説明

回転センサのアニール処理方法及びアニール処理冶具

【課題】回転センサに有効にアニール処理を施して実機に取り付けた使用期間内での性能の安定を図るようにした回転センサのアニール処理方法を提供する。
【解決手段】回転するシャフトに取り付けられセンシング部を有するロータと、センシング部との間に磁気回路を形成する励磁コイルと励磁コイルを保持するコア本体とを有し固定部材に取り付けられてセンシング部に間隔を存して対向配置された固定コアと、ロータ及び固定コアを収容するケース2とを備えた回転センサ1を、実機に取り付けたときと同じ状態に保持する冶具3に固定してアニール処理を施すようにしたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転体に取り付けてこの回転体の回転角度を検出するのに使用される回転センサのアニール処理方法及びアニール処理冶具に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車のステアリングシャフトなどの回転シャフトに取付けてこのシャフトと一体になったハンドルの回転角度を検出するのにいわゆる回転センサが使用される。このような回転センサとして回転するシャフトに取付けられるロータと、ロータに形成されたセンシング部と、絶縁磁性部材からなるコア本体及びコア本体内に収容される少なくとも1つの励磁コイルを有し固定側に取り付けられる固定コアと、回転角度測定装置を備えた構成のものがある。固定コアは、複数の励磁コイルからなり、ロータの周方向に所定の間隔で配置されかつセンシング部と僅かなギャップを存して対向して配置されステータに収容固定されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2003−202240号公報(3頁、図1、図2)
【特許文献2】特開2005−257663号公報(4−6頁、図2)
【特許文献3】特開平9−97405号公報(4頁、図7)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記構成の回転センサは、アニール処理を施して実機に取り付けた使用期間内での性能を安定化させるようにしている。アニール処理として1枚の長尺なシールド板に複数のマウント組を硬ろう付けした状態でアニール処理を施すようにした磁気ヘッドの製造方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、通常のアニール処理を施した回転センサを実機に取り付けると、各部品の製作並びに組立で生じた残留応力及び歪みが時間経過と共に緩和され、これに伴い、各部品間の寸法と設置位置が変動して性能が不安定になる。
【0005】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、回転センサに有効にアニール処理を施して実機に取り付けた使用期間内での性能の安定を図るようにした回転センサのアニール処理方法及びアニール処理冶具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために本発明に係わる回転センサのアニール処理方法は、回転するシャフトに取り付けられセンシング部を有するロータと、前記センシング部との間に磁気回路を形成する励磁コイルと該励磁コイルを保持するコア本体とを有し固定部材に取り付けられて前記センシング部に間隔を存して対向配置された固定コアと、前記ロータ及び固定コアを収容するケースとを備えた回転センサを、実機に取り付けたときと同じ状態に保持する冶具に固定してアニール処理を施すことを特徴としている。
【0007】
また、本発明の請求項2に記載の回転センサのアニール処理冶具は、回転するシャフトに取り付けられセンシング部を有するロータと、前記センシング部との間に磁気回路を形成する励磁コイルと励磁コイルを保持するコア本体とを有し、固定部材に取り付けられて前記センシング部に間隔を存して対向配置された固定コアと、前記ロータ及び固定コアを収容するケースとを備えた回転センサを、アニール処理するときに実機に取り付けたときと同じ状態に保持する冶具を備えたことを特徴としている。
【0008】
回転センサを冶具に取り付けて実機に取り付けたときと同じ状態(環境)にしてアニール処理を施して残留応力と歪みを充分に緩和し、各部品の寸法と設置位置の変動を低減させて実機に取り付けた使用時間内での性能を安定させる。
【0009】
また、本発明の請求項3に記載の回転センサのアニール処理冶具は、請求項2に記載の回転センサのアニール冶具において、前記冶具は、前記回転センサが載置される基板と、該基板の上面に垂設され前記ケースの前記ロータが取り付けられるシャフトが挿通する挿通孔に嵌挿される支持軸と、前記ケースを前記基板に固定する固定手段とを備えたことを特徴としている。
【0010】
また、本発明の請求項4に記載の回転センサのアニール処理冶具は、請求項3に記載の回転センサのアニール冶具において、前記固定手段は、前記ケースに形成され取付穴を有する取付部と、前記基板の上面に前記取付穴と対応して形成されたねじ穴と、前記取付部を前記ねじ穴に固定するねじとからなることを特徴としている。
【0011】
回転センサを冶具の基板に載置し、支持軸をケースのシャフトが挿通される挿通孔に嵌挿して支持し、更にケースに形成された取付部の取付穴と基板の上面に形成されたねじ穴とを合致させてねじで固定する。これにより、基板に載置した回転センサを簡単かつ強固に固定することができる。また、冶具の構成が簡単である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、回転センサを実機に取り付けたときと同じ状態でアニール処理を施すことで、実機に取り付けた使用期間内での性能が安定し、検出精度の低下が抑制される。また、アニール処理を施すときに回転センサを取り付けるための冶具の構造が簡単であり、回転センサの冶具への取付が容易であると共にアニール処理も簡単に施すことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の最良の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明に係わる回転センサのアニール処理方法に使用する回転センサと冶具とを示す。回転センサ1は、ケース2内に図示しない回転センサ本体が収容されており、一側に回転シャフト例えば自動車のステアリングシャフトが挿通する挿通孔2aが形成されている。
