説明

園芸用施設

【課題】光の透過性、長波波長の遮断性(保温性)、低コスト、耐環境性などのすべての条件を満たした被覆資材が存在しないため、黒い寒冷紗などを取り付けなければ低温化の防止を図れなかった。
【解決手段】構造体を形成するのフレーム2と、当該フレーム2に取り付けられる外側被覆資材3とを備えてなる園芸施設1において、この外側被覆資材3に波長領域800nm〜1200nmの範囲内に含まれる赤外線を少なくとも50%以上反射もしくは吸収させるための赤外線反射・吸収塗料6を塗布する。また、この塗料としては、波長領域600nm±50nmの電磁波の透過率が、660nm〜720nmの透過率よりも多いものを用いる。これにより、草丈の長い植物を育成することができるようになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビニルハウス、硬質プラスチックハウス、ガラス温室などと称される園芸施設に関するものであり、より詳しくは、被覆資材によって保温効果を高めることのできる園芸施設に関するものである。
【背景技術】
【0002】
園芸施設は、従来からビニルハウスや硬質プラスチックハウス、ガラス温室などとして知られており、一般にその内部には、余剰の熱を屋外に排出するための開放窓や換気扇だけでなく、寒冷期や夜間などに室内空間の温度低下を防止するための暖房設備などが備えられている。これにより、例えば、夏期の日照りなどによって室内温度が上昇した場合は、ガラス窓の開放や換気扇などによって余剰熱を放出し、また、寒冷期や夜間などにおいては温度が大きく低下した場合は、ボイラーで重油や灯油を燃やすことによって室内空間の温度を維持させるようにしている。
【0003】
ところで、近年、このような化石燃料を用いて室内空間を暖めることなどに関して、省エネルギー化が強く要求されるようになってきている。また、環境問題の観点からもCOの排出が厳しく制限されるような状況になってきている。
【0004】
これに関して、最近では、暖房設備における省エネルギー化を図るための工夫が種々なされており、例えば、下記の非特許文献1には、園芸施設の保温性向上や暖房効率向上のための施策が公表されている。
【0005】
この文献によれば、暖房用燃料の節減を図るためには、「1.温室表面積の制御、2.貫流伝熱負荷の制御、3.隙間換気伝熱負荷の抑制、4.内外気温差、5.床面積、6.地中伝熱量」などの要素を改善することが記載されており、これらのいずれかの要素を改善すれば暖房熱量を減らすことができるとされている。
【0006】
さらに、この文献には、暖房用燃料の節減を図るための対策として、最適な被覆資材を選択することが指摘されている。一般に、園芸施設による気象環境の改良は、入射する太陽放射によって加熱された暖気と暖房機による暖気を閉じた空間に保留することによって達成される。そして、省エネルギー化を図るためには、光の透過性が良好な被覆資材を選ぶこと、および、保温能力の高い被覆資材を選ぶことが必要とされる。この2点は、物理的特性から相反するため、用途に適合した資材を使う必要があるとされている。
【0007】
被覆資材としては、塩化ビニルフィルム、ポリオレフィン系フィルム、不織布、ポリビニルアルコールフィルム、ガラス、ガラス繊維強化アクリル、アクリル、ポリカーボネート、アルミ粉利用ポリエチレンフィルム、ポリオレフィン系アルミ蒸着フィルムなどが存在する。この被覆資材には、赤外線などの長波波長の透過性や、光の透過性、重量、値段などに対して種々のメリット、デメリットが存在する。例えば、ポリオレフィン系フィルムである農業用ポリエチレンフィルムは、赤外線の透過性が大きく保温性が劣るという問題が指摘されており、ポリオレフィン系アルミ蒸着フィルムは断熱性が高いことが知られている。
【非特許文献1】「e−農林水産・ながさき 施設園芸の省エネルギー対策」(http://www.n-nourin.jp/ah/sesaku/nougyoukeieika/syouene/mokuji.htm)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、このような被覆資材を用いる場合、光の透過性、長波波長の遮断性(保温性)、低コスト、耐環境性などのすべての要素を満たす被覆資材が存在しないため、透明な外側被覆資材によって太陽光を取り込んで室内空間を保温するとともに、夜間などにおいては、寒冷紗などの内側被覆資材を被せて温度維持を図るようにしているのが現状である。しかしながら、このような内側被覆資材を取り付ける構造であると、コストが高くつくばかりでなく、その開閉のための作業に時間がかかるといった問題を生ずる。特に、塩化ビニルフィルムのように長波長成分の透過率が低くて保温性の高い資材に関しては、重量が重く、また、可逆性に起因するベタつきや汚れによる劣化や、光線透過率の低下が早いという欠点がある。
