説明

固体電解質微粒子及びその製造方法

【課題】固体電解質電池の固体電解質層の原料に用いた場合に、固体電池を高エネルギー密度化及び高出力化し、固体電解質層及び電極の界面抵抗を低減する硫化物系固体電解質微粒子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】イオウ元素、リチウム元素及びリン元素を主成分として含有する、平均粒径が0.1〜10μmである硫化物系固体電解質微粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体電解質微粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現行のリチウムイオン二次電池には、電解質として有機系電解液が用いられている。有機系電解液は高いイオン伝導度を示し性能的には優れているものの、電解質が液体でかつ可燃性であるため、電池として用いた場合、漏洩、発火等の本質的安全性が懸念されている。
【0003】
次世代リチウム電池用の電解質として、より安全性の高い固体電解質の開発が望まれている。ところで、固体電解質電池の高エネルギー密度化、高出力化等の課題を解決するには、固体電解質層の薄膜化や、固体電解質層と電極界面との抵抗の低減が必要とされている。固体電解質を微粒子化することにより、電解質層の薄膜化や、電解質層と電極剤との界面抵抗の低減が期待できる。
【0004】
特許文献1には、LiS:68〜74モル%及びP:26〜32モル%の組成からなる硫化物系ガラスを、150〜360℃で焼成処理することで高イオン伝導度を有する固体電解質粉末が得られることが記載されている。
非特許文献1には、Li/LiS−SiS−LiPO(63:36:1)というリチウム・イオン伝導性固体電解質ガラスを振動ボールミルを用い、1〜10μmサイズに粉砕したとの記載がある。
特許文献2には、平均粒径が0.1μm以上150μm以下の硫化物系非晶質固体電解質が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載の方法で製造されるリチウムイオン伝導性硫化物系結晶化ガラスをさらに通常の乳鉢で粉砕した場合、平均粒系が10μm以下にはならない。しかも、100μm以上の粒子も含まれる。
【0006】
非特許文献1に記載の方法においては、粒径評価を107ページの図3−4−2に示されたSEM写真で判断している。この写真には、10μmを超える凝集状態の粒子が多数観察され、上記の1〜10μmサイズが平均粒径であるとは考えられない。実際、振動ミルで乾式粉砕した硫化物系固体電解質サンプルについて粒径分布測定を行ってみると、10μm以上の凝集部が含まれていて、平均粒径で10μm以下への微粒子化は難しい。
【0007】
特許文献2には、固体電解質が結晶化すると、イオン伝導性が低くなるので不適当である旨の記載がある。従って、平均粒径において重複する範囲が存在しても、結晶化の進行によりイオン伝導度が高くなる、又は既に結晶化が進行した状態で高いイオン伝導性を有する本発明の硫化物系固体電解質とは異なる。また、イオウ元素、リチウム元素及びケイ素元素を主成分とする点でも異なる。さらに、特許文献2に記載の固体電解質を用いて、負極に固体二次電池に通常用いられるグラファイトを使用して作製した固体二次電池は、高電圧下で作動させると電解質が還元を受け、作動しなくなるという欠点がある。
【特許文献1】特開2005−228570号公報
【特許文献2】特開平8−106911号公報
【非特許文献1】NEDO平成13年度成果報告書「安定性を向上させた全固体リチウム電池用新規無機電解質の開発」95頁及び107頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、固体電池の固体電解質層の原料に用いた場合に、固体電池を高エネルギー密度化及び高出力化し、固体電解質層及び電極の界面抵抗を低減する硫化物系固体電解質微粒子を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、上記硫化物系固体電解質微粒子の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の固体電解質微粒子等が提供される。
1.イオウ元素、リチウム元素及びリン元素を主成分として含有する、平均粒径が0.1〜10μmである硫化物系固体電解質微粒子。
2.粒径が20μm以上の粒子が全体の10体積%以下である1に記載の硫化物系固体電解質微粒子。
