説明

周期性構造物の作成方法、周期性構造物、および、周期性構造物を用いた光学素子

【課題】光学デバイスに利用できるフォトニック結晶は、自己組織化を利用して配列された微粒子膜を利用して作製する方法が提案されている。微粒子としては単分散の良いシリカやポリスチレンが用いられるが、屈折率のより高い微粒子膜を作製するために、微粒子膜の微粒子間の空隙に光硬化性樹脂などのモノマーを流し込み、固化させた後、微粒子をエッチングにより取り除いて、ポリマーによる周期性反転構造物を得る方法が提案されている。この方法により作製された周期性構造物は、元型となる微粒子を除去した際に基板からはずれるという課題がある。
【解決手段】シリカによる周期性構造物3を石英基板4上に作製し、ポリカーボネイト基板1に周期性構造物3側を接触させて重ね合わせ、両基板の間にモノマーの光硬化型樹脂2を流し込んで紫外線照射により重合硬化させ、フッ酸でシリカと基板4を除去した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子を周期的に配列させた微粒子周期構造物およびその反転構造を利用した光導波路、光共振器、などのフォトニック結晶光学デバイス、また、表示デバイス、センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
フォトニックバンドギャップにより、結晶中に光を閉じ込めることが可能なフォトニック結晶は、光学デバイスに利用できるとして期待されている。フォトニック結晶形成技術として、光学媒質(微粒子)の自己組織化を利用した方法がある。自己組織化を利用して配列された微粒子膜(周期性構造物、フォトニック結晶)は、高品質、大表面積になると期待される。永山はコロイド溶液を用いた「微粒子薄膜の製造方法」を報告している(特許文献1 参照。)。液体の毛管力を利用し、溶媒の蒸発速度、微粒子の体積分率を制御することにより集積される結晶の高品質化を図ったものである。2枚の平行な面の間の狭い間隙にコロイド結晶を成長させる方法もピュージ、ピーター・ニカラスらをはじめとして報告されている(例えば、特許文献2 参照。)。
【0003】
微粒子としては単分散の良いシリカやポリスチレンが用いられるのが一般的である。しかしながら、これらの物質ではデバイス材料としては屈折率が十分に高くない。屈折率のより高い微粒子膜を作製するために、上記の方法により作製された微粒子膜を利用した例が報告されている。微粒子膜の微粒子間の空隙に光硬化性樹脂などのモノマーを流し込み、固化させた後、微粒子をエッチングにより取り除いて、ポリマーによる周期性構造物(反転構造、逆オパール構造、インバースオパール構造とよばれる)を得るインバースオパール法と呼ばれる方法である。その結果、自己組織化によって最初に得られた周期構造とほぼ同等な周期性構造物を材質が変わった形で得ることができる(例えば、非特許文献1 参照。)。また、インバースオパール構造は、多孔体であるため、ガス、液体の透過量などのセンサーとしても応用が可能である。
【0004】
インバースオパール法により作製された周期性構造物は、元型となる微粒子を除去した際に基板からはずれるという課題がある。これは、シリカ微粒子、石英基板を用いた場合に、フッ酸などを用いたエッチング工程にて、元型微粒子と基板の両方がエッチングされてしまうためである。フォトニック結晶やセンサーとしての利用には、基板上にインバースオパール構造が形成されることが好ましい。
また、微細加工を用いたフォトニック結晶では、線欠陥導波路を利用した欠陥エンジニアリングにより、大きさの異なる欠陥により、特定の波長の光を分波する報告がなされている(例えば、非特許文献2 参照。)。微細加工による作製では、装置に加工精度が求められるほか、作製に多大なエネルギーを要するため、代替となる簡易な作製方法を提案することが必要となる。
【0005】
【特許文献1】特開平7−116502号公報
【特許文献2】特許第2693844号公報
【非特許文献1】P. Jiang, et al.,"A lost-wax approach to monodisperse colloids and their crystals",Science, Vol.291, pp. 453-457(2001)
【非特許文献2】S. Noda, et al.,"Trapping and emission of photons by a single defect in a phptonic bandgap structure", Nature 407, pp 608-610 (2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
