説明

土壌浄化剤組成物

【課題】土壌を攪拌せずに現位置で洗浄を行う、現位置浄化工法の一種である薬剤注入工法に適用した場合であっても、油類によって汚染された土壌、特に重油等の石油系化合物、中でもC重油に汚染された土壌を効果的に洗浄することのできる、優れた土壌浄化剤組成物を提供すること。
【解決手段】(A)スルホコハク酸型アニオン性界面活性剤を含有することを特徴とする、薬剤注入工法に使用するための土壌浄化剤組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、土壌浄化剤組成物に関し、より詳細には、油類によって汚染された土壌、特に重油等の石油系化合物、中でもC重油に汚染された土壌を洗浄するための土壌浄化剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンスタンドや工場からの敷地跡地に存在する、長期にわたって漏出した有機物で汚染された土壌が社会問題となっており、早急な汚染土壌の浄化対策が求められている。
従来から、油汚染土壌の浄化方法としては、例えば、掘削した油含有土壌を加熱して油を除去する方法、高圧空気で油含有土壌から油を剥離し、微生物を用いて油を分解する方法、土壌洗浄法などが提案されている(特許文献1参照)。このうち土壌洗浄法は、コストや環境の面で優れた土壌浄化方法であり、従来から、例えば浄化薬剤として界面活性剤を用いた土壌洗浄剤や土壌浄化方法が報告されている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
土壌の浄化方法は、原位置で汚染土壌を浄化する工法(原位置浄化工法)と、掘削した汚染土壌を浄化する工法(掘削浄化工法)とに大別される。中でも、原位置浄化工法には、汚染領域の近傍に設けた注入井戸から浄化剤を注入する工法(薬剤注入工法)や、スタビライザ等の混合機械を用いて汚染土壌と浄化剤とを混合する工法などがある。
原位置浄化工法の一種である薬剤注入工法は、特殊な装置が不要であり、汚染土壌を原位置で浄化するため、コスト的に有利である一方で、洗浄時に機械的攪拌力を作用させることができないため、使用する浄化剤には高い洗浄力が求められる。
【0004】
【特許文献1】特開2004−322073号公報
【特許文献2】特開2003−119495号公報
【特許文献3】特開2001−17955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、薬剤注入工法に適用した場合であっても、油類によって汚染された土壌、特に重油等の石油系化合物、中でもC重油に汚染された土壌を効果的に洗浄することのできる、優れた土壌浄化剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、各種アニオン性界面活性剤の中でも、スルホコハク酸型アニオン性界面活性剤を含有する土壌浄化剤組成物のみが、薬剤注入工法に適用した場合に、重油、特に粘度が高く洗浄が困難なC重油に汚染された土壌から、効果的に重油を除去することができることを見出し、本発明の完成に至った。
前記したような、従来の土壌洗浄剤や土壌浄化方法(特開2004−322073号公報、特開2003−119495号公報、特開2001−17955号公報参照)では、例えば、薬剤注入工法により、土壌を攪拌せずに現位置で洗浄する際や、粘度が高く洗浄が困難なC重油を洗浄する際などにおいては、十分な洗浄力が得られないなどの問題があった。これに対し、本発明の土壌浄化剤組成物は、汚染土壌の洗浄性、及び、土壌中での通液性に優れるものであり、したがって、薬剤注入工法により、土壌を攪拌せずに現位置で洗浄する際や、粘度が高く洗浄が困難なC重油を洗浄する際などにも、十分な洗浄力を発揮することができるという利点がある。
【0007】
本発明は、本発明者らによる前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 薬剤注入工法による土壌浄化に使用するための土壌浄化剤組成物であって、(A)スルホコハク酸型アニオン性界面活性剤を含有することを特徴とする土壌浄化剤組成物である。
<2> 更に、(B)アルカリ土類金属塩を含有する前記<1>に記載の土壌浄化剤組成物である。
<3> 更に、(C)下記一般式(1)で表される化合物を含有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の土壌浄化剤組成物である。
