説明

哺乳類発現ベクター

本発明は、哺乳類細胞において少なくとも1個の目的ポリペプチドを発現させるのに適当なベクター核酸であって、
(a) 目的ポリペプチドを発現させるのに適当な少なくとも1個の発現カセット(POI);
(b) 哺乳類選択可能マーカー遺伝子を含む発現カセット(MSM);
(c) 哺乳類で増幅可能かつ選択可能なマーカー遺伝子を含む発現カセット(MASM);
を含み、発現カセット(POI)がその5'で発現カセット(MASM)と隣接しており、発現カセット(MSM)が発現カセット(POI)の3'に位置し、発現カセット(MASM)、(POI)および(MSM)が同じ5'から3'の方向で並んでいるベクター核酸を提供する。本発明はまた、該ベクターを含む宿主細胞および各々の宿主細胞を用いたポリペプチドの製造法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、目的のポリペプチドを発現させるための哺乳類発現ベクターならびにそれぞれのベクターを用いることにより哺乳類宿主細胞内で目的のポリペプチドを発現させるための方法および該ベクターを含む宿主細胞に関する。
【背景技術】
【0002】
組み換えペプチドおよびタンパク質を大量にクローン化し、発現させる技術は、近年、ますます重要になってきている。高レベルのタンパク質を精製する技術は、ヒト医薬および生物工学の分野において、例えば、タンパク質医薬品の製造のために重要であり、また基礎研究の分野おいて、例えば、三次元構造の決定を可能にするタンパク質の結晶化のために重要である。あるいは、多くの量を得ることが困難なタンパク質は、宿主細胞で過剰発現され、次いで、単離および精製され得る。
【0003】
組み換えタンパク質産生のための発現系の選択は、細胞増殖特性、発現レベル、細胞内および細胞外発現、目的のタンパク質の翻訳後修飾および生物学的活性、ならびに治療タンパク質の製造における規制問題および経済的考慮を含む多くの因子に依存する。他の発現系、例えば、細菌もしくは酵母を超えた哺乳類細胞の重要な利点は、適当なタンパク質折り畳み、複雑なN結合型グリコシル化および真正の(authentic)O結合型グリコシル化、ならびに広範囲にわたる翻訳後修飾である。上記の利点により、哺乳類細胞は、現在、モノクローナル抗体のような複雑な治療タンパク質の産生のために一般に好まれる発現系である。組み換え細胞株を作製する最初の工程は、発現ベクターの構築である。発現ベクターは、宿主細胞内で異種遺伝子の発現を誘導し、組み換え細胞株を作製するための選択マーカーを提供する重要な構成要素である。哺乳類発現ベクターの重要な構成要素は、通常、強力な転写活性を可能にする構成的もしくは誘導性プロモーター; 通常、Kozak配列、翻訳終始コドン、mRNA切断およびポリアデニル化シグナル、ならびにmRNAスプライシングシグナルを含む最適化mRNAプロセッシングおよび翻訳シグナル; 転写ターミネーター; 安定な細胞株の製造および遺伝子増幅のための選択マーカー; 原核生物複製開始点ならびに細菌でのベクター増殖のための選択マーカーを含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
最近、開発の焦点は、哺乳類細胞における遺伝子発現のための改良ベクターの設計に集中していた。しかしながら、多くの利用可能なベクターが存在するにもかかわらず、哺乳類細胞における強力なポリペプチド/タンパク質産生は、なお困難な課題である。下記を含むいくつかの因子が、哺乳類細胞での組み換え発現に影響を与え得る: プロモーター強度、5'非翻訳領域および翻訳開始領域の状態、ポリアデニル化され、転写を終結する3'非翻訳領域の効率、宿主染色体に無作為に組み込まれた組み換え遺伝子の挿入部位、ならびに発現する組み込まれた遺伝子のコピー数。遺伝子コピー数の増加は、通常、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)もしくはグルタミンシンターゼ(GS)のような酵素を欠損した細胞株をこれらの酵素をコードする遺伝子を含む発現ベクターとDHFRを阻害するメトトレキサート(MTX)およびGSを阻害するメチオニンスルホキシミン(MSX)のような薬剤と組み合わせて用いた遺伝子増幅により達成される。強力なプロモーターの制御下での組み換え遺伝子およびDHFRもしくはGSをコードする遺伝子を含む発現ベクターを用いて、それぞれ、DHFR+もしくはGS+形質転換体が最初に取得され、次いで、MTXまたはMSXを徐々に増加させて、形質転換体を増殖させることにより、遺伝子増幅が達成される。
【0005】
本発明の目的は、哺乳類細胞内で目的ポリペプチドを発現させるための改良型発現ベクターおよび発現系を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、哺乳類細胞において少なくとも1個の目的ポリペプチドを発現させるためのベクター核酸であって、
(a) 目的ポリペプチドを発現させるための少なくとも1個の発現カセット(POI);
(b) 哺乳類選択可能マーカー遺伝子を含む発現カセット(MSM);
(c) 哺乳類で増幅可能かつ選択可能なマーカー遺伝子を含む発現カセット(MASM);
を含み、発現カセット(POI)がその5'で発現カセット(MASM)と隣接しており、発現カセット(MSM)が発現カセット(POI)の3'に位置し、発現カセット(MASM)、(POI)および(MSM)が同じ5'から3'の方向で並んでいるベクター核酸が提供される。
【0007】
本発明による「ベクター核酸」は、少なくとも1個の外因性核酸断片を有するポリヌクレオチドである。ベクター核酸は、「分子運搬体」のように機能し、核酸断片、すなわち、ポリヌクレオチドを宿主細胞に送達する。それは、制御およびコード配列を含む少なくとも1個の発現カセットを含む。発現カセットにより、組み込まれたポリヌクレオチドの適当な発現が可能となる。本発明において決定的に重要な発現カセットは、下記でさらに詳述されている。例えば、目的ポリペプチドをコードする外因性ポリヌクレオチドは、発現させる目的で、ベクター核酸の発現カセットに挿入され得る。本発明によるベクター核酸は、環状もしくは直線型で存在し得る。該部位は、例えば、マルチクローニングサイト(MCS)であり得る。
【0008】
発現カセット(POI)は、目的ポリペプチドを発現させるための発現カセットと定義される。該発現カセット(POI)は、目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含むか、または目的ポリペプチドをコードする各ポリヌクレオチドを挿入するのに適当な部位を含む。
【0009】
「ポリペプチド」は、ペプチド結合により結合したアミノ酸のポリマーを含む分子を意味する。ポリペプチドは、タンパク質(例えば、50個以上のアミノ酸を含む)およびペプチド(例えば、2-49個のアミノ酸を含む)を含む任意の長さのポリペプチドを含む。ポリペプチドは、任意の活性もしくは生物学的活性を有するタンパク質および/またはペプチドを含む。適当な例は下記する。
【0010】
発現カセット(MSM)は、哺乳類選択可能マーカー遺伝子を含む発現カセットと定義される。哺乳類選択可能マーカー遺伝子により、該遺伝子を含む哺乳類宿主細胞の選択が可能となり、したがって、該ベクターを含む哺乳類宿主細胞の選択が可能となる。適当な例は、下記に詳述する。
【0011】
発現カセット(MASM)は、哺乳類で増幅可能かつ選択可能なマーカー遺伝子を含む発現カセットと定義される。哺乳類で増幅可能かつ選択可能なマーカー遺伝子により、ベクター含有哺乳類宿主細胞の選択および遺伝子増幅が可能となる。適当な例は、下記に詳述する。
【0012】
「5'」および「3'」なる用語は、遺伝学的要素の位置および/またはイベントの方向(5'から3')、例えば、5'から3'方向に進むRNAポリメラーゼによる転写もしくはリボソームによる翻訳に関連する核酸の特徴を示すために使用される慣例である。同義語は、上流(5')および下流(3')である。慣例では、DNA配列、遺伝子マップ、ベクターカードおよびRNA配列は、左から右に5'から3'で描かれるか、または5'から3'方向は、矢印で示され、この場合には、矢頭が3'方向を示す。したがって、この慣例に従うと、5'(上流)は、左側に位置する遺伝学的要素を示し、3'(下流)は、右側に位置する遺伝学的要素を示す。
【0013】
本発明のベクター中に存在する発現カセットの配置および方向は、重要である。本発明の教示によると、発現カセット(POI)の5'で発現カセット(MASM)に隣接している。したがって、発現カセット(MASM)は、発現カセット(POI)の5'に隣接して、およびそれにより近接して位置する。当然に、ベクター骨格配列は、発現カセット(MASM)および(POI)に分離させ得る。しかしながら、好ましくは、他の発現カセットは、発現カセット(MASM)と発現カセット(POI)の間に位置しない。発現カセット(MSM)は、発現カセット(POI)の3'に位置する。さらなる発現カセットが発現カセット(POI)と(MSM)の間に挿入され得て、例えば、それは、さらなる目的ポリペプチドを発現させるためのさらなる発現カセット(POI')であり得る(下記で詳述する)。発現カセット(MASM)、(POI)および(MSM)は、すべて5'から3'の同じ方向に並んでいる。本願の発明者等は、この特定のベクター核酸配置が迅速かつ高収量の細胞株の産生を可能とすることを見出した。
【0014】
別の態様では、発現カセット(POI)は、目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含まない。したがって、「空の」発現カセット(POI)を含む発現ベクターが提供される。しかしながら、目的ポリペプチドをコードする該ポリヌクレオチドは、適当なクローニング法を用いることにより、例えば、目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを発現カセット(POI)に挿入するために制限酵素を用いることにより、発現カセット(POI)に組み込まれ得る。この目的のために、発現カセット(POI)は、例えば、すべてのリーディングフレームで使用され得る、例えば、マルチクローニングサイト(MCS)を含み得る。適当なMCSサイトは、下記で詳述する。各々の「空」ベクター核酸は、例えば、顧客に提供され得て、次いで、発現させる特定の目的ポリヌクレオチドが発現カセット(POI)に挿入され得る。発現カセット(POI)はまた、置換ポリヌクレオチドまたはスタッファー(stuffer)核酸配列を含み得て、それは、切り取られ、目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドで置換され得る。本発明はまた、目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現カセット(POI)を含む、上記のベクター核酸を提供する。この態様は、基本的に、発現のために宿主細胞に導入される最終発現ベクター核酸に関連する。
【0015】
