説明

固体電解コンデンサ用セパレータ及びそれを用いた固体電解コンデンサ

【課題】本発明の課題は、静電気を帯びず、巻きずれが起きず、導電性高分子モノマーの吸液性に優れる固体電解コンデンサ用セパレータ及びそれを用いてなる固体電解コンデンサを提供することにある。
【解決手段】フィブリル化耐熱性繊維と合成短繊維を含有し、表面抵抗が104.7〜109.9Ω/cmである湿式不織布からなることを特徴とする固体電解コンデンサ用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解コンデンサ用セパレータ及びそれを用いた固体電解コンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
陽極、陰極、セパレータ及び電解質を含有してなるコンデンサにおいて、電解質として導電性高分子を用いる固体電解コンデンサでは、セパレータとして最も一般的に使用されているのは、エスパルトや麻パルプなどのセルロース繊維100%からなる紙セパレータである。紙セパレータは、導電性高分子を重合する際に用いる酸化剤と反応し、導電性高分子の重合を阻害してしまうという欠点がある。重合を阻害しないように、紙セパレータには、予め炭化処理が施される。炭化処理は一般的に280℃以上の温度で行われることが多い。そのため、固体電解コンデンサの製造工程が煩雑になる、炭化処理によって紙セパレータが脆くなり、崩れやすくなる、電極のバリがセパレータを貫通しやすくなり、ショート不良率が高くなる、リード線や封止材などのコンデンサ部品が劣化する等の問題があった。
【0003】
このような紙セパレータの代わりに、合成繊維を主体とする不織布を用いたセパレータを用いた固体電解コンデンサが開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、コンデンサにおいて、近年、リフロー耐熱性の要求温度が高くなってきているが、融点又は熱分解温度が250℃以上のフィブリル化高分子を含有する湿式不織布が固体電解コンデンサ用セパレータとして提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、特許文献1及び2のセパレータは、取り扱い時に摩擦により静電気を帯びやすく、異物を付着させやすい問題、コンデンサ素子の巻回時に電極箔とセパレータが巻きずれしやすい問題が発生していた。
【0004】
一方、電解質として液体の電解液を用いる電解コンデンサでも、最も一般的に使用されているのは、紙セパレータであるが、高周波域におけるESR特性に問題があった。低ESRを実現することを目的として、セパレータ基材に導電性高分子を化学酸化重合させてなる導電性セパレータ(例えば、特許文献3参照)、導電性高分子溶液に多孔質基体を含浸させてなる導電性多孔質体をセパレータとして使用した電解コンデンサ(例えば、特許文献4参照)が開示されている。
【0005】
特許文献3のセパレータには、未反応のモノマーが残留する問題、未反応のモノマーを洗浄除去する工程が必要な問題、化学酸化重合を何度も繰り返さなくてはならない問題があった。また、特許文献3のセパレータは、セパレータ基材の材質と構成について深く検討されていないため、必ずしもリフロー耐熱性が十分ではない問題があった。そして、特許文献3の電解コンデンサ用セパレータを固体電解コンデンサ用セパレータとして使用すると、導電性高分子の付着量が多いため、セパレータの繊維間隙を必要以上に閉塞してしまい、導電性高分子モノマーの吸液性が悪くなる問題、導電性高分子の重合が不均一になる問題が発生した。
【0006】
特許文献4の導電性多孔質体も、材質と構成について深く検討されていないため、リフロー耐熱性が十分ではない問題があった。そして、特許文献4の電解コンデンサ用セパレータを固体電解コンデンサ用セパレータとして使用すると、多孔質基体が紙セパレータであるため、固体電解質である導電性高分子の重合が阻害され、導電性高分子の形成が不均一になるという問題が発生した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−82638号公報