−O−(AO)−R (1)
ただし、前記一般式(1)中、Rは炭素数1〜8の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルキル基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、mはAOの平均付加モル数であって、0〜4の数を示す。
<4> 油類に汚染された土壌の洗浄に用いられる前記<1>から<3>のいずれかに記載の土壌浄化剤組成物である。
<5> 油類が重油である前記<4>に記載の土壌浄化剤組成物である。
<6> 重油がC重油である前記<5>に記載の土壌浄化剤組成物である。
<7> 前記<1>から<6>のいずれかに記載の土壌浄化剤組成物を用いることを特徴とする土壌浄化方法である。
<8> 油類に汚染された土壌を洗浄する前記<7>に記載の土壌浄化方法である。
<9> 油類が重油である前記<8>に記載の土壌浄化方法である。
<10> 重油がC重油である前記<9>に記載の土壌浄化方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、薬剤注入工法に適用した場合であっても、油類によって汚染された土壌、特に重油等の石油系化合物、中でもC重油に汚染された土壌を効果的に洗浄することのできる、優れた土壌浄化剤組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(土壌浄化剤組成物)
本発明の土壌浄化剤組成物は、(A)スルホコハク酸型アニオン性界面活性剤を含有してなり、好ましくは更に、(B)アルカリ土類金属塩、及び/又は、(C)一般式(1)で表される化合物を含有してなり、必要に応じて更に、適宜その他の成分を含有してなる。
【0010】
<(A)成分>
前記(A)成分は、主に、汚染土壌の洗浄工程において土壌から剥離した重油等を可溶化、乳化分散することにより洗浄する目的で、前記土壌浄化剤組成物に配合される。
前記(A)成分は、例えば、下記一般式(2)で表されるスルホコハク酸アルキル(又はアルケニル)エステル型界面活性剤、下記一般式(3)で表されるスルホコハク酸アミド・エステル混合型界面活性剤、下記一般式(4)で表されるスルホコハク酸モノアミド型界面活性剤、スルホコハク酸イミド型界面活性剤等の、スルホコハク酸型アニオン性界面活性剤であり、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0011】

【0012】
前記一般式(2)〜(4)中、R〜Rはそれぞれ炭素数3〜22のアルキル基又はアルケニル基を示し、Mは対イオンで、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、又はアミン化合物の塩を示す。
【0013】
中でも、前記スルホコハク酸型アニオン性界面活性剤としては、前記一般式(2)で表されるスルホコハク酸アルキル(又はアルケニル)エステル型界面活性剤が好ましく、R及びRがそれぞれイソブチル、アミル、ヘキシル、又はオクチル(2−エチルヘキシル)であるジアルキルエステル型スルホコハク酸塩がより好ましい。
【0014】
前記(A)成分の具体例としては、ジ−2−エチルヘキシルスルホサクシネートナトリウムなどが挙げられる。
【0015】
前記土壌浄化剤組成物中の、前記(A)成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、1〜20質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましく、3〜5質量%が更に好ましい。前記含有量が、1質量%未満であると、所望の程度の洗浄力が得られないことがあり、20質量%を超えると、前記土壌浄化剤組成物の粘度が増し、薬剤注入工法において土壌浄化剤組成物を土壌中に通液させることが困難となることがある。一方、前記含有量が、更に好ましい範囲内であると、より良好な洗浄力が得られ、かつ、前記土壌浄化剤組成物の増粘が抑制されて、薬剤注入工法において土壌浄化剤組成物を土壌中に通液させることが容易となり、結果として洗浄効率をより向上させることができる点で、有利である。
【0016】
<(B)成分>
前記(B)成分は、主に、前記(A)成分の洗浄力をより向上させる目的で、前記土壌浄化剤組成物に配合される。前記(B)成分を配合することで、特に、粘度が高く洗浄が困難なC重油の洗浄性を向上させることができる。
