回転工具偏摩耗形状予測装置
【課題】回転工具の回転軸を通る回転軸方向断面における偏摩耗形状を予測できる回転工具偏摩耗形状予測装置を提供する。
【解決手段】砥石車10の表面を回転軸方向断面において設定単位幅dw間隔に分割し、加工プログラム31に基づいて加工中の各瞬間における各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)を算出する。各瞬間における各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)を所定時間について時間積分することで、所定時間における各表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)を算出する。各被加工体積VW’(w)を用いて所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を算出する。記憶されている砥石車10の表面形状から、各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を除去することにより、砥石車10の偏摩耗形状を算出する。
【解決手段】砥石車10の表面を回転軸方向断面において設定単位幅dw間隔に分割し、加工プログラム31に基づいて加工中の各瞬間における各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)を算出する。各瞬間における各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)を所定時間について時間積分することで、所定時間における各表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)を算出する。各被加工体積VW’(w)を用いて所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を算出する。記憶されている砥石車10の表面形状から、各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を除去することにより、砥石車10の偏摩耗形状を算出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石車やエンドミルなどの回転工具について、回転軸を通る回転軸方向断面における偏摩耗をする場合の回転工具の偏摩耗形状を予測する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、砥石車を駆動する砥石駆動モータのモータ電流に基づいて被加工物の単位時間当たりの研削除去量を算出し、その単位時間研削除去量を累積して被加工物の総研削除去量を算出し、総研削除去量に基づいて砥石車の摩耗量を算出し、砥石摩耗量に基づいて砥石車による被加工物の研削加工を続行させるべきかどうかを判定することが記載されている。
【0003】
特許文献2には、砥石車の周縁上の複数の回転位相点のそれぞれによる被加工物の除去量を算出し、各回転位相点における被加工物の除去量に基づいて各回転位相点の摩耗量を算出することで、砥石車の周縁部の摩耗量を算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−224954号公報
【特許文献2】特開2010−58205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、砥石車などの回転工具により被加工物を加工する場合には、被加工物の形状や砥石車の相対移動の方向によって、砥石車の周縁部において偏摩耗が発生することがある。特許文献2に記載の技術では、砥石車の周縁部の周方向の偏摩耗量を算出することができる。ただし、砥石車の回転軸方向において形状が変化するような砥石車や被加工物による加工においては、砥石車の回転軸を通る回転軸方向断面における形状の崩れ(偏摩耗)が問題となる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、砥石車などの回転工具において、回転軸を通る回転軸方向断面における偏摩耗による偏摩耗形状を予測することができる回転工具偏摩耗形状予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1)本発明の回転工具偏摩耗形状予測装置は、回転工具の回転軸を通る回転軸方向断面における偏摩耗形状を予測する回転工具偏摩耗形状予測装置において、前記回転工具の表面形状を記憶する工具形状記憶手段と、前記回転工具の表面を前記回転軸方向断面において設定単位幅間隔に分割し、加工プログラムに基づいて加工中の各瞬間における各表面位置wでの前記設定単位幅の加工能率を算出する加工能率算出手段と、各瞬間における各前記表面位置wでの前記設定単位幅の前記加工能率を所定時間について時間積分することにより、前記所定時間における各前記表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の被加工体積をそれぞれ算出する被加工体積算出手段と、前記被加工体積算出手段により算出された各前記被加工体積を用いて、前記所定時間における前記回転工具の各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具法線方向摩耗長をそれぞれ算出する工具摩耗長算出手段と、前記工具形状記憶手段に記憶されている前記回転工具の表面形状から、前記工具摩耗長算出手段により算出された各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具法線方向摩耗長を除去することにより、摩耗後の前記回転工具の表面形状を算出する工具摩耗形状算出手段とを備える。
【0008】
(請求項2)本発明において、前記回転工具偏摩耗形状予測装置は、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の前記被加工体積に、設定された係数C1を乗算することにより、前記所定時間における前記回転工具の各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具摩耗体積を算出する工具摩耗体積算出手段をさらに備え、前記工具摩耗長算出手段は、前記工具摩耗体積算出手段により算出された各前記工具摩耗体積を用いて、前記所定時間における前記回転工具の各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具法線方向摩耗長を算出するようにしてもよい。
【0009】
この場合、以下のようにしてもよい。すなわち、本発明において、前記工具摩耗体積算出手段は、前記回転工具の表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の前記被加工体積VW’(w)と前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅における前記工具摩耗体積VG’(w)との関係を関係式(1)として設定しておき、前記関係式(1)と前記被加工体積算出手段により算出された前記被加工体積VW’(w)とにより、前記所定時間における前記回転工具の各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具摩耗体積VG’(w)を算出し、前記工具摩耗長算出手段は、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅における前記工具摩耗体積VG’(w)と前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅における前記工具法線方向摩耗長a(w)との関係を関係式(2)として設定しておき、前記関係式(2)と前記工具摩耗体積算出手段により算出された前記工具摩耗体積VG’(w)とにより、前記所定時間における前記回転工具の前記表面位置wでの各前記設定単位幅の工具法線方向摩耗長a(w)を算出するようにしてもよい。
【0010】
【数1】
【0011】
(請求項3)本発明において、前記工具摩耗長算出手段は、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の前記被加工体積に、設定された係数C2を乗算することにより、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅における前記工具法線方向摩耗長を算出するようにしてもよい。
【0012】
この場合、以下のようにしてもよい。すなわち、本発明において、前記工具摩耗長算出手段は、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅における前記工具法線方向摩耗長a(w)は、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の前記被加工体積VW’(w)に、設定された係数C2を乗算した関係式(3)により設定し、前記関係式(3)と前記被加工体積算出手段により算出された前記被加工体積VW’(w)とにより、各前記表面位置wでの前記設定単位幅の前記工具法線方向摩耗長a(w)を算出するようにしてもよい。
【0013】
【数2】
【0014】
(請求項4)上述した係数C1を用いる本発明において、前記係数C1は、前記設定単位幅の前記加工能率に応じて変化するように設定されるようにしてもよい。
(請求項5)上述した係数C2を用いる本発明において、前記係数C2は、前記設定単位幅の前記加工能率に応じて変化するように設定されるようにしてもよい。
【0015】
(請求項6)本発明において、前記回転工具偏摩耗形状予測装置は、前記工具形状記憶手段に記憶されている前記回転工具の表面形状を、前記工具摩耗形状算出手段により算出された摩耗後の前記回転工具の表面形状に更新する工具形状更新手段をさらに備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
(請求項1)本発明によれば、加工中の各瞬間における各表面位置wでの設定単位幅の加工能率を用いることで、所定時間における各表面位置wでの設定単位幅による被加工物の被加工体積を算出することが可能となる。ここで、「加工能率」とは、単位時間当たりの加工体積を意味する。つまり、本発明は、回転工具の微小幅毎によって加工される単位時間当たり加工体積を算出している。そして、当該加工能率は、加工プログラムに含まれる工具移動軌跡、回転工具の相対送り速度、回転工具の表面形状、被加工物の加工前形状および加工後形状を入力情報とすることで、実際の加工を行うことなく演算によって求めることができる。
【0017】
また、被加工物の被加工体積が多いほど、回転工具の法線方向の摩耗長が長くなる所定の関係を有している。従って、各表面位置wでの設定単位幅による被加工物の被加工体積を算出することにより、回転工具の各表面位置wでの設定単位幅の法線方向の摩耗長を算出することができる。つまり、本発明によって、実際に加工を行うことなく、回転工具の回転軸を通る回転軸方向断面における偏摩耗形状を演算によって予測することができる。ここで、「工具法線方向摩耗長」とは、回転工具の表面を局所的な領域に分割した場合に、当該局所的な表面の法線方向に摩耗する長さを意味する。一般に、工具の摩耗は、工具の表面形状を局所的に見た場合に、工具の表面の法線方向に摩耗していく。例えば、円筒状外周面形状の砥石車の場合には、回転中心に向かう方向に摩耗していく。
【0018】
(請求項2)円盤形状で大径の回転工具と小径の回転工具のそれぞれにより、同一の被加工物を加工した場合を考えると、大径の回転工具の方が小径の回転工具に比べて工具法線方向摩耗長が少なくなる。これは、大径の回転工具における加工可能な面積(外周面積)が、小径の回転工具の加工可能な面積(外周面積)より大きいため、大径の回転工具の単位面積当たりの被加工体積が、小径の回転工具の単位面積当たりの被加工体積よりも小さくなるからである。さらに、回転工具の表面における回転軸方向断面形状が直線形状の場合と弧凸状の場合とでは、直線形状の方が弧凸状に比べて工具法線方向摩耗長が少なくなる。このように、設定単位幅による被加工物の被加工体積が同一であっても、回転工具の大きさおよび形状によって、回転工具の表面位置wでの設定単位幅における工具法線方向摩耗長が異なる。そこで、本発明によれば、被加工物の被加工体積を用いて回転工具の各表面位置wでの設定単位幅の工具摩耗体積を算出しておき、この工具摩耗体積を用いて工具法線方向摩耗長を算出している。つまり、工具摩耗体積を用いることにより、回転工具の大きさや形状を考慮した上で、それぞれの回転工具に応じた工具法線方向摩耗長を算出することができる。これにより、高精度に回転工具の偏摩耗形状を予測することができる。そして、関係式(1)(2)を用いた場合には、確実に工具法線方向摩耗長を得ることができる。
【0019】
(請求項3)本発明によれば、工具摩耗体積を算出することなく、被加工物の被加工体積と係数C2とを用いて直接的に工具法線方向摩耗長を算出している。この場合、上述したように、回転工具の大きさや形状が異なる場合に、それぞれの回転工具に応じて高精度に回転工具の偏摩耗形状を予測することはできない。しかしながら、回転工具の形状がある程度統一されている場合や、回転工具の形状が大きく変化するとしても大凡の摩耗形状の予測ができればよいという場合や、演算速度を重視する場合には、非常に簡易的な算出手法を用いる本発明は有効である。つまり、簡易的な算出方法を用いることで、摩耗形状の精度は若干落ちるが、高速演算処理が可能となる。ここで、関係式(3)を用いた場合には、確実に工具法線方向摩耗長を得ることができる。
