説明

吸着パッド及びそれを備えた吸着装置

【課題】コストアップや空圧回路の複雑化を招くことなく吸着パッドと物品との分離を迅速に行うことができる吸着パッドを提供する。
【解決手段】)物品(W)を吸着するための吸着パッド(5)を、本体部(5a)と本体部(5a)の一面側と他面側との空間同士を連通し第1の最小流路面積(Sc)を有して形成された第1の通気孔(5c)と、本体部(5a)の周縁から一面側にスカート状に延出し物品(W)に密着する吸着部(5b)と、本体部(5a)又は吸着部(5b)に形成され、一面側と他面側との空間同士を連通すると共に第1の最小流路面積(Sc)よりも小さい第2の最小流路面積(Sf)を有する第2の通気孔(5f)及び第2の通気孔(5f)を囲繞すると共に一面側において吸着部(5b)の先端部(5b1)を越えない高さで突出形成された周壁部(5g)を含む補助ポート部(5p)と、を備えるものとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸着パッド及びそれを備えた吸着装置に係り、特に、吸着パッドで物品を吸着した状態から吸着パッド内の真空破壊を短時間に行える吸着パッド及びそれを備えた吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
吸着パッドを備え、その吸着パッドで物品を吸着する吸着装置が知られている。吸着装置地は、例えば、鉄板等の物品を吸着して移送する場合に利用されている。
特許文献1には、このような吸着装置の例が示されている。具体的には、エジェクタにより負圧を発生させ、そのエジェクタに接続した吸着パッドで薄板等を吸着するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−31671号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されたようなエジェクタを利用した吸着装置において、被吸着部材である物品を吸着パッドから分離させる際には、エジェクタの動作を停止させるのが一般的である。この動作停止により、吸着パッド内に空気が流入して吸着パッド内の真空が破壊され、物品を吸着パッドから分離できるようになる。
しかしながら、エジェクタと吸着パッドとを繋ぐ経路が長く流路体積が大きい場合は、真空状態が破壊されるまで比較的長い時間を要する。
そのため、時間効率向上のために真空破壊を短時間に行って吸着パッドと物品とを迅速に分離したい場合には、真空発生と真空破壊との両方の機能を有するエジェクタを用いるか、エジェクタとは別に真空破壊用の空圧回路を設けることが行われてきているが、これらはコストアップや空圧回路の複雑化を招くという問題があった。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、コストアップや空圧回路の複雑化を招くことなく、吸着パッドと物品との分離を迅速に行うことができる吸着パッド及びそれを備えた吸着装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は次の構成を有する。
1) 物品(W)を吸着するための吸着パッド(5)であって、
本体部(5a)と、
前記本体部(5a)の一面側と他面側との空間同士を連通し第1の最小流路面積(Sc)を有して形成された第1の通気孔(5c)と、
前記本体部(5a)の周縁から前記一面側にスカート状に延出し前記物品(W)に密着する吸着部(5b)と、
前記本体部(5a)又は前記吸着部(5b)に形成され、前記一面側と前記他面側との空間同士を連通すると共に前記第1の最小流路面積(Sc)よりも小さい第2の最小流路面積(Sf)を有する第2の通気孔(5f)と、前記第2の通気孔(5f)を囲繞すると共に前記一面側において前記吸着部(5b)の先端部(5b1)を越えない高さで突出形成された周壁部(5g)と、を含む補助ポート部(5p)と、