前記(B)成分は、アルカリ土類金属塩であり、土壌浄化剤組成物中に溶解したときにアルカリ土類金属イオンを生成する化合物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0017】
前記(B)成分の具体例としては、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、塩化カルシウム、次亜燐酸カルシウム、硝酸カルシウム、これらの水和物等が挙げられる。これらの中でも、安定性の面から、硫酸マグネシウム水和物、塩化マグネシウム水和物が好ましい。
【0018】
前記土壌浄化剤組成物中の、前記(B)成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、0.01〜5質量%が好ましく、0.05〜1質量%がより好ましく、0.1〜1質量%が更に好ましい。前記含有量が、0.01質量%未満であると、洗浄力を向上させる効果が十分に得られないことがあり、5質量%を超えると、土壌浄化剤組成物の液均一性が悪くなることがある。一方、前記含有量が、更に好ましい範囲内であると、洗浄力を向上させる効果が十分に得られ、かつ、土壌浄化剤組成物の液均一性にもより優れる点で、有利である。
【0019】
<(C)成分>
前記(C)成分は、主に、前記(A)成分の洗浄力をより向上させる目的で、前記土壌浄化剤組成物に配合される。前記(C)成分を配合することで、特に、粘度が高く洗浄が困難なC重油の洗浄性を向上させることができる。さらに、後記の薬剤注入工法に適用した場合の通液性も向上させることができる。
前記(C)成分は、下記一般式(1)で表される化合物であり、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
−O−(AO)−R (1)
【0021】
前記一般式(1)中、Rは炭素数1〜8の炭化水素基を示し、Rは水素原子、又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルキル基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、mはAOの平均付加モル数であって、0〜4の数を示す。
【0022】
前記(C)成分の具体例としては、グリコールエーテル化合物として、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングチコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレンジプロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル等が挙げられ;アルコールとして、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ペンチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−ヘプチルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール等が挙げられる。
【0023】
前記土壌浄化剤組成物中の、前記(C)成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、1〜20質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましく、3〜5質量%が更に好ましい。前記含有量が、1質量%未満であると、洗浄力を向上させる効果が十分に得られないことがあり、20質量%を超えると、前記土壌浄化剤組成物の粘度が増し、薬剤注入工法において土壌浄化剤組成物を土壌中に通液させることが困難となることがある。一方、前記含有量が、更に好ましい範囲内であると、洗浄力を向上させる効果が十分に得られ、かつ、前記土壌浄化剤組成物の増粘が抑制されて、薬剤注入工法において土壌浄化剤組成物を土壌中に通液させることが容易となり、結果として洗浄効率をより向上させることができる点で、有利である。
【0024】
<その他の成分>
