説明

固縛工具

【課題】孟宗竹などを格子状に組んだ筏の格子部を針金で縛るときに、大きな力を必要とせず、また迅速に固縛作業を進めることができる固縛工具を提供する。
【解決手段】しの工具17を回転させ牡蠣筏の竹を針金で縛る牡蠣筏固縛工具1であって、手動レバー3を回動させることにより、レバー歯車5を介して本体歯車7を回転させ、本体歯車7の一方向の回転運動が可動爪を介してラチェット歯車11に伝えられ、このとき固定爪により逆回転が防止され、ラチェット歯車11に取り付けられたしの工具取付具15を一方向に回転させ、しの工具取付具15に取り付けられているしの工具17を回転させ、回転するしの工具17で孟宗竹19の格子部に取り付けられた針金21を巻き付け強固に縛る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孟宗竹などで作られる牡蠣筏など筏の格子状骨組みを、針金で固く縛るための固縛工具に関する。
【背景技術】
【0002】
牡蠣筏は、孟宗竹などを格子状に組合せ、格子部分を針金で固く縛り、底面に発泡スチロールなどの浮きを取り付けることで作られており、古くなると作り替える必要がある。牡蠣筏の組み立ては、孟宗竹などを例えば縦約10m、横約20mの格子状に配置し、格子部分に直径が4mm程度の太い針金を巻きつけ、作業者がしの工具を用いて針金をねじり固定することで行われる。針金の固定は、具体的には次のように行われる。固縛用の針金は、通常の針金を一定の長さに切り両端を揃え、U字型に曲げたヘアーピン形状のものである。しの工具は、把持部の先端に、先端に向って細くなったテーパ状部が設けられた工具であり、従来から針金の固縛によく使用されている。作業者は、格子部分に針金のU字部分及び他端が上方に向くように巻き付け、U字部分にしの工具を通し、針金の他端を手で引き上げる。次に、作業者は、引上げている針金にしの工具の先端を引っ掛け、同時にしの工具を一方向に回転させ、お互いの針金を巻きつけることで格子部分を固く縛る。
【0003】
このような作業を行うには、大きな力を必要とする。また牡蠣筏では、通常、一台当たり約450箇所の格子部分があり固縛作業に多くの労力を要する。牡蠣筏の固縛作業は、力仕事を必要とし、同時に長時間を要する重労働であるため、女性、老人などには難しい作業である。また、しの工具の取扱いには熟練した技術が必要であるため作業者が限定される。さらに筏の上での作業は不安定で作業性が悪いことなどから、容易に固縛作業ができる工具が望まれている。
【0004】
これまでに針金を簡単に結束するための工具が提案されている。例えば、外周に螺旋溝を有し先端にC型フックを有する回転子を筒状の固定子に配設し、回転子を一方向にのみ回転させ針金を捩じる針金結束具がある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−9751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の工具では、結束部を針金で縛る場合、予め手で針金をねじりC型フックを引っ掛けるためのねじり部を作る必要があり、強い力が要求される。また、作業者は、中腰で固定子を上方に引っ張り、C型フックで針金をねじり縛ることになる。そのため作業体勢が不安定となり、手が滑った場合などには怪我をする危険がある。
【0007】
本発明の目的は、孟宗竹などを格子状に組んだ筏の格子部を針金で縛るときに、大きな力を必要とせず、また迅速に固縛作業を進めることができる固縛工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、しの工具を回転させ筏の格子状部を針金で縛る筏用の固縛工具であって、中央部に回転軸の軸受部を有する上部保持板と、中央部に回転軸の軸受部を有し、前記上部保持板の下部に所定の間隔を持って取り付けられた下部保持板と、前記2つの軸受部に回転自在に嵌り込み、中心部を針金が挿通する貫通孔を備えるパイプ状の回転軸と、前記回転軸と一体的に回転するラチェット歯車と、前記回転軸に回転自在に嵌め込まれた本体歯車と、前記本体歯車の一方向の回転運動を前記ラチェット歯車に伝える可動爪と、前記ラチェット歯車の前記回転方向と逆方向の回転を防止する固定爪と、前記本体歯車と噛み合い前記本体歯車を回転させるレバー歯車と、前記上部保持板に回動自在に取り付けられ前記レバー歯車を正逆方向に回転させる手動レバーと、前記下部保持板の下方で前記回転軸に固定され回転軸と一体的に回転する、しの工具を取り付けるためのしの工具取付具と、前記上部保持板及び前記下部保持板の側方に設けられたハンドルと、前記ハンドルの後端に設けられた押え具と、前記上部保持板の上方に突出する針金を挟む針金把持具と、を備えることを特徴とする固縛工具である。