インバースオパール法により作製された周期性構造物は、元型となる微粒子を除去した際に基板からはずれるという課題がある。フォトニック結晶やセンサーとしての利用には、基板上にインバースオパール構造のような周期性構造物が形成されることが好ましい。
本発明はインバースオパール構造を有する周期性構造物を簡易に基板上に作製することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明では、以下の工程順に作製する周期性構造物の作製方法を特徴とする。
ここで、基板Aと基板Bの材質は互いに異なる。また、微粒子Cと材料Dの材質は互いに異なる。
(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Cを周期的に配列させることにより周期性構造物を作製する工程。
(b)前記周期性構造物の表面側から、基板Bを前記周期性構造物に対面させ、その後、両基板間に材料Dを充填する工程。
(c)工程(b)において充填された材料Dを固化もしくは固定化する工程。
(d)微粒子Cを除去し、基板Aを前記周期性構造物から取り外すことにより、基板Bの上に前記周期性構造物の反転周期性構造物を作製する工程。
請求項2に記載の発明では、以下の工程順に作製する周期性構造物の作製方法を特徴とする。
ここで、基板Aと基板Bの材質は互いに異なる。また、微粒子Cと材料D、微粒子被覆材料Eの材質は互いに異なる。
(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Cを周期的に配列させることにより第一の周期性構造物を作製する工程。
(b)第一の周期性構造物の微粒子C表面に材料Eにより被覆を施し、被覆が施された第二の周期性構造物を作製する工程。
(c)第二の周期性構造物の表面側から、工程(a)にて使用した基板Aとは異なる基板Bを第二の周期性構造物に対面させ、その後、両基板間に材料Dを充填する工程。
(d)工程(c)において充填された材料Dを固化もしくは固定化する工程。
(e)微粒子を除去し、基板Aを第一の周期性構造物から取り外すことにより、基板Bの上に間が材料Dにより充填された材料Eによる中空の殻粒子からなる周期性構造物を作製する工程。
【0008】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の周期性構造物の作製方法において、工程(b)にて、微粒子C表面に被覆を施す材料Eは金属アルコキシドを被覆後焼成することにより得た金属酸化物であることを特徴とする。
請求項4に記載の発明では、以下の工程順に作製する周期性構造物の作製方法を特徴とする。
ここで、基板Aと基板Bの材質は互いに異なる。また、微粒子Cと材料D、微粒子Cより小さい大きさの微粒子Fの材質は互いに異なる。
(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Cを周期的に配列させることにより第一の周期性構造物を作製する工程。
(b)第一の周期性構造物の微粒子間に、工程(a)にて使用した微粒子Cより小さい大きさで、且つ異なる材質の微粒子Fを充填することにより第二の周期性構造物を作製する工程。
(c)第二の周期性構造物の表面側から、基板Bを該周期性構造物に対面させ、その後、両基板間に材料Dを充填する工程。
(d)工程(c)において充填された材料Dを固化もしくは固定化する工程。
(e)微粒子Cを除去し、基板Aを構造物から取り外すことにより、基板Bの上に第一の周期性構造物の反転周期性構造物を作製する工程。
【0009】
請求項5に記載の発明では、請求項4に記載の周期性構造物の作製方法において、工程(b)にて、充填される微粒子Fはナノスケールのチタニア粒子であり、粒子を含む溶液として充填させた後にその乾燥により、ナノスケールの粒子を固定化する工程であることを特徴とする。
請求項6に記載の発明では、請求項1ないし5のいずれか一つに記載の周期性構造物の作製方法において、基板Aと基板Bを対面させるとき、基板Bは前記周期性構造物に接触させることを特徴とする。
【0010】
請求項7に記載の発明では、請求項1ないし6のいずれか一つに記載の周期性構造物の作製方法において、基板Aと基板Bを対面させるとき、基板Bは前記周期性構造物の厚さより大きい厚さのスペーサを介して対面させることを特徴とする。
請求項8に記載の発明では、以下の工程順に作製する周期性構造物の作製方法を特徴とする。
ここで、基板Aと基板Bの材質は互いに異なる。また、微粒子Cと材料Dの材質は互いに異なる。