【特許文献2】特開2004−235293号公報
【特許文献3】特開2004−303941号公報
【特許文献4】特開2007−95507号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、静電気を帯びず、巻回時に巻きずれが起こらず、導電性高分子モノマーの吸液性に優れる固体電解コンデンサ用セパレータ及びそれを用いてなる固体電解コンデンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、フィブリル化耐熱性繊維、合成短繊維、導電性高分子複合体を必須成分として含有し、表面抵抗が104.7〜109.9Ω/cmである湿式不織布からなることを特徴とする固体電解コンデンサ用セパレータを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明の固体電解コンデンサ用セパレータは、フィブリル化耐熱性繊維、合成短繊維、導電性高分子複合体を必須成分として含有してなり、表面抵抗が104.7〜109.9Ω/cmである湿式不織布からなる。本発明の固体電解コンデンサ用セパレータは、導電性高分子複合体がセパレータ全体を完全に覆うものではなく、導電性が不十分なため、それのみでは固体電解コンデンサの固体電解質として機能しないが、静電気を帯びず、巻回時に巻きずれが起こらず、導電性高分子モノマーの吸液性に優れるという効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明においては、導電性高分子複合体を担持させてなるセパレータ及びそれ以外の固体電解コンデンサ用セパレータのことを単に「セパレータ」と表記することもある。導電性高分子複合体を担持させていない湿式不織布のことを単に「湿式不織布」と表記することもある。
【0012】
本発明におけるフィブリル化耐熱性繊維とは、高圧ホモジナイザー、リファイナー、ビーター、ミル、摩砕装置などを用いて微細化処理されてなる耐熱性繊維を意味する。耐熱性繊維とは、融点と熱分解温度が270℃以上の繊維を意味し、例えば、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、ポリ−p−フェニレンベンゾビスチアゾール、ポリ−p−フェニレンベンゾビスオキサゾール、ポリベンゾイミダゾール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、アクリル類からなる単繊維又は複合繊維が挙げられる。これらの中でも、液晶性のため均一にフィブリル化されやすい全芳香族ポリアミド、特にパラ系全芳香族ポリアミドと全芳香族ポリエステルが好ましい。
【0013】
本発明における湿式不織布中のフィブリル化耐熱性繊維の含有率は、5〜80質量%が好ましく、10〜70質量%がより好ましく、20〜70質量%がさらに好ましい。5質量%未満だと、リフロー耐熱性が不十分になる場合や導電性高分子複合体の担持量が不十分になる場合がある。80質量%より多いと、セパレータの強度が不十分になる場合がある。
【0014】
本発明における合成短繊維としては、上記した耐熱性繊維、ポリエステル類、アクリル類、ポリアミド類の樹脂を紡糸して得られる短繊維が挙げられる。ポリエステル類としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレートなどが挙げられる。アクリル類としては、アクリロニトリル100%の重合体からなるもの、アクリロニトリルに対して、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等の(メタ)アクリル酸誘導体、酢酸ビニルなどを共重合させたものが挙げられる。ポリアミド類としては、脂肪族ポリアミド、芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミドが挙げられる。ポリエステル類とアクリル類からなる合成短繊維は、低ESRが得られる傾向がある。全芳香族ポリアミドからなる合成短繊維は、セパレータの耐熱性を向上させる。
【0015】
