説明

吊り下げフック

【課題】ジョイント部の軸長の増大やジョイント部相互の係合力の低下を招くことなく、上部フック片と下部フック片の組付けの容易化を図ることのできる吊り下げフックを提供する。
【解決手段】下部フック片11のジョイント部13に、突き合わせ面14と、分割片16a,16bから成る軸部16と、分割片16a,16bの先端から径方向外側に延出する係止爪18とを設ける。上部フック片10のジョイント部12に、突き合わせ面20と、軸穴22と、係止爪18を受容する受容空間23と、受容空間23に臨み軸穴22からの係止爪18の抜けを規制しつつ係止爪18の回転方向の摺動を許容する環状規制壁25とを設ける。下部フック片11のジョイント部13に、軸部16のスリット17に連続し突き合わせ面14よりも深く窪む凹部19を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、吊り下げ対象物を支持部材に回転可能に吊り下げるための吊り下げフックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
日常用品や小物等を支持部材に吊り下げる吊り下げフックとして、吊り下げ対象物を回転可能に吊り下げるものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載の吊り下げフックは、支持部材に係止される上部フック片と、吊り下げ対象物を係止する下部フック片とを備え、上部フック片と下部フック片にそれぞれ突設された軸部が連結部材を介して回転可能に連結されている。具体的には、各軸部の先端部には抜け止めフランジが形成され、各抜け止めフランジが二つ割り構造の連結部材に相対回転可能に保持されるとともに、連結部材が筒部材によって締付け固定されている。
【0004】
また、フック片を支持軸に回転可能に連結した吊り下げフックとして、フック片を支持軸にワンタッチで容易に組み付けられるようにしたものが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
特許文献2に記載の吊り下げフックは、支持軸側のジョイント部に、軸方向に沿うスリットによって複数の分割片に分割された軸部と、この軸部の各分割片の先端から径方向外側に突出する係止爪とが設けられ、フック片側のジョイント部に、支持軸側の軸部が嵌入される軸穴と、この軸穴の底部に連設されて支持軸側の係止爪を受容する受容空間と、この受容空間に臨み軸穴からの係止爪の抜けを規制しつつ係止爪の回転方向の摺動を許容する環状規制壁とが設けられている。したがって、この吊り下げフックにおいては、支持軸側の軸部をフック片側の軸穴内に押し込むことにより、フック片を支持軸に対して容易に組み付けることができる。
【特許文献1】実開昭62−190581号公報
【特許文献2】特開2005−119441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の吊り下げフックは、部品点数が多く製品コストの高騰を招くうえ、上部フック片と下部フック片の組み付け作業が煩雑になる。
【0007】
また、特許文献2に記載の吊り下げフックは、部品点数の増加や組み付け作業性の煩雑さの問題は解消されるものの、全体をコンパクトにするために軸部の長さを短くすると、軸穴に対する軸部の嵌入時に分割片に作用する応力が大きくなり、嵌入作業が難しくなるとともに、分割片に損傷が生じ易くなる。また、軸部の長さを単純に長くすると、ジョイント部の軸長が長くなるだけでなく、嵌入後に分割片に復元力が働きにくくなる。
【0008】
そこで、この発明は、ジョイント部の軸長の増大やジョイント部相互の係合力の低下を招くことなく、上部フック片と下部フック片の組付けの容易化を図ることのできる吊り下げフックを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決する請求項1に記載の発明は、支持部材に係止される上部フック片と、吊り下げ対象物を係止する下部フック片と、を備え、前記上部フック片と下部フック片のジョイント部を、吊り下げ対象物の吊り下げ方向に沿う軸線回りに相対回転可能に組み付けた吊り下げフックにおいて、前記上部フック片と下部フック片のうちの一方のジョイント部に、前記軸線と直交する突き合わせ面と、この突き合わせ面から前記軸線方向に沿って突出し軸方向に沿うスリットによって複数の分割片に分割された軸部と、この軸部の各分割片の先端から径方向外側に延出する係止爪と、を設け、前記上部フック片と下部フック片のうちの他方のジョイント部に、前記軸線と直交し前記一方のジョイント部の突き合わせ面に突き合わせられる突き合わせ面と、この突き合わせ面に形成され前記軸部が嵌入される軸穴と、この軸穴の底部に連設されて前記分割片の係止爪を受容する受容空間と、この受容空間に臨み前記軸穴からの前記係止爪の抜けを規制するとともに前記係止爪の回転方向の摺動を許容する環状規制壁と、を設け、前記一方のジョイント部に、前記軸部のスリットに連続し当該ジョイント部の突き合わせ面よりも深く窪む凹部を設けたことを特徴とする。
