説明

回収リン酸マグネシウムアンモニウムの利用方法及び装置

無機栄養塩類を添加しなければ好気的及び/又は嫌気的生物処理が成り立たない廃水に対し、安価で容易に利用できる無機栄養塩類を利用する方法を提供する。 有機性廃棄物及び/又は有機性廃水処理の処理過程から回収したリン酸マグネシウムアンモニウムを、嫌気性処理工程及び/又は好気性処理工程からなる生物処理工程に添加し、無機栄養源として利用することを特徴とする回収リン酸マグネシウムアンモニウムの利用方法、及び装置。回収したリン酸マグネシウムアンモニウムの粒径を0.5mm以下の粒子にして、且つ/又はリン酸マグネシウムアンモニウムを添加する液のpHを10以下として利用することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機栄養塩類を添加しなければ好気的及び/又は嫌気的生物処理が成り立たない廃水に対して、安価で容易に利用できる無機栄養塩類を利用する処理方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
汚水中に含まれる窒素、リンは河川、海洋、貯水池などにおける富栄養化問題の原因物質であり、汚水処理工程で効率的に除去されることが望まれる。
【0003】
また、リン資源は21世紀中の枯渇が予想されている物質である。日本は、リンのほとんどを輸入に頼っており、今日では、有機性廃棄物及び廃水中からリンを、高効率に回収する方法が望まれている。
【0004】
従来、リンを含有する汚水からリンを除去する方法としては、生物学的除去方法、凝集沈殿方法、晶析法、吸着法など様々な方法が開発されてきた。各処理方法にメリット、デメリットがあるが、晶析法は、基本的に汚泥発生がなく、除去したリンの再利用がしやすく、しかも安定した状態で除去(回収)できるという利点がある。
【0005】
(特許文献1)には、高濃度のリン及びアンモニア性窒素を含む廃水から、リン酸マグネシウムアンモニウム(以下「MAP」ともいう)としてリンを回収する方法が記載されている。このMAP法においては、液中のアンモニウムイオン、リン酸イオン、マグネシウムイオン、水酸基が式(1)のような形態で反応し、MAPが生成される。生成したMAPは緩効性肥料(苦土リン安系)として再利用可能である。
【0006】
【化1】

下水汚泥や生ゴミ、畜産廃棄物、モルトやお茶殻等の有機性廃棄物を嫌気性消化すると、固形物の可溶化工程、有機酸生成工程、メタン生成工程を経て、最終的に二酸化炭素、メタンに分解される。ところで、これらの有機性廃棄物には、リン、窒素が含まれており、これらの物質は嫌気性消化工程で液側に溶出する。従来の技術によると、これらの汚泥を脱水したろ液からMAPを生成し該MAPを回収していた。MAP生成には、上記のように液中にリン、アンモニア態窒素、マグネシウム、アルカリが必要であり、ろ液に不足する物質がある場合は添加していた。
【特許文献1】特開2002−326089号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、石油化学系廃水や、紙パルプ廃水、清涼飲料廃水、アルコール飲料廃水などは、一般的に嫌気的及び/又は好気的に生物学的処理がなされる。嫌気的生物処理は、嫌気性細菌の存在下に嫌気状態に維持することにより、嫌気性細菌を増殖させて排水中の有機物を分解する方法である。分解工程では、メタン生成細菌によるメタン生成工程を経て、最終的には二酸化炭素とメタンに分解される。微生物にとって、リンは核酸、リン脂質、補酵素の構成成分であり、窒素はたんぱく質、核酸、補酵素の構成成分となる。そのため、廃水中のリン、窒素などの無機塩類が不足すると、菌体合成が困難となり、希望する処理水質が得られない場合があった。好気性処理の場合も同様に、好気性細菌の増殖が抑制されて処理能力が低下する場合があった。
【0008】
上記の廃水には往々にしてリン、窒素が不足するため、好気性処理では原水のBODに対してBOD:N:P=100:2.5〜5:0.5〜1程度となるように、嫌気性処理では原水のBOD:N:P=100:0.25〜0.5:0.05〜0.1程度となるように、リン、窒素を添加している。しかしながら、廃水処理量が多いと薬品コストが膨大となるため、安価な薬品が切望されていた。