【0020】
(請求項4)例えば、加工能率が低い場合と高い場合とで、被加工物の被加工体積と回転工具の工具摩耗体積との関係は、一定とならず変化する場合がある。例えば、加工能率が低い場合には係数C1は小さくなり、加工能率が高い場合には係数C1は大きくなる関係になることがある。これは、回転工具の材質等によって変化するものと考えられる。このような場合に、本発明を適用することで、より高精度に工具法線方向摩耗長を算出することができ、結果としてより高精度に回転工具の偏摩耗形状を予測することができる。
【0021】
(請求項5)例えば、加工能率が低い場合と高い場合とで、被加工物の被加工体積と回転工具の工具法線方向摩耗長との関係は、一定とならず変化する場合がある。例えば、加工能率が低い場合には係数C2は小さくなり、加工能率が高い場合には係数C2は大きくなる関係になることがある。これは、回転工具の材質等によって変化するものと考えられる。このような場合に、本発明を適用することで、より高精度に工具法線方向摩耗長を算出することができ、結果としてより高精度に回転工具の偏摩耗形状を予測することができる。
【0022】
(請求項6)本発明によれば、加工プログラムにより加工シミュレーションを行う場合に、回転工具の摩耗後形状を逐次フィードバックして、更新された摩耗後の回転工具により加工シミュレーションを行うこととなる。これにより、より高精度に回転工具の偏摩耗形状を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は砥石車と被加工物を示す斜視図であり、(b)は砥石車と被加工物を示す正面図であり、(c)は砥石車の摩耗形状を示す正面図である。
【図2】第一実施形態:回転工具偏摩耗形状予測装置の機能ブロック図である。
【図3】砥石車を示す図である。(a)は、砥石車を当該回転軸方向から見た図であり、(b)は、径方向から見た図である。
【図4】(a)は砥石車の斜視図であり、(b)は微小領域dAを示す図である。
【図5】砥石車と被加工物との関係を示し、送り速度ベクトルF、法線ベクトルNおよび接触弧長L1を示す図である。
【図6】(a)は、砥石車の回転軸を通る回転軸方向断面上の表面位置wと、回転軸方向断面上の表面位置wにおける被加工物との接触位置Lとの2次元座標において、砥石車と被加工物との接触範囲を示す図である。(b)は、砥石車の回転軸を通る回転軸方向断面上の表面位置wに対する加工能率Q'(w)を示す図である。
【図7】時刻t1,t2,t3のそれぞれにおける加工能率Q'(w,t)の分布図である。
【図8】所定時間における被加工物の被加工体積VW’(w)の分布図である。
【図9】(a)は、砥石車の外周表面が円弧凸状の場合の工具摩耗面積dSを示し、(b)は、砥石車の外周表面が直線状の場合の工具摩耗面積dSを示す。
【図10】所定時間における砥石車の工具法線方向摩耗長a(w)の分布図である。
【図11】砥石車の外周表面の摩耗形状を示す。
【図12】工具摩耗体積VG’(w)を用いて工具法線方向摩耗長a(w)を算出する考え方について説明する図である。
【図13】第二実施形態:回転工具偏摩耗形状予測装置の機能ブロック図である。
【図14】第三実施形態:加工能率Q'(w,t)に対する係数C1,C2の関係を示す。
【図15】その他の実施形態として、アンギュラ加工を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の回転工具偏摩耗形状予測装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。本発明において、回転工具には、例えば、円盤状の砥石車やボールエンドミルなどが含まれる。本実施形態においては、回転工具として円盤状の砥石車を例に挙げて説明する。
【0025】
<第一実施形態>
(砥石車により加工する場合の偏摩耗の発生について)
まず、円盤状の砥石車10により被加工物20を加工する場合に、砥石車10の表面が、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面上の外周表面上の位置wによって法線方向摩耗長が異なる状態となることについて図1(a)(b)(c)を参照して説明する。なお、以下において、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面上の外周表面上の位置wを表面位置wと称する。
【0026】
図1(a)(b)に示すように、被加工物20の表面に湾曲した溝21を砥石車10により加工する場合を例に挙げる。この砥石車10の外周面は、円弧凸状に形成されている。つまり、この外周面が、砥石車10の加工表面(以下、「外周表面」と称する)となる。砥石車10の円盤平面(回転軸に直交する方向)が溝21の延びる方向に一致するように、被加工物20に対して砥石車10を位置決めする。そして、図1(b)の矢印にて示すように、砥石車10を回転させながら、Z軸方向に向かって砥石車10を溝21の一方肩部21a側から溝底21bを通過して他方肩部21cへ移動させることにより、溝21を加工する。すなわち、砥石車10を、被加工物20に対して、(+Z)方向に移動させつつ、(±Y)方向に移動させる。ここで、砥石車10の回転速度は、砥石車10の送り速度に比べて十分に大きく設定されている。
【0027】
そうすると、図1(b)に示すように、溝21の一方肩部21aから溝底21bまでの間を加工する場合には、砥石車10の外周表面の円弧凸状の軸方向一方側(図1(b)の左側)の面11が主として被加工物20を加工する。溝21の溝底21bから他方肩部21cまでの間を加工する場合には、砥石車10の外周表面の円弧凸状の軸方向他方側(図1(b)の右側)の面12が主として被加工物20を加工する。
【0028】
その結果、砥石車10の外周表面は、図1(c)の実線にて示すような形状に摩耗する。図1(c)の破線は、砥石車10の外周表面の初期形状、すなわち摩耗前の形状である。このように、砥石車10の外周表面は、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面上の表面位置wによって法線方向摩耗長が異なる状態となる。本実施形態は、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面上の表面位置wによって偏摩耗した砥石車10の外周表面の偏摩耗形状を予測する装置である。
【0029】
(回転工具偏摩耗予測装置の機能的構成)
第一実施形態の回転工具偏摩耗形状予測装置について、図2〜図11を参照して説明する。図2の機能ブロック図に示すように、回転工具偏摩耗形状予測装置100は、工具形状記憶部110と、係数記憶部120と、表示部130と、データ取得手段210と、加工能率算出手段220と、被加工体積算出手段230と、工具摩耗体積算出手段240と、工具摩耗長算出手段250と、工具摩耗形状算出手段260と、工具形状更新手段270と、出力手段280とを備えて構成される。ここで、各手段は、ソフトウエアをハードウエアにより実現する際に、機能的に処理する部分である。つまり、これら各手段は、マイクロプロセッサによりプログラムを実行することにより機能する。以下、各機能的構成について詳細に説明する。
【0030】
工具形状記憶部110は、砥石車10の外周表面形状を記憶している。この工具形状記憶部110に記憶されている砥石車10の外周表面の初期形状は、図1(c)の破線にて示す形状である。そして、後述する工具形状更新手段270により砥石車10の外周表面形状は、摩耗後の形状に更新される。つまり、工具形状更新手段270の処理により、摩耗後の砥石車10の外周表面形状が記憶される。
【0031】
係数記憶部120は、後述する工具摩耗体積算出手段240にて用いる係数C1が記憶されている。この係数C1は、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)と、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具摩耗体積VG’(w)との関係を示す値である。本実施形態においては、係数C1は一定値とする。ただし、後の実施形態にて説明するが、この係数C1は、一定値でなくてもよく、他のパラメータによる関数として定義するなどして変化するようにしてもよい。
【0032】
表示部130は、砥石車10の外周表面形状を表示するモニタである。この表示部130は、後述する出力手段280により画面表示の処理がされた場合に、現時点の砥石車10の外周表面形状を表示する。
【0033】
データ取得手段210は、加工プログラム31、素材形状32、および、製品形状33を取得する。加工プログラム31には、被加工物20に対する回転工具の移動経路、および、その移動速度などの加工条件が含まれている。素材形状32および製品形状33は、CADデータである。
【0034】
加工能率算出手段220は、砥石車10の外周表面を回転軸方向断面において設定単位幅(微小幅)dw間隔に分割する。つまり、砥石車10の外周表面の回転軸方向断面において、設定単位幅dw毎に表面位置wを設定する。そして、加工能率算出手段220は、加工プログラム31、素材形状32および製品形状33を用いて、加工中の各瞬間における各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)を算出する。加工能率Q'(w,t)とは、単位時間当たりであって、各表面位置wでの設定単位幅dw当たりの加工体積を意味する。
【0035】
ここで、表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)の算出方法について説明する。しかし、表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)を算出するためには、まずは、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)について説明する必要がある。表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)は、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)を簡易的に示すことにより表したものである。
【0036】
そこで、まずは、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)について、図3(a)(b)および図4(a)(b)を参照して説明する。砥石車10の外周表面を複数の微小領域dAに分割する。ここで、図4(a)(b)に示すように、砥石車10の外周表面の各部位の位置座標は、回転軸を通る回転軸方向断面における砥石車10の表面位置wと回転位相θとにより表される。つまり、回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置wの基準点w0および回転位相θの基準点θ0は、図3(a)(b)に示すとおりである。そして、砥石車10の外周表面のある微小領域dAは、図4(a)(b)に示すとおりである。つまり、各微小領域dAは、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置wの微小幅dwと、砥石車10の回転位相θの微小位相dθと、表面位置wにおける砥石車10の半径r(w)により表すことができる。
【0037】
ここで、時刻tにおける全体の加工能率(以下、「全体加工能率」と称する)Q(t)は、式(4)により表される。式(4)において、Q"(w,θ,t)は、各微小領域における加工能率である。つまり、式(4)によれば、ある時刻tにおける全ての微小領域dAの加工能率Q"(w,θ,t)を、回転位相θおよび砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置wについて積分することにより、ある時刻tにおける全体加工能率Q(t)を得ることができる。
【0038】
【数3】
【0039】
また、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)は、微小領域dAの面積(以下、微小面積もdAと表す)と、時刻tのときに当該微小領域dAにおける砥石車10の被加工物20に対する相対的な送り速度ベクトルF(w,θ,t)と、各微小領域dAにおける法線ベクトルN(w,θ)とにより、式(5)のように表される。つまり、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)は、微小面積dAに、送り速度ベクトルFにおける当該微小領域dAの法線方向成分をかけたものといえる。
【0040】
【数4】
【0041】
このように、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)は、回転位相θと回転軸方向断面における表面位置wをパラメータとしている。これでは、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)を算出するのに、演算処理が非常に複雑となる。そこで、より簡易的に、表面位置wでの設定単位幅dwにおける加工能率Q’(w,t)を算出できる手法を以下に説明する。
