説明

回転電機

【課題】回転電機1において、永久磁石10が埋め込まれた磁石収容孔12近傍のロータコア9に発生する応力集中を低減することにある。
【解決手段】磁石収容孔12内に形成される永久磁石10の周囲の隙間23の内、永久磁石10の磁化垂直方向外側にある磁化垂直方向領域23Aa、23Ba内に、樹脂35が充填され、その樹脂35が充填された部分に軸方向に延びる穴37が永久磁石10の軸方向全長に亘って連続して設けられている。これによれば、熱負荷により永久磁石10が磁化垂直方向に膨張しようとする寸法変化が生じても、穴37によってその寸法変化を吸収するため、永久磁石10が樹脂部35aを介してロータコア9を押し付ける力が低減する。この結果、磁石収容孔12近傍のロータコア9に発生する応力集中を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイブリッド車両や電気自動車等に搭載される回転電機に関する。また、産業用機器、家庭電化製品等への適用も可能である。
【背景技術】
【0002】
回転電機として、永久磁石が埋め込まれたロータを搭載する永久磁石埋込型回転電機が知られている。
図11に示すように、永久磁石埋込型回転電機のロータ100は、ロータコア101に形成された磁石収容孔102に、永久磁石103を挿入してなっている。
【0003】
そして、磁石収容孔102の内周面と永久磁石103の外周面との間に充填される樹脂104によって、永久磁石103は磁石収容孔102内に固定される(特許文献1参照)。
【0004】
ところで、永久磁石103には熱負荷によって寸法が変化する性質を有するものがある。例えば、加熱によって磁化方向に垂直な方向(以下、磁化垂直方向と呼ぶ)に収縮し、冷却時には磁化垂直方向に膨張するものがある。このため、永久磁石103に熱が加わるような工程を経て永久磁石103がロータコア101に埋め込まれ、埋め込まれたときの温度よりも低い温度で回転電機が使用される場合には、永久磁石103が磁化垂直方向に膨張しようとする。
【0005】
ここで、樹脂104による接着力が十分にある場合には、永久磁石103の膨張変形が樹脂104の接着力によって抑制されるため、この膨張は樹脂104の弾性によって吸収できる程度にとどまる。
しかし、経時劣化によって樹脂104による接着力が低下した場合や、永久磁石103にめっき等が施されて樹脂104が接着しない場合には、図11(b)のような永久磁石103の変形が許容されてしまう。そして、永久磁石103の磁化垂直方向の両端には、磁石収容孔102の内周面との間に隙間105が存在し、その隙間105に樹脂104が充填されているような場合に、永久磁石103が磁化垂直方向へ膨張すると、永久磁石103が隙間105内の樹脂104を押圧するため、樹脂104を介してロータコア101も押圧されて、ロータコア101に応力集中が生じてしまう。
【0006】
なお、特許文献2では、表面永久磁石型ロータにおいて、ロータコアの外周に複数の永久磁石を配置して樹脂モールド成形し、永久磁石同士の間の樹脂の軸方向端に浅い凹みを設ける技術が開示されている。しかし、この凹みは、樹脂モールド成形後の樹脂収縮を緩和するために設けられたものであり、永久磁石103の変形によって生じるロータコアの応力集中を緩和するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−359942号公報
【特許文献2】特開2001−298887号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、永久磁石埋込型回転電機において、磁石収容孔近傍のロータコアに発生する応力集中を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載の回転電機は、ステータと、ステータと相対回転可能に配置され、永久磁石がロータコアに形成された磁石収容孔内に埋め込まれてなるロータとを備える。
そして、磁石収容孔内で永久磁石の周囲に形成される隙間の少なくとも一部に充填された樹脂によって、永久磁石は磁石収容孔に固定される。
【0010】
そして、磁石収容孔内で永久磁石の周囲に形成される隙間の内、永久磁石の磁化方向に垂直な方向側に形成される磁化垂直方向領域には、軸方向に延びる空隙部が永久磁石の軸方向全長に亘って連続して設けられている。
【0011】
これによれば、熱負荷により永久磁石が磁化垂直方向に膨張しようとする寸法変化が生じても、空隙部によってその寸法変化を吸収するため、永久磁石が樹脂を介してロータコアを押し付ける力が低減する。この結果、磁石収容孔近傍のロータコアに発生する応力集中を低減することができる。