を備えたことを特徴とする吸着パッド(5)である。
2) 前記吸着部(5b)が前記物品(W)に密着した状態で、前記本体部(5a),前記吸着部(5b),及び前記物品(W)とで囲まれた閉空間(V1)の気圧が所定値を越える負圧の場合に、前記周壁部(5g)は、前記物品(W)と離隔し前記第2の通気孔(5f)から外部の空気の前記閉空間(V1)への流入を許容すること特徴とする1)に記載の吸着パッド(5)である。
3) 前記閉空間(V1)の気圧が所定値以下の負圧の場合に、前記周壁部(5g)は、前記物品(W)に密着して前記第2の通気孔(5f)からの前記閉空間(V1)への空気流入を遮断することを特徴とする2)に記載の吸着パッドである。
4) 前記吸着部(5b)の前記先端部(5b1)のみを前記物品(W)に接触させた状態で、前記本体部(5a),前記吸着部(5b),及び前記物品(W)とで囲まれた閉空間(V1)の空気を、前記第2の通気孔(5f)から流入する外部の空気の流量(Qf)よりも多い流量(Qc)で前記第1の通気孔(5c)から排気することで、前記周壁部(5g)が前記物品(W)に密着して前記第2の通気孔(5f)から前記閉空間(V1)に進入する空気を遮断した吸引状態に移行し、
前記吸引状態において前記第1の通気孔(5c)から前記閉空間(V1)に給気することで、前記周壁部(5g)が前記物品(W)から離隔して前記第2の通気孔(5f)から前記閉空間(V1)への空気流入を許容する非吸引状態に移行することを特徴とする1)〜3)のいずれか一つに記載の吸着パッド(5)である。
5) 前記補助ポート部(5p)を複数備えたことを特徴とする1)〜4)のいずれか一つに記載の吸着パッド(5C)である。
6) 複数の前記補助ポート部(5p1〜5p4)は、所定の一点に対して点対称に配置されていることを特徴とする5)に記載の吸着パッド(5C)である。
7) 前記周壁部(5g)は、前記吸着部(5b)の先端部(5b1)の形状に沿って延在する勾玉状に形成されていることを特徴とする1)〜6)のいずれか一つに記載の吸着パッド(5)である。
8) 負圧発生部(3)と吸着パッド(5)とを備え、前記負圧発生部(3)で発生させた負圧により前記吸着パッド(5)で物品(W)を吸着する吸着装置(51)であって、
前記吸着パッド(5)は、
本体部(5a)と、
前記本体部(5a)の一面側と他面側との空間同士を連通して形成され前記他面側において前記負圧発生部(3)と接続された第1の通気孔(5c)と、前記本体部(5a)の周縁から前記一面側にスカート状に延出して形成され前記物品(W)に密着する吸着部(5b)と、
前記本体部(5a)又は前記吸着部(5b)において、前記一面側と前記他面側との空間同士を連通するよう形成された第2の通気孔(5f)と、
前記第2の通気孔(5f)を囲繞すると共に前記一面側において前記吸着部(5b)の先端部(5b1)を越えない高さで突出形成された周壁部(5g)と、
を有し、
前記負圧発生部(3)は、前記吸着部(5b)の前記先端部(5b1)のみを前記物品(W)に接触させた状態で、前記第1の通気孔(5c)から吸引する前記本体部(5a),前記吸着部(5b),及び前記物品(W)で囲まれた閉空間(V1)の空気の流量(Qc)が前記第2の通気孔(5f)から前記閉空間(V1)に流入する空気の流量(Qf)よりも多くなるように前記負圧を発生させることを特徴とする吸着装置(51)である。
9) 前記閉空間(V1)の気圧が所定値以下の負圧の場合に、前記周壁部(5g)は、前記物品(W)に密着して前記第2の通気孔(5f)からの前記閉空間(V1)への空気流入を遮断することを特徴とする8)に記載の吸着装置(51)である。
