説明

回転成形用粉体組成物および表皮材

【課題】生産コストのかゝらない粒径1000μm以上の粉体組成物を使用して、回転成形によってピンホールのない、表面性、離型性に優れた成形品を得る。
【解決手段】スチレン系ブロック共重合体にポリプロピレンを添加して硬度を付与するが、この際回転成形性を阻害しない高流動ポリプロピレンを使用し、更にスチレン系ブロック共重合体とポリプロピレンとの相溶性を改良するために、エチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転成形に用いられる粉体組成物および該粉体組成物を回転成形して得られる表皮材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
〔発明の背景〕
回転成形は、例えば玩具のボール等の表皮材を成形するために有用な成形方法であり、この種の表皮材としては、柔軟性を要求されることから、主として熱可塑性エラストマーを主体とする粉体組成物が材料として使用される。
【0003】
〔従来の技術〕
従来、この種の組成物としてはスチレン系ブロック共重合体に軟化剤としてパラフィン系オイルを配合した組成物(例えば特許文献1)、スチレン系ブロック共重合体にポリプロピレンホモポリマーを配合した組成物(例えば特許文献2)、あるいはオレフィン系あるいはポリウレタン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー組成物粉体(例えば特許文献3)等が提供されている。
【0004】
【特許文献1】特許第3335737号公報
【特許文献2】特許第3000165号公報
【特許文献3】特開2002−363417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来配合にあっては、スチレン系ブロック共重合体に硬度調節のためにポリプロピレンホモポリマーを添加するが、該スチレン系ブロック共重合体と該ポリプロピレンホモポリマーとは相溶性が充分でなく、またポリプロピレンホモポリマーの溶融物は流動性が悪く、回転成形した場合に成形品の表面性が悪くなる。
更に上記粉体組成物の平均粒径が1000μm以上のものを使用して回転成形した場合には、ピンホールの無い成形品を得ることが困難であり、またピンホールの無い成形品を得るために平均粒径が500μm以下のものを使用すると粉砕費用が高くなり、生産量も低下するため、生産コストが高くなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記従来の課題を解決するための手段として、スチレン系ブロック共重合体と、エチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体と、ポリプロピレンホモポリマーと、高流動ポリプロピレンと、軟化剤とを含有する回転成形用粉体組成物を提供するものである。
上記粉体組成物の平均粒径は1000μm以上であることが好ましく、また上記組成物には更に耐衝撃性ポリスチレンおよび/またはエチレン・α−オクテン共重合体が添加されていることが望ましい。
上記成形用粉体組成物は、特に回転成形によって表皮材を製造するために使用される。
【発明の効果】
【0007】
〔作用〕
エチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体はスチレン系ブロック共重合体とポリプロピレンとの相溶化剤として作用し、また組成物の耐衝撃性を改良する。またポリプロピレンとしてポリプロピレンホモポリマーに高流動ポリプロピレンを添加すると、組成物の溶融粘度を高くすることなく組成物の硬度を高くすることが出来る。
上記粉体組成物の平均粒径を1000μm以上とすると、生産コストを高くすることなく、また粉体の平均表面積が小さくなり、シリカ等のブロッキング防止剤の添加量を減らすことが出来る。本発明ではエチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体によってスチレン系ブロック共重合体と該ポリプロピレンとの相溶性を改良するので、粉体組成物の粒径を1000μm以上としても、得られる回転成形品表面にピンホールが生じない。
上記組成物に耐衝撃性ポリスチレンを添加すると、組成物の溶融粘度を高くすることなく更に成形物の硬度を高くすることが出来る。またエチレン−α−オクテン共重合体を添加すると組成物の伸び性を改良することが出来る。
【0008】
〔効果〕
