説明

吹付け耐火物用組成物、吹付け施工法、及び炉壁の乾燥方法

【課題】低気孔率の施工体が得られ、乾燥時の爆裂を防止して、緻密であっても急速乾燥ができる吹付け耐火物用組成物とその施工方法ならびに炉壁の乾燥方法を提供する。
【解決手段】Al合金粉末を含む吹付け耐火物用組成物に水を混合した自己流動性の坏土を、圧送ポンプ1と圧送配管3で圧送し、吹付けノズル6の手前で坏土中に圧縮空気と急結剤を注入し、吹付け施工する。施工炉壁の乾燥条件は50〜400℃/時間である。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、加熱乾燥時に起きる爆裂現象を防止した気孔率が小さくて嵩比重の大きい、温間や熱間の補修にも使用できる吹付け耐火物用組成物及びその吹付け施工法ならびに吹付け施工した炉壁の乾燥方法に関する。
【0002】
【従来の技術】耐火物を吹付け施工すると、流し込み耐火物のように型枠を必要としないため施工作業を顕著に省力化できる利点がある。このため、耐火物の吹付け施工法が既に一部の用途で実施されている。これら従来知られている吹付け耐火物には、アルミナセメントを含むもの、又はこれにリチウム塩やアルミン酸ナトリウム等の硬化促進剤を添加したもの、水ガラスにケイフッ化ナトリウムや縮合リン酸アルミニウム等の硬化剤を併用したもの、又はリン酸アルミニウムや各種のリン酸アルカリ塩を併用したものがある。
【0003】しかし、従来の施工法は特公平2−27308や特開昭62−36071に開示されているいわゆる乾式又は半乾式の吹付け施工法である。すなわち乾いた組成物、又は流動性を示さない量の水分を加えた湿らせた組成物の坏土を、圧縮空気をキャリアとして配管で現場の吹付けノズルに搬送し、吹付けノズル又はその手前で坏土が必要とする水分又は不足している水分及び急結剤を注入して吹付けノズルで耐火物を吹付け施工している。
【0004】しかし、このような方法では組成物中の細かい粒子、たとえば0.1mm以下の粒子の分散状態と濡れが不充分な状態で吹付け施工されるため、吹付け施工された耐火物の坏土中には多くの空気が内包され、流し込み施工された耐火物と比べて気孔率が大きくなる。そして気孔率が大きい分、耐食性などの耐火物特性が劣るものとなる。また、施工に際しては粉塵の発生が多く、作業環境が劣悪で、リバウンドロスが多く施工歩留も悪かった。
【0005】他方、超微粉末と分散剤とを併用して流し込み耐火物の坏土を低水分化し、高密度、高強度の耐火物とする技術が一般化している。この技術を応用したものが、低セメント型、セメントレス型等と通称される流し込み耐火物で、低気孔率、高密度、高強度の施工体が得られる。
【0006】しかし、これらの緻密な流し込み耐火物の施工体は昇温時に爆裂しやすいことが知られている。爆裂防止対策として組成物にアルミニウム(以下、Alとも記す)粉末を添加して施工時にH2 ガスを発生させ、発生するH2 ガスで水蒸気を逃がす通路を形成して水分の蒸発を容易にする方法が知られている。
【0007】しかし、Al粉末は活性が大きく、Al粉末を添加するとCa2+を含む坏土中のアルカリ性水溶液と活発に反応してH2 ガスを発生するため、通風の良くない場所で耐火物を施工すると水素ガス爆発の危険性があり、施工条件が変動したり施工体に膨れや亀裂が発生したりする。
【0008】また、吹付け耐火物は、部分的な損耗が著しい工業用炉の内張り耐火物補修に使用されることが多く、この場合、取鍋等の工業用炉がまだ熱いうちに吹付け補修を行うことが多い。この種の温間や熱間の吹付け施工では、特開昭60−71577等に指摘されているように、吹付けた耐火物が施工面から剥離、脱落する問題を解決する必要がある。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは先に、特願平7−113143において気孔率が小さい施工体が得られる吹付け耐火物の施工法を提案した。すなわち、所要量の水を予め坏土に混合し、良好な自己流動性を有する坏土とする。次にこの坏土を圧送ポンプと圧送配管で吹付けノズルに圧送して吹付けノズルの手前で圧縮空気と急結剤を注入し、施工箇所に吹付け施工して、気孔率が小さい緻密な施工体とする。
【0010】しかし、この吹付け耐火物の施工体が高密度であるため、乾燥時や使用時に施工体中の混練水が水蒸気の状態で施工体中に閉じ込められ、施工体を急速に加熱すると水蒸気圧の上昇によって爆裂を起こしやすいことがわかった。
【0011】本発明は、耐火物の施工に際して型枠が不要で一層の省力化と顕著な工期の短縮を可能とし、周囲への粉塵の飛散が少なく、緻密な耐火物の施工体が得られ、施工後に急速な乾燥を行っても爆裂せず、温間や熱間の炉体補修に使用できる吹付け耐火物用組成物とその吹付け施工法、ならびに吹付け施工した炉壁の乾燥方法の提供を目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】まず、第1の発明は吹付け耐火物用組成物であって、水と混練し吹付けによって所望箇所に吹付け施工された後急速に乾燥し炉壁を形成することが可能な耐火物用組成物であって、耐火性骨材、耐火性粉末、アルミニウム合金粉末及び分散剤を含むことを特徴とする吹付け耐火物用組成物である。