10) 前記閉空間(V1)の気圧が、前記所定値を越える負圧の場合に、前記周壁部(5g)は、前記物品(W)から離れて前記第2の通気孔(5f)から前記他面側の空気の前記閉空間(V1)への流入を許容すること特徴とする8)又は9)に記載の吸着装置(51)である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、コストアップや空圧回路の複雑化を招くことなく、吸着パッドと物品との分離を迅速に行うことができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の吸着装置の実施例を説明するための回路図である。
【図2】本発明の吸着パッドの実施例を説明するための図である。
【図3】本発明の吸着装置の実施例における吸着過程を説明するための図である。
【図4】本発明の吸着装置の実施例における真空破壊過程を説明するための図である。
【図5】本発明の吸着パッドの実施例における変形例1を説明するための図である。
【図6】本発明の吸着パッドの実施例における変形例1の作用を説明するための図である。
【図7】本発明の吸着パッドの実施例における変形例2を説明するための図である。
【図8】本発明の吸着パッドの実施例における変形例3を説明するための図である。
【図9】本発明の吸着パッドの実施例における変形例4を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態を、好ましい実施例により図1〜図9を用いて説明する。
図1は、実施例の吸着装置51の回路図である。
吸着装置51は、給気部1と排気部2との間に配置されたエジェクタ3と、エジェクタ3に接続された吸着パッド5と、を含んで構成されている。エジェクタ3が作動して生じた負圧により吸着パッド5の内側の空気が吸引される。
図2(a)は吸着パッド5の下面図であり、図2(b)は図2(a)におけるS1−S1断面図である。上下方向については便宜的に図の矢印で規定する。
吸着パッド5は、やや扁平の円筒状に形成され貫通孔5cを有する本体部5aと、本体部5aの下方縁部から斜め下方にスカート状に延出した吸着部である鰭部5bと、有して構成されている。貫通孔5cは、例えば本体部5aの中央部に形成されている。鰭部5bは、被吸着部材となる物品の平坦な面に密着できるようになっている。より具体的には、鰭部5bの先端部5b1が同一平面上に位置するように形成されている。貫通孔5cは、吸着パッド5の一方側である下方側の空間と他方側である上方側の空間とを連通する通気孔である。
本体部5aの貫通孔5cには、エジェクタ3と貫通孔5cとの間をエアホース5eを介して連結するためのカプラ5dが取り付けられている。
【0010】
本体部5aには、上方側の空間と下方側の空間とを連通する貫通孔5fが設けられている。下面5a1には、貫通孔5fを取り囲み下方側に延出する周壁部5gが設けられている。すなわち、周壁部5gは貫通孔5fを囲繞するように形成されている。周壁部5gは、本体部5aの下面5a1から先端部5g1が距離hの位置となるよう突出している。
周壁部5gは、図2(a)に示されるような貫通孔5fを円形で囲むものに限らない。楕円形や角形で囲むものでもよく、貫通孔5fを一周に亘って切れ目がなく囲むものであれば形状は限定されない。この貫通孔5fと周壁部5gとを含んで補助ポート部5pが構成されている。
【0011】
自然状態で、周壁部5gの先端部5g1の上下方向位置は、鰭部5bの先端部5b1の上下方向位置よりも距離Δhだけ上方側(本体部5a側)に位置するようになっている。すなわち、周壁部5gは、その先端部5g1が鰭部5bの先端部5b1を超えない高さとなるように突出形成されている。
貫通孔5fの横断面形状における最小面積Sfは、貫通孔5cの横断面形状における最小面積Scよりも小さく設定されている。すなわち、貫通孔5fにおける流路面積は、貫通孔5cにおける流路面積よりも小さく設定されている。