本発明の組成物を使用して回転成形すれば、ピンホールのない表面平滑な、そして硬度も高い成形品が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
〔スチレン系ブロック共重合体〕
本発明に使用するスチレン系ブロック共重合体としては、例えばスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−エチレン−ブタジエンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−ブチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)、エポキシ基含有SBS、エポキシ基含有SEBS、エポキシ基含有EEA、カルボキシル基含有SBS、カルボキシル基含有SEBS等が例示される。
上記スチレン系ブロック共重合体として望ましいのは、SEBSとSBBSとの併用であり、SEBSはポリプロピレンに対して良好な相溶性を有し、かつ成形品に好ましい耐候性を与え、またSBBSは成形品に好ましい塗装性を与える。上記SEBSとSBBSとの混合比率は、通常90:10〜70:30質量比、望ましくは85:15〜75:25質量比とされる。
【0010】
〔ポリプロピレン(PP)〕
本発明においては、ポリプロピレンとしてポリプロピレンホモポリマーと高流動ポリプロピレンとを併用する。ポリプロピレンホモポリマーはMFRが1〜100g/10分であるが、高流動ポリプロピレンはMFRが1500〜2000g/10分であり、高流動ポリプロピレンの添加により、組成物の溶融粘度を高めることなく成形品の硬度を高めることが出来る。しかし高流動ポリプロピレン単独では軟化剤を添加した場合に成形品に高硬度を与えることが困難であるからポリプロピレンホモポリマーを併用する。
【0011】
〔エチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体(CEBC)〕
CEBCはブタジエンをリビング触媒によって重合した後、ブタジエン部分の二重結合を水素添加して飽和化することによって得られるエラストマーである。
CEBCはスチレン系ブロック共重合体とポリプロピレンとの相溶性を向上せしめ、そして組成物の耐衝撃性を改良する。
【0012】
〔軟化剤〕
本発明では硬度調節のために軟化剤が添加される。本発明に使用する軟化剤としては、ナフテン系炭化水素、パラフィン系炭化水素、プロセスオイル、エキステンダー、高級脂肪酸、松根油等が使用されるが、組成物に相溶して軟化効果を有効に発揮するパラフィン系炭化水素の使用が望ましい。
【0013】
〔耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)〕
HIPSは、ポリスチレンにブタジエンゴム、スチレングラフトブタジエンゴム(PS−g−PBR)等を混合して耐衝撃性を改良したものであり、本発明の組成物にHIPSを添加することによって、組成物の流動性を阻害することなく、成形品の耐衝撃性等の物性を劣化させることなく、成形品の硬度を高めることが出来る。
【0014】
〔エチレン−α−オクテン共重合体〕
エチレン−α−オクテン共重合体は、本発明の組成物の伸び性を改良する。
【0015】
〔滑剤〕
本発明の組成物には成形品の金型に対する離型性を付与するため、それと共に成形品の表面平滑性、帯電防止性を確保するために滑剤を添加することが望ましい。上記滑剤としては非イオン界面活性剤、エルカ酸アマイド等が使用される。
【0016】
〔その他の成分〕
上記成分以外、例えば炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、亜硫酸カルシウム、燐酸カルシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、アルミナ、シリカ、ケイ藻土、ドロマイト、石膏、タルク、クレー、アスベスト、マイカ、ガラス繊維、カーボン繊維、ケイ酸カルシウム、ベンナイト、ホワイトカーボン、カーボンブラック、鉄粉、アルミニウム粉、石粉、高炉スラグ、フライアッシュ、セメント、ジルコニア粉等の無機充填材、木綿、麻、竹繊維、ヤシ繊維、羊毛、絹等の天然繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビスコース繊維、アセテート繊維、塩化ビニル繊維、塩化ビニリデン繊維、ビニロン繊維、アセテート繊維等の有機合成繊維、アスベスト繊維、ガラス繊維、炭素繊維、セラミック繊維、金属繊維、ウィスカー等の無機繊維、木粉、ヤシ粉等の有機充填材等の充填材、顔料や染料、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、防炎剤、老化防止剤、紫外線吸収剤を添加してもよい。これらの成分は一種または二種以上相互に混合して添加せられてもよい。