【0013】また、第2の発明は、他の望ましい吹付け耐火物用組成物であって、耐火性骨材、耐火性粉末、アルミニウム合金粉末及び少量の分散剤を含み、かつアルミニウム合金粉末を組成物中の耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して0.05〜5重量部含む組成物であって、組成物中の耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して12重量部以下の水を組成物に加えて混練した直後の坏土を、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に流し込んで充たし、コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が190mm以上での自己流動性を有する吹付け耐火物用組成物である。
【0014】また、第3の発明は、吹付け施工法であって、耐火性骨材、耐火性粉末、アルミニウム合金粉末及び分散剤を含む組成物に水を加えて混合した自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧送配管の下流部に設けた圧縮空気注入口及び急結剤注入口からそれぞれ圧縮空気及び所要量の急結剤を坏土中に注入し、圧縮空気によって急結剤が混入した坏土を圧送配管の先に取り付けた吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする耐火物の吹付け施工法である。
【0015】また、第4の発明は、吹付け施工した炉壁の乾燥方法であって、耐火性骨材、耐火性粉末、アルミニウム合金粉末及び分散剤を含み、アルミニウム合金粉末が耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して0.05重量部以上含まれている耐火物用組成物に、所定量の水を混合して得た不定形耐火物坏土を、急結剤とともに所望の炉壁形成箇所に吹付けによって施工し、ついで施工された耐火物表面を50℃/時間以上400℃/時間以下の昇温速度で加熱し、該加熱処理を少なくとも耐火物の表面温度が500℃以上になるまで行うことにより、耐火物を加熱、乾燥することを特徴とする炉壁の乾燥方法である。
【0016】本発明の吹付け耐火物用組成物は、耐火性骨材、耐火性粉末、Al合金粉末及び少量の分散剤を含む組成物であり、水と混練し、急結剤を加えて吹付け施工された後急速に乾燥できるものである。そしてこの組成物中の耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対し12重量部以下の水を加えて混合した坏土は、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送できる良好な自己流動性を有する。
【0017】すなわち、この坏土を吹付け施工するには、坏土を圧送配管で圧送して施工現場に送り、現場に置いた吹付けノズルの手前で圧送配管中の坏土に圧縮空気と急結剤を注入し、圧縮空気をキャリヤとして施工箇所に吹付け施工することが望ましい。
【0018】本発明で望ましい坏土の流動性はコーン型を用いて評価する。すなわち、吹付け耐火物用組成物に所定の水を加えて混練した直後の坏土を、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に混練直後の坏土を流し込んで充たし、コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径(2方向の広がりを測定した平均値、単位はmm、以下フロー値という)で表す。なお、坏土のフロー値の測定は、約20℃の室内において、約20℃の水を組成物に混合して混練後3分以内に完了する。
【0019】坏土はフロー値が165mm以上であれば自己流動性を示す。しかし、圧送ポンプと圧送配管で坏土を吹付けノズルを置いた現場に容易、かつ滞りなく圧送できるように、圧送する坏土のフロー値は190mm以上とする。フロー値が大きい坏土を使用すれば、圧送ポンプの吸込み抵抗と圧送配管内の流動抵抗を小さくでき、圧送配管の直径を細くしたり坏土を長距離圧送したりできるため、フロー値は好ましくは200mm以上である。
【0020】本発明の組成物には、施工後急速に乾燥しても爆裂防止の目的でAl合金粉末が添加されている。Al合金粉末は、合金組成と粉末の粒度を調整することによって発生するH2 ガスの量と発生のタイミングを調整できる。これは、Al合金に含まれるSi成分やMg成分がAlの反応性を抑制してH2 ガスの発生を抑制するからである。
【0021】Al合金粉末を使うとH2 ガスの発生が、Al粉末を添加した坏土の場合と比べて、坏土のpH、アルミナセメントの種類、坏土の温度等によって影響されにくくなり、H2 ガスの発生反応が緩やかに起こり、耐火物中の水分の放出に好適な通気孔を確実に形成できる。
【0022】吹付け耐火物用組成物に添加されるAl合金粉末の量は、組成物中の耐火性骨材と耐火性粉末の合量の100重量部に対し0.05〜5重量部が望ましい。0.05重量部未満では、H2 ガスの発生が少なく、満足な爆裂防止効果が得られない。5重量部超では、H2 ガスの発生量が過剰になって施工後の耐火物に膨れや亀裂が生じる傾向があり、気泡が多く発生すると耐火物が多孔質化し、その耐食性や強度が低下する。Al合金粉末の組成物への添加量は、耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対し0.1〜3.0重量部がより好ましい。