ポリヌクレオチドは、通常、デオキシリボースまたはリボースが連結しているヌクレオチドのポリマーである。「ポリヌクレオチド」なる用語は、任意のサイズの制限を含まず、また修飾を含むポリヌクレオチド、特に、修飾化ヌクレオチドを包含する。
【0016】
1つの態様によると、ベクター核酸は、環状であり、発現カセット(MSM)は、発現カセット(POI)の3'に位置しており、発現カセット(MASM)は、発現カセット(MSM)の3'に位置している。本発明の教示による環状ベクターの別の態様は、哺乳類細胞において少なくとも1個の目的ポリペプチドを発現させるための環状ベクター核酸であって、
(a) 目的ポリペプチドを発現させるための少なくとも1個の発現カセット(POI);
(b) 哺乳類選択可能マーカー遺伝子を含む発現カセット(MSM);
(c) 哺乳類で増幅可能かつ選択可能なマーカー遺伝子を含む発現カセット(MASM);
を含み、発現カセット(MSM)は、発現カセット(POI)の3'に位置しており、発現カセット(MASM)は、発現カセット(MSM)の3'に位置しており、発現カセット(MASM)、(POI)および(MSM)が同じ5'から3'の方向で並んでいる環状ベクター核酸である。
【0017】
ベクター核酸は、その環状型で宿主細胞に導入され得る。スーパーコイルドベクターは、通常、エンドヌクレアーゼおよびエキソヌクレアーゼ活性のために、核内で直線状分子に変換され得る。しかしながら、導入前のベクター核酸の直線化は、しばしば、安定なトランスフェクションの効率を改善する。このことはまた、ベクターが導入前に直線化されるとき、直線化のポイントとしてコントロールされ得る。
【0018】
したがって、本発明の1つの態様によると、発現ベクターは、所定の制限酵素部位を含み、それは、導入前のベクター核酸の直線化のために使用され得る。該直線化制限酵素部位の合理的な配置は、該制限酵素部位が、ベクター核酸が開裂し/直線化する位置を決定し、したがって、構築体が哺乳類細胞のゲノムに組み込まれるときの発現カセットの順序/配置を決定するので、重要である。
【0019】
したがって、ベクター核酸は、ベクターを直線化するための直線化制限酵素部位を含み得て、該直線化制限酵素部位は、発現カセット(MSM)と(MASM)の間に位置する。好ましくは、該直線化制限酵素部位は、固有のものであり、発現ベクター核酸内に1個だけ存在する。例えば、ベクターが直線化制限酵素部位でのみ切断され、例えば、発現カセット内もしくはベクター骨格では切断されない(またはごくまれに切断される)ことを補助する(patronize)ために、低頻度の切断活性を有する制限酵素により認識される直線化制限酵素部位が使用され得る。これは、例えば、6塩基以上の認識配列を有する制限酵素のための制限酵素部位または染色体DNA中に存在する(under-represented)配列を認識する制限酵素を提供することにより促進され得る。適当な例は、SwaI酵素であり、したがって、ベクターは、特定の直線化制限酵素部位として、SwaI認識部位を組み込まれる。該直線化制限酵素部位がベクター核酸配列(目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む)内に2個以上存在するか、またはベクター核酸配列内で数回切断する制限酵素が使用される場合には、例えば、さらなる制限酵素部位を除去するために、および特定のまたは少なくとも稀な直線化制限酵素部位を得るために、発現カセット(MSM)と(MASM)の間に位置する直線化制限酵素部位に加えて制限酵素部位を改変し/突然変異させることはまた、本発明の範囲内である。
【0020】
ベクターが、例えば、いくつかの異なるポリペプチドの発現のためのツールとして意図される標準的な発現ベクターとして使用される場合、低頻度の切断活性を有する酵素のための複数認識部位を含む直線化制限酵素部位を提供することが有利である。直線化のために選択される制限酵素は、好ましくは、該酵素がベクターの適当な直線化制限酵素部位について1回のみ切断することを保証するために、選択可能マーカーまたは他のベクター骨格配列のための発現カセット内で切断を生じるべきではない。低い切断頻度を有する制限酵素のための複数の認識部位を含む直線化制限酵素部位を提供することにより、使用者は、目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド内の切断を安全に避けるために、提供される選択肢から直線化のための適当な制限酵素を選択し得る。しかしながら、上記したとおり、さらなる制限酵素部位は突然変異しているか、または部分的な制限酵素消化が行われ得る。
【0021】
発現カセット(MSM)と発現カセット(MASM)の間に直線化制限酵素部位を置くことは、発現カセット(POI)(および所望により目的ポリペプチドを発現させるためのさらなる発現カセット)の5'で発現カセット(MASM)と隣接するという効果を有する。発現カセット(MSM)は、直線上で発現カセット(POI)の3'に位置する。それにより、発現カセット(MSM)および(MASM)は、環状ベクター核酸の直線化により分離する。細菌選択マーカーについての発現カセット(PSM)が存在するとき(下記を参照のこと)、直線化制限酵素部位は、好ましくは、発現カセット(PSM)と(MASM)の間に置かれる。これは、細菌選択マーカー遺伝子が3'にあり、したがって、直線化ベクター核酸の「哺乳類」部分の「外側」にあるという効果を有する。細菌配列は、哺乳類細胞において増加したメチル化または他の抑制効果を生じ得るため、細菌遺伝子が哺乳類発現のために有利ではないと推定されるので、この配置が好ましい。
【0022】
発現カセット(MSM)に包含され得る哺乳類選択可能マーカー遺伝子についての非限定的な例は、抗生物質耐性遺伝子、例えば、G418に対する耐性を与える遺伝子; ハイグロマイシン(hygまたはhphと表記され、Life Technologies, Inc. Gaithesboro, Md.から市販で入手可能である); ネオマイシン(neoと表記され、Life Technologies, Inc. Gaithesboro, Md.から市販で入手可能である); ゼオシン(Sh Bleと表記され、Pharmingen, San Diego Calif.から市販で入手可能である); ピューロマイシン(pac、ピューロマイシン-N-アセチル-トランスフェラーゼと表記され、Clontech, Palo Alto Calif.から市販で入手可能である); ウアバイン(ouaと表記され、Pharmingenから市販で入手可能である)およびブラストサイシン(Invitrogenから市販で入手可能である)を含む。各々の哺乳類選択可能マーカー遺伝子は十分に既知であり、該遺伝子を含む哺乳類宿主細胞の選択(すなわち、該ベクターを含む宿主細胞の選択)を可能にする。本明細書で使用される「遺伝子」なる用語はまた、意図される耐性を提供する選択可能マーカーの機能性変異体をコードする天然もしくは合成ポリヌクレオチドを意味する。したがって、野生型遺伝子の切断型もしくは突然変異型または合成ポリヌクレオチドはまた、それらが意図される耐性を提供するかぎり包含される。好ましい態様では、該発現カセット(MSM)は、酵素学的に機能的なネオマイシンホスホトランスフェラーゼ(IまたはII)をコードする遺伝子を含む。この態様は、増幅可能かつ選択可能なマーカー遺伝子として酵素学的に機能的なDHFRをコードする遺伝子の使用と組み合わせると効果的である。
【0023】
増幅可能かつ選択可能な哺乳類マーカー遺伝子は、ベクター保有哺乳類宿主細胞の選択および遺伝子増幅を可能にする。増幅可能かつ選択可能な哺乳類マーカー遺伝子の例は、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)遺伝子であるが、これに限定されない。現在使用されている他の系は、とりわけ、グルタミンシンターゼ(gs)系(Bebbington et al., 1992)およびヒスチジノール誘導選択系(Hartmann and Mulligan, 1988)である。これらの増幅可能マーカーはまた、選択可能マーカーであり、したがって、ベクターを得た細胞を選択するために使用され得る。DHFRおよびグルタミンシンターゼは、望ましい結果を提供する。両方の場合において、選択は通常、適当な代謝産物(DHFRの場合には、ヒポキサンチンおよびチミジン、GSの場合には、グルタミン)の非存在下で生じ、非形質転換細胞の増殖を妨げる。DHFR系のような増幅可能系において、組み換えタンパク質の発現は、細胞を遺伝子増幅を促進する特定の薬剤、例えば、DHFR系の場合には、抗葉酸剤(例えば、メトトレキサート(MTX))に曝露することにより増加させ得る。GS促進遺伝子増幅についての適当な阻害剤は、メチオニンスルホキシミン(MSX)である。MSXへの曝露はまた、遺伝子増幅を生じる。1つの態様において、該発現カセット(MASM)は、酵素学的に機能的なグルタミンシンターゼ(GS)またはジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)をコードする遺伝子を含む。
【0024】
1つの態様において、該発現カセット(MSM)は、酵素学的に機能的なネオマイシンホスホトランスフェラーゼをコードする遺伝子を含み、該発現カセット(MASM)は、酵素学的に機能的なジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)をコードする遺伝子を含む。
【0025】
ベクターは、さらなる目的ポリペプチドを発現させるための少なくとも1個のさらなる発現カセット(POI')を含み得る。該さらなる発現カセット(POI')は、発現カセット(POI)と発現カセット(MSM)の間に位置する。該発現カセット(POI')は、発現カセット(POI)および(MSM)と同じ5'から3'方向に並んでいる。1つの態様において、それは、さらなる目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む。
【0026】
したがて、本発明によるベクター核酸は、目的ポリペプチドを発現させるための2個以上の発現カセットを含み得る。したがって、また、異なる目的ポリペプチドを発現させるためのいくつかの発現カセット((POI)、(POI')、(POI'')など)が、本発明による発現ベクター核酸内に並んでいることが可能である。これらの発現カセットは、5'で発現カセット(MASM)と隣接しており、3'で発現カセット(MSM)と隣接している。したがって、本発明はまた、例えば、二量体またはより高いオーダーの多量体タンパク質のサブユニットをコードする2個以上の発現カセットを含むベクター核酸を提供する。異なる発現カセットに各々組み込まれた多量体タンパク質の異なるサブユニットをコードする発現カセットは、互いに隣接して配置させることができる。少なくとも2個の異なる遺伝子によりコードされる多量体タンパク質(例えば、免疫グロブリン軽鎖および重鎖またはその機能性断片、例えば、少なくとも、免疫グロブリン軽鎖および重鎖の可変領域)に関して、目的ポリペプチドの望まれるサブユニットをコードするポリヌクレオチドは、発現カセット(POI)および(POI')に挿入される。目的ポリペプチドを発現させるために少なくとも2個の発現カセット(POI)および(POI')を用いた各々の態様は、とりわけ、免疫グロブリン分子、例えば、抗体、またはその機能性断片を発現させるために有利である。したがって、ベクター核酸は、免疫グロブリン分子を発現させるために提供され、該ベクター核酸は、各発現カセット(POI)および(POI')中に免疫フロブリン分子の軽鎖もしくは重鎖またはその断片をコードするポリヌクレオチドを含み、各発現カセット(POI)および(POI')は、該ポリヌクレオチドのうちの1個を含む。したがって、発現カセット(POI)は、免疫グロブリン分子の軽鎖を発現させるためのポリヌクレオチドまたは重鎖を発現させるためのポリヌクレオチドのいずれかを含み得る。