【0042】
簡易演算を行うために条件を要するため、まずその条件について図5を参照して説明する。砥石車10により被加工物20を加工する加工領域において、砥石車10の回転位相θ方向の範囲は、非常に小さいものとする。実際に高精度に加工しようとすると、砥石車10のうち接触する回転位相θは、非常に小さくなる。そうすると、図5に示すように、加工中の各瞬間における砥石車10による表面位置wにおける微小領域は、平面P状とみなすことができる。そうすると、送り速度ベクトルF(w,θ,t)と、各微小領域dAにおける法線ベクトルN(w,θ)は、式(6)のように、回転位相θをパラメータとしない関係式に簡略化できる。
【0043】
【数5】
【0044】
さらに、砥石車10の被加工物20に対する相対的な移動方向に、回転運動がほとんど含まれておらず、直進方向の運動とみなすことができる場合には、送り速度ベクトルF(w,θ,t)は、式(7)のように、回転位相θのみならず回転軸方向断面における表面位置wをパラメータとしない関係式に簡略化できる。
【0045】
【数6】
【0046】
上記条件を満たす場合には、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)を、式(8)のように、表面位置wでの設定単位幅dwにおける加工能率Q'(w,t)と表すことができる。
【0047】
【数7】
【0048】
ここで、砥石車10において、回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置wにおける被加工物20との接触弧長L1は、図5に示すように、ある砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置wを通る径方向断面形状において、被加工物20と接触する周方向長さである。例えば、ある時刻tにおいて、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置wと、砥石車10の回転位相θとの2次元座標において、砥石車10と被加工物20との接触範囲を、図6(a)に示すような囲まれた範囲であるとする。この場合、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置w1における接触弧長L1は、図6(a)に示す長さとなる。つまり、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置wに応じて、砥石車10における接触位置Lが異なる。そうすると、図6(a)に示すような接触範囲の場合に、各瞬間における各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)は、図6(b)のように表される。そして、各瞬間における各表面位置wでの設定単位幅dwの接触弧長L1は、加工プログラム31、素材形状32および砥石車10の外周表面形状により算出することができる。従って、各瞬間において、各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)は、加工プログラム31、素材形状32および砥石車10の外周表面形状により算出することができる。
【0049】
そして、所定時間のうち時刻t1,t2,t3のそれぞれにおける、各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)は、図7(a)(b)(c)に示すような挙動となる。例えば、時刻t1は、図1(a)(b)において、溝21の一方肩部21aと溝底21bとの中間付近を加工している時刻を表す。時刻t2は、図1(a)(b)において、溝21の溝底21b付近を加工している時刻を表す。時刻t3は、図1(a)(b)において、溝21の溝底21bと他方肩部21cとの中間付近を加工している時刻を表す。
【0050】
図2の機能ブロック図に戻り、各機能ブロックの説明を続ける。被加工体積算出手段230は、各瞬間tにおける各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)を所定時間について時間積分することにより、所定時間における各表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)をそれぞれ算出する。つまり、所定時間における各表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)は、式(9)のように表される。ここで、所定時間とは、例えば、工作機械のNC装置(図示せず)の制御周期毎、加工プログラム31としてのNCプログラムのブロック毎、被加工物20の加工開始から加工終了までの1サイクル、複数の被加工物20の組を示すロット毎など、自由に選択することができる。例えば、所定時間における表面位置wでの各設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)は、図8に示すような挙動となる。
【0051】
【数8】
【0052】
工具摩耗体積算出手段240は、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)に、設定された係数C1を乗算することにより、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具摩耗体積VG’(w)を算出する。具体的には、工具摩耗体積算出手段240は、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)と砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具摩耗体積VG’(w)との関係を関係式(10)として設定しておく。そして、関係式(10)と被加工体積算出手段230により算出された被加工体積VW’(w)とにより、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具摩耗体積VG’(w)を算出する。本実施形態においては、係数C1は一定値とする。
【0053】
【数9】
【0054】
工具摩耗長算出手段250は、工具摩耗体積算出手段240により算出された各工具摩耗体積VG’(w)を用いて、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を算出する。以下に、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を算出方法について説明する。
【0055】
図9(a)に示すように、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける回転軸方向断面形状が、曲率半径Rの円弧凸形状であると考える。この場合、砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwにおける回転軸方向断面上の工具摩耗面積dSは、式(11)により表される。なお、図9(b)に示すように、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける回転軸方向断面形状が、直線形状である場合には、式(11)における曲率半径Rを無限大∞とすればよく、式(12)により表される。
【0056】
【数10】
【0057】
そして、砥石車10の表面位置wにおける砥石車10の回転中心から当該表面位置wまでの距離R0(w)が、工具摩耗長aが十分に小さい場合、すなわち工具摩耗面積dS内において距離R0(w)の変化が十分に小さいと仮定すると、砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具摩耗体積dVGは、式(13)により表される。式(13)を表面位置wでの設定単位幅dwについて表すと、式(14)のようになる。
【0058】
【数11】
【0059】
式(14)を工具摩耗長a(w)について表す式に変形し、かつ、式(10)を代入すると、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a(w)は、式(15)のように表される。
【0060】
【数12】
【0061】
このように、工具摩耗長算出手段250は、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具摩耗体積VG’(w)と砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a(w)との関係を関係式(15)として設定しておく。そして、関係式(15)と工具摩耗体積算出手段240により算出された工具摩耗体積VG’(w)とにより、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を算出する。例えば、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)は、図10に示すような挙動となる。
【0062】
工具摩耗形状算出手段260は、工具形状記憶部110に記憶されている砥石車10の外周表面形状から、工具摩耗長算出手段250により算出された各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を除去することにより、摩耗後の砥石車10の外周表面形状(偏摩耗形状)を算出する。一般に、砥石車10の摩耗は、砥石車10の外周表面形状を局所的に見た場合に、砥石車10の外周表面の法線方向に摩耗していく。
【0063】
そこで、図11に示すように、例えば、表面位置w1での設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長がa(w1)とした場合には、表面位置w1における法線方向にa(w1)だけ除去させた形状が摩耗後の砥石車10の形状となる。同様に、表面位置w2での設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長がa(w2)とした場合にも図11に示すとおりである。また、他の位置について同様に除去処理を行うことで、砥石車10の外周表面全体に亘って、摩耗後の形状を算出することができる。摩耗前の砥石車10の形状が図11の破線にて示す形状である場合に、摩耗後の砥石車10の形状は、図11の実線にて示す形状となる。
【0064】
工具形状更新手段270は、工具形状記憶部110に記憶されている砥石車10の外周表面形状を、工具摩耗形状算出手段260により算出された摩耗後の砥石車10の外周表面形状に更新する。つまり、加工プログラム31により加工シミュレーションを行う場合に、砥石車10の摩耗後形状を逐次フィードバックして、更新された摩耗後の砥石車10により加工シミュレーションを行うこととなる。
【0065】
出力手段280は、工具摩耗形状算出手段260により算出された摩耗後の砥石車10の外周表面形状を表示部130に表示する処理を行う。また、図示しないが、出力手段280は、操作者からの指示に従い、外部へ摩耗後の砥石車10の外周表面形状のデータ出力を行うこともできる。
【0066】
(効果)
以上より、本実施形態によれば、加工中の各瞬間における各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)を用いることで、所定時間における各表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)を算出することが可能となる。そして、当該加工能率Q'(w,t)は、加工プログラム31に含まれる工具移動軌跡、砥石車10の相対送り速度、砥石車10の外周表面形状、被加工物20の素材形状(加工前形状)および製品形状(加工後形状)を入力情報とすることで、実際の加工を行うことなく演算によって求めることができる。
【0067】
また、被加工物20の被加工体積VW’(w)が多いほど、砥石車10の法線方向の摩耗長a(w)が長くなる所定の関係を有している。従って、各表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)を算出することにより、砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの法線方向の摩耗長a(w)を算出することができる。つまり、実際に加工を行うことなく、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における偏摩耗形状を演算によって予測することができる。
【0068】
さらに、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)を用いて、砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具摩耗体積VG’(w)を算出し、この工具摩耗体積VG’(w)を用いて、工具法線方向摩耗長a(w)を算出している。このようにすることで、より高精度な工具法線方向摩耗長a(w)を算出することができる。この理由について、図12を参照しながら説明する。
【0069】
