾燥して表面平滑性に優れる湿式ミクロポーラス層を形成することができる。湿式ミクロポーラス層については、例えば、特開平7−132573号公報に詳細に記載され、当該公報に記載されるような湿式ミクロポーラス層を有する基材を本発明の合成皮革の作製に使用できる。
湿式ミクロポーラス層の厚みは50〜400μmであることが好ましく、100〜300μmであることがより好ましい。この厚みの範囲で合成皮革として最適な柔軟性とボリューム感が達成される。
【0020】
〔ポリウレタン接着層〕
ポリウレタン接着層に使用できるポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物等が挙げられ、自動車内装材や椅子などの家具用で長期耐久性が必要な場合には、ポリカーボネート系ポリウレタンが好適である。
ポリウレタン接着層の厚みは、20〜200μm程度で、接着層として使用するポリウレタンは、JIS K−6301に準じて測定した硬さが、100%モジュラスで98〜980N/cmであり、望ましくは196〜588N/cmが好適である。また、この接着層に用いられる接着剤には、架橋剤、及び、必要に応じて架橋促進剤が添加されていてもよい。
なお、ポリウレタンの硬さ(100%モジュラス)を調整する方法としては、例えば、柔らかくしたい場合には、ソフトセグメントとなるポリオール成分比率を増加、またはポリオールの分子量を大きくし、硬くしたい場合には、ハードセグメントとなるウレタン結合、ウレア結合を増加させ、またヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(水添XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)等の架橋剤を添加してエネルギーを付与し、架橋構造を形成する方法などが挙げられる。
【0021】
〔中間層〕
本実施形態においては、接着層16と表皮層20との間に中間層18を設けてもよい。所望により設けられる中間層18は、ポリウレタンを含有することが好ましい。
中間層に用いられるポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物が挙げられ、自動車内装材用で長期耐久性が必要な場合ポリカーボネート系ポリウレタンが好適である。
ポリウレタン中間層の厚みは、10〜200μm程度であり、10〜100μm程度であることが好ましく、30〜60μmであることがより好ましい。
中間層として使用するポリウレタンの硬さは、100%モジュラスで98〜1176N/cmが適する。
また、この中間層に用いられるポリウレタンとしては、ブロックタイプイソシアネートプレポリマーとアミン系鎖長剤が添加される。一回のコーティングで厚膜を確保するためブロックタイプイソシアネートプレポリマーの固形分は、50〜90%であることが望ましい。
【0022】
〔表皮層〕
本実施形態では、ポリウレタンを含有する表皮層20を用いる。表皮層に微細なシボ形状を形成する方法は、以下に詳述する。
表皮層20に使用されるポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物等が挙げられ、自動車内装材用で長期耐久性が必要な場合ポリカーボネート系ポリウレタンが好適である。
ポリウレタン表皮層20の厚みは、10〜100μm程度であり、30〜60μmであることがより好ましい。
表皮層に使用されるポリウレタンのさらに好ましい物性としては、JIS K−6301に準じて測定した硬さが、100%モジュラスで98〜1176N/cmが好ましく、300〜600N/cmがより好ましい。
ポリウレタン表皮層20は、以下に製造方法において詳述する離型材上にポリウレタン系表皮層形成用組成物を加圧型密閉式コーティングヘッドにて塗工し、加熱乾燥して所望の厚みに形成させることにより製造することができる。
【0023】