【0009】
そこで、本発明は上記課題を解決するために、簡単かつ安価に光の透過性と保温性を確保することのできる園芸用施設を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は上記課題を解決するために、室内空間で園芸作物や農作物を育成するための園芸施設において、構造体を形成するためのフレームと、当該フレームに取り付けられる被覆資材とを備えてなり、前記被覆資材に波長領域800nm〜1200nmの範囲内に含まれる赤外線を少なくとも50%以上反射もしくは吸収させるための塗料を塗布するようにしたものである。
【0011】
このようにすれば、暖房設備によって暖められた気体や、昼間の太陽光によって暖められた地熱から放射される赤外線を夜間屋外に放出してしまうようなことがなくなり、その赤外線を室内空間側へ反射・吸収させることによって保温効果を高めることができるようになる。これにより、暖房設備の省エネルギー化を図ることができ、化石燃料の使用量低減に伴うコスト低減や、COの排出削減に伴う環境問題への対応を行うことができるようになる。なお、ここで「被覆資材」とは、室内空間に設けられる寒冷紗などの被覆資材であってもよく、また、室内空間と屋外空間を仕切るガラスや硬質プラスチックなどの被覆資材であってもよい。
【0012】
そして、このような発明のうち、好ましくは、室内空間と屋外空間を仕切る外側被覆資材に赤外線反射・吸収塗料を塗布する。
【0013】
このようにすれば、室内空間に寒冷紗などの内側被覆資材を必ずしも設ける必要がなくなり、外側被覆資材によって内側からの赤外線の放出を阻止することができるようになる。
【0014】
また、波長領域600nm±50nmの電磁波の透過率を660nm〜720nmの透過率よりも相対的に大きくする。
【0015】
このようにすれば、光形態形成によって室内空間で育成される園芸物の背丈を高くすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、室内空間で園芸作物や農作物を育成するための園芸施設において、構造体を形成するためのフレームと、当該フレームに取り付けられる被覆資材とを備えてなり、前記被覆資材に波長領域800nm〜1200nmの範囲内に含まれる赤外線を少なくとも50%以上反射もしくは吸収させるための塗料を塗布するようにしたので、暖房設備や暖められた地面から放出される赤外線を屋外に出してしまうことがなくなる。これにより、暖房設備の省エネルギー化を図ることができ、化石燃料の使用量低減に伴うコスト低減や、COの排出削減に伴う環境問題への対応を行うことができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の一実施の形態における園芸施設1について図面を参照して説明する。図1は、園芸施設1の断面概略図を示したものであり、農地に組み立てられたフレーム2に透明な外側被覆資材3を取り付けた状態を示したものである。また、図2は、外側被覆資材3における赤外線の透過状態を模式的に示したものである。
【0018】
この実施の形態における園芸施設1は、構造体を形成するためのフレーム2と、このフレーム2に取り付けられる外側被覆資材3を備えてなり、その外側被覆資材3やフレーム2に赤外線反射・吸収塗料6を塗布するようにしたものである。そして、このように赤外線反射・吸収塗料6を塗布することによって、暖房設備によって暖められた空気や地中に蓄えられた熱源などから照射される赤外線を可能な限り室内空間4内に封じ込め、これにより暖房設備の省エネルギー化やCOの排出削減による環境問題への対応を可能にしたものである。以下、本実施の形態における園芸施設1について詳細に説明する。
【0019】
この実施の形態における園芸施設1は、新規に建てられるガラス温室などだけでなく、すでに農地に立設されているガラス温室などをそのまま使用できるようにしたものであり、従来の構造と同様に、フレーム2と外側被覆資材3とを備えてなる。
【0020】
このうちフレーム2は、間欠的に設けられたコンクリート製の基礎の上に柱状の脚部材を立設し、さらに、その上端部分に天井フレーム2を取り付けるとともに、隣接する脚部材との間に横梁や縦通材、筋交いなどを設けるようにしたものである。また、このフレーム2を構成する際には、その他、適宜、図示しない排水溝や吸水溝、出入り口、換気扇、暖房設備5などが取り付けられる。なお、このフレーム2の構成については、三角屋根構造を有する形状のみならず、アーチ形状をなす構造など、外部空間と室内空間4を仕切ることのできるような構造であればどのようなものであってもよい。