【0027】
したがって、1つの態様において、発現カセット(POI)は、該免疫グロブリン分子の軽鎖の少なくとも部分またはその機能性断片をコードするポリヌクレオチドを含み、発現カセット(POI')は、該免疫グロブリン分子の重鎖の少なくとも部分またはその機能性断片をコードするポリヌクレオチドを含む。重鎖の発現カセットの5'に軽鎖の発現カセットを並べると、免疫グロブリン分子の発現率に関して有利であることが証明された。1つの態様において、発現ベクター核酸は、発現カセットが免疫グロブリン分子の定常領域の少なくとも部分をコードするポリヌクレオチドを含むように設計される。次いで、免疫グロブリン分子の可変領域をコードするポリヌクレオチド断片が、使用者/顧客により、最終発現ベクターを得るために、適当なクローニング戦略を用いて、発現カセットに挿入され得る。
【0028】
本発明による発現ベクター中に存在する発現カセットは、それらが哺乳類細胞内での組み込まれたポリヌクレオチド/遺伝子の発現を可能にするように設計される。この目的のために、発現カセットは、通常、必要な制御配列、例えば、プロモーターおよび/または転写終結配列、例えば、ポリA部位を含む。
【0029】
目的ポリペプチドを発現させるために使用されるベクターは、通常、転写を誘導するのに適当な転写制御構成要素、例えば、発現カセットの構成要素としてプロモーター、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル、転写停止もしくは終結シグナルを含む。ポリペプチドの適当な発現のために、好ましくは、適当な翻訳制御構成要素、例えば、リボソームの集合のために適当な5'構造を生じる5'非翻訳領域および翻訳過程を終結させるための停止コドンがベクター中に含まれる。特に、選択可能マーカー遺伝子として使用されるポリヌクレオチドおよび目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、適当なプロモーター中に存在する転写構成要素の制御下で転写され得る。選択可能マーカーおよび目的ポリペプチドの得られた転写産物は、実質的なレベルのタンパク質発現(すなわち、翻訳)および適当な翻訳終結を促進する機能的翻訳構成要素を有する。組み込まれたポリヌクレオチドの発現を適当に誘導することが可能な機能的な発現単位はまた、本明細書において「発現カセット」と呼ばれる。好ましくは、それは、3' UTR領域を含む。
【0030】
したがって、発現カセットが少なくとも1個のプロモーターおよび/またはプロモーター/エンハンサー構成要素を含むベクター核酸が提供される。これら2つの制御構成要素の物理的境界は、必ずしも明確ではないが、「プロモーター」なる用語は、通常、RNAポリメラーゼおよび/または任意の関連する因子が結合し、転写が開始される核酸分子上の部位を意味する。エンハンサーは、プロモーター活性を一時的および空間的に増強させる。多くのプロモーターは、さまざまな細胞型において転写的に活性である。プロモーターは、下記の2個のクラスに分類され得る: 構成的に機能するプロモーターおよび誘導もしくは脱抑制により制御されるプロモーター。哺乳類細胞においてタンパク質の高レベルの産生のために使用されるプロモーターは、強力であるべきであり、好ましくは、さまざまな細胞型において活性であり、その結果、組み換えポリペプチドの定性的および定量的評価を可能にする。プロモーターは、SV40プロモーター、CMVプロモーター、EF1αプロモーター、RSVプロモーター、BROAD3プロモーター、マウスrosa 26プロモーター、pCEFLプロモーターおよびβ-アクチンプロモーターからなる群から選択され得る。多くの細胞型において発現を誘導する強力な構成的プロモーターは、アデノウイルス主要後期プロモーター、ヒトサイトメガロウイルス前初期プロモーター、SV40およびラウス肉腫ウイルスプロモーター、ならびにマウス3-ホスホグリセレートキナーゼプロモーターおよびEF1aを含むが、これらに限定されない。良好な結果は、プロモーターおよび/またはエンハンサーがCMVおよび/またはSV40から得られる場合に、本発明の発現ベクターで達成される。
【0031】
1つの態様において、目的ポリペプチドを発現させるための発現カセットは、選択可能マーカーを発現させるための発現カセットよりも強力なプロモーターおよび/またはエンハンサーを含む。この配置は、目的ポリペプチドについての転写産物が選択マーカーについての転写産物よりも多く産生されるという効果を有する。異種タンパク質を産生するための個々の細胞の容量は限られており、それ故、目的ポリペプチドの産生に集中されるべきであるので、分泌される目的ポリペプチドの産生が選択マーカーの産生を超えて支配的であることは有利である。
【0032】
1つの態様において、目的ポリペプチドを発現するために使用される発現カセット(POI)および(POI')(所望による)は、CMVプロモーター/エンハンサーを含む。特定の例を下記で詳述する。好ましくはDHFRおよびネオマイシンマーカー遺伝子を発現する発現カセット(MSM)および(MASM)は、SV40プロモーターまたはSV40プロモーター/エンハンサーを含む。CMVプロモーターは、哺乳類での発現のために利用可能であり、極めて高い発現率を生じる最も強力なプロモーターの1つであることが既知である。該プロモーターは、SV40プロモーターよりも極めて多くの転写産物を提供することが考えられる。
【0033】
さらに、発現カセットは、適当な転写終結部位を含み得る。これは、上流のプロモーターから第2の転写単位を介した連続した転写として、下流のプロモーターの機能を阻害し得る(それは、プロモーター閉鎖または転写干渉として既知の現象である)。このイベントは、原核生物および真核生物の両方で記載されている。2個の転写単位の間の転写終結シグナルの適当な配置は、プロモーター閉鎖を妨げることができる。転写終結部位は、十分に特徴づけられており、発現ベクターへのそれらの組み込みは、遺伝子発現に関する複数の有利な効果を有することが示されている。
【0034】
多くの真核生物新生mRNAは、一次転写産物の切断および結合したポリアデニル化反応を含む複雑な過程の間にそれらの3'末端に加えられるポリAテールを有する。ポリAテールは、mRNAの安定性および導入のために有利である。したがって、本発明によるベクターの発現カセットは、通常、ポリアデニル化部位を含む。哺乳類発現ベクターにおいて使用され得るいくつかの有効なポリAシグナルが存在し、それは、ウシ成長ホルモン(bgh)、マウスβ-グロビン、SV40初期転写単位および単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子に由来するものを含む。しかしながら、また、合成ポリアデニル化部位が既知である(例えば、the pCI-neo expression vector of Promega which is based on Levitt el al, 1989, Genes Dev. 3, (7): 1019-1025を参照のこと)。ポリアデニル化部位は、SV40ポリA部位、例えば、SV40後期および初期ポリA部位(例えば、Subramani et al, 1981, Mol.Cell. Biol. 854-864に記載されたプラスミドpSV2-DHFRを参照のこと)、合成ポリA部位(例えば、Levitt et al, 1989, Genes Dev. 3, (7): 1019-1025に基づくPromegaのpCI-neo発現ベクターを参照のこと)およびbghポリA部位(ウシ成長ホルモン)からなる群から選択され得る。
【0035】
発現カセットは、エンハンサー(上記参照)および/またはイントロンを含み得る。1つの態様において、目的ポリペプチドを発現させるための発現カセットは、イントロンを含む。より高等な真核生物由来の多くの遺伝子は、RNA加工の間に除去されるイントロンを含む。ゲノム構築体は、イントロンを欠失した同一の構築体よりもトランスジェニック系において、より効率的に発現することが見出されている。通常、イントロンは、オープンリーディングフレームの5'末端に位置する。したがって、イントロンは、発現率を増加させるために、目的ポリペプチドを発現させるための発現カセット中に含まれ得る。該イントロンは、プロモーターおよび/またはプロモーター/エンハンサー構成要素と発現させるポリペプチドのオープンリーディングフレームの5'末端の間に位置し得る。したがって、少なくとも1個の発現カセット(POI)が、プロモーターと目的ポリペプチドを発現させるためのポリヌクレオチドの開始コドンの間に位置するイントロンを含むベクター核酸が提供される。いくつかの適当なイントロンは、当分野で既知であり、それは、本発明と組み合わせて使用され得る。
【0036】
1つの態様において、目的ポリペプチドを発現させるための発現カセット中で使用されるイントロンは、合成イントロン、例えば、SISもしくはRKイントロンである。RKイントロンは、好ましくは、目的遺伝子のATG開始コドンの前に置かれる強力な合成イントロンである。RKイントロンは、CMVプロモーターのイントロンドナースプライス部位およびマウスIgG重鎖可変領域のアクセプタースプライス部位からなる(例えば、Eaton et al., 1986, Biochemistry 25, 8343-8347, Neuberger et al., 1983, EMBO J. 2(8), 1373-1378; それは、pRK-5ベクターから入手可能である(BD PharMingen)を参照のこと)。
【0037】
さらに、驚くべきことに、DHFR遺伝子のオープンリーディングフレームの3'末端におけるイントロンの配置が構築体の発現/増幅率についての有利な効果を示すことが見出された。DHFR発現カセットで使用されるイントロンは、DHFR遺伝子のより小さな非機能性変異体を生じる(Grillari et al., 2001, J. Biotechnol. 87, 59-65)。それにより、DHFR遺伝子の発現レベルは、低くなる。これは、MTXに対する増加した感受性およびよりストリンジェントな選択条件を生じる。したがって、発現カセット(MASM)が増幅可能かつ選択可能なマーカー遺伝子の3'に位置するイントロンを含むベクター核酸が提供される。適当なイントロンは、pSV2-DHFRベクターから取得され得る(例えば、上記を参照のこと)。