ここで、さらに、ポリウレタン中間層18を設けるときは、離型材上に形成されたポリウレタン表皮層20の上に中間層形成用組成物を加圧型密閉式コーティングヘッドにて塗工し、加熱乾燥して所望の厚みに形成させることにより製造することができる。以下、ポリウレタン中間層18を有する態様を例に挙げて説明する。
表皮層20及び中間層18に離型材から転写した微細なシボ形状を形成した後、離型材は剥離される。このように、中間層形成用組成物をさらに塗布することで、中間層18にも、前記本発明で規定されるシボ形状を形成することで、外観がより向上する。
表皮層20及び中間層18を形成する各組成物には、ウレタン樹脂の他、目的に応じて種々の添加剤を併用してもよい。添加剤としては、滑剤(シリコーンオイル、WAX等)、難燃剤(リン系、ハロゲン系、無機金属系等)発泡剤(熱膨張マイクロカプセル、アゾジカルボンアミド(ADCA)等)、が挙げられる。
なお、合成皮革として安価な製品が求められる場合には、図5に示すような中間層18を有しない態様としてもよい。
【0024】
〔第1の表面処理層〕
前記表皮層20は合成皮革の最表面を構成してもよいが、耐久性向上の観点から、さらに表面処理層22を形成することが好ましい。
即ち、得られた微細なシボ表現をもつ合成皮革の表皮層20表面に、ダイレクトグラビアまたはリバースグラビア印刷機にて摩耗性付与のため、水分散ポリウレタン表面処理剤を塗工して第1の表面処理層22を設ける。
水分散ポリウレタン表面処理剤に使用できるポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物等が挙げられ、自動車内装材用で長期耐久性が必要な場合ポリカーボネート系ポリウレタンが好適である。
水分散ポリウレタンからなる第1の表面処理層22の厚みは、2〜50μm程度で、使用するポリウレタンの硬さは、100%モジュラスで490〜1470N/cmが好適である。
水分散ポリウレタンを含有する第1の表面処理剤22には、さらに、架橋剤、滑剤、着色剤を添加してもよい。第1の表面処理層22に着色剤を添加することで、表面処理層24を設けることで生じる白ぼけなどの発生が抑制され、耐久性とともに好ましい外観が付与される。
【0025】
〔第2の表面処理層〕
高触感を得る目的で、前記第1のポリウレタン表面処理剤22上に、さらに、第2の表面処理剤24を設けてもよい。第2の表面処理層24は、第1の表面処理層22上に、ダイレクトグラビアまたはリバースグラビア印刷機にて塗工することで設けられる。
第2のポリウレタン表面処理層24の形成に使用できるポリウレタンとしては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン及びこれらの変性物等が挙げられ、自動車内装材で長期耐久性が必要な場合ポリカーボネート系ポリウレタンが好適である。
第2のポリウレタン表面処理剤の厚みは、1〜10μm程度で、使用するポリウレタンの硬さは、100%モジュラスで98〜1470N/cm程度で望ましくは490〜980N/cmである。
第2の表面処理層24には、ソフトでしっとりした触感を得るために粒径が有機フィラーを添加してもよい。有機フィラーとしては、具体的には、数平均粒子径が1〜40μmのウレタンビーズが挙げられる。他の有機フィラーとしては、シリコーンビーズ、アクリルビーズ等が挙げられる。
有機フィラーは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機フィラーの含有量は、第2の表面処理層24の全固形分中、0.1〜2.0質量%であることが好ましい。
【0026】
次に、本発明の別の材料を用いて形成した実施形態について図6を参照して説明する。
本実施形態に係る合成皮革30は、基布12表面に、塩化ビニル接着層32、塩化ビニル発泡層34、塩化ビニル表皮層36を積層し、表皮層36の上に、第1の本実施形態と同様に、第1の表面処理層22や第2の表面処理層24を有してもよい。図6は、第1の表面処理層22及び第2の表面処理層24を有する態様を示す概略断面図である。