【0009】
また本発明は、前記固縛工具において、さらに先端に向って細くなったテーパ部と前記テーパ部の先端に設けられた同一の太さの円柱部とを有する、前記しの工具取付具に取り付け使用するしの工具を備えることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、前記固縛工具において、前記レバー歯車の径が、前記本体歯車の径に比べ小さいことを特徴とする。
【0011】
また本発明は、前記固縛工具において、前記しの工具取付具は、しの工具の先端部を下向きとし、水平面に対ししの工具の軸線が5度から15度傾斜するようにしの工具を取り付けることを特徴とする。
【0012】
また本発明は、前記固縛工具において、前記しの工具取付具は、平面視において、前記回転軸の貫通孔の中心に対し、しの工具の軸線がずれるようにしの工具を取り付けることを特徴とする。
【0013】
また本発明は、前記固縛工具において、前記しの工具取付具は、しの工具を取り付けるための取付口を円周方向に複数個備えることを特徴とする。
【0014】
また本発明は、前記固縛工具において、前記針金把持具は、2つの部材で針金を挟み込むペンチ型、又は2つのローラで針金を挟み込むローラ型の針金把持具であり、前記針金把持具で前記上部保持板の上方に突出する針金を挟み、針金を上方に引き上げ、針金の緩みを取り去ることが可能なことを特徴とする。
【0015】
また本発明は、前記固縛工具において、さらに前記ローラ型の針金把持具は、ローラを回転させる電動モータを備えることを特徴とする。
【0016】
また本発明は、前記固縛工具において、前記手動レバーに代え、前記レバー歯車を回転させる電動モータを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の固縛工具は、しの工具取付具にしの工具を取り付け、手動レバーを回動させると、レバー歯車、本体歯車、さらにはラチェット歯車を介して、しの工具が一方向に回転するので、筏の格子部を針金で簡単にまた強固に縛ることができる。また、手動レバーの長さを長くすることで、てこの効果が増大し、軽い手動レバー操作により針金を強固に縛ることができる。また、手動レバーを回動させる操作は、操作性が良く、片手で容易に操作することができる。従来のしの工具で針金を固縛する方法は、重労働であると同時に、熟練した技が必要であったが、本固縛工具は、使用に際し特殊な技術を必要とせず、一般の作業者でも簡単に固縛作業ができる。
【0018】
また本発明によれば、先端に向って細くなったテーパ部とテーパ部の先端に設けられた同一の太さの円柱部とを有するしの工具を備えるため、針金を縛るときに、しの工具に通されている針金のU字部がテーパ部をすべり円柱部に移動するので、簡単に相手側の針金に近づき、結束する針金の間隔が狭くなり、弱い力で簡単に針金を結束することが出来る。
【0019】
また本発明によれば、レバー歯車の径が本体歯車の径に比べ小さいので、てこの効果を増大させることができ、強い締め付け力をしの工具に与えることができる。単に、手動レバーを長くし、てこの効果を増大させた場合、長い手動レバーが邪魔で操作性が悪くなることがあるが、レバー歯車と本体歯車の径比を適正にし、操作性の良い手動レバー長を選定することで、実用的なてこの効果を得ることができ、針金を強固に締め付けることができる。よって女性など力の弱い人でも容易に作業をすることができる。
【0020】
また本発明によれば、しの工具取付具は、しの工具の先端部を下向きとし、水平面に対ししの工具の軸線が5度から15度傾斜するようにしの工具を取り付けるので、しの工具の先端が筏の格子部の直上で針金を捕らえ巻き付けることができる。このため少ない巻き付け回数で強固に固縛することができる。
【0021】
また本発明によれば、しの工具取付具は、平面視において、回転軸の貫通孔の中心に対し、しの工具の軸線がずれるようにしの工具を取り付けるため、しの工具を取り付けるとき、相手側の針金にぶつからず直ちに固縛作業を行うことができる。
【0022】