【0017】
〔配合〕
上記成分の望ましい配合比率は下記の通りである。
スチレン系ブロック共重合体 100質量部
CEBC 25〜45 〃
ポリプロピレンホモポリマー 5〜15 〃
高流動ポリプロピレン 30〜80 〃
軟化剤 110〜170〃
HIPS 5〜15 〃
エチレン−α−オクテン共重合体 10〜35 〃
滑剤(非イオン界面活性剤) 1〜2 〃
滑剤(エルカ酸アマイド) 1〜1.5〃
上記配合比率において、CEBCの量が25質量部より少ないと得られる成形品の表面性が悪くなり、離型性も劣るようになるおそれがある。またCEBCの量が45質量部を越えると得られる成形品の表面にピンホールが発生するおそれがある。また高流動ポリプロピレンの量が30質量部より少ないと硬度が低く(A硬度50以下)なり、また高流動ポリプロピレンの量が80質量部を越えると表面性が悪くなり、かつ離型性も悪くなるおそれがある。更に軟化剤の添加量が170質量部を越えると硬度が低くなり、離型性も悪くなるおそれがある。
【0018】
〔粉体組成物〕
上記各成分は上記した配合比率で混合され、シリンダ温度を約160〜180℃に設定した押出機により加熱溶融混練されつゝ微細ダイより糸状に押出され、ペレタイザーによって水中カットされ、粉体組成物となる。
本発明の場合には、粉体組成物の平均粒径を1000μm以上とするから、例えば凍結粉砕等の高価な粉砕方法を使用する必要がなく、上記ペレタイジング法の適用が可能であるから、生産コストが高くならない。本発明の粉体組成物は上記したように1000μm以上、望ましくは1200μm以上としても、前記したようにCEBCの相溶化効果によって、成形品の表面にピンホールの発生することが阻止される。
平均粒径の測定は、無差別に抽出した球形粉体組成物50個以上の粒径を光学顕微鏡を用いて測定し、その平均値を求めた。粉体組成物の形状が円柱状あるいは楕円形状の場合は、粒体の最長部分と最短部分との長さを測定し、その平均値を平均粒径とする。
【0019】
〔後処理〕
上記粉体組成物はブロッキングを防止するために、表面にシリカ微粉末、タルク等の無機微粉末を付着せしめる。望ましい無機微粉末としては、疎水性マイクロナイズドシリカがある。
上記無機微粉末を粉体組成物表面に付着せしめるには、スーパーミキサー等でドライブレンドを行なう。上記無機微粉末の添加量は、通常上記粉体組成物100質量部に対して、0.3〜0.5質量部とする。
【0020】
〔回転成形〕
一般に回転成形金型はアルミニウム製あるいはニッケル製であるが、該金型内に常温で該粉体組成物の所定量を充填し、該粉体組成物を充填した該金型を約300〜350℃に保った加熱炉内に入れ、該加熱炉内において該金型に水平方向と垂直方向の二軸回転を与えて該金型内に充填した該粉体組成物を金型内壁面に付着させると共に加熱溶融しかつ脱泡し、該金型温度が240〜280℃になるまで加熱する。その後金型を水冷または空冷して金型温度が40℃程度になるまで冷却すると共に該金型の回転を停止し、該金型を開いて成形物を取出す。
上記回転成形における金型の回転速度は、通常2〜20rpmとする。
以下、本発明の実施例について説明する。
【0021】
〔実施例1〜4、比較例1〜5〕
本実施例において使用する原材料を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
上記原料を使用して表2に示す配合により実施例1〜4および比較例1〜5の粉体組成物試料を調製した。
【0024】
【表2】

【0025】
上記試料について、下記の方法によって物性を測定した、その結果を表2に示す。
〔物性の測定方法〕
1.A硬度の測定方法
A硬度の測定はJIS−K−6253Aに準拠。
試験片は上記各試料を使用して加熱圧縮成形によって作製した2000μm厚のシート を3枚重ね合わせたものを用いた。
2.「塗装性」の評価方法
塗料はウレタン系塗料を用いた。試験片は「A硬度の測定方法」で作製した2000 μm厚のシートを使用した。
該シートの表面をメタノールで払拭後、塗膜の厚みが約100μm以下になるように 刷毛を用いて塗布した。この時、オゾン処理やプラズマ処理等の前処理は行なわなかっ た。