(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Cを周期的に配列させることにより周期性構造物を作製する工程。
(b)工程(a)にて使用した基板Aとは異なる基板Bの表面に材料Dを塗布し、前記周期性構造物の表面側から、材料Dが塗布された基板Bを前記周期性構造物に接触させる工程。
(c)工程(b)において充填された材料Dを固化もしくは固定化する工程。
(d)微粒子Cを除去し、基板Aを前記周期性構造物から取り外すことにより、基板Bの上に前記周期性構造物の反転周期性構造物を作製する工程。
請求項9に記載の発明では、以下の工程順に作製する周期性構造物の作製方法を特徴とする。
ここで、基板Aと基板Bの材質は互いに異なる。また、微粒子Cと材料D、微粒子被覆材料Eの材質は互いに異なる。
(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Cを周期的に配列させることにより第一の周期性構造物を作製する工程。
(b)第一の周期性構造物の微粒子表面に材料Eの被覆を施す工程。
(c)基板Bの表面に材料Dを塗布し、周期性構造物の表面側から、材料Dが塗布された基板Bを周期性構造物に接触させる工程。
(d)材料Dを固化もしくは固定化する工程。
(e)微粒子を除去し、基板Aを第一の周期性構造物から取り外すことにより、基板Bの上に間が材料Dにより充填された材料Eによる中空の殻粒子からなる周期性構造物を作製する工程。
【0011】
請求項10に記載の発明では、請求項9に記載の周期性構造物の作製方法において、工程(b)にて、微粒子C表面に被覆を施す材料Eは金属アルコキシドを被覆後焼成することにより得た金属酸化物であることを特徴とする。
請求項11に記載の発明では、以下の工程順に作製する周期性構造物の作製方法を特徴とする。
ここで、基板Aと基板Bの材質は互いに異なる。また、微粒子Cと材料D、微粒子Cより小さい大きさの微粒子Fの材質は互いに異なる。
(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Cを周期的に配列させることにより第一の周期性構造物を作製する工程。
(b)第一の周期性構造物の微粒子間に、工程(a)にて使用した微粒子より小さい大きさで、且つ異なる材質の微粒子Fを充填し、第二の周期性構造物を作製する工程。
(c)工程(a)にて使用した基板Aとは異なる基板Bの表面に材料Dを塗布し、周期性構造物の表面側から、材料Dが塗布された基板Bを周期性構造物に接触させる工程。
(d)工程(c)において充填された材料Dを固化もしくは固定化する工程。
(e)微粒子Cを除去し、基板Aを第ニの周期性構造物から取り外すことにより、基板Bの上に第一の周期性構造物の反転周期性構造物を作製する工程。
請求項12に記載の発明では、請求項11に記載の周期性構造物の作製方法において、工程(b)にて、充填される微粒子Fはナノスケールのチタニア粒子であり、粒子を含む溶液として充填させた後にその乾燥により、ナノスケールの粒子を固定化する工程であることを特徴とする。
請求項13に記載の発明では、請求項1ないし12のいずれか1つに記載の周期性構造物の作製方法において、工程(a)における基板Aには凹凸加工が施されていることを特徴とする。
請求項14に記載の発明では、請求項1ないし13のいずれか1つに記載の周期性構造物の作製方法において、工程(a)における基板Aは二酸化珪素(SiO)を含む材料からなることを特徴とする。
請求項15に記載の発明では、請求項1ないし14のいずれか1つに記載の周期性構造物の作製方法において、工程(a)におけるコロイド液はシリカ微粒子を含むことを特徴とする。
請求項16に記載の発明では、請求項1ないし15のいずれか1つに記載の周期性構造物の作製方法において、工程(a)にて使用する微粒子を最終的に除去する工程は、液相における化学反応による除去であることを特徴とする。
請求項17に記載の発明では、請求項16に記載の周期性構造物の作製方法において、基板Bは前記液相に対して化学反応しない材質であることを特徴とする。
請求項18に記載の発明では、請求項1ないし17のいずれか1つに記載の周期性構造物の作製方法において、材料Dはモノマー、オリゴマーなどからなる樹脂組成物であることを特徴とする。
請求項19に記載の発明では、請求項1ないし18のいずれか1つに記載の周期性構造物の作製方法を用いた周期性構造物を特徴とする。
