説明

合成石英粉の評価方法

【課題】合成石英粉について、半導体シリコン単結晶の製造用石英ルツボの原料として適切に評価する方法を提供する。
【解決手段】合成石英粉を加熱開始から30分以内に溶融ガラス化した後に、徐冷してガラス塊とし、このガラス塊から薄板を作成し、この薄板の表面を研磨した後に顕微鏡観察して気泡の密度を計測し、単位面積当たりの気泡密度を測定することを特徴とする合成石英粉の評価方法であって、好ましくは。合成石英粉を、大気下または減圧下、10〜30℃/secの昇温速度で1700℃〜1800℃まで加熱して溶融ガラス化し、上記温度範囲で2〜7分保持した後に室温まで徐冷してガラス塊にし、このガラス塊から薄板を作成する合成石英粉の評価方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成石英粉について、半導体シリコン単結晶の製造用石英ルツボの原料として適切に評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
合成石英粉はアルコキシシランや四塩化珪素の加水分解によって製造することができ、高純度であるので半導体シリコン単結晶の製造用石英ルツボの原料として使用することができる。この合成石英粉の品質の良否は、最終的には実際に石英ルツボを製造して評価されるが、石英ルツボを製造せずに合成石英粉の品質を評価する方法として、合成石英粉を真空溶解炉で1700℃〜1800℃に加熱して溶融し、あるいは溶融後、1500℃〜1630℃で5時間加熱処理した後に徐令して石英ガラス塊にし、光学的に評価する方法などが知られている(特許文献1〜4)。
【0003】
しかし、従来の上記評価方法で用いる真空加熱炉は1700℃〜1800℃まで昇温するのに数時間を要するが、石英ガラスルツボの製造では、原料の合成石英粉を数分間のアーク溶融によって溶融ガラス化する。このため、従来の真空加熱炉を用いた評価方法は実際に石英ガラスルツボの製造における熱履歴を忠実に反映しているとは言い難い。
【0004】
例えば、石英ガラスルツボの製造工程のように、合成石英粉を数分間で溶融ガラス化すると、石英粉の間に存在する空気が閉じ込められて気泡の多いガラスになりやすい。一方、合成石英粉を数時間かけて溶融ガラス化すると、合成石英粉の間に存在する空気はガラス化する途中で外部に抜け、気泡の少ないガラスになりやすい。このため、合成石英粉を数時間かけてガラス化する方法では石英ルツボの製造に適した評価を行うことが難しい。
【特許文献1】特開平10−152330号公報
【特許文献2】特開平10−182139号公報
【特許文献3】特開平10−231117号公報
【特許文献4】特開2002−14032号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の評価方法における上記問題を解決したものであり、合成石英粉について、半導体シリコン単結晶の製造用石英ルツボの原料として適切に評価する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決する手段として以下の構成を有する合成石英粉の評価方法に関する。
〔1〕合成石英粉を加熱開始から30分以内に溶融ガラス化した後に、徐冷してガラス塊とし、このガラス塊から薄板を作成し、この薄板の表面を研磨した後に顕微鏡観察して気泡の密度を計測し、単位面積当たりの気泡密度を測定することを特徴とする合成石英粉の評価方法。
〔2〕合成石英粉を、大気下または減圧下、10〜30℃/secの昇温速度で1700℃〜1800℃まで加熱して溶融ガラス化し、上記温度範囲で2〜7分保持した後に室温まで徐冷してガラス塊にする上記[1]に記載する合成石英粉の評価方法。