【0012】
〔請求項2の手段〕
請求項2に記載の回転電機によれば、磁化垂直方向領域は、樹脂が充填されており、空隙部は、磁化垂直方向領域に充填された樹脂部に形成された軸方向に延びる穴である。そして、穴の周囲を囲む樹脂の厚みが略均一である。
【0013】
これによれば、樹脂を充填する際の樹脂の流れの圧力変化を小さくすることができる。このため、ブリスタ(水ぶくれ)等が発生せず、均一に成形が可能となる。また、樹脂の流れの圧力変化が少なくなるため、熱可塑性樹脂を用いた射出成形による加工も可能となる。
【0014】
〔請求項3の手段〕
請求項3に記載の回転電機によれば、磁化垂直方向領域は、樹脂が充填されており、空隙部は、磁化垂直方向領域に充填された樹脂部に形成された軸方向に延びる穴である。そして、穴は、軸方向からみて、磁化方向に長い穴形状である。
【0015】
これによれば、永久磁石の磁化方向の広い範囲において磁化垂直方向への寸法変化を吸収することができる。
【0016】
〔請求項4の手段〕
請求項4に記載の回転電機によれば、樹脂は、熱可塑性樹脂である。
これによれば、熱硬化性樹脂を用いる場合と比較して、硬化時間が不要なので加工時間が短縮でき、さらに、樹脂の再利用をすることもできる。
【0017】
〔請求項5の手段〕
請求項5に記載の回転電機によれば、空隙部には、発泡性樹脂が充填されている。
発泡性樹脂には気泡が多数含まれているため、結果として、何も充填されていない空隙部と同様に、寸法変化に対する吸収効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】(a)は回転電機の要部の軸方向に垂直な断面図であり、(b)は(a)の部分拡大図である(実施例1)。
【図2】図1(a)のA−A断面図である(実施例1)。
【図3】(a)は永久磁石の変形前の様子を示す説明図であり、(b)は永久磁石の変形後の様子を示す説明図である(比較例1)。
【図4】(a)、(b)はロータの要部拡大断面図である(比較例2、3)。
【図5】(a)はロータの樹脂成形の工程を説明する説明図であり、(b)は(a)の工程によって樹脂成形されたロータの要部拡大断面図であり、(c)は(b)の部分拡大図である(実施例1)。
【図6】(a)、(b)は、ロータの要部の軸方向に垂直な拡大断面図である(実施例2)。
【図7】(a)〜(d)は、ロータの要部の軸方向に垂直な拡大断面図である(実施例3)。
【図8】ロータの要部の軸方向に垂直な拡大断面図である(実施例4)。
【図9】回転電機の要部の軸方向に垂直な拡大断面図である(実施例5)。
【図10】(a)、(b)はロータの要部拡大断面図である(変形例)。
【図11】(a)はロータの要部の軸方向に垂直な断面図であり、(b)は永久磁石の熱負荷による寸法変化を説明する説明図である(従来例)。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明を実施するための形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0020】
〔実施例〕
〔実施例1の構成〕
実施例1の回転電機1を、図1、図2、図5を用いて説明する。
実施例1の回転電機1は、モータジェネレータであって、回転磁界を発生可能なステータ2と、ステータ2の内周側に配されて回転するロータ3とを備える。
なお、本実施例では、円筒上のステータ2の内周にロータ3が配置されるインナーロータ型である。
【0021】
ステータ2は、複数の電磁鋼板を積層して円筒状に形成されたステータコアと、ステータコアに巻装されたステータコイルとを有している。そして、ステータコイルに3相交流電流が流れることにより回転磁界を形成し、回転磁界内に配されるロータ3を回転させることが可能である。
【0022】
ロータ3は、永久磁石型であって、ステータ2と同心的にステータ2の内周に配されるロータコア9と、ロータコア9に埋め込まれて磁極を形成する永久磁石10とを有している。
【0023】
ロータコア9は、複数の電磁鋼板を積層して円筒状に形成されており、その中心には回転軸となるシャフト11が固定されている。
そして、ロータコア9には、永久磁石10を収容するための磁石収容孔12が軸方向に延びる貫通孔として形成されている。
【0024】
ロータ3は複数の磁極を有しており、本実施例では2つの永久磁石10で1磁極を形成している(図1は1磁極分のみを描画している)。
これに対応して、ロータコア9は、1磁極当たり、各永久磁石10が挿入される2つの磁石収容孔12を有している。2つの磁石収容孔12の間には、薄肉のブリッジ15がある。