【0038】
該ベクターは、原核生物選択可能マーカー遺伝子を含む少なくとも1個のさらなる発現カセット(PSM)を含み得る。該発現カセット(PSM)は、発現カセット(MSM)と(MASM)の間に位置する。該選択可能マーカーは、抗生物質、例えば、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリンおよび/またはフロラムフェニコールに対する耐性を提供し得る。該発現カセット(PSM)は、好ましくは、他の発現カセット(POI)、(MSM)および(MASM)と同じ5'から3'の方向に並んでいる。
【0039】
DHFR遺伝子は、マーカーおよび遺伝子増幅遺伝子として働く。選択は、適当な代謝産物(ヒポキサンチンおよびチミジン)の非存在下で細胞を培養し、非形質転換細胞の増殖を妨げることにより生じ得る。DHFR系において、目的ポリペプチドの発現は、細胞を抗葉酸剤、例えば、メトトレキサート(MTX)(DHFRの活性を妨害する薬剤)に曝露することにより増加させ得る。特定の時間、MTXに曝露すると、多くの細胞は死ぬが、通常わずかな細胞が生存し、DHFRを過剰生産する。徐々に上昇する濃度でのMTX処理で、生存した細胞は、しばしば、頻繁に伸長される染色体に埋め込まれ、組み込まれた数百から数千コピーのベクターを含み得る。たいていの各々の増幅細胞は、非増幅細胞よりも多くの組み換えタンパク質を産生する。
【0040】
本発明と組み合わせて使用され得るいくつかの適当なDHFR酵素および対応する遺伝子は、当分野で既知である。DHFRは、野生型DHFRもしくは機能性変異体またはその誘導体であり得る。「変異体」または「誘導体」なる用語は、各DHFR酵素のアミノ酸配列の観点で、1個またはそれ以上のアミノ酸配列交換(例えば、欠失、置換もしくは付加)を有するDHFR酵素、DHFR酵素またはその機能性断片を含む融合タンパク質、およびさらなる構造および/または機能を提供するように修飾されたDHFR酵素、ならびに前述の機能性断片を含み、それらは、DHFR酵素の少なくとも1個の機能をなお有する。DHFR遺伝子は、好ましくは、野生型DHFR、野生型DHFRと比較して減少したMTX感受性を有するDHFRおよび野生型DHFRと比較して増加したMTX感受性を有するDHFRからなる群から選択される。1つの態様において、DHFR遺伝子は、野生型DHFR遺伝子である。異なる態様において、DHFR遺伝子は、DHFRのより弱い機能性変異体をコードする。これは、MTXについての増加した感受性およびよりストリンジェントな選択条件を生じる。これは、例えば、DHFR遺伝子の3'末端にイントロンを置くことにより達成され得る(上記参照のこと)。異なる態様は、野生型DHFRよりもMTXに対する高い感受性を有するDHFR突然変異体/変異体の使用によるものであり得る。これらの態様は、ベクターがDHFR-である宿主細胞で使用される場合に、特に有利である。
【0041】
それら自身のゲノム中にDHFR遺伝子のコピーを組み込んだ宿主細胞(例えば、CHO DHFR+)においてDHFR系の使用を望む場合には、DHFR遺伝子の突然変異体/変異体が使用されることが好ましく、それは、野生型のDHFRよりも抗葉酸剤、例えば、MTXに対する弱い感受性を有し、その結果、ある程度まで、抗葉酸剤(MTX)に耐性である。例えば、遺伝子の突然変異のために、MTXに対するDHFR遺伝子の感受性は、かなり減少し、その結果、より高い濃度の抗葉酸剤(MTX)が該変異体に対して使用され得る。そのような弱い抗葉酸剤および特にMTX感受性DHFR変異体は、例えば、減少した抗葉酸剤/MTX結合親和性を有し得る。各々のDHFR変異体は、野生型細胞株における内因性DHFR発現を「オーバータイトレートする」ために使用され得る。各々の「耐性」または弱い感受性のDHFR変異体は、当分野で既知である。
【0042】
発現ベクターは、
(a) 示された配置で下記の遺伝学的要素を含む、環状もしくは直線状ベクター核酸(ここで、5'から3'の方向は、→で示される):
I. 発現カセット(MASM)のプロモーター(→)
II. 発現カセット(MASM)の哺乳類で増幅可能かつ選択可能なマーカーをコードする遺伝子(→)
III. 所望により、発現カセット(MASM)のイントロン(→)
IV. 発現カセット(MASM)のポリA部位(→)
V. 発現カセット(POI)のプロモーター(→)
VI. 発現カセット(POI)のイントロン(→)
VII. 発現カセット(POI)に挿入される目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(→)
VIII. 発現カセット(POI)のポリA部位(→)
IX. 発現カセット(POI')のプロモーター(→)
X. 発現カセット(POI')のイントロン(→)
XI. 発現カセット(POI')に挿入されるさらなる目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(→)
XII. 発現カセット(POI')のポリA部位(→)
XIII. 発現カセット(MSM)のプロモーター(→)
XIV. 発現カセット(MSM)の哺乳類選択可能マーカーをコードする遺伝子(→)
XV. 発現カセット(MSM)のポリA部位(→)
XVI. PSM発現カセット(→)または(←)
XVII. ベクター核酸が環状である場合の直線化制限酵素部位;
(b) 遺伝学的要素の各々の同じ配置を含む、配列番号1または配列番号16で示されるベクター核酸またはその誘導体
からなる群から選択される。
【0043】
環状の変異体(a)の好ましい態様を図1および対応する表1に示す。
【0044】
本発明によるベクターは、上記したとおり、発現カセットを適当な順序および方向で並べることにより取得され得る。発現カセット/遺伝学的構成要素の配置は、発現ベクターを構築するために、適当な制限酵素およびクローニング戦略を用いて行われ得る。したがって、上記のベクター核酸を作製する方法であって、該方法が、少なくとも下記の遺伝学的要素:
(a) 目的ポリペプチドを発現させるための少なくとも1個の発現カセット(POI);
(b) 哺乳類選択可能マーカー遺伝子を含む発現カセット(MSM);
(c) 哺乳類で増幅可能かつ選択可能なマーカー遺伝子を含む発現カセット(MASM);
を並べることを含み、発現カセット(POI)がその5'で発現カセット(MASM)と隣接しており、発現カセット(MSM)が発現カセット(POI)の3'に位置し、発現カセット(MASM)、(POI)および(MSM)が同じ5'から3'の方向で並ぶようにする方法がまた提供される。
【0045】
環状ベクター核酸を作製する場合には、発現カセット(MSM)が発現カセット(POI)の3'に位置し、発現カセット(MASM)が発現カセット(MSM)の3'に位置するように遺伝学的要素を並べる。
【0046】
本発明によるベクターは、多くの異なる哺乳類宿主細胞において目的ポリペプチドを発現させるために使用され得る。本発明の発現ベクターは、通常、そのゲノム中に組み込まれ、維持される。接着細胞の培養および懸濁培養という宿主細胞の2つの主要な様式が存在する。懸濁培養が好ましい。たいていの確立された細胞株は、それらが懸濁増殖に適合するように特別な努力がなされていない場合には、固定依存性特性を維持する。市販で利用可能な培地組成は、その遷移を促進する。基本的に、任意の哺乳類宿主細胞は、それらがポリペプチドの発現を可能とするかぎり、本発明と組み合わせて使用され得る。本発明の目的のための適当な哺乳類宿主細胞は、マウス由来細胞(例えば、COP、L、C127、Sp2/0、NS-0、NS-1、At20もしくはNIH3T3)、ラット由来細胞(PC12、PC12h、GH3、MtT)、ハムスター由来細胞(例えば、BHK、CHOおよびDHFR遺伝子欠損CHO)、サル由来細胞(例えば、COS1、COS3、COS7、CV1およびVero)およびヒト由来細胞(例えば、Hela、HEK-293、網膜由来PER-C6、2倍体線維芽細胞由来細胞、骨髄腫細胞およびHepG2)を含むが、これらに限定されない。好ましくは、宿主細胞は、CHO細胞である。本発明によるベクター構築体は、特に、齧歯類細胞、例えば、CHOおよびDHFR遺伝子欠損CHO細胞におけるポリペプチドの産生のために適当である。
【0047】
本発明による発現ベクターを含む哺乳類宿主細胞がまた提供される。本発明による発現ベクターまたはゲノム中にその断片を含む安定な細胞株がまた提供される。断片は、本発明についての少なくとも発現カセットデバイスを含む。ベクターおよびその特性ならびに適当な宿主細胞は、詳細に上記されているので、我々は、上記の開示に言及する。したがって、上記の宿主細胞を製造する方法がまた提供され、該宿主細胞は、請求項1から16の少なくとも1項に記載のベクター核酸でトランスフェクトされている。
【0048】
哺乳類宿主細胞に発現ベクターを導入するための当分野で既知のいくつかの適当な方法が存在する。各々の方法は、リン酸カルシウムトランスフェクション、エレクトロポレーション、リポフェクション、遺伝子銃およびポリマー仲介遺伝子トランスファーを含むが、これらに限定されない。適当な宿主細胞は、上記されている。
【0049】
宿主細胞への発現ベクター核酸の導入後、得られた形質転換体を、発現カセット(MSM)に組み込まれた哺乳類選択可能マーカー遺伝子の発現をアッセイするのに適当な選択条件下で培養する。これは、例えば、哺乳類選択可能マーカー遺伝子が抗生物質耐性遺伝子であるとき、形質転換体を哺乳類細胞で活性な対応する抗生物質を含む培地で培養し、そのような条件下で生存した形質転換体を選択し、その結果、マーカー遺伝子を発現する(すなわち、ベクターが組み込まれた)形質転換体の取得を可能にすることを意味する。さらに、第2選択工程は、発現カセット(MASM)に含まれる増幅可能かつ選択可能マーカー遺伝子を選択するために適合させた選択培地中で形質転換体を培養することにより行われ得る。例えば、DHFRが増幅可能かつ選択可能マーカー遺伝子として使用される場合に、形質転換体は、DHFR阻害剤の存在下、ヌクレオチド不含もしくはプリン不含培地で培養され得る。
【0050】
誘導可能プロモーターが少なくとも1個の発現カセットで使用される場合には、対応する誘導シグナルがポリペプチドの発現を開始するために提供されるべきである。
【0051】
DHFR選択/増幅系を利用するために、該宿主細胞は、DHFR阻害剤の存在下で培養され得る。適当なDHFR阻害剤は、抗葉酸剤、例えば、MTXである。使用される抗葉酸剤/MTXの濃度は、宿主細胞およびベクターに組み込まれたDHFR変異体に依存する。濃度範囲は、DHFR-宿主細胞での多段階増幅手順のために選択され得て、例えば、約5nMから20nMの範囲の値から500nMから1000nMの範囲の値、または二次的もしくはさらなる増幅工程のためにより高い濃度範囲であり得る。DHFR+細胞のために、開始濃度は通常より高く、100nMから750nMの範囲であり、好ましくは、最初の工程で500nM、および500nMから1000nM、ならびにさらなる増幅工程のために上記した濃度範囲である。適当なDHFR変異体は、上記されている。