請求項20に記載の発明では、請求項19に記載の周期性構造物を用いた光学素子を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光学素子などへの応用範囲が広い、信頼性の高い周期性構造物を作製できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下本発明の実施例を説明する。
【実施例1】
【0014】
図1は本発明の作製方法により作成された光学素子の模式図である。
同図において符号1はポリカーボネイトなどからなる基板、2は光硬化型樹脂モノマー、2’は光硬化後の樹脂、3は空隙の周期構造をそれぞれ示す。
図2、図3は図1に示す光学素子の作製方法を説明するための図である。
両図において符号4は石英基板、5はコロイド溶液としてのシリカ微粒子分散水溶液、6はシリカの微粒子膜をそれぞれ示す。
各図においては、空隙周期構造の周期間隔や層数、基板に加工された箇所の形状や大きさなどは実際に作製した構造物とは異なるが、簡単に模式的に示している。以下の実施例においても同様である。
本構造物は、基板1上に球形の空隙からなる周期構造3を有する光硬化型樹脂2’を有している。球形空隙の周期構造3は、周期間隔300nm、層数約20層である。基板1と光硬化型樹脂2’は強固に接着している。コロイド溶液としてシリカ微粒子分散水溶液を用いるのは、単分散性の良い微粒子を用いることにより周期性構造物の欠陥数を低減することができるからである。
以下に本光学素子の作製方法を示す。
【0015】
まず、直径300nm、粒度分布の変動係数が3%以内のシリカ微粒子分散水溶液(0.5wt%、100ml、以下単に溶液という)を用意した。石英基板4(基板Aとする)を、図2に示すように液面に対しほぼ垂直になるように溶液5に浸し、石英基板4の上部を固定した。1週間程度そのまま放置し、溶液5内の溶媒を乾燥させた。その後、石英基板4を取り出し、十分乾燥させた。この際に、石英基板4表面にはシリカ微粒子(微粒子Cとする)による膜厚がほぼ一定のシリカ微粒子膜6の周期性構造物が形成された。基板上のシリカ微粒子膜6の硬度を高めるために600℃にて1時間の加熱を行った。
その後、作製した周期性構造物と接するように、ポリカーボネイト基板1(基板Bとする)を石英基板4と平行に対面配置した。その後、シリカ微粒子間にモノマーである光硬化型樹脂2(材料Dとする)を流しこみ、紫外線を照射し、重合により硬化させた。その後、フッ酸中にシリカおよび石英基板4が除去されるのに充分な時間浸し、純水にて洗浄後、乾燥させた。その結果、図1に示すように光硬化型樹脂2’からなる球形空隙の周期構造体3をポリカーボネイト基板1上に得た。この周期構造体3は、シリカ微粒子膜6の周期性構造物の反転周期性構造物になっている。
基板Aに基板Bを対面させるときに、周期性構造物と基板Bを実際に接触させる方法と、所定の厚さのスペーサ(後述)を挟んで、両者を接触させない方法がある。両者を接触させない方法の場合は、基板B側に光硬化樹脂だけからなる層が出来、接着力がより強固になる。
以上の説明で明らかなように、基板Aの材質は、石英に限らないが、化学反応で容易に除去(取り外し)可能な材質である必要がある。微粒子Cとしてシリカを用いる場合、周期性構造物を得やすいように、二酸化珪素(SiO)を含む材料、例えばガラスなどが適している。基板Bの材質は、微粒子Cや基板Aを除去するための化学物質に反応しないことが条件となる。多くの樹脂材料が使用可能であるが、光学素子として用いる関係上透明であることが望ましい。材料Dとしては、微粒子C間に容易に浸透可能で、後から固化できる接着性のあるものであればよい。ただし、基板A、微粒子Cを除去するための化学物質に反応しないことが条件となる。一般にモノマーないしオリゴマーなどの樹脂材料が適している。
【0016】
同図に示す光学素子は、コロイド溶液の毛管力、微粒子の自己組織化を利用して微粒子からなる周期性構造物(微粒子膜)を作製した後、微粒子間を光硬化型樹脂モノマー2により充填・硬化し、その後のシリカ除去により、空隙の周期構造を得たものである。光硬化型樹脂2’は石英基板4からはずれるが、従来例と異なり、ポリカーボネイト基板1に周期構造物が残る形になり、デバイスとしての利用が簡易である。基板1上に作製された周期性構造物3は応用範囲が広く、導波路や光フィルターなどのフォトニック結晶のほか、気体・液体の透過量や吸着量の測定からセンサーとしての利用も可能である。
フォトニック結晶としては、微細加工による作製では困難な3次元周期構造であり、光を閉じ込める効果は高い。微粒子が自己組織的に配列する現象を利用したボトムアップ手法では、エッチング装置などを用いて材料を加工するトップダウン手法と比較して、材料の無駄がなく、プロセスとしても容易であるため、省資源・省エネルギーであり、環境面でも優れている。従来では導波路などのフォトニック結晶は微細加工を施す方法でしか作製できず、環境面で問題があった。しかしながら、本発明により、環境面に優れたフォトニック結晶を作製できるようになった。