図12(a)(b)は、何れも、砥石車10の外周表面形状の回転軸方向断面が直線状である場合を示し、図12(a)は砥石車10の回転中心から外周表面までの距離がR1であるのに対して、図12(b)は当該距離がR2であるとする。ここで、R1は、R2よりも小さいものとする。つまり、図12(a)に示す砥石車10は小径であり、図12(b)に示す砥石車10は大径である。
【0070】
ここで、工具摩耗体積算出手段240により算出された各工具摩耗体積VG’(w)が同一であるとする。そうすると、図12(a)に示す小径の砥石車10における工具摩耗体積VG’(w)と、図12(b)に示す大径の砥石車10における工具摩耗体積VG’(w)と同一である。しかし、図12(a)に示す小径の砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における摩耗面積dSは、図12(b)に示す大径の砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における摩耗面積dSよりも大きくなる。この理由は、大径であるほど、砥石車10の外周表面の面積が大きいからである。従って、図12(a)に示す小径の砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a1(w)は、図12(b)に示す大径の砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a2(w)より大きくなる。このように、工具摩耗体積VG’(w)を用いることで、砥石車10の外径に関わりなく、より高精度に砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a(w)を算出することができる。
【0071】
さらに、図12(a)(c)を比較して説明する。図12(c)の砥石車10の外周表面形状の回転軸方向断面は、直線状ではなく、円弧凸状である場合を示している。また、図12(a)(c)の砥石車10の外径は、R1で同一である。ここで、上述したように、砥石車10の摩耗は、法線方向に進行するものと考えられる。従って、図12(c)に示すように、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における摩耗形状は、扇形状をなしている。そのため、図12(c)に示す円弧凸状の砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a3(w)は、図12(a)に示す直線状の砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a1(w)より大きくなる。このように、工具摩耗体積VG’(w)を用いることで、砥石車10の外周表面形状に関わりなく、より高精度に砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a(w)を算出することができる。
【0072】
また、工具形状更新手段270により、摩耗後の砥石車10の外周表面形状をフィードバックして、更新された摩耗後の回転工具により加工シミュレーションを行うことにより、より高精度に回転工具の偏摩耗形状を予測することができる。
【0073】
<第二実施形態>
第二実施形態の回転工具偏摩耗形状予測装置について、図13を参照して説明する。本実施形態において、上述した第一実施形態と同一構成については、同一符号を付して説明を省略する。第二実施形態の回転工具偏摩耗形状予測装置300は、第一実施形態の回転工具偏摩耗形状予測装置100に対して、主として、工具摩耗体積算出手段240を削除し、係数記憶部320および工具摩耗長算出手段350が相違する。
【0074】
係数記憶部320は、工具摩耗長算出手段350にて用いる係数C2が記憶されている。この係数C2は、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)と、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a(w)との関係を示す値である。本実施形態においては、係数C2は一定値とする。ただし、後の実施形態にて説明するが、この係数C2は、一定値でなくてもよく、他のパラメータによる関数として定義するなどして変化するようにしてもよい。
【0075】
工具摩耗長算出手段350は、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)に、設定された係数C2を乗算することにより、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を算出する。具体的には、工具摩耗長算出手段350は、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)と砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)との関係を関係式(16)として設定しておく。そして、関係式(16)と被加工体積算出手段230により算出された被加工体積VW’(w)とにより、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を算出する。
【0076】
【数13】
【0077】
このように、本実施形態によれば、工具摩耗体積VG’(w)を算出することなく、被加工物20の被加工体積VW’(w)と係数C2とを用いて直接的に工具法線方向摩耗長a(w)を算出している。この場合、第一実施形態の図12を参照して説明したように、砥石車10の大きさや形状が異なる場合に、それぞれの砥石車10に応じて高精度に砥石車10の偏摩耗形状を予測することはできない。しかしながら、砥石車10の形状がある程度統一されている場合や、砥石車10の形状が大きく変化するとしても大凡の摩耗形状の予測ができればよいという場合や、演算速度を重視する場合には、非常に簡易的な算出手法を用いる本実施形態は有効である。つまり、簡易的な算出方法を用いることで、砥石車10の摩耗形状の精度は若干落ちるが、高速演算処理が可能となる。
【0078】
<第三実施形態>
第一実施形態における係数C1および第二実施形態における係数C2は一定値とした。これら係数C1,C2は、一定値ではなく、変化するようにしてもよい。具体的には、第一実施形態において、係数記憶部120には、図14(a)に示すような係数関係マップを記憶させる。この係数関係マップは、図14(a)に示すように、表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)に対する係数C1を示すマップである。ここで、加工能率が低い場合と高い場合とで、被加工物20の被加工体積VW’(w)と砥石車10の工具摩耗体積VG’(w)との関係は、一定とならず変化する場合がある。例えば、加工能率Q'(w,t)が低い場合には係数C1は小さくなり、加工能率Q'(w,t)が高い場合には係数C1は大きくなる関係になることがある。これは、砥石車10の材質等によって変化するものと考えられる。
【0079】
そこで、図14(a)に示すように、加工能率Q'(w,t)が低い場合には係数C1は小さくなり、加工能率Q'(w,t)が高い場合には係数C1は大きくなるような係数関係マップを、係数記憶部120が記憶しておく。そして、工具摩耗体積算出手段240にて、この係数関係マップを用いて、表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)に応じた係数C1を決定する。工具摩耗体積算出手段240は、決定された係数C1を用いて、第一実施形態にて説明したように、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)に決定された係数C1を乗算することにより、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具摩耗体積VG’(w)を算出する。その他の処理は、第一実施形態に説明した通りであるの省略する。このようにすることで、より高精度に工具法線方向摩耗長a(w)を算出することができ、結果としてより高精度に砥石車10の偏摩耗形状を予測することができる。
【0080】
また、第二実施形態において、係数記憶部320には、図14(b)に示すような係数関係マップを記憶させる。この係数関係マップは、図14(b)に示すように、表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)に対する係数C2を示すマップである。このような挙動とする理由は、図14(a)の説明と同様である。
【0081】
そこで、図14(b)に示すように、加工能率Q'(w,t)が低い場合には係数C2は小さくなり、加工能率Q'(w,t)が高い場合には係数C2は大きくなるような係数関係マップを、係数記憶部320が記憶しておく。そして、工具摩耗長算出手段350にて、この係数関係マップを用いて、表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)に応じた係数C2を決定する。工具摩耗長算出手段350は、決定された係数C2を用いて、第二実施形態にて説明したように、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)に決定された係数C2を乗算することにより、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を算出する。その他の処理は、第二実施形態に説明した通りであるの省略する。このようにすることで、より高精度に工具法線方向摩耗長a(w)を算出することができ、結果としてより高精度に砥石車10の偏摩耗形状を予測することができる。
【0082】
<その他>
上記実施形態においては、砥石車10の外周表面形状が円弧凸状の場合について説明したが、円弧凸状に限られるものではない。例えば、図15に示すような砥石車10の外周表面形状が任意形状のアンギュラ加工にも同様に適用できる。また、本発明の回転工具としては、円盤状の砥石車10の他に、ボールエンドミルも同様に適用できる。
【符号の説明】
【0083】
10:砥石車、 20:被加工物、 21:溝
100,300:回転工具偏摩耗形状予測装置
110:工具形状記憶部、 120,320:係数記憶部、 130:表示部
210:データ取得手段、 220:加工能率算出手段、 230:被加工体積算出手段
240:工具摩耗体積算出手段、 250,350:工具摩耗長算出手段
260:工具摩耗形状算出手段、 270:工具形状更新手段
280:出力手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、砥石車やエンドミルなどの回転工具について、回転軸を通る回転軸方向断面における偏摩耗をする場合の回転工具の偏摩耗形状を予測する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、砥石車を駆動する砥石駆動モータのモータ電流に基づいて被加工物の単位時間当たりの研削除去量を算出し、その単位時間研削除去量を累積して被加工物の総研削除去量を算出し、総研削除去量に基づいて砥石車の摩耗量を算出し、砥石摩耗量に基づいて砥石車による被加工物の研削加工を続行させるべきかどうかを判定することが記載されている。
【0003】
特許文献2には、砥石車の周縁上の複数の回転位相点のそれぞれによる被加工物の除去量を算出し、各回転位相点における被加工物の除去量に基づいて各回転位相点の摩耗量を算出することで、砥石車の周縁部の摩耗量を算出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−224954号公報
【特許文献2】特開2010−58205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、砥石車などの回転工具により被加工物を加工する場合には、被加工物の形状や砥石車の相対移動の方向によって、砥石車の周縁部において偏摩耗が発生することがある。特許文献2に記載の技術では、砥石車の周縁部の周方向の偏摩耗量を算出することができる。ただし、砥石車の回転軸方向において形状が変化するような砥石車や被加工物による加工においては、砥石車の回転軸を通る回転軸方向断面における形状の崩れ(偏摩耗)が問題となる。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、砥石車などの回転工具において、回転軸を通る回転軸方向断面における偏摩耗による偏摩耗形状を予測することができる回転工具偏摩耗形状予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1)本発明の回転工具偏摩耗形状予測装置は、回転工具の回転軸を通る回転軸方向断面における偏摩耗形状を予測する回転工具偏摩耗形状予測装置において、前記回転工具の表面形状を記憶する工具形状記憶手段と、前記回転工具の表面を前記回転軸方向断面において設定単位幅間隔に分割し、加工プログラムに基づいて加工中の各瞬間における各表面位置wでの前記設定単位幅の加工能率を算出する加工能率算出手段と、各瞬間における各前記表面位置wでの前記設定単位幅の前記加工能率を所定時間について時間積分することにより、前記所定時間における各前記表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の被加工体積をそれぞれ算出する被加工体積算出手段と、前記被加工体積算出手段により算出された各前記被加工体積を用いて、前記所定時間における前記回転工具の各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具法線方向摩耗長をそれぞれ算出する工具摩耗長算出手段と、前記工具形状記憶手段に記憶されている前記回転工具の表面形状から、前記工具摩耗長算出手段により算出された各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具法線方向摩耗長を除去することにより、摩耗後の前記回転工具の表面形状を算出する工具摩耗形状算出手段とを備える。