【0009】
本発明は、このような実情によりなされたものであり、本発明の目的は上記の課題を解決するために、無機栄養塩類を添加しなければ好気的及び/又は嫌気的生物処理が成り立たない廃水に対し、安価で容易に利用できる無機栄養塩類を利用する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の手段によって上記の課題を解決することができた。
【0011】
(1)有機性廃棄物及び/又は有機性廃水処理の処理過程から回収したリン酸マグネシウムアンモニウムを、嫌気性処理工程及び/又は好気性処理工程からなる生物処理工程に添加し、無機栄養源として利用することを特徴とする回収リン酸マグネシウムアンモニウムの利用方法。
【0012】
(2)回収したリン酸マグネシウムアンモニウムの粒径を0.5mm以下の粒子にして、且つ/又はリン酸マグネシウムアンモニウムを添加する液のpHを10以下として利用することを特徴とする前記(1)記載の回収リン酸マグネシウムアンモニウムの利用方法。
【0013】
(3)前記生物処理工程は酸発酵槽を具備する嫌気性処理工程であり、酸発酵槽に前記回収したリン酸マグネシウムアンモニウムを添加することを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の回収リン酸マグネシウムアンモニウムの利用方法。
【0014】
(4)前記有機性廃棄物及び/又は有機性廃水処理の処理工程は嫌気性処理工程及び/又は好気性処理工程からなる生物処理工程であり、前記リン酸マグネシウムアンモニウムは該嫌気性処理工程及び/又は好気性処理工程からなる生物処理工程の処理水から回収することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の回収リン酸マグネシウムアンモニウムの利用方法。
【0015】
(5)有機性廃棄物及び/又は有機性廃水処理の処理工程は嫌気性処理工程及び/又は好気性処理工程からなる生物処理工程であり、前記リン酸マグネシウムアンモニウムは該嫌気性処理工程及び/又は好気性処理工程からなる生物処理工程の処理水から回収し、再び同一の生物処理工程の嫌気性処理工程及び/又は好気性処理工程に循環させて利用することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の回収リン酸マグネシウムアンモニウムの利用方法。
【0016】
(6)有機性廃棄物及び/又は有機性廃水処理の処理過程から回収したリン酸マグネシウムアンモニウムを、無機栄養源として嫌気性処理槽及び/又は好気性処理槽を有する生物処理装置に添加することを特徴とする回収リン酸マグネシウムアンモニウムを利用する処理装置。
【0017】
(7)前記生物処理装置は、酸発酵槽を具備し、該酸発酵槽に前記回収したリン酸マグネシウムアンモニウムを添加することを特徴とする前記(6)に記載の処理装置。
【0018】
(8)嫌気性処理槽及び/又は好気性処理槽と、該処理槽から排出される処理水を受け入れリン酸マグネシウムアンモニウムを生成させるリン酸マグネシウムアンモニウム生成槽と、該リン酸マグネシウムアンモニウムを嫌気性処理槽及び/又は好気性処理槽に循環させる配管と、を具備する回収リン酸マグネシウムアンモニウムを利用する有機性廃棄物及び/又は有機性廃水の生物処理装置。
【0019】
(9)さらに、前記嫌気性処理槽及び/又は好気性処理槽の上流に酸発酵槽を具備し、前記配管は、前記リン酸マグネシウムアンモニウム生成槽からのリン酸マグネシウムアンモニウムを該酸発酵槽に導入するように配置されていることを特徴とする前記(8)に記載の生物処理装置。
【0020】
(10)前記リン酸マグネシウムアンモニウム生成槽には、さらにマグネシウム、アンモニウム及び/又はリンを含む薬剤の添加手段及び/又はpH調整手段が設けられていることを特徴とする前記(8)又は(9)に記載の生物処理装置。
【0021】
