説明

噴射ノズル及び研削加工方法

【課題】噴射孔の摩耗を防止し、研削液の層流状態を確保し、研削効率のよい、省エネの噴射ノズル及び研削加工方法を提供。
【解決手段】微細孔2からなる噴射孔列、拡張室6、供給口5を備えた噴射ノズル10の材質をステンレス等の鉄系材質とし、少なくとも噴射孔2の孔内面11及び出入口を浸炭処理する。この噴射ノズルを用いて、供給口より研削液21を供給して、研削液を前記噴射孔より、略層流状態で噴出させ、略層流状態をほぼ確保しながら研削加工部22に供給し、研削加工を行う。研削液は絶対濾過度20〜30μmのフィルターを介して供給する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削加工において、研削液を供給するのに適した噴射ノズルの改良、及びこの噴射ノズルを用いた研削加工法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、研削加工においては、ワークとワークを研削する砥石車に研削液を注ぎながら加工している。図8に示すように、研削液の供給は同パイプ等を断面を円形のまま、あるいは扁平にさせて、又は、末広がりのノズルを用いて砥石車等に研削液がかかるように折り曲げ、配置している。従来のこのような研削液の供給方法では、多量の研削液を必要とし、また、研削液が飛散し易く、エネルギー効率や環境の観点から改善が要求されている。
【0003】
一方、騒音低減、エネルギー効率の改善を図るものとして、エアーブロー用のエアーノズルでは、例えば、シルベント社製の幅方向が0.5mm〜2mm、高さ方向が0.5mm〜2mmの少なくとも4個以上の微細孔が直線状又は円周状に配置された噴射孔列と、噴射孔列の全てと連通する拡張室と、拡張室と連通する供給口とを備えたフラットタイプの噴射ノズルが知られている。特許文献1、段落[0023]後段、特許文献2、段落[0043]中段等。また、かかる形状のものは特許文献3,4等のものが知られている。また、噴射孔の配置がフラットではなく円周状に配設したものもよく知られている。このものは、多数の微細孔からなる噴射孔よりエアーを層流にして噴出することにより、切粉を効率的に吹き飛ばし、騒音値を下げ、コンプレッサーエアー消費量を抑えることができる。また、切削加工に利用した例も知られている(非特許文献1)。
【特許文献1】特開平11−291398号公報
【特許文献2】特開2003−40905号公報
【特許文献3】特開平8−38948号公報
【特許文献4】特開平1−317561号公報
【非特許文献1】株式会社 テンコーポレーション カタログ 2004 SILVENT(登録商標) APPLICATION BOOK(カタログ)98頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、前述した切削液に代えて研削液に使用することが期待された。しかし、切削液への転用について一言述べられているに過ぎず、本格的な利用については開示されていない。また、切削液の場合は、循環する切削液への切粉の混入や塵埃の混入は少なく、また、フィルター等により濾過するので、微少孔である噴射孔を塞ぐことや、噴射孔の摩耗等の問題は少ない。
【0005】
しかしながら、研削液への適用は困難であった。即ち、研削液は砥石による研削のため、研削屑も非常に微少で、必ずしも濾過されずに循環する研削液に混じり、かかる微少孔の噴射孔を塞ぐという問題があった。さらに、研削加工の場合は、研削屑の他に、大量の微少の砥石屑が混入し、特にこの砥石屑は非常に硬く、小さいので、微少孔の噴射孔を塞ぐ場合の他、逆に噴射孔を削り、層流状態が崩れ、消費量が増大して、研削効率も下がり、エネルギーロスを発生してしまうという問題があった。
【0006】