【0052】
GS選択/増幅系を利用するために、該宿主細胞は、例えば、MSXの存在下で培養され得る。使用されるMSXの濃度は、宿主細胞に依存する。濃度範囲は、約15μMから150μM、20μMから100μMおよび25μMから50μMの間で選択され得る。これらの範囲は、特に、NSOおよびCHO細胞のために適当である。
【0053】
本発明による発現ベクターを用いて、いくつかの異なる目的ポリペプチドを発現させ/産生させ得る。ポリペプチドなる用語は、ペプチド結合により結合したアミノ酸のポリマーを含む分子を意味する。ポリペプチドは、タンパク質(例えば、50個より多くのアミノ酸を有する)およびペプチド(例えば、2-49個のアミノ酸)を含む任意の長さのポリペプチドを含む。ポリペプチドは、任意の活性もしくは生物活性を有するタンパク質および/またはペプチドを含み、例えば、生物活性ポリペプチド、例えば、酵素学的タンパク質もしくはペプチド(例えば、プロテアーゼ、キナーゼ、ホスファターゼ)、受容体タンパク質もしくはペプチド、トランスポータータンパク質もしくはペプチド、殺菌性および/またはエンドトキシン結合タンパク質、構造タンパク質もしくはペプチド、免疫ポリペプチド、毒素、抗体、ホルモン、増殖因子、ワクチンなどを含む。適当なポリペプチドは、ペプチドホルモン、インターロイキン、組織プラスミノゲン活性化因子、サイトカイン、免疫グロブリン、特に、抗体もしくは抗体断片またはその変異型からなる群から選択され得る。該免疫グロブリンは、任意のアイソタイプであり得る。IgG(例えば、IgG1)分子は、頻繁に、治療タンパク質として産生され/必要とされる。抗体断片は、該全抗体からの少なくとも20アミノ酸、好ましくは、少なくとも100アミノ酸を含み、少なくとも、なお抗原結合能を有する任意の抗体断片である。抗体断片は、抗体の結合領域を含み得て、例えば、Fab断片、F(ab)2断片、複数の結合ドメインを含むマルチボディ、例えば、ダイアボディ、トリアボディもしくはテトラボディ、単一ドメイン抗体またはアフィボディであり得る。抗体変異型は、同じ結合機能を有し、例えば、改変アミノ酸配列を有する抗体または抗体断片の誘導体である。該抗体および/または抗体断片は、マウス軽鎖、ヒト軽鎖、ヒト化軽鎖、ヒト重鎖および/またはマウス重鎖ならびに活性断片またはその誘導体を含み得る。したがって、それは、例えば、マウス、ヒト、キメラもしくはヒト化抗体であり得る。
【0054】
本発明はまた、目的ポリペプチドを製造する方法を提供し、該方法は、該目的ポリペプチドの発現を可能にする条件下、細胞培養培地中で本発明によるベクター核酸を含む少なくとも1個の宿主細胞を培養することを含む。
【0055】
次の工程において、該ポリペプチドを細胞培養から単離し/回収し得る。発現した目的ポリペプチドは、宿主細胞を破壊することにより得ることができる。ポリペプチドはまた、発現し、例えば、培養培地中に分泌され、そこから回収することができる。また、各々の方法の組み合わせが可能である。それにより、産物、特に、ポリペプチドは、高収量で効率よく産生され、回収/単離され得る。得られたポリペプチドはまた、望まれる用での目的産物を製造するために、さらなる加工工程、例えば、精製および/または修飾工程にかけられ得る。
【0056】
別の態様において、該目的ポリペプチドは、細胞培養培地に分泌され、次いで、細胞培養培地から単離される。ポリペプチドは、好ましくは、免疫グロブリン分子、例えば、抗体もしくはその機能性断片である。目的ポリペプチドの分泌を促進するために、リーダー配列が使用され得る。好ましくは、免疫グロブリン分子のリーダー配列が使用される。
【0057】
本発明による発現ベクターならびに適当な宿主細胞および目的ポリペプチドは、上記されており; 我々は、上記の開示に言及する。
【0058】
目的ポリペプチドを製造するための方法は、少なくとも1個の下記の工程を含み得る:
-該細胞培養培地および/または該宿主細胞から目的ポリペプチドを単離すること; および/または
-単離された目的ポリペプチドを加工すること。
【0059】
本発明により産生された目的ポリペプチドを、当分野で既知の方法により、回収し、さらに精製し、単離および/または修飾することができる。例えば、産物は、遠心分離、ろ過、限外ろ過、抽出もしくは沈殿を含むがこれらに限定されない慣用的な手順により、栄養培地から回収され得る。精製は、当分野で既知のさまざまな手順により行われ得て、それは、クロマトグラフィー(例えば、イオン交換、親和性、疎水性、クロマトフォーカシングおよびサイズ排除)、電気泳動手順(例えば、分取等電点電気泳動)、溶解度差(例えば、硫安沈殿法)または抽出を含むがこれらに限定されない。
【0060】
医薬タンパク質/ペプチドの製造のための特に有利な1つの態様において、宿主細胞を無血清条件下で懸濁培養する。その後、得られたペプチドを、例えば、クロマトグラフィー法(例えば、親和性精製)を用いて、宿主培養上清に存在するポリペプチドを精製することにより精製し得る。
【0061】
本発明の方法により産生されるポリペプチドは、良好な安定特性を示す。結果はまた、ポリペプチドが機能的な形態で、すなわち、右コンホメーション(right conformation)で発現することを示す。したがって、本発明はまた、上記した発現ベクターを用いて、本発明による製造法により得られたポリペプチドを提供する。上記したとおり、ポリペプチドは、十分な収量で得られる。ポリペプチドは、好ましくは、免疫グロブリン分子、例えば、抗体もしくはその機能性断片である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】図1は、本発明の好ましい態様による環状ベクター核酸を示す。
【図2】図2は、直線化制限酵素部位の位置の影響を証明するために、図1に基づくベクター核酸の直線化型を示す。
【0063】
図1および2で示される番号1から17は、ベクター核酸の遺伝学的構成要素/特性を示し、下記の表1で詳述される。他に定義がなければ、白色の矢印は、プロモーターまたはプロモーター/エンハンサー構成要素を示し; ストライプのボックスは、イントロン構成要素を示し、黒色の矢印は、目的ポリペプチドを発現させるためのポリヌクレオチドを示し; チェック模様のボックスは、ポリA部位を示し; チェック模様の矢印は、発現カセット(MSM)および(MASM)の哺乳類マーカー遺伝子を示し; ストライプの矢印は、原核生物選択可能マーカー遺伝子を示す。示されたとおり、すべての遺伝学的構成要素は、同じ5'から3'の方向に並んでいる(矢印の方向により示されている)。下記でさらに詳述されるとおり、ベクター核酸pBW147、pBW154およびpBW160が各々構築される。
【0064】
表1−図1および2に示したベクター核酸に基づく遺伝学的構成要素の方向および配置
【表1】

【0065】
次いで、記載されたベクター構成要素についての適当な例が提供されるが、それらに限定されるものではない。
【0066】
哺乳類で増幅可能かつ選択可能なマーカーとして、DHFRの使用が好ましい。野生型マウスDHFRポリヌクレオチドの適当な例は、配列番号5で提供され、好ましくは、DHFR- 宿主細胞と組み合わせて使用される。DHFRの適当な突然変異体は、配列番号6で提供される。各々の突然変異体は、好ましくは、DHFR+ 細胞と共に使用される。配列番号12は、さらに選択圧を増加させるのに適当なイントロンを含む突然変異DHFRを示す(上記を参照のこと)。機能性変異体またはその断片がまた、使用され得る。
【0067】
哺乳類選択可能マーカー遺伝子として、neoの使用が好ましい。適当な配列は、配列番号7で提供される。機能性変異体またはその断片がまた、使用され得る。
【0068】
目的ポリペプチドの発現を誘導するためのプロモーター配列として、CMVプロモーターの使用が好ましい。適当な配列は、配列番号8で提供される。機能性変異体またはその断片がまた、使用され得る。
【0069】
選択可能マーカー遺伝子MSMおよびMASMの発現を誘導するためのプロモーター配列として、SV40プロモーターの使用が好ましい。適当な配列は、配列番号9で提供される。機能性変異体またはその断片がまた、使用され得る。
【0070】
目的ポリペプチドおよび/またはMASMのためのポリアデニル化配列として、SV40ポリA部位が使用され得る適当な配列は、配列番号10で示される。機能性変異体もしくはその断片または逆方向(後期もしくは初期SV40ポリA部位)がまた、使用され得る。
【0071】
目的ポリペプチドをコードする発現カセット(POI)のためのイントロン配列として、Rkイントロンが使用され得る。適当な配列は、配列番号11で提供される。機能性変異体またはその断片がまた、使用され得る。
【0072】
例えば、哺乳類選択可能マーカー(MSM)と組み合わせて使用され得る合成ポリアデニル化部位は、配列番号13として示される。機能性変異体またはその断片がまた、使用され得る。
【0073】
適当な細菌選択可能マーカー(PSM)は、例えば、アンピシリン耐性を提供するβ-ラクタマーゼ遺伝子である。適当な配列は、配列番号14で提供される。機能性変異体またはその断片がまた、使用され得る。
【0074】
さらに、ベクター核酸は、挿入のための少なくとも1個のマルチクローニングサイト(MCS)、例えば、目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含み得る。MCSは、目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの3'および5'で提供され得る。適当なMCSサイトは、配列番号4(好ましくは、5'部位/領域に位置する)および配列番号5(好ましくは、3'部位/領域に位置する)として示される。これらのMCSサイトは、例えば、目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを導入するために使用され得る。
【0075】
特に好ましいベクター核酸は、配列番号1(野生型DHFR遺伝子を含み、該ベクターは、とりわけ、DHFR- 系のために有用である)および配列番号16(突然変異体DHFR遺伝子を含み、該ベクターは、とりわけ、DHFR+ 系のために有用である)として示される。
【0076】
本明細書中で引用されるすべての参考文献は、参照により本明細書に組み込まれ、本願の開示の一部を形成する。
【実施例】
【0077】
実施例
本発明は、非限定的な方法で下記に例示されるが、それは、本発明の好ましい態様を構成する。
【0078】
I.細胞培養法およびト導入法
次いで、目的ポリペプチドを発現させるための本発明による適当な宿主細胞への導入法および宿主細胞の培養法を例示により示す。
【0079】
実施例1: 細胞培養
CHO細胞を適当なCHO培地、例えば、ExCell81134 (SAFC Biosciencesから入手)で培養する。細胞を新鮮な培地で週2-3回継代し、試験の間、対数増殖期で維持する。