また本発明によれば、しの工具取付具は、しの工具を取り付けるための取付口を円周方向に複数個備えるので、しの工具の先端を相手側針金を巻き付ける位置となる取付口に取り付けることで、手動レバーの操作の回数を低減でき、効率的に針金を固縛することができる。
【0023】
また本発明によれば、針金把持具は、2つの部材で針金を挟み込むペンチ型、又は2つのローラで針金を挟み込むローラ型の針金把持具であり、針金把持具で上部保持板の上方に突出する針金を挟み、針金を上方に引き上げ、針金の緩みを取り去ることが可能であるため、針金に緩みがない状態で強固に筏を針金で縛ることができ、巻く回数を低減させることができる。
【0024】
また本発明によれば、ローラ型の針金把持具は、ローラを回転させる電動モータを備えるため、針金を引上げ緩みを取る労力が不要になり作業性が向上する。また力の弱い人でも楽に固縛作業を行える。
【0025】
また本発明によれば、手動レバーに代え、レバー歯車を回転させる電動モータを備えるため、レバー操作が不要になり楽に固縛作業を行える。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の第1実施形態としての牡蠣筏に設置した牡蠣筏固縛工具1の全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1の牡蠣筏固縛工具1の内部の構成を示す斜視図である。
【図3】図1の牡蠣筏固縛工具1のラチェット歯車11、可動爪9及び固定爪13を備えたラチェット機構を示す図である。
【図4】図1の牡蠣筏固縛工具1の平面図である。
【図5】図1の牡蠣筏固縛工具1に取り付け使用するしの工具17の平面図である。
【図6】本発明の第2実施形態としての牡蠣筏に設置した牡蠣筏固縛工具2の全体構成を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、本発明の第1実施形態としての牡蠣筏に設置した牡蠣筏固縛工具1の全体構成を示す斜視図である。図2は、牡蠣筏固縛工具1の内部の構成を示す斜視図である。図3は、牡蠣筏固縛工具1のラチェット歯車11、可動爪9及び固定爪13を備えたラチェット機構を示す図であり、上部保持板31、本体歯車7及び第1プレート65を取り去り、上方から見た図である。図4は、牡蠣筏固縛工具1の平面図である。図5は、牡蠣筏固縛工具1に取り付け使用するしの工具17の平面図である。なお、図1は、内部が見えるように側板35を一部取り去った状態で示している。
【0028】
牡蠣筏固縛工具1は、大略的には、手動レバー3を回動させることで、レバー歯車5、本体歯車7、さらにはラチェット歯車11を介してしの工具17を一方向に回転させ、回転するしの工具17で孟宗竹19の格子部に取り付けられた針金21を強固に縛る固縛工具である。
【0029】
牡蠣筏固縛工具1は、上部保持板31と下部保持板33とを備え、上部保持板31及び下部保持板33は、これらの間に所定の間隔が形成されるように左右2つのブロック状のスペーサ34a、34bに取り付けられている。2つのスペーサ34a、34bの内側には、円形状の側板35が設けられている。上部保持板31は、中央部にラチェット歯車11の中心軸37が嵌り込み、これを回転自在に保持するための軸受部39が穿設され、端部にはレバー歯車5のレバー歯車軸41が嵌り込み、これを回転自在に保持するための軸受部(図示省略)が穿設されている。下部保持板33は、中央部にラチェット歯車11の中心軸37が嵌り込み、これを回転自在に保持するための軸受部(図示省略)が穿設され、端部にはレバー歯車軸41が嵌り込み、これを回転自在に保持するための軸受部45が穿設されている。
【0030】
手動レバー3は、本体歯車7に噛み合うレバー歯車5を駆動するものであり、握り棒61及び操作棒63から構成される。握り棒61は、回転自在に操作棒63に取り付けられており、握り棒61を手で握り手動レバー3を容易に回動させることができる。操作棒63は、先端が、上部保持板31から突出したレバー歯車軸41の上端に固定されている。操作棒63は、特定の長さに限定されるものではない。長さを長くすることによりてこの効果を増すことができるので、手動レバー3の操作性を考慮し長さを決めればよい。
【0031】