前記(A)〜(C)成分以外のその他の成分としては、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記土壌浄化剤組成物は、(A)成分の加水分解による組成物のpH低下を防止する目的から、有機カルボン酸又はその塩として、例えば、グリコール酸、クエン酸、アスコルビン酸、酢酸、グルタミン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、MGDA、EDTAなど、また、芳香族カルボン酸又はその塩として、安息香酸、サリチル酸などを含有していてもよい。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記土壌浄化剤組成物中の、前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、本発明の効果を損なわない範囲内で、目的に応じて適宜選択することができる。
【0025】
<製造>
前記土壌浄化剤組成物の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記(A)成分と、好ましくは前記(B)〜(C)成分と、必要に応じて前記その他の成分と、溶媒とを混合することにより、製造することができる。より具体的には、例えば、溶媒中に、前記(A)成分と、好ましくは前記(B)〜(C)成分と、必要に応じて前記その他の成分とを添加し、室温下(10〜30℃)で攪拌することにより、前記土壌浄化剤組成物を得ることができる。前記攪拌に用いる装置としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、攪拌子、攪拌羽などを利用することができる。
なお、前記溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、引火性や安全性の観点から、水が好ましい。
【0026】
前記溶媒として水を使用した場合の、前記土壌浄化剤組成物のpHは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、5以上であることが好ましく、5〜9であることがより好ましい。前記pHが、5未満であると、所望の程度の洗浄力が得られないことがあり、9を超えると、(A)成分の加水分解が促進されることが懸念される。一方、前記pHが、より好ましい範囲内であると、より良好な洗浄力が得られ、かつ、(A)成分の加水分解が低減される点で、有利である。前記pHは、例えば、酸やアルカリ等のpH調整剤を用い、調整することができる。
なお、前記pHは、得られた前記土壌浄化剤組成物について、pHメーター堀場製作所製pHメーター M−12)を用い、25℃で測定した値である。
【0027】
なお、前記土壌浄化剤組成物は、前記各成分((A)成分、好ましくは更に(B)成分及び/又は(C)成分)が前記したような好ましい含有量となるように調製し、そのまま汚染土壌に作用させる態様のものであってもよいし、また、前記各成分をより濃縮した組成で調製し、使用前に、各成分が前記したような好ましい含有量となるように希釈して、汚染土壌に作用させる態様のものであってもよい。
また、(A)成分と、(B)成分及び/又は(C)成分とを併用する場合、前記土壌浄化剤組成物としては、前記各成分が予め混合された組成物を汚染土壌に作用させる態様のもののみに限定されず、例えば、前記(A)成分を含む組成物と、前記(B)成分及び/又は前記(C)成分を含む組成物とを、別々に(例えば、それぞれ別々の位置から)汚染土壌に作用させる態様のものであってもよい。
【0028】
前記土壌浄化剤組成物の、汚染土壌に対する適用量としては、特に制限はなく、土壌の汚染の程度等に応じて適宜選択することができるが、例えば、汚染土壌量に対する前記(A)成分の量として、0.5〜10質量%が好ましく、1〜8質量%がより好ましい。汚染土壌量に対する前記(A)成分量が、0.5質量%未満であると、所望の洗浄力が得られないことがあり、10質量%を超えても、薬剤コストに見合うそれ以上の効果が得られないことがある。一方、汚染土壌量に対する前記(A)成分量が、更に好ましい範囲内であると、洗浄力と薬剤コストのバランスの点で、有利である。
【0029】
<適用対象>
前記土壌浄化剤組成物は、鉱油、合成油、動植物油、これらの廃油等の、油類により汚染された土壌を浄化するための薬剤として好適であるが、前記油類のうち、特に重油等の石油系化合物、中でも粘度が高く洗浄が困難なC重油に汚染された土壌に対して、高い洗浄力を発揮するものである。なお、重油は、動粘度により、1種(A重油)、2種(B重油)、3種(C重油)の3種類に分類され、その規格はJIS K 2205に示される通りである。
【0030】
<適用方法>