【0080】
実施例2: 導入法
導入のために、生存率が90%を超える指数増殖期の親CHO細胞を使用する。リポフェクションによる導入を、製造者(Invitrogen)の指示にしたがって、DMRIE-C試薬を用いて行う。細胞量をOptiMEM I培地(Invitrogen)で1x106細胞に調整する。リポフェクションのために、2 μgまたは4 μgの発現ベクターおよび4 μlのDMRIE-C試薬を室温で28分間混合し、37℃で4時間細胞に加える。次いで、細胞を2x105細胞/ml培養培地まで希釈し、37℃で2日間、5% CO2下でインキュベートする。
【0081】
実施例3: ネオマイシン選択および遺伝子増幅
発現ベクター核酸に位置するネオマイシン選択マーカーにより、G418耐性についての選択が可能となる。形質転換体の選択のために、細胞を0.8 mg/ml G418 (Invitrogen)の存在下で約2週間培養する。導入およびG418選択の2週間後、主にG418耐性細胞からなるプール集団が出現する。次いで、細胞をヌクレオチドの非存在下で約2週間培養する。その後、遺伝子増幅を培養培地への20nM MTXの添加により開始する。培養の3週間後、増幅異種細胞集団が産生される。DHFR (ジヒドロ葉酸レダクターゼ)選択/増幅マーカーにより、培養培地への葉酸類似体メトトレキサート(MTX)の添加によるDHFR遺伝子の増幅およびトランスジーンの増幅が可能となり、結果として、増加した導入プール集団の力価が生じる。危機回復(crisis recovery)後、プール集団は、各々約2週間のより高いMTX濃度を用いた第2および第3の増幅工程を受ける(100nMおよび500nM MTX)。各工程でプール集団回復(pool recovery)後、細胞を凍結する。
【0082】
実施例4: クローン細胞株の確立
クローン細胞株(すなわち、単一細胞由来の細胞株)を得るために、安定的に導入された細胞のプール集団を希釈し、96ウェルプレートに0.3 - 0.5細胞/ウェル(限界希釈)の細胞密度で播種し得る。異なるコロニーを形成する細胞を標準的な方法を用いてスケールアップする。最後に、個々のクローンを組み換えポリペプチド発現について評価し、最も高い方法が培養および解析後に保持される。これらの候補の中から、適当な増殖および生産特性を有する細胞株を組み換えタンパク質の産生のために選択する。生産性は、通常、培養条件を確立し/適合させることにより、すなわち、ペプトンのような添加剤を加えることにより、さらに改良され得る。
【0083】
II. ベクター構築
本発明の教示によるいくつかのベクター集成物が実施可能である。ベクターの個々の構成要素は、当分野で既知であるので、例えば、基本的な遺伝学的要素の塩基配列決定もしくは増幅および適当なクローニングならびに望まれる方向での発現カセットにより適当なベクター構築することができる。各々のクローニング法は、当分野における技術常識であり、また上記の遺伝学的要素の配列は、先行文献に記載されている。次いで、いくつかのベクター構築体の作製を例示する。しかしながら、各々のベクターを取得するために、いくつかの他の態様および方法が適当であり、容易に利用可能であることが当業者により理解されている。
【0084】
例示により本明細書に記載したベクター構築体およびそれらの前駆体ベクターの配置の理解を促進するために、表1および2により、これらのベクター中に含まれる主な遺伝学的要素、それらの順序および方向についての概略を提供する。当然に、主な構成要素のみが示されるが、ベクターは、さらなる遺伝学的要素または骨格配列を含み得る。表中の各列は、1個のベクター構築体を示す。最上段から最下段まで、発現カセットの遺伝学的要素は、ベクターにおけるそれらの配置順およびそれらの方向で示されている。記載されたベクターは、環状であるので、各列の最下段に示された構成要素は、実際には、最上段に示された遺伝学的要素と隣接している(当然に、骨格配列は存在し得る)。各々の遺伝学的要素の方向は、矢印により示される。矢頭は、各遺伝学的要素の3'方向を示す。
【0085】
表2-前駆体ベクター中の遺伝学的要素の順序
【表2】

【0086】
【表3】

【0087】
表3-発現ベクター中の遺伝学的要素の順序
【表4】

【0088】
上記の表1〜3および図1および2中の略称は、当業者にとって明らかな上記したとおりの意味を有し、特定の下記の意味を有する:
MCS = マルチクローニングサイト
mAB-HC = モノクローナル抗体重鎖
mAB-LC = モノクローナル抗体軽鎖
イントロン = Grillari et al, 2001, 3. Biotechnol. 87, 59-65を参照のこと
prom/enh = プロモーター/エンハンサー
【0089】
実施例5: 発現ベクターpBW147の構築
この設定において、bgh pA部位と組み合わせたmAB遺伝子およびDHFR* (野生型DHFRよりもMTXに対する低い感受性を有する突然変異体)のタンデム配置を試験する。DHFR*カセットをmAB-LCを含む発現カセット(POI)の5'に置き、その結果、すべてのオープンリーディングフレームは、1つの読み枠方向に置かれる。pBW147の構築は、表3に示す。
【0090】
pBW147は、pBW133から構築することができる(また、表2を参照のこと)。pBW147の構築は、本明細書に記載されている。
【0091】
pBW133の構築
下記のベクター構築は、市販で入手可能なpCI-neo発現ベクター(Promega Cooperation, USA)に基づく。完全DNA配列は、公に利用可能である(GenBank/EMBL受託番号: U47120)。新たなマルチクローニングサイトをpCIneoに導入する。
【0092】
マルチクローニングサイトの2本鎖をデノボで合成する。pCIneoをNheIおよびXmaIで切断する。古いMCSをゲル電気泳動で除去する。新たなマルチクローニングサイトを、アンチセンス鎖の5'末端および上部DNA鎖の3'末端の末端4ヌクレオチドが合成されないような方法で合成する。両鎖のアニーリング後、NheIおよびXmaIに適合する末端を作製する。
【0093】
新規マルチクローニングサイトの配列は、下記のとおりである(配列番号2を参照のこと):
【表5】

【0094】
pCIneoと新規MCSの連結により得られたプラスミドを、記載目的のためにpCI-neo-2として示す。pCI-neo-2にpRK5 (BD PharMingen)からのpRKイントロンを導入することにより、さらに修飾する。すなわち、pCI-neo-2をApaIで消化する。平滑末端をT4ポリメラーゼ処理により作製する。次いで、プラスミドをNdeIで消化する。pRK5をNdeIおよびNruI(平滑末端カッター)で消化する。RKイントロン含有断片を単離し、pCIneo2骨格と連結する。得られたプラスミドは、pCIneo2RKである。
【0095】
1個のベクター上に両発現カセットをもたらすために、ベクターpCIneoDHFR*-RKを得ることができる。pCIneoDHFR*-RKは、下記のとおり得られる:
【0096】
DHFR*発現カセットを、ベクターpCHI-LC (Simulect SP2/0 軽鎖発現ベクター)からPCRにより増幅する。プライマーは、BB35 (GGGCACTACGTGCCGCGGATTTAAATGCGGCCGCATATGGTGCACT − 配列番号3)およびBB36 (GGGCACGTAGTGTTTATTAGGGGAGCAGAGAACTTGAA − 配列番号4)である。
【0097】
PCR断片をDraIII制限酵素消化によりpCIneoRKにクローン化し、pCIneoDHFR*-RKを得る。pCIneoDHFR*-RKをEco0109Iで消化して開裂する。平滑末端を作製するために、Klenow酵素での処理をその後に行う。
【0098】
pCIneo2RK由来の発現カセットを、BglII、NgoMIVおよびStuIで該プラスミドを消化することにより切断する。2個の断片の連結後、「空の」発現ベクターpCHO2neoNを作製する。抗体軽鎖遺伝子をMluIおよびSalI 制限酵素部位でpCHO2neoNに挿入し、それにより、ベクター構築体を産生する(我々は、それをpBW108と呼ぶ)。すなわち、抗体遺伝子を2個の制限酵素部位を含むプライマーを用いて増幅する。
【0099】
mAB重鎖をベクターのPmeIおよびAscI消化によりpBW108に挿入し、それにより、記載目的のためにpBW111として示されるベクター構築体を得る。5'末端が平滑末端を産生し、遺伝子の3'末端がAscI 制限酵素部位を含むように、重鎖をPCRで増幅させる。
【0100】
pBW111において、さらなるATGコドンが軽鎖cDNAの前部に存在するので、軽鎖の5'非翻訳領域末端を交換する。これは、pBW111からのBglII/MluI断片を切断し、それを訂正された断片で置換することにより達成される。新規プラスミドは、pBW133として示す。pBW133は、1個のプラスミド上のすべての遺伝子を有する最初のベクターである。遺伝子の配置は、下記のとおりである: LC − DHFR (反対方向) − neo − HC (また、表2を参照のこと)。このベクターは、本発明の教示によるベクターを取得するために使用され得る出発物質の1つである。しかしながら、各々のベクターを得るためのいくつかの他の方法が存在することは、明確である。
【0101】
pBW139の構築
pBW147を得るために使用され得る第2のベクター構築体は、pBW139の配置を有する。pBW139は、pBW115から作製され得る。pBW115の構築のために、重鎖遺伝子をpCIneoRKにクローン化する(上記を参照のこと)。すなわち、pCIneoRKをMluIおよびNruI (平滑末端カッター)で消化し、一方で、重鎖PCR断片をAscI (3') (MluIに適合する)で消化し、5'は平滑末端である。得られたプラスミドをpBW115として示す。pBW115をScaIおよびBglIIで消化する。次いで、平滑末端を作製するために、Klenow補充を行う。軽鎖発現カセットをScaIおよびDraIIIを用いてpBW133から切断する。平滑末端を作製するために、T4-DNAポリメラーゼ処理を行う。連結により、pBW139としての配置を有するベクターが得られる(表2を参照のこと)。
【0102】
pBW147の構築
pBW147を得るために、pBW133をSpeI、XhoIで消化する。CMVプロモーター部分および重鎖の第1部分を含む断片を単離し、pBW139(それはまた、SpeI、XhoIで切断される)に連結する。得られたベクターにおいて、重鎖カセットは、さらなるATGコドンを妨害することなく見出される。軽鎖をベクターに戻すために、pBW139をSpeIで消化する。LC含有断片をSpeIで開裂したpBW148に挿入する。得られたプラスミドは、pBW146としての配置を有する(表2を参照のこと)。
【0103】