レバー歯車5は、手動レバー3と一体的に回動し、噛み合う本体歯車7を回動させる。レバー歯車5は、レバー歯車軸41を介して、上部保持板31及び下部保持板33の間に時計回り、反時計回りの両方に回転自在に取り付けられている。レバー歯車5の直径は、本体歯車7の直径に比較し小さい。本体歯車7の直径に比べレバー歯車5の直径を小さくすることで、てこの効果を増大でき、手動レバー3を軽く動かすだけで、大きな力に変えレバー歯車5から本体歯車7に伝達できる。単に、手動レバー3を長くし、てこの効果を増大させた場合、長い手動レバー3が邪魔で操作性が悪くなることがあるが、レバー歯車5と本体歯車7との径比を適正にし、操作性の良い手動レバー3の長さを選定することで、小さな力で強固に針金21を縛り付けることができる。よって女性など力の弱い人でも容易に作業をすることができる。なお、手動レバー3と本体歯車7の回転方向を一致させるために、レバー歯車5と本体歯車7との間にさらに歯車を取り付けてもよい。
【0032】
本体歯車7は、ラチェット歯車11の中心軸37に回転自在に嵌り込んでおり、上部保持板31及び下部保持板33の間の上方に位置する。本体歯車7の下面には、第1プレート65が取り付けられており、第1プレート65の下方には一定間隔を保ち第2プレート67が取り付けられている。本体歯車7と、第1プレート65及び第2プレート67は一体的に回転する。
【0033】
本体歯車7は、レバー歯車5に噛み合い、手動レバー3の回動操作に伴い、時計回り、反時計回りに回転する。それに伴い第1プレート65及び第2プレート67は一体的に回転するが、90°の範囲内でのみ回動可能にストッパー64が設けられている。反時計回りに回転すると、第1プレート65及び第2プレート67の第1突出部66がストッパー64に接触し、時計回りに回転すると、第1プレート65及び第2プレート67の第2突出部68がストッパー64に接触する。ストッパー64を設けることで第1プレート65等のレバー歯車5への接触を防止し、レバー歯車5の破損を防止する。
【0034】
ラチェット歯車11は、中心軸37を備え、この中心軸37が上部保持板31の軸受部39及び下部保持板33の軸受部に回転自在に嵌り込んでいる。回転軸37は、中心部に針金21が挿通する貫通孔75が設けられ、下端が下部保持板33からわずかに突出するように取り付けられている。ラチェット歯車11は、可動爪9及び固定爪13を含みラチェット機構を構成する。本実施形態では、ラチェット歯車11と中心軸37とが一体的に形成されているが、ラチェット歯車11と中心軸37とを別々に製作し、これらを固定したものであってもよい。本実施形態では、中心軸37が回転軸37である。
【0035】
可動爪9は、先端の爪を揺動可能に、後端部が支持ピン43を介して第1プレート65及び第2プレート67の間に取り付けられている。可動爪9の先端の爪は、バネ板69でラチェット歯車11の歯面に押し付けられている。可動爪9は、本体歯車7と一体的に動き、本体歯車7が時計回りに回転すると、先端の爪がラチェット歯車11の歯に噛み込みラチェット歯車11を回転させる。逆に、本体歯車7が反時計回りに回転すると可動爪9の先端がラチェット歯車11の歯面を滑り、ラチェット歯車11を回転させない構造になっている。なお、先のラチェット歯車11の回転方向は逆であってもよい。
【0036】
固定爪13は、先端の爪を揺動可能に、後端部が支持ピン44を介して上部保持板31の下部に取り付けられている。固定爪13の先端は、バネ板71でラチェット歯車11の歯面に押し付けられている。固定爪13は、可動爪9とは異なり、本体歯車7と一体的に動かず、本体歯車7が時計回りに回転すると、先端の爪がラチェット歯車11の歯面を滑る。逆に、本体歯車7が反時計回りに回転すると固定爪13の先端がラチェット歯車11の歯に噛み込みラチェット歯車11を回転させない構造になっている。なお、先のラチェット歯車11の回転方向は逆であってもよい。
【0037】
作業者が手動レバー3をハンドル25に近づけたとき、図1では反時計回りに手動レバー3を回転させると、本体歯車7の回転運動が可動爪9を介してラチェット歯車11に伝えられる。また、逆に手動レバー3をハンドル25から遠ざけたとき、図1では時計回りに手動レバー3を回転させると、本体歯車7及び可動爪9は逆回転するため、回転運動はラチェット歯車11に伝えられない。また、固定爪13でラチェット歯車11の逆回転が防止されるため、これによりラチェット歯車11を一方向のみに回転させることができる。
【0038】