【0008】
(請求項2)本発明において、前記回転工具偏摩耗形状予測装置は、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の前記被加工体積に、設定された係数C1を乗算することにより、前記所定時間における前記回転工具の各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具摩耗体積を算出する工具摩耗体積算出手段をさらに備え、前記工具摩耗長算出手段は、前記工具摩耗体積算出手段により算出された各前記工具摩耗体積を用いて、前記所定時間における前記回転工具の各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具法線方向摩耗長を算出するようにしてもよい。
【0009】
この場合、以下のようにしてもよい。すなわち、本発明において、前記工具摩耗体積算出手段は、前記回転工具の表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の前記被加工体積VW’(w)と前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅における前記工具摩耗体積VG’(w)との関係を関係式(1)として設定しておき、前記関係式(1)と前記被加工体積算出手段により算出された前記被加工体積VW’(w)とにより、前記所定時間における前記回転工具の各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具摩耗体積VG’(w)を算出し、前記工具摩耗長算出手段は、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅における前記工具摩耗体積VG’(w)と前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅における前記工具法線方向摩耗長a(w)との関係を関係式(2)として設定しておき、前記関係式(2)と前記工具摩耗体積算出手段により算出された前記工具摩耗体積VG’(w)とにより、前記所定時間における前記回転工具の前記表面位置wでの各前記設定単位幅の工具法線方向摩耗長a(w)を算出するようにしてもよい。
【0010】
【数1】
【0011】
(請求項3)本発明において、前記工具摩耗長算出手段は、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の前記被加工体積に、設定された係数C2を乗算することにより、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅における前記工具法線方向摩耗長を算出するようにしてもよい。
【0012】
この場合、以下のようにしてもよい。すなわち、本発明において、前記工具摩耗長算出手段は、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅における前記工具法線方向摩耗長a(w)は、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の前記被加工体積VW’(w)に、設定された係数C2を乗算した関係式(3)により設定し、前記関係式(3)と前記被加工体積算出手段により算出された前記被加工体積VW’(w)とにより、各前記表面位置wでの前記設定単位幅の前記工具法線方向摩耗長a(w)を算出するようにしてもよい。
【0013】
【数2】
【0014】
(請求項4)上述した係数C1を用いる本発明において、前記係数C1は、前記設定単位幅の前記加工能率に応じて変化するように設定されるようにしてもよい。
(請求項5)上述した係数C2を用いる本発明において、前記係数C2は、前記設定単位幅の前記加工能率に応じて変化するように設定されるようにしてもよい。
【0015】
(請求項6)本発明において、前記回転工具偏摩耗形状予測装置は、前記工具形状記憶手段に記憶されている前記回転工具の表面形状を、前記工具摩耗形状算出手段により算出された摩耗後の前記回転工具の表面形状に更新する工具形状更新手段をさらに備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
(請求項1)本発明によれば、加工中の各瞬間における各表面位置wでの設定単位幅の加工能率を用いることで、所定時間における各表面位置wでの設定単位幅による被加工物の被加工体積を算出することが可能となる。ここで、「加工能率」とは、単位時間当たりの加工体積を意味する。つまり、本発明は、回転工具の微小幅毎によって加工される単位時間当たり加工体積を算出している。そして、当該加工能率は、加工プログラムに含まれる工具移動軌跡、回転工具の相対送り速度、回転工具の表面形状、被加工物の加工前形状および加工後形状を入力情報とすることで、実際の加工を行うことなく演算によって求めることができる。
【0017】
また、被加工物の被加工体積が多いほど、回転工具の法線方向の摩耗長が長くなる所定の関係を有している。従って、各表面位置wでの設定単位幅による被加工物の被加工体積を算出することにより、回転工具の各表面位置wでの設定単位幅の法線方向の摩耗長を算出することができる。つまり、本発明によって、実際に加工を行うことなく、回転工具の回転軸を通る回転軸方向断面における偏摩耗形状を演算によって予測することができる。ここで、「工具法線方向摩耗長」とは、回転工具の表面を局所的な領域に分割した場合に、当該局所的な表面の法線方向に摩耗する長さを意味する。一般に、工具の摩耗は、工具の表面形状を局所的に見た場合に、工具の表面の法線方向に摩耗していく。例えば、円筒状外周面形状の砥石車の場合には、回転中心に向かう方向に摩耗していく。
【0018】
(請求項2)円盤形状で大径の回転工具と小径の回転工具のそれぞれにより、同一の被加工物を加工した場合を考えると、大径の回転工具の方が小径の回転工具に比べて工具法線方向摩耗長が少なくなる。これは、大径の回転工具における加工可能な面積(外周面積)が、小径の回転工具の加工可能な面積(外周面積)より大きいため、大径の回転工具の単位面積当たりの被加工体積が、小径の回転工具の単位面積当たりの被加工体積よりも小さくなるからである。さらに、回転工具の表面における回転軸方向断面形状が直線形状の場合と弧凸状の場合とでは、直線形状の方が弧凸状に比べて工具法線方向摩耗長が少なくなる。このように、設定単位幅による被加工物の被加工体積が同一であっても、回転工具の大きさおよび形状によって、回転工具の表面位置wでの設定単位幅における工具法線方向摩耗長が異なる。そこで、本発明によれば、被加工物の被加工体積を用いて回転工具の各表面位置wでの設定単位幅の工具摩耗体積を算出しておき、この工具摩耗体積を用いて工具法線方向摩耗長を算出している。つまり、工具摩耗体積を用いることにより、回転工具の大きさや形状を考慮した上で、それぞれの回転工具に応じた工具法線方向摩耗長を算出することができる。これにより、高精度に回転工具の偏摩耗形状を予測することができる。そして、関係式(1)(2)を用いた場合には、確実に工具法線方向摩耗長を得ることができる。
【0019】
(請求項3)本発明によれば、工具摩耗体積を算出することなく、被加工物の被加工体積と係数C2とを用いて直接的に工具法線方向摩耗長を算出している。この場合、上述したように、回転工具の大きさや形状が異なる場合に、それぞれの回転工具に応じて高精度に回転工具の偏摩耗形状を予測することはできない。しかしながら、回転工具の形状がある程度統一されている場合や、回転工具の形状が大きく変化するとしても大凡の摩耗形状の予測ができればよいという場合や、演算速度を重視する場合には、非常に簡易的な算出手法を用いる本発明は有効である。つまり、簡易的な算出方法を用いることで、摩耗形状の精度は若干落ちるが、高速演算処理が可能となる。ここで、関係式(3)を用いた場合には、確実に工具法線方向摩耗長を得ることができる。
【0020】
(請求項4)例えば、加工能率が低い場合と高い場合とで、被加工物の被加工体積と回転工具の工具摩耗体積との関係は、一定とならず変化する場合がある。例えば、加工能率が低い場合には係数C1は小さくなり、加工能率が高い場合には係数C1は大きくなる関係になることがある。これは、回転工具の材質等によって変化するものと考えられる。このような場合に、本発明を適用することで、より高精度に工具法線方向摩耗長を算出することができ、結果としてより高精度に回転工具の偏摩耗形状を予測することができる。
【0021】
(請求項5)例えば、加工能率が低い場合と高い場合とで、被加工物の被加工体積と回転工具の工具法線方向摩耗長との関係は、一定とならず変化する場合がある。例えば、加工能率が低い場合には係数C2は小さくなり、加工能率が高い場合には係数C2は大きくなる関係になることがある。これは、回転工具の材質等によって変化するものと考えられる。このような場合に、本発明を適用することで、より高精度に工具法線方向摩耗長を算出することができ、結果としてより高精度に回転工具の偏摩耗形状を予測することができる。
【0022】
(請求項6)本発明によれば、加工プログラムにより加工シミュレーションを行う場合に、回転工具の摩耗後形状を逐次フィードバックして、更新された摩耗後の回転工具により加工シミュレーションを行うこととなる。これにより、より高精度に回転工具の偏摩耗形状を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は砥石車と被加工物を示す斜視図であり、(b)は砥石車と被加工物を示す正面図であり、(c)は砥石車の摩耗形状を示す正面図である。
【図2】第一実施形態:回転工具偏摩耗形状予測装置の機能ブロック図である。
【図3】砥石車を示す図である。(a)は、砥石車を当該回転軸方向から見た図であり、(b)は、径方向から見た図である。
【図4】(a)は砥石車の斜視図であり、(b)は微小領域dAを示す図である。
【図5】砥石車と被加工物との関係を示し、送り速度ベクトルF、法線ベクトルNおよび接触弧長L1を示す図である。
【図6】(a)は、砥石車の回転軸を通る回転軸方向断面上の表面位置wと、回転軸方向断面上の表面位置wにおける被加工物との接触位置Lとの2次元座標において、砥石車と被加工物との接触範囲を示す図である。(b)は、砥石車の回転軸を通る回転軸方向断面上の表面位置wに対する加工能率Q'(w)を示す図である。
【図7】時刻t1,t2,t3のそれぞれにおける加工能率Q'(w,t)の分布図である。
【図8】所定時間における被加工物の被加工体積VW’(w)の分布図である。
【図9】(a)は、砥石車の外周表面が円弧凸状の場合の工具摩耗面積dSを示し、(b)は、砥石車の外周表面が直線状の場合の工具摩耗面積dSを示す。
【図10】所定時間における砥石車の工具法線方向摩耗長a(w)の分布図である。
【図11】砥石車の外周表面の摩耗形状を示す。
【図12】工具摩耗体積VG’(w)を用いて工具法線方向摩耗長a(w)を算出する考え方について説明する図である。
【図13】第二実施形態:回転工具偏摩耗形状予測装置の機能ブロック図である。
【図14】第三実施形態:加工能率Q'(w,t)に対する係数C1,C2の関係を示す。
【図15】その他の実施形態として、アンギュラ加工を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の回転工具偏摩耗形状予測装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。本発明において、回転工具には、例えば、円盤状の砥石車やボールエンドミルなどが含まれる。本実施形態においては、回転工具として円盤状の砥石車を例に挙げて説明する。
【0025】
<第一実施形態>
(砥石車により加工する場合の偏摩耗の発生について)
まず、円盤状の砥石車10により被加工物20を加工する場合に、砥石車10の表面が、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面上の外周表面上の位置wによって法線方向摩耗長が異なる状態となることについて図1(a)(b)(c)を参照して説明する。なお、以下において、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面上の外周表面上の位置wを表面位置wと称する。
【0026】