pBW146において、pBW112 (他のプロジェクトからの発現ベクター)由来のDHFR遺伝子を挿入する。しかしながら、DHFRはまた、望まれるDHFR変異体の種類に依存して、異なる起源から得られ得る。pBW146をBglIIで消化する。その後、DHFRカセットを、BglIIおよびBamHI制限酵素部位を含むプライマーを用いてPCR増幅する。PCR断片を2個の酵素で消化し、pBW146の適合BglII部位に挿入する。得られたプラスミドは、pBW147としての配置を有し、すべての発現カセットは、同じ方向を有する。構造を表3に示す。
【0104】
この発現ベクターを適当なトランスフェクションを得るために使用することができる。さらなる発現収量の増加のために、非常にMTXに「感受性」である野生型DHFRの変異体を選択することができ、ここで、また、MTX濃度を十分に適合させるべきである。
【0105】
実施例6: 発現ベクターpBW154の構築
このベクターについては、mAB遺伝子およびpSV2DHFRからのDHFR遺伝子カセット(MTXに対して高感受性を有するDHFRの野生型版)のタンデム配置を試験する。pSV2DHFR (ATCC#374146)からのDHFR発現カセットをPCRにより増幅する。該断片は、プロモーターおよびpolyポリA部位を含んでいる。上記のとおり、オリゴ(oligos)は、BglII/BamHI制限酵素部位を有している。DHFR発現カセットをpBW146のBglII制限酵素部位に挿入し、pBW154と同じ構造を有するベクター構築体を生じる。pBW154の構造を表3に示し、それは、図1および2に由来し得て、遺伝学的要素の各々全構造/配置を有する一般的なベクター構築体の例を示す。pBW154の配列を配列番号1として示す。軽鎖ポリヌクレオチドを配列番号1中のnで示し(優先権の基礎となる出願ではVで代用する)、重鎖ポリヌクレオチドを配列番号1中のnで示す(優先権の基礎となる出願ではYで代用する)。pBW154の特徴は、表4で要約する。当然にまた、他のベクター構成要素、例えば、異なるプロモーター、異なるエンハンサー、異なるポリA部位および異なるorisのような他の構成要素が使用され得る。さらに、免疫グロブリン分子内の軽鎖および重鎖についての発現カセットを変換することが可能である。しかしながら、示された選択およびベクター構成要素の配置が好ましい。上で概略したとおり、また、他の免疫グロブリン分子の機能性断片が使用され得る。したがって、示された「nnn」は、例示目的のみに使用され、より小さいか、もしくはより大きい免疫グロブリン分子が対応する位置に存在し得るために、任意のサイズの制限を示していない。本発明の好ましい態様によるベクターの一般的な構築を示す図1および2との比較を容易にするために、我々は、図1および2に対応する構成要素の番号を示した。
【0106】
表4
【表6】

【0107】
すべての遺伝学的要素は、5'から3'の方向に並んでいる。野生型DHFRを用いたこのベクター構築体で、上記の遺伝子増幅は、極めて効率的である。標準的なバッチ実験での力価は、10-20倍まで増加し得る。ここで、抗体発現力価におけるかなりの増加がMTX増幅で観察される。G418処理から出発して、いくつかの異なる濃度のMTX (20 nMおよび100nM MTX)までのヌクレオチドなしの処理にわたって、力価は通常かなり増加する。しかしながら、より高いMTX濃度(例えば、500nM MTX)を用いる場合、各々の高濃度が使用され得たとしても、通常は、CHO細胞においてさらなる利点をもたらさない。選択/増幅工程にわたり、プール集団について得られる抗体力価は、標準的な培養手順を用いて、2mg/Lから60mg/L以上の範囲である。発現力価はさらに、プール集団からクローン細胞株を確立し、細胞発現を促進するためにカスタマイズされた培地を用いるときに増加させることができ、取得され得る力価はまた、使用される培地に依存する。
【0108】
実施例7: 発現ベクターpBW160の構築
実験はまた、ベクター中のDHFR遺伝子の方向が重要であることを示している。pBW146(上記参照)においては、EcoRI制限酵素部位が存在する。最終発現ベクター中に存在する単一のカッターとしてEcoRIを有するために、該部位を、EcoRIでpBW146を消化することにより除去し、Klenowを補充し、再ライゲーションする。これにより、pBW158としての配置を有するプラスミドを生じる(データは示していない)。DHFRカセットを、上記したとおり、pBW158に組み込むことができる。両方向(pBW159およびpBW160で示された方向、表2および3を参照のこと)は、自動的に作製されるので、両方を発現レベルに関して試験することができる。我々の結果は、すべてのオープンリーディングフレームが一方の5'から3'の読み枠方向に向いた配置の優れた性能を示す。
【0109】
DHFR方向がmAB遺伝子の逆方向であるpBW159ベクター(表2を参照)のような配置を有するベクターは、通常、MTX増幅後でさえも、極めて弱い発現力価(通常、1 mg/L未満)のみを示す。DHFR方向がmAB遺伝子とインフレームであるpBW160(表3を参照)のような設計を有するベクターは、5 mg/Lより大きい、10 mg/Lより大きい、または15 mg/Lより大きい、より高い抗体力価を提供することができる(プールから取得可能である)。また、クローン細胞株を確立し、高品質培地を用いることにより、本発明のベクター構築体を用いた場合に、さらに増加した力価収量を得ることができる。
【0110】
これらの実験は、本発明の教示に基づいて使用される場合に、選択マーカーおよびmABコード遺伝子の「インフレーム配置」が有利であることを証明することができる。この結果は、ベクター構成要素の5'から3'の方向が、高発現ベクターについての重要な因子であるとの知見を支持する。さらに、発現の安定性は、本発明による発現ベクターを用いた場合に極めて有利である。
【0111】
本発明によるベクター配置は、高い細胞特異的生産性を有する細胞プールの容易な(straight forward)産生を可能にする。重要な要素は、5'から3'方向、選択されるDHFR変異体およびベクター上のDHFR選択マーカーの配置ならびにプラスミド上の抗体遺伝子および第2選択マーカー(neo)の配置である。ベクターはまた、非抗体タンパク質またはペプチドの製造のために使用され得る。上記したとおり、DHFRカセットのわずかな適合(slight adaptations)と共に、この系はまた、DHFR陽性CHO-K1PD細胞株における遺伝子増幅のために使用することができる。DHFR+宿主細胞における遺伝子増幅のために、DHFR遺伝子の突然変異体が使用される(上記参照)。DHFR遺伝子の突然変異体を含むベクター、例えば、pBW117の完全DHFR発現カセットを、BamHI部位を組み込んだプライマーを用いてPCR増幅し得る。次いで、この断片をpBW158のBglII部位にクローン化し、ベクターpBW165を生じる。突然変異DHFR遺伝子(他の抗体が後に続く)を含むpBW165のような配置を有するベクターを用いて、高収量細胞株をCHO-K1-PD宿主細胞で作製することができ、それは、DHFR+細胞株である。各々のベクター配列の例は、配列番号16として示される。当然にまた、示されたもの以外の異なるベクター構成要素、例えば、異なるプロモーター、異なるエンハンサー、異なるポリA部位および/または他の構成要素、例えば、異なるorisが使用され得る。さらに、発現カセットを免疫グロブリン分子の軽鎖および重鎖に変換することが可能である。しかしながら、ベクター構成要素の示された選択および配置が好ましい。上記したとおり、全長免疫グロブリン分子および免疫グロブリン分子の機能性断片をベクターから発現させることができる。配列番号16において、該部位のみが挿入部位として示され、そこでは、各々の免疫グロブリン配列が最終ベクター中に位置し/挿入され得る。任意の免疫グロブリン配列は、対応する位置に存在し得る。さらに、上記したとおり、それはまた、目的の異なるポリペプチドを発現させることが可能である。
【0112】
実施例8: トランスフェクションCHO細胞を用いた抗体の小規模製造
懸濁培養での試験のために、細胞を、250 mlの丸底フィルターキャップ培養フラスコに、50 ml ExCell81134培地(SAFC Biosciences)中、1x105 細胞/mlで播種する。試験の間、細胞を、37℃、10% CO2環境下、Kuehner Shaker ISF-4-W/インキュベーター内で、65 rpmで振とうする。専用液の単一供給を、固定された供給スキームにしたがって行い、細胞増殖の4日目に開始される。13日目に1 mlのサンプルを集めて、標準的なHPLCおよびプロテインAカラムを用いて力価を測定する。
【0113】
最良のクローンの振とうフラスコ培養から生じた細胞培養上清を、プロテインA親和性クロマトグラフィーで精製する。
【0114】
実施例9: 発現した抗体のプロテインA精製
プロテインA精製のために、約32.4 mgの抗体を含む約27 mLの無細胞培養上清を0.5x10 cmのMabSelect親和性カラムに充填する。充填後、カラムを十分にすすぎ、洗浄する。次いで、pH 3-4で抗体を溶出する。溶出物を、プロテインAカラムを用いた標準的なHPLCで解析する。約30.5 mgの抗体が得られる。
【0115】
III. 細胞特異的な生産性および収量についての実施例
クローン増殖後に選択されるクローンをそれらの生産性について試験する。
【0116】
実施例10: IgG1抗体の発現
IgG1抗体を発現させる。クローンを、商業的に利用可能な培地Ex-Cell81134 (SAFC Biosciences)で増殖させる。栄養溶液(feed solution)およびペプトンのような添加剤を加える。高い生産率は、本発明によるベクターを用いたときに得ることができる。
【0117】
【表7】

Qp = 細胞特異的生産性
【0118】
実施例11: IgG1抗体およびIgG4抗体の発現
IgG1抗体およびIgG4抗体を発現させる。クローンを適当な培養培地で増殖させる。栄養溶液およびペプトンのような添加剤を加える。高い生産率は、本発明によるベクターを用いたときに得ることができる。
【0119】
【表8】

Qp = 細胞特異的生産性
【0120】
実施例12: トランスフェクションCHO細胞を用いたポリペプチドの大規模製造
大規模なポリペプチドの製造は、例えば、ウェーブ、ガラス、ステンレス製のバイオリアクターで行われ得る。その目的のために細胞を増殖させ、それは、通常、単一の凍結バイアル、例えば、Master Cell Bankからのバイアルから開始される。細胞を融解させ、いくつかの工程を介して増殖させる。異なる規模のバイオリアクターに適当な量の細胞を植菌する。バイオリアクターに栄養溶液および添加剤を加えることにより、細胞密度を増加させることができる。長期間にわたって、細胞を高い生存率で維持する。数μg/lから数g/lの範囲内のリアクター内における生成物力価は、大規模で達成される。親和性、イオン交換、疎水性相互作用またはサイズ排除クロマトグラフィー工程を含み得る標準的なクロマトグラフィー方法により、精製を行うことができる。バイオリアクターのサイズは、最終規模で数千リットルまでであり得る(また、例えば、F. Wurm, Nature Biotechnology Vol. 22, 11, 2004, 1393-1398を参照のこと)。