【0025】
永久磁石10は、磁化方向と磁化垂直方向とで異なる線膨張係数を持ち、磁化垂直方向の線膨張係数が電磁鋼板の線膨張係数よりも小さい性質を有する磁石であり、例えば、ネオジウム、フェライト、サマリウム磁石である。本実施例では、加熱によって磁化垂直方向に収縮し、冷却時には磁化垂直方向に膨張するネオジウム磁石を用いている。
【0026】
また、永久磁石10は、軸方向に垂直な断面が矩形となる形状を呈している。つまり、軸方向から見て(平面視において)、矩形状を呈している。
具体的には、磁化方向に短く、磁化垂直方向に長い長方形断面を有しており、磁化方向に離間して互いに平行な2つの側面17a、17bと、磁化垂直方向に離間して互いに平行な2つの側面17c、17dとを有し、平面視において4つの角部20a〜20dを有している。
【0027】
なお、角部20aは、側面17aと側面17cとの間の角部であり、角部20bは、側面17bと側面17cとの間の角部であり、角部20cは、側面17bと側面17dとの間の角部であり、角部20dは、側面17dと側面17aとの間の角部である。
すなわち、側面17cの磁化方向の一端に角部20aが存在し、他端に角部20bが存在する。そして、側面17dの磁化方向の一端に角部20dが存在し、他端に角部20cが存在する。
【0028】
1磁極を形成する2つの永久磁石10は、それぞれ、磁化方向がロータコア9の径方向に対して傾斜するように配置されている。
例えば、本実施例では、2つの永久磁石10がロータ3の外周側に向けて開くV字状に配置されている(図1(a)参照)。
【0029】
つまり、2つの永久磁石10の磁化垂直方向が交差し、磁化垂直方向がV字状の各辺の方向となるように配置されている。そして、側面17cがブリッジ15から離れた側の側面、側面17dがブリッジ15に近い側の側面となる。そして、側面17aが外周面に近い側の側面、側面17bが外周面から離れた側の側面となる。
【0030】
次に、磁石収容孔12の穴形状について詳細に説明する。
磁石収容孔12は、永久磁石10の外周面との間に隙間23を形成するように内周面が設けられている。すなわち、隙間23は、磁石収容孔12内で永久磁石10の周囲に形成されている。
そして、隙間23は、磁化垂直方向において、側面17cの外側に膨らんで永久磁石10との間に空間を形成する隙間部23Aと、側面17dの外側に膨らんで永久磁石10との間に空間を形成する隙間部23Bとを有している。
【0031】
なお、隙間部23Aは、角部20aを取り囲むような形状をしており、側面17aの反ブリッジ側端部24の磁化方向外側にも膨らんでいる。
これにより、隙間部23Aによって、角部20aと磁石収容孔12の内周面とは、磁化方向にも、磁化垂直方向にも離れている。
【0032】
また、隙間部23Bは、角部20dを取り囲むような形状をしており、側面17bのブリッジ側端部26の磁化方向外側にも膨らんでいる。
これにより、隙間部23Bによって、角部20dと磁石収容孔12の内周面とは、磁化方向にも、磁化垂直方向にも離れている。
【0033】
また、ロータコア9は、磁石収容孔12の内周面が磁化垂直方向において永久磁石10に近接する近接部30を有している。すなわち、角部20b近傍で側面17cに近接する近接部30と、角部20c近傍で側面17dに近接する近接部30とを有している。
【0034】
なお、永久磁石10と磁石収容孔12との間には、角部20bと磁石収容孔12の内周面との間に磁化方向における隙間を形成する隙間部23C、および、角部20cを取り囲むように形成される隙間部23Dをも有している。
【0035】
そして、隙間23には樹脂35が充填されており、隙間23内で硬化した樹脂35によって永久磁石10が磁石収容孔12に固定されている。なお、本実施例では、樹脂35に熱硬化性樹脂を用いている。
【0036】
〔実施例1の特徴〕
本実施例では、隙間部23A、23Bにも樹脂35が充填されている。そして、隙間部23A及び隙間部23Bの内、永久磁石10の磁化垂直方向側に形成される隙間部分を磁化垂直方向領域23Aa、23Baと呼ぶと、磁化垂直方向領域23Aa、23Ba内に充填された樹脂部35aには、軸方向に延びる穴37(空隙部)が永久磁石10の軸方向全長に亘って連続して設けられている。
【0037】
穴37は、図1(b)に示すように、軸方向からみて磁化方向に長い長方形形状である。