しの工具取付具15は、しの工具17を取り付けるためのものであり、下部保持板33から突出しているラチェット歯車11の中心軸37にボルト止めされている。しの工具取付具15は、しの工具17を挿入し固定するための取付口74が設けられたしの工具取付板73を円周方向に3つ備える。ここではしの工具取付板73が3つの例を示したが、数は特に限定されない。しの工具17を挿入し固定するための取付口74を複数設けることで、しの工具17の先端を相手側針金21の巻き側に近づけることができる。しの工具取付具15は、一方向にしか回転しないため、しの工具17の先端が相手側針金21の反巻き側に位置すると、針金21を巻くまでにしの工具17を相手側針金21の巻き側まで移動させる必要がある。相手側針金21の巻き側に近いしの取付口74を選択することで、手動レバー操作を低減でき、効率的に針金21を固縛することができる。
【0039】
また、しの工具取付具15は、しの工具17の先端部を斜め下向きに取り付けるため、しの工具取付板73が、しの工具17の軸線が水平面に対し5度から15度傾斜するように取り付けられている。しの工具17の先端部を斜め下向きに取り付けることで、しの工具17の先端が牡蠣筏の孟宗竹19の直上で針金21を捕らえ巻き付け、巻き付け回数も少なく固縛作業を迅速に終わらせることができる。
【0040】
また、しの工具取付具15は、平面視において、しの工具17を取り付けたとき、中心軸37の貫通孔75の中心に対し、しの工具17の軸線がずれるようにしの工具取付板73が取り付けられている。このようにすることで、しの工具17を取り付けるとき、相手側の針金21にぶつからず直ちに固縛作業を行うことができる。
【0041】
しの工具17は、把持部76に続き先端に向って細くなったテーパ部77と前記テーパ部の先端に設けられた同一の太さの円柱部79とを有する。把持部76とテーパ部77との間には凹溝80が設けられ、しの工具17をしの工具取付具15に取り付けると、凹溝80が取付口74に設けられたボールプランジャに嵌り込み固定される。しの工具17を上記形状とすることで、針金を縛るときに、しの工具17に通されている針金21のU字部がテーパ部77をすべり円柱部79に移動するので、簡単に相手側の針金21に近づき、結束する針金21の間隔が狭くなり、弱い力で簡単に針金21を巻き付けることが出来る。
【0042】
牡蠣筏固縛工具1には、使用の際に手で掴み牡蠣筏固縛工具1を保持するためのハンドル25を備える。ハンドル25は、手で容易に持てるパイプ状の部材であり、先端部がスペーサ34aに固定されている。ハンドル25は、内部にしの工具17の収納部26を有し、後端部からしの工具17を挿入することで、しの工具17を収納することができる。
【0043】
ハンドル25の後端部には、折りたたみ可能な棒状の押え具81が取り付けられている。図1において作業者が手動レバー3を手前、反時計回りに回転させると、しの工具17は時計回りに回転しながら針金21を巻き付ける。この時、牡蠣筏固縛工具1も反時計回りに回転しようとするため、手動レバー3を反時計回りに回転させるには、ハンドル25をしっかりと固定しておく必要がある。この押え具81を孟宗竹19に引っ掛けることで、ハンドル25を楽に固定することができる。
【0044】
また、上部保持板31の上部には針金把持具23が取り付けられている。針金把持具23は、中心軸37の貫通孔75から突出する針金21を掴むためのものである。針金把持具23は、工具のペンチのような構造からなり、押し棒83と受け板85とを有する。押し棒83と受け板85とで針金21を挟み込む。押し棒83は、先端部寄りに設けられた支持ピン84を介して上部保持板31に取り付けられ、押し棒83は、支持ピン84を中心に回動自在である。受け板85は、中心軸37の貫通孔75の直ぐ横に固定されている。ハンドル25と押し棒83とを互いが近づくように握ると、押し棒83の先端部86が受け板85に近づき針金21を挟み込む。
【0045】
牡蠣筏固縛工具1の使用方法を説明する。作業者は、一本の針金を中央部で折り曲げU字部を設けたヘアピン状の針金21を用い、格子状に並べた孟宗竹19の格子部にU字部と端部が上を向くように巻き付ける。その後、作業者は、牡蠣筏固縛工具1を結束する針金21の上に移動させる。しの工具17をしの工具取付具15に取り付け、同時に針金21のU字部を通す。一方、針金21の端部は、中心軸37の貫通孔75に通し、端部が上部保持板31から突出するようにする。上部保持板31から突出した針金21を針金把持具23で掴み、ハンドル25の後方を持ち上げ、針金21を引き上げ緩みを無くす。このときハンドル25と反対側のしの工具取付具15が支点となり、少ない力で針金21を引き上げることができる。