ここで用いられる基布12、第1の表面処理層22及び第2の表面処理層24は第1の実施形態におけるのと同様である。
〔塩化ビニル発泡層〕
第2の実施形態では、多孔質樹脂層として塩化ビニル発泡層34を備える。
塩化ビニル発泡層34に用いられる塩化ビニル樹脂は、従来、塩化ビニルレザーに使用されているものであれば特に制限なく使用できる。具体的には、平均重合度800〜2000、好ましくは800〜1500程度のポリ塩化ビニルの他、塩化ビニルを主体とする、エチレン、酢酸ビニル、メタクリル酸エステル等との共重合樹脂や、これらの樹脂とポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリロニトリル、スチレン−ブタジエン共重合樹脂、部分ケン化ビニルアルコール等との混合樹脂などが挙げられる。
塩化ビニル発泡層は、これら塩化ビニル樹脂に、可塑剤、発泡剤などを含有させた組成物を、カレンダー法、又は、キャスティング法により基布に適用して層を形成することで作製できる。発泡は、組成物を基布上に適用した後行ってもよく、また、予め発泡させた層(シート)を形成し、これを基布に接着させてもよい。塩化ビニル発泡層と基布との間には、両者の接着性を向上させるため、後述する塩化ビニル接着層が設けられる。
塩化ビニル発泡層は、例えば、特許代第2942479公報に記載の方法により作製され、個々に記載の発泡層は、本実施形態における発泡層として使用しうる。
塩化ビニル発泡層34を用いる場合、その厚みは20〜500μmであることが好ましく、50〜250μmであることがより好ましい。この厚みの範囲で合成皮革として最適な柔軟性とボリューム感が達成される。
【0027】
〔接着層〕
前記塩化ビニル発泡層34を用いた場合、隣接する表皮層36との接着性を向上する観点から、塩化ビニル発泡層34と親和性の良好な塩化ビニル接着剤を用いた接着層32を用いることが好ましい。
接着層32形成に用いる接着剤としては、例えば、レタンプレポリマー、塩形成剤及び鎖伸長剤を含有する水系ポリウレタン樹脂と、酢酸ビニル系ラテックスと、イソシアネート基を1分子中に2個以上有する有機ポリイソシアネート系架橋剤と、を含有する接着剤組成物が好ましく挙げられる。また、接着層32の形成には、塩化ビニル接着剤以外にも、例えば、ポリエステル系ポリウレタン接着剤、ポリエーテル系ポリウレタン接着剤、及び、ポリカーボネート系ポリウレタン接着剤等の公知の接着剤を適宜選択して用いてもよい。
このような接着剤は、例えば、特開平6−256749号公報に記載されるものが好ましく挙げられ、同公報に記載の方法により形成され、形成された塩化ビニル接着層32の厚みは、20〜200μm程度であることが好ましい。
【0028】
〔表皮層〕
本実施形態における表皮層としては、塩化ビニル表皮層36が用いられる。塩化ビニル表皮層36は、塩化ビニルペーストゾルを、例えば、特許第2942479号公報に記載されるように、既述の離型材の表面にコーティングし、加熱ゲル化させて得られる。
表皮層として塩化ビニル表皮層を用いる場合においては、厚みは、150〜800μm程度であることが好ましく、250〜600μmであることがより好ましい。
塩化ビニル表皮層36は、離型材上に塩化ビニルペーストゾルを塗布し乾燥する際に、加圧型密閉式コーティングヘッドにて塗工し、加熱乾燥して所望の厚みに形成させることにより製造することができる。
塩化ビニル表皮層36に離型材から転写した微細なシボ形状を形成した後、離型材は剥離される。
塩化ビニル表皮層36には、塩化ビニル樹脂や塩化ビニルペーストゾルの他、目的に応じて種々の添加剤を併用する。添加剤としては、可塑剤、安定剤、無機充てん剤、及び、着色剤などが挙げられる。
【0029】
上記構成を有する本発明の合成皮革は、表皮層に本発明に規定する微細なシボを有するために、天然皮革にちかい高品質な外観を有し、耐摩耗性に優れるために、種々の分野に応用される。
このような微細なシボ形状を有する合成皮革は、以下に述べる本発明の合成皮革の製造方法により容易に製造することができる。