そして、本実施例では、図2に示すように、磁石収容孔12がロータコア9を貫通するように設けられている。そして、磁石収容孔12に収容された永久磁石10のほぼ軸方向全長に亘って樹脂35が充填されており、穴37は樹脂部35aを軸方向に貫通する貫通穴として設けられている。これにより、穴37は、永久磁石10の軸方向全長に亘って軸方向に延びている。そして、この穴37には、なにも充填されておらず空隙となっている。
【0038】
〔実施例1の作用効果〕
永久磁石10は熱負荷によって寸法が変化する。例えば、本実施例の永久磁石10は、加熱によって磁化垂直方向に収縮し、冷却時には磁化垂直方向に膨張する。この場合、永久磁石10に熱が加わるような工程を経て永久磁石10がロータコア9に埋め込まれ、埋め込まれたときの温度よりも低い温度で回転電機1が使用される場合には、永久磁石10が磁化垂直方向に膨張しようとする。
【0039】
そこで、本実施例では、磁化垂直方向領域23Aa、23Ba内の樹脂部35aに、軸方向に延びる穴37を永久磁石10の軸方向全長に亘って連続して設けている。
このため、熱負荷により永久磁石10が磁化垂直方向に膨張しようとする寸法変化が生じても、穴37によってその寸法変化を吸収するため、永久磁石10が樹脂部35aを介してロータコア9を押し付ける力が低減する。この結果、磁石収容孔12近傍のロータコア9に発生する応力集中を低減することができる。
【0040】
以下、本実施例1の効果を図3、図4に示す比較例1〜3を用いてさらに詳細に説明する。
図3に示す比較例1では、磁化垂直方向領域23Aa、23Baが樹脂35により充填されており、穴37が設けられていない。
比較例1では、樹脂35による接着力が十分にある場合に、永久磁石10の膨張変形が樹脂35の接着力によって抑制されるため、この膨張は樹脂35の弾性によって吸収できる程度にとどまる。しかし、経時劣化によって樹脂35による接着力が低下した場合や、永久磁石10にめっき等が施されて樹脂35が接着しない場合には、図3(b)に示すように永久磁石10の磁化垂直方向への変形が許容されてしまう。この結果、永久磁石10が磁化垂直方向へ膨張すると、永久磁石10が磁化垂直方向領域23Aa、23Ba内の樹脂部35aを押圧するため、樹脂部35aを介してロータコア9も押圧されて、ロータコア9に応力集中が生じてしまう。
【0041】
これに対して、本実施例では、樹脂35の接着力が低下してしまった場合においても、永久磁石10の膨張変形を樹脂部35aの穴37により吸収することができる。このため、樹脂部35aを介してロータコア9を押圧する力は小さくなり、ロータコア9に応力集中が生じにくくなる。
【0042】
また、図4に示す比較例2、3では、穴37が永久磁石10の軸方向の一部に対応する箇所にのみ設けられている。例えば、比較例2では、穴37が永久磁石10の軸方向両端にそれぞれ開口するように設けられているが、その深さは浅く、永久磁石10の軸方向端部の一部のみに対応する軸方向深さに設けられている。また、比較例3では、永久磁石の軸方向端部に対応する軸方向位置にまで穴37が到達していない。
すなわち、比較例2、3では、軸方向に延びる穴37が永久磁石10の軸方向全長に亘って連続して設けられていない。
【0043】
この場合、軸方向において穴37の存在する箇所においてはロータコア9に対する押付力が低下するが、穴37が存在しない箇所においてはロータコア9に対する押付力が低減されず、結局、ロータコア9に応力集中が生じてしまう。
これに対して、本実施例では、図2に示すように、磁化垂直方向領域23Aa、23Ba内の樹脂部35aに軸方向に延びる穴37が永久磁石10の軸方向全長に亘って連続して設けられているため、永久磁石10が存在する軸方向全体に亘って均一に永久磁石10の変形を吸収でき、ロータコア9の応力集中を緩和することができる。
【0044】
また、本実施例によれば、穴37は、軸方向からみて、磁化方向に長い穴形状である。これによれば、永久磁石10の磁化方向の広い範囲において磁化垂直方向への寸法変化を吸収することができる。
【0045】
なお、樹脂部35aに穴37を設けるための加工工程としては、図5(a)に示すように、上型Xと下型Yとの間に、磁石収容孔12に永久磁石10を収容した状態でロータコア9をセットし、隙間23Aaに上型Xから延びるピンPの下端を下型Yに当接させた状態で樹脂35を流し込み、硬化させる方法がある。
しかし、この場合には、図5(c)に示すように、ピンPの下端のわずかな隙間に流れ込む微小の樹脂によって樹脂の薄膜tが形成されてしまう場合がある。この薄膜tの厚さは、ロータコア9を形成する電磁鋼板の1枚分の厚みよりも薄いものであり無視できるものであるため、本実施例の「磁化垂直方向領域23Aa、23Ba内の樹脂部35aに軸方向に延びる穴37が永久磁石10の軸方向全長に亘って連続して設けられている」場合とは、この薄膜tが残ってしまっている場合も含まれる。