本発明の骨子は、有機性廃棄物及び/又は有機性廃水の処理過程から回収したMAPを、無機栄養塩類を添加しなければ好気的或いは嫌気的生物処理が成り立たない廃水に対し、無機栄養塩類として利用すれば膨大なコストを大幅に低減できることを見出したことにある。特に、回収MAPの粒径を0.5mm以下にし、MAPを添加する液のpHを10以下にすることで、MAPが短時間で溶解できて一段と効果的であることを見出した。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、有機性廃棄物及び/又は有機性廃水処理の処理過程から回収したMAPを、無機栄養塩類を添加しなければ好気的或いは嫌気的生物処理が成り立たない廃水に対し添加することにより、安価で容易に利用できる無機栄養塩類を利用する方法を得ることができた。さらに、その際、MAPを0.5mm以下の粒子にして、なお且つMAPを添加する液のpHを10以下とすることでMAPが短時間に溶解するので、MAPを無機栄養塩類として容易に利用できる。
【0023】
本発明において、回収MAPを嫌性気処理槽の上流にある酸発酵槽に添加する場合には、より良好にMAPを溶解させて無機栄養塩類として利用することができるので、さらに効果的である。
【0024】
また、本発明の嫌気性処理槽及び/又は好気性処理槽と、該処理槽から排出される処理水を受け入れMAPを生成させるリン酸マグネシウムアンモニウム生成槽と、該MAPを嫌気性処理槽及び/又は好気性処理槽に循環させる配管と、を具備する回収リン酸マグネシウムアンモニウムを利用する有機性廃棄物及び/又は有機性廃水の生物処理装置においては、同一の生物処理装置内において、MAPを回収し再び溶解させて無機栄養塩類として利用するので、リンの過剰な排出を防止することができ、MAPを効率的に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の回収MAPを嫌気性処理工程の無機栄養源として利用する一実施態様の系統図である。
【図2】MAPの平均粒径と溶解率の関係を示す、溶解時間別のグラフである。
【図3】本発明の回収MAPを嫌気性処理工程の無機栄養源として利用する別の実施態様の系統図である。
【図4】本発明の回収MAPを好気性処理工程の無機栄養源として利用する一実施態様の系統図である。
【図5】本発明の回収MAPを無機栄養源として利用する嫌気性処理工程の別の実施形態を示す概略説明図である。
【図6】実施例3において使用した本発明の回収MAPを利用する嫌気性処理工程を示す概略説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 EGSBリアクター
2 酸発酵槽
3 曝気槽
4 沈殿池
5 原水
6 MAP粒子
7 処理水
8 循環水
9 返送汚泥
10 リン酸マグネシウムアンモニウム生成槽
11 配管
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の実施の形態を図面を参照にして詳細に説明する。なお、本発明の実施の形態を説明する全系統図において、同一機能を有するものは同一符号を用いて示す。
【0028】
図1は、石油化学系廃水や、紙パルプ廃水、清涼飲料廃水、アルコール飲料廃水等の有機性廃水を、嫌気的生物処理によって浄化する方法を説明する系統図である。嫌気性生物処理は、酸発酵槽2及びEGSBリアクター1(Expanded granular sludge bed:グラニュール汚泥膨張床)からなる。しかしながら、嫌気性生物処理は、必ずしも酸発酵槽2を必要としているわけではなく、原水5中の有機物が既に低分子化している場合は、直接EGSB法(EGSBリアクター1)に投入しても良い。更に、EGSBリアクター1の代わりに、UASB(upflow anaerobic sludge blanket:上向流嫌気性スラッジブランケット)槽、固定床法、流動床法、などを用いても良い。なお、図1において、5は原水、6はMAP粒子、7は処理水、8は循環水である。
【0029】
本実施形態では、有機性廃棄物及び/又は有機性廃水の処理工程から回収したMAP6を無機栄養塩類として、上記の廃水5に添加する。
【0030】