【0014】
前記回転センサ本体は、周知のように回転するシャフトに取り付けられ周方向に沿って幅が変化する導電性のセンシング部を有するロータと、交流励磁電流により励磁されてセンシング部との間に磁気回路を形成する励磁コイルと、磁性部材で形成されかつ前記励磁コイルを保持するコア本体とを有し、固定部材に取り付けられて前記センシング部に対して前記シャフトの軸線方向に間隔を存して対向配置された固定コアとを備えた構成とされている。
【0015】
ケース2は、前部2bが半円形状をなして挿通孔2aと同心的に形成され、後部2cが角形に形成されており、両側面2dの前後両側に取付部2fがその下面をケース2の下面2eと面一をなして側方に突出して一体に形成され、それぞれ取付穴2gが形成されている。なお、取付部2fは、その下面がケース2の下面2eと面一をなして形成されていない場合もある。このケース2は、樹脂部材により形成されている。
【0016】
冶具3は、回転センサ1を実機に取り付けたときと同じ状態に保持するためのもので、回転センサ1を載置固定する基板4と、回転シャフトに相当する支持軸(シャフト)5からなる。基板4は、回転センサ1が周囲に余裕を有して載置可能な大きさの長方形状の厚板(盤体)で形成されている。支持軸5は、回転センサ1のケース2の挿通孔2aに挿通される回転シャフトと同じ太さの円柱形状をなし、ケース2の高さよりも僅かに高く設定されている。また、支持軸5の上端周縁部は面取されて挿通孔2aに挿入し易くなっている。
【0017】
基板4の上面4aにはケース2の各取付部2fの取付穴2gと対応する位置にねじ穴4bが形成されている。この冶具3は、回転センサ1を取り付ける車両の取付部例えばステアリングコラムのコンビネーションスイッチブラケットと同じ部材で形成されている。冶具3は、回転センサ1を取り付ける実機の部材と同じ部材で形成することでより実機に近い環境を作り出すことができ好ましい。
【0018】
そして、冶具3の上方から回転センサ1をケース2の挿通孔2aに支持軸5を嵌挿させて上面4aに載置し、各ねじ穴4bにケース2の対応する各取付部2fの取付穴2gを合致させ、ねじ6により図2に示すように固定する。このようにして、回転センサ1を実機に取り付けたときと同じ状態(環境)に設定する。
【0019】
このように回転センサ1を冶具3に固定して実機に取り付けたと同じ状態(環境)を作り出した後図示しないアニール処理装置によりアニール処理を行う。アニール処理は、従来と同様に車両の実使用環境に近い温度範囲例えば−40℃〜+120℃の範囲内での温度に晒して行われる。
【0020】
これにより、実機に取り付けたときと同じ状態で回転センサ1の残留応力と歪みが充分に緩和され、各部品製作並びに組立で生じた残留応力及び歪みが時間経過と共に緩和されることに起因する各部品の寸法と設置位置の変動が低減されて実機に取り付けた使用時間内での性能が安定する。
【0021】
図3は、回転センサ1をアニール処理時に冶具3に固定した場合と固定しない場合(フリーの状態)の回転角度と出力精度との関係を示す特性図で、細線は、回転センサ1を冶具3に固定してアニール処理を施した場合の特性を示し、太線は、フリーの状態でアニール処理を施した場合の特性を示す。この特性図からアニール処理時に回転センサ1を冶具3に固定した場合は、フリーの状態の場合に比べて出力精度の変動が約1/4程度に大幅に減少し、性能が安定することが分かった。従って、実機に取り付けたと同じ状態(環境)で予めアニール処理を施した回転センサ1は、実機に取り付けた使用期間内での性能が安定することが明かである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係わる回転センサのアニール処理方法を施す場合の回転センサと回転センサを固定する冶具の斜視図である。
【図2】図1に示した回転センサを冶具に固定した状態の斜視図である。
【図3】図2に示した回転センサを冶具に固定た状態でアニール処理を施した場合と冶具を使用しないでアニール処理を施した場合の回転センサの回転角度と出力精度の一例を示す特性図である。
【符号の説明】
【0023】
1 回転センサ
2 ケース
2a 挿通孔
2b 前部
2c 後部
2d 側面
2e 下面
2f 取付部
2g 取付穴
3 冶具
4 基板
4a 上面
4b ねじ穴
5 支持軸(シャフト)
6 ねじ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転するシャフトに取り付けられセンシング部を有するロータと、前記センシング部との間に磁気回路を形成する励磁コイルと該励磁コイルを保持するコア本体とを有し固定部材に取り付けられて前記センシング部に間隔を存して対向配置された固定コアと、前記ロータ及び固定コアを収容するケースとを備えた回転センサを、
実機に取り付けたときと同じ状態に保持する冶具に固定してアニール処理を施すことを特徴とする回転センサのアニール処理方法。
【請求項2】
回転するシャフトに取り付けられセンシング部を有するロータと、前記センシング部との間に磁気回路を形成する励磁コイルと励磁コイルを保持するコア本体とを有し、固定部材に取り付けられて前記センシング部に間隔を存して対向配置された固定コアと、前記ロータ及び固定コアを収容するケースとを備えた回転センサを、アニール処理するときに実機に取り付けたときと同じ状態に保持する冶具を備えたことを特徴とする回転センサのアニール処理冶具。
【請求項3】
前記冶具は、前記回転センサが載置される基板と、該基板の上面に垂設され前記ケースの前記ロータが取り付けられるシャフトが挿通する挿通孔に嵌挿される支持軸と、前記ケースを前記基板に固定する固定手段とを備えたことを特徴とする、請求項2に記載の回転センサのアニール処理冶具。
【請求項4】
前記固定手段は、前記ケースに形成され取付穴を有する取付部と、前記基板の上面に前記取付穴と対応して形成されたねじ穴と、前記取付部を前記ねじ穴に固定するねじとからなることを特徴とする、請求項3に記載の回転センサのアニール処理冶具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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