合成短繊維は、単一成分からなる繊維でも良いし、2種類以上の成分からなる複合繊維でも良い。複合繊維としては、芯鞘型、偏芯型、サイドバイサイド型、海島型、オレンジ型、多重バイメタル型、分割型が挙げられる。分割型複合繊維としては、異なる成分からなる樹脂が相互に隣接してなる繊維や海島型繊維が挙げられる。前者はパルパーやミキサーなどで攪拌する方法や高圧水流を当てる方法により機械的に、後者は海成分の樹脂を薬品で溶出する方法により化学的に分割させて、極細繊維を得ることができる。前者の分割型複合繊維の断面形状としては、放射状型、層状型、櫛型、碁盤型等が挙げられる。分割型複合繊維の平均繊維径は3.0〜18.0μmが好ましく、6.0〜16.0μmがより好ましい。3.0μm未満だと、分割しにくくなる場合があり、18.0μmより太いと、分割後の極細繊維断面の長軸が長くなるため、不織布の空隙を閉塞する場合がある。
【0016】
合成短繊維の各々の平均繊維径は、0.1〜12.0μmが好ましく、0.5〜10.0μmがより好ましい。分割型複合繊維の分割後の平均繊維径もこの範囲が好ましい。12.0μmより太いと、不織布の厚みを薄くしにくい場合がある。0.1μm未満だと、繊維の安定製造が困難になる。平均繊維径とは、繊維断面の面積を真円の同じ面積の直径に換算した値を指す。合成短繊維の繊維長は、0.1〜10mmが好ましく、0.3〜6mmがより好ましい。繊維長が0.1mm未満だと、不織布の強度が不十分になる場合があり、10mmより長いと繊維同士が撚れて地合斑や厚み斑を生じる場合がある。
【0017】
本発明における湿式不織布中の合成短繊維の含有率は、20〜95質量%が好ましく、30〜90質量%がより好ましい。20質量%未満だと、引張強度や突刺強度が不十分になる場合があり、95質量%を超えると、毛羽立ちやすくなる場合がある。
【0018】
本発明における湿式不織布は、フィブリル化耐熱性繊維以外のフィブリル化繊維や合成短繊維以外の短繊維を含有しても良い。フィブリル化繊維としては、天然繊維、溶剤紡糸セルロース繊維、キュプラ繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリエーテルスルホン繊維が挙げられる。合成短繊維以外の短繊維としては、天然繊維、溶剤紡糸セルロース繊維、キュプラ繊維が挙げられる。天然繊維としては、木材由来のセルロース繊維、麻、綿、サトウキビなどの非木材由来のセルロース繊維、バイオセルロース繊維、羊毛、絹が挙げられる。
【0019】
本発明におけるフィブリル化耐熱性繊維、フィブリル化繊維は、JIS P8121に規定されるカナダ標準濾水度が0〜600mlであることが好ましく、0〜400mlであることがより好ましい。カナダ標準濾水度が600mlより大きいと、繊維径分布が広くなり、不織布の地合斑や厚み斑を生じる場合がある。
【0020】
本発明における導電性高分子複合体とは、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリフェニレン類、ポリフェニレンビニレン類、ポリアニリン類、ポリアセン類、ポリチオフェンビニレン類、及びこれらの共重合体などの導電性高分子と非導電性樹脂との複合体であり、導電性を有する。該複合体は、導電性高分子と非導電性樹脂の混合物でも良く、化学反応物でも良いが、複合物の強度が強い点で化学反応物が好ましい。非導電性樹脂としては、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂の何れでも良い。熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂やアルキド樹脂などのポリエステル系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ポリウレタン、ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、アクリル系樹脂などが挙げられる。導電性高分子と非導電性樹脂の混合分散液を湿式不織布に含浸又は塗工した後、加熱乾燥することにより、導電性高分子複合体が形成され、湿式不織布に固着する。導電性高分子と非導電性樹脂を化学反応させるため、導電性高分子及び非導電性樹脂に、アルキル基、カルボキシ基、スルホ基、アルコキシ基、ヒドロキシ基、シアノ基、エポキシ基等の官能基を導入することが好ましい。導電性高分子と非導電性樹脂との化学反応により架橋が進行し、強固な導電性高分子複合体が形成される。導電性高分子複合体の導電性高分子成分は、固体電解コンデンサの固体電解質である導電性高分子と同類のものが好ましい。