【0023】Al合金粉末は、その合金組成によって反応活性を調整できる。Al合金粉末は、Al合金粉末であればよいが、アルミニウム−シリコン(Al−Si)合金粉末及びアルミニウム−マグネシウム(Al−Mg)合金粉末が好ましくなかでもAi−Si合金粉末が最も実用的である。Al合金粉末のAl合金は、主成分であるAlの他に好ましくは合金成分としてSi及び/又はMgを5〜40重量%含み、さらに好ましくはSi及び/又はMgを5〜25重量%含む。
【0024】Al合金中のSi及び/又はMg成分が25重量%より多いと、H2 ガスの発生が遅れ、発生量も少なくなるため爆裂防止効果が小さくなり、40重量%以上となるとほとんどなくなる。また、Si成分やMg成分が5重量%より少ないと、H2 の発生が活発になり、耐火物の施工体に膨れや亀裂が生じやすい。Al合金粉末は、さらに好ましくはAlを80〜93重量%、Si及び/又はMgを7〜20重量%含む。
【0025】Al合金粉末は、好ましくはAl、Si及びMgを合量で90重量%以上含み、粒径0.074mm以下の粒子を40重量%以上含む。Al合金中のAl、Si及びMgの含有量は合量で90重量%以上、さらには95重量%以上であるのが好ましい。これによって、H2 ガスが発生する反応開始時間の変動が小さくなる。また、Al合金粉末が粒径0.074mm以下の粒子を40重量以上含むことによってH2 ガスを発生する反応が適度の速さで起き、施工体の爆裂防止効果が確実に得られる。
【0026】Al合金粉末中の粒径0.074mm以下の粒子の含有量が40重量%より少ないと、H2 ガスの発生が少なくなり、Al合金粉末を多く加えないと爆裂防止効果が不確実になる。より好ましいAl合金粉末は0.074mm以下の粒子を50重量%以上含む。Al合金粉末は、好ましくは合金成分が均一に分散した合金からなる。このようなAl合金粉末は、アトマイズ法やAl合金の溶融固化物を粉砕する方法によって製造できる。
【0027】なお、Ai−Si合金とAl−Mg合金粉末を併用することもできる。また、本発明の目的・効果を損なわない程度において、Al−Si合金粉末又はAl−Mg合金粉末に少量のAl粉末等の金属粉末を使用することは支障ない。
【0028】所要量のAl合金粉末を含有してなる本発明の吹付け耐火物用組成物は、タイミングよく発生するH2 ガスによって耐火物施工体中に通気孔が形成され、施工体を相当急速に昇温して乾燥しても爆裂することがない。さらに、H2 ガスの発生による引火爆発の危険性も、Al粉末を添加した場合のように急速なH2 ガスの発生が起きないことによって容易に防止できる。また、Al合金粉末はAl粉末より空気中の水分と反応しにくく、たとえば袋詰めされた吹付け耐火物用組成物は保存性がよい。
【0029】耐火性骨材は耐火物の主要な構成成分であり、耐火性骨材には、アルミナ、ボーキサイト、ダイアスポア、ムライト、礬土頁岩、シャモット、ケイ石、パイロフィライト、シリマナイト、カイヤナイト、蝋石、アンダリュサイト、クロム鉄鉱、スピネル、マグネシア、ジルコニア、ジルコン、クロミア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、黒鉛などの炭素、ホウ化チタン、ホウ化ジルコニウム等が使用できる。
【0030】耐火性粉末は耐火性骨材の隙間を埋めて耐火性骨材を結合する結合部を形成するための成分である。耐火性粉末には、アルミナセメント、アルミナ、チタニア、ボーキサイト、ダイアスポア、ムライト、礬土頁岩、シャモット、パイロフィライト、シリマナイト、アンダリュサイト、ケイ石、クロム鉄鉱、スピネル、マグネシア、ジルコニア、ジルコン、クロミア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、炭化ケイ素、炭化ホウ素、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン、ヒュームドシリカ等の無定形シリカ等が使用できる。坏土の流動性が高くなるように、耐火性粉末は平均粒径が30μm以下のものを使用するのが好ましい。
【0031】耐火性粉末には、その一部としてアルミナやヒュームドシリカ等の平均粒径が3μm以下、特には1μm以下の超微粉を使用するのが好ましい。これによって組成物に混合する水の量を減少でき、かつ坏土に良好な自己流動性を付与できる。また、耐火性粉末の一部に、平均粒径が30μm以下の球状化された粒子からなる粉末を使用することによって坏土により高い流動性を付与できる。
【0032】耐火性粉末の一部にアルミナセメントを使用すると、アルミナセメントが耐火物の結合に寄与し、耐火物の施工体に常温から使用温度までの広い温度範囲において実用性のある強度を付与できる。
【0033】アルミナセメントの好ましい配合量は、耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対し、1〜10重量部である。アルミナセメントはCaO/Al23のモル比が1.3以下のものを使用することによって混練した坏土に充分に長い可使時間を確保できる。
【0034】また、分散剤は混練した坏土の流動性を高めるために添加される。分散剤は、使用する耐火性骨材及び耐火性粉末の種類に合わせて選定した粉末状の分散剤を組成物に配合するのが好ましい。粉末状の分散剤を使用すれば、袋詰めした組成物に予め分散剤を混合しておける。