図1(a)(b)に示すように、被加工物20の表面に湾曲した溝21を砥石車10により加工する場合を例に挙げる。この砥石車10の外周面は、円弧凸状に形成されている。つまり、この外周面が、砥石車10の加工表面(以下、「外周表面」と称する)となる。砥石車10の円盤平面(回転軸に直交する方向)が溝21の延びる方向に一致するように、被加工物20に対して砥石車10を位置決めする。そして、図1(b)の矢印にて示すように、砥石車10を回転させながら、Z軸方向に向かって砥石車10を溝21の一方肩部21a側から溝底21bを通過して他方肩部21cへ移動させることにより、溝21を加工する。すなわち、砥石車10を、被加工物20に対して、(+Z)方向に移動させつつ、(±Y)方向に移動させる。ここで、砥石車10の回転速度は、砥石車10の送り速度に比べて十分に大きく設定されている。
【0027】
そうすると、図1(b)に示すように、溝21の一方肩部21aから溝底21bまでの間を加工する場合には、砥石車10の外周表面の円弧凸状の軸方向一方側(図1(b)の左側)の面11が主として被加工物20を加工する。溝21の溝底21bから他方肩部21cまでの間を加工する場合には、砥石車10の外周表面の円弧凸状の軸方向他方側(図1(b)の右側)の面12が主として被加工物20を加工する。
【0028】
その結果、砥石車10の外周表面は、図1(c)の実線にて示すような形状に摩耗する。図1(c)の破線は、砥石車10の外周表面の初期形状、すなわち摩耗前の形状である。このように、砥石車10の外周表面は、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面上の表面位置wによって法線方向摩耗長が異なる状態となる。本実施形態は、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面上の表面位置wによって偏摩耗した砥石車10の外周表面の偏摩耗形状を予測する装置である。
【0029】
(回転工具偏摩耗予測装置の機能的構成)
第一実施形態の回転工具偏摩耗形状予測装置について、図2〜図11を参照して説明する。図2の機能ブロック図に示すように、回転工具偏摩耗形状予測装置100は、工具形状記憶部110と、係数記憶部120と、表示部130と、データ取得手段210と、加工能率算出手段220と、被加工体積算出手段230と、工具摩耗体積算出手段240と、工具摩耗長算出手段250と、工具摩耗形状算出手段260と、工具形状更新手段270と、出力手段280とを備えて構成される。ここで、各手段は、ソフトウエアをハードウエアにより実現する際に、機能的に処理する部分である。つまり、これら各手段は、マイクロプロセッサによりプログラムを実行することにより機能する。以下、各機能的構成について詳細に説明する。
【0030】
工具形状記憶部110は、砥石車10の外周表面形状を記憶している。この工具形状記憶部110に記憶されている砥石車10の外周表面の初期形状は、図1(c)の破線にて示す形状である。そして、後述する工具形状更新手段270により砥石車10の外周表面形状は、摩耗後の形状に更新される。つまり、工具形状更新手段270の処理により、摩耗後の砥石車10の外周表面形状が記憶される。
【0031】
係数記憶部120は、後述する工具摩耗体積算出手段240にて用いる係数C1が記憶されている。この係数C1は、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)と、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具摩耗体積VG’(w)との関係を示す値である。本実施形態においては、係数C1は一定値とする。ただし、後の実施形態にて説明するが、この係数C1は、一定値でなくてもよく、他のパラメータによる関数として定義するなどして変化するようにしてもよい。
【0032】
表示部130は、砥石車10の外周表面形状を表示するモニタである。この表示部130は、後述する出力手段280により画面表示の処理がされた場合に、現時点の砥石車10の外周表面形状を表示する。
【0033】
データ取得手段210は、加工プログラム31、素材形状32、および、製品形状33を取得する。加工プログラム31には、被加工物20に対する回転工具の移動経路、および、その移動速度などの加工条件が含まれている。素材形状32および製品形状33は、CADデータである。
【0034】
加工能率算出手段220は、砥石車10の外周表面を回転軸方向断面において設定単位幅(微小幅)dw間隔に分割する。つまり、砥石車10の外周表面の回転軸方向断面において、設定単位幅dw毎に表面位置wを設定する。そして、加工能率算出手段220は、加工プログラム31、素材形状32および製品形状33を用いて、加工中の各瞬間における各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)を算出する。加工能率Q'(w,t)とは、単位時間当たりであって、各表面位置wでの設定単位幅dw当たりの加工体積を意味する。
【0035】
ここで、表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)の算出方法について説明する。しかし、表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)を算出するためには、まずは、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)について説明する必要がある。表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)は、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)を簡易的に示すことにより表したものである。
【0036】
そこで、まずは、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)について、図3(a)(b)および図4(a)(b)を参照して説明する。砥石車10の外周表面を複数の微小領域dAに分割する。ここで、図4(a)(b)に示すように、砥石車10の外周表面の各部位の位置座標は、回転軸を通る回転軸方向断面における砥石車10の表面位置wと回転位相θとにより表される。つまり、回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置wの基準点w0および回転位相θの基準点θ0は、図3(a)(b)に示すとおりである。そして、砥石車10の外周表面のある微小領域dAは、図4(a)(b)に示すとおりである。つまり、各微小領域dAは、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置wの微小幅dwと、砥石車10の回転位相θの微小位相dθと、表面位置wにおける砥石車10の半径r(w)により表すことができる。
【0037】
ここで、時刻tにおける全体の加工能率(以下、「全体加工能率」と称する)Q(t)は、式(4)により表される。式(4)において、Q"(w,θ,t)は、各微小領域における加工能率である。つまり、式(4)によれば、ある時刻tにおける全ての微小領域dAの加工能率Q"(w,θ,t)を、回転位相θおよび砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置wについて積分することにより、ある時刻tにおける全体加工能率Q(t)を得ることができる。
【0038】
【数3】
【0039】
また、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)は、微小領域dAの面積(以下、微小面積もdAと表す)と、時刻tのときに当該微小領域dAにおける砥石車10の被加工物20に対する相対的な送り速度ベクトルF(w,θ,t)と、各微小領域dAにおける法線ベクトルN(w,θ)とにより、式(5)のように表される。つまり、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)は、微小面積dAに、送り速度ベクトルFにおける当該微小領域dAの法線方向成分をかけたものといえる。
【0040】
【数4】
【0041】
このように、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)は、回転位相θと回転軸方向断面における表面位置wをパラメータとしている。これでは、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)を算出するのに、演算処理が非常に複雑となる。そこで、より簡易的に、表面位置wでの設定単位幅dwにおける加工能率Q’(w,t)を算出できる手法を以下に説明する。
【0042】
簡易演算を行うために条件を要するため、まずその条件について図5を参照して説明する。砥石車10により被加工物20を加工する加工領域において、砥石車10の回転位相θ方向の範囲は、非常に小さいものとする。実際に高精度に加工しようとすると、砥石車10のうち接触する回転位相θは、非常に小さくなる。そうすると、図5に示すように、加工中の各瞬間における砥石車10による表面位置wにおける微小領域は、平面P状とみなすことができる。そうすると、送り速度ベクトルF(w,θ,t)と、各微小領域dAにおける法線ベクトルN(w,θ)は、式(6)のように、回転位相θをパラメータとしない関係式に簡略化できる。
【0043】
【数5】
【0044】
さらに、砥石車10の被加工物20に対する相対的な移動方向に、回転運動がほとんど含まれておらず、直進方向の運動とみなすことができる場合には、送り速度ベクトルF(w,θ,t)は、式(7)のように、回転位相θのみならず回転軸方向断面における表面位置wをパラメータとしない関係式に簡略化できる。
【0045】
【数6】
【0046】
上記条件を満たす場合には、微小領域dAにおける加工能率Q"(w,θ,t)を、式(8)のように、表面位置wでの設定単位幅dwにおける加工能率Q'(w,t)と表すことができる。
【0047】
【数7】
【0048】
ここで、砥石車10において、回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置wにおける被加工物20との接触弧長L1は、図5に示すように、ある砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置wを通る径方向断面形状において、被加工物20と接触する周方向長さである。例えば、ある時刻tにおいて、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置wと、砥石車10の回転位相θとの2次元座標において、砥石車10と被加工物20との接触範囲を、図6(a)に示すような囲まれた範囲であるとする。この場合、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置w1における接触弧長L1は、図6(a)に示す長さとなる。つまり、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における表面位置wに応じて、砥石車10における接触位置Lが異なる。そうすると、図6(a)に示すような接触範囲の場合に、各瞬間における各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)は、図6(b)のように表される。そして、各瞬間における各表面位置wでの設定単位幅dwの接触弧長L1は、加工プログラム31、素材形状32および砥石車10の外周表面形状により算出することができる。従って、各瞬間において、各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)は、加工プログラム31、素材形状32および砥石車10の外周表面形状により算出することができる。
【0049】
そして、所定時間のうち時刻t1,t2,t3のそれぞれにおける、各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)は、図7(a)(b)(c)に示すような挙動となる。例えば、時刻t1は、図1(a)(b)において、溝21の一方肩部21aと溝底21bとの中間付近を加工している時刻を表す。時刻t2は、図1(a)(b)において、溝21の溝底21b付近を加工している時刻を表す。時刻t3は、図1(a)(b)において、溝21の溝底21bと他方肩部21cとの中間付近を加工している時刻を表す。
【0050】
図2の機能ブロック図に戻り、各機能ブロックの説明を続ける。被加工体積算出手段230は、各瞬間tにおける各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)を所定時間について時間積分することにより、所定時間における各表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)をそれぞれ算出する。つまり、所定時間における各表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)は、式(9)のように表される。ここで、所定時間とは、例えば、工作機械のNC装置(図示せず)の制御周期毎、加工プログラム31としてのNCプログラムのブロック毎、被加工物20の加工開始から加工終了までの1サイクル、複数の被加工物20の組を示すロット毎など、自由に選択することができる。例えば、所定時間における表面位置wでの各設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)は、図8に示すような挙動となる。