本発明の課題は、かかる問題点に鑑みて、研削液による噴射ノズルの微細な噴射孔列の摩耗を防止し、研削液の層流状態を確保し、研削効率がよく、省エネの噴射ノズルを提供することである。さらに、かかる噴射ノズルを用いた研削加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、幅方向が0.5mm〜2mm、高さ方向が0.5mm〜2mmの少なくとも4個以上の微細孔が直線状又は円周状に配置された噴射孔列と、前記噴射孔列の全てと連通する拡張室と、前記拡張室と連通する供給口と、を備えた噴射ノズルにおいて、該噴射ノズルの材質は鉄系材質であって、少なくとも前記噴射孔の孔内面及び出入口が浸炭処理されていることを特徴とする噴射ノズルを提供することにより前述した課題を解決した。
【0008】
即ち、列状に配置された微細孔からなる噴射孔列の近傍を浸炭処理することにより、砥石屑や研削屑の通過する噴射孔、入口、出口の表面硬さを高くする。これにより耐摩耗性が高くなる。表面の耐摩耗性を高くするためには、メッキ、溶射、イオンプレーティング等もあるが、かかる方法では、表面に膜を形成するため噴射孔の断面が小さくなり、形状も不安定である。また、噴射孔を二分割したりしないと、噴射孔内部まで、メッキやコーティングをするのは困難である。これに対して、浸炭処理とすれば、温度による変形程度であり、断面積の減少の少ない。また、二分割したりしなくても、真空浸炭方法を用いて、噴射孔内部まで浸炭処理することができる。なお、浸炭処理に当たっては、噴射ノズルを真空浸炭炉内にセットして、噴射ノズル内外全体を浸炭処理するのが量産に適し、また、容易に浸炭処理できる。
【0009】
なお、幅方向や高さ方向を0.5mm〜2mmとしたが、この値は、噴射孔断面からの噴出流が層流となり、噴射孔断面から噴出される研削液等がほぼ同じ断面積で比較的長い距離、例えば加工部まで、研削液等が線状に噴出するような微少孔を具体的に表現するための値である。好ましくは、幅1〜2mm、高さ0.5〜1mmの矩形、直径0.8〜1.5mm程度の円形が好ましい。また、孔数は4〜22個が好ましい。
【0010】
また、請求項2に記載の発明においては、前記ノズル材質をステンレスとした。浸炭処理をするためには当然母材は鉄系であるが、研削液等がかかるので、防錆の観点からステンレスが好ましい。より具体的には、SUS316、SUS304と用いるのが一般的である。
【0011】
また、請求項3に記載の発明においては、前記噴射ノズルは直線状の一列の噴射孔を有するフラット型噴射ノズルとした。芯無し研削盤や、平面研削盤等の外周面がフラットの円筒タイプの研削砥石の幅方向に研削液等を噴射するのに適している。
【0012】
一方、先端が鋭角になっている研削盤や、砥石外周幅が狭い切断用(スライス)研削盤等では、研削液を集中させてあてたい。そこで、請求項4に記載の発明においては、前記噴射ノズルは円周状に配設された噴射孔を有する円周型噴射ノズルとした。
【0013】
さらに、請求項5に記載の発明においては、前述した、請求項1乃至4記載の噴射ノズルを用いて、前記供給口より研削液を供給して、研削液を前記噴射孔より、略層流状態で噴出させ、略層流状態をほぼ確保しながら研削加工部に供給し、研削加工を行う研削加工方法を提供することにより前述した問題点を解決した。
【0014】
即ち、略層流として研削液を供給可能で、少なくとも噴射孔の近傍を浸炭処理して硬度を上げた噴射ノズルを研削盤に使用してワーク及び砥石に略層流状態で研削液を供給しながら研削加工するので、研削液量を少なく、研削液が散逸することなく確実に必要な加工部へ研削液を供給できる。
【0015】
なお、研削屑や砥石屑等による噴射孔の目詰まり防止のため、請求項6に記載の発明においては、前記研削液は絶対濾過度20〜30μmのフィルターを介して供給するようにした。
【発明の効果】
【0016】
本発明においては、微細孔が直線状又は円周状に配置された噴射孔列、拡張室、供給口を備えた噴射ノズルの少なくとも噴射孔の内面及び出入口を浸炭処理し、表面硬さを硬くして、耐摩耗性を高く、また、微細孔の変形、断面減少が少ないので、微細砥粒屑を含有する研削液等による噴射ノズルの微細な噴射孔の摩耗を防止し、研削液等の層流状態を確保し、研削効率がよく、省エネの噴射ノズルを提供するものとなった。なお、研削液等に適しているが、空気、ミスト、その他の気体、液体等の流体の層流状噴出に適用できることはいうまでもない。
【0017】