【0021】
導電性高分子と非導電性樹脂の混合分散液の媒体は、水、水と有機溶媒との混合媒体が挙げられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチレンホスホルトリアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、クレゾール、フェノール、キシレノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、D−グルコース、D−グルシトール、イソプレングリコール、ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジオキサン、ジエチルエーテル、ジアルキルエーテル、プロピレングリコールジアルキルエーテル、ポリエチレングリコールジアルキルエーテル、ポリプロピレングリコールジアルキルエーテル、3−メチル−2−オキサゾリジノン、アセトニトリル、グルタロジニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリルなどが挙げられる。
【0022】
本発明における導電性高分子と非導電性樹脂の混合分散液には、必要に応じて導電助剤やドーパントを含有しても良い。導電助剤としては、窒素含有芳香族性環式化合物、2個以上のヒドロキシル基を有する化合物、2個以上のカルボキシル基を有する化合物、1個以上のヒドロキシル基及び1個以上のカルボキシル基を有する化合物、アミド基を有する化合物、イミド基を有する化合物、ラクタム化合物、グリシジル基を有する化合物などが挙げられる。ドーパントとしては、アルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、メチルトリエチルアンモニウム、ジメチルジエチルアンモニウム等の4級アミン塩化合物、アクセプタ性の無機酸や有機酸、ポリアニオン、ハロゲン化合物、ルイス酸、プロトン酸、有機シアノ化合物、有機金属化合物が挙げられる。ポリアニオンとしては、ポリアルキレン、ポリアルケニレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステルの何れかであって、アニオン基を有する構成単位のみからなるポリマー、アニオン基を有する構成単位とアニオン基を有さない構成単位とからなるポリマーが挙げられる。ポリアニオンのアニオン基としては、スルホ基、カルボキシル基が挙げられる。
【0023】
本発明のセパレータの製造方法は、フィブリル化耐熱性繊維と合成短繊維を含有する湿式不織布に、導電性高分子と非導電性樹脂の混合分散液を含浸又は塗工して、加熱乾燥する。含浸はディップコーターなどの含浸機を用いれば良い。塗工は、トランスファロールコーター、リバースロールコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、グラビアコーター、ダイコーター、ノッチバーコーター、エアドクターコーター、キャストコーター、スプレーコーターなどを用いれば良い。加熱乾燥は、熱風乾燥機、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、赤外線ヒーター、遠赤外線ヒーターなどを単独使用又は併用すれば良い。必要に応じて紫外線照射を併用しても良い。これにより、導電性高分子と非導電性樹脂が架橋反応し、導電性高分子複合体が湿式不織布に担持される。本発明のセパレータは、導電性高分子と非導電性樹脂の混合分散液を含浸又は塗工して作製されるため、導電性高分子モノマーを何度も繰り返して化学重合する必要がない。また、導電性高分子複合体は、フィブリル化耐熱性繊維に担持されやすいため、導電性高分子と非導電性樹脂の混合分散液を何度も繰り返して含浸又は塗工する必要がない。