【0051】
【数8】
【0052】
工具摩耗体積算出手段240は、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)に、設定された係数C1を乗算することにより、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具摩耗体積VG’(w)を算出する。具体的には、工具摩耗体積算出手段240は、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)と砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具摩耗体積VG’(w)との関係を関係式(10)として設定しておく。そして、関係式(10)と被加工体積算出手段230により算出された被加工体積VW’(w)とにより、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具摩耗体積VG’(w)を算出する。本実施形態においては、係数C1は一定値とする。
【0053】
【数9】
【0054】
工具摩耗長算出手段250は、工具摩耗体積算出手段240により算出された各工具摩耗体積VG’(w)を用いて、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を算出する。以下に、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を算出方法について説明する。
【0055】
図9(a)に示すように、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける回転軸方向断面形状が、曲率半径Rの円弧凸形状であると考える。この場合、砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwにおける回転軸方向断面上の工具摩耗面積dSは、式(11)により表される。なお、図9(b)に示すように、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける回転軸方向断面形状が、直線形状である場合には、式(11)における曲率半径Rを無限大∞とすればよく、式(12)により表される。
【0056】
【数10】
【0057】
そして、砥石車10の表面位置wにおける砥石車10の回転中心から当該表面位置wまでの距離R0(w)が、工具摩耗長aが十分に小さい場合、すなわち工具摩耗面積dS内において距離R0(w)の変化が十分に小さいと仮定すると、砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具摩耗体積dVGは、式(13)により表される。式(13)を表面位置wでの設定単位幅dwについて表すと、式(14)のようになる。
【0058】
【数11】
【0059】
式(14)を工具摩耗長a(w)について表す式に変形し、かつ、式(10)を代入すると、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a(w)は、式(15)のように表される。
【0060】
【数12】
【0061】
このように、工具摩耗長算出手段250は、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具摩耗体積VG’(w)と砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a(w)との関係を関係式(15)として設定しておく。そして、関係式(15)と工具摩耗体積算出手段240により算出された工具摩耗体積VG’(w)とにより、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を算出する。例えば、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)は、図10に示すような挙動となる。
【0062】
工具摩耗形状算出手段260は、工具形状記憶部110に記憶されている砥石車10の外周表面形状から、工具摩耗長算出手段250により算出された各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を除去することにより、摩耗後の砥石車10の外周表面形状(偏摩耗形状)を算出する。一般に、砥石車10の摩耗は、砥石車10の外周表面形状を局所的に見た場合に、砥石車10の外周表面の法線方向に摩耗していく。
【0063】
そこで、図11に示すように、例えば、表面位置w1での設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長がa(w1)とした場合には、表面位置w1における法線方向にa(w1)だけ除去させた形状が摩耗後の砥石車10の形状となる。同様に、表面位置w2での設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長がa(w2)とした場合にも図11に示すとおりである。また、他の位置について同様に除去処理を行うことで、砥石車10の外周表面全体に亘って、摩耗後の形状を算出することができる。摩耗前の砥石車10の形状が図11の破線にて示す形状である場合に、摩耗後の砥石車10の形状は、図11の実線にて示す形状となる。
【0064】
工具形状更新手段270は、工具形状記憶部110に記憶されている砥石車10の外周表面形状を、工具摩耗形状算出手段260により算出された摩耗後の砥石車10の外周表面形状に更新する。つまり、加工プログラム31により加工シミュレーションを行う場合に、砥石車10の摩耗後形状を逐次フィードバックして、更新された摩耗後の砥石車10により加工シミュレーションを行うこととなる。
【0065】
出力手段280は、工具摩耗形状算出手段260により算出された摩耗後の砥石車10の外周表面形状を表示部130に表示する処理を行う。また、図示しないが、出力手段280は、操作者からの指示に従い、外部へ摩耗後の砥石車10の外周表面形状のデータ出力を行うこともできる。
【0066】
(効果)
以上より、本実施形態によれば、加工中の各瞬間における各表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)を用いることで、所定時間における各表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)を算出することが可能となる。そして、当該加工能率Q'(w,t)は、加工プログラム31に含まれる工具移動軌跡、砥石車10の相対送り速度、砥石車10の外周表面形状、被加工物20の素材形状(加工前形状)および製品形状(加工後形状)を入力情報とすることで、実際の加工を行うことなく演算によって求めることができる。
【0067】
また、被加工物20の被加工体積VW’(w)が多いほど、砥石車10の法線方向の摩耗長a(w)が長くなる所定の関係を有している。従って、各表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)を算出することにより、砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの法線方向の摩耗長a(w)を算出することができる。つまり、実際に加工を行うことなく、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における偏摩耗形状を演算によって予測することができる。
【0068】
さらに、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)を用いて、砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具摩耗体積VG’(w)を算出し、この工具摩耗体積VG’(w)を用いて、工具法線方向摩耗長a(w)を算出している。このようにすることで、より高精度な工具法線方向摩耗長a(w)を算出することができる。この理由について、図12を参照しながら説明する。
【0069】
図12(a)(b)は、何れも、砥石車10の外周表面形状の回転軸方向断面が直線状である場合を示し、図12(a)は砥石車10の回転中心から外周表面までの距離がR1であるのに対して、図12(b)は当該距離がR2であるとする。ここで、R1は、R2よりも小さいものとする。つまり、図12(a)に示す砥石車10は小径であり、図12(b)に示す砥石車10は大径である。
【0070】
ここで、工具摩耗体積算出手段240により算出された各工具摩耗体積VG’(w)が同一であるとする。そうすると、図12(a)に示す小径の砥石車10における工具摩耗体積VG’(w)と、図12(b)に示す大径の砥石車10における工具摩耗体積VG’(w)と同一である。しかし、図12(a)に示す小径の砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における摩耗面積dSは、図12(b)に示す大径の砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における摩耗面積dSよりも大きくなる。この理由は、大径であるほど、砥石車10の外周表面の面積が大きいからである。従って、図12(a)に示す小径の砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a1(w)は、図12(b)に示す大径の砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a2(w)より大きくなる。このように、工具摩耗体積VG’(w)を用いることで、砥石車10の外径に関わりなく、より高精度に砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a(w)を算出することができる。
【0071】
さらに、図12(a)(c)を比較して説明する。図12(c)の砥石車10の外周表面形状の回転軸方向断面は、直線状ではなく、円弧凸状である場合を示している。また、図12(a)(c)の砥石車10の外径は、R1で同一である。ここで、上述したように、砥石車10の摩耗は、法線方向に進行するものと考えられる。従って、図12(c)に示すように、砥石車10の回転軸を通る回転軸方向断面における摩耗形状は、扇形状をなしている。そのため、図12(c)に示す円弧凸状の砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a3(w)は、図12(a)に示す直線状の砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a1(w)より大きくなる。このように、工具摩耗体積VG’(w)を用いることで、砥石車10の外周表面形状に関わりなく、より高精度に砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a(w)を算出することができる。
【0072】
また、工具形状更新手段270により、摩耗後の砥石車10の外周表面形状をフィードバックして、更新された摩耗後の回転工具により加工シミュレーションを行うことにより、より高精度に回転工具の偏摩耗形状を予測することができる。
【0073】
<第二実施形態>
第二実施形態の回転工具偏摩耗形状予測装置について、図13を参照して説明する。本実施形態において、上述した第一実施形態と同一構成については、同一符号を付して説明を省略する。第二実施形態の回転工具偏摩耗形状予測装置300は、第一実施形態の回転工具偏摩耗形状予測装置100に対して、主として、工具摩耗体積算出手段240を削除し、係数記憶部320および工具摩耗長算出手段350が相違する。
【0074】
係数記憶部320は、工具摩耗長算出手段350にて用いる係数C2が記憶されている。この係数C2は、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)と、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwにおける工具法線方向摩耗長a(w)との関係を示す値である。本実施形態においては、係数C2は一定値とする。ただし、後の実施形態にて説明するが、この係数C2は、一定値でなくてもよく、他のパラメータによる関数として定義するなどして変化するようにしてもよい。
【0075】
工具摩耗長算出手段350は、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)に、設定された係数C2を乗算することにより、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を算出する。具体的には、工具摩耗長算出手段350は、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)と砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)との関係を関係式(16)として設定しておく。そして、関係式(16)と被加工体積算出手段230により算出された被加工体積VW’(w)とにより、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を算出する。