【0030】
〔合成皮革の製造方法〕
次に、前記した微細なシボ形状を有する本発明の合成皮革の好ましい製造方法について述べる。
本発明の合成皮革の製造方法は、コンピュータグラフィックスによってシボ用パターンを作成するシボ用パターン作成工程と、作成されたシボ用パターンから得られるデジタルデータに基づいて、シリコーンゴムからなる平滑な表面層を有するロールの表面層をレーザー照射して、ロールの表面層を彫刻してシボ型を有するエンボスロールを形成する彫刻工程と、得られたエンボスロールと、バックアップロールとの間に、不織布上に4−メチル−1−ペンテン系樹脂を含む樹脂組成物からなる樹脂層を有する離型材を挿通して該樹脂層表面にシボ型を転写して、シボ型を有する離型材を形成するシボ型転写用離型材形成工程と、得られたシボ型転写用離型材表面に、表面層形成用樹脂を加圧型密閉式のコーティングヘッドにて塗工し、その表面にさらに多孔質樹脂層を設けた後、基材に熱圧着させ、表面層と多孔質樹脂層と基材とを含む積層体を得る積層体形成工程と、該積層体より離型材を剥離して、基材表面に多孔質樹脂層と、シボ型が転写された表面層とを有する合成皮革を形成する工程と、をこの順に有することを特徴とする。
【0031】
ここで、積層体を形成する際に、多孔質樹脂層と基材との間に既述のようにポリウレタン、或いは、塩化ビニル樹脂から選ばれる、多孔質樹脂層の素材に応じた接着剤を塗布して接着剤層を形成する工程を有することが好ましい。接着剤層を設けることで、合成皮革における層間剥離が抑制され、耐久性が撚り向上する。
また、シボ型を有する表面層上に、さらに表面処理層を形成することで、耐久性や外観を制御することができる。表面処理層は1層設けてもよく、2層以上を設けてもよい。それぞれの表面処理層に着色剤や有機フィラーなどを含有させ、異なる機能を付与してもよく、このような機能の異なる表面処理層同士を積層して設けてもよい。
【0032】
〔表面層の形成〕
本発明に係る表皮層を得るためには、コンピュータグラフィックスによってシボ用パターンを作成するシボ用パターン作成工程と、作成されたシボ用パターンから得られるデジタルデータに基づいて、シリコーンゴムからなる平滑な表面層を有するロールの表面層をレーザー照射して、ロールの表面層を彫刻してシボ型を有するエンボスロールを形成する彫刻工程とを経て得られたエンボスロールを用いる。シボ用パターンは、コンピュータグラフィックスの画面上で当初より創作したものを用いてもよく、また、天然皮革などの原型パターンからスキャニングし、これをコンピュータグラフィックスの画面上でパターン加工して作成してもよい。このようなエンボスロールの製造方法は、特開2004−148329公報に詳細に記載され、これを本発明に適用してもよい。
【0033】
次に、このエンボスロール(絞押しロール)を用いて、不織布上に4−メチル−1−ペンテン系樹脂を含む樹脂組成物からなる樹脂層を有する離型材形成用のシートの樹脂層にシボ型を転写し得られた離型材を用いる。この離型材を組合せることで製造された精緻なシボ形状、微細でかつ深いシボ形状の離型材上に、表皮材を構成するポリウレタン塗料を加圧型密閉式のコーティングヘッドにて塗工し加熱乾燥して所望の厚みに形成させることにより製造することができる。この表皮層に使用できるポリウレタンとしては、既述の通りである。なお、このような離型材については、特開2009−61601公報に詳細に記載されており、この離型材を本発明の製造方法に適用してもよい。
上記ポリウレタン表皮層は、上述の離型材上にポリウレタンを塗布し乾燥する際に、ポリウレタン中間層を密閉式もしくは開放式コーティングヘッドにて塗工し加熱乾燥して所望の厚みに形成させることにより製造することができる。この中間層に使用できるポリウレタンは、ブロックタイプイソシアネートプレポリマーとアミン系鎖長剤が添加されることが好ましい。一回のコーティングで厚膜を確保するためブロックタイプイソシアネートプレポリマーの固形分は、50〜90%であることが望ましい。