【実施例2】
【0017】
図4は本発明の他の作製方法により作製された光学素子の模式図である。
同図において符号7は光硬化型樹脂のみからなる接着層を示す。
図5は図4に示す光学素子の作製方法を説明するための図である。
球形空隙の周期構造は、先の実施例と同様、周期間隔300nm、層数約20層である。基板1と光硬化型樹脂2’は強固に接着している。球形空隙の周期構造3の下側には光硬化型樹脂2’のみからなる接着層7が存在している。したがって、周期性構造物の信頼性を増すことができるという効果を奏する。
以下に図4に示す光学素子の作製方法を示す。
【0018】
まず、実施例1と同様のシリカ微粒子分散水溶液5を用意した。実施例1と同様に、石英基板4を溶液5に浸し、1週間程度放置して溶液5内の溶媒を乾燥させた後、石英基板4を取り出し、十分乾燥させた。さらに、実施例1と同様、基板上の微粒子膜の硬度を高めるために600℃にて1時間の加熱を行った。
ポリカーボネイト基板1を用意し、スピンナーのテーブルの上に固定し、ポリカーボネイト基板1上に光硬化型接着剤を塗布し、スピンコート法により一定膜厚とした。その上に、前記作製のシリカ微粒子からなる周期性構造物3を下側にして石英基板4をポリカーボネイト基板1上に重ね設置した。その結果、光硬化型樹脂モノマー2は微粒子間に浸透した。その後、紫外線を照射し、光硬化型樹脂を重合により硬化させた。
その後、フッ酸中にシリカおよび石英基板4が除去されるのに充分な時間浸し、純水にて洗浄後、乾燥させた。その結果、図4に示すように光硬化型樹脂2’からなる球形空隙の周期構造体(シリカ微粒子膜6の周期性構造物の反転周期性構造物)をポリカーボネイト基板上に得た。
本実施例による光学素子は、基板1の上に光硬化型接着剤を塗布する工程があるため、接着層のみの層を形成することができ、周期性構造物の信頼性を増すことができるという効果を奏する。接着層のみの層の厚さは、スピンコートによる膜厚の制御と、石英基板4を重ねたときの加圧力の制御により、任意の厚さが得られる。
【実施例3】
【0019】
図6は光学素子の他の作製方法を示す図である。
同図において符号8はスペーサを示す。
図4に示す光学素子の他の作製方法を説明する。実施例1と同様にしてシリカの微粒子膜6を有する石英基板4を作製した。
所定の厚さスペーサ8が固定されたポリカーボネイト基板1を用意し、真空吸着が可能なテーブルの上に固定し、基板1上に光硬化型接着剤(モノマー)2を滴下した。その上に、前記作製のシリカ微粒子からなる周期性構造物3を下側に石英基板4をポリカーボネイト基板1上に設置した。その結果、光硬化型樹脂モノマー2は微粒子間に浸透した。スペーサー8の厚みはシリカ微粒子からなる周期性構造物の厚みより大きくしてあるため、光硬化型樹脂モノマー2のみからなる接着層が形成された。その後、紫外線を照射し、光硬化型樹脂を重合により硬化させた。
その後、フッ酸中にシリカおよび石英基板が除去されるのに充分な時間浸し、純水にて洗浄後、乾燥させた。その結果、図4に示すように光硬化型樹脂2’からなる球形空隙の周期構造体をポリカーボネイト基板上に得た。
スペーサ8は実施例1の作製法にも応用できる。
【実施例4】
【0020】
図7は本発明の他の作製方法により作成された光学素子の模式図である。
同図において符号9は殻粒子の周期構造を示す。
本実施例の光学素子の作製方法は、実施例1ないし3に示した作製方法とほぼ同様である。異なる点は、本実施例では、図2に示すように石英基板上にシリカ微粒子からなる周期性構造物を得た後に、シリカ微粒子の外壁にチタンアルコキシドを塗布し、500℃、5時間の焼成を加えてチタニア(材料Eとする)を形成した後に、ポリカーボネイト基板と接着させる点である。
フッ酸によりシリカを除去した後には、高屈折率材料であるチタニアに囲まれた空隙の殻粒子による周期構造9が形成されるので、光を閉じこめる効果は非常に高い。
スペーサ8の厚みや光硬化型接着剤2の粘度などを調整することにより種々の構造物を作成することが可能である。
実施例では材料Eとしてチタニアを例に挙げたが、一般には金属アルコキシドを用いて、焼成により金属酸化物を形成することで目的の殻粒子を作ることができる。
【実施例5】
【0021】
図8は本発明の他の作製方法により作成された光学素子の模式図である。
同図において符号10は凹部を示す。