【0010】
これにより、上部フック片と下部フック片を組み付ける場合に、他方のジョイント部の軸穴に一方のジョイント部の軸部の先端部を押し込むと、軸部を構成する複数の分割片が先端側を窄めるように撓み変形し、係止爪が軸穴から受容空間に抜けたところで各分割片が初期状態に復帰し係止片が環状規制壁によって抜けを係止されるようになる。分割片が軸穴に嵌入されて撓み変形する際には、撓み支点が、突き合わせ面よりも深く窪んだ凹部の底部分となる。また、この吊り下げフックの場合、突き合わせ面がスリットで分割されるものでないため、凹部の周囲には大きな復元力が作用する。
【0011】
請求項2に記載の発明は、請求項1項に記載の吊り下げフックにおいて、前記一方のジョイント部の前記凹部の周囲をなす部分の外形を略半球状に形成したことを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の吊り下げフックにおいて、前記一方のジョイント部を下部フック片側に設けたことを特徴とする。
これにより、受容空間や環状規制壁を設けるために大容積を必要とし全体重量が重くなるジョイント部が上部フック片側となり、下部フック片側のジョイント部は相対的に小型・軽量化できるようになる。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載の発明によれば、各分割片の撓み支点が凹部の底部分となるため、軸部の軸長を延ばすことなく各分割片に作用する応力を分散させ、軸穴に対する軸部の嵌入作業の容易化と軸部の損傷防止を図ることができる。また、突き合わせ面にスリットを形成するのではなく、スリットに連続するように部分的に凹部を設けたため、軸穴に軸部を嵌入した後には、凹部の周囲に作用する大きな復元力によって分割片を初期状態に確実に復帰させることができる。
さらに、この発明の場合、軸部の嵌入時における撓み変形が一方のジョイント部の突き合わせ面にも現れるため、軸部の嵌入後に一方のジョイント部と他方のジョイント部の突き合わせ面同士を当接させることで分割片の撓み変形を矯正し、ジョイント部相互の係合力をより高めることができる。
【0014】
請求項2に記載の発明によれば、一方のジョイント部の凹部の周囲をなす部分の外形を略半球状に形成したことから、軸部の嵌入時に分割片の付根側に作用する応力を凹部の周域に均等に分散させて大きな復元力を確実に得ることができる。
【0015】
請求項3に記載の発明によれば、軸部を有する一方のジョイント部を下部フック片側に設けたため、下部フック片側をより小型・軽量化して、吊り下げ対象物の回転の円滑化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、この発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下の説明においては、特別に断らない限り、上下は、吊り下げフック1を実際に吊り下げて使用したときにおける上下を意味するものとする。
図1は、この発明にかかる吊り下げフック1を、電池式防虫器2(吊り下げ対象物)を吊り下げるに用いた様子を示すものであり、同図中3は、吊り下げフック1を係止するロッド状の支持部材を示す。電池式防虫器2は、防虫成分を保持させた基体を内部に収納し、電池でモーターを駆動させ、遠心力及び/又はファンによる風力を利用して防虫成分を外部に揮散させるものである。防虫成分としては、例えば、メトフルトリンやプロフルトリンのような揮発性ビレスロイド成分や天然ハーブ系防虫成分が上げられるが、勿論これらに限定されない。
【0017】
吊り下げフック1は、図2〜図6にも示すように、鉤状の大形のフック部10aを有する上部フック片10と、上部フック片10のフック部10aよりも小形の鉤状のフック部11aを有する下部フック片11と、を備えている。これらの上部フック片10と下部フック片11は合成樹脂材料によって形成されており、上部フック片10と下部フック片11の各付根部には、両フック片10,11を連結するジョイント部12,13がそれぞれ一体に設けられている。両ジョイント部12,13は、上部フック片10と下部フック片11を、吊り下げ対象物の吊り下げ方向に沿う軸線p回りに相対回転可能に連結するようになっている。
【0018】