離型材上に表皮層及び中間層を積層後、ポリウレタン接着剤を密閉式もしくは開放式コーティングヘッドにて塗工し加熱乾燥して所望の厚みに形成後、基布または、基布の湿式ミクロポーラス層形成面あるいはポリウレタンの付着含浸面に熱圧着して熟成させ、接着剤を反応硬化させた後、離型紙を剥離することによって目的とする微細なシボ形状を有する表皮層を得る。その後、表面処理層を形成することで本発明の合成皮革が製造される。
【0034】
上記で得られた微細なシボ表現をもつ合成皮革の表皮層表面にダイレクトグラビアまたはリバースグラビア印刷機にて摩耗性付与のため、水分散ポリウレタンを塗工して、表面処理剤(第1の表面処理層)を形成する。
また、既述のように、水分散ポリウレタンを含有する第1の表面処理層上に、さらに、ダイレクトグラビアまたはリバースグラビア印刷機にて樹脂組成物を塗工することで第2の表面処理剤を設けてもよい。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
(実施例1)
コンピュータグラフィックスにより天然皮革の原型を作成し、そのデジタルデータに基づいてシリコーンゴムローラ表面を赤外線レーザ彫刻し、微細なシボ形状を有する絞押しロール(エンボスロール)を得た。
このエンボスロールと、不織布上に4−メチル−1−ペンテン系樹脂を含む樹脂組成物からなる厚さ200μmの樹脂層を有する離型材形成用のシートを用いて、精緻なシボ形状をもつ革シボ形状の離型材を作製した。
離型材上に100%モジュラスが539N/cmの無黄変型ポリカーボ系ポリウレタン塗料(DIC(株)製:クリスボンNY324S )を乾燥後の厚さが30μmになる様に加圧型密閉式のコーティングヘッドにて塗工し、100℃で2分間熱風乾燥してピンホールがない均一なポリウレタン表皮層20を形成した。
【0036】
次に、この表皮層20上に、100%モジュラスが440N/cmで固形分80%の難黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン塗料(バイエル製:インプラニールHS−85LN)を乾燥後の厚さが80μmになる様に加圧型密閉式のコーティングヘッドにて塗工し、160℃で2分間熱風乾燥してピンホールがない均一なポリウレタン中間層18を形成した。
さらに、この中間層18上に、100%モジュラスが245N/cmの難黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン接着剤(DIC(株)製:クリスボンTA205)を乾燥後の厚みが50μmとなる様に加圧型密閉式のコーティングヘッドにて塗工し100℃で2分間乾燥しポリウレタン接着層16を形成した。
【0037】
次いで、太さが84dtex、36フィラメントのポリエステル糸を用いて編み、厚みが1.0mmの片面起毛を有するトリコット基布12を、無起毛面で貼り合せ、巻き取った後、50℃で48時間熟成して接着層16を反応硬化させてから、離型材を剥離して、シボ転写不良による柄抜け、ツヤチカがない合成皮革用の表層20を有する積層体を得た。
得られた積層体上に、100%モジュラスが784N/cmの無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン表面処理剤(スタール社製:WF−13−139)に着色剤としてカーボンブラック顔料を1質量%、滑材としてシリコーンエマルジョン(日信化学工業(株)製:シャリーヌ170EM)を10質量%、また架橋剤としてカルボジイミドを5質量%添加し、乾燥厚みが8μmとなる様にダイレクトリバースグラビアコーターにて塗工し140℃×2分間乾燥して平面摩耗性に優れる第1の表面処理層22を形成した。
さらに、第1の表面処理層22上に100%モジュラスが735N/cmの無黄変型ポリカーボネート系ポリウレタン(大日精化工業(株)製:レザミンLU−503SP)に艶消し剤として、平均粒径10−20μmのウレタンビーズと吸放湿機能を持つ有機物((株)カネカ製:コラーゲン粉末(平均粒径3−5μm))が添加されている表面処理剤を、乾燥厚みが3μmとなる様にダイレクトグラビアコーターにて塗工し140℃×2分間乾燥してしっとりした高触感の第2の表面処理層24を形成して、精緻なシボ形状をもつ革シボ調の合成皮革10を得た。