3.非水系溶媒中で、硫化物系固体電解質粗粒子を多段粉砕する平均粒径が0.1〜10μmである硫化物系固体電解質微粒子の製造方法。
4.分散安定剤を添加した非水系溶媒中で、硫化物系固体電解質粗粒子を一段粉砕する平均粒径が0.1〜10μmである硫化物系固体電解質微粒子の製造方法。
5.硫化物系固体電解質粗粒子をジェット粉砕機を用いて乾式粉砕する平均粒径が0.1〜10μmである硫化物系固体電解質微粒子の製造方法。
6.1又は2記載の固体電解質微粒子又は3〜5のいずれかに記載の製造方法により得られる固体電解質微粒子を用いて得られる全固体二次電池。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、固体電解質電池の固体電解質層の原料に用いた場合に、固体電池を高エネルギー密度化及び高出力化し、固体電解質層及び電極の界面抵抗を低減する硫化物系固体電解質微粒子及びその製造方法が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に用いる硫化物系固体電解質は、イオウ元素、リチウム元素及びリン元素を主成分として含有するものである。主成分として含有するとは、5モル%以上含有することを意味する。好ましくは特開2005−228570号公報に記載の硫化物系ガラス及びリチウムイオン伝導性硫化物系結晶化ガラスである。また、本発明に用いる硫化物系固体電解質には、熱処理前の硫化物系ガラス固体電解質及び熱処理後の硫化物系結晶性固体電解質が含まれる。
【0012】
熱処理前の硫化物系ガラス固体電解質を粉砕する場合、平均粒径が0.1〜10μmのガラス微粒子を生成し、これを熱処理することでリチウムイオン伝導性に優れる硫化物系結晶化ガラスが得られる。熱処理の際は、結晶性の進行と共に、粒子成長の抑制に注意する必要がある。このような熱処理条件としては、例えば、窒素等の不活性ガス雰囲気中、150〜360℃の温度下で熱処理する。熱処理時間は、結晶が生成する条件であれば特に限定はなく、瞬時であっても長時間であっても構わない。
一方、熱処理して得た硫化物系結晶化ガラスは、特に処理することなく、以下に記載の方法で粉砕すればよい。
【0013】
本発明の硫化物系固体電解質微粒子は平均粒径が0.1〜10μmであり、好ましくは0.2〜5μmである。
平均粒径が10μmを超えると、固体電解質電池の固体電解質層の原料に用いた場合に、固体電池を高エネルギー密度化及び高出力化できず、また固体電解質層及び電極の界面抵抗を低減できない恐れがある。平均粒径が0.1μm未満の場合、分級が必要になる恐れがある。
【0014】
本発明の硫化物系固体電解質微粒子は、好ましくは粒径が20μm以上の粒子が全体の10体積%以下である。粒径が20μm以上の粒子が全体の10体積%を超える場合、電池部材として薄膜状の固体電解質を用いる場合、薄膜の作製が難しくなる恐れがある。
【0015】
本発明の硫化物系固体電解質微粒子は、固体電解質粗粒子を、非水系溶媒中で湿式粉砕、又は乾式粉砕することにより製造することができる。粉砕に使用する固体電解質粗粒子の平均粒径は特に限定されないが、粉砕後の粒子中の粗粒子を少なくするという意味で1000μm以下であることが好ましい。
【0016】
[湿式粉砕を用いた製造方法]
本発明の硫化物系固体電解質微粒子は、非水系溶媒中で硫化物系固体電解質粗粒子を多段粉砕することにより製造できる。
非水系溶媒としては、例えば、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン(THF)、Nメチルピロリドン、アセトニトリル、及びジメトキシエタン、ジメチルカーボネート等電解液の溶媒が挙げられ、好ましくは水分含有量が100ppm以下、より好ましくは50ppm以下のものである。
【0017】
非水系溶媒と硫化物系固体電解質粗粒子で形成されるスラリーの濃度は、適宜調整すれば足りるが、スラリー全体に占める固体の割合は、通常5〜50質量%の範囲が好ましく、5〜30質量%がより好ましい。ここで、5質量%未満では、固体の粉砕量が少ないため製造の効率が悪く、50質量%を超える場合は、スラリーの粘度が増大して移送等の点で取扱いにくくなる。
【0018】
湿式粉砕において、上記非水系溶媒に予め分散安定剤を添加することにより、1段階の粉砕で固体電解質微粒子を製造できる。これは、一次粒子の凝集物の解砕が促進され、粉砕効率が向上するためと考えられる。
【0019】
分散安定剤としては、脂肪族アルキル又はアリール基を有するアミド、アミン塩、エステル等が挙げられ、好ましくはエステルである。具体的には、ラウロイルジエタノールアミド、ラウロイルジエタノールアミンの塩酸塩、ジオクチルスルホサクシネート等が挙げられる。