【0035】分散剤としては、ポリメタリン酸塩類、ポリカルボン酸塩類、ポリアクリル酸塩類及びβ−ナフタレンスルホン酸塩類等が使用できる。分散剤は余分に添加すると耐火物の耐火性を劣化させるので少量とし、組成物中の耐火性骨材と耐火性粉末の合量の100重量部に対し0.02〜1重量部添加するのが好ましい。
【0036】本発明の耐火物の吹付け施工法は、耐火性骨材、耐火性粉末、Al合金粉末及び少量の分散剤を含む組成物に水を加えて混合した自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧送配管の下流部に設けた圧縮空気注入口及び急結剤注入口からそれぞれ圧縮空気及び所要量の急結剤を坏土中に注入し、圧縮空気によって急結剤が混入した坏土を圧送配管の先に取り付けた吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする。
【0037】本発明による吹付け耐火物の施工法では、吹付け施工する坏土に予め所要量の水が混合されていることによって坏土中に水分が均等に分布しており、坏土中の粒子に付随する空気が実質上存在せず、キャリアの圧縮空気を注入したときに坏土中に巻き込まれる気泡も、そのほとんどが吹付け施工時に坏土から放出される。その結果、気孔率が小さく嵩比重の大きい耐火物を施工できる。
【0038】本発明の耐火物の吹付け施工法では、圧送される坏土中に圧縮空気のほかに所要量の急結剤が注入される。これによって圧縮空気をキャリアとして施工箇所に吹付けられた坏土の流動性は急速に低下する。このため、たとえば垂直な壁面に坏土を吹付け施工しても、吹付けられた坏土が壁面から流れ落ちることなく壁面に付着する。また、吹付け配管の先に吹付けノズルを接続していることによって吹付けノズルに接続する吹付け配管は一本で済み、吹付けノズルを人手で保持する場合も吹付けノズルの上下左右への移動操作が容易である。
【0039】坏土を特に急速に硬化させる急結剤を使用する場合、坏土の硬化によって配管中の坏土の圧送抵抗が大きくならないように、急結剤の坏土への注入箇所は吹付けノズルに近い圧送配管の下流部とする。坏土への急結剤の注入箇所は好ましくは、圧縮空気の注入口の下流又は圧縮空気の注入口と同位置とする。
【0040】また、圧縮空気の注入口と同位置又は圧縮空気の注入口の下流で急結剤を注入すると注入された圧縮空気で坏土と急結剤が撹拌されるので、急結剤が坏土中により均等に分散され、坏土に注入する急結剤の所要量を少なくできる。
【0041】坏土に注入する急結剤としては、水溶液の急結剤を使用できるが、吹付け施工する坏土中の水分量を必要最小限に止めて気孔率の小さい耐火物とするため、好ましくは粉末状の急結剤を使用する。粉末状の急結剤は、好ましくは急結剤が坏土中に均一に分散するように、圧縮空気をキャリアとして急結剤吸入口から坏土中に注入する。同じ理由で水溶液の急結剤を坏土に注入するときは、なるべく濃い水溶液を使用するのが好ましい。
【0042】急結剤としては、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、アルミン酸カルシウム等のアルミン酸塩、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウム等の炭酸塩、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウム等の硫酸塩、12CaO・7Al23 、3CaO・Al23、11CaO・7Al23 ・CaF2 等のカルシウムアルミネート類、酸化カルシウム、水酸化カルシウム及びこれらの複合物又は混合物が使用できる。
【0043】これらの急結剤のうち、入手容易かつ安価であり、かつその急結特性が安定して発揮されることから、アルミン酸ナトリウムの粉末又は水溶液を使用するのが好ましい。アルミン酸ナトリウムは融点が高く耐火物の耐火度を劣化させず、坏土中に注入すると加水分解してNaOHの他にAl(OH)3 のゲルを生じて坏土を急速に硬化させる。また、急結剤として好ましいカルシウムアルミネートは、CaO/Al23 のモル比が1.5以上のものである。
【0044】急結剤の注入量は、使用する急結剤によって変わるが、通常組成物中の耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して、0.05〜3重量部とするのが好ましい。
【0045】急結剤の注入量が0.05重量部より少ないと、性能の優れた急結剤であっても急結性が不足して吹付け施工された坏土が流れ落ちることになり、3重量部より多いと急速に硬化して吹付け施工が難しくなったり、耐熱性や耐食性などの耐火物としての性能が劣化する傾向がある。急結剤の注入量は、より好ましくは0.1〜2重量部とする。急結剤の急結特性はその種類によって変化するので、急結剤の種類と、急結剤注入後の吹付け配管の長さなどによって注入量を調節するのが好ましい。
【0046】坏土に所要のフロー値を付与するのに必要な水の量は、組成物に含まれる耐火性骨材と耐火性粉末の比重や気孔率によって変化する。しかし、坏土に自己流動性を示すフロー値を与えるのに必要な水分量には下限があり、通常、耐火性骨材と耐火性粉末の合量の100重量部に対し、4重量部以上の水が必要である。