本実施例の光学素子の作製方法は、実施例1に記した作製方法とほぼ同じである。異なる点は、本実施例では、石英基板上にシリカ微粒子からなる周期性構造物を形成する際に、凹凸加工が施された石英基板を用いた点である。凹凸加工が施された石英基板を使用することにより、同図に示すように、最終的に作製される構造物にその形状を反映したパターニングが可能となる。
このように凹凸を有する周期性構造物は光導波路としての応用が可能となる。
【実施例6】
【0022】
石英基板上にシリカ微粒子からなる周期性構造物を得た後に、シリカ微粒子間に約10nmサイズのチタニア粒子(微粒子Fとする)を含む水溶液を充填し、溶媒を乾燥させた。その後、周期性構造物とポリカーボネイト基板と接着させ、光硬化型樹脂モノマー2を充填して紫外線により硬化させた。その後、フッ酸によるエッチングによりシリカ微粒子および石英基板を除去した。
本実施例により作製された周期性構造物は、球形の空隙からなるインバースオパール構造であるが、形成物質には、チタニア粒子が含まれており、その間を光硬化型樹脂が充填されている。チタニア粒子の大きさや、粒子の割合を変えることにより、実効的な屈折率を調整できる。また、接着剤の粘度により充填の割合も調整できる。
【0023】
以上、本発明を説明するために実施例を示してきたが、本発明はこれらの実施例にとどまることなく応用できることは言うまでもない。
微粒子Cの種類は、同様の原理による作製が可能であるシリカ以外の粒子も選択できる。微粒子径は通常数nmから数百nmのものが市販されているが、限定されない。微粒子周期性構造物を作製するために使用する微粒子径を変えることによって、閉じ込める光の波長を選択することができる。微粒子周期性構造物の作製方法は、基板を水平に設置する、基板に加工を施すなど、他の作製方法による周期性構造物であってもよい。工程(a)にて基板Aの上に微粒子Cからなる周期性構造物を配列させる工程は、詳細な説明は省くが、例えば2枚の石英基板間に作製してから一方の石英基板を取り外す場合と、図2に示すように最初から1枚の石英基板表面に作製する場合がある。作製される周期性構造物、使用する基板等の大きさ等は限定されず、材質は請求項を満たす範囲で限定されない。周期性構造物作製時における溶液濃度、温度などは限定されない。周期構造物の微粒子間にナノスケール(nm単位で表される大きさ)の微粒子Fを充填して固定化する場合には、チタニア粒子を含む溶液を使う場合のほか、硫化亜鉛など他の粒子の選択も可能である。粉末状の固体を用いて固定化する場合もある。
【0024】
微粒子が自己組織的に配列する現象を利用したボトムアップ手法では、エッチング装置などを用いて材料を加工するトップダウン手法と比較して、材料の無駄がなく、プロセスとしても容易であるため、省資源・省エネルギーであり、環境面でも優れている。トップダウン方式では、真空装置は真空ポンプ、ヒータなども用いるので電力を大量に長時間使用する上、材料が無駄になる。一方、本発明などのようなボトムアップ手法では基板を微粒子分散液に浸すことにより微粒子が集積し、周期性構造物が形成されるので、作製に要するエネルギーが格段に小さく、プロセスそのものも省エネルギーになる。作製プロセスに用いる溶媒なども回収が容易で、省資源かつ環境に優しい。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の作製方法により作成された光学素子の模式図である。
【図2】図1に示す光学素子の作製方法を説明するための図である。
【図3】図1に示す光学素子の作製方法を説明するための図である。
【図4】本発明の他の作製方法により作成された光学素子の模式図である。
【図5】図4に示す光学素子の作製方法を説明するための図である。
【図6】光学素子の他の作製方法を示す図である。
【図7】本発明の他の作製方法により作成された光学素子の模式図である。
【図8】本発明の他の作製方法により作成された光学素子の模式図である。
【符号の説明】
【0026】
1 基板
2 樹脂
3 空隙の周期構造
4 石英基板
5 シリカ微粒子分散水溶液
6 シリカの微粒子膜
7 光硬化型樹脂層
8 スペーサ
9 空隙の周期構造
10 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程順に作製することを特徴とする周期性構造物の作製方法。
ここで、基板Aと基板Bの材質は互いに異なる。また、微粒子Cと材料Dの材質は互いに異なる。
(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Cを周期的に配列させることにより周期性構造物を作製する工程。