有機性廃棄物には、下水汚泥や生ゴミ、畜産廃棄物、モルトや茶殻等の有機性廃棄物がある。これらの固形物を嫌気性消化すると、固形物の可溶化工程、有機酸生成工程、メタン生成工程を経て、最終的に二酸化炭素、メタンに分解されると共に、液側には、リン、窒素等が溶出する。この溶液にマグネシウム、及び/又はアルカリを添加することでMAP6を生成し回収する。回収MAP6の性状は、リアクター、反応条件等によっても異なるが、平均粒径は0.05mm〜5mm、MAPの純度は10〜90%であった。
【0031】
ところで、MAPは難溶性塩であり、水に対する溶解度は小さい。MAPの溶解度(無水塩)を示すと、(共立出版株式会社発行、「化学大辞典」第9巻第817頁)によれば、0℃;0.0231g/100g、80℃;0.0195g/100gである。
【0032】
しかしながら、MAPの溶解量はpH依存性があることが知られている。本発明者がMAP溶解量のpH依存性を調べたところ、pHが低いほどMAP溶解量が多く、pH=5;7000mg/リットル、pH=7;1600mg/リットル、pH=9;340mg/リットル、pH=10;160mg/リットル、pH=11;74mg/リットルであった。
【0033】
上記のように酸を用いてpHを低下させれば、MAPは比較的容易に溶解し、所定のリン濃度、アンモニア濃度を含む溶液を得ることができる。しかしながら、酸薬品を使用すること、MAP溶解槽が別途必要なこと、pHの低い溶液を生物処理槽に添加しなければならないこと、などから必ずしも効率的な方法ではなかった。
【0034】
そこで、MAP粒子を直接生物処理槽に投入し、MAPを直接溶解させる方法を試みた。しかしながら、MAP添加量が溶解度以下であっても、MAPがなかなか溶解しない場合があり、希望とするリン濃度、アンモニア濃度を得ることが困難であった。更に悪いことに、未溶解のMAPがスケールとなって、リアクター底部に堆積する場合もあった。
【0035】
本発明者等は、回収MAPの無機栄養剤としての効率的な溶解方法を、さらに研究した結果、MAPの粒径に応じてMAPの溶解速度が異なることを見出した。すなわち、図2に見られるように、溶解時間1時間では粒径0.11mmの場合;69%、粒径0.52mm;52%、粒径1.5mm;45%であり、同じ溶解時間ではMAP粒径が小さいほど溶解率が高く、短時間で溶解することが分かった。
【0036】
これは、MAPの比表面積と関係していると推測され、粒径が小さいほど比表面積が大きく、固液の接触面積が多く、MAPの拡散速度が速いと考えられる。好気的、嫌気的を問わず生物処理の反応時間は通常1時間以上であり、少なくとも1時間で投入したMAPの50%以上が溶解すると、効率的な溶解であると評価される。そこで、回収MAPを無機栄養源として利用する場合には、MAP粒径を0.5mm以下の粒子にする。MAP粒径は、全てのMAP粒径が0.5mm以下となっていることが好ましいが、平均粒径で0.5mm以下となっていればよい。
【0037】
前述したように、回収MAPの粒径はばらつきがある。MAP粒径が0.5mm以下の場合はそのまま添加することができる。MAP粒径が0.5mm以上の場合は、回収したMAPを篩い分けたり、分級したりする。また、粉砕後、篩い分け、分級等の操作を行っても良い。
【0038】
前述したようにMAPの溶解量はpH依存性があり、低pHほど溶解量が多い。一方で高アルカリ性の廃水では粒径を0.5mm以下としても溶解しない。高アルカリ性の廃水でも廃水中のNH−Nが少なくとも10mg/リットル以上となるように、MAPを溶解させる液のpHは10以下とする。廃水或いは生物処理槽のpHが10以下であれば、特にpH調整する必要がない。
【0039】
MAP6の添加場所は、原水5、原水調整槽、循環水8、UASB槽(又はEGSBリアクター1)内でもよいが、図3のように酸発酵槽2を備えた場合は、酸発酵槽2内のpHが5〜6であり、容易にMAPが溶解するため、酸発酵槽2に添加するのが好ましい。
【0040】
図4は、有機性廃水を好気性処理する場合の処理フローである。添加する回収MAP6は、嫌気性処理の場合と同様に、全ての粒径/又は平均粒径が0.5mm以下とする。図4の例では、回収MAP6の添加位置を曝気槽3としたが、原水5に供給しても良いし、返送ライン9に供給しても良い。また、原水調整槽があれば原水調整槽に添加してもよい。
【0041】