【0046】
次に手動レバー3を反時計回りに回転させると、レバー歯車5を介して本体歯車7が時計回りに回転する。本体歯車7の回転運動は可動爪9を介してラチェット歯車11に伝えられる。一方、手動レバー3を時計回りに回転させると本体歯車7は反時計回りに回転するが、可動爪9がラチェット歯車11の歯面を滑るため本体歯車7の回転運動はラチェット歯車11に伝達されない。手動レバー3を回動させるとラチェット歯車11の中心軸37に取り付けられているしの工具取付具15及びしの工具17が時計回りに回転し、針金21のU字部を相手側の針金21に巻きつけ格子部を強く固縛する。
【0047】
図2は、本発明の第2実施形態としての牡蠣筏に設置した牡蠣筏固縛工具2の全体構成を示す斜視図である。なお図2は、図1と同様に、内部が見えるように側板35を一部取り去った状態で示している。第1実施形態に示す牡蠣筏固縛工具1と同一の構成には、同一の符号を付して説明を省略する。第2実施形態に示す牡蠣筏固縛工具2と第1実施形態に示す牡蠣筏固縛工具1との基本的な構成は同じである。第1実施形態に示す牡蠣筏固縛工具1がペンチ様の針金把持具23であったのに対し、第2実施形態に示す牡蠣筏固縛工具2ではローラ型の針金把持具87を採用する。
【0048】
ローラ型の針金把持具87は、電動式の針金把持具であり、電動モータ91、ウォーム92、ウォームホイール93、電動ローラ95及び押えローラ97を備える。電動ローラ95は、中心軸37の貫通孔75の直ぐ横の上部保持板31上に軸受台96を介して回転自在に取り付けられている。電動ローラ95の中心軸の一端部には、ウォームホイール93が取り付けられ、他端には、押えローラ97を駆動するためのギア88が取り付けられている。電動モータ91は、取付台89を介して上部保持板31上に固定され、先端に取り付けられたウォーム92を介して電動ローラ95を回転駆動させる。
【0049】
押えローラ97は、押し棒99の先端部に設けられた軸受台94を介して回転自在に取り付けられている。押し棒99は、先端部寄りに設けられた支持ピン(図示省略)を介して上部保持板31に取り付けられ、押し棒99は、支持ピンを中心に回動自在である。押えローラ97の中心軸の一端部には、電動ローラ95に取り付けられたギア88と噛み合うギア90が取り付けられている。
【0050】
第1実施形態の針金把持具23と同様に、針金21の端部を中心軸37の貫通孔75から突出した状態でハンドル25と押し棒99とを互いが近づくように握ると、押し棒99の先端部に設けられた押えローラ97と電動ローラ95とで針金21を挟み込む。同時に互いのギア88、90が噛み合う。この状態で電動モータ91を駆動させるとウォーム92、ウォームホイール93を介して電動ローラ95が回転し、さらにギア88、90を介して押えローラ97が回転する。この2台のローラの回転により針金21は上方へ引き上げられ、針金21の緩みはなくなる。このように第2実施形態の牡蠣筏固縛工具2では、電動式の針金把持具87を採用するため非常に簡単に針金21の緩みを取りさることができる。
【0051】
上記のように牡蠣筏固縛工具1、2を使用することで簡単に牡蠣筏を固縛することができる。手動レバー3を回動させることでしの工具17を一方向に回転させることができるので、操作性が非常によい。通常、しの工具17で針金21を固縛するには大きな力を必要とするが、牡蠣筏固縛工具1、2では、レバー歯車5と本体歯車7との歯車比を適正に設定し、手動レバー3の長さを長くしてあるので、大きな力を必要としない。またしの工具17で針金21を固縛するとき、針金21が緩み、針金21と孟宗竹19との間に大きな隙間があると、針金21を強固に縛ることができないが、牡蠣筏固縛工具1、2は、針金把持具23、87を備えるので、簡単に針金21の緩みを取り去ることができ、針金21を強固に縛ることができる。
【0052】
上記実施形態では、レバー歯車5を手動レバー3で駆動していたが、手動レバー3に代え、レバー歯車5を電動モータで回転駆動させてもよい。これにより楽に針金21を固縛することができる。また、上記実施形態では、孟宗竹19を用いた牡蠣筏を固縛する牡蠣筏固縛工具1、2を示したが、本発明に係る固縛工具は、上記牡蠣筏以外の筏の固縛にも使用できることは言うまでもない。例えば真珠養殖用の筏、魚釣りなどで使用される筏を製作する際にも、本発明に係る固縛工具を使用することで簡単に又迅速に固縛作業を進めることができる。筏の材料も孟宗竹に限定されず、他の竹、さらには木であってもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 牡蠣筏固縛工具