具体的には、貫通孔5c及び貫通孔5fは、鰭部5bの先端部5b1を被吸着部材Wの表面に密着させた状態で、エジェクタ3の作動により生じた負圧により貫通孔5cを通して本体部5a,吸着部5b,及び被吸着部材Wで囲まれた空間(閉空間とも称する)V1から排出される空気の流量Qcが、その排出に伴い貫通孔5fを通じて外部から流入する空気の流量Qfよりも大きくなるように設けられている。ここで流量Qc,Qfは、単位時間あたりの空気の移動体積である。
【0012】
図2(a),(b)では、貫通孔5c及び貫通孔5fは、それぞれ直径Dc,Dfで内部空間を円柱状とする孔とされているが、内部空間の形状を、円柱状に限らず、楕円柱状,角柱状,星形などの異形柱状とする孔であってもよい。
本体部5a,鰭部5b,及び周壁部5gは、同一の材料で形成されている。材料例はゴムである。特に鰭部5b及び周壁部5gは、外部からの力で容易に変形するように薄肉に形成されている。
【0013】
次に、吸着パッド5と被吸着部材Wとの吸着について図3を参照して説明する。
図3(a)〜(b)は、吸着パッド5の被吸着部材Wへの吸着動作について説明する図である。貫通孔5cは、エジェクタ3と接続されているが、各図では簡単のためにカプラ5dを含むエジェクタ3側を除いて図示されている。
ここでは、一例として被吸着部材を鉄板Wとしている。
【0014】
図3(a)には、鰭部5bの先端部5b1のみを鉄板Wの表面に密着させた状態が示されている。
この状態では、周壁部5gの先端部5g1と鉄板Wとの間には、距離Δhの隙間が生じている。
ここでエジェクタ3を作動させると、負圧が生じ、貫通孔5cを介して本体部5aと鰭部5bと鉄板Wとで囲まれた閉空間V1の空気が流量Qc吸い出される。
この吸出に伴って、貫通孔5fからは、流量Qfにて外部から閉空間V1に空気が流入するが、上述のように、Qc>Qfとなるように貫通孔5c及び貫通孔5fの形状等が設定されているので、閉空間V1内は、流量(Qc−Qf)に相当する空気流出が生じて負圧となる。従って、吸着パッド5は、鰭部5bが変形しつつ本体部5aが鉄板Wに接近する。
【0015】
閉空間V1の内部の気圧が所定値の負圧に減少すると、本体部5aは距離Δhだけ鉄板Wに接近し、図3(b)に示されたように、周壁部5gの先端部5g1が鉄板Wに接触する。
この接触で、本体部5aの下面5a1と周壁部5gと鉄板Wとで囲まれた閉空間V2が形成される。この閉空間V2は、閉空間V1に対して遮断されているので、閉空間V1への外部からの空気流入が停止する。
従って、閉空間V1から排出される空気の流量は流量Qcに増加し、本体部5aの鉄板Wへの接近速度は増加する。
【0016】
図3(c)は、閉空間V1の気圧が所定の値以下の負圧であって、充分減圧された状態になり、鉄板Wを保持するに十分な吸引力が発揮される所定の吸引状態が示されている。
エジェクタ3で発生する負圧による空気の吸引流量は、この吸引状態が維持され得る程度の流量Qc1に減少させてもよい。
この吸引状態で、本体部5aは、鉄板Wに最接近しており、周壁部5gは、変形して鉄板Wに対し鰭部5bと同様に密着している。本体部5aの鉄板Wへの接近に伴う閉空間V2の体積減少は、閉空間V2と外部空間とが貫通孔5fにより連通しているので、なんら抵抗なく行われる。
【0017】
次に、吸着パッド5と被吸着部材Wとの分離について図4を参照して説明する。
まず、被吸着部材Wを吸着パッド5から開放する際には、図3(c)に示される所定の吸引状態においてエジェクタ3の作動を停止する。
この作動停止により、図4(a)に示されるように、貫通孔5cには、エジェクタ3側から閉空間V1に対して空気が流量Qaにて流入する。
閉空間V1への空気流入により、本体部5aは、鉄板Wから離れる方向に移動する。この移動により本体部5aと鉄板Wとの隙間が広がって両者の間隔が距離hになった状態が図4(b)に示されている。
【0018】
この図4(b)の状態は、周壁部5gの先端部5g1が鉄板Wから離れる直前の状態であり、閉空間V1の気圧が所定の値の負圧になっている。更に閉空間V1に空気が流入し、閉空間V1の気圧が所定の値を越えた負圧になると、本体部5aと鉄板Wとの間隔が距離hより大きくなって周壁部5gの先端部5g1と鉄板Wとの間に隙間が生じ、図4(c)の非吸引状態となる。