回収MAP6は、MAP6を回収した処理場と同一の処理場で利用しても良いし、回収MAP6を輸送し、別の廃水処理場で利用しても良い。
【0042】
以下、生物処理後の回収MAPを再び同一の生物処理工程に戻して利用する場合の実施形態を図5を参照しながら説明する。
【0043】
図5に示す実施形態において、本発明の生物処理装置は、EGSB槽1と、EGSB槽1から排出される処理水を受け入れMAPを生成させるリン酸マグネシウムアンモニウム生成槽10と、リン酸マグネシウムアンモニウム生成槽10からMAPをEGSB槽1に循環させる配管11と、を具備する。本実施形態において、配管11は、EGSB槽1に原水5を供給する原水供給配管に接続されている。リン酸マグネシウムアンモニウム生成槽10は、特に限定されるものではないが、MAPの生成を補助し、生成したMAPの配管11への導入を容易にする構成であることが好ましい。具体的には、リン酸マグネシウムアンモニウム生成槽10として、撹拌装置を具備し、固液分離を可能とする液体サイクロン、沈殿槽などを好ましく用いることができる。液体サイクロンである場合には、底部に配管11を接続させ、生成したMAP粒子を液体サイクロン底部から抜き出す構成にすることで、生物処理装置内でのMAPの循環を容易に行わせることができる。また、リン酸マグネシウムアンモニウム生成槽10には、必要に応じて、マグネシウム、アンモニウム及び/又はリンを添加する手段12が設けられており、さらにpH調整手段(図示せず)を設けて、MAPの結晶成長を制御することが好ましく、リン酸マグネシウムアンモニウム生成槽10にて生成されるMAPの平均粒径を0.5mm以下となるように調整することが好ましい。あるいは、MAP生成時間を短くして、0.5mm以上に成長させないか又は、固液分離して回収したMAPを粉砕して0.5mm以下としてもよい。
【0044】
本処理装置において、処理すべき原水は、無機栄養塩類としてのMAPと共に、EGSB槽1に供給されて嫌気(EGSB)処理される。MAP中には生物処理に必要なリンと窒素との比率(0.1:1程度)よりも過剰なリン(リン:窒素=2.2:1)が含まれており、さらに、通常、処理装置の運転管理は、原水の濃度変動を考慮して無機栄養塩類を理論要求量の1.1〜10倍量で添加するため、過剰な無機栄養塩類が処理水と共に流出することがある。よって、EGSB槽1から排出される嫌気処理後の処理水は、嫌気処理に用いた無機栄養塩類由来のリン、及び場合によってはMAPを含む。この少なくともリンを含む処理水は、リン酸マグネシウムアンモニウム生成槽10に送られる。リン酸マグネシウムアンモニウム生成槽10において、処理水に、必要に応じて、マグネシウム、アンモニウム及び/又はリンを添加し、pHを調整するなどして、平均粒径が0.5mm以下のMAPが調製される。調製されたMAP又は回収されたMAPは、配管11を通して原水5に添加され、再び原水の生物処理に利用される。
【0045】
また、図6に示すように、生物処理装置は、酸発酵槽2を含むものでもよい。この場合には、リン酸マグネシウムアンモニウム生成槽10からのリン酸マグネシウムアンモニウムを酸発酵槽2に導入するように、配管11を配置することができる。図6において、配管11は、酸発酵槽2に原水5を供給する原水供給配管に接続されている。
【実施例】
【0046】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこの実施例により何等制限されるものではない。
(実施例1)
紙パルプ工場の製造工程廃水を嫌気性処理する際に、回収したMAP500mg/リットルを添加した。MAPは、消化汚泥の分離液より回収した。回収したMAPの粒径は2.0mmであったが、粉砕することで0.2mm以下として利用した。原水BOD 4200mg/リットルに対し処理水のBODは420mg/リットルであり、BOD除去率は90%であった。汚泥のメタン生成活性度を測定したところ、0.8kg−BOD/kg−汚泥/dであった。また、処理水中のPO−Pは30mg/リットル、NH−Nは10mg/リットルであり、無機栄養塩類は十分に足りていた。なお、嫌気性処理工程におけるpHは7.5であった。
(実施例2)