前記土壌浄化剤組成物は、例えば、以下に示すような様々な土壌浄化方法に使用することが可能であるが、中でも、以下に示す「薬剤注入工法」への使用に、特に好適である。
土壌の浄化方法は、原位置で汚染土壌を浄化する工法(以下、「原位置浄化工法」と称することがある)と、掘削した汚染土壌を浄化する工法(以下、「掘削浄化工法」と称することがある)とに大別できる。原位置浄化工法は、原位置で汚染土壌を浄化する工法であり、汚染領域の近傍に設けた注入井戸から浄化剤を注入する工法(薬剤注入工法)、スタビライザ等の混合機械を用いて汚染土壌と浄化剤とを混合する工法などがある。また、掘削浄化工法は、掘削した汚染土壌を浄化処理プラントに搬送して洗浄を行う工法である。
【0031】
原位置浄化工法の一種である薬剤注入工法は、特殊な装置が不要であり、汚染土壌を原位置で浄化するためコスト的に有利である一方、洗浄時に機械的攪拌力を作用させることができないため、使用する浄化剤には高い洗浄力が求められる。
薬剤注入工法は、汚染領域の近傍に注入井戸と揚水井戸を設けて、注入井戸から浄化剤を含む液体(以下、「浄化用流体」と称することがある)を注入して揚水井戸から処理液を揚水することにより、注入井戸から揚水井戸へ向かう地下水の流れを形成し、汚染土壌の浄化を行う工法である。なお、注入井戸と揚水井戸は兼用とすることもできる。
【0032】
図1は、前記土壌浄化剤組成物を用いた、薬剤注入工法の好適な一例を示す説明図である。図1に示す浄化システム100は、不飽和層(非帯水層)1、及び、飽和層(帯水層)2が存在する対象汚染領域において、飽和層2中に存在する有機物層(汚染層)3を原位置で浄化するためのシステムである。
浄化システム100においては、対象汚染領域において注入井戸5、及び、揚水井戸6がそれぞれ離間して設けられている。注入井戸5、及び、揚水井戸6は、それぞれ地下水位4よりも下方に達するように、即ちそれらの下端が地下水位4よりも下方に位置するように設けられており、飽和層2においては注入井戸5から揚水井戸6に向かう地下水の動水勾配が形成されている。
注入井戸5の上端には移送ラインL1を介して薬剤混合供給装置7が連結されている。これにより、前記土壌浄化剤組成物を含む浄化用流体(薬剤)が薬剤混合供給装置7から注入井戸5を通って飽和層2に注入される。なお、薬剤混合供給装置7の構成は特に制限されないが、例えば、薬剤タンク、及び、注入ポンプなどを含んで構成することができる。
注入井戸5から飽和層2に注入された薬剤は、地下水の流れAに沿って飽和層2中を移動して、有機物層3に到達する。そして、有機物層3中の土粒子に付着している有機物が該薬剤の作用により土粒子から剥離することにより、汚染土壌の浄化が行われる。そして、剥離した有機物は地下水の流れAに沿って揚水井戸6まで移動する。
揚水井戸6の上端には揚水ラインL2を介して揚水ポンプ8が連結されており、この揚水ポンプ8により揚水(薬剤、水、有機物の混合液)が地上に汲み上げられる。採取された揚水は揚水ポンプ8からラインL3を通って油水分離槽9に送られ、揚水が、薬剤と有機物の混合液A及び薬剤と水の混合液Bに分離される。分離された混合液Aは廃棄ラインL4から回収される。一方、分離された混合液Bは、ラインL5を通って薬剤混合供給装置7へ送られ、薬剤の濃度調整を行った後に再利用される。
【0033】
図1に示すような実施形態によれば、対象汚染領域において、注入井戸5、及び、揚水井戸6をそれぞれ地下水位4よりも下方に達するように設け、注入井戸5から揚水井戸6へ向かう地下水の動水勾配を形成することにより、浄化効率を一層向上させることができる。即ち、注入井戸5から薬剤を添加することにより、これらの薬剤は地下水の流れAに沿って十分に速やかに移動することができるようになり、薬剤の到達範囲をより拡大することができるようになる。
また、薬剤注入工法による汚染土壌浄化を更に促進する方法として、汚染領域の下部から注入井戸を通して空気を吹き込む方法、汚染領域をスチームにより加熱する方法、浄化用流体が注入された位置とは異なる位置から土壌内の地下水を真空吸引する方法、汚染領域に超音波を付与する方法、注入井戸から注入する浄化用流体に一定の、又は、間欠的な圧力をかける方法などを併用することができる。なお、前記土壌浄化剤組成物を用いた土壌浄化方法は上記実施形態に限定されるものではない。
【0034】
前記土壌浄化剤組成物は、重油、特に粘度が高く洗浄が困難なC重油の洗浄力に優れ、また、機械的攪拌力を加えなくとも高い洗浄力を示すことから、前記した薬剤注入工法への使用に、特に好適である。