【0019】
この状態では、外部空間の空気が貫通孔5fから周壁部5gの先端部5g1と鉄板Wとの間の隙間Gを介して閉空間V1に流入する。これにより閉空間V1へ流入する空気の流量は、QaからQa+Qfに増加するので、閉空間V1の真空破壊は急速に進行する。
【0020】
このように、吸着パッド5は、補助ポート部5pを有し、真空破壊の過程で、閉空間V1の気圧が所定の値以上の負圧に上昇すると、被吸着部材Wに密着していた補助ポート部5pにおける周壁部5gの先端部5g1が被吸着部材Wから離れ、それ以降、外部空間の空気が閉空間V1内に流入するので真空破壊が急速に行われる。従って、被吸着部材Wと吸着パッド5との分離を極めて迅速に行うことができる。
【0021】
同様の過程で真空破壊が急速実行される吸着パッドとして以下の変形例がある。
<変形例1>
図5は、変形例1の吸着パッド5Aを示す図であり、図5(a)が下面図、図5(b)が図5(a)におけるS2−S2断面図である。
吸着パッド5Aは、中央部に貫通孔5cを有する本体部5Aaと、本体部5Aaの下方縁部から斜め下方にスカート状に延出した鰭部5Abと、を有して構成されている。
鰭部5Abには、同心円状の複数条を有して形成された蛇腹からなる接続部5Ajを介することで、鰭部5Abの他の部位に対して上下方向に独立移動可能な密着部5Amが設けられている。密着部5Amと接続部5Ajとを含んで補助ポート部5Apとされている。密着部5Amは、周辺の鰭部5Abよりも薄肉とされ、貫通孔5Afが形成されている。
【0022】
この吸着パッド5Aは、被吸着部材Wに鰭部5Abの先端部5Ab1が接触した状態で、本体部5Aa,鰭部5Ab,及び被吸着部材Wとで囲まれた閉空間VA1(図6参照)から貫通孔5Acを通じてエジェクタ3の負圧により排気される排出流量QAcよりも、その排気に伴い貫通孔5Afを介して外部から閉空間VA1に流入する流入流量QAfの方が少なくなるようになってきる。従って、吸引過程において、上下方向に独立して移動可能な密着部5Amが鰭部5Abの他の部位よりも先に鉄板Wに密着し、それにより貫通孔5fが塞がれて吸引が加速するようになっている。図6には、密着部5Amが先行して鉄板Wに密着した状態が示されている。
【0023】
また、真空破壊の過程では、エジェクタ3の作動停止に伴って貫通孔5Acから閉空間VA1に空気が流入する。そして、閉空間VA1の気圧が上昇して所定の値の負圧に達し、ある程度本体部5Aaが鉄板Wから離れると、図6に示された状態から密着部5Amが鉄板Wから引き離される。これにより貫通孔5Afが開放されて外部空間から閉空間VA1に空気が流入するので、真空破壊が急速に行われる。従って、被吸着部材Wと吸着パッド5Aとの分離を極めて迅速に行うことができる。
【0024】
<変形例2>
図7(a)は、変形例2の吸着パッド5Bの補助ポート部5Bpを示す部分断面図である。
図7(b)は、補助ポート部5Bpが、周辺の鰭部5Bbよりも先行して被吸着部材Wに密着した状態を示している。
この変形例2の吸着パッド5Bは、変形例1に対して、補助ポート部5Bpにおける貫通孔5Bfを含む所定範囲の部位である密着部5Bkの材質を、鰭部5Bbの材質よりも柔軟なものとしたものである。これにより、密着部5Bkは、接続部5Ajを設けることなく、鰭部5Bbの他の部位よりも容易に、独立した上下方向の移動が可能になっている。密着部5Bkは、鉄板Wとは反対側になる面(上方側の面)を抉って他の部位よりも薄肉としてもよい。
この吸着パッド5Bも、吸着パッド5Aと同様に、真空破壊が急速に行われ得るので、被吸着部材Wと吸着パッド5Bとの分離を極めて迅速に行うことができる。
【0025】
<変形例3>