【0024】
本発明のセパレータは、表面抵抗が104.7〜109.9Ω/cmであり、106.0〜109.9Ω/cmがより好ましい。表面抵抗が104.7Ω/cm未満だと、導電性高分子複合体の担持量が多く、繊維間隙を必要以上に閉塞してしまい、固体電解質を形成させる際に使用する導電性高分子モノマーの吸液性が悪くなる。109.9Ω/cmを超えると静電気を帯びてしまう。
【0025】
本発明においては、湿式不織布に対する導電性高分子複合体の担持量は、0.20〜2.50g/mが好ましく、0.30〜2.50g/mがより好ましく、0.30〜2.00g/mがさらに好ましく、0.30〜0.99g/mが特に好ましい。担持量が0.20g/m未満だと、静電気を帯びてしまう場合がある。担持量が0.20g/m以上だと、導電性高分子モノマーとの親和性が増すため、導電性高分子モノマーの吸液性が向上する。しかし、担持量が0.20〜0.30g/m未満だと、湿式不織布の表面状態や密度によって、表面抵抗が必ずしも109.9Ω/cm以下にならず、静電気を帯びる場合があり、担持量が0.30g/m以上であれば、確実に静電気を帯びない。担持量が0.99g/mより多くなると、導電性高分子モノマーの吸液性は、導電性高分子複合体を担持させていないセパレータよりも良好ではあるものの低下していき、担持量が2.50g/mより多くなると、必要以上に繊維間隙が閉塞されてしまい、導電性高分子モノマーの吸液性が悪くなる場合がある。
【0026】
本発明のセパレータは、必要に応じて熱処理、熱カレンダー処理、熱プレス処理を施されても良い。熱処理は、所定温度の恒温乾燥機中で所定時間加熱する方法、所定温度に加熱したロールに接触させて連続処理する方法が挙げられる。熱カレンダー及び熱プレスの線圧としては、50〜2500N/cmが好ましく、100〜2000N/cmがより好ましい。
【0027】
本発明における湿式不織布は、単層でも多層でも良い。多層とは、構成材料、配合率、坪量などが全て同じである層を2層以上積層したもの、構成材料、配合率、坪量などの条件が1つ以上異なる層を2層以上積層したものを指す。多層の不織布を作製するには、円網抄紙機、長網抄紙機、短網抄紙機、傾斜型抄紙機、傾斜短網抄紙機の中から同種又は異種の抄紙機を組み合わせてなるコンビネーション抄紙機を用いて多層抄紙する方法、不織布を積層して熱圧処理して接着させる方法、不織布間に熱溶融材料を配置して熱圧処理して接着させる方法が挙げられる。湿式抄紙の場合は、傾斜型抄紙機や傾斜短網抄紙機の抄網へのスラリー供給を多段にしたもので多層抄紙しても良い。本発明においては、湿式抄紙した後や多層にした後に、必要に応じてカレンダー処理、熱カレンダー処理、熱処理などを施しても良い。
【0028】
本発明のセパレータの厚みは、10〜100μmが好ましく、20〜80μmがより好ましく、20〜60μmがさらに好ましい。厚みが10μm未満だと、引張強度が不十分になる場合があり、100μm超だと、固体電解コンデンサのESRが大きくなる場合がある。
【0029】
本発明のセパレータの密度は、0.250〜0.600g/cmが好ましく、0.300〜0.500g/cmがより好ましく、0.300〜0.450g/cmがさらに好ましい。密度が0.250g/cm未満だと、引張強度が不十分な場合があり、0.600g/cm超だと、固体電解コンデンサのESRが高くなる場合がある。
【0030】
本発明における固体電解コンデンサとは、固体電解質として導電性高分子を用いる固体電解コンデンサを指す。導電性高分子としては、ポリピロール類、ポリチオフェン類、ポリアニリン類、ポリアセチレン類、これらの誘導体が挙げられる。本発明においては、固体電解コンデンサが導電性高分子と電解液とを併用したものでも良い。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。
【0032】