また、請求項2に記載の発明においては、ノズル材質をステンレスとした場合には、防錆を確保できるので、研削液の他、腐食が大きな流体に用いることができる。研削液には防錆剤が含有されている場合が多いが、周辺への飛散や、外部環境による錆の発生原因から噴射ノズルの錆の発生を防ぐ。
【0018】
また、請求項3に記載の発明においては、噴射ノズルを直線状の一列の噴射孔を有するフラット型噴射ノズルとし、外周面がフラットの円筒タイプの研削砥石の幅方向に研削液等を均一に噴射できるので、加工部への研削液の確実な供給が可能であり、研削液の量を減少させ、さらには、加工状況の視認が容易になる。
【0019】
一方、請求項4に記載の発明においては、噴射ノズルは円周状に配設された噴射孔を有する円周型噴射ノズルとし、局所的な加工部へのたので、同様に、研削液の確実な供給が可能であり、研削液の量を減少させ、さらには、加工状況の視認が容易になる。
【0020】
さらに、請求項5に記載の発明においては、本発明の少なくとも噴射孔の近傍を浸炭処理して硬度を上げた噴射ノズルを用いて、供給口より研削液を供給して、研削液を噴射孔より、略層流状態で噴出させ、略層流状態をほぼ確保しながら研削加工部に供給して研削し、研削液量を少なく、研削液が散逸することなく確実に必要な加工部へ研削液を供給できるので、研削液の消費量が少なく、研削液を処理、供給するクーラント設備への負担も軽くなり、メンテナンスが容易で、エネルギー効率が良く、さらには、加工面精度の向上がはかれる研削液を供給できるものとなった。
【0021】
また、請求項6に記載の発明において、研削液を絶対濾過度20〜30μmのフィルターを介して供給するので、研削砥石屑による目詰まりの発生も少なく、噴射孔の摩耗も少なくなるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の実施の形態について、図を参照して説明する。図1は本発明のフラット型噴射ノズルの斜視図、図2は図1のA−A線矢印の噴射孔及び拡張室の断面図である。図1に示すように、噴射ノズル10は、本体1の一端に幅方向が1mm、高さ方向が0.7mmの矩形断面であって、長さが約3mmの微細孔(噴射孔)2が直線状に22個配置され噴射孔列を形成する。噴射孔2は二個を一組として、噴射孔から流出する流体間の干渉を防止するための鍔3が設けられている。噴射孔2の反対側に外ねじ4が設けられた供給口5が設けられている。供給口5と噴射孔2とは拡張室6により連通されている。なお、符号7は供給口5と拡張室6との間に設けられた絞りであるが、本発明では開放状態である。本体1のフラット部の幅は約60mm、奥行き約25mmである。なお、このものは、シルベント(登録商標)社製のSL−973のステンレスノズル(材質SUS316相当)を改造したものである。
【0023】
即ち、本実施例においては、このSL−973ステンレスノズルを真空浸炭室に投入し、浸炭処理をした。図2に示すように、噴射孔2の各表面、拡張室6,本体1の各表面が浸炭処理されている。図3は図2に対する測定部を示す図であり、図4は図3の噴射孔2と拡張室6との接続斜面12の顕微鏡組織である。図4に示すように、表面が浸炭処理されている。
【0024】
より詳述すると、図5は図4に示す接続斜面12,噴射孔2の孔内面11の硬度分布測定結果であり、(a)は表、(b)はグラフで表したものである。図5に示すように、本発明品の噴射孔2の孔内面11の表面硬度は深さ0.15mmまで350〜450HV、接続斜面12の表面硬度は深さ0.1mmまで350HVと高硬度を示している。これに対し浸炭処理しない比較品はそれぞれ160〜250HVとなっており、本発明品は浸炭処理により、0.1mmまでの表面硬度を高くされていることがわかる。さらに、浸炭処理を施すことも可能であるが、本発明において、研削液等の使用にあたっては充分な硬度である。
【0025】
次に、前述した実施品を、切削加工に使用した場合について図を参照して説明する。図6は本発明実施例を示す研削加工部を示す写真、図8は従来の扁平ノズルを用いた研削加工部を示す写真である。図8に示すように、従来のものでは、扁平ノズル20から大量の研削液21を加工部22にかけるので、消費量が激しく加工部も視認しずらく、研削液21も飛散している。