【0038】
得られた合成皮革は、高触感でボリューム感があり、かつ、自動車シートのシートメイン、メインサイド用として摩耗性、耐光性、耐加水分解性、耐熱老化性に優れるものであった。
実施例1で得た合成皮革の耐摩耗性及び触感については、以下の方法にて評価を行った。結果を表2に示す。
〔耐摩耗性〕
平面摩耗性試験条件
JASO M 403/88/シート表皮用布材料の平面摩耗試験機(B法)を参考に試験を行った。以下のように、試験条件をJASO法よりも厳しい条件で行った。
試験条件
JASO法 → 試験方法
押圧荷重:9.81N → 19.6N
試験回数:10,000回 → 40,000回
判定義順は下記表1に示す通りである。
【0039】
【表1】

【0040】
〔感触評価〕
(1)乾湿感
触感試験条件は以下の通りである。
試験機としては、カトーテック(株)社製KES-SE摩擦感テスターを用いた。
試験条件
摩擦子:指紋タイプセンサー
速度:1.0m/sec
荷重:25g
評価方法
上記条件にて得られた、MIU(平均摩擦係数)/MMD(摩擦係数変位)の値より乾湿感を求め客観的に判定する。MIU/MMDが10〜40の範囲において感触が良好と判断される。
【0041】
(2)厚薄感
厚薄感に係る触感試験条件は以下の通りである。
試験機としては、カトーテック(株)社製KES−G5ハンディー圧縮試験機を用いた。
試験条件
速度:0.2mm/sec
荷重:50gf/cm
評価方法
上記条件にて得られた、To−Tmの値より厚薄感を求め判定する。To−Tmの値が大きいほどボリューム感がある。
〔外観〕
ツヤチカは、外観を目視で観察し、天然皮革にはない、不自然な光沢が認められるものをツヤチカありとして「×」と評価し、外観上の不自然な光沢が認められないものを「○」と評価した。
ツヤトーンの官能評価の判断基準は以下の通りである。
試験機としては(株)堀場製作所製 IG−320ハンディ光沢計を用い、各合成皮革の表面における光沢を測定し、全体の60°グロス値が0.8〜1.6であり、且つ、凸部と凹部とのグロス値の差が0.5以上の場合を「○」と評価し、この基準を満たさないものを「×」と評価した。
【0042】
(実施例2)
前記実施例1において、形成した表皮層20上に、第1の表面処理層、及び、第2の表面処理層を設けなかった以外は、実施例1と同様にして、図5に示す層構成を有する実施例2の合成皮革11を得た。実施例2の合成皮革は、図5の断面図にも明らかなように、基布12上に、接着層16、中間層18、及び、表皮層20を順次有する合成皮革11である。
(実施例3)
前記実施例1で用いた離型材上のシボ形状を天然皮革様から、コンピュータグラフィックスで創作した幾何学模様に変更した以外は実施例1と同様に調製して実施例3の合成皮革を得た。
(比較例1)
実施例1で用いた天然皮革の原型からコンピュータグラフィックスを使用せず、従来用いられるシリコーン樹脂でシボ型を転写取りし、金属型(ミル)を作製し、さらに、該ミルから離型材製造用に転写した金属型シボロール(エンボスロール)を得た。得られたエンボスロールを離型材に使用した以外は実施例1と同様にして比較例1の合成皮革を得た。
【0043】
(比較例2)
比較例1で用いた離型材上のシボ形状を比較例1における天然皮革様から実施例2で用いた幾何学模様に変更した以外は比較例1と同様にして比較例2の合成皮革を得た。
(比較例3)
実施例1において、表皮層形成用組成物を塗工して表皮層を形成する工程と、表皮層上に中間層形成用組成物を塗工して中間層を形成する工程において、塗工方法を、加圧型密閉式のコーティングヘッドから開放式のコーティングヘッドに変更した以外は実施例1と同様にして比較例3の合成皮革を得た。