表1に、本発明における湿式不織布を構成するフィブリル化耐熱性繊維及び合成短繊維を示した。表1のフィブリル化耐熱性繊維は、フィブリル化パラ型全芳香族ポリアミド繊維である。ポリエステル短繊維は、ポリエチレンテレフタレート短繊維である。芯鞘複合型ポリエステル短繊維は、芯部にポリエチレンテレフタレート、鞘部にポリエチレンテレフタレートよりも低融点のポリエステルを配してなる短繊維である。表1の「濾水度」は、カナダ標準型濾水度(JIS P8121)を意味する。表2に、本発明における湿式不織布を作製するためのスラリーを示した。スラリーは、所定の繊維をパルパーで水に分散させて調製した。必要に応じて分散助剤、消泡剤、増粘剤の何れか又は全部を添加した。表2の「繊維」で使用されている記号は、表1の記号に該当する。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
(湿式不織布1〜11)
スラリー1〜11を円網抄紙機に送液し、湿式抄紙し、ヤンキードライヤー温度を140℃にして乾燥させた。次いで、210℃に加熱した2本のロールを用いて湿式不織布の表裏面を接触させて熱処理し、湿式不織布1〜11を作製した。
【0036】
[評価]
本発明で作製した湿式不織布について、下記の評価を行い、結果を表3に示した。
【0037】
<厚み>
JIS P8118に準拠して厚みを測定し、その平均値を示した。
【0038】
<密度>
JIS P8124に準拠して不織布の坪量を測定し、坪量を厚みで除して100倍した値と密度とした。
【0039】
<ガーレー透気度>
JIS P8117に規定されるガーレー透気度計(東洋製作所製、装置名:ガーレー式デンソメータG−B2C)を用いて、外径28.6mmの円孔に密着固定された湿式不織布試料について、100mlの空気が通過する時間を計測した。
【0040】
【表3】

【0041】
(実施例1〜31)
ポリチオフェンと熱硬化性樹脂の混合分散液(信越ポリマー製、商品名:セプルジーダ(登録商標)AS−D006)をイオン交換水で3〜20倍に希釈した。これを湿式不織布1〜10に含浸し、余剰液を搾り取って120℃で乾燥させて、導電性高分子複合体を担持させた実施例1〜31の固体電解コンデンサ用セパレータを作製した。
【0042】
(比較例1〜10)
導電性高分子を担持させていない湿式不織布1〜10をそのまま比較例1〜10の固体電解コンデンサ用セパレータとした。
【0043】
(比較例11)
ポリチオフェンと熱硬化性樹脂の混合分散液(信越ポリマー製、商品名:セプルジーダ(登録商標)AS−D006)をイオン交換水で30倍に希釈した。これを湿式不織布6に含浸し、余剰液を搾り取って120℃で乾燥させて、導電性高分子複合体を担持させた比較例11の固体電解コンデンサ用セパレータを作製した。
【0044】
(比較例12)
湿式不織布6にポリチオフェンと熱硬化性樹脂の混合分散液(信越ポリマー製、商品名:セプルジーダ(登録商標)AS−D006)を含浸し、余剰液を搾り取って120℃で乾燥させて、導電性高分子複合体を担持させた比較例12の固体電解コンデンサ用セパレータを作製した。
【0045】
(比較例13)
ポリチオフェンと熱硬化性樹脂の混合分散液(信越ポリマー製、商品名:セプルジーダ(登録商標)AS−D006)をイオン交換水で2倍に希釈した。これを湿式不織布7に含浸し、余剰液を搾り取って120℃で乾燥させて、導電性高分子複合体を担持させた比較例13の固体電解コンデンサ用セパレータを作製した。
【0046】
(比較例14)
ポリチオフェンと熱硬化性樹脂の混合分散液(信越ポリマー製、商品名:セプルジーダ(登録商標)AS−D006)をイオン交換水で25倍に希釈した。これを湿式不織布5に含浸し、余剰液を搾り取って120℃で乾燥させて、導電性高分子複合体を担持させた比較例14の固体電解コンデンサ用セパレータを作製した。
【0047】
(比較例15)
ポリチオフェンと熱硬化性樹脂の混合分散液(信越ポリマー製、商品名:セプルジーダ(登録商標)AS−D006)をイオン交換水で5倍に希釈した。これを湿式不織布11に含浸し、余剰液を搾り取って120℃で乾燥させて、導電性高分子複合体を担持させて、さらにポリチオフェンと熱硬化性樹脂の混合分散液を含浸させる作業を10回繰り返し行い、比較例15の固体電解コンデンサ用セパレータを作製した。
【0048】
(比較例16)