【0047】ポンプ圧送する坏土中の水分、すなわち組成物に混合する水分は、施工後の耐火物の気孔率を小さくして耐火物としての良好な物性を付与できるように、組成物中の耐火性骨材と耐火性粉末の合量の100重量部に対し12重量部以下、さらには10重量部以下とするのが好ましい。坏土中の水分が多いと耐火性骨材が沈降しやすく、施工された耐火物が不均質化しやすい。
【0048】吹付け耐火物用組成物は、一般に乾いた粉体を袋詰めした状態で施工場所に運搬し、そこで組成物と水をミキサー中に投入して混練し、前述の吹付け施工設備等を使用して吹付け施工する。しかし、工場で予め組成物に水を加えて混練した坏土の状態でコンクリートミキサー車等で施工現場に運んで吹付け施工することもできる。
【0049】圧送ポンプとしては、市販品が容易に入手できることから、ピストン式又はスクイーズ式の圧送ポンプを使用するのが好ましい。スクイーズ式とはダイヤフラムを圧縮空気で駆動するダイヤフラム式ポンプ、弾性を有するチューブをローラでしごいて坏土を圧送するポンプ等をいう。これらの圧送ポンプとしては圧送する坏土の脈動が小さくなるように、好ましくは複数のダイヤフラム、複数のチューブ又は複数のピストンを備えた圧送ポンプを使用するのが好ましい。
【0050】また、不定形耐火物用粉体組成物100重量部に対し0.003〜0.2重量部の遅延剤を添加すれば、混練した坏土の可使時間を延長でき、気温が高い夏場でも充分な可使時間を確保でき、安定して耐火物の吹付け施工ができる。さらに、圧送配管の上流部に太い配管を使用し、下流部の圧縮空気の注入口の上流にテーパ付鋼管を設けて細い配管に接続すると、坏土の圧送する圧送ポンプの付加を小さくでき、大量の坏土の安定した圧送ができる。また、圧送する坏土の流動抵抗が小さくなるように、圧送配管の内側には段差ができないようにするのが好ましい。
【0051】本発明の吹付け耐火物用組成物は、上述の配合割合に基づく組成物に水を混合した自己流動性を有する坏土を圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、急結剤を圧縮空気の注入口と同位置又は圧縮空気の注入口の下流で注入し、吹付けノズルから施工箇所に吹付けるもので、水蒸気が逃げる通路が耐火物中に確保されていることによって施工後急速に加熱乾燥しても爆裂現象が起きず、耐火物を施工するのに要する工期を顕著に短縮できる。
【0052】本発明のこのような吹付け耐火物用組成物は、自己流動性を付与した坏土に急結剤を加えて、炉壁を形成する所望の箇所に吹付け施工した後、急速に加熱し炉壁を乾燥できる。
【0053】すなわち、吹付け施工体の硬化後に耐火物表面を50℃/時間以上400℃/時間以下の急速な昇温速度で最高1400℃まで乾燥しても爆裂現象を起こさない。
【0054】昇温速度が50℃/時間未満では、従来の乾燥方法に比べ優越性に乏しく乾燥時間の特段の短縮にはならず、400℃/時間超では、相当大型の乾燥手段が必要であり、早く昇温させても炉壁への蓄熱が不充分となり、完全脱水には時間がかかる。さらに、400℃/時間超になると不定形耐火物の表面にスポーリング亀裂も入ってくる等の問題がある。
【0055】昇温速度は、組成物の配合割合や形成される炉壁の形状、厚み、炉壁がさらされる操業条件等によって選択決定できるが、多くの場合100℃/時間以上でも充分可能であり、場合によっては300℃以上でも可能である。
【0056】加熱最高温度は、炉によっては500℃程度まで加熱処理されていれば、使用できる炉壁が形成されるが、通常は1000℃以上にまで加熱することで所望の炉壁を形成する。このように、短時間での急速昇温加熱、乾燥ができるため、炉の速やかな再操業を可能とする。
【0057】本発明において、加熱乾燥する際の表面温度と、炉壁として施工された耐火物の表面から1〜2mmの位置に埋め込んだ測温計(通常は熱電対)の先端位置を測定した温度である。
【0058】なお、本発明において昇温速度は、不定形耐火物の施工厚みによっても影響される。たとえば、施工厚みが厚くなればなるほど内部までの乾燥には時間がかかる。しかし、本発明の不定形耐火物の施工厚みは、通常100〜1000mm程度の範囲であるので、表面温度を500℃以上になるまで所定の昇温速度で加熱乾燥すれば昇温乾燥中に爆裂や亀裂を起こすことなく、炉壁を形成できる。この際内部に未乾燥の部分があっても、実際の炉の使用時の受熱によって徐々に乾燥されるので問題はない。
【0059】なお、本発明の耐火組成物の炉への施工は、通常、炉の背面からパーマ耐火物、断熱耐火物が順に施工されている内面に施工されるものである。
【0060】本発明で使用するAl合金粉末がAlとSi及び/又はMgからなるものである場合、乾燥後はこれらの金属成分は最終的に耐火物の成分として有用なAl23 、SiO2 、MgO及びこれらの化合物に変化し、同時に体積が増加して耐火物の嵩比重を増加させるので、耐食性と体積安定性に優れた炉壁を形成しうる吹付け耐火物となる。また、Al合金粉末が酸化して生成するAl23 、SiO2 、MgO及びMgAl24 (スピネル)等の化合物は耐火物の結合強度の向上に寄与するので、強度にも優れた耐火物が得られる。
【0061】
【実施例】以下、本発明を実施例によって具体的にする説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0062】耐火性骨材として、Al23 、SiO2 及びFe23 の含有量がそれぞれ89重量%、7重量%及び1.3重量%のボーキサイト質骨材の粗粒(粒径1.68〜5mm)、中粒(粒径0.1〜1.68mm)及び細粒(粒径が0.02〜0.1mmで平均粒径が0.03mm)を使用した。