2 牡蠣筏固縛工具
3 手動レバー
5 レバー歯車
7 本体歯車
9 可動爪
11 ラチェット歯車
13 固定爪
15 しの工具取付具
17 しの工具
19 孟宗竹
21 針金
23 針金把持具
25 ハンドル
31 上部保持板
33 下部保持板
37 回転軸
39 軸受部
41 レバー歯車軸
45 軸受部
73 しの工具取付板
74 取付口
75 貫通孔
77 テーパ部
79 円柱部
81 押え具
83 押し棒
85 受け板
87 針金把持具
91 電動モータ
95 電動ローラ
97 押えローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
しの工具を回転させ筏の格子状部を針金で縛る筏用の固縛工具であって、
中央部に回転軸の軸受部を有する上部保持板と、
中央部に回転軸の軸受部を有し、前記上部保持板の下部に所定の間隔を持って取り付けられた下部保持板と、
前記2つの軸受部に回転自在に嵌り込み、中心部を針金が挿通する貫通孔を備えるパイプ状の回転軸と、
前記回転軸と一体的に回転するラチェット歯車と、
前記回転軸に回転自在に嵌め込まれた本体歯車と、
前記本体歯車の一方向の回転運動を前記ラチェット歯車に伝える可動爪と、
前記ラチェット歯車の前記回転方向と逆方向の回転を防止する固定爪と、
前記本体歯車と噛み合い前記本体歯車を回転させるレバー歯車と、
前記上部保持板に回動自在に取り付けられ前記レバー歯車を正逆方向に回転させる手動レバーと、
前記下部保持板の下方で前記回転軸に固定され回転軸と一体的に回転する、しの工具を取り付けるためのしの工具取付具と、
前記上部保持板及び前記下部保持板の側方に設けられたハンドルと、
前記ハンドルの後端に設けられた押え具と、
前記上部保持板の上方に突出する針金を挟む針金把持具と、
を備えることを特徴とする固縛工具。
【請求項2】
さらに先端に向って細くなったテーパ部と前記テーパ部の先端に設けられた同一の太さの円柱部とを有する、前記しの工具取付具に取り付け使用するしの工具を備えることを特徴とする請求項1に記載の固縛工具。
【請求項3】
前記レバー歯車の径が、前記本体歯車の径に比べ小さいことを特徴とする請求項1又は2に記載の固縛工具。
【請求項4】
前記しの工具取付具は、しの工具の先端部を下向きとし、水平面に対ししの工具の軸線が5度から15度傾斜するようにしの工具を取り付けることを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の固縛工具。
【請求項5】
前記しの工具取付具は、平面視において、前記回転軸の貫通孔の中心に対し、しの工具の軸線がずれるようにしの工具を取り付けることを特徴とする請求項1から4のいずれか1に記載の固縛工具。
【請求項6】
前記しの工具取付具は、しの工具を取り付けるための取付口を円周方向に複数個備えることを特徴とする請求項1から5のいずれか1に記載の固縛工具。
【請求項7】
前記針金把持具は、2つの部材で針金を挟み込むペンチ型、又は2つのローラで針金を挟み込むローラ型の針金把持具であり、
前記針金把持具で前記上部保持板の上方に突出する針金を挟み、針金を上方に引き上げ、針金の緩みを取り去ることが可能なことを特徴とする請求項1から6のいずれか1に記載の固縛工具。
【請求項8】
さらに前記ローラ型の針金把持具は、ローラを回転させる電動モータを備えることを特徴とする請求項7に記載の固縛工具。
【請求項9】
前記手動レバーに代え、前記レバー歯車を回転させる電動モータを備えることを特徴とする請求項1から8のいずれか1に記載の固縛工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−101323(P2012−101323A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−252483(P2010−252483)
【出願日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(510069364)有限会社大賀技研工業 (2)
【Fターム(参考)】