【0021】
外側被覆資材3は、このフレーム2の外側や、フレーム2の格子状の枠体に取り付けられるもので、ガラスやガラス繊維強化アクリル、アクリルなどの硬質の被覆資材が取り付けられる。この外側被覆資材3は、屋根資材として外部と室内空間4とを仕切るもので、このような素材の他、可能であれば、塩化ビニルフィルム、ポリオレフィン系フィルム、ポリビニルアルコールフィルム、ポリカーボネート、アルミ粉利用ポリエチレンフィルム、ポリオレフィン系アルミ蒸着フィルムなどを用いることができるが、耐候性の観点から可能な限り硬質のものを用いるとよい。このような外側被覆資材3を選択する際は、透明もしくは半透明な素材であって、しかも、アルコール系塗料を塗布することのできる素材を選ぶか下地処理できるような素材を選択する。なお、ガラスやガラス繊維強化アクリル、アクリルなどの素材は、比較的アルコール系塗料ののりが悪く、均一に塗料を塗布することができないため、あらかじめ下地処理を行い、この下地処理されたコーティング材の上にアルコール系塗料を塗布する。
【0022】
このような塗料としては、図3に示すように、波長領域300nm以下の電磁波の透過率がほぼ0%(反射・吸収率約100%)、可視光領域400nm〜700nmの電磁波の透過率が40%〜80%(反射・吸収率が60%〜20%)、波長領域700nm〜800nmの近赤外線の透過率が約60%〜45%(反射・吸収率が40%〜70%)、波長領域800nm〜1200nmの近赤外線・中赤外線の透過率が45%〜30%以下(反射・吸収率が55%〜70%)、波長領域1200nm以上の遠赤外線の透過率が45%〜80%以上(反射・吸収率が45%〜20%)のものを用いる。この塗料としては、例えば、平均粒子径50nm以下の二酸化ルテニウム微粒子を0.1重量%以上1重量%以下、平均粒子径100nm以下の酸化水酸化鉄及び/又は二酸化セリウム微粒子を1重量%以上10重量%以下、そして、ベンゾフェノン系及び又はベンゾトリアゾール系の有機系紫外線吸収剤量を1重量%以上6重量%以下含有する塗料や、バインダーに対して1重量%以上5重量%以下で平均粒径100nm以下の六ホウ化ランタン微粒子と、バインダーに対して2重量%以上10重量%以下で平均粒径100nm以下の酸化水酸化鉄と、バインダーに対して3重量%以上10重量%以下のベンゾフェノン系またはベンゾトリアゾール系の有機紫外線吸収材料や常温硬化性バインダーや希釈溶媒などを用いる。この赤外線反射・吸収塗料6による電磁波の反射・吸収特性を図3に示す。
【0023】
図3は、厚さ5mmのガラスにこの赤外線反射・吸収塗料6を塗布した場合における電磁波の透過率を示したものであり、横軸は電磁波の波長、縦軸は透過率である。この塗料による透過率は、光合成に強く影響する400nm〜720nmの範囲内における透過率が40%〜80%となっており、光合成に悪影響を与えることがない。また、植物の光形態形成に影響を与える600nmの領域の透過率と660nm〜720nmの領域の透過率がそれぞれ約80%弱および70%〜60%と、相対的に600nmの光量の方が660nm〜720nmの透過光量よりも多くなっている。これにより、光形態形成によって、植物の背丈を長くするように育成させることができる。また、図3においては、近赤外線領域である800nm〜1200nmの透過率が30%〜40%となっており、室内空間4で発生した近赤外線を室内空間4内に封じ込めて保温効果を高めるようにしている。
【0024】
このような塗料を外側被覆資材3に塗布する場合、フレーム2に取り付けられる前の状態での外側被覆資材3に下地処理を行い、その表面にローラーや刷毛、スポンジ、スプレーなどによって薄く塗布膜を形成する。そして、これを固化させた後、フレーム2の枠体に取り付けていく。あるいは、すでに建てられている園芸用施設にこの塗料を塗布していく場合、フレーム2に取り付けられた状態での外側被覆資材3にローラーや刷毛、スポンジ、スプレーなどを用いて塗布膜を形成する。このような塗布膜を形成する場合、室内空間4の内側に塗布膜を形成する方法や、室内空間4の外側に塗布膜を形成する方法がある。室内空間4の内側に塗布膜を形成する場合において、他の塗料などで外側被覆資材3で紫外線をカットすることができる場合、その紫外線のカットによって塗布膜の劣化を防止することができる。一方、室内空間4の外側に塗布膜を形成する場合、室内空間4側に設けられたワイヤーなどの複雑な部材を避けながら塗布作業をするといった煩わしさがなくなり、屋根上から一気に塗料を塗布していくことができるようになる。これらの塗布膜を形成する場合、費用対効果などを比較考量した上で、適宜塗布面を選択して塗布され、外側面と内側面の両方に塗料を塗布されることもある。