〔3〕赤外線透過性のサンプルホルダーに合成石英粉を充填し、該サンプルホルダーを赤外線高速加熱炉に入れて合成石英粉を溶融ガラス化する上記[1]または上記[2]に記載する合成石英粉の評価方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の評価方法は、合成石英粉を30分以内に溶融ガラス化し、好ましくは、10〜30℃/secの昇温速度で1700℃〜1800℃まで加熱して溶融ガラス化し、上記温度範囲で2〜7分保持した後に室温まで徐冷してガラス塊にするので、半導体シリコン単結晶の製造用石英ガラスルツボの製造工程に即して合成石英粉を適切に評価することができる。
【0008】
具体的には、合成石英粉を溶融ガラス化する際に生じるガラス内部の微細気泡(マイクロバブル)の密度を石英ガラスルツボの製造方法に即して適切に評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の方法は、合成石英粉を加熱開始から30分以内に溶融ガラス化した後に、徐冷してガラス塊とし、このガラス塊から薄板を作成し、この薄板の表面を研磨した後に顕微鏡観察して気泡の密度を計測し、単位面積当たりの気泡密度を測定することを特徴とする合成石英粉の評価方法である。
【0010】
〔ガラス化工程〕
本発明の評価方法は、合成石英粉を加熱開始から30分以内に溶融ガラス化した後に、徐冷してガラス塊にする。好ましくは、合成石英粉を、大気下または減圧下、10〜30℃/secの昇温速度で1700℃〜1800℃まで加熱して溶融ガラス化し、上記温度範囲で2〜7分保持した後に室温まで徐冷してガラス塊にする。
【0011】
合成石英粉の溶融ガラス化する時間が加熱開始から30分を超えると、上記石英ガラスルツボの製造工程における加熱溶融時間に対して大幅に異なるようになるので好ましくない。一方、合成石英粉を、大気下または減圧下、10〜30℃/secの昇温速度で1700℃〜1800℃まで加熱すれば、概ね3分以内に合成石英粉を溶融ガラス化することができ、1700℃〜1800℃で2〜7分保持した後に室温まで徐冷してガラス塊にすれば、上記石英ガラスルツボの製造工程における溶融ガラス化の加熱処理に近い熱履歴を与えることができる。
【0012】
なお、石英ガラスルツボの製造工程において、合成石英粉を10torr以下の減圧下で真空引きを行いながら加熱溶融してガラス化することによって、内部気泡を除去することが知られている。本発明の評価方法においても、合成石英粉を10torr以下の減圧下で加熱溶融してガラス化することによって上記製造方法の加熱処理に応じた評価方法を実現することができる。
【0013】
また、合成石英粉を溶融してガラス化した後に、この溶融ガラス化温度(1700℃〜1800℃)に2〜7分保持することによって、サンプルホルダー全体を一様な温度に保持しサンプルホルダー内に充填した合成石英粉全体のガラス化を促進させることが可能となる。
【0014】
合成石英粉を上記昇温速度で溶融してガラス化する手段として、赤外線透過性のカーボン製サンプルホルダーを用い、このサンプルホルダーに合成石英粉を充填し、赤外線高速加熱炉に入れて加熱溶融するとよい。
【0015】
〔気泡密度の測定〕
合成石英粉を加熱開始から1時間以内に溶融ガラス化した後に、徐冷してガラス塊とし、このガラス塊から薄板を作成し、この薄板の表面を研磨した後に顕微鏡観察して気泡の密度を計測する。
【0016】
具体的には、例えば、ホルダーから取り出した石英ガラス塊を切断して厚さ2mm程度の板材を切り出し、この板材の両面を研磨して最終的に厚さ0.3mm〜0.4mm程度の鏡面研磨面の薄板サンプルを形成する。この薄板サンプルを光学顕微鏡観察し、観察される気泡の個数を計測して単位体積当たりの気泡密度を測定する。
【実施例】
【0017】
本発明の実施例を比較例と共に以下に示す。
〔高速加熱装置〕合成石英粉の高速加熱装置として、アルバック理工株式会社製赤外線加熱装置(MR39H/D)を用いた。
〔気泡密度〕気泡密度は顕微鏡下20倍率の画像において、丸いコントラストとして観察される直径1mm以上の点を計測し、1cm3当たりの個数によって示した。
【0018】
〔実施例1〕