図8は、吸着パッド5の変形例3である吸着パッド5Cの下面図である。吸着パッド5Cは、吸着パッド5における補助ポート部5pを、所定の中心点CTR(例えば本体部5aの中心、あるいは鰭部5bの外周形状の中心)に対して点対称に複数形成した例である。図8では、鰭部5bの外周形状が円であって、その円の中心点CTRまわりに角度間隔90°で四つの補助ポート部5p1〜5p4を設けた例が示されている。
このように補助ポート部5p1〜5p4を所定の中心点に対して点対称に設けることで、吸引過程及び真空破壊過程において鰭部5bの変形が周方向でバランスよく行われるので、吸引状態が安定すると共に、真空破壊も、時間のばらつきが少なく、安定して短時間で実行される。所定の中心点は、この例のように、鰭部5bの先端部の形状(円や楕円など)についての中心点に設定するのが吸引力のバランスから望ましい。
この補助ポート部5pの対称配置化は、吸着パッド5への適用に限定されず、各変形例及びその組み合わせにも適用できるものである。
【0026】
<変形例4>
図9は、吸着パッド5の変形例4である吸着パッド5Dの下面図である。吸着パッド5Dは、吸着パッド5における補助ポート部5pの周壁部5gを、周方向に延びる勾玉状の周壁部5Dgとしたものである。この周方向は、鰭部5bの先端部5b1の外周形状に沿った方向であると、良好な吸引バランスが得られて望ましい。
周壁部5Dgが囲う範囲内(例えば中心位置)に、貫通孔5fが形成されている。この周壁部5Dgと貫通孔5fとで、補助ポート部5Dpが構成されている。
図9では、中心点CTRを中心とし角度間隔120°にて点対称に三つの補助ポート部5Dp1〜5Dp3を設けた例が示されている。
【0027】
本発明の実施例は、上述した構成に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよいのは言うまでもない。
【0028】
吸着パッド5では、貫通孔5f及び周壁部5gからなる補助ポート部5pを本体部5aに設けた例を説明したが、補助ポート部5pは鰭部5bに設けられていてもよい。
吸着装置51は、吸着状態において、エジェクタ3を作動させ常に閉空間V1から吸引するものに限らず、エジェクタ3と貫通孔5cとの間に開閉弁を有し、その開閉弁を閉状態として閉空間V1内の真空を維持するように構成されていてもよい。また、吸引状態から真空破壊過程に移行する際に、閉空間V1に対し強制的に空気を供給するように構成されていてもよい。
実施例及び変形例は、互いに適宜組み合わせてよい。
【符号の説明】
【0029】
1 給気部、 2 排気部、 3 エジェクタ
5,5A,5B,5C 吸着パッド
5a,5Aa 本体部
5a1 下面、 5a2 上面
5Aj 接続部、 5Am 密着部
5b,5Ab,5Bb,5Cb 鰭部、 5b1 先端部
5Bk (所定範囲の)部位、 5Bm 密着部
5c,5Ac 貫通孔
5d カプラ、 5e エアホース
5f,5Af,5Bf 貫通孔
5g 周壁部、 5g1 先端部
5p,5Ap,5Bp,5p1〜5p4 補助ポート部
51 吸着装置
CTR 中心点
Dc,Df 直径
G 隙間
h 高さ、 Δh 距離
Sc,Sf 最小面積
Qa,Qc,Qf,Qc1,QAc,QAf 流量
V1,V2,VA1 空間
W 被吸着部材(鉄板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品を吸着するための吸着パッドであって、
本体部と、
前記本体部の一面側と他面側との空間同士を連通し第1の最小流路面積を有して形成された第1の通気孔と、
前記本体部の周縁から前記一面側にスカート状に延出し前記物品に密着する吸着部と、
前記本体部又は前記吸着部に形成され、前記一面側と前記他面側との空間同士を連通すると共に前記第1の最小流路面積よりも小さい第2の最小流路面積を有する第2の通気孔と、前記第2の通気孔を囲繞すると共に前記一面側において前記吸着部の先端部を越えない高さで突出形成された周壁部と、を含む補助ポート部と、