下部フック片11のジョイント部13は、フック部11aが下端側に連結され上部に軸線pと直交する偏平な突き合わせ面14が設けられた半球状のジョイント基部15と、ジョイント基部15の突き合わせ面14の中心部から上方(軸線pに沿う方向)に突出する軸部16と、を備えている。軸部16は、軸方向に沿うスリット17によって2つ分割片16a,16bに分割され、各分割片16a,16bの先端部には、軸部16(分割片16a,16b)に対して径方向外側に延出する略半円形状の係止爪18が設けられている。この係止爪18は、下面側が偏平に形成される一方で、上面側が軸部16の中心に向かって緩やかに収束するテーパ状の曲面形状となっている。また、分割片16a,16bの相互に対向する面には、上端側に向かって両者の離間幅が次第に増大するように傾斜が設けられている。
【0019】
また、ジョイント基部15の上面中央の分割片16a,16bの間の領域には、分割片16a,16bを二分するスリット17に連続し突き合わせ面14よりも深く窪む断面略長方形状の凹部19が形成されている。この凹部19は、分割片16a,16bの幅内の範囲にのみ部分的に形成されている。
【0020】
一方、上部フック片10のジョイント部12は円筒状に形成され、下端に軸線pと直交する偏平な突き合わせ面20が設けられている。このジョイント部12の外径は、下部フック片11側のジョイント基部15の上端部の外径と同径に形成され、ジョイント部12とジョイント基部15が突き合わせ面20,14で相互に突き合わされた状態において、両者の外面形状が滑らかに連続するようになっている。また、突き合わせ面20の中心部には、軸線pに沿い下部フック片11の軸部16が嵌入される軸穴22が形成され、ジョイント部12の軸穴22の底部位置には、軸穴22から挿入された各分割片16a,16bの係止爪18を受容する受容空間23が形成されている。なお、軸穴22の下端には、軸部16の挿入を容易にするためにテーパ状のガイド斜面22aが設けられている。
【0021】
受容空間23は、円柱状のジョイント部12の軸穴22の底部に対応する位置に、直径方向に沿って形成された貫通孔24によって形成されている。貫通孔24は、上辺が下辺に対して短く、両側の上部コーナが緩やかに湾曲した略台形状の断面形状とされている。そして、ジョイント部12には、上記の略台形状の貫通孔24が形成されることにより、受容空間23に下方側から臨む偏平な環状規制壁25が形成されている。この環状規制壁25は、軸部16が軸穴22に挿入されて分割片16a,16bの先端の係止爪18が軸穴22を抜けたときに、係止爪18の下面が当接することで軸穴22からの係止爪18の抜けを規制するとともに係止爪18の回転方向の摺動を許容する。
【0022】
上部フック片10と下部フック片11を組み付ける場合には、上部フック片10側のジョイント部12の軸穴22に下部フック片11側の軸部16の先端を押し込んで嵌入する。このとき、軸部16を構成する各分割片16a,16bは係止爪18の上部外周側の傾斜部分を軸穴22の内壁によって押圧され、先端側を内側に窄めるように撓み変形することによって軸穴22内に嵌入される。そして、分割片16a,16bの先端側の係止爪18が軸穴22を通り抜けると、図6に示すように、各分割片16a,16bが初期状態に弾性復帰して係止爪18が受容空間23内に位置され、その下面が環状規制壁25の上面に当接するようになる。
【0023】
分割片16a,16bが軸穴22の内壁に押圧されて撓み変形する際には、図7に示すように、突き合わせ面14よりも低位の凹部19の底部分を支点cとして半球状のジョイント基部15自体も撓み変形する。これにより、分割片16a,16bは突き合わせ面14からの突出長さよりも長い支点距離Lをもって変形することになる。なお、このときのジョイント基部15の撓み変形は凹部19を中心として突き合わせ面14を上方に反らせる変形となる。そして、係止爪18が受容空間23内に位置されて分割片16a,16bが弾性復帰する際には、ジョイント基部15の撓みも初期状態に戻される。
【0024】
こうして組み立てられた吊り下げフック1は、軸部16と軸穴22の嵌合部を中心とした上部フック片10と下部フック片11の相対回転が可能になり、しかも、下部フック片11に作用する吊り下げ荷重が係止爪18と環状規制壁25の当接部を通して上部フック片10に確実に支持されるようになる。
【0025】
この吊り下げフック1は、前述のように軸部16を軸穴22に嵌入する際に、突き合わせ面14よりも低位の凹部19の底部分を支点cとして半球状のジョイント基部15が撓み変形するようになっているため、軸部16の軸長を延ばすことなく、嵌入時に各分割片16a,16bに作用する応力をジョイント基部15の広い範囲に分散させることができる。このため、軸穴22に対する軸部16の挿入を容易化することができるとともに、軸部16(分割片16a,16b)の損傷を防止することができる。また、軸部16の短縮によって小型化を図ることもできる。
【0026】