実施例2では、図3に示す処理装置における回収MAPの利用を評価した。回収MAPの添加位置を酸発酵槽2とした以外は、実施例1と同様とした。すなわち、消化汚泥の分離液より回収した平均粒径2.0mmのMAPを粉砕して平均粒径0.2mm以下の粒子として、500mg/リットルの添加量で、酸発酵槽2に添加し、pH7.5に維持したEGSB槽1からの処理水7のBOD、処理汚泥のメタン生成活性度並びに処理水中のPO−P及びNH−Nを測定した。なお、BODの分析は下水処理試験方法に準拠し、メタン生成活性度はグラニュール汚泥、培地、廃水を混合した密閉容器を振とうし、発生したメタンガス量として測定し、PO−Pはモリブデン青吸光光度法で、NH−Nはインドフェノール青吸光光度法でそれぞれ測定した。
【0047】
原水のBODが4200mg/リットルであったのに対して、処理水のBODは400mg/リットルとなり、BOD除去率は90.5%であった。また、処理汚泥のメタン生成活性度は、実施例1と同様、0.8kg−BOD/kg−汚泥/dayであった。処理水中のPO−Pは50mg/リットル、NH−Nは20mg/リットルであり、実施例1よりも多量のMAPが溶解していることがわかった。
(実施例3)
実施例3では、回収MAPの利用として、図6に示す生物処理装置におけるMAPの再循環利用を評価した。図6に示す処理装置は、EGSB槽1と、EGSB槽1から排出される処理水を受け入れMAPを生成させるリン酸マグネシウムアンモニウム生成槽10と、リン酸マグネシウムアンモニウム生成槽10からMAPをEGSB槽1に循環させる配管11と、を具備する。配管11は原水供給配管に接続されている。さらに酸発酵槽2がEGSB槽1の上流に設けられていて、酸発酵槽2には原水供給配管から原水5とMAP6が導入されるように構成されている。
【0048】
初期運転時に、平均粒径0.2mmのMAP粒子500mg/リットルを原水5に添加して生物処理を行わせた。EGSB槽1から排出された処理水7をリン酸マグネシウムアンモニウム生成槽10に受け入れて、MAP生成に不足するマグネシウム塩、アンモニウム塩を添加して、さらにpHを8.0〜9.5に調整することで、MAPを生成させ、平均粒径0.5mm以下のMAP粒子100mg/リットルとして回収した。MAP粒子の平均粒径は、MAP粒子のリン酸マグネシウムアンモニウム生成槽10内での滞留時間を1日以下に調整することで0.5mm以下とした。なお、MAP粒子の平均粒径は、適時レーザー回折法による粒径分布測定機器を用いて測定した。回収したMAP粒子100mg/リットルを配管11を通して原水供給配管中の原水5に再び添加した。原水5にはさらに、平均粒径が0.2mm以下の新しいMAP粒子400mg/リットルを添加し、原水5に添加するMAP粒子を合計500mg/リットルとして、生物処理装置内に再び循環させた。
【0049】
実施例2と同様に生物処理し、生物処理後の処理水を測定した。
【0050】
原水のBODが4200mg/リットルであったのに対して、処理水のBODは400mg/リットルとなり、BOD除去率は90.5%であった。また、処理汚泥のメタン生成活性度は、実施例1と同様、0.8kg−BOD/kg−汚泥/dayであった。処理水中のPO−Pは50mg/リットル、NH−Nは20mg/リットルであった。実施例2と同様の結果が得られ、実施例1よりも多量のMAPが溶解していることがわかった。
(比較例1)
実施例1と同様に、紙パルプの製造工程廃水を嫌気性処理する際に、回収したMAPを500mg/リットルとなるように添加した。MAPは粉砕せず、2mmのものを添加した。原水BOD:4000mg/リットルに対し処理水のBODは2000mg/リットルであり、BOD除去率は50%であった。汚泥のメタン生成活性度を測定したところ、0.5kg−BOD/kg−汚泥/dであり、実施例1に比較して活性度が低かった。また、処理水中のPO−Pは0.1mg/リットル以下、NH−Nは0.1mg/リットル以下であり、無機栄養塩類が不足していた。無機栄養塩類が不足したことで汚泥の活性度が低下したと判断される。なお、嫌気性処理工程におけるpHは7.5であった。
【0051】