【0076】
【数13】
【0077】
このように、本実施形態によれば、工具摩耗体積VG’(w)を算出することなく、被加工物20の被加工体積VW’(w)と係数C2とを用いて直接的に工具法線方向摩耗長a(w)を算出している。この場合、第一実施形態の図12を参照して説明したように、砥石車10の大きさや形状が異なる場合に、それぞれの砥石車10に応じて高精度に砥石車10の偏摩耗形状を予測することはできない。しかしながら、砥石車10の形状がある程度統一されている場合や、砥石車10の形状が大きく変化するとしても大凡の摩耗形状の予測ができればよいという場合や、演算速度を重視する場合には、非常に簡易的な算出手法を用いる本実施形態は有効である。つまり、簡易的な算出方法を用いることで、砥石車10の摩耗形状の精度は若干落ちるが、高速演算処理が可能となる。
【0078】
<第三実施形態>
第一実施形態における係数C1および第二実施形態における係数C2は一定値とした。これら係数C1,C2は、一定値ではなく、変化するようにしてもよい。具体的には、第一実施形態において、係数記憶部120には、図14(a)に示すような係数関係マップを記憶させる。この係数関係マップは、図14(a)に示すように、表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)に対する係数C1を示すマップである。ここで、加工能率が低い場合と高い場合とで、被加工物20の被加工体積VW’(w)と砥石車10の工具摩耗体積VG’(w)との関係は、一定とならず変化する場合がある。例えば、加工能率Q'(w,t)が低い場合には係数C1は小さくなり、加工能率Q'(w,t)が高い場合には係数C1は大きくなる関係になることがある。これは、砥石車10の材質等によって変化するものと考えられる。
【0079】
そこで、図14(a)に示すように、加工能率Q'(w,t)が低い場合には係数C1は小さくなり、加工能率Q'(w,t)が高い場合には係数C1は大きくなるような係数関係マップを、係数記憶部120が記憶しておく。そして、工具摩耗体積算出手段240にて、この係数関係マップを用いて、表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)に応じた係数C1を決定する。工具摩耗体積算出手段240は、決定された係数C1を用いて、第一実施形態にて説明したように、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)に決定された係数C1を乗算することにより、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具摩耗体積VG’(w)を算出する。その他の処理は、第一実施形態に説明した通りであるの省略する。このようにすることで、より高精度に工具法線方向摩耗長a(w)を算出することができ、結果としてより高精度に砥石車10の偏摩耗形状を予測することができる。
【0080】
また、第二実施形態において、係数記憶部320には、図14(b)に示すような係数関係マップを記憶させる。この係数関係マップは、図14(b)に示すように、表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)に対する係数C2を示すマップである。このような挙動とする理由は、図14(a)の説明と同様である。
【0081】
そこで、図14(b)に示すように、加工能率Q'(w,t)が低い場合には係数C2は小さくなり、加工能率Q'(w,t)が高い場合には係数C2は大きくなるような係数関係マップを、係数記憶部320が記憶しておく。そして、工具摩耗長算出手段350にて、この係数関係マップを用いて、表面位置wでの設定単位幅dwの加工能率Q'(w,t)に応じた係数C2を決定する。工具摩耗長算出手段350は、決定された係数C2を用いて、第二実施形態にて説明したように、砥石車10の表面位置wでの設定単位幅dwによる被加工物20の被加工体積VW’(w)に決定された係数C2を乗算することにより、所定時間における砥石車10の各表面位置wでの設定単位幅dwの工具法線方向摩耗長a(w)を算出する。その他の処理は、第二実施形態に説明した通りであるの省略する。このようにすることで、より高精度に工具法線方向摩耗長a(w)を算出することができ、結果としてより高精度に砥石車10の偏摩耗形状を予測することができる。
【0082】
<その他>
上記実施形態においては、砥石車10の外周表面形状が円弧凸状の場合について説明したが、円弧凸状に限られるものではない。例えば、図15に示すような砥石車10の外周表面形状が任意形状のアンギュラ加工にも同様に適用できる。また、本発明の回転工具としては、円盤状の砥石車10の他に、ボールエンドミルも同様に適用できる。
【符号の説明】
【0083】
10:砥石車、 20:被加工物、 21:溝
100,300:回転工具偏摩耗形状予測装置
110:工具形状記憶部、 120,320:係数記憶部、 130:表示部
210:データ取得手段、 220:加工能率算出手段、 230:被加工体積算出手段
240:工具摩耗体積算出手段、 250,350:工具摩耗長算出手段
260:工具摩耗形状算出手段、 270:工具形状更新手段
280:出力手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転工具の回転軸を通る回転軸方向断面における偏摩耗形状を予測する回転工具偏摩耗形状予測装置において、
前記回転工具の表面形状を記憶する工具形状記憶手段と、
前記回転工具の表面を前記回転軸方向断面において設定単位幅間隔に分割し、加工プログラムに基づいて加工中の各瞬間における各表面位置wでの前記設定単位幅の加工能率を算出する加工能率算出手段と、
各瞬間における各前記表面位置wでの前記設定単位幅の前記加工能率を所定時間について時間積分することにより、前記所定時間における各前記表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の被加工体積をそれぞれ算出する被加工体積算出手段と、
前記被加工体積算出手段により算出された各前記被加工体積を用いて、前記所定時間における前記回転工具の各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具法線方向摩耗長をそれぞれ算出する工具摩耗長算出手段と、
前記工具形状記憶手段に記憶されている前記回転工具の表面形状から、前記工具摩耗長算出手段により算出された各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具法線方向摩耗長を除去することにより、摩耗後の前記回転工具の表面形状を算出する工具摩耗形状算出手段と、
を備えることを特徴とする回転工具偏摩耗形状予測装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記回転工具偏摩耗形状予測装置は、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の前記被加工体積に、設定された係数C1を乗算することにより、前記所定時間における前記回転工具の各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具摩耗体積を算出する工具摩耗体積算出手段をさらに備え、
前記工具摩耗長算出手段は、前記工具摩耗体積算出手段により算出された各前記工具摩耗体積を用いて、前記所定時間における前記回転工具の各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具法線方向摩耗長を算出することを特徴とする回転工具偏摩耗形状予測装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記工具摩耗長算出手段は、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の前記被加工体積に、設定された係数C2を乗算することにより、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅における前記工具法線方向摩耗長を算出することを特徴とする回転工具偏摩耗形状予測装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記係数C1は、前記設定単位幅の前記加工能率に応じて変化するように設定されていることを特徴とする回転工具偏摩耗形状予測装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記係数C2は、前記設定単位幅の前記加工能率に応じて変化するように設定されていることを特徴とする回転工具偏摩耗形状予測装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項において、
前記回転工具偏摩耗形状予測装置は、前記工具形状記憶手段に記憶されている前記回転工具の表面形状を、前記工具摩耗形状算出手段により算出された摩耗後の前記回転工具の表面形状に更新する工具形状更新手段をさらに備えることを特徴とする回転工具偏摩耗形状予測装置。
【請求項1】
回転工具の回転軸を通る回転軸方向断面における偏摩耗形状を予測する回転工具偏摩耗形状予測装置において、
前記回転工具の表面形状を記憶する工具形状記憶手段と、
前記回転工具の表面を前記回転軸方向断面において設定単位幅間隔に分割し、加工プログラムに基づいて加工中の各瞬間における各表面位置wでの前記設定単位幅の加工能率を算出する加工能率算出手段と、
各瞬間における各前記表面位置wでの前記設定単位幅の前記加工能率を所定時間について時間積分することにより、前記所定時間における各前記表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の被加工体積をそれぞれ算出する被加工体積算出手段と、
前記被加工体積算出手段により算出された各前記被加工体積を用いて、前記所定時間における前記回転工具の各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具法線方向摩耗長をそれぞれ算出する工具摩耗長算出手段と、
前記工具形状記憶手段に記憶されている前記回転工具の表面形状から、前記工具摩耗長算出手段により算出された各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具法線方向摩耗長を除去することにより、摩耗後の前記回転工具の表面形状を算出する工具摩耗形状算出手段と、
を備えることを特徴とする回転工具偏摩耗形状予測装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記回転工具偏摩耗形状予測装置は、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の前記被加工体積に、設定された係数C1を乗算することにより、前記所定時間における前記回転工具の各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具摩耗体積を算出する工具摩耗体積算出手段をさらに備え、
前記工具摩耗長算出手段は、前記工具摩耗体積算出手段により算出された各前記工具摩耗体積を用いて、前記所定時間における前記回転工具の各前記表面位置wでの前記設定単位幅の工具法線方向摩耗長を算出することを特徴とする回転工具偏摩耗形状予測装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記工具摩耗長算出手段は、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅による前記被加工物の前記被加工体積に、設定された係数C2を乗算することにより、前記回転工具の前記表面位置wでの前記設定単位幅における前記工具法線方向摩耗長を算出することを特徴とする回転工具偏摩耗形状予測装置。
【請求項4】
請求項2において、
前記係数C1は、前記設定単位幅の前記加工能率に応じて変化するように設定されていることを特徴とする回転工具偏摩耗形状予測装置。
【請求項5】
請求項3において、
前記係数C2は、前記設定単位幅の前記加工能率に応じて変化するように設定されていることを特徴とする回転工具偏摩耗形状予測装置。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項において、
前記回転工具偏摩耗形状予測装置は、前記工具形状記憶手段に記憶されている前記回転工具の表面形状を、前記工具摩耗形状算出手段により算出された摩耗後の前記回転工具の表面形状に更新する工具形状更新手段をさらに備えることを特徴とする回転工具偏摩耗形状予測装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−16757(P2012−16757A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−153731(P2010−153731)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]