また、この吊り下げフック1は、スリット17に連続するように下部フック片11の上面中央に部分的に凹部19が設けられ、突き合わせ面14の周域が分断されないようになっているため、軸穴22に軸部16を嵌入した後には、凹部19の周囲に作用する大きな復元力によって分割片16a,16bを確実に初期状態に復帰させることができる。
【0027】
特に、この実施形態の場合、凹部19の周囲を囲むジョイント基部15が半球状に形成されているため、軸部16の嵌入時に分割片16a,16bの付根側に作用する応力をジョイント基部15全体に均等に分散させ、より大きな復元力を得ることができる。
【0028】
さらに、この吊り下げフック1は、前述のように凹部19の底部分を支点cとして半球状のジョイント基部15が突き合わせ面14を上方に反らせるようにして撓み変形するため、軸部16を軸穴22に完全に嵌入した後に、下部フック片11と上部フック片10の突き合わせ面14,20同士を押し付けることにより、分割片16a,16bの撓み変形を矯正することができる。したがって、これにより係止爪18と環状規制壁25との係合を確実にし、上部フック片10と下部フック片11の結合力を高めることができる。
【0029】
また、軸部16や凹部19を上部フック片10側に形成し、軸穴22や受容空間23、環状規制壁25等を下部フック片11側に形成することも可能であるが、この実施形態の吊りげフック1は、形成のための大きな容積が必要となる軸穴22や受容空間23、環状規制壁25等を上部フック片10側に形成するようにしているため、上部フック片10に支持される下部フック片11側を小型・軽量化することができる。したがって、これにより吊り下げ対象物の回転の円滑化を図ることができる。
【0030】
なお、この発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の一実施形態の吊り下げフックの使用状態における斜視図。
【図2】同実施形態の吊り下げフックの分解状態での正面図。
【図3】同実施形態の吊り下げフックの分解状態での側面図。
【図4】同実施形態の上部フック片の下面図。
【図5】同実施形態の下部フック片の上面図。
【図6】同実施形態を示すものであり、図3の状態から下部フック片を90°回転させたときにおける吊り下げフックの縦断面図。
【図7】同実施形態の下部フック片の正面図。
【符号の説明】
【0032】
1…吊り下げフック
2…電池式防虫器(吊り下げ対象物)
3…支持部材
10…上部フック片
11…下部フック片
12,13…ジョイント部
14…突き合わせ面
16…軸部
16a,16b…分割片
17…スリット
18…係止爪
19…凹部
22…軸穴
23…受容空間
25…環状規制壁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持部材に係止される上部フック片と、
吊り下げ対象物を係止する下部フック片と、
を備え、
前記上部フック片と下部フック片のジョイント部を、吊り下げ対象物の吊り下げ方向に沿う軸線回りに相対回転可能に組み付けた吊り下げフックにおいて、
前記上部フック片と下部フック片のうちの一方のジョイント部に、前記軸線と直交する突き合わせ面と、この突き合わせ面から前記軸線方向に沿って突出し軸方向に沿うスリットによって複数の分割片に分割された軸部と、この軸部の各分割片の先端から径方向外側に延出する係止爪と、を設け、
前記上部フック片と下部フック片のうちの他方のジョイント部に、前記軸線と直交し前記一方のジョイント部の突き合わせ面に突き合わせられる突き合わせ面と、この突き合わせ面に形成され前記軸部が嵌入される軸穴と、この軸穴の底部に連設されて前記分割片の係止爪を受容する受容空間と、この受容空間に臨み前記軸穴からの前記係止爪の抜けを規制するとともに前記係止爪の回転方向の摺動を許容する環状規制壁と、を設け、
前記一方のジョイント部に、前記軸部のスリットに連続し当該ジョイント部の突き合わせ面よりも深く窪む凹部を設けたことを特徴とする吊り下げフック。
【請求項2】
前記一方のジョイント部の前記凹部の周囲をなす部分の外形を略半球状に形成したことを特徴とする請求項1項に記載の吊り下げフック。
【請求項3】
前記一方のジョイント部を下部フック片側に設けたことを特徴とする請求項1または2に記載の吊り下げフック。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−172002(P2009−172002A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10707(P2008−10707)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【出願人】(000207584)大日本除蟲菊株式会社 (184)
【Fターム(参考)】