リアクター内の底部には、溶解しきれていないMAPが堆積しており、粒径が大きいことで溶解時間が不足していたと推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機性廃棄物及び/又は有機性廃水処理の処理過程から回収したリン酸マグネシウムアンモニウムを、嫌気性処理工程及び/又は好気性処理工程からなる生物処理工程に添加し、無機栄養源として利用することを特徴とする回収リン酸マグネシウムアンモニウムの利用方法。
【請求項2】
回収したリン酸マグネシウムアンモニウムの粒径を0.5mm以下の粒子にして、且つ/又はリン酸マグネシウムアンモニウムを添加する液のpHを10以下として利用することを特徴とする請求項1記載の回収リン酸マグネシウムアンモニウムの利用方法。
【請求項3】
前記生物処理工程は酸発酵槽を具備する嫌気性処理工程であり、酸発酵槽に前記回収したリン酸マグネシウムアンモニウムを添加することを特徴とする請求項1又は2に記載の回収リン酸マグネシウムアンモニウムの利用方法。
【請求項4】
前記有機性廃棄物及び/又は有機性廃水処理の処理工程は嫌気性処理工程及び/又は好気性処理工程からなる生物処理工程であり、前記リン酸マグネシウムアンモニウムは該嫌気性処理工程及び/又は好気性処理工程からなる生物処理工程の処理水から回収することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回収リン酸マグネシウムアンモニウムの利用方法。
【請求項5】
有機性廃棄物及び/又は有機性廃水処理の処理工程は嫌気性処理工程及び/又は好気性処理工程からなる生物処理工程であり、前記リン酸マグネシウムアンモニウムは該嫌気性処理工程及び/又は好気性処理工程からなる生物処理工程の処理水から回収し、再び同一の生物処理工程の嫌気性処理工程及び/又は好気性処理工程に循環させて利用することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の回収リン酸マグネシウムアンモニウムの利用方法。
【請求項6】
有機性廃棄物及び/又は有機性廃水処理の処理過程から回収したリン酸マグネシウムアンモニウムを、無機栄養源として嫌気性処理槽及び/又は好気性処理槽を有する生物処理装置に添加することを特徴とする回収リン酸マグネシウムアンモニウムを利用する処理装置。
【請求項7】
前記生物処理装置は、酸発酵槽を具備し、該酸発酵槽に前記回収したリン酸マグネシウムアンモニウムを添加することを特徴とする請求項6に記載の処理装置。
【請求項8】
嫌気性処理槽及び/又は好気性処理槽と、該処理槽から排出される処理水を受け入れリン酸マグネシウムアンモニウムを生成させるリン酸マグネシウムアンモニウム生成槽と、該リン酸マグネシウムアンモニウムを嫌気性処理槽及び/又は好気性処理槽に循環させる配管と、を具備する回収リン酸マグネシウムアンモニウムを利用する有機性廃棄物及び/又は有機性廃水の生物処理装置。
【請求項9】
さらに、前記嫌気性処理槽及び/又は好気性処理槽の上流に酸発酵槽を具備し、前記配管は、前記リン酸マグネシウムアンモニウム生成槽からのリン酸マグネシウムアンモニウムを該酸発酵槽に導入するように配置されていることを特徴とする請求項8に記載の生物処理装置。
【請求項10】
前記リン酸マグネシウムアンモニウム生成槽には、さらに、マグネシウム、アンモニウム及び/又はリンを含む薬剤の添加手段及び/又はpH調整手段が設けられていることを特徴とする請求項8又は9に記載の生物処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【国際公開番号】WO2005/005328
【国際公開日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【発行日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−511567(P2005−511567)
【国際出願番号】PCT/JP2004/009961
【国際出願日】平成16年7月13日(2004.7.13)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】