【0035】
なお、機械的攪拌力を作用させることができる掘削法や混合機械による原位置浄化工法や地盤改良機械による原位置浄化工法に、前記土壌浄化剤組成物を使用することもできる。その場合には成分(A)に加えて成分(C)を添加することが、重油、特にC重油の洗浄力が向上する点で好ましい。
前記機械的攪拌力を作用させる工法に使用する場合の土壌浄化剤組成物中の、前記(A)成分と前記(C)成分の合計の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.1〜20質量%が好ましく、0.5〜10質量%がより好ましく、0.7〜5質量%が更に好ましい。前記含有量が、0.1質量%未満であると、所望の程度の洗浄力が得られないことがあり、20質量%を超えると、前記土壌浄化剤組成物の粘度が増し、取り扱いが困難となることがある。一方、前記含有量が、更に好ましい範囲内であると、より良好な洗浄力が得られ、かつ、前記土壌浄化剤組成物の増粘が抑制されて、取り扱いが容易となる点で有利である。
また前記機械的攪拌力を作用させる工法に使用する場合の土壌浄化剤組成物中の、前記(A)成分と前記(C)成分の合計含有量に対する(C)成分の含有量は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5〜50質量%が好ましく、10〜45質量%がより好ましく、20〜40質量%が更に好ましい。前記含有量が、5質量%未満であると、(C)成分添加の効果が得られないことがあり、50質量%を超えると、前記土壌浄化剤組成物の(A)成分の配合比率が減少し洗浄力が低下してしまうことがある。一方、前記含有量が、更に好ましい範囲内であると、より良好な洗浄力が得られる点で有利である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0037】
(実施例1〜5、比較例1〜7)
表1に示す各成分を、表2に示す各組成となるように配合し、実施例1〜5、及び、比較例1〜7の土壌浄化剤組成物を調製した。具体的には、溶媒(水)中に各成分を投入し、マグネチックスターラーを用いて攪拌し、25℃で調製した。得られた各土壌浄化剤組成物のpHを、pHメーター(堀場製作所製pHメーター M−12)を用い、25℃で測定した。
得られた各土壌浄化剤組成物について、以下の方法によりモデル重油汚染土壌の洗浄試験を行い、各土壌浄化剤組成物の洗浄性及び通液性を評価した。結果を表2に併せて示す。
【0038】
<モデル重油汚染土壌の洗浄試験>
−モデル重油汚染土壌−
6号珪砂に、C重油洗浄性試験の場合にはC重油を汚染土壌中に8質量%となるように添加、攪拌混合したものを、A重油洗浄性試験の場合にはA重油を汚染土壌中に8質量%となるように添加、攪拌混合したものを、それぞれモデル重油汚染土壌として使用した。C重油及びA重油は新日本石油(株)より入手した。
[使用したA重油]
密度(15℃):0.8681(g/cm
引火点(ペンスキーマルテンス式):95.5℃
流動点:−5.0℃
動粘度(50℃):3.196(mm/s)
水分:0.05(体積%)
目詰まり点:−4(℃)
総発熱量:44920(J/g)
蒸留(90%):354℃
[使用したC重油]
密度(15℃):0.9544(g/cm
引火点(ペンスキーマルテンス式):116.0℃
流動点:−10.0℃
動粘度(50℃):134(mm/s)
水分:0.1(体積%)
総発熱量:43110(J/g)
【0039】
−土壌重油汚染率の測定(洗浄性評価)−
調製したモデル重油汚染土壌50gを、円柱カラム21(内径3cm、長さ4cm)に充填し、図2のように装置を設定した。土壌を封入するカラムとしては前記円柱カラム21を使用し、チューブとしてはシリコンチューブ22(内径3mm)を使用した。受け槽としては、500mlビーカー23を使用した。土壌浄化剤組成物を、シリコンチューブ22を通じて円柱カラム21の下入り口から注入した。この際、カラム出口に取り付けたチューブ出口から減圧吸引して、チューブ出口までを液封した。その後、モデル重油汚染土壌に、土壌浄化剤組成物を流速1ml/min(温度25℃)となるように、図2に示す水位差を調整して流通させた。その後、円柱カラム21の上出口からシリコンチューブ22を通じて、洗浄廃液を回収した。