評価対象である合成石英粉0.4〜0.5gを所定のセル容器(カーボン製ホルダー;8mmφ×10mmH)に深さ8〜9分目まで充填し、高速加熱装置の加熱チャンバー内に挿入した。加熱を開始し、20℃/secの速度で昇温して、約90秒でセル容器の温度を1800℃まで到達させ、そのままの状態で7分間保持した後にパワーオフした。セル容器の温度は、底部に接触した熱電対によって測定し、モニタリングした。セル容器が室温まで冷却されたのを確認した後、セル容器をチャンバー内から取り出し、石英粉が溶解して形成された石英ガラス塊をセル容器の中から取り出した。
円筒状の石英ガラス塊を、直径に対し垂直な方向にマイクロカッターで切断して厚さ2mm程度の板材を切り出し、この板材の面積最大面を両面共に研磨して、最終的に厚さ0.3〜0.4mmまで薄板化した。研磨は、研磨布を張った小型卓上研磨機で市販の研磨紙および研磨剤を使用して実施し、鏡面仕上げになるまで研磨を実施した。
得られた板状の石英ガラスサンプルを光学顕微鏡で観察し、サンプル内に発生した気泡(丸いコントラストとして観察される)の個数を計測し、その単位体積当たりの密度を求めた。この結果を表1に示した。
【0019】
〔実施例2〜3〕
昇温速度を10℃/secまたは30℃/secにした以外は実施例1と同様にして合成石英粉を加熱溶融してガラス化し、サンプル内に発生した気泡の密度を求めた。この結果を表1に示した。
【0020】
〔実施例4〕
加熱到達温度を1700℃にした以外は実施例1と同様にして合成石英粉を加熱溶融してガラス化し、サンプル内に発生した気泡の密度を求めた。この結果を表1に示した。
【0021】
〔比較例1〕
評価対象である合成石英粉15〜20gをカーボン製の椀状の溶融容器に充填し、真空溶解炉に入れて加熱溶融し、石英ガラス塊にした。炉内の真空度は約10-2torr、1800℃までの昇温時間は2時間10分、1800℃での保持時間は10分であった。熱処理後に、石英ガラス塊が室温まで冷却するまで約12時間程度放置した後、溶融容器を炉内から取り出した。溶融容器内の石英ガラス塊について実施例1と同様にして板状の石英ガラスサンプルを作成し、サンプル内に発生した気泡の密度を求めた。この結果を表1に示した。
【0022】
〔比較例2、3〕
1800℃までの昇温時間を3時間または4時間に変えた以外は実施例1と同様にして合成石英粉を加熱溶融してガラス化し、サンプル内に発生した気泡の密度を求めた。この結果を表1に示した。
【0023】
表1に示すように、実施例1〜4では、サンプル内に発生した気泡の密度を測定することができるが、従来の真空加熱炉をもちいた比較例1〜3では、加熱条件を変えても石英ガラス薄板のサンプルは完全に透明化しており、気泡の発生は殆ど観察されず、合成石英粉の評価方法としては不適切であることが分かる。
【0024】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成石英粉を加熱開始から30分以内に溶融ガラス化した後に、徐冷してガラス塊とし、このガラス塊から薄板を作成し、この薄板の表面を研磨した後に顕微鏡観察して気泡の密度を計測し、単位面積当たりの気泡密度を測定することを特徴とする合成石英粉の評価方法。
【請求項2】
合成石英粉を、大気下または減圧下、10〜30℃/secの昇温速度で1700℃〜1800℃まで加熱して溶融ガラス化し、上記温度範囲で2〜7分保持した後に室温まで徐冷してガラス塊にする請求項1に記載する合成石英粉の評価方法。
【請求項3】
赤外線透過性のサンプルホルダーに合成石英粉を充填し、該サンプルホルダーを赤外線高速加熱炉に入れて合成石英粉を溶融ガラス化する請求項1または請求項2に記載する合成石英粉の評価方法。

【公開番号】特開2010−101814(P2010−101814A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−274986(P2008−274986)
【出願日】平成20年10月25日(2008.10.25)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】