実施例2〜3及び比較例1〜3で得た合成皮革の耐摩耗性及び触感についても、実施例1と同様にして評価を行った。結果を下記表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
表2に明らかなように、本発明の製造方法で得られた合成皮革は、いずれも、外観、感触及び耐摩耗性のいずれにも優れるものであった。また、実施例1と実施例2との対比より、表面処理層を設けることで、耐摩耗性や蝕感が改良されることがわかる。
【符号の説明】
【0046】
10 11 30 合成皮革
12 基材(基布)
16 32 接着層
20 36 表皮層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、接着層、及び、表皮層を、この順に設けた合成皮革であって、該表皮層が断面形状において下記条件(1)〜(3)を満たすシボを表面に有する合成皮革。
(1)シボの断面形状において、凸部及び凹部における曲率半径Rが0.01mm〜0.30mmである。
(2)シボの断面形状において、凸部の内角が100°〜130°である。
(3)シボの断面形状において、凹部の開口直径が40μm〜100μmであり、且つ、凹部の深さが50μm〜150μmである。
【請求項2】
前記接着層と前記表皮層との間に、中間層を有する請求項1に記載の合成皮革。
【請求項3】
前記中間層が、断面形状において前記条件(1)〜(3)を満たすシボを表面に有する請求項2に記載の合成皮革。
【請求項4】
前記表皮層上に、さらに表面処理層を有する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の合成皮革。
【請求項5】
前記表面処理層が、着色剤を含有する請求項4に記載の合成皮革。
【請求項6】
前記表面処理層上に、さらに第2の表面処理層を有する請求項4又は請求項5に記載の合成皮革。
【請求項7】
前記第2の表面処理層が、有機フィラーを含有する請求項6に記載の合成皮革。
【請求項8】
コンピュータグラフィックスによってシボ用パターンを作成するシボ用パターン作成工程と、
作成されたシボ用パターンから得られるデジタルデータに基づいて、シリコーンゴムからなる平滑な表面層を有するロールの表面層をレーザー照射して、ロールの表面層を彫刻してシボ型を有するエンボスロールを形成する彫刻工程と、
得られたエンボスロールと、バックアップロールとの間において、不織布上に4−メチル−1−ペンテン系樹脂を含む樹脂組成物からなる樹脂層を有する離型材の樹脂層をエンボスロール表面に圧着して、該樹脂層表面にシボ型を転写して、シボ型を有する離型材を形成するシボ型転写用離型材形成工程と、
得られたシボ型転写用離型材表面に、表皮層形成用組成物、及び、接着層形成用組成物を、この順に加圧型密閉式のコーティングヘッドにて塗工し、基材に熱圧着させ、表皮層と接着層と基材とを含む積層体を得る積層体形成工程と、
該積層体より離型材を剥離して、シボ型が転写された表皮層を形成する工程と、
得られたシボ型が転写された表面に表面処理層を塗工して合成皮革を形成する工程と、をこの順に有する請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の合成皮革の製造方法。
【請求項9】
前記積層体形成工程が、得られたシボ型転写用離型材表面に、表皮層形成用組成物、中間層形成用組成物、及び、接着層形成用組成物を、この順に加圧型密閉式のコーティングヘッドにて塗工する工程を含む請求項8に記載の合成皮革の製造方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−127010(P2012−127010A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−277332(P2010−277332)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(390023009)共和レザー株式会社 (17)
【Fターム(参考)】