【0063】耐火物の結合部を構成する耐火性粉末には、Al23 とCaOの含有量がそれぞれ55重量%と36重量%(CaO/Al23 のモル比0.84)で、平均粒径が約9μmのアルミナセメント、Al23 の純度が99.6重量%で平均粒径が4.3μmのバイヤーアルミナ、及びSiO2 の純度が93重量%で平均粒径が0.8μmのヒュームドシリカを用いた。
【0064】分散剤には、P25 とNa2 Oの含有量がそれぞれ60.4重量%と39.6重量%のテトラポリリン酸ナトリウムの粉末を用いた。また、Al合金粉末には、AlとSiの含有量がそれぞれ88重量%と12重量%のもの(Al合金粉末a)とAlとMgの含有量がそれぞれ85重量%と15重量%のもの(Al合金粉末b)を用いた。
【0065】Al合金粉末a及びAl合金粉末bの平均粒径は、それぞれ約30μmと約35μmであり、粒径0.074mm以下の粒子をそれぞれ90重量%と88重量%含むものである。また比較例に使用したAl粉末は純度が99%で平均粒径が約30μmのものである。
【0066】室温が20℃の室内において、耐火性骨材と耐火性粉末、Al合金粉末及び分散剤を調合して表1、2に示す各組成物を調合し、表1、2に示した量の約20℃の水(表1、2では耐火性骨材と耐火性粉末は重量%、他はいずれも耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対する重量部)を各組成物に加えて500kg容量のミキサー中で3分間混練し坏土とした。
【0067】各坏土のフロー値は、混練直後の各坏土を上述の上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmの上下端が開口した円錐台形状のコーン型に流し込んで充たし、コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径を2方向についてノギスで測定し、その平均値を求めて表3、4に示した。
【0068】急結剤には、平均粒径が約150μmの粉末であって、アルミン酸ナトリウム(約20%の結晶水を含む)と炭酸ナトリウムを3:1の重量比で混合したものを使用し、調製した各坏土を概ね垂直な壁面に吹付け施工した。吹付け施工には図1の概要図に示す構成の吹付け施工装置を使用し、鉄板の施工壁面(アンカーなし)上に約100mmの厚さに吹付け施工した。
【0069】図1において、1は圧送ポンプ、2は圧送ポンプの坏土ホッパー、3圧送配管、4はテーパ管(65A→50A)、5は吹付け配管(長さ1.2m+1.2m、50Aのゴムホース)、6は吹付けノズル、7は急結剤注入装置、8は圧縮空気注入口、9は圧縮空気の流量調節弁、10は圧縮空気配管、11は急結剤注入口、12は急結剤注入管、13施工壁面、14は施工体である。
【0070】なお、以下の例では圧送ポンプ1として2つのピストンを備えるPutzmister社製BSA702を用い、坏土の圧送速度を3トン/時間とし、圧縮空気注入口11から4〜6気圧に調節した圧縮空気を注入して吹付けノズルに坏土を供給した。
【0071】また、坏土に粉末状急結剤を定量的に注入する急結剤注入装置7には、テーブルフィーダを備える日本プライブリコ社製のQガンを用い、空気圧力を3〜4気圧の範囲で調節して表1、2に示した注入量で急結剤を注入した。
【0072】なお、上記吹付け施工装置では、圧送ポンプ1から圧縮空気の注入口8までの圧送配管3を寸法65Aで長さが70mの鋼管とし、これに65Aから50Aに絞る長さ1mのテーパ管4を接続し、圧縮空気の注入口から急結剤の注入口までの配管を寸法50Aで長さ3mとし、急結剤の注入口から吹付けノズルまでの吹付け配管5を寸法50Aで長さが1.2mのゴムホースとして配管の内側に段差ができないように接続した。また、圧縮空気注入口10と急結剤の注入口11にはそれぞれY字管を取り付けた。
【0073】この施工装置の吹付け配管は柔軟なゴムホースとされているので、ゴムホースの及ぶ範囲で移動と方向の変更が容易であるので、吹付けノズル4を手持で操作し、施工壁面13に吹付けた。本発明の吹付け施工法は湿式であるため、吹付け施工時のリバウンドロスと粉塵の発生が乾式や半湿式の吹付け施工法と比べて非常に少なく、施工歩留が高く、作業環境も顕著に良好であった。
【0074】次いで、施工壁面に約100mmの厚さに吹付け施工した各施工体から約300mm×300mm×100mmの大きさの試料を採取した。この試料を110℃で24時間乾燥後、試料を目で観察して亀裂の有無を調査し、次いでJIS−R2205に規定された方法に準じて気孔率と嵩比重を測定した。
【0075】また、各施工体から直径100mm、高さ100mmの試料を採取し、各試料について爆裂性を評価した。すなわち、各試料を1200℃に保持した電気炉中に投入し、取り出し後爆裂の有無を調べて評価した。
【0076】曲げ強度の測定は、各施工体から採取した寸法が40mm×40mm×150mmの試料片を110℃で24時間乾燥したものと、同じ寸法の試料片を1400℃で3時間焼成したものについて行った。寸法変化率は、1400℃で3時間焼成した曲げ強度測定用試料片で焼成前後の寸法変化を測定し、表3、4に示した。表4の寸法変化率に「膨れ」と記したものは数%程度の顕著な膨張が観察されたものである。