【0046】
また、図5(b)に示すように、永久磁石10の軸方向一端面がロータコア9の軸方向一端面と面一ではなく、永久磁石10の軸方向一端面を覆うように樹脂35が設けれていてもよい。
【0047】
また、本実施例では、加熱によって磁化垂直方向に収縮し、冷却時には磁化垂直方向に膨張する永久磁石10を例にとって、作用効果を説明した。しかし、例えばフェライト磁石のように冷却時に磁化垂直方向に収縮する場合であっても、磁化垂直方向の線膨張係数が電磁鋼板の線膨張係数よりも小さい場合には、熱負荷による永久磁石10の寸法変化によってロータコア9を押し付けるという課題が生じるため、本実施例と同様の作用効果を奏する。
【0048】
〔実施例2〕
実施例2を、実施例1とは異なる点を中心に図6を用いて説明する。
本実施例では、図6(a)に示すように、軸方向からみた穴37の形状が磁化方向に細長い楕円形である。なお、楕円に限らず長円や磁化方向に細長い多角形であってもよい。
なお、図6(b)に示すように、穴37が丸穴であってもよい。
【0049】
〔実施例3〕
実施例3を、実施例1とは異なる点を中心に図7を用いて説明する。
本実施例によれば、樹脂部35aに開けられた穴37ではなく、磁化垂直方向領域23Aa、23Baに軸方向に延びる空隙部38が永久磁石10の軸方向全長に亘って連続して設けられている。
【0050】
例えば、図7(a)に示すように、永久磁石10の側面17cと樹脂35との間に空隙部38が形成されている。なお、磁化垂直方向領域23Ba側も同様の構成であり、側面17dと樹脂35との間に空隙部38が形成されている。
この場合でも、空隙部38が穴37と同様の役割を果たし、永久磁石10の変形を吸収し、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0051】
また、図7(b)に示すように、磁化垂直方向領域23Aaを形成する磁石収容孔12の内周面と樹脂35との間に空隙部38が設けられていてもよい。
また、図7(c)に示すように、磁化垂直方向領域23Aa全体が空隙部38となっていてもよい。すなわち、磁化垂直方向領域23Aaには樹脂35が注入されない態様でもよい。
【0052】
また、図7(d)に示すように、永久磁石10の側面17cに磁化垂直方向に凹む凹部を設けて、その凹部を空隙部38としてもよい。
【0053】
〔実施例4〕
実施例4を、実施例1とは異なる点を中心に図8を用いて説明する。
本実施例では、穴37の周囲を囲む樹脂35の厚みが略均一である。
すなわち、磁化垂直方向領域23Aaが軸方向からみて三角形状の空間となっており、磁化垂直方向領域23Aa内の樹脂部35aに設けられる穴37の穴形状は磁化垂直方向領域23Aaの三角形状とほぼ相似形状となっている。これにより、穴37の周囲を囲む樹脂35の厚みが略均一となる。
磁化垂直方向領域23Ba側も同様に、磁化垂直方向領域23Baの樹脂部35aに設けられる穴37の穴形状が、磁化垂直方向領域23Baの形状とほぼ相似形状となっている。
また、本実施例では、樹脂35は熱可塑性樹脂である。
【0054】
これによれば、穴37の周囲を囲む樹脂35の厚みが略均一であるため、樹脂35を充填する際の樹脂35の流れの圧力変化を小さくすることができる。このため、ブリスタ(水ぶくれ)等が発生せず、均一に成形が可能となる。また、樹脂35の流れの圧力変化が少なくなるため、熱可塑性樹脂を用いた射出成型による加工も可能となる。
【0055】
また、本実施例では、熱可塑性樹脂を用いているため、熱硬化性樹脂を用いる場合と比較して、硬化時間が不要なので加工時間が短縮でき、さらに、樹脂の再利用をすることもできる。
【0056】
〔実施例5〕
実施例5を、実施例1とは異なる点を中心に図9を用いて説明する。
本実施例では、穴37に発泡性樹脂が充填されている。
発泡性樹脂には気泡が多数含まれているため、結果として、実施例1のように何も充填されていない穴37と同様に、寸法変化に対する吸収効果を得ることができる。
【0057】
〔変形例〕
本発明の実施態様は、実施例に限定されず種々の変形例を考えることができる。
例えば、実施例の回転電機1はステータ2の内周側にロータ3を有するインナーロータ型であったが、アウターロータ型のものに本発明を適用してもよい。
【0058】
また、実施例では、磁化垂直方向領域23Aa、23Baの両方に穴37もしくは空隙部38を設けていたが、磁化垂直方向領域23Aa、23Baのいずれか一方に設けるだけでもよい。