エスパルトと麻パルプからなる紙(厚み50μm、密度0.40g/cm、ガーレー透気度3.2s/100ml)に、ポリチオフェンと熱硬化性樹脂の混合分散液(信越ポリマー製、商品名:セプルジーダ(登録商標)AS−D006)を含浸したが、紙が崩れてしまい、導電性高分子複合体を担持させることができなかった。
【0049】
[評価]
本発明の実施例及び比較例の固体電解コンデンサ用セパレータについて、下記の評価を行い、結果を表4に示した。
【0050】
<担持量>
導電性高分子複合体を担持させたセパレータの坪量W1から、担持させる前の湿式不織布の坪量W0を差し引いて得られる値を導電性高分子複合体の担持量とした。
【0051】
<厚み>
JIS P8118に準拠して厚みを測定し、その平均値を示した。
【0052】
<ガーレー透気度>
JIS P8117に規定されるガーレー透気度計(東洋製作所製、装置名:ガーレー式デンソメータG−B2C)を用いて、外径28.6mmの円孔に密着固定されたセパレータ試料について、100mlの空気が通過する時間を計測した。
【0053】
<表面抵抗>
表面抵抗計(シムコジャパン製、装置名:表面抵抗計ST−4)を用いて、セパレータの表面抵抗を測定した。
【0054】
<巻きずれ>
セパレータを3.0mm巾にスリット加工した。セパレータ、正極用のアルミニウム箔、セパレータ、負極用のアルミニウム箔の順に重ねながら巻回機にかけて巻回した。このとき、セパレータの静電気が原因で巻きずれが発生した場合を「あり」、静電気が発生せず、巻きずれが発生しなかった場合を「なし」とした。
【0055】
<吸液性>
セパレータを長手方向に10mm、長手方向に対して直角の方向に100mmの短冊状に切り揃えた。ポリチオフェンのモノマーである3,4−エチレンジオキシチオフェン(スタルクヴィテック製、商品名:バイトロン(登録商標)M)にセパレータの下端10mmを浸漬して固定し、3分間に吸い上がるモノマーの高さを計測し、吸液性とした。
【0056】
【表4】

【0057】
(固体電解コンデンサ)
厚み50μm、エッチング孔1〜5μmのアルミニウム箔の表面を酸化処理して、酸化アルミニウム誘電体を形成させ、これを陽極として用いた。酸化処理する前のアルミニウム箔を陰極として用いた。固体電解コンデンサ用セパレータを陽極の誘電体上に配置し、陰極と合わせて巻き取り、固体電解コンデンサ素子を作製した。この素子を3,4−エチレンジオキシチオフェン:p−トルエンスルホン酸第二鉄の50質量%ブタノール溶液を質量比で1:20になるように混合した溶液(重合溶液)に浸漬し、引き上げて200℃で30分加熱してポリエチレンジオキシチオフェンを重合した。この素子をメタノールで洗浄してセパレータに残留している未反応の3,4−エチレンジオキシチオフェンとp−トルエンスルホン酸第二鉄を除去した後、120℃で乾燥させた。同様に、ポリエチレンジオキシチオフェンの重合作業をもう1回繰り返した後、素子をアルミニウム製外装缶に収納して封口し、定格電圧25V、定格静電容量33μFの固体電解コンデンサを作製した。表5の固体電解コンデンサ1〜31は、実施例1〜31のセパレータを具備してなる固体電解コンデンサを意味する。固体電解コンデンサ32〜46は、比較例1〜15のセパレータを具備してなる固体電解コンデンサを意味する。比較例16のセパレータは作製できなかったため、該セパレータを具備した固体電解コンデンサも作製することができなかった。
【0058】
[評価]
本発明の実施例及び比較例の固体電解コンデンサについて、下記の評価を行い、結果を表5に示した。
【0059】
<リフロー後不良率>
固体電解コンデンサを260℃の半田浴に30秒間漬けてリフロー処理し、取り出して放冷した後、ESRを測定した。セパレータが溶解や変形するなどしてショートしたり、ESRが異常値を示した電解コンデンサの割合をリフロー後不良率とした。リフロー後不良率が小さいほど、リフロー耐熱性に優れることを意味する。
【0060】
【表5】

【0061】
実施例1〜31の固体電解コンデンサ用セパレータは、フィブリル化耐熱性繊維、合成短繊維、導電性高分子複合体を必須成分として含有し、表面抵抗が104.7〜109.9Ω/cmである湿式不織布からなるため、静電気を帯びず、巻回時に巻きずれが発生せず、導電性高分子モノマーの吸液性に優れており、該セパレータを具備した固体電解コンデンサは、リフロー耐熱性に優れていた。