【0077】また、例2〜5及び例7〜13の構成の吹付け耐火物を、損耗して補修が必要になった溶鋼取鍋のスラグライン部を想定した施工時の温度が約500℃の壁面に吹付け施工し、補修壁面への付着性、爆裂及び剥落の有無を調べ、結果を表3、4にまとめて示した。
【0078】表1〜4において、例1〜7及び例9は本発明の実施例であり、例8、例10〜14は比較例である。例13はAl合金粉末が添加されていない例であり、例8は添加したAl合金粉末の量が不適当な例であり、例8の吹付け施工体は良好であるものの緻密であるため爆裂した。
【0079】例10と例11は急結剤の注入量が不適切であった例であり、例10では急結性が不足して壁面から坏土が流れ落ち、満足な施工体が得られなかった。また例11では急結性が過剰なため坏土の硬化が急速に進行し、吹付け施工が安定せず壁面への付着性が悪くてリバウンドロスが多く、満足な施工体が得られなかった。このため例11の施工体についての物性測定はされていない。
【0080】例12はAl粉末を添加した例であり、吹付け施工は問題なくできるが施工体に膨れが生じて多孔質になり、亀裂も認められた。例14は吹付け施工でない流し込み成形による施工体の結果であり、例14の結果を例1〜7の結果と比較すると、本発明による吹付け施工した施工体の物性が、流し込み施工した施工体の物性と比べて遜色のないものであることがわかる。
【0081】また、損耗した500℃の取鍋の壁面の補修を想定した熱間吹付け施工試験を行った結果、例2〜5及び例7の組成物では良好な付着性が認められ、爆裂による亀裂や剥落が認められなかった。また、例8〜13の組成物では付着性が不良であったり、爆裂による亀裂又は剥離が認められた。
【0082】表1〜4に示したとおり、本発明によるAl合金粉末を含む吹付け耐火物を吹付け施工すると流し込み耐火物と同程度に緻密な施工体が得られ、施工体が緻密であっても水蒸気を放出する通気孔が施工体に確保されているので、施工体を急速に昇温して乾燥させても爆裂することがない。また、施工体の耐食性等の耐火物特性も、気孔率が小さく緻密であるため良好である。
【0083】[例15(実施例)]例2の組成物をミニタンディッシュの炉壁に吹付け施工した。組成物は、背面側に断熱キャスタブル耐火材が100mm厚みで形成されている内面に1000×1000mmの面積にわたって、厚み250mmで吹付け施工した。施工した吹付け耐火物の硬化後オイルバーナを用い、該施工耐火物表面を加熱した。
【0084】加熱乾燥条件は、表面温度が200℃/時間の昇温速度で1000℃まで行った。なお、ミニタンディッシュ炉内の温度分布は±20℃程度であった。乾燥中には亀裂はなく、乾燥終了後形成された炉壁表面には亀裂はなかった。また、炉壁を切り出して厚み方向の断面を観察したが、亀裂は全く認められなかった。
【0085】[例16(実施例)]例4の不定形耐火組成物を例15と同様にミニタンディッシュに吹付け施工乾燥を行った。この場合、炉壁の表面温度を300℃/時間の昇温速度で昇温し1400℃まで乾燥した。乾燥中には爆裂は起らず乾燥終了後炉壁表面及び内部切断面にも亀裂は認められなかった。
【0086】[例17(実施例)]例6の不定形耐火組成物を例15と同様にミニタンディッシュに施工し乾燥試験を行った。この場合、炉壁の表面温度を100℃/時間の昇温速度で昇温し1000℃まで昇温乾燥した。乾燥中に爆裂もなく乾燥後も亀裂は全く認められなかった。
【0087】[例18(比較例)]例8の不定形耐火組成物を例15と同様にミニタンディッシュに施工し乾燥試験を行った。炉壁の表面温度を200℃/時間の昇温速度で1200℃まで昇温乾燥したが、乾燥中に爆裂は起こし炉壁表面の一部が吹き飛び剥離した。乾燥終了後には炉壁に多くの亀裂が入っているのが観察された。
【0088】[例19(比較例)]例7の不定形耐火組成物を例15と同様にミニタンディッシュに施工し、炉壁の表面温度を500℃/時間の昇温速度で1000℃まで昇温乾燥した。昇温乾燥中には爆裂は認められなかったが、乾燥終了後に炉壁の表面に無数のスポーリングと思われる亀裂が認められた。
【0089】以上の結果により、ミニタンディッシュにおける乾燥試験と組成物における爆裂性の試験を比較すると相関性が認められ、組成物においての評価は急速な昇温条件のもとでの炉壁の乾燥方法の評価にも適用しうることが分かった。
【0090】
【表1】


【0091】
【表2】


【0092】
【表3】


【0093】
【表4】


【0094】
【発明の効果】本発明の吹付け耐火物用組成物には、Al粉末より活性が小さく、適度の活性を有するAl合金粉末が耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して0.05〜5重量部配合されているので、Al合金粉末がタイミングよくアルミナセメントに由来するCaO等が溶けた坏土中のアルカリ性水溶液と反応してH2ガスを発生し、施工体に水蒸気を放出する通路が確実に確保されている。このため、坏土を湿式で吹付け施工して緻密な施工体としても、施工体を爆裂させることなく急速に昇温して乾燥できる。
【0095】本発明の耐火物の吹付け施工法は付着性がよく、流し込み施工のように型枠を必要としないので大幅な省力化を達成でき、施工体の乾燥方法は施工体を急速に加熱して乾燥できるので工期を顕著に短縮できる。