【0025】
ところで、外側被覆資材3に赤外線反射・吸収塗料6を塗布した場合、日中外部から放射される赤外線も反射・吸収されることになるが、昼間においては赤外線の照射量は非常に多くなるため、このような赤外線反射・吸収塗料6を塗布しても室内空間4の温度を適正に保つことができ、換気扇などの冷房設備を長時間作動させる必要もなくなる。また、夜間や寒冷期などにおいては、室内空間4内の暖房設備5によって暖められた空気や昼間の熱によって暖められた地面などからの赤外線を室内空間4側へ反射させることができるため、室内空間4における温度低下を防止することができる。これにより、化石燃料の使用量低減に基づく省エネルギー化やCO排出削減に基づく環境問題への対応を図ることができるようになる。
【0026】
このように上記実施の形態によれば、室内空間4で園芸作物や農作物を育成するための園芸施設1において、構造体を形成するのフレーム2と、このフレーム2に取り付けられる外側被覆資材3とを備えてなり、この外側被覆資材3に波長領域800nm〜1200nmの範囲内に含まれる赤外線を少なくとも50%以上反射もしくは吸収させるための赤外線反射・吸収塗料6を塗布するようにしたので、暖房設備5や暖められた地面から放出される赤外線を屋外に放出してしまうようなことがなくなる。これにより、暖房設備の省エネルギー化を図ることができ、化石燃料の使用量低減に伴う低コスト化やCOの排出削減に伴う環境問題への対応を行うことができるようになる。
【0027】
また、このような赤外線反射・吸収塗料6を塗布する場合、波長領域600nm±50nmの電磁波の透過率を660nm〜720nmの透過率よりも相対的に大きくするようにしたので、植物の背丈を長くするように育成させることができるようになる。
【0028】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されることなく種々の態様で実施することができる。
【0029】
例えば、上記実施の形態では、外側被覆資材3に赤外線反射・吸収塗料6を塗布するようにしたが、これに限らず、すでに寒冷紗が設けられている場合は、その寒冷紗も用いて保温効果を高めることもできる。もしくは、この寒冷紗などにも赤外線反射・吸収塗料6を塗布して使うようにしてもよい。
【0030】
また、上記実施の形態では、外側被覆資材3に赤外線反射・吸収塗料6を塗布するようにしているが、塗料を塗布する場合に限らず、例えば、赤外線反射・吸収塗料6を含有したフィルムを外側被覆資材3に取り付けるようにしてもよい。また、被覆資材は外側被覆資材3に限らず、ガラスや樹脂によって構成された外側被覆資材3の内側に設けられた内側被覆資材であってもよい。
【0031】
また、上記実施の形態における赤外線反射・吸収塗料6としては、例えば、一液弱溶剤反応硬化型シリコン変性樹脂塗料など、種々の塗料を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の一実施の形態における園芸施設を示す図
【図2】同形態における赤外線の透過率の状態を示す図
【図3】同形態における赤外線反射・吸収塗料を塗布したガラスにおける透過率特性を示す図
【符号の説明】
【0033】
1・・・園芸施設
2・・・フレーム
3・・・被覆資材
4・・・室内空間
5・・・暖房設備
6・・・赤外線反射・吸収塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内空間で園芸作物や農作物を育成するための園芸施設において、構造体を形成するのフレームと、当該フレームに取り付けられる被覆資材とを備えてなり、前記被覆資材に波長領域800nm〜1200nmの範囲内に含まれる赤外線を少なくとも50%以上反射もしくは吸収させる塗料を塗布してなることを特徴とする園芸施設。
【請求項2】
前記被覆資材が、屋外空間と室内空間を仕切る外側被覆資材に塗布されるものである請求項1に記載の園芸用施設。
【請求項3】
波長領域600nm±50nmの赤外線の透過率を660nm〜720nmの透過率よりも相対的に大きくするようにした請求項1に記載の園芸施設。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−35766(P2008−35766A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212876(P2006−212876)
【出願日】平成18年8月4日(2006.8.4)
【出願人】(505409694)株式会社東建ハウジング (7)
【Fターム(参考)】