【0062】
実施例1、5、9、12、22、26のセパレータは、導電性高分子複合体の担持量が0.20g/m以上0.30g/m未満であるため、表面抵抗が10Ω/cm台と高めであった。実施例21の固体電解コンデンサ用セパレータは、導電性高分子複合体の担持量が2.6g/mだったため、繊維間隙がやや閉塞されており、導電性高分子モノマーの吸液性は、導電性高分子複合体を担持させる前の湿式不織布(比較例6)と同等であった。
【0063】
一方、比較例1〜10の固体電解コンデンサ用セパレータは、フィブリル化耐熱性繊維と合成短繊維を含有してなるので、比較例1〜10の固体電解コンデンサ用セパレータを具備してなる固体電解コンデンサは、リフロー耐熱性に優れていたが、導電性高分子複合体を含有せず、表面抵抗が109.9Ω/cm超であるため、静電気を帯び、巻回時に巻きずれが発生した。また、導電性高分子モノマーの吸液性のレベルは良好ではあるが、導電性高分子複合体を担持していないため、固体電解質である導電性高分子との親和性に劣り、導電性高分子モノマーの吸液性が実施例1〜20、22〜31の固体電解コンデンサ用セパレータよりも劣っていた。
【0064】
比較例11の固体電解コンデンサ用セパレータは、フィブリル化耐熱性繊維、合成短繊維、導電性高分子複合体を必須成分として含有してなり、導電性高分子モノマーの吸液性は良好で、該セパレータを具備してなる固体電解コンデンサは、リフロー耐熱性に優れていたが、表面抵抗が109.9Ω/cm超であるため、静電気を帯び、巻回時に巻きずれが発生した。
【0065】
比較例12、13の固体電解コンデンサ用セパレータは、フィブリル化耐熱性繊維、合成短繊維、導電性高分子複合体を必須成分として含有してなり、表面抵抗が104.7Ω/cm未満であるため、静電気を帯びず、巻回時に巻きずれが発生せず、該セパレータを具備してなる固体電解コンデンサは、リフロー耐熱性に優れていたが、導電性高分子複合体の担持量が多く、繊維間隙を必要以上に閉塞したため、導電性高分子モノマーの吸液性が劣っていた。
【0066】
比較例14の固体電解コンデンサ用セパレータは、フィブリル化耐熱性繊維、合成短繊維、導電性高分子複合体を必須成分として含有してなり、導電性高分子モノマーの吸液性は良好だった。しかし、導電性高分子複合体の担持量が0.20g/mであるのにもかかわらず、表面抵抗が109.9Ω/cm超であるため、静電気を帯び、巻回時に巻きずれが発生した。
【0067】
比較例15の固体電解コンデンサ用セパレータは、合成短繊維と導電性高分子複合体を含有してなり、表面抵抗が108.7Ω/cmであるため、静電気を帯びず、巻回時に巻きずれが発生せず、導電性高分子モノマーの吸液性は良好だったが、フィブリル化耐熱性繊維を含有しないため、該セパレータを具備してなる固体電解コンデンサは、リフロー耐熱性が悪かった。
【0068】
比較例16は、紙に導電性高分子複合体を担持させることができなかったため、固体電解コンデンサ用セパレータの評価を行うことができなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブリル化耐熱性繊維、合成短繊維、導電性高分子複合体を必須成分として含有し、表面抵抗が104.7〜109.9Ω/cmである湿式不織布からなることを特徴とする固体電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項2】
導電性高分子複合体の担持量が0.30〜2.50g/mである請求項1記載の固体電解コンデンサ用セパレータ。
【請求項3】
請求項1又は2記載の固体電解コンデンサ用セパレータを用いてなる固体電解コンデンサ。

【公開番号】特開2013−21161(P2013−21161A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153813(P2011−153813)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)