【0096】また、予め混練した自己流動性を有する坏土をポンプ圧送して吹付け施工するので、施工体の気孔率を従来の吹付け施工法による施工体の気孔率と比べて顕著に小さくでき、流し込み施工された耐火物に劣らない嵩比重を有する施工体が得られ、リバウンドロスが少ないので施工歩留がよく、周囲に撒き散らされる粉塵も顕著に少なく作業環境が良好である。
【0097】さらに、温間や熱間で吹付け施工を行っても、施工体は爆裂や剥離を起こさず、嵩比重が大きく耐食性の優れた耐火物となるので、取鍋、タンディシュ、溶銑樋などの補修用の耐火組成物においても適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の耐火物の吹付け施工に使用する装置の一例の概要図
【符号の説明】
1:圧送ポンプ
2:坏土ホッパー
3:圧送配管
4:テーパ管
5:吹付け配管
6:吹付けノズル
7:急結剤注入装置
8:圧縮空気注入口
9:流量調節弁
10:圧縮空気配管
11:急結剤注入口
12:急結剤注入管
13:施工壁面
14:施工体

【特許請求の範囲】
【請求項1】水と混練し吹付けによって所望箇所に吹付け施工された後急速に乾燥し炉壁を形成することが可能な耐火物用組成物であって、耐火性骨材、耐火性粉末、アルミニウム合金粉末及び分散剤を含むことを特徴とする吹付け耐火物用組成物。
【請求項2】耐火性骨材、耐火性粉末、アルミニウム合金粉末及び少量の分散剤を含み、かつアルミニウム合金粉末を組成物中の耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して0.05〜5重量部含む組成物であって、組成物中の耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して12重量部以下の水を組成物に加えて混練した直後の坏土を、上端内径50mm、下端内径100mm、高さ150mmで上下端が開口した円錐台形状のコーン型に流し込んで充たし、コーン型を上方に抜き取って60秒間静置したときの広がり直径が190mm以上である自己流動性を有することを特徴とする吹付け耐火物用組成物。
【請求項3】前記アルミニウム合金粉末が、Alを60〜95重量%、Si又はMgを5〜40重量%含むものである請求項1又は2記載の吹付け耐火物用組成物。
【請求項4】前記アルミニウム合金粉末が、AlにSi又はMgの含有量を合わせた純度が90重量%以上であり、粒径0.074mm以下の粒子を40重量%以上含むものである請求項1、2又は3記載の吹付け耐火物用組成物。
【請求項5】組成物が、耐火性粉末の一部として、CaO/Al23 モル比が1.3以下のアルミナセメントを含むものである請求項1、2、3又は4記載の吹付け耐火物用組成物。
【請求項6】耐火性骨材、耐火性粉末、アルミニウム合金粉末及び分散剤を含む組成物に水を加えて混合した自己流動性を有する坏土を、圧送ポンプと圧送配管によって施工現場に圧送し、圧送配管の下流部に設けた圧縮空気注入口及び急結剤注入口からそれぞれ圧縮空気及び所要量の急結剤を坏土中に注入し、圧縮空気によって急結剤が混入した坏土を圧送配管の先に取り付けた吹付けノズルから施工箇所に吹付けることを特徴とする耐火物の吹付け施工法。
【請求項7】坏土が、組成物中の耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して12重量部以下の水を混合したものである請求項6記載の耐火物の吹付け施工法。
【請求項8】前記急結剤を組成物中の耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して0.05〜3重量部注入する請求項6又は7記載の耐火物の吹付け施工法。
【請求項9】前記急結剤注入口を圧縮空気注入口の下流又は圧縮空気注入口と同位置に設ける請求項6、7又は8記載の耐火物の吹付け施工法。
【請求項10】耐火性骨材、耐火性粉末、アルミニウム合金粉末及び分散剤を含み、アルミニウム合金粉末が耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して0.05重量部以上含まれている耐火物用組成物に、所定量の水を混合して得た不定形耐火物坏土を、急結剤とともに所望の炉壁形成箇所に吹付けによって施工し、ついで施工された耐火物表面を50℃/時間以上400℃/時間以下の昇温速度で加熱し、該加熱処理を少なくとも耐火物の表面温度が500℃以上になるまで行うことにより、耐火物を加熱、乾燥することを特徴とする炉壁の乾燥方法。
【請求項11】前記昇温速度を100℃/時間以上とする請求項10記載の炉壁の乾燥方法。
【請求項12】前記加熱処理を耐火物の表面温度が1000℃以上になるまで行う請求項10又は11記載の炉壁の乾燥方法。
【請求項13】前記アルミニウム合金粉末は、耐火性骨材と耐火性粉末の合量100重量部に対して0.05〜5重量部含まれているものである請求項10、11又は12記載の炉壁の乾燥方法。
【請求項14】前記アルミニウム合金粉末は、Alを60〜95重量%、Siを5〜40重量%含み、これらの合量が90重量%以上であり、かつ粒径0.074mm以下の粒子を40重量%以上含むものである請求項10、11、12又は13記載の炉壁の乾燥方法。

【図1】
image rotate