また、実施例では、永久磁石10が矩形断面を有していたが、この形状に限られない。例えば、側面17cと側面17dとの磁化方向長さを異ならせて台形状断面としてもよい。また、側面17a、17bを共に内周側または外周側に中心を有する円弧としてもよいし、側面17c、側面17dを円弧としてもよい。また、側面17a〜17dが屈曲していてもよい。
【0059】
また、実施例では、2つの永久磁石10を、ロータ3の外周側に向けて開くV字状に配置していたが、2つの永久磁石10を、ロータ3の内周側に向けて開くV字状に配置してもよい。また、図11(a)に示す従来例のように、2つの永久磁石10を同一直線状に配置してもよい。
【0060】
また、実施例では、2つの永久磁石10によって1磁極が構成されていたが、1つの永久磁石10で1磁極を構成してもよいし、3つ以上の永久磁石10で1磁極を構成してもよい。
【0061】
また、図10に示すように、ロータコア9が複数(例えば3つ)のブロック9X〜9Zに分割されており、ブロック毎に磁石収容孔12及び永久磁石10を設けて、各ブロックの磁石収容孔12及び永久磁石10の位置を周方向にずらすことによって、スキューを形成したものでもよい。この場合、各ブロックに実施例で説明した穴37が適用されている。
そして、図10(b)のように、ブロック毎の間で永久磁石10及び穴37が樹脂35により分断されている場合でも、各ブロックにおいて穴37が少なくとも永久磁石10の軸方向全長に亘って延びていればよい。
【符号の説明】
【0062】
1 回転電機
2 ステータ
3 ロータ
9 ロータコア
10 永久磁石
12 磁石収容孔
15 ブリッジ
23Aa 磁化垂直方向領域
23Ba 磁化垂直方向領域
35 樹脂
35a 樹脂部
37 穴(空隙部)
38 空隙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、
前記ステータと相対回転可能に配置され、永久磁石がロータコアに形成された磁石収容孔内に埋め込まれてなるロータとを備え、
前記磁石収容孔内で前記永久磁石の周囲に形成される隙間の少なくとも一部に充填された樹脂によって、前記永久磁石が前記磁石収容孔に固定される回転電機であって、
前記隙間の内、前記永久磁石の磁化方向に垂直な方向側に形成される磁化垂直方向領域には、軸方向に延びる空隙部が前記永久磁石の軸方向全長に亘って連続して設けられていることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機において、
前記磁化垂直方向領域は、前記樹脂が充填されており、
前記空隙部は、前記磁化垂直方向領域に充填された樹脂部に形成された軸方向に延びる穴であり、
前記穴の周囲を囲む前記樹脂の厚みが略均一であることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1または2に記載の回転電機において、
前記磁化垂直方向領域は、前記樹脂が充填されており、
前記空隙部は、前記磁化垂直方向領域に充填された樹脂部に形成された軸方向に延びる穴であり、
前記穴は、軸方向からみて、磁化方向に長い穴形状であることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載の回転電機において、
前記樹脂は、熱可塑性樹脂であることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
ステータと、
前記ステータと相対回転可能に配置され、永久磁石がロータコアに形成された磁石収容孔内に埋め込まれてなるロータとを備え、
前記磁石収容孔内で前記永久磁石の周囲に形成される隙間の少なくとも一部に充填された樹脂によって、前記永久磁石が前記磁石収容孔に固定される回転電機であって、
前記隙間の内、前記永久磁石の磁化方向に垂直な方向側に形成される磁化垂直方向領域には、軸方向に延びる空隙部が前記永久磁石の軸方向全長に亘って連続して設けられており、
前記空隙部には、発泡性樹脂が充填されていることを特徴とする回転電機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−66345(P2013−66345A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−204776(P2011−204776)
【出願日】平成23年9月20日(2011.9.20)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】