【0020】
スラリー全体に占める分散安定剤の割合は、通常0.05〜5質量%の範囲であることが好ましく、1〜3質量%がより好ましい。0.05質量%未満では、添加効果が得られない可能性があり、5質量%を超える量を使用しても、粉砕効率の更なる向上は得られにくい。
【0021】
湿式粉砕に用いる湿式粉砕機は特に限定されないが、例えば、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ミル等が挙げられ、粉砕操作の条件を自由に変更できる点で、ボールを粉砕メディアとして用いる粉砕機が好ましい。このような粉砕機としては、例えば、転動ボールミル、ビーズミル、遊星ボールミル、振動ボールミルが挙げられる。
【0022】
ボールを粉砕メディアとして用いる粉砕機を用いて粉砕する場合、好ましくは比較的大きなボール(1mmφ以上、好ましくは1〜50mmφ)により粉砕した後に、比較的小さなボール(0.1〜0.6mmφ)を用いて多段粉砕する。これにより所望のサイズの微粒子とすることができる。
【0023】
湿式粉砕の粉砕条件は、使用する機器等により適宜調整すればよい。例えばビーズミルを粉砕機として用いる場合、翼先端速度を2m/秒〜20m/秒程度とし、10分〜6時間程度処理すればよい。
【0024】
[乾式粉砕を用いた製造方法]
本発明の硫化物系固体電解質微粒子は、硫化物系固体電解質粗粒子を乾式粉砕することにより製造できる。
乾式粉砕に用いる乾式粉砕機は、ジェット粉砕機を用いる。これは、微粒子が容易に製造できる点に加えて、固体電解質が非接触で粉砕されるため、不純物の混入が少ないためである。
【0025】
乾式粉砕の条件としては、特に制限はないが、材料の劣化や変性を防止する観点から、好ましくは不活性ガス雰囲気中で粉砕する。
不活性ガスとしては、例えば、窒素やアルゴンが挙げられる。粉砕時の不活性ガスの圧力は、好ましくは0.5〜1.5MPaGである。
【0026】
材料の劣化や変性を防止する観点から、好ましくは低露点環境下で粉砕を行う。露点としては好ましくは−25℃〜−100℃であり、より好ましくは−30〜−90℃である。
ジェット粉砕機は連続式の粉砕機であるため、粉砕時間(滞留時間)は、粉砕の状態を確認しながら、適宜設定すればよい。
【0027】
本発明の硫化物系固体電解質微粒子を用いた固体電解質層からなる全固体二次電池は、電解質層の薄層化により電解質部が軽量化され、これにより電池全体重量が軽量化し高エネルギー密度化する。抵抗は電解質の厚みに比例することから、電解質層の薄層化により電解質層の抵抗が低減し、Liイオンがすばやく移動可能となり高出力化する。
【0028】
固体電解質層及び電極の界面抵抗は、固体電解質粒子と電極粒子との接触表面に反比例する。従って、本発明の硫化物系固体電解質微粒子を用いた場合、接触表面積が増加し界面抵抗が低減される。
【実施例】
【0029】
[製造例]
(1)硫化リチウム(LiS)の製造
硫化リチウムは、特開平7−330312号公報の第1の態様(2工程法)の方法に従って製造した。具体的には、撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpm、130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。続いてこの反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した硫化水素の一部を脱硫化水素化した。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。脱硫化水素反応が終了後(約80分)反応を終了し、硫化リチウムを得た。
【0030】
(2)硫化リチウムの精製
上記(1)で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリー)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。さらにNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥した。得られた硫化リチウム中の不純物含有量を測定した。尚、亜硫酸リチウム(LiSO)、硫酸リチウム(LiSO)並びにチオ硫酸リチウム(Li)の各硫黄酸化物、及びN−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)の含有量は、イオンクロマトグラフ法により定量した。その結果、硫黄酸化物の総含有量は0.13質量%であり、LMABは0.07質量%であった。