【0121】
実施例13: 新規抗体遺伝子をベクターに導入するためのクローニング戦略
目的の新規ポリペプチドを挿入するための複数の戦略のうち1つの戦略を下記する(pBW154のような配置を有するベクターを用いた例により説明される)。
【0122】
軽鎖遺伝子のクローニング
軽鎖遺伝子を、ATGコドンの5'にMluI部位および遺伝子の3'にSalI部位を導入したプライマーでPCR増幅できる。PCR産物を、これらの2個の制限酵素によりpBW154に導入する。その結果、軽鎖のみからなる中間ベクターを生じる。
【0123】
重鎖遺伝子のクローニング
ベクターのATGコドンの5'のNruI部位および遺伝子の3'のXbaI部位を利用するために、平滑末端を導入するプライマーを用いて、重鎖遺伝子をPCR増幅できる。PCR産物を、これらの2個の制限酵素によりpBW154に導入する。その結果、前の軽鎖および新たな重鎖を有する中間ベクターを生じる。
【0124】
最終ベクターの構築
新たなmAB-HCを含む断片を、SalI消化によりHCベクターから切り出す。次いで、該断片を、SalIによりLC中間ベクターに挿入し、最終的な新規LC-HCベクターを生じる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳類細胞において少なくとも1個の目的ポリペプチドを発現させるのに適当なベクター核酸であって、
(a) 目的ポリペプチドを発現させるのに適当な少なくとも1個の発現カセット(POI);
(b) 哺乳類選択可能マーカー遺伝子を含む発現カセット(MSM);
(c) 哺乳類で増幅可能かつ選択可能なマーカー遺伝子を含む発現カセット(MASM);
を含み、発現カセット(POI)がその5'で発現カセット(MASM)と隣接しており、発現カセット(MSM)が発現カセット(POI)の3'に位置し、発現カセット(MASM)、(POI)および(MSM)が同じ5'から3'の方向で並んでいる、ベクター核酸。
【請求項2】
発現カセット(POI)が目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む、請求項1に記載のベクター核酸。
【請求項3】
環状であり、発現カセット(MSM)が発現カセット(POI)の3'に位置し、発現カセット(MASM)が発現カセット(MSM)の3'に位置する、請求項1または2に記載のベクター核酸。
【請求項4】
ベクターがベクターを直線化するための特定の直線化制限酵素部位を含み、該直線化制限酵素部位が発現カセット(MSM)と(MASM)の間に位置する、請求項3に記載のベクター核酸。
【請求項5】
該発現カセット(MSM)が酵素学的に機能的なネオマイシンホスホトランスフェラーゼをコードする遺伝子を含み、該発現カセット(MASM)が酵素学的に機能的なジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)をコードする遺伝子を含む、少なくとも請求項1から4のいずれか1項に記載のベクター核酸。
【請求項6】
ベクターがさらなる目的ポリペプチドを発現させるための少なくとも1個のさらなる発現カセット(POI')を含み、さらなる発現カセット(POI')が発現カセット(POI)と発現カセット(MSM)の間に位置し、発現カセット(POI')が発現カセット(POI)および(MSM)と同じ5'から3'の方向で並んでいる、少なくとも請求項1から5のいずれか1項に記載のベクター核酸。
【請求項7】
発現カセット(POI)および(POI')の各々において、免疫グロブリン分子の軽鎖もしくは重鎖またはその機能性断片をコードするポリヌクレオチドを含む、免疫グロブリン分子を発現させるための請求項6に記載のベクター核酸であって、発現カセット(POI)および(POI')の各々が該ポリヌクレオチドのうちの1個を含む、ベクター核酸。
【請求項8】
該発現ベクターカセットがプロモーターおよび/または転写終結部位を含む、少なくとも請求項1から7のいずれか1項に記載のベクター核酸。
【請求項9】
該発現カセットがエンハンサーおよび/またはイントロンを含む、少なくとも請求項1から8のいずれか1項に記載のベクター核酸。
【請求項10】
発現カセット(POI)および/または所望により発現カセット(POI')がCMVプロモーター/エンハンサーを含み、および/または発現カセット(MSM)および(MASM)がSV40プロモーター/エンハンサーまたはSV40プロモーターを含む、請求項8または9に記載のベクター核酸。
【請求項11】
少なくとも発現カセット(POI)がプロモーターと目的ポリペプチドを発現させるためのポリヌクレオチドの開始コドンの間に位置するイントロンを含む、請求項9または10に記載のベクター核酸。
【請求項12】
発現カセット(MASM)が哺乳類で増幅可能かつ選択可能なマーカー遺伝子の3'に位置するイントロンを含む、少なくとも請求項9から11のいずれか1項に記載のベクター核酸。
【請求項13】
原核生物選択可能マーカー遺伝子を含む少なくとも1個のさらなる発現カセット(PSM)を含み、該発現カセット(PSM)が発現カセット(MSM)と(MASM)の間に位置する、少なくとも請求項1から12のいずれか1項に記載のベクター核酸。
【請求項14】
原核生物選択可能マーカー遺伝子が抗生物質耐性を提供し、該抗生物質が、アンピシリン、カナマイシン、テトラサイクリンおよびクロラムフェニコールからなる群から選択される、請求項13に記載のベクター核酸。
【請求項15】
DHFR遺伝子が、野生型DHFR、野生型DHFRと比較して減少したMTX感受性を有するDHFR変異体および野生型DHFRと比較して高められたMTX感受性を有するDHFR変異体からなる群から選択される、少なくとも請求項5から14のいずれか1項に記載のベクター核酸。
【請求項16】
少なくとも請求項1から15のいずれか1項に記載のベクター核酸であって、発現ベクターが
(a) 示された配置で下記の遺伝学的要素を含む、環状もしくは直線状ベクター核酸(ここで、5'から3'の方向は、→で示される):
I. 発現カセット(MASM)のプロモーター(→)
II. 発現カセット(MASM)の哺乳類で増幅可能かつ選択可能なマーカーをコードする遺伝子(→)
III. 発現カセット(MASM)のイントロン(→)
IV. 発現カセット(MASM)のポリA部位(→)
V. 発現カセット(POI)のプロモーター(→)
VI. 発現カセット(POI)のイントロン(→)
VII. 発現カセット(POI)に挿入される目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(→)
VIII. 発現カセット(POI)のポリA部位(→)
IX. 発現カセット(POI')のプロモーター(→)
X. 発現カセット(POI')のイントロン(→)
XI. 発現カセット(POI')に挿入されるさらなる目的ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(→)
XII. 発現カセット(POI')のポリA部位(→)
XIII. 発現カセット(MSM)のプロモーター(→)
XIV. 発現カセット(MSM)の哺乳類選択可能マーカーをコードする遺伝子(→)
XV. 発現カセット(MSM)のポリA部位(→)
XVI. PSM発現カセット(→)または(←)
XVII. ベクター核酸が環状である場合の直線化制限酵素部位;
(b) 遺伝学的要素の同じ配置を含む、配列番号1または配列番号16で示されるベクター核酸またはその誘導体
からなる群から選択される、ベクター核酸。
【請求項17】
少なくとも請求項1から16のいずれか1項に記載のベクター核酸を作製する方法であって、該方法が、少なくとも下記の遺伝学的要素:
(a) 目的ポリペプチドを発現させるための少なくとも1個の発現カセット(POI);
(b) 哺乳類選択可能マーカー遺伝子を含む発現カセット(MSM);
(c) 哺乳類で増幅可能かつ選択可能なマーカー遺伝子を含む発現カセット(MASM);
を並べることを含み、発現カセット(POI)がその5'で発現カセット(MASM)と隣接しており、発現カセット(MSM)が発現カセット(POI)の3'に位置し、発現カセット(MASM)、(POI)および(MSM)が同じ5'から3'の方向で並ぶようにする、方法。
【請求項18】
発現カセット(MSM)が発現カセット(POI)の3'に位置し、発現カセット(MASM)が発現カセット(MSM)の3'に位置するように遺伝学的要素を並べることを含む、環状ベクター核酸を作製するための請求項17に記載の方法。
【請求項19】
少なくとも請求項1から16のいずれか1項に記載のベクター核酸を含む、哺乳類宿主細胞。
【請求項20】
COP、L、C127、Sp2/0、NS-0、NS-1、NIH3T3、PC12、PC12h、BHKおよびCHO、COS1、COS3、COS7、CV1、Vero、HeLa、HEK-293、網膜由来PER-C6、2倍体線維芽細胞由来細胞、骨髄腫細胞ならびにHepG2からなる群から選択される、請求項19に記載の哺乳類宿主細胞。
【請求項21】
宿主細胞に、少なくとも請求項1から16のいずれか1項に記載のベクター核酸を導入する、請求項19または20に記載の宿主細胞を作製する方法。
【請求項22】
目的ポリペプチドの発現を可能にする条件下、細胞培養培地中で請求項19に記載の少なくとも1個の宿主細胞を培養することを含む、目的ポリペプチドを製造する方法。
【請求項23】
該目的ポリペプチドが細胞培養培地中に分泌され、該細胞培養培地から単離される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
目的ポリペプチドが免疫グロブリン分子またはその機能性断片である、請求項22または23に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも請求項22から24のいずれか1項に記載の方法により取得されるポリペプチド。
【請求項26】
該ポリペプチドが免疫グロブリン分子またはその機能性断片である、請求項25に記載のポリペプチド。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2011−505859(P2011−505859A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−538737(P2010−538737)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際出願番号】PCT/EP2008/067947
【国際公開番号】WO2009/080720
【国際公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【Fターム(参考)】