塗装された該シートの塗装面にカッターで1000μm間隔に碁盤目を10×10の 計100個入れ、その上にセロファンテープを貼り付け、これを塗装面に対して垂直方 向に剥離し、塗装面に残った碁盤目の状態を観察した、
○:剥離しなかったもの
×:1つでも剥離したもの
○は塗装性が良い。×は塗装性が悪いと評価した。
3.「シートの作製」、「ピンホールの有無」、「表面性」、「離型性」の評価方法
「シートの作製」を実施し、そこで得られた成形品の状態を確認することにより評価を 行なった。
(1)「シートの作製」
上記粉末組成物試料の各々をプラストミル内に投入し、熱媒オイル温度180℃で約 10分間加熱混練した後、得られた樹脂塊をプレス機を用いて、加熱圧縮して2000 μm厚のシートを作製した。該シートを約10000μm×10000μm角(40g )に切削し、アルミパッドの上に均等に並べ、約250℃に保ったオーブン中にアルミ パッドごと投入、槽内で15分間加熱させる作業を行なう。その後、水冷にてアルミパ ッドを約40℃になるまで冷却した。
(2)「ピンホールの有無」の評価方法
「シートの作製」で得られたシート(成形品)表面(アルミパッドと接触していた面 )の状態を目視にて観察。以下の基準で評価を行なった。
無:ピンホールが見られない(0個)
少:ピンホールが少ない(1〜10個)
有:ピンホールの発生率大(11個以上)
(3)「表面性」の評価方法
「シートの作製」で得られたシート(成形品)表面(アルミパッドと接触していた面 )の表面状態を目視にて観察。以下の基準で評価を行なった。
○:均一に混ざっている。
×:白い粉が浮き出ている。
(4)「離型性」の評価方法
「シートの作製」で得られたシート(成形品)の離型済みアルミパッドの表面状態を 目視にて観察。以下の基準で評価を行なった。
○:アルミパッドに跡が残らない。
△:アルミパッドに樹脂跡が残るが、取り外し易いもの。
×:アルミパッドに樹脂跡が残り、取り外しにくいもの。
【0026】
表2を検討すると、高流動ポリプロピレンの添加量が30質量部以下(15質量部)の比較例1ではA硬度が50以下(40)になり、高流動ポリプロピレンの添加量が80質量部を越える(90質量部)比較例2は表面性が悪くなり、かつ離型性も悪い。CEBCの添加量が25質量部以下(20質量部)の比較例3では表面性、離型性共に悪くなり、CEBCの添加量が45質量部を越える(50質量部)比較例4では少々ではあるがピンホールが発生する。更に軟化剤の添加量が170質量部を越える(180質量部)比較例5ではA硬度が50以下(47)になり、離型性も悪い。
【0027】
一方実施例1〜4の各試料は硬度も高く、塗装性、表面性、離型性共に良好であり、ピンホールの発生もない。
【0028】
更に実施例1〜4の粉体組成物について、〔回転成形〕の項で述べた方法によって、厚み3mmの表皮材を作製した。温度条件は加熱炉温度約335℃、金型温度260℃である。
上記表皮材の物性を同様な方法によって測定した結果は表2に示すようにピンホールの発生もなく、かつ表面性、離型性共に良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明では、粉体組成物の生産コストを低くおさえることが出来、そして回転成形によってピンホールのない、表面性、離型性共に良好でかつ硬度も充分高い表皮材が得られる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スチレン系ブロック共重合体と、エチレン−エチレン・ブチレン−エチレンブロック共重合体と、ポリプロピレンホモポリマーと、高流動ポリプロピレンと、軟化剤とを含有することを特徴とする回転成形用粉体組成物。
【請求項2】
上記粉体組成物の平均粒径は1000μm以上である請求項1に記載の回転成形用粉体組成物。
【請求項3】
上記組成物には更に耐衝撃性ポリスチレンおよび/またはエチレン・α−オクテン共重合体が添加されている請求項1または2に記載の回転成形用粉体組成物。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の回転成形用粉体組成物を回転成形することによって製造されたことを特徴とする表皮材。

【公開番号】特開2007−31468(P2007−31468A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−212348(P2005−212348)
【出願日】平成17年7月22日(2005.7.22)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】