【0031】
(3)硫化物系固体電解質粉末の製造
上記製造例にて製造したLiS、P(アルドリッチ製)を出発原料に用いた。LiS70モル部、P30モル部を添加してなる混合物を約50gと直径10mmのアルミナ製ボール175個を500mLのアルミナ製容器に入れ、遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P−5)にて、窒素雰囲気下、室温(25℃)にて、回転速度を290rpmとし、36時間メカニカルミリング処理することで、白黄色の粉末として硫化物系ガラスを得た。
【0032】
得られた粉末について、粉末X線回折測定を行った(CuKα:λ=1.5418Å)。このX線回折スペクトルチャートを図1に示す。スペクトルチャートより、LiSの結晶ピークは、完全に消失しガラス化していることが確認できた。
【0033】
この粉末を密閉容器にいれ、300℃、2時間熱処理を行った。得られた硫化物系固体電解質のイオン伝導度は、2×10−3S/cmであった。また、得られた粉末について、粉末X線回折測定を行った(CuKα:λ=1.5418Å)。のX線回折スペクトルチャートを図2に示す。X線回折スペクトルチャートから、結晶化が進行していることが確認された。この粉末を乳鉢にいれて、さらに細かく粉砕して下記実施例、比較例の原料(平均粒径:300μm)とした。
【0034】
実施例1
[φ10mm+φ0.2mm湿式2段粉砕]
上記製造例にて製造した、硫化物系固体電解質粉末13.7gに溶媒として脱水トルエン123.7g(水分含量50ppm)を加えて調製したスラリーに直径10mmジルコニアボール545gを加えてバッチ型遊星ボールミルを用いて回転数250rpmで3時間粉砕した。ビーズとスラリーを分離した後、スラリーに直径0.2mmジルコニアビーズ545gを加えてバッチ型ビーズミル(アイメックス社製)を用いて回転数2000rpmで3時間粉砕した。粉砕したスラリーの粒径をレーザー回折式粒度分布測定装置(シスメックス社製、型番:マスターサイザー2000)で測定した結果、粉末の平均粒径は2μmとなり、リチウムイオン2次電池の電解質層の薄膜化に好適な硫化物系固体電解質粉末が得られたことが確認された。得られた結果を図3に示す。図3から、10μm以上の粒子が存在しないことが分かる。
【0035】
実施例2
[分散安定剤+φ10mm湿式1段粉砕]
上記製造例にて製造した、硫化物系固体電解質粉末13.7gに溶媒として脱水トルエンを123.7g(水分含量50ppm)、分散安定剤としてエステル型非イオン系活性剤(サンノプコ社製)を0.14g加えて調製したスラリーに直径10mmのジルコニアボール545gを加えてバッチ型遊星ボールミルを用いて回転数250rpmで3時間粉砕した。粉砕したスラリーの粒径をレーザー回折式粒度分布測定装置(シスメックス社製、型番:マスターサイザー2000)で測定した結果、粉末の平均粒径は2μmとなり、リチウムイオン2次電池の電解質層の薄膜化に好適な硫化物系固体電解質粉末が得られたことが確認された。得られた結果を図4に示す。また、図4から、20μm以上の粒子がほとんど存在しないことが分かる。
【0036】
実施例3
[乾式ジェットミル1段粉砕]
上記製造例にて製造した、硫化物系固体電解質粉末をジェットミル(セイシン企業社製コジェット)にて粉砕した。処理量89g/hr、粉砕流体に圧力0.7MPaGの窒素を用いて処理した粉末を粉末の重量の3倍の脱水トルエンで分散させた後、粉末の粒径をレーザー回折式粒度分布測定装置(シスメックス社製、型番:マスターサイザー2000)で測定した結果、粉末の平均粒径は2μmとなり、リチウムイオン2次電池の電解質層の薄膜化に好適な硫化物系固体電解質粉末が得られたことが確認された。得られた結果を図5に示す。また、図5から、10μm以上の粒子が存在しないことが分かる。
【0037】
実施例4
[φ10mm+φ0.2mm2段粉砕、非晶品]
上記製造例の硫化物系ガラス粉末13.7gに溶媒として脱水トルエン123.7g(水分含量50ppm)を加えて調製したスラリーに直径10mmジルコニアボール545gを加えてバッチ型遊星ボールミルを用いて回転数250rpmで3時間粉砕した。ビーズとスラリーを分離した後、スラリーに直径0.2mmジルコニアビーズ545gを加えてバッチ型ビーズミル(アイメックス社製、型番:RMB−04)を用いて回転数2000rpmで3時間粉砕した。粉砕したスラリーの粒径をレーザー回折式粒度分布測定装置(シスメックス社製、型番:マスターサイザー2000)で測定した結果、粉末の平均粒径は2μmとなり、これを150〜360℃の範囲で熱処理することにより、リチウムイオン2次電池の電解質層の薄膜化に好適な硫化物系固体電解質粉末が得られることが確認された。得られた結果を図6に示す。図6から、10μm以上の粒子が存在しないことが分かる。上記の熱処理後も粒径分布が変化しないことが確認された。