【0026】
これに対し、本実施例においては、噴射ノズル10の内外面が浸炭処理されているので、防錆効果も高く、特に微細孔からなる噴射孔2の孔内面11も浸炭処理されているので、研削屑、研削砥石の砥粒屑等が含まれていても摩耗が少なく、長寿命であるので、ノズルとしての使用が可能となった。従って、図6に示すように、噴射ノズル10の噴射孔2から層流状に研削液が噴出され、糸状に所定の加工部22に供給が可能となった。また、研削液の量も少なく、加工部も視認し易く、研削液の飛散も少なくできる。従って、クーラントシステム等のメンテナンスも容易となり、研削加工精度も向上する研削加工方法となった。
【0027】
図7は本発明の噴射ノズルの他の実施例を示す。図7に示すものは、噴射孔2を円周状に配置した円周型噴射ノズル15である。前述したフラット型噴射ノズル10とは、噴射孔の配置が異なるため、形状がことなるが、同機能を有しており、同様な部分については、前述したと同符号を付し説明を省略する。図7の円周型噴射ノズルは、加工部が狭いものに適する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明のフラット型噴射ノズルの斜視図である。
【図2】図1のA−A線矢印の噴射孔及び拡張室の断面図である。
【図3】図2に対する表面近傍硬さの測定部を示す図である。
【図4】図3の噴射孔2と拡張室6との接続斜面12の顕微鏡組織である。
【図5】図4に示す接続斜面12,噴射孔2の孔内面11の硬度分布測定結果であり、(a)は表、(b)はグラフで表したものである。
【図6】本発明の研削加工方法の実施例を示す研削加工部を示す写真である。
【図7】本発明の噴射ノズルの他の実施例を示す円周型噴射ノズルの斜視図である。
【図8】従来の扁平ノズルを用いた研削加工方法の研削加工部を示す写真である。
【符号の説明】
【0029】
1 本体
2 噴射孔(微細孔)
6 拡張室
5 供給口
11 噴射孔の孔内面
10 (フラット型)噴射ノズル
15 噴射ノズル
21 研削液
22 加工部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向が0.5mm〜2mm、高さ方向が0.5mm〜2mmの少なくとも4個以上の微細孔が直線状又は円周状に配置された噴射孔列と、前記噴射孔列の全てと連通する拡張室と、前記拡張室と連通する供給口と、を備えた噴射ノズルにおいて、該噴射ノズルの材質は鉄系材質であって、少なくとも前記噴射孔の孔内面及び出入口が浸炭処理されていることを特徴とする噴射ノズル。
【請求項2】
前記ノズル材質はステンレスであることを特徴とする請求項1記載の噴射ノズル。
【請求項3】
前記噴射ノズルは直線状の一列の噴射孔を有するフラット型噴射ノズルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の噴射ノズル。
【請求項4】
前記噴射ノズルは円周状に配設された噴射孔を有する円周型噴射ノズルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の噴射ノズル。
【請求項5】
請求項1乃至4記載の噴射ノズルを用いて、前記供給口より研削液を供給して、研削液を前記噴射孔より、略層流状態で噴出させ、略層流状態をほぼ確保しながら研削加工部に供給し、研削加工を行うことを特徴とする研削加工方法。
【請求項6】
前記研削液は絶対濾過度20〜30μmのフィルターを介して供給することを特徴とする請求項5記載の研削加工方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−253081(P2007−253081A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−81459(P2006−81459)
【出願日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【出願人】(000005197)株式会社不二越 (625)
【Fターム(参考)】