(b)前記周期性構造物の表面側から、基板Bを前記周期性構造物に対面させ、その後、両基板間に材料Dを充填する工程。
(c)工程(b)において充填された材料Dを固化もしくは固定化する工程。
(d)微粒子Cを除去し、基板Aを前記周期性構造物から取り外すことにより、基板Bの上に前記周期性構造物の反転周期性構造物を作製する工程。
【請求項2】
以下の工程順に作製することを特徴とする周期性構造物の作製方法。
ここで、基板Aと基板Bの材質は互いに異なる。また、微粒子Cと材料D、微粒子被覆材料Eの材質は互いに異なる。
(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Cを周期的に配列させることにより第一の周期性構造物を作製する工程。
(b)第一の周期性構造物の微粒子C表面に材料Eにより被覆を施し、被覆が施された第二の周期性構造物を作製する工程。
(c)第二の周期性構造物の表面側から、工程(a)にて使用した基板Aとは異なる基板Bを第二の周期性構造物に対面させ、その後、両基板間に材料Dを充填する工程。
(d)工程(c)において充填された材料Dを固化もしくは固定化する工程。
(e)微粒子を除去し、基板Aを第一の周期性構造物から取り外すことにより、基板Bの上に間が材料Dにより充填された材料Eによる中空の殻粒子からなる周期性構造物を作製する工程。
【請求項3】
請求項2に記載の周期性構造物の作製方法において、工程(b)にて、微粒子C表面に被覆を施す材料Eは金属アルコキシドを被覆後焼成することにより得た金属酸化物であることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項4】
以下の工程順に作製することを特徴とする周期性構造物の作製方法。
ここで、基板Aと基板Bの材質は互いに異なる。また、微粒子Cと材料D、微粒子Cより小さい大きさの微粒子Fの材質は互いに異なる。
(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Cを周期的に配列させることにより第一の周期性構造物を作製する工程。
(b)第一の周期性構造物の微粒子間に、工程(a)にて使用した微粒子Cより小さい大きさで、且つ異なる材質の微粒子Fを充填することにより第二の周期性構造物を作製する工程。
(c)第二の周期性構造物の表面側から、基板Bを該周期性構造物に対面させ、その後、両基板間に材料Dを充填する工程。
(d)工程(c)において充填された材料Dを固化もしくは固定化する工程。
(e)微粒子Cを除去し、基板Aを構造物から取り外すことにより、基板Bの上に第一の周期性構造物の反転周期性構造物を作製する工程。
【請求項5】
請求項4に記載の周期性構造物の作製方法において、工程(b)にて、充填される微粒子Fはナノスケールのチタニア粒子であり、粒子を含む溶液として充填させた後にその乾燥により、ナノスケールの粒子を固定化する工程であることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一つに記載の周期性構造物の作製方法において、基板Aと基板Bを対面させるとき、基板Bは前記周期性構造物に接触させることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか一つに記載の周期性構造物の作製方法において、基板Aと基板Bを対面させるとき、基板Bは前記周期性構造物の厚さより大きい厚さのスペーサを介して対面させることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項8】
以下の工程順に作製することを特徴とする周期性構造物の作製方法。
ここで、基板Aと基板Bの材質は互いに異なる。また、微粒子Cと材料Dの材質は互いに異なる。
(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Cを周期的に配列させることにより周期性構造物を作製する工程。
(b)工程(a)にて使用した基板Aとは異なる基板Bの表面に材料Dを塗布し、前記周期性構造物の表面側から、材料Dが塗布された基板Bを前記周期性構造物に接触させる工程。
(c)工程(b)において充填された材料Dを固化もしくは固定化する工程。
(d)微粒子Cを除去し、基板Aを前記周期性構造物から取り外すことにより、基板Bの上に前記周期性構造物の反転周期性構造物を作製する工程。
【請求項9】
以下の工程順に作製することを特徴とする周期性構造物の作製方法。