【0038】
比較例1
[φ10mm湿式1段粉砕]
上記製造例にて製造した、硫化物系固体電解質粉末13.7gに溶媒として脱水トルエン123.7g(水分含量50ppm)を加えて調製したスラリーに直径10mmジルコニアボール545gを加えてバッチ型遊星ボールミルを用いて回転数250rpmで3時間粉砕した。粉砕したスラリーの粒径をレーザー回折式粒度分布測定装置(シスメックス社製、型番:マスターサイザー2000)で測定した結果、粉末の平均粒径は11μmとなり、リチウムイオン2次電池の電解質層の薄膜化に適する粉末は得られなかった。得られた結果を図7に示す。
【0039】
比較例2
[φ0.2mm湿式1段粉砕]
上記製造例にて製造した、硫化物系固体電解質粉末13.7gに溶媒として脱水トルエンを123.7g(水分含量50ppm)加えて調製したスラリーに直径0.2mmジルコニアビーズ545gを加えてバッチ型ビーズミル(アイメックス社製)を用いて回転数2000rpmで3時間粉砕した。粉砕したスラリーの粒径をレーザー回折式粒度分布測定装置(シスメックス社製、型番:マスターサイザー2000)で測定した結果、粉末の一部は2μm以下の微粉となっていたが、100μm以上の粗粉も多く存在したため、平均粒径は55μmとなり、リチウムイオン2次電池の電解質層の薄膜化に適する粉末は得られなかった。得られた結果を図8に示す。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明の固体電解質微粒子は、固体電池の高エネルギー密度化及び高出力化を可能にし、リチウム電池の固体電解質用の材料として適している。
さらに、上記の特性を有する本発明の固体電解質微粒子を使用した全固体電池は、安全性及び充放電サイクル特性が優れている。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】製造例で作製した熱処理前の硫化物系ガラス固体電解質のX線回折スペクトルチャートである。
【図2】製造例で作製した熱処理後の硫化物系結晶性固体電解質のX線回折スペクトルチャートである。
【図3】実施例1で作製した固体電解質微粒子の粒径分布図である。
【図4】実施例2で作製した固体電解質微粒子の粒径分布図である。
【図5】実施例3で作製した固体電解質微粒子の粒径分布図である。
【図6】実施例4で作製した固体電解質微粒子の粒径分布図である。
【図7】比較例1で作製した固体電解質微粒子の粒径分布図である。
【図8】比較例2で作製した固体電解質微粒子の粒径分布図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオウ元素、リチウム元素及びリン元素を主成分として含有する、平均粒径が0.1〜10μmである硫化物系固体電解質微粒子。
【請求項2】
粒径が20μm以上の粒子が全体の10体積%以下である請求項1に記載の硫化物系固体電解質微粒子。
【請求項3】
非水系溶媒中で、硫化物系固体電解質粗粒子を多段粉砕する平均粒径が0.1〜10μmである硫化物系固体電解質微粒子の製造方法。
【請求項4】
分散安定剤を添加した非水系溶媒中で、
硫化物系固体電解質粗粒子を一段粉砕する平均粒径が0.1〜10μmである硫化物系固体電解質微粒子の製造方法。
【請求項5】
硫化物系固体電解質粗粒子をジェット粉砕機を用いて乾式粉砕する平均粒径が0.1〜10μmである硫化物系固体電解質微粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2記載の固体電解質微粒子又は請求項3〜5のいずれかに記載の製造方法により得られる固体電解質微粒子を用いて得られる全固体二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−4459(P2008−4459A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174732(P2006−174732)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】