カラム内に土壌浄化剤組成物を合計300ml通液させた後に、さらに純水100mLを通液させて土壌浄化剤組成物をすすいだ。純水流通終了後、洗浄土壌をカラムからシャーレに回収し、室温で風乾した。その土壌から(株)堀場製作所 脂肪抽出装置 B-811型を用いてヘキサン150mlにて残存重油を2時間かけて抽出した。ソックスレー抽出後のヘキサン層からヘキサン分を加熱して蒸発除去し、その残分として抽出された油分重量(X(g))を測定した。洗浄土壌の土壌重油汚染率(質量%)は下記のように算出した。
モデル重油汚染土壌中の土壌分重量Y(g)=50×(100−8)/100=46
土壌重油汚染率(質量%)=X/(46+X)×100
A重油、C重油それぞれのモデル重油汚染土壌で前記洗浄試験を行なって得た洗浄土壌について土壌重油汚染率を測定し、その値をもって洗浄性を評価した(表2のA重油洗浄性とC重油洗浄性)。
【0040】
−通液性評価−
前記洗浄性評価の試験の際に、土壌浄化剤組成物を流速1ml/min(温度25℃)で通液させるために要した水位差(cm)を測定した。なお、水位差が小さい程、通液性に優れた土壌浄化剤組成物であるということができる。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
表2の結果から、(A)スルホコハク酸型アニオン性界面活性剤を少なくとも含む実施例1〜5の土壌浄化剤組成物は、前記(A)成分を含まない比較例1〜7の土壌浄化剤組成物に比べ、重油の洗浄性、特にC重油の洗浄性に優れた土壌浄化剤組成物であることがわかった。また、実施例1〜5の土壌浄化剤組成物は、土壌中での通液性にも優れ、したがって、前記土壌浄化剤組成物は、土壌を攪拌せずに現位置で洗浄を行う、薬剤注入工法を利用した土壌浄化方法に、特に好適であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の土壌浄化剤組成物は、油類によって汚染された土壌、特に重油等の石油系化合物、中でもC重油に汚染された土壌の洗浄性に優れることから、様々な場面における土壌浄化(例えば、ガソリンスタンドや、工場の敷地跡地などの土壌浄化)に好適に利用可能である。中でも、本発明の土壌浄化剤組成物は、機械的攪拌力を加えなくとも高い洗浄力を示し、また、土壌中での通液性にも優れることから、原位置浄化工法の一種である薬剤注入工法への使用に、特に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】図1は、本発明の土壌浄化剤組成物を用いた薬剤注入工法の好適な一例を示す説明図である。
【図2】図2は、実施例において本発明の土壌浄化剤組成物の洗浄性及び通液性の評価に用いた装置の概略図である。
【符号の説明】
【0046】
100 浄化システム
A 地下水の流れ
1 不飽和層(非帯水層)
2 飽和層(帯水層)
3 有機物層(汚染層)
4 地下水位
5 注入井戸
6 揚水井戸
7 薬剤混合供給装置
8 揚水ポンプ
9 油水分離槽
21 円柱カラム
22 シリコンチューブ
23 500mlビーカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤注入工法による土壌浄化に使用するための土壌浄化剤組成物であって、(A)スルホコハク酸型アニオン性界面活性剤を含有することを特徴とする土壌浄化剤組成物。
【請求項2】
更に、(B)アルカリ土類金属塩を含有する請求項1に記載の土壌浄化剤組成物。
【請求項3】
更に、(C)下記一般式(1)で表される化合物を含有する請求項1から2のいずれかに記載の土壌浄化剤組成物。
−O−(AO)−R (1)
ただし、前記一般式(1)中、Rは炭素数1〜8の炭化水素基を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4の直鎖若しくは分岐のアルキル基を示し、AOは炭素数2〜4のオキシアルキレン基を示し、mはAOの平均付加モル数であって、0〜4の数を示す。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−114312(P2009−114312A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−288569(P2007−288569)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【出願人】(590002482)株式会社NIPPOコーポレーション (130)
【Fターム(参考)】