を備えたことを特徴とする吸着パッド。
【請求項2】
前記吸着部が前記物品に密着した状態で、前記本体部,前記吸着部,及び前記物品とで囲まれた閉空間の気圧が所定値を越える負圧の場合に、前記周壁部は、前記物品と離隔し前記第2の通気孔から外部の空気の前記閉空間への流入を許容すること特徴とする請求項1記載の吸着パッド。
【請求項3】
前記閉空間の気圧が所定値以下の負圧の場合に、前記周壁部は、前記物品に密着して前記第2の通気孔からの前記閉空間への空気流入を遮断することを特徴とする請求項2記載の吸着パッド。
【請求項4】
前記吸着部の前記先端部のみを前記物品に接触させた状態で、前記本体部,前記吸着部,及び前記物品とで囲まれた閉空間の空気を、前記第2の通気孔から流入する外部の空気の流量よりも多い流量で前記第1の通気孔から排気することで、前記周壁部が前記物品に密着して前記第2の通気孔から前記閉空間に進入する空気を遮断した吸引状態に移行し、
前記吸引状態において前記第1の通気孔から前記閉空間に給気することで、前記周壁部が前記物品から離隔して前記第2の通気孔から前記閉空間への空気流入を許容する非吸引状態に移行することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の吸着パッド。
【請求項5】
前記補助ポート部を複数備えたことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の吸着パッド。
【請求項6】
複数の前記補助ポート部は、所定の一点に対して点対称に配置されていることを特徴とする請求項5記載の吸着パッド。
【請求項7】
前記周壁部は、前記吸着部の先端部の形状に沿って延在する勾玉状に形成されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の吸着パッド。
【請求項8】
負圧発生部と吸着パッドとを備え、前記負圧発生部で発生させた負圧により前記吸着パッドで物品を吸着する吸着装置であって、
前記吸着パッドは、
本体部と、
前記本体部の一面側と他面側との空間同士を連通して形成され前記他面側において前記負圧発生部と接続された第1の通気孔と、前記本体部の周縁から前記一面側にスカート状に延出して形成され前記物品に密着する吸着部と、
前記本体部又は前記吸着部において、前記一面側と前記他面側との空間同士を連通するよう形成された第2の通気孔と、
前記第2の通気孔を囲繞すると共に前記一面側において前記吸着部の先端部を越えない高さで突出形成された周壁部と、
を有し、
前記負圧発生部は、前記吸着部の前記先端部のみを前記物品に接触させた状態で、前記第1の通気孔から吸引する前記本体部,前記吸着部,及び前記物品で囲まれた閉空間の空気の流量が前記第2の通気孔から前記閉空間に流入する空気の流量よりも多くなるように前記負圧を発生させることを特徴とする吸着装置。
【請求項9】
前記閉空間の気圧が所定値以下の負圧の場合に、前記周壁部は、前記物品に密着して前記第2の通気孔からの前記閉空間への空気流入を遮断することを特徴とする請求項8記載の吸着装置。
【請求項10】
前記閉空間の気圧が、前記所定値を越える負圧の場合に、前記周壁部は、前記物品から離れて前記第2の通気孔から前記他面側の空気の前記閉空間への流入を許容すること特徴とする請求項8又は請求項9記載の吸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−107146(P2013−107146A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252257(P2011−252257)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(390014672)株式会社アマダ (548)
【Fターム(参考)】