ここで、基板Aと基板Bの材質は互いに異なる。また、微粒子Cと材料D、微粒子被覆材料Eの材質は互いに異なる。
(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Cを周期的に配列させることにより第一の周期性構造物を作製する工程。
(b)第一の周期性構造物の微粒子表面に材料Eの被覆を施す工程。
(c)基板Bの表面に材料Dを塗布し、周期性構造物の表面側から、材料Dが塗布された基板Bを周期性構造物に接触させる工程。
(d)材料Dを固化もしくは固定化する工程。
(e)微粒子を除去し、基板Aを第一の周期性構造物から取り外すことにより、基板Bの上に間が材料Dにより充填された材料Eによる中空の殻粒子からなる周期性構造物を作製する工程。
【請求項10】
請求項9に記載の周期性構造物の作製方法において、工程(b)にて、微粒子C表面に被覆を施す材料Eは金属アルコキシドを被覆後焼成することにより得た金属酸化物であることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項11】
以下の工程順に作製することを特徴とする周期性構造物の作製方法。
ここで、基板Aと基板Bの材質は互いに異なる。また、微粒子Cと材料D、微粒子Cより小さい大きさの微粒子Fの材質は互いに異なる。
(a)コロイド溶液を用いて、基板Aの上に微粒子Cを周期的に配列させることにより第一の周期性構造物を作製する工程。
(b)第一の周期性構造物の微粒子間に、工程(a)にて使用した微粒子より小さい大きさで、且つ異なる材質の微粒子Fを充填し、第二の周期性構造物を作製する工程。
(c)工程(a)にて使用した基板Aとは異なる基板Bの表面に材料Dを塗布し、周期性構造物の表面側から、材料Dが塗布された基板Bを周期性構造物に接触させる工程。
(d)工程(c)において充填された材料Dを固化もしくは固定化する工程。
(e)微粒子Cを除去し、基板Aを第ニの周期性構造物から取り外すことにより、基板Bの上に第一の周期性構造物の反転周期性構造物を作製する工程。
【請求項12】
請求項11に記載の周期性構造物の作製方法において、工程(b)にて、充填される微粒子Fはナノスケールのチタニア粒子であり、粒子を含む溶液として充填させた後にその乾燥により、ナノスケールの粒子を固定化する工程であることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1つに記載の周期性構造物の作製方法において、工程(a)における基板Aには凹凸加工が施されていることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項14】
請求項1ないし13のいずれか1つに記載の周期性構造物の作製方法において、工程(a)における基板Aは二酸化珪素(SiO)を含む材料からなることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項15】
請求項1ないし14のいずれか1つに記載の周期性構造物の作製方法において、工程(a)におけるコロイド液はシリカ微粒子を含むことを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれか1つに記載の周期性構造物の作製方法において、工程(a)にて使用する微粒子を最終的に除去する工程は、液相における化学反応による除去であることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項17】
請求項16に記載の周期性構造物の作製方法において、基板Bは前記液相に対して化学反応しない材質であることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項18】
請求項1ないし17のいずれか1つに記載の周期性構造物の作製方法において、材料Dはモノマー、オリゴマーなどからなる樹脂組成物であることを特徴とする周期性構造物の作製方法。
【請求項19】
請求項1ないし18のいずれか1つに記載の周期性構造物の作製方法を用いたことを特徴とする周期性構造物。
【請求項20】
請求項19に記載の周期性構造物を用いたことを特徴とする光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−167855(P2006−167855A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−363367(P2004−363367)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】